(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-01
(54)【発明の名称】水素製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 3/38 20060101AFI20240725BHJP
【FI】
C01B3/38
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024506808
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(85)【翻訳文提出日】2024-04-02
(86)【国際出願番号】 IT2021000040
(87)【国際公開番号】W WO2023012837
(87)【国際公開日】2023-02-09
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522055555
【氏名又は名称】ネクストケム テック エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】コロッツィ, ミケーレ
(72)【発明者】
【氏名】パロ, エマ
(72)【発明者】
【氏名】ロマニュオーロ, サルヴァトーレ
(72)【発明者】
【氏名】リッチ, イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】コッチャリア, アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】マッシーニ, ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】アントネッリ, メニカ
(72)【発明者】
【氏名】タラスキ, ステファニア
【テーマコード(参考)】
4G140
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA06
4G140EB14
4G140EB32
(57)【要約】
本発明は、炭化水素供給物から水素を製造する装置であって、複数の触媒管を有する電気加熱式水蒸気改質炉を含む少なくとも1つの水蒸気改質装置を備え、1つ以上の電気発熱装置が前記触媒管の各々の加熱領域の周囲に配置される、水素製造装置に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の触媒管を有する電気加熱式水蒸気改質炉を含む少なくとも1つの水蒸気改質装置を備え、前記複数の触媒管は、直列に配置されてグループに分けられており、前記グループは並列に配置されている炭化水素供給物から水素を製造する装置であって、1つ以上の電気発熱装置が前記触媒管の各々の加熱領域に存在することを特徴とする、水素製造装置。
【請求項2】
前記加熱領域が、前記触媒管の周囲に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記加熱領域が、前記触媒管内に配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記電気発熱装置は、半円筒形状を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記電気発熱装置が、支持要素上に配置された電気抵抗を備えることを特徴とする、請求項4に記載の水素製造装置。
【請求項6】
前記支持要素は、絶縁材料で作製され、前記電気抵抗は、前記支持要素の側面に、前記触媒管に対向して配置されることを特徴とする、請求項5に記載の水素製造装置。
【請求項7】
前記電気発熱装置の少なくとも一部が他の電気発熱装置とは独立して作動することを特徴とする、先行請求項のいずれか一項に記載の水素製造装置。
【請求項8】
直列に配置された前記触媒管の間に配置された水素分離用システムを備えることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の水素製造装置。
【請求項9】
前記触媒管には、前記触媒管の内側に直接配置された水素分離用システムが設けられていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の水素製造装置。
【請求項10】
前記水素分離用システムは、膜を備えることを特徴とする、請求項8又は9に記載の水素製造装置。
【請求項11】
前記膜がPd系膜であることを特徴とする、請求項10に記載の水素製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気排出をゼロにするように構成された水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
