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特表2024-530808管状ねじ要素上のZn-Ni用固体潤滑剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-23
(54)【発明の名称】管状ねじ要素上のZn-Ni用固体潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   F16L 15/04 20060101AFI20240816BHJP
【FI】
F16L15/04 A
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024514629
(86)(22)【出願日】2022-09-06
(85)【翻訳文提出日】2024-04-24
(86)【国際出願番号】 FR2022051678
(87)【国際公開番号】W WO2023037069
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】2109366
(32)【優先日】2021-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504255249
【氏名又は名称】ヴァルレック オイル アンド ガス フランス
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バスカ,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,マリー
【テーマコード(参考)】
3H013
【Fターム(参考)】
3H013GA01
3H013GA06
(57)【要約】
炭化水素井の掘削および操作、石油およびガスの輸送、水素の輸送または貯蔵、炭素回収または地熱エネルギーのための管状ねじ要素(1,2)に関する。管状ねじ要素(1,2)は、金属製本体(5)と、少なくとも1つのねじ部分(14,15)を含む少なくとも1つのねじ端部(3,4)と、を備える。ねじ端部(3,4)は、ねじ端部(3,4)の表面の少なくとも一部分上に多層コーティング(10)を含み、多層コーティング(10)は、ねじ端部(3,4)の表面の少なくとも一部分上に電着された亜鉛-ニッケルを含む固体コーティングを備える第1の層(11)と、第1の層(11)の上方にある第2のシュウ酸化型変換層(12)と、第2の層(12)の上方にある、固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の層(13)と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素井の掘削および操作、石油およびガスの輸送、水素の輸送または貯蔵、炭素回収または地熱エネルギーのための管状ねじ要素(1,2)であって、金属製本体(5)と、少なくとも1つのねじ部分(14,15)を含む少なくとも1つのねじ端部(3,4)と、を備え、前記ねじ端部(3,4)は、前記ねじ端部(3,4)の表面の少なくとも一部分上に多層コーティング(10)を含み、前記多層コーティング(10)は、前記ねじ端部(3,4)の表面の前記少なくとも一部分上に電着された亜鉛-ニッケルを含む固体コーティングを備える第1の層(11)と、前記第1の層(11)の上方にある第2のシュウ酸化型変換層(12)と、前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の上方にある、固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の層(13)と、を備えることを特徴とする、管状ねじ要素(1,2)。
【請求項2】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)は、シュウ酸ニッケルおよび/またはシュウ酸亜鉛を含むことを特徴とする、請求項1に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項3】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の単位面積当たりの層重量は、0.1g/m~20g/mの範囲であることを特徴とする、請求項1または2に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項4】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の単位面積当たりの層重量は、0.5g/m~10g/mの範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項5】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の気孔率は、5%~35%の範囲であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項6】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の気孔率は、10%~25%の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項7】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の厚さは、0.5μm~30μmの範囲であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項8】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の厚さは、1μm~20μmの範囲であることを特徴とする、請求項7に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項9】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)は、1μm~30μmの幅のエッジを有する微小クラック多面体タイプのテクスチャを含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項10】
