(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-10-04
(54)【発明の名称】リチウム硫黄電池の正極用の炭素複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/168 20170101AFI20240927BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240927BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20240927BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240927BHJP
C01B 32/194 20170101ALI20240927BHJP
【FI】
C01B32/168
H01M4/58
H01M4/36 A
H01M4/136
H01M4/62 Z
C01B32/194
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024514707
(86)(22)【出願日】2023-03-30
(85)【翻訳文提出日】2024-03-06
(86)【国際出願番号】 KR2023004325
(87)【国際公開番号】W WO2024048888
(87)【国際公開日】2024-03-07
(31)【優先権主張番号】10-2022-0110385
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0187899
(32)【優先日】2022-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ヨ-チャン・ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チャン-フン・イ
(72)【発明者】
【氏名】スン-ボ・ヤン
【テーマコード(参考)】
4G146
5H050
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA11
4G146AA16
4G146AB06
4G146AB07
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC15B
4G146AC27A
4G146AD01
4G146BA01
4G146BA04
4G146CB23
4G146CB32
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA10
5H050EA01
5H050EA08
5H050FA17
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA07
(57)【要約】
本発明は、リチウム硫黄電池の正極に用いるための炭素複合体及びこの製造方法に関し、前記炭素複合体は、多孔性炭素材と、前記多孔性炭素材の表面に位置する窒化バナジウム粒子と、を含むことを特徴とする。
前記炭素複合体を使用したリチウム硫黄電池は、リチウムポリスルフィドを速やかにリチウムスルフィドに転換することで、リチウム硫黄電池の安定性を高めることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性炭素材と、
前記多孔性炭素材の表面に位置する窒化バナジウム粒子と、
を含む、炭素複合体。
【請求項2】
前記炭素複合体の比表面積が、250m
2/g以上である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項3】
前記炭素複合体の気孔体積が、1.0cm
3/g以上である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項4】
前記炭素複合体の平均気孔径が、10nm以上である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項5】
前記窒化バナジウム粒子の平均粒子径は、200nm以下である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項6】
前記窒化バナジウム粒子が、前記炭素複合体100重量部に対して3~50重量部含まれる、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項7】
前記多孔性炭素材は、カーボンナノチューブ(CNT)、還元された酸化グラフェン(rGO)またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の炭素複合体と、
前記炭素複合体の気孔内に担持される硫黄含有化合物と、
を含む、正極活物質。
【請求項9】
前記硫黄含有化合物と前記炭素複合体との重量比は、1:1~9:1である、請求項8に記載の正極活物質。
【請求項10】
集電体と、
前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、請求項8に記載の正極活物質及びバインダーを含む正極活物質層と、
を備える、正極。
【請求項11】
正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含み、
前記正極は、請求項10に記載の正極である、電池。
【請求項12】
集電体と、
前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、正極活物質、バインダー及び正極添加剤を含む正極活物質層と、
を備え、
前記正極活物質は、硫黄含有化合物を含むものであり、
前記正極添加剤は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の炭素複合体を含む、正極。
【請求項13】
前記正極添加剤は、前記正極活物質層の総100重量部に対して0.01重量部~30重量部含まれる、請求項12に記載の正極。
【請求項14】
正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含み、
前記正極は、請求項12に記載の正極である、電池。
【請求項15】
多孔性炭素材と、窒化バナジウムまたはその前駆体と、還元剤と、を溶媒に投入及び分散させる第1のステップと、
前記第1のステップの結果物をろ過して溶媒を取り除き、かつ乾燥させる第2のステップと、
前記第2のステップの結果物を不活性雰囲気下で熱処理する第3のステップと、
を含み、
前記第3のステップは、
350℃~650℃において熱処理する第1の過程と、
650℃~1400℃において熱処理する第2の過程と、
を含む、請求項1に記載の炭素複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム硫黄電池の正極に使用される炭素複合体及びその製造方法に関する。
【0002】
本出願は、2022年8月31日付け出願の韓国特許出願第2022-0110385号及び2022年12月28日付け出願の韓国特許出願第2022-0187899号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
リチウム硫黄電池は、S-S結合(sulfur-sulfur bond)を有する硫黄系物質を正極活物質として使用し、リチウム金属を負極活物質として使用した電池システムを意味する。前記正極活物質の主材料である硫黄は、世界中で資源量が豊富であり、毒性がなく、しかも、低い原子当たりの重さを有しているという長所がある。
【0004】
二次電池の応用領域が電気自動車(EV)、エネルギー貯蔵システム(ESS)などに広がることに伴い、重さに対して相対的に低いエネルギー貯蔵密度(~250Wh/kg)を有するリチウム-イオン二次電池に比べて、重さに対して理論上相対的に高いエネルギー貯蔵密度(~2,600Wh/kg)を実現することができることから、リチウム硫黄電池技術が脚光を浴びている。
【0005】
リチウム硫黄電池は、放電時に負極活物質であるリチウムが電子を出してリチウム陽イオンにイオン化されながら酸化され、正極活物質である硫黄系物質が電子を受け入れて還元される。ここで、硫黄系物質の還元反応を利用して前記S-S結合が2つの電子を受け入れて硫黄陰イオンの形態に変換される。リチウムの酸化反応により生成されたリチウム陽イオンは、電解質を介して正極に伝達され、これは、硫黄系化合物の還元反応により生成される硫黄陰イオンと結合して塩を形成する。具体的には、放電前の硫黄は、環状のS8構造を有しているが、これは、還元反応によりリチウムポリスルフィド(Lithium polysulfide, Li2Sx, x=8, 6, 4, 2に変換され、リチウムポリスルフィドが完全に還元されてリチウムスルフィド(Li2S)が生成される。