既知のように、水素の需要は、2018年にはほぼ75百万トンに達し、年間約6%増加しており[IEA.org/reports/the-future-of-hydrogen、2019年6月]、そのうちの50%超が水素化処理及び水素化分解として精製用途で使用され、残りの部分は、主にアンモニア及びメタノールの生産に使用されている。
【0003】
現在、特に原料として天然ガス又はオフガスを使用する精製産業において、水蒸気改質は、水素を生産するための最もコスト効果の高い技術である。天然ガス及び軽質ナフサの水蒸気改質は、H2/CO比が最も高く、生産コスト(CoP)が最も低い非常に効率的なプロセスであるので、このような生産のための主力となっている。
【0004】
水蒸気改質プロセスにおいて、炭素含有原料、すなわち天然ガスは、以下の反応に従って蒸気と反応する。
水蒸気改質反応
CH4+H2O=CO+3H2
及び水性ガスシフト反応
CO+H2O=CO2+H2
により、合成ガスの混合物が得られる。
【0005】
反応は、触媒管、すなわち炉に設置された管内で実施される。
【0006】
反応は、全体的に吸熱性が強く、熱負荷は、改質炉の放射部で燃料を燃焼させることによって供給される。
【0007】
プロセスの吸熱性を維持するために燃料を燃焼させる必要性があることを考慮すると、プロセスを特徴付けるCO2排出量の観点から、強い環境への影響を強調する必要がある。
【0008】
特に、水蒸気改質プロセスにおいて、CO2の一部(典型的には総量の約50%~60%)は、水蒸気改質及び水性ガスシフト反応器の下流段階におけるプロセス内の合成ガスで生成される一方、他の部分(40%~50%)は、外部燃料燃焼によって供される熱により、吸熱反応に必要な熱入力が供給される水蒸気改質炉内でさらに生成される[G.Collodi、Chemical Engineering Transactions 19(2010)37]。約0.9kgのCO2が、H2のNm3あたりに生成されると推定されている。
【0009】
CO2固定排出をもたらす主要な産業部門は、発電所及びエネルギー集約型産業が代表的である。特に、精製産業部門は、総CO2固定排出量の約6%を占めている[Jiri van Straelen、Frank Geuzebroek、Nicholas Goodchild、Georgios Protopapas、Liam Mahony、CO2 capture for refineries、a practical approach、Energy Procedia 1(2009)179-185]。水蒸気改質プロセスは、精製産業におけるCO2排出量の少なくとも最大20%を占める[J.van Straelen、F.Geuzebroek、N.Goodchild、G.Protopapas、L.Mahony、International Journal of greenhouse control、4(2010)316]。
【0010】
IEA[Jiri van Straelen、cit.]によると、現在、約8億3000万トンのCO2が、毎年の水素生産に関係している。この炭素フローは、今後数年間で、それぞれの単一化学プロセスに関連するCO2排出量が、水素を作製することを含めて、技術選択を評価するための最初かつ主要なパラメータとなることから重要である。
【0011】
実際、炭素中立のエネルギー及び生産システムを達成する上での主要な課題は、石油及び天然ガスなどの化石燃料資源に現在大きく依存している産業を脱炭化することである。化学産業で使用される最終エネルギー及び原料の将来の脱炭素化に最も有望な選択肢は、電気の形で生成される比較的豊富な風力と太陽光エネルギーの潜在的な可能性を熱、化学物質、及び燃料に変換することである。実際、電化には、持続可能性の向上、化石エネルギー及び原料の使用の低減に関する大きな進歩をもたらす可能性がある。従来の燃焼化学反応器の電化は、CO2排出を低減するだけでなく、より柔軟でコンパクトな熱発生ソリューションを提供する潜在能力を有している。
今後、電力コストが下がり、再生可能電力がますます利用可能になるという前提の下、水蒸気改質装置内で反応熱を供給する現在の燃焼ステップを電気デバイスに置き換えることは合理的炉バーナからCO2排出をもたらすことを排除し得る
さらに、熱交換の効率を最大化することが可能であることから、原料消費量の低減にも役立ち、プロセス側面からのCO2排出を制限し得る。
【0012】
また、水蒸気改質装置の熱設計は、非常に複雑な課題であり、このような種の加熱ヒータに対する専門的な知識が必要であることも強調されなければならない。実に、バーナが内部に設置された炉は、水蒸気改質装置の構成が非常に複雑になり、全体的に、かなり大きなフットプリントの特徴を有するプラントとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
