(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-05
(54)【発明の名称】注射可能な組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/717 20060101AFI20240829BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240829BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240829BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240829BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20240829BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240829BHJP
A61L 27/02 20060101ALI20240829BHJP
A61L 27/12 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240829BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240829BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240829BHJP
【FI】
A61K31/717
A61P17/00
A61P19/02
A61P7/00
A61K36/899
A61L27/20
A61L27/02
A61L27/12
A61K47/18
A61K47/24
A61K47/20
A61K47/12
A61K47/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514361
(86)(22)【出願日】2022-09-02
(85)【翻訳文提出日】2024-05-01
(86)【国際出願番号】 AU2022051077
(87)【国際公開番号】W WO2023028664
(87)【国際公開日】2023-03-09
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503319102
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ オブ クィーンズランド
(71)【出願人】
【識別番号】524080438
【氏名又は名称】ブルグドゥ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ダレン・ジェームズ・マーティン
(72)【発明者】
【氏名】イアン・グリフィス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C076BB11
4C076CC09
4C076CC14
4C076CC18
4C076DD21
4C076DD22
4C076DD24
4C076DD26
4C076DD31
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD49
4C076DD52
4C076DD53
4C076DD54
4C076FF70
4C081AB36
4C081AB37
4C081CD02
4C081CE11
4C081DA04
4C086AA01
4C086AA02
4C086MA01
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4C086MA66
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4C086ZA51
4C086ZA89
4C086ZA96
4C088AB73
4C088BA12
4C088MA65
4C088MA66
4C088NA14
4C088ZA51
4C088ZA89
4C088ZA96
(57)【要約】
注射可能な組成物が開示される。そのような組成物は、セルロース系繊維及び深共晶溶媒から形成され得る。また注射可能な組成物の調製方法も開示され、その方法は、(i)セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させて、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を提供すること、(ii)深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を洗浄すること、及び(iii)洗浄された、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を均質化又は機械的に微細化して注射可能な組成物を提供することを含む。また、該組成物の使用及び該組成物に関する方法も開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース系繊維及び深共晶溶媒から形成される、注射可能な組成物。
【請求項2】
前記組成物は、均質化されているか、又は機械的に微細化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記深共晶溶媒は、ルイス酸及びルイス塩基から形成され、
前記ルイス酸は、アンモニウム、ホスホニウムもしくはスルホニウムカチオン、アミン、アミド、カルボン酸、又はポリオールを含み、
前記ルイス塩基は、窒素原子を含むか、又はアミド基、尿素基、カルバメート基、もしくはアンモニウム基を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記深共晶溶媒は、スルファミン酸尿素である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、セルロースナノファイバーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、漂白され且つ脱リグニンされたセルロースナノファイバーを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記セルロース系繊維は、トリオディナエ(Triodiinae)亜族の植物に由来する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記植物はトリオディア・プンゲンスである、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、0.1、1、10又は100rad/sの周波数で50~5,000Paの貯蔵弾性率(G’)を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
注射可能な組成物を調製する方法であって、前記方法は、
(i)セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させて、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を提供すること、
(ii)前記深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を洗浄すること、及び
(iii)前記洗浄された、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を、均質化するか又は機械的に微細化して、前記注射可能な組成物を提供すること
を含む、方法。
【請求項11】
前記方法は、
(i)セルロース系繊維を脱リグニンするステップ、
(ii)前記脱リグニンされたセルロース系繊維を任意に漂白するステップ、
(iii)ステップ(i)又はステップ(ii)の前記セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させて、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を提供するステップ、
(iv)前記深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を洗浄するステップ、及び
(v)前記洗浄された、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を、均質化するか又は機械的に微細化して、前記注射可能な組成物を提供するステップ
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セルロースナノファイバーを深共晶溶媒と接触させる前記ステップは、120℃~180℃の温度で、セルロースナノファイバー対深共晶溶媒のモル比1:2~1:30で行われる、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記深共晶溶媒は、ルイス酸及びルイス塩基から形成され、
前記ルイス酸は、アンモニウム、ホスホニウムもしくはスルホニウムカチオン、アミン、アミド、カルボン酸、又はポリオールを含み、
前記ルイス塩基は、窒素原子を含むか、又はアミド基、尿素基、カルバメート基、もしくはアンモニウム基を含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記深共晶溶媒はスルファミン酸尿素である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記セルロース系繊維は、トリオディナエ(Triodiinae)亜族の植物に由来する、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項10~15のいずれか一項に記載の方法によって調製される、注射可能な組成物。
【請求項17】
皮膚充填剤としての、又は関節炎(特に変形性関節症)の症状を治療、予防もしくは改善するための、又は多血小板血漿療法における、請求項1~9及び16のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項18】
対象における関節炎の症状を治療、予防又は改善する方法であって、請求項1~9及び16のいずれか一項に記載の組成物を前記対象に注射することを含む、方法。
【請求項19】
対象の皮膚内又は皮膚下のボリュームを増加させる方法であって、請求項1~9及び16のいずれか一項に記載の組成物を前記対象の前記皮膚内又は下に注射することを含む、方法。
【請求項20】
前記方法は、前記対象の唇、胸部又は頬のボリュームを増加させるための方法である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
