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特表2023-542417KRAS変異に特異的T細胞受容体のスクリーニング及び抗腫瘍用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-06
(54)【発明の名称】KRAS変異に特異的T細胞受容体のスクリーニング及び抗腫瘍用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230929BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20230929BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20230929BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230929BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230929BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230929BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230929BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/725 ZNA
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12P21/02 C
A61P35/00
A61K48/00
A61K38/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519189
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-05-26
(86)【国際出願番号】 CN2021121576
(87)【国際公開番号】W WO2022068850
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】202011047695.0
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517121939
【氏名又は名称】中国科学院微生物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MICROBIOLOGY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】高福
(72)【発明者】
【氏名】譚曙光
(72)【発明者】
【氏名】盧丹
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA05
4B065AA92X
4B065AA92Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA06
4C084AA13
4C084BA44
4C084NA14
4C084ZB26
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA22
4H045FA74
(57)【要約】
本発明はKRAS遺伝子のG12V又はG12C変異のエピトープを標的とする2種類の特異的T細胞受容体(TCR)及び抗腫瘍用途を提供し、前記2種類のT細胞受容体はそれぞれα鎖とβ鎖という2本のペプチド鎖からなる。また、本発明は、前記TCRの抗原結合断片、それらをコードする核酸、該核酸を含むベクター、該ベクターを含む宿主細胞、並びにKRASのG12V変異に特異的なTCRまたはその抗原結合断片を製造する方法を提供する。本発明の特異的TCRおよびその抗原結合断片は、生体の免疫応答を刺激する免疫賦活剤として使用することができ、これにより腫瘍などの疾患への対抗効果を発生させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)またはその抗原結合断片であって、
前記TCRは、α鎖可変領域とβ鎖可変領域を含み、
前記TCRまたはその抗原結合断片は、KRAS-G12V8-16(VVGAGVGK)エピトープとHLA-A11との複合体、またはKRAS-G12C8-16(VVGAGVGK)エピトープとHLA-A11との複合体、またはKRAS-G12V8-16(VVGAGVGK)エピトープとHLA-A03との複合体と結合することができ、以下のα鎖相補性決定領域(CDR)とβ鎖相補性決定領域(CDR)を含む、T細胞受容体(TCR)またはその抗原結合断片:
配列番号3に記載のα鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号4に記載のα鎖相補性決定領域CDR2;
配列番号5に記載のα鎖相補性決定領域CDR3;
配列番号8に記載のβ鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号9に記載のβ鎖相補性決定領域CDR2;及び
配列番号10に記載のβ鎖相補性決定領域CDR3、
または
配列番号13に記載のα鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号14に記載のα鎖相補性決定領域CDR2;
配列番号15に記載のα鎖相補性決定領域CDR3;
配列番号18に記載のβ鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号19に記載のβ鎖相補性決定領域CDR2;及び
配列番号20に記載のβ鎖相補性決定領域CDR3。
【請求項2】
配列番号2に記載のα鎖可変領域、及び
配列番号7に記載のβ鎖可変領域;
または
配列番号12に記載のα鎖可変領域、及び
配列番号17に記載のβ鎖可変領域;
を含む、請求項1に記載のT細胞受容体(TCR)またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記TCRは、鼠由来TCR、ヒトー鼠キメラTCRまたはヒト化TCRである、請求項1または2に記載のTCRまたはその抗原結合断片。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片をコードし、配列番号1、配列番号6、配列番号11、配列番号16からなる群より選ばれる1つまたは複数の配列である、ポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含み、レンチウイルスベクターである、発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項7】
以下のステップを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片を製造する方法:
1)請求項6に記載の宿主細胞を培養するステップ;及び
2)前記宿主細胞またはその培地から、請求項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片を回収するステップ。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片、及び薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片の、T細胞から分泌されるIFN-γサイトカインのレベルを高めるための医薬の製造における、使用であって、
前記医薬は、例えばタンパク質系医薬、ADC医薬、またはTCRと抗原を組み合わせた医薬である、使用。
【請求項10】
請求項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片の、KRAS-G12V8-16(VVGAGVGK)またはKRAS-G12C8-16(VVGAGVGK)変異を発現する腫瘍細胞を検出する試薬の製造における、使用、または腫瘍を検出又は診断する試薬の製造における、使用であって、
好ましくは、前記TCRまたはその抗原結合断片は、KRAS-G12V8-16(VVGAGVGK)/HLA-A11、またはKRAS-G12C8-16(VVGAGVGK)/HLA-A11、またはKRAS-G12V8-16(VVGAGVGK)エピトープ及びHLA-A03と特異的に結合し、または
前記TCRまたはその抗原結合断片は、HLA-A11またはHLA-A03と類似した抗原結合特性を有するHLA分子、KRAS-G12V8-16(VVGAGVGK)、またはKRAS-G12C8-16(VVGAGVGK)変異ポリペプチドと特異的に結合し、ここで、前記HLA分子は、好ましくはHLA-A31、HLA-A33、HLA-A68またはHLA-A30である、使用。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片の、KRAS遺伝子のG12V及びG12C変異を有する腫瘍の患者を治療するための抗腫瘍薬の製造における、使用であって、
前記腫瘍は、好ましくは膵臓癌、大腸癌、肺癌であり、前記肺癌は、好ましくは非小細胞肺癌であり、
好ましくは、前記KRAS遺伝子のG12V及びG12C変異はKRAS遺伝子のKRAS-G12V8-16(VVGAGVGK)変異又はKRAS-G12C8-16(VVGAGVGK)変異である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬分野に属し、具体的には腫瘍KRAS遺伝子G12VとG12C変異の抗原ポリペプチドを特異的に識別できるT細胞受容体(TCR)またはその抗原結合断片に関する。
【0002】
背景技術
2011年、癌は心臓病を上回り、世界第1位の死亡原因となった。WHOは2013年12月に世界の年間新規癌患者数は1400万例を超えたと公布し、これは2008年の統計結果1270万例に比べて大幅に増加した。2020年までに、癌は毎年960万例の死亡を造成し、世界では毎年約1兆ドルが癌診療に投入されている。
【0003】
