IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フロイデンベルク エスエーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-21
(54)【発明の名称】架橋ポリアリールエーテルケトン
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/40 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
C08G65/40
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535738
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2021080005
(87)【国際公開番号】W WO2022128224
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】102020134149.0
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021119437.7
(32)【優先日】2021-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521053101
【氏名又は名称】フロイデンベルク エスエー
【氏名又は名称原語表記】FREUDENBERG SE
【住所又は居所原語表記】Hohnerweg 2-4,69469 Weinheim, GERMANY
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】シャウバー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ズッター,マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ツルクシウス,キラ
【テーマコード(参考)】
4J005
【Fターム(参考)】
4J005AA24
4J005BA00
4J005BB02
(57)【要約】
本発明は、架橋ポリアリールエーテルケトンを含有するポリマーマトリックスを備えた成形品およびかかる成形品を製造するための方法に関する。さらに、本発明は、かかる成形品を備えるか、またはかかる成形品からなる、電気もしくは化学用途のシール物品、スラストワッシャ、バックアップリング、弁、コネクタ、絶縁体、スナップフック、ベアリング、ブシュ、フィルム、パウダー、コーティング、繊維、シールリングおよびOリング、管およびライン、ケーブル、被覆体およびシースならびにケーシングに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)と、該PAEKのケト基と熱架橋して架橋剤分子あたり少なくとも2つのイミン基を形成することができる少なくとも1つの架橋剤との反応から得られるマトリックスを備えた成形品であって、前記架橋剤が、
a)少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマー、
b)a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、
およびそれらの混合物
の中から選択される、成形品。
【請求項2】
ポリアリールエーテルケトンと、ポリアミド、ポリイミド、アミノ化二量体脂肪酸、アミノ化二量体脂肪酸を共重合単位として含有するオリゴマー/ポリマーおよびそれらの混合物の中から選択される少なくとも1つの架橋剤との反応から得られるマトリックスを備えた、請求項1記載の成形品。
【請求項3】
少なくとも1つの充填剤および補強剤ならびに/またはそれらとは異なる少なくとも1つの添加剤を含む、請求項1または2記載の成形品。
【請求項4】
コーティングの形態における、請求項1、2または3記載の成形品。
【請求項5】
成形品を製造するための方法であって、
i)少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンと、少なくとも1つの架橋剤とを含有する混合物を調製するステップであって、前記少なくとも1つの架橋剤が、
a)少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマー、
b)a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、
およびそれらの混合物
の中から選択される、ステップと、
ii)ステップi)で得られた前記混合物から成形品を製造するステップと、
iii)前記ポリアリールエーテルケトンが架橋される温度で前記成形品を熱処理するステップと
を含む、方法。
【請求項6】
ステップi)において、前記少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン、前記少なくとも1つの架橋剤、場合により充填剤および補強剤、ならびに場合によりそれらとは異なる少なくとも1つの更なる添加剤を、溶融混合および/または乾式混合に供する、請求項5記載の方法。
【請求項7】
ステップi)において、前記少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン、前記少なくとも1つの架橋剤、場合により充填剤および補強剤、ならびに場合によりそれらとは異なる少なくとも1つの更なる添加剤を、押出機に供給し、可塑化状態で混合し、場合により粒状化する、請求項5記載の方法。
【請求項8】
ステップi)において調製される前記架橋剤が、該架橋剤の総重量を基準として、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも50重量%、特に好ましくは少なくとも80重量%、殊に少なくとも90重量%、具体的には少なくとも99重量%で、
a)少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマー、
b)a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、
およびそれらの混合物
の中から選択される、請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記架橋剤が、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーであり、該オリゴマー/ポリマーは、
A)非置換のまたは置換された芳香族ジカルボン酸および非置換のまたは置換された芳香族ジカルボン酸の誘導体、
B)非置換のまたは置換された芳香族ジアミン、
C)脂肪族または環式脂肪族ジカルボン酸、
D)脂肪族または環式脂肪族ジアミン、
E)モノカルボン酸、
F)少なくとも3価のアミン、
G)ラクタム、
H)ω-アミノ酸ならびに
K)A)~I)とは異なる、それと共縮合可能な化合物、およびそれらの混合物
の中から選択される共重合形態のモノマーを含有し、
ただし、成分A)またはC)の少なくとも1つと、成分B)またはD)の少なくとも1つとが存在しなければならない、
請求項5から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記架橋剤が、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーであり、該オリゴマー/ポリマーは、非置換のまたは置換された芳香族ジカルボン酸および非置換のまたは置換された芳香族ジカルボン酸の誘導体ならびに脂肪族または環式脂肪族ジアミンの中から選択される共重合形態のモノマーを含有する、請求項5から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記芳香族ジカルボン酸が、それぞれ非置換のまたは置換されたフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはジフェニルジカルボン酸ならびに前述の芳香族ジカルボン酸の誘導体および混合物の中から選択される、請求項9または10記載の方法。
【請求項12】
前記脂肪族または環式脂肪族ジアミンが、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、5-メチルノナンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、5-アミノ-2,2,4-トリメチル-1-シクロペンタンメチルアミン、5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(イソホロンジアミン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、[3-(アミノメチル)-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル]メタナミン、アミノ化二量体脂肪酸およびそれらの混合物の中から選択される、請求項9から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記架橋剤が、PA4.T、PA5.T、PA6.T、PA9.T、PA8.T、PA10.T、PA12.T、PA6.I、PA8.I、PA9.I、PA10.I、PA12.I、PA6.T/6、PA6.T/10、PA6.T/12、PA6.T/6.I、PA6.T/8.T、PA6.T/9.T、PA6.T/10.T、PA6.T/12.T、PA12.T/6.T、PA6.T/6.I/6、PA6.T/6.I/12、PA6.T/6.1/6.10、PA6.T/6.I/6.12、PA6.T/6.6、PA6.T/6.10、PA6.T/6.12、PA10.T/6、PA10.T/11、PA10.T/12、PA8.T/6.T、PA8.T/66、PA8.T/8.I、PA8.T/8.6、PA8.T/6.I、PA10.T/6.T、PA10.T/6.6、PA10.T/10.I、PA10.T/10.I/6.T、PA10.T/6.I、PA4.T/4.I/46、PA4.T/4.I/6.6、PA5.T/5.I、PA5.T/5.I/5.6、PA5.T/5.I/6.6、PA6.T/6.I/6.6、PA MXDA.6、PA6.T/IPDA.T、PA6.T/MACM.T、PA6.T/PACM.T、PA6.T/MXDA.T、PA6.T/6.I/8.T/8.I、PA6.T/6.1/10.T/10.1,PA6.T/6.I/IPDA.T/IPDA.I、PA6.T/6.I/MXDA.T/MXDA.I、PA6.T/6.I/MACM.T/MACM.I、PA6.T/6.I/PACM.T/PACM.I、PA6.T/10.T/IPDA.T、PA6.T/12.T/IPDA.T、PA6.T/10.T/PACM.T、PA6.T/12.T/PACM.T、PA10.T/IPDA.T、PA12.T/IPDA.T、PA4.6、PA6.6、PA6.12、PA6.10ならびにそれらのコポリマーおよび混合物の中から選択される、請求項5から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記架橋剤が、アミノ化二量体脂肪酸、アミノ化二量体脂肪酸を共重合単位として含有するオリゴマー/ポリマーおよびそれらの混合物の中から選択される少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、殊に化合物
