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特表2025-500467摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法
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  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図1
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図2
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図3
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図4
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図5
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図6A
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図6B
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図7
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図8
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図9
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図10
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図11
  • 特表-摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-09
(54)【発明の名称】摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20241226BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60T8/172 Z
B60T8/17 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538177
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 IB2022062451
(87)【国際公開番号】W WO2023119108
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】102021000032420
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】メスキーニ,アンドレア
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246GA25
3D246GB37
3D246HA35C
3D246HA36C
3D246HA41C
3D246HA44A
3D246HA64A
3D246HC01
3D246JB53
(57)【要約】
摩擦マップを用いて、ブレーキシステムのブレーキトルク及び/又はブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法である。運転状態における車両のブレーキシステムのブレーキトルクを推定する方法が記載されている。この方法は、ブレーキシステムの作動条件を代表する第1入力量及び第2入力量を検出又は計算するステップ(a)を含む。検出又は計算された第1入力量はブレーキシステムのブレーキディスクの温度Tを含む。検出又は計算された第2入力量は、ブレーキシステムの圧力P又はブレーキシステムの摩擦面間の接触圧力PCに依存する量からなる。次に、方法は、検出又は計算された第1入力量及び第2入力量に基づいて、第1入力量及び第2入力量の検出値又は計算値によって定義される条件下で期待されるブレーキ摩擦又は効率を代表するブレーキ摩擦係数μを決定するステップ (b)を含む。決定するステップ(b)は、電子処理によって、デジタル的に記憶された予め定義された摩擦マップ、又は対応する予め定義された摩擦マップテーブルを参照することによって実施される。本方法は最後に、決定されたブレーキ摩擦係数μと、ブレーキシステムの幾何学的及び/又は構造的及び/又は作動パラメータとに基づいてブレーキトルクCを推定するステップ(c)を含む。さらに、目標ブレーキトルク値を得るために車両のブレーキシステムに加えられる圧力を推定するための同様の方法、及びブレーキバイワイヤ(BBW)ブレーキシステムを作動させるための方法が記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作条件下における車両用ブレーキシステムのブレーキトルクを推定するための方法であって、
前記ブレーキシステムの作動条件を代表する第1入力量及び第2入力量を検出又は計算するステップ(a)であって、
前記第1入力量は、前記ブレーキシステムのブレーキディスクの温度(T)を含み、
前記第2入力量は、前記ブレーキシステムの圧力(P)又は前記ブレーキシステムの摩擦面間の接触圧力(PC)に依存する量を含む、検出又は計算するステップ(a)と、
前記第1入力量及び前記第2入力量に基づいて、前記第1入力量及び前記第2入力量の検出値又は計算値によって定義される条件下で期待されるブレーキ摩擦又は効率を代表するブレーキ摩擦係数(μ)を決定するステップ(b)であって、
前記決定するステップ(b)が、電子処理によって、デジタル的に記憶された予め定義された摩擦マップ、又は対応する予め定義された摩擦マップテーブルを参照することによって実施される、決定するステップ(b)と、
決定された前記ブレーキ摩擦係数(μ)と、前記ブレーキシステムの幾何学的パラメータ及び/又は構造的パラメータ及び/又は動作パラメータとに基づいて、前記ブレーキトルク(C)を推定するステップ(c)、を含む方法。
【請求項2】
前記第2入力量が、
前記ブレーキシステムの圧力(P),又は
前記ブレーキシステムの摩擦面間の接触圧力(PC)、又は
前記ブレーキシステムの圧力(P)に前記ブレーキシステムが作用する車輪の回転速度(vr)を乗じた積、又は
前記ブレーキシステムの摩擦面間の接触圧力(PC)に前記ブレーキシステムが作用する車輪の回転速度(vr)を乗じた積、いずれか一つである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ブレーキシステムが、少なくとも一つのブレーキキャリパと一つのブレーキディスクとを備え、
前記ブレーキシステムの前記摩擦面が、前記ブレーキシステムのディスクの表面とブレーキキャリパパッドの表面であり、
前記前記ブレーキシステムのディスクの表面とブレーキキャリパパッドの表面は、ブレーキイベント中に相互に接触するように構成され、
