(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-02
(54)【発明の名称】改善されたピッチ製品、その調製及び使用のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
C08L 95/00 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
C08L95/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023560979
(86)(22)【出願日】2022-04-01
(85)【翻訳文提出日】2023-11-24
(86)【国際出願番号】 EP2022058818
(87)【国際公開番号】W WO2022207936
(87)【国際公開日】2022-10-06
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523373669
【氏名又は名称】レイン カーボン ビーブイビーエー
(71)【出願人】
【識別番号】520307687
【氏名又は名称】レイン カーボン ジャーマニー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Rain Carbon Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】クラーズ,ジョリス
(72)【発明者】
【氏名】クント,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デ ヴィヴェル,ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】デヌー,ブラム
(72)【発明者】
【氏名】スパール,マイケル
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AG00W
4J002AG00X
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】
【解決手段】 本発明は、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とを含むピッチ製品であって、前記ピッチ製品は、少なくとも84%のアスファルテン分(SARA)の濃度により特徴付けられる、ピッチ製品に関する。さらに、本発明は、特定的には、電気アーク炉用グラファイト電極並びにアルミニウム生産用カーボンアノード及びゼーダーベルグペーストの製造での使用のための、前記ピッチ製品を含むピッチバインダーに関する。本発明はさらにまた、前記ピッチバインダーを含むグラファイト電極、さらには前記ピッチバインダーを含むカーボンアノードに関する。本発明はまた、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とを含むピッチ製品を生産するためのプロセスであって、前記プロセスは、前記石油由来蒸留残渣を得るための石油真空蒸留プロセスステップを含む、プロセス、及びピッチ製品を生産するための前記プロセスを含む、グラファイト電極又はカーボンアノードを製造するためのプロセスを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量基準で20:80~70:30の混合比の石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とのブレンドを含むピッチ製品であって、前記ピッチ製品は、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに少なくとも84%のアスファルテン分の濃度によりさらに特徴付けられる、ピッチ製品。
【請求項2】
少なくとも20%の60秒後の高粘度回復(DIN91143-2)を有するチキソトロピー挙動を有する、請求項1に記載のピッチ製品。
【請求項3】
少なくとも84%のアスファルテン分(ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したとき)の濃度及び少なくとも25%の60秒後の高粘度回復を有する、請求項1又は2に記載のピッチ製品。
【請求項4】
10%未満のレジン含有率(ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したとき)を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項5】
米国環境保護庁(EPA)に準拠して8500ppm未満のB(a)P含有率及び/又は7%(m/m)未満の16EPA-PAH Sumを有する、請求項1~4のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項6】