【0006】
ところが、充放電の過程において生じるリチウムポリスルフィドは、電解液に容易に溶出されて電池の容量の減少及びセルの退化を引き起こす。このようなリチウムポリスルフィドの溶出に関する問題を解消するために、多種多様な多孔性炭素素材の気孔に硫黄を担持して正極に活用しようとする取り組みが種々に行われている。特に、比表面積が大きな炭素を合成して適用するには生産コストに問題があるため、主として低い比表面積を有する炭素素材を物理的及び化学的に改質して正極に活用する取り組みが行われている。
【0007】
しかしながら、このような取り組みによってはリチウムポリスルフィドが溶出されるという問題はある程度解決できたとはいえ、リチウムポリスルフィドをリチウムスルフィド(Li2S)に転換する反応を促進することはできないという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、リチウムポリスルフィドのリチウムスルフィドへの転換を促進することのできるリチウム硫黄電池の正極用の炭素複合体及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明の一側面によれば、下記の態様の炭素複合体が提供される。
【0010】
第1の態様に記載の炭素複合体は、多孔性炭素材と、前記多孔性炭素材の表面に位置する窒化バナジウム粒子と、を含む。
【0011】
第2の態様によれば、前記炭素複合体の比表面積が、250m2/g以上である第1の態様に記載の炭素複合体であり得る。
【0012】
第3の態様によれば、前記炭素複合体の気孔体積が、1.0cm3/g以上である第1の態様または第2の態様に記載の炭素複合体であり得る。
【0013】
第4の態様によれば、前記炭素複合体の平均気孔径が、10nm以上である第1の態様から第3の態様のうちのいずれか1つの態様に記載の炭素複合体であり得る。
【0014】
第5の態様によれば、前記窒化バナジウム粒子の平均粒子径は、200nm以下である第1の態様から第4の態様のうちのいずれか1つの態様に記載の炭素複合体であり得る。
【0015】
第6の態様によれば、前記窒化バナジウム粒子が、炭素複合体100重量部に対して3~50重量部含まれる第1の態様から第5の態様のうちのいずれか1つの態様に記載の炭素複合体であり得る。
【0016】
第7の態様によれば、前記多孔性炭素材は、カーボンナノチューブ(CNT)、還元された酸化グラフェン(rGO)またはこれらの混合物を含む第1の態様から第6の態様のうちのいずれか1つの態様に記載の炭素複合体であり得る。
【0017】
本発明の他の側面によれば、下記の態様の正極活物質、正極及び電池が提供される。
【0018】
第8の態様に記載の正極活物質は、第1の態様から第7の態様のうちのいずれか一つの態様に記載の炭素複合体と、前記炭素複合体の気孔内に担持される硫黄含有化合物と、を含む。
【0019】
第9の態様によれば、前記硫黄含有化合物と前記炭素複合体との重量比は、1:1~9:1である第8の態様に記載の正極活物質であり得る。
【0020】
第10の態様に記載の正極は、集電体と、前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、第8の態様又は第9の態様に記載の正極活物質及びバインダーを含む正極活物質層と、を備える。
【0021】
第11の態様に記載の電池は、正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含み、前記正極は、第10の態様に記載の正極であるものとする。
【0022】
第12の態様に記載の正極は、集電体と、前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、正極活物質、バインダー及び正極添加剤を含む正極活物質層と、を備え、前記正極活物質は、硫黄含有化合物を含むものであり、前記正極添加剤は、第1の態様から第7の態様のうちのいずれか一つの態様に記載の炭素複合体を含むものとする。
【0023】
第13の態様によれば、前記正極添加剤は、前記正極活物質層の総100重量部に対して0.01~30重量部含まれる第12の態様に記載の正極であり得る。
【0024】
第14の態様に記載の電池は、正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含み、前記正極は、第12の態様又は第13の態様に記載の正極であるものとする。
【0025】
本発明のさらに他の側面によれば、下記の態様の炭素複合体の製造方法が提供される。
【0026】
第15の態様に記載の炭素複合体の製造方法は、多孔性炭素材と、窒化バナジウムまたはその前駆体と、還元剤と、を溶媒に投入及び分散させる第1のステップと、前記第1のステップの結果物をろ過して溶媒を取り除き、かつ乾燥させる第2のステップと、前記第2のステップの結果物を不活性雰囲気下で熱処理する第3のステップと、を含み、前記第3のステップは、350~650℃において熱処理する第1の過程と、650~1400℃において熱処理する第2の過程と、を含む。
【発明の効果】
【0027】
本発明による炭素複合体をリチウム硫黄電池の正極添加剤として使用したり、リチウム硫黄電池の硫黄含有化合物の担持体として使用したりして、リチウムポリスルフィドを速やかにリチウムスルフィドに転換することができる。
【0028】
また、本発明による炭素複合体の製造方法は、NH3のような有害ガス、及びフッ化水素(HF)のような強酸を使用せずに、均一に多孔性炭素支持体に触媒を担持することができる。
【0029】
本明細書に添付される次の図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割のためのものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の一実施形態による炭素複合体の比表面積を示すグラフである。
【
図2】本発明の一実施形態による炭素複合体を観察した走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図3】本発明の一実施形態による炭素複合体を観察したSEM写真である。
【
図4】本発明の比較例による炭素複合体を観察したSEM写真である。
【
図5】本発明の一実施形態によるリチウム硫黄電池の充放電性能の評価グラフである。
【
図6】本発明の比較例によるリチウム硫黄電池の充放電性能の評価グラフである。
【
図7】本発明の比較例によるリチウム硫黄電池の充放電性能の評価グラフである。
【
図8】本発明の一実施形態によるリチウム硫黄電池の性能の評価グラフである。
【
図9】本発明の一実施形態によるリチウム硫黄電池の性能の評価グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明について詳しく説明する。しかしながら、本発明は、下記の内容によってのみ限定されるものではなく、必要に応じて、各構成要素が種々に変形されたり選択的に混用されたりすることがある。したがって、本発明の思想及び技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物ないし代替物を含むものと理解されるべきである。
【0032】
この明細書中の全般にわたって、ある構成がある構成要素を「含む」としたとき、これは、特に断りのない限り、ある他の構成要素を除外するわけではなく、他の構成要素をさらに含み得ることを意味する。
【0033】
本明細書の全般にわたって、「A及び/又はB」という記載は、「AまたはBまたはこれらの両方」を意味する。
【0034】
この明細書中に記載されている物性について、測定条件及び方法が具体的に記載されていない場合、前記物性は、当該技術分野における通常の技術者により一般的に使用される測定条件及び方法に従って測定される。
【0035】
この明細書中において使われている用語「ポリスルフィド」は、「ポリスルフィドイオン(Sx
2-,x=8,6,4,2)」及び「リチウムポリスルフィド(Li2SxまたはLiSx,x=8,6,4,2」を両方とも含む概念である。
【0036】
この明細書中において使われている用語「複合体(composite)」とは、2種類以上の材料が組み合わせられて物理的・化学的には互いに異なる相(phase)を形成しながらさらに有効な機能を発現する物質のことを意味する。
【0037】
本発明は、リチウム硫黄電池に使用可能な炭素複合体を提供する。
【0038】
本発明の一側面によれば、前記炭素複合体は、リチウム硫黄電池の正極に使用され得る。
【0039】
本発明の一態様において、前記炭素複合体は、リチウム硫黄電池の正極において正極活物質とは別途に添加される正極添加剤として使用され得る。
【0040】
