(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-15
(54)【発明の名称】MDMA鏡像異性体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/36 20060101AFI20240408BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20240408BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20240408BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K31/36
A61P25/00
A61P25/22
A61P43/00 123
A61K9/08
A61K9/10
A61K9/107
A61K9/06
A61K9/72
A61K9/48
A61K9/70
A61K9/70 401
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/16
A61P25/24
A61P25/18
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023566790
(86)(22)【出願日】2022-05-01
(85)【翻訳文提出日】2023-12-06
(86)【国際出願番号】 US2022027180
(87)【国際公開番号】W WO2022235530
(87)【国際公開日】2022-11-10
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520039043
【氏名又は名称】マインド メディシン, インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Mind Medicine, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】バロウ,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】カーリン,ダニエル アール.
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA22
4C076AA24
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076AA71
4C076AA72
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4C076AA94
4C076BB01
4C076BB25
4C076BB31
4C076CC01
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA13
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA28
4C086MA32
4C086MA35
4C086MA36
4C086MA37
4C086MA41
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4C086MA52
4C086MA59
4C086MA63
4C086NA07
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZA02
4C086ZA12
4C086ZA18
(57)【要約】
MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の心理療法的又は医学的治療に使用するための組成物。MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を投与し、個人を治療することによって、ある医学的状態(特に自閉症及び社交不安障害)について個人を治療する方法。MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与し、個人を治療しながらMDMA又はMDAの神経毒性を低下させることによって、MDMA及びMDAの神経毒性を低下させる方法。MDMA及びMDAの高体温を軽減する方法。MDMA及びMDAの身体依存又は乱用傾向を低下させる方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を含む、心理療法的治療に使用するための組成物。
【請求項2】
前記MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体が、10~1000mgの量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体が、それに結合されるプロドラッグを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記プロドラッグが、リジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が、連続的徐放製剤中にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が、鼻腔内スプレー形態である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、懸濁剤、液剤、乳剤、エリキシル、チンキ、スプレー、シロップ、ゲル、マグマ剤、リニメント剤、ローション、軟膏、泥膏、滴剤、及び吸入薬からなる群から選択される液体剤形である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、カプセル、フィルム、ロゼンジ、貼付剤、散剤、錠剤、ペレット、丸剤、及びトローチからなる群から選択される経口剤形である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ある医学的状態について個人を治療する方法であって:
MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を投与するステップと;
前記個人を治療するステップと
を含む方法。
【請求項10】
前記投与するステップが、10~1000mgのMDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を投与することとさらに定義される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記投与するステップが、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を毎日投与することとさらに定義される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
ラセミMDMA又はMDAで経験される、神経毒性、高体温、及び依存/嗜癖という副作用を予防又は軽減するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体が、それに結合されるプロドラッグを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記プロドラッグが、リジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、連続的徐放製剤中にある、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記組成物が、鼻腔内スプレー形態である、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記組成物が、懸濁剤、液剤、乳剤、エリキシル、チンキ、スプレー、シロップ、ゲル、マグマ剤、リニメント剤、ローション、軟膏、泥膏、滴剤、及び吸入薬からなる群から選択される液体剤形である、請求項9に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、カプセル、フィルム、ロゼンジ、貼付剤、散剤、錠剤、ペレット、丸剤、及びトローチからなる群から選択される経口剤形である、請求項9に記載の方法。
【請求項19】
前記治療するステップが、幸福、つながり、信頼、愛情、共感、開放性、及び向社会性の感情を誘発すること、並びに患者又は神経症の/健康な対象のあらゆる心理療法において治療的絆を増強することによって、心的外傷後ストレス障害、社交不安、自閉スペクトラム症、物質使用障害、うつ病、不安症、生命を脅かす疾患に伴う不安、パーソナリティ障害、統合失調症、強迫性障害、カップル療法、あらゆる心理療法の増強からなる群から選択される状態又は障害を治療することとさらに定義される、請求項9に記載の方法。
【請求項20】
MDMA及びMDAの神経毒性を低下させる方法であって:
MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与するステップと;
前記個人を治療しながらMDMA又はMDAの神経毒性を低下させるステップと
を含む方法。
【請求項21】
前記投与するステップが、10~1000mgのMDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を投与することとさらに定義される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記投与するステップが、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を毎日投与することとさらに定義される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体が、それに結合されるプロドラッグを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記プロドラッグが、リジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
MDMA及びMDAの高体温を軽減する方法であって:
MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与するステップと;
前記個人を治療しながらMDMA又はMDAの高体温を軽減するステップと
を含む方法。
【請求項26】
前記投与するステップが、10~1000mgのMDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を投与することとさらに定義される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記投与するステップが、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を毎日投与することとさらに定義される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体が、それに結合されるプロドラッグを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記プロドラッグが、リジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
MDMA及びMDAの身体依存又は乱用傾向を低下させる方法であって:
MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与するステップと;