前記ねじ端部(3,4)は、少なくとも1つの当接面(6,7)と、少なくとも1つのシール面(8,9)と、をさらに備え、前記多層コーティング(10)は、前記少なくとも1つの当接面(6,7)および/または前記少なくとも1つのシール面(8,9)を被覆することを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の管状ねじ要素(1,2)を製造するための方法であって、
・ ねじ端部(3,4)の金属表面上に亜鉛-ニッケル層を電着するステップと、
・ シュウ酸化型変換ステップと、
・ 固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む層で被覆するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記シュウ酸化型変換ステップは、25℃~90℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記シュウ酸化型変換ステップは、シュウ酸の使用を含んでおり、前記シュウ酸の濃度は、1g/L~75g/Lの範囲であることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項14】
前記シュウ酸化型変換ステップは、硝酸塩、塩化物、チオシアン酸塩、およびチオ硫酸塩の要素から選択される添加剤、または複数種の添加剤の組み合わせに関連するシュウ酸の使用を含むことを特徴とする、請求項10~12のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油・ガス、エネルギーまたは貯蔵の分野において、坑井の操作、炭化水素の輸送、水素の輸送や貯蔵、地熱エネルギー、または炭素の回収などの用途に使用される、コーティングを施した鋼製部品または導管に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、「部品」とは、坑井を掘削または操作するために使用されるあらゆる要素、付属品、または導管を意味する。これは、少なくとも1つの接続部またはコネクタ、さらにはねじ端部を備え、他の部品との螺合によって組み立てられて他の部品とねじ継手を構成するように意図されている。この部品は、例えば管などの比較的長い(特に約10メートルの長さの)管または管状ねじ要素、あるいは数十センチの長さの管状スリーブ、あるいはこれらの管状要素の付属品(懸架装置または「ハンガー」、セクション変更部分または「クロスオーバー」、安全弁、掘削ロッド用のコネクタまたは「ツールジョイント」や「サブ」など)であってもよい。
【0003】
管状ねじ部品または要素には、ねじ端部が設けられている。これらのねじ端部は相補的であるので、2つの管状雄ねじ要素(「ピン」)と管状雌ねじ要素(「ボックス」)の結合が可能になる。したがって、雄ねじ端部と雌ねじ端部とがある。プレミアムまたはセミプレミアムねじ端部と呼ばれるこれらのねじ端部は、一般に少なくとも1つの当接面を含む。第1の当接面は、実質的に半径方向に向けられた2つのねじ端部の2つの表面によって形成されてもよい。これらは、ねじ端部を互いにねじ込んだ後、または圧縮応力中に互いに接触するように構成される。当接面は、一般に、接続部の主軸に対して負の角度を有する。また、中間当接面は、少なくとも2つのねじ段階を含む継手でも知られている。ねじ部、当接面、およびシール面は、ねじ端部と呼ばれるアセンブリを形成することができる。管に向けられたねじ山を有するねじ端部、すなわち雄ねじ端部、および管の内側に向けられたねじ山を有するねじ端部、すなわち雌ねじ端部が設けられてもよい。ケーシングや完成品の管状ねじ要素は鋼製であり、標準のケーシングおよび管用のAPI標準仕様5CTまたは5CRAに従って製造され得るが、これに限定されるものではない。例えば、鋼は、L80、P110、またはQ125のいずれかの鋼種であり得る。
【0004】
これらの管状ねじ要素の使用条件は、異なるタイプの荷重を発生させる。このような荷重は、特に、ねじ部、当接部、あるいは金属対金属シール面など、これらの部品の脆弱な部分に膜またはグリースを使用することで部分的に低減されてきた。誘発された応力は、特に保管中のメンテナンスによる応力を含む。そのため、保管用グリース(試運転前に塗布される追加グリースとは異なる)の塗布を必要とする。しかしながら、有機コーティングを使用するなどの別の解決策も存在する。このように、例えば、ねじ端部を介して結合される数メートルの長さの管の重量のため、場合によっては結合されるねじ要素の軸のわずかなずれにより、ねじ込み作業は一般に高い軸方向荷重の下で行われる。これにより、ねじ部および/または金属対金属シール面において磨耗が発生するリスクがある。そのため、一般的に、ねじ領域および金属対金属シール面はその潤滑剤でコーティングされる。
【0005】
また、管状ねじ要素は、しばしば厳しい環境下で保管されてから使用される。例えば、塩水噴霧が生じる「海上」の場合や、砂、埃、および/またはその他の汚染物質が存在する「陸上」の場合が挙げられる。そのため、ねじ領域やクランプ接触部、金属対金属シール面、座部、および当接部において生じるねじ込み時に負荷がかかる表面には、様々な種類の防食コーティングを施す必要がある。
【0006】
しかしながら、API RP5A3(米国石油協会)の規格に準拠したグリースは、管状部品から押し出され、環境または坑井に放出され、特定の洗浄作業を必要とする閉塞を引き起こすので、その使用は、環境基準に関して長期的な解決策にならない可能性がある。
【0007】
