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特表2024-535632車両のモーションを制御するためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-09-30
(54)【発明の名称】車両のモーションを制御するためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240920BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20240920BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240920BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20240920BHJP
【FI】
B60W30/02
B62D6/00
B60L3/00 N
B60L15/20 S
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024541292
(86)(22)【出願日】2022-07-12
(85)【翻訳文提出日】2024-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2022027961
(87)【国際公開番号】W WO2023062903
(87)【国際公開日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】17/451,005
(32)【優先日】2021-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ディ・カイラノ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ダニエルソン,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ディー
【テーマコード(参考)】
3D232
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D232CC02
3D232CC20
3D232DA03
3D232DA23
3D232DA25
3D232DA33
3D232DA82
3D232DB09
3D232DB10
3D232DB11
3D232DD08
3D232DD13
3D232DD17
3D232GG15
3D241BA18
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3D241BA52
3D241BA54
3D241BA55
3D241BC03
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3D241DC51Z
5H125AA01
5H125BA00
5H125CA00
5H125CA11
5H125CA13
5H125DD15
5H125EE42
5H125EE44
5H125EE51
5H125EE52
5H125EE53
5H125EE55
5H125EE58
(57)【要約】
車両のモーションを制御するためのコントローラおよび方法を提供する。当該方法は、車両の現在の状態および車両の所望の状態を含むモーション情報を取得するステップと、車両のモーションの第1モデルおよび車両のシャーシのモーションの第2モデルを用いることによって、車両を現在の状態から所望の状態に移動させるために車輪のステアリング角とモータ力との組合わせを決定するステップと、車両のモーションのコスト関数を決定するステップと、車両のモーションのコスト関数を最適化してステアリングホイールおよび複数の電気モータを制御するためのコマンド信号を計算するステップと、コマンド信号に基づいて車輪のステアリング角およびモータ力を制御するステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のモーションを制御するためのコントローラであって、前記車両は、前記車両の前記モーションを支持する表面に接触する車輪にサスペンションによって接続されたシャーシを含み、前記車両は、前記車輪のうちの少なくともいくつかを操舵するためのステアリングシステムと、前記車輪を回転させるための複数の電気モータとを備え、前記コントローラは、プロセッサと、命令が格納されたメモリとを備え、前記命令は、前記プロセッサによって実行されると、前記コントローラに、
前記車両の現在の状態および前記車両の所望の状態を含むモーション情報を取得することを実行させ、前記車両の状態は、前記車両の速度、前記車両の加速度、前記車両の方位、および前記車両の配向速度のうちの少なくとも1つを定義し、前記命令はさらに、前記コントローラに、
前記車両のモータおよび前記車両の前記ステアリングシステムを作動させる前記車両のアクチュエータのための制御信号を生成するために、前記車両の前記モーションの動的モデルを用いて、将来の予測範囲にわたって、前記車両の前記現在の状態と前記車両の前記所望の状態との間の差のコスト関数を最小化することによって、前記車両を前記現在の状態から前記所望の状態に移動させるために、前記車輪のステアリング角と、前記複数の電気モータによって前記車両の前記モーションを支持する前記表面に加えられるモータ力との組合わせを決定することを実行させ、前記車両の前記モーションの前記動的モデルは、前記車両の前記モーションの第1モデルと、前記車両の前記シャーシの前記モーションの第2モデルとを含み、前記第1モデルと前記第2モデルとは、前記第1モデルの状態に対する変化が前記第2モデルの状態の変化を引起こす一方で、前記第1モデルの前記状態に対する前記変化が前記第2モデルの前記状態に対する前記変化とは無関係となるように接続されており、前記コスト関数は、前記車両の状態の変化に起因する前記車両のロール、ピッチ、およびリフトのうちの1つまたは組合せの増加にペナルティを課し、前記命令はさらに、前記コントローラに、
前記制御信号に従って前記車両の前記ステアリングシステムの前記アクチュエータおよび前記車両の前記モータを制御することを実行させる、コントローラ。
【請求項2】
前記車両はユーザによって運転され、
前記所望の状態は、前記車両の前記ステアリングシステムならびにアクセルおよびブレーキへの1つ以上のユーザ入力に基づいて決定される、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項3】
前記車両は自動運転システムによって運転され、
前記所望の状態は、前記車両のモーションプランナによって提供される情報に基づいて決定される、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項4】
コマンド信号は、前記車両の前記モーションと前記第1モデルによって予測される前記車両の前記モーションとの間の差に対応するフィードバック信号を追加することによって修正され、
前記フィードバック信号は、前記車両の前記モーションと前記第1モデルによって予測される前記車両の前記モーションとの間の差を補正するために用いられる、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項5】
前記車両の前記モーションの前記第1モデルは、前記車両の前記シャーシの前記モーションの前記第2モデルの前記状態に依存する第1の制約を受ける、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項6】
前記コスト関数は、前記車両の前記現在の状態と前記所望の状態との間の差の増加にペナルティを課す、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項7】
前記コスト関数は、コマンド信号の振幅ならびに前記複数の電気モータおよび前記ステアリングホイールへの前記コマンド信号の変化速度がゼロから外れると、前記コマンド信号の前記振幅および前記コマンド信号の前記変化速度のうち少なくとも1つにペナルティを課す、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項8】
前記車両は、第1の制約が予測範囲内の現在または/および将来の時間のインスタンスにおいて違反されると安定性を失い、
前記車両の前記所望の状態は、前記車両の前記現在の状態とともに、前記車両の前記モーションの前記第1モデルの不変集合に属する修正された所望の状態と、前記修正された所望の状態を受取るフィードバック利得とを選択することによって、前記車両の前記所望の状態により前記車両が安定性を失ったときに、前記車両の前記所望の状態が前記車両の前記修正された所望の状態に修正され、
前記不変集合は、前記車両の前記状態が前記第1の制約を満たす領域に含まれる、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項9】
前記コスト関数は、前記車両の前記所望の状態と前記車両の前記修正された所望の状態との間の差にペナルティを課す、請求項8に記載のコントローラ。
【請求項10】
前記第1モデルおよび前記第2モデルは、前記車両の前記現在の状態のパラメータに依存する線形パラメータ変動モデルである、請求項1に記載のコントローラ。
【請求項11】
前記車両の前記モーションの前記第1モデルは不確実性を有し、
前記第1モデルに対する前記第1の制約はロバスト制約を含み、