前記回転速度(vr)は、前記ブレーキシステムの前記ブレーキディスク及び前記ブレーキキャリパが作用する前記車輪の回転速度である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記検出又は計算するステップ(a)が、前記ブレーキシステムの動作状態中の前記量のリアルタイム取得に基づいて、前記第1入力量及び前記第2入力量を検出することからなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記検出又は計算するステップ(a)が、前記ブレーキシステムの動作状態に関連する遠隔測定により取得されたデータに基づいて、前記第1入力量及び前記第2入力量をオフラインで計算することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記摩擦マップテーブルが、前記第1入力量及び前記第2入力量の関数として前記ブレーキ摩擦係数(μ)を提供する予め定義されたルックアップテーブルを備える、
前記決定するステップ(b)が、電子処理によって前記ルックアップテーブルに対して行われる読み取り及び/又は補間に基づいて、前記ブレーキ摩擦係数(μ)を決定することを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記推定するステップ(c)において使用される前記ブレーキシステムの前記幾何学的パラメータ及び/又は前記構造的パラメータ及び/又は前記動作パラメータが、前記ブレーキキャリパのピストンに関連する幾何学的パラメータと前記ブレーキキャリパの動作パラメータとからなる、請求項3から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ブレーキトルク(C)が、前記摩擦係数(μ)に前記ブレーキキャリパの前記ピストンの面積(APisT)の和と、前記ブレーキキャリパの有効半径(Reff)と、前記ブレーキキャリパのシステム圧力(PimP)を乗じた積として計算される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
実験的評価に基づいて構築された一つ又は複数の摩擦マップ、又は一つ又は複数の対応する摩擦マップテーブルが、前記車両の制御ユニット又は前記車両の前記ブレーキシステムに記憶され、
前記一つ又は複数の摩擦マップのそれぞれ、又は前記一つ又は複数の対応する摩擦マップテーブルのそれぞれは、それぞれの測定単位で表される特定の第1入力量及び第2入力量によって特徴付けられる、請求項1-8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記決定するステップ(b)において使用される、記憶されているもののうち、特定の摩擦マップ又は対応する摩擦マップテーブルによって提供される、特定の第1及び第2入力量、ならびにそれぞれの測定単位に従って前記制御ユニットに提供される、検出及び/又は測定された量に基づいて、前記第1入力量及び前記第2入力量を準備するステップをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第1入力量及び前記第2入力量を準備するステップは、検出された量の測定単位を、使用される摩擦マップ又は対応する摩擦マップテーブルに提供される測定単位に適合させることを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1入力量及び前記第2入力量を準備するステップは、使用される摩擦マップ又は対応する摩擦マップテーブルの規定と整合させるように、取得された量に基づいて前記第1入力量及び/又は前記第2入力量を計算することを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記制御ユニットによって、実際に取得された量及びそれぞれの測定単位の量に基づいて、修正摩擦マップ、又は対応する修正摩擦マップテーブルを準備するステップをさらに含む、請求項9から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記ブレーキシステムが、複数のブレーキキャリパ及び複数のブレーキディスクを備え、
前記ステップ(a)、(b)及び(c)が、前記複数のブレーキキャリパ及び複数のブレーキディスクのそれぞれに対して実行される、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ブレーキ摩擦係数(μ)が、前記ブレーキシステムの各車軸について決定される、すなわち、単一のブレーキ摩擦係数値(μ)が、車軸のブレーキキャリパ及記ブレーキディスクの両方について決定される、又は
前記ブレーキ摩擦係数(μ)が、車軸のそれぞれのブレーキキャリパとブレーキディスクについて決定される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
車両のブレーキシステムの動作に関連する量を推定する方法であって、
請求項1から15のいずれか1項に記載のブレーキシステムのブレーキトルクを推定する方法を実行すること、
前記推定されたブレーキトルクと、さらに検出又は測定された動作パラメータとに基づいて、前記ブレーキシステムの動作に関連する少なくとも一つのさらなる量を推定するステップとを含み、
前記ブレーキシステムの動作に関連する少なくとも一つのさらなる量は、
ブレーキ動作中に消費される電力又はエネルギ、及び/又は
空気抵抗又は車両力学に関連する他のパラメータ、及び/又は
ブレーキ温度、及び/又は
ブレーキバイワイヤタイプ(BBW)のブレーキシステムにおける調整パラメータ、を含む、方法。
【請求項17】
前記推定されたブレーキトルクに前記車輪の速度を乗算することにより、前記ブレーキ動作中に散逸する電力が推定され、及び/又は
前記推定ブレーキトルクと、前記車両の検出又は計算されたトラクショントルクとに基づいて、車両ダイナミクスに関連する空気抵抗又は他のパラメータが推定され、及び/又は
ブレーキバイワイヤ(BBW)作動システムにおいてドライバによって直接制御される車軸の推定ブレーキトルクに基づいて、前記ブレーキバイワイヤ作動システムの少なくとも一つの他のそれぞれの車軸について、少なくとも一つのブレーキトルク目標が推定される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ブレーキ動作中に散逸する前記推定電力は、車輪の前記ブレーキ又は前記ブレーキシステムの他のコンポーネントの温度を推定するための熱モデルに関連付けて使用されることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
目標ブレーキトルク値(CT)を得るために車両のブレーキシステムに加えられる圧力(P)を推定する方法であって、
i) 前記ブレーキシステムのブレーキディスクの温度(T)を検出又は計算するステップと、
ii) 前記ブレーキシステムの前記ブレーキディスクの前記温度(T)及び前記目標ブレーキトルク値(CT)に基づいて、前記ブレーキシステムに加えられる圧力(P)を決定するステップとを含み、