グリースの使用の代替として、乾式および/または固体の第1の積層または堆積が挙げられる。この金属堆積は、化学的または電気化学的に施され得る。堆積物の性質によるが、これはねじ込み時の管状ねじ接続部の摩耗を防止するための耐食性および潤滑特性を提供することができる。これにより、塗布されたグリースよりも耐久性を向上させることができ、より良好な固体性によって汚染が少なくなる。しかしながら、これらの堆積物は、例えば湿度の高い環境などの厳しい環境において、あるいは堆積物の老化、接続部の過度の応力を受けている間、坑井における作業中、およびねじ込みと取り外しの繰り返し操作中にそれ自体が腐食を受ける場合があり、剥離につながる可能性がある。このような腐食または剥離は、接続部が弱体化するリスクや、管状ねじ要素の鋼製基材の腐食に関連した漏水経路の形成による密閉性の損失などにつながるので、望ましくない。例えば、炭化水素井の操作中に漏れが発生した場合、その漏れは経済的および環境的に大きな影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
欧州特許出願第3286288号には、固体堆積物を分離するために、固体堆積物の上に三価クロム不動態化型変換層を追加する解決策が記載されている。しかしながら、本出願人は、この不働態化層は潤滑機能を想定しておらず、上層の潤滑特性を改善することもできないと判断している。この潤滑能力の欠如のために、ねじ込み/取り外し試験において、接続部の磨耗や筋目の発生のリスクが高くなり、ねじ込みトルクの望ましくない増大と同様に、効率が低下する。ねじ込みトルクの増大は、ねじ込みキーの能力を超えるリスクを伴い、接続部のねじ込みとその密閉性の確保ができなくなることを意味する。
【0009】
「筋目」とは、溝または引っ掻き跡を意味する。
【0010】
一般に、変換層の堆積は、堆積期間、薬液の組成や温度などのパラメータを制御する薬液槽に対象の表面を挿入することで行われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明により、上述したすべての問題を解決することができる。特に、本発明は、現在の機器と互換性のある変換処理、化学的性質、および容易に制御可能な槽管理を有しながら、下層または固体堆積を改善し、安定化させることを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施形態によれば、本発明は、炭化水素井の掘削および操作、石油およびガスの輸送、水素の輸送または貯蔵、炭素回収または地熱エネルギーのための管状ねじ要素を提供する。管状ねじ要素は、金属製本体と、少なくとも1つのねじ部分を含む少なくとも1つのねじ端部と、を備える。ねじ端部は、ねじ端部の表面の少なくとも一部分上に多層コーティングを含む。多層コーティングは、ねじ端部の表面の少なくとも一部分上に電着された亜鉛-ニッケルを含む固体コーティングを備える第1の層と、第1の層の上方にある第2のシュウ酸化型変換層と、第2の層の上方にある、固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の層と、を備える。
【0013】
この特徴により、亜鉛-ニッケルを含む第1の固体堆積層は、改善された潤滑特性を提供する。その効果は、剥離、筋目の発生、および磨耗から保護される。実際、第2のシュウ酸化層は、第1の層に固体潤滑剤として作用する。後者により、Zn-Niを含む固体堆積層に、より安定で耐久性のある磨耗係数を付与することができるようになる。このようにして得られた磨耗係数は、0.2未満である場合がある。実際、0.2を超えると、摩耗のリスクがあることを本出願人は確認した。また、第2のシュウ酸化層によって、Zn-Niを含む副層または第1の固体堆積層に対して、化学的または機械的に絶縁性のバリア効果が付与され得る。第2のシュウ酸化層は、第3の潤滑層の効果を増幅させる。後者は、潤滑の付加的な効果を付与するので、接続部のねじ込み能力を向上させることができる。
【0014】
驚くべきことに、変換層がシュウ酸化型のものである場合、槽内の流れや温度とは無関係に、接続部の円周上で均一な様相が示される。これにより、被覆の問題をより容易に特定することができる。また、シュウ酸化層により、湿潤状態やエージング後のコーティング全体の密着性を向上させることができ、すなわち、長期間貯蔵された後であっても性能をより良好に保護することができる。
【0015】
また、シュウ酸の使用は、現行の規制の観点からは制限が少なく、CMRに分類されていない、すなわち発がん性、変異原性、および生殖毒性がないといえる。
【0016】
「被覆の問題」とは、副層または第1の堆積層の被覆の欠如、すなわち、シュウ酸化層によって被覆されず、肉眼で見える第1の層の領域を意味する。
【0017】
一実施形態によれば、管状ねじ要素は、シュウ酸ニッケルおよび/またはシュウ酸亜鉛を含むことができる第2のシュウ酸化型変換層を有する。
【0018】
この特徴により、シュウ酸ニッケルおよびシュウ酸亜鉛は、金属対金属の接触を遅らせることができ、接続部のねじ込み中に放出されるエネルギー散逸の一部を蓄えることができる。驚くべきことに、シュウ酸ニッケルの添加により、変換層の耐食性を向上させることができる。
【0019】
一実施形態によれば、管状ねじ要素は、10%~20%の炭素、35%~50%の亜鉛、35%~45%の酸素、および0%~35%のニッケルを含むことができる第2の層を有する。
【0020】
驚くべきことに、この特徴により、シュウ酸化層が多層コーティングに対する材料の耐性を向上させることを本出願人は突き止めた。
【0021】
一実施形態によれば、第2の層の層重量は、0.1g/m~20g/mの範囲であり得る。
【0022】
この特徴により、耐久性は層重量に比例し、層重量が大きいほど耐久性が高くなることが判明した。
【0023】
しかしながら、層重量が特定のしきい値を超えると、結果として生じるシュウ酸化層の凝集破壊が問題となる。層は、外部応力を受けるとそれ自体で破断してしまう。その結果、シュウ酸化層に剥離やフレーキングのリスクが生じ、それが第3の層の剥離につながる。
【0024】
一実施形態によれば、第2の層の表面質量は、0.5g/m~10g/mの範囲であってもよい。本出願人は、10g/mまでは、良好な耐久性と凝集破壊のリスク低減との間でより良好な妥協点があると判断している。
【0025】
一実施形態によれば、第2の層の気孔率は、5%~35%の範囲であり得る。
【0026】
一実施形態によれば、第2の層の気孔率は、10%~25%の範囲であり得る。
【0027】
