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特表2024-542780神経変性疾患の治療のためのペプチド薬物複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2024-11-15
(54)【発明の名称】神経変性疾患の治療のためのペプチド薬物複合体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/575 20060101AFI20241108BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20241108BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/13 20060101ALI20241108BHJP
   A61K 31/475 20060101ALI20241108BHJP
【FI】
C07K14/575 ZNA
A61K38/22
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/00
A61P9/10
A61P25/14
A61P25/18
A61P25/24
A61K31/13
A61K31/475
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024532977
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2022084178
(87)【国際公開番号】W WO2023099723
(87)【国際公開日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】21212124.8
(32)【優先日】2021-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522471836
【氏名又は名称】ケブンハウンス、ウニバーシテート
【氏名又は名称原語表記】KOEBENHAVNS UNIVERSITET
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】クリストファ、クレメンスン
(72)【発明者】
【氏名】ヨーナス、オズゴー、ピーダスン
(72)【発明者】
【氏名】アナス、ブーウ、クライン
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA31
4C084BA32
4C084DB37
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4C084MA56
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA021
4C084ZA121
4C084ZA151
4C084ZA161
4C084ZA181
4C084ZA361
4C086AA01
4C086CB15
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA56
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA12
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZA18
4C086ZA36
4C086ZC42
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA29
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA76
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA12
4C206ZA15
4C206ZA16
4C206ZA18
4C206ZA36
4C206ZC42
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA19
4H045BA72
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA21
4H045FA20
(57)【要約】
本発明は、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子であって、ペプチドおよびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを含み、前記ペプチドがグルカゴンスーパーファミリーペプチドであり、前記ペプチドが直接または化学リンカーを介して前記NMDARアンタゴニストに結合している前記複合分子に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子であって、ペプチドおよびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを含み、前記ペプチドがグルカゴンスーパーファミリーペプチドであり、前記ペプチドが直接または化学リンカーを介して前記NMDARアンタゴニストに結合しており、前記NMDARアンタゴニストが前記NMDA受容体のオープンチャネルブロッカーの群から選択される、前記複合分子。
【請求項2】
前記ペプチドがインクレチンホルモンである、請求項1に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項3】
前記ペプチドがグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、胃抑制ペプチド(GIP)、それらの組み合わせ、および/またはそれらの誘導体もしくは類似体である、請求項1または2に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項4】
前記ペプチドが配列番号1に示されるものであるか、または前記ペプチドが配列番号1と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するものである、請求項1~3のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項5】
前記ペプチドが配列番号8に示されるものである、請求項1~4のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項6】
前記ペプチドが配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有するものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項7】
前記NMDARアンタゴニストがその遊離形態において、NMDA受容体との解離定数Kが約0.5nM~1000nMの範囲にある、請求項1~6のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項8】
前記NMDARアンタゴニストがメマンチン、ネラメキサンおよびジゾシルピンから選択され、好ましくは前記NMDARアンタゴニストがメマンチンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項9】
前記NMDARアンタゴニストが切断能を有する化学リンカーを介してペプチドに結合し、前記切断能を有する化学リンカーが、酸切断能を有するリンカー、酵素切断能を有するリンカー、ペプチド切断能を有するリンカー、およびジスルフィド基を含むリンカーから選択され、好ましくは前記ペプチドが配列番号1に示されるものであり、前記ペプチドのN末端から数えて2番目の位置のアミノ酸がα-アミノイソ酪酸であり、前記NMDARがメマンチンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項10】
前記切断能を有する化学リンカーがジスルフィド基を含むリンカーから選択される、請求項9に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項11】
前記神経変性疾患が認知症、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷、ハンチントン病、統合失調症およびうつ病から選択される、請求項1~10のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項12】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1~10のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項13】
前記複合分子が医薬組成物の形態で投与され、該医薬組成物が前記複合分子またはその医薬的に許容可能な塩、および医薬的に許容可能な担体を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項14】
前記医薬組成物が皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内または経口で投与される、請求項13に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項15】
前記複合分子が少なくとも週に1回、12ヶ月以上投与される、請求項1~14のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための、グルカゴンスーパーファミリーペプチドの受容体に対する作動作用およびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体に対する拮抗作用を示す治療用複合物の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
神経変性は神経変性疾患とも呼ばれ、主に人間の脳のニューロンに影響を及ぼす複雑で深刻な病状を特徴とする。神経変性は、分子レベルから全身レベルまで、脳のニューロン回路のさまざまなレベルで発生する。進行するニューロンの変性を逆転させる方法が知られていないため、神経変性疾患は治癒不可能であると考えられている。認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病等の神経変性疾患は、すべて神経変性プロセスの結果として発生する。
【0003】
アルツハイマー病は最も一般的な神経変性疾患であり、大脳皮質および特定の皮質下領域におけるニューロンおよびシナプスの喪失を特徴とする。アルツハイマー病の薬剤開発プログラムのほとんどは、症状の緩和を目的としたもので、病気の回復にはほとんど影響がないかまたはまったく影響がなく、効果が乏しいという、期待外れの結果となっている。現在、アルツハイマー病の治療には、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤とN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体アンタゴニストという2種類の主要な薬剤クラスが承認され、用いられている。
【0004】
