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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-24
(54)【発明の名称】3D印刷方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/124 20170101AFI20240117BHJP
   B29C 64/357 20170101ALI20240117BHJP
   B29C 64/35 20170101ALI20240117BHJP
【FI】
B29C64/124
B29C64/357
B29C64/35
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023543141
(86)(22)【出願日】2022-01-17
(85)【翻訳文提出日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 EP2022050843
(87)【国際公開番号】W WO2022157102
(87)【国際公開日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】21305063.6
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501305888
【氏名又は名称】ボスティク エス アー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ガーラ, パッツィ
(72)【発明者】
【氏名】カンポス ベリョスタス, ラウラ
(72)【発明者】
【氏名】ビセンス イ ロマゲラ, マリオナ
(72)【発明者】
【氏名】ファッギ, エンリコ
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA21
4F213AA44
4F213AB04
4F213AB06
4F213AR07
4F213AR11
4F213AR12
4F213WA25
4F213WA67
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WW34
(57)【要約】
本発明は、三次元印刷方法の分野に属する。本発明は、ポリシアノアクリレートで作られた三次元物品を印刷する方法に関する。また、本発明は、ポリシアノアクリレートで作られた三次元物品をリサイクルする方法にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)シアノアクリレート系モノマー、光開始系および酸性禁止剤を含み、タンク内に保持される、ある体積の液体樹脂提供する工程であって、前記タンクが少なくとも1つの光学的に透明な部分を含む、提供する工程;
b)重合ゾーンを画定する工程;
c)重合ゾーンで液体樹脂を選択的に重合させるために、光を放射および制御し、光を光学的に透明な部分を通して液体樹脂に伝送する工程;
d)重合させた樹脂で作られた三次元物品を得る工程;
e)余分な液体樹脂を除去するために、得られた三次元物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程;ならびに
f)任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程
を含む、三次元(3D)物品を印刷する方法。
【請求項2】
シアノアクリレート系モノマーが、単官能シアノアクリレートモノマー、二官能シアノアクリレートモノマーを包含する多官能シアノアクリレートモノマー、ハイブリッドシアノアクリレートモノマー、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の印刷方法。
【請求項3】
シアノアクリレート系モノマーが、単官能シアノアクリレートモノマーのみである;または、それに代えて、シアノアクリレート系モノマーが、多官能シアノアクリレートモノマー、ハイブリッドシアノアクリレートモノマー、またはそれらの混合物、および任意選択で単官能シアノアクリレートモノマーである、請求項1または2に記載の印刷方法。
【請求項4】
シアノアクリレート系モノマーが、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、n-プロピルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択され;好ましくは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項5】
液体樹脂が、追加の光重合可能なモノマー、好ましくは(メタ)アクリレートモノマーを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項6】
光開始剤系が、アニオン性または双性イオン性の光開始系である、請求項1から5のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項7】
アニオン性または双性イオン性の光開始系が、メタロセン化合物とラジカル光開始剤との組合せを含む、請求項6に記載の印刷方法。
【請求項8】
非求核性溶媒が、非塩基性溶媒、非イオン性溶媒(または溶液)、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項9】
非求核性リンス溶媒が、炭化水素溶媒および過フッ素化炭化水素溶媒、エーテル溶媒、アセテート溶媒、塩化炭化水素溶媒、極性非プロトン性溶媒、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項10】
三次元物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程が、10分間以下、好ましくは4分間以下、より好ましくは3分間以下、行われる、請求項1から9のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項11】
三次元物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程が、三次元物品を非求核性溶媒に15秒間以下浸漬することによって行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項12】
三次元物品を追加の光源に曝露する工程が、380nm~470nmの波長で行われる、請求項1から11のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項13】
三次元物品を追加の光源に曝露する工程が、60秒間以下、好ましくは1~30秒間、より好ましくは1~20秒間行われる、請求項1から12のいずれか一項に記載の印刷方法。
【請求項14】
単官能シアノアクリレートモノマーのみから得られるポリシアノアクリレートで作られた三次元物品をリサイクルする方法であって、三次元物品を溶解するのに十分な時間、三次元物品を溶解溶媒で処理する工程を含む、方法。
【請求項15】
三次元物品を溶解溶媒で処理する工程が、60分間以上、好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間行われる、請求項14に記載のリサイクル方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元(3D)印刷の分野に属する。本発明は、三次元物品を印刷する方法、そのシステム、その使用、およびそれにより製造される3D印刷物品に関する。本発明は、シアノアクリレートを含む液体樹脂の使用に依拠する。
【背景技術】
【0002】
三次元印刷-付加製造プロセスとしても公知である-は、三次元物品を印刷する方法である。このような物品は、感光性の粉末状、液体状または溶融した出発物質から得ることができる。特に、それらの物品は、室温で光重合可能なモノマーなどの樹脂から得ることができる。
【0003】
交互積層(layer-by-layer)の手法に基づく方法など、様々な方法が開発されてきた。
【0004】
交互積層の手法は、「トップダウン」で「点ごと(point-by-point)」の逐次処理法、例えば熱溶解積層方式(fused deposition modeling)、粉末焼結積層造形法(selective laser sintering)などにより実行することができる。
【0005】
あるいは、交互積層の手法は、例えば、デジタルライトプロジェクター、もしくは光源と組み合わせたLCDマスクを用いて、またはステレオリソグラフィ法によって、樹脂の層を光重合させる「ボトムアップ」で「一度にスライスする(slice at a time)」逐次処理法により実施することができる。好適な装置は、少なくとも、タンク、移動可能なプラットフォーム、および光源を備える。タンクの基部は、底壁を備えており、この底壁が光学的に透明であることによって、窓を形成する。その透明窓は、耐久性のある透明なプラスチックフィルムであってよい。タンク内の透明窓の上面は、非粘着性の表面であってよい。光源は、デジタルライトプロジェクター、LED光源、またはその他の適切な光源であってよい。LED光源が使用される場合、光源とタンクの基部との間にマスクを介在させてよい。この方法では、光源は、タンクの下方に配置され、透明窓を通して伝送される光を放射する。プラットフォームは、透明窓に対向する底の平坦な面を備えており、一般にX-Y水平面内に配置される。このプラットフォームは、タンク内に移動可能に取り付けられ、Z垂直軸に沿って上下に移動することができる。
【0006】
重合可能な液体樹脂の浴は、タンク内に含まれており、また、プラットフォームは、液体樹脂の中に沈められ、その底面と透明窓の上面との間の特定の距離にある最も低い位置まで下に向かって移動する。両方の面の間に形成されるゾーン-いわゆる「重合ゾーン」-は、液体樹脂で満たされる。光に曝露されると、最初の固化層が重合ゾーンに形成され、プラットフォームの底面に付着するが、好ましくは透明窓の上面には付着しない。光が当たらなくなると、造形プラットフォームは、漸進的に上に向かって移動して、固化層の底面と透明窓の上面との間に新たな重合ゾーンを作り出し、その後の光曝露により重合する樹脂のさらなる層を形成するために、その重合ゾーンにいくらかの液体樹脂が流れ込む。プラットフォームの漸進移動および光曝露は、固体の三次元物品を得るために必要な回数だけ繰り返される。必要であれば、十分かつ均一な体積の樹脂が重合ゾーンに確実に流れ込むようにするため、プラットフォームを、重合した樹脂の層を形成するのに適した距離まで再び下に向かって移動させる前に、重合した樹脂の層を形成するのに必要な距離よりもさらに漸進的に移動させてもよい。
【0007】
「一度にスライスする」逐次処理法は、満足のいく三次元物品を得ることを可能にする。しかしながら、この方法は、多くの労力と時間を要し、さらにいくつかの欠点も有する。例えば、硬化した層の層状化は、非常に高い倍率の下で、または肉眼であっても、目に見える場合がある。その3D物品は、機械的特性の点でいくらかの異方性を示す場合がある。美観は、特に垂直Z軸に対して角度のある表面では、損なわれる場合がある。また、その3D物品は、特にプラットフォームの上下移動に起因して、欠陥を有する場合がある。
【0008】
その代替となる方法は、連続的3D印刷の原理に基づくものであり、特にプラットフォームの上下移動に伴う欠点に対処するために開発されてきた。そのような方法は、連続的線形法(連続的抽出法)または連続的体積法であってよい。
【0009】
2014年8月21日に公開されたPCT出願WO2014/126834A1および表題「Continuous liquid interface production of 3D objects」、J.R.Tumblestonら著、Sciencexpress(2015年)の論文には、「連続液体界面印刷(CLIP)」と称される方法が記載されている。CLIP法では、プラットフォームの上下移動を繰り返す必要性が回避され、形成される部品が連続的な手段で「抽出」される。CLIP法は、プラットフォーム/物品の底面と透明窓の上面との間に形成されるゾーンに、未重合の液体樹脂が連続的に存在することに基づいている。このことは、透明窓の上面からプラットフォーム/物品の底面への重合禁止剤の勾配を減少させることで、このゾーンにおける光重合の禁止と開始とのバランスをとることによって達成される。したがって、このゾーンは、融合する2つの異なるゾーンに分割され、すなわち、重合ゾーン自体と、透明窓の上面近傍に位置していて、禁止剤が光重合を禁止するのに十分な濃度で存在する、いわゆる「デッドゾーン(dead zone)」である。デッドゾーンと重合ゾーンとの境界を大まかに定める、透明窓の上面から閾値の距離では、光重合はもはや禁止されない。3D物品は、段階ごとではなく、連続的に印刷できる。PCT出願WO2014/126834A1には、代替となる禁止/光重合系が記載されている、すなわち、液体樹脂が、貯蔵寿命のために存在する通常のフリーラジカル安定剤とともにフリーラジカル重合可能な液体樹脂を含み、追加の禁止剤が酸素(例えば、空気、酸素富化ガス、または純粋な酸素ガス)を含む1つの系、および液体樹脂が、酸触媒の液体樹脂またはカチオン重合可能な液体樹脂を含み、禁止剤が塩基(例えば、アンモニア、微量アミン、または二酸化炭素)を含む別の系が記載されている。追加の禁止剤は、重合禁止剤に対して透過性のある材料、例えば半透性フルオロポリマー、硬質のガス透過性ポリマー、多孔性ガラス、またはそれらの組合せでできている窓を通して、液体樹脂の浴に供給することができる。J.R.Tumblestonらには、酸素が窓を通して樹脂中へと拡散するが、その窓からの距離が遠くなるにつれて減衰し、その結果、その窓からのある距離において光開始が酸素禁止よりも勝ることになる方法が記載されている。したがって、酸素による禁止などの禁止が消尽し、開始のフリーラジカルが依然として存在する、その閾値の距離において、重合が開始する。この方法は、層状化および部品における異方性を示さない3D物品をはるかに迅速に製造できるようにする。
【0010】
2015年10月29日に公開されたPCT出願WO2015/164234A1にも、代替となるCLIP法が記載されており、その方法では、タンクは2層の液体で満たされて(filed)いる。上層は液体樹脂を含み、下層は不混和性液体を含む。その不混和性液体は、樹脂と混和しないが湿潤可能であり、樹脂よりも大きい密度を有する。例えば、酸素、塩基、または有機化合物などの重合禁止剤も使用することができる。
【0011】
2016年11月3日に公開されたPCT出願WO2016/172784A1には、「インテリジェント液体界面(Intelligent Liquid Interface)(ILI)」と称される方法が記載されている。ILI法は、重合禁止剤の供給に依拠しない。その代わりに、タンクの光学的に透明な底壁の上面は、湿潤可能な材料、例えばシリコーンヒドロゲルで覆われる。湿潤可能な材料と樹脂との間の分子間反発力の結果として、または(湿潤可能な材料中に存在する)水の層が形成され、そこでは樹脂が混和しない結果として、湿潤可能な材料の上にデッドゾーンが形成される。2018年7月26日に公開された米国出願第2018/0207867A1号には、光学的に透明な部分が液体潤滑剤を徐々に放出する層によって覆われる方法が記載されている。2017年5月11日に公開された米国出願第2017/0129175A1号には、湿潤可能な膜が移動可能であり、静止していないILI法が記載されている。
【0012】
