(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-16
(54)【発明の名称】リュードベリ分子ベースのマイクロ波方向探知
(51)【国際特許分類】
G01S 3/04 20060101AFI20231109BHJP
【FI】
G01S3/04 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022581702
(86)(22)【出願日】2021-06-30
(85)【翻訳文提出日】2023-02-24
(86)【国際出願番号】 US2021039990
(87)【国際公開番号】W WO2022010719
(87)【国際公開日】2022-01-13
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523000950
【氏名又は名称】コールドクアンタ・インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】COLDQUANTA,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン・ダナ・ザッカリー
(72)【発明者】
【氏名】ファン・ハオクァン
(72)【発明者】
【氏名】ワン・インジュ
(72)【発明者】
【氏名】ボトムリー・エリック・マグナスン
(57)【要約】
【解決手段】プローブレーザビームが、分子を基底状態から励起状態へ遷移させる。制御レーザビームが、励起状態にある原子をレーザ励起リュードベリ状態へ遷移させる。マイクロ波レンズが、マイクロ波波面をそれぞれのマイクロ波ビームに変換する。マイクロ波ビームは、交互の最大値および最小値のマイクロ波干渉パターンを生成するために、分子を通して反対方向に伝搬される。マイクロ波干渉パターンは、プローブ透過パターンとしてプローブビームに与えられる。マイクロ波波面の伝搬方向は、プローブ透過パターンの並進位置から決定可能であり、マイクロ波波面の強度は、プローブ透過パターンの最小値および最大値の強度差によって決定可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波方向探知器であって、
レーザシステムであって、
基底状態にある分子を励起状態へ遷移させるプローブビームを供給するプローブレーザと、
前記励起状態にある分子をレーザ励起リュードベリ状態へ遷移させる制御ビームを供給する制御レーザと、を備える、レーザシステムと、
マイクロ波波面をそれぞれのマイクロ波ビームへ変換する複数のマイクロ波レンズを備えるマイクロ波レンズシステムであって、プローブ透過パターンの形態で前記プローブビームに与えられるマイクロ波干渉パターンを生成するために、前記分子を通して少なくとも1ペアの前記マイクロ波ビームを反対方向に伝搬させる、マイクロ波レンズシステムと、
前記プローブ透過パターンに基づいて、前記マイクロ波波面の伝搬方向を決定する解析システムと、
を備える、マイクロ波方向探知器。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ波方向探知器であって、前記解析システムは、前記プローブ透過パターンに基づいて、前記マイクロ波波面の強度を決定する、マイクロ波方向探知器。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロ波方向探知器であって、前記プローブ透過パターンに関連付けられている空間的に変化するプローブ透過強度が、前記マイクロ波干渉パターンに関連付けられているマイクロ波強度と負に相関する、マイクロ波方向探知器。
【請求項4】
請求項1に記載のマイクロ波方向探知器であって、さらに、前記制御ビームの波長を変化させることによって、方向探知が適用されるマイクロ波周波数を選択するコントローラを備える、マイクロ波方向探知器。
【請求項5】
請求項1に記載のマイクロ波方向探知器であって、さらに、10
-9Torr未満の圧力下で前記分子を閉じ込めるための超高真空(UHV)セルを備える、マイクロ波方向探知器。
【請求項6】
マイクロ波方向探知処理であって、
基底状態にある原子を励起状態へ遷移させるために、分子を通るようにプローブレーザビームを方向付け、
前記励起状態にある原子をレーザ励起リュードベリ状態へ遷移させるために、前記分子を通るように制御レーザビームを方向付け、