本発明の他の態様において、前記炭素複合体は、リチウム硫黄電池の正極において正極活物質、具体的には、硫黄含有化合物を担持する多孔性炭素支持体として使用され得る。
【0041】
本発明のさらに他の態様において、前記炭素複合体は、リチウム硫黄電池の正極において上述した正極添加剤及び正極活物質として使用され得る。
【0042】
本発明の一側面による炭素複合体は、多孔性炭素材、及び前記多孔性炭素材の表面に位置する窒化バナジウム(Vanadium Nitride)粒子を含む。
【0043】
通常のリチウム硫黄電池の充放電過程において、正極からリチウムポリスルフィドが溶出されるが、本発明の一側面による炭素複合体をリチウム硫黄電池の正極添加剤、及び硫黄含有化合物の担持体のうちの1種以上に適用する場合、前記炭素複合体に含まれている窒化バナジウム粒子が触媒として働いてリチウムポリスルフィドをリチウムスルフィドに速やかに転換することにより、リチウムポリスルフィドが電解液に溶出されることを防ぐことができる。
【0044】
本発明の一態様において、前記「多孔性炭素材」は、触媒としての窒化バナジウム粒子を支持するための支持体の機能を行うものであり得る。
【0045】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材は、窒化バナジウム粒子の触媒活性を向上させるために、少なくとも部分的に、または全体が結晶質であるものであり得る。例えば、非晶質の多孔性炭素材が正極添加剤及び/又は正極活物質の少なくとも一部として使用される場合、電池の電気化学反応において非晶質の炭素部分は抵抗として働いて電池の性能の低下を引き起こす虞がある。これにより、前記多孔性炭素材が少なくとも部分的に、または全体が結晶質である場合、これを使用した電極において抵抗を減少させ、窒化バナジウム粒子による触媒活性を向上させる役割を果たすことができるが、本発明の機序がこれに何ら限定されるものではない。
【0046】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材の結晶度は、X線回折(XRD:X-Ray Diffraction)分析法により測定し得る。「XRD」は、試料にX線を照射したとき、X線が原子の周りにある電子により散乱、干渉された結果として生じる回折(ブラック条件:2dsinθ=nλ:2つの面の間隔をd、X線と平面とがなす角をθ、任意の整数をn、X線の波長をλとする)を解析するものであり、これにより、構成成分の同定や定量、結晶サイズや結晶化度などを特定することが可能である。
【0047】
例えば、XRDスペクトルにおいて少なくとも1つの独立したピークが生じる場合、少なくとも部分的に結晶質であることが分かる。このとき、独立したピークは、ノイズに比べて1倍以上、1.5倍以上、2倍以上、5倍以上または10倍以上の信号が測定される。
【0048】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材が少なくとも部分的に結晶質である場合、非晶質炭素材に比べてさらに高い弾性を有し得る。ここで、例えば、前記非晶質炭素材は、Liuatal Nanoscale, 2018, 105246-5253に開示されている炭素材になり得る。
【0049】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材の全体が結晶質である場合に、非晶質炭素材に比べてさらに高い弾性を有することが可能になる。
【0050】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材は、外部の表面及び内部に多数の微小気孔を含み、前記微小気孔の平均直径は、例えば、1nm~200nmの範囲、例えば、1~100nm、10~80nmまたは20~50nmであり得る。前記気孔の平均直径は、当業界における周知のISO 15901:2019に従い測定され得るが、これに何ら限定されるものではない。
【0051】
また、本発明の一態様において、前記多孔性炭素材の気孔度(または、攻撃率と称する。)は、多孔性炭素材の全体の体積の10~90vol%の範囲であり得る。前記多孔性炭素材の気孔度は、当業界において公知となっているISO 15901:2019に準拠する方法に従って測定され得るが、測定方法がこれに何ら限定されるものではない。
【0052】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材の気孔体積(pore volume)は、例えば、1cm3/g~20cm3/gまたは1cm3/g~10cm3/gであり得る。前記気孔体積は、例えば、液体窒素の吸着に基づいて得られるN2等温線分析を用いて計算されて測定される値であり得る。前記多孔性炭素材の気孔体積が上記の範囲に収まる場合、触媒として働く前記窒化バナジウム粒子を多孔性炭素材の表面に十分に位置させる側面からみて有利であり得るが、本発明がこれに何ら限定されるものではない。
【0053】
前記気孔体積は、ASTMD 4641に基づいてAUTOSORB iQ series(製造社:カンタクローム(Quantachrome)社)を用いて測定可能であり、気孔体積は、液体窒素の吸着に基づいて得られるN2等温線分析を用いて計算されて測定される値であり得る。
【0054】
本発明の一態様において、多孔性炭素材の平均粒径(D50)は、10~80μmになり得る。例えば、複数の多孔性炭素材を一次粒子として二次粒子状の多孔性炭素材を形成し得、このとき、一次粒子としての多孔性炭素材の平均粒径(D50)が前記数値範囲に収まり得るのである。
【0055】
前記平均粒径(D50)は、粒径に応じた粒子体積の累積分布の50%の地点での粒径を意味する。前記粒子径は、レーザー回折法(laser diffraction method)を利用して測定し得る。具体的には、測定の対象の粉末を分散媒中に分散させた後、市販中のレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac S3500)に取り入れて粒子がレーザービームを通過するときの粒子径に応じた回折パターンの違いを測定して粒度分布を算出する。測定装置における粒径に応じた粒子体積の累積分布の50%となる地点での粒子の直径を算出することにより、D50を測定することができる。
【0056】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材は、例えば、100~2000m2/g、300~2000m2/g、400~1800m2/g、450~1500m2/gまたは500~1200m2/gの比表面積を有するものであり得る。前記比表面積は、当業界において公知となっているISO 15901:2019によるBET方法に従って測定され得るが、これに何ら限定されるものではない。前記多孔性炭素材の比表面積が上述した範囲であるとき、前記窒化バナジウム粒子を十分に担持可能であるという効果が奏されるが、本発明がこれに何ら限定されるものではない。
【0057】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材は、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン(Graphene)、酸化グラフェン(Graphen oxide;GO)、還元された酸化グラフェン(reduced graphene oxide;rGO)、カーボンブラック、グラファイト(Graphite)、グラファイトナノファイバー(Graphite nano fiber;GNF)、カーボンナノファイバー(carbon nano fiber;CNF)、活性化炭素ファイバー(activated carbon fiber;ACF)、天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛、活性炭、フラーレンまたはこれらのうちの2種以上の素材のうちから選択されるものを含み得る。
【0058】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材は、カーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube)及び還元された酸化グラフェン(reduced Graphene Oxide)のうちから選択される1種以上を含むものであり得る。
【0059】
本発明の一態様において、前記多孔性炭素材は、窒素、酸素及びリンのうちの少なくとも1つの元素によりドープされたものであり得る。
【0060】
本発明の他の態様において、前記多孔性炭素材は、窒素、酸素及びリンのうちの少なくとも1つの元素によりドープされた炭素ナノチューブ、窒素、酸素及びリンのうちの少なくとも1つの元素によりドープされた還元された酸化グラフェンまたはこれらの混合物を含み得る。