セルロース系繊維を含む注射可能な組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とりわけ、セルロース系繊維から形成される注射可能な組成物、又はセルロース系繊維を含む注射可能な組成物、その製造方法及び該組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の出版物が本明細書で参照される場合、この参照は、この出版物がオーストラリア又は任意の他の国の当該分野における共通の一般知識の一部を形成することを認めるものではないことが明確に理解されるであろう。以下の説明は特に皮膚充填剤に関するものであるが、本願の主題はこの使用に限定されない。
【0003】
皮膚充填剤(軟組織充填剤としても知られる)は、皮膚領域、特に顔に膨らみや滑らかさを加えるために使用される。これは、特に老化により、ボリュームが減少した場合に特に望ましい場合がある。目に見える老化の兆候の多くは、ボリューム減少に起因し得る。老化による皮膚の薄化は、頬、唇、口の周りなどによく見られる。したがって、皮膚充填剤は、唇、ほうれい線、口周りのしわ、頬を含む領域の減少したボリュームを補うために頻繁に用いられる。
【0004】
皮膚充填剤は典型的には、しばしば局所麻酔クリームの塗布後に、処置される領域に直接注射される。皮膚充填剤の効果は即時であり、製品の種類、治療される領域、代謝や患者が以前に治療を受けたかどうかなどの個々の患者の要因に応じて、2~18か月持続し得る。
【0005】
最も一般的なタイプの皮膚充填剤の1つはヒアルロン酸であり、皮膚充填剤市場の80%までを占めると推定されている。ヒアルロン酸は、体内に自然に見出されるため、良好な安全性プロファイルを有し、その結果は、一定期間後に身体がヒアルロン酸を徐々に自然に吸収するため一時的である。所望の粘度及び持続性を達成するために、ヒアルロン酸製品は合成的に架橋されており、架橋度により、解剖学的要件に基づいた種々の皮膚充填剤製品がもたらされ得る。しかし、そのような架橋生成物は、より粘性の高いゲルをもたらし得、その結果、注射可能性がより困難になり、患者の不快感がより大きくなり、ある特定の閾値でその使用が制限される可能性がある。更に、そのような架橋生成物は離散粒子を形成し得、そのような粒子の直径が数百ミクロンであっても、組織内で依然として感じられ得る。したがって、代替的な皮膚充填剤の開発が必要とされている。
【0006】
ヒアルロン酸は全身の組織にも自然に見られる。特に、ヒアルロン酸は関節の潤滑機能を果たし、治療用ヒアルロン酸は、例えば関節炎に起因する関節機能を改善するために用いられる。特に、ヒアルロン酸は、関節内注射によって変形性膝関節症を治療するために使用されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記に鑑みて、本発明は、一実施形態において、皮膚充填剤として有用であり得る注射可能な組成物に関する。別の実施形態において、本発明は、ヒアルロン酸製品の代わりに、又はそれと共に使用することができる注射可能な組成物に関する。さらなる実施形態において、本発明は、上述の欠点の少なくとも1つを少なくとも部分的に克服し得るか、又は消費者に有用なもしくは商業的な選択肢を提供し得る。
【0008】
第1の態様において、本発明は、セルロース系繊維及び深共晶溶媒から形成される注射可能な組成物を提供する。一実施形態において、組成物は均質化された組成物である。一実施形態において、組成物は、粉砕又は超音波処理された組成物などの機械的に微細化された組成物である。別の実施形態において、注射可能な組成物は、セルロースナノファイバー及び深共晶溶媒から形成される。
【0009】
第2の態様において、本発明は、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維を含む注射可能な組成物を提供する。一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維は深共晶溶媒処理したセルロースナノファイバーである。
【0010】
第3の態様において、本発明は、セルロースナノファイバーを含む注射可能な組成物を提供する。セルロースナノファイバーは、深共晶溶媒(DES)で処理又は複合化されてもよい。一実施形態において、セルロースナノファイバーは、DES処理したセルロースナノファイバーであってもよい。
【0011】
本発明の第1~第3の態様の特徴は以下の通りであってもよい。
【0012】
本明細書で使用される場合、「深共晶溶媒処理されたセルロース系繊維」又は「深共晶溶媒処理されたセルロースナノファイバー」又は「DES処理されたセルロースナノファイバー」などの用語は、組成物が深共晶溶媒を含むことを意味するものではない。むしろ、この用語は、セルロース系繊維又はセルロースナノファイバーが深共晶溶媒で処理又は複合化されていることを意味する。
【0013】
「深共晶溶媒」という用語は当業者には知られているであろう。例えば、深共晶溶媒の概説は、Smith,E.L.et al.(2014)Chemical Reviews,114、11060-11082に提供されている。深共晶溶媒(又はDES)は、ルイス酸又はブレンステッド酸と塩基との共晶混合物から形成される系である。深共晶溶媒には、様々なアニオン種及び/又はカチオン種が含まれ得る。DESは、タイプI、タイプII、タイプIII、又はタイプIVのDESであってもよい。
【0014】
DESは、ルイス酸及びルイス塩基から形成され得る。ルイス塩基は、窒素原子、アミド基、尿素基、カルバメート基、又はアンモニウム基(第4級アンモニウム塩など)を含んでもよい。ルイス塩基は、尿素又はアセトアミド、特に尿素であってよい。ルイス酸は、アンモニウム、ホスホニウムもしくはスルホニウムカチオン、アミン、アミド、カルボン酸、又はポリオール、特にアンモニウムカチオンを含んでもよい。ルイス酸はスルファミン酸であってもよい。一実施形態において、ルイス酸はスルファミン酸であり、ルイス塩基は尿素である。一実施形態において、ルイス酸は塩化コリンである。一実施形態において、ルイス酸は塩化コリンであり、ルイス塩基は尿素である。
【0015】
ルイス酸及びルイス塩基は、任意の適切なモル比でDESに存在し得る。一実施形態において、ルイス酸:ルイス塩基のモル比は、1:5~1:1、1:4~1:2、又は約1:3である。ルイス酸:ルイス塩基のモル比は、1:5、1:4、1:3、1:2、又は1:1、特に1:4、1:3、又は1:2であってもよい。
【0016】
深共晶溶媒は、セルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)を改質し得る。例えば、深共晶溶媒はセルロース系繊維を硫酸化し得る。理論に束縛されることを望むものではないが、深共晶溶媒は、イオン結合もしくは共有結合、錯体形成によって、又はその後深共晶溶媒で除去されるセルロース系繊維の成分の溶解によって、セルロース系繊維又はナノファイバーを改質し得る。
【0017】
一実施形態において、組成物は、深共晶溶媒を実質的に含まず、特に深共晶溶媒を含まない。組成物は、残留深共晶溶媒及びその構成成分を実質的に含まなくてもよい。「実質的にない」又は「実質的に含まない」という用語は、組成物中の深共晶溶媒(又はその構成成分)の量が深共晶溶媒(又はその構成成分)の毒性レベル未満であることを意味する。例えば、組成物は、2重量%未満の深共晶溶媒(又はその構成成分)、特に1.5重量%、1重量%、0.9重量%、0.8重量%、0.7重量%、0.6重量%、0.5重量%、0.4重量%、0.3重量%、0.2重量%、0.1重量%又は0.05重量%未満の深共晶溶媒(又はその構成成分)を含んでもよい。
【0018】
スルファミン酸を含む深共晶溶媒を用いて組成物が形成される(又はセルロース系繊維もしくはナノファイバーが処理される)場合、組成物中のスルファミン酸の量は、150mg/L、50mg/L、25mg/L、10mg/L、5mg/L、1mg/L、0.5mg/L、0.3mg/L、0.1mg/L、0.08mg/L、0.05mg/L、0.03mg/L又は0.01mg/L未満である。
【0019】
尿素を含む深共晶溶媒を用いて組成物が形成される(又はセルロース系繊維もしくはナノファイバーが処理される)場合、組成物中の尿素の量は、20mg/L、10mg/L、5mg/L、2.5mg、/L、1mg/L、0.8mg/L、0.5mg/L、0.3mg/L、0.1mg/L、0.08mg/L、0.05mg/L、0.03mg/L又は0.01mg/L未満である。
【0020】
有利なことに、本発明者らは、第1~第3の態様の組成物が有利なレオロジー特性、機械的完全性を有し、実施された実験から、安全に使用でき、生体適合性があり、経時的に徐々に身体によって分解又は吸収されると思われることを見出した。セルロース系繊維(又はナノファイバー)はまた、安全で豊富な植物源から得てもよい。組成物はまた、(ヒアルロン酸組成物に対する現在の慣行のように)30又は31ゲージの針を通して注射可能であり得る。最後に、組成物の注射が間違いであった場合、酵素が、その場でセルロースナノファイバーを急速に分解するために使用され得る。
【0021】
組成物は、医療用又は美容用の注射可能な組成物であってもよい。組成物は、医療処置の目的で、例えば状態、障害又は疾患を治療、予防又は改善するために人又は動物に注射するのに適し得る。組成物は、例えば皮膚充填剤として、美容処置の目的で人又は動物に注射するのに適し得る。一実施形態において、組成物は治療剤を含む。別の実施形態において、組成物は治療剤を含まない。一実施形態において、組成物は薬理学的に不活性である。
【0022】
セルロース系繊維(又はナノファイバー)は、漂白されたセルロース系繊維(又はナノファイバー)であってもよい。適切な漂白剤は当業者には知られているであろう。一実施形態において、漂白剤は、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩、特に亜塩素酸塩であってもよい。漂白剤は、亜塩素酸塩の酸性溶液などの酸性溶液中に存在してもよい。漂白剤は亜塩素酸ナトリウムであってもよい。セルロース系繊維(又はナノファイバー)は脱リグニンされてもよい。セルロース系繊維(又はナノファイバー)は、漂白され、脱リグニンされたセルロース系繊維(又はナノファイバー)であってもよい。いくつかの実施形態において、セルロース系繊維(又はナノファイバー)は、段落0024~0027に記載された1つ又は複数の植物の漂白及び/又は脱リグニンされた繊維である。
【0023】
第1~第3の態様の代替において、セルロース系繊維(又はナノファイバー)はセルロース系材料(又はナノセルロース系材料)で置き換えられてもよい。セルロース系材料(又はナノセルロース系材料)は、セルロース系繊維(又はナノファイバー)を含んでもよい(又はセルロース系繊維(又はナノファイバー)であってもよい)。セルロース系材料は、セルロース系粒子(又はナノ粒子)を含んでもよい(又はセルロース系粒子(又はナノ粒子)であってもよい)。したがって、代替的な態様において、本発明は、セルロース系材料(又はナノセルロース系材料)及び深共晶溶媒から形成される注射可能な組成物に関するものであってもよい。代替的な態様において、本発明は、深共晶溶媒処理したセルロース系材料を含む注射可能な組成物に関するものであってもよい。さらなる代替的な態様において、本発明は、セルロース系材料を含む注射可能な組成物に関するものであってもよい。
【0024】
セルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はセルロース系材料、又はナノセルロース系材料)は、トリオディナエ(Triodiinae)亜族の植物に由来してもよい。トリオディナエ(Triodiinae)亜族の植物は、トリオディア属、モノディア属、又はシンプレクトロディア属の植物、特にトリオディア属の植物であってもよい。セルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はセルロース系材料、又はナノセルロース系材料)は、耐乾性草種、又は乾燥した草種に由来してもよい。
【0025】
セルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はセルロース系材料、又はナノセルロース系材料)は、オーストラリア産スピニフェックス草に由来してもよい。スピニフェックス(「ヤマアラシ」及び「ハンモック」草としても知られる)は、トリオディア、モノディア及びシンプレクトロディアを含む3つの属のために長く確立された共通の名称である(オーストラリアの海岸砂丘系に限定される草属スピニフェックスと混同されるべきではない)。乾燥したオーストラリアにあるハンモック草原群落は、「トリオディア」属のスピニフェックス種が大部分を占めている。長寿命で根が深く、根の成長が地下数十メートルを貫通する約70種のトリオディアが記載されている。この種のうち、豊富な種は、T.プンゲンス、T.シンジイと呼ばれる2つの柔らかい種、及びT.バセドウイ、T.ロンギセプスと呼ばれる2つの硬い種である。T.プンゲンスは、ヘミセルロース含有量がリグノセルロース含有量の37%を構成するように、未洗浄の形態でおよそセルロース(37%)、ヘミセルロース(36%)、リグニン(25%)、灰分(4%)の組成を有することが見出されている。
【0026】
一実施形態において、セルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はセルロース系材料、又はナノセルロース系材料)は、C4葉の解剖学的構造を有する草種に由来する。C4葉の解剖学的構造を有する例示的な草には、前の段落で説明したオーストラリア産スピニフェックス草が含まれる。セルロースナノファイバーを形成するために使用され得るC4葉の解剖学的構造を有する他の草の例としては、ジギタリア・サングイナリス(L.)スコポリ、パニカム・コロラタム・L・var.マカリカリエンス・グーセンス、ブラキアラ・ブリザンタ(ヘキストExA.リッチ)シュタッフ、D.ビオラセンス・リンク、P.ディコトミフロラム・ミチョークス、B.デキユメンス・シュタッフ、エキノクロア・クルス-ガリ・P.ヴォーブ、P.ミリアシュウムL.、B.フミディコラ(レンドル)シュバイヒ、パスパラム・ジスティカムL.、B.ムチカ(フォルスク)シュタッフ、セタリア・グロウカ(L.)P.、シノドン・ダクチロン(L.)パースーン、パニカム・マクシマム・ジャック、S.ヴィリジス(L.)P.ヴォーブ、エレウシン・コラカナ(L.)ガートナー、ウロクロア・テキサナ(バックレイ)ウェブスター、ソルガム・サンダネンセ・シュタッフ、E.インディカ・(L.)ガートナー、ストジオポゴン・コツリファー(サンブ)ハッケル、エラグロスティス・シリアネンシス(アリオニ)ヴィグノロ-ルタニ、クロリス・ガヤナ・クンス、エラグノスティス・クルヴラ、レプトクロア・ドゥビア、マーレンバーギア・リグティ、E.フェルギニア(サンブ)P.ヴォーブ、スポロボラス・インディカスR.Br.var.プルプレオ-サフサス(オーウィ)T.コヤマ、アンドロポゴン・ガラルディ、レプトクロア・キネンシス(L.)ニース、ミスカンサス属草類(エレファント・グラス)、ロシアアザミを含むサルソラ属植物、稲わら、麦わら、トウモロコシ茎葉、及びゾイシア・テヌイフォリア・ウィルドが挙げられる。
【0027】
トリオディア草は乾燥した条件下で生育するため、本発明者らは、オーストラリア及び世界の他の地域で生育する他の乾燥地帯の草も本発明において使用され得ると考えている。オーストラリアで最も最も耐乾性の草属(最初の1又は2年のうちは水を必要とするが)としては、アニゴザントス、オーストロダンソニア、オーストロスティパ、バロスキオン・パレンス、バウメア・ジュンシア、ウキアガラ、キァピリペディウム、カレックス・ビケノヴィアナ、カレック・ゴウディショウディアナ、カレックス・アプレッサ、C.テレティコウリス、コウティス、ケントロレピス、チャボヒゲシバ、コリザンドラ、コノスティリス、オガルカヤ、カヤツリグサ、デスモクラドゥス・フレックスウオサ、シラゲオニササガヤ、ディチェラチュネ、カゼクサ、ユーリコルダ・コンプラナータ、エヴァンドラ・アリスタタ、フィシニア・ノドサ、ガーニア、ボタングラス、ヘマルスリア・ウンシナタ、ヒポレアナ、チガヤ、ジョンソニア、ジョイセア・パリド、イグサ、キンギア・オーストラリス、レピドスペルマ、アンペラ、レプトカルプス、ロマンドラ、ミーボルディナ、メソメラエナ、ニューラクネ・アルペクロイデア、ノトダンソニア、パターソニア、ポア、スピニフェックス、セメド・トリアンドラ、トレムリナ・トレムラ、シバナ、トリオディア及びザンソロエアが挙げられる。また本発明を使用することができる世界の他の地域で生育する乾燥地帯の草としては、アリスティダ・パレンス(ワイヤグラス)、アンドロポゴン(ビッグブルーステム)、ボウテロウア・エノポダ(ブラック・グラマ)、クロリス・ロックスブルギアーナ(ホーステールグラス)、メガルカヤ(レッド・グラス)、アメリカクサキビ(スイッチグラス)、ペニセツム・シリアリス(ブッフェルグラス)、スキザクリウム・スコパリウム(シザキリウム)、ソルガストラム・ヌタンス(インディアングラス)及びエスパルト(ニードルグラス)が挙げられる。
【0028】
セルロース及びリグニンとともに、ヘミセルロースは、セルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)を構成する様々な材料の主要な成分であると考えられている。理論に束縛されることを望むものではないが、ヘミセルロースは、セルロース系繊維(又はナノファイバー)が一次(基本)セルロースフィブリル(又はナノフィブリル)の束からなる場合に、繊維の表面上と、一次セルロースフィブリル(又はナノフィブリル)間との両方においてセルロース系繊維(又はナノファイバー)全体に分布している可能性が高いと考えられる。セルロースはより剛性の結晶性材料であるが、ヘミセルロースは非晶質であるため、より弱い機械的特性を有する。ヘミセルロースがセルロース系繊維(又はナノファイバー)の構造全体に分布している場合、理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、ヘミセルロースがナノセルロースの可撓性を高めるように作用し、おそらくセルロース系繊維間の可塑剤又は強化剤として作用し、個々のセルロース系繊維が相互にクリープして延伸できると考えている。このことにより、セルロース系繊維(又はナノファイバー)の剛性を低下させ得るが、セルロース系繊維(又はナノファイバー)の破壊靱性を潜在的に増加させることができる(実際、本発明者らが、本発明で使用するセルロース系繊維(又はナノファイバー)の適切な供給源の例である塩基処理したスピニフェックスを均質化し、これを他の針葉樹又は広葉樹パルプと比較すると、発明者らは、スピニフェックスがフィブリルの破壊なしにはるかに高い機械的エネルギーにさらされ得ることを発見したが、セルロース/ナノセルロースの靭性がはるかに高いことを示すと思われる)。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態において、(第1の態様の組成物が形成される)セルロース系繊維のヘミセルロース含有量は、第1の態様の組成物が形成されるセルロース系繊維のリグノセルロース成分の少なくとも20質量%又は30質量%である。好ましくは、ヘミセルロース含有量は、20~55%w/w、30%~55%w/w、30~50%w/w、36~48%w/w、40~48%w/wもしくは42~47%w/w、あるいは、20~30%w/w、30~40%w/wもしくは40~50%w/wを含む上記範囲内の任意の中間範囲である。これらの高いヘミセルロース含有量は、ヘミセルロースを自然に多く含む植物原料を使用すること及び後続の処理を使用して高いヘミセルロース含有量を保持するセルロース系繊維(又はナノファイバー)を製造すること、またはその代わりに、ヘミセルロース含有量がより低いセルロース系材料(又はナノセルロース系材料)を使用し、それを別個に製造されたヘミセルロース系材料と混合して、ヘミセルロース含有量の高いセルロース(又はナノセルロース)を提供する混合物を得ることを含むがこれらに限定されない任意の手段によって達成されてよい。
【0030】
本発明の第2及び第3の態様のいくつかの実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)のヘミセルロース含有量は、セルロース系繊維のリグノセルロース成分の20質量%未満である。一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)のヘミセルロース含有量は、セルロース系繊維のリグノセルロース成分の19質量%、18質量%、17質量%、16質量%、15質量%、14質量%、13質量%、12質量%、11質量%、10質量%、9質量%、8質量%、7質量%、6質量%、5質量%、4質量%、3質量%又は2質量%未満であり、特に10%w/w未満、6%w/w未満、5%w/w未満、又は4%w/w未満である。一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)のセルロース含有量は、セルロース系繊維のリグノセルロース成分の50質量%を超える。一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)のセルロース含有量は、セルロース系繊維のリグノセルロース成分の80質量%、75質量%、70質量%、65質量%、60質量%又は55質量%未満であり、特に65%又は55%未満である。一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)のリグニン含有量は、セルロース系繊維のリグノセルロース成分の20質量%未満である。一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー)のリグニン含有量は、セルロース系繊維のリグノセルロース成分の19質量%、18質量%、17質量%、16質量%、15質量%、14質量%、13質量%、12質量%、11質量%、10質量%、9質量%、8質量%、7質量%、6質量%、5質量%、4質量%、3%又は2質量%未満であり、特に5%未満又は3%未満である。深共晶溶媒処理により、セルロース系繊維中のリグノセルロース、セルロース、ヘミセルロース及び/又はリグニンの量を低減させ得る。
【0031】