2018年11月15日に公開されたPCT出願WO2018/208378、表題「Volumetric 3D printing of elastomers by tomographic back-projection」、D.Loterie著(2018年)の論文、および表題「Volumetric additive manufacturing via tomographic reconstruction」、B.E.Kellyら著、Science(2019年)の論文には、連続的体積印刷に基づく「計算軸方向リソグラフィ(Computed Axial Lithography)(CAL)」と称される方法が記載されている。CAL法では、標準的な樹脂は、回転自在で光学的に透明なタンク内に収容される。そのタンクは、フリーラジカル重合可能な液体樹脂、および光重合禁止剤として作用する酸素などのラジカル安定剤を含んでよい。任意のすべての安定剤は、樹脂中にすでに存在しており、連続的には供給されない。タンクの側からの光の投射は、同時に複数の角度に向けられる。様々な角度からの曝露を重ね合わせることにより、樹脂を所望の形状に光重合させるのに十分な3Dエネルギー線量が得られる。
【0013】
表題「Two-color single-photon photoinitiation and photoinhibition for subdiffraction photolithography」、T.F.Scottら著、Science(2009年)の論文、2012年4月19日に公開された米国出願第2012/0092632A1号、および表題「Rapid,continuous additive manufacturing by volumetric polymerization inhibition patterning」、M.P.de Beerら著、Science Advances(2019年)の論文には、二波長体積光重合(dual-wavelength volumetric photopolymerization)の方法が記載されている。この方法では、1つの波長を用いて光化学的に重合を活性化する一方、第2の波長を用いてその反応を禁止する。また、M.P.de Beerらには、「光禁止」という概念が比較的稀であるにもかかわらず、ラジカル重合の光禁止剤としてヘキサアリールビイミダゾールも開示されている。
【0014】
連続的3D印刷方法は、特に物品形成の速度および印刷された部品の質の観点で、交互積層の手法に基づく方法よりも有利である。これらの方法の多くは、光重合の禁止剤、特に酸素または空気など、フリーラジカル重合可能な液体樹脂用の禁止剤の使用に依拠する。実際、ポリウレタン、エポキシ、シアネートエステルおよびシリコーン樹脂など、例えばCLIP法などで使用される重合可能な液体樹脂の種類にかかわらず、すべては、酸素で禁止されるアクリル硬化によって決まる。代替となる樹脂系は実証されていない。しかしながら、そのような液体樹脂の使用は、いくつかの欠点を伴う。第一に、連続的印刷の作用におけるラジカル光重合に対するこのような液体樹脂の感度を細かく調整する必要があり、その結果として、製品の貯蔵に伴う安定性の問題を生じ、通常、使用前に混合される2液型配合物としてこれらを包装および販売する必要がある。第二に、このような液体樹脂は、供給される酸素の拡散を制御することによって、禁止のバランスをとる際に機能するようにさらに細かく調整されなければならない。第三に、酸素の拡散は、樹脂の粘度の関数として変化するため、樹脂の種類およびその可使時間に応じて調整される必要がある。第四に、空気/酸素に対する高い透過性および透明性を有する高価で特殊な膜が、光学的に透明な部分を形成するのに必要となる。
【0015】
3D印刷方法では、従来、様々な液体樹脂が使用されている。例えば、理論上は、液体樹脂は、アクリル、メタクリル、アクリルアミド、スチレン、オレフィン、ハロゲン化オレフィン、環状アルケン、無水マレイン酸、アルケン、アルキン、一酸化炭素、官能化オリゴマー、多官能加硫点モノマー、官能化PEG、およびそれらの組合せからなる群から選択される重合可能なモノマーを含むことができる。例えば、WO2015/164234A1、WO2015/164234A1、およびD.Loterie著(2018年)の論文を参照。しかしながら、実際には、光重合された3D物品の圧倒的多数は、フリーラジカル重合可能なモノマーから、特に(メタ)アクリレートおよびその誘導体から得られ、これらは、通常、表題「Role of Oxygen in polymerization reactions」、V.A.Bhanuら著、Chemical Reviews(第91巻、第2号、1991年)の論文に開示されているように、酸素または空気によって禁止される。酸素または空気による禁止を制御することは、例えば従来のCLIP法において、3D印刷の間に重合のデッドゾーンを形成するのに有利に使用することができる。しかしながら、物品の表面が周囲の空気(酸素)と接触しているため、(メタ)アクリル化樹脂を用いて印刷することは、部分的に未硬化のままでべたつきが残る物品をもたらすという点において、酸素による禁止は不利でもある。したがって、べたつきがない表面を得るため、3D印刷された物品は、後処理されなければならない(例えば、WO2019/043529A1参照)。3D印刷された物品の硬化を完了するための後処理は、追加のハードウェアを必要とする場合があり、現在のところ、加熱も伴う場合がある時間のかかるプロセスである。具体的には、3D印刷方法は、液体樹脂の吸収性および全体の印刷時間の面で限界があり、それらは主に使用される材料および配合物に起因する。例えば、CLIP法やCAL法は、3D物品を数分またはそれどころか数秒以内に印刷するように設定することができるが、従来の(メタ)アクリレートモノマーを含む液体樹脂から得られる3D物品は、部分的に未硬化のままであり、べたつく表面を有する。したがって、そのような3D物品は、後処理を行う必要がある。しかしながら、後処理工程は、通常、べたつきがない3D物品を得るために、完了するのに、数時間ではないにしても、多くの分単位の時間を必要とする。公知技術では、3D物品の化学的、物理的および機械的特性ならびにその美観を改善するために、ある程度の後処理が常に必要である。後処理は、3D物品ができあがっていく支えとなった支持体の除去、余分な重合材料の除去、洗浄、後硬化、研磨またはつや出し、塗装または着色を含み得る。公知技術における後処理工程は、3D印刷される物品を製造するためのコストを著しく増加させる。
【0016】
公知技術から、特に従来の(メタ)アクリレートモノマーを用いて得られる3D物品は、通常、架橋樹脂から作られ、所望される場合には部分的または完全に溶解させることはできない。しかしながら、そのような溶解は、例えば、印刷された支持体をリサイクルするまたは除去するためには興味深い。3D物品をリサイクルすることの重要性は、表題「Sustainable photopolymers in 3D printing:a review on biobased,biodegradable,and recyclable alternatives」、Voetら著、Macromol.Rapid Commun.(2020年)の論文で強調されている。
【0017】
したがって、すべての3D印刷方法、特に酸素または空気による禁止とは無関係である連続的3D印刷方法の利点を最適化する必要性がある。また、連続的抽出の手法、例えばCLIP法において、または体積的手法において、または交互積層の手法において使用されるかにかかわらず、表面のべたつきがない3D物品を印刷できるようにする3D印刷方法を提供する必要性もある。また、後処理工程が最適化された3D印刷方法を提供する必要性もある。また、後処理工程、特に表面のべたつきがない乾燥した部品を得るための工程を行う時間が、公知技術、特に従来の(メタ)アクリレートモノマーを用いる技術に対して大幅に短縮される、物体を印刷および処理する方法を提供する必要性もある。また、長期の貯蔵可能期間を有し、常温貯蔵可能な1液型液体樹脂系を供給する必要性もある。また、特別なハードウェア、例えばガスを供給または輸送するためのハードウェアを必要とせず、比較的単純な装置を利用できる、3D印刷方法を提供する必要性もある。また、耐久性およびリサイクル性の面で有用な物理的、機械的および化学的特性を有する3D物品の印刷を可能にする3D印刷方法を提供する必要性もある。また、例えば欠陥物品の場合または使用した後にリサイクルすることが可能な3D物品を提供する必要性もある。
【発明の概要】
【0018】
本発明の第一の目的は、
a)シアノアクリレート系モノマー、光開始系および酸性禁止剤を含み、タンク内に保持される、ある体積の液体樹脂を提供する工程であって、前記タンクが少なくとも1つの光学的に透明な部分を含む、提供する工程;
b)重合ゾーンを画定する工程;
c)重合ゾーンで液体樹脂を選択的に重合させるために、光を放射および制御し、光を光学的に透明な部分を通して液体樹脂に伝送する工程;
d)重合させた樹脂で作られた三次元物品を得る工程;
e)余分な液体樹脂を除去するために、得られた三次元物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程;ならびに
f)任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程
を含む、三次元(3D)物品を印刷する方法を提供することである。
【0019】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、交互積層3D印刷方法または連続的3D印刷方法であり;好ましくは、連続的3D印刷方法は、連続的線形(抽出)3D印刷方法または連続的体積3D印刷方法であり;より好ましくは、本発明の方法は、連続的液体界面印刷法(CLIP法)、インテリジェント液体界面法(ILI法)、計算軸方向リソグラフィ法(CAL法)、二波長体積光重合法、およびそれらから誘導される方法からなる群から選択される。一実施形態において、本発明の方法は、計算軸方向リソグラフィ法(CAL法)である。代替の実施形態において、本発明の方法は、連続的液体界面印刷法(CLIP法)である。
【0020】
いくつかの実施形態において、シアノアクリレート系モノマーは、単官能シアノアクリレートモノマー、二官能シアノアクリレートモノマーを包含する多官能シアノアクリレートモノマー、ハイブリッドシアノアクリレートモノマー、およびそれらの混合物からなる群から選択される。
【0021】
いくつかの実施形態において、シアノアクリレート系モノマーは、単官能シアノアクリレートモノマーのみである。
【0022】
いくつかの実施形態において、シアノアクリレート系モノマーは、多官能シアノアクリレートモノマー、ハイブリッドシアノアクリレートモノマー、およびそれらの混合物、ならびに任意選択で単官能モノマーである。多官能シアノアクリレートモノマーは、特に、二官能シアノアクリレートモノマーである。ハイブリッド官能シアノアクリレートモノマーは、シアノアクリレートを(メタ)アクリル官能基と共に含む。
【0023】
いくつかの実施形態において、シアノアクリレート系モノマーは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、n-プロピルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択され;好ましくは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択される。
【0024】
いくつかの実施形態において、液体樹脂中に存在する酸性禁止剤は、ルイス酸、ブレンステッド酸、またはそれらの混合物から選択され;好ましくはルイス酸から選択され;より好ましくは、三フッ化ホウ素および誘導体、フルオロホウ酸、二酸化硫黄、ならびにそれらの混合物からなる群から選択され;さらに好ましくは、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート錯体、三フッ化ホウ素二水和物錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、トリメチルシリルトリフレート、二酸化硫黄、およびそれらの混合物からなる群から選択され;最も好ましくは、ルイス酸はエーテラート錯体である。
【0025】
いくつかの実施形態において、本発明の方法は、酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程をさらに含み;好ましくは、ルイス酸、ブレンステッド酸、酸性イオン交換材料から供給される酸、またはin situ光発生酸からなる群から選択される酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程をさらに含む。
【0026】
いくつかの実施形態において、追加の酸性禁止剤は、光学的に透明な部分から/光学的に透明な部分を通して、液体樹脂の体積に拡散する。
【0027】
いくつかの実施形態において、追加の酸性禁止剤は、別個の区画から液体樹脂の体積に拡散する。
【0028】
いくつかの実施形態において、追加の酸性禁止剤は、タンクの光学的に透明な部分の内面を覆う液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料から、液体樹脂の体積と接触している。
【0029】
いくつかの実施形態において、やはりタンク内に保持される樹脂不混和性液体が供給され、追加の酸性禁止剤は、その樹脂不混和性液体との界面で液体樹脂と接触している。
【0030】
いくつかの実施形態において、液体樹脂を選択的に重合させる光とは異なる波長を有する追加の光が放射されて液体樹脂に伝送され、追加の酸性禁止剤が追加の光によって液体樹脂の体積中に生成される。このように、追加の酸性禁止剤は、液体樹脂の体積中のin situで光生成されるまで潜伏している。
【0031】
いくつかの実施形態において、液体樹脂は、アニオン性または双性イオン性の光開始系として、メタロセン化合物とラジカル光開始剤との組合せを含む。
【0032】
いくつかの実施形態において、液体樹脂は、追加の光重合可能なモノマー、好ましくは(メタ)アクリレートモノマーを含む。
【0033】
いくつかの実施形態において、非求核性リンス溶媒は、炭化水素溶媒および過フッ素化炭化水素溶媒、エーテル溶媒、アセテート溶媒、塩化炭化水素溶媒、極性非プロトン性溶媒、ならびにそれらの混合物からなる群から選択される。
【0034】
いくつかの実施形態において、三次元物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程は、10分間以下、好ましくは4分間以下、より好ましくは3分間以下、行われる。
【0035】
いくつかの実施形態において、3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程は、3D物品を非求核性リンス溶媒の中に15秒間以下、浸漬することによって行われる。
【0036】
いくつかの実施形態において、三次元物品を追加の光源に曝露する工程は、380nm~470nmの波長で行われる。
【0037】
いくつかの実施形態において、三次元物品を追加の光源に曝露する工程は、60秒間以下、好ましくは1~30秒間、より好ましくは1~20秒間、行われる。
【0038】
本発明の別の目的は、
a)シアノアクリレート系モノマー、光開始剤系および酸性禁止剤を含む液体樹脂の体積であり、該体積が重合ゾーンを含む、液体樹脂の体積;
b)液体樹脂を保持するためのタンクであり、少なくとも1つの光学的に透明な部分を備える、タンク;