ASTM D4715に準拠して測定したときに少なくとも45%アルキャンのコークス収率を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項7】
200~270℃の引火点を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項8】
220~245℃の引火点を有する、請求項7に記載のピッチ製品。
【請求項9】
110~150℃メトラーの軟化点を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項10】
石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とのブレンドである、請求項1~9のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項11】
少なくとも45%アルキャンのコークス収率、110~140℃メトラーの軟化点、2~12%のキノリン不溶分範囲、及び13~25%のベータ-レジン含有率を有する、請求項1~10のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項12】
前記石油由来蒸留残渣及びコールタール由来蒸留残渣のそれぞれの計算加重平均コーキング値よりも少なくとも0.5wt.%大きいコーキング値(ASTM D4715に準拠して測定したときのアルキャン)を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項13】
前記石油由来蒸留残渣が、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに少なくとも80%のアスファルテン分の濃度、及び少なくとも110°メトラーの軟化点により特徴付けられる、請求項1~12のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項14】
前記石油由来蒸留残渣が、石油ストリームのパイロリシスにより生産された原材料に由来し、前記原材料が、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに)少なくとも30wt.%のアスファルテン分、10%未満の飽和分、及び40%未満のレジン分を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のピッチ製品。
【請求項15】
炭素系形成物品の製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載のピッチ製品の使用。
【請求項16】
電気アーク炉用グラファイト電極並びにアルミニウム生産用カーボンアノード及びゼーダーベルグペーストの製造における、請求項1~14のいずれか一項に記載のピッチ製品を含むピッチバインダーの使用。
【請求項17】
請求項16に記載の変換されたピッチバインダーを含むグラファイト電極。
【請求項18】
請求項16に記載の変換されたピッチバインダーを含むカーボンアノード。
【請求項19】
石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載のピッチ製品を得るためのプロセスであって、前記プロセスは、前記石油由来蒸留残渣を得るための石油真空蒸留プロセスステップと、重量基準で20:80~70:30の混合比で前記石油由来蒸留残渣と前記コールタール由来蒸留残渣とをブレンドすることと、を含む、プロセス。
【請求項20】
前記石油由来蒸留残渣が、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに少なくとも80%のアスファルテン分の濃度、及び少なくとも110°メトラーの軟化点により特徴付けられる、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記石油由来蒸留残渣が、原材料に由来し、前記石油由来蒸留残渣が、石油ストリームのパイロリシスにより生産された原材料に由来し、前記原材料が、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに)少なくとも30wt.%のアスファルテン分、10%未満の飽和分、及び40%未満のレジン分を含む、請求項19に記載のプロセス。
【請求項22】
コールタール由来蒸留残渣を得るためのコールタール真空蒸留プロセスステップと、前記石油由来蒸留残渣と前記コールタール由来蒸留残渣とをブレンドすることと、をさらに含む、請求項19に記載のプロセス。
【請求項23】
前記蒸留プロセスステップが、50~250mbarの真空レベル及び280~370℃の温度で実施される、請求項19~22のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項24】