【化1】
または該化合物を共重合単位として含有するオリゴマー/ポリマー
である、請求項5から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記ポリアリールエーテルケトンが、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはポリエーテルエーテルエーテルケトン(PEEEK)である、請求項5から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記混合物が添加溶媒を含有しない、請求項5から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
ステップiii)における前記温度が少なくとも300℃である、請求項5から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記混合物を、ステップii)において、押出成形、熱間プレス、射出成形および/または付加製造法によって加工する、請求項5から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記成形品を、ステップiii)における前記熱処理中および/または前記熱処理後に、酸素含有ガスの存在下で処理に供する、請求項5から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
請求項5から18までのいずれか1項において定義される方法によって得られる成形品。
【請求項21】
少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン(PAEK)と、少なくとも1つの架橋剤とを含有するポリマー混合物であって、前記少なくとも1つの架橋剤が、
a)少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマー、
b)a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、
およびそれらの混合物
の中から選択される、ポリマー混合物。
【請求項22】
請求項5から18までのいずれか1項において定義される前記ステップi)およびii)を含む方法によって得られる成形品前駆体。
【請求項23】
自動車、海運、航空宇宙、鉄道車両、石油・ガス産業、食品・包装産業および医療技術の分野における、請求項1から4までのいずれか1項において定義される成形品の使用または請求項5から19までのいずれか1項において定義される方法によって得られる成形品の使用。
【請求項24】
請求項1から4までのいずれか1項において定義される成形品からなるか、もしくは請求項1から4までのいずれか1項において定義される成形品を備えるか、または請求項5から19までのいずれか1項において定義される方法によって得られる、電気または化学用途のシール物品、スラストワッシャ、バックアップリング、弁、コネクタ、絶縁体、スナップフック、ベアリング、ブシュ、フィルム、パウダー、コーティング、繊維、シールリングおよびOリング、管およびライン、ケーブル、被覆体およびシース、ケーシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリアリールエーテルケトンを含有するポリマーマトリックスを備えた成形品およびかかる成形品を製造するための方法に関する。さらに、本発明は、かかる成形品を備えるか、またはかかる成形品からなる、電気もしくは化学用途のシール物品、スラストワッシャ、バックアップリング、弁、コネクタ、絶縁体、スナップフック、ベアリング、ブシュ、フィルム、パウダー、コーティング、繊維、シールリングおよびOリング、管およびライン、ケーブル、被覆体およびシースならびにケーシングに関する。
【0002】
先行技術
熱可塑的に加工可能な合成樹脂(熱可塑性樹脂)は、その製造の生産性、可逆的な成形性、そして多くの場合、その高品質な技術的特性に基づき広く普及しており、現在では工業生産の標準製品となっている。熱可塑性樹脂は、実質的に直鎖状のポリマー鎖で構成されており、すなわち、それらは架橋されておらず、通常、分岐も僅かしかしていないか、または分岐していない。しかしながら、熱可塑性樹脂は、その耐熱性に関して固有の性質に依存した限界を有し、したがって、ポリマー材料の全ての応用分野において最適なものとして適しているわけではない。したがって、例えば良好な機械的特性または高い耐化学薬品性などの利点を犠牲にすることなく、熱可塑性合成樹脂の耐熱性を高めることが望ましい。この場合、高分子が共有結合によって互いに結合している多重架橋ポリマー(熱硬化性プラスチック、熱硬化性樹脂)が有利である。当該ポリマーは、低温では、ガラス状態とも呼ばれる硬弾性状態にある。この領域を超えて熱硬化性プラスチックを加熱すると、通常、熱分解の領域に直接入っていく。
【0003】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などは、高い耐熱性および耐媒体性を有し、かついわゆる高機能性ポリマーに数えられる半結晶性の熱可塑性樹脂である。当該熱可塑性樹脂は、アリール基の後にその都度ケト基(Ketogruppe)(カルボニル基)またはエーテル基が続く交互構造を有し、ケトン基(Ketongruppen)とエーテル基との割合は可変であり、アリール環上の置換パターンが異なることがある。両方ともPAEKの特性を実質的に決定する。PAEKは、特に、比較的高温でも良好な強度特性、低温での高い衝撃強度値、高い機械的疲労強度、低いクリープ変形傾向ならびに良好な摺動挙動および摩耗挙動によって特徴付けられる。連続使用温度は最大約260℃であり、短期の最大適用限界は融点の近くまで達する(PEKの場合は約373℃、PEEKの場合は約340℃)。これらは、とりわけ高性能の成形部品、特に石油・ガス搬送分野におけるシールおよびバックアップリングにも使用される。この場合、PAEKは、その靭性および耐薬品性によって特徴付けられ、そのため、他のクラスの材料に置き換えることはまだできていない。しかしながら、PAEK、特にPEEKは、耐熱性に関して、熱可塑性樹脂に特有の前述の固有の性質に与えられた限界も有している。PAEKの耐熱性および機械的安定性をさらに高めるために、ポリマー鎖を架橋することが提案された。先行技術において、架橋には、PAEKをジアミンで架橋する先行技術の方法が使用される。この場合、イミン結合(シッフ塩基)が形成され、架橋されたポリマーにより高い安定性を与えることができる。ここでの欠点は、かかる架橋ポリマーに流動性がないことである。したがって、ポリマーの溶融物から熱可塑的に加工することは容易に可能ではない。更なる欠点は、架橋剤として原則的に適している全てのジアミンが実際には使用できるわけではないことである。殊に、低温でも揮発性があるアミン類は、ユーザーを危険にさらすだけでなく、そのうえ重大な環境汚染にもつながる。
【0004】
ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)をジアミンで化学的に架橋する方法は、1980年代から知られている。この方法では、まずポリエーテルエーテルケトンを溶媒としてのジフェニルスルホン中でパラフェニレンジアミンの結合によって修飾する。続けて、乾燥させ、さらに洗浄することにより溶媒を分離しなければならない。問題なのは、記載した方法では、しかも共有結合の際にも、既に架橋が形成されることである。この場合、確かに一方では耐熱性が上昇するが、他方ではガラス転移温度も上昇し、熱可塑的な加工性が失われてしまう。したがって、得られるポリマー塊状物は、溶融状態から熱可塑的に架橋されるのではなく、熱間プレスによって架橋される。
【0005】
さらに、まず溶媒としてのジフェニルスルホン中でPEEKとフェニレンジアミンとの類似の反応によってPEEKを修飾し、溶媒を分離して洗浄した後、熱間プレスによって架橋することが知られている。また、熱可塑的な加工についても記載がない。調査により、生成物は非架橋PEEKよりも高い安定性を有しているが、まだ改善の必要があることが分かった。殊に、この方法では溶液状態で結晶性がほとんど完全に失われ、そのため、ガラス状態を超える温度での弾性率は、熱可塑性PEEKと比べて比較的低くなる。
【0006】
国際公開第2010/011725号には、PAEKを架橋するための多数のアミン系架橋剤が記載されている。しかしながら、この文書には、上記で引用した文献に従ったフェニレンジアミンによるPAEKの架橋を記載する1つの合成例しか含まれておらず、この例では、まず溶媒としてのジフェニルスルホン中で反応が行われる。
【0007】
非アミン系架橋剤でPAEKを架橋する方法は、米国特許第6,887,408号明細書に提案されている。
【0008】
PAEKを架橋するために、ポリマー自体を架橋可能なアミノ基で官能基化することも先行技術で提案されていた。かかる方法は、例えば米国特許出願公開第2017/0107323号明細書に記載されている。ここでの欠点は、アミノ基によるPAEKの官能基化が比較的高価であることである。さらに、官能基化されたPAEKの架橋は、低分子量架橋剤を用いた場合のように簡単かつ可変的に制御することができない。
【0009】
国際公開第2020/056052号には、少なくとも1つの芳香族ポリマーと、少なくとも1つの芳香族ポリマーを架橋することができる少なくとも1つの架橋性化合物とを含む架橋可能なポリマー組成物が記載されている。架橋性化合物としては、フルオレン誘導体が使用される。
【0010】
先行技術に記載されている、低分子架橋剤としてのジアミンでPAEKを架橋する方法は、高い割合の溶媒の存在下で実施され、成形品の製造は熱間プレス(圧縮成形(compression molding))によって行われる。この製品は、同等の架橋されていないPAEKよりも温度安定性に優れている。しかしながら、この方法で架橋されたPAEKは、ポリマーが溶媒に溶解する際にPAEKの結晶性が失われることから、比較的低い剛性を有するという欠点がある。さらに加工した場合、架橋部位による鎖の固有の立体障害のために、結晶性はたとえ回復したとしても、ごく僅かな部分しか回復することができない。さらに、この方法は溶媒の除去のために多数の作業ステップも必要とするため、全体として非常に煩雑になるという欠点がある。更なる欠点は、成形品は熱間プレスで製造されるため、熱可塑性加工と比較して適用可能性が限定されることである。熱間プレスおよび同等の方法は、熱可塑性溶融物に変換することができない非流動性材料で実施される。その結果、成形性が制限され、肉薄のまたは複雑な成形品を製造することができない。これらの理由から、かかる方法はまた、非常に限られた範囲でしか自動化することができない。したがって、既知の溶媒ベースの方法に基づいて、効率的かつ費用対効果の高い工業生産を行うことはできない。
【0011】
国際公開第2010/011725号には、概して、架橋PAEKから押出成形によって成形品を製造する方法が記載されている。しかしながら、製品の製造は実験室規模で熱間プレスによって行われるにすぎないことから、これは理論的なアプローチにすぎない。低分子量架橋剤で架橋されたPAEKを押出成形できるという証拠はなく、ましてやその方法で有利な特性を持つ製品を得ることができるという証拠もない。また、当業者には、PAEKとアミン基含有架橋剤とを押出機で可塑化し、続けて、形状付与ステップに供することができるという成功への合理的な期待がない。一方では、成分を混合して加工しなければならない必要な高い融解温度で既に架橋が開始することが問題である。他方では、PAEKが、溶媒の非存在下で、かかるアミン系架橋剤と混合可能かつ加工可能であることは期待されていなかった。実際には、低分子成分がポリマーに取り込まれると、多くの場合、偏析プロセスが観察される。しかしながら、安定した製品を得るためには、ポリマー中の架橋剤の均一な分布が絶対に必要である。
