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特表2025-501123ニッケルフリー鋼層を有するブレーキディスク及びブレーキディスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-17
(54)【発明の名称】ニッケルフリー鋼層を有するブレーキディスク及びブレーキディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 65/12 20060101AFI20250109BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20250109BHJP
【FI】
F16D65/12 S
C23C26/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538145
(86)(22)【出願日】2022-12-13
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 IB2022062125
(87)【国際公開番号】W WO2023119060
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】102021000032384
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ビオンド,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】メディチ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ブレッシャーニ,フランチェスコ アンドレア
【テーマコード(参考)】
3J058
4K044
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058BA41
3J058CB24
3J058CB27
3J058EA03
3J058EA05
3J058EA08
3J058EA32
3J058EA35
3J058FA01
4K044AA02
4K044AB10
4K044BA06
4K044BA18
4K044BB03
4K044BC05
4K044BC06
4K044CA11
4K044CA23
4K044CA41
(57)【要約】
ニッケルフリー鋼層を有するブレーキディスクおよびブレーキディスクの製造方法である。ディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)は、ねずみ鋳鉄または鋼製のブレーキバンド(2)から成り、2つの対向するブレーキ面(2a、2b)を備え、各ブレーキ面はディスク(1)の2つの主面の少なくとも一部を画定している。ディスクブレーキは、ブレーキバンドの2つのブレーキ面(2a、2b)の少なくとも一方を覆う、ニッケルを全く含まない鋼からなるベース層(30)を備えている。さらに、ベース層(30)の鋼は、10%から15%のクロム(Cr)、多くても1%のケイ素(Si)、多くても4%のマンガン(Mn)、0.16%から0.5%の炭素(C)、および残りの鉄(Fe)で構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ用のブレーキディスク(1)であって、対向する2つのブレーキ面(2a、2b)を備えたブレーキバンド(2)を含み、前記ブレーキ面(2a、2b)はそれぞれが、前記ブレーキディスク(1)の前記2つの主面の一方を少なくとも部分的に画定し、前記ブレーキバンド(2)は、ねずみ鋳鉄製または鋼製である、ブレーキディスク(1)において、
前記ブレーキディスク(1)は、前記ブレーキバンド(2)の前記2つのブレーキ面(2a、2b)の少なくとも一方を覆うベース層(30)を備えており、
前記ベース層(30)は、ニッケルを全く含まず、不純物を除いた鋼で構成され、
前記ベース層(30)の前記鋼は、10%から15%のクロム(Cr)、最大で1%のケイ素(Si)、最大で4%のマンガン(Mn)、極端なものを含めて0.16%から0.5%の炭素(C)、および残部の鉄(Fe)で構成される、ディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項2】
前記ベース層(30)が、ニッケルを含まない鋼に含まれる1種以上の炭化物でさらに構成されている、請求項1記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項3】
前記ベース層(30)において、含まれる前記1種以上の炭化物が、炭化タングステン(WC)、炭化クロム(CrC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化チタン(TiC)からなる群から選択される少なくとも1種の炭化物を含む、請求項2に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項4】
前記ベース層(30)と前記ブレーキバンド(2)の前記2つのブレーキ面(2a、2b)の少なくとも一方との間に、ニッケルから不純物を除いた鋼の中間層(300)が介在している、請求項1-3のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項5】