前記個人を治療しながらMDMA又はMDAの身体依存又は乱用傾向を低下させるステップと
を含む方法。
【請求項31】
前記投与するステップが、10~1000mgのMDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を投与することとさらに定義される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記投与するステップが、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体を毎日投与することとさらに定義される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体が、それに結合されるプロドラッグを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
前記プロドラッグが、リジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、及びバリンからなる群から選択されるアミノ酸である、請求項33に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の背景
1.技術分野
本発明は、MDMA及びMDAでの精神医学的治療を提供するための組成物及び方法に関する。より具体的には、本発明は、MDMA及びMDAの鏡像異性体でのより安全な治療を提供するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.背景技術
3,4-メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA)は、気分及び知覚を変化させる向精神薬であり、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社交不安、自閉症のための心理療法における補助剤として検討されており(Danforth, 2016; Danforth et al., 2018; Danforth et al., 2016; Mithoefer et al., 2019; Mithoefer et al., 2010; Oehen et al., 2013)、この先、幅広い他の医学的状態のために研究及び使用することもできる。MDMA又は関連物質が有用であり得るこうした状態には、限定はされないが、物質使用障害、うつ病、不安症(社交不安が含まれる)、生命を脅かす疾患に伴う不安、パーソナリティ障害(自己愛性及び反社会性障害が含まれる)、自閉症及び他の発達障害、並びに強迫性障害が含まれる。MDMA又は関連物質は、個人又はカップル療法を向上させるために使用することもできる。
【0003】
MDMA又は関連物質は、急性的な前向きな気分の主観的効果を生じることによって、MDMA/物質によって補助される心理療法という状況において、プラスの長期の治療効果を生じると考えられており、また、これらは、心理療法の有効性を高め、それ自体で有益であり得る。こうした急性的な有益なMDMA効果には、限定はされないが、幸福の感情、他人とのつながりの感情、信頼の感情の増大、愛の感情、情動的共感の増強、並びに向社会性の感情の増強及び向社会的行動が含まれる(Hysek et al., 2014; Liechti et al., 2001; Schmid et al., 2014; Vollenweider et al., 1998a)。
【0004】
従来の技術は、MDMA、シロシビン、及びLSDを含めた、物質によって補助される心理療法における物質の使用を開示している(Carhart-Harris et al., 2017; Liechti, 2017; Luoma et al., 2020; Nichols et al., 2017; Sessa et al., 2019; Trope et al., 2019)。しかし、異なる治療的 利益/忍容性プロファイルを有する他の物質が、より好適である可能性がある。さらに、MDMAは、物質によって補助される心理療法のために現在検討されている唯一のエンパソーゲン型物質であるのに対して、シロシビン及びLSDは、異なる効果プロファイル及び作用機序を有するサイケデリック薬である(Holze et al., 2020)。MDMAの代替が示唆されている(Oeri, 2020)。これらの代替のMDMA様物質としては、そのインビトロでの薬理学的プロファイルに基づくと、また、娯楽的使用者によるその自覚的効果の報告に基づくと、MDMAとのいくらかの類似性を有し得る、多くの化合物が挙げられる(Oeri, 2020)。3,4-メチレンジオキシアンフェタミン(MDA)は、これまでに心理療法を補助するために使用されている、唯一のMDMA様物質である(Baggott et al., 2019; Yensen et al., 1976)。
【0005】
MDMAに関するいくつかの副作用及び安全性の懸念が存在する。MDMAの乱用は、異常高熱、神経認知異常、及びうつ病率上昇をもたらす可能性がある。MDMAはまた、神経毒性であり得、これにより、反復投与を伴って慢性的に使用される可能性は制限される。MDMAの使用は、しばしば、陳述記憶、展望記憶、及びより高度な認知能力を損なう。神経認知欠損は、海馬、頭頂葉皮質、及び前頭前皮質におけるSERT減少と関連する。EEG及びERP研究は、神経認知パフォーマンス中の脳活動の局在的な低下を示している。睡眠、気分、視覚、疼痛、精神運動スキル、振戦、神経ホルモン活性、及び精神状態の障害も実証されている。これらの影響は、より高い用量又はより長い使用で、より多く見られる。(Parrott, Neuroscience & Biobehavioral Reviews, Volume 37, Issue 8, 2013, Pages 1466-1484)