請求項19~23のいずれか一項に記載のプロセスを含む、グラファイト電極又はカーボンアノードを製造するためのプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般的には、石油由来蒸留残渣及びコールタール由来蒸留残渣を含むピッチ製品、より具体的には、電気アーク炉用グラファイト電極及びアルミニウム生産用カーボンアノードの製造での使用のためのピッチ製品に関する。
【0002】
そのほか、本発明は、かかるピッチ製品を生産するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
鋼製造用グラファイト電極及びアルミニウム産業用プリベークカーボンアノードは、仮焼コークス及び炭化水素カーボン前駆体を熱間混合し混合物を後続ベーキングプロセスで炭化されるグリーン電極形材に形成することにより生産される。炭化水素バインダー材料は、非ベーク(グリーン)電極形材に十分な機械的強度を提供するとともにベーキングプロセス時に炭素に変換される。得られるカーボン半グラファイト化電極は、アルミニウムの生産に使用される電解セルのアノードとしての要件を満たす。鋼生産用電気アーク炉に使用される電極は、さらに炭化水素含浸ピッチで含浸され、炭化され、続いてグラファイト化される。ゼーダーベルグセルの電極としての用途では、乾燥アグリゲート(仮焼コークス、アンスラサイト、グラファイトなど)及び炭化水素バインダーの熱間混合によりペーストが生産され、ブリケット又は他の予形成形材として形成され、ゼーダーベルグセルに移され、続いて電解セル自体で炭化される。
【0004】
伝統的には、これらの電気アーク炉用グラファイト電極及びアルミニウム生産用カーボンアノード(プリベークアノード及びゼーダーベルグアノードを含む)の製造での炭化水素ピッチバインダー材料は、コールタールピッチである。というのは、それはグリーン段階での機械的要件を満たすとともに炭化プロセス時に非常に高いコークス収率で電気伝導性カーボンに変換され、それにより炭化プロセス時に形成される揮発分がより少なくなるため得られる物品の高多孔率が回避されるからである。また、グラファイト電極の含浸に使用される炭化水素含浸ピッチは、典型的にはコールタール蒸留生成物に基づく。
【0005】
鋼生産に使用される冶金用コークスの生産の副生成物として、コールタールは、常に十分に入手可能になっている。しかしながら、最近になって、バージン鉄の需要が低下しているため、冶金用コークスの生産は少なくなり、そのため、入手可能なコールタールは少なくなっている。
【0006】
コールタールピッチバインダーの別の欠点は、癌原性として分類されるベンゾ(a)ピレンの量がいくぶん多いことである(典型的粘度範囲で約10,000ppm)。B(a)P含有分に加えて、他のポリ芳香族炭化水素が健康及び環境に有害なものに該当するとみなされる。
【0007】
コールタールよりも少ないベンゾ[a]ピレンを含有する石油源から代替ピッチを生産しようとする試みの中で、石油由来ピッチが検討されてきてきた。
【0008】
しかしながら、石油由来ピッチは、電極生産プロセスで純バインダー材料として使用したとしても、コールタールピッチと同一の品質パラメーターを達成しない。第1の欠点は、それがコールタールピッチよりも低いコークス収率を有することであり、第2に、それが主要なキノリン不溶性成分をなんら有していないことである。この主要なキノリン不溶性成分は、アルミニウム生産での高品質アノードに有益とみなされ、従来のコールタール系ピッチに含有される。
【0009】
既知の石油由来ピッチ材料のさらなる欠点は、典型的には、軟化点目標が110~130℃であるグラファイト電極の製造に炭化水素ピッチバインダー材料を使用するには低すぎる100℃未満の軟化点である。こうした低い軟化点はまた、コールタールピッチとのブレンドでの石油ピッチの使用も制限する(たとえば、米国特許第5,746,906号)。
【0010】
そのほか、既存の石油系ピッチの200℃未満の典型的低引火点は、200℃までの温度の熱間混合プロセスを含有可能な電極作製プロセスで安全性の懸念を引き起こす。
【0011】
まとめると、産業スケールで好適な石油ピッチを生産しようとするどの試みも、アルミニウム産業に大量の製品を確実に供給できるコールタールピッチバインダーの代替をまったく提供してこなかった。
【0012】
より具体的には、純石油由来ピッチでも、実質的に10%超の石油ピッチ量を含む石油ピッチとコールタールピッチとのブレンドでも、カーボン電極及びグラファイト電極の製造で炭化水素ピッチバインダー材料としての使用の必要要件をこれまで満たすことができていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上を考慮して、供給のセキュリティー増加を許容するとともに、カーボン電極及びグラファイト電極の製造で炭化水素ピッチバインダー材料としての使用の必要要件を満たす、コールタールピッチバインダーの代替を提供することが、本発明の一般的目的である。