20世紀80年代初期、Allisonや他の研究者はT細胞表面で抗原識別を担当しているαβ T細胞受容体(TCR)の遺伝子構造を確定した。80年代後期、Boone、Rosenberg、Oldらはそれぞれ研究を通じて、異なる腫瘍患者の体内には、いずれもいくつかの腫瘍特異性抗原が存在し、T細胞に識別され、腫瘍細胞を特異的に殺傷することができることを発現した。それによって、腫瘍免疫治療の希望を再燃させ、大量の研究は腫瘍治療性ワクチンの研究と開発に力を入れた。2013年、免疫抗癌療法はScience雑誌に年度10大科学技術突破のトップに選ばれた。
【0004】
近年、幹細胞生物学、免疫学、分子技術、組織工学技術などの急速な発展に伴い、細胞免疫治療は安全で有効な治療手段として、腫瘍などの治療における役割がますます際立っている。現在、新型細胞治療技術の研究と開発は腫瘍などの関連疾患を解決する重要な研究分野となっている。
【0005】
養子T細胞療法(Adoptive cell therapy、ACT)は、高度に個性化された癌治療法であり、癌患者の体内に欠損しているまたは弱い免疫系を再建することで、抗腫瘍効果を達成することができる。ACT療法とは、腫瘍患者の体内から免疫活性細胞を分離し、体外で増幅と機能同定を行った後、患者に返送することで、腫瘍を直接殺傷したり、生体の免疫応答を刺激して腫瘍細胞を殺傷する目的を達成することである。ACT療法の制限要因は、正常の必須組織ではなく癌組織にのみ発現する抗原を探すことである。
【0006】
現在、ACT療法はT細胞受容体エンジニアリング細胞(TCR-T)治療技術とキメラ抗原受容体エンジニアリングT細胞(CAR-T)治療技術を含んで実現することができる。これらの方法により、ACTはメラノーマ、子宮頸癌、リンパ腫、白血病、総胆管癌、神経芽細胞腫などの多種の癌に対して良い治療効果を有する。
【0007】
現在、CAR-Tは急性/慢性粒細胞性白血病、リンパ腫などの疾病の治療においても重大な突破を実現し、患者の生存率と生存品質を大幅に高めた。しかし、固形腫瘍治療の研究では、特異的な標的が限られているため、CAR-T細胞の治療の見込みは明らかではない。
【0008】
CAR-T細胞が抗体を用いて細胞外抗原を標的とするのと異なり、TCRはすべてのT細胞表面の特徴的な標識であり、非共有結合でCD3と結合し、TCR-CD3複合体を形成する。TCRはα、β2本のペプチド鎖からなり、免疫グロブリン超家族に属し、抗原特異性はV領域(CDR1、CDR2、CDR3)に存在し、CDR3はTCRの抗原結合特異性を直接決定した。末梢血中、T細胞の90~95%がTCRを発現する。トランスジェニックされたTCRのT細胞は、腫瘍細胞表面上の抗原分子を特異的に識別し、さらに腫瘍細胞に対して免疫反応を起こすことができる。
【0009】
TCR-T細胞免疫治療は近年発展してきた細胞治療の新技術であり、典型的な「精密医療」治療技術である。現在、この技術は骨髄腫、メラノーマ、食道癌、肝臓癌などの治療に積極的な治療の見込みを示している。TCR-T細胞免疫治療は20世紀末にHIVの治療に初めて使用され、近年の研究により、MART-1、MAGE-A4、NY-ESO-1、WT-1などの腫瘍抗原に特異的なTCRに基づいてエンジニアリングされた自己免疫細胞はメラノーマ、食道癌、多発性骨髄腫、滑膜細胞肉腫などの治療において良好な開発見込みを示していることを発現した。
【0010】
特に、2015年の報道によると、多発性骨髄腫の臨床I/II期患者20例がNY-ESO-1特異的TCRエンジニアリング細胞の免疫治療を受け、80%の患者がTCR-T治療を受けた後、積極的な臨床治療効果を示した。現在、TCR-T細胞免疫治療技術はすでに国際腫瘍及び感染症治療研究のホットスポット領域となり、一部の技術と製品はすでに臨床前或いは臨床研究段階に入った。
【0011】
KRAS遺伝子(Kirstenラット肉腫ウイルス癌遺伝子ホモログ、Kirsten rat sarcoma virus oncogene homolog)がコードするタンパク質は、小型GTP酵素(small GTPse)であり、RASタンパク質超家族に属し、細胞内の信号伝達に関与する。KRASタンパク質は188個のアミノ酸を有し、分子量は21.6KDであり、GTPase酵素活性を持つグアニンヌクレオシド結合タンパク質である。細胞内において、KRASタンパク質は不活性化状態と活性化状態との間で変換され、KRASはグアニンヌクレオシド二リン酸(GDP)と結合したとき、不活性化状態になり、グアニンヌクレオシド三リン酸(GTP)と結合したとき、活性化状態になり、かつMAPK信号経路、PI3K信号経路、Ral-GEFS信号経路を含む下流信号経路を活性化することができる。これらの信号経路は、細胞の生存、増殖、サイトカイン放出を促進する方面で重要な役割を果たしている。
【0012】
ヒト癌の中で、KRASは腫瘍学分野で最も有名な発癌遺伝子の一つであり、かつて「不可成薬」の標的とされていた。KRAS遺伝子変異は膵臓癌の90%近く、結腸癌の30-40%、子宮内膜癌の17%、肺癌(小葉性肺癌を含む)の15-20%、及び胆管癌、子宮頸癌、膀胱癌などに発生する。KRASの遺伝子変異はRAS遺伝子変異総数の86%を占めている。KRASの遺伝子変異では、97%が第12号または第13号アミノ酸残基で変異を起こした。その中で最も主要なのは、第12号アミノ酸がアスパラギン(G12D)に、第12号アミノ酸がバリン(G12V)に、第12号アミノ酸がシステイン(G12C)に、第13号アミノ酸がアスパラギン(G13D)に変化するといういくつかの変異である。
【0013】
構造学的研究により、これらの遺伝子変異の多くはKRAS加水分解GTPの能力を妨害することが明らかになった。KRASにG12D、G12V、G13Dといういくつかの変異が発生すると、GAP活性を破壊することでKRASはずっとGTPと結合し、KRASをチロシンキナーゼの活性状態にロックし、下流信号経路(例えば、PI3K、RAF-MEK-ERK(MAPK)、RAL-GEFなど)を不断的に活性化する。これらの下流信号経路が開かれると、細胞の増殖、移動を刺激し、最終的に腫瘍の発生を促進する。
【0014】
近年、KRAS変異体に対して、共有結合抑制剤を研究開発した。これは、アロステリックサイトを通じてKRAS変異体を標的にし、KRAS変異体とGTPの親和力を低下させて、その活性を「ロック」する目的を達成する。例えば、Amgen社のKRAS-G12C阻害剤AMG510である。MiratiTherapeutics社のまだ臨床前開発段階にあるKRAS-G12C阻害剤MRTX1257である。他のKRAS変異に対しては、現在、関連する治療薬はなく、生体の免疫メカニズムを利用して検出及び治療を行う腫瘍薬も不足している。
【0015】
発明の概要
ヒト癌において、KRAS遺伝子変異は膵臓癌の90%近く、結腸癌の30-40%、子宮内膜癌の17%、肺癌の15-20%に発生する。KRASの遺伝子変異では、97%が第12号または第13号アミノ酸残基で変異を起こした。その中で最も主要なのはG12D、G12V、G12C、G13Dといういくつかの変異である。KRASは、変異後、細胞中のMHC分子によって細胞表面に提示(presenting)され、T細胞によって識別され、T細胞免疫反応を刺激し、さらにKRAS変異を有する腫瘍細胞を除去することができる。
【0016】
具体的には、KRAS変異ポリペプチドを抗原として用いた場合、CD8+ CTL(cytoxic lymphocyte、細胞毒性Tリンパ球)反応を機体に発生させることができる。KRASポリペプチド中のいくつかのアミノ酸残基で起こる変異は、HLA分子によって提示され、T細胞によって識別されることができる。
【0017】
本発明の一実施形態は、特異的T細胞受容体(TCR)単細胞スクリーニング技術により、腫瘍KRAS遺伝子のKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)変異(以下、G12V、G12V変異、またはKRAS遺伝子のG12V変異とも略称する)、KRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)(以下、G12C、G12C変異、またはKRAS遺伝子のG12C変異とも略称する)を特異的に標的とする2種類のTCRをスクリーニングすることをを含む。
【0018】
本発明の一実施形態は、KRAS遺伝子のG12VまたはG12C変異のエピトープを標的とする特異的T細胞受容体およびその抗原結合断片を提供することを含む。本発明の別の実施形態は、KRAS遺伝子のG12V及びG12C変異を有する腫瘍を治療するための医薬の製造における、上記T細胞受容体及びその抗原結合断片の使用を含む。
【0019】
本発明は上述の原理に基づいて作られ、本発明におけるKRAS変異ポリペプチドに特異的なTCRまたはその抗原結合断片は、KRASのG12V変異ポリペプチド(VVGAVGVGK)とHLA-A11の複合体分子および/またはKRASのG12C変異ポリペプチド(VVGACGVGK)とHLA-A11の複合体分子、またはKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)エピトープとHLA-A03複合体分子と特異的に結合することにより、T細胞の活性化を刺激し、T細胞のIFN-γなどサイトカインの分泌を誘導し、さらにKRAS変異ポリペプチドを発現する腫瘍細胞(特に、KRAS遺伝子のG12Vおよび/またはG12C変異陽性の腫瘍細胞)を殺傷する。
【0020】
本発明において、「KRAS変異ポリペプチドに特異的なTCR」または「鼠由来KRAS変異ポリペプチドに特異的なTCR」という表現は、KRAS変異ポリペプチド中のHLA-A11制限的CTLエピトープポリペプチド(その配列はVVGAVGVGKおよび/またはVVGACGVGK)に対する鼠由来TCRであり、本発明の具体的な実施形態においては1-2C TCRまたは1-2C、3-2E TCRまたは3-2Eと呼ばれる。
【0021】
本願は、KRAS変異ポリペプチド由来の第12位アミノ酸変異のVVGAVGVGK及び/又はVVGACGVGKポリペプチドとHLA-A11との複合体分子と特異的に結合するTCR又は誘導体を含み、元のTCRと実質的に同じ機能を示す抗原特異的TCR断片も含む。「TCRの断片」または「抗原結合断片」とは、TCRの抗原結合断片およびTCR類似物を指し、これは通常、親TCRの抗原結合領域または可変領域の少なくとも一部、例えば1つまたは複数のCDRを含む。TCRの断片は、親TCRの少なくともいくつかの結合特異性を維持する。