この気孔率により、シュウ酸化層の空隙に上層が固定される現象が生じて、上層の保持力およびコーティングを向上させることができる
一実施形態によれば、第2の層の厚さは、0.5μm~30μmの範囲であり得る。
【0028】
一実施形態によれば、第2の層の厚さは、1μm~20μmの範囲であり得る。
【0029】
この特徴により、多層コーティングの材料の耐性が向上する。層の厚さが30μmを越えると、凝集破壊の問題が現れる場合がある。層が0.5μm未満の層では不十分であり、潤滑不足の問題を引き起こす可能性がある。
【0030】
一実施形態によれば、第2の層は、1μm~30μmの幅のエッジを有する微小クラック多面体タイプのテクスチャを含んでもよい。
【0031】
「微小クラック多面体」とは、エッジと呼ばれるセグメントにグループ化された平面多角形の面を有する3次元幾何学的形状を意味する。面とエッジの数は任意であり、エッジの長さは0.5μm~30μmの範囲であり得る。層は、ランダムに分布する微小クラックを有してもよい。クラックの幅は、0.05μm~1μmの範囲であり得る。
【0032】
この特徴により、微小クラック多面体タイプのテクスチャは、上層に保持力とシュウ酸化層への付着力を向上させる。
【0033】
また、一実施形態によれば、本発明は、管状ねじ要素を製造するための方法に関する。該方法は、
・ ねじ端部の金属表面上に亜鉛-ニッケル層を電着するステップと、
・ 浸漬によるシュウ酸化型変換ステップと、
・ 固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む潤滑層で被覆するステップと、
を含む。
【0034】
この特徴により、亜鉛-ニッケル層を目に見える形で変化させることなくそのコーティングを行うことができる。
【0035】
「浸漬」とは、表面をシュウ酸槽に浸漬して処理する技術を意味する。
【0036】
一実施形態によれば、シュウ酸化型変換ステップは、25℃~90℃の範囲の温度で実施され得る。
【0037】
この特徴により、不働態化と同じツールを使用することができ、セットアップや材料費が少なくて済む。
【0038】
一実施形態によれば、シュウ酸化型変換ステップは、シュウ酸の使用を含んでもよく、そのシュウ酸の濃度は、1g/L~75g/Lの範囲であってもよい。
【0039】
この特徴により、シュウ酸化層の層重量の管理と制御が容易になる。実際、75g/Lに近づくにつれて、表面変換反応は、より迅速になる。
【0040】
一実施形態によれば、シュウ酸化型変換ステップは、硝酸塩、塩化物、チオシアン酸塩、またはチオ硫酸塩の要素から選択される添加剤、またはいくつかの添加剤の組み合わせに関連するシュウ酸の使用を含むことができる。
【0041】
この特徴により、添加剤は、表面変換反応を促進することができ、その結果、所望の層重量特性をより迅速に達成することができる。
【0042】
シュウ酸化層を堆積させるための方法は、30秒~15分の時間範囲で実施され得る。実際、時間は、層重量の値に影響を与える。この値は、浸漬時間に比例する。
【0043】
30秒を下回る場合、層重量は不足する。15分を上回る場合、層重量の値に大きな変化はなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下、添付の図面を参照して説明する本発明の様々な実施形態により、本発明のその他の目的、詳細、特徴および利点が明確になるであろう。
図1】本発明による、2つの管状雌ねじおよび雌ねじ要素の組み立てから得られる継手を模式的に示す部分断面図である。
図2】本発明による、多層コーティングの一部を模式的に示す断面図である。
図3】シュウ酸化処理または不働態化処理のいずれかを含む様々な接続部に対して、管状ねじ要素に施された様々なタイプのコーティングについて、ねじ込みの各端部におけるねじ込みトルクの変化を表すグラフである。
図4】シュウ酸化処理または不働態化処理のいずれかを含む、図3の接続部とは異なる接続部の1つに対して、管状ねじ要素に施された様々なタイプのコーティングについて、ねじ込みの各端部におけるねじ込みトルクの変化を表すグラフである。
図5】BOWDEN試験で必要なステップ数を表すグラフであり、この数は、様々なタイプの変換について、特に層重量に対する磨耗係数が0.2に達するまでの層重量に依存している。
図6】本発明による多層コーティングを断面で見たSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
図7】当該技術分野における多層コーティングを断面で見たSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
図8】本発明によるシュウ酸化型変換層の表面を上から見た、5000倍に拡大されたSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
図9】本発明によるシュウ酸化型変換層の表面を立面で見た、20000倍に拡大されたSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下の説明において、「長手方向」、「横方向」、「縦方向」、「前」、「後ろ」、「左」、および「右」という用語は、図に示すように、一般的な直交基準枠に従って定義されている。この直交基準枠は、断面図の左から右へ、水平の長手方向軸Xを含む。
【0046】
また、本明細書および添付の特許請求の範囲において、「外部」または「内部」、ならびに「軸方向」および「半径方向」という用語は、管状ねじ継手の要素を指定するために本明細書に記載の定義に従って使用される。長手方向軸Xが「軸方向」を決定する。「半径方向」は、長手方向軸Xに直交する方向である。
【0047】
図1は、金属製本体(5)と雄ねじ端部(3)とを備える、本発明による第1の管状雄ねじ要素(1)の、長手方向軸Xに沿った継手または接続部を示している。雄ねじ端部(3)は、雄型当接面(6)と、雄型シール面(8)と、雄ねじ部分(14)と、を備える。図において、第1の管状雄ねじ要素(1)は、金属製本体(5)と雌ねじ端部(4)とを備える本発明による第2の管状ねじ要素(2)と組み立てられている。雌ねじ端部(4)は、雌型当接面(7)と、雌型シール面(9)と、雌ねじ部分(15)と、を備える。
