(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-08
(54)【発明の名称】活性物質の溶解度を高めるための組成物、組成物の調製方法、及び組成物の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241031BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241031BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20241031BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/16 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/00 20060101ALI20241031BHJP
A61K 9/02 20060101ALI20241031BHJP
A61K 8/98 20060101ALI20241031BHJP
A61Q 90/00 20090101ALI20241031BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20241031BHJP
D06M 14/06 20060101ALI20241031BHJP
D06M 13/148 20060101ALI20241031BHJP
A61K 31/12 20060101ALN20241031BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P39/06
A61K47/46
A61K9/10
A61K9/06
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/20
A61K9/12
A61K9/70 401
A61K9/00
A61K9/02
A61K8/98
A61Q90/00
A23L33/10
D06M14/06
D06M13/148
A61K31/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024523628
(86)(22)【出願日】2022-10-19
(85)【翻訳文提出日】2024-05-29
(86)【国際出願番号】 EP2022079121
(87)【国際公開番号】W WO2023067013
(87)【国際公開日】2023-04-27
(32)【優先日】2021-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517104792
【氏名又は名称】フィリップス-ウニヴェルシテート・マールブルク
(74)【代理人】
【識別番号】100107364
【氏名又は名称】斉藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】ケック,コーネリア
【テーマコード(参考)】
4B018
4C076
4C083
4C084
4C206
4L033
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018MD72
4B018ME14
4B018MF07
4C076AA01
4C076AA06
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4C076AA17
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4C076EE58E
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4C083AA071
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4C083DD15
4C083DD16
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4C083DD22
4C083DD23
4C083DD31
4C083DD41
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4C084MA22
4C084MA23
4C084MA28
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4C206AA01
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4C206NA10
4C206NA11
4C206ZC02
4L033AC15
4L033BA00
4L033BA12