【0012】
国際公開第2020/030599号には、PAEKを含有する架橋成形品を製造するための方法が記載されている。同号では、架橋剤は、2つのアミノフェニル環が、炭素環残基を有する脂肪族基を介して互いに連結されているジ(アミノフェニル)化合物である。具体的には、架橋剤成分として1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチルインダン-5-アミンDAPI(CAS番号54628-89-6)または異性体混合物(CAS番号68170-20-7)が使用される。一方では、架橋剤の製造コストが高いことが欠点である。他方では、DAPIで架橋されたPAEKの物理化学的特性には改善の必要がある。
【0013】
米国特許出願公開第2020/0172669号明細書および米国特許出願公開第2020/0172667号明細書には、少なくとも1つの芳香族ポリマーと、芳香族ポリマーを架橋することができる少なくとも1つの架橋性化合物とを含む架橋可能なポリマー組成物が記載されている。架橋性化合物として、フルオレン、ジフェニルメタンおよびジヒドロアントラセンの誘導体が使用される。
【0014】
本発明の根底にある課題は、上記の欠点を克服する方法および製品を提供することである。
【0015】
殊に、高い安定性と良好な加工性とを有するPAEKに基づく材料が提供されるべきである。殊に、この材料は、高い耐熱性と、高温で高い剛性(弾性率)とを有しているべきである。さらに、良好な耐化学薬品性と低い可燃性とを有しているべきである。さらに、この材料は、低いクリープ傾向とゴム弾性挙動とを高温領域で示すべきである。
【0016】
殊に、本発明の根底にある課題は、高い安定性を有しながらも、容易に加工可能である材料を提供することである。この材料は、簡単な方法で効率的かつ高い費用対効果で製造可能であるべきである。殊に、材料が熱可塑的に加工可能であり、形状付与後に初めて適宜架橋ができれば有利である。殊に、熱間プレスなどの非効率的な方法は回避されるべきである。
【0017】
また、方法はできるだけ環境に優しく、ユーザーを危険にさらすことなく実施可能であるべきである。
【0018】
驚くべきことに、本発明の根底にある課題は、ポリアリールエーテルケトンを特殊なジアミン源での架橋に供してイミン基を形成する方法、成形品およびシール物品によって解決される。この方法では、まずポリアリールエーテルケトンとジアミン源とからの可塑化された混合物を形状付与法に供して成形品を製造することができる。続いて、成形品を架橋に供することができる。これらの2つのステップは、射出成形機において1回のステップに部分的に組み合わせることもできる。
【0019】
発明の概要
本発明の第1の対象は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)と、PAEKのケト基と熱架橋して架橋剤分子あたり少なくとも2つのイミン基を形成することができる少なくとも1つの架橋剤との反応から得られるマトリックスを備えた成形品であって、架橋剤が、
a)少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマー、
b)a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、
およびそれらの混合物
の中から選択される、成形品である。
【0020】
好ましい実施形態は、ポリアリールエーテルケトンと、ポリアミド、ポリイミド、アミノ化二量体脂肪酸、アミノ化二量体脂肪酸を共重合単位として含有するオリゴマー/ポリマーおよびそれらの混合物の中から選択される少なくとも1つの架橋剤との反応から得られるマトリックスを備えた成形品である。
【0021】
言うまでもなく、PEAKは、ポリマーブレンド/ポリマー混合物の形態でも存在することができる。適切な混合相手は、高性能熱可塑性樹脂(Highperformance thermoplastic)の中から選択され、殊にポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリスルホン(PSU)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエーテルスルホン(PESまたはPESU)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)および液晶性ポリマー(LCP)の中から選択される。
【0022】
本発明の更なる対象は、コーティングの形態の成形品である。
【0023】
本発明の更なる対象は、成形品を製造するための方法であって、
i)少なくとも1つのポリアリールエーテルケトンと、少なくとも1つの架橋剤とを含有する混合物を調製するステップであって、当該少なくとも1つの架橋剤が、
a)少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマー、
b)a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、
およびそれらの混合物
の中から選択される、ステップと、
ii)ステップi)で得られた混合物から成形品を製造するステップと、
iii)ポリアリールエーテルケトンが架橋される温度で成形品を熱処理するステップと
を含む、方法である。
【0024】
本発明の対象はまた、この方法によって得られた成形品である。
【0025】
本発明の対象はまた、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン(PAEK)と、少なくとも1つの架橋剤とを含有する、上記および以下に定義するようなポリマー混合物である。ポリマー混合物中に含有される適切かつ好ましいPAEKおよび架橋剤に関して、本発明による成形品およびその製造の文脈では、以下の説明が全面的に参照される。
【0026】
本発明の対象はまた、ステップi)およびii)を含む方法によって得られる、上記および以下に定義するような成形品前駆体である。
【0027】
本発明の対象はまた、自動車、海運、航空宇宙、鉄道車両、石油・ガス産業、食品・包装産業および医療技術の分野における、上記および以下に定義するような成形品、または上記および以下に定義するような方法によって得られる成形品の使用である。
【0028】
本発明の更なる対象は、本発明による成形品もしくは本発明による方法に従って得られた成形品からなるか、またはかかる成形品を備える、電気もしくは化学用途のシール物品、スラストワッシャ、バックアップリング、弁、コネクタ、絶縁体、スナップフック、ベアリング、ブシュ、フィルム、パウダー、コーティング、繊維、シールリングおよびOリング、管およびライン、ケーブル、被覆体およびシースならびにケーシングである。
【0029】
発明の説明
本発明によるポリマー組成物、本発明による成形品および本発明による方法は、以下の利点を有する:
- 架橋PAEKに基づく成形品を製造するための本発明による方法では、例えば揮発性芳香族アミンなどの環境および健康に潜在的に有害な物質が回避される。
- 本発明に従って使用される架橋ポリアリールエーテルケトンおよび本発明による成形品は、非架橋PAEKよりも高い耐熱性と高い最高使用温度とによって特徴付けられる。それらは高いガラス転移領域を有し、殊にDAPI架橋ポリアリールエーテルケトンと比較してより高いガラス転移領域を有する。
- 本発明に従って使用される架橋ポリアリールエーテルケトンまたは本発明による成形品は、動的機械分析(DMA)において高いレベルのゴムプラトー、殊にDAPI架橋ポリアリールエーテルケトンと比較して融解領域を超える約10倍の高いレベルのゴムプラトーを示す。
- 本発明による方法は、低コストであること、殊にDAPIおよび他の芳香族ジアミンによるPAEK架橋と比較してより低コストであることによって特徴付けられる。本発明に従って使用されるジアミン源は、通常、低い製造コストを有する市販の原料である。
- ポリアミドは、低分子量ポリアミドおよびジアミンの供給源として用いることができる。反応条件に応じて、ポリアミドからどの架橋剤成分が形成されるかを制御することが可能である。したがって、ポリアミドをジアミン源として使用することによって、低沸点脂肪族ジアミンでPAEKを架橋することもできるが、低沸点脂肪族ジアミンは、他の方法では、方法上/安全上/環境上の理由からPEAKと反応させることができないか、または多大な労力を伴ってしか反応させることができない。
- 本発明による方法は、2つの成分(造粒物)を搬送して混合するだけでよいことから、技術的に簡単に実施可能である。
- 本発明によるポリマー組成物または本発明による成形品は、非常に良好なトライボロジー特性を有する。それらは、アブレシブ摩耗条件下で使用するための材料、例えば、腐食性かつ研磨性の媒体用の搬送装置におけるシールおよび滑り軸受材料として適している。
- 本発明によるポリマー組成物または本発明による成形品は、殊にDAPI架橋ポリアリールエーテルケトンと比較して、より低い膨潤を示す。
- 使用される長年確立されている成分に基づき、ポリマーのReach登録が必要ではない。
- 本発明による方法は持続可能である。非架橋残留物は良好かつ簡単にリサイクルでき、廃棄に供給する必要がない。
【0030】
ポリアリールエーテルケトン
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)では、官能基の間にその都度アリール基が(1,4および/または1,3)位で結合して存在している。ポリアリールエーテルケトンは、半結晶性の剛直な構造を有しており、当該構造が材料に比較的高いガラス転移温度および融解温度を付与している。
【0031】
ポリマー成分として、原則として任意のポリアリールエーテルケトンを使用することができる。ポリアリールエーテルケトンは、アリール基、エーテル基およびケト基からの直鎖状のポリマー鎖を特徴とする。この物質クラスの化合物は、これらの基の異なる配置と分子中の比率との点で異なる。PAEKは、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルエーテルエーテルケトン)(PEEEK)、ポリ(エーテルケトンエーテルケトンケトン)(PEKEKK)またはポリ(エーテルエーテルケトンケトン)(PEEKK)であってもよい。この物質クラスの化合物は、第一級アミンと互いに反応してイミン基(シッフ塩基)を形成することができるケト基を有している。したがって、ポリアリールエーテルケトンは、イミン結合を介してジアミンまたはジアミン源と共有結合(架橋)することができる。また、異なるポリアリールエーテルケトンの混合物を使用することもできる。単一のPAEKを使用することが好ましく、なぜなら、それによって高い結晶化度とそれに伴う温度安定性とを得ることができるからである。
【0032】