【0022】
リガンド/受容体、抗体/抗原または他の結合対を言及する場合、「特異的な」結合とは、タンパク質および/または他の生物試薬の異種集団において、上記タンパク質(例えば、VVGAVGVGKおよび/またはVVGACGVGKポリペプチド)とHLA-A11複合体分子との結合反応が存在するかどうかを確定することを指す。したがって、指定された条件下では、特定のリガンド/抗原は特定の受容体/抗体と結合し、サンプル中に存在する他のタンパク質と有意な量で結合しない。
【0023】
本発明はまた、本発明のKRAS変異ポリペプチドに特異的なTCR中の1種または2種、またはその抗原結合断片を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物を製造するために、KRAS変異ポリペプチドに特異的なTCRまたはその抗原結合断片を薬用ベクターまたは賦形剤と混合することにより、様々な所望の剤型に製造することができる。本発明の医薬組成物の剤型の種類としては、例えば、経口剤としての錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟/硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下錠、膏剤など、非経口剤としての注射剤、座薬、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤などが挙げられる。当業者は、投与経路や投与対象などに応じて適切な剤型を選択することができる。
【0024】
本発明の医薬組成物の有効成分の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などによって異なり、剤型の種類、投与方法、患者の年齢と体重、患者の症状などを考慮し、医師の判断に基づいて確定することができる。
【0025】
本発明の医薬組成物は、細胞毒剤、細胞生長抑制剤、抗血管形成薬または抗代謝薬、標的腫瘍薬、免疫刺激剤または免疫調節剤、または細胞毒剤、細胞生長抑制剤または他の毒性薬と結合したTCRを含むがこれらに限定されない他の薬剤も含むことができる。
【0026】
具体的には、本発明は以下の方案を提供する。
【0027】
1、T細胞受容体(TCR)またはその抗原結合断片であって、
前記TCRまたはその抗原結合断片は、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)エピトープとHLA-A11との複合体、またはKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)エピトープとHLA-A11との複合体、またはKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)エピトープとHLA-A03との複合体と結合することができ、かつ前記TCRはα鎖可変領域とβ鎖可変領域を含み、前記TCRまたはその抗原結合断片は、以下のα鎖相補性決定領域とβ鎖相補性決定領域を含む:
配列番号3に記載のα鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号4に記載のα鎖相補性決定領域CDR2;
配列番号5に記載のα鎖相補性決定領域CDR3;
配列番号8に記載のβ鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号9に記載のβ鎖相補性決定領域CDR2;及び
配列番号10に記載のβ鎖相補性決定領域CDR3、
または
配列番号13に記載のα鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号14に記載のα鎖相補性決定領域CDR2;
配列番号15に記載のα鎖相補性決定領域CDR3;
配列番号18に記載のβ鎖相補性決定領域CDR1;
配列番号19に記載のβ鎖相補性決定領域CDR2;及び
配列番号20に記載のβ鎖相補性決定領域CDR3。
【0028】
2、配列番号2に記載のα鎖可変領域、及び
配列番号7に記載のβ鎖可変領域;
または
配列番号12に記載のα鎖可変領域、及び
配列番号17に記載のβ鎖可変領域;
を含む、項1に記載のT細胞受容体(TCR)またはその抗原結合断片。
【0029】
3、前記TCRは、鼠由来TCR、ヒトー鼠キメラTCRまたはヒト化TCRである、項1または2に記載のTCRまたはその抗原結合断片。
【0030】
4、項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片をコードし、配列番号1、配列番号6、配列番号11、配列番号16からなる群より選ばれる1つまたは複数の配列である、ポリヌクレオチド。
【0031】
5、項4に記載のポリヌクレオチドを含み、好ましくは、レンチウイルスベクターである、発現ベクター。
【0032】
6、項5に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【0033】
7、項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片を製造する方法であって、
前記方法は、以下のステップを含む:
1)項6に記載の宿主細胞を培養するステップ;および
2)前記宿主細胞またはその培地から、項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片を回収するステップ。
【0034】
8、項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片、および薬学的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【0035】
9、項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片の、T細胞のIFN-γサイトカインの分泌レベルを高めるための医薬の製造における、使用であって、
前記医薬は、例えばタンパク質系医薬、ADC医薬、またはTCRと抗原を組み合わせた医薬である、使用。
【0036】
10、項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片の、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)またはKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)変異を発現する腫瘍細胞の検出試薬の製造における、使用、または腫瘍を検出又は診断する試薬の製造における、使用であって、
好ましくは、前記TCRまたはその抗原結合断片は、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11、またはKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)/HLA-A11と特異的に結合し、または
前記TCRまたはその抗原結合断片は、HLA-A11またはHLA-A03と類似した抗原結合特性を有するHLA分子、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)またはKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)変異ポリペプチドと特異的に結合し、ここで、前記HLA分子は、好ましくはHLA-A31、HLA-A33、HLA-A68、HLA-A30である、使用。
【0037】
11、項1~3のいずれか1項に記載のTCRまたはその抗原結合断片の、KRAS遺伝子のG12V及びG12C変異を有する腫瘍の患者を治療するための抗腫瘍薬の製造における、使用であって、
前記腫瘍は、例えば膵臓癌、大腸癌、肺癌であり、前記肺癌は、例えば非小細胞肺癌であり、
好ましくは、前記KRAS遺伝子のG12V及びG12C変異はKRAS遺伝子のKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)変異又はKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)変異である、使用。
【0038】
本発明の利点
本発明のKRAS遺伝子のG12VまたはG12C変異に特異的なTCRを利用して、該TCRを発現するTリンパ球(TCR-T)を製造することにより、KRAS遺伝子のG12VまたはG12C変異陽性の腫瘍細胞を効果的に識別し、殺すことができ、さらに腫瘍、特に固形腫瘍の生長を抑制し、腫瘍治療の効果を達成することが期待できる。
【0039】
本発明のKRAS遺伝子のG12VまたはG12C変異のエピトープを標的とする2種類の特異的T細胞受容体およびそれらを発現するT細胞は感染効率が高く、結合特性が高い特性を有するため、それを利用して医薬の前期研究を行うことができ、試験モデルなどの中で腫瘍の生長と進展に関連する変異を標的とする医薬を開発することができる。したがって、KRAS遺伝子変異を発現する各種腫瘍の様々な時期の診断、治療の医薬の製造、特に変異頻度の高い固形腫瘍を治療する医薬の製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】KRASの異なる変異体ポリペプチドとHLA-A11複合体タンパク質のモレキュラーシーブクロマトグラフィー及びビオチン化レベルの検出結果。
図2】KRAS-G12V/HLA-A11四量体特異的なT細胞の単細胞選別。A図は、KRAS-G12Vポリペプチドで免疫したマウス脾臓細胞中の特異的なT細胞のELISPOT検出図を示す。そのうち、mockは無刺激物の陰性対照であり、KRAS-G12V8-16はポリペプチド刺激検出孔であり、ホルボールエステル(PMA)は陽性対照であり、T1-T6、TF1-TF6はマウス番号である。B図はポリペプチドで免疫したマウス脾臓細胞中のエピトープ特異的なT細胞の選別を示し、WTは非免疫マウスの陰性対照であり、横座標はKRAS-G12V8-16/HLA-A11四量体染色であり、縦座標はCD8陽性染色であり、KRAS-G12V8-16/HLA-A11四量体陽性細胞は図中の四角の枠で囲まれた部分である。
