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特表2024-531723二本鎖DNAプールから生成されたRNAプールを含むRNAワクチン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-08-29
(54)【発明の名称】二本鎖DNAプールから生成されたRNAプールを含むRNAワクチン
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20240822BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20240822BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240822BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240822BHJP
【FI】
A61K39/00 H
C12N15/12 ZNA
C12N15/10 Z
C12N5/10
A61P35/00
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024516457
(86)(22)【出願日】2022-09-13
(85)【翻訳文提出日】2024-04-30
(86)【国際出願番号】 EP2022075375
(87)【国際公開番号】W WO2023037000
(87)【国際公開日】2023-03-16
(31)【優先権主張番号】21196366.5
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21196390.5
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】21196406.9
(32)【優先日】2021-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524095579
【氏名又は名称】オンコディーエヌエー
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(74)【代理人】
【識別番号】100231647
【弁理士】
【氏名又は名称】千種 美也子
(72)【発明者】
【氏名】デティッフ,ジャン-ポール
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン フッフェル,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA44
4C085AA03
4C085BB01
4C085CC03
4C085EE01
(57)【要約】
以下の工程を含む標的から特異的に導き出される複数のエピトープを含むRNAワクチンを製造する方法であって、
(i)前記標的から導き出される複数の異なるエピトープをコードする、プール中に、複数の合成DNA構築物を得る工程と、
前記複数の合成DNAを対応する複数のRNAにインビトロで転写する工程と、を含み、
前記標的が、一の患者において特異的に同定され、該患者の正常細胞に天然に存在するアミノ酸配列と少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸配列を有する、感染性因子又は癌ネオエピトープ由来のペプチドである、
方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的から特異的に導き出される複数のエピトープを含むRNAワクチンの製造方法であって、以下の工程を含む:
- 前記標的から導き出される複数の異なるエピトープをコードし、及び、異なる合成DNA構築物によってコードされる前記異なるエピトープの、RNA配列への転写を可能にする配列、及び前記転写されたRNAの真核細胞によるペプチドへの翻訳のための配列、の近傍にある、複数の前記異なる合成DNA構築物を得ること、及び
- 複数の前記合成DNAを対応する複数のRNAにインビトロで転写すること。
ここで、前記標的は、感染性因子由来のペプチド、又は、前記患者の正常細胞由来のペプチドと比較して、少なくとも1つのアミノ酸の差異を有すると、一の患者において特異的に同定された、癌ネオエピトープ(複数)である。
【請求項2】
前記DNA構築物は、当該コードされたペプチド(the encoded peptide)のエンドソーム標的化のためのペプチド配列をコードする複数の配列要素をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記DNA構築物は、コードされたペプチド(the encoded peptide)をTリンパ球に提示のためにローディングをするためのペプチド配列をコードする複数の配列要素をさらに含む、及び/又は、前記DNA構築物は、翻訳エンハンサーをコードする少なくとも1つの配列要素をさらに含む、及び/又は、前記DNA構築物は、3'-UTR及び/又は3'ポリAテールセグメントをコードする少なくとも1つの配列要素をさらに含む、

好ましくは(又は)、

前記複数の異なるDNA構築物は、コードされたペプチド(the encoded peptide)のエンドソーム標的化のためのペプチド配列をコードする同じ複数の配列要素、及び/又は、コードされたペプチド(the encoded peptide)を、Tリンパ球への提示のために、ローディングをするためのペプチド配列をコードする該同じ複数の配列要素を共有する、
請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記複数のDNA構築物は、同じプロモーター配列を共有する、前記請求項のいずれか一項(請求項3:マルチマルチ対応)に記載の方法。
【請求項5】
前記共有するプロモーター配列を認識する前記転写の因子は、前記転写の工程中に添加される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記転写の工程の間に、シュードウリジンがRNAに添加される、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。(マルチマルチチェック 請求項5へ従属?)
【請求項7】
前記複数のDNAの配列を、好ましくは(要削除)より豊富なコドンを選択することによって、及び/又は有害な二次構造を回避することによって、最適化する予備工程をさらに含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。(マルチマルチチェック 請求項5へ従属?)
【請求項8】
前記複数の異なるDNA分子は、少なくとも40の異なるエピトープ、(又は)好ましくは少なくとも50個、又は少なくとも60個、80個、若しくは100個、又はさらに120の異なるエピトープを、コードする少なくとも40の異なるDNA分子である、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。(マルチマルチチェック 請求項1へ従属?)
【請求項9】
前記異なるエピトープに、5’Cap要素を付加する工程をさらに含み、前記Cap要素が、三リン酸ストレッチによって分離された2つのヌクレオチドを含む、前記請求項のいずれか一項に記載の方法。(マルチマルチチェック 請求項1へ従属?)
