(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-14
(54)【発明の名称】金属空気電池及び製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20240206BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20240206BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240206BHJP
【FI】
H01M12/06 A
H01M12/08 K
H01M12/06 F
H01M12/06 D
H01M4/86 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023547189
(86)(22)【出願日】2022-02-11
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2022053445
(87)【国際公開番号】W WO2022175187
(87)【国際公開日】2022-08-25
(32)【優先日】2021-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502350250
【氏名又は名称】ヴァルタ マイクロバッテリー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】コールズ ウルリヒ
【テーマコード(参考)】
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
5H018AA10
5H018DD03
5H018EE02
5H018EE04
5H018EE08
5H018EE19
5H032AA02
5H032AS03
5H032AS11
5H032BB05
5H032CC01
5H032CC11
5H032EE05
5H032HH01
(57)【要約】
金属空気電池(100)は、第1のハウジング部分(111)と第2のハウジング部分(112)とを有し、これらがともに電池ハウジング(110)を形成する。この金属空気電池は、金属をベースとするアノード(120)及び層型空気カソード(130)及び電解質を含む。第1のハウジング部分(111)は、少なくとも1つの通気開口部(114)を有する。第1のハウジング部分(111)と空気カソード(130)との間に層型空気拡散器(140)が配置される。空気カソード(130)と金属をベースとするアノード(120)との間に層型セパレーター(150)が配置される。本発明によると、層型空気拡散器(140)は、通気性であり、空気カソード(130)に面する第1の側と、空気カソード(130)から離れて面する第2の側とを有し、層型空気拡散器(140)は、側の少なくとも1つに疎水性コーティングを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属空気電池(100)であって:
a.前記金属空気電池は、第1のハウジング部分(111)及び第2のハウジング部分(112)を有し、これらがともに電池ハウジング(110)を形成する;及び
b.前記金属空気電池は、金属をベースとするアノード(120)と、層型空気カソード(130)と、電解質とを含む;及び
c.前記第1のハウジング部分(111)は少なくとも1つの通気開口部(114)を有する;及び
d.前記第1のハウジング部分(111)と前記空気カソード(130)との間に層型空気拡散器(140)が配置される;及び
e.前記空気カソード(130)と前記金属をベースとするアノード(120)との間に層型セパレーター(150)が配置される;
という特徴を有し:
f.前記層型空気拡散器(140)は、通気性となるように構成され、前記空気カソード(130)に面する第1の側と、前記空気カソード(130)から離れて面する第2の側とを有する;及び
g.前記層型空気拡散器(140)は、前記側の少なくとも1つに疎水性コーティングを有する、
という特徴を特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
a.前記疎水性コーティングがポリテトラフルオロエチレンコーティングである、
というさらなる特徴を有する、請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項3】
a.前記疎水性コーティングがアルキルケテンダイマーコーティングである、
というさらなる特徴を有する、請求項1に記載の金属空気電池。
【請求項4】
a.前記疎水性コーティングが、ポリテトラフルオロエチレンの分散物、特に水性分散物を用いたコーティングをベースとする;
b.前記疎水性コーティングが、ポリテトラフルオロエチレンの分散物、特に水性分散剤中のポリテトラフルオロエチレンの分散物を用いたコーティングをベースとし、前記分散物中のポリテトラフルオロエチレンの固体含有量が5~75重量%、好ましくは15~60重量%の範囲内、特に好ましくは30±2重量%である;
c.前記疎水性コーティングが、少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの溶液又は分散物を用いたコーティングをベースとする;
d.前記疎水性コーティングが、少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの分散物、特に水性分散剤中の少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの分散物を用いたコーティングをベースとし、前記分散物中の前記少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの固体含有量が、好ましくは0.01~8.0重量%、好ましくは0.08~3.0重量%、特に好ましくは0.1~1.0重量%の範囲内である、
というさらなる特徴の少なくとも1つを有する、請求項2又は請求項3に記載の金属空気電池。
【請求項5】
a.前記層型空気拡散器(140)が、親水性材料で形成された通気性マトリックスを含む、
というさらなる特徴を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項6】
a.前記通気性マトリックスが不織布である;
b.前記通気性マトリックスが繊維混合物から形成され、好ましくは前記繊維混合物が、ポリビニルアルコールの繊維を、特に少なくとも50重量%の比率で含む;
c.前記通気性マトリックスが、未被覆状態で20~30g/m
2の範囲内、好ましくは24~26g/m
2の範囲内の単位面積当たりの重量を有する;
d.前記通気性マトリックスが、未被覆状態で、20,000~40,000cm
3/cm
2・分の範囲内、好ましくは25,000~35,000cm
3/cm
2・分の範囲内、特に好ましくは29,000~30,000cm
3/cm
2・分の範囲内の通気度を有する、
というさらなる特徴の少なくとも1つを有する、請求項5に記載の金属空気電池。
【請求項7】
a.前記層型空気拡散器(140)が、両側にコーティングを有する、
というさらなる特徴を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項8】
a.前記層型空気拡散器(140)が、ポリテトラフルオロエチレンのコーティングを有し、40~160g/m
2の範囲内、好ましくは45~100g/m
2の範囲内、特に好ましくは60~70g/m
2の範囲内の単位面積当たりの重量を有する;
b.前記層型空気拡散器(140)が、少なくとも1つのアルキルケテンダイマーを用いたコーティングを有し、10~50g/m
2の範囲内、好ましくは20~30g/m
2の範囲内の単位面積当たりの重量を有する、
というさらなる特徴のいずれか1つを有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項9】