前記ロバスト制約は、前記車両の前記モーションの前記第1モデルに従った前記車両の前記状態によって前記ロバスト制約が満たされる場合に、前記不確実性を有する前記車両の前記モーションの前記第1モデルに従った前記車両の前記状態の展開が前記第1の制約を満たすように定義される、請求項5に記載のコントローラ。
【請求項12】
前記ロバスト制約は強化集合に基づいており、
前記強化集合は、前記車両の前記モーションの前記第1モデルに対する前記不確実性を含む不確実性集合についての前記第1モデルに関する不変集合として計算される、請求項11に記載のコントローラ。
【請求項13】
前記車両の前記モーションの前記第1モデルの前記不確実性集合は、前記車両の前記モーションの前記第1モデルによって予測される前記車両の状態モーションと、前記車両の前記モーションの測定された状態との間の差に基づいて構築される、請求項12に記載のコントローラ。
【請求項14】
車両のモーションを制御するための方法であって、前記車両は、前記車両の前記モーションを支持する表面に接触する車輪にサスペンションによって接続されたシャーシを含み、前記車両は、前記車輪のうち少なくともいくつかを操舵するためのステアリングシステムと、前記車輪を回転させるための複数の電気モータとを備え、前記方法は、前記方法を実施する格納された命令と連携してプロセッサを用い、前記命令は、前記プロセッサによって実行されると前記方法のステップを実行し、前記ステップは、
前記車両の現在の状態および前記車両の所望の状態を含むモーション情報を取得するステップを含み、前記車両の状態は、前記車両の速度、前記車両の加速度、前記車両の方位、および前記車両の配向速度のうちの少なくとも1つを定義し、前記ステップはさらに、
前記車両のモータおよび前記車両の前記ステアリングシステムを作動させる前記車両のアクチュエータのための制御信号を生成するために、前記車両の前記モーションの動的モデルを用いて、将来の予測範囲にわたって、前記車両の前記現在の状態と前記車両の前記所望の状態との間の差のコスト関数を最小化することによって、前記車両を前記現在の状態から前記所望の状態に移動させるために、前記車輪のステアリング角と、前記複数の電気モータによって前記車両の前記モーションを支持する前記表面に加えられるモータ力との組合わせを決定するステップを含み、前記車両の前記モーションの前記動的モデルは、前記車両の前記モーションの第1モデルと、前記車両の前記シャーシの前記モーションの第2モデルとを含み、前記第1モデルと前記第2モデルとは、前記第1モデルの状態に対する変化が前記第2モデルの状態の変化を引起こす一方で、前記第1モデルの前記状態に対する前記変化が前記第2モデルの前記状態に対する前記変化とは無関係となるように接続されており、前記コスト関数は、前記車両の状態の変化に起因する前記車両のロール、ピッチ、およびリフトのうちの1つまたは組合せの増加にペナルティを課し、前記ステップはさらに、
前記制御信号に従って前記車両の前記ステアリングシステムの前記アクチュエータおよび前記車両の前記モータを制御するステップを含む、方法。
【請求項15】
前記車両はユーザによって運転され、
前記所望の状態は、前記車両の前記ステアリングシステムならびにアクセルおよびブレーキへの1つ以上のユーザ入力に基づいて決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記車両は自動運転システムによって運転され、
前記所望の状態は、前記車両のモーションプランナによって提供される情報に基づいて決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
コマンド信号は、前記車両の前記モーションと前記第1モデルによって予測される前記車両の前記モーションとの間の差に対応するフィードバック信号を追加することによって修正され、
前記フィードバック信号は、前記車両の前記モーションと前記第1モデルによって予測される前記車両の前記モーションとの間の差を補正するために用いられる、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記車両の前記モーションの前記第1モデルは、前記車両の前記シャーシの前記モーションの前記第2モデルの前記状態に依存する第1の制約を受け、
前記コスト関数は、前記車両の前記現在の状態と前記所望の状態との間の差の増加にペナルティを課し、
前記コスト関数は、コマンド信号の振幅ならびに前記複数の電気モータおよび前記ステアリングホイールへの前記コマンド信号の変化割合がゼロから外れると、前記コマンド信号の前記振幅および前記コマンド信号の前記変化割合のうち少なくとも1つにペナルティを課す、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記車両は、第1の制約が予測範囲内の現在または/および将来の時間のインスタンスにおいて違反されると安定性を失い、
前記車両の前記所望の状態は、前記車両の前記現在の状態とともに、前記車両の前記モーションの前記第1モデルの不変集合に属する修正された所望の状態と、前記修正された所望の状態を受取るフィードバック利得とを選択することによって、前記車両の前記所望の状態により前記車両が安定性を失ったときに、前記車両の前記所望の状態が前記車両の前記修正された所望の状態に修正され、
前記不変集合は、前記車両の前記状態が前記第1の制約を満たす領域に含まれる、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
車両のモーションを制御するための方法を実行するためのプロセッサによって実行可能なプログラムが具現化された非一時的なコンピュータ可読記憶媒体であって、前記車両は、前記車両の前記モーションを支持する表面に接触する車輪にサスペンションによって接続されたシャーシを含み、前記車両は、前記車輪のうちの少なくともいくつかを操舵するためのステアリングシステムと、前記車輪を回転させるための複数の電気モータとを備え、前記方法は、
前記車両の現在の状態および前記車両の所望の状態を含むモーション情報を取得するステップを含み、前記車両の状態は、前記車両の速度、前記車両の加速度、前記車両の方位、および前記車両の配向速度のうちの少なくとも1つを定義し、前記方法はさらに、
前記車両の前記モータおよび前記車両の前記ステアリングシステムを作動させる前記車両のアクチュエータのための制御信号を生成するために、前記車両の前記モーションの動的モデルを用いて、将来の予測範囲にわたって、前記車両の前記現在の状態と前記車両の前記所望の状態との間の差のコスト関数を最小化することによって、前記車両を前記現在の状態から前記所望の状態に移動させるために、前記車輪のステアリング角と、前記複数の電気モータによって前記車両の前記モーションを支持する前記表面に加えられるモータ力との組合わせを決定するステップを含み、前記車両の前記モーションの前記動的モデルは、前記車両の前記モーションの第1モデルと、前記車両の前記シャーシの前記モーションの第2モデルとを含み、前記第1モデルと前記第2モデルとは、前記第1モデルの状態に対する変化が前記第2モデルの状態の変化を引起こす一方で、前記第1モデルの前記状態に対する前記変化が前記第2モデルの前記状態に対する前記変化とは無関係となるように接続されており、前記コスト関数は、前記車両の状態の変化に起因する前記車両のロール、ピッチ、およびリフトのうちの1つまたは組合せの増加にペナルティを課し、前記方法はさらに、
前記制御信号に従って前記車両の前記ステアリングシステムの前記アクチュエータおよび前記車両の前記モータを制御するステップを含む、非一時的なコンピュータ可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して車両を制御することに関し、より特定的には、車両のモーションを制御するためのコントローラおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(internal combustion engine:ICE)によって動力供給される車両は、通常、単一のパワープラント、すなわち単一のエンジンを有する。ICEは、吸気ガスおよび排気ガスならびに燃料ラインの複雑な配管を必要とするだけでなく、重量の大きいエンジンブロックを必要とする。このエンジンブロックの重量はエンジン排気量に線形比例していない。したがって、ICEによって動力供給される車両は、所望の加速度と、これにより所望の速度とを達成するためにエンジンおよびブレーキを使用し、所望の方向に向けるために操舵される。車両が加速および操舵されるのに応じて、車両のシャーシが車輪に対して相対的に動き、そのモーションはサスペンションによって決定される。シャーシのモーション、特にロール、ピッチおよびリフトは、車両内の乗客の快適性に影響を及ぼし、例えば乗客の身体に対して乗り物酔いおよびストレスを及ぼす。従来、車両は、ばねおよびダンパを含むパッシブサスペンションを用いており、これらはアクティブに制御されないので、常に外力に対して同じように反応する。高性能車両は、アクティブに制御されるアクティブサスペンションを備え得る。しかしながら、アクティブサスペンションは高価であり、アクティブサスペンションにアクティブな制御を提供するための車両のアクチュエータに対する大規模な励起により耐久性が制限されてしまう。場合によっては、高性能車両は、磁気粘性サスペンション等のセミアクティブサスペンションを用いてもよく、これはサスペンションに対してある程度の制御をもたらすが、アクティブサスペンションほどの制御ではない。
【0003】