【0061】
前記カーボンナノチューブは、六角形の形状につながっている炭素がチューブの形状を呈しているものである。本発明の一態様によれば、前記カーボンナノチューブは、これを構成する炭素原子層(「炭素壁」とも称する。)の数に応じて単一壁カーボンナノチューブ(SWCNT)、多重壁カーボンナノチューブ(MWCNT)またはこれらの組み合わせになり得る。ここで、個別のカーボンナノチューブの長さは、特に制限されるものではない。
【0062】
本発明の他の態様において、前記カーボンナノチューブは、これらの間の凝集力により、2つ以上のカーボンナノチューブが互いに密着して絡み合っている形状で存在し得る。
【0063】
具体的には、本発明の一態様において、前記カーボンナノチューブは、分散媒などに単一本で存在するように分散させたカーボンナノチューブ分散液の形態として提供されることもあるが、一次構造のカーボンナノチューブが互いに凝集し合って二次構造体の形状として提供されることもある。このような側面からみて、前記多孔性炭素材がカーボンナノチューブを含む場合、前記カーボンナノチューブは、バンドル(束)状の二次構造体、交絡(entangled)状の二次構造体、またはこれらをいずれも網羅するものであり得る。前記カーボンナノチューブのバンドル状の二次構造体とは、単一本のカーボンナノチューブを一次構造にして、前記複数の一次構造が炭素間の凝集力などによりカーボンナノチューブの長手方向に配向され、互いに固まって塊状となっているものであって、バンドル状のCNT(bundled CNT)とも称されることがある。
【0064】
このように、炭素複合体に含まれるカーボンナノチューブは、1本以上のカーボンナノチューブがよれ合ったり絡み合ったりして形成されることにより、前記炭素複合体は、カーボンナノチューブの間に空間が形成される多孔性構造を有することが可能になる。
【0065】
前記還元された酸化グラフェンは、1つの還元された酸化グラフェンが撓んだ構造に形成されることもあれば、複数の還元された酸化グラフェンが互いに撓んで絡み合った構造に形成されることもある。あるいは、複数の還元された酸化グラフェンがくしゃくしゃになった(crumpled)形状に形成されることもある。このように、炭素複合体に含まれる還元された酸化グラフェンは、1つ以上の還元された酸化グラフェンが絡み合ったりくしゃくしゃになったりして形成されることにより、前記炭素複合体は、還元された酸化グラフェンの間に空間が形成される多孔性構造を有することが可能になる。
【0066】
前記炭素複合体は、上述した多孔性炭素材の表面に位置する窒化バナジウム粒子を含む。
【0067】
前記窒化バナジウム(Vanadium Nitride;VN)は、窒素とバナジウムの化合物を示す。前記窒化バナジウム粒子は、前記多孔性炭素材の表面に位置するものである。
【0068】
本発明の一態様において、前記「窒化バナジウム粒子」は、硫黄(S8)、リチウムスルフィド(Li2S)、リチウムポリスルフィド(Li2Sx,2≦x≦8)、ジスルフィド化合物またはこれらのうちの2種以上の混合物の酸化及び還元反応に対する触媒活性を有し得る。
【0069】
本発明の一態様において、前記窒化バナジウム粒子は、前記多孔性炭素材の外部の表面及び気孔の内部の表面のうちの少なくとも一方以上に位置するものであり得る。具体的には、前記窒化バナジウム粒子は、前記多孔性炭素材の外部の表面に吸着されて存在するものであり得る。
【0070】
本発明の一態様において、前記カーボンナノチューブは、六角形の形状につながっている炭素がチューブの形状を呈するものであるため、前記炭素複合体は、前記窒化バナジウム粒子がチューブの形状を呈するカーボンナノチューブの内部の表面及び/又は外部の表面に位置する構造を有するものであり得る。特に、前記窒化バナジウム粒子は、カーボンナノチューブの外部の表面に位置するものであり得る。ここで、前記窒化バナジウムを多孔性炭素材の表面に位置させる方法は、特に制限されることはないが、例えば、窒化バナジウムが多孔性炭素材の表面に接着されたり蒸着されたりすることにより行われ得る。
【0071】
本発明の一態様において、前記窒化バナジウム粒子の平均粒径(D50)は、200nm以下であり得、具体的には、平均粒径(D50)は、190nm以下、180nm以下、170nm以下、160nm以下または20nm以下になり得る。また、前記窒化バナジウム粒子の平均粒径(D50)は、1nm以上または2nm以上であり得る。前記窒化バナジウム粒子の平均粒径が上記の範囲に収まる場合、触媒の役割を果たす窒化バナジウム粒子の比表面積が広くなってリチウムポリスルフィドとさらに上手く反応することができ、放電時に生じるリチウムスルフィドによって表面にすべて覆い被さらなくなって可逆的に反応することが可能になり、多孔性炭素材の表面にさらに多くの触媒が位置することが可能になる。前記窒化バナジウム粒子の平均粒径(D50)は、多孔性炭素材の粒子径の測定方法と同様にして測定し得る。
【0072】
本発明の一態様において、前記窒化バナジウム粒子は、例えば、前記炭素複合体100重量部に対して3~50重量部の含量にて含まれ得、具体的には、前記炭素複合体100重量部に対して、3~40重量部、3~30重量部、40~50重量部、35~50重量部、10~40重量部または20~30重量部の含量にて含まれ得る。前記窒化バナジウム粒子が上記の範囲の含量にて含まれる場合、前記窒化バナジウム粒子は、リチウムポリスルフィドをリチウムスルフィドに速やかに転換し、リチウムポリスルフィドが電解液に溶出されることを防ぐことができ、適切な抵抗及び重量を保持することができる。
【0073】
本発明の一態様において、前記窒化バナジウムの表面の少なくとも一部が炭素層によりコーティングされたものであり得る。あるいは、前記窒化バナジウムの表面の全部が炭素層によりコーティングされたものであり得る。具体的には、前記炭素層が存在する場合、前記炭素層の層厚は、5nm以下になり得る。前記炭素層の層厚は、透過型電子顕微鏡(TEM)により測定され得る。炭素層の層厚が上記の範囲を満たすことにより、窒化バナジウム触媒の効果を保持しながらも、触媒の安定性は高める側面からみて有利である。
【0074】
本発明の一態様において、窒化バナジウムにコーティングされる炭素層は、1~3個または1~5個の層から形成され得る。このとき、炭素層の総層厚は、5nm以下になり得る。
【0075】
本発明の一態様において、前記炭素複合体の比表面積は、例えば、250m2/g以上であり得、具体的には、260m2/g以上、270m2/g以上、280m2/g以上、290m2/g以上または300m2/g以上であり得、400m2/g以下または500m2/g以下であり得る。前記炭素複合体の比表面積が上記の範囲に収まる場合、表面に位置している十分な量の窒化バナジウムによりリチウムポリスルフィドをリチウムスルフィドに転換する性能を十分に発揮することができ、放電時に生じるリチウムポリスルフィドまたはリチウムスルフィドにより炭素複合体の表面がすべて覆いかぶさらないので、可逆的に反応をすることができる。
【0076】
前記比表面積は、BET法により測定したものであって、具体的には、BEL Japan社製のBELSORP-mino IIを用いて液体窒素温度下(77K)での窒素ガスの吸着量から算出され得る。
【0077】
本発明の一態様において、前記炭素複合体の気孔体積が、例えば、1.0cm3/g以上であり得る。具体的には、前記炭素複合体の気孔体積が1.1cm3/g以上、1.2cm3/g以上、1.3cm3/g以上または1.4cm3/g以上であり得、2.5cm3/g以下、2.7cm3/g以下、3.0cm3/g以下であり得る。前記炭素複合体の気孔体積が上述した範囲であるとき、これを正極に使用した電池の電解質が気孔に十分に含浸されてイオン伝導度を向上させることができるだけではなく、炭素複合体の気孔を用いて硫黄(S8)の担持効率を向上させたり、正極の電気伝導度を向上させたりする上で有利な効果を奏するが、本発明がこれに何ら限定されるものではない。
【0078】
本発明の一態様において、前記炭素複合体の平均気孔径は、10nm以上であり得る。具体的には、前記炭素複合体の平均気孔径は、15nm以上または50nm以下、70nm以下、100nm以下であり得る。前記炭素複合体の平均気孔径がこのような範囲を満たす場合に、リチウムポリスルフィドを有効に吸着することができ、電解質が気孔に近づきやすくしてイオン伝導度を適切に保持することで、反応性を改善する側面からみて有利である。
【0079】
前記平均気孔径は、例えば、液体窒素の吸着に基づいて得られるN2等温線解析を通じて計算されて測定される値であり得る。
【0080】