c)重合ゾーンで液体樹脂を選択的に重合させるための光を放射する光源;ならびに
d)非求核性洗浄源(source)の供給源
を備える、三次元印刷システムを提供することである。
【0039】
本発明の別の目的は、三次元物品を印刷するシステムにおける、シアノアクリレート系モノマー、光開始剤系および酸性禁止剤を含む液体樹脂の使用を提供することである。
【0040】
本発明の別の目的は、本明細書に記載の方法によって得られる、三次元印刷された物品を提供することである。
【0041】
本発明の別の目的は、ポリシアノアクリレートでできている三次元印刷された物品、好ましくは、層状化がなく、べたつきがない、ポリシアノアクリレートでできている三次元印刷された物品を提供することである。
【0042】
本発明の別の目的は、単官能シアノアクリレートモノマーのみから得られるポリシアノアクリレートでできている3D物品をリサイクルする方法であって、三次元物品を溶解するのに十分な時間、三次元物品を溶解溶媒で処理する工程を含む、方法を提供することである。
【0043】
いくつかの実施形態において、三次元物品を溶解溶媒で処理する工程は、60分間以上、好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間、行われる。
【0044】
本発明は、先行技術の欠点を克服することを可能にする。本発明は、3D印刷方法、特に連続的3D印刷方法を提供するが、この方法は、酸素または空気による禁止に左右されず、従来の液体樹脂とは逆に、開始の主要な方法としてのラジカル光重合に依拠しない。また、本発明は、容易に貯蔵され、経時的に安定である液体樹脂、すなわち、多区画配合物などの特定の包装条件を何ら必要としないおよび/または不安定性に起因する限られた貯蔵寿命を有さない液体樹脂を使用した3D印刷方法も提供する。本発明はまた、層状化を示さない3D物品の印刷を可能にする3D印刷方法も提供する。本発明はまた、連続的線形手法または体積的手法または交互積層の手法で使用されるかにかかわらず、表面のべたつきがない3D物品の印刷を可能にする3D印刷方法も提供する。本発明はまた、例えばガスを供給または輸送するための特別なハードウェア、または空気による禁止に起因してべたつく表面を有する3D印刷された物品を後処理するための複雑な周辺ハードウェアを必要とせずに、比較的単純な装置を利用できる3D印刷方法も提供する。本発明はまた、従来の物理的および光学的設定に依拠しながら、改善された品質の3D物品を得ることを可能にする3D印刷方法も提供する。本発明はまた、耐久性の面で改善された物理的、機械的および化学的特性を有する3D物品の印刷を可能にする3D印刷方法も提供する。本発明はまた、後処理が最適化され、それにより3D物品を後処理するのに必要な時間を大幅に短縮できる3D印刷方法も提供する。また、本発明は、改善された生産性を有する3D印刷方法も提供する。別の態様では、本発明は、少なくとも部分的には、3D物品をリサイクルする方法を提供する。
【0045】
本発明者らは、シアノアクリレート系モノマーを含む液体樹脂が、様々な形態で、3D印刷方法に独自に調節可能であり、印刷された3D物体の物理的特性が容易に改変され得ることを示した。実際、改善された品質を有する、特に層状化を示さないおよび/または表面のべたつきがない3D印刷された物品は、シアノアクリレート系モノマーを含む液体樹脂を使用する従来の3D印刷システムで、その物理的および光学的設定の特定の調節を何ら必要とすることなく得ることができる。また、本発明者らは、適切なシアノアクリレート系モノマーを選択することによって、および3D物品を得た後に後処理工程を実行することによって、3D物品の耐久性およびリサイクル性の面での物理的、機械的および化学的特性を調節できることも示した。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】「3Dbenchy」の較正用のボートの形状を有する参考3D物品の写真である。
図2】実施例5によるARKEMAのロゴを有する3D物品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
これから、本発明を、以下の説明において限定することなく、より詳細に説明する。
【0048】
本明細書を通じて、組成物の様々な成分のパーセントは、別段に言及する場合を除き、すべて重量(%w/w)で示す。濃度範囲は、限界値を含むものとして考慮されなければならない。
【0049】
語句「印刷方法(印刷する方法)」および「製造方法(製造する方法)」は、本明細書では区別なく使用される。同様に、語句「印刷システム」および「製造システム」は、本明細書では区別なく使用される。
【0050】
本発明は、三次元物品を印刷する方法、および対応する三次元印刷システム、およびその使用、ならびに関連する3D物品に関する。
【0051】
3D印刷方法
本発明は、光重合可能な液体樹脂を使用する任意の適切な従来の3D印刷方法に対して、特にその物理的および光学的設定に特定の調節を何ら必要とすることなく、適用することができる。
【0052】
本発明者らは、シアノアクリレート系モノマー、光開始剤および酸性禁止剤を含む液体樹脂を使用することの汎用性の高さを実証した。実際、シアノアクリレート系モノマーを含む液体樹脂は、単純な改変がされていようがいまいが、従来の3D印刷システムで使用することができる。さらに、酸性禁止剤は、任意の形態および手法で供給され得る。したがって、適切な酸性禁止剤およびその供給は、使用される3D印刷方法に応じて選択することができる。特に、酸性禁止剤は、最初から液体樹脂中に存在していてもよく、すなわち酸性禁止剤の唯一のまたは主要な供給源として存在していてもよい。さらに、酸性禁止剤の二次的供給源を設けてもよい。
【0053】
本発明の3D印刷方法は、交互積層3D印刷方法であってもよい。あるいは、そして好ましくは、本発明の3D印刷方法は、連続的3D印刷方法、特に連続的線形3D印刷方法または連続的体積印刷方法であってもよい。網羅することを望むものではないが、連続的3D印刷方法は、連続的液体界面印刷法(CLIP法)、インテリジェント液体界面法(ILI法)、計算軸方向リソグラフィ法(CAL法)、二波長体積光重合法、およびそれらから派生する方法からなる群から選択することができる。CAL法および二波長体積光重合法は、別段に言及する場合を除き、本明細書において「体積印刷法」と称する。一実施形態において、本発明の方法は、計算軸方向リソグラフィ法(CAL法)である。別の実施形態において、本発明の方法は、連続的液体界面印刷法(CLIP法)である。これらの方法およびそれらの適切な物理的および光学的設定は、当該技術分野において公知である。
【0054】
本発明の3D印刷方法は、本明細書に記載の印刷システムによって実施することができる。本発明の3D印刷方法は、ポリシアノアクリレートでできている3D物品の印刷を可能にする。
【0055】
印刷システム
既存の印刷方法は、特に制限されることなく、本発明で使用することができる。なぜなら、酸性禁止剤は、重合ゾーンの外側でシアノアクリレート系モノマーを効果的に安定させ、その一方で、光は液体樹脂に伝送されて重合ゾーンの内側でそのような樹脂を選択的に重合させるからである。実際、液体樹脂を選択的に重合させるために光が液体樹脂に伝送されるとき、酸性禁止剤は、一般に、重合ゾーンの外側でシアノアクリレート系モノマーの重合を同時に防止し続ける。
【0056】
タンク
タンクが設けられる。タンクは、液体樹脂を保持するための少なくとも1つの区画を備える。タンクは、通常、底壁と少なくとも1つの側壁とを備える。タンクは、その頂部で開放されていても閉鎖されていてもよい。タンクは、任意の適切な形状、断面および寸法を有してよい。例えば、底壁は、円形、正方形または長方形の断面を有してよい。底壁の断面が円形の場合、タンクは、円周方向に1つの円筒形の側壁を有してよい。底壁の断面が正方形または長方形の場合、タンクは、4つの側壁を有してよい。CLIP法およびILI法などの連続的線形3D印刷方法では、タンクは、好ましくは、正方形または長方形の断面を有する。体積3D印刷方法では、タンクは、好ましくは円形の断面を有し、円筒を形成する。
【0057】
タンクは、固定されていてもよいし、回転自在に移動可能であってもよい。CLIP法およびILI法などの連続的線形3D印刷方法では、タンクは、好ましくは固定されている。体積3D印刷のCAL法では、タンクは、好ましくは垂直Z軸周りに回転自在に移動可能である。
【0058】
光学的に透明な部分
タンクは、少なくとも一つの光学的に透明な部分を備える。光学的に透明な部分は、底壁に、側壁に、またはその両方に配置され得る。CLIP法およびILI法などの連続的線形3D印刷方法では、光学的に透明な部分は、好ましくはタンクの底壁に配置されており、おそらく平面である。体積3D印刷方法では、光学的に透明な部分は、好ましくはタンクの側壁に配置される。
【0059】
方法によっては、液体樹脂と接触している光学的に透明な部分の内面に、重合した樹脂が付着するのを防止するために、その光学的に透明な部分の内面を処理してよい。例えば、CLIP法では、透明な不透過性プラスチックシートの形態のフッ素化コーティングを施してよい。あるいは、米国出願第2017/0028618A1号に記載されているように、高密度で不混和性の過フッ素化液体を、光学的に透明な部分の内面の上に配置してよい。過フッ素化液体は、過フッ素化スルホン酸(過フッ素化オクタンスルホン酸またはPFOSとしても公知である)であってよい。
【0060】
光学的に透明な部分を形成する材料は、期待される特性に応じて選択することができる。例えば、CLIP法では、光学的に透明な部分は、酸性禁止剤に対して透過性である材料でできていてもよい。CAL法では、透過性および膜は、必要とされない。
【0061】
仕切り壁
CLIP法では、タンクを2つの区画、すなわち上部の区画と下部の区画に分割するために、タンクは、仕切り壁を備えてよい。上部の区画は、液体樹脂を保持することができ、一方、下部の区画は、別の液体、例えば酸性禁止剤の溶液などの酸性禁止剤の追加の供給源を保持することができる。
【0062】
仕切り壁は、液体樹脂に対しては非透過性であってもよいが、酸性禁止剤に対しては透過性であってもよい。また、仕切り壁は、少なくとも1つの光学的に透明な部分を備えてもよい。
【0063】
液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料
CLIP法では、タンクは、そのタンクの光学的に透明な部分の内面を覆う膜など、液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料を備えてよい。
【0064】
この材料は、酸または酸基由来の酸性禁止剤を含んでよい。あるいは、この材料は、酸の供給源によって連続的に供給されてもよい。
【0065】
光源
光源が設けられる。光源は、1つまたは複数の素子から光を放射する。
【0066】
光源は、タンクの外側であって、光が、光学的に透明な部分を通して、液体樹脂の体積、特に光重合ゾーンへと透過し得るのに適した位置に配置される。
【0067】
液体樹脂を連続的に光重合させるために、光は、連続的に放射され、伝送され得る。
【0068】
CLIP法、ILI法および体積印刷法などの連続的3D印刷方法では、光は、通常、連続的に放射され、伝送される。印刷の過程で、光は、3D物品の形状をカスタマイズするために制御され得る。
【0069】
CLIP法およびILI法などの連続的線形3D印刷方法では、光源は、タンクの下方に配置され、光は、タンクの底壁に配置された光学的に透明な部分を通して放射され、伝送される。タンクが下部の区画と上部の区画とを備える場合、光は、光学的に透明な仕切り壁を通しても放射され、伝送される。
【0070】
体積3D印刷方法では、光源は、タンクの1つの側に配置され得る。
【0071】
光源は、液体樹脂を重合させるための光(重合光)を放射する。重合光は、360nm~465nm、好ましくは385nm~420nm、より好ましくは405nm~415nmの波長を有してよい。
【0072】
いくつかの特殊な場合の印刷方法では、光源は、重合を光禁止するための追加の光(禁止光)を放射してもよい。追加の光は、液体を重合させるための光とは異なる波長を有する。光禁止の光は、300nm~500nm、好ましくは350nm~450nm、より好ましくは360nm~410nmの波長を有してよい。重合光の波長と追加の光の波長とは互いに異なり、液体樹脂および重合可能なモノマーの種類によって決まる。これらの印刷方法において、光開始および光禁止の波長範囲が同様であったとしても、開始および禁止のために選択される波長が干渉してはならず、または同じであってはならないと理解される。
【0073】
光制御装置
通常、光制御装置が設けられる。この装置は、光源の一部であってもよいし、光源とは独立していてもよい。例えば、光制御装置は、デジタルライトプロジェクター、LCDマスク、シャッター、または走査レーザーであってもよい。
【0074】
マスクまたはシャッターなど、光源から独立している場合、光制御装置は、光源と光学的に透明な部分の外面との間に置かれる。マスクおよびシャッターは、樹脂をある特定の形状に光重合させるため、光にある特定のパターンおよび/または強度を付与するのに有用であり得る。あるいは、CLIP法のみにおいては、光のパターンは、いわゆるステレオリソグラフィの手法(SLA)によって直接作製され得る。CAL法では、光制御装置は、対称的な垂直軸周りに透明な円筒形タンク(槽)内で回転させられながら、複数の角度から配合物に対して横向きにパターンを投影することができる。
【0075】
光制御装置の使用は、ある程度複雑な形状を有する3D物品を得るのに役立つ。
【0076】
プラットフォーム
印刷方法によっては、プラットフォームが設けられてもよい。プラットフォームが存在する場合、通常、プラットフォームを上下に移動させることができるように、アームに移動可能に取り付けられる。
【0077】
通常、CLIP法およびILI法などの連続的3D印刷方法は、液体樹脂に沈められるプラットフォーム、特に平面のプラットフォームを備える。光重合した樹脂の最初の層は、プラットフォームの底面に形成されて付着し、光学的に透明な部分の上面に面している。
【0078】
体積印刷法は、一般に、プラットフォームを利用しないが、3D物品を液体樹脂の体積の中に印刷する。この3D物品は、自立しているか、または挿入された基材の上もしくは周囲に印刷され得る。
【0079】
液体樹脂
液体樹脂の体積が供給される。液体樹脂の体積は、タンク内に保持される。
【0080】
液体樹脂は、タンクによって形成される区画の中に保持される。仕切り壁が存在する場合、液体樹脂はタンクの上部の区画の中に保持される。
【0081】
液体樹脂は、シアノアクリレート系モノマーを含む。
【0082】
液体樹脂の体積は、重合ゾーンを含む。「重合ゾーン」とは、光重合を誘発するのに必要な曝露条件が満たされたときに重合が起こる、液体樹脂の体積のうち特定のゾーンを意味する。重合ゾーンは、使用される印刷方法によって変わり得る。例えば、CLIP法では、重合ゾーンは、特に、プラットフォーム/物品の底面およびタンクの光学的に透明な部分の上面によって境界が定められる。CAL法では、重合ゾーンは、光によって形成されるパターンによって境界が定められる。したがって、重合ゾーンは、3Dシステムの従来の物理的および光学的設定によって決まる。
【0083】