電気自動車(Electric Vehicle:EV)では、ICEは電気モータに置換えられる。電気モータは、配管や燃料ラインを必要とせず、電線しか必要としないので、単一の車両内に複数の電気モータを備えることが可能である。複数のモータが単一の車両内に存在する場合、付加的な自由度が達成される。なぜなら、様々な電気モータにおける力を任意に組合せて同様の所要の総力をもたらすことにより、所望の(または要求される)加速を達成することができるからである。付加的な自由度を用いることで、車両の方向を変更する際のステアリングのサポート等の様々な目標を達成する車両のアクチュエータをサポートすることができる。実際には、サスペンションの有する幾何学形状により、電気モータによって生成される力を用いることでシャーシのモーションに影響を及ぼすことができる。このようにして、EVは、アクティブサスペンションの高価で耐久性の低いコンポーネントを必要とすることなくアクティブサスペンションと同じ目標を達成することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乗客の快適性を改善しつつ所望の車両加速度および方向変化をもたらすことによって車両の操縦性および乗客の快適性を同時に達成するために複数の電気モータとステアリングとを連携させることは困難である。
【0005】
したがって、乗客の快適性を維持しつつ車両のモーションの所望の状態を達成するように車両のモーションを制御する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの実施形態は、所望の車両加速度および方向要件の迅速な達成ならびにシャーシの相対的なモーションの低減、すなわち、車両の快適性という目標、が相互に関連するとともに互いに競合するという認識に基づいている。相互の関連性はシャーシと車両車輪との動的な結合に起因するものであり、競合は、車両の加速度および方向の急な変化に応じてシャーシがさらに一層急激に動くことに起因するものである。さらに、例えば、車両の物理的制限、または車両の安定性の損失を回避するために道路によって課される制限、ならびに、車両のモータおよびステアリングシステムに関連する制約により、一定量の車両モーションに影響を及ぼす制約が存在する可能性がある。したがって、所望の車両加速度および方向変化をもたらすことにより車両の操縦性および乗客の快適性を同時に達成することは困難である。
【0007】
したがって、本開示のいくつかの実施形態の目標は、リフト、ロール、ピッチ等の車両の様々なモーションパラメータを減らすことによって乗客の快適性を改善しつつ、車両状態を素早く変更することによって車両の操縦性を改善することである。例えば、所望のヨーレートおよび加速度が達成されるように車両状態が修正され、それによって車両の前後方向モーションおよび方向転換モーションが運転者または自動運転システムの所望する通りになる。しかし、このような状態修正が行なわれると、車両モーションによって、解消すべきピッチ、ロールおよびリフトに変化が生じる。
【0008】
このために、本開示は、操縦性および快適性を同時に達成するように車両のモーションを制御するためのコントローラを提案する。特に、コントローラは、車両を制御するための1つ以上のコマンド信号の影響を予測するための予測モデルを備えるとともに、それを用いて、車両を制御するために適用すべきコマンドを選択する。
【0009】
いくつかの実施形態は、車両のシャーシのピッチ、ロール、リフトといったモーションを減らすことによって乗客の快適性を維持しつつ車両の所望の操縦性を達成することが困難であるという認識に基づいている。特に、車両およびシャーシの挙動を予測し、適用すべき最適な入力を決定するために単一の非構造化モデルを導き出すことは、その構造の複雑さにより制限されてしまう。したがって、いくつかの実施形態の目標はまた、車両の所望状態の追跡、シャーシの動きの排除等の、モデルの様々な部分に関する様々な目標を達成することである。
【0010】
いくつかの実施形態は、操縦性の目標が時変信号を追跡するために状態を変更することであり、快適性の目標が状態への変更を回避することであるので、予測モデルが第1モデルおよび第2モデルという2つのモデルを含むという認識に基づいている。
【0011】
異なる仕様を異なるモデルに実装することができるように、第1モデルは車両のモーションを記述し、第2モデルは車両のシャーシのモーションを記述している。さらに、第1モデルは第2モデルに対して直接的な影響を有するが、第1モデルに対する第2モデルの影響は無いかまたは無視できるものである。
【0012】
いくつかの実施形態は、シャーシモーションが、車両モーション、走行した道路、およびサスペンションシステムに直接起因するものであって直接制御されるものではないという認識に基づいている。
【0013】
いくつかの実施形態は、乗客のためのより高い快適性が、車両のシャーシのリフト、ピッチ、およびロールといったモーションを減らすことによって達成されるという認識に基づいている。乗客の快適性を改善するために、本開示のいくつかの実施形態では、各車輪に牽引力が割当てられており、ステアリング角は、リフト方向、ピッチ方向およびロール方向へのシャーシのモーションを減らしつつ運転者指定の加速度およびヨーレートを達成するように設定される。
【0014】
いくつかの実施形態は、車両の操縦性が、運転者指定の加速度およびヨーレートを達成する迅速性、ならびに路面粗さ、天候、車両負荷等の変化する外部条件に対するこのような挙動の一貫性に基づくという認識に基づいている。
【0015】
いくつかの実施形態は、車両のための操縦性を犠牲にすることなく、または実際には改善さえすることなく、シャーシのリフト、ピッチ、およびロールといったモーションを減らすことができるという認識に基づいている。
【0016】
そのために、いくつかの実施形態は、操縦性を維持しつつ3つの付加的な自由度を提供する車両車輪を独立して作動させるために、複数の電気モータを用いており、すなわち、車両は「スロットル」が1つではなく4つ存在するような独立して駆動される車輪を有している。
【0017】
いくつかの実施形態は、車両の制御の損失を減らすこと、すなわち、車両ヨーレートが制御不能に変化するという状況と、特に後タイヤに関して道路へのタイヤ密着性が損なわれることにより車両が道路でスピンするという状況とを減らすこと、が可能であるという認識に基づいている。
【0018】
したがって、本開示の一実施形態は、車両のモーションを制御するためのコントローラを提供し、当該車両は、車両のモーションを支持する表面に接触する車輪にサスペンションによって接続されたシャーシを含み、当該車両は、車輪のうちの少なくともいくつかを操舵するためのステアリングシステムと、車輪を回転させるための複数の電気モータとを備える。コントローラは、プロセッサと、命令が格納されたメモリとを含み、当該命令はプロセッサによって実行されると当該コントローラに、車両の現在の状態および車両の所望の状態を含むモーション情報を取得することを実行させる。車両の状態は、車両の速度、車両の加速度、車両の方位、および車両の配向速度(orientation rate)のうちの少なくとも1つを定義する。コントローラはさらに、車輪のステアリング角と、電気モータによって車両のモーションを支持する表面に加えられるモータ力との組合わせを決定するように構成される。車輪のステアリング角とモータ力との組合せは、車両のモーションの第1モデルと車両のシャーシのモーションの第2モデルとを用いることによって、車両を現在の状態から所望の状態に移動させるために用いられる。第1モデルの状態は第2モデルの状態に対する変化に影響を及ぼし、第1モデルの状態に対する変化は、第2モデルの状態に対する変化とは無関係である。コントローラはさらに、将来の予測範囲にわたる車両のモーションのコスト関数を決定するように構成され、車両の状態の変化によってもたらされる車両のロール、ピッチおよびリフトのうちの1つまたはそれらの組合わせの増加にペナルティを課すことによって、ステアリングホイールおよび複数の電気モータを制御するためのコマンド信号を計算するために、車両のモーションのコスト関数を最適化するように構成され、制御信号に基づいてステアリングシステムおよび電気モータを制御するように構成される。
【0019】
本開示の別の実施形態は、車両のモーションを制御するための方法を提供し、当該車両は、車両のモーションを支持する表面に接触する車輪にサスペンションによって接続されたシャーシを含む。当該車両は、車輪のうちの少なくともいくつかを操縦するためのステアリングシステムと、車輪を回転させるための複数の電気モータとを備える。当該方法は、車両の現在の状態および車両の所望の状態を含むモーション情報を取得するステップを含み、車両の状態は、車両の速度、車両の加速度、車両の方位、および車両の配向速度のうちの少なくとも1つを定義する。当該方法はさらに、車輪のステアリング角と、電気モータによって車両のモーションを支持する表面に加えられるモータ力との組合わせを決定するステップを含む。車輪のステアリング角とモータ力との組合せは、車両のモーションの第1モデルと車両のシャーシのモーションの第2モデルとを用いることによって、車両を現在の状態から所望の状態に移動させるために用いられ、第1モデルの状態は第2モデルの状態に対する変化に影響を及ぼし、第1モデルの状態に対する変化は第2モデルの状態に対する変化とは無関係である。当該方法はさらに、将来の予測範囲にわたる車両のモーションのコスト関数を決定するステップと、車両の状態の変化によってもたらされる車両のロール、ピッチおよびリフトのうちの1つまたはそれらの組合わせの増加にペナルティを課すことによって、ステアリングホイールおよび複数の電気モータを制御するためのコマンド信号を計算するために車両のモーションのコスト関数を最適化するステップと、当該コマンド信号に基づいてステアリングシステムおよび電気モータを制御するステップとを含む。