【0048】
雄ねじ端部(3)および雌ねじ端部(4)の各々は、金属基材(20)と、この金属基材(20)上の多層コーティング(10)と、から構成される。
【0049】
管状ねじ要素(1,2)は、ねじ込まれた状態で示されているが、本発明は、それらが一体化された、ねじ込まれていない状態で示される可能性を排除するものではない。
【0050】
多層コーティング(10)は、雄ねじ端部(3)および雌ねじ端部(4)のうちの一方または他方の上に、あるいはその両方に同時に設けられ得る。特に、多層コーティング(10)は、雄型当接面(6)または雌型当接面(7)上、雄型シール面(8)または雌型シール面(9)上、雄ねじ部分(14)または雌ねじ部分(15)上、あるいはこれらのいくつかの表面上、あるいはすべての表面上に設けられ得る。図1において、多層コーティング(10)は、雄ねじ端部(3)上に設けられている。
【0051】
図2は、雄ねじ端部(3)の金属基材(20)上の多層コーティング(10)の断面を示している。しかしながら、コーティング(10)は、雌ねじ端部の金属基材上にも同様に存在してもよい。したがって、雄ねじ端部(3)上の多層コーティング(10)に関するすべての処理は、雌ねじ端部上の多層コーティング(10)にも同様に適用される。
【0052】
特に、図には、雄ねじ端部(3)の表面上、すなわち雄ねじ端部(3)を構成する金属基材(20)上に電着された亜鉛-ニッケルを含む第1の固体コーティング層(11)を備える多層コーティング(10)が示されている。
【0053】
多層コーティング(10)は、第1の層(11)の上方に第2のシュウ酸化型変換層(12)を備える。
【0054】
シュウ酸化型の第2の変換層(12)は、シュウ酸ニッケルおよび/またはシュウ酸亜鉛を含むことができる(図示せず)。これら2つの元素は、シュウ酸と亜鉛-ニッケル層との反応により、シュウ酸化層に由来することができる。
【0055】
最後に、固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の潤滑層(13)が第2の層(12)の上方に堆積される。固体潤滑剤粒子は、PTFE、タルク、酸化クロム、およびアルミナから選択されているが、これらに限定されるものではない。
【0056】
有利には、亜鉛-ニッケルを含む第1の固体堆積層(11)は、改善された潤滑特性を付与する。その効果は、剥離、筋目の発生、および摩耗からの保護である。実際、第2のシュウ酸化層は、固体潤滑剤として第1の層に作用する。後者により、Zn-Niを含む第1の固体堆積層(11)には、はるかに安定した耐久性のある摩擦係数が提供される。この摩擦係数は、0.2未満である。実際、0.2を超えると、磨耗のリスクが生じる。
【0057】
実際、本出願人は、この安定性と耐久性が不働態化層では見られないことを比較により実証した(図3および図4参照)。また、第2のシュウ酸化層(12)により、Zn-Niを含む副層または第1の固体堆積層(11)に化学的または機械的な絶縁性のバリア効果が付与される。第2のシュウ酸化層(12)は、第3の層(13)によって提供される効果を増幅させる。後者は、第2の層(12)によって付与された潤滑効果と相乗して追加の潤滑効果を付与し、接続部のねじ込み能力を向上させる(図3参照)。
【0058】
また、シュウ酸を使用は、現行の規制の観点からは制限が少なく、CMRに分類されていない、すなわち発がん性、変異原性、および生殖毒性がないといえる。
【0059】
有利には、第2のシュウ酸化層(12)は、シュウ酸ニッケルとシュウ酸亜鉛とを含む。これにより、金属対金属の接触を遅らせることができ、接続部のねじ込み中に放出されるエネルギー散逸の一部を蓄えることができる。
【0060】
実際、ねじ端部をねじ込む動作によってコーティング(10)が押しつぶされると、端部の機能面が非常に高い接触圧力で接触する。第1の固体層(11)より先に応力と圧力の影響を受ける第2の層(12)が先に押しつぶされる。これにより、第1の層(11)が保護されて、コーティング(10)の全体的な耐久性が向上する。また、驚くべきことに、シュウ酸ニッケルの添加により、変換層の耐食性を向上させることができることが判明した。
【0061】
図3は、不働態化型の層を含む当該技術分野における管状ねじ要素、あるいはシュウ酸化型の層を有する本発明による管状ねじ要素の様々なタイプのコーティングについて、ねじ込み終了時におけるねじ込みトルクの変化を比較形式で示している。「ねじ込み終了時」とは、管状雄ねじ要素および管状雌ねじ要素の2つの止具が、ねじ込み/取り外しサイクル(M&B)サイクル中に接触する瞬間を意味する。
【0062】
接続部が正しく組み立てられていることを確認し、ねじ込みが終了したことを判断するために使用される方法の一つに、コレットによって加えられるトルクを回転数に関連付けて監視する方法がある。「コレット」とは、接続部の雄部品と雌部品を掴み、締め付け/緩めトルクを加えるために使用される、大容量のセルフロック式スパナである。コレットのロードセルと電子回転計をコンピュータに接続することで、縦軸にトルク、横軸に回転数をグラフにプロットすることができる。それぞれのねじ込み終了時を集計することで、図3に示すような新しいグラフを作成することができる。
【0063】
また、図3には、PLT、すなわち最大スパナ能力を表す約70,000N.mの破線が示されている。この曲線がその最大スパナ能力に近づくか到達すると、高い確率で接続部の摩耗が生じ、最大締め付け/緩めまたはねじ込み/取り外し作業(M&B)の可能な最大回数が制限される。
【0064】
図3で使用された接続部は、コーティングの有無にかかわらずすべて同一であり、すなわち、接続部は、VAM(登録商標)SLIJ-IIタイプの管状ねじ要素に対応している。これらのタイプの管を、API RP 5C5:2017 CAL II規格に従って試験および検証した。
【0065】
各曲線は、亜鉛-ニッケルを電着した第1の層と、本発明による第2の不働態化型またはシュウ酸化型変換層と、第3の潤滑層と、を備えるコーティングを示している。したがって、第2の変換層の性質のみが、特定の曲線から別の曲線へと変化している。