いくつかの実施形態において、セルロース系繊維(又はセルロース系材料)は、20%又は30%又はそれ以上(w/w)のヘミセルロース含有量を有する植物材料に由来する。他の実施形態において、植物材料のヘミセルロース含有量は、20~55%w/w、30~55%w/w、30~50%w/w、36~48%w/w、40~48%w/wもしくは42~47%w/w、あるいは、20~30%w/w、30~40%w/wもしくは40~50%w/wを含む、上記範囲内の任意の中間範囲である。
【0032】
セルロースナノファイバーは、いかなる適切な寸法であってもよい。本明細書で使用される場合、「ナノファイバー」という用語は、繊維の長さが典型的には1000nm未満であることを意味する。繊維は幅よりも長い。一実施形態において、組成物はセルロースナノファイバーを含んでもよい。一実施形態において、ナノファイバーの長さは、約50nm~1,500nm、約50nm~1,400nm、約100nm~1,400nm、約200nm~1,300nm、約300nm~1,200nm、約400nm~1,100nm、又は約500nm~1,000nmである。一実施形態において、セルロースナノファイバーの幅又は直径は、0.5nm~20nm、1nm~15nm、1nm~10nm、1nm~6nm、2nm~5nm、又は約3nmである。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、セルロースナノファイバーが長くて薄くてもよく、これは組成物を依然として非常に柔軟でありながら強固にするのに役立つと有利に考えている。セルロースナノファイバーは、実質的に円筒形であってもよい。セルロースナノファイバーの長さ対幅比(アスペクト比)は、150:1~500:1、特に150:1~400:1であってもよい。スピニフェックス草は、報告された任意のバイオマスの中で最も高いセルロース系繊維の長さ対幅比を有する。セルロースナノファイバーの任意の所与のサンプルの繊維長及びアスペクト比の値は値の分布によって構成され、引用された値はサンプル中の異なる繊維の値の平均を近似的に表すことが理解されるであろう。
【0033】
セルロース系繊維(又はナノファイバー)は電荷を担持してもよい。セルロース系繊維は、正又は負の電荷、特に負の電荷を担持してもよい。
【0034】
一実施形態において、セルロース系繊維(又はナノファイバー)は架橋される。セルロース系繊維(又はナノファイバー)は、架橋剤によって架橋されてもよい。適切な架橋剤としては、エポキシド、アルケン、アルデヒド、イミド、アミン、カルボン酸及びアクリルアミドを含有する部分を含む化合物が挙げられ得る。架橋剤としては、エポキシド、アルケン、アルデヒド、イミド、アミン、カルボン酸、尿素及びアクリルアミドからなる群から選択される少なくとも2つの部分を含む化合物が挙げられ得る。一実施形態において、架橋剤はアミノ酸であってもよい。架橋剤は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジビニルスルホン、1,2,7,8-ジエポキシオクタン、ヘキサメチレンジアミン、グリシン、エピクロロヒドリン、尿素及びメチレンビスアクリルアミドからなる群から選択されてもよい。架橋剤は、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ジビニルスルホン、1,2,7,8-ジエポキシオクタン、グリシン又は尿素であってもよい。一実施形態において、セルロースナノファイバーは架橋されていないか、又は架橋剤で処理されていない。
【0035】
組成物は均質化又は機械的に微細化されてもよい。組成物は、少なくとも400バール、又は少なくとも500バール、600バール、700バール、800バール、900バールもしくは1,000バールの圧力で均質化されてもよい。組成物は、約1,100バールの圧力で均質化されてもよい。組成物は、例えば組成物を粉砕又は超音波処理することによって機械的に微細化されてもよい。組成物は、複数回、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10回均質化されてもよい。
【0036】
セルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はDESセルロース系繊維、又はDESセルロースナノファイバー)は、任意の適切な濃度で組成物中に存在してもよい。一実施形態において、組成物は、10%w/v未満のセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はDESセルロース系繊維又はDESセルロースナノファイバー)、特に9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%又は2%w/v未満のセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はDESセルロース系繊維、又はDESセルロースナノファイバー)を含んでもよい。組成物は、0.01%~5%w/vのセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はDESセルロース系繊維又はDESセルロースナノファイバー)、又は0.05%~4%w/v、0.1%~2%w/v、0.1%~1.5%w/v、もしくは0.1%~1%w/vのセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はDESセルロース系繊維又はDESセルロースナノファイバー)を含んでもよい。組成物は、0.2%、0.4%、0.6%、0.8%、0.88%又は1.0%w/vのセルロース系繊維(又はセルロースナノファイバー、又はDESセルロース系繊維、又はDESセルロースナノファイバー)を含んでもよい。
【0037】
組成物は、注射用の任意の適切な溶媒を含んでもよい。一実施形態において、溶媒は水性溶媒である。溶媒は生理食塩水、特に滅菌生理食塩水であってよい。溶媒は緩衝水溶液であってもよい。溶媒は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)であってもよい。緩衝水溶液は、組成物を生理学的pHに近くか、又は少なくとも約pH6.0~9.0の範囲内に維持するためのものであってもよい。
【0038】
組成物は、注射に適した任意のpHを有してもよい。一実施形態において、組成物のpHは4~9、特に5~8、又は5.4~7である。
【0039】
組成物は、注射に適した任意の形態であってもよい。組成物は、液体又はゲルの形態、特にゲルの形態であろう。組成物は、任意の適切な粘度を有してもよい。一実施形態において、組成物の複素粘度は、1rad/s及び25℃で10~10,000Pa・s、1rad/s及び25℃で50~5,000Pa・s、又は1rad/s及び25℃で100~1,000Pa・sである。組成物の損失弾性率は、1rad/s及び25℃で10~1,000Pa、1rad/s及び25℃で10~500Pa、又は1rad/s及び25℃で10~100Paであってもよい。
【0040】
組成物は、任意の適切な貯蔵弾性率(G’)を有してもよい。一実施形態において、組成物の貯蔵弾性率は、0.1~1000rad/s(もしくは0.1、1、10もしくは100rad/s)の周波数で10~10,000Pa、0.1~1000rad/s(もしくは0.1、1、10もしくは100rad/s)の周波数で50~5,000Pa、又は0.1~1000rad/s(もしくは0.1、1、10もしくは100rad/s)の周波数で100~1,000Paである。一実施形態において、組成物の貯蔵弾性率は、25℃で0.1~1,000rad/s(もしくは0.1、1、10もしくは100rad/s)の周波数で10~10,000Pa、25℃で0.1~1,000rad/s(もしくは0.1、1、10もしくは100rad/s)の周波数で50~5,000Pa、又は25℃で0.1~1,000rad/s(もしくは0.1、1、10もしくは100rad/s)の周波数で100~1,000Paである。
【0041】
一実施形態において、組成物はさらなる薬剤を含んでもよい。さらなる薬剤はレオロジー調整剤であってもよい。レオロジー調整剤は、例えば、ヒアルロン酸、又は架橋ヒアルロン酸であってもよい。組成物はまた、活性剤を含んでもよい。例えば、関節炎治療の場合、組成物はステロイドを含んでもよい。あるいは、組成物は血小板(又は多血小板血漿)を含んでもよい。これは、多血小板血漿療法にとって有利であり得る。
【0042】
組成物は単位用量形態で製剤化されてもよい。例えば、組成物は、アンプル、プレフィルドシリンジ、少量注入物又は多用量の容器に存在してもよい。そのような組成物には防腐剤が含まれてもよい。
【0043】
第4の態様において、本発明は、注射可能な組成物を調製する方法に関し、上記方法は、
(i)セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させて、深共晶溶媒処理されたセルロース系繊維を提供すること、
(ii)上記深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を洗浄すること、及び
(iii)上記洗浄された、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を均質化するか又は機械的に微細化して、上記注射可能な組成物を提供することを含む。
【0044】
一実施形態において、組成物はセルロースナノファイバーを含む。一実施形態において、ステップ(iii)は、セルロースナノファイバーを含む注射可能な組成物を提供する。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者らは、組成物の均質化又は機械的微細化により、得られる組成物全体に繊維を分散させる剪断力が生じ得、また、セルロース系繊維を断片化又はフィブリル化してセルロースナノファイバーを提供し得ると考えている。
【0045】
第4の態様の方法は、第1、第2又は第3の態様の組成物を生成し得る。
【0046】
第4の態様の一実施形態において、ステップ(i)で使用されるセルロース系繊維は漂白されたセルロース系繊維である。したがって、ステップ(i)の前に、この方法は、セルロース系繊維を漂白して漂白されたセルロース系繊維を提供するステップを含んでもよい。上記のように、適切な漂白剤は当業者には知られているであろう。一実施形態において、セルロース系繊維は、亜塩素酸塩又は次亜塩素酸塩、特に亜塩素酸塩又は亜塩素酸ナトリウムで漂白されてもよい。漂白剤は、1%w/v亜塩素酸ナトリウム水溶液であってもよい。セルロース系繊維は、任意の適切な濃度の漂白剤を用いて、任意の適切な温度及び任意の適切なpHで漂白されてもよい。セルロース系繊維対漂白剤の比は、10:1~100:1、特に20:1~40:1、又は約30:1であってもよい。セルロース系繊維は、40℃~90℃、50℃~90℃、60℃~80℃、又は約70℃で漂白されてもよい。漂白されたセルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させる前に、漂白されたセルロース系繊維は乾燥前に洗浄されてもよい。漂白されたセルロース系繊維は、50℃を超える温度で、水で洗浄されてもよい。漂白されたセルロース系繊維は、パルプのpHが6.5を超えるまで洗浄されてもよい。漂白されたセルロースナノファイバーは、40℃~90℃、50℃~90℃、60℃~80℃、又は約70℃で乾燥されてもよい。