NMDA受容体(NMDAR)はグルタミン酸受容体のサブクラスであり、その活性化にはグルタミン酸の結合およびシナプス後脱分極の両方が必要であり、活性化されるとCa2+流入を媒介する。例えば受容体チャネル活性、サブユニット発現、輸送または局在の変化から生じるNMDAR機能不全は、さまざまな神経学的および精神医学的な状態の一因となり得るため、さまざまな神経疾患におけるNMDARの関与は長年にわたって注目されている。
【0005】
例えば、商標名エビクサ(登録商標)のメマンチン等のNMDARアンタゴニストは現在アルツハイマー病の治療に用いられており、ジェネリック医薬品として入手可能であり、世界中で何百万人もの治療に用いられている。非競合的NMDARアンタゴニストであるメマンチンは、NMDA受容体のオープンチャネルブロッカーのグループに属する。
【0006】
US2004102525A1には、メマンチンを用いた、アルツハイマー病を含む神経疾患および神経変性疾患の急性、慢性および予防的治療の方法が記載されている。
【0007】
グルカゴンスーパーファミリーは、グルカゴン、セクレチン、血管作動性抑制ペプチド(VIP)、胃抑制ペプチド(GIP)、成長ホルモン放出因子(GHRF)、ならびにグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)およびGLP-2等のペプチドで構成される。これらのペプチドは、栄養摂取、胃腸運動、膵島ホルモン分泌、細胞増殖およびアポトーシス、栄養吸収、および栄養同化に対して多様な作用を発揮する。最近の研究では、これらのペプチドが脳内で神経保護の役割も果たしている可能性があることがさらに示されており、そのため神経変性疾患の治療におけるそれらの関連性がますます注目されている。
【0008】
GIPは、GIP遺伝子によってコードされた153アミノ酸長のプロタンパク質から派生し、生物学的に活性な42アミノ酸長のペプチドとして循環する。GIP受容体(GIPR)はさまざまな組織で発現しており、嗅球、海馬および大脳皮質の大型錐体ニューロンで高い発現レベルを示す脳のいくつかの領域で発見されている。GIPRの活性化は神経前駆細胞の増殖につながるため、神経発生に寄与し得る。
【0009】
GLP-1は、プログルカゴンペプチドの組織特異的な翻訳後処理から得られる30個または31個のアミノ酸長のペプチドホルモンである。GLP-1受容体アゴニストは、抗糖尿病効果および抗肥満効果で広く知られている。最近では、長時間作用型GLP-1受容体(GLP-1R)アゴニストに神経保護作用があることが実証されており、現在、いくつかの企業が臨床第III相試験でアルツハイマー病の治療におけるGLP-1Rアゴニストの有用性を精査している。
【0010】
WO2021/089678A1は、メタボリックシンドロームの対象における認知症を治療するか、または認知症の発症リスクを軽減するためのGLP-1Rアゴニスト、特にセマグルチドの使用について記載している。
【0011】
WO2011143208A1は、代謝症候群、糖尿病、肥満、脂肪肝および神経変性疾患の治療における使用のための、Gタンパク質共役受容体(GPCR)リガンドと複合体化グルカゴンスーパーファミリーペプチドアゴニストを開示している。GPCRリガンドは、エイコサノイドアナンダミドであってもよい。Hampson A. J. et al., Journal of neurochemistry, 70, 2: 671-676 (1998)は、NMDA受容体活性の調節におけるエイコサノイドアナンダミドの役割について記載している。
【0012】
WO2011094337A1は、糖尿病および肥満等の代謝障害を治療するための、GIPアゴニストペプチドおよびグルカゴンアンタゴニストペプチドを含むペプチドの組み合わせの複合体を開示している。WO2011094337A1に記載されているペプチドは、神経変性疾患の治療薬と併用して投与することもできる。
【0013】
US2012329707A1は、グルカゴン/GLP-1受容体コアゴニストの複合体と、メタボリックシンドローム、糖尿病、肥満、肝脂肪変性症および神経変性疾患の治療におけるその使用を開示している。
【0014】
Zheng Liu et al., Med. Chem. Commun. 8, 1:135-147 (2016)は、アルツハイマー病を含む神経変性疾患の潜在的な治療薬として、新たに合成されたメマンチン硝酸塩の生物学的評価を開示している。
【0015】
WO2021245199A1は、GLP1受容体アゴニストおよびNMDA受容体アンタゴニストの複合体、ならびに肥満および肥満関連疾患の治療におけるこれらの複合体の使用を開示している。
【0016】
人口の高齢化に伴い、効果的な治療介入や神経変性疾患状態の個別の病態生理学の明確な理解がないまま、神経変性の発生率が劇的に増加している。
【0017】
したがって、より有効で安全性が高い(毒性効果が低い)神経変性疾患の薬物治療の改善に対するニーズは依然として満たされていない。
【発明の概要】
【0018】
このような背景から、本発明の目的は、副作用が少なく、対象がより良好に許容可能な治療薬を投与することを含む、神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための改良された治療法を提供することである。
【0019】
したがって、本発明の第1の態様は、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子であって、ペプチドおよびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを含み、前記ペプチドがグルカゴンスーパーファミリーペプチドであり、前記ペプチドが直接または化学リンカーを介して前記NMDARアンタゴニストに結合しており、前記NMDARアンタゴニストが前記NMDA受容体のオープンチャネルブロッカーの群から選択される複合分子に関する。
【0020】
発明者らは、驚くべきことに、本発明の複合体が、対象における神経変性疾患の治療または予防、特にアルツハイマー病の治療および予防に有効であることを見出した。この新規な医療戦略は、グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体作動作用およびNMDA受容体拮抗作用という両方の分子実体の利点を単一分子で利用していると仮定される。発明者らは、複合体分子における2つの神経保護様式の組み合わせが、NMDA誘導性細胞毒性のin vitroおよびin vivoモデルにおいて、および最も一般的に用いられるトランスジェニックADマウスモデル(5×FAD)においてそれぞれ改善された神経保護効果をもたらすことを実証した。発明者らの知る限り、神経変性疾患に対する既存の治療戦略は、前臨床および臨床のいずれも、NMDA受容体拮抗作用とグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体作動作用とを組み合わせていない。
【0021】
特定の理論に拘束されることなく、発明者らは、本発明の複合分子の神経保護効果は、ペプチドのグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体に対する親和性により、体内のグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体部位および/またはその近傍にNMDARアンタゴニストが蓄積することによって達成されると推測している。
【0022】
ペプチドはアミノ末端およびカルボキシル末端を有する。本発明の文脈において、ペプチドのアミノ末端およびカルボキシル末端は、それぞれN末端およびC末端、および対応する派生形とも称される。
【0023】
本発明におけるペプチドは、遺伝コードによってコードされるアミノ酸から構成されてもよく、または遺伝コードによってコードされるアミノ酸と、ヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタミン酸、オルニチン、ホスホセリン、D-アラニン(dAla)およびD-グルタミン等の遺伝コードによってコードされない天然アミノ酸とを含んでもよい。さらに、本発明におけるペプチドは、D-アラニンおよびD-ロイシン、またはα-アミノイソ酪酸(Aib)、d-セリン(dSer)、N-メチルセリン等の合成アミノ酸が組み込まれてもよい。
【0024】
一つの実施形態において、ペプチドの2位(N末端から数えて)のアミノ酸は、D-アラニン、D-セリン、α-アミノイソ酪酸、N-メチル-セリン、グリシンまたはバリンである。
【0025】
本発明におけるペプチドは、ペプチドのN末端から数えてアミノ酸位置15位のグルタミン酸と20位のリジンとの間の環化等、二次構造を安定化するための1つ以上の修飾を有していてもよい。
【0026】
ペプチドは、任意の供給源から得ることができ、また、必要に応じて生成することもできる。例えば、ペプチドは組織から単離することができ、またはペプチドは当業者に周知の方法によって組み換えによって生成するか、または合成することもできる。
【0027】
本発明の複合体のペプチドは、グルカゴンスーパーファミリーのペプチドに属する。グルカゴンスーパーファミリーは、そのN末端領域およびC末端領域の構造が関連しているペプチドのグループである(例えば、本明細書に参照として組み込まれるSherwood et al., Endocrine Reviews 21: 619-670 (2000)を参照)。このグループのメンバーには、すべてのグルカゴン関連ペプチド、および成長ホルモン放出ホルモン、血管作動性腸管ペプチド、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド27、セクレチン、修飾GLP-1(配列番号1)、非修飾GLP-1(配列番号2)、エキセンジン-4(配列番号3)、胃抑制ペプチド(GIP)(配列番号4)、GLP-1/GIPコアゴニスト(配列番号5および配列番号6)、GLP-1/GIP/グルカゴン(Gcg)トリアゴニスト(配列番号7)、および天然ペプチドに対して最大1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個のアミノ酸が改変された類似体、誘導体または複合体が包含される。
【0028】
一つの実施形態において、本発明におけるペプチドはインクレチンホルモンである。インクレチンファミリーのペプチドホルモンとしては、限定されないが、GLP-1、GIP、それらの組み合わせおよび/または類似体が挙げられる。
【0029】
本発明におけるペプチドは、グルカゴン受容体スーパーファミリーの受容体と共にアゴニストとして相互作用する能力を保持する。本明細書において、「アゴニスト」とは、細胞受容体に付着または結合して細胞に影響を及ぼす、例えばホルモンや薬物等の分子である。アゴニストが特定の受容体に結合すると、生物学的反応が誘発される。
【0030】
一つの実施形態において、ペプチドはGLP-1ペプチド、GIPペプチド、それらの組み合わせ、および/またはアゴニストとしてGLP-1および/またはGIP受容体と相互作用するそれらの任意の誘導体または類似体である。
【0031】
本発明におけるペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有し得る。また、複合分子のペプチドは、配列番号6または配列番号7と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有し得る。特定の実施形態において、複合分子のペプチドは、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5のアミノ酸配列を有する。他の特定の実施形態において、複合分子のペプチドは、配列番号6または配列番号7のアミノ酸配列を有する。