【請求項10】
複数のネオ抗原をコードする複数のmRNAを含む腫瘍を有する患者のためのmRNA癌ワクチンであって、前記複数のネオ抗原は前記腫瘍から導き出され、前記複数のmRNAは前記腫瘍において同定された全ての腫瘍ネオ抗原の少なくとも1%、(好ましくは)少なくとも2%、(より好ましくは)少なくとも5%、(さらにより好ましくは)少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%をコードする、mRNA癌ワクチン。
【請求項11】
前記複数のmRNAの各mRNAのRNA配列中に存在するウリジンの少なくとも25%、(又は)好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、(若しくは)95%、又はさらに100%が、シュードウリジン又はN1-メチルシュードウリジン又は15-メチルウリジン又は2-チオウリジンによって置換されている、請求項10に記載のmRNA癌ワクチン。
【請求項12】
患者へのネオ抗原を選択するためのエクスビボ方法であって、以下の工程を含む:
請求項10若しくは11に記載のmRNA癌ワクチン、又は、対応する合成ペプチドネオエピトープ又はその1つ若しくはいくつかの切断型への請求項1~9のいずれか1に記載の方法によって得られるRNAワクチン、を投与された患者から血液試料を提供する工程、及び
どの合成ペプチドネオエピトープが、免疫応答を誘発するかを同定する工程。(マルチマルチ チェック)
【請求項13】
前記免疫応答は、細胞傷害性免疫応答である請求項12に記載の方法。
【請求項14】
腫瘍に罹患した患者のワクチン接種における使用のための、請求項12又は請求項13に記載の方法によって選択されるネオ抗原。(要チェック 医薬用途発明の記載)
【請求項15】
患者に影響を及ぼす腫瘍に対して、特異的、インビトロでの、細胞傷害性T細胞を増殖させるための方法であって、請求項12又は13に記載の選択されたネオ抗原を用いて、前記患者由来の血液試料をコンディショニングする工程を含む、方法。マルチマルチ チェック)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リボ核酸RNAワクチンを生成するための、患者のゲノムから抽出された情報の使用に関する。特に、感染性因子又は癌ネオエピトープ由来の標的から特異的に導き出される複数のエピトープを含むRNAワクチンの製造方法の発見に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、腫瘍を有する患者のためのmRNA癌ワクチンに関する。本発明は、又、mRNA癌ワクチンを投与された患者から血液サンプルの提供工程を含む、患者に対するネオ抗原を選択するためのエクスビボ方法に関する。腫瘍学において、腫瘍を治療するための個別化ワクチン、例えば、患者の腫瘍の腫瘍特異的抗原(neoantigen:新生抗原若しくはネオ抗原)を含む個別化治療ワクチンは、次世代の個別化癌免疫療法として非常に有望である。
【背景技術】
【0003】
個別化された癌ワクチン接種の概念は、適切な免疫学的応答を誘発することができるネオ抗原の同定に基づく。これは、腫瘍を攻撃する際に患者の免疫系を特異的に増強する、最適な個別化ワクチンを生成することを可能にする。
【0004】
RNAワクチンは、個別化された癌治療において開発されたが、異なる感染症を処置し、及び/又は予防するためにも開発された。RNAワクチンは、例えば、挿入突然変異誘発の可能性の危険にさらすことなく、細胞性免疫及び体液性免疫の両方を含む、癌に対する、又は感染性疾患に対するバランスのとれた免疫応答を誘導するために使用され得る。RNAワクチンは、疾患、様々なステージ若しくは転移の程度の癌を、治療及び/又は予防するために利用され得る。
【0005】
現在、RNA(mRNA)ワクチンにおける重大な制限は、特に個別化されたmRNA癌ワクチンにとって真実である、患者において適切な免疫学的応答を誘発し、患者におけるT細胞の十分な活性化をもたらし、腫瘍及び/又は疾患を効率的に攻撃する、特異的エピトープ、即ち腫瘍ネオエピトープを適切に同定することである。
【0006】
文献EP3400005は、腫瘍ネオ抗原由来の複数のネオエピトープを指向する抗癌ワクチンに関する。それによって、同定された腫瘍抗原を特異的に標的とする個別化ネオ抗原ワクチンが得られる。
【0007】
一態様では、この発明は、(i) 各サブ単位が癌ネオエピトープ配列の少なくとも一部及びリンカーを含む、2~50個の抗原性サブ単位、及び(ii)最終癌ネオエピトープ配列を含む抗原性単位をコードする、ヌクレオチド配列を含む、ポリヌクレオチドの免疫学的有効量含有、治療用抗癌ワクチンに関する。
【0008】
現在、mRNAワクチンの製造は、DNA鋳型のインビトロ転写に基づくものである。DNA鋳型は、プラスミドであり得るか、又は複数のDNAフラグメントの複数ライゲーション工程から生じ得るものであり、一般に、コンカテマーエピトープ(concatemeric epitome)又はネオエピトープをコードする。
【0009】
例えば、文献WO2018/144082には、RNA癌ワクチン及びその製造方法が記載されている。特に、この明細書は、複数の癌性エピトープが単一のmRNA上に存在するコンカテマーベース(concatemer-based)のmRNAワクチンを記載する。
【0010】
文献WO2020/097291には、mRNAワクチンで患者の癌を治療するための方法を記載している。該ワクチン核酸は、所与の長さで、最大の抗癌効力を示す。
【0011】
Kreiter Sebastianらによる文献(the Journal of Immunology, Vol 180, 2008, pp 309-318)には、MHC分子に抗原をカップリングすることによる抗原提示の効率を記載しており、ここで、当該ベクターは、プロモーター、ポリAテール、及び3' UTR配列を有する。
【0012】