本発明の一態様において、前記炭素複合体は、窒化バナジウム粒子の形成時に副産物として形成されるVxOy(0<x<2.0<y<5)を微量で含み得る。但し、VxOy(0<x<2.0<y<5)は、前記炭素複合体に含有される窒化バナジウム粒子の総重量に基づいて1重量%未満であり得る。このとき、前記含量は、熱重量分析(TGA:Thermo Gravimetric Analysis)を用いて950℃において残余質量を計算することにより測定し得る。
【0081】
本発明の一態様において、前記炭素複合体は、XRD(X-Ray Diffraction)ピークが2θで生じることを特徴とする。
【0082】
本発明の一態様において、炭素複合体のラマンスペクトルピークの強度比(ID/IG ratio)は、2.0以下であり得る。具体的には、前記ID/IG比は、0.5以上~2.0以下であり得る。前記強度比(ID/IG ratio)は、ラマン分光法を用いて得られる前記炭素複合体のスペクトルから得られるピーク強度IG及びID値を用いて測定され得る。前記IGは、結晶質部分のピーク(G-peak,1573/cm)を意味し、IDは、非晶質部分のピーク(D-peak,1309/cm)を意味する。したがって、このとき、ID/IG比の値が小さければ小さいほど、高結晶性を有することを示す。前記比が上記の範囲を満たす場合、電気伝導度及び機械的強度を適切に保持することができる。
【0083】
本発明の一態様において、前記炭素複合体の結晶度は、例えば、70%以上であり得る。前記結晶度は、ラマン分光解析法及びXRD分析法のうちの少なくとも一方を用いて測定されたことを特徴とする。前記結晶度が上記の範囲内に収まることで、適切な電気伝導度を保持しながらも、触媒の性能の低下を防ぎ、抵抗を一定のレベル以下に保持できる側面からみて有利である。
【0084】
本発明の他の側面によれば、上述した炭素複合体を含む正極活物質が提供される。
【0085】
具体的には、前記正極活物質は、リチウム硫黄電池に使用するためのものであり得る。
【0086】
本発明の一態様に記載の正極活物質は、上述した炭素複合体を支持体として含み、前記炭素複合体の気孔内に担持された硫黄含有化合物を含むものであり得る。
【0087】
本発明の一態様において、前記炭素複合体の気孔内に担持される硫黄含有硫黄化物は、無機硫黄(S8)、Li2Sn(n≧1)、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール(2,5-dimercapto-1,3,4-thiadiazole)、1,3,5-トリチオシアヌル酸(1,3,5-trithiocyanuic acid)などといったジスルフィド化合物、及び有機硫黄化合物からなる群から選択される1種以上を含み得る。好ましくは、無機硫黄(S8)を含み得る。
【0088】
本発明の一態様において、前記硫黄含有化合物と前記炭素複合体との重量比は、例えば、1:1~9:1であり得る。具体的には、前記硫黄含有化合物及び前記炭素複合体との重量比は、2:1~8:1、5:1~9:1または8:1~9:1になり得る。前記重量比がこのような範囲を満たす場合、硫黄含有化合物同士の間の塊化現象が防がれて電子を受け入れやすいので、電極の反応に直接的に与ることができ、正極スラリーの製造に際して必要となるバインダーの添加量が適切に制御されることが可能になって、電極の面抵抗が増加したりセル性能が低下したりする問題が防がれることが可能になる。
【0089】
本発明の他の側面によれば、上述した正極活物質を含む正極が提供される。
【0090】
前記正極は、集電体及び前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、上述した正極活物質及びバインダーを含む正極活物質層を備える。必要に応じて、前記正極活物質層は、導電材をさらに含み得る。
【0091】
本発明の一態様において、前記バインダーは、正極活物質を正極集電体に保持させ、正極活物質同士を有機的につなげてこれらの間の結着力をさらに高めるものであって、当業界において公知となっているあらゆるバインダーが使用可能である。例えば、前記バインダーは、ポリビニリデンフルオライド(polyvinylidene fluoride;PVdF)またはポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoro ethylene;PTFE)を含むフッ素樹脂系バインダーと、スチレン-ブタジエンゴム(styrene butadiene rubber;SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレンゴムを含むゴム系バインダーと、カルボキシメチルセルロース(carboxyl methyl cellulose;CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系バインダーと、ポリアルコール系バインダーと、ポリエチレン、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系バインダーと、ポリイミド系バインダーと、ポリエステル系バインダーと、ポリアクリル系バインダーと、シラン系バインダーと、からなる群から選択された1種、2種以上の混合物または共重合体が使用可能である。
【0092】
本発明の一態様において、前記バインダーの含量は、前記正極活物質層の全重量を100重量部としたとき、例えば、0.5~30重量部にて添加され得る。前記バインダーの含量がこのような範囲を満たす場合、正極の物理的な性質が改善されて正極内の活物質と導電材が脱落するという現象が防がれることが可能になり、正極において活物質と導電材との比率が適切に制御されて電池の容量が確保されることが可能になる。
【0093】
本発明の一態様において、前記導電材は、電解液と正極活物質とを電気的に接続して集電体から電子が正極活物質まで移動する経路の役割を果たす物質であって、導電性を有するものであれば、制限なしに使用可能である。一実施形態において、前記導電材としては、スーパーP(Super-P)、デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、カーボンブラックなどのカーボンブラック;炭素ナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどの炭素誘導体;炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維;フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉末などの金属粉末;またはポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロールなどの伝導性高分子を単独にてまたは混合して使用可能である。また、導電材として本発明による炭素複合体を使用することも可能である。
【0094】
本発明の一態様において、前記導電材が含まれる場合、前記導電材の含量は、前記正極活物質層の全体の100重量部に基づいて、0.01~30重量部含まれ得る。
【0095】
本発明の一態様において、前記集電体は、正極活物質層を支持し、当該電池に化学的な変化を引き起こさず、高い導電性を有するものであれば、特に制限されるものではない。例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、パラジウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、銀などにより表面処理を施したもの、アルミニウム-カドミウム合金などが使用可能である。
【0096】
本発明の一態様において、前記集電体は、その表面に微小な凹凸を形成して正極活物質との結合力を強化させることができ、フィルム、シート、箔、メッシュ、ネット、多孔質体、発泡体、不織布など多種多様な形態のものが使用可能である。
【0097】
本発明の一態様において、前記集電体の厚さは、特に制限するものではないが、例えば、3~500μmであり得る。
【0098】
本発明の他の側面によれば、上述した正極を使用する電池、特に、リチウム二次電池用の電池、具体的には、リチウム硫黄電池を提供することができる。
【0099】
前記電池は、正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含む。
【0100】
前記正極は、上述した事項を援用する。
【0101】
本発明の一態様において、前記負極及びセパレーターは、本発明の目的を損なわない限りにおいて、リチウム硫黄電池に使用可能なものであれば、特に制限なしに使用可能である。前記負極は、例えば、リチウム金属(リチウムメタル)が使用可能である。
【0102】
本発明の一態様において、前記セパレーターは、通常、リチウム硫黄電池のセパレーターとして使用可能なものであれば、制限なしに使用可能である。
