(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-04
(54)【発明の名称】低光透過率のグレーガラス
(51)【国際特許分類】
C03C 4/02 20060101AFI20240528BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20240528BHJP
C03C 3/078 20060101ALI20240528BHJP
【FI】
C03C4/02
C03C3/087
C03C3/078
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023577822
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(85)【翻訳文提出日】2024-02-14
(86)【国際出願番号】 MX2021050029
(87)【国際公開番号】W WO2022265484
(87)【国際公開日】2022-12-22
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519222302
【氏名又は名称】ウィドリオ プラノ デ メキシコ、エセ.ア. デ セ.ウベ.
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シド アギラー、ホセ グアダルーペ
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA01
4G062BB03
4G062DA06
4G062DA07
4G062DB01
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4G062KK05
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4G062KK10
4G062MM16
4G062NN05
(57)【要約】
本発明は、ソーダ・シリカ・カルシウムガラスと染料との組成物から形成される低光透過率のグレーガラスを記載する。前記染料は、1.65~3.0%Fe2O3;15~40%第一鉄(%還元);0.28~1.2%FeO(Fe2O3として表される);0.030~0.040%Co3O4;0.0020~0.010%セレン;0.00050~0.050%CuO;及び0.01~1%TiO2を含み、前記ガラスは、3.85mmの厚さを有する場合、光源Aの光透過率(TLA)が15%以下、直接太陽エネルギー透過率(TDS)が14%以下、近赤外線透過率(TIR)が14%以下、紫外線透過率(TUV)が8%以下、全太陽エネルギー透過率(TTS)が38%以下であり、純度が50%以下で、主波長が480~590nmである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソーダ・シリカ・カルシウムガラスと染料との組成物から形成される低光透過率のグレーガラスであって、
前記染料は、
1.65~3.0%Fe
2O
3;
15~40%Fe
2+(第一鉄);
0.28~1.2%FeO(Fe
2O
3として表される);
0.030~0.040%Co
3O
4;
0.0020~0.010%セレン;
0.00050~0.050%CuO;及び
0.01~1%TiO
2
を含み、
前記ガラスは、
光源Aの光透過率(T
LA)が15%以下、
直接太陽エネルギー透過率(T
DS)が14%以下、
近赤外線透過率(T
IR)が14%以下、
紫外線透過率(T
UV)が8%以下、
全太陽エネルギー透過率(T
TS)が38%以下
である、上記ガラス。
【請求項2】
前記ガラスが、好ましくは3.85mmの厚さを有する場合、50%以下の純度及び480~590nmの主波長で製造される、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
ベースガラス組成物が、
68~75%SiO
2;
0~5%Al
2O
3;
5~15%CaO;
0~10%MgO;
10~18%Na
2O;
0~5%K
2O及び
0.05~0.3%SO
3
を含む、請求項1に記載のガラス。
【請求項4】
着色ガラス組成物が、酸化鉄の酸化還元状態を変化させて調整するために、混合物中に0.01~1.0%NaNO
3をさらに含む、請求項1に記載のガラス。
【請求項5】
着色ガラス組成物が、酸化鉄の酸化還元状態を変化させるために、0~0.07%炭素をさらに含む、請求項1に記載のガラス。
【請求項6】
請求項1に記載のガラス及び染料の組成物を用いて形成されるガラスシートであって、フロートプロセスにより形成される、ガラスシート。