図3】3-2Eおよび1-2C TCRのKRAS-G12V8-16/HLA-A11との特異的な結合の検証。Aは、3-2Eまたは1-2C TCRにより293T細胞を一過性トランスフェクションした後、KRAS-G12V8-16/HLA-A11四量体に特異的に結合した結合実験のフローサイトメトリー結果を示す。Bは、1-2Cまたは3-2E TCRにより293T細胞を一過性トランスフェクションした後、KRAS-G12V7-16/HLA-A11四量体に特異的に結合した結合実験のフローサイトメトリー結果を示す。
図4】1-2Cおよび3-2E TCRとKRAS-G12V8-16/HLA-A3との交差識別。A図は、KRAS-G12V8-16/HLA-A11と、1-2Cまたは3-2E TCRを発現する293T細胞四量体の染色分析のフローサイトメトリー結果を示す。B図は、KRAS-G12V8-16/HLA-A03と、1-2Cまたは3-2E TCRを発現する293T細胞四量体の染色分析のフローサイトメトリー結果を示す。
図5】1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞の感染効率の検出。第1行(横方向)は、陰性対照として、TCRレンチウイルスに感染していないD1とD2の2名のボランティアPBMC由来の四量体検出を示し、第2行(横方向)と第3行(横方向)はそれぞれD1(第2行(横方向))またはD2(第3行(横方向))ボランティアのPBMCまたはCD8 T細胞を用いて製造されたTCR-T細胞であり、KRAS-G12V8-16/HLA-A11四量体を用いてフローサイトメトリー染色を行い、象限中の数値はそのTCRの発現陽性率を示す。
図6】1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞とKRASの異なる変異体ポリペプチドとの反応。A図とB図は、PBMC細胞を用いて製造した1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞とKRAS-G12野生型および異なる変異体ポリペプチドのELISPOTの画像と直方統計図を示し、D1またはD2はボランティアの番号である。図Cは、1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞とKRAS-G12野生型および異なる変異体ポリペプチドをインキュベーションした後に産生されるIFN-γレベルのELISA統計図を示し、TCR-T細胞と培地のインキュベーションを陰性対照(mock)とし、PMA刺激を陽性対照とする。図D、E、Fはそれぞれ1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞とKRAS-G12野生型および異なる変異体ポリペプチドのELISPOTの画像、図D結果の直方統計図、これらの細胞中のIFN-γレベルのELISA統計図を示す。
図7】1-2Cおよび3-2Eの2種類のTCRタンパク質の体外復元性及び精製結果。A図とB図はそれぞれ1-2C TCR分子がイオンカラムとモレキュラーシーブクロマトグラフィーを経た後の精製結果を示す。C図とD図はそれぞれ3-2E TCR分子がイオンカラムとモレキュラーシーブクロマトグラフィーを経た後の精製結果を示す。小図はアスタリスクで標識されたピーク値タンパク質のSDS-PAGE結果である。
図8】1-2Cまたは3-2E TCRとKRAS-G12の異なる変異体ポリペプチドとHLA-A11の結合特性。A-D図は、1-2C TCRとKRAS-G12野生型及び異なる変異体ポリペプチドとHLA-A11複合体タンパク質の親和力検出を示し、E-H図は、3-2E TCRとKRAS-G12野生型および異なる変異体ポリペプチドとHLA-A11複合体タンパク質の親和力検出を示す。
図9】NCG免疫不全マウス腫瘍モデルにおける1-2C TCR-T細胞の腫瘍抑制効果の評価。A図はマウス腫瘍抑制実験のフローチャートを示す。PANC-1腫瘍細胞を第0日(D0)に接種し、TCR-T細胞を第7日に腫瘍内に注射した後、3~4日ごとに観察測定した。B図は実験終了時に分離された腫瘍重量の異なる治療群間の比較を示す。C図は異なる治療群の腫瘍体積の生長状況と比較を示し、各点はこの時点の各群のマウス腫瘍体積の平均値±標準差を示す。D-G図は各群内のシングルマウス腫瘍体積の生長状況を示す。群間の統計差異はT検査によって計算され、ここで**:p<0.01、***:p<0.001、ns, p >0.05。
【0041】
発明の詳細な説明
本発明は、具体的な実施形態及び図面を通じて本発明の技術案をさらに説明するが、当業者は、以下の具体的な実施形態及び実施例は、本発明を説明するためのものであり、いかなる態様でも本発明を限定してはならないことを理解できる。当業者は、本発明の精神から逸脱することなく、本発明に対して多くの補正が可能であり、そのような補正も本発明の範囲に入ることが知られている。
【0042】
下記の実験方法は特に説明がない限り、すべて本分野の通常の実験方法であり、使用される実験材料は特に説明がない限り、すべて商業会社から容易に入手できる実験材料に属する。
【0043】
実施例1、KRAS-G12変異ポリペプチドに特異的なT細胞の選別及びTCR遺伝子のクローニング
本実施例は、まずKRAS-G12変異を有すると予測したHLA-A11制限性エピトープポリペプチドを合成し、これらのポリペプチドを用いてマウスを免疫し、ELISPOT実験によりT細胞反応スクリーニングを行い、その中から免疫原性を有する変異ポリペプチドを選出した。同時に、これらのKRAS変異ポリペプチドとHLA-A11の四量体を製造し、CD3、CD8抗体を用いて染色することで、免疫後マウス脾臓細胞からCD3+CD8+T細胞を選択し、選別することにより、その中のKRAS-G12変異ポリペプチドに特異的なT細胞を得た。
【0044】
1、KRAS-G12変異ポリペプチドのHLA制限性エピトープ予測
NetMHC-4.0オンライン予測システムにより、KRAS-G12変異が発生したポリペプチドに対して、HLA-A11制限性T細胞エピトープ予測を行った。その結果、KRAS-G12VエピトープはHLA-A11と強い親和力を持つことを発現した。
【0045】
委託された会社(Sclight Biotechnology LLC)は、KRAS-G12野生型ポリペプチド8-16(配列番号34に記載)、G12V8-16(配列番号35に記載)、G12D8-16(配列番号36に記載)、G12C8-16(配列番号37に記載)変異ポリペプチド、KRAS-G12野生型ポリペプチド7-16(配列番号38に記載)、G12V7-16(配列番号39に記載)、G12D7-16(配列番号40に記載)、G12C7-16(配列番号41に記載)を合成した。
【0046】
2、KRAS-G12V/HLA-A11四量体の製造
これらのポリペプチドとHLA-A11の結合特性及び特異的なT細胞反応、及び特異的TCRに対して評価、スクリーニングを行った。
【0047】
通常の方法でβm(β2-ミクログロブリン、HLA-A11の軽鎖遺伝子)(Uniprot:P61769)及びHLA-A11重鎖遺伝子(IMGT/HLA Acc No:HLA00043)に対して、原核コドン最適化を行い、得られたβm核酸配列は配列番号48に記載され、それがコードしたアミノ酸配列は配列番号47に記載され、得られるHLA-A11重鎖遺伝子は配列番号44に記載され、それがコードしたアミノ酸配列は配列番号43に記載される。HLA-A11重鎖遺伝子について、配列番号44に記載の重鎖遺伝子のC端にビオチンに特異的な結合ポリペプチドを発現する配列(Biotin-tag、アミノ酸配列は配列番号33に記載される)を加えた。
【0048】
委託された会社はそれぞれこれらのDNA配列(Nanjing GenScript)を合成し、それぞれ制限酵素認識部位Nde IとXho Iを導入し、そのうちNde I制限酵素認識部位は配列の5’端に位置し、制限酵素認識部位Xho Iは配列の3’端に位置する。制限酵素認識部位Nde IとXho Iを用いて、合成されたβmとHLA-A11重鎖遺伝子のDNA配列をそれぞれ発現ベクターpET-21a(Invitrogen社)にクローニングし、βm及びHLA-A11重鎖タンパク質の原核組換え発現プラスミドβm-pET21aとHLA-A11-pET21aを構築した。
【0049】
2種類の発現プラスミドをそれぞれ熱刺激でE. coli. BL21(DE3)コンピテント細胞(TIANDZ Biotechから購入)に導入し、IPTGを添加して発現を誘導し、大腸菌を粉砕し、ホモジネートして封入体を抽出し、封入体状態のβmとHLA-A11重鎖の封入体タンパク質を得た。
【0050】
1mlのβ2m封入体(30mg/mlを6M Gua-HCl、50mM Tris pH8.0、100mM NaCl、10mM EDTA及び10mM DTTを含む溶解液に溶解する)を、それぞれ5mgの上記で製造したKRAS-G12野生型ポリペプチド8-16、G12V8-16、G12D8-16、G12C8-16変異ポリペプチド、KRAS-G12野生型ポリペプチド7-16、G12V7-16、G12D7-16、G12C7-16ポリペプチド(Sclight Biotechnology LLCから合成)を含む1L復元液(20mM Tris-HCL、400mM L-アルギニン、EDTA 2mM、GSH/GSSG 5mM/1mM)に1時間ゆっくり滴下した後、β2m:HLA-A11重鎖=1:1のモル比で、HLA-A11の重鎖封入体を上記復元液にゆっくり滴下し、8時間以上復元した。
【0051】