【0047】
セルロース系繊維は、漂白前に脱リグニンされてもよい。したがって、漂白ステップで使用されるセルロース系繊維は、脱リグニンされたセルロース系繊維であってもよい。一実施形態において、この方法は、漂白前に、セルロース系繊維を脱リグニンするステップを含んでもよい。漂白は任意であり得るため、一実施形態において、ステップ(i)で使用されるセルロース系繊維は脱リグニンされたセルロース系繊維である。したがって、ステップ(i)の前に、この方法は、セルロース系繊維を脱リグニンして脱リグニンされたセルロース系繊維を提供するステップを含んでもよい。疑念を避けるために、セルロース系繊維を脱リグニンするステップは、セルロース系繊維中のリグニンの量が減少することを意味し、このステップの後、セルロース系繊維には依然としていくつかのリグニンが含まれ得る。脱リグニンステップは、塩基、特に水酸化物、より具体的には水酸化ナトリウムを用いて行われてもよい。水酸化ナトリウムは、2又は3%w/v水酸化ナトリウムであってもよい。脱リグニンは、任意の適切な濃度の脱リグニン剤(特に塩基)を用いて、任意の適切な温度で行われてもよい。セルロース系繊維対脱リグニン剤の比は、5:1~50:1、特に10:1~30:1、又は約20:1であってもよい。セルロース系繊維は、50℃~100℃、70℃~90℃、又は約80℃で漂白されてもよい。脱リグニンされたセルロース系繊維を漂白剤と接触させる前に、脱リグニンされたセルロース系繊維は洗浄されてもよい。脱リグニンされたセルロース系繊維は複数回、例えば少なくとも2回又は3回洗浄されてもよい。脱リグニンされたセルロース系繊維は、水性溶媒、特に水で洗浄されてもよい。水性溶媒は、任意の適切な温度、特に30℃~90℃、40℃~80℃、50℃~70℃、又は約60℃であってよい。
【0048】
セルロース系繊維は、脱リグニン前に溶媒中に懸濁されてもよい。したがって、脱リグニンステップで使用されるセルロース系繊維は、浸漬されたセルロース系繊維であってもよい。一実施形態において、脱リグニン前に、セルロース系繊維は溶媒中に懸濁されてもよい。溶媒は、水性溶媒、特に水、又は逆浸透水であってもよい。水性溶媒は、任意の適切な温度であってもよい。例えば、水性溶媒は、20℃~70℃、30℃~70℃、40℃~60℃、又は約50℃であってもよい。セルロース系繊維は、任意の適切な時間の長さ、例えば少なくとも5時間、少なくとも10時間、又は少なくとも12時間懸濁されてもよい。脱リグニン剤は、濾過せずに浸漬されたセルロース系繊維に添加されてもよい。
【0049】
セルロース系繊維は浸漬前に粉砕されてもよい。一実施形態において、この方法は、浸漬する前に、セルロース系繊維を粉砕して粉砕されたセルロース系繊維を提供するステップを含んでもよい。セルロース系繊維は、カッティングミルを使用して粉砕されてもよい。セルロース系繊維は、メッシュ、特に5mm未満のメッシュ、3mm未満のメッシュ、又は1mmのメッシュに通してもよい。
【0050】
セルロース系繊維は、粉砕する前にマルチングされてもよい。したがって、粉砕ステップで使用されるセルロース系繊維はマルチングされたセルロース系繊維であってもよい。したがって、この方法は、粉砕する前に、セルロース系繊維をマルチングしてマルチングされたセルロース系繊維を提供するステップを含んでもよい。マルチング後に、マルチングされたセルロース系繊維は、洗浄されてもよい。マルチングされたセルロース系繊維は複数回、例えば少なくとも2回又は3回洗浄されてもよい。洗浄は水性溶媒、特に水で行われてもよい。水性溶媒は、50℃~100℃、70℃~90℃、又は約80℃の温度であってもよい。マルチングされ、洗浄されたセルロース系繊維は粉砕する前に乾燥されてもよい。
【0051】
したがって、一実施形態において、この方法は、
(i)セルロース系繊維を脱リグニンすること、
(ii)上記脱リグニンされたセルロース系繊維を任意に漂白すること、
(iii)ステップ(i)又はステップ(ii)の上記セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させて深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を提供すること、
(iv)上記深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を洗浄すること、及び
(v)上記洗浄された、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を均質化又は機械的に微細化して、上記注射可能な組成物を提供するステップと、を含んでもよい。
【0052】
さらなる実施形態において、この方法は、
(i)セルロース系繊維をマルチングしてマルチングされたセルロース系繊維を提供すること、
(ii)上記マルチングされたセルロース系繊維を粉砕して粉砕されたセルロース系繊維を提供すること、
(iii)上記粉砕されたセルロース系繊維を溶媒に懸濁して浸漬したセルロース系繊維を提供すること、
(iv)上記浸漬したセルロース系繊維を脱リグニンして脱リグニンされたセルロース系繊維を提供すること、
(v)上記脱リグニンされたセルロース系繊維を任意に漂白して漂白されたセルロース系繊維を提供すること、
(vi)ステップ(iv)又はステップ(v)の上記セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させて深共晶溶媒処理されたセルロース系繊維を提供すること、
(vii)上記深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を洗浄すること、及び
(viii)上記洗浄された、深共晶溶媒で処理されたセルロース系繊維を均質化又は機械的に微細化して、上記注射可能な組成物を提供すること、を含んでもよい。
【0053】
セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させるステップで使用される深共晶溶媒は上記の通りであってもよい。このステップは、深共晶溶媒を形成するステップを含んでもよい。深共晶溶媒は、ルイス酸及びルイス塩基を加熱することによって形成されてもよい。加熱は、50℃~100℃、70℃~90℃、又は約80℃の温度であってもよい。セルロース系繊維の深共晶溶に対するモル比は、1:2~1:50、1:2~1:40、1:2~1:30、1:5~1:20又は約1:10であってもよい。セルロース系繊維を深共晶溶媒と接触させるステップは、100℃~250℃、100℃~200℃、120℃~180℃、130℃~170℃、140℃~160℃、又は約150℃などの任意の適切な温度で行われてもよい。接触ステップは、任意の適切な時間の長さ、例えば10分~2時間、特に約30分間で行われてもよい。
【0054】
深共晶溶媒処理したセルロース系繊維を洗浄するステップは、任意の適切な回数行われてもよい。一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維は、少なくとも2、3、4、5、6、7又は8回洗浄される。洗浄は、水性溶媒、特に水、より具体的には精製水で行われてもよい。洗浄は、水性溶媒を用いて任意の適切な温度で行われてもよい。例えば、溶媒は氷点(0℃)から沸騰(100℃)までであってもよい。一実施形態において、洗浄は、溶媒を用いて少なくとも2つの異なる温度で行われる。洗浄は、第1の溶媒を用いて50℃~100℃、特に70℃~100℃、80℃~100℃、又は90℃~100℃で行われてもよい。洗浄は、第2の溶媒を用いて0℃~50℃、0℃~30℃、0℃~20℃、又は0℃~10℃で行われてもよい。洗浄は、第1の溶媒を用いて少なくとも1回、2回、3回又は4回行われてもよい。洗浄は、第2の溶媒を用いて少なくとも1回、2回、3回又は4回行われてもよい。
【0055】
洗浄ステップは、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維の溶媒を交換するステップを含んでもよい。溶媒は、生理食塩水(特に滅菌生理食塩水)、又は緩衝水溶液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)など)と交換されてもよい。
【0056】
この方法は、洗浄された深共晶溶媒処理したセルロース系繊維(又は溶媒交換された繊維)を所望の濃度に希釈するステップを含んでもよい。所望の濃度は、10%w/v未満の深共晶溶媒処理したセルロース系繊維、特に9%w/v、8%w/v、7%w/v、6%w/v、5%w/v、4%w/v、3%w/v又は2%w/v未満の深共晶溶媒処理したセルロース系繊維であってもよい。所望の濃度は、0.01%~5%w/vの深共晶溶媒処理したセルロース系繊維、又は0.05%~4%w/v、0.1%~2%w/v、0.1%~1.5%w/v、0.1%~1%w/vの深共晶溶媒処理したセルロース系繊維であってもよい。所望の濃度は、0.2%w/v、0.4%w/v、0.6%w/v、0.8%w/v、0.88%w/v又は1.0%w/vの深共晶溶媒処理したセルロース系繊維であってもよい。
【0057】
一実施形態において、深共晶溶媒処理したセルロース系繊維は、均質化又は機械的微細化の前に酸で洗浄されてもよい。酸洗浄は穏やかな酸洗浄であってよい。酸は、例えば、硫酸又はリン酸であってもよい。
【0058】
洗浄された深共晶溶媒処理したセルロース系繊維を均質化するステップは、任意の適切な圧力であってもよいが、特に高圧であってもよい。圧力は、少なくとも400バール、又は少なくとも500バール、600バール、700バール、800バール、900バールもしくは1,000バールであってもよい。圧力は約1,100バールであってもよい。洗浄された深共晶溶媒処理したセルロース系繊維を機械的に微細化するステップは、洗浄された深共晶溶媒処理したセルロース系繊維を粉砕又は超音波処理することであってもよく、又はそれを含んでもよい。
【0059】
本発明の第4の態様の特徴は、第1、第2、又は第3の態様について説明した通りであってもよい。
【0060】
第5の態様において、本発明は、第4の態様の方法によって調製された注射可能な組成物を提供する。
【0061】
第6の態様において、本発明は、皮膚充填剤としての、又は関節炎の症状を治療、予防もしくは改善するための、又は多血小板血漿療法における、本発明の第1、第2、第3又は第5の態様の組成物の使用に関する。一実施形態において、関節炎は変形性関節症である。
【0062】
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」(又は「治療すること(treating)」)及び「予防(prevention)」(又は「予防すること(preventing)」)という用語は、それらの最も広い文脈で考慮されるべきである。例えば、「治療」という用語は、必ずしも患者が完全に回復するまで治療されることを意味するものではない。「治療」という用語には、疾患、障害又は状態の症状の改善、又は疾患、障害又は状態の重症度の軽減が含まれる。同様に、「予防」は、必ず対象が決して疾患、障害又は状態に罹らないことを意味するものではない。「予防」は、疾患、障害もしくは状態の発症の可能性を低減すること、又は疾患、障害もしくは状態を発症するリスクを予防するか、さもなければ低減することと見なされる場合がある。