前記決定するステップii)は、電子処理によって、デジタル記憶された、予め定義されたインバース摩擦マップ又は対応する予め定義されたインバース摩擦マップテーブルを参照することによって実行される、方法。
【請求項20】
前記インバース摩擦マップテーブルが、前記ブレーキディスクの温度(T)及び前記ブレーキトルク(C)の関数として前記ブレーキシステムに加えられるべき前記圧力(P)を示す予め定義されたルックアップインバーステーブルを含み、
前記決定するステップii)が、電子的処理によって前記ルックアップインバーステーブル上で実行される読み取り及び/又は補間に基づいて、前記ブレーキシステムに適用される前記圧力(P)を決定することを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記インバース摩擦マップテーブルが、前記ブレーキディスクの温度(T)及び前記ブレーキトルク(C)の関数として、前記ブレーキシステムに加えられるべき圧力(P)にブレーキシステムが作用する車輪の速度を乗じた積に等しい出力値(PV)を提供する、予め定義されたルックアップインバーステーブルを含み、
前記決定する決定するステップii)は、
電子的処理によって前記ルックアップインバーステーブルを読み取り及び/又は補間することにより、前記ブレーキシステムに加えられる前記圧力(P)に車輪の速度を乗じた積に等しい前記出力値を得るステップと、
現在の運転条件下で前記車輪の速度を検出又は計算するステップと、
前記インバーステーブルから得られる前記出力値(PV)と、前記検出又は計算された車輪の速度とに基づいて、前記ブレーキシステムに加えられる圧力(P)を計算するステップ、を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記車輪の前記検出又は計算された速度は、前記車輪の角速度(ωr)であり、
前記ブレーキシステムに加えるべき圧力(P)を計算するステップは、下記の式に従って、前記出力値(PV)を前記車輪の角速度(ωr)で割ることを含む、請求項21に記載の方法。
P=PV/ωr
【請求項23】
前記ブレーキシステムの前記ブレーキディスクの温度(T)及び前記車輪の速度を検出又は計算する前記ステップが、前記ブレーキシステムの動作状態中の前記量のリアルタイム取得に基づいて、又はブレーキシステムの動作状態に関連するテレメトリによって取得されたデータに基づいてオフライン計算に基づいて、前記量を検出又は計算することを含む、請求項19から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
一つ又は複数のインバース摩擦マップ、又は一つ又は複数の対応するインバース摩擦マップテーブルが、実験的評価に基づいて、又は直接摩擦マップの再処理に基づいて構築され、車両の制御ユニット又は車両のブレーキシステムの制御ユニットに記憶され、
前記一つ又は複数のインバース摩擦マップ又は前記一つ又は複数の対応するインバース摩擦マップテーブルの各々は、ブレーキディスク温度(T)及び目標ブレーキトルク(CT)の特定の測定単位に関連付けられている、請求項19から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記検出された量の測前記定単位を、前記インバース摩擦マップ又は対応する前記インバース摩擦マップテーブルによって提供される測定単位に適合させることによって、前記インバース摩擦マップ又は対応する前記インバース摩擦マップテーブルを参照するための量を準備するステップをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
目標ブレーキトルク値(CT)を得るために車両のブレーキシステムに加えられる作動圧力(P)を推定するための方法であって、
(A)第1入力量及び第2入力量を検出又は計算するステップであって、検出又は計算された前記第1入力量は前記ブレーキシステムのブレーキディスクの温度(T)を含み、前記第2入力量は所望の目標ブレーキトルク(CT)に応じた量を含む、検出又は計算するステップと、
(B)前記第1入力量及び前記第2入力量に基づいて、第1のブレーキ摩擦係数試験値(μ1)に基づいて、さらに前記ブレーキシステムの幾何学的パラメータ及び/又は構造的パラメータ及び/又は動作パラメータに基づいて、推定作動圧力値(Ps)を計算するステップと、
(C)前記ブレーキシステムのブレーキディスクの前記温度(T)及び前記推定作動圧力値(Ps)に基づいて、第2のブレーキ摩擦係数値(μ2)を決定するステップであって、前記決定するステップは、電子処理によって、デジタル的に記憶された予め定義された摩擦マップ又は対応する予め定義された摩擦マップテーブルを参照して行われる、決定するステップと、
(D)前記第2のブレーキ摩擦係数値(μ2)と、前記ブレーキシステムの幾何学的パラメータ及び/又は構造的パラメータ及び/又は動作パラメータとに基づいて、推定ブレーキトルク値(C)を計算するステップと、
(E)前記推定ブレーキトルク値(Cs)と前記目標ブレーキトルク値(CT)とを比較するステップと;
(F)推定ブレーキトルク値(Cs)と前記目標ブレーキトルク値(CT)との差が所定の閾値未満である場合、前記計算するステップ(B)で計算された前記推定作動圧力値(Ps)を、前記ブレーキシステムに印加される作動圧力(P)とみなし、
前記推定ブレーキトルク値(Cs)と前記目標ブレーキトルク値(CT)との差が前記所定の閾値より大きい場合、前記推定ブレーキトルク値(Cs)と前記目標ブレーキトルク値(CT)との差が前記所定の閾値より小さくなるまで、前記ステップ(B)、(C)、(D)を繰り返し、最後の計算するステップ(B)で計算された前記推定作動圧力値(Ps)を、前記ブレーキシステムに適用される作動圧力(P)とみなす、方法。
【請求項27】
検出又は計算された前記第2入力量が、前記目標ブレーキトルク(CT)、又は前記目標ブレーキトルク(CT)にブレーキシステムが作用する車輪の速度を乗じた積を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
第1の車軸作動圧力(Pa1)を印加することによって運転者により直接制御される第1のブレーキ車軸と、第2の車軸に第2の車軸制御圧力(Pa2)を印加するように構成されたブレーキバイワイヤ制御システムにより制御される第2の車軸とを備える、車両のためのブレーキバイワイヤ(BBW)ブレーキシステムを作動させるための方法であって、
請求項1ないし15のいずれか1項に記載のブレーキトルク推定方法を実行して、推定ブレーキトルク値(C1)を得るステップであって、前記第2入力量は、ドライバによって制御される第1の車軸作動圧(Pa1)である、ステップと、
前記目標ブレーキトルク値(CT2)が前記推定ブレーキトルク値(C1)と予め定義された既知の関係に関連付けられ、及び/又は前記推定ブレーキトルク値(C1)から計算される、請求項19-27のいずれか1項に記載の車両のブレーキシステムに加えられる圧力(P)を得るための推定方法を実行するステップと、