【0020】
添付の図面を参照して本開示の実施形態をさらに説明する。示される図面は必ずしも縮尺通りではなく、概して、本開示の実施形態の原理を例示することに重点が置かれている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】例示的な実施形態に従った、様々なモーション軸とともに車両を示す概略図である。
図2】例示的な実施形態に従った車両制御システム(vehicle control system:VCS)を示すブロック図である。
図3A】例示的な実施形態に従った、車両のトレーリングアームフロントサスペンションを示す側面図である。
図3B】例示的な実施形態に従った、車両のトレーリングアームフロントサスペンションを示す背面図である。
図3C】例示的な実施形態に従った、車両のトレーリングアームフロントサスペンションを示す上面図である。
図4A】例示的な実施形態に従った、車両のリアサスペンションを示す側面図である。
図4B】例示的な実施形態に従った、車両のリアサスペンションを示す背面図である。
図4C】例示的な実施形態に従った、車両のリアサスペンションを示す上面図である。
図5】例示的な実施形態に従った、前輪および後輪に加えられるスロットル力/ブレーキ力が車両リフトに及ぼす影響を示す図である。
図6】例示的な実施形態に従った、車両の前輪および後輪に加えられるスロットル力/ブレーキ力の影響を示す図である。
図7】例示的な実施形態に従った、道路上の隆起を乗り越えるときのシャーシモーションを回避するために車両の車輪に対して割当てられた牽引力の実行を示す図である。
図8】例示的な実施形態に従った、車両のモーションの制御を示すブロック図である。
図9】例示的な実施形態に従った予測モデルを示すブロック図である。
図10】例示的な実施形態に従った、モータおよびステアリング制御(motor and steering control:MSC)システムの制約を示すブロック図である。
図11】例示的な実施形態に従った、公称制約および不確実性集合からロバスト制約を構築する概略を示す図である。
図12】例示的な実施形態に従った、MSCシステムのコスト関数モジュールを示すブロック図である。
図13】例示的な実施形態に従った、MSCシステムの最適化ソルバモジュールによって実行されるステップを示すフロー図である。
図14】例示的な実施形態に従った、MSCシステムのコマンド構築モジュールを示すフロー図である。
図15】例示的な実施形態に従った、車両のモーションを制御するための方法のステップを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
車両は、人々(「乗客」とも称する)および/または物品(「貨物」とも称する)を搬送しながら、ある場所から別の場所に移動するように設計された装置である。乗客の快適性および貨物の保全性のために、車両は、サスペンションシステムによって地面と接触する車輪に接続されたシャーシを備える。車両が動き回るのに応じて、シャーシも、サスペンションシステムの設計に付随する振動を伴って動く。このような振動により、乗客および貨物に害を及ぼす可能性がある過剰な力がシャーシに瞬時に伝わるのが回避される。しかしながら、このような振動は乗客の快適性を低下させ、乗物酔いまたは方向感覚損失等の影響をもたらす。車両のモーションが固定されると、シャーシのモーションはアクティブサスペンションまたはセミアクティブサスペンションによって制御される。しかしながら、アクティブサスペンションは高価であるとともに車両の寿命と比べてその寿命が限られており、セミアクティブサスペンションは、乗客の快適性を低下させる振動の周波数範囲を制御することができない。したがって、大抵の車両は、シャーシのモーションに対する如何なる制御手段も備えないパッシブサスペンションを用いる。
【0023】
電気自動車(Electric vehicle:EV)は電気モータによって電力供給される。電気モータに電力供給するために蓄電池から電流が取得される。電気モータは、サイズがより効率的にスケーリングされ、吸気口および排気口、燃料ライン、ポンプ等を必要とせず、電気ケーブル配線だけを必要とする。したがって、EVに複数の電気モータを配置することができる。このため、EVでは、1つの大型モータの総電力を複数の電気モータによって実現している。しかしながら、複数の電気モータの各電気モータは独立して制御され、付加的な自由度をもたらす。したがって、(例えば、運転者コマンドに基づいて)所要のモータ電力が決定されると、複数のモータからその電力を得るためには複数の方法が存在することとなる。
【0024】
例えば、モータが4つである場合、所要のモータ電力は、4つのモータ全てに均等に電力要求を分割すること、1つの特定のモータにのみ電力要求を割当てること、2つのモータ間で電力要求を分割して他の2つのモータに電力を全く要求しないこと、のうちの少なくとも1つによって生成される。
【0025】
いくつかの実施形態は、複数のモータによって提供される付加的な自由度を用いて、運転者のステアリングコマンドおよび加速コマンドに対する車両全体の応答性を低下させることなく(すなわち、車両のモーション性能を低下させることなく)、シャーシのモーションを制御することができるという認識に基づいている。
【0026】
そのために、複数の電気モータ間での電力の分割およびステアリングシステムのステアリング角は、車両モーション目標およびシャーシモーション目標をトレードオフするために適切に決定される。車両モーション目標は、複数の電気モータが運転者の要求を達成する速度で最大化され、シャーシモーション目標は、シャーシにもたらされるモーションを減らす際に最小化される。
【0027】
図1は、例示的な実施形態に従った、様々なモーション軸とともに車両100を示す概略図である。車両100は、サスペンションシステム(図示せず)を介してシャーシ(図示せず)に取付けられた4つの車輪を含む。図1には、車両100のモーションを異なる次元で示すX軸101、Y軸102およびZ軸103という3つの軸が示されている。
【0028】
車両100に取付けられた座標フレームのX軸101は前後方向に対応し、前後方向モーションはシャーシの位置、速度、加速度、ジャーク等を含む。X軸101を中心としたシャーシの回転104はロールと称され、ロールモーションは、シャーシの角度、角速度、および角加速度を含む。
【0029】
車両100に取付けられた座標フレームのY軸102は横方向と称され、横方向モーションはシャーシの位置、速度、加速度、ジャーク等を含む。X軸102を中心としたシャーシの回転105はピッチと称され、ピッチモーションはシャーシの角度、角速度、角加速度を含む。
【0030】
車両100に取付けられた座標フレームのZ軸103はリフト方向と称され、リフトモーションはシャーシの位置、速度、加速度、ジャーク等を含む。Z軸103を中心としたシャーシの回転106はヨーと称され、ヨーモーションはシャーシの角度、角速度および角加速度を含む。
【0031】
車両100のシャーシのモーションを減らすことによって乗客の快適性を向上させるために、いくつかの実施形態は、シャーシのモーションを排除することによって車両100がいくつかの位置間でシャーシ(およびその中身)を移動させるという目的を達成することができないので、シャーシモーションは完全に排除されないという認識に基づいている。特に、いくつかの実施形態は、車両100のシャーシにモーションをもたらす2つの主要因に基づいており、2つの主要因とは、車両100の動きおよび車両100が横断する路面の品質である。
【0032】
いくつかの実施形態では、車両100の操縦性を向上させつつシャーシモーションを減らす。操縦性は、車両100が運転者または自動運転システムによってコマンドに如何に迅速に、予測可能に、かつ反復可能に反応するかを定義するものである。
【0033】
いくつかの実施形態は、車両100を停止させることによって、または少なくとも車両100のモーションを著しく減速させることによって、車両100のシャーシのモーションを排除することができるという認識に基づいている。しかしながら、このような方法は車両100の操縦性を低下させてしまう。なぜなら、車両100は、当該車両100の特定の目的地に到達するための車両100に対するコマンドによって要求されるよりもゆっくりと停止または移動するからである。同様に、車両100のロールモーションは、車両100の方向転換を防止することによって回避される。しかしながら、コマンドが要求する車両の方向転換を防止することにより、道路上を横断する車両100に重大な結果(事故等)をもたらす可能性がある。
【0034】
例示的な実施形態では、車両100は、モーションプランナを含む自動運転車両である。このような場合、車両100のモーションの状態は、モーションプランナによる情報に基づいて(例えば、現在の状態20km/hから所望の状態40km/hに)変更される。
【0035】
別の例示的な実施形態では、車両100は人の運転者によって運転される。このような場合、ステアリングホイールの回転、ならびにアクセルペダルおよびブレーキペダルの踏込み等の運転者の動作の情報に基づいて、車両100のモーションの状態が(例えば、現在の状態20km/hから所望の状態40km/hに)変更される。
【0036】