複数のマイクロ波レンズを備えるマイクロ波レンズシステムを用いて、マイクロ波波面を複数のマイクロ波ビームへ変換し、前記レーザ励起リュードベリ状態にある分子をマイクロ波励起リュードベリ状態へ遷移させるために、前記分子を通して1ペアの前記マイクロ波ビームを反対方向に伝搬させ、
前記プローブレーザビームにおけるプローブ透過パターンに基づいて、前記マイクロ波波面の伝搬方向を決定すること、
を備える、処理。
【請求項7】
請求項11に記載のマイクロ波方向探知処理であって、前記決定することは、前記プローブ透過パターンに基づいて、前記マイクロ波波面の強度を決定することを含む、マイクロ波方向探知処理。
【請求項8】
請求項11に記載のマイクロ波方向探知処理であって、前記プローブ透過パターンに関連付けられている空間的に変化するプローブ透過強度が、前記マイクロ波干渉パターンに関連付けられているマイクロ波強度と負に相関する、マイクロ波方向探知処理。
【請求項9】
請求項11に記載のマイクロ波方向探知処理であって、さらに、前記制御ビームの波長を変化させることによって、方向探知が適用されるマイクロ波周波数を変更することを備える、マイクロ波方向探知処理。
【請求項10】
請求項11に記載のマイクロ波方向探知処理であって、さらに、超高真空(UHV)セルによって、前記分子を閉じ込めることを備える、処理。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
他の出願への相互参照
本願は、2020年7月6日出願の米国仮特許出願第63/048,302号「RYDBERG-ATOM-BASED MICROWAVE DIRECTION FINDING」、および、2020年9月15日出願の米国特許出願第17/021,033号「RYDBERG-MOLECULE-BASED MICROWAVE DIRECTION FINDING」に基づく優先権を主張し、これらの出願は共に、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
マイクロ波は、ポイントツーポイント通信リンク、衛星通信および宇宙船通信、リモートセンシング、電波天文学、レーダ、ならびに、医用イメージングなどで、多くの用途を有する。本明細書における広義の「マイクロ波」は、(300メガヘルツ(MHz)の周波数に対応する)1メートル~(3テラヘルツ(THz)の周波数に対応する)100マイクロメートルの波長の電磁放射を含み、換言すると、本明細書で定義されている「マイクロ波」は、国際電気通信連合(ITU)によって定義された極超短波(UHF)、センチメートル波(SHF)、「ミリメートル波」としても知られるミリ波(EHF)、および、サブミリ波(THF)の周波数範囲を含む。
【0003】
多くのマイクロ波の用途において、受信されたマイクロ波波面の伝搬方向および電界強度を決定することが重要でありうる。本明細書において、「マイクロ波波面」とは、1)波面の向きに対応する伝搬方向と、2)波面の強度に対応する電界強度との組みあわせによって特徴付けることができる伝搬マイクロ波場または伝搬マイクロ波場成分のことである。マイクロ波波面が情報伝達をする場合、マイクロ波信号として有効である。例えば、情報伝達マイクロ波信号の方向および強度を特徴付けることが、そのトランスミッタを見つけるために(例えば、レシーバのアンテナを方向付けるために、または、ジオロケーションの目的で)利用されうる。マイクロ波センサが様々な技術を用いて実現されてきたが、感度不足によって性能が制限されてきた。方向および強度の測定でより高い感度を提供するマイクロ波検知へのアプローチが求められている。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】リュードベリ原子ベースのマイクロ波方向探知器を示す概略図。
【0005】
【
図2】
図1のマイクロ波方向探知器に適用できる原子励起レベルの図。
【0006】
【
図3】マイクロ波放射がオンとオフの場合についてプローブ離調の関数としてプローブ透過強度を示すグラフ。
【0007】
【
図4】
図1のリュードベリ原子ベースのマイクロ波方向探知器を示すより詳細な概略図。