【0066】
曲線1および2は、クロムIII不働態化層を備えるコーティングを示している。この2つの曲線の存在は、同一のコーティングを用いた2回のねじ込み試験に相当する。
【0067】
曲線3および4は、層の堆積時に硝酸鉄促進剤を使用したシュウ酸化層を備えるコーティングを示している。この2つの曲線の存在は、同一のコーティングを用いた2回のねじ込み試験に相当する。
【0068】
曲線5および6は、促進剤を使用しないシュウ酸化層を備えるコーティングを示している。この2つの曲線の存在は、同一のコーティングを用いた2回のねじ込み試験に相当する。
【0069】
図3は、不働態化を示す曲線、すなわち曲線1および2はすべて、ねじ込み/取り外し操作のたびにトルクが増加し、ねじ込み/取り外しのための回転が進むにつれてPLTに危険なほど近づいたことを示している。シュウ酸化を示す曲線、すなわち曲線3、4、5、および6では、その反対の傾向がみられた。実際、これらの曲線は、実質的に平坦であり、その結果、ねじ込み/取り外し操作が進むにつれてトルクが安定した。曲線3、4、5、および6は、ねじ込み/取り外しについて5回転までの安定性を示しているが、本出願人は、第2の層(12)が本発明によるシュウ酸化層である場合、この安定性がねじ込み/取り外しのための15回転まで続くことを実証できた。
【0070】
また、曲線1および2のコーティングでは、ねじ込み/取り外しの回転が進むにつれて、磨耗の発生、ねじ山の谷底、頂、および座部における筋目の発生、すなわち電着された亜鉛-ニッケル層への損傷が認められた。
【0071】
シュウ酸化型のコーティングに関して、本出願人は、磨耗の発生がなく、第1の亜鉛-ニッケル層への損傷がなく、多層コーティング全体に絶縁バリアの効果を付与するトライボフィルムが形成されることを発見した。
【0072】
比較分析の結果は上記に限定されるものではなく、石油やガス、エネルギーまたは貯蔵の分野におけるあらゆるタイプの管、例えば坑井の開発、炭化水素の輸送、水素の輸送や貯蔵、地熱エネルギー、または炭素回収などの用途に有効である。
【0073】
図4は、図3と同様に、別のタイプの接続部、すなわちVAM(登録商標)SLIJ-IIIについて、図3の試験と同じ方法で、様々なタイプのコーティングについて、ねじ込み終了時におけるねじ込みトルクの変化を比較したものである。
【0074】
曲線1、2、および3は、第2の不働態化型層を備えるコーティングでコーティングされたねじ端部に対応する。コーティングは、ねじ端部全体、すなわち、ねじ山またはねじ部分、当接面、および密閉座部に施された。3つの曲線があるのは、同じコーティングで実施された試験の数に対応しているからである。曲線4および5は、第2のシュウ酸化型層を備える本発明による多層コーティングを施したねじ端部に対応する。
【0075】
比較分析およびその結果は、図3に示すものと同様であった。
【0076】
曲線1、2、および3は、2回目のねじ込み/取り外しからトルクが増加したことを示している。曲線1は、磨耗により対応する継手に対して5回目のねじ込み/取り外しが不可能であったことを示している。曲線4および5は、すべてのねじ込み/取り外しにおいてトルクが安定していたことを示している。
【0077】
本出願人は、本発明によるシュウ酸化処理の安定性と信頼性の点が不働態化に対して優れているというその効果は、VAM(登録商標)SLIJ-IIだけに限定されるものではなく、特定のタイプの接続部から別のタイプの接続部に転用できることを実証した。
【0078】
図5は、BOWDEN試験において、コーティングのタイプに応じて、摩擦係数が0.2に達するまでに必要なステップ数、すなわち、第2の変換層の層重量に応じた鋼球の往復回数を示すグラフである。
【0079】
各試験サンプルには、同様の少なくとも1つの第1のZn-Ni層と潤滑剤層とを備えるコーティングが施され、サンプル間の変動は、第2の層の存在および/または性質に対応するものである。
【0080】
3つのタイプのコーティングを比較すると、変換層のないコーティング、すなわち不働態化もシュウ酸化も施されていないコーティングでは、層重量は0g/mであった(グラフ上では四角で示す)。第2の不働態化型層を有するコーティングで、2つの例では層重量をそれぞれ0.1g/mおよび0.15g/mで設定した(グラフ上では円で示す)。実際、不働態化処理の場合、0.2g/mを超える層重量を見つけることは困難あるいは不可能であり得る。最後に、第2のシュウ酸化型層(グラフ上では三角で示す)を有する本発明による多層コーティングについて、層重量の様々なタイプのコーティングで数多くの試験を実施した。
【0081】
2つの粗い可動部品が接触している場合、摩耗メカニズムによって材料が収縮し、塑性変形の結果として破片が発生することがあった。摩擦係数の値は、表面の組成や構造、粗さ、塑性、延性、せん断応力に対する表面の耐性などの機械的特性に依存する。接続部のコーティングの場合、摩擦係数の値は0.2未満でなければならない。0.2を超えると、磨耗が発生するリスクがある。
【0082】
コーティング表面の潤滑性(摩擦係数)を評価するために、市販のBowden摩擦試験機(Shinko Engineering社製)を使用した。Bowden磨耗試験機では、鋼板上に形成されたコーティング上を、鋼球(100CR6)を直線状に往復変位させながら、鋼球に荷重を加えた。そのときの摩擦力と圧力荷重から摩擦係数を測定した。
【0083】
Bowden磨耗試験で使用した鋼球は、あらかじめ脱脂処理を施した市販の外径10mmの鋼球(100CR6)(株式会社天辻鋼球製作所製)であった。
【0084】
鋼球を評価コーティングに当て、300Nの押し付け荷重で動かした。
【0085】
図5から、変換層のないコーティングは、150ステップに達する前に摩擦の臨界しきい値0.2に達することがわかる。
【0086】
不働態化処理を施したコーティングは、変換処理を施していない層よりも実質的に大きな潤滑性を付与し、約200ステップで摩擦係数の臨界しきい値0.2に達することができた。
【0087】