また、液体樹脂の体積は、デッドゾーンを含んでもよい。「デッドゾーン」とは、光重合を誘発するのに必要な曝露条件が満たされていても重合が起こらない、重合ゾーンの近傍の特定のゾーンを意味する。デッドゾーンは、特に、連続的線形法、例えばCLIP法において存在する。デッドゾーンは、液体樹脂を保持する区画の下部の近傍(すなわち、透明窓の上面、仕切り壁、液状のもしくは湿潤可能な材料、またはその他の任意の手段)に位置している。この実施形態において、デッドゾーンは、液体樹脂を保持する区画の下部と重合ゾーンとの間に挟まれる。デッドゾーンは、酸性禁止剤の二次的供給源を含む酸性禁止剤が光重合を禁止するのに十分な濃度で存在することによって得ることができる。したがって、酸性禁止剤の濃度は、液体樹脂を保持する区画の下部より上方の距離とともに減少し、その結果、デッドゾーンと重合ゾーンとの間のある距離において、光開始が意図的に酸性による禁止に打ち勝つ閾値に達する。
【0084】
液体樹脂は、適切な粘度を有する。特に、液体樹脂は、2mPa.s~100,000mPa.sの粘度を有してよい。CLIP法およびILI法などの連続的3D印刷方法では、液体樹脂は、10mPa.s~10,000mPa.s未満、好ましくは10mPa.s~2,000mPa.sの粘度を有してよく;あるいは、10,000cPs~100,000cPsの粘度を有するゲル状粘度が採用されてもよい。体積3D印刷方法では、液体樹脂は、好ましくは30cPs~100,000cPsの粘度を有する。粘度は、25℃で平衡化された恒温槽を備えたBrookfield DV2T粘度計を用いて測定される。スピンドルおよびせん断速度は、粘度範囲に合うように選択され、そのため、高粘度範囲に対してはスピンドル14を用いて1.5r.p.m.とし、低粘度範囲に対してはスピンドル21を用いて50r.p.m.とする。
【0085】
液体樹脂は、20℃~70℃の温度であってよい。
【0086】
いくつかの実施形態において、液体樹脂は室温である。「室温」とは、18℃~25℃の温度を意味する。
【0087】
いくつかの実施形態において、液体樹脂は、室温より高い温度であり、例えば35℃~75℃などの温度である。そのような場合、加熱装置が設けられる。
【0088】
シアノアクリレート系モノマー
液体樹脂は、光重合可能なモノマーであるシアノアクリレート系モノマーを含む。シアノアクリレート(CA)は、急速に重合可能である、α-ニトリルで置換されたアクリル酸エステルの一群に付けられた一般名である。用語「シアノアクリレート」、「シアノアクリレートモノマー」、および「シアノアクリレート系モノマー」は、本明細書では区別なく使用される。
【0089】
シアノアクリレート系モノマーは、特に、アニオン重合または双性イオン重合に適している。アニオン重合のメカニズムは、Pepperら著のJ.Polym.Sci:Polymer Symposium 62,65-77(1978年)の論文および表題「Zwitterionic polymerization of butyl cyanoacrylate by triphenylphosphine and pyridine」、Croninら著、Makromol.Chem.,189,85,(1988年)の論文に記載されている。具体的には、シアノアクリレートモノマーの光重合のメカニズムは、光生成された電子豊富な種によって開始される。
【0090】
本発明者らは、驚くべきことに、従来の液体樹脂とは異なる液体樹脂、すなわち(メタ)アクリレートモノマーまたはその他の同様なモノマーを含む液体樹脂を使用して、満足のいく印刷方法を開発できることを実証した。実際、(メタ)アクリレートモノマーの光重合は、フリーラジカル重合に基づいている。しかしながら、フリーラジカル重合は、酸素(空気)によって禁止される。フリーラジカル光重合の酸素による禁止は、CLIP法などのいくつかの印刷方法で使用されてきたが、欠点を有する。特に、印刷された3D物品は、通常、表面がべたつきを示すため、乾燥した手触りにするための後処理が必要である。対照的に、本発明者らは、シアノアクリレート系モノマーを使用することにより、光重合の有効性を損なうことなく、べたつきがないまたは少なくとも表面のべたつきが限定された3D物品が印刷され得ることを実証した。また、本発明者らは、シアノアクリレート系モノマーを含む液体樹脂を使用した場合、特に交互積層の手法に基づく3D印刷方法において、層化(層状化)現象が生じないことも実証した。さらに、シアノアクリレート系モノマーを含む液体樹脂は、特に酸性禁止剤を含むため、経時的に安定であり、任意のタイプの光硬化性樹脂と同様に遮光する以外は、特別な貯蔵条件を何ら必要としない。
【0091】
シアノアクリレート系モノマーは、単官能シアノアクリレートモノマー、二官能シアノアクリレートモノマーを包含する多官能シアノアクリレートモノマー、ハイブリッドシアノアクリレートモノマー、およびそれらの混合物であってもよい。ハイブリッドシアノアクリレートモノマーは、シアノアクリレート部分以外の少なくとも1つの付加的部分を含むシアノアクリレート系モノマーであり、好ましくは、付加的部分から重合または反応する能力を有するモノマー、例えば、シアノアクリレート部分と(メタ)アクリレート部分とを含むモノマー、またはシアノアクリレート部分とイソシアネート部分とを含むモノマーである。単官能シアノアクリレートモノマーに加えて、または単官能シアノアクリレートモノマーに代えて、多官能シアノアクリレートモノマーおよび/またはハイブリッドシアノアクリレートモノマーを使用することは、耐久性、強靭性、柔軟性などに寄与する架橋、縮合および/または共重合などの二次反応によって改善された特性を有するポリマーを得るのに役立つ場合がある。
【0092】
一実施形態において、シアノアクリレート系モノマーは、単官能シアノアクリレートモノマーのみである。そのような場合に得られる3D物品は、熱硬化性ではないポリマーでできている。
【0093】
別の実施形態において、シアノアクリレート系モノマーは、多官能シアノアクリレートモノマー、ハイブリッド官能化シアノアクリレートモノマー、またはそれらの混合物、および任意選択で単官能シアノアクリレートモノマーである。多官能モノマーは、特に、二官能シアノアクリレートモノマーである。ハイブリッド官能モノマーは、シアノアクリレートを(メタ)アクリル官能基と共に含む。そのような場合に得られる3D物品は、熱硬化性ポリマーでできている。
【0094】
本発明者らは、3D物品の物理的、化学的および機械的特性は、使用されるシアノアクリレート系モノマーの種類、すなわち単官能対多官能シアノアクリレートモノマーおよびハイブリッドモノマーによって変化し、そのことにより異なる耐久性プロファイルを有する3D物品を得ることを可能になることを示した。そのような汎用性は有利である。
【0095】
シアノアクリレート系モノマーは、その可溶性または不溶性、その強靱性、その柔軟性、その剛性、その耐性など、シアノアクリレート系モノマーの特有の特性を考慮して、印刷対象の3D物品に応じて選択することができる。
【0096】
単官能シアノアクリレートモノマーは、化学式(I):
[式中、Rは、アルキル基またはアルコキシアルキル基からなる群から選択することができる。アルキル基は、メチル、エチル、ブチル、または2-オクチルからなる群から選択することができる。アルコキシアルキル基は、2-メトキシエチル、2-エトキシエチル、または2-(1-メトキシ)プロピルからなる群から選択することができる。]
を有する。
【0097】
例示的な単官能シアノアクリレートモノマーは、エチルシアノアクリレート(ECA)であり、式中、R=Cである。ECAは、本発明における使用に適しているが、その揮発性、その臭気およびその汚染可能性の観点から、最も好ましくない。いくつかの実施形態において、液体樹脂は、エチルシアノアクリレートを含まない。
【0098】
他の例示的な単官能シアノアクリレートモノマーは、2-メトキシエチルシアノアクリレート(MECA)、式中、R=CHCHOCH;2-エトキシエチルシアノアクリレート(EECA)、式中、R=CHCHOC;および2-(1-メトキシ)プロピルシアノアクリレート(MPCA)、式中、R=CH(CH)CHOCHである。MECAは、その無臭性、非催涙性、非刺激性および非汚染性を考慮すると、本発明での使用に特に適している。MECAおよび関連するシアノアクリレートを調製するための高収率プロセスは、2017年1月26日に公開された米国出願第9,670,145号に開示されている。
【0099】
単官能シアノアクリレートモノマーは、当該技術分野で周知である。例えば、表題「Adhesives Technology Handbook」、S.Ebnesajjad Ed.著、William Andrew,Norwich(2008年)の総説を参照。
【0100】
単官能シアノアクリレートモノマーは、潜在的にリサイクル可能な3D物品、すなわち、3D物品を得た後、適切な条件下で、いくらかの溶解溶媒に少なくとも部分的に溶解させることができる3D物品を得るのに特に適している。
【0101】
二官能シアノアクリレートモノマーなどの多官能シアノアクリレートモノマーは、表題「Unequivocal Synthesis of Bis(2-cyanoacrylate)Monomers.Via Anthracene Adduct」、C.Buck著、J.Polymer Sci、Polym.Chem Edition、第16巻、2475、(1978年)の論文に開示されている。
【0102】
二官能シアノアクリレートモノマーは、化学式(II):
[式中、Rは、-(CH(ただし、n=2~12)、-CH(C(CHCH)-、-CH(CH)CHCHCH(CH)-、-1,3-または1,4-二置換芳香族などの)-CHCH、-(CHO(CH-、-CH(CFCH-、-CHSi(CHOSi(CHCH-、-CHCH=CHCH-、または-CHC≡CCH-からなる群から選択される。]
を有してよい。
【0103】
ハイブリッド官能シアノアクリレート、または単に「ハイブリッドシアノアクリレート」モノマーは、化学式(III):
[式中、Rは、-Hまたは-CHであり、pは1である。]
を有してよい。
【0104】
ハイブリッドシアノアクリレートモノマーは、化学式(IV):
[式中、Rは、-CHまたは-Cである。]
を有してもよい。
【0105】
多官能シアノアクリレートモノマーおよびハイブリッド官能シアノアクリレートは、任意選択で単官能シアノアクリレートモノマーと混合され、耐久性があり、架橋によって耐溶媒性を示す3D物品を得るのに特に適している。
【0106】
本明細書ですでに定義したように、シアノアクリレート系モノマーは、構造(I)のモノマー、構造(II)のモノマー、構造(III)のモノマー、構造(IV)のモノマー、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0107】
シアノアクリレート系モノマーは、アルコキシアルキルシアノアクリレートエステルなどの低臭気または無臭のモノマーであってもよい。
【0108】
シアノアクリレート系モノマーは、低染色性または非染色性のモノマーであってもよい。
【0109】
シアノアクリレート系モノマーは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、2-エトキシエチルシアノアクリレート、2-(1-アルコキシ)プロピルシアノアクリレート、2-(2’-アルコキシ)-メトキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-アルコキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-アルコキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-アルコキシ)-ブチルオキシブチル-2”-シアノアクリレート、2-(3’-アルコキシ)-プロピルオキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(3’-アルコキシ)-ブチルオキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(3’-アルコキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(3’-アルコキシ)-ブチルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-アルコキシ)-エトキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-アルコキシ)-エトキシブチル-2”-シアノアクリレート、n-ブチルシアノアクリレート、sec-ブチルシアノアクリレート、イソブチルシアノアクリレート、n-ペンチルシアノアクリレート、1-メチルブチルシアノアクリレート、1-エチルプロピルシアノアクリレート、n-ヘキシルシアノアクリレート、1-メチルペンチルシアノアクリレート、n-ヘプチルシアノアクリレート、n-オクチルシアノアクリレート、2-オクチルシアノアクリレート、2-エチルヘキシルシアノアクリレート、n-ノニルシアノアクリレート、n-デシルシアノアクリレート、n-ウンデシルシアノアクリレート、n-ドデシルシアノアクリレート、シクロヘキシルシアノアクリレート、n-オクタデシルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、n-プロピルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレート、トリメチルシリルエチルシアノアクリレート(trimethylsilyethyl cyanoacrylate)、トリメチルシリルプロピルシアノアクリレート(trimethylsilypropyl cyanoacrylate)トリメチルシリルオキシエチルシアノアクリレート トリエチルシリルオキシエチルシアノアクリレート フェニルエチルシアノアクリレート、フェノキシエチルシアノアクリレート、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0110】