残念ながら、最新技術の文献には、それらの技術の利点が記載されているが、現在、患者において免疫学的応答を高効率で誘発するmRNAワクチンの開発を可能にする方法は存在しない。mRNA癌ワクチンにおいて、mRNAワクチンによってコードされるネオエピトープの4~20%のみが、T細胞応答を活性化することができる。腫瘍は、多数の、例えば100を超える、異なるネオエピトープを特徴とすることができる。従って、重要な課題は、患者において適切な免疫学的応答を誘発するためにmRNAワクチンに組み込まれる適切なネオエピトープ、又は特定の疾患のエピトープを選択することである。
【0013】
現在の研究開発は、患者の特異的T細胞の活性化を特徴とする、患者における最適な免疫学的応答を誘発する、患者の腫瘍の、「最良」のネオ抗原候補、を同定することを目的とする予測アルゴリズムを改善することを試みている。
【0014】
本発明者らは、最良のネオ抗原候補を同定するための技術水準において公知の方法は、特定のタイプのHLA受容体についてのみ利用可能な、ネオ抗原ペプチドとHLA受容体との間の親和性データに基づくと考える。従って、最良のネオ抗原候補を同定するための現在の方法は、前記特定のタイプのHLA受容体を有する患者についてある程度の有効性に達する可能性があるが、一方、この方法は、異なる特定のタイプのHLA受容体を有する大部分の患者については非有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】EP3400005
【特許文献2】WO2018/144082
【特許文献3】WO2020/097291
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】The Journal of Immunology, Vol 180, 2008, pp 309-318)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
従って、患者の標的から特異的に導き出される複数のエピトープ、ここで複数のエピトープは、患者の特定HLA受容体に対して親和性を有する、を含むRNAワクチンを生産するためのプロセスを、開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、ある標的から特異的に導き出される複数のエピトープを含むRNAワクチンの製造方法であって:
- 真核細胞によるRNA配列のペプチドへの翻訳を可能にする配列に近接している前記標的から導き出される複数の異なるエピトープをコードし、及び、
前記エピトープをコードするDNA構築物の及びペプチドへの翻訳を可能にする当該配列の、mRNA配列への転写のためのプロモーターを有する、複数の異なる合成DNA構築物をプール中に得ること、及び
- 前記複数の合成DNAを、対応する複数のRNAにインビトロで転写すること、
ここで、前記標的は、感染性因子由来のペプチドであるか、又はペプチドレベルで少なくとも1つのアミノ酸の差異を有すると1人の患者において特異的に同定された癌ネオエピトープである。
【0019】
言い換えれば、これは、前記患者の正常細胞由来のペプチドと比較して、少なくとも1つのアミノ酸の差異を有するペプチドに等しい。
【0020】
実際、複数の合成DNA構築物がプール中で得られる本発明による方法は、多数の、潜在的に無限の数の異なるDNA構築物を有することを可能にする。結果として、本発明によるRNAワクチンは、感染症のエピトープ若しくは腫瘍由来のエピトープ、即ちネオエピトープ、の非常に多数を組み込むことができ、それらのうちのいくつかは、患者のT細胞活性化をもたらす。
【0021】
本発明によれば、患者における免疫学的応答とは、ネオ抗原(複数)又は感染性因子を標的とする、特異的T細胞、好ましくは細胞傷害性T細胞、の産生を指す。あるいは、該免疫学的応答は、患者のT細胞による、1つ以上の免疫学的マーカー、例えばIFN-γ、の産生を測定することによって、インビトロで試験され、ここで、該患者の前記T細胞は、mRNAワクチンの特定のエピトープと接触させられる。
【0022】
あるいは、又は、さらに、該免疫学的応答は、本発明のmRNAワクチンを投与された患者の血液試料からの、CD8+ CD107a+ T細胞の同定によって測定される。
【0023】
本発明によれば、「正常細胞由来のペプチドと比較して、少なくとも1つのアミノ酸の差異」という語は、患者由来の腫瘍細胞のDNA若しくはRNA、又は感染性因子由来のDNA若しくはRNAに存在し、患者の正常細胞、即ち末梢血単核細胞(PBMC)、又は適合した非癌性組織に存在しない、オープンリーディングフレームからコードされるアミノ酸配列を意味する。
【0024】
本発明は、又、複数のネオ抗原をコードする複数のmRNAを含む腫瘍を保持する患者のためのmRNA癌ワクチンに関し、前記複数のネオ抗原は、腫瘍から導かれ、前記複数のmRNAは、腫瘍において同定された全ての腫瘍ネオ抗原の、少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも5%、さらにより好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%をコードする。
【0025】
本発明は、又、本発明によるmRNA癌ワクチン、又は、対応する合成ペプチドネオエピトープ又はその1つ若しくはいくつかの切断型に本発明による方法によって得られるRNAワクチン、を投与された患者から血液試料を提供する工程、及びどの合成ペプチドネオエピトープが、免疫応答を誘発するかを同定する工程を含む、患者に対するネオ抗原を選択するためのエクスビボ方法に関する。
【0026】
本発明の他の特徴及び利点は非限定的な以下の説明から、図面及び実施例を参照することによって導き出される。
【0027】
本発明によれば、「ネオ抗原」という用語は、患者の腫瘍特異的抗原を指す。本発明のフレームワークにおいて、「ネオ抗原」は、患者の正常細胞に天然に存在するペプチドと比較して、少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸配列を含む。