他の実施形態では、PEAKは、ポリマーブレンド/ポリマー混合物の形態で使用される。適切な混合相手は、高性能熱可塑性樹脂(Highperformance thermoplastic)の中から選択され、殊にポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフタルアミド(PPA)、ポリスルホン(PSU)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリエーテルスルホン(PESまたはPESU)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)および液晶性ポリマー(LCP)の中から選択される。好ましい実施形態では、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK、CAS番号29658-26-2)である。特に好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、335℃~345℃の融解領域を有するポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。本発明に従って架橋されるPEEKは、温度安定性および機械的安定性に関して特に有利な特性を有することが見出された。
【0033】
好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、380℃で5cm3/10分~250cm3/10分、殊に50cm3/10分~200cm3/10分の範囲の溶融粘度を有する。測定はDIN ISO 1133に従って行われ、材料は380℃で溶融され、5kgのスタンプで荷重をかけられ、その後に流動性が決定される。通常、市販のPAEK、殊にPEEKの変種が適している。溶融粘度は、一般にポリマー鎖の分子量と相関する。本発明によれば、良好な熱可塑的な加工性と混和性との両方が達成され、高い安定性、殊に高い剛性を有する均質な製品も得ることができるため、かかる溶融粘度が有利であることが見出された。
【0034】
適切なPAEKは市販されており、例えば、Vestakeep 2000(メルトボリュームレート、ISO1133(380℃/5kg)70ml/10分)、KetaSpire KT820(メルトフローレート、ASTM D1238(400℃/2.16kg)3g/10分)である。
【0035】
好ましくは、架橋剤は、0.05重量%~30重量%、好ましくは0.1重量%~30重量%の量で使用される。PAEKとして、PEEK、殊に上述したような溶融粘度を有するものを使用することが特に好ましい。この場合、好ましくは、架橋剤は、PEEKと架橋剤との総重量を基準として、0.05重量%~30重量%、好ましくは0.1重量%~20重量%の量で使用される。かかる比率と出発材料の特性とで、製品の特に良好な加工性と温度安定性とを達成可能である。
【0036】
第1の好ましい実施形態では、オリゴマー/ポリマーは、ポリアリールエーテルケトンと架橋剤との総重量を基準として、0.5重量%~30重量%、殊に1~10重量%の量で使用される。
【0037】
第2の好ましい実施形態では、オリゴマー/ポリマーとは異なる飽和脂環式化合物が、ポリアリールエーテルケトンと架橋剤とからの総重量を基準として、0.05~10重量%、殊に0.1~5重量%の量で使用される。
【0038】
殊に、剛性は特に高く、これは高温での高い引張弾性率を特徴とする。さらに、かかるPAEK、殊にPEEKは、混合物の調製(=ステップi))中に架橋反応が過度に急速に進行することなく、架橋剤との熱可塑性混合を依然として可能にする温度で加工することができる。その結果、成形品の製造のための成形プロセス(=ステップii))で非常に良好に使用できる可塑化された塊状物が得られる。このようにして得られた成形品は、続けて熱処理(ステップiii))に供することができ、この場合、PAEKの架橋によって最終的な材料特性が達成される。
【0039】
更なる実施形態では、PAEKは、少なくとも1つの更なるポリマーとの混合物中に存在する。更なるポリマーは、殊に熱可塑性ポリマーである。好ましい更なるポリマーは、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリフタルアミド(PPA)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PESまたはPESU)、ポリフェニレンスルホン(PPSU)、ポリフェニレンエーテル(PPE)および液晶性ポリエステル(LCP)ならびにそれらの混合物の中から選択される。PAEKと更なるポリマーとの間の、殊にPAEKと更なる熱可塑性ポリマーとの間の好ましい質量比は、1:1~100:1、有利には5:1~100:1、特に好ましくは10:1~100:1である。
【0040】
架橋剤
好ましくは、PAEKの架橋に使用される架橋剤は、当該架橋剤の総重量を基準として、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも50重量%、特に好ましくは少なくとも80重量%、殊に少なくとも90重量%、具体的には少なくとも99重量%で、
a)少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマー、
b)a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物、
およびそれらの混合物
の中から選択される。
【0041】
これは、本発明による方法のステップi)で調製される架橋剤に同様に適用される。
【0042】
架橋剤の量は、所望の架橋度に照らして設定される。好ましくは、架橋剤の割合は、当該架橋剤とPAEKとの総重量を基準として、0.05重量%~30重量%、殊に0.1重量%~30重量%である。好ましい実施形態では、架橋剤の割合は0.1~10重量%である。かかる架橋剤割合による製品の安定性は、特に有利であり得ることが見出された。殊に、架橋剤量をこの範囲に設定すると、破断伸度の著しい改善が達成され得る。
【0043】
第1の好ましい実施形態では、架橋剤は、少なくとも2つのアミド基を有するか、または少なくとも1つのアミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するか、または少なくとも2つのイミド基を有するか、または少なくとも1つのイミド基と少なくとも1つの第一級アミノ基とを有するオリゴマー/ポリマーa)の中から選択される。
【0044】
本発明の意味において、「オリゴマー/ポリマー」という用語は、少なくとも2つのモノマー構成ブロック(繰り返し単位)が共有結合したポリマー分子を意味する。モノマーは、更なるモノマーの同一またはそれと相補的な基と反応することができる1つまたは複数の重合性基も有する。例えば、オリゴアミド/ポリアミドは、少なくとも1つのジカルボン酸(A-A型モノマー)と少なくとも1つのジアミン(B-B型モノマー)との反応から、または少なくとも1つのラクタム(A-B型モノマー)の反応から生じ得る。
【0045】
一実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーである。
【0046】
以下では、ポリアミドという用語は、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーと同義に使用される。
【0047】
以下でポリアミドが架橋剤と呼ばれる場合、この用語は、本発明による方法における反応中に形成された(例えば、アミド基の加水分解開裂から、PAEKのケト基と反応することができるアミン基を形成することによる)低分子量の生成物を、これらがPAEKを架橋することができるという限りにおいて含む。この点で、ポリアリールエーテルケトンと架橋剤とからの混合物を調製するために使用されるポリアミドも、それらからの任意のアミン基含有オリゴマーおよびジアミンモノマーも架橋剤として用いることができる。
【0048】
以下では、ポリアミドという用語に、ホモアミドおよびコポリアミドがまとめられる。本発明の文脈では、ポリアミドを指定するために、PAの文字の後に数字および文字が続く慣例的な略語が部分的に使用される。これらの略語の一部は、DIN EN ISO 1043-1に定義されている。H2N-(CH2z-COOH型のアミノカルボン酸または対応するラクタムから誘導され得るポリアミドは、PAZと示され、Zはモノマー中の炭素原子の数を表す。例えば、PA6はε-カプロラクタムまたはε-アミノカプロン酸のポリマーを表す。H2N-(CH2x-NH2型およびHOOC-(CH2y-COOH型のジアミンおよびジカルボン酸から誘導され得るポリアミドは、PAxyと示され、xはジアミン中の炭素原子の数、yはジカルボン酸中の炭素原子の数を指す。コポリアミドを指定するために、成分は、その割合の順にスラッシュで区切られて列挙される。例えば、PA66/610は、ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸およびセバシン酸のコポリアミドである。本発明に従って使用される芳香族または環式脂肪族基を有するモノマーには、以下の文字略語が使用される:T=テレフタル酸、I=イソフタル酸、MXDA=m-キシリレンジアミン、IPDA=イソホロンジアミン、PACM=4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、MACM=2,2’-ジメチル-4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)。
【0049】
ポリアミドは、その製造に使用されるモノマーによって説明することができる。ポリアミド形成モノマーは、ポリアミドの形成に適したモノマーである。
【0050】
好ましい実施形態では、架橋剤は、少なくとも2つのアミド基を有するオリゴマー/ポリマーを含有し、オリゴマー/ポリマーは、
A)非置換のまたは置換された芳香族ジカルボン酸および非置換のまたは置換された芳香族ジカルボン酸の誘導体、
B)非置換のまたは置換された芳香族ジアミン、
C)脂肪族または環式脂肪族ジカルボン酸、
D)脂肪族または環式脂肪族ジアミン、
E)モノカルボン酸、
F)モノアミン、
G)少なくとも3価のアミン、
H)ラクタム、
I)ω-アミノ酸ならびに
K)A)~I)とは異なる、それと共縮合可能な化合物、およびそれらの混合物
の中から選択される共重合形態のポリアミド形成モノマーを含有するが、
ただし、成分A)またはC)の少なくとも1つと、成分B)またはD)の少なくとも1つとが存在しなければならない。
【0051】
本発明の好ましい実施形態では、架橋剤として半芳香族ポリアミドが使用される。このために、成分A)またはB)の少なくとも1つと、成分C)またはD)の少なくとも1つとが存在しなければならないという条件が適用される。具体的な実施形態では、少なくとも1つの成分A)と少なくとも1つの成分D)とが存在しなければならないという条件が適用される。
【0052】