前記ブレーキバイワイヤ制御システムによって、前記第2車軸制御圧力(Pa2)として、前記ブレーキ圧力の推定方法によって得られた前記圧力(P)に等しい圧力を前記第2車軸に印加するステップとを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦マップを用いてブレーキシステムのブレーキトルクを推定する方法に関する。
【0002】
本発明はまた、摩擦マップを用いてブレーキシステムに加えられる圧力を推定するための同様の方法に関する。
【0003】
したがって、本発明の一般的な技術分野は、測定又は検出された動作パラメータに基づいて、電子処理によって、ブレーキシステムの動作に関連する量を推定することである。
【背景技術】
【0004】
比較的最近まで、ブレーキ時に車両のブレーキディスクに生じる摩擦の特性評価は、専ら実験的な試験サイクルによって実施され、その各試験サイクルは、特定の動作条件及び/又は状況、あるいはディスク温度の関数として参照されていた。
【0005】
このような方法論は、実験的に試験された条件とは異なるすべての可能な運転条件に対する摩擦の推定値を提供しないという明白かつ重大な欠点に影響されていた。このことは、関心のある各使用条件について特定の特性試験を実施する必要があるというさらなる欠点を意味していた。
【0006】
この問題を部分的に解決するために、より一般的なモデルが導入され、そこから、それぞれ問題となる特定の重要な値の変数(例えば、ブレーキディスクの温度やブレーキディスクに加えられる圧力)に関連する、広範囲の可能な使用条件に対する摩擦の重要な推定値が得られるようになった。
【0007】
これらのモデルの結果は、通常、テーブル(すなわち、「摩擦マップ」)の形で報告され、このテーブルは、異なる動作条件下でブレーキディスクの摩擦の推定を行うために参照することができる。
【0008】
この摩擦推定値は、ブレーキシステムの他の重要な作動量(例えば、ブレーキトルク、又はあるブレーキトルクを得るためにブレーキディスクに加えるべき圧力)を推定するのに有用である。
【0009】
これに関して、先行技術は、複数の運転条件に適応可能で(理想的には、どのような運転条件でも使用可能で)、ブレーキシステムの運転中にリアルタイムで使用可能で、信頼性の高い結果を提供するような、自動的な解決策を提供していない。
【0010】
そのため、このような領域では多くのニーズが満たされておらず、現在までに知られている解決策では十分に効果的な解決策を提供できないニーズが残っている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、先行技術を参照して上記の欠点を少なくとも部分的に回避し、考慮される技術分野で特に感じられる前述のニーズに応えることを可能にする、ブレーキシステムのブレーキトルクを推定する方法を提供することである。このような目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0012】
このような方法のさらなる実施形態は、請求項2-15に定義される。
【0013】
本発明の目的はまた、車両用ブレーキシステムの動作に関連する量を推定する方法を提供することである。前記目的は、請求項16に記載の方法によって達成される。
【0014】
そのような方法のさらなる実施形態は、請求項17-18に定義される。
【0015】
また、本発明の目的は、車両のブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法を提供することである。このような目的は、請求項19による方法及び請求項26による方法によって達成される。
【0016】
このような方法のさらなる実施形態は、請求項20-25及び27に定義される。
【0017】
最後に、本発明の目的は、上述の方法を用いて、ブレーキバイワイヤを備えた車両に搭載されたブレーキシステムを作動させる方法を提供することにもある。前記目的は、請求項28に記載の方法によって達成される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
本発明による方法のさらなる特徴及び利点は、添付の図面を参照して非限定的に示される好ましい実施形態の以下の説明から明らかになる。
【0019】
図1図1は、本発明によって包含される、ブレーキシステムのブレーキトルクを推定するための方法の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0020】
図2図2は、本発明によって包含される、車両用のブレーキシステムの動作に関連する量を推定するための方法の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0021】
図3図3は、本発明に包含される、目標ブレーキトルク値CTを得るために、車両のブレーキシステムに加えられる圧力を推定するための方法の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0022】
図4図4は、目標ブレーキトルク値CTを得るために、車両のブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法の別の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0023】
図5図5は、上述の方法を使用して、車両のブレーキバイワイヤブレーキシステムを作動させるための方法の別の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0024】
図6A図6Aは、本発明による方法の実施形態で使用される直接摩擦マップの例を示す。
図6B図6Bは、本発明による方法の実施形態で使用される直接摩擦マップの例を示す。
【0025】
図7図7は、直接摩擦マップに対応するルックアップテーブルの例を示す。
【0026】
図8図8は、本発明による方法の実施形態で使用される摩擦マップの例を示す。
【0027】
図9図9は、直接摩擦マップからのインバース摩擦マップの計算例を示す。
【0028】
図10図10は、インバース摩擦マップに対応するルックアップテーブルの例を示す。
【0029】
図11A図11Aは、図5の方法を適用することができる「ブレーキバイワイヤ」ブレーキシステムの図である。
図11B図11Bは、図5の方法を適用することができる「ブレーキバイワイヤ」ブレーキシステムの図である。
図11C】11Cは、図5の方法を適用することができる「ブレーキバイワイヤ」ブレーキシステムの図である。
【0030】
図12図12は、図11A-11Cによって示されるコンテキストにおける摩擦マップの使用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1図12を参照して、運転状態における車両用ブレーキシステムのブレーキトルクを推定する方法を説明する。
【0032】
この方法は、ブレーキシステムの動作条件を代表する第1入力量と第2入力量とを検出又は計算するステップ(a)を含む。
【0033】
第1の検出又は計算された入力量は、ブレーキシステムのブレーキディスクの温度Tを含む。
【0034】
第2の検出又は計算された入力量は、ブレーキシステムの圧力P又はブレーキシステムの摩擦面間の接触圧力PCに依存する量を含む。