【0014】
本発明の別の目的は、類似のコークス値並びにグラファイト電極、プリベークアノード、及びゼーダーベルグ技術で使用されるペーストの類似の加工及び性能をもたらす代替ピッチバインダーを提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、より環境に優しいコールタールピッチバインダーの代替を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
概要
本発明に係る第1の態様では、重量基準で20:80~70:30の混合比の石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とのブレンドを含むピッチ製品であって、前記ピッチ製品は、少なくとも84%のアスファルテン分(ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときのSARA)の濃度により特徴付けられる、ピッチ製品が提供される。
【0017】
本発明の第2の態様では、本文書全体を通して記載のピッチ製品を含むピッチバインダーであって、前記ピッチバインダーは、いずれかのタイプの炭素系形成形材の製造での使用、特定的には電気アーク炉用グラファイト電極並びにアルミニウム生産用カーボンアノード及びゼーダーベルグペーストの製造での使用のためのものである、ピッチバインダーが提供される。
【0018】
本発明に係る第3の態様では、前記ピッチバインダーを含むグラファイト電極が提供される。
【0019】
本発明に係る第4の態様では、前記ピッチバインダーを含むカーボンアノードが提供される。
【0020】
本発明に係る第5の態様では、ピッチ製品を生産するためのプロセスであって、前記ピッチ製品は、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とを含み、前記プロセスは、前記石油由来蒸留残渣を得るための石油真空蒸留プロセスステップと、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とをブレンドすることと、を含む、プロセスが提供される。
【0021】
本発明に係る第6の態様では、ピッチ製品を生産するための前記プロセスを含む、グラファイト電極又はカーボンアノードを製造するためのプロセスが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本文書全体を通して記載のピッチ製品は、アルミニウム産業及び/又はグラファイト産業の要件を満たすとともに、低ベンゾ(a)ピレン含有率及び十分な入手可能性の利点を有する、コールタールピッチバインダーの代替として提供される。
【0023】
本発明に係る第1の態様では、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とを含むピッチ製品であって、前記ピッチ製品は、ASTM D2007に準拠してSARA法クレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに少なくとも84%又は少なくとも86%又は少なくとも90%のアスファルテン分の濃度により特徴付けられる、ピッチ製品が提供される。
【0024】
さらに、ピッチ製品は、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに10%未満のレジン含有率を有しうる。
【0025】
驚くべきことに、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とを含むとともに、ASTM D2007に準拠してSARA法クレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに既知のコールタールピッチバインダーと比較して類似レベルの量のアスファルテン分を含有する、ピッチ製品は、目標軟化点(たとえば、110~150℃メトラー)で少なくとも45%アルキャンのコークス値を示すことを、本発明者らは見いだした。少なくとも84%又は少なくとも86%又は少なくとも90%のアスファルテン分の濃度は、それぞれ、コークス値の増加をもたらしうる。ピッチ製品は、得られるグリーンコークス形材の十分な機械的強度及び炭化時の低収縮を確保する。バインドコークスの得られる炭化形材は、低い多孔率及び空気透過率のほか十分な電気伝導率を示す。
【0026】
周知のように、アスファルテン分は、パラフィン系溶媒に不溶な高融点を有する固形分であり、高芳香族環構造及び高分子量であるため簡単に等方性コークスを形成する傾向がある。たとえば、アスファルテン分は、ペンタン又はヘプタン不溶分でありうる(たとえば、欧州特許第0072243B1号を参照されたい)。
【0027】