a.前記金属空気電池(100)が、前記空気カソード(130)と前記層型空気拡散器(140)との間に少なくとも1つの追加層(131、132)を含む;
b.前記少なくとも1つの追加層(131、132)が、疎水性の膜、好ましくはポリテトラフルオロエチレンでできた膜である、
というさらなる特徴の少なくとも1つを有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項10】
a.前記金属空気電池(100)が亜鉛空気電池である;
b.前記金属空気電池(100)がボタン電池である、
というさらなる特徴の少なくとも1つを有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の金属空気電池のための層型空気拡散器(140)の製造方法であって:
a.通気性マトリックスが提供される;及び
b.前記通気性マトリックスに疎水性コーティングが設けられる;
という方法ステップを含み、
c.ポリテトラフルオロエチレンの分散物、特に水性分散剤中のポリテトラフルオロエチレンの分散物、又は少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの溶液若しくは分散物が、前記疎水性コーティングに用いられる、方法。
【請求項12】
a.ポリテトラフルオロエチレンの前記分散物が、5~75重量%、好ましくは15~60重量%の範囲内、より好ましくは30±2重量%の前記分散剤中のポリテトラフルオロエチレンの固体含有量を有する;
b.前記少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの前記分散物が、0.01~8.0重量%、好ましくは0.01~3.0重量%、より好ましくは0.05~0.8重量%の範囲内の前記分散剤中のアルキルケテンダイマーの固体含有量を有する、
というさらなる特徴のいずれかを有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
a.前記コーティングが浸漬プロセスによって設けられる、
というさらなる特徴を有する、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
金属空気電池(100)を製造するための、疎水性コーティングを有する通気性マトリックスを有する層型空気拡散器(140)の使用。
【請求項15】
a.製造される前記金属空気電池(100)が、請求項1~10のいずれか一項に記載の特徴の少なくとも1つを有する、
というさらなる特徴を有する、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属空気電池、層型空気拡散器の製造方法、及び金属空気電池を製造するための層型空気拡散器の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は、通常、金属をベースとするアノードと空気カソードとを電気化学的活性成分として含み、これらはセパレーターによって互いに空間的に分離されるが、同時にイオン伝導性電解質を介して接続される。セパレーターには、通常は電解質が含浸される。放電中、酸素は、空気カソードにおいて還元され、これにともなって電子が取り込まれる。水酸化物イオンが形成され、これは電解質を介してアノードまで移動する。そこで、アノードのベースとなる金属は、電子の放出を伴って酸化される。これによって得られる金属イオンは水酸化物イオンと反応する。
【0003】
一次及び二次の両方の金属空気電池が存在する。一次金属空気電池は再充電できない。二次金属空気電池は、アノードと空気カソードとの間に電圧を印加し、記載の電気化学反応が逆方向に進むことによって再充電される。このプロセス中に酸素が放出される。金属空気電池の最もよく知られた例は亜鉛空気電池である。ボタン電池の形態で、特に補聴器のエネルギー貯蔵セルとして用いられる。
【0004】
空気カソードにおける酸素の要求を、周囲環境からの大気中酸素によって満たすことができるので、金属空気電池は、非常に高いエネルギー密度を有する。したがって、放電プロセス中に、大気中酸素を空気カソードに供給する必要がある。逆に、二次金属空気電池の充電プロセス中、空気カソードにおいて生成する酸素を除去する必要がある。これらの理由から、金属空気電池は、一般に、対応する入口及び出口開口部が設けられたハウジングを有する。一般に、入口及び出口開口部としてハウジング中に孔が形成され、例えば打ち抜かれる。
【0005】
通常、金属空気電池中の空気カソードとして、ガス拡散電極が用いられる。ガス拡散電極は、電気化学反応に関与する物質(一般に、触媒、電解質、及び大気中酸素)が固体、液体、及び気体の形態で隣り合って存在し、それらが互いに接触することができる電極である。触媒は、大気中酸素の還元を触媒し、必要であれば、電池の充電中の水酸化物イオンの酸化も触媒する。
【0006】
プラスチックが結合したガス拡散電極は、特にボタン電池の形態の金属空気電池中の空気カソードとして用いられることが多い。このようなガス拡散電極は、例えば独国特許出願公開第3722019 A1号明細書に記載されている。このような電極中、プラスチックバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン、略してPTFE)は、多孔質マトリックスを形成し、その中に電気化学的活性材料の粒子(例えば、白金若しくはパラジウムなどの貴金属の粒子又は酸化マンガン粒子)が埋め込まれる。これらの電気化学的活性材料は、大気中酸素の前述の変換を触媒する。このような電極は、バインダーと触媒との乾燥混合物を圧延して箔を形成することによって製造される。この乾燥混合物は、例えば、圧延によって、銀、ニッケル、又は銀めっきされたニッケルのメッシュ又はエキスパンドメタルグリッドを得ることができる。金属メッシュ又はエキスパンドメタルは、電極内の導体構造を形成し、導体として機能する。
【0007】
このような空気カソード中で酸素が還元されると、そのプロセス中に放出される電子は、前述の導体構造を介して放電することができる。導体構造は、好ましくは、電池の極として機能するハウジングの一部と直接接触する。
【0008】
前述の酸素の入口又は出口は、特にボタン電池である場合、一般に、金属空気電池のハウジングの底部に形成される。酸素が開口部を通って空気カソードとできる限り直接的に接触できるようにするため、このような電池中の空気カソードは、通常、開口部を覆うようにハウジング底部上に平坦に配置される。これには多くの場合、層型空気拡散器が空気カソードとハウジング底部との間に設けられ、例えば多孔質濾紙が設けられる。
【0009】
英国特許第2109622 B号明細書には、ボタン電池の形態の亜鉛空気電池が記載されている。PTFE膜が空気カソードの下に設けられ、これと空気カソードとを合わせたものが積層体を形成する。濾紙でできた多孔質空気拡散ディスクが、この積層体と、通気開口部を有するハウジング底部との間に設けられ、それによって流入した空気は表面にわたって分散し、カソードへの空気の分散した接近が実現される。
【0010】
同様の構造の亜鉛空気電池が、国際公開第01/93366 A1号パンフレットによって知られている。ここでも、空気カソードはPTFE膜との積層体として形成される。積層体のガス透過性PTFE膜と、空気入口開口部を有するハウジング底部との間に、空気分散層が設けられる。
【0011】
多くの場合、金属空気電池に関連する問題は、特に、高湿度条件下の放電中に、放電中又は放電後に、電池の通気開口部から漏れが発生しうることである。この理由は、吸湿性電解質は、周囲の空気から気体の水を吸収するからである。湿度が高いほど、多くの水を電解質が吸収する。この水の吸収のため、金属空気電池の内圧は、空気カソード積層体の疎水性PTFE膜が水性電解質をもはや十分はじけなくなる点まで増加する。この結果、電解質は膜から押し出される。ハウジング底部における通気開口部の方向で、電解質がPTFE膜を通過するとすぐに、多孔質空気分散層、例えば空気分散紙は、電解質を吸収し、電池の通気開口部からの漏れが発生する。