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、受動的相関干渉法を利用して、高い感度、高い角分解能、広いチューニング帯域幅、ならびに、帯域内および帯域外の選択的フィルタリングを達成するリュードベリ分子ベースのマイクロ波方向探知器(MDF)を提供する。本明細書において、「分子」とは、物質の特性すべてを保持し、1または複数の原子で構成されている物質の最小の粒子のことであり、この定義は、メリアム・ウェブスター辞典で説明されており、単原子(単一原子)分子および多原子分子を含む。したがって、気相アルカリ(例えば、カリウム、ルビジウム、および、セシウム)原子は、この定義の下で分子に該当する。本明細書では用いられていないが、以下は、IUPACゴールドブックで説明されているより限定的な別の定義である。「2つ以上の原子からなる電気的に中性な実体」。
【0010】
プローブレーザが、基底状態にある分子を励起状態へ遷移させ、制御レーザが、励起状態にある分子をレーザ励起リュードベリ状態へ遷移させる。マイクロ波レンズが、マイクロ波波面をそれぞれのマイクロ波ビームに変換する。マイクロ波ビームは、分子が干渉することで、最大および最小のマイクロ波強度が交互に起きるマイクロ波干渉パターンを確立するように、分子を通して反対方向に伝搬される。マイクロ波波面が、レーザ励起リュードベリ状態からマイクロ波励起リュードベリ状態へ分子を遷移させるのに適切な周波数を有する場合、マイクロ波干渉パターンは、対応するプローブ透過パターンをもたらし、これは、カメラによってキャプチャ可能である。プローブ透過パターンの位置は、受信されたマイクロ波波面の方向を示し、一方、最小および最大プローブ透過強度は、マイクロ波波面強度を決定するために利用可能である。
【0011】
アンテナを用いて入射マイクロ波を電気信号に変換し、電気信号に基づいて方向を決定する方向探知システムに比べて、リュードベリ分子ベースのMDFは、以下を提供する。(1)高い感度、(2)選択的な帯域内および帯域外フィルタリング(リュードベリーリュードベリ遷移に関連する狭い帯域幅による)、(3)高い角分解能、および、(4)非常に広いマイクロ波チューニング帯域幅。実施形態は、(例えば、戦闘用および射撃統制用レーダのために)、10GHz~100GHzの間など、1~1000GHzまでの周波数範囲を提供する。
【0012】
図1に示すように、MDF100は、マイクロ波レンズシステム102と、原子106を含む超高真空(UHV)セル104と、レーザシステム108と、コントローラ110と、解析システム112と、を備える。代替実施形態は、原子の代わりに多原子分子を用いる。レーザシステム108の制御レーザ113が、制御ビーム114を出力し、レーザシステム108のプローブレーザ115が、プローブビーム116を出力する。制御ビーム114は、「ポンプ」ビームまたは「カップリング」ビームと呼ばれることもあり、方向探知が適用される異なるマイクロ波周波数を選択するために調整されうる。プローブビーム116は、選択されたマイクロ波周波数に関連する干渉パターンの画像をキャプチャするために用いられる。
【0013】
レーザシステム108は、10
-9Torr未満の圧力に原子106を維持する真空セル104を通るようにビーム114および116を方向付ける。プローブビーム116は、基底状態にある原子を励起状態へ遷移させる。
図2の
図200に示すように、波長λ
p=780ナノメートル(nm)を有するプローブビームが、ルビジウム87の原子を基底状態|1>5S
1/2202から励起状態|2>5P
3/2204へ遷移させる。励起状態への遷移は、プローブビームの吸収に関連しており、プローブビームが原子106(
図1)を出る時に、プローブビームのスペクトルに吸収ピーク(または透過バレー)が生じる。
【0014】
制御ビーム114(
図1)は、励起状態204(
図2)の原子をレーザ励起リュードベリ状態206へ遷移させる。波長λ
c=480nmを有する制御ビームが、励起状態|2>204の原子を28D
5/2のレーザ励起リュードベリ状態|3>206へ遷移させる。周波数Ω
MW=104.7ギガヘルツ(GHz)を有するマイクロ波放射が、レーザ励起リュードベリ状態206の原子をマイクロ波励起リュードベリ状態|4>29P
3/2208へ遷移させる。レーザ励起リュードベリ状態へのこの遷移は、「電磁誘導透過」(略して「EIT」)として知られる現象に関連しており、EITは、スペクトルプローブビームが原子106(