【0028】
本発明によれば、「ネオエピトープ」という用語は、患者の主要組織適合複合体(MHC)に結合することができるネオ抗原に由来する腫瘍特異的ペプチドを指す。
【0029】
本発明によれば、「患者の正常細胞中に天然に存在するペプチドと比較して、少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸配列」という語は、(i)患者の正常細胞中に天然に存在するアミノ酸配列の対応する位置に少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸配列を有するペプチド、及び/又は(ii)患者の正常細胞中に存在しない、即ち、腫瘍中に存在し、患者の正常細胞中に存在しないデノボアミノ酸配列〔この状況は、感染因子のアミノ酸配列でのワクチン接種とより類似性をシェア(共有)する〕、及びかくして都合の良い、ペプチドを意味する。
【0030】
加えて、この用語「患者の正常細胞に天然に存在するペプチドと比較して少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸配列」は、転座事象又はスプライシング部位における変異の後に生成されるネオ抗原を包含し;これらの事象が、正常組織由来のペプチドと高い相同性のセグメント及び異なるC末端セグメントを有するペプチド、又は正常組織由来の別のペプチドと高い相同性を有するペプチド、を生成する。
【0031】
言い換えれば、正常組織において見出されるペプチドと100%同一ではないペプチドを産生する任意の遺伝的事象は、上記定義に対応する。
【0032】
本発明〔該mRNA、該(出発)DNA構築物、該得られたmRNA又はあるがままの該mRNA、を生成するためのプロセス〕において、好ましくは、該DNA、従って該mRNAは、3'ポリAセグメントを含む。
【0033】
好ましくは、この3'ポリAセグメントは、100%のアデノシンからなるか、又は本質的にアデノシンからなり;
例えば、少なくとも10個の連続するアデノシン残基、好ましくは少なくとも20、30、40個の連続するアデノシン残基のストレッチ(stretch:伸展)が、他のヌクレオチド(20個未満、好ましくは上記ストレッチを形成しない10個の残基のストレッチ)によって分離され、そして、
その後に少なくとも10個の連続するアデノシン残基の第2ストレッチ(第1ストレッチの長さとは無関係に、少なくとも20、30、40個の連続するアデノシン残基)が続き、
おそらく、その後にヌクレオチド(20個未満、好ましくはストレッチを形成しない10個の残基)を分離して続き、そして、その後に続くアデノシンストレッチも、又、少なくとも90個のアデノシン残基が存在し、好ましくは、少なくとも120個のアデノシン残基がこれらのストレッチに存在し、「ポリAセグメント」を形成するという条件で、用語「ポリAセグメント」に含まれる。
【0034】
本発明者らは、標的から特異的に導き出される複数のエピトープを含むmRNAワクチンの製造方法を開発した。これは、患者の免疫系によって認識されるエピトープの投与を確実にすることを可能にする。
【0035】
本発明者らは、このようなアプローチは、免疫応答の予測可能性を増加させるために開発されたバイオインフォマティクスツールを含む最新技術を用いてエピトープが選択及び/又は設計された、1つ又は少数の異なるエピトープが患者に投与されたワクチン接種に基づく方法よりも、強固な免疫応答を提供することを示した。
【0036】
このような陽性結果は、強力なエピトープが、大量の非強力なエピトープによって希釈されることを考慮すると、驚くべきことである。
【0037】
この方法は以下の工程を含む:
-真核細胞によるRNA配列のペプチドへの翻訳を可能にする配列の近傍にある、当該標的から導き出される複数の異なるエピトープをコードし、及び、前記エピトープをコードする前記DNA構築物及びペプチドへの該翻訳を可能にする前記配列、の転写のためのプロモーターを有する、プール中に、複数の異なる合成DNA構築物を得ること、
ならびに、
-対応する複数のRNAへ、前記複数の合成DNAを使いインビトロでの転写をすること、
ここで、
前記標的は、患者の正常細胞中に天然に存在するペプチドと比較して、少なくとも1つのアミノ酸によって異なるアミノ酸配列を有し、一の患者において特異的に同定された感染性因子又は癌ネオエピトープ由来のペプチドである。
【0038】
好ましくは、RNA配列へのDNAの転写は、シュード(偽)ウリジン及び/又はN1-メチルシュードウリジン、15-メチルウリジン(m5U)、及び/又は2-チオウリジン(s2U)の存在下で行われる。
【0039】
好ましくは、RNA配列を得るためのプロセスは、三リン酸ストレッチによって分離された(5'-3'で連結された)2つのヌクレオチドを含む、5’Cap要素を付加するさらなる工程を含む。
【0040】
2つのヌクレオチドは、天然であってもよく、又は、例えば、5’Cap要素を形成する1つ又は2つの残基における2'位の-OH残基(2-O-Meヌクレオチド)のメチル化によって修飾されていてもよい。
【0041】
5’Cap要素は、追加のヌクレオチドを含む、追加の基を含むことができるが、ただし、2つのヌクレオチドが、一リン酸の代わりに、三リン酸基によって分離される(5'-3'で連結される)こと条件とする。
【0042】
好ましくは、DNA構築物(従って、コードされたmRNAも同様に)は、コードされたペプチド(the encoded peptide)のエンドソーム標的化のためのペプチド配列をコードする複数の配列要素をさらに含む。例えば、エンドソーム標的化のためのペプチド配列は、リソソーム関連膜タンパク質(LAMP1又はLAMP2)、例えば樹状細胞(DC-LAMP)のシグナル配列及び/又はエピトープをMHC-I受容体に標的化する配列、例えば配列番号3である。