【0035】
次に、この方法は、前記検出又は計算された第1入力量及び第2入力量に基づいて、前記第1入力量及び第2入力量の検出値又は計算値によって定義される条件下で期待されるブレーキ摩擦又は効率を代表するブレーキ摩擦係数μを決定するステップ(b)を含む。
【0036】
このような決定するステップ(b)は、電子処理によって、デジタル的に記憶されている予め定義された摩擦マップ、又は対応する予め定義された摩擦マップテーブルを参照することによって実施される。
【0037】
本方法は最後に、前述の決定されたブレーキ摩擦係数μと、ブレーキシステムの幾何学的及び/又は構造的及び/又は動作パラメータとに基づいてブレーキトルクCを推定するステップ(c)を含む。
【0038】
本方法の異なる可能な実施形態に従って、前述の第2入力量は、以下の量のいずれか一つである。
・ブレーキシステムの圧力P;
・ブレーキシステムの摩擦面間の接触圧力PC;
・ブレーキシステムの圧力Pに、ブレーキシステムが作用する車輪の回転速度vrを乗じた積;又は
・ブレーキシステムの摩擦面間の接触圧PCに、ブレーキシステムが作用する車輪の回転速度vrを乗じた積。
【0039】
実施形態によれば、本方法は、少なくとも一つのブレーキキャリパと少なくとも一つのブレーキディスクとを含むブレーキシステムを参照して実行され、ブレーキシステムの前述の摩擦面は、ブレーキシステムのディスクの表面とブレーキキャリパのパッドの表面であり、ブレーキ事象の間に相互に接触するように構成されている。
【0040】
その場合、前述の回転速度vrは、ブレーキシステムのブレーキディスクとブレーキキャリパが作用する車輪の回転速度である。
【0041】
本方法の実施形態によれば、前記検出又は計算するステップ(a)は、ブレーキシステムの動作状態中の前記量のリアルタイム取得に基づいて、前記第1入力量及び前記第2入力量を検出することを含む。
【0042】
別の実施形態によれば、前記検出又は計算するステップ(a)は、ブレーキシステムの動作条件に関連する遠隔的に取得されたデータに基づいて、オフラインで第1入力量及び第2入力量を計算することを含む。
【0043】
本方法の実施形態によれば、前記摩擦マップテーブルは、前記第1入力量及び前記第2入力量の関数としてのブレーキ摩擦係数μを示す予め定義されたルックアップタイプのテーブルを含む。
【0044】
その場合、決定するステップ(b)は、電子的処理によって前記ルックアップテーブルに対して実施される読み取り及び/又は補間に基づいてブレーキ摩擦係数μを決定することを含む。
【0045】
実施形態によれば、前述の摩擦マップは、カラーグラフィックスによって、ブレーキ摩擦係数μを第1及び第2入力量の関数として示す、予め定義されたカラー摩擦マップを含む。
【0046】
その場合、決定するステップ(b)は、そのようなカラーマップの読み取りに基づいてブレーキ摩擦係数μを決定することを含む。
【0047】
実施形態によれば、推定するステップ(c)の方法において使用されるブレーキシステムの前述の幾何学的パラメータ及び/又は構造的パラメータ及び/又は動作パラメータは、ブレーキキャリパのピストンに関連する幾何学的パラメータと、ブレーキキャリパの動作パラメータとを含む。
【0048】
実施形態によれば、ブレーキトルクCは、摩擦係数μにブレーキキャリパのピストンの面積APisT(両側)の合計と、ブレーキキャリパの有効半径Reffと、ブレーキキャリパのシステム圧力PimPを乗じた積として計算される。
【0049】
C=μ・APisT・Reff・PimP
【0050】
本方法の実施形態によれば、実験的評価に基づいて構築された一つ又は複数の摩擦マップ、又は一つ又は複数の対応する摩擦マップテーブルが、車両又は車両ブレーキシステムの制御ユニットに記憶される。
【0051】
そのような一つ又は複数の摩擦マップ、又は一つ又は複数の対応する摩擦マップテーブルの各々は、各々がそれぞれの測定単位で表される、それぞれの特定の第1及び第2入力量によって特徴付けられる。
【0052】
実施形態の選択肢によれば、この方法は、記憶されているもののうち、特定の摩擦マップ又は対応する摩擦マップテーブルによって提供される特定の第1及び第2入力量、並びにそれぞれの測定単位の関数として制御ユニットに提供される検出及び/又は測定された量に基づいて、第1入力量及び第2入力量を準備するステップをさらに含み、これは決定するステップ(b)で使用される。
【0053】
実施形態によれば、入力量を準備する前述のステップは、検出された量の測定単位を、使用される摩擦マップ、又は対応する摩擦マップテーブルに提供される測定単位に適合させることを含む。
【0054】
特定の実施形態に従って,入力量を準備するステップは,使用される摩擦マップ,又は対応する摩擦マップテーブルの規定と整合するように,取得された量に基づいて第1及び/又は第2入力量を計算することを更に含む。
【0055】
言い換えれば,使用される特定の摩擦マップについて,取得された量と提供された量との間に直ちに整合性がない場合,又は取得された量の測定単位とマップが構築された測定単位との間に直ちに整合性がない場合,本方法は,そのような整合性を決定するように入力量を前処理するステップを含む。
【0056】
当業者であれば、このようなステップが多くの異なる例において適用可能であることを容易に理解できる。
【0057】
例えば、速度がKm/hで取得されるのに対し、マップが回転速度又は車輪の回転数に基づいて構築されている場合、本方法は、Km/hの直線速度が転がり半径を考慮して回転速度に変換される変換からなるマップを参照するために使用される入力量を準備するステップを含む。
【0058】
又は、再び例を挙げると、取得された量がブレーキシステムのブレーキ圧力であり、摩擦マップがブレーキパッド上の圧力に基づいて構築されている場合、本方法は、関連する接触圧力を得るために、システム圧力にブレーキパッドを支持するブレーキキャリパのピストンの面積を乗算し、前述のパッドの面積で除算する変換からなるマップを参照するために使用される入力量を準備するステップを含む。
【0059】
別の実施形態によれば、やはり異なる方法で、取得された量と摩擦マップを参照するために使用される量との間の整合性を保証するために、本方法は、制御ユニットによって、実際に取得された量及びそれぞれの測定単位に基づいて、摩擦マップ又は対応する修正摩擦マップテーブルを提供することを含む。
【0060】
例えば、可能な実施例によれば、異なる測定単位が使用される場合、測定単位を変更することによって(例えば、x軸とy軸の両方で)様々な摩擦マップが構築される。
【0061】
実施形態によれば、本方法は、複数のブレーキキャリパとそれぞれのブレーキディスクとを含むブレーキシステム上で実行され、本方法の前記ステップ(a)、(b)、(c)は、複数のブレーキキャリパとそれぞれのブレーキディスクの各々に対して実行される。
【0062】
実施形態によれば、ブレーキ摩擦係数μは、ブレーキシステムの各車軸について決定され、すなわち、単一のブレーキ摩擦係数値μが、車軸のブレーキキャリパとそれぞれのブレーキディスクの両方について決定される。
【0063】