アルコキシ基は、存在する場合、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシ、ブチルオキシ、ペンチルオキシ、またはヘキシルオキシからなる群から選択される。好適な2-(1-アルコキシ)プロピルシアノアクリレートは、2-(1-メトキシ)プロピルシアノアクリレートであってよい。好適な2-(2’-アルコキシ)-メトキシエチル-2”-シアノアクリレートは、2-(2’-メトキシ)-メトキシエチル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(2’-アルコキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレートは、2-(2’-メトキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-エトキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-プロピルオキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-ブトキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-ペンチルオキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-ヘキシルオキシ)-エトキシエチル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(2’-アルコキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレートは、2-(2’-メトキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-エトキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-プロピルオキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-ブチルオキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-ペンチルオキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-ヘキシルオキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(2’-アルコキシ)-ブチルオキシブチル-2”-シアノアクリレートは、2-(2’-メトキシ)-ブチルオキシブチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-エトキシ)-ブチルオキシブチル-2”-シアノアクリレート、2-(2’-ブチルオキシ)-ブチルオキシブチル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(3’-アルコキシ)-プロピルオキシエチル-2”-シアノアクリレートは、2-(3’-メトキシ)-プロピルオキシエチル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(3’-アルコキシ)-ブチルオキシエチル-2”-シアノアクリレートは、2-(3’-メトキシ)-ブチルオキシエチル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(3’-アルコキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレートは、2-(3’-メトキシ)-プロピルオキシプロピル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(3’-メトキシ)-ブチルオキシプロピル-2”-シアノアクリレートは、2-(3’-アルコキシ)-ブチルオキシプロピル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(2’-アルコキシ)-エトキシプロピル-2”-シアノアクリレートは、2-(2’-メトキシ)-エトキシプロピル-2”-シアノアクリレートであってよい。好適な2-(2’-アルコキシ)-エトキシブチル-2”-シアノアクリレートは、2-(2’-メトキシ)-エトキシブチル-2”-シアノアクリレートであってよい。
【0111】
一実施形態において、単官能シアノアクリレートモノマーは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、n-プロピルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択することができ;好ましくは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択することができる。
【0112】
別の実施形態において、シアノアクリレート系モノマーは、少なくとも1種の単官能シアノアクリレートモノマーと少なくとも1種の他のシアノアクリレート系モノマーとの混合物であり;ここで、単官能シアノアクリレートモノマーは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、エチルシアノアクリレート、n-プロピルシアノアクリレート、イソプロピルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択され;好ましくは、2-メトキシエチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、またはそれらの混合物から選択され;少なくとも1種の他のシアノアクリレート系モノマーは、構造(II)のモノマー、構造(III)のモノマー、構造(IV)のモノマー、およびそれらの混合物から選択される。
【0113】
シアノアクリレート系モノマーを調製するための好適なプロセスは、特に、米国特許第2,467,927号および米国特許第9,670,145号に開示されている。
【0114】
液体樹脂は、シアノアクリレート系モノマーを、液体樹脂の総重量に対して45~100重量%、好ましくは70~98重量%、より好ましくは90~98重量%含んでよい。
【0115】
液体樹脂は、多官能シアノアクリレートモノマーおよび/またはハイブリッドシアノアクリレートモノマーを、重合可能なモノマーの総重量に対して1~25重量%、好ましくは3~15重量%、より好ましくは5~10重量%含んでよい。
【0116】
追加の光重合可能なモノマー
シアノアクリレートモノマーに加えて、液体樹脂は、追加の光重合可能なモノマーを含んでもよく、好ましくは(メタ)アクリレートモノマーを含んでもよい。米国出願第2018/215973号には、好適な(メタ)アクリレートモノマーが記載されている。
【0117】
(メタ)アクリレートモノマーは、単官能(メタ)アクリレートモノマー、多官能アクリレートモノマー、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。単官能(メタ)アクリレートモノマーは、直鎖状または分岐状のアルキル、アルコキシルアルキル(alkoxylakyl)、フルフリル、イソボルニル、グリシジルまたはフェノキシエチルのエステル、ならびに環式および複素環式エステルから選択することができる。好適な単官能アクリレートモノマーは、SartomerからSR-531、SR-789の名称で市販されている。多官能(メタ)アクリレートモノマーは、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート(TMPTA)、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート(PETMA)、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビスフェノール-A-ジアクリレート、ビスフェノール-A-ジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノール-A-ジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(Sartomer SR833Sとして市販されている)、プロポキシ化ビスフェノール-A-ジアクリレート、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。多官能(メタ)アクリル酸エステルは、市販されているトリエチレンオキシドジメタクリレートまたはブタンジオールジメタクリレートなどの比較的低分子量のものであってもよいし、または、より高分子量の(メタ)アクリル官能化オリゴマーおよび(メタ)アクリル官能化樹脂であってもよく、例えば、(メタ)アクリル酸エステル末端ポリマーであり、(メタ)アクリル酸末端ポリエステルもしくはウレタンポリマーもしくは共重合体、またはいわゆる(メタ)アクリル酸エステル官能化テレケリック、デンドリマー、もしくは超分岐の材料などであってもよい。好適な(メタ)アクリル系モノマーは、Sartomer、Arkema、およびBASFから市販されており、例えば、SartomerのSR-341、SR-833S、SR-508、およびSR-834などがある。
【0118】
液体樹脂は、追加の光重合可能なモノマーを、光重合可能なモノマーの混合物の総重量に対して5~50重量%含んでよい。
【0119】
代替の実施形態において、液体樹脂は、シアノアクリレート系モノマー以外の光重合可能なモノマーを実質的に含まないものであってよい。「実質的に含まない」とは、追加の光重合性可能なモノマーを、液体樹脂の総重量に対して1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.01重量%以下、最も好ましくは0重量%(含まない)、含む液体樹脂を意味する。
【0120】
樹脂不混和性液体
樹脂不混和性液体は、CLIP法で供給され得る。
【0121】
この液体は、液体樹脂、特にシアノアクリレート系モノマーと混和しない。
【0122】
樹脂不混和性液体は、存在する場合、タンク内に保持され、液体樹脂と樹脂不混和性液体の両方が二層の体積を形成し、後者は前者の下にある。
【0123】
樹脂不混和性液体は、酸性禁止剤を含んでもよいし、本質的に酸性であってもよい。
【0124】
酸性禁止剤
本発明の印刷システムは、酸性禁止剤を液体樹脂に供給するために、酸性禁止剤の供給源を備える。
【0125】
本願では、用語「酸性禁止剤」、「光重合禁止剤」、および「光重合に対する安定剤」は、区別なく使用される。酸性禁止剤は、シアノアクリレート系モノマーを含む液体樹脂を安定させ、その結果、光曝露がなくとも、望まぬ重合を回避することを目的としている。また、酸性禁止剤は、重合ゾーンの外側において、すなわち重合が予期されない液体樹脂の残りの部分(例えば、CLIP法のデッドゾーンの中または体積法の投影パターンの内側)において、重合の防止を維持することも目的とする。
【0126】
酸性禁止剤は、ルイス酸、ブレンステッド酸、酸性イオン交換材料から供給される酸、または光酸発生剤(PAGとしても公知である)から得られる光酸からなる群から選択することができる。
【0127】
ルイス酸は、非プロトン酸であり、三フッ化ホウ素および誘導体、フルオロホウ酸、二酸化硫黄、およびそれらの混合物からなる群から選択することができ;好ましくは、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素エーテラート錯体、三フッ化ホウ素二水和物錯体、三フッ化ホウ素テトラヒドロフラン錯体、トリメチルシリルトリフレート、二酸化硫黄、およびそれらの混合物からなる群から選択することができ;より好ましくは、ルイス酸はエーテラート錯体である。いくつかの実施形態において、ルイス酸は、好ましくは、三フッ化ホウ素もしくはその錯体または二酸化硫黄などの揮発性酸である。
【0128】
ブレンステッド酸は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、(直鎖もしくは)アルキルベンゼンスルホン酸、フッ化水素酸、トリクロロ酢酸、またはトリフルオロ酢酸からなる群から選択することができ;好ましくはスルホン酸であり;より好ましくはメタンスルホン酸である。
【0129】
膜などの酸性イオン交換材料から供給される酸は、遊離スルホン酸の形態であってよい。したがって、シアノアクリレート系モノマーは、本発明の印刷方法の間にスルホン酸基を含む別個の物質と密接に接触することによって禁止され得る。
【0130】
光酸発生剤は、フェニル置換オニウム塩、アリールスルホネートエステル、o-ニトロベンジル系PAG、イミノスルホネートおよびイミドスルホネート、メロシアニン系PAG、ターアリーレン系PAG、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。超酸を生成するアニオンを有するフェニル置換オニウム塩は、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、シクロプロピルジフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、ジメチルフェナシルスルホニウムテトラフルオロボラート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアルセネート、ジフェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホネート、4-イソプロピル(isoproyl)-4’-メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、4-ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート、トリ-p-トリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、トリ-p-トリルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネート、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムビスペルフルオロブタンスルホニルイミドからなる群から選択することができる。好適な光酸発生剤は、富士フイルム和光純薬株式会社およびTCI America Chem Co.から入手可能であり得る。ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェートは、Lambson Ltd.からSpeedcure(登録商標)938の名称で市販されている。好ましい実施形態において、フェニル置換オニウム塩は、単独でおよび/または光増感剤と組み合わせて使用される場合、350~2500nmの波長範囲で使用できる(Progress in Polymer Science;第65巻、2017年2月、1~41頁の例を参照)。したがって、シアノアクリレート系モノマーは、本発明の印刷方法の間に阻害する酸を意図的に光生成することによって、特に光重合のための波長と光禁止のための波長が確実に干渉しないようにすることによって禁止され得る。
【0131】
酸性禁止剤は、任意の適切な手法で供給され得る。酸性禁止剤の供給源は、液体樹脂中に最初から存在していてもよいし、タンクの下方に配置されるがタンクの内容物にはアクセス可能であってもよいし、タンクの下部の区画の中にあってもよいし、液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料の内部にあってもよいし、または樹脂不混和性液体の内部にあってもよい。これらの様々な酸性禁止剤の供給源は、必ずしも互いに排他的ではなく、組み合わせて使用してもよい。酸性禁止剤の供給源とその位置がどうであれ、酸性禁止剤は、シアノアクリレート系モノマーを安定させ、望まぬ重合を防止するのに十分な濃度で、光曝露よりも前に液体樹脂に供給されるべきであり、また光曝露の下では重合ゾーンの外側にも供給されるべきである。
【0132】
液体樹脂は、酸性禁止剤を含む。好ましい実施形態において、液体樹脂は、酸性禁止剤を、液体樹脂の総重量に対して5~100パーツ・パー・ミリオン(ppm)、より好ましくは8~90ppm、さらに好ましくは10~80ppm含む。酸性禁止剤は、液体樹脂中に存在する場合、ルイス酸、ブレンステッド酸、またはそれらの組合せから選択することができる。
【0133】
酸性禁止剤は、酸性禁止剤の唯一のまたは主要な供給源として液体樹脂中に最初から存在する。酸性禁止剤の唯一の供給源として酸性禁止剤が存在することは、体積3D印刷方法にとって特に好適である。酸性禁止剤の主要な供給源として酸性禁止剤が存在することは、連続的線形3D印刷方法および交互積層印刷方法にとって特に好適である。
【0134】
本発明のシステムは、酸性禁止剤の二次的供給源、すなわち液体樹脂中に最初から存在する酸性禁止剤とは異なる酸性禁止剤の供給源を備えてよい。
【0135】
酸性禁止剤は、半透膜から/半透膜を通して、液体樹脂の体積に拡散することができる。半透膜は、光学的に透明な部分であってもよい。そのような場合、酸性禁止剤の供給源は、タンクの下方に配置されることになる。あるいは、半透膜は、仕切り壁が存在する場合、仕切り壁であってもよい。そのような場合、酸性禁止剤の供給源は、タンクの下部の区画の内部に配置されることになる。これらの実施形態において、酸性禁止剤は、揮発性ルイス酸であってよい。したがって、シアノアクリレート系モノマーは、本発明の印刷方法の間にルイス酸の蒸気によって禁止される。