【0043】
有利には、DNA構築物(従って、コードされたmRNAも同様に)は、Tリンパ球に提示するためのコードされたペプチド(the encoded peptide)のローディング(読込)のためのペプチド配列をコードする複数の配列要素をさらに含む。
【0044】
より好ましくは、Tリンパ球に提示するためのコードされたペプチド(the encoded peptide)のローディングのためのペプチド配列をコードする複数の配列要素は、配列番号5等の、樹状細胞リソソーム関連膜糖タンパク質シグナル配列である。
【0045】
好ましくは、複数の異なるDNA構築物は、コードされたペプチド(the encoded peptide)のエンドソーム標的化のためのペプチド配列をコードする同じ複数の配列要素、及び/又はTリンパ球に提示するためのコードされたペプチド(the encoded peptide)のローディングのためのペプチド配列をコードする同じ複数の配列要素、を共有する(share)。
【0046】
好ましくは、真核細胞によるRNA配列のペプチドへの翻訳を可能にする配列は、DNA構築物の5'UTR領域(コード領域の上流)に位置する翻訳エンハンサー/プロモーター配列である。より好ましくは、翻訳を可能にする配列は、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー、α又はβグロビンエンハンサー(配列番号2等)、EF-1αエンハンサー、サルウイルス40(SV40)エンハンサー、PGK1プロモーター、ユビキチンCプロモーター、HSD17B4及びβ-アクチンプロモーターを含む、翻訳エンハンサー/プロモーター配列のグループから選択される、翻訳エンハンサー/プロモーター配列である。
【0047】
好ましくは、DNA構築物(従って、コードされたmRNAも同様に)は、3'-UTR及び/又は3' ポリAテールセグメントをコードする少なくとも1つの配列要素をさらに含む。より好ましくは、3'ポリAテールセグメント(複数可)は、少なくとも68ヌクレオチド、好ましくは少なくとも100ヌクレオチドである(上記の定義を参照)。
【0048】
有利には、複数のDNA構築物は、同じプロモーター配列(RNA分子中の転写のための)を共有する(share)。
【0049】
好ましくは、プロモーター配列は、バクテリオファージRNAポリメラーゼプロモーターである。より好ましくは、プロモーター配列は、T7 RNAポリメラーゼ(配列番号1)、SP6 RNAポリメラーゼ、T3 RNAポリメラーゼ、Syn5 RNAポリメラーゼ、KP34 RNAポリメラーゼのプロモーター配列を含むプロモーター配列グループに属する。好ましくは、本発明によるプロモーター配列は、T7 RNAポリメラーゼのプロモーター配列である。
【0050】
DNA構築物及びDNA構築物のDNA配列についての詳細な説明は、2021年9月13日に出願されたEP21196390.5に見出すことができる。好ましくは、共有プロモーター配列(the shared promoter sequence)を認識する転写因子は、転写description(転写describing)工程中に付加される。
【0051】
本発明によれば、プール中に、複数の合成mRNA構築物を、以下の合成を行う工程を含む、複数の合成DNA構築物の製造方法によって、得ることができる:
(i)以下を含む第1の一本鎖DNA分子:
RNAへの転写のためのプロモーター、
その翻訳のためのセグメント、及び、腫瘍ネオ抗原又は感染性因子由来のエピトープと、イン-フレーム(in-frame)に融合するエンドゾーム(endosomial)志向のための標的配列、並びに、
Tリンパ球への提示のために、感染性因子由来のエピトーム又はコードされた腫瘍ネオ抗原(the encoded tumor neoantigen)のローディング(loading)のための配列をコードする遺伝要素の第1の部分、
及び
(ii)以下の第2の一本鎖DNA分子:
Tリンパ球への提示のために、感染性因子からのエピトープ又はコードされた腫瘍ネオ抗原(the encoded tumor neoantigen)のローディングのための配列をコードする遺伝要素の第2の部分をコードする第2の一本鎖DNA分子であって、ここで、該第2の一本鎖DNA分子は、アンチセンスであり、及び、ここで、第1及び第2の部分は、Tリンパ球への提示のための、感染性因子からのエピトープ又は腫瘍ネオ抗原、のローディングのための完全な配列を形成し、及び、ここで、前記第1及び第2の部分は、特定の塩基対形成を可能にする(少なくとも15個の連続するヌクレオチドの)重複を提示する、
当該プロセスは、さらに、以下を含む:
(i)の下でのDNA分子を(ii)の下でのDNA分子とハイブリダイズし、及び
プロモーター、翻訳イニシエーター、感染性因子からのエピトープ又は腫瘍ネオ抗原をインフレームで融合したエンドソーム指向のための標的配列及びTリンパ球への提示のために感染性因子からのエピトープ又はコードされた腫瘍ネオ抗原(the encoded tumor neoantigen)のローディングのための配列をコードする遺伝要素を、コードする二本鎖DNA分子を生成するように、2つの分子を伸長させること、 その後、複数のmRNA構築物を形成するように、複数のDNA分子をインビトロで転写すること。
【0052】
本発明によれば、第1の一本鎖DNA分子及びおそらく第2の一本鎖DNA分子の合成は、好ましくはシリコンベースのDNA書き込み技術を用いた合成である。
【0053】
あるいは、第2の一本鎖分子は、一度合成された「マスターストック」であり、1つの分子のみが、化学合成を受ける必要があるので、全体的なプロセスの効率を高めるために、酵素的に増幅され、保存される。
【0054】
好ましくは、本発明による方法は、好適には、より豊富なコドンを選択することによって、及び/又は、有害な二次構造を回避することによって、複数のDNAの配列を最適化する予備工程をさらに含む。