前記中間層(300)が、10%から15%のクロム(Cr)、最大で1%のケイ素(Si)、最大で4%のマンガン(Mn)、0.16%から0.5%の炭素(C)、および残部の鉄(Fe)からなるニッケルを含まない鋼を含む、請求項4に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項6】
ニッケルを含む鋼の中間層(300)が、前記ベース層(30)と前記ブレーキバンド(2)の前記2つのブレーキ面(2a、2b)の少なくとも一方との間に介在している、請求項1から3までのいずれか1項記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項7】
前記中間層(300)は、ニッケル含有量が最大で15%または15%に等しい鋼を含む請求項6に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項8】
前記中間層(300)は、最大で7.5%に等しいニッケル含有量を有する鋼を含む、請求項7に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項9】
少なくとも前記ブレーキバンドの前記2つのブレーキ面(2a,2b)の一方の側で前記ベース層(30)を覆う表面保護被膜(3)を備え、
前記表面保護被膜(3)は、前記2つのブレーキ面(2a,2b)の一方に面していない前記ベース層(30)の側に配置され、
前記表面保護被膜(3)は、
例えばHVOF(High Velocity Oxy-Fuel)技術、HVAF(High Velocity Air Fuel)技術、APS(Atmosphere Plasma Spray)技術の熱溶射成膜技術、または
例えば、KM(Kinetic Metallization)技術のコールドスプレー成膜技術、もしくは
例えば、LMD(Laser Metal Deposition)技術、HSLC(High Speed Laser Cladding)技術、EHLA(Extreme High Speed Laser Application)技術、又はTSC(Top Speed Cladding)技術の成膜技術
によって堆積された粒子状の一つ又は複数の炭化物で構成された、請求項1-8のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項10】
前記粒子状の一つまたは複数の炭化物が、炭化タングステン(WC)または炭化クロム(CrC)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)からなる、請求項7に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項11】
前記ベース層(30)中のクロムの割合が、11%と14%との間(極値を含む)、請求項1-10のいずれか一項に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項12】
前記ブレーキバンドの前記2つのブレーキ面(2a、2b)の一方と前記ベース層(30)との間、および/または前記ブレーキバンドの前記2つのブレーキ面(2a、2b)の一方と前記中間層(300)との間、および/または前記ベース層(30)と前記表面保護被膜(3)との間、および/または前記中間層(300)と前記ベース層(30)との間に、補助フェライト-軟窒化層または補助フェロアルミネート層が介在している、請求項1-11のいずれか1項に記載のディスクブレーキ用ブレーキディスク(1)。
【請求項13】
a) 2つの対向するブレーキ面(2a、2b)を備えたブレーキバンド(2)を含むブレーキディスク(1)を準備するステップであって、前記2つの対向するブレーキ面(2a、2b)はそれぞれが、前記ブレーキディスク(1)の前記2つの主面の少なくとも一部を画定し、前記ブレーキバンド(2)はねずみ鋳鉄または鋼鉄製である、ステップと、
b) ニッケルを全く含まず、不純物を除き、クロム(Cr)を10%から15%、シリコン(Si)を最大で1%、マンガン(Mn)を最大で4%、炭素(C)を0.16%から0.5%、残りを鉄(Fe)とする鋼からなるベース層(30)を堆積する、ブレーキディスクの製造方法。
【請求項14】
前記ベース層(30)を堆積するステップb)が、レーザ成膜技術、好ましくはレーザ金属堆積法もしくは極高速レーザ材料堆積法、または溶射成膜技術、またはコールドスプレー成膜技術によって、ニッケルを含まない鋼からなる粒子状の組成物を堆積させることを提供する、請求項13に記載のブレーキディスクの製造方法。
【請求項15】
前記ベース層(30)上に、炭化タングステン(WC)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)または炭化クロムからなる粒子状の材料を、
例えば、HVOF(High-Velocity Oxy-Fuel)技術、HVAF(High-Velocity Air Fuel)技術、APS(Atmosphere Plasma Spray)技術、またはコールドスプレー蒸着技術の溶射容成膜技術、または
例えば、レーザビーム蒸着技術、LMD(レーザ金属蒸着)技術、HSLC(高速レーザクラッディング)技術、EHLA(極限高速レーザ応用)技術、またはTSC(トップスピードクラッディング)技術のKM(Kinetic Metalation)技術によって堆積して、