SARA分析は、重質原油、留出油、及び原料油中の飽和分、アスファルテン分、レジン分、芳香族分を測定するために通常使用される方法である。クレー-ゲル(ASTM D-2007)以外のSARA分析法は、IP-469に準拠したTLC/FID又はIP-143に続く分取HPLC(IP-368)でありうる。SARA分析は、IntertekやIactroscanなどにより当業界で利用可能になっている。
【0028】
さらに、本文書全体を通して述べたアスファルテン分の量は、ASTM D-2007に定義される損失を含みうる。
【0029】
本発明に係るある実施形態では、ピッチ製品は、少なくとも20%又は少なくとも40%又は少なくとも60%又は90%までの60秒後の高粘度回復(DIN91143-2)を伴うチキソトロピー挙動を有しうる。かかるチキソトロピー挙動は、良好な加工及び含浸特性を示唆する。いかなる理論にも拘束されるものではないが、驚くべき高回復率は、より大きな分子間の分子間配置及び相互作用を擾乱する固形成分の量がより少ないため剪断力影響後にピッチ構造が元に戻ることに起因すると思われる。
【0030】
液状バインダーピッチの高チキソトロピー性は重要である。というのは、電極作製用ピッチバインダーの重要要件は、電極作製プロセスでコークスから形成された圧縮電極を加工並びに湿潤及び含浸する能力であるからである。溶融液状ピッチは、ポンプ操作されてコークスと混合され、それにより高剪断力が印加される。通常、ピッチのこうしたポンプ操作及び混合は、液状ピッチの低粘度を必要とする。これとは対照的に、圧縮電極の含浸及び細孔充填は、細孔内にバインダーピッチを保有するためにより高いピッチ粘度を必要とする。高剪断速度での粘度は低くすべきであり、一方、低剪断速度での粘度は高くすべきである。そのほか、剪断エネルギーの印加及び放出後の粘度の高いビルドアップ率又は回復率は、この用途に有利である。
【0031】
より具体的には、本発明のピッチ製品は、少なくとも84%又は少なくとも86%さらには少なくとも90%のアスファルテン分(SARA)の濃度、及び少なくとも25%又は少なくとも40%さらには少なくとも60%の60秒後の高粘度回復を有しうる。
【0032】
本発明に係るある実施形態では、ピッチ製品は、その高コークス収率に寄与しうる10%未満のレジン含有率(SARA)を有しうる。
【0033】
本発明に係る他の一実施形態では、ピッチ製品は、8500ppm未満若しくは7000ppm未満若しくは5000ppm未満さらには3000ppm未満のB(a)P含有率、及び/又は7%(m/m)未満さらには5%未満の16EPA-PAH Sum(米国環境保護庁(US Environmental Protection Agency)(EPA)に準拠した多環式芳香族炭化水素)を有しうる。十分に低いB(a)P含有率及び/又は16EPA-PAH Sumは、明らかに純コールタール由来ピッチ製品と比較して改善された環境への優しさをもたらす。低B(a)P含有ピッチバインダー製品はまた、アルミニウム(プリベークアノード及びゼーダーベルグアノード)及び電気アーク炉のための電極の製造にも有利に利用可能である。
【0034】
さらなる実施形態では、ピッチ製品は、110~150℃メトラーの軟化点で少なくとも45%アルキャン又は少なくとも50%アルキャン又は少なくとも55%アルキャンのコークス収率を有しうる。ピッチ製品は炭化プロセス時にカーボンに変換されるので、コークス収率が十分に高いと、炭化プロセス時に形成される揮発分がより少なくなるため得られる形材の高多孔率の回避が可能になる。同時に、コークス収率が高いと、クラックのリスクさらには寸法許容範囲外の形材をもたらすおそれのあるグリーンアノードのベーキング時の高収縮が回避される。さらに、ピッチ製品は事実上カーボン前駆体であるので、十分に高いコークス収率は、ベークアノード/電極の多孔率目標の達成にきわめて重要である。
【0035】
さらなる実施形態では、ピッチ製品は、200~270℃、好ましくは220~245℃の引火点を有しうることから、熱間混合プロセスに必要とされうる安全性要件に従ってピッチ製品を加工することを許容しうる。より具体的には、本発明のピッチ製品は、少なくとも84%又は少なくとも86%さらには少なくとも90%のアスファルテン分の濃度、及び200~270℃、好ましくは220~245℃の引火点を有しうる。
【0036】
本発明のある実施形態では、ピッチ製品は、鋼及びアルミニウム生産に使用される電極さらにはアルミニウム生産に使用されるゼーダーベルグペーストを製造する際の目標範囲である110~150℃メトラーの軟化点を有しうる。
【0037】
本発明によれば、ピッチ製品は、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とのブレンドでありうる。ある実施形態では、前記ブレンドは、20:80~70:30、好ましくは30:70~60:40、さらにより好ましくは40:60~50:50の混合比を有しうる。かかる混合比は、110~140℃メトラーの軟化点、2~12%、好ましくは2~8%のキノリン不溶分範囲、13~25%のベータ-レジン含有率、及び少なくとも45%のアルキャン法で測定されるコークス収率(値)をもたらしうる。