【0012】
国際公開第2006/098718 A1号パンフレットには、疎水性膜を有する空気カソード積層体と、及び多孔質材料、例えば紙でできた空気分散層との間にさらなるPTFE膜が設けられる金属空気電池が記載されている。
【0013】
国際公開第2008/051508 A2号パンフレットでは、積層されたPTFE膜を有する空気カソードが設けられた金属空気電池が扱われている。ハウジング底部と、空気カソード積層体との間に空気分散層が設けられ、これは多孔質の紙又は繊維から形成することができる。別の実施形態では、空気分散層は、通気性で疎水性のPTFE膜であってよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
言及される従来技術の方法では、金属空気電池で起こり得る漏れの問題は満足できる方法で解決されない。したがって、本発明は、一方で、電解質の漏れを確実に防止し、他方で、金属空気電池の最適な機能が保証される金属空気電池を提供するという課題を設定している。さらに、例えば、経済的な方法での金属空気電池の大量生産にも適した費用対効果の高い解決策が提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この問題を解決するために、本発明は、請求項1の特徴を有する金属空気電池を提案する。さらに、問題は、層型空気拡散器の製造方法、及び金属空気電池を製造するためのその使用によって解決される。金属空気電池、及び層型空気拡散器の製造方法、及び金属空気電池を製造するためのその使用の好ましい実施形態は、従属請求項からも明らかとなるであろう。
【0016】
本発明による金属空気電池は、以下の特徴a.~e.を特徴とする:
a.金属空気電池は、第1のハウジング部分及び第2のハウジング部分を有し、これらを合わせたものが電池ハウジングを形成し;
b.金属空気電池は、金属をベースとするアノードと、層型空気カソードと、電解質とを含み;
c.第1のハウジング部分は、少なくとも1つの通気開口部を有し;
d.第1のハウジング部分と空気カソードとの間に層型空気拡散器が配置され;
e.空気カソードと金属をベースとするアノードとの間に層型セパレーターが配列される。
電池は、特に以下の特徴f.及びg.を特徴とする:
f.層型空気拡散器は、通気性となるように構成され、空気カソードに面する第1の側と、空気カソードから離れて面する第2の側とを有し;
g.層型空気拡散器は、側の少なくとも1つの上に疎水性コーティングを有する。
【0017】
一方で、通気性であり、したがって金属空気電池表面の表面上に入る空気の最適な分散が可能となり、他方で、電解質の通過を防止する疎水性コーティングを有する層型空気拡散器によって、電池の漏れを確実に防止し、又は極限条件下でさえも少なくとも長時間遅延させることが可能な金属空気電池の提供が可能となる。疎水性コーティングは、電池に十分な大気中酸素を供給することができ、最適な機能性が維持されるように十分な通気性が保証されるように設計される。空気拡散器がウィッキング作用によって電解質で飽和し始めて、電解質を通気開口部に向けて引き込むことを、疎水性コーティングは確実に防止する。空気拡散器の疎水性コーティングは、電解質をハウジングの通気開口部から離して維持し、電池は、全く漏れが生じないか、又は、極限条件下で、従来の金属空気電池と比較して、通気開口部から非常に遅い段階でのみ漏れが生じる。したがって、本発明による金属空気電池が、例えば補聴器中に用いられる場合、電解質の漏れによる装置の損傷を回避することができる。
【0018】
被覆された空気拡散器に加えて、本発明による金属空気電池は、原理上、従来の金属空気電池と同様に構成することができる。特に、本発明による金属空気電池は、従来の金属含有アノード、従来の空気カソード、及びアノードと空気カソードとの間に配列される従来のセパレーターを有することができる。例えば、最初に記載のガス拡散電極は、本発明による金属空気電池の空気カソードとして適切である。本発明による金属空気電池に適切な電解質は、例えば、従来の電解質水溶液、特にアルカリ性水溶液である。適切なセパレーターとしては、例えば、電解質を含浸させた不織布、又は電解質を含浸させた多孔質プラスチックフィルムが挙げられる。
【0019】
従来の金属空気電池のように、本発明による金属空気電池のハウジング中に設けられた少なくとも1つの通気開口部によって、空気酸素は、金属空気電池の電池ハウジングに確実に進入することができる。通気開口部のサイズ及び寸法によるが、1つの開口部が通気開口部として十分となりうる。しかし、数個の通気開口部、例えば2~10個の開口部、又は特に好ましくは2~5個の開口部を設けることもできる。
【0020】
多孔質濾紙若しくは類似のものの形態の空気拡散層、又は単に疎水性材料としてのPTFE膜のいずれかを有する従来の金属空気電池と比較すると、空気拡散器の疎水性コーティングによって、金属空気電池の表面上に入る空気の最適な分散が実現され、電解質の漏れが確実に防止される。
【0021】
本発明による被覆された空気拡散器は、必ずしもハウジング及び/又は空気カソードに直接接続する必要はない。しかし、電池のハウジング内に層型空気拡散器を固定することもできる。例えば、層型空気拡散器は、ハウジングのカップ底部に、例えば接着剤の1つ以上のドットによって固定することができる。好ましくは、層型空気拡散器は、ほぼ中央に接着剤ドットでカップ底部に接続される。
【0022】
本発明の第1の特に好ましい実施形態では、疎水性コーティングは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コーティングである。本発明の目的に特に適切なものは、非分岐で線上に形成された半結晶性のフッ素と炭素とのPTFEの変形体である。PTFEは、疎水性であり、したがって撥水性である。さらに、これは種々の化学物質に対して非常に抵抗性であるので、エネルギー貯蔵セルにおける使用に非常に適している。
【0023】
特に好ましい方法では、本発明による金属空気電池は、すぐ下のさらなる特徴a.及びbの少なくとも1つを特徴とする:
a.疎水性コーティングは、ポリテトラフルオロエチレンの分散物、特に水性分散物を用いたコーティングをベースとする;
b.疎水性コーティングは、ポリテトラフルオロエチレンの分散物、特に水性分散剤中の分散物、特に水中の分散物を用いたコーティングをベースとしており、分散物中のポリテトラフルオロエチレンの固体含有量は、5~75重量%、好ましくは15~60重量%の範囲内であり、特に好ましくは30±2重量%である。
【0024】
疎水性コーティングは、好ましくは粒子状コーティングである。特に好ましい方法では、コーティングは、0.04~1μmの範囲内の平均サイズ(d50)を有するPTFE粒子を含む。d50値の特に好ましいサイズ範囲は0.10~0.30μmの範囲内である。特に、<0.04μmのサイズを有する分散物中のPTFE粒子の比率は10%未満である。さらに、>1μmのサイズを有する分散物中のPTFE粒子の比率は10%未満であることが好ましい。
【0025】
特に水中のポリテトラフルオロエチレンの対応する分散物は、容易に調製し処理することができる。原理上は、別の分散剤も可能である。しかし、低コストで入手可能であり、一般にさらなる安全対策なしに使用できるので、水が分散剤として特に好ましい。例えば、60%の固体含有量のPTFEを有する出発分散物を、適切な分散物を調節するための出発点として用いることができる。この出発分散物を水と混合して、コーティングに用いることができる。
【0026】