車両100を制御するために、本開示は車両制御システム(VCS)200を提供する。VCS200は、車両100のモーションおよび車両100のシャーシのモーションを制御するように構成される。そのために、VCS200は、前後方向およびヨー方向の車両100のモーションを制御するように構成される。さらに、車両100の前後方向加速度、すなわち速度および位置を制御するためにガスペダル/ブレーキペダルが用いられる。さらに、VCS200は、ステアリングホイールを制御して車両100を制御するように構成される。以下、図2を参照してVCS200について詳細に説明する。
【0037】
図2は、例示的な実施形態に従った車両制御システム(VCS)200のブロック図を示す。VCS200は、車両センサ201に接続された入出力インターフェイス(input/output:I/O)203と、道路センサ202と、格納された命令を実行するように構成された1つ以上のプロセッサ204と、1つ以上のプロセッサ204によって実行可能な命令を格納するメモリ206とを含む。1つ以上のプロセッサ204は、シングルコアプロセッサ、マルチコアプロセッサ、コンピューティングクラスタ、または任意の数の他の構成であり得る。メモリ206は、ランダムアクセスメモリ(random access memory:RAM)、読取り専用メモリ(read only memory:ROM)、フラッシュメモリ、または他の任意の好適なメモリシステムを含み得る。I/Oインターフェイス203は、バス209を介してVCS200の他の構成要素(メモリ206等)に接続されてもよい。
【0038】
VCS200はさらに、モータおよびステアリング制御(MSC)モジュール205aならびに道路粗さ予測モジュール205b等の様々なモジュールを格納するように構成されたストレージデバイス205を含む。
【0039】
I/Oインターフェイス203は、車両100内に有線ネットワークまたは無線ネットワークのうち少なくとも一方を確立し、車両センサ201、道路センサ202、ステアリング208、ならびに車両100の車輪のモータアクチュエータ1(207a)、モータアクチュエータ2(207b)、モータアクチュエータ3(207c)およびモータアクチュエータ4(207d)を制御するように構成されたアクチュエータコントローラ207等のVCS200の入出力デバイス間でデータ通信を行なうように構成されており、各モータアクチュエータ(207a~207d)は車両100の対応するモータを作動させるように構成されている。したがって、車両100の4つのモータの各モータは対応するモータアクチュエータによって制御される。
【0040】
最初に、1つ以上のプロセッサ204は、I/Oインターフェイス203を介して車両センサ201および道路センサ202からセンサデータを取得する。1つ以上のプロセッサ204は、道路粗さ予測モジュール205bと、モータおよびステアリング制御(MSC)モジュール205aとを実行するように構成される。
【0041】
さらに、1つ以上のプロセッサ204は、車両センサ201および道路センサ202からの信号(データ)に応答して道路粗さ予測モジュール205bおよびMSCモジュール205aを実行しながら、インターフェイス203を介してアクチュエータコントローラ207に制御データを送信するように構成される。アクチュエータコントローラ207は、I/Oインターフェイス203を介して1つ以上のプロセッサ204から制御データ(「信号」とも称する)を受信し、1つ以上のプロセッサ204から受信した信号に基づいて4つのモータおよびモータアクチュエータ(207a~207d)の各々のステアリング制御およびスロットル/ブレーキ制御を実行するように構成される。例示的な実施形態では、アクチュエータコントローラ207は、ステアリングアクチュエータ(図2には図示せず)を用いてステアリング208を制御するように構成される。したがって、アクチュエータコントローラ207は、1つ以上のプロセッサ204からの制御データに基づいて、車両100のモータアクチュエータ207a~207dおよびステアリング208のスロットル割当てを達成する。
【0042】
いくつかの実施形態では、VCS200は、各車輪に牽引力を割当てるとともに、操縦性を向上させつつ車両モーションおよび道路粗さに起因するシャーシモーションを減らすように車両100のステアリング208のステアリング角を設定する。別の実施形態では、道路粗さは、道路センサ202によって測定され、このような測定値は、車両100のステアリング208の牽引力およびステアリング角を計算するために用いられる。さらに別の実施形態では、道路粗さは測定されないが、結果として生じるシャーシのモーションは、車両100の上/内に配置された車両センサ201(「車両モーションセンサ」とも称する)、または車両制御システム200と通信する外部センサ(図2に図示せず)を用いて測定される。さらに、車両モーションセンサ201は、シャーシモーションを減らして操縦性を維持するように車両100の牽引力およびステアリング角を計算するために用いられる。別の実施形態では、車両モーションセンサ201および道路センサ202を用いて取得された道路粗さおよびシャーシモーションの測定値は、シャーシモーションを減らすとともに操縦性を維持する車両100のステアリングの牽引力およびステアリング角を計算するために用いられる。
【0043】
いくつかの実施形態は、従来の車両が、車両を駆動するために用いられる(1)スロットル/ブレーキおよび(2)タイヤ(例えば前タイヤ)のステアリング角という2つのアクチュエータを有するという認識に基づいている。これらのアクチュエータは、運転者によって指定された所望の加速度およびヨーレートに従うために用いられ、運転者は人または自動運転システムである。人の運転者の場合、所望の加速度およびヨーレートがガスペダル/ブレーキペダルの位置およびステアリングホイール角によって特定される。一方で、自動運転システムの場合、所望の加速度とヨーレートとは異なる方法で特定される。従来の車両のこれら2つのアクチュエータは、所望の加速度を追跡し、ヨーレートを追跡するという2つの運転目標を達成するために用いられる。
【0044】
いくつかの実施形態は、対応する複数のモータによって制御される複数の独立して作動される車輪(例えば、4つの車輪)を有する車輪付き車両(例えば、自動車)が、複数の車輪の各車輪を作動させることによる追加のアクチュエータを有しており、作動させた車輪の各々が、各車輪によって生成される牽引力および制動力の両方を互いから独立して制御するように構成されるというさらなる認識に基づいている。
【0045】
例示的な実施形態では、複数の車輪の各車輪の独立した作動は、各車輪に配置された「ハブモータ」を用いることによって達成される。別の実施形態では、複数の車輪の各車輪の独立した作動は、各車輪に対応する複数のモータが車輪の外部にある、すなわち、車体上に配置されて適切なドライブラインによって車輪に接続されている場合であっても、制御される。
【0046】
いくつかの実施形態では、車両100の車輪の少なくとも1つは独立して作動されない。このような車輪は、アクチュエータコントローラ207によって強制的に、それぞれの対応するモータによって作動される複数の車輪のうち他の車輪と同様に挙動するように制御される。例えば、独立して作動されない少なくとも1つの車輪は、アクチュエータコントローラ207によって強制的に、他の車輪と同じ力を生成するように制御される。さらに、MSC205aは、このような挙動を反映する制約を非作動型車輪に課す。例えば、独立して作動されない少なくとも1つの車輪は、VCS200による如何なる牽引力も生成しないことが予想される。
【0047】
例示的な実施形態では、VCS200は、自動運転車両のシャーシのモーションを減らすことによって所望の操縦性および快適性を達成するために用いられ、この場合、自動運転車両はVCS200への有線接続を介して電子的に操縦されるものであって、ステアリングホイールとステアリング角との間に機械的接触はない。
【0048】
例示的な実施形態では、VCS200は、半自動車両のモーションを制御するように構成され、ステアリング208は運転者およびVCS200によって共同で制御される。例えば、運転者が回転させるステアリングホイール角からずれてしまう車両100の前輪にステアリング角を生じさせることが可能なアクティブフロントステアリングシステムでは、運転者が回転させるステアリングホイール角に、同期モータ等のアクティブステアリングアクチュエータが実現する付加的なステアリング角を追加して、VCS200が決定した量のステアリング角を得ることにより、ステアリング角の値がVCS200によって制御される。
【0049】
例示的な実施形態では、VCS200は、ステアリング208が運転者によって全体的に制御される車両100のモーションを制御するために用いられ、この場合、アクチュエータコントローラ207は、運転者が決定したステアリング角値にステアリング208を固定し、MSC205aは、決定されたステアリング角値に基づいてステアリング208に制約を課す。
【0050】
いくつかの実施形態は、独立してスロットル調整/ブレーキ制動される車輪付きの車両が3つの付加的な自由度、すなわち、4スロットル/ブレーキおよび1ステアリング角を有するという認識に基づいている。このような付加的な自由度を用いることで、車両シャーシのリフト、ピッチ、およびロールといったモーションを減らすことによって乗客の快適性を改善することができる。
【0051】
いくつかの実施形態は、車輪によって生成される前後方向力および横方向力が、車両サスペンションが設計される方法に起因して、シャーシ上で垂直力を生成するという認識に基づいている。車輪によって生成される前後方向力および横方向力は、車両100の近似動的モデルとサスペンション幾何学形状をも含むシャーシモーションとに基づいて予測される。
【0052】