限外濾過カップを用いて、復元した試料を10kDa濾過膜に通して試料を濃縮し、濃縮を通じて、20mM Tris-Cl、50mM NaCl、pH8.0の緩衝液に液交換する。液交換を2回行う。試料を約20mlに濃縮した後、20mM Tris-Cl、50mM NaCl、pH8.0を含む緩衝液200mlに添加する。その後、約20mlに濃縮した後、再び20mM Tris-Cl、50mM NaCl、pH8.0の緩衝液に100mlとなるように添加し、最終的に約10-20mlの体積に濃縮した。サンプルを取り出した後、4℃、12000rpmで10分間遠心分離し、上清を限外濾過管に移して約0.5-1mlに濃縮し、superdex 200モレキュラーシーブ(GE Healthcareから購入)を通してKRAS-G12野生型または変異ポリペプチド/HLA-A11複合体の精製を行った。280nmの光吸収値に基づいて、KRAS-G12野生型または変異ポリペプチド//HLA-A11複合体タンパク質ピーク(ピーク値は約15.8mLである)を収集した。
【0052】
モレキュラーシーブを通して精製した後のKRAS-G12野生型または変異ポリペプチド//HLA-A11複合体タンパク質試料を限外濾過濃縮管に集め、約500μLに濃縮した後、4℃で遠心分離して沈殿物を除去し、KRAS-G12野生型または変異ポリペプチド/HLA-A11複合体タンパク質試料を得た。
【0053】
(2)ビオチン化反応
ステップ(1)で得られたKRAS-G12V/HLA-A11複合体タンパク質試料を用いて、それぞれ以下のビオチン化反応系(500μl)を調製する。
【0054】
ビオチン化反応系(AVIDITY社から購入):合計500μl
KRAS-G12野生型および変異ポリペプチド/HLA-A11複合体タンパク質試料1mg/ml 200μl、
緩衝液A(N-ビス(ヒドロキシエチル)グリシン緩衝液)50μl、
緩衝液B(ATP、ビオチン)50μl、
200μMビオチン、Bir-A酵素(3mg/ml)20μl、
20mM Tris-Cl、50mM NaCl、pH8.0 (500μlまで補充)。
【0055】
配合した後、混合し、氷上に置き、4℃の冷凍庫で一晩インキュベーションした。
【0056】
上記ビオチン化反応系試料をSuperdex 200モレキュラーシーブに通し、ビオチン化後の複合体精製を行い、余分なビオチンを除去し、上記と同様に操作して、ビオチン化KRAS-G12変異ポリペプチド/HLA-A11複合体タンパク質約0.1-0.2mgを得た。KRAS-G12野生型または変異ポリペプチド//HLA-A11複合体タンパク質ピーク値は約15.8mLであった(図1に示す)。
【0057】
ビオチン化効率検出:
上記ビオチン化KRAS-G12/HLA-A11複合体を約500μlに濃縮し、サンプリングしてSDS-PAGE shift試験を行い、ビオチン化効果を検証する。
【0058】
1つの試料と2つの対照を設定する:
A.ビオチン化KRAS-G12/HLA-A11複合体試料8μl+モレキュラーシーブ緩衝液2μl;
B.ビオチン化KRAS-G12/HLA-A11複合体試料8μl+ストレプトマイシン2μl(20mg/ml);
C.ストレプトマイシン2μl+モレキュラーシーブ緩衝液8μl。
【0059】
上記3つの試料を氷上で30分間インキュベーションした後、SDS-PAGE鑑定を行い、結果を図1に示す。
【0060】
その結果、ビオチン化KRAS-G12/HLA-A11複合体はストレプトアビジンと結合して高分子になることができるため、SDS-PAGEにおけるベンドが遅れている。各群のポリペプチドビオチン化前後SDS-PAGEベンドグレースケール比(KRAS-G12/HLA-A11複合体にストレプトマイシンを添加した後のベンドグレースケール/KRAS-G12/HLA-A11複合体原始タンパク質ベンドグレースケール)を比較することにより、これらKRAS-G12野生型または変異ポリペプチドはいずれも高効率的にビオチン化できる(図1に示す)と判断することができる。
【0061】
(3)KRAS-G12野生型及び変異ポリペプチド/HLA-A11-PE四量体の製造
ビオチン化KRAS-G12野生型及び変異ポリペプチド/HLA-A11複合体分子を限外濾過濃縮し、ストレプトアビジン-PE:KRAS-G12野生型及び変異ポリペプチド/HLA-A11複合体=1:5のモル比で、ビオチン化KRAS-G12野生型または変異ポリペプチド/HLA-A11複合体分子にストレプトアビジン-PEを加えて四量化し、最後に4℃で一晩インキュベーションし、それぞれKRAS-G 12野生型8-16(VVGAGGVGK)ポリペプチド、G12V8-16(VVGAVGVGK)、G12D8-16(VVGADGVGK)、G12C8-16(VVGACGVGK)変異ポリペプチド、KRAS-G12野生型7-16(VVVGAVGVGK)、G12D7-16(VVVGADGVGK)、G12C7-16(VVVGACGVGK)/HLA-A11-PE四量体(予備用)を得た。
【0062】
3.KRAS-G12Vポリペプチドで免疫したHLA-A11トランスジェニックマウス
本ステップでは、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)変異ポリペプチドで免疫したHLA-A11トランスジェニックマウス(Beijing Biocytogenに製造を委託)を用い、マウス体内にKRAS-G12V8-16変異ポリペプチドに特異的なT細胞を産生するように誘導し、さらにKRAS-G12V8-16変異ポリペプチドの特異的TCRを得る。
【0063】
具体的には、化学的に合成されたKRAS-G12V8-16変異ポリペプチド(Sclight Biotechnology LLC)100μgを100μL PBSに溶解し、等体積のフロイント完全アジュバントと混合して乳化した。乳化ポリペプチドとフロイント完全アジュバントの混合液を背部皮下多点注射法を採用して、HLA-A11トランスジェニックマウスを免疫した。
【0064】
第1回の免疫開始から1週間後、同様の方法を利用してKRAS-G12V8-16変異ポリペプチド100μgを100μL PBSに溶解し、等体積のフロイント不完全アジュバントと混合して乳化し、同様の方法で注射を行って免疫強化を実施した。1週間後にマウスを処刑し、脾臓を採取し、研磨してマウス脾臓細胞を得た。
【0065】
4.KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11-PE四量体に特異的なT細胞選別及び単細胞TCR遺伝子増幅及びシークエンシング
PBS洗浄を経て再懸濁し、ステップ1においてKRAS-G12V8-16変異ポリペプチドで免疫して得られたマウス脾臓細胞約1x10を、200-250 gで10分間遠心分離した。0.5%BSAを含むPBSで3回洗浄し、200-250gで10分間遠心分離した。KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11-PE四量体(上記四量体製造により得られた)、PerCP-Cy5-CD8(BD社から購入)、FITC-CD3蛍光抗体(BD社から購入)を1:1:1のモル比でマウス脾臓細胞と一緒に25℃条件下で20分間インキュベーションした。0.5%BSAを含むPBSで3回洗浄し、200-250gで10分間遠心分離した。0.5%BSAを含むPBSを用いて細胞を再懸濁した。
【0066】
その後、上記細胞に対してフローサイトメトリー単細胞選別を行った。リンパ球亜群を選択し、CD3+ CD8+T細胞を選択し、選別を通じてKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11-PE四量体陽性のCD8+T細胞を得た(図2に示す、四角の枠に四量体陽性の細胞と割合を示す)。
【0067】
単一の陽性細胞を細胞分解液(Tiangen Bioから購入)とRNA酵素阻害剤(CW Bioから購入)を含む96ウェルプレートに選別した。その後、各ウェル内のKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11-PE四量体陽性T細胞に対して総RNAを抽出し、5’RACE TCR遺伝子増幅を行い、具体的には以下の通りである。
【0068】
5’RACEは、逆転写(RT-PCR)、第1回PCR増幅、第2回PCR増幅の3つのステップに分けられる。以下、Takara社D315-FullRACEキットを使用し、説明書に従って操作した。
【0069】
(1)RT-PCR:使用される下流プライマーはTCR遺伝子定常領域特異性プライマーGSP1(Takara社から購入)であり、上流プライマーは3’末端にオリゴグアニンデオキシリボ核酸(Oligo dG)を有する標的スイッチングプライマー(target-switching primer)(Takara社)である。
【0070】
(2)第1回PCR:上記(1)で得られたTCRのcDNAをテンプレートとし、上流プライマーは外層リンカープライマー1(5’RACE outer Primer、Takara社)であり、下流プライマーは定常領域GSP1の上流のTCR定常領域の特異性プライマー(Takara社から購入)であり、TCRのα鎖またはβ鎖第1回PCR産物を得た。
【0071】
(3)第2回PCR:上記(2)で得られたTCRのα鎖またはβ鎖第1回PCR産物をテンプレートとし、上流プライマーは内層リンカープライマー2(5’RACE inner Primer、Takara社)であり、下流プライマーは定常領域GSP2上流のTCR定常領域特異性プライマー(Takara社から購入、D315-FullRACE Kit)であり、それぞれTCRのα鎖またはβ鎖第2回PCR産物を得た。
【0072】
増幅後のTCRα鎖とβ鎖可変領域遺伝子を含む第2回PCR増幅産物をアガロースゲル電気泳動し、500bp位置でそれぞれTCRα鎖またはβ鎖可変領域目的遺伝子を得た。目的ベンドを回収し、目的遺伝子断片をT4リガーゼでTベクター(pMD18T、Takara)に連結した。その後、連結産物によりDH5α細胞(Tiangen Biotechnologyから購入)を形質転換させ、モノクローナル遺伝子シークエンシング(Ruiboxingkeに委託)を行った。
【0073】
上述の過程を経て得られたKRAS-G12V8-16に特異的なT細胞に対して、単細胞TCR遺伝子増幅シークエンシングを行い、結果を分析した後、その中で高頻度に出現したα鎖とβ鎖の組み合わせを新しいTCRとして選択し、1-2Cおよび3-2E TCRと命名され、それに対してさらに結合及び機能検証を行った。
【0074】