図1)を出る時に、スペクトルプローブビームにおける透過ピークとして表される。異なるマイクロ波周波数についての方向探知を実行するために、異なる制御波長を用いて、異なるレーザ励起リュードベリ状態を選択することができ、これは、所望の異なるマイクロ波周波数に関連する異なるマイクロ波励起リュードベリ状態を有しうる。
【0015】
図1に示すように、マイクロ波レンズシステム102は、それぞれの光軸128および130を有するマイクロ波レンズ124および126を備えており、それらの光軸は、互いに平行に配置されている。代替実施形態において、マイクロ波レンズシステムは、3以上のマイクロ波レンズを備える。光軸128および130と平行な伝搬方向を有する波面が、マイクロ波レンズ114および116へ同時に到達する。代替実施形態において、それぞれの光軸と平行な伝搬方向を有する波面は、異なる時にマイクロ波レンズに到達する。光軸128および130に関して角度αで到達する波面132が、異なる時にマイクロ波レンズ124および126に到達し、その結果、角度αで表される伝搬方向に対応する位相差θが生じる。
【0016】
マイクロ波レンズ124および126は、入力マイクロ波波面132をそれぞれのマイクロ波ビーム134および136に変換する。マイクロ波レンズシステム102は、真空セル104内の原子106を通して反対方向に伝搬する(すなわち、同じ経路に沿って反対方向に伝搬する)ように、マイクロ波ビーム134および136を方向付ける。反対方向に伝搬するマイクロ波ビーム134および136は、真空セル104内で干渉パターン140を生み出す。
【0017】
マイクロ波干渉パターン140は、マイクロ波強度の最大値(ピーク)および最小値(バレー)を交互に有する空間分布パターンを含む。マイクロ波放射は、レーザ励起リュードベリ状態からマイクロ波励起リュードベリ状態への遷移を引き起こす。この遷移の結果として、励起状態からレーザ励起リュードベリ状態への遷移によって引き起こされるEITへの相殺が生じる。換言すると、プローブ透過強度は、マイクロ波強度と負に相関する。
【0018】
図3のグラフ300に示すように、この負の相関を考慮すると、マイクロ波の最小値は、最大透過強度に対応し、一方、マイクロ波の最大値は、プローブビームのゼロ離調における最大透過強度に対応する。したがって、マイクロ波干渉パターンは、透過強度の最小値および最大値を有する空間分布パターンの形態で、プローブビーム116(
図1)に与えられる。プローブビーム透過強度パターンは、解析システム112のカメラ142によってキャプチャされる。
【0019】
波面122についてキャプチャされたプローブ透過強度パターン402が、
図4のグラフ400に示されている。パターン402は、マイクロ波波面がマイクロ波レンズの光軸128および130(
図1)と平行なマイクロ波レンズに到達した時に生成されるプローブ透過強度パターンに対応する参照パターン404からずれていることが示されている。ずれの量は、波面と光軸との間の角度αに対応する。したがって、マイクロ波波面122の伝搬方向は、参照パターン404からのパターン402のずれから決定可能である。マイクロ波波面の強度は、キャプチャされたプローブ透過強度パターン402の最大値406および最小値408の間の強度差に対応する。
【0020】
図4に示すように、マイクロ波レンズ124および126は、カセグレンレンズであり、各々が、凹面「ディッシュ」リフレクタ410および凸面リフレクタ412を備える。ディッシュリフレクタは、30センチメートル(cm)の直径を有し、それらの光軸は、40cm離れている。他の実施形態は、異なる分離距離(例えば、20~120cmの分離)、異なるサイズのディッシュリフレクタ(例えば、10~100cm)、および/または、他のタイプのマイクロ波レンズ(例えば、空間的に変化する遅延要素で互いに結合されている別個の受信アンテナおよび送信アンテナを備えるフェーズドアレイレンズ)を利用する。第2ペアのマイクロ波レンズが、例えば、波面の方位角成分および仰角成分を分析できるように、直交軸に沿って方向を区別するために利用されてもよい。あるいは、レンズペアの一方のレンズが、方向探知のさらなる次元を提供するために、第3レンズを備える第2ペアの一部として二つの機能を有してもよい。
【0021】