【0032】
また、コアゴニスト活性およびトリアゴニスト活性を有するペプチドも意図される。コアゴニスト活性またはトリアゴニスト活性を有するペプチドは、グルカゴン受容体スーパーファミリーの2つ以上の異なる受容体に結合する能力を示す。一つの実施形態において、コアゴニストはGLP-1/GIP受容体コアゴニストである。一つの実施形態において、GLP-1/GIP受容体コアゴニストは配列番号5に示すものである。一つの実施形態において、GLP-1/GIP受容体コアゴニストは配列番号6に示すものである。また、GLP-1/Gcg受容体またはGIP/Gcg受容体に対するコアゴニスト活性を有するペプチドも意図される。別の実施形態において、トリアゴニストはGLP-1/GIP/Gcg受容体トリアゴニストである。一つの実施形態において、トリアゴニストは配列番号7に示すものである。
【0033】
一つの実施形態において、本発明の複合分子のペプチドは、配列番号1と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有する。例えば、ペプチドは、配列番号1と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、または約90%を超える同一性を有し得る。一つの実施形態において、ペプチドは、配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する。さらなる実施形態において、ペプチドは、配列番号1と少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0034】
一つの実施形態において、ペプチドは、配列番号8の保存的アミノ酸配列に示すものである。本発明の文脈において、配列番号8のペプチドは、その保存的アミノ酸に加えて、配列番号8のペプチドのN末端から数えてアミノ酸位置1位、10位、12位、15位、16位、23位、24位、27位、28位、30位、31位に天然または合成アミノ酸を含む。このようなペプチドは、配列番号5に示すアミノ酸配列のGLP-1/GIPコアゴニストペプチドによって例示される、図6参照。さらなる実施形態において、ペプチドは配列番号8に示すものであり、配列番号1と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有する。
【0035】
一つの実施形態において、本発明におけるペプチドは、配列番号4に記載の胃抑制ペプチド(GIP)であり、このペプチドはGIP受容体においてGIP活性を有する。
【0036】
一つの実施形態において、本発明のペプチドは、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する。このようなペプチドは、GLP-1受容体における天然GLP-1(未改変GLP-1、配列番号2)と比較して、GLP-1受容体におけるGLP-1活性が著しく高いものであり得る。また、配列番号1と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するが、ペプチドのC末端にエキセンジン-4延長部を有しないGLP-1受容体ペプチドも意図される。本発明の文脈において、エキセンジン-4延長部は、アミノ酸配列GPSSGAPPPS(配列番号9)を有する。
【0037】
本発明におけるペプチドは、NMDARアンタゴニストと複合体化すると、グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体部位において高い速度で蓄積し、その結果、NMDARアンタゴニストの効力の向上をもたらし得る。配列番号1と少なくとも80%のアミノ酸配列同一性を有する本発明におけるペプチドの例を図6に示す。配列番号1と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有する複合体のペプチドの例を図7に示す。図6に示すGLP-1/GIP(配列番号5のペプチド)およびGLP-1(配列番号1のペプチド)のアラインメントを以下にさらに示す。
【化1】
【0038】
複合分子のペプチドは、ペプチド(遊離形態)がグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体において天然グルカゴンスーパーファミリーペプチドの少なくとも0.1%の活性を示すのに十分な長さを有する。一般に、これは少なくとも10個のアミノ酸を含むペプチドで観察され、ペプチドが60個を超えるアミノ酸を含む場合、活性は示されない可能性がある。したがって、一つの実施形態において、ペプチドは10~60個のアミノ酸、例えば20~50個のアミノ酸の範囲の長さを有する。本発明におけるアミノ酸配列は、他のペプチド配列と一定の割合で同一であり、例えば、少なくとも10個のアミノ酸等、ペプチドのアミノ酸配列を十分に含み、当業者による配列の手動評価、またはBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)(レビューについてはAltschul, et al., Meth Enzymol. 266: 460,1996; and Altschul, et al., Nature Genet. 6: 119, 1994を参照)等のアルゴリズムを用いたコンピューター自動配列比較および識別によって、そのペプチドの推定識別が可能になるはずである。
【0039】
本発明の文脈において、ペプチドは、置換、天然または合成アミノ酸の挿入、および/またはアミノ酸の欠失を有することによって、%同一性において異なっていてもよい。
【0040】
一つの実施形態において、ペプチドは、アセチル化、脂肪酸複合体化、二酸複合体化、アルブミン複合体化、小分子アルブミン複合体化剤および/またはPEG複合体化によって修飾される。また、抗体等のキャリアタンパク質に結合させることによって修飾されるペプチドも意図される。修飾は、好ましくは、ペプチドの16位、17位、20位、21位、24位、29位、40位(N末端から数えて)、C末端領域内またはC末端アミノ酸で行われる。複合体化は、ジスルフィド、マレイミド、αケトンまたはクリックケミストリーベースの複合体化等、任意の適切なリンカーによって行うことができる。当業者であれば、このような複合体を調製する方法を知っている。好ましくは、PEG分子は1kDaより大きくてもよく、脂肪酸および二酸は、12個を超える炭素原子を含み得る。一般に、修飾(PEG/脂肪酸/二酸)とペプチドとの間にスペーサーを追加することが好ましく、リンカーは、好ましくは短いPEG鎖であるガンマ-Gluリンカーである。
【0041】
NMDA受容体アンタゴニストはNMDA受容体に結合し、NMDARアンタゴニストは、例えばNMDARアンタゴニストの遊離形態において、特定のNMDA受容体との解離定数Kを有すると説明され得る。NMDARアンタゴニストは一般にナノモル範囲の解離定数を有し、例えば、MK801(ジゾシルピン)の異なる種のNMDA受容体との解離定数は、ラットの脳膜ではK=6.3nM、マウスの脳ホモジネートではK=10nM、ブタの脳ではK1.3nMである。解離定数の決定は、当業者には周知である。一つの実施形態において、遊離形態のNMDARアンタゴニストは、NMDA受容体との解離定数Kが0.5~1000nMの範囲、例えば0.5~100nMの範囲である。NMDA受容体は、例えばヒトNMDA受容体であり、例えばNMDARアンタゴニストは、ヒトNMDA受容体とのKが0.5~100nMの範囲である。本発明の文脈において、遊離形態のNMDA受容体アンタゴニストとは、アンタゴニストがいかなる化学基にも結合しておらず、特に化学的に連結されておらず、従って天然の未改変形態にあることを指す。当業者であれば、NMDA受容体間の種間差異はわずかであることが予想されることを理解するであろう。したがって、マウスやラット等のげっ歯類、またはブタ等の高等哺乳類で測定されたK値は、ヒトのNDMA受容体またはその他の関連する動物や哺乳類のNMDA受容体で測定されたK値と同様であると予想される。
【0042】
任意のNMDARアンタゴニストを用いることができる。本明細書で用いられる「アンタゴニスト」とは、受容体に結合して受容体を遮断することにより、アゴニストのように受容体を活性化するのではなく、生物学的反応を遮断または減弱する受容体リガンドまたは薬剤の一種である。チャネルブロッカーは、それぞれのイオンチャネルのアンタゴニストである。本発明におけるNMDARアンタゴニストは、NMDA受容体のオープンチャネルブロッカーの群から選択される。NMDA受容体のオープンチャネルブロッカーは、細胞外入口近傍にあるチャネル孔内の部位に非競合的に結合することにより機能することができる。それらの結合にはチャネルが開いていることが必要であり、したがって、それらの存在はチャネルを通るイオンの流れを物理的に遮断する。
【0043】
NMDA受容体のオープンチャネルブロッカーの例は、例えば、Traynelis et al., Pharmacological reviews, 62, 3: 405-496 (2010)、およびOgden and Traynelis, Trends in pharmacological sciences, 32, 12: 726-733 (2011)に開示されており、限定されないが、ジゾシルピン、メマンチン、ケタミン、ノルケタミン、ヒドロキシノルケタミン、アマンタジン、デキストロメトルファン、レボメトルファン、デキストロファン、レボルファノール、フェンシクリジン(PCP)、1-フェニルシクロヘキシルアミン(PCA)、CNS-1102(アプチガネル)、レマシミド、ペンタミジン、9-アミノアクリジン、1,2,3,4-テトラヒドロ-9-アミノアクリジン(タクリン)、7-メトキシタクリン、ラニセミン等が挙げられる。
【0044】
本発明の文脈において、NMDARアンタゴニストは、例えば最大900kDaの小分子である。一つの実施形態において、NMDARアンタゴニストは、MK801としても知られるジゾシルピン、メマンチン、ケタミン、フェンシクリジン、アルギオトキシン-636等のアルギオトキシン、デキストロルファン、アプチガネル、アルカイン、ジエチレントリアミンおよびプトレシン等のポリアミン、ネラメキサンおよびアマンタジンから選択される。一つの実施形態において、NMDARアンタゴニストは、メマンチン、ネラメキサンおよびジゾシルピンから選択される。ネラメキサンは、メマンチンに関連する化合物の非限定的な例である。
【0045】
本発明におけるペプチドとNMDARアンタゴニストとは結合している。本発明の文脈において、複合分子はペプチド-薬物複合体(PDC)とも呼ばれる。ペプチドとNMDARアンタゴニストとは互いに連結または直接結合することができる。例えば、NMDARアンタゴニストはアミド結合を介して連結することができ、このアミド結合はNMDARアンタゴニストのアミノ基からペプチドのカルボン酸基までである。このようなアミド結合は、グルタミン酸残基、アスパラギン酸残基、カルボン酸基を有する合成残基、またはC末端のカルボン酸等のカルボン酸基を有するペプチド上の任意の残基に形成され得る。一つの実施形態において、NMDARはメマンチンである。例えば、NMDARアンタゴニストがメマンチンである場合、メマンチンのアミンはペプチドのアミノ酸残基のカルボン酸に結合することができる。
【0046】