【請求項7】
厚さが3.85mmの場合、光源D65の下で測定された色座標が、L
*が51.7~15.6、a
*が-9.6~4.5、b
*が-5.5~19.5であり、励起純度が50%以下である、請求項6に記載のガラスシート。
【請求項8】
主波長が480~590nmである、請求項6に記載のガラスシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニュートラルグレー色の低透過率のガラスに関し、より具体的には、パノラマルーフ、リアウィンドウ、及びリアドア用の合わせガラスと強化ガラスの両方を製造するための、自動車産業で使用されるグレーガラス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
着色ガラスは、溶融プロセス中に、金属酸化物が取り込まれた材料である。これまでの研究の結果、鉄-コバルト酸化物をセレンと組み合わせて添加すると、その比率に応じて、緑がかったグレーからニュートラルなグレー、黄色がかったグレーまでの色合いのガラスが得られることが知られている。酸化鉄、酸化コバルト、セレンの濃度を高め、ガラス溶融雰囲気及び/又は混合物中の酸化還元条件(主に炭素と硝酸ナトリウム濃度)を制御することにより、自動車のルーフ、リアウィンドウ、及びリアドアに広く使用される、光透過率が低く、太陽光の直接透過を良好に遮断し、プライバシーグレーの色調を有するガラスを得ることができる。
【0003】
太陽光制御とは、近紫外(UV;300-380nm)、可視(VIS;380-780nm)、赤外(IR;780-2500nm)のスペクトル範囲において、透過され又は反射される太陽放射の量を変化させる機能のことである。自動車用途では、ガラスが赤外線(IR)と紫外線(UV)の両方の太陽放射線を吸収する特性を有するように、初期混合物に様々な吸収性着色剤を添加することでこれが達成され、太陽からの放射によって生じる車内への過剰な熱の通過を低減し、そこからの紫外線による劣化から車内を保護する。
【0004】
一種のニュートラルグレーガラスに言及しているほとんどすべての特許に記載されているガラスは、酸化鉄、酸化コバルト、及びセレンという3つの主な染料をベースにしており、その主な機能は、ガラスに太陽光制御特性を与えることである。
【0005】
以下の先行技術特許は、グレーガラスを得るための主な染料として様々な金属酸化物を使用し、生成物の最終的な特性を提供している。酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化クロム、又は希土類酸化物などのこれらの成分は、シリカ・ナトリウム・カルシウムガラスの基本配合物に混合される。
【0006】
例えば、Combesらに対する米国特許第5,352,640号(US RE37,998E)には、主に自動車産業で使用されるグレーガラスの入手について言及されており、着色剤の組成は、酸化鉄(Fe2O3)が1.4~4%、酸化コバルトが0~0.05%の範囲であり、Fe2O3が2%未満の場合、過剰な酸化コバルトを約0.02%含み、任意に、含有量が0.24重量%未満のCoO+Se+Cr2O3の組合せを有する。ガラスの物理的特性、例えば、光透過率及びエネルギー透過率は、それぞれ、光源Aの下で20%以下、厚さ3.85mmで12%以下である。
【0007】
Alvarez Casariegoらに対する米国特許第5,545,596号には、染料であって、Fe2O3(全鉄)については0.45~2.5%、CoOについては0.001~0.02%、Seについては0~0.0025%、Cr2O3については0~0.1%の濃度であり、自動車のサイドウィンドウ及びリアウィンドウに使用される、光源Aでの光透過率が20~60%のグレーグラスのための染料の使用を開示している。
【0008】
Setoらに対する米国特許第7,393,802号には、染料としてFe2O3、CoO、Se、及びNiOを使用することが記載されているが、紫外線吸収率を高めるために2.0重量%以下の量のCeO2及びTiO2を使用することも追加されている。
【0009】
Longobardoらに譲渡された米国特許第7,622,410号で得られたガラスには、酸化ニッケルが500~1000ppm、酸化エルビウムが0.1~0.8%の濃度で、酸化クロムが1~20ppmの含有量で使用され、さらに、酸化鉄の全含有量が0.15~0.45%、セレンが3ppm以下、酸化コバルトが120~240ppmで使用されている。これらの酸化物の混合物は、ガラスのグレーの色調を一般的に調整するために使用される。この特許のガラスの光透過率は8~25%であり、主波長が435~570nmであり、0.22~0.30の酸化コバルト/酸化ニッケル比、及び0.20~0.40のFeO/Fe2O3酸化還元値を使用している。