これらに基づいて、CO2排出低減に対するニーズと、基本的には、設備投資の減少、並びに維持保守の容易さ及び輸送が容易になる可能性をもたらし得るよりコンパクトな設計の特徴とが合致するように反応器の形状を再構成する必要がある。
【0014】
図1を参照して、従来技術によると、天然ガス原料により水蒸気改質を行う従来の水素製造ユニット(HPU)のプロセスアーキテクチャには、以下の従来のプロセスステップが含まれる。
(i)天然ガス圧縮(図示せず)及び予熱、
(ii)オレフィンの水素化及び硫黄成分の除去(前処理ユニット1において)、
(iii)水蒸気改質(燃焼加熱水蒸気改質装置2内で)、
(iv)蒸気発生及び蒸気過熱(図示せず)によるプロセスストリーム及び煙道ガスからの熱回収、
(v)シフト反応による一酸化炭素の変換(水性ガスシフト反応器3内で)、
(vi)圧力スイング吸着(圧力スイング吸着装置又はPSA4内で)による水素の精製。
【0015】
ステップ(ii)及び(iii)の間に、使用される炭化水素供給原料に応じて、前改質ステップを追加してもよい。
【0016】
図1を参照すると、従来の天然ガス水素製造ユニットのブロック図が示されている。
図1には、余剰の蒸気が示されていないが、存在しており、以下に説明する。天然ガス原料は、下流の水蒸気改質触媒に悪影響を及ぼす化合物を除去するために、圧力下で前処理ユニット1に供給される。前処理ユニット1は、第1の水素化ステップ及び第2の脱硫ステップを、任意選択で1つのステップに組み合わせて、実施する。CoMox又はNiMox触媒を使用し、固定床触媒反応器で第1のステップを実施して、有機硫黄をH
2Sに、有機塩素成分を塩化水素に水素化する。供給物に存在するオレフィンも、このステップで水素化される。
【0017】
必要とする水素(約3モル%、天然ガス原料で典型的な値)は、H2生成物ストリームから再利用され、及び/又は、プラントの境界線より入手可能な水素源から取り出される。次いで、得られた水素化化合物は、通常、H2S吸着のための、任意選択で塩化水素吸着材料を備える酸化亜鉛床と反応する、脱硫ステップに送られる。
【0018】
次いで、処理された原料は、選択された蒸気/炭素モル比の値(S/C=3mol/mol、標準値)に従って制御された量の蒸気と混合され、改質炉2の対流部において550℃(標準値)で予熱される。
【0019】
このプロセスの核心は、Ni触媒上での蒸気とメタンとの吸熱反応(反応1)である。
CH4+H2O⇔CO+3H2 ΔH0=+206kJ/mol (1)
反応は、炉の放射部の外部燃料燃焼によって加熱された管状触媒反応器内で行われる。主蒸気改質反応と並行して、水性ガスシフト反応(反応2)は、第1の反応によって生成されたCOの一部を追加のH2及びCO2に変換する。
CO+H2O⇔CO2+H2 ΔH0=-41kJ/mol (2)
供給物に加われたプロセス蒸気は、炭化水素の変換を向上させ、触媒上の炭素の析出を防ぐように、化学量論的量を超えている。高い水素収率を得るために、改質温度は、高い範囲(典型的には、850℃~920℃)で選択される。加熱ヒータ内の水蒸気改質反応を実施して、放射部の熱効率の低下に関連した余剰の熱の発生を引き起こす。過剰な熱は、通常、高圧蒸気発生を通じて対流部で回収される。
【0020】
これに加えて、プロセスガスボイラーで追加の蒸気を生成し、水蒸気改質装置の出口でプロセス合成ガスを冷却する。生成される蒸気全体は、プロセス自体に必要な量を超えるため、余剰の蒸気量は、副産物としてプラントの境界線で利用可能になる。次いで、冷却されたプロセスガスは、約320℃の入口温度で高温シフト転換段階(HTS)に供給される。
【0021】
HTSシフト反応器3は、合成ガス中に存在する一酸化炭素及び蒸気を水性ガスシフト反応(反応2)に従って追加の水素及び二酸化炭素に変換する、鉄/クロム/酸化銅触媒を使用した固定床断熱反応器である。場合によっては、低温での追加のシフト変換段階(LTS)が下流に設置され、実施される。
【0022】
シフト転換段階の出口において、プロセス合成ガスは、熱回収部及び最終冷却器を通して約40℃まで冷却される。下流では、凝縮水の除去のための装置が設けられ、合成ガスが、そこからPSAユニット4に送られて、原料水素の精製が行われる。
【0023】
PSAユニット4は、選択された吸着材料上で実施される短い吸着/脱着サイクルを通じて動作し、異なる時間段階で並列の容器内で動作する。
【0024】