【0136】
酸性禁止剤は、タンクの光学的に透明な部分の内面を覆う液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料からの液体樹脂の体積と接触していてもよい。
【0137】
樹脂不混和性液体もタンク内に保持され、供給され得る。酸性禁止剤は、樹脂不混和性液体との界面で液体樹脂と接触していてもよい。
【0138】
液体樹脂を選択的に重合させる光とは異なる波長の追加の光が放射されてもよく、例えば潜在性PAGを含む液体樹脂に伝送されてもよく、酸性禁止剤は、このようにして、該追加の光によって液体樹脂の体積要素(ボクセル)中に生成されてもよい。
【0139】
光開始
液体樹脂は、光開始系、すなわち光開始剤の供給源を含む。光開始剤は、光重合を促進する。用語「光開始剤」、「光開始剤系」、「光開始系」、および「光開始剤の供給源」は、本明細書では区別なく使用される。好適な光開始系は、その一部がラジカル光開始剤を含んでおり、PCT出願WO2017/021785A1に開示されている。また、光開始剤は、液体樹脂中でシアノアクリレート系モノマーと混合され得る、典型的なアクリレートなどの任意の追加の光重合可能なモノマーに直接作用してもよい。光開始系は、特に、アニオン性または双性イオン性の光開始系、すなわち、アニオン重合または双性イオン重合を促進するのに好適な光開始系である。語句「アニオン性または双性イオン性の光開始系」および「アニオン重合または双性イオン重合を促進するのに好適な光開始系」は、区別なく使用される。
【0140】
好適な光開始系(光開始剤の供給源)は、メタロセン成分(「相乗剤」とも称される)を含み;好ましくは、フェロセン化合物、ルテノセン化合物、ビス(シクロペンタジエンイル)オスミウム化合物(bis(cyclopentadieneyl)osmium compounds)、それらの誘導体、およびそれらの混合物などの、「サンドイッチ化合物」からなる群から選択されるメタロセン化合物を含み;好ましくは、メタロセン化合物は、フェロセン化合物、その誘導体、およびそれらの混合物である。
【0141】
式のフェロセン化合物は、式(V)の化合物であってもよい。
式中、Rは、水素またはC1-4アルキル基であり、1つまたは複数のRが一方または両方の環に存在する。好適なフェロセン化合物は、米国特許第5,824,180号および第6,503,959号に開示されている。
【0142】
液体樹脂は、式(V)のフェロセン化合物を、液体樹脂の全重量に対して100~1000ppm(パーツ・パー・ミリオン)、好ましくは150~500ppm、より好ましくは200~300ppm含んでよい。
【0143】
また、この好適な光開始系(光開始剤の供給源)は、追加の光開始剤も含む。
【0144】
追加の光開始剤は、フェニル置換アシルホスフィン、α-ジケトン、チオキサントン、α-ヒドロキシケトン、ベンジルジメチルケタール、フェニルグリオキシレート、カンファーキノン、アシルゲルマン化合物、ジアルキルシリルグリオキシレート、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。追加の光開始剤は、シアノアクリレート系モノマーの重合速度を上げるのに特に有用である。
【0145】
アシルゲルマン化合物は、式(VI)の化合物
[式中、Rは、メチル基またはフェニル基である];
式(VII)の化合物
[式中、Rは、水素またはメトキシ基である];および
それらの混合物からなる群から選択することができる。
【0146】
好適な追加の光開始剤は、フェニル置換アシルホスフィンについては、Irgacure(登録商標)819(BASF)またはDarocur(登録商標)TPO(BASF)の名称で市販されており;α-ヒドロキシケトンについては、Irgacure(登録商標)184/500/2959(BASF)またはDarocur(登録商標)1173(BASF)の名称で市販されており;ベンジルジメチルケタールについては、Irgacure(登録商標)651(BASF)の名称で市販されており、フェニルグリオキシレートについては、Irgacure(登録商標)754(BASF)またはDarocur(登録商標)MBF(BASF)の名称で市販されており、カンファーキノンについては、Sigma-Aldrich Merckから市販されており、アシルゲルマン化合物については、Ivoclar KGaA& AC Co.からIvocerin(商標)の名称で市販されており;およびジアルキルシリルグリオキシレートについては、Sigma-Aldrich Merckから市販されている。
【0147】
好ましい実施形態において、液体樹脂は、メタロセン化合物とラジカル光開始剤との組合せを含む。該組合せは、光開始効率を劇的に変える。
【0148】
別の好ましい実施形態において、液体樹脂は、式(V)のフェロセン化合物ならびに式(VI)の化合物および/または式(VI)の化合物からなる群から選択されるアシルゲルマン化合物を含む;好ましくは、液体樹脂は、式(V)のフェロセン化合物を100~300ppm、および式(VI)の化合物および/または式(VI)の化合物からなる群から選択されるアシルゲルマン化合物を600~900ppm含む。例えば、CAL法の実施形態において、18mmタンクを使用してもよく、液体樹脂は、式(V)のフェロセン化合物を50~150ppm、および式(VI)の化合物および/または式(VI)の化合物からなる群から選択されるアシルゲルマン化合物を100~300ppm含んでよい。
【0149】
別の好ましい実施形態において、液体樹脂は、式(V)のフェロセン化合物およびカンファーキノンを含む。
【0150】
液体樹脂は、組成物全体の重量に対して、追加の光開始剤を、0.1~2重量%、好ましくは0.5~2重量%、より好ましくは1~2重量%含んでよい。
【0151】
追加の化合物
液体樹脂は、追加の化合物を含んでもよく、特に、ラジカル安定剤、光増感剤(photosentizer)などからなる群から選択される化合物を含んでもよい。
【0152】
ラジカル安定剤
液体樹脂は、ラジカル安定剤を含んでもよい。
【0153】
ラジカル安定剤は、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキシトルエンブチルエーテル、ヒドロキシアニソール、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。ラジカル安定剤は、特に、(メタ)アクリレートモノマーなどの追加の光重合可能なモノマーが液体樹脂中に存在する場合に、製品の貯蔵寿命を延ばすのに役立つ。
【0154】
液体樹脂は、ラジカル安定剤を、液体樹脂の総重量に対して0.001重量%~0.2重量%、好ましくは0.005重量%~0.1重量%、より好ましくは0.002重量%~0.06重量%含んでよい。
【0155】
光増感剤
液体樹脂は、光増感剤を含んでもよい。
【0156】
光増感剤は、チオキサントン化合物であってもよい。好適な材料は、Lambson Ltd.からSpeedCure CPTXという名称で市販されている。例えば、1-クロロ-4-プロピルチオキサントンは、好適な化合物であり、380~420nm、好ましくは395~405nmの波長範囲で感受性が高い。それは、ビス(4-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムヘキサフルオロホスフェートと組み合わせて使用することができる。
【0157】
液体樹脂は、光増感剤を、液体樹脂の総重量に対して0.1重量%~5重量%、好ましくは0.2重量%~3重量%、より好ましくは0.5重量%~2.5重量%含んでよい。
【0158】
増粘剤
液体樹脂は、増粘剤を含んでもよい。増粘剤は、シアノアクリレート系モノマーが通常、常温で水のような粘度を有することを考慮すると、液体樹脂の粘度を制御および/または増加させるのに特に好適である。
【0159】
好適な増粘剤は、ポリ(メタ)アクリレート、アシル化セルロースポリマー(例えば、酢酸セルロース)、ポリ酢酸ビニル、部分加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリオキシレート、ポリカプロラクトン、ポリシアノアクリレート、酢酸ビニル共重合体(例えば、塩化ビニルとの共重合体)、(メタ)アクリレートとブタジエンおよびスチレンとの共重合体、塩化ビニルとアクリロニトリルとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルとの共重合体、ポリ(ブチレンテレフタレート-co-ポリエチレングリコールテレフタレート)、乳酸とカプロラクトンとの共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0160】
好ましくは、増粘剤は、ポリメチルメタクリレート、ポリシアノアクリレート、酢酸ビニルとビニルアルコールとの共重合体、塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体、エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸のエステルまたは部分エステルとの共重合体、およびそれらの混合物からなる群から選択される。好適な材料は、EvonikからDegacryl(登録商標)M 449という名称で市販されており(ポリメチルメタクリレート)、LanxessからLevamelt(登録商標)900という名称で市販されており(酢酸ビニルとビニルアルコールとの共重合体)、WackerからVinnol(登録商標)H 40-60という名称で市販されており(塩化ビニルと酢酸ビニルとの共重合体)、およびDuPontからVamac(登録商標)Gという名称で市販されている(エチレンと酢酸ビニルとマレイン酸のエステルまたは部分エステルとの共重合体)。
【0161】
液体組成物は、増粘剤を、液体樹脂の総重量に対して2重量%~10重量%、好ましくは3重量%~8重量%、より好ましくは4重量%~7重量%含んでよい。
【0162】
チキソトロピー剤
液体樹脂は、チキソトロピー剤を含んでもよい。
【0163】
チキソトロピー剤は、シリカ、好ましくはフュームドシリカ、より好ましくは疎水性フュームドシリカであってもよい。疎水性フュームドシリカは充填剤としても作用し得る。疎水性フュームドシリカは、EvonikからAerosil(登録商標)R202の商品名で市販されている。チキソトロピー剤は、有機系のチキソトロピー剤、好ましくは水素化ヒマシ油であってもよい。
【0164】
液体樹脂は、チキソトロピー剤を、液体樹脂の総重量に対して2重量%~10重量%、好ましくは3重量%~8重量%、より好ましくは4重量%~7重量%含んでよい。
【0165】
充填剤および顔料
疎水性フュームドシリカが存在する場合にはそれに加えて、液体組成物は、その他の充填剤および顔料を含んでもよく、好ましくは酸処理された充填剤および顔料を含んでもよく、より好ましくは有機シリコーン変性表面処理された顔料および充填剤を含んでもよい。その他の充填剤および顔料は、シアノアクリレート系モノマーと相溶性であるべきであり、特にCAL法において、所望される場合には光重合を過度に遅らせてはならない。場合によっては、過剰な光の透過を制限する、または印刷要素の分解能を制限する可能性のある「読み通す」ことを制限するために、顔料を使用することができる。米国特許第4,837,260号および第4,980,086号、ならびに米国特許出願第2005/0171273号および第2008/0038218号には、シアノアクリレートと相溶性である充填剤が記載されている。
【0166】
液体樹脂は、その他の充填剤および顔料を、組成物の総重量に対して0.1~5重量%含んでよい。
【0167】
強化剤
液体樹脂は、強化剤を含んでもよい。
【0168】
強化剤は、ブロック共重合体(例えば、ポリメチルメタクリレート-co-ポリブチルアクリレート-co-ポリメチルメタクリレート)、エラストマーゴム、エラストマーポリマー、液体エラストマー、ポリエステル、アクリルゴム、ブタジエン/アクリロニトリルゴム、ブナゴム、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、天然ゴム、合成ゴム(例えば、スチレン/ブタジエンゴムまたはSBR)、ポリウレタンポリマー、エチレン-酢酸ビニルポリマー、フッ素ゴム、イソプレン-アクリロニトリルポリマー、クロロスルホン化ポリエチレン、ポリ酢酸ビニルの単一重合体、ブロック共重合体、コアシェルゴム粒子、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。
【0169】
液体樹脂は、強化剤を、組成物の総重量に対して1~20重量%、好ましくは5~12重量%含んでよい。
【0170】
可塑剤
液体樹脂は、グリセロールトリアセテートおよびジブチルセバケートなどの可塑剤を含んでもよい。
【0171】
液体樹脂は、可塑剤を、液体樹脂の総重量に対して5~20重量%含んでよい。
【0172】
洗浄溶媒
重合した樹脂でできている、得られた3D物品は、非求核性リンス溶媒で処理され得る。非求核性リンス溶媒による3D物品の処理は、後処理工程(または洗浄工程)に該当し、3D物品の重合した部分を溶解することなく、余分な液体樹脂、したがって未重合のシアノアクリレート系モノマーを洗い流すことを可能にする。
【0173】
非求核性リンス溶媒による3D物品の処理は、印刷の完了直後に行われ、任意選択で、3D物品をべたつきがないものにするために物品を追加の光源に曝露する前に行われる。
【0174】
1種または複数種の単官能シアノアクリレートモノマーのみを含む配合物から得られる3D物品は、1種の非求核性リンス溶媒で洗浄され得るが、実用的な時間尺度(数秒から数分以内)ではその溶媒によって溶解されず、後に所望される場合には、その後に別の溶解溶媒によって溶解され得る。この二重性は、使用される溶媒にもよるが、単官能モノマーには架橋結合がなく、高次官能性がないという理由から、可能である。そのような場合、後処理工程で使用するのに好適な非求核性リンス溶媒は、通常の洗浄条件下で3D物品を有意に溶解しない非求核性リンス溶媒となる。そのような適合性は、下記の試験方法で評価することができる:選択された洗浄溶媒10mLは、常温で100rpmの撹拌で5分以内に、非熱硬化性ポリシアノアクリレートでできている(すなわち、単官能シアノアクリレートモノマーのみから得られる)実質的に球状の物品(顆粒状)0.5gを、1重量%を超えて溶解することができない。
【0175】
多官能シアノアクリレートモノマーおよび/またはハイブリッドモノマーを含み、任意選択で単官能シアノアクリレートモノマーと混合された配合物から得られる3D物品も、非求核性リンス溶媒で洗浄され得る。
【0176】
任意の種類のシアノアクリレート系配合物を用いて、非求核性リンス溶媒で洗浄する後処理工程は、未重合のモノマーを槽から排出することを可能にする。
【0177】
非求核性リンス溶媒は、非塩基性溶媒、非イオン性溶媒(または溶液)、およびそれらの混合物からなる群から選択することができる。溶媒は、塩基性溶媒、求核性溶媒、イオン性溶媒(または溶液)、およびそれらの混合物から選択してはならない。なぜなら、そのような溶媒は、余分な液体樹脂中に存在する遊離した(未重合の)シアノアクリレート系モノマーの重合を開始させる場合があるからである。
【0178】