【0010】
これらのガラスの主な欠点は、その組成に希土類酸化物を使用するためのコストが高いことである。
【0011】
Teyssedreらに対する米国特許第8,017,538号では、開示されたガラスは、400~700ppm又は1500~1900ppmの濃度の酸化ニッケル、0.40以下の酸化還元値を有する0.7~0.95%の酸化鉄、及び200~300ppmの酸化コバルトを使用することが知られており、これにより、グレーの色調を調整し、次の物理的特性を得る:光源Aの下での光透過率(TLA)が50%以下、及び、ガラス厚さが3.85mmの場合、平均エネルギー透過率(TE)が45%以下。
【0012】
先の特許の一部で染料として使用されている酸化ニッケルの使用には、硫化ニッケルの含有物が(容易に検出できない)欠陥を形成し得るという欠点があり、この物質とガラスマトリックスの他の部分との熱膨張係数の違いにより、ガラスシートの破損を引き起こすおそれがある。
【0013】
Kimらに対する米国特許第8,551,899号に記載されているガラスは、Fe2O3が1.4~2.5%、CoOが0.02~0.04%、Seが0.0001~0.004%、MnOが0.005~0.5%、CeOが0.05~1%など、使用する染料によってダークグレー-ニュートラル緑色を呈し、光源Aの光透過率は15%未満である。これらのガラスは、自動車のプライバシーガラスやパノラマルーフとして使用されるほか、建築にも使用される。
【0014】
米国特許第7,754,632号では、Delmotteらは、MnOを最大600ppm、TiO2を0.1%未満の濃度で使用し、さらに他の酸化物(例えば、Fe2O3を1.1~1.5%(全鉄)、Coを150~200ppm、Cr2O3を25~100ppm、Seを10~50ppmなど)を加えて使用し、厚さ4mmで、光源Aの光透過率が20%未満という光学特性を達成している。
【0015】
Tsuzukiらに対する米国特許第8,785,338号は、Fe2O3(全鉄)が0.70~1.70質量%、FeO(酸化第一鉄)が0.15~0.45質量%、TiO2が0~0.8質量%、CoOが100~350ppm、Seが0~60ppm、Cr2O3が100~700ppm、及びMnOが3~150ppmの含有量を有するシリカ・ナトリウム・カルシウムガラス組成であって、第一鉄イオンと第二鉄イオンの比(Fe2+/Fe3+)が0.20~0.80であるシリカ・ナトリウム・カルシウムガラス組成について言及している。この特許は、このガラスが、優れた紫外線吸収性能と赤外線吸収性能(断熱性能)を有し、TiO2を、好ましくは0~0.5%の範囲で使用することによって適度な透過性を実現すると主張している。
【0016】
Leeらに対する米国特許第9,120,695号は、次のガラス組成を特徴としている:1.4~2%Fe2O3、FeO含有量10~30%(全鉄に対して)、0.02~0.035%CoO、0.0015~0.004%Se、0.005~0.5%MnO。光学特性として、光源Aの光透過率が15%未満、紫外線透過率が2%以下であることが報告されている。
【0017】
Choらによる米国特許第9,617,182号(2017年4月11日)の濃緑色ガラスは、染料として、全Fe2O3が1.2~2%、CoOが0.0220~0.04%、Seが0.002~0.0035%、及びCr2O3が0.01~0.04%を使用し、ここで、(CoO+Cr2O3)とSeの重量比(=[CoO+Cr2O3]/Se)は13~25であり、CoOとCr2O3の重量比(=CoO/Cr2O3)は0.9~1.8である。このガラスは、基準厚さ4mmで測定した可視光透過率(TLA)が15%以下、直接太陽エネルギー透過率(TDS)が16%以下、及び紫外線透過率(TUV)が3%以下である。
【0018】
Cid-Aguilarらに対する米国特許第7,902,097号では、0~30ppmのCo3O4、1~20ppmのSe、20~200ppmのCuO、及び0.30~0.70%のFe2O3を使用し、光源Aでの光透過率が65%超、全太陽エネルギー透過率が60%以下、紫外線透過率が46%未満、主波長が490~600nmの光学特性を備えたニュートラルグレーガラスを得ている。この特許では、酸化鉄と酸化銅の酸化還元状態を変化させるための成分(例えば、炭素を0.01~0.07%、又は硝酸ナトリウムを0.2~1.2%)を添加している。これは、他の染料と組み合わせて、酸化チタンと酸化コバルトの添加を部分的に置き換えることにより、グレーの色調を得るための代替手段として使用されるためである。