【0055】
有害な二次構造は、利用可能なインシリコツールを使用して予測することができ、従って、可能であれば、回避することができる。
【0056】
好ましくは、シュードウリジンが、転写工程中にRNAに添加される。好ましくは、RNAへの転写工程の間に、シュードウリジンが、加えられ、さらにウリジンに加えられるか、又は全てのウリジンを置き換える。
【0057】
代わりに、又は、シュードウリジン及び/又はN1-メチルシュードウリジンに加えて、15-メチルウリジン(m5U)及び/又は2-チオウリジン(s2U)をmRNAに組み込むことができる。好ましくは、複数のmRNAの各mRNAのRNA配列は、おそらくコドン縮重を使用することによって、対応するコードされたペプチド(the encoded peptide)の配列決定を維持しながら、シュードウリジンで富化されている。
【0058】
好ましくは、言及したように、RNA配列は、三リン酸ストレッチによって分離された(5'-3'で連結された)2つのヌクレオチドを含む、5’Cap要素を含む。
【0059】
2つのヌクレオチドは天然であってもよく、又は、例えば、2'位の-OH残基のメチル化によって修飾されていてもよい(2-O-Meヌクレオチド)。
【0060】
5’Cap要素は、追加のヌクレオチドを含む、追加の基を含むことができるが、ただし、2つのヌクレオチドは、一リン酸の代わりに、三リン酸基によって分離される(5'-3'で連結される)。
【0061】
好ましくは、複数の異なるDNA分子は、少なくとも40の異なるエピトープ、好ましくは少なくとも50個、又は少なくとも60個、80個、100個、又はさらには120の異なるエピトープを、コードする少なくとも40の異なるDNA分子である。
【0062】
好ましくは、本発明による方法は、複数の合成DNA構築物を増幅して、DNA構築物の増幅プールを生成する工程をさらに含み、DNA構築物の増幅プールは、インビトロ転写工程のための鋳型として使用される。
【0063】
好ましくは、mRNAワクチンの製造方法は、インビトロ転写工程の後に、複数のmRNAの各々のmRNAの質及び/又は量をチェックする工程をさらに含む。好ましくは、複数のmRNAの各々のmRNAの質及び/又は量は、複数のmRNAを配列決定することによって行われる。好ましくは、mRNAワクチンを生成するためのプロセスは、又、複数のmRNAを、場合により1つ以上のアジュバントと共に、患者に投与可能なベクター中に、製剤化する工程をさらに含む。
【0064】
しかしながら、アジュバントは、特に、ウリジン残基が少なく存在するか、又はシュードウリジンによって完全に置き換えられる場合、そのようなRNAワクチン接種に必要とされない。
【0065】
本発明は、又、複数のネオ抗原をコードする複数のmRNAを含む、腫瘍を有する患者のための、mRNA癌ワクチンに関し、前記複数のネオ抗原は、腫瘍から導き出され、前記複数のmRNAは、腫瘍において同定された全ての腫瘍ネオ抗原の少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、より好ましくは少なくとも5%、さらにより好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%をコードする。
【0066】
好ましくは、本発明によるmRNAワクチンは、上記のように、(i)腫瘍ネオ抗原を安定化及び/又は標的化及び/又は輸送するための配列をコードするセグメント、及び/又は(ii)MHC分子に対し、当該コードされた腫瘍ネオ抗原(the encoded tumor neoantigen)を指向する配列をコードするセグメント、及び/又は(iii)翻訳エンハンサーをコードするセグメント、及び/又は(iv)3'-UTR及び/又は(v)3'ポリAテールセグメント(複数可)及び/又は(vi)5'-UTRをさらに含む。
【0067】
好ましくは、RNA配列は、三リン酸ストレッチによって分離された(5'-3'で連結された)2つのヌクレオチドを含む、5’Cap要素を含む。
【0068】
2つのヌクレオチドは、天然であってもよく、又は、例えば、2'位の-OH残基のメチル化によって修飾されていてもよい(2-O-Meヌクレオチド)。
【0069】
5’Cap要素は、追加のヌクレオチドを含む追加の基を含むことができるが、ただし、2つのヌクレオチドが一リン酸の代わりに、三リン酸基によって分離される(5'-3'で連結される)。
【0070】
好ましくは、複数のmRNAは、腫瘍において同定された全ての腫瘍ネオ抗原の少なくとも2%、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、若しくは90%をコードする。
【0071】
有利には、複数のmRNAは、1つ以上の脂質ナノ粒子に組み込まれる。好ましくは、複数のmRNAは、正に荷電した脂質と複合体を形成する。好ましくは、複数のmRNA及び正に荷電した脂質は、マイクロ流体チップ中で混合される。
【0072】
場合により、1種以上の1型アジュバントは、mRNA癌ワクチンを形成するために、複数のmRNAと共に組み込まれ(複数)、ここで、1種以上のアジュバントは、好ましくは、非晶質ヒドロキシリン酸アルミニウム(AAHS)、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(Alum)、又はモノホスホリルリピドAを有する1型のアジュバントのグループから選択される。しかし、特に、シュードウリジンが、mRNAワクチンに組み込まれている場合、そのようなアジュバントは必要ではない。
【0073】
場合により、複数のmRNAは、さらに、構成的に、活性TLR4(caTLR4)及び/又はCD70及び/又はCD40L及び/又はインターフェロン-γ及び/又はデコイインターロイキン受容体、即ちインターロイキン1受容体II型、をコードする2型のアジュバントのようなDNA又はmRNAの形態で、2型のアジュバントをさらに含む。