図3Aは、例示的な実施形態に従った、車両100のトレーリングアームフロントサスペンションの側面図を示す。図3Bは、例示的な実施形態に従った、車両100のトレーリングアームフロントサスペンションの背面図を示す。図3Cは、例示的な実施形態に従った、車両100のトレーリングアームフロントサスペンションの上面図を示す。説明を容易にするために、図3A図3Bおよび図3Cにはトレーリングアームサスペンションのみが示されている。他のサスペンション設計はトレーリングアームサスペンションと動的に等価である。トレーリングアームサスペンションの重要な特徴は、サスペンションアームが旋回軸を中心として回転することである。したがって、トレーリングアームサスペンションを用いて接続された車輪は、サスペンションアームの回転によって垂直に動かさなければ水平に(すなわち、前後方向または横方向に)動かすことはできない。
【0053】
図3Aおよび図3Bは、フロントサスペンションに対する力を示す。トレーリングアームフロントサスペンションに対する力はフロントサスペンションの自由体図に示されている。フロントサスペンションは、車両シャーシに4種類の力(左方向の力はa、右方向の力はb)を作用させる。
【0054】
前後方向の反力303aおよび303b(図3A):左右のタイヤは、車両100を加速/減速させるための駆動力301aおよび301b(図3C)を生じさせる。サスペンションは、駆動力301aおよび301bを車両シャーシに伝達して、前後方向力303aおよび303bを生じさせる。
【0055】
横方向の反力305aおよび305b(図3B):左右のタイヤは、車両100の方向転換時にそれぞれ摺動力309aおよび309b(図3C)を生じさせる。サスペンションは、タイヤ摺動力309aおよび309bをシャーシに伝達して、それぞれ横方向力305aおよび305bを生じさせる。
【0056】
ばね減衰力308aおよび308b(図3A):ばねの変形およびサスペンション内のダンパの動きはシャーシ上に力308aおよび308bを生じさせる。ばねの変形/ダンパの動きは、車両シャーシが道路に対して動くことによって、または路面高さが車両100に対して相対的に「動く」(すなわち車両100が隆起上を走行する)ことによって、引起こされる。ばね減衰力は、相対的なシャーシ対道路のモーションを減衰させ、これをデフォルト位置に戻す、すなわち、シャーシが道路に対して平坦になる。
【0057】
垂直方向の反力304aおよび304b(図3Aおよび図3B):サスペンションアームには角度302a、302b(図3A)および310a、310b(図3B)が付けられているので、前後方向の力303a、303bおよび横方向の力305a、305bはサスペンションアームにトルクを生じさせる。準定常状態では、このトルクは、垂直方向の反力304a、304bによって平衡化される。いくつかの前輪のうちの一方にスロットル力302a、302bを加えると、サスペンションに対して負の垂直方向の反力304a、304bが生じる。図3A図3Cはフロントサスペンションを示しているので、これらの垂直方向の反力304a,304bは、加速中に車両前端が浮き上がるのを防止するアンチリフト力である。いくつかの実施形態は、これらの垂直方向の反力304a、304bが作動駆動力303a、303bに依存するので、シャーシのリフト、ピッチおよびロールといったモーションを制御するように操作することができるという認識に基づいている。
【0058】
図4Aは、例示的な実施形態に従った、車両100のリアサスペンションの側面図を示す。図4Bは、例示的な実施形態に従った、車両100のリアサスペンションの背面図を示す。図4Cは、例示的な実施形態に従った、車両100のリアサスペンションの上面図を示す。図4Aおよび図4Bは、リアサスペンションアセンブリのうちの1つの自由体図を示す。
【0059】
図3A図3Cにおける)フロントサスペンションアセンブリと同様に、後輪に対するスロットル力によって生じる車両サスペンションに対する正の垂直方向の反力が導き出される。この正の垂直方向の反力は、加速中に車両の後端が「パワースクワッティング(power squatting)」するのを防ぐので、アンチスクワット力と称される。
【0060】
リアサスペンションは、車両シャーシに4種類の力(左方向の力はa、右方向の力はb)を作用させる。
【0061】
前後方向の反力103aおよび403b(図4A):左右のタイヤは車両100を加速/減速させるための駆動力401aおよび401b(図4Aおよび図4C)を生じさせる。リアサスペンションは駆動力401aおよび401bを車両シャーシに伝達して、前後方向の反力403aおよび403bを生じさせる。
【0062】
横方向の反力405aおよび405b(図4B):左右のタイヤは、車両100の方向転換時にそれぞれ摺動力409aおよび409b(図4Bおよび図4C)を生じさせる。サスペンションは、タイヤ摺動力409aおよび409bをシャーシに伝達して、それぞれ横方向の力405aおよび405bを生じさせる。
【0063】
ばね減衰力408aおよび408b(図4A):ばねの変形およびサスペンション内のダンパの動きにより、シャーシに対して力408aおよび408bを生じさせる。ばねの変形/ダンパの動きは、車両シャーシが道路に対して動くことによって、または路面高さが車両100に対して相対的に「動く」(すなわち車両100が隆起上を走行する)ことによって、引起こされる。ばね減衰力は、相対的なシャーシ対道路のモーションを減衰させ、これをデフォルト位置に戻す、すなわち、シャーシが道路に対して平坦になる。
【0064】
垂直方向の反力404aおよび404b(図4A):サスペンションアームには角度402a、402b(図4A)および410a、410b(図4B)が付けられているので、前後方向の力403a、403bおよび横方向の力405a、405bはサスペンションアームに対してトルクを生じさせる。準定常状態では、このトルクは垂直方向の反力404a、404bによって平衡化される。後輪のうちの一方にスロットル力402a、402bを加えると、リアサスペンションに正の垂直方向の反力404a、404bが生じる。図4A図4Cはリアサスペンションを示しているので、これらの垂直方向の反力404a、404bは、加速中に車両100の後端が浮き上がるのを防止するアンチリフト力およびアンチスクワット力(anti-squat force)である。いくつかの実施形態は、これらの垂直方向の反力404a、404bが作動駆動力403a、403bに依存するので、シャーシのリフト、ピッチ、およびロールといったモーションを制御するように操作することができるという認識に基づいている。
【0065】
いくつかの実施形態では、VCS200は、車両シャーシのモーションを操作するためにアンチリフト力およびアンチスクワット力を用いる。
【0066】
図5は、例示的な実施形態に従った、前輪および後輪に加えられるスロットル力/ブレーキ力(501、502)が車両リフトに及ぼす影響を示す。矢印501および502は、それぞれ前タイヤおよび後タイヤによって生じる駆動力を表わす。説明を容易にするために、ピッチ面(またはピッチ方向)における車両100のモーションを図5に示す。図5は車両100の側面図を示す。したがって、左前タイヤ508および右前タイヤ(図5には図示せず)にかかる力は同じである。同様に、左後タイヤ(図5には図示せず)および右後タイヤ509に対する力は同じである。シャーシモーションの3次元(three-dimensional:3D)制御のために、車両100の左タイヤ508および右タイヤ509に異なる力が加えられる。牽引力501および502は反対方向にかかる力であり、すなわち、前輪はスロットル調整しており、後輪はブレーキ制動している。これにより、車輪508および509は、それぞれデフォルト位置503および504からそれぞれの位置505および506へと回転する。これにより、図5に示すように、シャーシ507が降下する(負のリフト方向に動く)。
【0067】
ピッチ面におけるリフトおよびピッチモーションの別の例を図6に示す。
【0068】
図6は、例示的な実施形態に従った、車両100の前輪608および後輪609に加えられるスロットル力/ブレーキ力(601、602)の影響を示す。図6図5に関連付けて説明する。図5と同様に、図6は車両100の側面図を示す。図6において、スロットル力/ブレーキ力(「牽引力」とも称する)601および602は前輪608および後輪609に加えられる。前輪608はデフォルト位置603から605へと前方に回転し、後輪609はデフォルト位置604から606へと後方に回転する。これにより、図6に示すように、シャーシ607が前方に傾斜する。前方への傾斜は、車両100が加速中に受ける自然な後方への傾斜方向とは反対の方向である。これをアンチピッチ効果と呼ぶ。同様の効果が3次元のすべて(すなわち、ピッチ面に限定されない)で起こる。
【0069】
図7は、例示的な実施形態に従った、道路上の隆起701上を走行する際のシャーシモーションを回避するために車両700の車輪に割当てられた牽引力(702、705)の実行を示す。車両700はVCS200(図7には図示せず)を備える。図7では、VCS200は、車両700の前輪に牽引力702を割当て、これにより、車両700が隆起701上を走行している間に、前輪をそのデフォルト位置704から位置703へと移動させる。隆起701を通過した後、前輪は位置703からそれらのデフォルト位置704へと移動する。このため、牽引力702は、前輪が隆起701上を通過することに起因するシャーシのモーションを回避する。
【0070】