前記ベース層(30)、好ましくは少なくとも前記ブレーキバンド(2)の前記2つの対向するブレーキ面(2a、2b)の一方の表面全体を覆う表面保護被膜(3)を形成するステップc)を含む、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記ステップa)の後、前記ステップb)の前に、
a1)前記2つの対向するブレーキ面(2a、2b)の少なくとも一方に、ニッケルを含まず、不純物を除き、10%から15%のクロム(Cr)、最大で1%のケイ素(Si)、最大で4%のマンガン(Mn)、0.16%から0.5%の炭素(C)、および残部の鉄(Fe)からなる中間層(300)を堆積させるステップを含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキディスクの製造方法およびディスクブレーキ用ブレーキディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
車両のディスクブレーキシステムのブレーキディスクは、環状構造体、すなわちブレーキバンドと、ベルとして知られる中央固定要素とからなり、この固定要素によってディスクが車両サスペンションの回転部分、例えばハブに固定される。ブレーキバンドは、摩擦要素(ブレーキパッド)と協働するのに適した対向するブレーキ面を備えており、このようなブレーキバンドを跨いで配置され、車両サスペンションの非回転部品と一体化された少なくとも1つのキャリパ本体に収容されている。対向するブレーキパッドとブレーキバンドの対照的なブレーキ面との間の制御された相互作用は、摩擦によって、車両の減速または停止を可能にするブレーキ作用をもたらす。
【0003】
ブレーキディスクは一般にねずみ鋳鉄または鋼鉄製です。この材料は、比較的低コストで良好なブレーキ性能(特に摩耗の抑制)を得ることができます。カーボンまたはカーボセラミック材料で作られたディスクは、はるかに高い性能を提供するが、はるかに高いコストがかかる。
【0004】
鋳鉄または鋼鉄製の従来のディスクの限界は、過度の摩耗に関連している。ねずみ鋳鉄製のディスクに関しては、もう一つの非常に否定的な側面は、錆の形成をもたらす過度の表面酸化に関連している。この側面は、ブレーキディスクの性能と外観の両方に影響を及ぼし、ブレーキディスクの錆はユーザーにとって美観上受け入れがたいものだからである。このような問題に対処するため、ねずみ鋳鉄または鋼製のディスクに保護コーティングを施す試みがなされてきた。保護コーティングは、一方では、ディスクの摩耗を低減する役割を果たし、他方では、ねずみ鋳鉄ベースを表面酸化から保護し、それによって錆の層の形成を防止する役割を果たす。しかしながら、現在入手可能でディスクに塗布されている保護コーティングは、耐摩耗性を提供する一方で、ディスク自体からの剥離を引き起こす剥がれの原因となる。
【0005】
この種の保護コーティングは、例えば、低摩耗ディスクブレーキに関する米国特許第4715486号に記載されている。特に鋳鉄製のディスクは、高運動エネルギー衝撃技術によってディスク上に堆積された粒子材料からなるコーティングを有する。第1の実施形態によれば、コーティングは、20%から30%のタングステンカーバイド、5%のニッケル、および残部のクロムおよびタングステンカーバイドの混合物を含む。
【0006】
フレームスプレー技術によるコーティングの適用の場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金製のディスクから従来の保護コーティングが剥離する原因は、保護コーティング中の遊離炭素の存在である。このような現象は、ねずみ鋳鉄または鋼製のディスクにも影響する。
【0007】
前述の問題に対する解決策が、同じ出願人によって、ねずみ鋳鉄または鋼製のディスクに関する国際出願WO2014/097187号で提案された。それは、70-95重量%の炭化タングステン、5-15重量%のコバルト、および1-10重量%のクロムからなる粒子状の材料を堆積させることによって得られる、ディスクブレーキのブレーキ面上の保護被膜を作ることにある。粒子状の材料の堆積は、HVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)またはKM(Kinetic Metallization)技術によって得られる。
【0008】
より詳細には、WO2014/097187号で提供されている解決策によれば、HVOF、HVAF、またはKM成膜技術と、被膜を形成するために使用される化学成分との組み合わせにより、ねずみ鋳鉄または鋼に対する高度な固定を保証する高い結合強度を備えた保護被膜を得ることができる。前述の解決策により、従来公知の技術で見られた保護皮膜の剥離現象を大幅に低減することができるが、完全に除去することはできない。実際、WO2014/097186号に従って製造された保護コーティングを備えたディスクにおいても、保護コーティングの剥がれやたるみは、従来の公知技術よりも頻度は低いものの、引き続き発生する。
【0009】
前述の剥がれやたるみは、特に、ニッケルの粒子の摩擦による放出に寄与する可能性があり、この金属は、集団における感作現象に大きく寄与する。
【0010】