実施形態によれば、ブレーキ摩擦係数μは、車軸の各ブレーキキャリパと各ブレーキディスクについて決定される。
【0064】
言い換えれば、異なる可能な実施形態において、摩擦係数は、利用可能な入力に基づいて、車軸レベル(フロント又はリアブレーキの両方に対して単一の値)及びコーナーレベル(したがって、右ブレーキの摩擦係数の値は、同じ車軸上の左ブレーキの摩擦係数の値とも異なることがある)の両方で計算することができる。
【0065】
実施形態によれば、ブレーキトルクを推定するための方法の前述の実施形態のすべてのステップは、電子処理手段によって実行される。
【0066】
車両のブレーキシステムの動作に関連する量を推定するための方法を以下に説明する。
【0067】
このような方法は、先に例示した実施形態のいずれか一つに従って、ブレーキシステムのブレーキトルクを推定するための方法を実施し、次いで、推定されたブレーキトルク及びさらに検出又は測定された動作パラメータに基づいて、ブレーキシステムの動作に関連する少なくとも一つのさらなる量を推定することを含む。
【0068】
このような方法の異なる実施形態によれば、ブレーキシステムの動作に関連する前述の少なくとも一つのさらなる量は、以下からなる。
・ブレーキ動作中に散逸する電力又はエネルギ、及び/又は
・空気抵抗又は車両力学に関連する他のパラメータ、及び/又は
・ブレーキ温度、及び/又は
・ブレーキバイワイヤタイプ(BBW)のブレーキシステムにおける調整パラメータ。
【0069】
実施形態によれば、推定ブレーキトルクに車輪の速度を乗算することによって、ブレーキ動作中に散逸する電力が推定される。
【0070】
実施形態によれば、ブレーキ動作中に散逸する前述の推定電力は、車輪のブレーキシステムのブレーキ又は他のコンポーネントの温度を推定するための熱モデルに関連付けて使用される。
【0071】
別の実施形態によれば、推定されたブレーキトルクと、車両の検出又は計算されたトラクショントルクとに基づいて、車両のダイナミクスに関連する空気抵抗又は他のパラメータが推定される。
【0072】
別の実施形態によれば、ブレーキバイワイヤ(BBW)作動システムにおいてドライバによって直接制御される車軸の推定ブレーキトルクに基づいて、ブレーキバイワイヤ作動システムの少なくとも一つのそれぞれの他の車軸のための少なくとも一つのブレーキトルク目標が推定される。
【0073】
実施形態によれば、ブレーキシステムの動作に関連する量を推定するための方法の前述の実施形態のすべてのステップは、電子処理手段によって実行される。
【0074】
目標ブレーキトルク値CTを得るために車両のブレーキシステムに加えられる作動圧力Pを推定するための、本発明にも包含される方法を以下に説明する。
【0075】
このような方法は、(i)ブレーキシステムのディスクブレーキの温度Tを検出又は計算するステップと、(ii)ブレーキディスクの前記温度T及び前記目標ブレーキトルク値CTに基づいて、ブレーキシステムに加えられるべき圧力Pを決定するステップとを含んでいる。
【0076】
決定するステップ(ii)は、電子的処理によって、デジタル的に記憶されている予め定義されたインバース摩擦マップ、又は対応する予め定義されたインバース摩擦マップテーブルを参照することによって実行される。
【0077】
実施形態によれば、前述のインバース摩擦マップ又は対応するインバース摩擦マップテーブルは、摩擦マップ又は対応する摩擦マップテーブルから計算され、方法のステップを実施する前に記憶される。
【0078】
この方法の実施形態によれば、前記インバース摩擦マップテーブルは、ブレーキディスクの温度T及びブレーキトルクCの関数としてブレーキシステムに印加される圧力Pを示す予め定義されたルックアップインバーステーブルを含む。
【0079】
その場合、決定するステップ(ii)は、電子処理によって前記ルックアップインバーステーブルに対して実行される読み取り及び/又は補間に基づいて、ブレーキシステムに加えられる圧力Pを決定することからなる。
【0080】
実施形態によれば、前記インバース摩擦マップテーブルは、ブレーキディスクの温度TとブレーキトルクCの関数として、ブレーキシステムに加えられるべき圧力Pにブレーキシステムが作用する車輪の速度を乗じた積に等しい出力値PVを提供する、予め定義されたルックアップインバーステーブルを含む。
【0081】
この場合、決定するステップ(ii)は、次のステップを含む。
・電子的処理によって前記ルックアップインバーステーブルを読み取り及び/又は補間することにより、ブレーキシステムに加えられる圧力Pと車輪の速度との積に等しい前記出力値を得るステップ;
・現在の運転状態における車輪の速度を検出又は計算するステップ;
・前記インバーステーブルから得られる前記出力値PVと、前記検出又は計算された車輪の速度とに基づいて、前記ブレーキシステムに加えられる圧力Pを計算するステップ。
【0082】
実施形態に従って、車輪の検出又は計算された速度は、車輪の角速度ωrである。
【0083】
その場合、ブレーキシステムに加えられる圧力Pを計算するステップは、次式に従って、出力値PVを車輪の角速度ωrで割ることを含む。
【0084】
P=PV/ωr
【0085】
実施形態によれば、ブレーキシステムのブレーキディスクの温度Tと車輪の速度とを検出又は計算する前述のステップは、ブレーキシステムの作動条件中に、そのような量のリアルタイム取得に基づいて、そのような量を検出又は計算することを含む。
【0086】
別の実施形態によれば、ブレーキシステムのブレーキディスクの温度T及び車輪の速度を検出又は計算する前述のステップは、ブレーキシステムの動作条件に関連する遠隔測定によって取得されたデータに基づくオフライン計算に基づいて、そのような量を検出又は計算することを含む。
【0087】
この方法の実施形態によれば、一つ又は複数のインバース摩擦マップ、又は一つ又は複数の対応するインバース摩擦マップが、実験的評価に基づいて、又は直接摩擦マップの再精巧化に基づいて構築され、車両の制御ユニット又は車両のブレーキシステムに記憶される。
【0088】
このような一つ又は複数のインバース摩擦マップの各々、又は一つ又は複数の対応するインバース摩擦マップテーブルは、ブレーキディスクの温度T及び目標ブレーキトルクCTの特定の測定単位と関連付けられている。
【0089】
実施形態によれば、本方法は、検出された量の測定単位を、インバース摩擦マップ、又は対応するインバース摩擦マップテーブルによって提供される測定単位に適合させることによって、インバース摩擦マップ、又は対応するインバース摩擦マップテーブルを参照するための量を準備するさらなるステップを備える。
【0090】
目標ブレーキトルク値CTを得るために車両のブレーキシステムに加えられる作動圧力Pを推定するための、本発明に包含されるさらなる方法を以下に説明する。
【0091】
このような方法は以下のステップを含む。
【0092】
(a)第1入力量及び第2入力量を検出又は計算するステップであって、第1の検出又は計算された入力量はブレーキシステムのブレーキディスクの温度Tからなり、第2の検出又は計算された入力量は所望の目標ブレーキトルクCTに応じた量からなるステップ;
【0093】