【0019】
上記から読み取れるように、鉄は、ガラス(シリカ・ナトリウム・カルシウム)中に、鉄の酸化状態に応じて、2つの化合物で存在する。鉄がFe2+として存在する場合、形成される化合物は酸化第一鉄(FeO)である。鉄がFe3+として存在する場合、酸化第二鉄(Fe2O3)が存在することになる。各イオンは異なる特性に寄与する;第一鉄イオンは、1050nmを中心とする広くて強い吸収帯を有しており、その結果、赤外線放射が減少する。さらに、この帯域は可視領域まで伸びているため、光透過率が低下し、ガラスに青みがかった色調を与える。一方、第二鉄イオンは、紫外領域に強い吸収帯を有する特徴があり、これによりガラスを通しての透過が明らかに妨げられ、さらに、420~440nmの可視領域に他の2つの弱い吸収帯を有するため、光透過率がわずかに低下し、ガラスが黄変する。
【0020】
一般に、ガラス中の鉄とその酸化第一鉄の量は、Fe
2O
3の形で表される。業界では、酸化第一鉄又は酸化第二鉄の量を全鉄に占める割合で表すのが一般的である。酸化第一鉄と酸化第二鉄のバランスは、ガラスの色と透過率特性に直接的な影響を与え、以下のように表される:
【0021】
上記は、ガラス中に存在する第二鉄イオン(Fe
3+)の量が多いほど、紫外線の吸収率が高くなり、光透過率も高くなることを意味し、黄色がかった色調になる。しかし、Fe
2O
3の化学還元の結果として第一鉄イオン(Fe
2+)の含有量が増えると、赤外線の吸収率は高くなるが、紫外線の吸収率は低下し、光透過率も低下する。
【0022】
Fe2O3に対してFeOの濃度が変化すると、ガラスの色の変化が生じる。色相の変化は、黄色から緑、青、そして琥珀色へと変化させることができる。色は次のように変化する(実験結果による):
黄色-低第二鉄(12%)-高光透過率(高第二鉄イオン)
黄色-緑がかった色(16%)
緑色-黄色がかった色(20%)
緑色(典型的な緑色ガラスの25%)
青みがかった緑色(29%)
緑がかった青色(35%)
青色(50%)
薄緑色(60%)
シャンパン色(65%)
琥珀色-高第一鉄(75%)-低光透過率(低鉄イオン)
【0023】
太陽光制御ガラスを実現するために必要な酸化第一鉄と酸化第二鉄のバランスを制御するには、混合条件と溶解雰囲気条件を確立する必要がある。前者の場合、還元剤(炭素など)と酸化剤(硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウムなど)の濃度を調整する。溶融条件については、所望のガラスの熱的性能や色合いに応じて、酸素含有量を増減して雰囲気を調整する必要がある。
【0024】
さらに、酸化チタンが染料としても作用することはよく知られており、Fe2O3と組み合わせて使用することで、所望の可視光透過率を達成するところまで紫外線の透過率をさらに低下させることが可能である。
【0025】
K.M.Fylesは、論文「Modern Automotive Glasses」(Glass Technology、37巻、1996年2月、2-6頁)の中で、鉄は、低価格で入手可能な成分であり、望ましくない紫外線(第一鉄イオン)を吸収するとともに、大量の赤外線(第一鉄イオン)を吸収するため、自動車用ガラスにおいて最も重要な染料であると考えている。
【0026】
Gordon F.Brestermらは、論文「The color of iron-containing glasses of varying composition」(Journal of the Society of Glass Technology、ニューヨーク、米国、1950年4月、332-406頁)の中で、鉄含有ケイ酸塩ガラスと非シリカガラスの組成を系統的に変化させることによって生じる色の変化について述べており、視覚的な色、分光透過率、及び色度の観点から評価している。
【0027】
他の記事でも、ガラス中の酸化第一鉄と酸化第二鉄のバランスの重要性について記載されている(例えば、N.E.Densem著、「The equilibrium between ferrous and ferric oxides in glasses」、Journal of the Society of Glass Technology、グラスゴー、英国、1937年5月、374-389頁;J.C.Hostetter及びH.S.Roberts著、「Note on the dissociation of Ferric Oxide dissolved in glass and its relation to the color of iron-bearing glasses」、Journal of the American Ceramic Society、米国、1921年9月、927-938頁)。