【0006】
MDMAは、2つの鏡像異性体、S(+)-MDMAとR(-)-MDMAを有する。ラセミMDMAの神経毒性は、S(+)鏡像異性体によって引き起こされ、ドパミンの放出薬としてのR(-)鏡像異性体の低い有効性に起因して、R(-)鏡像異性体によって引き起こされないと考えられている。R(-)鏡像異性体はまた、高体温を引き起こさない。R(-)鏡像異性体は、より低い乱用のリスクを有し得る。(Pitts, et al. Psychopharmacology (2018) 235:377-392)。これらの効果は、受容体研究及び限られた前臨床エビデンスでは示されているが、これが臨床研究において同じであるという証拠は存在しない。
【0007】
マイナスの副作用も軽減する、MDMAでの心理療法の有効な治療の必要性が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明の概要
本発明は、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の心理療法的又は医学的治療に使用するための組成物を提供する。
【0009】
本発明は、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を投与し、個人を治療することによって、ある医学的状態(特に自閉症及び社交不安障害)について個人を治療する方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与し、個人を治療しながらMDMA又はMDAの神経毒性を低下させることによって、MDMA及びMDAの神経毒性を低下させる方法を提供する。
【0011】
図面の説明
添付の図面に関連するとみなされる場合の以下の詳細な説明を参照することによって、同様のものが、より良く理解されるようになることから、本発明の他の利点は、容易に理解される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】プロジェクトスケジュールのチャートである。
【
図2A】グルーミングエピソードの回数のグラフである。
【
図3B】各活動領域で交流に費やす時間のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、心理療法的又は医学的治療において有用である、MDMA又はMDAの鏡像異性体の組成物を提供する。最も好ましくは、この組成物は、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体である。この組成物は、個人における社交不安障害を治療することにおいて特に有用であり、且つMDMA又はMDAのラセミ混合物に見られる神経毒性及び高体温、並びに依存及び嗜癖のリスク増大という有害な副作用を最小限にする。
【0014】
MDMA又はMDAの鏡像異性体は、薬学的に許容し得るプロファイルと共に高純度を有することができ、また、物理的に安定である。
【0015】
R(-)鏡像異性体 MDMA又はMDAは、10~1000mgの用量で投与することができる。MDMA及びMDAは、典型的には膜モノアミントランスポーター(セロトニン、ノルエピネフリン、又はドパミントランスポーター)と相互作用することによって、主としてモノアミン(セロトニン、ノルエピネフリン、及びドパミン)を、及びおそらくオキシトシンも放出させるアゴニスト剤である(Hysek et al., 2014; Hysek et al., 2012b; Simmler et al., 2013; Verrico et al., 2007)。
【0016】
組成物には、MDMA又はMDAの鏡像異性体のプロドラッグも含まれ得る。本明細書で使用される「プロドラッグ」は、個人への投与後に代謝される、活性な薬物に付着された部分を含み、活性な薬物に変換される化合物をいう。プロドラッグを使用することにより、活性な薬物が吸収、分配、代謝、及び排出される方式を向上させることが可能になる。プロドラッグは、薬物を体内の他の場所でより好都合に放出させることができるように、投与時の胃腸管での活性な薬物の放出を防止するために使用することができる。本発明におけるプロドラッグは、「proMDMA」、「proMDA」、「pro-R(-)MDMA」、又は「pro-R(-)MDA」と称することができる。
【0017】
プロドラッグ化合物は、MDMA又はMDAの鏡像異性体に共有結合的に付着されたアミノ酸などの、MDMA又はMDAの鏡像異性体への化学修飾を含む。アミノ酸の付加は、主としてモノアミントランスポーター(これは、作用部位であるだけでなく、バイオアベイラビリティ/吸収の速度に影響を与える)との相互作用を防止することによって、活性な化合物を不活性にする。アミノ酸は、リジン又はあらゆる他のアミノ酸、例えばアラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、又はバリンであり得、典型的にはMDMA又はMDAのアミン(N)基に付着され、したがって、主要な作用部位(セロトニン、ドパミン、及びノルエピネフリントランスポーターを含めた細胞膜モノアミントランスポーター)での薬理学的活性を低下させ、また、吸収の程度及び速度を変化させ、主として、不活性な化合物の吸収後に循環中に活性な物質を放出させる。アミノ酸は、他のあらゆる天然又は合成のアミノ酸であってもよい。本発明は、MDMA及びMDAと組み合わせられるアミノ酸の例としてリジンで説明する。しかし、本発明は、MDMA様物質のアミン基を介して他のあらゆるMDMA様物質に共有結合的に結合されてペプチド結合を形成する、他のあらゆるアミノ酸を使用することができる。他のいずれの化学修飾も使用することができる。