(b)第1入力量及び第2入力量に基づいて、第1のブレーキ摩擦係数試験値μ1に基づいて、及びブレーキシステムの幾何学的及び/又は構造的及び/又は動作パラメータに基づいて、推定作動圧力値Psを計算するステップ;
【0094】
(c)ブレーキシステムのブレーキディスクの前記温度T及び前記推定作動圧力値Psに基づいて、第2のブレーキ摩擦係数値μ2を決定するステップ;このステップは、電子処理によって、デジタル的に記憶された、予め定義された摩擦マップ又は対応する予め定義された摩擦マップテーブルを参照して行われる。
【0095】
(d) 前記第2のブレーキ摩擦係数値μ2と、ブレーキシステムの幾何学的及び/又は構造的及び/又は動作パラメータとに基づいて、推定ブレーキトルク値Cを計算するステップ;
【0096】
(e)推定ブレーキトルク値Csを目標ブレーキトルク値CTと比較するステップ;
【0097】
(f)推定ブレーキトルク値Csと目標ブレーキトルク値CTとの差が所定の閾値未満である場合、ステップ(b)で計算された前記推定作動圧力値Psが、車両のブレーキシステムに加えられる作動圧力Pと見なされる;
【0098】
代わりに、推定ブレーキトルク値Csと目標ブレーキトルク値CTとの間の差が前記所定の閾値より大きい場合、推定ブレーキトルク値Csと目標ブレーキトルク値CTとの間の差が前記所定の閾値より小さくなるまで、前述のステップ(b)、(c)、(d)が反復され、反復のステップ(b)で計算された推定作動圧力値Psが、車両のブレーキシステムに適用される作動圧力Pとみなされる。
【0099】
実施形態によれば、前述の第2の検出又は計算された入力量は、所望の目標ブレーキトルクCT、又は目標ブレーキトルクCTにブレーキシステムが作用する車輪の速度を乗じた積を含む。
【0100】
実施形態によれば、車両のブレーキシステムに加えられる圧力を推定するための方法の前述の実施形態のすべてのステップは、電子処理手段によって実行される。
【0101】
以下に、第1の車軸作動圧力Pa1を印加することによってドライバによって直接制御される第1のブレーキ車軸と、第2の車軸制御圧力Pa2を第2の車軸に印加するように構成されたブレーキバイワイヤ制御システムによって制御される第2の車軸とを備える、車両に搭載された車両のブレーキバイワイヤ(BBW)ブレーキシステムを作動させるための方法が記載される。
【0102】
このような方法は、以下のステップを含む。
【0103】
ブレーキトルクを推定するための方法(先に説明したそのような方法の実施形態のいずれか一つによる)を実行して、推定ブレーキトルク値C1を取得するステップ。ここで、前述の第2入力量は、ドライバによって制御される第1の車軸作動圧力Pa1である。
【0104】
車両のブレーキシステムに加えられる圧力Pを推定するための方法(先に説明したそのような方法の実施形態のいずれか一つによる)を実行するステップ。ここで、目標ブレーキトルク値CT2は、前記推定ブレーキトルク値(C1)と予め定義された既知の関係に関連付けられ、かつ/又は前記推定ブレーキトルク値C1から計算される。
【0105】
ブレーキバイワイヤ制御システムによって、第2の車軸に、第2の車軸制御圧力Pa2として、ブレーキ圧力の推定方法から得られた前記圧力Pに等しい圧力を加えるステップ。
【0106】
実施形態によれば、ブレーキバイワイヤ式ブレーキシステムを作動させるための前述の方法のすべてのステップは、電子処理手段によって実行される。
【0107】
上述した方法の可能な実施形態では、すべての計算をリアルタイムでもオフラインでも 事後的に実行できることに留意すべきである。
【0108】
以下に、本発明の特定の実施形態による、例示的かつ非限定的な目的のみのために、再び図1-12を参照しながら、方法のさらなる詳細を示す。
【0109】
図1は、ブレーキシステムのブレーキトルクを推定するための方法の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。このような処理フローは以下のステップを含む。
【0110】
1:第1の量及び第2の量の2つの入力量を検出又は計算する。第1の量はディスクブレーキの温度を含み(検出又は計算され、現在の状態を代表する)、第2の量は圧力に依存する量を含み(検出又は計算され、現在の状態を代表する)、第2の量は以下のうちの一つとすることができる
i. ブレーキシステムの圧力。
ii. 動面(ディスクとパッド)間の接触圧力。
iii. ステムの圧力と車輪速度の積。
iv. 触圧と車輪速度の積。
【0111】
最初に検出された量が後続のステップと一致しない場合は、次の2で使用する摩擦マップと一致するように、計算又は変換を含める必要がある。
【0112】
その大きさはリアルタイム又はオフラインで事後的に取得し使用することができる。
【0113】
2:このような入力量から、本方法は、「直接摩擦マップ」として知られるルックアップテーブルの補間によってブレーキの摩擦係数(又は効率)を決定する。この値は、上記1で測定された「現在の」条件下での摩擦係数の最良の推定値を表す。
【0114】
直接摩擦マップの例は、図6A(第2入力量として前述の量i.又はii.を有する)及び図6B(第2入力量として前述の量iii.又はiv.を有する)に示されている。
【0115】
直接摩擦マップに対応するルックアップテーブルの例を図7に示す。
【0116】
摩擦係数は、利用可能な入力に基づいて、車軸レベル(フロントブレーキ又はリアブレーキの両方に対する単一の値)とコーナーレベル(同じ車軸上の左ブレーキとは異なる右ブレーキ)の両方で計算することができる。
【0117】
3:摩擦係数が推定されると、この値をシステムデータ(ブレーキシステムの形状に関連する固定値)と共に使用して、車輪のブレーキトルクを計算することができる。ブレーキトルクは、リアルタイム又はオフラインのルーチンで事後的に推定することができる。
【0118】
図2は、車両用ブレーキシステムの動作に関連する量を推定する方法の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0119】
図1に関して、このような図は、次のさらなるステップを示す。
【0120】
4:図1に示された方法で推定されたブレーキトルクは、他のパラメータ又はモデルと組み合わされた元の推定値から、さらなる計算又は二次的な量の推定に使用することができる。
【0121】
異なる実施形態は以下を含む。
・ブレーキ動作中の散逸電力を推定するために、トルクに車輪速度を乗じること;
・異なるトルク(ブレーキトルクやトラクショントルクなど)を組み合わせて、空気抵抗や車両のダイナミクスに関連する他の量を推定すること;
・ブレーキ又はホイールコーナーの他のコンポーネントの温度を推定するために、ブレーキによって散逸された電力を熱モデルで使用すること;
・ドライバによって直接制御される車軸で発生するブレーキトルクを、他の車軸のブレーキバイワイヤ作動システムの目標として使用すること。
【0122】
前述のすべての計算は、リアルタイムでもオフラインでも事後的に実行することができる。
【0123】