マイクロ波レンズシステム102は、さらに、マイクロ波リレー414および416を備える。マイクロ波リレー414は、マイクロ波リフレクタ420および422を備えており、これらのリフレクタは、マイクロ波ビーム134を真空セル104内へ方向付けるよう協働する。マイクロ波リレー416は、マイクロ波リフレクタ424、426、および、428を備えており、これらのリフレクタは、ビーム134および136が真空セル104内で逆方向に伝搬するように、マイクロ波ビーム136を真空セル104内へ方向付けるよう協働する。一般に、マイクロ波レンズからいくらかの角度依存の「ウォークオフ」が存在する。図の構成において、レンズを出る時のビームのウォークオフは、反対方向であり、干渉パターンを弱めることになる。一方のリレーにおいて奇数のマイクロ波ミラーを利用し、他方では奇数のミラーを利用ないことにより、リレーを出る時のビームにおけるウォークオフは、同じ方向になり、その結果として、より強い干渉パターン、ひいては、方向探知器の読み取り値のより強力な信号対ノイズ比がもたらされる。
【0022】
レーザシステム108(
図1)は、マイクロ波ビーム134および136が反対方向に伝搬する経路と垂直に真空セル104を通してプローブビーム116および制御ビーム114を反対方向に伝搬させるダイクロイックリフレクタ450および452(
図2)を備える。ダイクロイックミラー450は、プローブビーム116がカメラ142までまっすぐに通り抜けることを許容し、制御レーザビーム114を反射する。結果として、制御ビーム114は、真空セル104に入る時、プローブビーム116と反対方向に伝搬する。ダイクロイックミラー452も、プローブビーム116がまっすぐに通り抜けることを許容するが、制御レーザビーム114は、真空セル104を通過した後に反射されて、プローブビーム経路を外れ、ひいては、プローブレーザ115(
図1)を離れる。代替実施形態において、プローブビームおよび制御ビームは、リュードベリセルの同じ壁を通してセル内へ共に伝搬してもよいし、セル内で直角またはその他の角度で交差してもよい。
【0023】
原子106
図1)が「冷却」原子になる(すなわち、1ミリケルビンよりも低い温度(例えば、300マイクロケルビンに近い温度)を有する)ように、レーザ冷却が用いられる。300μKまで冷却されたリュードベリ原子蒸気レーザは、技術思想の範囲内でのドップラー効果の排除による相関信号対ノイズ比および分解能の改善と共に、温度に依存しないマイクロ波検出性能を可能にする。代替実施形態は、より高い温度(例えば、高温または室温の原子蒸気セル)を用いる。
【0024】
マイクロ波方向探知処理500のフローチャートが、
図5に示されている。工程501で、MDFが較正される。例えば、既知の伝搬方向および強度のマイクロ波波面が、マイクロ波レンズへ方向付けられうる。結果として得られたプローブ強度パターンの参照プローブ強度パターンからのずれが、マイクロ波伝搬方向に対してマッピングできるように決定されうる。同様に、各マイクロ波波面の既知の強度は、プローブ透過強度パターンの最大値および最小値の差をマイクロ波波面強度に対してマッピングできるように、それらの差と関連付けられうる。この較正手順は、複数の関心マイクロ波周波数の各々に対して繰り返されうる。
【0025】
工程502で、プローブレーザビームおよび制御レーザビームが、真空セル内の原子(例えば、アルカリ原子またはアルカリ土類原子)を通るように方向付けられうる。プローブレーザは、基底状態にある原子を励起状態へ遷移させ、制御レーザは、励起状態にある原子をレーザ励起リュードベリ状態へ遷移させる。
【0026】
工程503で、マイクロ波レンズが、マイクロ波波面をそれぞれのマイクロ波ビームに変換する。より正確には、レンズは、様々な周波数のマイクロ波をビームに変換するが、典型的には、周波数の内の1つだけが、方向決定につながる。図の実施形態において、レンズの光軸の分離方向が異なる1ペアのマイクロ波レンズが、方向を区別するために用いられる。他の実施形態において、1または複数のさらなるレンズが、方向探知の第2次元を提供する。
【0027】
工程504で、マイクロ波ビームは、(例えば、真空セル内に閉じ込められた)原子群を通して反対方向へ伝搬され、マイクロ波干渉パターンをもたらす。工程505で、マイクロ波干渉パターンがプローブビームに与えられて、プローブビームが原子を出る時にプローブビームの高透過率および低透過率のパターンを生み出すように、プローブレーザビームが、原子を通して伝送される。一般に、様々なマイクロ波周波数に対応する複数の干渉パターンが存在するが、これらのほとんどは、レーザ励起リュードベリ状態からマイクロ波励起リュードベリ状態への遷移を引き起こさず、したがって、対応するマイクロ波パターンは、プローブビームへ与えられない。