しかしながら、ブレーキディスク用の鋼の製造という特定の分野では、ニッケルの存在は、鋼の強度と靭性を高めるため、今日まで不可欠であると考えられている。さらに、ニッケルは鋼の耐酸化性と耐腐食性を向上させますが、さらに重要なことは、ニッケルは鋼の耐摩耗性と耐熱性を向上させることです。したがって、今日まで、ニッケルの存在は、鋳鉄製または鋼製のブレーキディスクの製造に不可欠な要素であると考えられてきた。
【0011】
しかしながら、保護コーティングによって確保される耐摩耗性の面での利点と、ブレーキディスクの組成におけるニッケルの存在を維持する必要性とを同時に考慮すると、先行技術を参照して上述した欠点を解決する必要性が、当該分野において強く感じられる。
【0012】
特に、ニッケル粒子の放出を低減することができ、同時に、ディスク摩耗に対する高い耐性および経時的な信頼性を含む、先行技術のブレーキディスクに典型的な、適切または同等の熱的および機械的性能を確保することができるねずみ鋳鉄または鋼鉄ディスクの必要性が感じられる。
【0013】
更なる態様によれば、適切なコーティング硬度を維持し、同時にニッケル粒子の放出を減少させ(又は全く無くし)ながら、製造に必要な資源の消費をより少なくして(従って、同様に低コストで)スチールディスクを製造する必要性も感じられる。
【発明の概要】
【0014】
ニッケル粒子の放出を低減しつつ、同時に適切または同等の熱的および機械的性能を確保することができるブレーキディスクに対する必要性は、添付の独立請求項に係るブレーキディスクおよびブレーキディスクの製造方法によって満たされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のさらなる特徴および利点は、非限定的な例によって与えられるその好ましい実施形態の以下の説明から、より理解されるであろう:
図1図1は、本発明の一実施形態によるディスクブレーキの平面図である。
図2図2は、本発明の実施形態による、そこに示されたII-II線に沿ってとられた図1のディスクの断面図である。
図3図3は、本発明のさらなる実施形態による、そこに示されたII-II線に沿ってとられた図1のディスクの断面図である。
図4図4は、本発明の実施形態によるブレーキバンドの半分の部分の断面図である。
図5図5は、本発明の第2の実施形態によるブレーキバンドの半部分の断面図である。
図6図6は、本発明の第3の実施形態によるブレーキバンドの半割体の断面図である。
図7図7は、本発明の第4の実施形態によるブレーキバンドの半部分の断面図である。
図8図8は、本発明の第5の実施形態によるブレーキバンドの半部分の断面図である。
図9図9は、本発明の第6の実施形態によるブレーキバンドの半分の部分の断面図である。
図10図10は、本発明の第7の実施形態によるブレーキバンドの半分の部分の断面図である。
【0016】
以下に説明する実施形態に共通する要素または要素の部分は、同じ参照数字で示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
前述の図を参照して、参照数字1は、本発明によるブレーキディスクを全体的に示す。
【0018】
本開示において、数値パーセンテージ範囲が与えられる場合、特に指定しない限り、そのような範囲の極値が常に構成されると理解される。
【0019】
添付の図に示す本発明の一般的な実施形態によれば、ブレーキディスク1は、2つの対向するブレーキ面2aおよび2bを備えるブレーキバンド2からなり、各ブレーキ面2aおよび2bは、少なくとも部分的にディスクの2つの主面のうちの1つを画定する。
【0020】
ブレーキバンド2はねずみ鋳鉄または鋼鉄製である。
【0021】
好ましくは、ブレーキバンド2はねずみ鋳鉄製である。特に、ディスク全体がねずみ鋳鉄製である。したがって、以下の説明では、鋼製の可能性を排除することなく、ねずみ鋳鉄製のディスクについて言及する。
【0022】
ディスク1はベース層30を備えており、このベース層30はブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの少なくとも一方を覆っており、好ましくはこのようなブレーキ面2a,2bに直接接触している。
【0023】
本発明の一態様によれば、このようなベース層30は、ニッケル含有量が15%より低いかせいぜい15%に等しい鋼で構成されている。
【0024】
本発明のさらなる態様によれば、このようなベース層30は、7.5%より低いか、多くとも7.5%に等しい、さらに好ましくは5%より低いか、多くとも5%に等しいニッケル含有量を有する鋼で構成される。
【0025】
本発明のさらなる態様によれば、かかるベース層30は完全にニッケルを含まない。これにより、ブレーキディスク1の耐用年数の間、ニッケル粒子の分散を、回避しないまでも、制限することができる。
【0026】
一般に、本開示において、「ニッケルを含まない」または「ニッケルを含まない」などの表現に言及する場合、それは、ニッケルを全く含まないことを意味するが、製造ステップに起因する残留痕跡または不純物のために存在する可能性のある少量のニッケルを差し引いたニッケルを含まないことも意味するが、それでも、いずれの層についても、ニッケルの量は、1%未満、場合によっては、最大でも厳密に5%未満である。
【0027】