同様に、VCS200は、車両700の後輪に牽引力705を割当て、これにより、車両700が隆起701上を走行している間に後輪をそのデフォルト位置707から位置706へと移動させる。隆起701を通過した後、後輪は位置706からデフォルト位置707へと移動する。このため、牽引力705は、後輪が隆起701上を通過することに起因するシャーシのモーションを回避する。
【0071】
いくつかの実施形態は、スロットル力/制動力がタイヤに作用する唯一の力ではないので、車両力学がより複雑になるという認識に基づいている。横方向に動くタイヤによって生じる摺動力等の他の力も車両100のタイヤに作用する。
【0072】
したがって、いくつかの実施形態では、シャーシに対する摺動力および牽引力の複合効果が分析される。そのために、車両100の動的モデル(「予測モデル」とも称する)は、電気モータおよびステアリングに対するコマンドの様々な組合わせに応じて車両100のモーションとこれに続いて起こる車両100のシャーシのモーションとを予測するために用いられる。さらに、予測モデルは、最適なコマンドを決定するために適切な数値問題をリアルタイムで解くことによって高い操縦性および高い快適性を達成するために、車両100のモーションおよびシャーシのモーションを共同で最適化するために用いられる。これを達成するために、車両100のモーションおよびシャーシのモーションを表わすとともにリアルタイム最適化のために評価可能である予測モデルが構築される。
【0073】
予測モデルについては、図9を参照してさらに詳細に説明する。
車両およびシャーシのモーションの予測モデルを用いた予測制御
【0074】
図8は、例示的な実施形態に従った、車両100のモーションを制御するためのブロック図800を示す。ブロック図800図2に関連付けて以下で説明する。ブロック図800はMSC205aにおいて実現される。MSC205aは、車両センサ201および道路センサ202からそれぞれ車両100と当該車両100が走行している道路810とに関連付けられた情報804aを受信する。道路センサ202から得られたセンサ情報は、最初に道路粗さ予測モジュール205bによって処理されてからMSC205aに提供される。情報804aは車両804に関する予測モデルによって処理される。
【0075】
MSC205aはさらに、車両モーション807の目標に関連付けられた情報807aを受信する。車両モーション目標807が基準操作モジュール801によって修正されることにより、車両モーション801aの修正された所望の目標が車両安定性の損失等の問題の発生を防止することが確実にされる。予測モデル804は、情報804aから車両100のモーションおよび車両100のシャーシのモーションの状態を抽出し、将来の予測範囲にわたってモータおよびステアリングを作動させるためのコマンド信号のシーケンスから実現可能なシーケンスコマンド(「コマンド信号」とも称する)に対応する車両100のモーションを予測する。MSC205aはさらに、制約812を用いて、車両100のモーションと車両100に適用されるべきコマンドの実現可能なシーケンスとに対する制限を決定する。
【0076】
さらに、コスト関数モジュール(「コスト関数」とも称する)802は、すべての実現可能なコマンドの各コマンドに対応するスコアと車両モーションの対応する挙動とを関連付けることによって、車両100に適用されるべきコマンドの実現可能なシーケンスの望ましさを決定するために用いられる。コマンドのシーケンスに対応する車両モーションの挙動は、予測モデル804によって予測されるとともに、車両モーションの現在の目標807または車両のモーションの修正された目標801aのうちの少なくとも1つに基づいて評価される。
【0077】
さらに、予測モデル804、制約803、およびコスト関数802は、制約803を満たしつつ予測モデル804およびコスト関数802に従って車両100のモーションの最良の予測挙動を生成する最適解805aを計算するために、最適化ソルバモジュール805によって用いられる。電気モータおよびステアリングのためのコマンド806aがコマンド構築モジュール806によって最適解805aから抽出されるとともに、アクチュエータコントローラ207を介して車両100に適用されることで、予測モデル804に従って車両100の予測されたモーションとして、場合によっては予測範囲よりも短い範囲にわたって車両100のモーションが取得される。
【0078】
いくつかの実施形態は、シャーシのモーション、リフト、ロール、およびピッチを減らすことによって乗客の快適性を改善しつつ、特定の所望の値が達成されるように車両状態を変更することによって、車両100の操縦性を改善するという認識に基づいている。例えば、車両状態は、車両の前後方向モーションおよび車両の方向転換モーションが運転者または自動運転システムによって所望されるとおりに、所望のヨーレートおよび加速度が達成されるように変更される。しかしながら、このような状態変更が行なわれると、車両モーションによってピッチ、ロールおよびリフトに変化が生じるが、制御システムがこれを排除する。
【0079】
いくつかの実施形態は、操縦性の目標が、時変信号を追跡するために状態を変更することであり、快適性の目標が状態への変更を回避することであるので、相互に関連する2つの目標(すなわち、操縦性目標および快適性目標)を達成するための2つのモデルを用いて予測モデル804を構築するという認識に基づいている。予測モデル804に含まれる2つのモデルは第1モデルおよび第2モデルである。様々な仕様を様々なモデル上に実装することができるように、第1モデルは車両モーションを記述するために用いられ、第2モデルはシャーシモーションを記述するために用いられる。
【0080】
図9は、例示的な実施形態に従った予測モデル804のブロック図を示す。予測モデル804は、第1モデル901および第2モデル902という2つのサブモデルを含む。リアルタイムコントローラでの予測および最適化のために使用可能なフル予測モデルを得るために、第1モデル901は一次モデルとして構築され、第2モデル902は二次モデルとして構築される。
【0081】
そのために、第1モデル901は、その変数が第2モデル902の変数の変化に影響を及ぼすように構築され、第2モデル902は、その変数が第1モデル901に記述された変数の変化に影響を及ぼさず、第1モデル901内の変数を制限する制約のみに影響を及ぼすように構築される。
【0082】
【数1】
【0083】
【数2】
【0084】
【数3】
【0085】
【数4】
【0086】
【数5】
【0087】
【数6】
【0088】
【数7】
【0089】
したがって、図9に概略的に示すように、車両100および道路の状態は、第1モデル901の第1の状態903と第2モデル902の第2の状態904とに分解される。第1モデル901では、車体スリップ角と前後方向速度と横方向速度とで決まるタイヤスリップ角αは、第2モデル902の状態に影響を及ぼす(901a)。このため、第2モデル902の状態の変化は第1モデル901の状態に依存する。
【0090】
一方で、第1モデル901の状態の変化は第2モデル902の状態に依存しない。さらに、モータ牽引力uji905およびステアリング角δ906は第1モデル901および第2モデル902の両方に同時に影響を及ぼす。第1モデル901の変化した状態907と第2モデル902の変化した状態908とを組合わせて、予測モデル804(「フル予測モデル」とも称する)の変化した状態を得る。
【0091】
【数8】
【0092】
【数9】
【0093】
【数10】
【0094】
【数11】
【0095】
【数12】
【0096】
【数13】
【0097】
【数14】

予測モデルに対する制約
【0098】
いくつかの実施形態では、フル予測モデル804に対する制約803は、式(8)~(11)および(14)に基づいて構築される。
【0099】
【数15】
【0100】
【数16】
【0101】
【数17】
【0102】
【数18】
【0103】
【数19】

[安定性制御のための基準の処理]
【0104】
いくつかの実施形態は、運転者または自動運転システムが過度に積極的な車両状態への変更を要求する場合、車両100が安定性を失う、すなわち、車両100がスピンしてしまうという認識に基づいている。車両100の安定性の損失を回避するために、VCS200は制約803を実施する。しかしながら、所望の車両状態を積極的に高くまたは積極的に低く設定すると、VCS200が制約803を満たすことが困難になる。
【0105】
いくつかの実施形態は、MSC205aが、運転者または自動運転システムによって要求される所望の状態からのずれにペナルティを課す一方で、車両100の所望の状態を操作する(801)とともに、それを達成するためのモータ力およびステアリング角を決定することによって、車両100の安定性を確実にするという認識に基づいている。
【0106】
【数20】
【0107】
【数21】

[操縦性および快適性を達成するためのコスト関数]
【0108】
コスト関数802は、制約803を満たすコマンド信号のシーケンスのうちどのコマンド信号のシーケンスを選択すべきかを決定する。
【0109】
図12は、例示的な実施形態に従った、MSCシステム205aのコスト関数モジュール802のブロック図を示す。コスト関数802は、操縦性目標および快適性目標を達成するために、車両100の電気モータおよびステアリング角のコマンドのシーケンスを評価するために用いられる。ここで、コスト関数802は複数の項を含む。図12で説明するように、本開示のいくつかの実施形態では、コスト関数802は、複数の項から構築されるフルコスト関数1205である。
【0110】