水素は、設定圧力(例えば、精製用途では、通常、約20バールg)でPSAユニット4から放出される。PSAの水素回収係数は、最大90%の値を達成できるが、水素バランスは、原料水素ストリームに存在する不純物とともに、パージガスストリーム(オフガス又は再循環ストリーム)に放出され、低圧力(約0.3バールg)でPSAユニット4を離脱する。PSAユニット4は、最大99.9999%体積の水素純度に達し得る。精製産業における典型的な水素純度の仕様は、99.9%超である。
【0025】
ほぼ大気圧でPSAから回収され、かつ生成されたCO2と残留水素とを含んでいるオフガス(このストリームの例示的な組成は、18モル%のCH4、10.24モル%のCO、45.10モル%のCO2、26モル%のH2、0.55モル%のH2O)は、改質炉2で再利用されて戻され(再循環ストリーム)、この改質炉2では、残留水素とCOが補給燃料とともに燃焼され、生成された煙道ガスが煙突に送られる。
【0026】
水蒸気改質炉6(
図2)を特に参照すると、従来の燃焼式加熱改質装置において、炉内のバーナを様々に配置することが可能である。
図2a~2dを参照すると、バーナ7は、横方向壁部の2つの側面に位置決めされてもよく(側面燃焼式)(
図2a);放射部8aの上部に位置決めされてもよく(上部燃焼式)(
図2b);市販の他の構成も利用可能であるが、例えば、底面燃焼設計(
図2c)又はテラス壁(terrace-wall)配置(
図2d)であリ得る。
【0027】
より詳細に、
図3は、触媒を含んでいる改質管9(したがって、以下では触媒管9ともいう)を有する放射部8aと、天井のバーナ7と、放射部8aから出る煙道ガスが、プロセスストリームを予熱し、蒸気を生成し、任意選択で燃焼気流を予熱することによって冷却される対流部8bとを備える、従来技術による上部燃焼式水蒸気改質炉6の概略図である。
【0028】
煙道ガスは、誘導換気ファン及び煙突(図示せず)を通して大気中に排出される。
【0029】
反応負荷のみが伝達される炉放射部8aの熱効率は、放射部8aから排出される煙道ガスストリームの温度を決定し、これがいわゆる「ブリッジ壁温度」又はTbwである。その値に基づいて、全熱収支から導出された煙道ガス流量とともに、対流部8bでの下流対流熱回収に利用可能な熱を決定する。
【0030】
バーナ7には、通常、下流のPSA4によって回収された燃料及びオフガスが供給される。
【0031】
各触媒管9は、本質的には固定床反応器であり、供給物が、十分な移動を可能にするピグテール(図示せず)と呼ばれる湾曲接続部を通って、改質装置の放射部8aの上部へ入り、底部から出るようになっており、管の熱膨張に対応する。
【0032】
プロセス条件に耐えるために、触媒管9は、最大1000℃の金属温度に耐え得るHP25/35Ni-Cr合金などの特殊な材料で作製される。バーナ7から炎が生成されるので、触媒管9の全長に沿って炎が適切に展開することをよく確認することが必要である。
【0033】
このような理由から、通常、触媒管9は、長さが10~13メートル、内径が7.6~12.7cmの範囲である。厚さは、普通、最高金属温度で100000時間の寿命を目標としたクリープ強度データに基づいて計算される。炎は、放射部8a内の金属触媒管9に近接して存在するため、これは必須である。
【0034】
放射部8a内の触媒管9の本数を計算するための主要な情報は、改質装置周りの熱及び物質収支を通じて算出される熱負荷である。各単一の触媒管9の平均熱流束と面積が一旦固定されると、触媒管9の本数を決定することができる。
【0035】
上記に基づいて、従来の燃焼加熱水蒸気改質装置2は、必要な触媒体積を超えて、必要な熱交換面積を確保するように設計されている。管の材料の限界と対応する熱伝達は、設計における制限ステップである。したがって、通常、出口改質温度で熱力学的平衡に達するまでの実際の反応の必要性に比べて、設けられる触媒の体積は過剰に設計される。
【0036】
改質炉6の主要な幾何学的パラメータが一度定められると、プロセス側及び煙道ガス側の放射部8aの挙動をシミュレートし、放射部8a及び触媒管9に沿った温度プロファイルを計算することが可能になる。触媒管9に沿った金属温度プロファイルは、触媒管9の厚さを計算する出発点である。
【0037】
従来の燃焼加熱水蒸気改質炉6の設計において、コークスが形成される(主に、供給原料又はCO不均衡の結果として)領域を最小化するために、触媒床に沿った熱分布に留意する必要がある。コークスの形成可能性を最小限に抑えるために、大量の余分な蒸気を加え、反応器2がコークス形成の熱力学的領域を十分に超えていることを確認する。
【0038】