一つの実施形態において、複合分子は、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のものであり、複合分子は配列番号1に示すアミノ酸配列を有するペプチドを含み、ペプチドのアミノ酸位置2位(N末端から数えて)のアミノ酸がα-アミノイソ酪酸であり、NMDARアンタゴニストがメマンチンであり、ペプチドがNMDARアンタゴニストに直接または化学リンカーを介して結合されている。別の実施形態において、ペプチドは配列番号1に示されるものであり、NMDARはメマンチンであり、化学リンカーがジスルフィド基を含むリンカーから選択される。
【0047】
本発明の文脈において、直接連結されているとは、ペプチドがNMDARアンタゴニストと共有結合していることを意味し、例えば、2つの分子の間にリンカー基等の追加の化学基が存在しないことを意味する。ペプチドおよびNMDARアンタゴニストは、化学リンカーを介して連結されてもよい。任意の化学リンカーを用いることができる。しかしながら、通常、化学リンカーの長さは、最大で30原子であることが好ましい。鎖が長いと、ペプチドとグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体とが相互作用するときに、NMDARアンタゴニストがペプチドに対して立体障害を全くまたはほとんど及ぼさないように、NMDARアンタゴニストをペプチドから遠ざける利点がある。ペプチドの立体障害が全くないかまたは低いと、グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体に対する親和性が高くなる。グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体に対する親和性が高い複合体は、グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体の部位に多く蓄積する可能性がある。化学リンカーは、好ましくは酸切断能を有するリンカー、酵素切断能を有するリンカー、ペプチド切断能を有するリンカー、またはジスルフィドリンカー等の切断能を有するリンカーであり、これらは、ペプチド-薬物複合体における使用が当該技術分野で一般的によく知られている。このような切断能を有するリンカーの例としては、グルクロニド、β-ガラクトシド、ジスルフィド、ヒドラゾンを含む化合物であり、および/またはガラクトシダーゼ、グルクロニダーゼ、ピロホスファターゼ、ホスファターゼ、アリールスルファターゼ、プロテアーゼまたはエステラーゼによって切断可能な化合物である。例えば、リンカーは、GFLG等のカテプシンによって切断可能なペプチドを含み得る。リンカーはさらに、アミド結合またはカルバメート結合を介してNMDARアンタゴニストのアミノ基に結合し得る4-アミノ安息香酸(PAB)を含み得る。リンカーは、好ましくは、遊離形態(すなわち、天然形態)のNMDARアンタゴニストを放出し、これは、本明細書に開示されるジスルフィドリンカー等の多くの異なるリンカー化学によって達成され得る。これらのリンカー化学および追加のリンカー化学は、当業者によく知られている。
【0048】
NMDARアンタゴニストは、ペプチドのC末端領域に結合してもよい。本発明の文脈において、C末端領域は、C末端から数えて最大50%のアミノ酸、例えば、C末端から数えて最大40%、30%、25%、20%または10%のアミノ酸であり得る。例えば、配列番号1のC末端領域は、アミノ酸21~40、26~40または31~40(N末端から数えた数)であり得る。したがって、NMDARアンタゴニスト、例えばメマンチンまたはジゾシルピンは、C末端から数えて10個のアミノ酸のいずれか1つに直接またはリンカーを介して結合し得る。例えば、NMDARアンタゴニスト、例えばメマンチンは、C末端から5アミノ酸以内のアミノ酸に直接結合し得る。これにより、NMDARアンタゴニストはペプチドのN末端で立体障害をほとんど生じないかまたは全く生じない。N末端はグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体への結合に関与するため、N末端の立体障害が全くないかまたは低いと、グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体に対する親和性が高くなり得る。また、複数のNMDARアンタゴニストを同一のペプチド分子に結合することもできると考えられる。
【0049】
一つの実施形態において、NMDARアンタゴニストは、ジスルフィド基を含む化学リンカーを介してペプチドに連結される。ジスルフィド基は、化学的に還元されたときにNMDARアンタゴニストがペプチドから放出されることを可能にする。ジスルフィド基を含む化学リンカーは、ジスルフィドリンカーとしても知られ、ペプチドおよび複合体のNMDARアンタゴニストが、全身循環中に長期間にわたり複合体化を維持することを保証する。ジスルフィドリンカーのジスルフィド基は、細胞内環境等の還元環境で還元され、その結果、複合体が切断され、複合体のペプチド部分が複合体のNMDARアンタゴニスト部分から分離される。還元は、例えばグルタチオン等のチオール、または細胞内タンパク質ジスルフィドイソメラーゼ酵素等の還元酵素とのジスルフィド交換によって行われ得る。
【0050】
化学リンカーは、当該技術分野において既知の一般式R’-S-S-R’’を有する化学リンカーから選択することができ、式中、R’基およびR’’基は互いに同一であっても異なっていてもよい。有利なことに、グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体に対するペプチドの親和性により、複合体は体内のグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体の部位およびその近傍に蓄積され得、NMDARアンタゴニストはグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体の部位およびその近傍に放出され得る。複合体のペプチド部分がない場合、NMDARアンタゴニストは部位特異的NMDAR結合として適切な効果を有し得る。複合体はグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体を有する細胞に隣接する細胞外環境で切断されるか、または複合体はグルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体を有する細胞によって内部化され、細胞の還元環境で切断されるのではないかと発明者らは推測している。
【0051】
一つの実施形態において、複合分子は化学リンカーを介して結合され、化学リンカーは式R-R-S-S-R-R-O-CO-Rを有し、Rはペプチドであり、RはNMDARアンタゴニストであり、Rは任意であり、存在する場合はC(CH、CH-CHまたはCHから選択され、ペプチドの側鎖またはペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、Rは(CHまたはCであり、Rは任意であり、存在する場合はC(CH、CH-CHまたはCHから選択され、nは1、2または3である。化学リンカーが還元されると、複合体の遊離したNMDARアンタゴニスト部分は分子内環化を起こし、それによりNMDARアンタゴニストが遊離型に放出される、図2参照。
【0052】
一つの実施形態において、化学リンカーは式R-R-S-S-(CH-O-CO-Rを有し、Rはペプチドであり、RはNMDARアンタゴニストであり、Rは任意であり、存在する場合はC(CH、CH-CHまたはCHから選択され、ペプチドの側鎖またはペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、nは1、2または3である。
【0053】
一つの実施形態において、化学リンカーは式R-R-R-S-S-(CH-O-CO-Rを有し、Rはペプチドであり、RはNMDARアンタゴニストであり、Rは任意であり、存在する場合はCH(CH、CH-CHまたはCHから選択され、ペプチドの側鎖またはペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、Rは任意であり、存在する場合はCH(CH、CH-CHまたはCHから選択され、ペプチドの側鎖またはペプチドの主鎖の炭素原子に結合し、nは1、2または3である。
【0054】
一つの実施形態において、第2のラジカル結合は、本発明におけるペプチドの主鎖に対するものである。別の実施形態において、第2のラジカル結合は、本発明におけるペプチドの側鎖に対するものである。
【0055】
本発明の文脈において、Rがペプチドの主鎖に結合している場合、C(CH(L-ペニシラミン)はPenと称され、CH-CH(L-ホモシステイン)はhCysと称され、CH(L-システイン)はCysと称されることがある、図1参照。
【0056】
本明細書において、第1および第2のラジカル結合は、本明細書に開示される化学リンカー内に少なくとも2つの自由結合が存在することを示すために用いられる。
【0057】
本発明は、化学リンカーを介して付加されたペプチドおよびNMDARアンタゴニストを含む複合分子のライブラリの設計および合成を容易にする。図1は、このような複合分子の設計方法を示す。図1に示すように、複合体は、NMDARアンタゴニスト(図1のMK801)とペプチドとを化学的に結合させることによって調製することができる。当業者であれば、本明細書に開示される方法、および文献に報告された他の方法によって、膨大な数の異なる化学リンカーを調製することができ、これらの化学リンカーは、本明細書に開示される方法および既知の技術の他の場所で報告された方法に従って、ペプチドおよびNMDARアンタゴニストを付加するために用いることができることを理解するであろう。
【0058】
本発明者らは、本発明のペプチドが標的剤として機能し、NMDARアンタゴニスト等の非特異的小分子を脳の領域に部位選択的に送達できることを見出した。
【0059】
本明細書に開示される複合分子は選択性を提供し、標的領域における薬物作用を集中させる。複合分子によって可能になるこの標的化により、治療指数の向上、すなわち最小有効濃度の低下が可能になる。NMDARの組織選択的標的化は、神経疾患の標的治療に用いられ得る。
【0060】
本発明者らは、本発明の複合体が神経変性に対して驚くべき相乗効果を発揮することを実証しており、これはペプチド単独の投与により得られる効果と比較して著しく大きい、図3および4参照。さらに、本発明の複合分子の長期投与は、研究に用いられるマウスの体重に影響を与えないと思われる、図5参照。
【0061】
本発明で開示されるデータはマウスの研究で得られたものであるが、エネルギー代謝を制御する主要なホルモン経路はマウスとヒトとの間で類似しており、同等の受容体発現プロファイルを示すため、この結論はヒトにも同様に当てはまる。
【0062】
一つの実施形態において、本発明の複合分子で治療される神経変性疾患は認知症、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷、ハンチントン病、統合失調症およびうつ病から選択される。一つの実施形態において、本発明の複合分子は、アルツハイマー病の治療および/または予防に用いられる。アルツハイマー病には、前臨床アルツハイマー病、アルツハイマー病による軽度認知障害、アルツハイマー病による軽度認知症、アルツハイマー病による中等度認知症、およびアルツハイマー病による重度認知症の5つの段階がある。本発明の複合分子は、アルツハイマー病のどの段階の治療にも用いることができると想定される。同様に、本発明の複合分子は、疾患の段階または進行度に関係なく、他の神経変性疾患の治療にも用いることができる。