(57)【要約】
本出願は、活性物質の溶解度を高める組成物であって、粉砕殻材料を含み、その粉砕殻材料の上又は中に活性物質が収着される組成物に関する。更に、その組成物の製造方法及び使用について記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性物質の溶解度を高める組成物であって、粉砕殻材料を含み、前記粉砕殻材料の上又は中に前記活性物質が収着される組成物。
【請求項2】
前記組成物は、溶液を得るために、前記活性物質の溶解度を高めるべき溶剤とは別の溶剤に前記活性物質を溶かすステップと、前記溶液と前記粉砕殻材料とを混合するステップと、任意選択で、前記活性物質が溶けている前記溶剤の少なくとも一部を除去するステップと、によって得られる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記活性物質は活性薬剤成分である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記粉砕殻材料は粉砕卵殻及び/又は粉砕堅果殻である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記粉砕卵殻はめんどりの卵に由来する、且つ/又は、前記粉砕堅果殻は堅果(特にクルミ)に由来する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記粉砕殻材料は、挽かれた材料、粉末化された材料、微粉化された材料、又は極微粉化された材料として存在する、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記粉砕殻材料は、粗粉末、中粉末、細粉末、又は微粉末として存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記粉砕殻材料には、最大装入容量の0.1%~100%の、前記活性物質を有する前記粉砕卵殻が装入される、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、懸濁液、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、カプセル、顆粒、ペレット、錠剤、ドロップ、スプレー、座薬、薬用ドロップ、パッチ、ペンの形態で存在する、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
C3-C10トリヒドロキシ化合物からなる群から選択される化合物、及び/又は酸を更に含有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
活性物質の溶解度を高める組成物であって、粉砕殻材料を含み、前記粉砕殻材料の上又は中に前記活性物質が収着される前記組成物を調製する方法であって、前記組成物は、溶液を得るために、前記活性物質の溶解度を高めるべき溶剤とは別の溶剤に前記活性物質を溶かすステップと、前記溶液と前記粉砕殻材料とを混合するステップと、によって得られる、前記組成物を調製する方法。
【請求項12】
前記活性物質が溶けている前記溶剤の少なくとも一部が除去され、前記溶剤の少なくとも一部を前記除去することは、熱及び/又は減圧を印加することによって実施されることが好ましい、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
溶剤及び粉砕殻材料の前記混合物は攪拌される、請求項11~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
懸濁液、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、カプセル、顆粒、ペレット、錠剤、ドロップ、スプレー、座薬、薬用ドロップ、パッチ、ペンの形態での、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項15】
製薬、医療、食品、化粧品、繊維工業、塗料及びコーティング、農業のための、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性物質の溶解度を高めるための組成物、組成物の調製方法、及び組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
活性物質が体に吸収されうるのは、吸収部位において溶けた状態で利用可能な場合だけである。このことは、現在、多くの場合に問題となる。即ち、低溶解度のために体に吸収されることができないか、不十分にしか吸収されることができない物質が多くある。このことの影響は、薬局では、新しく合成された全ての活性成分の90%にまで及ぶ。そのため、そのような活性成分が容易に可溶となる戦略を見つけなければならない。