操縦性項1201は、車両100の操縦性を達成する、すなわち、所望の車両状態を達成するように車両状態を変化させる、モータ力およびステアリングについてのコマンドのシーケンスを選択することを示す。
【0111】
【数22】
【0112】
【数23】
【0113】
いくつかの実施形態では、ピッチ、ロール、リフトジャーク、すなわち二次導関数もコスト関数802に追加される。
【0114】
【数24】
【0115】
【数25】
【0116】
いくつかの実施形態では、コマンド項1203はさらに、複数の電気モータおよびステアリングホイールへのコマンド信号の変化速度にペナルティを課すための第2のコスト項を含む。複数の電気モータおよびステアリングホイールに対するコマンド信号の変化速度がゼロからずれている場合、第2のコスト項を大きくすることによって、複数の電気モータおよびステアリングホイールに対するコマンド信号の変化速度にペナルティが課される。
【0117】
いくつかの実施形態は、追跡の目標が5つの利用可能な制御信号(4つの電気モータおよびステアリング角)に基づいて(操縦性目標および快適性目標についての)2つの平衡状態を決定するだけであるので、複数の定常状態が実現可能であるという認識に基づいている。いくつかの実施形態では、追加の定常状態目標が制御信号振幅に追加される。例えば、所望の定常状態ステアリング角は、所望のヨーレート
【数26】

の線形関数として決定される。式中、線形利得は、第1モデル901のステアリングからヨーレートまでのdc利得の逆数である。
【0118】
【数27】
【0119】
制約802はさらに、車両100の所望の状態が実現不可能性をもたらすのを確実に防ぐために車両100の所望の状態の変化にペナルティを課すための安定化項(「安定性項」とも称する)1204を含む。
【0120】
【数28】
【0121】
【数29】
【0122】
いくつかの実施形態では、Nステップの将来の範囲(「将来予測範囲」とも称する)中、およびこのような予測範囲の終わりに、予測モデル(16)の状態にペナルティを課すために追加の項が追加される。
【0123】
【数30】

[リアルタイム最適化]
【0124】
【数31】
【0125】
【数32】
【0126】
【数33】
【0127】
ステップ1303において、最適解805aは、勾配ベースの最適化、導関数なしの最適化、グローバルサーチ等の方法のうちの少なくとも1つを用いて数値最適化問題(25)を解くことによって計算される。いくつかの実施形態では、問題(26)についての解(23)は、ADMM(alternative direction method of multipliers)、アクティブセット、内部点、高速勾配を用いることによって計算される。
[モータおよびステアリングコマンドの構築]
【0128】
【数34】
【0129】
最初に、ステップ1401において、解ベクトル(すなわち、最適解805a)が解析され、将来の範囲1401aに沿ったモータ力およびステアリング角の変化に関するコマンドが、車両1401bの最適な初期状態および修正された所望の状態から分離される。
【0130】
ステップ1402において、ステアリング角に関する最適制御1402aが得られる。そのために、モータ力の将来の予測範囲の第1のステップ1401における変化をモータ力の現在の値に合計して、モータ力のためのコマンド(すなわち、コマンド信号)を得る。さらに、ステアリング角の将来の予測範囲の第1のステップ1401における変化をモータ力の現在の値に合計して、ステアリング角のための最適制御を得る。
【数35】
【0131】
ステップ1403では、最適な初期状態および修正された所望の状態を用いて、フィードバック項(19)を計算する(1403a)。
【0132】
ステップ1404において、コマンドの最適成分とコマンドのフィードバック成分とを合計してコマンド(「フルコマンド」とも称する)を得る(806a)。
【数36】
【0133】
フルコマンド806aは、車両100のアクチュエータコントローラ207に送信されて、車両100およびシャーシの状態を変更する。
[動作の概要]
【0134】
図15は、例示的な実施形態に従った、車両100のモーションを制御するための方法1500のステップを示す。図15の方法1500のステップは、本開示のいくつかの実施形態に従ってMSCシステム205aによって実行される。
【0135】
【数37】
【0136】
【数38】
【0137】
ステップ1503において、式(8)~(11)の公称制約および式(17)のロバスト制約が構築される。
【0138】
ステップ1504において、コスト関数項(図12の1201~1205)が構築され、式(23)のフルコスト関数802が構築される。
【0139】
さらに、ステップ1505において、コスト関数802に基づいて、最適制御問題(24)が構築され、次いで、式(25)の数値最適化問題に変換される。
【0140】
ステップ1506において、数値最適化問題が解かれる。
【0141】
ステップ1507において、コマンド信号の最適成分(27)およびコマンド信号のフィードバック成分(199)が計算される。さらに、コマンド信号の最適成分(27)およびコマンド信号のフィードバック成分(199)に基づいて、式(28)のフルコマンド806aが計算される。
【0142】
最後に、ステップ1508において、フルコマンド806aが、車両100のアクチュエータコントローラ207に送信されて実行されることで、車両の状態が変更される。
[実施形態]
【0143】
上述の説明は、例示的な実施形態のみを提供するものであって、本開示の範囲、利用可能性または構成を限定することを意図するものではない。むしろ、例示的な実施形態の上記の記載は、1つ以上の例示的な実施形態を実現するための実施可能な記載を当業者に提供するだろう。添付の特許請求の範囲に記載されるように開示される主題の精神および範囲から逸脱することなしに、要素の機能および構成においてなされ得るさまざまな変更が企図される。
【0144】
上記の説明では、実施形態の完全な理解を提供するために具体的な詳細が与えられている。しかしながら、当業者であれば、当該実施形態がこれらの具体的な詳細なしでも実施され得ることを理解するだろう。たとえば、開示される主題におけるシステム、プロセス、および他の要素は、実施形態を不必要な詳細により不明瞭にしないために、ブロック図の形態でコンポーネントとして示され得る。他の場合には、実施形態を不明瞭にすることを避けるために、周知のプロセス、構造および技術は不必要な詳細なしで示されることがある。さらに、さまざまな図面における同様の参照番号および名称は同様の要素を示す。
【0145】
また、個々の実施形態は、フローチャート、フロー図、データフロー図、構造図またはブロック図として示されるプロセスとして説明され得る。フローチャートは、動作を連続したプロセスとして記載する可能性もあるが、動作の多くは並列にまたは同時に実行され得る。加えて、動作の順序は並べ替えられてもよい。プロセスは、その動作が完了すると終了され得るが、記載されていないかまたは図に含まれていない付加的なステップを含む可能性もある。さらに、特定的に説明される任意のプロセスにおけるすべての動作がすべての実施形態において実行され得るわけではない。プロセスは方法、関数、手順、サブルーチン、サブプログラムなどに対応し得る。プロセスが関数に対応する場合、関数の終了は、呼び出し関数またはメイン関数への関数の復帰に対応し得る。
【0146】
さらに、開示される主題の実施形態は、少なくとも部分的に、手動または自動のいずれかで実現され得る。手動または自動の実現例は、マシン、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語、または、これらの任意の組み合せを用いることによって実行され得るかまたは少なくとも支援され得る。ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェアまたはマイクロコードで実現される場合、必要なタスクを実行するべきプログラムコードまたはコードセグメントはマシン可読媒体に格納され得る。プロセッサが必要なタスクを実行し得る。
【0147】
本明細書において概説されるさまざまな方法またはプロセスは、さまざまなオペレーティングシステムまたはプラットフォームのいずれか1つを採用する1つ以上のプロセッサ上で実行可能なソフトウェアとしてコード化され得る。加えて、そのようなソフトウェアは、いくつかの好適なプログラミング言語および/またはプログラミングもしくはスクリプトツールのいずれかを用いて書込まれ得るとともに、フレームワークまたは仮想マシン上で実行される実行可能なマシン言語コードまたは中間コードとしてコンパイルされ得る。典型的には、プログラムモジュールの機能は、さまざまな実施形態において所望されるように組合わされてもよく、または分散されてもよい。
【0148】
本開示の実施形態は、一例として提供された方法として具現化され得る。本方法の一部として実行される動作は任意の適切な態様で順序付けられてもよい。したがって、例示的な実施形態では連続的な動作として示されているが、動作が示されるのとは異なる順序で実行される実施形態が、いくつかの動作を同時に実行することも含めて、構築され得る。本開示は、いくつかの好ましい実施形態を参照して記載されてきたが、本開示の精神および範囲内で他のさまざまな適応および変更がなされ得ることが理解されるべきである。したがって、そのようなすべての変形および変更を本開示の真の精神および範囲内に収めるように網羅することが、添付の特許請求の範囲の局面である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
【国際調査報告】