【0103】
本発明の一態様において、前記セパレーターは、多孔性のポリオレフィン基材を含み得、必要に応じて、前記多孔性のポリオレフィン基材の少なくとも片面に無機物粒子をさらに含み得る。また、前記セパレーターは、必要に応じて、前記無機物粒子を結着するバインダーをさらに含み得る。
【0104】
本発明の他の態様において、前記セパレーターは、固体電解質を含むフィルム状の電解質膜であってもよく、必要に応じて、前記固体電解質を結着するバインダーをさらに含み得る。前記固体電解質は、高分子系固体電解質、無機物系固体電解質またはこれらの混合構成など、通常、リチウム硫黄電池に使用可能なものであれば、制限なしに使用可能である。
【0105】
本発明の一態様において、前記電解液は、通常、リチウム硫黄電池に使用可能なものを含む。前記電解液は、リチウム塩及び非水系溶媒を含み得る。
【0106】
前記リチウム塩は、通常、リチウム硫黄電池の電解液に使用可能なものであれば、制限なしに使用可能である。前記リチウム塩は、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiC4BO8、LiAsF6、LiSbF6、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)2NLi、(SO2F)2NLi、(CF3SO2)3CLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、4フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミドまたはこれらのうちの2種以上を含み得るが、これらに何ら制限されるものではない。
【0107】
前記非水系溶媒は、通常、リチウム硫黄電池の電解液に使用可能なものであれば、制限なしに使用可能である。前記非水系溶媒は、例えば、環状カーボネート溶媒、線状カーボネート溶媒、エステル溶媒、ケトン溶媒またはこれらのうちの2種以上の混合溶媒を含み得るが、これらに何ら制限されるものではない。
【0108】
本発明の一態様において、前記電解液は、リチウム塩として(CF3SO2)2NLiを含み、非水系溶媒としてジオキソラン(DOL)/ジメトキシエタン(DME)の2成分系を含むものであり得る。例えば、前記電解液は、LiNO3などの通常の添加剤をさらに含み得る。
【0109】
本発明の一態様において、前記リチウム硫黄電池の外形は、例えば、コイン状、円筒状、パウチ状または角形などになり得、電池の外形は、特に制限されるものではない。また、前記リチウム硫黄電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに使用可能であるだけではなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールに単位電池としても使用可能であり、その使用形態に特に制限されるものではない。
【0110】
本発明のさらに他の側面によれば、上述した炭素複合体を正極添加剤として添加した正極が提供される。
【0111】
本発明の一態様において、前記正極は、集電体、及び前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、正極活物質、バインダー及び正極添加剤を含む正極活物質層を備え、前記正極活物質は、硫黄含有化合物を含み、前記正極添加剤が上述した炭素複合体を含むものとする。
【0112】
本発明の一態様において、前記正極添加剤が上述した炭素複合体である場合、前記正極添加剤は、例えば、前記正極活物質層の総100重量部に対して0.1~30重量部含まれ得る。具体的には、前記正極添加剤は、前記正極活物質層の総100重量部に対して0.5~20重量部、1~10重量部または1~5重量部含まれ得る。前記正極添加剤が上記の範囲にて含まれる場合、活物質粒子同士の間または活物質と集電体との間の電気伝導度を向上させ、電極内の抵抗を減少させるのに有利であるという効果を奏する。また、前記正極添加剤が圧縮された活物質粒子の間に分散されることにより、活物質粒子同士の間に微小気孔を保持して電解液が浸透し易くなる。
【0113】
本発明のさらに他の側面によれば、上述した炭素複合体を正極添加剤として使用した正極を含む電池が提供される。
【0114】
前記電池は、正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含み、前記正極は、上述した炭素複合体を正極添加剤として含む。
【0115】
このとき、前記負極、セパレーター及び電解質については、上述した事項を援用する。
【0116】
本発明のさらに他の側面によれば、上述した炭素複合体の製造方法が提供される。
【0117】
前記炭素複合体は、上述したように、多孔性炭素材と、前記多孔性炭素材の表面に位置する窒化バナジウム粒子と、を含む。
【0118】
前記炭素複合体の製造方法は、多孔性炭素材、窒化バナジウムまたはその前駆体、及び還元剤を溶媒に投入及び分散させる第1のステップと、前記第1のステップの結果物をろ過して溶媒を取り除き、かつ乾燥させる第2のステップと、前記第2のステップの結果物を不活性雰囲気下で熱処理する第3のステップと、を含む。
【0119】
本発明の一態様において、前記窒化バナジウムの前駆体は、ジシアンジアミド(Dicyandiamide)、アンモニウムメタバナデート(NH4VO3)、酸化バナジウム(vanadium Oxides)、アンモニア(NH3)及び塩化アンモニウム(ammonium chloride)などから選択される1種以上または2種以上を含み得る。
【0120】
例えば、前記窒化バナジウムは、ジシアンジアミドとアンモニウムメタバナデートとの合成反応により生成されるものであり得る。
【0121】
本発明の一態様において、前記還元剤は、グルコース(Glucose)、スクロース(Sucrose)、ラクトース(Lactose)、フラクトース(Fructose)、澱粉(Starch)、ポリドパミン(polydopamine)及びタンニン酸(Tannic acid)のうちから選択される1種以上または2種以上を含み得る。
【0122】
本発明の一態様において、前記第1のステップにおいて使用される溶媒は、ジメチルカーボネート、ジメチルホルムアミド、N-メチルホルムアミド、スルホラン(テトラヒドロチオフェン-1,1-ジオキシド)、3-メチルスルホラン、N-ブチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ピロリジノン(HEP)、ジメチルピぺリドン(DMPD)、N-メチルピロリジノン(NMP)、N-メチルアセトアミド、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルアセトアミド(DEAc)ジプロピルアセトアミド(DPAc)、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、エチレングリコール、テトラクロロエチレン、プロピレングリコール、トルエン、テルペンチン、メチルアセテート、エチルアセテート、石油エーテル、アセトン、クレゾール及びグリセロールからなる群から選択される1種以上の有機溶媒であり得る。
【0123】
本発明の一態様において、前記第1のステップにおいて投入される多孔性炭素材100重量部に基づいて、前記窒化バナジウムまたはその前駆体の含量は、1~100重量部または5~40重量部になり得、前記還元剤の含量は、10~100重量部または20~80重量部になり得る。前記窒化バナジウムまたはその前駆体及び還元剤が上記の範囲を満たすことで、適正レベルの窒化バナジウム触媒粒子が多孔性炭素材の表面に均一に形成されることが可能になる。また、電気伝導度の低い非結晶質炭素が最小限に抑えられ、大きな比表面積を保持しながらも、触媒の表面を最大限に露出させることが可能になることによって、リチウムポリスルフィドの反応性を極大化させて電解液中に溶出されないようにするのに有利な効果を奏するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0124】
本発明の一態様において、前記第1のステップにおいては、分散は、超音波処理及び/又は磁石攪拌により行われ得る。
【0125】
本発明の一態様において、前記第2のステップにおいて、溶媒の取り除きは、減圧ろ過(Vaccum filtration)により行われ得る。また、前記乾燥は、50℃~150℃の温度条件下で行われ得る。また、前記乾燥は、例えば、1~48時間の間に行われ得る。
【0126】
本発明の一態様において、前記第3のステップは、低温下で熱処理する第1の過程及び高温下で熱処理する第2の過程を含む。具体的には、第1の過程においては、窒化バナジウム前駆体が熱分解及び還元されて窒化バナジウムが生成されるように行われ得、第2の過程においては、炭化反応が進められて窒化バナジウム粒子が多孔性炭素材の表面に結着されるように行われ得る。