【0003】
現時点で、溶解度を高める様々な戦略が存在し、そのようなものとして、いわゆるナノ結晶、固溶体、混晶、多孔質材(多孔質シリカ等)等がある。
【0004】
ナノ結晶は、市場にある製品の数に関しては現時点で最もよく用いられている製剤戦略である。ナノ結晶の場合の不利点は、溶解度が約2~3倍にしかならないことである。
【0005】
混晶及び固溶体は、溶解度の良好な向上を達成する。しかしながら、これらは共通的な戦略ではなく、個々の活性成分ごとに個別の製剤を開発しなければならない。これには時間もコストもかかる。この目的に使用される添加剤は、多くの場合、高コストであり、あまり環境に優しくない。このことは製造にも生分解性にも当てはまる。そのため、市場にある製品の数は少ない。
【0006】
多孔質材は、比較すると、溶解度を高めることに関しては相対的に「若い」技術であると見なされるべきである。現時点で認識されている、溶解度を高める原理は、活性成分をアモルファス形態でナノスケール細孔(メソ細孔)に取り込むことである。この方法による溶解度の向上は非常に良好である(通常3~10倍)。この方法の不利点は、ケイ酸塩粒子を使用することであり、ケイ酸塩粒子は、体内で(且つ自然に)劣化することができず、その由来によっては、(アルツハイマー病の発現を促進する疑いのある)アルミニウムを多量に含有する可能性もある。多孔質ケイ酸塩粒子の製造も高コストであり、環境に優しくない。多孔質材の錠剤の製造は、様々な付形剤を添加することによってのみ可能であり、従って、添加されるケイ酸塩粒子の量は10%未満となり、それによって(ケイ酸塩粒子に装入される)活性成分の総量も相応に少なくなる。
【0007】
M.M.タン(M. M. Than)(マヒドン ユニバーシティ ジャーナル オブ ファーマシューティカル サイエンス(Mahidol University Journal of Pharmaceutical Sciences)、2012年、39(3-4)、p.32-38)は、速放性及び徐放性のアセトアミノフェン錠において卵殻粉末を付形剤として利用することを述べている。このアセトアミノフェンのケースでは、活性物質は物理的に卵殻粉末と混合されるだけであり、卵殻粉末に収着されない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の根底にある技術的目的は、粒子、粒子の製造方法、及び粒子の使用を提供することにあり、この粒子は、(体内及び環境内の両方で)無害であって好ましくは生分解性である材料で作られ、コスト効率が高く環境に優しい方式で、再生可能な原材料から製造されることが可能であり、更に、活性成分を装入するための容量を最終製剤中に大きく確保する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、独立請求項によって解決される。好ましい実施形態は、従属請求項において定義される。
【0010】
本発明によれば、活性物質の溶解度を高める組成物であって、粉砕殻材料を含み、その粉砕殻材料の上又は中に活性物質が収着される組成物が提供される。
【0011】
本明細書では「収着(sorption)」は、ある相の中、又は2つの相の間の界面に物質が蓄積されることにつながるプロセスの総称である。より厳密には、相の中での濃縮化を「吸収(absorption)」と呼び、界面での濃縮化を「吸着(adsorption)」と呼ぶ。従って、本発明に基づいて使用される「収着される(sorbed)」という語句は、吸収(absorption)、吸着(adsorption)、並びに両方の混在を包含する。
【0012】
一実施形態では、本発明による組成物は、溶液を得るために、活性物質の溶解度を高めるべき溶剤とは別の溶剤に活性物質を溶かすステップと、その溶液と粉砕殻材料とを混合するステップと、任意選択で、活性物質が溶けている溶剤の少なくとも一部を除去するステップと、によって得られる。その詳細なプロセスステップについては、以下で本発明による方法を記述するときにより詳しく説明するのでそれを参照されたい。なお、活性物質を粉砕殻材料に収着させるプロセスが吸着なのか吸収なのか両者の混在なのかが明らかでないため、組成物を記述する妥当な方法は、その調製方法の記述であることを指摘しておきたい。
【0013】
更に、活性物質は、ある溶剤にはほとんど又は全く溶けないが、別の溶剤には容易に溶ける、ということがありうる。本発明による組成物を調製するプロセスを実施する場合には、当然のことながら、活性物質を溶かす溶剤が選択されるが、これは、活性物質の溶解度を高めるべき溶剤ではない。
【0014】