【0038】
より具体的には、本発明のピッチ製品は、少なくとも84%又は少なくとも86%さらには少なくとも90%のアスファルテン分の濃度、及び30:70~60:40、さらにより好ましくは40:60~50:50の混合比を有しうる。
【0039】
本発明の特定実施形態では、ピッチ製品は、少なくとも45%アルキャンのコークス収率、110~140℃メトラーの軟化点、2~12%のキノリン不溶分範囲、及び13~25%のベータ-レジン含有率を有しうる。より好ましくは、キノリン不溶分は2~8%の範囲内である。
【0040】
ある実施形態では、石油由来蒸留残渣とコールタール由来ピッチとのブレンドであるピッチ製品は、石油由来蒸留残渣及びコールタール由来蒸留残渣のそれぞれの計算加重平均コーキング値よりも少なくとも0.5wt.%大きいコーキング値(アルキャン)の増加を有するようにブレンディング比に関して最適化可能である。
【0041】
好ましい実施形態では、石油真空蒸留プロセスステップにより得られる石油由来蒸留残渣は、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに少なくとも80%又は少なくとも84%又は少なくとも86%のアスファルテン分の濃度、及び少なくとも110°メトラー又は少なくとも120°メトラーの軟化点により特徴付けられうる。前記石油由来蒸留残渣は、少なくとも45%アルキャンのコークス収率を有しうる。
【0042】
他の実施形態では、本発明に係るピッチ製品は、石油ストリームのパイロリシスにより生産された原材料に由来する石油由来蒸留残渣を含みうる。好ましくは、前記原材料は、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに少なくとも30wt.%のアスファルテン分、10%未満の飽和分、及び40%未満のレジン分を含む。かかる組成を有する原材料は、前記製品の高収率を可能にする。
【0043】
本発明の第2の態様では、本文書全体を通して記載のピッチ製品を含むピッチバインダーであって、前記ピッチバインダーは、いずれかのタイプの炭素系形成物品、たとえば、成形品、煉瓦、形材、電極用フィルターグリッド、耐火物適用品などの製造での使用、特定的には電気アーク炉用グラファイト電極並びにアルミニウム生産用カーボンアノード及びゼーダーベルグペーストの製造での使用のためのものである、ピッチバインダーが提供される。本文書全体を通して記載のピッチバインダーはまた、炭化水素含浸ピッチとしても使用可能である。
【0044】
本発明に係る第3の態様では、前記ピッチバインダーを含むグラファイト電極が提供される。さらに、ピッチバインダーはまた、含浸ピッチとしてもグラファイト電極製造に使用されうる。かかるピッチバインダー及び含浸ピッチは、炭化電極の細孔充填によりカーボン体のインテグリティーをサポートしうる。
【0045】
本発明に係る第4の態様では、前記ピッチバインダーを含むカーボンアノードが提供される。
【0046】
本発明に係る第5の態様では、ピッチ製品を生産するためのプロセスであって、前記ピッチ製品は、石油由来蒸留残渣とコールタール由来蒸留残渣とを含み、前記プロセスは、前記石油由来蒸留残渣を得るための石油真空蒸留プロセスステップを含む、プロセスが提供される。
【0047】
本発明に係るさらなる実施形態では、石油由来蒸留残渣及びコールタール由来蒸留残渣をそれぞれ得るための石油真空蒸留プロセスステップ及び別々のコールタール真空蒸留プロセスステップと、それぞれの残渣をブレンドすることと、を含む、本文書全体を通して記載のピッチ製品を生産するためのプロセスが提供される。それぞれの蒸留残渣は、コールタール及び石油由来原料油の別々の真空蒸留により生産され、続いて調整された組成で混合される。
【0048】
本発明に係るプロセスに基づく利益は、既知のコールタールピッチバインダーと比較してSARAにより測定されるアスファルテンの量を類似レベルに保つことを可能にしうることである。そのほか、ピッチの他の性質は、既知のコールタールピッチバインダーと比較して劣化しないと思われる。
【0049】
そのほかの利益は、かかるプロセスによりピッチ製品のコークス値を目標軟化点(たとえば、110~150℃メトラー)で高レベル(たとえば、少なくとも40%アルキャン)に保つことが可能になりうることである。
【0050】
本発明に係るプロセスのそのほかの利益は、得られる製品の高チキソトロピー挙動及び少なくとも25%の60秒後の高粘度回復である。
【0051】