【0127】
本発明の一態様において、前記第3のステップは、350~650℃において熱処理する第1の過程及び650~1400℃において熱処理する第2の過程を含み得る。
【0128】
本発明の一態様において、前記第1の過程は、具体的には、350~650℃、500~650℃または550~650℃において行われ得る。
【0129】
本発明の一態様において、前記第2の過程は、具体的には、650~1400℃、700~900℃または750~850℃において行われ得る。
【0130】
本発明の一態様において、前記第3のステップは、不活性雰囲気下で行われ得、不活性雰囲気は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、二酸化炭素及び窒素のうちから選択される1種以上の気体を用いて形成され得る。
【0131】
本発明の一態様において、上述した炭素複合体を製造する方法は、NH3、HF及び酸解離定数(pKa)が4.0以下である酸を使用しないことを特徴とするものであってもよい。
【0132】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに詳しく説明するが、下記の実施例は、単に本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明の範ちゅうがこれらにのみ何ら限定されるものではない。
【0133】
[炭素複合体の製造]
実施例1
エタノールと水とが1:1の体積比で混合されている500mLの溶媒にカーボンナノチューブ1.6gと、ジシアノジアミド24g及びアンモニウムメタバナデート0.8gと、グルコース0.2gと、を混合させ、超音波処理及び磁石攪拌を行うことで溶解及び分散させた。
【0134】
この後、減圧ろ過を行うことで、カーボンナノチューブの表面の上に吸着された窒化バナジウム前駆体を除いた溶媒を取り除いた。
【0135】
この後、80℃のオーブンにおいて12時間かけて乾燥させた。
【0136】
この後、不活性雰囲気のチューブ炉において、600℃において3時間かけて、800℃において2時間かけて熱処理を施してカーボンナノチューブの表面に窒化バナジウム粒子が位置する炭素複合体を得た。このとき、得られた炭素複合体100重量部に対して、前記窒化バナジウム粒子の含量は、20重量部であった。前記窒化バナジウム粒子の含量は、熱重量分析装置(TGA)を用いて測定した。
【0137】
実施例2
カーボンナノチューブの代わりに還元グラフェンオキシドを用いた以外は、実施例1の方法と同様にして還元グラフェンオキシドの表面に窒化バナジウム粒子が位置する炭素複合体を得た。このとき、得られた炭素複合体100重量部に対して、前記窒化バナジウム粒子の含量は、20重量部であった。前記窒化バナジウム粒子の含量は、熱重量分析装置(TGA)を用いて測定した。
【0138】
比較例1
エタノールと水とが1:1の体積比で混合されている500mLの溶媒にジシアノジアミド24g及びアンモニウムメタバナデート0.8gと、グルコース0.8gと、を混合させ、超音波処理及び磁石攪拌を行うことで溶解及び分散させた。
【0139】
この後、減圧ろ過を行うことで、ジシアノジアミド及びアンモニウムメタバナデートを除いた溶媒を取り除いた。
【0140】
この後、80℃のオーブンにおいて12時間かけて乾燥させた。
【0141】
この後、不活性雰囲気のチューブ炉において、600℃において3時間かけて、800℃において2時間かけて熱処理を施してグルコースから炭化過程により形成される非晶質炭素の表面に窒化バナジウム粒子が位置する炭素複合体を得た。
【0142】
このとき、得られた炭素複合体100重量部に対して、前記窒化バナジウム粒子の含量は、20重量部であった。窒化バナジウム粒子の含量は、熱重量分析装置(TGA)を用いて測定した。
【0143】
炭素複合体の物性の評価
実施例1、実施例2及び比較例1により製造された炭素複合体において、比表面積、気孔体積及び平均気孔径を、BEL Japan社製のBELSORP-mino IIを用いて、液体窒素温度下(77K)での窒素ガスの吸着量から算出する方法に従って測定した。
【0144】
また、ラマン分光法を用いて上記において製造した炭素複合体内の炭素の結晶化度を測定し、測定の結果として得られたスペクトルを用いてID/IG比を導き出した。
【0145】
上記の方法に従って評価された物性値を下記の表1に示す。
【0146】
【0147】
図1には、実施例1、実施例2及び比較例1による炭素複合体の77K N
2等温線を測定した結果を示す。
【0148】
図2は、カーボンナノチューブの表面に窒化バナジウム粒子が位置している実施例1の炭素複合体を観察したSEM写真である。
図2のSEM像は、10μmX10μmの面積に対して、2,000倍の倍率により得られた像である。
【0149】
図3は、還元グラフェンオキシドの表面に窒化バナジウム粒子が位置している実施例2の炭素複合体を観察したSEM写真である。
図3のSEM像は、10μmX10μmの面積に対して、2,000倍の倍率により得られた像である。
【0150】
図4は、非晶質炭素であるカーボンナノチューブの表面に窒化バナジウム粒子が位置している比較例1の炭素複合体を観察したSEM写真である。
図4のSEM像は、10μmX10μmの面積に対して、2,000倍の倍率により得られた像である。
【0151】
図2から
図4を参照すると、それぞれカーボンナノチューブ、還元グラフェンオキシド、非晶質炭素の表面に窒化バナジウム粒子が一様に形成されていることを確認することができた。非晶質炭素の表面に形成された窒化バナジウム粒子の平均粒径(D
50)は、1μmであって、窒化バナジウム粒子がかなり固まって塊状となっていることを確認することができる。これに対し、還元グラフェンオキシドまたはカーボンナノチューブの表面に形成された窒化バナジウム粒子は、平均粒径(D
50)が0.1μm以下であることを確認することができる。
【0152】
[リチウム硫黄電池の製造]
実施例3
<正極の製造>
正極活物質として、カーボンナノチューブに硫黄が担持された多孔性炭素支持体を用意した。このとき、炭素複合体と硫黄(S8)との重量比を1:3にした。ここに、正極添加剤として実施例1の炭素複合体を使用し、バインダーとしてポリアクリル酸(polyacrylic acid;PAA)を混合して正極スラリーを製造した。
【0153】
このとき、正極活物質、正極添加剤、及びバインダーの重量比は、88:5:7であった。
【0154】
前記スラリーをアルミニウム箔にMathis(マティス)コーティング装置を用いてコートし、50℃の温度において24時間かけて乾燥させ、この後、圧延して正極を製造した。
【0155】
<リチウム硫黄電池の製造>
負極として45μmの膜厚のリチウム金属薄膜を用意し、電解質として、1,3-ジオキソランとジメチルエーテル(DOL:DME=1:1(体積比))とからなる有機溶媒に1M濃度のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)と1重量%の硝酸リチウム(LiNO3)を溶解させた混合液を製造した。
【0156】
前記製造及び用意した正極と負極を対面するように位置させ、それらの間に厚さ16μm、気孔度46%のポリエチレンセパレーターを介在させた後、前記電解質70μlを注入してリチウム硫黄電池を製造した。
【0157】
実施例4
正極添加剤として、実施例1の炭素複合体の代わりに実施例2の炭素複合体を使用したことを除いては、実施例3の方法と同様にしてリチウム硫黄電池を製造した。
【0158】
実施例5
<正極の製造>
正極活物質として、実施例1において製造された炭素複合体に硫黄(sulfur)を溶融担持法を利用して担持したものを用意した。具体的には、炭素複合体を硫黄(S8)と混ぜて均一に混合した。この後、150℃のオーブンにおいて30分間熱処理して炭素複合体の内部に硫黄を含浸させた。このとき、炭素複合体と硫黄との重量比を1:3にした。
【0159】
ここに、ポリアクリル酸(polyacrylic acid;PAA)バインダーと炭素繊維(Carbon fiber)導電材を混合して正極スラリーを製造した。このとき、スラリーにおいて、正極活物質、導電材及びバインダーの重量比は、88:5:7であった。
【0160】
前記スラリーをアルミニウム箔にマティスコーティング装置を用いてコートし、50℃の温度において24時間かけて乾燥させ、この後、圧延して正極を製造した。
【0161】
<リチウム硫黄電池の製造>