分散物のポリテトラフルオロエチレンの重量パーセント値が高いほど、コーティングの疎水性が高くなり、電解質の漏れをより効果的に防止することができる。しかし、分散物中のポリテトラフルオロエチレンの重量比率は75重量%以下であることが特に好ましく、その理由は、より高いパーセント値の分散物を用いたコーティングは、空気拡散器の通気度を大幅に低下させることがあり、したがって空気拡散器の空気分散特性はもはや最適とならない場合があるからである。特に好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンの重量パーセント値は5~75重量%の範囲内である。15~60重量%の範囲が特に非常に好ましい。特に好ましい実施形態では、分散剤中のポリテトラフルオロエチレンの濃度又は重量分率は30±2重量%である。これらのパーセント値は、コーティングに用いられる分散物中のポリテトラフルオロエチレンの固体含有量を意味する。
【0027】
原理上、別の材料を疎水性コーティングに用いることもできる。例えば、ポリエーテルケトン(PEK)又は疎水性ポリエーテルスルホンは、疎水性コーティング材料として適切である。例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)が特に適切である。本発明の別の特に好ましい一実施形態では疎水性コーティングは、アルキルケテンダイマーコーティングである。
【0028】
アルキルケテンダイマーは、一般に以下の一般構造式:
【化1】
による2-オキセタノンの4員環系をベースとする。
【0029】
残基Rは、それぞれの場合で、同一の場合も異なる場合もある炭化水素基である。好ましくは、これらは、6~24個の炭素原子を有する非分岐又は分岐アルキル基又はアルケニル基である。さらに、残基Rは、少なくとも6個の炭素原子を有するシクロアルキル基、又は少なくとも6個の炭素原子を有するアリール基、又は少なくとも7個の炭素原子を有するアラルキル基、又は少なくとも7個の炭素原子を有するアルカリール基、又はそれらの混合物であってよい。適切なアルキルケテンダイマーは、例えば、AQUAPEL(登録商標)(例えばSolenis LLC社、USA)の商品名で入手可能である。例えば、AQUAPEL(登録商標)201が、本発明の目的に特に適切である。
【0030】
少なくとも1つのアルキルケテンダイマーを用いたコーティングでは、コーティングによって非常に良好な撥水性が得られる。同時に、アルキルケテンダイマーコーティングの特定の利点の1つは、特に分散物中の固体含有量が以下のさらに言及される好ましい範囲内である場合に、コーティングは、一般に、層型空気拡散器の通気度に全く又はほとんど悪影響を与えないことである。この点において、アルキルケテンダイマーを用いたコーティングは、ポリテトラフルオロエチレンを用いたコーティングよりも優れている場合がある。ポリテトラフルオロエチレンを用いたコーティングに対するアルキルケテンダイマーを用いたコーティングのさらなる利点は、アルキルケテンダイマーは、取り扱いが容易であり、さらに、フッ素を含まないのでより環境に優しいことである。
【0031】
特に好ましい方法の1つでは、疎水性コーティングは、少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの分散物を用いたコーティングをベースとし、特にこれは水性分散物である。アルキルケテンダイマーは、一般に水に対して不溶性であり、好ましくは水性分散物としてコーティングが提供される。アルキルケテンダイマーは、典型的には約45℃の範囲内の融点を有するので、約50℃を超える水中のアルキルケテンダイマーの混合物はエマルジョンとして存在し、すなわち、液体媒体中に液滴を有する2相系として存在し、約40℃未満では分散物として存在し、すなわち液体媒体中に固体粒子を有する2相系として存在する。コーティング用の<40℃の温度を有するこのような分散物が、本発明の目的のために特に好ましい。
【0032】
分散剤中の少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの固体含有量が0.01~8.0重量%の範囲内である場合が好ましい。特に好ましくは、固体含有量は、0.05~5.0重量%、特に好ましくは0.08~3.0重量%の範囲内である。コーティング分散物中の0.7~0.9重量%の範囲内の固体含有量が特に好ましいが、その理由は、驚くべきことに非常に高い疎水性がこのような低い値において既に実現され、同時に通気度は低下せず、単位面積当たりの重量は増加しないからである。このような固体含有量で、本発明者らは特に良好な結果を実現でき、非常に良好な水遮断特性とともに、被覆された空気拡散器の非常に良好な通気度が得られた。良好な結果は0.16重量%の固体含有量でも得られた。好ましくは、コーティング用の分散物中のアルキルケテンダイマーの粒度は、平均で1μm未満、好ましくは0.5μm未満の範囲内であり、例えば平均で約0.3μmである。
【0033】
コーティング分散物のpHは、好ましくはpH7未満、特に好ましくはpH4未満の範囲内である。コーティング分散物は、カチオンデンプン又はその他の物質などの安定剤をさらに含むことができる。安定剤の例は、特に欧州特許第2691572 B1号明細書に記載されるような水溶性アルキルグリシジルエーテル変性ポリ(アミノアミド)である。さらに、コーティング分散物は、殺生物剤などの別の添加剤を含むことができる。
【0034】
特に好ましい方法の1つでは、本発明による金属空気電池は以下のさらなる特徴aを特徴とする:
a.層型空気拡散器は、親水材料から形成された通気性マトリックスを含む。
【0035】
特に好ましい実施形態では、本発明による金属空気電池は、通気性マトリックスに関してすぐ下のさらなる特徴a.~d.の少なくとも1つを有する:
a.通気性マトリックスは不織布である;
b.通気性マトリックスは、繊維混合物から形成され、好ましくはこの繊維混合物は、ポリビニルアルコールの繊維を、特に少なくとも50重量%の比率で含む;
c.通気性マトリックスは、未被覆状態で20~30g/m2の範囲内、好ましくは24~26g/m2の範囲内の単位面積当たりの重量を有する;
d.通気性マトリックスは、未被覆状態で、20,000~40,000cm3/cm2・分の範囲内、好ましくは25,000~35,000cm3/cm2・分の範囲内、特に好ましくは29,000~30,000cm3/cm2・分の範囲内の通気度を有する。
特に好ましい方法の1つでは、すぐ上の特徴a.及びb.、又はa.及びb.及びc.、又はa.及びb.及びc.及びd.は、それぞれ互いの組み合わせで実現される。特に適切な不織布(コーティング前)の多孔度は、例えば、70~90%の範囲内、好ましくは約80%の範囲内である。
【0036】
混合繊維は、例えば、ポリビニルアルコール繊維とレーヨン繊維との混合物であってよい。ポリビニルアルコール繊維の比率は、例えば50~80%、好ましくは60~70%の範囲内であってよい。レーヨン繊維の比率は、例えば20~50%、好ましくは30~40%の範囲内であってよい。特に好ましい一実施形態では、混合繊維は、65%のポリビニルアルコール繊維と、35%のレーヨン繊維とからなる。
【0037】
原理上、製造技術に関して容易に加工可能であり、金属空気電池のアルカリ電解質に対して抵抗性であり、例えば、電池化学に対する悪影響がないあらゆる繊維が、繊維混合物の製造に適切となる。
【0038】
個別の繊維の平均長さは、1mm~10mmの範囲内であってよく、例えば、3~5mmの範囲、例えば4mmが特に好ましい。
【0039】
一般に、不織布は、原理上はあらゆる方法で接続されるが、製織及び編成などによっては形成されない限定された長さの繊維によって形成されることを特徴とする。したがって、紙も繊維ウェブとして理解されるべきである。
【0040】
本発明の目的のためには、通気性マトリックスは、PTFEでできた不織布よりも親水性が高い混合繊維から形成されることが特に好ましい。このためには、これは好ましくは、PTFEよりも親水性が高いポリマー、例えばポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体の繊維を含む。これは好ましくは少なくとも50%の比率でこれらの繊維を含む。必要な疎水性は、不織布にPTFE分散物又はアルキルケテンダイマーコーティングをコーティングすることによって不織布に付与される。