【0018】
本明細書に記載された発明は、lysMDMA(MDMAに共有結合的に結合されるリジンについて)及びlysMDA(MDAに共有結合的に結合されるリジンについて)を含めた薬物物質に関して、本発明を代表する物質の2つの例を詳細に説明する。この説明が、鏡像異性体形にも適用されることが理解されよう。
【0019】
本発明の分野における化合物は、一般に、アミノ酸としてのリジンと向精神物質としてのデキサンアンフェタミンとの組み合わせから得られるリスデキサンフェタミンについて記載されているもの(特許番号:国際公開第2005032474A2号、国際公開第2006121552A2号、米国特許第7223735B2号、米国特許出願公開第2009234002A1号、米国特許出願公開第20120157706A1号、国際公開第2017098533A2号)などの公知の経路と同様に調製することができる。簡単に言うと、bis-N保護リジン又は別のアミノ酸を、O-スクシンイミドなどの脱離基を導入することによって、カルボキシル基で活性化させる。本例では、この活性化されたリジン誘導体を、次いで、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、又はジイソプロピルエチルアミンなどの好適な非プロトン性塩基の存在下で、MDA又はMDMAなどの一級又は二級アミンと反応させて、それぞれ、対応するアミドを形成させる。好適な溶媒として、テトラヒドロフラン(THF)又はジオキサンが使用されるが、ジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO)などの他のものも考慮に入れることができる。単離及び精製後、bis-N保護lysMDA又はlysMDMAなどの化合物を、好適な溶媒に再溶解し、脱保護を可能にするための該当する条件(例えば、酸の使用)で処理して、水素感受性の保護基を除去するための活性炭担持パラジウム(Pd-C)などの触媒の存在下でtert-ブトキシカルボニル(BOC)基又は水素を除去する。最終生成物を、該当する条件による塩として、又はその遊離塩基として単離することができる。公知の手順による、任意選択のさらなる精製ステップ、及び/又は塩酸塩若しくはメシル酸塩などの塩への変換は、lysMDA若しくはlysMDMA、又はアミノ酸と結びつけられたMDMA様向精神物質のあらゆる同様の組み合わせなどの最終生成物をもたらすこととなる。
【0020】
R(-)鏡像異性体を使用することにより、MDMA又はMDAの毎日の使用が可能になる。該組成物は、長期間にわたって低用量を提供することができる、経皮貼付剤などの連続的徐放製剤において特に有用である。該組成物は、鼻腔内スプレーで投与することもできる。
【0021】
組成物はまた、限定はされないが、懸濁剤、液剤、乳剤、エリキシル、チンキ、スプレー、シロップ、ゲル、マグマ剤、リニメント剤、ローション、軟膏、泥膏、滴剤、又は吸入薬などの、液体剤形であり得る。組成物は、限定はされないが、カプセル、フィルム、ロゼンジ、貼付剤、散剤、錠剤、ペレット、丸剤、又はトローチなどの、固体剤形であり得る。
【0022】
本発明の化合物は、個々の患者の臨床状態、投与の部位及び方法、投与のスケジューリング、患者の年齢、性別、体重、及び医師に公知の他の因子を考慮して、適正診療規範に従って投与及び投薬される。したがって、本明細書の目的での薬学的に「有効な量」は、当技術分野で公知である通りのこうした考慮によって決定される。この量は、限定はされないが、より迅速な回復、又は症状の改善若しくは消失、及び当業者によって適切な尺度として選択される他の指標を含めた、向上を達成するのに有効でなければならない。
【0023】
本発明の方法では、本発明の化合物は、様々な様式で投与することができる。これは、化合物として投与することができ、単独で、又は薬学的に許容し得る担体、希釈剤、補助剤、及びビヒクルと組み合わせた活性な成分として投与することができることに留意するべきである。化合物は、経口的に、経皮的に、皮下に、又は非経口的に(舌下、頬側、吸入、静脈内、筋肉内、及び鼻腔内投与が含まれる)投与することができる。化合物の植込みも有用である。治療される患者は、温血動物、特に、ヒトを含めた哺乳類である。薬学的に許容し得る担体、希釈剤、補助剤、及びビヒクル、並びに植込み担体は、一般に、本発明の活性な成分とは反応しない、不活性な、非毒性の固体若しくは液体充填剤、希釈剤、又は被包材料を指す。
【0024】
用量は、単一用量、又は数日、数週、若しくは数か月の期間にわたる反復用量であり得る。治療は、一般に、疾患過程の長さ及び薬物有効性及び治療される患者の種と釣り合う長さを有する。
【0025】
本発明の化合物が経口的に投与される場合、これは、一般に、即時放出カプセル、即時放出錠剤、放出調節カプセル若しくは錠剤(腸溶コーティングが含まれる)、液剤、又は懸濁剤に製剤化されることとなる。本発明の化合物が非経口的に投与される場合、これは、一般に、舌下若しくは頬側口腔内溶解錠、溶解フィルム、鼻腔内粉末、鼻腔内溶液、吸入粉末、吸入溶液、経皮貼付剤、経皮貼付剤(マイクロニードル若しくは他の浸透促進因子を伴うもの)に、又は注射可能な単位剤形(液剤、懸濁剤、乳剤)として、製剤化されることとなる。注射に適した医薬製剤には、滅菌水溶液又は分散、及び滅菌注射可能溶液又は分散への再構成のための滅菌粉末が含まれる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)、好適なそれらの混合物、及び植物油を含有する、溶媒又は分散媒であり得る。
【0026】