【0028】
赤外線及び紫外線の吸収特性を有する着色ガラスの組成については、多くの書籍や科学論文が出版されている。
【0029】
C.R.Bamfordは、著書「Color Generation and Control in Glass,Glass Science and Technology」(Elsevier Science Publishing Co.、アムステルダム、1977年)の中で、ガラスの着色方法の原理と用途について記載している。この本の中で著者は、入射光の色、ガラスとその光との相互作用、透過光と観察者の目との相互作用の3つの要素が、ガラスを透過する光の色を支配すると考えている。この手順には、対応するガラスの厚さと視野角を伴うガラスの分光透過率データが必要である。
【0030】
シリカ・ナトリウム・カルシウムガラス中の酸化チタン(TiO2)に関して、ガラス中のチタンの最も安定な形態は、4価(Ti4+)である。3価の形態は着色に寄与する可能性があるが、この効果は、シリカ・ナトリウム・カルシウムガラスでは観察されない。Beals MD著の文書「Effects of titanium dioxide on glass」(The Glass Industry、1963年9月、495-531頁)の中で、彼は、二酸化チタンがガラス成分として示されているといる関心について記載している。二酸化チタンの使用によってもたらされる効果としては、TiO2により屈折率が大幅に上昇し、紫外領域の光の吸収が増加し、粘度と表面張力が低下する、などが挙げられている。エナメル中における二酸化チタンの使用に関するデータから、TiO2により化学的耐久性が高められ、フラックスとして作用することが観察された。一般に、二酸化チタンを含有するクリアガラスは、一般的なガラス形成システム(ホウ酸塩、ケイ酸塩、リン酸塩)のすべてに見出すことができる。二酸化チタン含有システムの様々なガラス形成領域は、一箇所にまとめられていない。これは、議論の構成が、二酸化チタン含有ガラス自体の構成よりも、むしろ二酸化チタン含有ガラスの使用の特性に基づいているためである。
【0031】
一方、シリカ・ナトリウム・カルシウムガラスにセレンを添加すると、原子セレンの存在によりピンク色が生じることがある。セレンは、原料中に望ましくない不純物として含まれる微量の鉄を含むガラスに最も使用される物理的漂白剤の1つであり、なぜなら、その着色により、ガラス中に存在する第一鉄イオンと第二鉄イオンが中和されるためである。
【0032】
シリカ・ナトリウム・カルシウムガラス中における酸化鉄とセレンの組み合わせにより、赤褐色の着色と光透過率の低下がもたらされ、これは、490~500nmの可視領域にある吸収帯(原子セレンに類似した帯域)によるものである。この帯域は、紫外領域に向かって広がっており、ガラスのこの種の透過率の低下も引き起こしている。
【0033】
ガラスの着色の強さと最終的な特性は、ガラス中の酸化鉄とセレンの濃度の関数である。
【0034】
銅がガラス、セラミックス及び着色顔料の生産において重要な役割を果たしてきたことはよく知られている。例えば、ペルシャ陶器(セラミックス)の色合いは、銅によって与えられる色調によって認識されてきた。陶芸家にとって特に興味深いのは、ターコイズブルー、特に濃いエジプトブルーとペルシャブルーである(Waldemar A.Weil著、「Colored Glasses」、Society of Glass Technology、英国、154-167頁、1976年)。
【0035】
銅は、シリカ・ナトリウム・カルシウム系のガラス組成物だけでなく、例えばホウケイ酸塩を含むガラス組成物など、他のガラス組成物にも使用されてきた。したがって、発色する色は、ガラスのベース、その濃度、及びその酸化状態に依存する。
【0036】
ナトリウム・シリカ・カルシウムのベースガラスの場合、酸化物の形態の銅は、緑がかった青色の色調、具体的にはターコイズブルーの色調を与えるが、ガラス中では、銅は一価の状態になる可能性があり、これは色を与えない。したがって、青緑色の色調は、存在する銅の量だけでなく、第一銅の状態と第二銅の状態の間のイオンバランスにも依存する。酸化銅の最大吸収は780nmを中心とする帯域に見られ、二次的な弱い最大ピークが450nmに存在するが、これはソーダ含有量が高い場合(約40重量%)に消失する(C.R.Bamford著、「Color Generation and Control in Glass」、Glass Science and Technology,Elsevier Scientific Publishing Company、48-50頁,アムステルダム、1977年)。