芳香族ジカルボン酸A)は、好ましくは、それぞれ非置換のまたは置換されたフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはジフェニルジカルボン酸ならびに前述の芳香族ジカルボン酸の誘導体および混合物の中から選択される。置換された芳香族ジカルボン酸A)は、有利には、少なくとも1つのC1~C4アルキル残基を有する。特に好ましくは、置換された芳香族ジカルボン酸A)は、1つまたは2つのC1~C4アルキル残基を有する。これらは、有利には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチルおよびtert-ブチル、特に好ましくはメチル、エチルおよびn-ブチル、特に非常に好ましくはメチルおよびエチル、殊にメチルの中から選択される。置換された芳香族ジカルボン酸A)は、アミド化を妨げない更なる官能基、例えば、5-スルホイソフタル酸、その塩および誘導体を有していてもよい。これらの中でも、5-スルホイソフタル酸ジメチルエステルのナトリウム塩が好ましい。好ましくは、芳香族ジカルボン酸A)は、非置換のテレフタル酸、非置換のイソフタル酸、非置換のナフタレンジカルボン酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸および5-スルホイソフタル酸の中から選択される。特に好ましくは、芳香族ジカルボン酸A)として、テレフタル酸、イソフタル酸またはテレフタル酸とイソフタル酸とからの混合物が使用される。
【0053】
芳香族ジアミンB)は、好ましくは、ビス-(4-アミノフェニル)メタン、3-メチルベンジジン、2,2-ビス-(4-アミノフェニル)プロパン、1,1-ビス-(4-アミノフェニル)シクロヘキサン、1,2-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノベンゼン、1,4-ジアミノナフタレン、1,5-ジアミノナフタレン、1,3-ジアミノトルエン、m-キシリレンジアミン、N,N’-ジメチル-4,4’-ビフェニルジアミン、ビス-(4-メチルアミノフェニル)メタン、2,2-ビス-(4-メチルアミノフェニル)プロパンまたはそれらの混合物の中から選択される。特に好ましくは、芳香族ジアミンとしてm-キシリレンジアミンが使用される。
【0054】
脂肪族または環式脂肪族ジカルボン酸C)は、有利には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、コルク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン-1,11-ジカルボン酸、ドデカン-1,12-ジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸またはイタコン酸、シス-およびトランス-シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロヘキサン-1,4-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロペンタン-1,2-ジカルボン酸、シス-およびトランス-シクロペンタン-1,3-ジカルボン酸およびそれらの混合物の中から選択される。
【0055】
脂肪族または環式脂肪族ジアミンD)は、有利には、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、2-メチル-1,8-オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、5-メチルノナンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、5-アミノ-2,2,4-トリメチル-1-シクロペンタンメチルアミン、5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(イソホロンジアミン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、[3-(アミノメチル)-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル]メタナミン、アミノ化二量体脂肪酸およびそれらの混合物の中から選択される。
【0056】
特に好ましくは、ジアミンD)は、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタンおよびそれらの混合物の中から選択される。本発明の好ましい実施形態では、水溶液は、ヘキサメチレンジアミン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン(PACM)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン(MACM)、イソホロンジアミン(IPDA)およびそれらの混合物の中から選択される少なくとも1つのジアミンD)を含有する。
【0057】
モノカルボン酸E)は、本発明に従って使用されるポリアミドオリゴマーの最終的なキャッピングに用いられる。原則として、ポリアミド縮合の反応条件下で、利用可能なアミノ基の少なくとも一部と反応することができる全てのモノカルボン酸が適している。適切なモノカルボン酸E)は、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸および芳香族モノカルボン酸である。これらに数えられるのは、酢酸、プロピオン酸、n-酪酸、イソ酪酸またはtert-酪酸、吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバル酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、メチル安息香酸、1-ナフタレンカルボン酸、2-ナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、ダイズ、アマニ、トウゴマおよびヒマワリ由来の脂肪酸、アクリル酸、メタクリル酸、第三級飽和モノカルボン酸(例えば、Royal Dutch Shell plc社製Versatic(登録商標)酸)およびそれらの混合物である。
【0058】
モノカルボン酸E)として不飽和カルボン酸またはその誘導体が使用される場合、市販の重合禁止剤を水溶液に添加することが有用であり得る。特に好ましくは、モノカルボン酸E)は、酢酸、プロピオン酸、安息香酸およびそれらの混合物の中から選択される。特に非常に好ましい実施形態では、水溶液は、モノカルボン酸E)として酢酸のみを含有する。更なる特に非常に好ましい実施形態では、水溶液は、モノカルボン酸E)としてプロピオン酸のみを含有する。更なる特に非常に好ましい実施形態では、水溶液は、モノカルボン酸E)として安息香酸のみを含有する。
【0059】
モノアミンF)は、本発明に従って使用されるポリアミドオリゴマーの最終的なキャッピングに用いられる。原則として、ポリアミド縮合の反応条件下で、利用可能なカルボン酸基の少なくとも一部と反応することができる全てのモノアミンが適している。適切なモノアミンF)は、脂肪族モノアミン、脂環式モノアミンおよび芳香族モノアミンである。これらに数えられるのは、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミンおよびそれらの混合物である。
【0060】
適切な少なくとも3価のアミンG)は、N’-(6-アミノヘキシル)ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-(12-アミノドデシル)ドデカン-1,12-ジアミン、N’-(6-アミノヘキシル)ドデカン-1,12-ジアミン、N’-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチル-シクロヘキシル]ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチル-シクロヘキシル]ドデカン-1,12-ジアミン、N’-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチル-シクロヘキシル)メチル]ヘキサン-1,6-ジアミン、N’-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチル-シクロヘキシル)メチル]ドデカン-1,12-ジアミン、3-[[[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチル-シクロヘキシル]アミノ]メチル]-3,5,5-トリメチル-シクロヘキサナミン、3-[[(5-アミノ-1,3,3-トリメチル-シクロヘキシル)メチルアミノ]メチル]-3,5,5-トリメチル-シクロヘキサナミン、3-(アミノメチル)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチル-シクロヘキシル]-3,5,5-トリメチル-シクロヘキサナミンの中から選択される。好ましくは、少なくとも3価のアミンG)は使用されない。
【0061】
適切なラクタムH)は、ε-カプロラクタム、2-ピペリドン(δ-バレロラクタム)、2-ピロリドン(γ-ブチロラクタム)、カプリルラクタム、エナントラクタム、ラウリルラクタムおよびそれらの混合物である。
【0062】
適切なω-アミノ酸I)は、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸およびそれらの混合物である。
【0063】
A)~I)とは異なる、それと共縮合可能である適切な化合物K)は、少なくとも3価のカルボン酸、ジアミノカルボン酸などである。適切な化合物K)は、さらに、4-[(Z)-N-(6-アミノヘキシル)-C-ヒドロキシ-カルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-(6-アミノヘキシル)-C-ヒドロキシ-カルボンイミドイル]安息香酸、(6Z)-6-(6-アミノヘキシルイミノ)-6-ヒドロキシ-ヘキサンカルボン酸、4-[(Z)-N-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチル-シクロヘキシル)メチル]-C-ヒドロキシ-カルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-[(5-アミノ-1,3,3-トリメチル-シクロヘキシル)メチル]-C-ヒドロキシ-カルボンイミドイル]安息香酸、4-[(Z)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチル-シクロヘキシル]-C-ヒドロキシ-カルボンイミドイル]安息香酸、3-[(Z)-N-[3-(アミノメチル)-3,5,5-トリメチル-シクロヘキシル]-C-ヒドロキシ-カルボンイミドイル]安息香酸およびそれらの混合物である。
【0064】