さらに、本発明によれば、ベース層30の鋼は、10%-15%のクロムCr、多くとも1%のケイ素Si、多くとも4%のマンガンMn、0.16%-0.5%の炭素C、および残部の鉄Fe、すなわち残りの重量割合の鉄で構成される。これにより、ニッケルを含有しないマルテンサイト鋼を製造することができる。
【0028】
好ましくは、基層鋼の炭素C含有量は、0.16-0.25%で構成される。
【0029】
さらに、極めて有利な態様において、前記組成は、可能な被覆の硬度を低下させることなく、鋼に含まれる可能性のある炭化物を少ない割合で使用することを可能にする(本文でより詳細に後述する)。
【0030】
好ましい変形例によれば、基層30の鋼中のクロム(Cr)含有量は、極端なものも含めて11%-14%で構成される。
【0031】
当業者であれば、鋼合金または鋳鉄のニッケル含有率または他の成分のパーセンテージに言及する場合に何を意味するかを知っていることは明らかである。例えば、合金の総含有量に対する質量%の含有量について言及するのが一般的である。従って、本開示の残りの部分では、パーセンテージの特定の計算は、上記の定義から逸脱する場合にのみ指定され、指定されない場合には、示されたパーセンテージは、当業者によって理解されるものとみなされるべきである。
【0032】
本発明の変形例、例えば図5に示すものによれば、ベース層30も、ニッケルフリー鋼に含まれる1つ以上の炭化物で構成される。このような含有は、鋼中への炭化物の含有に関する当業者に公知の技術によって達成され、例えば、炭化物は合金中に溶解される。
【0033】
好ましくは、1つ以上の含有炭化物は、炭化タングステン(WC)、炭化クロム(好ましくは、これに限定されないが、Cr3C2)、炭化ニオブ(NbC)、炭化チタン(TiC)からなる群から選択される少なくとも1つの炭化物からなる。1つ以上の炭化物が存在してもよいことは明らかであり、前述の群から選択されるか、または本群の炭化物がすべて存在してもよい。
【0034】
1つ以上の含まれる炭化物は、炭化タングステン(WC)、炭化クロム(例えば、Cr3C2)、炭化ニオブ(NbC)、炭化チタン(TiC)からなる群から選択される少なくとも1つの炭化物からなる。
【0035】
例えば図6に示す有利な実施形態によれば、ブレーキディスク1は、少なくともブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方の側でベース層30を覆う表面保護被膜3からなる。このような表面保護被膜3は、ブレーキ面2a,2bに面していないベース層30の片面に設けられている。さらに、表面保護被膜3は、溶射成膜技術、例えばHVOF(High-Velocity Oxy-Fuel)技術によって、またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)技術によって、またHAAPS(Atmosphere Plasma Spray)技術によって、またはコールドスプレー成膜技術、例えば、KM(キネティックメタライゼーション)技術、またはレーザビーム蒸着技術、例えばLMD(レーザ金属蒸着)技術、またはHSLC(高速レーザクラッディング)技術、またはEHLA(極端な高速レーザ適用)技術、またはTSC(トップスピードクラッディング)技術によるものである。
【0036】
表面保護被膜3は、このように、HVOF技術、またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)技術、またはKM(Kinetic Metallization)技術によっても、ディスク1上に直接粒子状の1つまたは複数の炭化物、好ましくは炭化タングステン(WC)または炭化クロム(例えば、Cr3C2)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)を堆積させることによって得られる。
【0037】
さらなる変形例によれば、表面保護被膜3は、ニッケル含有量が15%以下または多くとも7.5%以下、または多くとも5%以下、またはさらに好ましくは全くニッケルを含まない鋼と、鋼に含まれる1つまたは複数の炭化物とから構成される。この変形例では、換言すれば、鋳鉄帯の上に、所定の順序で、ニッケルを含まない鋼からなるベース層30と、ベース層30の上に、前述の鋼と鋼に含まれる1種以上の炭化物とからなる表面保護被膜3とが接合される。
【0038】
実質的にまたは完全にニッケルを含まない鋼の表面に堆積された炭化物または鋼に含まれる炭化物の存在により、鋼中のニッケルの不足または完全な不足を補うように、適切な機械的強度と耐摩耗性を付与することができる。
【0039】
変形例によれば、表面保護被膜3は、炭化タングステン(WC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化クロム(例えば、Cr3C2)、炭化チタン(TiC)のうちの1つまたは複数の炭化物で構成される。好ましくは、このような表面保護被膜3は、溶射成膜技術、例えば、HVOF(High-Velocity Oxy-Fuel)技術、またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)技術、またはAPS(Atmosphere Plasma Spray)技術、またはコールドスプレー成膜技術、例えば、 KM(Kinetic Metallization)技術、レーザビーム蒸着技術、例えばLMD(Laser Metal Deposition)技術、HSLC(High-Speed Laser Cladding)技術、EHLA(Extreme High-Speed Laser Application)技術、またはTSC(Top Speed Cladding)技術による。従って、前述の群から選択される複数の炭化物が存在してもよく、またはこの群に存在する全ての炭化物が存在してもよいことが明らかである。