電気水蒸気改質は、過去数年において多く研究されてきた。これに関連して、つい最近、Haldor Topsoeは、デンマーク工科大学と協力して実施し、水蒸気改質反応のために内部を触媒で被覆した管に、電力を適用することに基づく共同研究の結果を公表した[S.T.Wismann、J.S.Engbaek、S.B.Vendelbo、F.B.Bendixen、W.L.Eriksen、K.Aasberg-Petersen、C.Frandsen、I.Chorkendorff、P.M.Mortensen,Electrified methane reforming:A compact approach~greener industrial hydrogen production,Science、2019、364、756-759].この刊行物によると、提案された解決方法の性能を確認するために、実験及びモデル調査が進行中である。この刊行物によると、最初の結果は、電気熱源と反応部位との間の密接な接触が、反応を熱平衡に近づけ、触媒利用を増加させ、望ましくない副産物の形成を制限し得ることを示した。
【0039】
Haldor Topsoeが報告した論文によると、反応器の触媒管の外面の両端に銅製のソケットが取り付けられており、管に沿って交流電流を流すことで抵抗加熱を行って、電気抵抗加熱(オーム加熱)により管の内側に塗布された触媒ウォッシュコートに直接に熱を供給が可能である。この論文で強調されている肯定的な特徴は、プロセスへの熱の均一な供給により、熱流束がほぼ一定に確立されることで、ガス混合物が触媒全長にわたって平衡に近い状態に保たれることである。しかしながら、提案された解決方法は、小さな直径の、触媒が触媒管壁にウォッシュコートされた触媒管に適用するように報告されており、この技術は、ウォッシュコート触媒の調製において、特にこのような調製が金属表面で行われることを考慮して、強い専門知識を持つ対象が実施する必要がある。さらに、この技術は、ペレット触媒の使用よりも時間がかかり、より高価である。
最後に、WO2019228798によると、電気抵抗加熱によって加熱される吸熱反応、特に、抵抗加熱によって当該吸熱反応のための熱を供する、炭化水素を含む原料ガスの水蒸気改質を実行するための反応器システム及びプロセスが開示されている。WO2019228798によると、当該反応器システムは、
-原料ガスの吸熱反応を触媒するように配置された構造化触媒であって、触媒活性材料を支持するセラミックコーティングを支持する、電気伝導性材料の巨視的構造を含む、構造化触媒と、
-前記構造化触媒を収容する圧力シェルと、
-前記構造化触媒と前記圧力シェルとの間の断熱層と、
前記構造化触媒と、前記圧力シェルの外側に配置された電力供給源とに電気的に接続された少なくとも2つの導体であって、前記電力供給源が、前記電気伝導性材料を通じて電流を通すことによって、前記構造化触媒の少なくとも一部を少なくとも200℃の温度に加熱するように寸法が決められている導体とを含む。
【0040】
以上の全てを考慮すると、電気伝導性材料の巨視的構造を含む構造化触媒を使用して、電気伝導性材料を通して電流を通すことによって熱を供することによるシステムの複雑さは明らかである。
【0041】
実際、導電性材料の巨視的構造又は絶縁層が損傷した場合、反応器全体の交換が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0042】
このようなことを鑑みて、炭化水素供給物、例えば天然ガスもしくはバイオガス、又は他の生炭化水素供給物から水素を製造する装置であって、電気加熱式水蒸気改質装置を備え、設置や交換が容易で管理が簡単な電気装置を通して熱を供する、水素製造装置を提供することを目的として、本発明の解決方法を提案する。
【0043】
特に、本発明に係る水素製造装置は、より短い触媒管を使用することが可能であり、よりコンパクトなシステムが得られる。
【0044】
したがって、本発明は、従来技術による解決方法の限界を克服し、前述の技術的結果を達成することを可能にする水素製造装置を提供することを目的とする。
【0045】
本発明のさらなる目的は、当該水素製造装置が、従来の構造化触媒を使用する反応器と比較して、実質的に限定されたコストで実現できることである。
【0046】
本発明の最終目的ではないが、実質的に単純で信頼性が高く、特に従来のシステムの燃焼に関連する爆発のリスクが低い、水素製造装置を提案する。
【0047】
したがって、本発明の特定の目的は、請求項1に記載の水素製造装置を提供することである。
【0048】
本発明に係る水素製造装置の追加的な特徴は、以下の従属項に特定されている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
本発明は、好ましい実施形態によって、特に添付の図面の図を参照して例示的に以下に開示されるが、本発明を限定する目的ではない。
【