本発明の更なる好ましい実施形態では、架橋剤として半芳香族または脂肪族ポリアミドが使用される。この場合、好ましくは、ポリアミドは、PA4.T、PA5.T、PA6.T、PA9.T、PA8.T、PA10.T、PA12.T、PA6.I、PA8.I、PA9.I、PA10.I、PA12.I、PA6.T/6、PA6.T/10、PA6.T/12、PA6.T/6.I、PA6.T/8.T、PA6.T/9.T、PA6.T/10.T、PA6.T/12.T、PA12.T/6.T、PA6.T/6.I/6、PA6.T/6.1/12、PA6.T/6.I/6.10、PA6.T/6.I/6.12、PA6.T/6.6、PA6.T/6.10、PA6.T/6.12、PA10.T/6、PA10.T/11、PA10.T/12、PA8.T/6.T、PA8.T/66、PA8.T/8.I、PA8.T/8.6、PA8.T/6.I、PA10.T/6.T、PA10.T/6.6、PA10.T/10.I、PA10.T/10.I/6.T、PA10.T/6.I、PA4.T/4.I/46、PA4.T/4.I/6.6、PA5.T/5.I、PA5.T/5.I/5.6、PA5.T/5.I/6.6、PA6.T/6.I/6.6、PA MXDA.6、PA6.T/IPDA.T、PA6.T/MACM.T、PA6.T/PACM.T、PA6.T/MXDA.T、PA6.T/6.I/8.T/8.I、PA6.T/6.1/10.T/10.1、PA6.T/6.I/IPDA.T/IPDA.I、PA6.T/6.I/MXDA.T/MXDA.I、PA6.T/6.I/MACM.T/MACM.I、PA6.T/6.I/PACM.T/PACM.I、PA6.T/10.T/IPDA.T、PA6.T/12.T/IPDA.T、PA6.T/10.T/PACM.T、PA6.T/12.T/PACM.T、PA10.T/IPDA.T、PA12.T/IPDA.T、PA4.6、PA6.6、PA6.12、PA6.10ならびにそれらのコポリマーおよび混合物の中から選択される。この場合、特に好ましくは、ポリアミドは、PA4.T、PA5.T、PA6.T、PA9.T、PA10.T、PA12.T、PA6.I、PA9.I、PA10.I、PA12.I、PA6.T/6.I、PA6.T/6、PA6.T/8.T、PA6.T/10.T、PA10.T/6.T、PA6.T/12.T、PA12.T/6.T、PA IPDA.I、PA IPDA.T、PA6.T/IPDA.T、PA6.T/6.I/IPDA.T/IPDA.I、PA6.T/10.T/IPDA.T、PA6.T/12.T/IPDA.T、PA6.T/10.T/PACM.T、PA6.T/12.T/PACM.T、PA10.T/IPDA.T、PA12.T/IPDA.Tならびにそれらのコポリマーおよび混合物の中から選択される。
【0065】
更なる好ましい構成は、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物の中から選択される少なくとも1つのアミンを組み込んで含有するオリゴアミド/ポリアミドa)である。適切な飽和脂環式ジアミンおよびポリアミンは、以下では架橋剤b)として記載されており、これが本明細書で全面的に参照される。具体的な実施形態は、少なくとも1つのアミノ化二量体脂肪酸を組み込んで含有するオリゴアミド/ポリアミドa)である。さらに具体的な実施形態は、化合物
【化1】
を組み込んで含有するオリゴアミド/ポリアミドa)である。
【0066】
更なる好ましい構成では、オリゴマー/ポリマーa)は、少なくとも2つのイミド基を有する。これらに数えられるのは、例えば、ポリアミドイミド(PAI)および熱可塑性ポリイミド(TPI)の中から選択されるポリイミドである。
【0067】
第2の好ましい実施形態では、架橋剤は、a)とは異なる、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物b)の中から選択される。適切な飽和脂環式ジアミンおよびポリアミンは1つ以上の非芳香族環を有し、環原子は炭素原子のみであり、環系は脂肪族構造を有している。好ましくは、架橋剤b)は、少なくとも1つの飽和脂環式ジアミンを含むか、または飽和脂環式ジアミンからなる。好ましい飽和脂環式ジアミンは、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサンおよび1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、5-アミノ-2,2,4-トリメチル-1-シクロペンタンメチルアミン、5-アミノ-1,3,3-トリメチルシクロヘキサンメチルアミン(イソホロンジアミン)、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン、[3-(アミノメチル)-2-ビシクロ[2.2.1]ヘプタニル]メタナミン、アミノ化二量体脂肪酸およびそれらの混合物の中から選択される。
【0068】
好ましい実施形態では、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物b)は、液体として存在する。したがって、それらを、本発明による方法のステップii)において、具体的には溶融混合の間、内部溶媒として用いることができる。好ましくは、飽和脂環式オリゴマーは、アミノ化脂肪酸二量体である。
【0069】
本明細書で使用される「脂肪酸二量体」という用語は、2つもしくは3つ以上の一価または多価不飽和脂肪酸の反応の二量体化生成物を指す。このような脂肪酸二量体は先行技術でよく知られており、典型的には混合物として存在する。
【0070】
アミノ化二量体脂肪酸(アミノ化二量体化脂肪酸または二量体酸とも呼ばれる)とは、不飽和脂肪酸のオリゴマー化によって製造される混合物を表す。不飽和C12~C22脂肪酸を出発材料として使用することができる。二量体脂肪酸を製造するために使用されるC12~C22脂肪酸の二重結合の数および位置に応じて、二量体脂肪酸のアミン基は、主に24~44個の炭素原子を有する炭化水素残基によって互いに結合されている。これらの炭化水素残基は、分岐していなくても分岐していてもよく、二重結合、C6環式脂肪族炭化水素残基またはC6芳香族炭化水素残基を有していてもよく、環式脂肪族残基および/または芳香族残基は、縮合形態で存在してもよい。有利には、二量体脂肪酸のアミン基を結合する残基は、芳香族炭化水素残基を有せず、特に非常に好ましくは不飽和結合を有しない。特に好ましいのは、C18脂肪酸の二量体、すなわち36個のC原子を有する脂肪酸二量体である。これらは、例えば、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸ならびにそれらの混合物の二量体化によって得られる。二量体化に続いて、場合により、水素化、続けてアミノ化が行われる。
【0071】
特定の実施形態では、飽和脂環式オリゴマーは、
【化2】
である。
【0072】
更なる好ましい実施形態では、少なくとも1つの架橋剤は、少なくとも1つのアミド基を有するポリマーa)と、少なくとも2つの第一級アミノ基を有する飽和脂環式化合物b)とを含む混合物である。
【0073】
2つ以上の架橋剤の混合物を使用することも可能である。
【0074】
本発明による方法は、ポリアリールエーテルケトンのポリマー鎖が互いに共有結合および分子間結合する架橋反応に関する。
【0075】
ステップ(i)
ステップ(i)では、ポリアリールエーテルケトンと架橋剤とを含有する混合物が調製される。ステップ(i)で調製される混合物は、通常のコンパウンド化法によって製造することができる。ステップ(i)では、好ましくは、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン、少なくとも1つの架橋剤、場合により充填剤および補強剤、ならびに場合によりそれらとは異なる少なくとも1つの更なる添加剤が、溶融混合または乾式混合(コンパウンド化)に供される。
【0076】
溶融物の混合または溶融混合では、ポリマーをその融解温度を超えて加熱し、圧延、混練または押出成形によって集中的に混合する。この場合、ステップ(i)の温度は、好ましくは、混合物が容易に加工可能であり、コンパウンド化に適した粘度を有するように設定される。さらに、ステップ(i)の温度は、好ましくは、ポリアリールエーテルケトンと架橋剤との間で実質的な反応がまだ起こらないように設定される。ここで有利なのは、ポリアリールエーテルケトンと本発明に従って記載される架橋剤とのアミン架橋が、より高い温度で初めて開始することである。先行技術に記載されているような、ポリアリールエーテルケトンへの架橋剤の事前の共有結合は、本発明による方法では必要でない。
【0077】
一実施形態では、ステップi)において、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン、少なくとも1つの架橋剤、場合により充填剤および補強剤、ならびに場合によりそれらとは異なる少なくとも1つの更なる添加剤が、押出機に供給され、可塑化状態で混合され、場合により粒状化される。
【0078】
更なる実施形態では、ステップi)において、好ましくは、少なくとも1つのポリアリールエーテルケトン、少なくとも1つの架橋剤、場合により少なくとも1つの充填剤および補強剤、ならびに場合によりそれらとは異なる少なくとも1つの更なる添加剤が、乾式混合に供される。上記の成分は、任意の既知の乾式混合技術により混合することができる。ポリアリールエーテルケトン、少なくとも1つの架橋剤、場合により充填剤および補強剤、ならびに場合によりそれとは異なる少なくとも1つの更なる添加剤からの乾燥混合物(乾燥ブレンド)が得られる。
【0079】
混合物の製造時に、ポリマー中の架橋剤の均一な分布を達成するために、撹拌装置または混練装置などの適切な手段によって集中的な混合が行われる。これは、安定性に関して均一な材料特性を得るために非常に重要である。好ましくは、架橋可能な混合物は、製造後、組成を変化させる更なる中間ステップなしに、ステップ(ii)でさらに加工される。
【0080】
混合(コンパウンド化)時に、中間生成物、例えば造粒物を得ることができる。これらの中間生成物は、80℃未満、有利には50℃未満、具体的には周囲温度以下の領域の温度で長期間安定であり、例えば、中間貯蔵し、かつ/または別の場所に輸送し、さらに加工することができる。
【0081】
本発明の特に好ましい実施形態では、混合物は溶媒を含有しない。具体的には、混合物には外部溶媒が添加されない。本発明によれば、驚くべきことに、PAEKと架橋剤との混合物は、溶媒を使用せずに加工することができ、完全混和が行われることが見出された。
【0082】
好ましくは、混合物は、それが液体または流動性(可塑性)形態で存在する温度まで加熱される。均質な混合物を得るために、この場合、著しい架橋が起こらないように温度と滞留時間とを選択することが好ましい。
【0083】
好ましい実施形態では、ステップi)における混合物の製造のために、架橋剤はPAEKに連続的に加えられる。成分は、液体または固体の形態で存在することができる。このようにして、特に均一な混合物を得ることができる。架橋剤の添加は、好ましくは、例えば、撹拌、混練、圧延および/または押出成形によって行われて完全混和される。好ましい実施形態では、架橋剤は、濃縮物の形態で、例えば、オリゴマー/ポリマー成分中のマスターバッチとして供給される。これは、架橋剤をより良好に計量供給することができ、それによって混合物の均一性を改善することができるという利点を有する。全体として、架橋剤の連続添加により、特に均質な混合物を得ることができ、そうして特に規則的な架橋が達成される。その結果、不均質性をもたらし、熱的または機械的な負荷がかかる場合に製品に損傷を与える可能性がある異なる架橋度の領域が生じることを回避できる。このようにして、温度安定性および機械的安定性に関して特に良好な特性を達成することができる。
【0084】
ステップ(ii)
ステップ(ii)では、混合物から成形品が製造される。成形品を製造するステップ(ii)は、混合物を、硬化した架橋状態で保持される三次元形状にもたらすあらゆる手段を含む。有利には、成形品の製造は、熱可塑性樹脂に対して通常行われる形状付与法によって行われる。好ましくは、成形品の製造は、架橋前および/または架橋中に行われる。ステップii)で使用される混合物が既に少量の架橋生成物を含有していても、通常、重要ではない。特に好ましくは、ステップ(iii)の前に形状付与が行われる。なぜなら、混合物は、有利には、殊に熱間プレス、押出成形、射出成形および/または付加製造法によって、架橋前に熱可塑的に加工可能および成形可能だからである。