【0063】
一つの実施形態において、複合分子は医薬組成物の形態で投与され、医薬組成物は複合分子またはその薬学的に許容可能な塩、および薬学的に許容可能な担体を含む。複合分子の任意の実施形態が医薬組成物に用いられ得る。
【0064】
医薬製剤は、慣用的な技術によって調製することができる。簡単に言えば、薬学的に許容可能な担体は、固体または液体のいずれかである。固体形態の製剤としては、粉末、錠剤、丸剤、カプセル剤、カシェ剤、坐剤および分散性顆粒が挙げられる。固体担体は、希釈剤、可溶化剤、潤滑剤、懸濁剤、結合剤、保存料、湿潤剤、錠剤崩壊剤またはカプセル化材料としても機能する1つ以上の賦形剤であり得る。
【0065】
医薬製剤に含まれる複合体は粉末状であり得、滅菌固体の無菌単離によって、または使用前に適切な媒体、例えば滅菌された発熱物質を含まない水を用いて、構成するための溶液から凍結乾燥することによって得られる。
【0066】
一つの実施形態において、医薬組成物は、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与または経口投与のために適合される。したがって、本発明の組成物は、任意に保存料を添加して、アンプル、プレフィルドシリンジ、小容量注入または複数回投与容器内の単位投与形態で提供することができる。組成物は、油性媒体または水性媒体中の懸濁液、溶液または乳濁液等の形態をとることができる。
【0067】
一つの実施形態において、神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子またはその医薬組成物は、少なくとも週に1回、12ヶ月以上投与される。別の実施形態において、複合分子またはその医薬組成物は、週に2~3回、12ヶ月以上投与される。別の実施形態において、複合分子またはその医薬組成物は、対象者に1日1回、12ヶ月以上投与される。
【0068】
本発明の複合分子は、少なくとも12か月間、例えば少なくとも16か月間または少なくとも18か月間、複合分子または複合分子を含む医薬組成物を投与する慢性治療として投与することができる。本発明の複合分子またはその医薬組成物による慢性治療は、数年にわたる治療を伴う場合があることが理解される。一つの実施形態において、本発明の複合分子またはその医薬組成物は、1年、2年、5年、10年またはそれ以上にわたり、1日1回または週1回投与される。一つの実施形態において、本発明の治療用の複合分子またはその医薬組成物は、5年以上にわたり、週2~3回投与される。
【0069】
上記では、本発明を主にいくつかの実施形態を参照して説明した。しかしながら、当業者であれば容易に理解できるように、本発明の範囲内で、上記に開示した実施形態以外の実施形態も同様に可能である。
【0070】
本発明の他の態様および有利な特徴は、以下の非限定的な実施例によって詳細に説明され、例示される。
【0071】
一般に、本明細書で用いられるすべての用語は、明示的に定義されるかまたは別途記載がない限り、本発明の技術分野における通常の意味に従って解釈され、本発明のすべての態様および実施形態に適用される。「a/an/the[conjugate(複合体)、molecule(分子)、linker(リンカー)、peptide(ペプチド)等]」へのすべての言及は、明示的に別途記載がない限り、上記の複合体、薬剤、分子、リンカー、ペプチド等の少なくとも1つの例を指すものとして明らかに解釈される。
【0072】
本発明の文脈において、「ペプチド」という用語は、ペプチド結合によって連結される10~60個のアミノ酸の連続体から構成され、グルカゴンスーパーファミリーペプチドに属する化合物を意味する。このようなペプチドとしては、限定されないが、インクレチンホルモンのグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、胃抑制ペプチド(GIP)およびグルカゴン(GCG)が挙げられる。本発明におけるペプチドは、グルカゴンスーパーファミリーペプチド受容体のアゴニストであり、神経保護ペプチドであると考えられ、本発明の複合分子を視床下部を含む脳内の部位に能動的に送達する薬剤として機能することもある。
【0073】
本明細書においてペプチドまたはアミノ酸に関連して用いられる「誘導体」または「類似体」という用語は、化学的に修飾されたペプチドまたはアミノ酸を意味し、少なくとも1つの置換基が、修飾されていないペプチドまたはアミノ酸またはその類似体には存在せず、すなわち、共有結合的に修飾されたペプチドまたはアミノ酸である。典型的な修飾はアミド、炭水化物、アルキル基、アシル基、エステル等である。
【0074】
本発明の文脈において、「パーセンテージ同一性」または「%同一性」という用語は、特にBLASTアルゴリズムを用いて比較された2つのペプチド間の同一アミノ酸の%を意味する。
【0075】
本明細書で用いられる用語「NMDARアンタゴニスト」は、NMDA受容体(NMDAR)のアンタゴニストである化合物を意味する。NMDA受容体のオープンチャネルブロッカーの群に属するNMDARアンタゴニストの例としては、限定されないが、3,5-ジメチルアダマンタン-1-アミン(メマンチン)、3,5-ジメチルアダマンタン-1-アミン塩酸塩(メマンチン塩酸塩)、アダマンタン-1-アミン(アマンタジン)、2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサン-1-オン(ケタミン)、1-(1-フェニルシクロヘキシル)ピペリジン(フェンシクリジン)、アルギオトキシン、例えば(2S)-N-[5-[3-[3-[[(2S)-2-アミノ-5-(ジアミノメチリデンアミノ)ペンタノイル]アミノ]プロピルアミノ]プロピルアミノ]ペンチル]-2-[[2-(2,4-ジヒドロキシフェニル)アセチル]アミノ]ブタンジアミド(アルギオトキシン-636)、(1S,9S,10S)-17-メチル-17-アザテトラシクロ[7.5.3.01,10.02,7]ヘプタデカ-2(7),3,5-トリエン-4-オール(デキストロルファン)、1-(3-エチルフェニル)-1-メチル-2-ナフタレン-1-イルグアニジン(アプチガネル)、ポリアミン、例えば2-[4-(ジアミノメチリデンアミノ)ブチル]グアニジン(アルカイン)、N’-(2-アミノエチル)エタン-1,2-ジアミン(ジエチレントリアミン)およびブタン-1,4-ジアミン(プトレッシン)、1,3,3,5,5-ペンタメチルシクロヘキサン-1-アミン(ネラメキサン)、2-アミノ-2-(2-クロロフェニル)シクロヘキサン-1-オン(ノルケタミン)および(1S,9R)-1-メチル-16-アザテトラシクロ[7.6.1.02,7.010,15]ヘキサデカ-2,4,6,10,12,14-ヘキサエン(ジゾシルピンまたはMK801)が挙げられる。
【0076】
本発明の文脈において、本明細書で用いられる用語「治療および/または予防」は、本明細書で言及される神経変性疾患の予防、遅延、発症リスクの低減、改善または治癒的治療を包含する。治療は、対症療法であってもよく、または疾患修飾療法であってもよい。いくつかの実施形態において、本明細書で用いられる予防は、本明細書で言及される神経変性疾患の予防を指す。神経変性疾患の予防に関連して用いられる予防は、疾患の進行の予防または軽減であってもよい。神経変性疾患と既に診断された個体は、本発明の複合分子で治療することにより、神経変性疾患に罹患していない対象と比較して、疾患の進行の軽減、すなわちさらなる悪化の遅延を経験する可能性がある。
【0077】
本発明の文脈において、「それを必要とする対象」という用語は、神経変性疾患と診断された対象、特にヒトである。神経変性疾患の診断および適切な治療方針の選択は、一般開業医(GP)によって行われ、精神科医、高齢者ケア医(特にアルツハイマー病や認知症等の加齢性神経変性疾患の場合)、および/または神経科医等の専門家と協力する場合もある。神経変性疾患と診断された対象は、最初の診断に続いて、神経変性疾患の進行を追跡するために、GPおよび/または専門家による定期検診を受けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
本発明の上記のおよびさらなる目的、特徴、および利点は、添付の図面を参照しながら、本発明の実施形態の以下の例示的かつ非限定的な詳細な説明によってよりよく理解される。
図1図1は、ペプチドおよびNMDARアンタゴニストの複合体の例を示す。
図2図2は、NMDARアンタゴニスト、ここではMK801(ジゾシルピン)が図1の複合体から放出されるメカニズムを示す。
図3図3は、マウスの一次海馬ニューロンにおけるGLP-1 Pen40/メマンチンの神経保護効果を示す。
図4図4は、マウスの海馬における炎症誘発マーカーIL-1b、IL-6およびTNF-αの遺伝子発現に対するGLP-1 Pen40/メマンチンの効果を示す。
図5図5は、5xFADマウスの体重増加に対するGLP-1 Pen40/メマンチンの効果を示す。
図6図6は、配列番号5のコアゴニストGLP-1/GIPと配列番号1の改変GLP-1ペプチドとの間のアミノ酸配列アラインメントを示し、XはD-アラニン、D-セリン、α-アミノイソ酪酸、N-メチル-セリン、グリシンまたはバリンであり、Xはシステイン(hCys40/Cys40)またはL-ペニシラミン(Pen40)であり、CexはペプチドのC末端におけるエキセンジン-4延長部(配列番号9)である。
図7図7は、配列番号7のトリアゴニストGLP-1/GIP/GCGと配列番号1の改変GLP-1ペプチドとの間のアミノ酸配列アラインメントを示し、XはD-アラニン、D-セリン、α-アミノイソ酪酸、N-メチル-セリン、グリシンまたはバリンであり、Xはシステイン(hCys40/Cys40)またはL-ペニシラミン(Pen40)であり、CexはペプチドのC末端におけるエキセンジン-4延長部(配列番号9)である。
図8図8は、5xFADマウスに生理食塩水(対照)またはGLP-1/メマンチンを49日間投与した後の前頭皮質(左のグラフ)および海馬(右のグラフ)のアミロイドプラークの数を示す。
【発明の詳細な説明】
【0079】
図1は、ペプチドとNMDARアンタゴニストとの複合体100の例を示し、この複合体は、配列番号1のペプチド103のC末端システイン102に化学リンカー104を介して化学的に付加されたMK801(ジゾシルピン)101から成り、化学リンカー104はジスルフィド基105を含む。C末端システイン102の側鎖106は、側鎖106の長さnが1または2個の炭素原子となるように、かつ/またはRが水素またはメチルとなるように、任意に誘導体化されてもよい。側鎖106のhCys40と呼ばれる修飾は、長さn=2個の炭素原子およびR=水素である。側鎖106のhCys40と呼ばれる修飾は、長さn=1個の炭素原子およびR=メチルである。通常のシステインはCys40と呼ばれる。
【0080】
図2は、NMDARアンタゴニスト、ここではMK801(ジゾシルピン)が図1の複合体100から放出されるメカニズムを示す。ジスルフィド基105を含む化学リンカー104は自己破壊的であり、細胞内環境等の還元環境(図示せず)で還元されてチオール基を生成し、複合体のペプチド部分107を複合体のMK801部分108から分離する。分子のMK801部分108では、遊離した求核チオール109が自発的に分子内環化を起こし、MK801を天然の未修飾MK801薬剤(MK801の遊離型)として放出する。