ここで、1-2C TCRは、配列番号2に記載のα鎖可変領域、及び配列番号7に記載のβ鎖可変領域を含む。3-2E TCRは、配列番号12に記載のα鎖可変領域、及び配列番号17に記載のβ鎖可変領域を含む。
【0075】
実施例2.KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11四量体と1-2C及び3-2E TCRを発現する細胞との結合実験
本実施例において、発明者は、さらに、スクリーニングされた1-2Cおよび3-2E TCRがKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11に対する特異性識別を有することを確認した。これに加えて、本実施例では、1-2Cおよび3-2Eは、HLA-A11によって提示されたKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)と結合することができるほか、HLA-A03によって提示されたKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)とも結合することができることを発現した。
【0076】
1.1-2Cおよび3-2E TCRの結合特異性の検証
まず、1-2Cと3-2E TCRのα鎖とβ鎖可変領域(V領域)(1-2C:核酸配列は配列番号1に記載され、アミノ酸配列は配列番号6に記載され、3-2E:核酸配列は配列番号7に記載され、アミノ酸配列は配列番号11に記載される)遺伝子とヒトTCRのα鎖とβ鎖定常領域(C領域)遺伝子(Hongxun Biotechnology Co., Ltd.で合成)を連結し、1-2Cと3-2EキメラTCRα鎖とβ鎖配列を得た。キメラ配列の具体的な配列を以下の表1に示す。
【0077】
【表1】

そして、1-2Cおよび3-2E TCRのα鎖とβ鎖の中間はT2A配列(T2A配列のアミノ酸配列は配列番号42に記載される)で連結され、レンチウイルス発現プラスミドpCDH(Invitrogenから購入)を出発プラスミドとし、それぞれ1-2Cおよび3-2E TCRレンチウイルス発現ベクター、すなわちレンチウイルス発現ベクター1-2C-pCDHおよびレンチウイルス発現ベクター3-2E-pCDHを構築した。
【0078】
1-2Cまたは3-2E-pCDHレンチウイルス発現ベクターと、CD3およびCD8を発現するCD3-CD8-pCDHプラスミド(Nanjing GenScriptから購入)とを、1:1の数量割合でHEK-293T細胞(ATCCから購入)にコトランスフェクションした。24時間コトランスフェクションした後、細胞を200-250gで10分間遠心分離した。0.5%BSAを含むPBSで3回洗浄し、200-250gで10分間遠心分離し、1-2Cまたは3-2E TCRを発現するHEK-293T細胞を得た。
【0079】
その後、本発明者は、1-2Cまたは3-2E TCRとKRAS-G12野生型ポリペプチドおよびその他の変異ポリペプチドとの結合をさらに検証するために、上記で製造したKRAS-G12野生型ポリペプチド8-16(VVGAGGVGK)、G12V8-16(VVGAVGVGK)、G12D8-16(VVGADGVGK)、G12C8-16(VVGACGVGK)変異ポリペプチド/HLA-A11の四量体と、1-2Cまたは3-2E TCRを発現する293T細胞を染色分析し、その結合特異性を評価した。
【0080】
具体的には、このコトランスフェクションにより得られたHEK-293T細胞、上記で製造したKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11-PE四量体、およびPerCP-Cy5-CD8とFITC-CD3抗体(BD社)を、1:1:1モル比で30分間共同インキュベーションした。0.5%BSAを含むPBSで3回洗浄し、200-250gで10分間遠心分離した。0.5%BSAを含むPBSを用いて細胞を再懸濁して、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11陽性のT細胞頻度を検出する。フローサイトメトリーを用いて分析した(図3Aに示す)。
【0081】
図3A中の第1、2行(横方向)は、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11-PE四量体によって、コトランスフェクションされたHEK-293T細胞に対して染色分析したフローサイトメトリー図である。その結果、1-2Cまたは3-2E TCRをトランスフェクションした293T細胞において、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11-PE四量体と結合できる細胞がCD8陽性細胞に占める割合は約25.9%である。
【0082】
KRAS-G12野生型ポリペプチド及びその他の変異ポリペプチド/HLA-A11四量体結合特異性の検出により、1-2C又は3-2E TCRを発現する293T細胞は、KRAS-G12野生型ポリペプチド(VVGAGGVGK)又はG12D8-16(VVGADGVGK)とHLA-A11で形成された四量体とは結合が不可能であるが、G12C8-16(VVGACGVGK)とHLA-A11で形成された四量体とは結合できることを確認した(図3A)。
【0083】
これから分かるように、細胞レベルの結合実験によれば、1-2Cまたは3-2E TCRはG12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11に特異的に結合できるほか、G12C8-16(VVGACGVGK)/HLA-A11複合体にも特異的に結合できる。
【0084】
2.1-2C及び3-2E TCRとKRAS-G12 10ペプチドとの結合特異性の検出
本発明者は、CD8 T細胞エピトープポリペプチドの長さが一般的に9-10アミノ酸であることを考慮し、また上記検出されたポリペプチドはいずれも9アミノ酸のポリペプチド(9ペプチド)であることに鑑みて、1-2Cと3-2E TCRが10アミノ酸のポリペプチド(10ペプチド)と結合できるか否かの可能性を排除することはできないと考えた。
【0085】
HLA-A11結合ポリペプチドのモチーフによって、そのN端で1つのアミノ酸を前に移動しても依然としてT細胞エピトープ、すなわちKRAS-G12野生型ポリペプチド7-16(配列番号38に記載される)、G12V7-16(配列番号39に記載される)、G12D7-16(配列番号40に記載される)、G12C7-16(配列番号41に記載される)になる可能性があることを発現した。本実施例では、実施例1と同じ条件と操作を用いて、さらにこれらの長さが10であるポリペプチドを四量体に製造し、1-2Cまたは3-2E TCRを発現する293T細胞と細胞結合実験分析を行い、各操作と条件は上記G12D8-16ポリペプチドと同じであり、フローサイトメトリーの結果を図3Bに示す。
【0086】
その結果、フローチャートの右上象限によると、10ペプチドKRAS野生型及び変異体ポリペプチドから製造した四量体はいずれも1-2C又は3-2E TCRを発現する293T細胞と結合できないことが分かった。したがって、本発明の1-2Cまたは3-2E TCRは、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)およびKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)ポリペプチドエピトープを高度に特異的に識別できることをさらに証明した。
【0087】
3.1-2Cおよび3-2E TCRとHLA-A03によって提示されたKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)の交差識別の検出
HLA-A11はHLA-A3超家族分子メンバーに属することが知られており、HLA-A3超家族分子メンバーはHLA-A03、HLA-A31、HLA-A33、HLA-A68などが含まれており、HLA-A3超家族分子は類似の抗原提示特徴を有する。HLA-A3超家族分子の抗原提示は、提示されたポリペプチドC端が一般的にリシン(K)またはアルギニン(R)であり、ポリペプチドN端から始まる2つのアミノ酸とC端のアミノ酸がHLA分子のポリペプチド結合槽に挿入され、ポリペプチド中間部分のアミノ酸が暴露されてTCRに識別されることを特徴とする。次に、HLA-A03、HLA-A31、HLA-A33およびHLA-A68などのHLA-A3超家族分子がTCRと相互作用可能なα1とα2螺旋保守性は70%を超えている。
【0088】
したがって、実施例1でスクリーニングして得られたTCRも、HLA-A03、HLA-A31、HLA-A33、およびHLA-A68などのHLA-A3超家族分子とKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)またはその他の変異ポリペプチドで形成された複合体を識別する能力を有することができる。本実施例では、HLA-A03とKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)を用いて四量体を製造し、フローサイトメトリー検出方法により、上記でスクリーニングされた1-2Cと3-2E TCRとの結合能力を検出し、それと他のHLA-A3超家族分子によって提示されたKRAS-G12変異ポリペプチドとの特異的な結合能力を確定した。
【0089】
したがって、本実施例では、1-2Cおよび3-2E TCRとHLA-A03によって提示されたKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)の交差識別能力を検出した。
【0090】
ここで使用されるHLA-A03重鎖遺伝子は配列番号46に記載され、それがコードしたアミノ酸配列は配列番号45に記載される。残りの使用される材料と操作は、いずれもHLA-A11で使用されているものと同じである。
【0091】