非求核性リンス溶媒は、炭化水素溶媒および過フッ素化炭化水素溶媒、エーテル溶媒、アセテート溶媒、塩化炭化水素溶媒、極性非プロトン性溶媒、ならびにそれらの混合物からなる群から選択することができる。好適な炭化水素非求核性溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、およびそれらの混合物から選択することができる。好適なエーテル溶媒は、1,4-ジオキサン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、およびそれらの混合物から選択することができる。好適な非求核性塩化炭化水素溶媒は、クロロホルムであってよい。好適な極性非プロトン性非求核性溶媒は、ジクロロメタン、酢酸エチル、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、およびそれらの混合物から選択することができる。
【0179】
例示的な非求核性リンス溶媒は、ペルフルオロオクタンおよび/またはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)などであってよい。
【0180】
3D物品(polyMECA)が2-メトキシエチルシアノアクリレートモノマーのみから得られる場合、後処理工程は、好ましくは、ペルフルオロオクタン、PGMEA、またはそれらの混合物を用いて行われる。例えばイソプロパノールは、使用することが推奨されない。
【0181】
3D物品(polyECA)がエチルシアノアクリレートモノマーのみから得られる場合、後処理工程は、好ましくは、ペルフルオロオクタン、PGMEA、またはそれらの混合物を用いて行われる。例えばイソプロパノールは、使用することが推奨されない。
【0182】
3D物品(polyMCA)がメチルシアノアクリレートモノマーのみから得られる場合、後処理工程は、好ましくは、ペルフルオロオクタン、PGMEA、またはそれらの混合物を用いて行われる。イソプロパノールは、使用することが推奨されない。
【0183】
洗浄溶媒は、塩基性溶媒、求核性溶媒、イオン性溶媒(または溶液)、およびそれらの混合物を実質的に含まないものであってよい。溶媒は、極性非プロトン性溶媒を実質的に含まないものであってよい。溶媒は、実質的に水を含まないものであってよい。「実質的に」とは、溶媒が、化合物を1%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0%、含むことを意味する。
【0184】
3D物品を印刷する方法
本発明による3D物品を印刷する方法(または3D印刷方法)は、
a)シアノアクリレート系モノマー、光開始剤および酸性禁止剤を含み、タンク内に保持される、ある体積の液体樹脂を提供する工程であって、前記該タンクが少なくとも1つの光学的に透明な部分を含む、提供する工程;
b)重合ゾーンを画定する/備える工程;
c)重合ゾーンで液体樹脂を選択的に重合させるために、光を放射および制御し、光を光学的に透明な部分を通して液体樹脂に伝送する工程;
d)重合させた樹脂で作られた三次元物品を得る工程;
e)余分な液体樹脂を除去するために、得られた3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程;ならびに
f)任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程
を含む。
【0185】
一実施形態において、本発明の三次元(3D)物品を印刷する方法は、a)シアノアクリレート系モノマーおよび光開始剤を含み、タンク内に保持される、ある体積の液体樹脂を提供する工程であって、前記タンクが少なくとも1つの光学的に透明な部分を含む、提供する工程;b)重合ゾーンを画定する工程;c)重合ゾーンで液体樹脂を選択的に重合させるために、光を放射および制御し、光を光学的に透明な部分を通して液体樹脂に伝送する工程;d)同時に、重合ゾーンの外側で酸性禁止剤を用いてモノマーの重合を防止する工程;e)重合した樹脂でできている三次元物品を得る工程;f)得られた3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程;ならびに任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程を含む。一実施形態において、本発明の三次元印刷システムは、a)シアノアクリレート系モノマーおよび光開始剤を含む液体樹脂の体積であり、該体積が重合ゾーンを画定する、液体樹脂の体積;b)液体樹脂の体積を保持するためのタンクであり、少なくとも1つの光学的に透明な部分を含む、タンク;c)重合ゾーンにおいて液体樹脂を選択的に重合させるための光を放射する光源;d)重合ゾーンの外側でモノマーの重合を防止するための酸性禁止剤の供給源;f)非求核性リンス溶媒の供給源;ならびにg)任意選択で、物品をべたつきがないものにするための光を放射する追加の光源を備える。
【0186】
液体樹脂、シアノアクリレート系モノマー、光開始剤系、酸性禁止剤、および任意のその他の材料は、上述した通りである。(酸性禁止剤の唯一のまたは主要な供給源としての)液体樹脂中に酸性禁止剤が存在することのみならず、酸性禁止剤の二次的供給源を任意選択的に設けることは、シアノアクリレート系モノマーを安定させるのに好適であり、光曝露よりも前において、さらには光曝露の下での重合ゾーンの外側とにおいても、望まぬ重合を防止するのに好適である。したがって、酸性禁止剤を含む液体樹脂の体積を供給すること、および酸性の追加の供給源を任意選択で設けることは、重合ゾーンの外側で、すなわち光曝露の下で、酸性禁止剤を用いてモノマーの重合を同時に防止する工程を提供することになる。
【0187】
交互積層印刷方法、ならびにCLIP法およびILI法などの連続的印刷方法などのいくつかの実施形態において、光学的に透明な部分は、タンクの底壁に相当し、光はタンクの下方からその底面を通して樹脂の体積中に放射される。アームに移動可能に取り付けられていることが好ましいプラットフォームは、タンクの上方から設けられ、液体樹脂の体積中に沈められる。プラットフォームの底面は、光学的に透明な部分の上面の上方の特定の距離に位置し、それによって液体樹脂で構成される空間を形成する。
【0188】
3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程は、後処理工程(洗浄工程)である。この工程は、短時間、すなわち非求核溶媒が3D物品と接触している時間の間、行われる。非求核性リンス溶媒は、3D物品と10分間以下、好ましくは5分間以下、より好ましくは3分間以下、接触していてよい。
【0189】
一実施形態において、3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程は、3D物品を非求核性溶媒に15秒間以下、浸漬することによって行われる。この浸漬工程は、非常に短時間で余分な液体樹脂およびあらゆる未重合モノマーを除去できるという点で有利である。
【0190】
後処理工程の間、余分な液体樹脂(したがって未重合のシアノアクリレートモノマー)は洗い流されるが、その一方で3D物品を形成するポリシアノアクリレートの溶解はない。
【0191】
3D物品を追加の光源に曝露する工程は、その3D物品をべたつきがないものにするのに好適である。
【0192】
この工程は、380nm~470nmの波長で行われ得る。
【0193】
この工程は、環境光、または例えばLEDなどの任意の好適な照明器具を用いて行われ得る。好適なLEDとしては、低照度、例えば5~50mW/cmの放射照度を有するLEDなどが挙げられる。
【0194】
この工程は、短時間、すなわち3D物品が光に曝露されている間の時間、行われる。3D物品は、60秒間以下、好ましくは1~30秒間、より好ましくは1~20秒間、光に曝露され得る。
【0195】
本発明の3D印刷方法は、以下の追加の工程を含んでよい。これらの工程のいくつかは、本明細書で前述したように、特定の方法および/または条件に依存してよい。
【0196】
本発明の方法は、光学的に透明な部分を備えるタンクを提供し、液体樹脂を保持するための少なくとも1つの区画を形成する工程を含んでよい。
【0197】
本発明の方法は、タンクを垂直Z軸方向に回転自在に移動させる工程を含んでよい。
【0198】
本発明の方法は、液体樹脂と接触している、光学的に透明な部分の内面に重合した樹脂が付着するのを防止するため、その光学的に透明な部分の内面を処理する工程を含んでよい。
【0199】
本発明の方法は、光制御装置を用いて光の放射を制御する工程を含んでよい。特に、本発明の方法は、光源と光学的に透明な部分との間に光制御装置を介在させる工程を含んでよい。
【0200】
本発明の方法は、重合を光禁止するために、異なる波長を有する追加の光を放射する工程を含んでよい。
【0201】
本発明の方法は、垂直Z軸に沿ったプラットフォームの移動を可能にするために、アームに移動可能に取り付けられているプラットフォームを提供する工程を含んでよい。
【0202】
本発明の方法は、酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程を含んでよい。
【0203】
本発明の方法は、光学的に透明な部分を通して、あるいは仕切り壁を通して、酸性禁止剤を液体樹脂の体積に拡散させる工程を含んでよい。
【0204】
本発明の方法は、タンクの光学的に透明な部分の内面を、液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料で覆う工程を含んでよい。本発明の方法は、その液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料から酸性禁止剤を液体樹脂の体積に放出する工程をさらに含んでもよい。
【0205】
本発明の方法は、樹脂不混和性液体を提供する工程を含んでよい。本発明の方法は、その樹脂不混和性液体から酸性禁止剤を液体樹脂の体積に放出する工程をさらに含んでもよい。
【0206】
本発明の方法は、液体樹脂の体積中で酸性禁止剤を光発生させる工程を含んでよい。
【0207】
本発明の方法は、光開始系(光開始剤の供給源)を、メタロセン化合物とラジカル光開始剤との組合せを含む液体樹脂に供給する工程を含んでよい。
【0208】
本発明の3D印刷方法は、従来の手法でコンピュータにより実行することができる。このことは、本発明の方法の工程(または実質的にすべての工程)が、少なくとも1つのコンピュータまたは任意の同様なシステムによって実行されることを意味する。したがって、本発明の方法の工程は、コンピュータによって、場合によっては完全に自動的にまたは半自動的に行われ得る。実施例では、本発明の方法の工程の少なくとも一部の始動は、ユーザーとコンピュータとの対話によって行われる。必要とされるユーザーとコンピュータとの対話のレベルは、予見される自動化のレベル次第であり、ユーザーの希望を実行する必要性とのバランスをとってよい。実施例では、このレベルは、ユーザーによって定義され得るおよび/または事前に定義され得る。例えば、実施形態に応じて、光の強度、光の制御、プラットフォームの上昇、タンクの回転、液体樹脂の供給および/または酸性禁止剤の供給は、少なくとも1つのコンピュータまたは任意の同様なシステムによって実行され得る。
【0209】
交互積層3D印刷方法
いわゆる「ボトムアップ」の交互積層3D印刷方法は、下記の工程:
a)区画を形成する底壁と少なくとも1つの側壁とを備え、少なくとも1つの光学的に透明な部分が底壁に配置されている、固定タンクを提供する工程;
b)シアノアクリレート系モノマー、光開始剤系および酸性禁止剤を含み、タンク内に保持される、液体樹脂の体積を提供する工程;
c)タンクの下方に配置されている光源を提供する工程;
d)任意選択で、酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程;
e)プラットフォームを設け、そのプラットフォームを液体樹脂に浸漬し、そのプラットフォームの底面をタンクの光学的に透明な部分から特定の距離に配置する工程;
f)重合ゾーンを画定するために、画定されたパターンによる光に液体樹脂を連続的に曝露する工程;
g)同時に、Z軸に沿ってプラットフォームを上に向かって移動させ、液体樹脂が最初の層の下層と光学的に透明な部分の上面との間に流れ込むようにし、その後、3D物品の最初の層を光重合させるために、プラットフォームの底面と光学的に透明な部分の上面との間の特定の距離までプラットフォームを下に向かって降下させる工程;
h)3D物品を印刷するための追加の層を光重合させるために、工程f)を繰り返す工程;
i)重合した樹脂でできている三次元物品を得る工程;
j)余分な液体樹脂を除去するために、得られた3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程(後処理工程);および
k)任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程
を含んでよい。
【0210】
連続的線形3D印刷方法
連続的線形3D印刷方法は、CLIP法またはILI法から選択することができる。
【0211】
CLIP法およびILI法などの連続的線形3D印刷方法は、下記の工程:
a)区画を形成する底壁と少なくとも1つの側壁とを備え、少なくとも1つの光学的に透明な部分が底壁に配置されている、固定タンクを提供する工程;
b)シアノアクリレート系モノマー、光開始剤系および酸性禁止剤を含み、タンク内に保持される、液体樹脂の体積を提供する工程;
c)タンクの下方に配置されている光源を提供する工程;
d)任意選択で、酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程;
e)プラットフォームを設け、そのプラットフォームを液体樹脂に浸漬し、そのプラットフォームの底面をタンクの光学的に透明な部分から特定の距離に配置する工程;
f)重合ゾーンを画定するために、画定されたパターンによる光に液体樹脂を連続的に曝露する工程;
g)同時に、液体樹脂を徐々に光重合させるために、特定の上昇速度でプラットフォームを上方に移動させる工程;
h)余分な液体樹脂を除去するために、得られた3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程(後処理工程);および
i)任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程
を含んでよい。
【0212】
好ましい実施形態において、光学的に透明な部分と重合ゾーンとの間に挟まれたデッドゾーンが形成される。デッドゾーンは、光学的に透明な部分と接触しているゾーンであって、樹脂が光に曝露されても重合しないゾーンである。液体樹脂中に存在する酸性禁止剤ばかりでなく、コーティングなどの従来の手段に加えて、酸性禁止剤の追加の供給源を設けることによって、デッドゾーンをさらに得ることができる。本発明の方法が酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程を含む場合、タンクは、そのタンクを2つの区画、すなわち上部の区画と下部の区画に分割するために、半透膜などの仕切り壁を備えてよい。あるいは、タンクの光学的に透明な部分の内面は、膜などの、液状のまたは湿潤可能な光学的に透明な材料で覆われてもよい。あるいは、タンクは、樹脂不混和性液体をさらに含んでもよい。そのような場合、液体樹脂を保持する区画の下部(例えば、光学的に透明な部分、半透膜、液状のもしくは湿潤可能な光学的に透明な材料の表面、または樹脂不混和性の液体)から追加の酸性禁止剤を供給することは、酸性禁止剤の勾配を形成し、それにより、ラジカル光重合に依拠する従来の3D印刷方法で使用される酸素に類似した方法で、液体樹脂を保持する区画の下部の近傍で光禁止を抑制する。