「活性物質」という用語は、所望の効果を有する任意の物質を意味する。具体的には、活性物質は、生体内で特定の効果を有する又は特定の反応を引き起こす物質である。一実施形態では、活性物質は活性薬剤成分である。通常、溶解度が低い物質については、特に人間又は動物の体の生理的環境においては、その溶解度を高めなければならない。本発明による組成物において使用される活性物質は、やや溶けにくい、溶けにくい、極めて溶けにくい、又はほとんど溶けない場合があり、「やや溶けにくい」は、15°C~25°Cにおいて1質量単位の物質を溶かす場合に、30倍から100倍の体積の溶媒が必要であることを意味し、同様に「溶けにくい」は100倍から1000倍、「極めて溶けにくい」は1000倍から10000倍、「ほとんど溶けない」は10000倍超の体積の溶媒が必要であることをそれぞれ意味する。
【0015】
本発明の目的に関しては、殻材料は、種、果実、又は堅果の外装又は殻、並びに軟体動物の甲羅を意味する。一実施形態では、粉砕殻材料は粉砕卵殻及び/又は粉砕堅果殻から選択されてよい。ここでの「及び/又は」という語句は、粉砕卵殻と粉砕堅果殻の混合物も使用されてよいことを意味する。
【0016】
本発明による組成物は、粉砕卵殻を含有してよい。卵殻を取得するための卵については任意の卵が使用されてよいが、好ましいのはめんどりの卵である。これは、めんどりの卵であれば容易に入手可能であり、食品として使用されていることから製薬用としても無難であるためである。殻材料は堅果(特にクルミ)から取得されてもよく、これも容易に入手可能である。ここでの「粉砕」という用語は、本発明による組成物において使用される殻材料が、自然なままの殻材料に比べてサイズが小さいことを示す。粉砕卵殻は、イヌやネコの栄養補給用として市販されている。
【0017】
一実施形態では、粉砕殻材料は、挽かれた材料、粉末化された材料、微粉化された材料、又は極微粉化された材料として存在する。殻材料は、挽かれている間に(挽く機械によって)すりつぶされ、押しつぶされて粉砕される。ここで言う粉末とは、(ほぼ)微粉状の、細かく粉砕され、砕いて粉にされ、すりつぶされた物質である。微粉化は、平均粒径を著しく小さくすることであり、100μm~1000μmの通常の粒径が2μm~200μmの範囲まで小さくされる。極微粉化された材料では、粉砕殻材料はナノスケールで存在する。これらは、材料を粉砕するための通常の技術である。当業者であれば、それらを実施するための方法及び材料は既知である。ナノスケールに粉砕することは、液体の存在下で実施されてよい。
【0018】
一実施形態では、粉砕殻材料は、粗粉末、中粉末、細粉末、又は微粉末として存在する。粉末の粉末度は、1つ又は2つのふるい番号を指定して、各ふるいを通り抜ける材料のパーセンテージm/mを決定することによって特性化されてよい。欧州薬局方のふるい表には18個の標準ふるいがリストされており、この表では、ふるい番号としてクリアスクエアメッシュサイズ(μm)を使用しており、それらは11200、8000、5600、4000、2800、2000、1400、1000、710、500、355、250、180、125、90、63、45、38である。2つのふるいが使用される場合、サンプルの95%以上が通り抜けるふるいサイズ(A)と、40%以下が通り抜ける第2のふるいサイズ(B)とが決定される。この方法に基づいて、欧州薬局方では次の4つの粒子クラスを定義している。
粒子クラス ふるい(A) ふるい(B)
粗粒子 1400 355
中粒子 1400 355
細粒子 180 125
微粒子 125 90
【0019】
一実施形態では、粉砕殻材料には、最大装入容量の0.1%~100%の、活性物質を有する粉砕殻材料が装入される。
【0020】
別の実施形態では、組成物は、懸濁液、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、カプセル、顆粒、ペレット、錠剤、ドロップ、スプレー、座薬、薬用ドロップ、パッチ、ペンの形態で存在する。これらは、医薬品の分野では通常の製剤である。当業者であれば、これらの製剤を達成すること、即ち、本発明による組成物をこれらの製剤の形態で供給することのための方法及び材料は既知である。
【0021】
一実施形態では、本発明による組成物は更に、C3-C10トリヒドロキシ化合物からなる群から選択される化合物(例えば、グリセロール)、及び/又は酸(例えば、クエン酸)を含有する。意外なことに、これらの更なる化合物を添加することにより、活性物質の受動浸透(例えば、経皮浸透)が増えることが分かった。
【0022】