図1】-
図1は、従来の天然ガス水素製造ユニットのブロック図を示す。
【
図2】-
図2a~2dは、従来の様々な水蒸気改質炉の概略図を示す。
【
図3】-
図3は、従来の上部燃焼式水蒸気改質炉の概略図を示す。
【
図4a】-
図4aは、本発明に係る水素製造装置のベースユニットの概略図を示す。
【
図4b】-
図4bは、本発明に係る水素製造装置の電気発熱体の概略図を示す。
【
図5a】-
図5aは、本発明の例示的な実施形態に係る水素製造装置の等価触媒管配置のためのベースユニットの部分部位システムにおける経路フローが表示された概略図を示す。
【
図5b】-
図5bは、本発明に係る水素製造装置の各触媒管部位の電気加熱の概略図を示す。
【
図6a】-
図6aは、本発明に係る水素製造装置の断面を示す。
【
図7a】-
図7aは、本発明に係る電気改質装置における触媒管に沿った温度プロファイルを示す。
【
図7b】-
図7bは、従来の燃焼式加熱改質装置における触媒管に沿った温度プロファイルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
特に、本発明に係る水素製造装置は、作動管理及びメンテナンスの両方の観点、並びに損傷による交換の観点から、効率的で管理しやすい解決方法で反応の熱負荷を維持するため、炉内にバーナを設けず、触媒管の外側に搭載可能な電気抵抗形態で複数の電気装置を採用することに基づいている。
【0051】
バーナがないため、熱を生産するために化石燃料を燃焼させる必要がなく、発熱体に電力を供給する電気が再生可能な資源から得られると、改質装置の熱負荷に伴うCO2の排出を引き起こさない。
【0052】
また、炎の展開を確保する必要がないという点を考慮すると、特にその長さに関して、触媒管の設計に制約が課されない。従来の解決方法に比べ、より正確に対象となる温度プロファイルを可能にする発熱体を使用することで、管の長さを全体的に著しく短くすることになり、システムがよりコンパクト化される。
【0053】
しかしながら、触媒管の出口で所望の熱力学的平衡に達するためには、とにかく触媒の最小体積を確保する必要がある。そのため、より正確に対象となる温度プロファイルにより、長さを同等に13m以下にして、いくつかの短い触媒部位を直列に分割し、全体的によりコンパクトなシステムが可能になる。また、このレイアウトにより、各々の管が異なる最高温度を達成するため、異なる厚さの触媒管を使用することができる。
【0054】
プロセスガスが上昇方向に流れる管の場合、触媒床の流動化を回避するために、重量の装置が触媒床の上部に浮いた状態で設けられてもよく、又は同様の解決方法が実装されてもよい。
【0055】
図4aを参照すると、各部分触媒部位が符号番号10で示されている触媒部位のシステムは、プラントの総合的な能力に応じて、所定個数複製してよいベースユニット11を表す。
【0056】
加熱装置に関して、本発明に係る水素製造装置は、触媒部位10の周りに配置された半円筒13の表面に埋め込まれるか又は設置され得る、
図4bにおいて符号番号12で示されている電気抵抗を使用している。半円筒13の外部部分は、絶縁材料で作製される。
【0057】
代替として、電気抵抗12は、触媒床の内部、すなわちコアの内に直接配置され得る。
【0058】
ベースユニット11は、触媒部位10の全長が従来の管と同じ変換につながるように、直列に配置された複数の触媒部位10によって実現される。好ましい実施形態によると、
図4a及び
図5aを参照して示されるように、4つの触媒部位10が一緒にグループになって、全体として同等の触媒管が得られ、各触媒部位10は、3.5~4mの長さを有するように特徴付けられる。
図5bを参照すると、変換を最適化することを目的として、管の長さにわたる最適な温度プロファイルと、それに伴う最適な熱流束を決定するために、各触媒部位10は、複数の加熱装置を有し、そのそれぞれが管の長さに沿って分布された電気抵抗12を備えている。
図4bを参照すると、各電気抵抗12は、半円筒13(
図4b)の内側に位置決めされ、半円筒の外側部分が絶縁材料で作製されている。したがって、触媒部位10を中心に巻き付けられた電気抵抗12が、触媒部位と密接に接触している。
【0059】
代替の実施形態において、各触媒部位は、触媒床の内側に直接配置されるか、又はその全長にわたって触媒部位の周りに配置される2つの半円筒を含む、1つの発熱体のみを有する。
【0060】
別の代替の実施形態において、ガス流れは、各部分触媒部位において上部から底部に導かれて、流動化の問題を回避する。
【0061】
別の代替の実施形態において、部分触媒部位は、水平に配置することができ、より低い構造が得られ、より容易なメンテナンスを可能にする。
【0062】