【0081】
図3は、GLP-1 Pen40/メマンチンが一次海馬ニューロンの神経保護に及ぼす影響を示す。一次ラット海馬ニューロンを、緩衝液、NMDA(神経毒性を誘発するため)、NDMA+GLP-1、またはNMDA+GLP-1/メマンチン複合体のいずれかとともに24時間培養した。培地を採取し、細胞毒性の間接的な尺度として乳酸脱水素酵素(LDH)活性を分析した。データは、GLP-1/メマンチン複合体はNMDA誘発性神経毒性を予防するが、GLP-1ペプチド単独では予防できないことを示す。図3のデータはさらに、GLP-1およびメマンチンの相乗効果がこれら2つの化合物が複合体化された場合にのみ得られることを示し、これはGLP-1/メマンチンの複合体化分子でのみ細胞毒性が大幅に減少したことから明らかである。
【0082】
図4は、49日間の化合物処理後の海馬における炎症誘発マーカーIL-1b、IL-6およびTNF-αの遺伝子発現に対するGLP-1 Pen40/メマンチンの効果を示す。炎症誘発マーカーであるIL-1b、IL-6およびTNF-αの発現(mRNAで測定)は、5xFAD ADマウスモデルで全体的に増加した。特に、GLP-1/メマンチンの複合体による治療により、5xFADマウスモデルにおける炎症誘発が完全に排除された。
【0083】
図5は、5xFADマウスの体重増加に対するGLP-1 Pen40/メマンチンの効果を示す。雌の野生型(WT)コントロールマウス+媒体治療(n=12)、5xFAD ADマウス+媒体治療、および5xFAD ADマウス+GLP-1/メマンチン(100nmol/kg/日)治療を49日間にわたり毎日皮下注射し、その後マウスの脳領域を解剖してex vivo分析用に保存した。GLP-1/メマンチンの複合体による治療では一時的な体重減少のみが引き起こされ、このin vivoアルツハイマー病モデルでは長期的な体重減少は観察されないことが示された。
【0084】
図8は、5xFADマウスに生理食塩水またはGLP-1/メマンチンを49日間投与した後の前頭皮質(左のグラフ)および海馬(右のグラフ)のアミロイドプラークの数を示す。アミロイドプラークはアルツハイマー病患者に共通して見られ、凝集してプラークを形成し、ニューロン間に集まり、細胞機能を阻害する天然タンパク質ベータアミロイド42の異常なレベルが原因である。したがって、アルツハイマー病の患者はアミロイドプラークのレベルが上昇する。メマンチンと複合体化したGLP-1に例示される本発明の複合体による治療により、アミロイド斑の形成を減少させることが示された。したがって、特定の理論に拘束されることなく、本発明者らは、本発明の複合分子が神経保護の役割を担っていると仮定する。
【0085】
全体として、提示されたデータは、GLP-1類似体等のグルカゴンスーパーファミリーペプチド類似体とNMDARアンタゴニストとの化学的複合体化が、神経変性疾患の治療における新しい医療戦略であることを示す。この戦略に基づく複合体は、ペプチドコントロールと比較して、一次海馬ニューロンの神経保護に優れており、NMDAR拮抗作用による中枢への悪影響がない。
【0086】
上記で報告した実験および知見に加えて、当業者であれば、本発明の複合分子の神経変性疾患の治療における効果を評価するために他の試験も実行できることを理解するであろう。このような実験または試験には、げっ歯類の認知障害を評価するために一般的に用いられる行動試験が含まれるが、これらに限定されない。このような行動試験の例としては、限定されないが、短期記憶を評価するためのY字型迷路試験、長期記憶を検定するためのステップスルー受動回避試験、ならびにオープンフィールド試験、ロータロッド性能試験、モリス水迷路、新規オブジェクト認識試験、放射状迷路、恐怖条件付け、および受動回避学習が挙げられる。
【実施例
【0087】
実施例1:ペプチドおよびペプチド-NMDARアンタゴニスト複合体の調製
材料:すべての溶媒および試薬は市販のものを購入し、精製せずに用いた。ペプチド伸長にはH-Rink amide ChemMatrix(登録商標)樹脂を用いた。特に記載がない限り、Fmoc保護(9-フルオレニルメチルカルバメート)アミノ酸はIris-BiotechまたはGyros Protein Technologiesから購入し、H-Rink amide ChemMatrix(登録商標)樹脂、35-100メッシュ;充填量0.40~0.60mmol/gはSigma Aldrichから購入した。市販のNα-Fmocアミノ酸構成要素は、下記の側鎖保護類似体として購入した:Arg、Pmc;Asp、OBu;Cys、Trt;Gln、Trt;His、Trt;Lys、Trt;Ser、Bu;およびTrp、Boc(Pmc=2,2,5,7,8-ペンタメチルクロロマン-6-スルホニル、OBu=tert-ブチルエステル、Trt=トリチル、Boc=tert-ブチルオキシカルボニル、およびBu=tert-ブチルエーテル)。
【0088】
すべてのペプチドおよびペプチドとNMDARアンタゴニストとの複合体は、分析用逆相超高性能液体クロマトグラフィー(RP-UPLC)(Waters)およびC18カラム(Zorbax Eclipse、XBD-C18、4.6×50mm)を備えたAgilent6410 Triple Quadrupole Massfilterに接続されたエレクトロスプレーイオン化液体クロマトグラフィー質量分析(ESI-LCMS)によって特性評価された。ESI-LCMSは、HO:MeCN:TFA(A:95:5:0.1、B:5:95:0.1)からなるバイナリバッファーシステムを用いて、流速0.75mL/分で溶出した。純度は、C18カラム(Acquity UPLC BEH C18、1.7μm、2.1×50mm)を備えたRP-UPLCで、HO:MeCN:TFA(A:95:5:0.1、B:5:95:0.1)からなるバイナリバッファーシステムを用いて、流速0.45mL/分で溶出させて測定した。
【0089】
Fmoc保護スキームの自動ペプチド合成プロトコル:ペプチドは、10mLガラス容器を備えたPrelude X、誘導加熱支援ペプチド合成装置(Gyros Protein Technologies、米国アリゾナ州ツーソン)を用いて、C末端アミド化誘導体として調製された。すべての試薬は、DMFのストック溶液として新しく調製された:Fmoc保護アミノ酸(0.2M)、HCTU(0.5M)、DIPEA(1.0M)およびピペリジン(20%v/v)。ペプチド伸長は、下記のプロトコルを用いた連続合成操作によって達成された:脱保護(2×2分、RT、300rpm振とう)およびカップリング(2×5分、75℃、300rpm振とう、ArgおよびHisの場合2×5分、50℃、300rpm振とう)。ペプチドは、樹脂に対して5倍過剰のAA/HCTU/DIPEA(比率1:1.25:2.5)からなる二重および三重カップリングを用いて調製された。
【0090】
ペプチド切断:合成ペプチドは、ペプチジル樹脂100mgあたり1.5mLの切断カクテル(TFA中の2.5%EDT、2.5%HO、2.5%TIPS、2.5%チオアニソール)を添加して2時間撹拌することにより、ペプチジル樹脂から遊離した。粗ペプチドは冷ジエチルエーテルで沈殿させ、4℃で10分間2500×gで遠心分離し、MeCN:HO:TFA(比率1:1:0.01)に再溶解し、濾過して凍結乾燥させた。
【0091】
精製:粗ペプチドまたはペプチドとNMDARアンタゴニストとの複合体は、精製前にRP-UPLCおよびESI-LCMSまたはMALDI-TOF質量分析によって分析された。精製は、逆相C18カラム(Zorbax、300SB-C18、21.2×250mm)を備えた逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)システム(Waters)を用いて行われ、HO:MeCN:TFA(A:95:5:0.1、B:5:95:0.1)のバイナリバッファーシステムを用いて直線勾配(流量20mL/分)で溶出した。画分は0.3分間隔で収集され、ESI-LCMSで特性評価された。純度は214nmでRP-UPLCによって測定され、純度>95%の画分がプールされ、凍結乾燥された。最終的に凍結乾燥した生成物はさらなる実験に用いられた。
【0092】
ペプチドとNMDARアンタゴニストとの複合体を組み立てるための複合体化プロトコル:純粋なペプチドおよび純粋なチオピリジル活性化NMDARアンタゴニスト複合体をバイナリ溶媒システム(A:DMF、pH=8のHO中の6Mグアニジン、1.5Mイミダゾール)(比率7:1)に溶解し、少なくとも2時間撹拌した。粗反応混合物を分析RP-UPLCおよびESI-LCMSで監視した。完了後、反応混合物をバッファーAおよびバッファーBで希釈し、直線勾配で溶出するRP-HPLCを用いて直接精製した。
【0093】
脱塩:すべてのペプチドは生物学的実験の前に脱塩された。脱塩は、ペプチドまたはペプチドとNMDARアンタゴニストとの複合体を0.01MのHClの希釈水溶液で連続的に再溶解し、それに続く凍結乾燥を3回繰り返すことによって行われた。ペプチドまたは複合体の純度は、in vivoまたはin vitro実験に用いる前にRP-UPLCおよびESI-LCMSで監視した。
【0094】
GLP-1 Cys40/メマンチン(システイン結合)の調製
配列番号1のアミノ酸配列を有するGLP-1ペプチドを、上記のFmocプロトコルを用いて合成し、化学リンカー誘導体化メマンチン類似体に結合させた。化学リンカー誘導体化メマンチンの合成は、図15に示す合成経路で行った。合成経路の第1工程は、メタノール中で、室温で2時間行った。第2工程は、ピリジンの存在下で、CHCl中で、0℃で2時間行った。第3工程は、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)の存在下で、DMF中で、55℃で5日間行った。最終工程(結合)は、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾール緩衝液中で、室温で2時間行った。
【0095】
2’-ピリジルジチオエタノール マグネティックスターラーを備えた乾燥丸底フラスコ内で、N雰囲気下で、2’-アルドリチオール(4.71g、21.3mmol、3当量)を乾燥MeOH(20mL)に溶解し、次いで2-メルカプトエタノール(0.56g、7.1mmol、0.5mL、1当量)を注射器で滴下した。反応物を室温で2時間放置した後、真空濃縮した。粗黄色油状物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(酢酸エチル:CHCl、2:8)で精製し、2’-ピリジルジチオエタノール(1.33g、100%)を透明油状物として得た。Rf = 0.48; 1H NMR (600 MHz, Chloroform-d) δ 8.49 (d, J = 5.0 Hz, 1H), 7.57 (td, J = 7.7, 1.8 Hz, 1H), 7.44 - 7.36 (m, 1H), 7.16 - 7.11 (m, 1H), 5.32 (s, 1H), 3.88 - 3.73 (m, 2H), 3.01 - 2.89 (m, 2H); 13C NMR (151 MHz, CDCl3) δ 159.31, 149.86, 137.00, 122.12, 121.57, 58.37, 42.83.