【0074】
有利には、2型のアジュバントDNA又はmRNAは、mRNAワクチンに組み込まれた場合、患者の樹状細胞の刺激を促進し、患者のT細胞への複数のネオエピトープの提示の有効性を増加させる。
【0075】
このようなアジュバントは、特に患者の樹状細胞のエクスビボ成熟に有用である。好ましくは、複数のmRNAは、RNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコードする3型のアジュバント、例えばアルファウイルスnsP1-4の非構造タンパク質をコードするDNA又はRNAのような、DNA又はmRNAの形態の3型のアジュバントをさらに含む。
【0076】
実際、mRNAワクチンの複数のmRNAは、コードされたRdRpに基づくトランス増幅などの、トランス増幅が可能であることが有用である。そのようなRNAトランス増幅は、患者に投与されるmRNAワクチンの用量を減少させることを可能にする。
【0077】
好ましくは、複数のmRNAの各mRNAのRNA配列中に存在するウリジンは、その少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はさらに100%が、シュードウリジン又はN1-メチルシュードウリジン又は15-メチルウリジン又は2-チオウリジンによって置換される。
【0078】
より好ましくは、複数のmRNAの各mRNAのRNA配列中に存在するウリジンは、その少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又はさらに100%が、シュードウリジンによって置換される。
【0079】
本発明は、又、本発明によるmRNA癌ワクチン、又は、対応する合成ペプチドネオエピトープ又はその1つ若しくはいくつかの切断型へ、本発明による方法によって得られるRNAワクチン、を投与された患者から血液試料を提供する工程、及び、どの合成ペプチドネオエピトープが免疫応答を誘発するかを同定する工程を含む、患者に対するネオ抗原を選択するためのエクスビボ方法に関する。
【0080】
実際に、患者の腫瘍のネオ抗原を選択するためのこの方法は、本明細書において上記されるような複数の腫瘍ネオ抗原をあらかじめ投与した、この患者のエクスビボ血液試料を提供する工程、及び、どのネオエピトープが前記血液試料と反応するかの試験を含む。この方法は、この患者を治療するために、ネオ抗原のより精製されたプールを迅速に生成することを可能にする。
【0081】
実際には、当該同定されたネオ抗原に対応するペプチドを合成し、次いで異なる区画中で水溶液中において調製し、そして、1つのペプチドを、所与の区画中でエクスビボ試料と反応させる。
【0082】
長すぎるペプチドであるか、又は、低すぎる水溶性を有すると予測されるネオ抗原については、このネオ抗原から導き出される配列をもつ欠失ペプチドが生成されうる、例えば、ネオ抗原のN末端から始まる、又は、そのN末端へ下流のアミノ酸(例えば、N末端から1、2、3、4又は5アミノ酸)で開始し、そして、最初に同定された突然変異で又はその同定された突然変異から1、2、3、4、5アミノ酸後で終了する、ペプチド。
【0083】
あるいは、又は、好ましくは、さらに、第2の重複ペプチドが合成され、ここで、第1の同定された変異は、第1の変異の上流の3、4、5、6、7、8、9アミノ酸で隣接し、第1の変異の下流の3、4、5、6、7、8、9アミノ酸で隣接する。
【0084】
あるいは、又は、好ましくは、さらに、最初に同定された突然変異又はこの最初に同定された突然変異の上流の1、2、3、4、5個のアミノ酸、から開始され、及び、ネオ抗原のC末端で若しくは該ネオ抗原のこのC末端の上流の1、2、3、4、5個のアミノ酸で終結する、(第2又は第3の)重複ペプチドが、合成される。
【0085】
これらの(2つ又は3つの)重複ペプチドは、検査のために同じ区画に、又は本発明によるmRNA癌ワクチンの2つ又は3つの異なる区画に配置することができ、又は患者の腫瘍の一連のネオ抗原のインビトロ同定のために本発明による方法によって得ることができる。本発明は、又、腫瘍に罹患した患者のワクチン接種に使用するための、本発明のエクスビボ方法に従って選択されたネオ抗原に関する。
【0086】
本発明は、又、患者に影響を及ぼす腫瘍に対して、特異的インビトロ細胞傷害性T細胞を増殖させるための方法であって、前記患者由来の血液試料を本発明の選択されたネオ抗原でコンディショニングする工程を含む方法に関する。
【実施例
【0087】
実施例1:患者の肺腫瘍において同定されたネオエピトープに対応する97のmRNAの調製
本発明者らは、患者の肺腫瘍の試料からDNA及びRNAを単離した。本発明者らは、又、患者の正常細胞(末梢血単核細胞、PBMC)からDNAを単離した。そして、以下の工程を行った:
- 該腫瘍由来の該DNA、PBMC細胞由来の該DNA及び該RNAの配列決定。
- 該腫瘍の該DNA及びPBMC細胞由来の該DNAから得た該DNA配列決定されたデータを比較すること、及びmRNA転写物の検出をもたらすDNA変異体を有する該腫瘍の当該オープンリーディングフレームを同定すること、によって、該腫瘍のネオ抗原をコードする該腫瘍の当該DNA変異体を同定すること。
- 該腫瘍の該ネオ抗原を同定し、複数の97の異なるネオ抗原が同定された。
- 27のアミノ酸のアミノ酸配列を有する、1の異なるネオエピトープをコードするDNA配列をそれぞれ含む97の二本鎖DNA鋳型を生成した。ここで、各ネオエピトープ配列は、1個のネオ抗原の配列の一部である。
- 当該97の二本鎖DNA鋳型を、インビトロで転写して、該97のmRNAを生成する。
【0088】
実施例2:本発明によるmRNAワクチンの組成物
本発明者らは、以下を含むmRNAワクチンを開発した:
- 患者の肺腫瘍から同定された、27のアミノ酸の各ネオエピトープを、それぞれコードする97 の異なるmRNA。これらの97の異なるmRNAの総量は、mRNAワクチンの用量あたり1000μgである。