【0040】
有利な実施形態によれば、表面保護被膜3は、炭化クロム(例えば、Cr3C2)および炭化チタン(TiC)から構成される。
【0041】
変形例によれば、表面保護被膜3は、少なくとも1つの金属酸化物または金属酸化物の混合物、または金属とセラミック材料の混合物、好ましくはAl2O3アルミニウム酸化物の混合物、またはAl2O3とFe-Cr金属間マトリックスの混合物、例えばFe28Crで構成される。
【0042】
有利な変形例によれば、表面保護被膜3は、以下の炭化物のうちの1つまたは複数で構成される:炭化タングステン(WC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化クロム(例えば.Cr3C2)、炭化チタン(TiC)、金属酸化物の混合物との混合物、または金属とセラミック材料との混合物との混合物、好ましくはアルミニウム酸化物Al2O3との混合物、またはAl2O3と金属間マトリックスFe-Crとの混合物、例えばFe28Crとの混合物である。
【0043】
上記の酸化物もしくは酸化物の混合物、または金属もしくは金属とセラミック材料との混合物、または炭化物と金属酸化物との混合物は、好ましくは、前述および本開示に記載されているのと同じ粒子形態の炭化物の成膜技術によって堆積されることが明らかである。
【0044】
好ましくは、表面保護被膜3の厚さは、30μm-150μm、好ましくは50μm-90μmである。
【0045】
好ましくは、さらに、ベース層30の鋼は、ニッケルの存在によって一般的に付与される鋼合金特性の不足を少なくとも部分的に補い、機械的強度を増加させるように、最大で4%のマンガン(Mn)を含み、さらに好ましくは、マンガン含有量は、極端なものも含めて0.5-4%の間である。
【0046】
好ましくは、ベース層30の厚さは、20μmと300μmとの間、好ましくは90μmに等しく構成される。
【0047】
本発明の変形例によれば、ニッケルの低量または完全な非存在を補い、ブレーキディスクとして十分な性能を得るために、ベース層30の鋼は、極端なものも含めて、0.5%-10%、さらに好ましくは0.5%-4.5%のモリブデン含有量と、0.5%-5%のマンガン含有量とを有する。モリブデンとマンガンが前述の割合で存在することにより、十分な耐食性と同時に十分な機械的強度を得ることができる。
【0048】
実施形態によれば、ニッケルを含まない鋼の中間層300が、ベース層30とブレーキバンド2の2つのブレーキ面2a、2bの少なくとも一方との間に介在される。
【0049】
実施形態によれば、中間層300は、10%-15%のクロム(Cr)、多くとも1%のケイ素(Si)、多くとも4%のマンガン(Mn)、0.16%-0.5%の炭素(C)、および残部の鉄(Fe)からなるニッケルフリー鋼からなる。好ましくは、炭素(C)含有量は0.16%以上0.25%以下である。
【0050】
変形例によれば、ベース層30とブレーキバンド2の2つのブレーキ面2a,2bの少なくとも一方との間に、ニッケルからなる鋼の中間層300が、好ましくは、ベース層30が全くニッケルを含まない場合には5%を超えるニッケル含有量を有し、より好ましくは、少なくとも5%に等しいニッケル含有量を有し、さらに好ましくは、少なくとも5%に等しく15%より低いニッケル含有量を有する、中間層300が介在される。
【0051】
実施形態によれば、中間層300は、ニッケル含有量が多くとも15%に等しい鋼からなる。
【0052】
実施形態によれば、中間層300は、ニッケル含有量が多くとも7.5%または7.5%に等しい鋼からなる。
【0053】
中間層300の存在は、ベース層30の存在によって、適切な機械的特徴を有し、同時に環境への影響を低減したディスクを得ることを可能にする。
【0054】
一実施形態によれば、中間層300は、10%-15%のクロム(Cr)、多くとも1%のケイ素(Si)、多くとも4%のマンガン(Mn)、0.16%-0.5%の炭素(C)、および残りの鉄(Fe)からなる鋼からなる。好ましくは、中間層300の鋼の炭素含有量(C)は、0.16%以上0.25%以下であり、極端なものは含まれない。
【0055】
一実施形態によれば、表面保護皮膜3は、10%-15%のクロム(Cr)、多くとも1%のケイ素(Si)、多くとも4%のマンガン(Mn)、0.16%-0.5%の炭素(C)、および残りの鉄(Fe)からなる鋼からなり、好ましくはニッケルを含まない。
【0056】
好ましくは、表面保護被膜鋼の炭素含有量(0C)は0.16%-0.25%であり、極端なものは含まれない。
【0057】
実施形態によれば、補助フェライト-軟窒化層または補助フェロアルミネート層が、ブレーキバンドの2つのブレーキ面2a、2bの一方と基層30との間、またはブレーキバンドの2つのブレーキ面2a、2bの一方と中間層300との間、または基層30と表面保護被膜3との間、または中間層300と基層30との間に介在される。