【0063】
本明細書で使用される場合、「対象」又は「個体」又は「患者」という用語は、療法が望まれる任意の対象、特に脊椎動物対象、さらにより具体的には哺乳動物対象を指し得る。適切な脊椎動物としては、霊長類、鳥類、家畜動物(例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ロバ、ブタ)、実験室試験動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、コンパニオン動物(例えば、ネコ、イヌ)及び捕獲野生動物(例えば、キツネ、シカ、ジンゴ)が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい対象はヒトである。
【0064】
第7の態様において、本発明は、対象における関節炎の症状を治療、予防又は改善する方法であって、本発明の第1、第2、第3又は第5の態様の組成物を対象に注射することを含む方法に関する。関節炎は変形性関節症であってもよい。一実施形態において、組成物は対象の関節に注射される。
【0065】
第8の態様において、本発明は、対象における関節炎の症状を治療、予防又は改善するための、注射によって投与される第1、第2、第3又は第5の態様の組成物の製造におけるセルロース系繊維(又はナノファイバー)の使用を提供する。関節炎は変形性関節症であってもよい。一実施形態において、組成物は、対象の関節への注射用に製剤化される。
【0066】
第9の態様において、本発明は、対象における関節炎の症状の治療、予防又は改善に使用されるための、注射によって投与される、本発明の第1、第2、第3又は第5の態様の組成物を提供する。関節炎は変形性関節症であってもよい。一実施形態において、組成物は、対象の関節に注射するための組成物である。
【0067】
第10の態様において、本発明は、対象の皮膚内又は皮膚下のボリュームを増加させる方法であって、本発明の第1、第2、第3又は第5の態様の組成物を対象の皮膚内又は皮膚下に注射することを含む方法に関する。
【0068】
組成物は、任意の適切な方法で注射されてもよい。例えば、組成物は、皮下、皮内又は筋肉内、特に皮下又は皮内に注射されてもよい。組成物は、対象の顔又は胸部に注射されてもよい。組成物は、対象の唇、胸部又は頬のボリュームを増加させるために注射されてもよい。この方法は、対象に美容整形手術を提供してもよい。この方法は、ほうれい線又は口周りのしわの外観を改善してもよい。この方法は、対象の皮膚のしわの外観を改善してもよい。
【0069】
第11の態様において、本発明は、対象の皮膚内又は皮膚下のボリュームを増加させるための、本発明の第1、第2、第3又は第5の態様の組成物の使用に関する。本発明の第11の態様の特徴は、本発明の第10の態様で説明した通りであってもよい。
【0070】
第12の態様において、本発明は、対象の治癒を促進する方法であって、多血小板血漿療法において本発明の第1、第2、第3又は第5の態様の組成物を投与することを含む方法に関する。
【0071】
第13の態様において、本発明は、対象の損傷を治療するための、多血小板血漿療法用の本発明の第1、第2、第3又は第5の態様の組成物の製造におけるセルロース系繊維(又はナノファイバー)の使用に関する。
【0072】
本発明の第6~第13の態様の実施形態において、組成物は有効量で投与されてもよい。本明細書で使用される場合、「有効量」とは、所望の応答を少なくとも部分的に達成するか、又は所望の効果を達成するのに十分な量の組成物の投与を指す。「有効量」は、日常的な試行を通じて決定できる広い範囲内にあると予想される。投与量などの決定は、患者のケアを担当する医師又は獣医師の技術の範囲内である。
【0073】
本発明の第6、第12及び第13の態様の実施形態は、多血小板血漿療法に関する。これらの実施形態において、投与される組成物は、血小板、特に多血小板血漿を含むであろう。多血小板血漿は注射によって投与される。そのような療法は、創傷治癒や損傷(特に腱及び/又は靱帯)の治療に役立ち得る。
【0074】
本発明の第6~第13の態様の特徴は、本発明の第1~第5の態様について説明した通りであってもよい。
【0075】
別途定義されない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語の全ては、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0076】
本明細書全体にわたる「一実施形態」、又は「実施形態」への言及は、実施形態に関連して説明される特定の特徴、構造又は特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書全体にわたる様々な場所における「一実施形態において」又は「実施形態において」という語句の出現は、必ずしもすべてが同じ実施形態に言及しているわけではない。更に、特定の特徴、構造、又は特性は、1つ以上の組み合わせで任意の適切な方法で組み合わせられてもよい。
【0077】
本明細書及び特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という用語、並びに「含む(comprises)」と「含む(comprise)」を含むその派生語は、述べられた要素のそれぞれを含むが、1つ以上のさらなる要素の包含を除外するものではない。
【0078】
本明細書で説明される特徴のいずれも、本発明の範囲内で、本明細書で説明される他の特徴のいずれか1つ以上と任意の組み合わせで組み合わせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0079】
以下、本発明の実施例を、以下で説明する添付の図面を参照しながら例示的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【
図2A】ゲルが滅菌生理食塩水で調製された、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。複素弾性率がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである。
【
図2B】ゲルが滅菌生理食塩水で調製された、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。複素粘度がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図3A】ゲルがリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で調製された、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。複素弾性率がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)、このレオロジーを市販の皮膚充填剤の公開されたレオロジーと比較して示す。
【
図3B】ゲルがリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で調製された、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。複素粘度がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。このレオロジーを市販の皮膚充填剤の公開されたレオロジーと比較して示す。
【
図4A】Restylane(商標)市販の皮膚充填剤サンプルと比較した、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。貯蔵弾性率及び損失弾性率がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図4B】Restylane(商標)市販の皮膚充填剤サンプルと比較した、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。複素粘度がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図5A】市販の皮膚充填剤であるJuvederm(商標)のサンプル比較した、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。貯蔵弾性率及び損失弾性率がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである。
【
図5B】市販の皮膚充填剤であるJuvederm(商標)のサンプルと比較した、本発明による組成物のレオロジーを示すグラフである。複素粘度がサンプルの周波数に対してどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図6A】本発明による組成物の注射可能性に関するグラフである。本発明の様々な組成物を変位させるのに必要な力を示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図6B】本発明による組成物の注射可能性に関するグラフである30及び31ゲージの針を用いた組成物の滑り力を示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図7】市販の皮膚充填剤サンプルと比較した、本発明による組成物(0.88%w/vDES CNF)を注射するのに必要な力を示すグラフ(全体図及び拡大図)である(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図8】本発明によるゲル(0.8%w/vDES CNF)のレオロジーが4℃で最長90日間保存した場合に経時的にどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図9】本発明による組成物(0.8%w/vDES CNF)のレオロジーが23℃で最長90日間保存した場合に経時的にどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図10】本発明による組成物(0.8%w/vDES CNF)のレオロジーが55℃で最長90日間保存した場合に経時的にどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図11】本発明による組成物(0.8%w/vDES CNF)のレオロジーが5%CO