さらに別の代替の実施形態において、バヨネット管を使用して、上側、底側、又は水平方向からのガスの流れを確保することができる。この解決方法はまた、円筒全体を電気装置として使用可能にする。
【0063】
結果として、上記に基づき、炉の全体構造は、バーナ、煙道ガスを捕集する対流部、及び煙道ガス捕集用煙突を必要としないため、簡素化することができる。さらに、煙道ガスからCO2を捕捉するために必要とされるものを含めて、空気、煙道ガス、及びパージガスの供給に関連する全ての補助機器は、より小さくすることができるか、又は場合によっては、除去することができる。
【0064】
さらに、電気装置は、各触媒部位10に沿って最適に配置して設置し得ることにより、管の長さにわたって必要とされる熱負荷の関数として、触媒の長さに沿った最適化された熱流束を確保することが可能である。さらに、電気装置が管の周りに均一に分布しているため、従来の改質装置に一般的に存在する円周方向の不均一な分布は、極めて制限される。電気抵抗の電圧も、プロセス要件を達成するために、それらの寿命を最適化するように制御され得る。
【0065】
図6a及び
図6bを参照すると、本発明に係る水素製造装置の電気炉20の詳細を示し、5,000Nm
3/hの代表的なプラントの水素生産能力のために、合計48個の触媒部位10が存在し、各部位10には、対応の加熱装置が設けられている。
【0066】
検査観察ドア14は、ホットスポットの検出を可能にし、対応する発熱体によって提供される電力を変調することによって、熱の局所的な緩和をもたらすことができる。
【0067】
本発明の一実施形態によると、水蒸気改質装置に人の存在は必要とせず、リモートで電気要素を制御する。
【0068】
本発明の例示的な実施形態によると、従来よりも低温で作動可能であることから、電気発熱体の使用することにより熱が最適に分布されるので、炉は、触媒管の内部に直接的に水素分離用システムを備えることができる。
【0069】
以下の実施例に示すように、いくつかの具体的な実装形態を参照して、本発明をさらに説明する。
実施例1
本発明に係る水素製造装置を使用して、表1に示す組成で天然ガス供給物を処理した。
【0070】
【0071】
本発明に係る水素製造装置によって達成された主な技術的結果を、従来の燃焼加熱水蒸気改質装置と比較して評価して、表2に示す。
【0072】
【0073】
SRは、水蒸気改質装置を表す。
【0074】
B.L.は、プラントの境界線を表す。
(*)水蒸気改質反応器にのみ関連し、下流の分離装置での消費はいずれも含まれない
水素への効率は、供給物(LHV)+燃料(LHV)/水素生成物(Nm3)として計算され、LHVは低発熱量を表す。
【0075】
前述の
図4a及び
図5aに関連する4つの部分部位システム及び対応する熱負荷/流束に関連する主な技術的特徴を表3に示す。
【0076】
【0077】
図7aは、本発明に係る電気改質装置における触媒管に沿った温度プロファイルを示し、
図7bは、従来のガス燃焼式加熱改質装置における触媒管に沿った温度プロファイルを示す。
図7a及び
図7bは、従来の燃焼式加熱改質装置と電気改質装置との間の主な違いが、各々の用途の触媒管が到達する管の金属温度の違いであることを明らかにしている。
【0078】
図7a及び7bは、同一の平均バルク温度(触媒床内部)が与えられる場合、電気加熱により、管の下部を最高温度に保つことが可能であるため、それにかかる応力を制限して、全体として触媒管の寿命をできるだけ高く維持することを示している。
【0079】
最後に、全体的な寸法に関して、本発明に係る水素製造用反応器は、従来の燃焼式加熱反応器よりも小さい。特に、構築物の高さが低く、維持保守が容易で、土木工事コストが低く、規制上の制約のリスクが少ないことを意味する。
【0080】
さらに、異なる触媒部位10は、容易に輸送可能なモジュールに配置され得、その後、支持構造を設置する必要なく、現場で容易に設置され得る。
【0081】
また、従来の設計では、管及びバーナを取り付けるための大きく複雑な構造、並びにメンテナンスのために装備にアクセスするために必要な構造が必要とされる。
【0082】
本発明に係る水素製造装置の主な利点は、以下において強調される。
【0083】
まず、本発明に係る水素製造装置は、いかなる炎の衝突も回避することができるだけでなく、触媒部位に沿ったより均一な熱流束を可能にし、その結果、より小さな触媒体積を達成し得る。
【0084】
実際に、従来の水蒸気改質装置では、触媒管が、長い上部炎(上部燃焼式水蒸気改質装置)、数列の側部炎(側部燃焼式水蒸気改質装置)、又は2段の垂直側部炎(テラス式水蒸気改質装置)を通じて加熱されるが、触媒部位の加熱領域の周りに配置された電気要素を使用して加熱することで、各単一の触媒部位の周りに熱をより均一に分布させ、最高温度を低下させ、触媒部位の寿命を向上させる。