シュウ酸化処理を施したコーティングは、上記の2タイプのコーティングよりも優れた潤滑性を付与し、層重量に応じて400ステップ~600ステップの範囲で摩擦係数の臨界しきい値0.2に達した。したがって、シュウ酸化処理により、Zn-Niを含む固体堆積層に、より安定した耐久性のある摩擦係数を付与することができた。
【0088】
実際、本出願人は、シュウ酸塩層が、高い接触圧力下でも、その表面におけるZn-Niの塑性変形を特異的に改善し、原子転位、結晶粒の回転、および大きなブロックのフレーキングや大規模な欠陥の出現前のシステムの安定性を向上させると判断した。
【0089】
層重量が低くても、シュウ酸塩層は、より長持ちする潤滑膜を形成し、化学的または物理的に潤滑効率を向上させることが確認された。
【0090】
本発明の変形例によれば、第2の層(12)の層重量は、0.1g/m~20g/mの範囲である。
【0091】
本発明の別の変形例によれば、第2の層(12)の層重量は、0.5g/m~10g/mの範囲である。
【0092】
有利には、耐久性は層重量に比例し、層重量が大きいほど耐久性が高くなることが判明した。
【0093】
しかしながら、層重量が特定のしきい値を超えると、結果として生じるシュウ酸化層の凝集破壊が問題となる。層は、外部応力を受けるとそれ自体で破断してしまう。その結果、シュウ酸化層に剥離やフレーキングのリスクが生じ、それが第3の潤滑層の剥離につながる。本出願人は、10g/mまでであれば、良好な耐久性と凝集破壊のリスク低減との間でより良い妥協点があると判断した。
【0094】
図6は、雄ねじ端部(3)の金属基材(20)上の、本発明による多層コーティング(10)を断面で見たSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【0095】
多層コーティング(10)は、電着された亜鉛-ニッケルを含む固体コーティングの第1の層(11)を備える。また、コーティングは、シュウ酸化型変換層12を備える。固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の潤滑層は、そのままでは観察できず、金属組織観察用サンプルの調製にはプラスチックコーティング樹脂(22)を使用した。この樹脂(22)は、図6の画像を得るためにのみ有用であり、本発明の一部を構成するものではないことに留意されたい。
【0096】
図7は、雄ねじ端部(103)の金属基材(120)上の、当該技術分野における不働態化層(102)を備える多層コーティング(100)を断面で見たSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【0097】
多層コーティング(100)は、電着された亜鉛-ニッケルを含む固体コーティングの第1の層(101)を備える。また、コーティングは、不働態化型変換層(102)を備える。固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の潤滑層は、そのままでは観察できず、金属組織観察用サンプルの調製にはプラスチックコーティング樹脂(22)を使用した。この樹脂(22)は、図7の画像を得るためにのみ有用である。
【0098】
図6の観察では、約5μmの厚さとテクスチャのあるシュウ酸化層を示していた。しかしながら、他の観察によれば、シュウ酸化層は、0.5μm~30μmの範囲であり得、好ましくは1μm~20μmの範囲であり得る。
【0099】
図7の画像と比較すると、第2の不働態化型変換層は、100nm未満であるために観察されなかった。
【0100】
この観察結果の違いは、シュウ酸化について最小厚さを保証し、かつ可視性を保つという点で重要である。比較すると、図7の不動態化ではこの可視性は見られなかった。この厚さには、材料の耐性を向上させるなどの利点がある。実際、一方では、特定のしきい値(特に30μm)を超える厚さは、凝集破壊の問題を引き起こす可能性がある。その一方で、0.5μmまたは500nm未満の層では不十分であり、必然的に潤滑不足の問題を引き起こした。
【0101】
凝集破壊は、第2の層の効果を低下させるか、あるいは消失させる可能性のある望ましくない効果であり、第1の亜鉛-ニッケル層は、環境や誘発される応力に対して脆弱になる。
【0102】
図6および図7に示す亜鉛-ニッケル層観察されたクラック(24)およびその他の亀裂は、金属組織観察を目的としたサンプルの調製に起因するものである。
【0103】
有利には、本出願人は、第2のシュウ酸化層の厚さが、第1の固体亜鉛-ニッケル層に対して絶縁バリア型の効果を有すると判断した。
【0104】
また、図6は、第2のシュウ酸化層(12)の気孔率を示している。第2の層(12)の気孔率は、5%~35%の範囲であった。
【0105】
本発明の変形例によれば、第2の層(12)の気孔率は、10%~25%の範囲であり得る。
【0106】
「第2の層の気孔率」とは、結晶の底部間の空隙を意味し、結晶はその高さで空隙を覆うことができる。また、亜鉛-ニッケル層と、固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の層との間に直接通るクラックがある場合には、開放気孔率とも呼ばれる。
【0107】
有利には、その気孔率により、シュウ酸化層の空隙に上層が機械的に固定される現象が生じて、多層コーティングの上層の保持力を向上させることができる。
【0108】
図7と比較すると、この気孔率は、当該技術分野による第2の不働態化型変換層には見られなかった。実際、本出願人は、不働態化層は薄すぎてその気孔率を認められないと判断した。
【0109】
図8は、シュウ酸化型変換層(12)の表面を上から見た、5000倍に拡大されたSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【0110】
特に、微小クラック多面体(30)によって、層の表面がテクスチャ化されていることが分かる。
【0111】