【0058】
実施形態によれば、ブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方と基層30との間、又はブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方と中間層300との間、又は基層30と表面保護被膜3との間、又は中間層300と基層30との間に、補助フェライト-軟窒化層又は補助フェロアルミネート層が介在される。
【0059】
開示の簡略化のために、ブレーキディスク1を本発明による方法と共に説明する。ブレーキディスク1は、好ましくは、以下に説明する本発明による方法によって製造されるが、必ずしもそうである必要はない。
【0060】
本発明の第1の態様によれば、本発明による方法の一般的な実施態様は、以下の操作ステップからなる。
a)2つの対向するブレーキ面2a、2bを備えたブレーキバンドを含むブレーキディスクを提供するステップであって、各ブレーキバンドは、ディスクの2つの主面の少なくとも一部を画定し、ブレーキバンドはねずみ鋳鉄または鋼鉄製である、ステップ;
b)最大15%のニッケルを含む鋼の層を、好ましくはレーザ蒸着技術、例えばレーザ金属蒸着法もしくは極高速レーザ材料蒸着法、または熱溶射蒸着技術、またはコールドスプレー蒸着技術によって蒸着し、ベース層30を形成するステップ;
c)任意に、炭化タングステン(WC)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)または場合によっては炭化クロムからなる粒子状の材料を、前記ベース層30上に、例えばHVOF(High-Vol.HVOF(High-Velocity Oxy-Fuel)技術、HVAF(High-Velocity Air Fuel)技術、APS(Atmosphere Plasma Spray)技術、コールドスプレー(Cold Spray)蒸着技術、例えばKM(Kinetic Metallization)技術、またはレーザビーム蒸着技術、例えば、LMD(レーザ金属蒸着)技術によって、またはHSLC(高速レーザクラッディング)技術によって、またはEHLA(極限高速レーザ適用)技術によって、またはTSC(トップスピードクラッディング)技術によって、ブレーキバンドの2つのブレーキ面の少なくとも一方を覆う、例えばベース層30を覆う、好ましくは少なくともブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方の表面全体を覆う表面保護被膜3を形成する。
【0061】
本発明の第2の態様によれば、本発明による方法のさらなる一般的な実施態様は、以下の操作ステップからなる:
a)2つの対向するブレーキ面2a、2bを備えたブレーキバンドを含むブレーキディスクを提供するステップであって、各ブレーキバンドは、ディスクの2つの主面のうちの少なくとも一部を画定し、ブレーキバンドはねずみ鋳鉄または鋼鉄製である、ステップ;
b)ベース層30を形成するために、好ましくはレーザ蒸着技術、例えばレーザ金属蒸着法もしくは極高速レーザ材料蒸着法、または熱溶射蒸着法、またはコールドスプレー蒸着法によって、完全にニッケルを含まない鋼の層を蒸着するステップ;
c)任意に、炭化タングステン(WC)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)または場合によっては炭化クロムからなる粒子状の材料を、前記ベース層30上に、
溶射成膜技術[例えばHVOF(High-Velocity Oxy-Fuel)技術、HVAF(High-Velocity Air Fuel)技術、APS(Atmosphere Plasma Spray)技術)、コールドスプレー(Cold Spray)蒸着技術]、KM(Kinetic Metallization)技術、またはレーザビーム蒸着技術[例えば、LMD(レーザ金属蒸着)技術に、HSLC(高速レーザクラッディング)技術、EHLA(極限高速レーザ適用)技術、TSC(トップスピードクラッディング)技術]によって、ブレーキバンドの2つのブレーキ面の少なくとも1つを覆う、例えばベース層30を覆う、好ましくは少なくともブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方の表面全体を覆う表面保護被膜3を形成する。
【0062】
本発明の第3の態様によれば、本発明による方法のさらなる一般的な実施態様は、以下の操作ステップからなる。
a)ブレーキディスクを提供するステップであって、2つの対向するブレーキ面2a,2bを備えたブレーキバンドを含み、各ブレーキバンドがディスクの2つの主面の少なくとも一部を画定し、ブレーキバンドがねずみ鋳鉄または鋼鉄製であるステップ。
a1)ステップa)の後、2つの対向するブレーキ面2a、2bの少なくとも一方に、ニッケルを含まない鋼からなる中間層300を堆積させるステップ。
b)ステップa1)の後、好ましくは、レーザ蒸着技術、例えば、レーザ金属蒸着法もしくは極高速レーザ材料蒸着法、または熱溶射蒸着法、またはコールドスプレー蒸着法によって、完全にニッケルを含まない鋼の層を蒸着し、ベース層30を形成するステップ。