【0213】
体積3D印刷方法
体積3D印刷方法は、下記の工程:
a)垂直Z軸周りに回転自在に移動させることができるタンクであり、区画を形成する底壁と少なくとも1つの側壁とを備え、少なくとも1つの光学的に透明な部分がタンクの側壁に配置されている、タンクを提供する工程;
b)シアノアクリレート系モノマー、光開始剤系および酸性禁止剤を含み、タンク内に保持される、ある体積の液体樹脂を提供する工程;
c)タンクの少なくとも1つの側に配置されている光源を提供する工程;
d)任意選択で、酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程;
e)液体樹脂を徐々に光重合させるために、連続的にまたは特定の順序のいずれかで、少なくとも第1のセットの光に液体樹脂を曝露する工程;
f)同時にタンクを特定の回転速度で回転させる工程;
g)重合した樹脂でできている三次元物品を得る工程;および
h)余分な液体樹脂を除去するために、得られた3D物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程(後処理工程);および
i)任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程
を含んでよい。
【0214】
体積3D印刷方法は、CAL法または二波長体積光重合法から選択される。
【0215】
好ましい実施形態において、体積3D印刷方法は、酸性禁止剤の追加の供給源を提供する工程を含まない。
【0216】
3D印刷された物品
本発明の3D印刷方法によって、3D印刷された物品が得られる。
【0217】
本発明に従って3D印刷された物品は、少なくとも部分的には、ポリシアノアクリレートでできている。3D印刷された物品は、ポリシアノアクリレートを、物品の総重量に対して50重量%~含んでよい。3D印刷された物品は、シアノアクリレートを、物品の総重量に対して55重量%~、または60重量%~、または65重量%~、または70重量%~、または75重量%~、または80重量%~、または85重量%~、または90重量%~、または95重量%~含んでよい。3D印刷された物品は、ポリシアノアクリレートを、物品の総重量に対して95重量%まで含んでよい。3D印刷された物品は、ポリシアノアクリレートを、物品の総重量に対して90重量%まで、または85重量%まで、または80重量%まで、または75重量%まで含んでよい。一実施形態において、3D印刷された物品は、ポリシアノアクリレート以外の別のポリマーを実質的に含まないものであってよい。「実質的に含まない」とは、ポリシアノアクリレート以外の別のポリマーを、1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下、より好ましくは0.01重量%以下、最も好ましくは0重量%(含まない)、含む物品を意味する。
【0218】
「3D印刷された物品」とは、成型されていない物品を意味する。「ポリシアノアクリレート」とは、個別のシアノアクリレート系モノマーの重合から得られる単一重合体、または混合されたシアノアクリレート系モノマーの共重合体を意味する。任意選択で、(メタ)アクリレートモノマーなどの追加の光重合可能なモノマーを、シアノアクリレート系モノマーと共重合させてもよい。
【0219】
一実施形態において、3D印刷される物品は、単官能シアノアクリレート系モノマーのみから得られる。このような3D物品は、リサイクル可能な物品である。「リサイクル可能」とは、適切な溶解溶媒を適切な条件下で使用すると、少なくとも部分的に溶解させることができる物品を意味する。
【0220】
一実施形態において、3D印刷される物品は、多官能シアノアクリレート系モノマーから得られる。このような3D物品は、耐久性(または耐溶媒性)のある物品である。「耐久性」とは、溶媒に溶解させることができない物品を意味する。
【0221】
重合された樹脂は、充填剤、顔料、可塑剤などの任意の追加の化合物を含んでもよい。
【0222】
3D印刷された物品は、本発明の3D印刷方法の汎用性の高さを考慮すると、任意の形状、デザイン、および美的態様を有してよい。特に、3D印刷された物品は、交互積層3D印刷方法から製造された場合であっても、層状化されていない物品である。また、3D物品は、べたつきがない物品である。「べたつきがない」とは、光ラジカル重合において一般的な、いわゆる表面空気による禁止を物品が示さないことを意味する。
【0223】
リサイクル方法
別の態様において、本発明は、単官能シアノアクリレートモノマーのみから得られ、特に上記本発明の3D印刷方法を用いて得られる、ポリシアノアクリレートでできている3D物品をリサイクルする方法であって、3D物品を溶解するのに十分な時間、3D物品を溶解溶媒で処理する工程を含む、方法に関する。
【0224】
この処理工程(リサイクル工程)は、後処理工程(洗浄工程)には該当しない。
【0225】
リサイクル工程は、必要でありかつ所望される場合、例えば、3D物品が不良品である場合、および/または3D物品がその目的を果たし、もはや必要とされなくなった後に、行われる。
【0226】
リサイクル工程は、三次元物品を印刷した直後またはそれより後の段階で行うことができる。
【0227】
リサイクル工程を実行することにより、製造から廃棄(リサイクル)までの製品の一生涯を管理することができる。したがって、そのような製造からリサイクルまでの方法は、
a)単官能シアノアクリレート系モノマー、光開始剤系および酸性禁止剤を含み、タンク内に保持される、液体樹脂の体積を提供する工程であり、該タンクが少なくとも1つの光学的に透明な部分を含む、工程;
b)重合ゾーンを画定する工程;
c)重合ゾーンで液体樹脂を選択的に重合させるために、光を放射および制御し、光を光学的に透明な部分を通して液体樹脂に伝送する工程;
d)重合した樹脂でできている三次元物品を得る工程;
e)余分な液体樹脂を除去するために、得られた三次元物品を非求核性リンス溶媒で処理する工程;
f)任意選択で、得られた三次元物品をべたつきがないものにするために、物品を追加の光源に曝露する工程;
g)任意選択で、得られた三次元物品を、適切な期間、使用する工程;
h)3D物品を溶解するのに十分な時間、3D物品を溶解溶媒で処理する工程
を含むことになる。
【0228】
任意選択の使用工程は、適切な期間、継続してよい。その期間は、得られる物品および意図される用途によって異なる。適切な時間は、数分(例えば、1~60分)、数時間(例えば、1~24時間)、数日(例えば、1~31日)、数か月(例えば、1~12か月)、または数年(例えば、1年~(1~5年など))であってよい。
【0229】
リサイクル工程は、3D物品の部分的または完全な溶解を可能にし、その時間は、予期される溶解の程度に応じて選択されるべきである。リサイクル工程は、1~72時間、好ましくは2~48時間、行うことができる。
【0230】
リサイクル工程は、常温で行ってもよいし、3D物品の溶解を速めるために高温で行ってもよい。しかしながら、その温度は、溶解溶媒の沸点未満でなければならない。
【0231】
3D物品(polyMECA)が2-メトキシエチルシアノアクリレートモノマーのみから得られる場合、その3D物品を溶解するための好ましい溶解溶媒としては、アセトン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチル、トリトリルホスフェート、グリセロールトリアセテート、2-メトキシエチルシアノアセテートなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0232】
3D物品(polyECA)がエチルシアノアクリレートモノマーのみから得られる場合、その3D物品を溶解するための好ましい溶解溶媒としては、アセトン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチル、トリトリルホスフェート、グリセロールトリアセテート、エチルシアノアセテートなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0233】
3D物品(polyMCA)がメチルシアノアクリレートモノマーのみから得られる場合、その3D物品を溶解するための好ましい溶解溶媒としては、アセトン、プロピレンカーボネート、アセトニトリル、イソプロパノール、トルエン、酢酸エチル、トリトリルホスフェート、グリセロールトリアセテート、エチルシアノアセテート、メチルシアノアセテートなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【実施例
【0234】
材料の一覧
3D物品を印刷するために様々な液体樹脂を使用し、溶媒処理工程では様々な溶媒を使用した。
【0235】
材料の一覧は下記の通りである。
モノマー1:2-メトキシエチルシアノアクリレート(MECA)
モノマー2:メチルシアノアクリレート(MCA)
モノマー3:ポリメチルメタクリレート
モノマー4:1,6-ヘキサンジオールビスシアノアクリレート
モノマー5:二官能トリシクロデカンジメタノールジアクリレート
酸性禁止剤:BFエーテラート(ルイス酸)
フリーラジカル安定剤:ヒドロキノン
光開始剤1:2-メトキシエチルシアノアクリレート中のIvocerin(登録商標)0.2w/w%ストック溶液
光開始剤2:純粋固体としてのIvocerin(登録商標)
光開始剤3:グリセロトリヘプタノエート(GTH)中のフェロセン2.5w/w%ストック溶液
チキソトロピー剤:疎水性フュームドシリカ
【0236】
実施例1
液体樹脂:粘度が39cPs(室温、50rpm)である樹脂A(下記表1参照)
【0237】
印刷方法:直径が約18mmである円筒形タンクを用いたPCT出願WO2019/043529A1に記載されているCAL法。
【0238】
3D物品の形状:図1に示す通りであり、3Dコンピュータにより生成されたモデルで、3D印刷方法の能力を試験するために特別に設計された「3Dbenchy」較正用のボートの形状。このモデルは、長方形および円形の開口部、様々な傾斜の張出し部、斜面、中実および中空の箱形および円筒形、止まり穴、ならびにアンダーカットなど、様々な幾何学的配置を備える小型タグボートの形状を有する。その通常の寸法は、11mm(長さ)×7mm(幅)×11mm(高さ)である。それは、通常、ベンチマークの3D物品とされている(オンライン出版物を参照;https://3dprint.com/57361/3dbency-calibrating-tool/)。
【0239】
照明装置:波長405nmで作動し、600mAの電流で駆動されるレーザーダイオード。
【0240】
溶媒処理:重合後、非求核性リンス溶媒で洗浄する前に、3D物品を液体樹脂から取り出した。典型的な洗浄操作は、i)3D物品もせき止めるシアノアクリレート適合フィルター(典型的な孔径1mm)を用いて、未硬化樹脂を槽から排出させる、ii)フィルター+印刷された物品を、非求核性リンス溶媒を含む容器に浸漬し、残存するあらゆる液体樹脂が物品から除去されるまで1分間待つ、iii)洗浄された3D物品を分離することを含む。
【0241】
追加の光処理:溶媒処理を行った後、さらに、3D物品を追加の光源(青色LED、波長405nm、光強度50mW/cm、曝露時間30秒)に曝露した。
【0242】
非求核性溶媒の使用を、求核性溶媒の例としてイソプロパノール(参考)の使用と比較した(下記表2の結果を参照)。
【0243】
イソプロパノールは、求核性溶媒の一例であるが、余分な液体樹脂中に存在する遊離(未重合)モノマーの重合を開始させるため、本発明による溶媒処理を行うのに適した溶媒ではない。
【0244】
実施例2
液体樹脂:粘度が52cPs(室温、50rpm)である樹脂B(下記表3参照)
【0245】
プロトコール:液体樹脂を選択的に重合させるための光を60~70%の送達量で伝送した以外は、実施例1と同じである。さらに、溶媒処理を行った後、3D物品を追加の光源(青色LED、波長405nm、光強度30mW/cm、曝露時間2秒)に曝露した。
【0246】
3Dを追加の光源に曝露する工程の実行を、溶媒処理工程を実行した後に試験した(下記表4の結果参照)。
【0247】
溶媒処理工程を実行した後、3Dを追加の光源に曝露する工程を実行することにより、満足のいく乾燥した手触りの表面を有する3D物品を得ることができる。
【0248】
実施例3
液体樹脂:粘度が40cPs(室温、50rpm)である樹脂C(下記表5参照)
【0249】
プロトコール:液体樹脂を選択的に重合させるための光を60~70%(試行C1)または40~50%(試行C2)のいずれかの送達量で伝送した以外は、実施例1と同じである。
【0250】
溶媒処理工程および3D物品を追加の光源に曝露する工程の両方を含む印刷方法と、両方の工程をいずれも含まない印刷方法(参考)とを対比した(下記表6の結果参照)。
【0251】
実施例4
液体樹脂:粘度が38cPs(室温、50rpm)である樹脂D(下記表7参照)
【0252】
プロトコール:液体樹脂を選択的に重合させるための光を40~50%の送達量で伝送した以外は、実施例1と同じである。
【0253】
溶媒処理工程と3Dを追加の光源に曝露する工程の両方を含む印刷方法と、両方の工程をいずれも含まない印刷方法(参考)とを対比した(下記表8の結果参照)。
【0254】
実施例5
液体樹脂:粘度が58cPs(室温、50rpm)である樹脂E(下記表9参照)
【0255】
プロトコール:液体樹脂を選択的に重合させるための光を50%の送達量で伝送した以外は、実施例1と同じである。
【0256】
「3Dbenchy」のボート形状の代わりに「ARKEMA」のロゴが表面に印刷された3D物品を印刷するために、印刷装置を設定した(下記表10の結果参照)。図2に、ARKEMAのロゴとともに得られた3Dロゴを示す。その3Dロゴの寸法は、22mm(長さ)×6mm(幅)×3mm(高さ)である。
【0257】
洗浄の操作は、次の実施例のいくつかで異なる:E1およびE2では、3D物品を非求核性リンス溶媒に1分間曝露したのに対し、E3およびE4では、物品を約5秒間該溶媒に単に浸漬しただけである。
【0258】
「過剰な重合」とは、印刷しようとする目標の体積を超える重合を指す。
【0259】
実施例6
液体樹脂:粘度が39cPs(室温、50rpm)である樹脂H(下記表11参照)
【0260】
結果を下記表12に示す。
【0261】
溶媒中の3D物品の不溶性についての試験の測定は、アセトン(20mL)中に試料を24時間浸漬した後のバルク硬化ポリマー(0.3g)に対して行う。不溶部分をろ過し、60℃で一定の質量まで乾燥させ、元の質量または硬化物と比較する。実施例の利点として、実施例1~9で得られたポリマーは完全に可溶である。
【0262】
実施例7
液体樹脂:粘度がそれぞれ6cPs、200cPs、10cPs、および33cPs(室温、50rpm)である樹脂I~L(下記表13参照)。
【0263】
印刷方法:CLIP法
3D物品の形状:長方形または円筒形の形状
照明装置:100個のLED(波長450nm、放射照度約3mW/cm、ベース層への初期光曝露60秒、本体への連続光曝露3,000秒)。
LCDマスク:あり
プラットフォームの上昇:連続速度60秒当たり100μm
溶媒処理:重合後、非求核性リンス溶媒で洗浄する前に、3D物品をプラットフォームから取り外した。
追加の光処理:溶媒処理工程の後、3D物品を低出力の(low-powdered)青色LEDトーチ(波長405nm)に10秒曝露する。
【0264】
結果を下記表14に示す。
図1
図2
【国際調査報告】