2において37℃で最長90日間保存した場合に経時的にどのように変化するかを示すグラフである(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図12A】市販の皮膚充填剤サンプルと比較して、本発明による組成物のレオロジー(0.1Hzで)が55℃で保存した場合に60日間にわたってどのように変化するかを示すグラフである。貯蔵弾性率を示す(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図12B】市販の皮膚充填剤サンプルと比較して、本発明による組成物のレオロジー(0.1Hzで)が55℃で保存した場合に60日間にわたってどのように変化するかを示すグラフである。この期間にわたる損失弾性率を示す(下側グラフは上側グラフの白黒バージョンである)。
【
図13】均質化された深共晶溶媒処理されたセルロースナノファイバーの凍結乾燥サンプルの透過型電子顕微鏡画像である。
【実施例】
【0081】
本発明の好ましい特徴、実施形態及び変形が、当業者が本発明を実施するのに十分な情報を提供する以下の実施例から識別され得る。以下の実施例は、決して、前述の発明の概要の範囲を限定するものと見なされるべきではない。
【0082】
実施例1:セルロースナノファイバーの調製
スピニフェックス草(トリオディア・プンゲンス)をオーストラリアのクイーンズランド州のカムウィールから収集した。
【0083】
草を事前に選別し、葉を選択し、木質の茎から切り取った。この事前に選別された材料は「先端」と呼ばれる。次いで、先端をマルチングし、80℃、1時間にわたって水で6回洗浄し、風乾し、1mmのメッシュを有するRetschカッティングミルを用いて微粉末に粉砕した。
【0084】
粉砕された洗浄した草を、50℃の逆浸透(RO)水に一晩浸漬し(水対草との比は20:1)、その後、80℃で3%(w/v)水酸化ナトリウムで2時間処理した。得られたパルプを熱水(60℃)で3回洗浄して溶解した材料を除去した。このステップにより、セルロースナノファイバーを脱リグニンする。
【0085】
次いで、アルカリパルプを、1%(w/v)亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いて70℃で1時間、pH4で溶媒対草の比30:1で(氷酢酸を添加して)2回漂白した。この後、混合物を篩に注入し、沸騰脱イオン水を篩内のパルプの上にゆっくりと注入し、パルプをひっくり返して均一に洗浄した。これに続いて、55℃の水を篩内のパルプ上に注入した。続いて、パルプをビーカーに移し、水を加え、記載のように漂白プロセスを繰り返した。漂白されたパルプを前述のように洗浄した後、パルプをさらに熱水(55℃)及び沸騰脱イオン水で洗浄した。パルプのpHが6.5より大きいことを確認したら、パルプを篩から移し、対流式オーブン内で、70℃で18時間乾燥した。
【0086】
深共晶溶媒(DES)処理(スルファミン酸:尿素のモル比1:3)の成分を、透明な溶液が得られるまで(約2時間)80℃の油浴上で一緒に混合した。乾燥した漂白されたセルロースパルプ(セルロース:スルファミン酸のモル比1:10)をDESに浸漬した。続いて、油浴の温度を150℃に上昇させ、反応を30分間進行させた。過剰の水を加えることによって反応を停止させた後、集中的に遠心分離し、洗浄した(沸騰したMilliQ(商標)精製水で4サイクル、および低温MilliQ(商標)精製水で4サイクル)。(a)目視観察(色、濁り)、並びに(b)尿素、スルファミン酸、及び任意の他の潜在的な副生成物(そのようなグルコース及びそのスルファミン酸と尿素のグルコース誘導体、並びに尿素及びN-置換尿素のスルファミン酸誘導体、ただし、これらは1:3のスルファミン酸:尿素比で非常に可能性が低いと予想された)の残留レベルを検出するために必要な場合、HPLC-MS分析(尿素)とLC-MS(スルファミン酸)のために、各洗浄ステップ後に遠心分離したゲルバッチから上清の少量のアリコートを収集した。
【0087】
洗浄されたDES処理したセルロース系繊維を遠心分離し、低温リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈し(代わりに滅菌生理食塩水を使用してもよいが)、洗浄及び遠心分離の4サイクルでセルロースを洗浄した。(a)目視観察(色、濁り)並びに(b)上記のように、尿素及びスルファミン酸の残留レベルを検出するために、分析のために、各洗浄ステップの後に遠心分離したゲルバッチから上清の少量のアリコートを収集した。
【0088】
PBS中の洗浄したセルロースをMilliQ(商標)精製水で1重量%の濃度、又はPBS(又は滅菌生理食塩水)で2重量%の濃度に希釈した後、高圧ホモジナイザー(GEA、PandaPlus2000)に数回、400バールで1回通し、700バールで1回通し、1,100バールで3回通した。
【0089】
上で概説したように、洗浄上清中のスルファミン酸の残留レベルをLC-MSによって評価し、尿素の残留レベルをHPLC-MS(Invitrogen尿素アッセイ)によって評価した。結果を表1及び2に提供する。表2について、PBS対照中の尿素濃度は検出下限を下回った。更に、約7~20mg/dLの尿素は、ヒト血液において正常であると考えられる。
【0090】
【0091】
【0092】
上記で調製したDESセルロースナノファイバー(CNF)ゲルの単一バッチから、レオロジー及び注射可能性試験のために一連の希釈液を調製した。ゲルを、0.88%、0.8%、0.7%、0.6%、0.4%(w/v)を含む濃度のDES CNFを用いて調製した。
【0093】
また、DES CNFゲルをPBSではなく生理食塩水溶液で調製した。これらのゲルを調製する手順は、最終的な遠心分離及び洗浄を生理食塩水溶液(0.9重量%のNaCl)で行った(低温生理食塩水で4サイクル)ことを除いて、上で概説したものと同じであった。(a)目視観察(色、濁り)並びに(b)尿素及びスルファミン酸の残留レベルを検出するために、上記のように、分析のために、各洗浄ステップの後に遠心分離したゲルバッチから上清の少量のアリコートを収集した。更に、DESセルロースを生理食塩水中で1.5重量%の濃度に希釈した後、高圧ホモジナイザー(GEA、PandaPlus2000)に数回、400バールで1回通し、700バールで1回通し、1,100バールで3回通した。ゲルを、1.1%、1%、0.9%、0.8%及び0.7%(w/v)を含む濃度でDES CNFを用いて調製した。MilliQ(商標)水中の均質化された深共晶溶媒処理したセルロースナノファイバーの透過型電子顕微鏡画像を
図13に提供する。
【0094】
高温MilliQ(商標)水(4回)及び低温MilliQ(商標)水(4回)での洗浄を完了した後、調製したゲル中のCNFの乾燥質量をメトラー・トレドの水分含有量アナライザー(HX204水分アナライザー)によって測定した。溶媒をPBS緩衝液と交換した後の塩の量を計算するために、CNF+PBS塩の乾燥質量もメトラー・トレドの水分含有量アナライザーによって測定した。
【0095】
CNF対(例えば、PBSからの)塩の比を乾燥ゲルの熱重量分析(TGA)によって決定した。これは、その後のレオロジー及び注射可能性の測定のために、真の正確なスピニフェックスCNF含有量(w/v%)に関してゲル製剤を正確に正規化することも可能にするものであった。
【0096】
上記のステップは、適用可能な場合、高純度試薬を用いて行われた。
【0097】
非常に類似したプロセスを
図1に示す。
図1において、粉砕及び洗浄されたセルロースナノファイバーが2で示され、これらは4で脱リグニンされる。ナノファイバーを6で漂白し、次に8で乾燥し、その後、10で深共晶溶媒と接触させる。深共晶溶媒と複合化したセルロースナノファイバーを12で洗浄した後、14で均質化して注射可能な組成物16を提供した。洗浄ステップ12は、溶媒交換ステップ13を含んでもよい。
【0098】
実施例2:品質管理評価
残留金属汚染物質については、サンプルを、処理の各ステップ後に誘導結合プラズマー発光分光分析(ICP-OES)に送った。結果を下記の表3に提供する。
【0099】
【0100】
DES処理前のパルプ及びDES処理後のパルプのX線光電子分光法(XPS)表面分析により、N及びSがDES処理後にのみ存在することが示された。これはDES硫酸化を示す。
【0101】
実施例3:DESゲル及び市販の皮膚充填剤のレオロジー
前述の実験で調製したゲルをそれらのレオロジー特性について試験し、結果を、ヒアルロン酸(HA)皮膚充填剤であるRestylane(商標)、Restylane(商標)LIPP、Restylane(商標)SubQ及びJuvederm(商標)24HVについての公開された結果(Falcone,S.J.and R.ABerg、Crosslinked hyaluronic acid dermal fillers:A comparison of rheological properties.Journal of Biomedical Materials Research Part A、2008.87A(1):p.264-271)と比較した。結果を
図2及び3に示す。
図2及び3において、BL DESは、実施例1に従って調製されたゲルを表す。BL DESゲルは、滅菌生理食塩水で調製されたゲルである(
図2)。BL DES PBSゲルは、PBSで調製されたゲルである(
図3)。
【0102】
図4及び5は、実際の市販の皮膚充填剤サンプルと比較した、実施例1に従って調製されたゲルのレオロジーを示す。市販の皮膚充填剤サンプルには、
図4A及び4B-Restylane(商標)及びRestylane(商標)LYPS(20mg/mLのヒアルロン酸及びリドカインを含むゲル)、
図5A及び5B-Juvederm(商標)Volift(17.5mg/mLのヒアルロン酸及びリドカインを含むゲル)及びJuvederm(商標)Ultra XC(24mg/mLのヒアルロン酸及びリドカインを含むゲル)が含まれる。
図4及び5の比較により、
図1のゲルのCNFは6~10mg/mLである。
【0103】
図2~5において、動的レオロジー測定が、円錐及びプレートの幾何学的形状(直径40mm)を備えたTAインスツルメントレオメーター(AR1500)で行われた。全ての測定は25℃で実行された。動的測定が、0.1~100Hzの周波数範囲にわたって行われた。実験は3回実施された。
【0104】
実施例4:DESゲル及び市販の皮膚充填剤の注射可能性
30Gの針を通してゲルを押すのに必要な注射力の測定は、500Nのロードセルを有するInstron機械試験機で、圧縮モードで実行された。1mLのゲル製剤(気泡なし)を充填し、30G又は31Gの針を取り付けた1mLのシリンジをホルダー内に下向きに配置した。針のプランジャー端をロードセルアセンブリに接触させて配置した。試験は、患者への手動シリンジ送達の代表である1mm/sのクロスヘッド速度で行われた。プランジャーを変位させるのに必要な荷重力を変位の関数として測定した。以下のパラメータを決定した:
-初期滑り力/プランジャーゆるみ力:プランジャーの動きを開始するために必要な力、
-最大力:プランジャーがその過程を終了する前に測定された最大の力、
-動的滑り力:プランジャーの動きを維持してシリンジの内容物を排出するために必要な力。
【0105】
力の値を円筒形プランジャーの断面積によって正規化した。実験は3回実施された。
【0106】
結果を
図6A及び6Bに示す。
図6Aは、実施例1の様々なゲルを変位させるのに必要な力を示す。