【0041】
不織布は、ポリビニルアルコールの繊維を大きな比率で含む場合が、特に好ましい。この方法で製造できる不織布は、本発明による層型空気拡散器の製造に特に適切であるが、その理由は、安定性について、通気度について、並びに得られる電池の漏れの防止に関する、及び電池内の最適な空気の分散に関するPTFE分散物若しくはアルキルケテンダイマーを用いたコーティングについて特に良好な結果を実現できるからである。
【0042】
未被覆状態で25g/m2からの範囲内の通気性マトリックスの単位面積当たりの重量が、本発明の目的のために特に適切であるが、その理由は、空気拡散器の通気性マトリックスの材料がこのような厚さを有すると、結果として得られる金属空気電池の性質に関して非常に良好な結果が得られているからである。同じことが、未被覆状態で29,000~30,000cm/cm32・分の範囲内のマトリックスの通気度にも適用され、これを用いて製造した金属空気電池に関して特に良好な結果が得られる。
【0043】
特に好ましい方法の1つでは、本発明による層型空気拡散器は、両側にコーティングを有する。特に単純で実際的な方法の1つでは、空気拡散器のこのようなコーティングは、空気拡散器の通気性マトリックスを、PTFE又はアルキルケテンダイマーを有する対応する分散物中に浸漬する浸漬方法によって実現することができる。続いて、乾燥、例えば室温における乾燥を行うことができる。このプロセスは、十分に自動化することができ、そのため金属空気電池の製造における大量生産にも適している。有利には、通気性マトリックスのシート状材料のより大きな部分が、浸漬プロセスにおいて被覆される。次に、空気拡散器に必要な金型を、例えばスタンピングプロセスによって製造することができる。
【0044】
原理上、層型空気拡散器の一方の側にのみ疎水性コーティングが設けることもできる。これらの実施形態では、疎水性コーティングを有する側が、空気カソードの方向に配置される場合に有利となる。この実施形態では、電解質の漏れが特に確実に防止されるが、その理由は、疎水性コーティングを有する層型空気拡散器の側が、電解質に主として接触する側であるからである。
【0045】
本発明による金属空気電池の特に好ましい実施形態では、電池は層型空気拡散器に関して、すぐ下のさらなる特徴を常に有する:
a.層型空気拡散器は、ポリテトラフルオロエチレンのコーティングを有し、40~160g/m2の範囲内、好ましくは45~100g/m2の範囲内、より好ましくは60~70g/m2の範囲内の単位面積当たりの重量を有する;又は
b.層型空気拡散器(140)は、少なくとも1つのアルキルケテンダイマーを用いたコーティングを有し、10~50g/m2の範囲内、好ましくは20~30g/m2の範囲内の単位面積当たりの重量を有する。
【0046】
特に良好な結果は、被覆された空気拡散器の場合に65±2g/m2の範囲内の単位面積当たりの重量を有するPTFEで被覆された空気拡散器を用いて、それを取り付けた金属空気電池の性質に関して得られている。この領域の被覆された材料の単位面積当たりの重量では、未被覆の通気性マトリックスが29,000cm/cm32・分からの範囲内の通気度を有する場合、好ましくは水中のPTFEの30重量%分散物を用いて調製される疎水性コーティングは、通気度に悪影響を与えない。すなわち、通気度は、疎水性コーティングにもかかわらず、非常に高い。特に好ましい方法の1つでは、PTFEで被覆された空気拡散器の通気度は、21,000~23,000cm3/cm2・分の範囲内である。他方、疎水性コーティングは、層型空気拡散器を介した金属空気電池の漏れが生じないことを意味する。より高いパーセント値のPTFE分散物を用いたコーティングによって実現されうる、層型空気拡散器の単位面積当たりの重量が非常に大きい場合は、空気拡散器の通気度に悪影響が生じる場合があり、そのため、それを取り付けた金属空気電池の全ての機能は、もはや保証できない。
【0047】
アルキルケテンダイマーで被覆された空気拡散器の場合、好ましい単位面積当たりの重量は20~30g/m2の範囲内であり、例えば、0.8又は7.6重量%を含むアルキルケテンダイマーの水性分散物が、好ましくはコーティングに用いられる。結果として得られる疎水性は非常に高く、同時に、通気度に対する悪影響は検出できない。特に好ましい方法の1つでは、アルキルケテンダイマーで被覆された空気拡散器の通気度は21,000~23,000cm3/cm2・分の範囲内である。
【0048】
本発明による金属空気電池のさらに好ましい実施形態では、すぐ下のさらなる特徴a.及び/又はb.の少なくとも1つを得ることができる:
a.金属空気電池は、空気カソードと層型空気拡散器との間に少なくとも1つの追加層を含む;
b.少なくとも1つの追加層は、疎水性膜であり、好ましくはポリテトラフルオロエチレンでできた膜である。
特に好ましい方法では、直前に記載の特徴a.及びb.は、互いの組み合わせによって実現される。
【0049】
空気カソードと層型空気拡散器との間の追加層は、例えば、積層又は別の接合プロセスによって、層型空気カソードと組立体、例えば積層体を形成するPTFE膜であってよい。別の実施形態では、PTFE膜は、空気カソードと空気拡散器との間に密接でなく位置することができる。
【0050】
これに加えて、さらなる好ましい実施形態では、さらなる層、特にさらなるPTFE膜を、空気カソード組立体(積層体)と空気拡散器との間に設けることができる。この方法では、例えば、空気カソードへの空気の供給を改善する細孔の勾配を実現することができる。同時に、金属空気電池の特に高度の漏れの安全性を実現することができ、これは特に非常に高湿度の条件下で有利となりうる。さらなるPTFE膜は、例えば、空気カソード又は空気カソード積層体と層型空気拡散器との間に密接でなく位置することができる。別の実施形態では、さらなる層、すなわち特にさらなるPTFE膜は、空気カソード組立体にしっかりと接続することもでき(例えば、積層又は別の接合プロセスによって)、それによって空気カソードに2つのPTFE膜が取り付けられる。
【0051】
従来の金属空気電池中の空気カソードと同等の、本発明による金属空気電池の空気カソードは、好ましくは少なくとも1つの貴金属、特に白金及び/又はパラジウム、及び/又は酸化マンガンを含み、酸化マンガンが電気化学的活性材料として特に好ましい。
【0052】
好ましくは、本発明による金属空気電池の層型空気カソードは、プラスチック(プラスチックバインダー)、特にPTFEの多孔質マトリックスと、電気化学的活性材料の粒子とによって形成される。さらに、伝導性物質として、例えばカーボンブラックを含むことができる。製造中、これらの物質は乾燥混合物として提供することができ、圧延プロセスによって層に成形することができる。好ましくは、空気カソードは、例えば銀、ニッケル、又は銀めっきされたニッケルの金属メッシュをさらに含む。或いは、金属メッシュ、エキスパンドメタル、金属化不織布、又は同様の導電体を用いることができ、それによって金属導体構造が形成される。製造プロセス中、プラスチックバインダー及び触媒粒子、並びに場合によりカーボンブラックなどを含む乾燥混合物を、この構造上に圧延することができる。このシート状構造から円形又は類似の形状を打ち抜くことができ、これを、製造される金属空気電池のハウジング中の空気カソードとして用いることができる。
【0053】
空気カソードは、円周のカソードディスク端部を有するカソードディスクの形態であってよい。このカソードディスクは、カソードディスクの端部が円周接触ゾーンに沿ってハウジングの領域の内側に隣接するように、金属空気電池のハウジング内に配置することができる。この接続において、好都合には、空気カソードの金属アレスター構造、すなわち、例えば銀メッシュなどが、カソードディスク端部においてカソードディスクから突出する。これらの点において、金属空気電池のハウジングへの導電性接続が実現され、結果として得られる空気カソードの接続によってハウジングの極性が決定される。