「微小クラック多面体」とは、エッジと呼ばれるセグメントにグループ化された平面多角形の面を有する3次元幾何学的形状を意味する。面とエッジの数は任意であり、エッジの長さは0.5μm~30μmの範囲であり得る。層は、ランダムに分布する微小クラックを有してもよい。クラックの幅は、0.05μm~1μmの範囲であり得る。この特徴により、微小クラック多面体タイプのテクスチャは、上層に保持力とシュウ酸化層への付着力を向上させる。
【0112】
本発明の変形例によれば、第2の層(12)は、促進剤を使用して作製され得る。これは、シュウ酸化の均質化を促進し、より薄く緻密な層を得る効果を有する。
【0113】
図9は、本発明によるシュウ酸化型変換層の表面を上から見た、20000倍に拡大されたSEM(走査型電子顕微鏡)画像である。
【0114】
図8の内容は図9にも適用でき、有効である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2024-04-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素井の掘削および操作、石油およびガスの輸送、水素の輸送または貯蔵、炭素回収または地熱エネルギーのための管状ねじ要素(1,2)であって、金属製本体(5)と、少なくとも1つのねじ部分(14,15)を含む少なくとも1つのねじ端部(3,4)と、を備え、前記ねじ端部(3,4)は、前記ねじ端部(3,4)の表面の少なくとも一部分上に多層コーティング(10)を含み、前記多層コーティング(10)は、前記ねじ端部(3,4)の表面の前記少なくとも一部分上に電着された亜鉛-ニッケルを含む固体コーティングを備える第1の層(11)と、前記第1の層(11)の上方にある第2のシュウ酸化型変換層(12)と、前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の上方にある、固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む第3の層(13)と、を備えることを特徴とする、管状ねじ要素(1,2)。
【請求項2】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)は、シュウ酸ニッケルおよび/またはシュウ酸亜鉛を含むことを特徴とする、請求項1に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項3】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の単位面積当たりの層重量は、0.1g/m2~20g/m2の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項4】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の単位面積当たりの層重量は、0.5g/m2~10g/m2の範囲であることを特徴とする、請求項3に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項5】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の気孔率は、5%~35%の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項6】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の気孔率は、10%~25%の範囲であることを特徴とする、請求項5に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項7】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の厚さは、0.5μm~30μmの範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項8】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)の厚さは、1μm~20μmの範囲であることを特徴とする、請求項7に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項9】
前記第2のシュウ酸化型変換層(12)は、1μm~30μmの幅のエッジを有する微小クラック多面体タイプのテクスチャを含むことを特徴とする、請求項1に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項10】
前記ねじ端部(3,4)は、少なくとも1つの当接面(6,7)と、少なくとも1つのシール面(8,9)と、をさらに備え、前記多層コーティング(10)は、前記少なくとも1つの当接面(6,7)および/または前記少なくとも1つのシール面(8,9)を被覆することを特徴とする、請求項1に記載の管状ねじ要素(1,2)。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の管状ねじ要素(1,2)を製造するための方法であって、
・ ねじ端部(3,4)の金属表面上に亜鉛-ニッケル層を電着するステップと、
・ シュウ酸化型変換ステップと、
・ 固体潤滑剤粒子を担持したポリウレタンまたはエポキシマトリックスを含む層で被覆するステップと
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項12】
前記シュウ酸化型変換ステップは、25℃~90℃の範囲の温度で実施されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記シュウ酸化型変換ステップは、シュウ酸の使用を含んでおり、前記シュウ酸の濃度は、1g/L~75g/Lの範囲であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記シュウ酸化型変換ステップは、硝酸塩、塩化物、チオシアン酸塩、およびチオ硫酸塩の要素から選択される添加剤、または複数種の添加剤の組み合わせに関連するシュウ酸の使用を含むことを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【国際調査報告】