適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合には、必要とされる粒径の維持によって、及び界面活性剤の使用によって、維持することができる。非水性ビヒクル、例えば綿実油、ゴマ油、オリーブ油、ダイズ油、トウモロコシ油、ヒマワリ油、又はラッカセイ油、及びエステル、例えばミリスチン酸イソプロピルも、化合物組成のための溶媒系として使用することができる。さらに、抗菌性保存剤、抗酸化剤、キレート剤、及び緩衝液を含めた、組成物の安定性、無菌性、及び等張性を増進する様々な添加剤を添加することができる。微生物の作用の予防は、様々な抗細菌及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などによって確実にすることができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、塩化ナトリウムなどを含めることが望ましいであろう。注射可能な医薬剤形の吸収の延長は、吸収を遅らせる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの使用によってもたらすことができる。しかし、本発明によれば、使用されるいずれのビヒクル、希釈剤、又は添加剤も、化合物と適合性がなければならないであろう。
【0027】
滅菌注射可能溶液は、本発明を実施する際に利用される化合物を、所望される通り、様々な他の成分と共に、必要とされる量の適切な溶媒に組み込むことによって調製することができる。
【0028】
本発明の薬理学的製剤を、様々なビヒクル、補助剤、添加剤、及び希釈剤などの任意の適合性のある担体を含有する注射可能製剤で、患者に投与することもできるし;本発明で利用される化合物を、徐放性の皮下植込み錠又は標的化送達システム、例えばモノクローナル抗体、ベクターによる送達、イオン導入、ポリマーマトリックス、リポソーム、及びミクロスフェアの形態で、患者に非経口的に投与することもできる。本発明で有用な送達システムの例には、5,225,182;5,169,383;5,167,616;4,959,217;4,925,678;4,487,603;4,486,194;4,447,233;4,447,224;4,439,196;及び4,475,196が挙げられる。他の多くのこうした植込み錠、送達システム、及びモジュールは、当業者に周知である。
【0029】
本発明は、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与し、個人を治療することによって、医学的障害について個人を治療する方法を提供する。この方法は、ラセミMDMA又はMDAで経験される、神経毒性、高体温、及び依存/嗜癖という副作用を予防又は軽減することをさらに含むことができる。上に列挙したプロドラッグのいずれかも使用することができる。
【0030】
具体的には、この組成物は、幸福、つながり、信頼、愛情、共感、開放性、及び向社会性の感情を誘発すること、並びに患者又は神経症の/健康な対象のあらゆる心理療法において治療的絆を増強することによって、心的外傷後ストレス障害、社交不安、自閉スペクトラム症、物質使用障害、うつ病、不安症、生命を脅かす疾患に伴う不安、パーソナリティ障害(自己愛性及び反社会性パーソナリティ障害が含まれる)、統合失調症、強迫性障害、カップル療法、あらゆる心理療法の増強を含めた、医学的障害又は状態を治療することに使用することができる。
【0031】
本発明は、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与し、個人を治療しながらMDMA又はMDAの神経毒性を低下させることによって、MDMA及びMDAの神経毒性を低下させる方法を提供する。この方法は、ラセミMDMA又はMDAの神経毒性という望まれていない副作用を回避しながら、個人へのMDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の毎日の投与を可能にする。上に列挙したプロドラッグのいずれかも使用することができる。
【0032】
本発明は、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与し、個人を治療しながらMDMA又はMDAの高体温を軽減することによって、MDMA及びMDAの高体温を軽減する方法を提供する。この方法は、ラセミMDMA又はMDAの高体温という望まれていない副作用を回避しながら、個人へのMDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の毎日の投与を可能にする。上に列挙したプロドラッグのいずれかも使用することができる。
【0033】
本発明は、MDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の有効量の組成物を個人に投与し、個人を治療しながらMDMA又はMDAの身体依存及び乱用傾向を低下させることによって、MDMA及びMDAの依存及び乱用傾向を低下させる方法を提供する。この方法は、ラセミMDMA又はMDAの依存/乱用傾向という望まれていない副作用を回避しながら、個人へのMDMA又はMDAのR(-)鏡像異性体の毎日の投与を可能にする。上に列挙したプロドラッグのいずれかも使用することができる。
【0034】
本発明を、以下の実験例を参考にして、さらに詳細に説明する。これらの例は、例示のみの目的で提供され、別段の指定がない限り、限定的であることが意図されない。したがって、本発明は、以下の例に限定されるものと決して解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供される教示の結果として明らかになるありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【実施例】
【0035】
実施例1