図3は、目標ブレーキトルク値CTを得るために、車両のブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。このような処理フローは、以下のステップを含む。
【0124】
1:第1の量及び第2の量の2つの入力量を検出又は計算する。第1の量はディスクブレーキの温度(検出又は計算され,現在の状態を代表する)からなり,第2の量は目標トルク(すなわち,ブレーキによって加えられるべきブレーキトルク)に依存する量からなる。
【0125】
第2の量は、以下のいずれかである。
i. 目標ブレーキトルク
ii. 目標トルクに現在の車輪速度を乗じた積
【0126】
最初に検出された量が後続のステップと一致しない場合は、以下の2で使用する摩擦マップと一致するように、計算又は変換を含める必要がある。
【0127】
前述の量は、リアルタイム又はオフラインで事後的に取得及び使用することができる。
【0128】
2:このような入力量から、本方法は、「インバース摩擦マップ」として知られるルックアップテーブルの補間によって目標圧力を決定する。この値は、車輪の目標トルクを確保するために、上記ポイント1で測定された「現在の」条件下で加えられる圧力の最良の推定値を表す。
【0129】
インバース摩擦マップの例を図 8に示す。
【0130】
直接摩擦マップからのインバース摩擦マップの計算例を図9に示す。
【0131】
インバース摩擦マップに対応するルックアップテーブルの例を図10に示す。
【0132】
前述の目標圧力は、利用可能な入力に基づいて、車軸レベル(フロントブレーキ又はリアブレーキの両方に対する単一の値)及びコーナーレベル(同じ車軸上の左ブレーキとは異なる右ブレーキ)の両方で計算することができる。
【0133】
インバース摩擦マップの出力は、直接目標圧力とすることも、目標圧力に現在の車輪速度を乗じた積とすることもできる。後者の場合、目標圧力のみを外挿するためにさらなる計算ステップが必要である。
【0134】
すべての計算は、リアルタイムでもオフラインでも事後的に行うことができる。
【0135】
図4は、目標ブレーキトルク値CTを得るために、車両のブレーキシステムに加えられる圧力を推定する方法の別の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0136】
この場合、作動圧力は、インバース摩擦マップからではなく、直接摩擦マップから、反復を伴う以下の処理フローを通じて推定される。
【0137】
1:第1の量及び第2の量の2つの入力量を検出又は計算する。ここで、第1の量はディスクブレーキの温度(検出又は計算され、現在の状態を代表する)からなり、第2の量は目標トルク(すなわち、ブレーキによって加えられるブレーキトルク)に依存する量からなる。
【0138】
第2の量は、以下のうちの一つとすることができる。
i.目標ブレーキトルク
ii.目標トルクと現在の車輪速度の積。
【0139】
最初に検出された量が後続のステップと整合していない場合、以下のポイント3で使用される摩擦マップと整合するように、計算又は変換を含める必要がありる。
【0140】
量は,リアルタイム又はオフラインで事後的に取得及び使用することができる。
【0141】
2:このような入力量と第1の(ブレーキ)摩擦係数値から出発して、本方法は直接的な計算(目標トルクを摩擦値とブレーキシステムの他の幾何学的パラメータで割る)によって第1の目標圧力推定値を決定する。
【0142】
3:目標圧力推定値を使用して、「直接摩擦マップ」に対応するルックアップテーブルを補間することにより、新しい「現在の」摩擦係数を計算する。
【0143】
4:目標圧力推定値、新しい摩擦係数、ブレーキシステムの幾何学的パラメータから推定トルクを計算する。このような推定トルクが目標トルク(上記ポイント1で入力)に十分に近い場合、推定は正しいとみなすことができ、したがって目標圧力を出力として使用することができる。そうでない場合は、2に戻り、今度は最初に仮定した値の代わりに3で計算した摩擦係数を使用して、新しい目標圧力の推定値を計算する必要がある。
【0144】
図5は、上述した方法を使用する、車両用ブレーキバイワイヤブレーキシステムを作動させるための方法の別の実施形態に含まれるステップの簡略化されたフロー図である。この実施形態では、ブレーキバイワイヤブレーキシステムを備えた車両で、直接摩擦マップとインバース摩擦マップを組み合わせて使用する。
【0145】
特に、(直接)摩擦マップによるブレーキトルク推定と目標圧力の計算を、2つのブレーキ車軸を備えた車両で組み合わせて使用することが可能であり、第1のブレーキ車軸は運転者の直接制御下にあり(運転者はブレーキに直接ブレーキ圧力を作用させる)、第2のブレーキ車軸はBBWシステムの制御下にあり、運転者の第1の車軸への作用と車両制御ユニット(VCU)内の他のロジックに基づいてブレーキ圧力を作用させなければならない。
【0146】
図5は、作動車軸が前車軸であり、BBW下にある車軸が後車軸である場合の処理フローを例として示しているが、当業者であれば、逆の場合にも適用することにより、提供される教示を容易に理解することができる。
【0147】
参照されるブレーキシステムは、図11A図11Cに示されるものである。
【0148】
図11A:運転者はブレーキのマスターシリンダーでブレーキ操作を行うが、ブレーキキャリパには前車軸の圧力のみが加えられる。
【0149】
図11B: ビークルコントロールユニット(VCU)は、フロント及びリアアクスルの要求を処理し、KERS及びBBWアクチュエータのターゲットを処理する。
【0150】
図11C:BBW アクチュエータはリアアクスルのブレーキキャリパの圧力を設定する。
【0151】
この文脈での摩擦マップの使用を図12に示す。
直接摩擦マップは、フロント作動圧力を推定ブレーキトルクに変換する。これは、関連する指令動作だけでなく、フロントアクスルの実際のブレーキ動作を推定するのに便利である。
インバース摩擦マップは、(推定フロントトルクから計算された)リアトルク要求を、BBWアクスルに加えられる等価ブレーキ圧力に変換する。
【0152】
分かるように、先に示した本発明の目的は、上記に詳細に開示した特徴により、上述の方法によって完全に達成される。本発明による方法によって解決される利点及び技術的問題は、方法の様々な特徴及び態様を参照して、既に上述した。
【0153】
特に、上記に開示された方法は、例えばブレーキトルクや、あるブレーキトルクを得るためにブレーキディスクに加えられるべき圧力などの、ブレーキシステムの重要な作動量を、ブレーキ事象に関連付けられるブレーキシステムの各作動条件に適用可能な、リアルタイムでも使用可能な、自動的かつ確実に推定することを可能にする。
【0154】
偶発的なニーズを満たすために、当業者は、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、上述した方法の実施形態に変更及び適合を加えることができ、又は機能的に同等である他の要素と置き換えることができる。可能な実施形態に属するものとして上述した各特徴は、上述した他の実施形態とは無関係に実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【国際調査報告】