【0096】
4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファニル)エチル)炭酸塩 マグネティックスターラーを備えた乾燥丸底フラスコ内で、N雰囲気下で、2’-ピリジルジチオエタノール(1.33g、7.1mmol、1当量)および乾燥ピリジン(0.56g、8.5mmol、0.575mL、1.2当量)を無水CHCl(15mL)で希釈した。反応混合物を0℃に冷却し、クロロギ酸ニトロフェニル(1.72g、8.5mmol、1.2当量)を一度に添加した。反応物を10分間撹拌し、室温に到達させ、撹拌しながら2時間放置した。反応物を50mLに希釈し、3×HO(30mL)および塩水(30mL)で抽出し、MgSOで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。粗油状物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィー(ヘプタン:酢酸エチル、2:1)で精製し、4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファニル)エチル)炭酸塩(2.21g、89%)を透明粘性油として得た。Rf = 0.34; Purity >95 % (HPLC), Rt = 15.99 min; UPLC/MS (ESI): m/z calcd. for C14H12N2O5S2 [M+H]+ = 353.0, found 353.3 m/z; 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 8.47 (ddd, J = 4.8, 1.9, 0.9 Hz, 1H), 8.35 - 8.26 (m, 2H), 7.84 (td, J = 7.8, 1.8 Hz, 1H), 7.78 (dt, J = 8.1, 1.1 Hz, 1H), 7.58 - 7.48 (m, 2H), 7.26 (ddd, J = 7.3, 4.8, 1.1 Hz, 1H), 4.48 (t, J = 6.0 Hz, 2H), 3.24 (t, J = 6.1 Hz, 2H); 13C NMR (151 MHz, DMSO) δ 158.65, 155.17, 151.75, 149.66, 145.18, 137.80, 125.40, 122.53, 121.40, 119.52, 66.54, 36.42.
【0097】
2-(ピリジン-2-イルジスルファニル)エチル(3,5-ジメチルアダマンタン-1-イル)カルバメート マグネティックスターラーを備えた乾燥丸底フラスコ内で、N雰囲気下で、4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファニル)エチル)炭酸塩(707mg、2.00mmol、1当量)およびメマンチン塩酸塩(650mg、3.00mmol、1.5当量)を乾燥DMF(20mL)に溶解し、乾燥DIPEA(260mg、6.00mmol、0.35mL、3当量)を注射器で添加した。メマンチンは完全には溶解せず、DIPEAを添加すると、反応物は直ちに黄色に変わった。反応物を5日間放置し、次いで80℃に加熱した。次いで、反応物を、酢酸エチル(50mL)が入った分液漏斗に移し、5回に分けて飽和食塩水(50mL)および食塩水(50mL)で十分に洗浄してDMFを除去した。次いで、有機層を1MのNaOH水溶液(50mL)で5回抽出し(水層の黄色が消えるまで)、MgSOで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。粗油状物をシリカゲルフラッシュクロマトグラフィーで精製し、勾配(ヘプタン:EtOAc、9:1~3:1)で溶出させて、2-(ピリジン-2-イルジスルファニル)エチル(3,5-ジメチルアダマンタン-1-イル)カルバメートをガラス状粘性油(540mg、54%)として得た。Rf = 0.26; Purity >95 % (HPLC), Rt = 19.36 min; UPLC/MS (ESI): m/z calcd. for C20H28N2O2S2 [M+H]+ = 393.2, found 393.4 m/z; 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 8.46 (ddd, J = 4.8, 1.9, 0.9 Hz, 1H), 7.85 - 7.75 (m, 2H), 7.25 (ddd, J = 7.2, 4.8, 1.2 Hz, 1H), 6.89 (s, 1H), 4.10 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.05 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 1.69 - 1.63 (m, 2H), 1.54 - 1.43 (m, 4H), 1.31 - 1.20 (m, 5H), 1.07 (s, 2H), 0.80 (s, 6H); 13C NMR (151 MHz, DMSO) δ 159.04, 153.78, 149.55, 137.79, 121.21, 119.23, 60.80, 51.40, 50.18, 47.07, 42.22, 37.46, 31.84, 30.05, 29.46.
【0098】
GLP-1 Cys40およびGLP-1 Cys40/メマンチンは、上記のプロトコルを用いて調製された。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%以上であると決定した。
【0099】
GLP-1 Pen40/メマンチン(ペニシラミン結合)の調製 化学リンカー誘導体化メマンチンの合成は、図15に開示された合成経路を用いて行われた。GLP-1 Pen40およびメマンチンは、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾール緩衝液中で、室温で2時間行われる図16に示す化学反応によって結合された。
【0100】
GLP-1 Cys40/MK801(システイン結合)の調製 配列番号1の配列を有するペプチドを、上記で開示したFmocプロトコルを用いて合成し、化学リンカー誘導体化MK801類似体と複合体化させた。化学リンカー誘導体化MK801の合成は、図17に開示した第2の合成経路を介して行った。化学反応は、DIPEA存在下で、DMF中で、55℃で5日間行った。リンカー誘導体化MK801は、図18に示す化学反応によってGLP-1 Cys40と複合体化させた。反応は、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾール緩衝液中で、室温で2時間行った。
【0101】
2-(ピリジン-3-イルジスルファニル)エチル5-メチル-10,11-ジヒドロ-5H-5,10-エピミノジベンゾ[a,d][7]アヌレンe-12-カルボキシレート マグネティックスターラーを備えた火炎乾燥したシュレンク丸底フラスコ内で、N雰囲気下で、MK801塩酸塩(191mg、0.86mmol、1.2当量)を乾燥DMF(10mL)に溶解し、次いで4-ニトロフェニル(2-(ピリジン-2-イルジスルファニル)エチル)炭酸塩(253mg、0.72mmol、1.0当量)を添加した。次いで、乾燥DIPEA(375μL、2.14mmol、3.0当量)を添加すると、溶液は黄色に変わった。反応物を油浴中で55℃に加熱し、UPLC-MSが出発物質の完全消費を示すまで4日間撹拌した。反応物を酢酸エチル(50mL)で希釈し、半飽和食塩水(5×60mL)、0.5M水酸化ナトリウム水溶液(5×60mL)、食塩水で十分に洗浄した。有機相を収集し、MgSOで乾燥させ、濾過し、真空濃縮した。分取HPLC(アイソクラティック60%Bで17mL/分以上溶出)で精製し、次いで凍結乾燥して、11を透明固体(250.2mg、80.1%)として得た;純度>95%(HPLC)、Rt = 18.17 min; UPLC/MS (ESI): m/z calcd. for C24H22N2O2S2 [M+H]+ = 435.1, found 435.4; 1H NMR (600 MHz, DMSO-d6) δ 8.41 (dt, J = 4.8, 1.4 Hz, 1H), 7.68 (dt, J = 7.9, 4.1 Hz, 2H), 7.45 (d, J = 7.1 Hz, 1H), 7.38 - 7.31 (m, 1H), 7.25 - 7.15 (m, 4H), 7.15 - 7.06 (m, 2H), 7.01 - 6.87 (m, 1H), 5.38 (d, J = 5.5 Hz, 1H), 4.27 - 4.13 (m, 2H), 3.59 (dd, J = 17.3, 5.7 Hz, 1H), 3.10 (s, 2H), 2.67 - 2.58 (m, 1H), 2.20 (s, 3H); 13C NMR (151 MHz, DMSO) δ 158.92, 149.56, 143.37, 139.04, 137.70, 131.78, 130.25, 127.42, 127.34, 127.31, 125.88, 122.12, 121.66, 121.20, 119.19, 65.33, 62.21, 59.20, 37.55.