本発明に係るプロセスのそのほかの利益は、石油由来原料油として石油ストリームのパイロリシスにより生産された原材料を使用した場合、高い最終製品収率をもたらす石油由来蒸留残渣を達成しうることである。好ましくは、こうした原材料は、ASTM D2007に準拠してSARA法クレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに原材料中に少なくとも30wt.%の量のアスファルテン分、10%未満の飽和分、及び40%未満のレジン分を含む組成を有する。
【0052】
本発明に係るプロセスでピッチ製品を生産することとは対照的に、石油系ピッチで増量される従来のコールタールピッチバインダーは、周囲圧力及びより高い温度での蒸留、いくつかの場合には続いてエアブローイングにより、並びに蒸留前にコールタール及び石油系原材料を混合するか又は単一成分を最初に蒸留した後で成分をブレンドするかのどちらかにより、生産される。周囲圧力蒸留から生じるこうした製品の欠点は、クラック発生及びメソ相形成をもたらす高い加工温度に起因する高いメソ相及びトルエン不溶分含有率である。他の欠点は、ピッチの含浸性及びバインダー性並びに加工性を劣化させる低コークス収率、高揮発分含有率、及び高粘度、さらには電極作製プロセスでの安全性の課題を引き起こす低引火点である。
【0053】
周囲圧力での蒸留のそのほかの欠点は、石油タールの蒸留が反応性であるので、大気圧での蒸留に必要な温度によりすでに加熱用チャンバー及びカラムで固形カーボン成分への変換が開始され、潜在的にプラントの信頼性課題を招くピッチ生産時の過剰ファウリング率をもたらすことである。
【0054】
本発明のある実施形態では、石油真空蒸留プロセスステップから得られる石油由来蒸留残渣は、ASTM D2007に準拠してクレー-ゲル吸収クロマトグラフィー法により測定したときに少なくとも80%又は少なくとも84%又は少なくとも86%のアスファルテン分の濃度、及び少なくとも110°メトラー又は少なくとも120°メトラーの軟化点により特徴付けられうる。前記石油由来蒸留残渣は、少なくとも45%アルキャンのコークス収率を有しうる。
【0055】
本発明のある実施形態では、蒸留プロセスステップは、10~400mbar、好ましくは50~250mbarの真空レベルで、及び200~400℃、好ましくは280~370℃の温度で実施される。
【0056】
本発明に係るプロセスは、ピッチの低二次キノリン不溶物量に対して潜在的メソ相形成の厳密な制御及び防止を可能にする。
【0057】
さらに、コールタール及び石油タールの別々の蒸留は、別々の蒸留残渣のより最適化された製品特性をもたらしうることから、より高い品質のピッチ製品で生成しうる。
【0058】
そのほか、本発明に係るプロセスは、従来の周囲圧力蒸留と比較してより低い温度でバインダーの所要の軟化点及び粘度を達成することにより高レベルの信頼性を与えるとともに、ひいてはより良好なプラント信頼性をもたらす。真空蒸留プロセスに使用されるより低い蒸留温度は、プラントのファウリング及びレギュラーシャットダウンをもたらすメソ相及びコークス形成のような分解反応を回避する。
【0059】
さらに、本発明のプロセスは、鋼及びアルミニウム生産に使用される電極さらにはアルミニウム生産に使用されるゼーダーベルグペーストの製造での使用のための、低粘度で十分に高いコーキング値及び低い16EPA PAH含有率を示す高い品質及び信頼性を有するピッチ製品をもたらしうる。得られるバインダーの16EPA PAHレベルは、純コールタール由来製品よりも低いので、より環境に優しい材料を生み出す。
【0060】
石油由来蒸留残渣及びコールタール由来蒸留残渣は、20:80~70:30、好ましくは30:70~60:40、より好ましくは40:60~50:50の混合比でブレンドされうる。これは、ピッチ製品のバインディング性能に好影響を及ぼす最適粘度と組み合わされて、類似の又はより低いトルエン不溶分、類似の又はより低いベータ-レジン含有率、及び類似の又はより低い二次キノリン不溶物含有率(メソ相形成)を有するコールタールピッチバインダーの代替をもたらしうる。
【0061】
本発明に係るプロセス、より具体的には混合比は、110~140℃メトラーの軟化点、2~12%、好ましくは2~8%のキノリン不溶分範囲、13~25%のベータ-レジン含有率、及び少なくとも45%のアルキャン法で測定されるコークス収率(値)をもたらしうる。
【0062】
そのほか、本発明に係るプロセス、より具体的には混合比により、ブレンドは、石油由来蒸留残渣及びコールタール由来蒸留残渣のそれぞれの計算加重平均コーキング値よりも少なくとも0.5wt.%大きいコーキング値(アルキャン)を有しうるものとなりうる。
【0063】
本発明に係る第6の態様では、本文書全体を通して記載のピッチ製品を生産するためのプロセスを含む、グラファイト電極又はカーボンアノードを製造するためのプロセスが提供される。
【実施例】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【国際調査報告】