【0085】
ステップi)において成分の混合が乾式混合によって行われる場合、ステップii)において、乾燥混合物は溶融され、上記のように形状付与ステップに供される。
【0086】
一実施形態では、ステップi)とii)とは、別々に連続して実行される。別の実施形態では、ステップi)とii)とは、同時に実行される。
【0087】
好ましい実施形態では、成形品の製造は、ステップ(ii)において、熱可塑性成形によって行われる。これは、混合物が非架橋状態および/または少なくとも著しく架橋していない状態で溶融物から成形され得ることを意味し、さもなければ熱可塑的な加工はもはや不可能になるからである。架橋部位が多く存在しすぎると、PAEK中間生成はもはや流動性ではなくなり、容易に熱可塑的に成形可能ではなくなる。混合物は、形状付与前に短時間だけ高い加工温度にさらす必要がある。したがって、熱可塑的な加工は、好ましくは、装置内での混合物の滞留時間ができるだけ短くなるように実施される。ここで好ましいのは、加工が、架橋反応の本質的な部分が成形後に初めて、すなわちステップ(iii)で行われるように実施されることである。
【0088】
好ましい実施形態では、混合物は、ステップ(ii)において、押出成形、熱間プレス、射出成形および/または付加製造によって加工され、それによって原型が形成される。必要に応じて、原型が形成された混合物は、ステップ(iii)の前に再形成してもよい。これらの方法は、熱可塑性ポリマー組成物の簡単かつ効率的な加工に特に適している。
【0089】
この場合、押出成形は、既知の方法に従って行うことができる。押出成形(Extrusion)時に、固体~粘稠性のある硬化可能な塊状物は、圧力下で形状付与開口部(ノズル、ダイまたはマウスピースとも呼ばれる)から連続的に押し出される。それによって、理論上任意の長さの、押出物と呼ばれる開口部の断面を有するボディが生じる。熱間プレスは、予め加熱されたキャビティに成形材料を導入する方法である。続けて、圧力ピストンを使ってキャビティが閉じられる。この圧力によって、成形材料はツールにより規定された形状になる。
【0090】
射出成形(インジェクションモールディングまたはインジェクションモールディング法と呼ばれることもある)は、合成樹脂加工に使用される形状付与法である。この場合、射出成形機で合成樹脂が可塑化され、射出成形ツールである金型に圧力をかけて射出する。ツールの中で、材料は冷却によって再び固体状態に戻り、ツールを開いた後に成形品として取り出される。ツールの空洞(キャビティ)は、製品の形状および表面構造を決定する。
【0091】
成形品を製造するための更なる方法は、例えば、熱溶解積層法(FDM)、選択的レーザー焼結(SLS)などの付加製造法、およびガイドラインVDI3405に記載されている他の全ての方法である。
【0092】
押出成形とそれに続く射出成形とによる加工が特に好ましい。PAEKと架橋剤とからの混合物は、それがまだ液体形態で存在していない場合、これらの方法で溶融される。混合物は、ステップ(ii)において、有利には、押出機、射出成形機または熱間プレスに導入され、高温、例えば450℃までで溶融され、所望の形状にもたらされる。
【0093】
ステップ(iii)
ステップ(iii)は、PAEKが架橋される温度で成形品を熱処理することを含み、それによって架橋成形品が得られる。この結果、PAEKを架橋剤で分子間架橋することができる。この場合、架橋剤として使用されるポリアミドは、加水分解され、オリゴマー/ジアミン成分に開裂される。架橋時に、PAEK鎖の2つのケト基と架橋剤の遊離ジアミンの2つのアミノ基との間で2つのイミン結合が形成される。イミンの形態で生じるブリッジは、イミン窒素が水素原子を持たず、有機分子に結合していることから、シッフ塩基とも呼ばれる。架橋はできるだけ完全に、使用される架橋剤のできるだけ全てのアミノ基がPAEKのカルボニル基と反応するように行われる。完全な架橋の利点は、熱抵抗(Waermeformbestaendigkeit)の向上とガラス転移温度を超える剛性(弾性率)の向上とである。とはいえ、部分的にすぎない架橋も、「架橋」という用語に含まれるべきである。全てのPAEK鎖をネットワークに完全に統合するのに十分な架橋剤が使用されなかった場合、部分的にすぎない架橋が存在する可能性がある。この場合、材料は、通常、完全に架橋された材料よりも高い破断伸度を有する。イミン結合は成形品に高い安定性を付与する。本発明によれば、成形品は、好ましくはPAEKに基づく成形品である。なお、「PAEKに基づく」とは、PAEKが成形品の本質的な構造付与ポリマー成分であることを意味する。一実施形態では、PAEKが成形品の唯一のポリマー成分であることが好ましい。
【0094】
本発明に従って使用可能な架橋剤は比較的高い融点および沸点を有することから、ステップ(iii)における温度は比較的高く設定することができる。かかる架橋反応は一般に高温で促進されるので、このことは有利である。しかしながら、有利には、この温度は、PAEKの融解領域を下回っており、まだ完全に架橋されていない成形品の軟化点を下回っている。
【0095】
驚くべきことに、本発明によるシステムでは、架橋反応は既にポリマーおよび成形品の融解領域を下回って起こることが判明した。一般に、架橋反応はポリマーおよび成形品の融解領域を超える温度で初めて起こると考えられていることから、これは予想外であった。
【0096】
しかしながら、本発明によれば、ステップ(iii)における成形品の加熱が、有利には少なくとも1分、例えば6時間~30日間の期間にわたって行われる場合、架橋PAEKは特に有利な特性を有し得ることが見出された。かかる熱処理によって、熱安定性および機械的安定性が実質的に改善され得ることが見出された。架橋は、コーティングの場合、PAEKの融解温度よりかなり高い温度で実施することができ、それによって非常に短い反応時間で十分である。また、PAEKの融解領域を超えてもその形状を保持する、繊維および/またはフィラー含有量が高い混合物からの固体成形品の場合、対応する高い架橋温度によって、架橋時間を著しく短縮することができる。後加熱中に変形する可能性がある、より脆性の成形品の場合、後加熱温度は、成形品が材料の融解温度をさらに一層下回るように選択しなければならず、その結果、後加熱時間が最大30日間と大幅に長くなることがある。
【0097】
殊に、熱処理によって高温でのサンプルの剛性を改善できることが見出された。ある一定の期間の熱処理により剛性を大幅に改善することができ、続けて飽和が起こり得、そのため、更なる熱的な後処理では剛性が改善されないか、僅かにしか改善されないことが観察された。しかしながら、更なる熱的な後処理では、通常、熱抵抗が改善される。熱抵抗は、より長い熱的な後処理によっても上昇し得、そのため、数日後でも依然として有意な改善が観察され得ることが見出された。
【0098】
好ましくは、ステップ(iii)における熱処理は、酸素を排除して行われる。
【0099】
成形品は、架橋後に冷却され、その使用に供給され得るか、またはさらに加工され得る。
【0100】
所望される場合、成形品は、ステップiii)における熱処理中および/または熱処理後に、酸素含有ガスの存在下で処理に供することができる。したがって、架橋PAEKの表面硬化は、架橋材料の適切な酸化によって行うことができる。このために、保護ガス雰囲気中で実施される架橋ステップの後に、例えば、成形品を空気中で後加熱に供することができる。代替的にまたは追加的に、ある一定量の酸素を後架橋ステップiii)の間に計量供給することができる。
【0101】
上記のように、ステップ(i)における混合物も成形品も、充填剤および補強剤ならびに/または場合によりそれらとは異なる添加剤を含有することができる。この場合、架橋PAEKは、場合により存在する充填剤および補強剤ならびに/または添加剤が均一に分散されたマトリックスを形成する。
【0102】
適切な充填剤および補強剤は、ガラス繊維、例えば、ガラス織物、ガラスマット、ガラス不織布、ガラスシルクロービングまたはカットガラスシルク、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、石英粉末、窒化ケイ素および窒化ホウ素、非晶質シリカ、アスベスト、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、カオリン、マイカ、長石、タルクおよびそれらの混合物の形態の中から選択される。
【0103】
適切な添加剤は、酸化防止剤、UV安定剤および熱安定剤、滑剤および離型剤、染料および顔料などの着色剤、核形成剤、可塑剤およびそれらの混合物の中から選択される。
【0104】
例えば、充填剤および補強剤は、成形品を製造するために使用される成分の総重量を基準として、最大80重量%、例えば0.1重量%~80重量%、具体的には1重量%~60重量%の量で使用することができる。
【0105】
例えば、添加剤は、成形品を製造するために使用される成分の総重量を基準として、それぞれ最大30重量%の量、例えば0.1重量%~20重量%の量で使用することができる。
【0106】
本発明の対象はまた、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)に基づく、PAEKからの架橋マトリックスを有する成形品であって、PAEKは、上記で定義したようなジアミン源で架橋されている、成形品である。殊に、本発明の対象は、本発明による方法に従って得られる成形品である。
【0107】
殊に、成形品は、本発明の文脈で説明される本発明による方法によって得られる。成形品は、好ましくは、架橋PAEKについて本発明の文脈で説明される有利な特性を有する。成形品という用語は、本発明の文脈では、定義された三次元形状を有する架橋PAEKからの製品を指す。この場合、成形品が定義された物体である必要はなく、例えば、コーティングであってもよい。成形品は、例えば複合材料または積層体として、架橋PAEKからなるか、または架橋PAEKを含有してもよい。
【0108】
架橋が増加するにつれて材料の破断伸度が低下し得るため、成形品中のポリマーを完全には架橋させないことが望ましい場合がある。したがって、架橋度は、好ましくは、例えば、架橋剤の割合ならびに熱処理の種類および時間を介して、所望の用途に照らして設定される。
【0109】
架橋度は、好ましくは直接測定されないが、成形品が所望の特性を有するかどうかは、例えば高温引張試験および動的弾性率の測定などの適切な試験方法によって確かめられる。
【0110】
成形品は、殊に、高い耐熱性および機械的安定性、殊に高い剛性が要求される技術分野で使用可能である。成形品は、殊に、電気または化学用途のシール物品、殊にシールリングおよびOリング、ブシュ、ベアリング、バックアップリング、弁、スラストワッシャ、スナップフック、パイプもしくはワイヤ、ケーブル、被覆体およびシース、ケーシングまたはそれらの構成要素としての用途に適している。成形品は、殊に、高い耐化学薬品性および耐研磨性が要求される使用に適している。これは、殊に、食品・包装産業および医療技術、石油・ガス搬送、航空宇宙技術および化学産業、ならびに安全性関連部品の製造、エネルギー生産分野および自動車産業での用途に適用される。同じく考えられる用途は、架橋により良好な絶縁性が得られることから、エレクトロニクス分野のコネクタおよび絶縁体である。本発明の対象はまた、本発明による成形品からなるか、またはそれを含有するシール物品である。このシール物品は、静的または動的用途に使用可能であり、殊に、高い機械的負荷にさらされる動的用途に使用可能である。殊に、シール物品は、潤滑剤などの流体と接触し、高温、例えば150℃超、殊に180℃から分解までの領域にさらされるシール用途に適している。