【0102】
GLP-1 Cys40/MK801は、2-(ピリジン-3-イルジスルファニル)エチル5-メチル-10,11-ジヒドロ-5H-5,10-エピミノジベンゾ[a,d][7]アヌレンe-12-カルボキシレートおよびGLP-1 Cys40から上記のプロトコルを用いて調製された。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により生成物が確認され、純度は>95%であると決定した。
【0103】
GLP-1 hCys40/MK801(ホモシステイン結合)の調製 配列番号1のアミノ酸配列およびhCys40修飾を有するペプチドを、上記で開示したFmocプロトコルを用いて合成し、化学リンカー誘導体化MK801類似体と結合させた。リンカー誘導体化MK801の化学合成は、図19に示す合成経路で行い、化学反応を、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾール緩衝液中で、室温で2時間行った。
【0104】
GLP-1 hCys40:配列番号1のアミノ酸配列およびhCys40修飾を有するペプチドは、上記で開示されたプロトコルを用いて調製された。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%であると決定された。GLP-1 hCys40/MK801は、上記で開示されたプロトコルを用いて調製された。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%であると決定された。
【0105】
GLP-1 Pen40/MK801(ペニシラミン結合)の調製 GLP-1ペプチド誘導体は、上記で開示したFmocプロトコルを用いて合成され、化学リンカー誘導体化MK801類似体と結合された。化学リンカー誘導体化MK801の化学合成は、図16に開示した経路で行われた。
【0106】
GLP-1 Pen40/MK801: 複合体は、上記で開示したプロトコルおよび図20に示す化学反応を用いて調製され、化学反応は、6Mグアニジン、1.5Mイミダゾール緩衝液中で、室温で2時間行われた。RP-UPLCおよびESI-LCMS分析により、純度は>95%であると決定した。
【0107】
実施例2:一次海馬ニューロンにおける神経保護(図3
海馬ニューロンの一次培養は、Sprague-Dawleyラット胎児(E18)から調製し、細胞は、ポリ-L-リジンでプレコートした24ウェル細胞培養プレートで、B27サプリメント(5×10細胞/mL)を含むNeurobasal培地で希釈した。ニューロンは、5%CO雰囲気の加湿インキュベーター内で、37℃で保管した。in vitroで8日間培養した後、培養物を、媒体、NMDA(100μM)、NMDA+GLP-1(1μM)またはNMDA+GLP-1/メマンチンのいずれかで24時間処理した。細胞培養培地(50μL)を96ウェルELISAプレートに移し、製造元のプロトコルに従って乳酸脱水素酵素(LDH)活性を分析した(CytoTox-96、Nonradioactive Cytotoxicity assay、Promega)。
【0108】
実施例3:5xFADアルツハイマー病マウスモデルの体重の推移(図5
実験は、固形飼料(Altromin#1310、ラーゲ、ドイツ)で飼育された雌の5xFAD(Jackson Laboratory、34840-JAX)マウスを用いて行われた。薬理学的研究は8週齢で開始され、マウスは49日間、1日1回のGLP-1/メマンチンまたは生理食塩水(対照)の皮下注射で治療され、毎週体重が測定された。具体的には、化合物は1gあたり5μLの量で投与され、マウスはグループで飼育され(ケージあたりn=2~5匹)、21~23℃の温度で12時間の明暗サイクル(明:午前6時~午後6時、暗:午後6時~午前6時)で飼育された。5週目および6週目は、マウスは単独で飼育され、デジタル換気ケージシステムに移された。7週目は、マウスは0週目から4週目と同じグループに再分類された。最後に、マウスは49日目に安楽死させられ、組織が採取され、液体窒素を使用して急速凍結され、分析前に-80℃で保存された。
【0109】
実施例4:49日間の化合物処理後の海馬における遺伝子発現。(図4
海馬組織を、ステンレスビーズ(Qiagen)およびTissue LyserLT(Qiagen)を用いて、Trizol試薬(QIAzol Lysis Reagent、Qiagen)中で、20Hzで3分間ホモジナイズした。次いで、200μlのクロロホルム(Sigma-Aldrich)を添加し、チューブを15秒間激しく振とうし、室温で2分間放置した後、4℃で15分間12,000×gで遠心分離した。水相を70%エタノールと1:1で混合し、製造元の指示に従ってRNeasy Lipid Mini Kitを用いてさらに処理した。筋肉組織については、Fibrous Tissue Mini Kit(Qiagen)に同梱されているプロトコルに記載されている溶解手順に従った。RNA抽出後、NanoDrop 2000(Thermo Fisher)を用いてRNA含有量を測定し、FSバッファーおよびDTT(Thermo Fisher)とRandom Primers(Sigma-Aldrich)とを混合して500ngのRNAをcDNAに変換し、70℃で3分間インキュベートした後、dNTP、RNase out、Superscript III(Thermo Fisher)を添加し、サーマルサイクラーに入れて25℃で5分間、50℃で60分間、70℃で15分間処理し、さらに処理するまで-20℃で保存した。
【0110】
qPCR:SYBR green qPCRは、SYBR green(Primer Design、#PrecisionPLUS)を含むPrecision plus qPCR Mastermixを用いて行われた。qPCRは、Light Cycler 480 Real-Time PCR装置を用いて384ウェルプレートで行われ、95℃で2分間プレインキュベーションした後、60℃で60秒間の45サイクルを行い、融解曲線は温度を60℃から95℃まで段階的に上げて実行された。mRNA発現の定量化は、Δ-ΔCt法に従って行われた。
【0111】
実施例5:5xFADマウスに生理食塩水またはGLP-1/メマンチンを49日間投与した後のアミロイドプラークの数(図8
実験は、固形飼料(Altromin#1310、ラーゲ、ドイツ)で飼育された雌の5xFAD(Jackson Laboratory、34840-JAX)マウスを用いて行われた。薬理学的研究は8週齢で開始され、マウスは49日間、1日1回のGLP-1/メマンチンまたは生理食塩水(対照)の皮下注射で治療された。具体的には、化合物は1gあたり5μLの量で投与され、マウスはグループ飼育され(ケージあたりn=2~5匹)、21~23℃の温度で12時間の明暗サイクル(明:午前6時~午後6時、暗:午後6時~午前6時)で飼育された。5週目および6週目は、マウスは単独で飼育され、デジタル換気ケージシステムに移された。7週目は、マウスは0週目から4週目と同じグループに再分類された。49日目に、マウスはパラホルムアルデヒドで灌流固定され、脳が解剖され、30ミクロンの切片にスライスされた。海馬(頭蓋骨前項:-2.80mmから-0.94mm)および前頭皮質(頭蓋骨前項:0.14mmから2.96mm)の6枚ごとにスライドが収集され、Thioflavine Sで染色されてアミロイドプラーク沈着が定量化された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
2024542780000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-08-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子であって、ペプチドおよびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体(NMDAR)アンタゴニストを含み、前記ペプチドが配列番号1と少なくとも85%のアミノ酸配列同一性を有するか、または前記ペプチドが配列番号1、配列番号5、配列番号6、配列番号7または配列番号8で示されるものであり、前記ペプチドが直接または化学リンカーを介して前記NMDARアンタゴニストに結合しており、前記NMDARアンタゴニストがメマンチン、ネラメキサンおよびジゾシルピンから選択される、前記複合分子。
【請求項2】
前記ペプチドがインクレチンホルモンである、請求項1に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項3】
前記ペプチドがグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、胃抑制ペプチド(GIP)、それらの組み合わせ、および/またはそれらの誘導体もしくは類似体である、請求項1または2に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項4】
前記ペプチドが配列番号1と90%を超えるアミノ酸配列同一性を有するものである、請求項1~のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項5】
前記NMDARアンタゴニストがその遊離形態において、NMDA受容体との解離定数Kが約0.5nM~1000nMの範囲にある、請求項1~のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項6】
前記NMDARアンタゴニストが切断能を有する化学リンカーを介してペプチドに結合し、前記切断能を有する化学リンカーが、酸切断能を有するリンカー、酵素切断能を有するリンカー、ペプチド切断能を有するリンカー、およびジスルフィド基を含むリンカーから選択され、好ましくは前記ペプチドが配列番号1に示されるものであり、前記ペプチドのN末端から数えて2番目の位置のアミノ酸がα-アミノイソ酪酸であり、前記NMDARがメマンチンである、請求項1~のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項7】
前記切断能を有する化学リンカーがジスルフィド基を含むリンカーから選択される、請求項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項8】
前記神経変性疾患が認知症、軽度認知障害、アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中、外傷性脳損傷、ハンチントン病、統合失調症およびうつ病から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項9】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項1~のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項10】
前記複合分子が医薬組成物の形態で投与され、該医薬組成物が前記複合分子またはその医薬的に許容可能な塩、および医薬的に許容可能な担体を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項11】
前記医薬組成物が皮下、筋肉内、腹腔内、静脈内または経口で投与される、請求項10に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【請求項12】
前記複合分子が少なくとも週に1回、12ヶ月以上投与される、請求項1~11のいずれか一項に記載の、それを必要とする対象における神経変性疾患の治療および/または予防における使用のための複合分子。
【国際調査報告】