脆弱X症候群(FXS)は、自閉スペクトラム症(ASD)の単一遺伝子性の原因、及び最も一般的な遺伝型の知的障害の一つとして公知である。FXSを有する患者は、知的障害に悩むだけでなく、社会性障害を引き起こす、多動、反復行動、並びに実行上の及び言葉の問題を伴う問題などの、ASDの中核的及び二次的な表現型的形質を現す。Fmr1-KOマウスは、Fmr1遺伝子の過剰メチル化をもたらすCGGリピートの数の増加を引き起こす、脆弱X精神遅滞症候群1(fragile X mental retardation syndrome 1)(Fmr1)遺伝子のエクソン5を置き換えるネオマイシン耐性カセットを有し、したがって、FMRタンパク質生成が阻害される。Fmr1-KOマウスを、C57BL/6Jバックグラウンドで繁殖させる。
【0036】
脆弱XマウスモデルFmr1-KOは、強いASD様の行動、例えば、活動増大及び多動、不安低下、強い反復行動、並びに社会的行動の低下、及び発声を呈する。したがって、Fmr1-KOマウスモデルは、ASD様の行動の治療についてのインビボでの化合物試験を可能にする。
【0037】
この研究の目的は、FMR1ノックアウト(KO)マウスにおいて腹腔内に投与される、R-MDMA、S-MDMA、及びRS-MDMA(MDMAの別のラセミ形及びラセミ混合物)の効果を、賦形剤治療されたFMR1 KO及びC57BL/6J対照と比較して検討することである。一般活動性、反復行動、社会的相互作用、及び超音波発声に対する効果を、急性治療後に評価する。
【0038】
FMR1 KOマウスのカスタム繁殖
繁殖させるFmr1の40つがい(JAX Strain B6.129P2-Fmr1tm1Cgr/J #003025)を、Jackson laboratoriesから購入し、QPSに送った(ホモ接合型の雌をヘミ接合型の雄と交配した)。3繁殖周期と予想される間(合計13週)、繁殖させるつがいを、QPSに維持して、その後の有効性研究のための、総数96匹のFmr1 KOマウスを得た。
【0039】
有効性研究
10週齢の合計112匹の雄のFmr1 KOマウス、並びに16匹の年齢及び性別を適合させたC57BL/6Jを、1群あたり16匹の動物の7群にランダムに割り当てた(表1参照)。
【0040】
【0041】
マウスは、試験化合物又はビヒクルの腹腔内注射による3回の治療を受けた(A~D群、群割り当ては表1参照)。
【0042】
動物を、各行動試験の30前の腹腔内適用による急性治療後に、グルーミング評価、3チャンバー社会的相互作用試験(Three Chamber Social Interaction Test)、並びに超音波発声を含む、オープンフィールド試験(Open Field Test)で試験した。プロジェクトスケジュール及び行動試験の順序を、
図1に示す。
【0043】
Fmr1-KOマウスにおける自己グルーミング
Fmr1-KOマウスを、7週齢で、自己グルーミング行動について試験した。パラメータは、5分の慣らし段階の後、10分間測定し、C57BL/6JRj対照マウスと比較した。Fmr1-KOマウスは、C57BL/6JRj対照マウスと比較して、より長いグルーミング期間(
図2B)を伴う、有意に増加したグルーミングエピソードの回数(
図2A)を呈した。試験物の効果は、投与の30分後に、このアッセイにおいて研究した。n=15/群。独立t検定;平均値+SEM;
**p<0.01。
【0044】
Fmr1-KOマウスの社会的行動
Fmr1-KOマウスを、7週齢で、3チャンバー社会的相互作用試験において、社会的行動について試験した。動物は、3つの段階:慣らし、社会的アプローチ、及び社会的新規性において試験した。社会的アプローチ段階:同じ性別の成体の見知らぬ(stranger)マウスを、チャンバーの外側の活動領域の一つに入れたのに対して、他の1つは空のままにした。動物を、10分間、チャンバーのすべての部分を自由に探索させた。Fmr1-KOマウスは、C57BL/6JRj対照マウスと比較して、見知らぬマウスと共に過ごす時間が有意に短かった(
図3A)。さらに、見知らぬマウスと直接的に交流する時間が、Fmr1-KOマウスでは減少した(
図3B)。結果は、Fmr1-KOマウスの社会的アプローチ行動の減少を示唆する。試験物の効果は、投与の30分後に、このアッセイにおいて研究した。n=15/群。独立t検定;平均値+SEM;
**p<0.01;
***p<0.001。
【0045】
Fmr1-KOマウスの超音波発声(USV)
10週齢で、発情期の雌の新鮮な尿に曝露されている雄のFmr1-KOマウスからの超音波発声を記録した。試験を行う1週前、動物を、雌の臭いに慣らすために、発情期の雌に曝露させた。試験については、マウスを、そのUSVを5分間記録しながら、発情期の雌の新鮮な尿に曝露させた。Fmr1-KOマウスは、有意に減少した発声の回数を示す(
図4)。試験物の効果は、投与の30分後に、このアッセイにおいて研究した。n=15/群。独立t検定;平均値+SEM;
**p<0.01。
【0046】
本出願全体を通して、米国特許を含めた様々な刊行物が、著者及び年、及び番号による特許によって、参照として引用される。これらの刊行物についての完全な引用を、以下に列挙する。これらの刊行物及び特許の開示の全体を、本発明が属する先行技術をより十分に説明するために、参照によって本出願に組み込む。
【0047】
本発明は、例示的方式で記載しており、使用されている専門用語は、限定ではなく、説明の用語の性質を持っているものとすることが理解されよう。
【0048】
明らかに、上述の教示に照らして本発明の多くの改変及び変形が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の範囲内で、本発明を、具体的に記載されている以外に実行することができることが理解されよう。
【国際調査報告】