- 正に荷電した脂質。
【0089】
実施例3:mRNAワクチンに含まれる該97の異なるmRNAの品質及び量
複数のmRNA(実施例1の97の異なるmRNAを参照)を、mRNAワクチン組成物に組み込む前に(実施例2を参照)、本発明者らは、RNA配列決定を行うことによって、複数のmRNAの各mRNAの質及び量をチェックした。そのために、本発明者らは、逆転写酵素を用いて、二本鎖cDNA合成を調製し、Illuminaアダプターライゲーション及びPCRによるcDNAライブラリー増幅、を実施した。次いで、RNA配列決定を、ハイスループット装置、ここではIllumina NovaSeq 6000を用いて、ペアエンド100bモードで実施した。
【0090】
実施例4:T細胞活性化の検出によって、より効率的な個別化mRNAワクチンを生成するための、診断ツールとしてのmRNAワクチンの使用
本発明者らは、実施例2のmRNAワクチンを、それぞれ異なるネオエピトープ、患者のT細胞を刺激するネオエピトープ、をコードする該97の異なるmRNAを同定するための診断ツールとして使用した。
【0091】
そうするために、実施例2による該mRNAワクチンを、肺腫瘍を有する当該患者に投与した。10日後、患者の血液を採取し、末梢血単核細胞及びT細胞を単離した。血液のPBMCからのT細胞を、抗CD3磁気ビーズ(Milteny)によって単離した。並行して、97の異なるmRNAのネオエピトープアミノ酸配列に対応する397のペプチドを、各ペプチドの1~4マイクログラムの量で合成した;
いずれの場合も、ネオ抗原のN末端から始まり、最初に同定された差異(突然変異)の後に3個のアミノ酸で終了する1のペプチド;
最初に同定された差異(突然変異)の前に7個のアミノ酸で開始し、その後に7個のアミノ酸で終了する当該第2のペプチド;及び
最初の差異(突然変異)の前に3個のアミノ酸で開始し、ネオエピトープのC末端で終了する第3のペプチド。
397ネオエピトープの各ペプチドを、ELISpotアッセイにより試験し、ここで、患者の血液から単離されたT細胞を、各ペプチドと接触させる(1つのネオエピトープに由来する3つのペプチドが存在し、1つのウェル中で組み合わせられる)。次いで、本発明者らは、患者のT細胞がmRNAワクチンによってコードされる所与のネオエピトープ(ペプチド)によって活性化されたかどうかを、所与のネオエピトープ(ペプチド)に対応するウェル中のIFN-γの産生を検出することによって検出した。97の新生抗原から、本発明者らは、患者のT細胞を活性化する63の新生抗原を同定した。
【0092】
実施例5:CD8細胞活性化の検出によって、第2世代のmRNAワクチンを生成するためのツールとしての該mRNAワクチンの使用
実施例4と同様に、実施例2による該mRNAワクチンを、肺腫瘍を有する当該患者に投与した。10日後、該患者の血液試料を採取し、末梢血単核細胞(PBMC)及びT細胞を単離した。血液のPBMCからのT細胞を、抗CD3磁気ビーズ(Milteny)によって単離した。このCD3+細胞(T細胞)の単離された画分から、CD8+及びCD4+細胞を、それぞれ抗CD8及び抗CD4磁気ビーズによって単離した。
該CD8+細胞及びCD4+細胞、から枯渇したCD3+細胞の画分は、抗原提示細胞(APC)の画分を表す。並行して、該97の異なるmRNAの該ネオエピトープアミノ酸配列に対応する3*97のペプチドを、実施例4と同じアプローチを用いて、各ペプチド1~4マイクログラムの量で合成した。当該患者の該血液から単離されたT細胞を各ネオ抗原と接触させ、97のネオ抗原の各ペプチドを、ELISpotアッセイにより試験した (1のネオ抗原に由来する3種のペプチドが存在し、1つのウェル中にて組み合わされる)。次いで、抗原提示細胞(APC)画分を、CD8+細胞の存在下にて、各ペプチドでエレクトロポレーションした。その後、IFN-γの産生を測定した。97の新生抗原から、本発明者らは、患者のCD8+細胞を特異的に活性化する24の新生抗原を同定した。
【0093】
実施例6:CD107aの検出によってより効率的な個別化mRNAワクチンを生成するためのツールとしての該mRNAワクチンの使用
実施例5と同じ工程を行った。さらに、抗CD107aマーカーを用いて、各ウェルにおけるCD107a発現を測定した。CD107aは、脱顆粒のマーカーである(CD8+細胞の機能的細胞傷害性の指標)。患者のCD8+細胞を特異的に活性化する24のネオ抗原(実施例5参照)から、7のネオ抗原が、CD107aの発現を測定することによって、機能的に細胞傷害性があることが同定された。
【0094】
実施例7:最適化mRNAワクチン
当該患者の該肺腫瘍におけるmRNAワクチンの注射の2ヶ月後(実施例5参照)、7つの同定されたネオ抗原を含む300μgの最適化された該mRNAワクチンを患者に投与した。
【0095】
実施例8:第2世代細胞療法
一部の患者にとっては、細胞療法アプローチが好ましい;従って、本発明者らは、腫瘍を直接攻撃することができるインビトロT細胞を産生するために、上記の広くかつ洗練されたシステムを利用した。そうするために、実施例4~7のように、該患者の該肺腫瘍における該mRNAワクチンの注射及び該最適化されたネオエピトープの該同定の2ヶ月後、患者の7つのCD8+ CD107a+細胞株を単離することによって、腫瘍の細胞療法を実施した。そうするために、該患者のDC細胞は、活性TLR4(caTLR4)、CD70及びCD40Lをコードするプラスミドのトランスフェクションによる投与と共に、mRNAワクチンとして投与される該7つの最適化されたネオエピトープを用いて成熟化された。次いで、該患者の該7つのCD8+ CD107a+細胞株を、エクスビボで増殖させた後、肺腫瘍を有する当該患者に再注射した。
本発明は、記載された実施形態に限定されず、特許請求の範囲から逸脱することなく変形が適用され得ることが理解されるべきである。
【配列表】
2024531723000001.xml
【国際調査報告】