【0111】
本発明による方法、成形品およびシール物品は、本発明の基礎をなす課題を解決する。それらは、良好な加工性と組み合わせて、高い耐熱性と高い機械的安定性とを有する。殊に、成形品は、高いガラス転移温度と高い剛性とを有する。高い剛性は、高温でのクリープ挙動の低減を伴う。改善された耐熱性は、最高温度と連続使用温度との両方で、殊に150℃から分解までの領域において顕著である。成形品は、高温領域ではゴム弾性の有利な挙動を示す。この場合、製品は、材料が架橋により融解せず、肉厚が薄くても可燃材料が垂れ落ちないことから、非常に良好な耐化学薬品性と可燃性の低下とを示す。
【0112】
さらに、本発明による成形品は、熱可塑性形状付与法によって、簡単かつ効率的に製造することができる。例えば、製造は、単純な押出成形によって行うことができる。本方法はさらに、使用される架橋剤が比較的高い沸点を有し、あまり揮発しないことから、環境に優しく、ユーザーを危険にさらすことなく実施可能である。
【0113】
本発明は、以下の実施例を参照して説明されるが、しかし、具体的に説明された実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1】本発明による成形品の温度上昇に伴う複素動的弾性率の変化を、同様の分野で使用される様々な参照材料と比較して示す図であり、参照材料として、商標KetaspireのPEEK(1)、Gharda Plastics社製PEK(2)、商標TorlonのPAI(3)、商標DexnylのTPI(4)などの市販の熱可塑性樹脂を用い、さらに、国際公開第2020/030599号に記載されているように、熱的な後処理によって架橋された、1.05%DAPIで架橋されたPEEKを参照として示し(5)、本発明による成形品として、商標KetaspireのPEEKを1%および6%のPA4.Tで修飾し架橋したサンプル(6および7)、PA6.Tで修飾し架橋したサンプル(8)、およびPEEKを3%のアミノ化脂肪酸二量体で修飾し架橋したサンプル(9)を示し、全てのサンプルは、充填剤、補強剤またはその他の添加剤なしに製造した。
図2a】架橋PEEKおよび非架橋PEEKを含むサンプル片を示す図である。
図2b】硫酸中で2週間保存した後の架橋PEEKおよび非架橋PEEKを含むサンプル片を示す図である。
図3a】レオロジー試験に関する試験結果を示す図であり、サンプルのそれぞれの貯蔵弾性率G’(Pa単位)およびそれぞれの損失弾性率G’’(Pa単位)をY軸に対数的に示しており、試験時間(分単位)はX軸にプロットしている。
図3b】レオロジー試験に関する試験結果を示す図であり、サンプルのそれぞれの貯蔵弾性率G’(Pa単位)およびそれぞれの損失弾性率G’’(Pa単位)をY軸に対数的に示しており、試験時間(分単位)はX軸にプロットしている。
図3c】レオロジー試験に関する試験結果を示す図であり、サンプルのそれぞれの貯蔵弾性率G’(Pa単位)およびそれぞれの損失弾性率G’’(Pa単位)をY軸に対数的に示しており、試験時間(分単位)はX軸にプロットしている。
図3d】レオロジー試験に関する試験結果を示す図であり、サンプルのそれぞれの貯蔵弾性率G’(Pa単位)およびそれぞれの損失弾性率G’’(Pa単位)をY軸に対数的に示しており、試験時間(分単位)はX軸にプロットしている。
図3e】レオロジー試験に関する試験結果を示す図であり、サンプルのそれぞれの貯蔵弾性率G’(Pa単位)およびそれぞれの損失弾性率G’’(Pa単位)をY軸に対数的に示しており、試験時間(分単位)はX軸にプロットしている。
【0115】
出発材料:
PEEK Solvay社製KetaSpire PEEK
PEK Gharda社製PAEK 1200
PAI 商標TorlonのSolvay社製ポリアミドイミド
TPI 商標Dexnylのポリイミド
PPA1 PA4.T
PPA2 PA6.T
AA アミノ化脂肪酸二量体
DAPI 1-(4-アミノフェニル)-1,3,3-トリメチル-インダン-5-アミン(CAS番号54628-89-6)
【0116】
実施例1
PEEKに異なる量の架橋剤(第1表参照)を混合し、二軸コンパウンド機において、できるだけ低い融解温度と短い滞留時間とで混練した。ストランドを冷却し、続けて造粒した。得られた造粒物を続けて乾燥させ、射出成形機において、できるだけ優しい条件でサンプル片へと加工した。
【0117】
射出成形後、サンプル片をオーブンで後調質した。ISO規格527タイプ1Aの再加熱されたサンプルロッドから、45mm×4mm×2mmの寸法のDMAサンプル片を作製する。続けて、このサンプル片を、DMA温度掃引によって特性評価する(図1)。
【0118】
【0119】
動的機械分析(DMA)
動的機械分析(DMA)は、合成樹脂の物理的特性を測定するための熱的な方法である。温度勾配(温度掃引)は、測定された温度領域における動的弾性率の変化を示し、したがって剛性も示す。ここでは、ガラス転移領域(Tg)、Tgを超えるプラトーの高さ、結晶相が融解したときの弾性率の低下位置、高温領域でのプラトーの高さがとりわけ重要である。
【0120】
DMAは、上記の実施例による成形品を用いて実施した(第1表参照)。温度勾配は、サンプル片ストリップ(幅約4mm、厚さ約2mm、サンプルの長さ45mm、試験中のクランプ長さ約20mm)を用いて、以下の条件で測定した:加熱速度3K/分、接触力0.5N、歪み振幅+/-0.1%。結果は図1にグラフ表示されている。
【0121】
結果は、本発明に従って架橋されたPEEKが有利な熱的特性を有することを示している。本発明による全ての成形品は、非修飾PEEKと比べて、ガラス転移温度(Tg)が大幅に上昇している。アミノ化脂肪酸二量体で架橋されたPEEKは、PEEKと比べて最も高い上昇を示し、PPAで架橋されたPEEKサンプルは、アミノ化脂肪酸二量体で架橋されたPEEKとDAPIで架橋されたPEEKとの間のガラス転移領域を示す。
【0122】
ガラス転移領域と融解領域との間では、サンプルは、高温になるほど低下するプラトーの高さの増加を示し、結晶相の融解温度領域が大なり小なり顕著に増加する。この領域では、弾性率の高さは架橋性PPAの濃度に反比例する。
【0123】
さらに、結晶領域の融解領域より上にゴムプラトーが形成され、この材料で作られた成形品の分解領域に至るまでの塑性変形が防止される。これもまた、DAPIで架橋されたPEEKと比べて、本発明による成形品では大幅に増加し、そのため、全体としてさらに高い熱抵抗が得られる。
【0124】
この結果はまた、PPAだけでなく、アミノ化脂肪酸二量体をPEEKと組み合わせることで、ガラス転移領域の増加、弾性率の高さ、および熱抵抗の高さに関して、最適な製品特性を達成できることを示す。これにより、この材料から製造された製品の大幅に向上した使用条件を達成可能である。
【0125】
熱処理を延長することによって、熱特性をさらに著しく改善することができる。
【0126】
これにより、PAI、TPI、非架橋PEEK、さらにはDAPIで架橋されたPEEKと比べて、温度適用領域がさらに広げられる。
【0127】
実施例2
架橋密度を推定するために、濃硫酸中で膨潤試験を実施する。非架橋PEEKは濃硫酸に溶けるが、架橋PEEKは架橋密度に依存して大なり小なり膨潤する。サンプルの膨潤が少ないほど、架橋密度は高くなる。実験では、射出成形で製造された試験ロッドから約10×4×3mmの寸法のサンプルを切り出し、ガラスの中に置いた。各サンプルに20mlの濃硫酸を室温で加え、全体を室温条件で静置した。約1週間後、サンプルを手で数回軽く振り、2週間後に結果を評価した。
【0128】
サンプル:
1.PEEK+1.05%DAPI
2.6%PPAを含むPEEK(未調質)
3.1%PPAを含むPEEK(調質)
4.3%PPAを含むPEEK(調質)
5.6%PPAを含むPEEK(調質)
【0129】
結果は図2から読み取ることができる。
【0130】
1.左側のDAPIで架橋されたサンプルは、膨潤による大幅な体積増加を示しているが、可溶性ではない。
2.2番目の位置の熱的に後処理されなかった6%PPAを含むPEEKは完全に溶解しており、架橋がまだ行われていないことが分かる。
3.1%PPAを含む後調質されたPEEKは、明らかな膨潤を示している。
4.3%PPAと混合され、後調質されたPEEKは、硫酸中で2週間保存した後も僅かに膨潤するだけで、架橋密度がかなり高いことが分かる。
5.6%PPAと混合され、後調質されたPEEKは、ほとんど膨潤を示さず、架橋密度がかなり高いと結論付けられる。
【0131】
実施例3
動的機械分析および膨潤に加えて、Anton Paar社製レオメータータイプMCR-302で、異なる架橋剤を用いたPAEKの化学的後架橋を示すレオロジー試験を実施した。2つの参照材料と本発明による3つの材料(PEEK、1.05%DAPIを含むPEEK、6%PPAを含むPEEK、3%PPAを含むPEEK、および3%AAを含むPEEK)とを射出成形によって2mmの試験プレートに加工し、そこからレオメーターでの測定用に試験片を作り上げた。この材料ディスクをレオメーター内で同じ直径の平面平行なプレート間に接合し、測定ユニットを試験温度に加熱した。
【0132】
試験条件を第3表に示す。
【0133】
【0134】
試験結果を図3a~図3eに示す。3つのサンプルのそれぞれの貯蔵弾性率G’(Pa単位)およびそれぞれの損失弾性率G’’(Pa単位)をY軸に対数的に示している。試験時間(分単位)はX軸にプロットしている。
【0135】
貯蔵弾性率G’は、せん断時に材料によって蓄えられる機械的エネルギーの尺度である。損失弾性率G’’は、せん断実験中に材料によって散逸されるエネルギーを示す。液体は、せん断実験中に機械的エネルギーを蓄えることができない。したがって、その貯蔵弾性率はほぼゼロである。粘弾性物質の場合、エネルギーの一部が蓄えられ、別の部分は散逸する。固体の場合、通常、貯蔵弾性率G’は損失弾性率G’’よりもはるかに大きい。
【0136】
図3aでは、PEEKの貯蔵弾性率G’が、平衡化のための慣らし段階の後、約250Paに落ち着く様子を見ることができる。損失弾性率G’’は約2830Paであり、その後の試験期間にわたって一定に保たれる。非架橋サンプルは、溶融状態では典型的な粘弾性流体のような挙動を示す。
【0137】
図3bにおける1.05%DAPIを含むPEEKからのサンプルを観察すると、貯蔵弾性率は損失弾性率よりも速く上昇し、15分後に2つの曲線が交差し、これはゲル化点を定義し、したがって固体状態への移行を表すことが見られる。
【0138】
図3cは、6%PPAを添加した後のPEEKの挙動を示している。この濃度では、早くも約12分後にゲル化点に達する。
【0139】
図3dに示すように、PEEKに3%のPPAを使用すると、サンプルが融解し始めてから約30分後に架橋が起こり、これは貯蔵弾性率の測定曲線と損失弾性率の測定曲線との交点から見ることができる。
【0140】
3%のアミノ化脂肪酸二量体を使用すると、融解後のサンプルの初期軟化後に貯蔵弾性率と損失弾性率との上昇が起こり、それから架橋が始まり、図3eの損失弾性率と貯蔵弾性率との交点から分かるように、同様に約30分後にゲル化点に達する。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図3c
図3d
図3e
【国際調査報告】