本発明は、(挽かれた、粉末化された、微粉化された、又は極微粉化された)粉砕殻材料、例えば、粉砕卵殻及び/又は粉砕堅果殻を活性成分溶液にシンプルに加えることによって、本発明による組成物が得られることを示している。溶剤の除去後(例えば、蒸発後)、殻粒子内又は殻粒子上に活性成分が蓄積されて、活性成分の溶解度が最大で5倍になる。溶解度が高くなると、活性成分の浸透が増加する。本技術により、低溶解度の活性成分が、容易に生物学的に利用可能になりうる。適用分野は、経口適用、局所適用である。人間、動物、又は他の表面内又は表面上での適用の場合(例えば、低溶解度の肥料、農薬、表面消毒等を適用する場合)。
【0023】
卵殻は食材として承認されているので、それらの適用においては無害である。卵殻は、再生可能な原材料から取得可能であり、廃棄物として、特に容易且つ安価に入手可能である。任意のタイプの活性物質を殻材料上及び/又は殻材料内に装入することが可能である。従って、これは普遍的な方法である。活性物質を装入された(又は未装入の)殻材料は、粉末として直接適用されることが可能であり、或いは、液体又は半固体の製剤に取り込まれること、カプセルに充填されること、又はシンプルに圧縮されて錠剤にされることが可能である。調査によれば、このようにして得られた錠剤は、欧州薬局方の規制上の要件を満たす。従って、卵殻製剤は、低溶解度物質の有効性を向上させるための、新規であり、高コスト効率であり、特に環境に優しい方法として、広範囲の分野(製薬、医療、食品、化粧品、繊維工業、塗料及びコーティング、農業等)で使用されることが可能である。原理はシンプルながらスマートである。即ち、製造が容易であり、応用が利き、従って実用性が高い。
【0024】
本発明は更に、活性物質の溶解度を高める組成物であって、具体的には、本発明による上述の組成物であって、粉砕殻材料を含み、その粉砕殻材料の上又は中に活性物質が収着される組成物を調製する方法に関し、この組成物は、溶液を得るために、活性物質の溶解度を高めるべき溶剤とは別の溶剤に活性物質を溶かすステップと、その溶液と粉砕殻材料とを混合するステップと、任意選択で、活性物質が溶けている溶剤の少なくとも一部を除去するステップと、によって得られる。
【0025】
所望の活性物質が適切な溶剤に溶かされ、その溶液が粉砕殻材料に塗布される。上記で指摘したように、活性物質は、ある溶剤には溶けるが、別の溶剤には溶けない、ということがありうる。組成物を調製する場合には、活性物質が溶ける溶剤が選択される。そうしないと収着が不可能だからである。そのような適切な溶剤であれば、更に製薬用としても無難でありうる。代表的な適切な溶剤は、エタノール又は油である。溶剤は蒸発可能である。このプロセスを促進するために、攪拌及び/又は加熱及び/又は溶剤抽出システムの使用が行われてよい。任意選択の溶剤除去がほぼ完全に行われた後、装入済み殻材料は粉末として存在し、これはそのまま使用されてよく、又は更なる処理で他の製剤(懸濁液、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、カプセル、顆粒、ペレット、錠剤、ドロップ、スプレー、座薬、薬用ドロップ、パッチ、ペン等)にされてよい。
【0026】
活性物質を卵殻内又は卵殻上に収着させることによって、活性成分の溶解度が高くなり、結果として受動拡散(生物学的利用能)が向上する。活性物質は持続的に放出されることが可能であるため、長期の適用が可能である。意外なことに、組成物に酸及びグリセロールを添加すると受動浸透が増強されることが分かった。
【0027】
一実施形態では、溶剤の少なくとも一部を除去するステップは、熱及び/又は減圧を印加することによって実施される。一般に、溶剤を完全に除去することは、適切ではあるが必須ではない。溶剤、特に少量の溶剤は、本発明による組成物のその後の使用に対する悪影響がない限り、存在したままでよい。
【0028】
一実施形態では、溶剤と粉砕殻材料との混合物は攪拌される。この攪拌は、溶剤除去の前及び/又は途中に実施されてよい。攪拌は、液体の構成要素同士を均一に混合するためにそれらを円運動させることを意味する。
【0029】
上記で指摘したように、本発明による組成物は、懸濁液、クリーム、ゲル、軟膏、ペースト、カプセル、顆粒、ペレット、錠剤、ドロップ、スプレー、座薬、薬用ドロップ、パッチ、ペンを調製するために使用されてよい。
【0030】
本発明による組成物は、活性物質の種類に応じて、製薬、医療、食品、化粧品、繊維工業、塗料及びコーティング、農業(例えば肥料)のために使用されてよい。
【0031】
以下の実施例及び図面を参照して、本発明を更に例示的に説明する。なお、それらの実施例及び図面は、本発明の例示を意図するものであり、本発明をそれらに限定するものとして解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】未処理の皮膚(A)、バルク材で処理された皮膚(B)、物理的混合物で処理された皮膚(C)、及び本発明による組成物で処理された皮膚(D)の皮膚部分の蛍光顕微鏡画像を示す。200倍に拡大しており、サイズスケールは50μmに対応している。