【0054】
本発明による金属空気電池の金属をベースとするアノードは、従来の金属空気電池と同様の方法で設計することもできる。好ましくは、金属をベースとするアノードは、電気化学的活性材料として金属粉末、特に金属亜鉛及び/又はアルミニウム及び/又はマグネシウムの粉末を含む。この場合、亜鉛又は亜鉛合金が特に好ましく、本発明による金属空気電池の特に好ましい実施形態では、これによってこれは亜鉛空気電池となる。しかし、原理上は、亜鉛の代わりにアルミニウム及び/又はマグネシウムなどの別の被酸化性金属を用いることもできる。
【0055】
本発明による金属空気電池を製造する場合、金属をベースとするアノードの材料は、ハウジング中に、例えばペーストの形態で導入することができる。
【0056】
ハウジングに関して、本発明による金属空気電池は、好ましくは、すぐ下のさらなる特徴a.~eの少なくとも1つを特徴とする:
a.第1のハウジング部分は、以下で電池カップと呼ばれ、カップ型であり、カップ底部を有する;
b.第2のハウジング部分は、以下で電池蓋と呼ばれ、カップ型である。;
c.第1のハウジング部分及び/又は第2のハウジング部分は、金属材料、特に鋼、好ましくはニッケルめっきされた鋼、及び/又は薄板金、及び/又はトライメタル、好ましくはニッケル、鋼、及び銅を有するトライメタルからなる;
d.第1のハウジング部分と第2のハウジング部分との間に少なくとも1つの電気絶縁シールが設けられる;
e.少なくとも1つの通気開口部は、10~500μmの範囲内の開口部直径を有する。
好ましくは、すぐ上に記載の特徴a.及びb.及びc.、特に好ましくはa.及びb.及びc.及びd.は、互いの組み合わせで実現される。さらに、これらの実施形態では、特徴e.も好ましくは実現される。
【0057】
さらに好ましい実施形態では、2つ以上の通気開口部を本発明による金属空気電池のハウジング中に設けることができる。この場合、特に大気中酸素が均一に分布して入ることができるように、通気開口部は、特に有利には、電池カップのカップ底部の表面上に分布させることができる。しかし、特に本発明による層型空気拡散器はカップ底部を介して入る空気酸素の特に良好で均一な分布が可能であるので、一般にただ1つの通気開口部が設けられれば十分である。
【0058】
本発明による金属空気電池の特に好ましい実施形態では、電池はボタン電池であり、すなわち、円形又は楕円形の底面と、底面の直径よりも小さい高さとを有する円筒形電池である。しかし、本発明による金属空気電池は異なる形状を有することも可能である。特に、ボタン電池の実施形態では、金属空気電池のハウジングは、上記電池カップ及び上記電池蓋、並びに好都合にはシールを含む。電池カップと電池蓋とは電池の極を形成する。
【0059】
底部領域に加えて、電池カップは、好ましくは環状シェルを有し、好ましくは底部領域と環状シェルとを分離する円周端部も有する。端部は、鋭利な場合も丸みがついている場合もある。電池蓋は、好ましくは同様の構造を有する。一般にはこれも底部領域及び環状シェルを有する。しかし、円周端部の代わりに、好ましくはショルダー型遷移領域を有することもできる。
【0060】
電池カップ及びその領域のそれぞれは、電池ハウジングの内部空間に面する内側と、反対側に面する外側とを有する。同じことが電池蓋及びその領域のそれぞれにも適用される。好ましくは、電池カップと電池蓋との両方は、電池カップ及び電池蓋の開口端部を形成する円周状の切り口を有する。好ましい実施形態では、電池蓋の切り口は、末端で折り重ねることができ、それによって二重の開口端部を有することができる。開口端部は、それぞれのシェル領域を定め、開口部を確定し、これを通って電池カップ及び電池蓋の内部に到達することができる。
【0061】
好ましい実施形態では、電池カップ及び電池蓋の底部領域は平坦であり、円形又は楕円形の形状を有する。好ましくは同じことが開口端部によって画定される開口部にも適用される。特に好ましくは、電池カップ及び電池蓋の平坦な底部領域は、ハウジング内で互いに平行に配置される。
【0062】
電池カップ及び電池蓋の環状シェル領域は、好ましくは円形又は楕円形の形状を有する。一般に、環状シェル領域又は環状シェル領域の少なくとも軸方向部分は、関連する底部領域に対して直角に又は少なくとも実質的に直角に向けられる。シェル領域の高さは、好ましくはそれぞれの場合で円周方向で一定である。
【0063】
電池カップの場合、シェル領域が底部領域と90°の角度で出会うことが好ましい。この場合、電池カップの端部は、好ましくは電池カップの底部とシェル領域との間に鋭利な境界を形成する。これは電池蓋の場合と異なり、好ましい実施形態では、電池蓋の底部領域も、電池蓋の環状シェル領域又はシェル領域の少なくとも1つの軸方向部分と90°の角度を形成するが、これらの領域は直接接触しないことが好ましい。結果として生じる間隙は、好ましくはショルダー型遷移領域によって占められる。
【0064】
電池蓋は、一般に、最初に切り口又は開口端部を有する電気カップ中に挿入される。シールによって、電池カップと電池蓋とが互いに分離される。これによって確実に2つのハウジング部分が互いに電気的に絶縁される。これは、ハウジングの外側からの封止も行い、電池カップと電池蓋との間の境界領域での電解質の漏れを防止する。
【0065】
電池カップと電池蓋とで構成されるハウジングは、好ましくは基本的な円筒形を有する。一般に、電池カップの底部領域は、ハウジングの平坦な底部側を形成し、一方、電池蓋の底部領域は、ハウジングの平坦な上部側を形成する。側面では、ハウジングは、電池カップのシェル領域が境界となる。
【0066】
好ましい実施形態では、ハウジングはクリンプによって閉じられる。このために、シェル領域の境界となる開口端部を含む電池カップのシェル領域の末端部分は、半径方向内側にプレスされ、その結果、開口端部によって画定される開口部の断面が減少する。好ましい実施形態では、クリンプされた開口端部は、電池蓋の遷移領域上、又はこの領域に取り付けられたシール上にある。電池カップ及び電池蓋は、一般に、クリンプによってかみあって接合される。
【0067】
前述のように、電池カップと電池蓋との両方は、好ましくは金属材料から、例えば深絞りプロセスによって製造される。適切な材料としては、例えば、ニッケルめっきされた深絞り板、又はニッケルの1層と、銅の1層と、鋼又はステンレス鋼の中間層とを有するクラッド複合材料(いわゆるトライメタル)が挙げられる。
【0068】
シールは好ましくは、例えば独国特許出願公開第19647593 A1号明細書に記載されるようなフィルムシールである。熱可塑性でできたフィルムシールが好ましい。適切な材料としては、ポリアミド又はポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。しかし、これとは別に、シールは、例えばこれもポリアミドでできた従来の射出成形シールであってもよい。
【0069】
本発明による金属空気電池の好ましい設計の1つでは、電池カップの底部領域は実質的に平坦である。カップの底部は、例えば0.02~0.09mmの範囲内の小さな段を有することもできる。通気開口部が設けられる底部領域では、疎水性コーティングを有する層型空気拡散器が電池内部に配置される。空気拡散器には空気カソードが続き、これは、PTFE膜又は別の疎水性膜との積層体として場合により形成することができ、空気カソードの膜側が存在する場合、これは空気拡散器に面する。必要であれば、別の疎水性層、特に別のPTFE膜を、空気カソード積層体と層型空気拡散器との間に設けることができる。これに、層型セパレーターが続き、これはセパレーターディスクの形態であってよく、これは空気カソード上に存在する。セパレーターディスクは、カソードディスクとして設計することができる空気カソードと同様に、一般に電池カップの底部領域に対して平行に位置合わせされる。セパレーター上には、金属をベースとするアノードが例えばペーストの形態で存在する。上部に向けて、ハウジングは、アノードに隣接する電池蓋によって閉じられる。