図6Bは、30及び31ゲージの針を使用したDESゲル(生理食塩水中)の滑り力を示す。
図6Bに示すように、30及び31ゲージの針に必要な力は非常に類似している。
【0107】
Restylane(商標)、Restylane(商標)LYPS、Juvederm(商標)Ultra XC及びJuvederm(商標)Voliftと比較すると、実施例1の0.88%w/vDES CNFゲルを注射するのに必要な力は有意により小さい。これを
図7に示す。Restylaneには、約250ミクロンの架橋ヒアルロン酸の粒子が含まれる。実施例1のゲルは、約500~1,000nmの長さ×約3nmの幅のロッドを含む。
【0108】
実施例5:細胞増殖/細胞毒性分析
MilliQ(商標)精製水で洗浄したゲル(PBSなし)を調製し、滅菌容器に2つの出発濃度(0.8%及び0.4%(w/v))で供給した。細胞毒性アッセイのために、線維芽細胞(3T3)細胞株をDMEMにおいて96ウェルプレートに2.5~5×103細胞/ウェルで接種した。CNFゲルを以下のように希釈し、マイクロ波処理(沸騰直前まで60%電力で5秒間)により滅菌した。
【0109】
最終ゲル濃度0.5%(最終体積3.2mL)には以下が含まれた:
-0.8%ゲル溶液-2.0mL
-10×ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)-0.32mL
-ウシ胎児血清(FCS)-0.32mL
-蒸留水(DW)-1.2mL
【0110】
最終ゲル濃度0.1%の場合(最終体積4.0mL)
-0.4%ゲル溶液 1.0mL
-10回×DMEM 0.4 mL
-FCS 0.4mL
-DW 2.2mL
【0111】
プレート1-細胞増殖がMTTアッセイによって測定された。0%(培地のみ)、0.1%及び0.5%のゲルをウェルに加え、24時間又は48時間インキュベートした。0.01mLのMTT試薬(Sigma Aldrich)を8時間加えた後、SDS試薬を37℃(5%CO2)で一晩加えた。ホルマザン生成物の吸光度をTecanプレートリーダーで(570nmで、メーカーの指示に従って)読み取った。
【0112】
プレート2-3T3細胞を、DMEM+10%FCSで、約5×103細胞/ウェルで黒色の透明な底の96ウェルプレートに接種した。セルロースゲル(又は培地対照)をウェルに加えた。培地を除去し、フェノールレッドを含まないOptimem培地で1回洗浄し、OptimemにPI/Hoechst33342色素1/1000を1時間加えた後、Tecanプレートリーダーで蛍光を読み取った。
【0113】
プレート3-CNFゲル(0.5%、0.1%)を96ウェルプレートのウェルに加え(0.1mL/ウェル)、一晩放置した。3T3細胞をこの時点でCNFゲル及び空のウェル組織培養プラスチックの上に接種し(DMEM+10%FCSで約5×103細胞/ウェル)、5日間インキュベートした後、2つの倍率(×10、×20)で光学顕微鏡検査した。
【0114】
試験により、実施例1のセルロースゲルは細胞を死滅させず、その細胞はゲル上で増殖しないことが示された。細胞はセルロースゲルの存在下でその非存在下と同じように増殖しなかったが、セルロースゲルの存在下で増殖した細胞は生存可能であった。
【0115】
実施例6:DESゲル及び市販の皮膚充填剤のゲル老化
試験条件が、MilliQ(商標)精製水及びPBSゲル調製物の両方のインビトロ安定性を評価するために設定された。20mLのガラスバイアルに約15mLのDES CNFゲルサンプルを充填し、バイアルをそれらの蓋で密封した。各DES CNFサンプルについて、各温度条件に対して7つのガラスバイアルを準備した(時点ごとに1つのガラスバイアルと、目視検査のために2つの追加のガラスバイアルとを使用した)。サンプルを、4℃の冷蔵庫、23℃の実験室のベンチ、又は55℃に設定されたオーブンのいずれかで所要の期間保存した。保存期間試験が、(a)MilliQ(商標)精製水中のDES CNF0.8%(w/v)、及び(b)PBS中のDES CNF1%(w/v)を用いて実施され、4℃(即ち、冷蔵保存期間)、23℃(即ち、室温保存期間)、55℃(即ち、加速保存期間)で、サンプルは0日目、7、14、30、60、90日目に採取された。50℃で7.5週間にわたる試験、又は60℃で3.7週間にわたる試験は、プラスチックの約1年に相当する(General Aging Theory and Simplified Protocol for Accelerated Aging of Medical Devices,Karl J.Hemmerich,July 1,1998,Testing)。レオロジー測定を
図8~10に提供する。
図8は4℃、
図9は23℃、
図10は55℃での老化結果を提供する。
図8~10は、MilliQ(商標)精製水中のDES CNF0.8%(w/v)に関するものである。同様の結果がPBS中のDES CNF1%(w/v)について得られた。
図8~10において、D0は0日目、D7は7日目、D14は14日目などである。
【0116】
更に、保存期間試験が、(a)MilliQ(商標)精製水中のDES CNF0.8%(w/v)、及び(b)PBS中のDES CNF1%(w/v)を用いて37℃(すなわち生物学的安定性)、5%CO
2雰囲気下で、実施され、サンプルが0日目、7、14、30、60、90日目に採取された。この実験において、20mLのガラスバイアルに約15mLのDES CNFゲルサンプルを充填し、各蓋を緩く閉めた(即ち、4分の1回転)。各DES CNFサンプルについて、各温度条件に対して7つのガラスバイアルを準備した(時点ごとに1つのガラスバイアルと、目視検査のために2つの追加のガラスバイアルとを使用した)。次に、サンプルを5%CO
2雰囲気下、37℃のインキュベーターで所要の期間保存した。インキュベーターの底にある水皿を週毎にチェックし、必要に応じて水を補充した。
図11は、MilliQ(商標)精製水中のDES CNF0.8%(w/v)の老化結果を提供する。同様の結果がPBS中のDES CNF1%(w/v)について得られた。
【0117】
これらの実験の過程において、サンプルが乾燥していないことが確認された(即ち、必要に応じてサンプルに液体が補充された)。
【0118】
その結果を、Restylane(商標)、Restylane(商標)LYPS、Juvederm(商標)Volift、Juvederm(商標)Ultra XCを含む市販の皮膚充填剤の結果と比較した。結果を
図12A及び12Bに提供する(55℃での老化、0.1HzでのG’又はG”)。
【0119】
また、DES CNFサンプルの注射可能性を、(a)MilliQ(商標)精製水中のDES CNF0.8%(w/v)、及び(b)PBS中のDES CNF1%(w/v)について評価した。滑り力(N)を、サンプルを4℃、23℃、37℃、5%CO2下、及び55℃で保存した0、7、14、30、60及び90日目のサンプルについて評価した。DES CNF0.8%(w/v)の場合、0日目の滑り力は約4.7Nであり、90日間にわたって約5.7N~6.7Nの滑り力まで増加した。PBS中のDES CNF1%(w/v)の場合、0日目の滑り力は約1.6Nであり、90日間にわたって約2.5N~3.2Nの滑り力まで増加した。
【0120】
実施例7:可逆性試験
T.リーゼイ由来のセルラーゼ(Sigma、≧700単位/g)を様々な濃度(0.1重量%、0.5重量%、1重量%及び2重量%)でPBSに溶解し、37℃でインキュベートしたDES CNF1%(w/v)に加えた。目視観察をインキュベーション期間にわたって行った。
【0121】
セルロース活性は、DNS(ジニトロサリチル酸)アッセイを用いて異なるインキュベーション時間で遊離カルボニル基(C=O)(還元糖)の存在を評価することによって評価された(Miller(1959)Use of dinitrosalicylic acid reagent for determination of reducing sugar.Analytical Chemistry,31,3p.426-428)。レオロジーを、酵素的に分解されたDESゲルに対して、異なるインキュベーション時間で実行した。結果を以下の表4に提供する。時間又はセルラーゼの濃度が増加するにつれて、セルロースが分解する速度が増加する。
【0122】
【0123】
同様に、サンプルの貯蔵弾性率(G’)及び損失弾性率(G”)はセルラーゼに曝露すると減少し、セルラーゼ濃度の影響を受ける。例えば、1mLの2%セルラーゼを37℃で1時間加えた後、G’はほぼ10倍減少した。
【0124】
実施例8:動物試験
C57BI/6マウスに、DES CNFゲル(生理食塩水中の1.0%DES CNFゲル)を注射1回当たり0.1mL、マウス1匹あたり4つの異なる背部部位(左右の脇腹、左肩及び右肩、対照(生理食塩水)を左肩及び脇腹に投与し、サンプルを右肩及び脇腹に投与した)に皮下注射した。マウスは、生理食塩水中の1.0%DES CNFゲルをサンプルとして、又は市販のヒアルロン酸(HA)(Restylane(商標))をサンプルとして受けた。この試験には、注射を行わなかった対照マウスも含まれていた。マウスを刺激や腫れの兆候について毎日モニタリングした。1週間の間隔で、ゲル移植後7、14、21、28及び56日目にマウスを安楽死させた(時点当たりn=2又は3)。移植されたゲル及び周囲の組織を、ゲルに対する細胞反応を決定するための組織学的分析のために取り出した。注射前に、組成物を滅菌するためにセルロースに50分間UV照射した。
【0125】
マウスを屠殺した後、組織サンプルを4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)を用いて染色した。必要な場合、処理するまで組織を70%エタノールに入れて保存した。各サンプルについて6μmの組織切片を採取した。
【0126】
「より軟質の」セルロースゲル(又はDES CNFゲル)は、HA対照(より丸い)よりも7日後により長くボーラスをもたらすことが観察された。
【0127】
14日後、HAボーラスは、その「丸い」形状を失い、組織学的処理に耐える能力が低下したように見えた(おそらくHAが経時的に分解したため)。しかし、14日後、セルロース処理はほとんど無傷であり、依然として組織学的処理に耐えることができた。
【0128】
56日後、セルロースサンプルのボーラスの体積は、0日目の元の体積の約50%になったと推定される。HAサンプルのボーラスも分解した。
【0129】
各マウスから全血を解剖時に採取して、循環白血球の増加があったかどうかを判定した。7日目及び14日目で、治療群間で白血球数に差は見られなかった。全身性炎症反応の兆候はなく、いかなる炎症も注射部位に局在している可能性が最も高い。
【0130】
法令に従って、本発明は、構造的又は系統的特徴に多かれ少なかれ特有の言語で説明された。本発明は、本明細書に記載される手段が本発明を実施する好ましい形態を含むため、図示又は記載される特定の特徴に限定されないことを理解されたい。したがって、本発明は、当業者によって適切に解釈される添付の特許請求の範囲の適切な範囲内で、その形態又は修正のいずれかで請求される。
【国際調査報告】