【0037】
酸化鉄、酸化コバルト、セレン、及び酸化チタンを組み合わせて酸化銅(CuO)を取り込むことは、自動車産業又は建設産業で使用する低光透過率のグレーの色調を得るための代替手段であることが証明されている。ここで、ガラスは、公称厚さが3.85mmの場合、光源Aの光透過率(TLA)が15%以下、直接太陽エネルギー透過率(TDS)が14%以下、近赤外線透過率(TIR)が14%以下、紫外線透過率(TUV)が8%以下、全太陽エネルギー透過率(TTS)が38%以下であり、純度が50%以下で、主波長が480~590nmである必要がある。
【0038】
工業生産においては、CuOの添加は、厚さ4mmの場合は120ppm未満、厚さ6mmの場合は100ppm未満の濃度で可能であることが証明されている。
【0039】
ラミネートシステム(合わせガラス)の製造に使用されるガラスの場合と同様に、ガラスはより薄い厚さで製造することもできる。より高濃度のCuOが存在すると、フロートチャンバー内での形成プロセス中に、プロセス雰囲気に起因する還元プロセスが発生する可能性があり、ガラス表面に赤みがかった色が現れ、反射で観察される可能性がある。この効果は滞留時間とガラスリボンの前進速度に関係しており、速度が低い場合には、ガラス中のCuO含有量を減らすか、フロートチャンバー内の還元条件を調整する必要があることを意味する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
本発明の主な目的は、フロートプロセスで製造された、低光透過率のグレーガラスであって、公称厚さが3.85mmの場合、光源Aの光透過率(TLA)が15%以下、直接太陽エネルギー透過率(TDS)が14%以下、近赤外線透過率(TIR)が14%以下、紫外線透過率(TUV)が8%以下、全太陽エネルギー透過率(TTS)が38%以下であり、純度が50%以下で、主波長が480~590nmである。
【0041】
本発明の別の目的は、酸化コバルト(Co3O4)の一部代替として酸化銅を使用することである。フロートプロセスで製造された平板ガラスへの添加の可能性は、錫チャンバーの条件による還元効果なしで、120ppmに近いレベルまで実証されている。同様に、TiO2は、追加元素として酸化鉄に取り込まれ、紫外線の透過率をさらに低下させる。
【0042】
本発明のさらなる目的は、酸化鉄の酸化還元状態を変化させるために炭素や硝酸ナトリウムなどの追加元素を含む、光透過率の低いグレーガラス組成物を得ることでもある。
【0043】
本発明のガラスは、ニッケル、クロム、マンガン、又は希土類酸化物、主に酸化エルビウム(Er2O3)などの着色化合物の使用を避けている。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、グレーガラス組成物に関し、その主な用途として自動車産業での使用が挙げられているが、当該使用は、建設産業などの他の分野に限定されず、例えば、カソード真空浸食プロセス(MSVD)、化学気相成長(CVD)又は他の技術によって適用される1つ又は複数の薄層によって被覆される基材としてなど、他の用途に限定されるものではない。
【0045】
自動車産業用のフロートガラスプロセスによって形成されるシリカ・ナトリウム・カルシウムガラスの典型的な組成は、ガラスの全重量に対する重量百分率に基づく以下の配合を特徴とする。
【0046】
本発明のガラス組成物は、シリカ・ナトリウム・カルシウムガラスをベースとし、グレー色を得るために以下の染料を添加したものである。
【0047】
硝酸ナトリウム(NaNO3)と炭素を組成物に添加する主な目的は、鉄の酸化状態を変化させ、最適レベルの直接熱伝達(TDS)を達成することである。また、硝酸ナトリウムは、ガラス中のセレンの保持を最適化するのに役立つ。
【0048】
このグレーガラスは、例えば1.4~6mm、1.6~5mm、より好ましくは3.85mmの厚さを有する場合、光源Aの光透過率(TLA)が15%以下、直接太陽エネルギー透過率(TDS)が14%以下、近赤外線透過率(TIR)が14%以下、紫外線透過率(TUV)が8%以下、全太陽エネルギー透過率(TTS)が38%以下であり、純度が50%以下で、主波長が480~590nmである。本発明のガラスは、ニッケル、クロム、マンガン、又は希土類酸化物、主に酸化エルビウム(Er2O3)などの着色化合物の使用を避けている。
【0049】
以下の例は、光源Aの光透過率(TLA)、直接太陽エネルギー透過率(TDS)、近赤外線透過率(TIR)、紫外線透過率(TUV)、全太陽エネルギー透過率(TTS)の物理的特性を示している。3.85ガラスの場合、色透過率(L*、a*、b*)、色純度、及び主波長(λ)。