【
図2】クルクミンの浸透に対する添加物の影響を示す。グリセロール、並びに酸とグリセロールの添加により、皮膚へのクルクミンの浸透が大幅に増加した(ボンフェローニ-ホルム補正された事後分析を伴う一元配置分散分析)。
【
図3】純クルクミン生粉末、未装入堅果殻、クルクミンを装入した堅果殻、及び物理的混合物のX線回折パターンを示す。A:1%クルクミン抽出物を装入。B:10%クルクミン抽出物を装入。C:20%クルクミン抽出物を装入。
【
図4】水中のクルクミンの放出を示す。**-p<0.01(ウェルチ検定、n=3)。
【発明を実施するための形態】
【0033】
実施例1 溶解度
【0034】
クルクミンは低溶解度物質であり、この実験では、溶解度の非常に低い活性成分の代用物としての役割を果たした。目標は、低溶解度物質を卵殻に組み込むことによってその溶解度を高めうることを示すことであった。最初にクルクミンを卵殻粉末に取り込んだ。この目的には、異なる2つの方法を用いた。方法1-クルクミンをエタノールに溶かし、その溶液を卵殻の上に置いた。エタノールを攪拌せずに蒸発させた(HP)。方法2-クルクミンをエタノールに溶かし、その溶液をその卵殻の上に置いた。エタノールを攪拌して蒸発させた(R)。比較のために、クルクミンを粗挽き卵殻と混合し(物理的混合物=PM)、純物質としての水に加えた(バルク)。全てのサンプルについて、溶けているクルクミンの量を測定した。結果が示すところでは、クルクミンを卵殻に取り込んだ場合、水の上澄みが濃い黄色になった。即ち、クルクミンは水相中に有効に溶けていた。物理的混合物及び純物質では水相の変色は起こらなかった。従って、そこではクルクミンは溶けていなかった。UV-Vis測定により、様々な時点で、溶けているクルクミンの量を測定した。方法1の場合、クルクミンの溶解度は、純クルクミンの比較溶液の約100倍であった。方法2の場合、溶解度は約50倍であった。
【0035】
装入された卵殻は10%(w/w)のクルクミンを含有した。即ち、卵殻が90%、クルクミンが10%であった。物理的混合物もほぼ同等の量を含有した。
【0036】
実施例2 生物学的有効性
【0037】
目標は、低溶解度の活性成分の受動浸透、即ち、卵殻への装入によってそれらの生物学的利用可能性が向上しうることを示すことであった。生体外ブタ耳モデルにおいて、皮膚の利用可能性の試験を行った。クルクミンを装入した卵殻(実施例1の方法1)を水と1:1の比で混合し、これを新鮮且つ無傷のブタの皮膚に塗布した。4時間の浸透後に、浸透した活性成分の量を分析した。純クルクミン粉末が水中に分散し、その物理的混合物が対照としての役割を果たした。粉砕卵殻に装入されたクルクミンは、皮膚に有効に浸透することができ、経皮浸透が見られた。純クルクミン粉末及び物理的混合物は、皮膚の上層に少しばかり浸透したが、経皮浸透は見られなかった(
図1A~1D)。
【0038】
実施例3 添加物による生物学的有効性の最適化
【0039】
意外なことに、クルクミンを装入した卵殻にグリセロール及び酸(クエン酸)を添加すると、クルクミンの生物学的利用可能性が約25%、再度高まることが分かった(
図2)。
【0040】
実施例4 経口適用のための使用
【0041】
粗挽き卵殻を手作業で押し固めて錠剤にした。直接打錠により、更なる付形剤を添加することなく、粗挽き卵殻から製薬品質の錠剤を製造できることが示された。
【0042】
実施例5 クルクミン及び堅果殻を含む組成物
【0043】
0.5%(w/v)のクルクミン抽出物を含有したクルクミンのエタノール溶液を(クルミの)堅果殻に加えた。エタノールは蒸発し、結果として残った堅果殻は、1%、10%、20%、又は40%のいずれかのクルクミン抽出物(w/w)を含有していた。堅果殻に装入されたクルクミンの結晶化度をX線回折法で測定し、得られた回折図形を、堅果殻とクルクミン抽出物の生バルク粉末とを含有した物理的混合物と比較した。生クルクミン抽出物粉末及び未装入堅果殻が対照としての役割を果たした(
図3)。生クルクミンバルク材は、結晶クルクミンの典型的な反射を示した。この反射は物理的混合物においても見えたが、クルクミンが堅果殻に装入されると消えた。これは、クルクミンがアモルファス状態で堅果殻に装入されたことを示している(
図3)。
【0044】
クルクミンを装入した堅果殻に水を加えた後の上澄みの蛍光強度を測定することにより、水を加えた後の放出されたクルクミンの量を分析した。クルクミンの生粉末抽出物が対照としての役割を果たした。堅果殻から放出されたクルクミンは、対照との比較では577%であった(
図4)。
【国際調査報告】