本実施例は、上述の実施例1の方法を用いて同様にHLA-A03(IMGT/HLA Acc No:HLA00037)とKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)ポリペプチドの四量体タンパク質を製造し、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11四量体とともに、それぞれ1-2Cまたは3-2E TCRを発現する293T細胞を染色分析した(図4)。
【0092】
その結果、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A03四量体は1-2Cまたは3-2E TCRを発現する293T細胞と有意に結合できる(図4B、右上象限)。
【0093】
したがって、1-2Cまたは3-2E TCRは、HLA-A11によって提示されたKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)ポリペプチドに結合することができるほか、HLA-A03によって提示されたKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)ポリペプチドに結合することができ、より広範な人々の間で広範な使用価値を持つことができることを示唆する。
【0094】
実施例3.1-2Cおよび3-2E TCR-T細胞の製造及びそれとKRASの異なる変異ポリペプチドの反応
本実施例では、HLA-A11遺伝背景の健康ボランティアから単離された末梢血単核細胞(PBMC)または単離されたCD8 T細胞に1-2Cまたは3-2E TCR遺伝子を導入してTCR-T効果細胞とする。KRAS-G12野生型ポリペプチド8-16(VVGAGGVGK)、G12V8-16(VVGAVGVGK)、G12D8-16(VVGADGVGK)、G12C8-16(VVGACGVGK)変異ポリペプチドをそれぞれ上記TCR-T効果細胞の系に加えて共同培養し、効果細胞とKRAS野生型及び変異体ポリペプチドを提示する標的細胞とが作用して分泌されたFN-γのレベルを検出し、1-2Cまたは3-2E TCRとKRAS野生型および変異体ポリペプチド/HLA-A11を発現する標的細胞との作用を評価した。具体的な操作は以下の通りである。
【0095】
1.1-2Cおよび3-2E TCRを発現するレンチウイルスの製造
実施例2における1-2Cおよび3-2E TCRレンチウイルス発現プラスミド(1-2C-pCDH及び3-2E-pCDH)及びレンチウイルスパッキングプラスミドPLP1、PLP2及びVSVG(Addgene社から購入)をPLP1:PLP2:VSVG:TCR-pCDH = 20:13:5:20の割合で混合し、20ulをDMEM培地(1.25ml)に希釈して、DNA溶液とする。20ulポリエーテルイミド(PEI、1μg/μl)をDMEM(1.25ml)に添加し、上述のPEI/DMEM溶液をすべて配合済みDNA溶液に添加し、室温で15分間インキュベーションした後、15cmディスクで培養した293T細胞(Cell Bank, Shanghai)に添加し、混合した。6時間後、培養液を慎重に吸出し、25mlの新しい培養液を加えて培養を続けた。72時間後、ウイルスを含む上清、すなわち1-2Cまたは3-2E TCRを発現するレンチウイルス上清を収集した。
【0096】
2.1-2Cおよび3-2E TCR-T細胞の製造及びTCR発現効率の検出
2名の健康ボランティア(D1とD2)の末梢血リンパ球を採集し、PBMCを得た後、PBMCの一部を取って、その中のCD8T細胞をマグネチックビーズ(Biolegend社)によってネガティブ選択分離した。anti-CD3/anti-CD28を被覆した微小球(ThermoFisher)を1:1の数量割合でPBMCまたはCD8 T細胞に添加して一晩活性化培養した後、1-2Cまたは3-2E TCRレンチウイルスを1:1の体積比でPBMCまたはCD8 T細胞に添加した後、混合し、ウイルス感染孔を設けて対照とし、37℃、5%CO2インキュベーターに入れて培養した。24時間後、完全培地に交換して第10日まで培養を続けた。
【0097】
anti-CD3/anti-CD28の微小球を磁場条件下で除去し、細胞培養と同じ培地を用いて2回洗浄し、本実施例の1-2Cまたは3-2E TCR-T効果細胞を得た。
【0098】
上述のPBMCまたはCD8 T細胞を用いて製造した1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞(10日間まで培養した)を培養し、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11四量体染色を用いて実施例2と同様にフローサイトメトリー検出を行い、1-2Cまたは3-2E TCRの発現を確認した(図5、右上象限)。
【0099】
その結果、PBMCまたはCD8+ T細胞を用いて製造したボランティアD1及びD2由来の1-2C、3-2E TCR-T細胞において、いずれも0.26%-2.38%の異なる陽性率を有する四量体陽性T細胞を検出でき、そのうち、PBMCにおいてそれぞれ1-2C:0.26%、0.77%、3-2E:1.03%、0.55%であり、CD8+ T細胞においてそれぞれ1-2C:0.68%、0.91%、3-2E:2.38%、2.37%であった。
【0100】
これらの本発明のTCR-T効果細胞は、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11に特異的に結合することができることが分かった。
【0101】
3.1-2Cおよび3-2E TCR-T細胞とKRAS野生型及び変異体ポリペプチドの免疫反応の検出
その後、それぞれ異なるT細胞検出方法(IFN-γ-MELISPOTとIFN-γ-ELISA)を利用して、1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞とKRAS野生型および変異体ポリペプチドを提示する標的細胞とが作用して分泌されるIFN-γのレベルを検出した。
【0102】
D1とD2の2名ボランティアのPBMCまたはCD8 T細胞を用いて製造した1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞を、それぞれの由来と対応的にD1とD2の2名ボランティアのPBMCと1:1の割合で混合して抗原提示細胞とし、100μl体積1x10細胞数/ウェルで、anti-IFN-γ抗体が予被覆されたELISPOTプレートに添加し、同時KRAS野生型及び変異体ポリペプチド(100μl体積、10μg/ml)を添加し、37℃、100%湿度、5%CO2インキュベーターで18時間培養を継続し、PMA/イオノマイシン(ION)(100μl体積、1μg/ml)刺激を施したもの及び100μl培地のみを含む試料をそれぞれ陽性および陰性対照とした。IFN-γを生成する特異的なT細胞に対してELISPOTスポット分析を行い、結果を図6A-B、D-Eに示す。
【0103】
さらに、D1とD2の2名ボランティアのPBMCまたはCD8 T細胞を利用して製造した1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞を、D1とD2の2名ボランティアのPBMCと1:1の割合で混合し、抗原提示細胞とする。用意した細胞懸濁液を1ウェルあたり100μl細胞懸濁液(2×10個細胞)で96ウェルプレート内に敷き、1ウェル当たり3回繰り返す。そのうちPMA/イオノマイシン(ION)群は250μl細胞培地あたりに1μl PMA/イオノマイシン混合液(250×)を添加して、前もって作業液に希釈し、陽性刺激対照とする。1-2Cまたは3-2E TCRレンチウイルスに感染していないT細胞(D1 mockおよびD2 mock)を平行に添加して、陰性対照とする。37℃で20h培養した後、96ウェルプレート培養孔の上清を取って、500gの回転速度で5分間遠心分離して残存細胞を除去し、上清を抗IFN-γ抗体(BD社)で被覆されたのELISA検出プレート(BD社)に添加し、上清中のIFN-γレベルを検出し、結果を図6CとFに示す。
【0104】
ELISPOT実験の結果、D1とD2ボランティアのPBMCを用いて製造した1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞は、いずれもKRAS-G12V変異ポリペプチドに対して強いT細胞免疫反応を産生することができ、KRAS-G12C変異ポリペプチドに対しても一定レベルの交差反応を有する。一方、KRAS野生型およびKRAS-G12D変異ポリペプチドに対するT細胞反応は検出されなかった(図6A-B)。D1とD2ボランティアのCD8 T細胞を用いて製造した1-2C又は3-2E TCR-T細胞において、PBMCで製造したTCR-T細胞と類似したT細胞免疫反応を検出することができる(図6D-E)。
【0105】
IFN-γレベルのELISA実験の結果、D1とD2ボランティアのPBMCまたはCD8 T細胞を用いて製造した1-2Cまたは3-2E TCR-T細胞は、いずれもKRAS-G12V変異ポリペプチドに対して強いT細胞免疫反応を産生することができ、IFN-γレベルは上昇したが、KRAS野生型及びKRAS-G12D変異ポリペプチドに対するT細胞反応は検出されなかった(図6CとF)。
【0106】
したがって、1-2Cおよび3-2E TCR-T細胞は、KRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11を提示する標的細胞を特異的に識別することができ、KRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)を提示する標的細胞に対して一定の交差反応を有し、サイトカインIFN-γを特異的に分泌することができる。CD8+ T細胞の標的細胞に対する潜在的な細胞毒性作用に鑑みて、本発明の1-2C及び3-2E TCR-T細胞は潜在的な標的細胞殺傷活性と腫瘍治療価値を有することを示唆する。
【0107】
実施例4.1-2Cおよび3-2E TCRのKRAS変異体ポリペプチドエピトープに対するの結合特性分析