【0050】
<表1及び表2>
表1及び表2(例1~例14)は、酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co3O4)、セレン(Se)、酸化銅、及び酸化チタン(TiO2)を組み合わせた本発明の組成物の実験結果を示している。さらに、それらは、炭素の添加なしで、混合物中に酸化剤として硝酸ナトリウム(NaNO3)を0.66%含む。
【0051】
【0052】
【0053】
<表3>
表3(例15~例18)は、酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co3O4)、セレン(Se)、酸化銅、及び酸化チタン(TiO2)を組み合わせた本発明の組成物の実験結果を示している。さらに、0.16%の硝酸ナトリウム(NaNO3)と0.04%の炭素(コークスタイプ)が、混合物中に取り込まれている。
【0054】
【0055】
<表4及び表5>
表4及び表5(例19~例31)は、酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co3O4)、セレン(Se)、酸化銅、及び酸化チタン(TiO2)を組み合わせた本発明の組成物の実験結果を示している。同様に、それらは、混合物中に硝酸ナトリウム(NaNO3)を0.16%、炭素を0.02%含む。
【0056】
【0057】
【0058】
<表6>
表6(例32~例34)は、酸化鉄(Fe2O3)、酸化コバルト(Co3O4)、セレン(Se)、酸化銅、及び酸化チタン(TiO2)を組み合わせた本発明の組成物の実験結果を示している。さらに、それらは、硝酸ナトリウム(NaNO3)を0.16%、炭素を0.030%含む。
【0059】
【0060】
硝酸ナトリウム(NaNO3)と炭素を組成物に添加する主な目的は、最適レベルの直接熱伝達(TDS)を達成するために、鉄の酸化状態を変化させることである。色とプライバシーは、本発明に記載された染料の割合を最適化することによって調整される。
【0061】
得られたガラスの物理的特性を、国際的に認められた基準に従って評価した。主波長や励起純度などの色決定の仕様は、多くの観察者が参加した実験の直接的な結果として、国際照明委員会(C.I.E.)によって採用された三刺激値(X,Y,Z)から導き出されている。これらの仕様は、それぞれ赤、緑、青の色に対応する三刺激値の三色係数x、y、zを計算することによって決定することができる。三色値は色度図にグラフ化され、照明の標準とされるD65光源の座標と比較される。この比較により、色の励起の純度とその主波長を決定するための情報が得られる。主波長は色の波長を定義するもので、その値は380~780nmの可視領域にあり、励起純度については、その値が低いほどニュートラルカラーに近くなる傾向がある。
【0062】
紫外線透過率(TUV)の計算は、太陽の紫外線の範囲に合わせて調整されているため、ISO/DIS 13837規格に示されているとおり、300~400nmの範囲で、10nm間隔で評価した。
【0063】
光透過率の評価には、光源「A」の光透過率(TLA)を使用し、400~800ナノメートルの波長範囲で、10nm間隔で値を積分した。色透過率(L*、a*、b*)は、ASTM E308(C.I.E. D65 10°の観察者)に従って計算した。
【0064】
直接太陽エネルギー透過率(TDS)の値は、ISO/DIS13837規格に従って、300~2500nmの範囲で、5、10、及び50nmの間隔で評価した。
【0065】
赤外線透過率(TIR)では、ISO/DIS 13837規格の値を使用して、50nm間隔で800~2500nmの範囲の太陽スペクトルの放射に含まれる範囲を考慮する。
【0066】
全太陽エネルギー透過率(TTS)は、ISO/DIS 13837規格に従って、4m/sの(定常)風速を考慮して300~2500nmの範囲で評価した。
【0067】
本発明のニュートラルグレーガラスは、フロートガラスプロセスによって1.4mm~6mmの厚さで製造することができるが、この範囲の厚さのみに限定されるものではなく、強化ガラスとして、二重窓グレージングシステムとして、ラミネートプロセスとして、又は1層以上の層で覆われた基材として処理することができる。
【0068】
このガラスは、光源Aを用いた光透過率(TLA)が15%以下、直接太陽エネルギー透過率(TDS)が14%以下、近赤外線透過率(TIR)が14%以下、紫外線透過率(TUV)が8%以下、全太陽エネルギー透過率(TTS)が38%以下、純度が50%以下の特性を有する。
【国際調査報告】