【0028】
マイクロ波干渉パターンの最大値および最小値は、プローブ透過パターンのそれぞれ最小値および最大値に対応する。原子遷移は、信号源が広帯域であっても、干渉パターンが常に分解可能であるのに十分に狭い。カメラによって生成された画像に現れた時の干渉最大値の位相または位置は、入力信号方向を示している。アンテナサイドローブの存在に起因する曖昧さが、関心キャリア付近の帯域内周波数を選択することによって必要な時に解消され、これにより、一意的に角度に依存する干渉の空間的シフトが生み出される。このリュードベリ検出器アプローチは、相関干渉法の信号取得および電子処理の両方を大幅に単純化する。
【0029】
工程506で、プローブビーム透過パターンが、例えばカメラによって、キャプチャされる。工程507で、キャプチャされたプローブ透過パターンは、対応するマイクロ波波面の伝搬方向および強度を決定するために解析される。伝搬方向は、(例えば、軸上のマイクロ波伝搬方向に対応する参照位置に対する)プローブ透過パターンの並進位置に基づいて決定される。マイクロ波波面の強度は、キャプチャされたプローブ透過パターンの最大値および最小値の間の強度差に基づいて決定される。これは、単一のマイクロ波周波数についての方向(および強度)探知を完了させる。
【0030】
工程508で、制御ビームは、その波長を変更するよう調整され、ひいては、励起状態の原子が遷移されるレーザ励起リュードベリ状態を変化させる。次に、これは、どのマイクロ波励起リュードベリ状態が遷移目標として利用可能であるか(これは、どのマイクロ波周波数が方向探知のための標的として選択可能であるのかを決定する)を変化させる。多くの場合、所望の標的マイクロ波周波数が最初に選択され、制御レーザ波長が、所望の標的マイクロ波周波数の関数として選択される。所望の標的マイクロ波周波数に適切な制御レーザ波長が存在しない場合、いくつかの実施形態は、プローブレーザ波長が、所望の標的マイクロ波周波数に整合するものが見つかりうるさらなるリュードベリ遷移を提供するために変更されることを可能にする。制御レーザビーム周波数が再調整されると、処理500は、工程502に戻ることによって反復する。
【0031】
図の実施形態は、以下を達成する。MDFシステムは、高い周囲温度による劣化なしに、-194dBm/Hz(最小検出可能信号)の感度を有する。リュードベリ原子遷移は、マイクロ波の観点から実際的に連続しており、波長可変レーザを用いると、1~1000GHzの極端に広帯域のチューニングを達成できる。任意の遷移周波数における瞬時帯域幅は、実際的に無限の帯域外除去を有するフィルタ応答を伴って1MHzのオーダーである。この帯域幅は、10、30、および、100GHzでおおよそ同じであり、したがって、相対的選択性が、マイクロ波周波数の上昇と共に高くなり、このタイプのスペクトル選択性は、電子フィルタでは達成されていない。
【0032】
並列光学読み出しで、すなわち、アクティブ高周波電子機器または信号処理を全く必要とせずに、干渉分解能を提供するために、受信マイクロ波レンズのペアからの信号が相関される。提案されているシステムの基本的な検出器分解能は、10GHz~100GHzのスペクトル全体にわたって-150dBm(デジベルミリワット)の入射電力で0.5°未満である。より高い角分解能が、冷却原子クラウドの光学的深さを高めることによって、例えば、より大きいまたはより高密度の光学クラウドを用いることによって、達成されうる。さらに、より大きいカセグレンディッシュ口径が、それに応じてより高い角分解能を達成できる。角分解能は、最終的に信号対ノイズ比を制限し、ひいては、標的マイクロ波信号のフィールド感度および回折限界に影響する。
【0033】
本明細書において、「従来技術」と表示されている技術があれば、すべて従来技術として認められ、「従来技術」と表示されていない技術はすべて、従来技術として認められない。図に示した実施形態、その変更例、および、その変形例は、本発明によって提供され、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって規定される。
【国際調査報告】