1-2Cおよび3-2E TCRとKRASの異なる変異体ポリペプチド/HLA-A11複合体タンパク質の結合特性と親和力を正確に測定するために、発明者はさらに表面プラズマ共鳴実験(SPR)を利用してタンパク質レベルの親和力を検出した。1-2Cまたは3-2E TCRの機能領域は細胞外領域であり、膜貫通領域を含まない細胞外領域は可溶性タンパク質であるため、1-2Cまたは3-2E TCRの細胞外領域を合成した。具体的な操作は以下の通りである。
【0108】
1.TCRタンパク質の発現と精製
1-2Cまたは3-2E TCRα鎖とβ鎖の細胞外領域遺伝子を原核コドンによって最適化し、それぞれ1-2Cと3-2E TCRキメラα鎖とβ鎖の細胞外領域のDNA配列(1-2C:α鎖、配列番号29に記載され、β鎖、配列番号30に記載され、3-2E:α鎖、配列番号31に記載され、β鎖、配列番号32に記載される)を合成した。ここで、1-2C TCRは、配列番号2に記載のα鎖可変領域、及び配列番号7に記載のβ鎖可変領域を含む。3-2E TCRは、配列番号12に記載のα鎖可変領域、及び配列番号17に記載のβ鎖可変領域を含む。それぞれ制限酵素認識部位Nde IとXho Iを導入し、そのうちNde I制限酵素認識部位は配列の5’端に位置し、制限酵素認識部位Xho Iは配列の3’端に位置する。制限酵素認識部位Nde IとXho Iを用いて、合成された1-2Cまたは3-2E TCRα鎖とβ鎖の細胞外領域のDNA配列をそれぞれ発現ベクターpET21a(Invitrogen社)にクローニングし、1-2Cまたは3-2E TCRα鎖とβ鎖の細胞外領域タンパク質の原核組換え発現プラスミドを構築した。
【0109】
熱刺激法を用いて、発現プラスミドをE. coli.BL21(DE3)コンピテント細胞に導入し、IPTGを添加して発現を誘導し、封入体状態の1-2Cおよび3-2E TCRα鎖とβ鎖の細胞外領域タンパク質を得た。
【0110】
1-2Cまたは3-2E TCRα鎖とβ鎖の細胞外領域の封入体(各封入体はいずれも30mg/mlで、6M Gua-HCl、50mM Tris pH8.0、100mM NaCl、10mM EDTA及び10mM DTTを含む溶解液に溶解する)6mlを、2:1の質量比で、配合した復元液(5M尿素、20mM Tris-HCL、400mM L-アルギニン、EDTA 2mM、GSH/GSSG 5 mM/1mM)中に、2回に分けて滴下し、毎回3mLずつ滴下し、2回の滴下間隔は少なくとも8hであった。その後、濃縮カップ(Millipore社)を用いて濃縮を行った。
【0111】
濃縮後、それぞれ4L脱イオン水と4L 10mM Tris、ph8.0の透析液に入れて透析し、それぞれ24時間透析した。その後、Source 15Qイオン交換クロマトグラフィーを用いて粗精製を行い、SDS-PAGEにより目的タンパク質を同定した。
【0112】
具体的には、目的タンパク質を濃縮カップ(Millipore社)で濃縮し、20mM Tris-HCL、150mM NaCL、pH8.0の緩衝液で液交換し、濃縮後にSuperdex 200pgモレキュラーシーブ(GE Healthcare)で精製し、約2-3mgの1-2Cまたは3-2E TCRタンパク質を得て、還元性(ジチオトレイトール(DTT)を含む)と非還元性(ジチオトレイトール(DTT)を含まない)SDS-PAGEによって目的タンパク質を検出する(図7)。
【0113】
その結果、1-2C TCRは18.19mS/cm条件下で溶出し、3-2E TCRは3-2E 21.19mS/cm条件下で溶出し、両者のモレキュラーシーブクロマトグラフィーは15 mL溶出量時にタンパク質目的ピークが出現した。SDS-PAGE同定により、1-2Cまたは3-2Eはαβヘテロダイマーを呈し、DTTを加えない非還元条件のSDS-PAGEにおいてベンドサイズが約52KDであり、DTTを加えた還元条件のSDS-PAGEにおいてα鎖とβ鎖間のジスルフィド結合が開かれ、それぞれ24KDと28KD程度の大きさのベンドが示された(図7)。
【0114】
2.SPR検出分析
実施例1と同様の操作で体外復元性実験を行って製造した1-2C及び3-2E TCRタンパク質、及び実施例1で製造したビオチン化KRAS野生型及び異なる変異体9ペプチド/HLA-A11複合体タンパク質をSPR緩衝液(10mM HEPES-HCl、150mM Na-Cl、0.005% Tween-20、pH7.4)に液交換した。KRAS野生型および異なる変異体9ペプチド/HLA-A11複合体タンパク質を20μg/mlに希釈し、SAチップ(GE Health)に固定し、その後勾配(0μM、6.25μM、12.5μM、25μM、50μM、100μM)希釈された1-2C及び3-2E TCRタンパク質をそれぞれSAチップの各チャネルを流れ、BIA評価ソフトウェアを用いて結合動力学パラメータを分析し、親和力定数を計算する。1-2C及び3-2E TCRと野生型及びKRAS野生型及び異なる変異体9ペプチド/HLA-A11複合体タンパク質との親和力を検出した(図8)。
【0115】
その結果、図8中の曲線から分かるように、1-2C TCRのKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11との結合は高速結合高速解離のモードを呈し、結合親和力(KD)は7.21μMであり、KRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)/HLA-A11との結合親和力(KD)は46.2μMであり、KRAS-G12V8-16エピトープより有意に低い。
【0116】
一方、1-2CはKRAS野生型KRAS-G128-16(VVGAGGVGK)/HLA-A11及びKRAS-G12D8-16(VVGADGVGK)/HLA-A11と結合することができない。3-2E TCRのKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11との結合親和力(KD)は35.9μMであり、1-2Cの親和力より有意に低く、KRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)/HLA-A11との結合親和力(KD)は50.5μMであり、KRAS-G12V8-16と同じレベルにある。
【0117】
1-2Cと類似に、3-2E TCRはKRAS野生型KRAS-G128-16(VVGAGGVGK)/HLA-A11及びKRAS-G12D8-16(VVGADGVGK)/HLA-A11と結合することができない。
【0118】
したがって、SPR結果から分かるように、1-2C TCRおよび3-2E TCRはKRAS-G12V8-16(VVGAVGVGK)/HLA-A11に特異的に結合することができ、1-2C TCRとKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)/HLA-A11は一定の交差反応があり、1-2C TCRとKRAS-G12C8-16(VVGACGVGK)/HLA-A11の親和力はKRAS-G12Vと同じレベルにある。したがって、1-2Cと3-2E TCRは良好な結合特性及び親和力を有し、1-2Cおよび3-2E TCRを抗腫瘍治療に用いると、遺伝子KRASのG12VとG12C変異を有する腫瘍細胞に対してIFN-γを産生させ,さらに腫瘍細胞を殺傷し、腫瘍を治療する役割を果たすと推測できる。
【0119】
実施例5.腫瘍マウスモデルにおける1-2C TCR-T細胞の腫瘍抑制活性
本実施例はNCG免疫不全マウスPANC-1腫瘍モデルを用いて、1-2C TCR-T細胞の腫瘍抑制効果を評価した。
【0120】
TCR-T細胞のNCGマウス腫瘍抑制実験ステップは、以下を含む。
【0121】
1.NCGマウスPANC-1腫瘍モデルの構築
NCGマウスは南京大学-南京生物医薬研究院に由来し、各NCGマウスにKRAS-G12V変異遺伝子を有するPANC-1腫瘍細胞(Beijing Union Cell Resource Center)を皮下接種し、NCGマウスにヒト免疫系を構築した:
a) PANC-1細胞の接種数量:4×10個細胞/200μL/匹;
b) 接種部位:背部皮下。
【0122】
2.1-2C TCR-T細胞治療
NCGマウスPANC-1腫瘍細胞を接種した第7日、腫瘍体積は約200mmまで生長し、実施例3においてD1とD2の2名ボランティアPBMCで製造した1-2C TCR-T細胞を腫瘍内多点注射を通じて、NCGマウスのPANC-1腫瘍内部に注射した:
a)1-2C TCR-T細胞の接種数量:3つ用量(dose)に従う:それぞれ1×10、1×10、1×10細胞/200μL/匹;
b)接種部位:腫瘍内。
【0123】
3.グルーピング及び処理:
腫瘍細胞を注射した後約1週間後に、比較的均一な腫瘍を形成したマウスを選択してグルーピングし、その後1-2C TCR-T細胞腫瘍内注射治療を行った。本実施例において、TCRを導入していないT細胞(1×10)注射群は陰性対照であり、各群のマウスは6匹であり、そのうちD1とD2で製造したTCR-T細胞治療群は各3匹である。各グルーピング情報及び処理は次の表の通りである:
【表2】

腫瘍形成後、3~4日ごとに腫瘍サイズを一回測定し、マウスの最大腫瘍体積が4000mmになる時、実験を終了し、マウスを処刑し、腫瘍を分離して重量を測定した。
【0124】
4.治療効果の観察:
1)腫瘍サイズ検出:
a)TCR-T細胞を注射した後、キャリパーを用いて直径を測定し、単位はmmであり、計算公式は:v=1/2×a×b×b(aは長径、bは短径)であり;
b)最後一回観察後に実験を終了し、腫瘍組織を分離して直接秤量する。
【0125】
その結果、1×10高用量及び1×10中用量注射群の1-2C TCR-T細胞治療群の腫瘍体積は陰性対照群より有意に小さかった(T検定、p<0.01)(図9C)。一方、1×10低用量群と陰性対照群の腫瘍体積に有意差はなかった(T検定、p>0.05)。実験終了時、各群の腫瘍重量に対して分析し、その結果、高用量群の腫瘍重量は陰性対照群より有意に低かった(図9A)。本実施例の結果によると、1-2C TCR-T細胞は腫瘍生長を効果的に抑制でき、腫瘍抑制活性はTCR-T細胞数量と有意な用量依存効果を呈し、潜在的な腫瘍治療価値を有する(図9)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
2023542417000001.app
【国際調査報告】