【0070】
特にディスク型設計の空気カソード及びセパレーターは、最初に、製造中に例えばリボン型箔から切り抜く又は打ち抜くことができ、次に順次電池カップ中、好ましくは電池カップの底部領域上に挿入する及び/又は押し込むことができ、ここで底部領域上には先に層型空気拡散器が挿入されている。一般に、すべてディスク型である空気カソード、セパレーター、及び空気拡散器は、ほぼ同じ直径の円形ディスクとして構成される。次にこれらは、金属空気電池のハウジングの内部空間内に互いの上に平坦に配置される。
【0071】
ボタン電池の形態の本発明による金属空気電池の典型的な実施形態は、電池の高さが約3.30mm(国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission)、IEC 60082-2に準拠したPR70設計)から5.40mm(IECに準拠したPR44設計)まで、及び電池の直径が約5.65mm(IECに準拠したPR70設計)及び11.60mm(IECに準拠したPR44設計)を有するほぼ円筒形の設計を特徴とする。
【0072】
本発明は、上記説明による金属空気電池のために提供される層型空気拡散器の製造方法をさらに含む。層型空気拡散器の製造方法は、すぐ下のステップa.~c.を特徴とする:
a.通気性マトリックスを提供し;
b.通気性マトリックスに疎水性コーティングを設け;ここで、
c.ポリテトラフルオロエチレンの分散物、特に水性分散剤中、例えば水中のポリテトラフルオロエチレンの分散物、又は少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの溶液若しくは分散物が、疎水性コーティングに用いられる。
【0073】
この方法のさらなる詳細に関して、特に、通気性マトリックス及び疎水性コーティングの特徴、並びに従来の空気拡散器に対する関連の利点に関して、上記説明も参照される。
【0074】
本発明の方法の特に好ましい実施形態では、この方法は、すぐ下のさらなる特徴a.又はbのいずれかを特徴とする:
a.ポリテトラフルオロエチレンの分散物は、分散剤中のポリテトラフルオロエチレンの固体含有量が、5~75重量%、好ましくは15~60重量%の範囲内、より好ましくは30±2重量%である;
b.少なくとも1つのアルキルケテンダイマーの分散物は、分散剤中のアルキルケテンダイマーの固体含有量が、0.1~8.0重量%、好ましくは0.5~3.0重量%、より好ましくは0.5~1.0重量%の範囲内である。
【0075】
特に好ましい実施形態では、コーティングは浸漬によって実現される。一方では、浸漬プロセスは、この方法を用いてコーティングを非常に簡単に、確実に、わずかな労力で行うことができるという利点を有する。他方では、これによって、多額の装置費用を必要とせずに、非常に一貫した再現性のある結果が実現される。浸漬プロセス中、1回の操作で、通気性マトリックスの比較的大きな部分の両側を被覆することができる。次に、空気拡散器に必要な形状を、例えば切り取ったり、又は打ち抜いたりすることができる。
【0076】
浸漬プロセスを行うために、通気性マトリックス、例えば繊維不織布を、PTFE分散物中又はアルキルケテンダイマー分散物中に数秒(例えば1~10秒)間浸漬することができる。好ましくはこの後に乾燥が行われ、これは例えば室温又は周囲条件で行うことができる。
【0077】
本発明は、金属空気電池を製造するための、疎水性コーティングを有する通気性マトリックスを有する層型空気拡散器の使用をさらに含む。特に、製造される電池は、上記説明による金属空気電池である。この使用に関する、又は本発明による層型空気拡散器を用いた金属空気電池の製造方法に関するさらなる詳細は、同様に上記説明から得ることができる。
【0078】
特に、この方法により、金属空気電池のハウジング部分が提供される。層型空気拡散器、任意の追加層、空気カソード、電解質を含浸させることができるセパレーター、及び金属をベースとするアノードが、ハウジング部分内に挿入され、ハウジングが閉じられ、必要であれば絶縁及び/又は封止が行われる。この適切な製造方法は当業者には周知である。
【0079】
本発明のさらなる特徴及び利点は、図面と関連する好ましい実施例の以下の説明から明らかとなるであろう。ここで、個別の特徴のそれぞれは、別々に、又は互いの組み合わせで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図1】本発明による金属空気電池の一実施形態による概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0081】
図1は、基本的に従来技術で周知の設計を有する金属空気ボタン電池100の断面を示しており、この金属空気電池100には、本発明による疎水性コーティングを有する層型空気拡散器140が取り付けられる。
【0082】
金属空気電池100は、電池カップ111(第1のハウジング部分)と、電池蓋112(第2のハウジング部分)と、シール113とから構成される金属製ハウジング110を含む。電池カップ111は、例えば、円形の底部領域111a及び環状シェル領域111bを有する。末端では、シェル領域111bは、電池カップ111の開口端部を形成する切り口111cを境界とする。
【0083】
電池蓋112は、例えば円形の形状の底部領域112aと、環状シェル領域112bとを有する。電池蓋112の底部領域112aと、電池蓋112のシェル領域112bとは、円周の遷移領域112dによって接続される。末端では、シェル領域112bは、電池蓋112の開口端部を形成する切り口112cを境界とする。
【0084】
最初に、電池蓋112の切り口112cが電池カップ111中に挿入される。シール113によって、電池カップ111と電池蓋112とが互いに分離される。これによって、2つのハウジング部分(電池カップ111及び電池蓋112)の互いの電気的絶縁が保証される。これは、ハウジング110の封止も行い、電解質の漏れを防止する。
【0085】
電池カップ111と電池蓋112とはクリンプによって互いに接続されて、閉鎖されたハウジング110を形成し、このクリンプは、電池蓋112の挿入後に、末端部分111dを半径方向内側にプレスすることによって、電池カップ111のシェル領域111bの末端部分111dの領域で形成される。
【0086】
電池カップ111の底部領域111aの底部領域の中央部分に、通気開口部114が設けられる。空気酸素は、通気開口部114から金属空気電池の内部空間に入ることができる。通気開口部114の上には、少なくとも1つの側に疎水性被覆された層型空気拡散器140が存在する。層型空気カソード130は空気拡散器140に隣接し、空気拡散器140と空気カソード130の間に1つ又は2つの追加層、特にPTFE膜131及び132を設けることができる。空気カソード130に最も近いPTFE膜131は、空気カソード130とともに積層体を形成することができる。空気カソード130の上には層型セパレーター150が配置され、これによって、セパレーター150の上に配置される金属をベースとするアノード120から空気カソード130が分離される。
【0087】
金属をベースとするアノードは、好ましくは亜鉛ペーストである。アノード120は電池蓋112に直接接触する。したがって、電池蓋112は金属空気電池100の負極を形成する。セパレーター150には、例えばアルカリ電解質が含浸され、それによって水酸化物イオンが空気カソード130からアノード120まで移動することができる。空気カソード130には、ここでは詳細に示されていない金属導体構造が設けられ、これは電池カップ111に電気的に接続される。したがって、電池カップ111は、金属空気電池100の正端子を形成する。
【0088】