【0085】
本発明に係る水素製造装置はまた、パージガス組成の変化、補給燃料ガス組成の変化、空気の不均一な分布など、従来の水素製造装置に影響を与える他の加熱の不均一性を回避することを可能にする。
【0086】
一方、より低温で作動し得ることは、触媒管の寿命も維持させる。
【0087】
より小さな触媒体積と組み合わせて、より短い触媒部位10を使用することで、従来の触媒管を置き換え、より小さな全体的なフットプリントで、著しく節約した基礎部分と、一般的には、より小さくした水蒸気改質反応器とを備えるよりコンパクトなシステムを実現することができる。
【0088】
追加の利点としは、モジュール構成とメンテナンスの容易さ、特に、対流部及びファンが不要であるため、従来の改質炉の設計とは対照的に、改質炉の設計がより簡単であることが挙げられる。セクターごとにグループ化された触媒部位内の触媒管を分割することで、セクターの特定の位置に対する最適な設計が可能になる。この特徴は、各セクタの寿命の延長し、セクタ間の寿命の均一性をもたらし得る。また、例えば、触媒の劣化の結果として、1つのセクタが故障した場合、他のセクタは、直列に配置されて良好な状態であるため、故障したセクタに限定して交換が実施され、影響が低減される。さらに、損傷を受けたセクタを交換するまでに、モジュール式加熱システムは、管に沿った温度プロファイルを変更して、出力を最適化することで、継続的な作動が可能である。この可能性により、本発明に係るシステムに、従来の燃焼式改質装置に対するさらなる利点が加わる。
【0089】
入口端子を底面に設けることから、地面から高いところに入口配管システムを設けることを回避することができる。入口配管回路が短くて、圧力降下及び熱損失での利点がある。また、装置の荷重を支える構造が低減される。さらに、底部の入口位置は、上部でピグテール入口が長くなることを回避可能にし、管の膨張と組み合わせたこれらの熱膨張の管理に対する相対的なリスクを低減する。入出力端子は、システムの固定点に近く配置される。触媒部位の上部フランジを保護することを除いて、ひさしは必要とされない。燃料配管、燃焼空気ダクト、パージガス配管、入口配管システムが不在することにより、通常の維持保守が不要で、上部領域がより安全になる。
【0090】
触媒部位10に沿った熱分布の最適化は、ガス加熱水蒸気改質装置と比較して、S/C比及びCO2排出量を低減可能にし、より一般的には、原料消費量の低減、燃料消費を無くすこと、及び任意選択で、蒸気の排出を無くすことが可能になる。このような最適化は、約40%のより高い効率(LHVベース)を意味する。
【0091】
燃料消費がないことから、燃焼による汚染もなく、放射領域における未燃ガスによる爆発のリスクもない。
【0092】
燃焼に起因するノイズは存在せず、限定的なノイズは、流体力学に起因する、すなわち、配管内のプロセスガスの流れに起因するものである。
【0093】
さらなる利点として、装置の起動時間が短縮される。実際に、全てのセクタが同時に開始することができ、開始時の不均等な偏在(ガス燃焼水蒸気改質装置に典型的なもの)を回避することができる。
【0094】
水蒸気改質装置に人の存在は必要とせず、電気要素を遠隔制御することは、従来の水蒸気改質装置と比較してより安全なモードをもたらす。
【0095】
対応する発熱体によって供される電力を変調することで、熱の局所的な緩和が可能であることは、従来の水蒸気改質装置に対するさらなる利点である。
【0096】
さらに、各触媒部位の内部でパラジウム系膜が使用される場合、(i)650℃未満の温度で改質反応を実施することができ、それに伴いエネルギー消費が低減し、改質管により安価な材料を使用することができる;(ii)650℃未満の温度でも90%高いCH4変換が達成され得る;(iii)改質自体でこのような反応を実施し得るため、下流の水性ガスシフト反応器を除去することができる、というの利点が得られる。
【0097】
本発明に係る水素製造装置はまた、他の吸熱反応に対する柔軟な配置を可能にする。原則として、例えば、プロピレン製造のためのプロパン脱水素化、及び水素製造のためのアンモニアクラッキングなどの反応にも溶液を適用し得る。実際、システムに熱を供給する電気装置を使用することによって得られる柔軟性は、様々な実装に適応するための、電気熱源の簡単な再構成を可能にする。
【0098】
本発明は、その好適な実施形態による、例示的であって限定的でない目的で開示されたが、本明細書に記載の特許請求の範囲において、その理由により、本開示から逃れることなく、当業者によって、任意の変形及び/又は改変がなされ得ることを理解されたい。
【国際調査報告】