負極として、45μmの膜厚のリチウム金属薄膜を用意し、電解質として、1,3-ジオキソランとジメチルエーテル(DOL:DME=1:1(体積比))とからなる有機溶媒に1M濃度のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)と1重量%の硝酸リチウム(LiNO3)を溶解させた混合液を用意した。
【0162】
前記製造及び用意した正極と負極を対面するように位置させ、それらの間に厚さ16μm、気孔度46%のポリエチレンセパレーターを介在させた後、前記電解質70μlを注入してリチウム硫黄電池を製造した。
【0163】
比較例2
正極添加剤として、実施例1の炭素複合体の代わりにカーボンナノチューブ(CNT)を使用したことを除いては、実施例3の方法と同様にしてリチウム硫黄電池を製造した。
【0164】
比較例3
正極添加剤として、実施例1の炭素複合体の代わりに比較例1の炭素複合体を使用したことを除いては、実施例3の方法と同様にしてリチウム硫黄電池を製造した。
【0165】
比較例4
正極添加剤として、実施例1において製造された炭素複合体の代わりにカーボンナノチューブ(CNT)を使用したことを除いては、実施例5の方法と同様にして正極及びリチウム硫黄電池を製造した。
【0166】
比較例5
<正極の製造>
正極活物質として、カーボンナノチューブ(CNT)に硫黄(sulfur)を溶融担持法を利用して担持したものを用意した。具体的には、炭素複合体を硫黄(S8)と混ぜて均一に混合した。この後、150℃のオーブンにおいて30分間熱処理して炭素複合体の内部に硫黄を含浸させた。このとき、炭素複合体と硫黄との重量比を1:3にした。
【0167】
ここに、ポリアクリル酸(polyacrylic acid;PAA)バインダー、ポリビニルアルコール(poly vinyl alcohol)、PVA(ポリビニルアルコール)増粘剤及びカーボンナノチューブ導電材をさらに投入しかつ混合して正極スラリーを製造した。スラリーにおいて、正極活物質、バインダー、増粘剤及び導電材の重量比は、88:6.5:0.5:5にした。
【0168】
前記スラリーをアルミニウム箔にマティスコーティング装置を用いてコートし、50℃の温度において24時間かけて乾燥させ、この後、圧延して正極を製造した。
【0169】
<リチウム硫黄電池の製造>
負極として45μmの膜厚のリチウム金属薄膜を用意し、電解質として、1,3-ジオキソランとジメチルエーテル(DOL:DME=1:1(体積比))とからなる有機溶媒に1M濃度のリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)と1重量%の硝酸リチウム(LiNO3)を溶解させた混合液を用意した。
【0170】
前記製造及び用意した正極と負極を対面するように位置させ、それらの間に厚さ16μm、気孔度46%のポリエチレンセパレーターを介在させた後、前記電解質70μlを注入してリチウム硫黄電池を製造した。
【0171】
[リチウム硫黄電池の性能の評価]
上記において製造した実施例3~実施例5、比較例2~比較例5のリチウム硫黄電池に対して、循環電流電圧法(CV)により性能を評価してその結果を
図5から
図9に示す。
【0172】
具体的には、評価の対象の電池に対して、1.7V~2.8V(vs Li/Li
+)の電圧範囲において、最初の3回の充放電は0.1Cで、この後の3回の充放電は0.3Cで、その後の充放電は0.5Cの電流密度で充放電を繰り返し行い、最初のサイクルでの容量-電圧曲線(
図5、
図7、
図8)、電圧-電流密度曲線(
図6)及びサイクル-比容量曲線(
図9)を示す。
【0173】
図5を参照すると、正極添加剤として、多孔性炭素材の上に窒化バナジウム粒子が含有されている炭素複合体を使用した実施例3及び実施例4の電池は、比較例5の電池に比べて、窒化バナジウム粒子の触媒活性によって電池の性能が向上したことを確認することができた。このことから、窒化バナジウム粒子によってリチウム硫黄電池の過電圧を改善し、リチウムポリスルフィドがリチウムスルフィドに転換される速度を改善することができるということを確認することができた。特に、カーボンナノチューブを使用した実施例3の方が、還元酸化グラフェンを使用した実施例4に比べてさらに抜群の性能を示せることが確認された。
【0174】
また、
図6及び
図7を参照すると、正極添加剤として、比表面積が小さく、気孔が小さく、しかも、非晶質炭素の表面に窒化バナジウム粒子が位置する比較例1の炭素複合体を使用する比較例3の電池は、非晶質炭素の低い電気伝導度によって抵抗が増加し、これにより、むしろ窒化バナジウム粒子を含有しない正極を使用した比較例5よりも性能に劣っていることが確認された。
【0175】
図8及び
図9を参照すると、実施例5のリチウム硫黄電池において、過電圧の改善及び転換反応の促進による性能の改善効果を確認することができた。このことから、多孔性炭素材の上に窒化バナジウム粒子を含有する炭素複合体に硫黄(S
8)を担持し、これを正極活物質として使用することにより、リチウム硫黄電池の性能を向上させることができるということを確認した。
【0176】
以上、本発明については、たとえ限定された実施形態と図面により説明されたが、本発明はこれらに何ら限定されるものではなく、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者により、本発明の技術的な思想と特許請求の範囲の均等な範囲内において様々な修正及び変形を加えることが可能であるということはいうまでもない。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に結晶質である多孔性炭素材と、
前記多孔性炭素材の表面に位置する窒化バナジウム粒子と、
を含む、炭素複合体。
【請求項2】
前記炭素複合体の比表面積が、250m
2/g以上である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項3】
前記炭素複合体の気孔体積が、1.0cm
3/g以上である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項4】
前記炭素複合体の平均気孔径が、10nm以上である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項5】
前記窒化バナジウム粒子の平均粒子径は、200nm以下である、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項6】
前記窒化バナジウム粒子が、前記炭素複合体100重量部に対して3~50重量部含まれる、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項7】
前記多孔性炭素材は、カーボンナノチューブ(CNT)、還元された酸化グラフェン(rGO)またはこれらの混合物を含む、請求項1に記載の炭素複合体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の炭素複合体と、
前記炭素複合体の気孔内に担持される硫黄含有化合物と、
を含む、正極活物質。
【請求項9】
前記硫黄含有化合物と前記炭素複合体との重量比は、1:1~9:1である、請求項8に記載の正極活物質。
【請求項10】
集電体と、
前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、請求項8に記載の正極活物質及びバインダーを含む正極活物質層と、
を備える、正極。
【請求項11】
正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含み、
前記正極は、請求項10に記載の正極である、電池。
【請求項12】
集電体と、
前記集電体の少なくとも片面の上に位置し、正極活物質、バインダー及び正極添加剤を含む正極活物質層と、
を備え、
前記正極活物質は、硫黄含有化合物を含むものであり、
前記正極添加剤は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の炭素複合体を含む、正極。
【請求項13】
前記正極添加剤は、前記正極活物質層の総100重量部に対して0.01重量部~30重量部含まれる、請求項12に記載の正極。
【請求項14】
正極、負極、前記正極と負極との間に介在しているセパレーター、及び電解質を含み、
前記正極は、請求項12に記載の正極である、電池。
【請求項15】
多孔性炭素材と、窒化バナジウムまたはその前駆体と、還元剤と、を溶媒に投入及び分散させる第1のステップと、
前記第1のステップの結果物をろ過して溶媒を取り除き、かつ乾燥させる第2のステップと、
前記第2のステップの結果物を不活性雰囲気下で熱処理する第3のステップと、
を含み、
前記第3のステップは、
350℃~650℃において熱処理する第1の過程と、
650℃~1400℃において熱処理する第2の過程と、
を含む
、炭素複合体の製造方法。
【国際調査報告】