本発明の中心的な態様は、層型空気拡散器140の疎水性コーティングである。この状況では、空気拡散器140は好ましくは、特に親水性材料からなる通気性マトリックスからなる。これに関して、繊維混合物から形成される不織布が特に好ましく、この繊維混合物は、主としてポリビニルアルコールの繊維を含み、特に50重量%以上のポリビニルアルコール繊維の比率を有する。この通気性マトリックスは、好ましくはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の分散物、又はより好ましくは、少なくとも1つのアルキルケテンダイマー(AKD)の水中の分散物で被覆される。ポリテトラフルオロエチレン分散物の固体含有量は、好ましくは5~75重量%の範囲内、特に好ましくは約30重量%である。アルキルケテンダイマー分散物中の固体含有量は、好ましくは0.01~8重量%の範囲内、より好ましくは0.01~3重量%の範囲内、より好ましくは0.01~1重量%の範囲内、より好ましくは0.01~0.8重量%の範囲内、最も好ましくは0.05~0.8重量%の範囲内である。通気性マトリックスの疎水性コーティングによって、高湿度環境でさえも、金属空気電池内部の電解質の確実な保持が保証され、同時に、通気開口部114から入る大気中酸素の良好な分散が、金属空気電池100の表面全体にわたって実現される。
【0089】
以下の性質を有する不織布を通気性マトリックスとして使用した(Schweitzer-Mauduit International Inc.,USAの不織布タイプPA 125 S):
重量 24.8g/m2
厚さ(100kPaにおいて) 88μm
引張強度 2,100cN/15mm
ウィッキング作用KOH 50mm/10mn
吸収 145g/m2
収縮 0%MD
0%CD
通気度 29.360cm/cm32・分(1kPa)
R.インデックス 0.75
繊維フリースのこれらの測定値は、23℃の温度及び50%の湿度における測定値を意味する。
【0090】
PTFEコーティング
不織布に、種々の濃度のPTFE分散物を浸漬プロセスで被覆し、単位面積当たりの重量及びGurleyによる通気度を測定し、未被覆の不織布及びPTFE膜と比較した。60%のPTFE固体含有量を有する水性出発分散物を用いて、種々のPTFE濃度を有する分散物を調製した。この初期分散物を水と混合した。このようにして、約6重量%のPTFEを有する混合物(10%のPTFE出発分散物+90%の水)、約15重量%のPTFEを有する混合物(25%のPTFE出発分散物+75%の水)、約30重量%のPTFEを有する混合物(50%のPTFE出発分散物+50%の水)、及び約60重量%のPTFEを有する混合物(100%のPTFE出発分散物)を得た。これらのブレンドを浸漬プロセスにおける繊維ウェブのコーティングに用いた。浸漬プロセスの場合、繊維ウェブをそれぞれのPTFE分散物中に1~10秒間浸漬し、次に室温で乾燥させた。
【0091】
通気度のGurley測定方法は、画定された条件下で試験材料をそれぞれの媒体、すなわち空気が通過するのに要する時間を記録する。この時間が長いほど、試験材料の通気性は低い。しかし、試験材料の通気性が非常に高い場合は、試験材料を通過する流れが速すぎる(測定可能でない)ため、時間を測定できない。
【0092】
【0093】
これらの結果から、PTFE分散物で被覆された不織繊維は、単位面積当たりの重量が67g/m2まで、非常に高い通気度を示すことが分かる。繊維フリースが未希釈のPTFE分散物(60重量%のPTFE、単位面積当たりの重量144g/m2)で被覆される場合、通気度を低下させる影響が示され、30重量%のPTFE分散物を用いたコーティングと比較して既に大幅に低下している。対照的に、純粋なPTFE膜は、さらに大幅に低い通気度を示している。
【0094】
以下の表2は、それぞれが本発明による異なる被覆を行った空気拡散器を有する、種々の金属空気電池を用いた実験結果を示している。それぞれの種類の空気拡散器に対して、3つの個別の電池(電池#1、#2、#3)を、高湿度条件(30℃において90%の相対湿度)下で数日にわたって観察して、放電後に電解質の漏れが検出されるかどうかを調べた(x-電解質の漏れあり;0-電解質の漏れなし)。
【表2】
【0095】
これらの結果は、30重量%のPTFE分散物で被覆された空気拡散器を用いると、試験したこの種類の全ての個別の電池で、電解質漏れが7日間にわたって確実に防止されたことを示している。15重量%のPTFE分散物コーティングを有する空気拡散器は、電解質漏れに対する保護に関して好都合な効果を既に示しており、この好都合な効果は、空気拡散器を6重量%のPTFE分散物で被覆した場合でもある程度観察された。したがって、特に金属空気電池の漏れに対する確実な保護のためには、約30重量%のPTFE分散物が、空気拡散器のコーティングのために特に好ましい。
【0096】
AKDコーティング
同様の方法で、繊維不織布(Schweitzer-Mauduit International Inc.,USAの繊維不織布タイプPA 125-35 S及びタイプPA 125)を、アルキ-ケテン(alky-ketene)ダイマー(AKD)で被覆した。タイプPA 125とは異なり、タイプPA 125-35 Sには湿潤剤が用いられている。0.8重量%及び7.6重量%のAKDを有する水性分散物をコーティングに使用した。使用したAKD材料は、AQUAPEL(登録商標)201(Solenis LLC,USA)であった。
【0097】
水滴方法を用いて疎水性を測定した。ここでは、1滴の水(2μl)を繊維フリース上に配置する。次に、繊維フリースが水を吸収してから時間を停止する。したがって、測定時間が長いほど、疎水性が高い。15分後に水滴がまだ吸収されない場合は、試験を停止する(結果>15分/2μl)。
【0098】
以下の表3は、AKDで被覆された繊維ウェブの材料特性をまとめている。
【表3】
【0099】
調べた両方の繊維ウェブ(PA 125-35 S及びPA 125)について、0.8%のAKD及び7.6%のAKDの両方を有するコーティングで、非常に良好な疎水性値(>15分/2μl)が得られた。不織布の測定可能な厚さは、コーティングによる大きな影響を受けず、全ての場合で80~100μmの範囲内であった。不織布の単位面積当たりの重量は、0.8%のAKDで被覆した場合、変化しなかった。7.6%のAKDを有するコーティングの場合、単位面積当たりの重量のわずかな増加が観察された。通気度は全ての場合で非常に良好であり、AKDコーティングによる測定可能な影響はなかった。
【0100】
さらなる試験において、より低いAKD濃度でも試験した。既に0.08%のAKDの濃度において、未被覆の繊維フリースと比較して明らかな疎水性の増加が見られた。0.16%のAKD及び0.8%のAKD(実際には0.76%のAKD)において疎水性のさらなる顕著な増加が観察された。0.8%を超えるAKDでは、疎水性に関するさらなる顕著な改善は観察されなかった。
【0101】
以下の表4は、本発明による種々の量のAKDで被覆された空気拡散器(未被覆の不織布(PA 125-35 S);0.8%のAKDで被覆された不織布(PA 125-35 S);7.6%のAKDで被覆された不織布(PA 125-35 S))をそれぞれ有する種々の金属空気電池を用いた試験結果を示している。パーセント値は、コーティング分散物の重量パーセントを基準としている。それぞれの種類の空気拡散器に関して、4つの個別の電池(電池番号1、2、3、4)を、高湿度条件下で合計7日間観察して、電解質の漏れが、放電直後、又は深放電の1日後若しくは3日後若しくは7日後に検出されるかどうかを調べた(x-電解質の漏れあり;0-電解質の漏れなし)。
【表4】
【0102】
これらの結果は、深放電後の電解質の漏れは、空気拡散器としてAKDで被覆された繊維フリースを用いる場合よりも、未被覆の繊維フリースを用いる場合の方が、頻繁に迅速に起こることを示している。電解質の漏れに関して、0.8%のAKDコーティングを用いた結果は、7.6%のAKDコーティングを用いた結果と同等であった。0.8%のAKDコーティングの場合は材料の消費が少なく、より低濃度の分散物の取り扱いがより容易なため、このコーティングは、空気拡散器のために特に有利である。
【国際調査報告】