c)任意に、前記ベース層30上に、炭化タングステン(WC)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)または炭化クロムからなる粒子状の材料を、例えばHVOF(High Spray Deposition)技術によって、溶射堆積する、 HVOF(High-Velocity Oxy-Fuel)技術、HVAF(High-Velocity Air Fuel)技術、APS(Atmosphere Plasma Spray)技術、コールドスプレー成膜技術、例えばKM(Kinetic Metallization)技術、またはレーザビーム成膜技術、例えば、LMD(レーザ金属蒸着)技術によって、またはHSLC(高速レーザクラッディング)技術によって、またはEHLA(極限高速レーザ適用)技術によって、またはTSC(トップスピードクラッディング)技術によって、ブレーキバンドの2つのブレーキ面のうちの少なくとも1つを覆う、例えばベース層30を覆う、好ましくは少なくともブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bのうちの1つの表面全体を覆う表面保護被膜3を形成するステップ。
【0063】
有利な実施形態によれば、ステップa1)は、ニッケルを含まない鋼と、10%-15%のクロム(Cr)と、多くとも1%のケイ素(Si)と、多くとも4%のマンガン(Mn)と、0.16%-0.5%の炭素(C)と、好ましくは極端なものも含めて0.16%-0.25%の炭素(C)と、残部の鉄(Fe)とからなる中間層300を堆積することを含む。本発明のさらなる態様によれば、本発明による方法のさらなる一般的な実施態様は、以下の操作ステップからなる。
a)ブレーキディスク1を提供するステップであって、2つの対向するブレーキ面2a、2bを備えたブレーキバンド2を含み、各ブレーキバンドがディスクの2つの主面の少なくとも一部を画定し、ブレーキバンドがねずみ鋳鉄または鋼でできているステップ。
b)ニッケルを全く含まない鋼と、10%から15%のクロム(Cr)と、多くとも1%のケイ素(Si)と、多くとも4%のマンガン(Mn)と、0.16%から0.5%の炭素(C)と、好ましくは0.16%から0.25%の炭素(C)と、残りの鉄(Fe)とからなるベース層30を堆積させる。
【0064】
本発明のさらなる態様によれば、本発明による方法の一般的な実施態様は、以下の操作ステップからなる。
a)ブレーキディスクを提供するステップであって、2つの対向するブレーキ面2a、2bを備えたブレーキバンドを含み、各ブレーキバンドがディスクの2つの主面の少なくとも一部を画定し、ブレーキバンドがねずみ鋳鉄または鋼で作られている、ブレーキディスクを提供するステップ。
a1)ステップa)の後、2つの対向するブレーキ面2a、2bの少なくとも一方に、好ましくは本開示の前の段落に記載された特徴に従って、ニッケルを含む鋼からなる中間層300を堆積させるステップ。
b)ステップa1)の後に、好ましくはレーザ蒸着技術、例えばレーザ金属蒸着法もしくは極限高速レーザ材料蒸着法、または熱溶射蒸着法、またはコールドスプレー蒸着法によって、完全にニッケルを含まない鋼の層を堆積させて、ベース層30を形成するステップ。
c)任意に、炭化タングステン(WC)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)または場合によっては炭化クロムからなる粒子状の材料を、前記ベース層30上に、例えばHVOF(High Spray Deposition)法などの溶射技術によって堆積させる、HVOF(High-Velocity Oxy-Fuel)技術、HVAF(High-Velocity Air Fuel)技術、APS(Atmosphere Plasma Spray)技術、コールドスプレー(Cold Spray)蒸着技術、例えばKM(Kinetic Metallization)技術、またはレーザビーム蒸着技術、例えば、LMD(レーザ金属蒸着)技術によって、またはHSLC(高速レーザクラッディング)技術によって、またはEHLA(極限高速レーザ適用)技術によって、またはTSC(トップスピードクラッディング)技術によって、ブレーキバンドの2つのブレーキ面の少なくとも1つを覆う、例えばベース層30を覆う、好ましくは少なくともブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方の表面全体を覆う表面保護被膜3を形成する。
【0065】
さらに、本発明による方法の前述の一般的な実施変形例において、好ましくは、本方法は、以下に説明するさらなるステップを含む。
【0066】
好ましくは、ステップc)において、炭化タングステン(WC)または炭化ニオブ(NbC)または炭化チタン(TiC)または場合によっては炭化クロムが金属マトリックス中に分散される。
【0067】
好ましい実施形態によれば、ステップc)において、粒子状の材料は、炭化クロムおよび炭化チタンから構成される。
【0068】
有利には、ブレーキディスクは、ディスク1を車両に固定するのに適した部分を備えており、この部分は、ディスク1の中心に配置され、ブレーキバンド2と同心に配置された環状部分4からなる。固定部4は、ホイールハブ(すなわちベル)への接続要素5を支持する。ベルは、(添付の図に示すように)環状固定部と一体に作られてもよいし、別個に作られた後、適切な接続要素によって固定部に固定されてもよい。
【0069】
環状固定部4は、ブレーキバンドと同じ材料、すなわちねずみ鋳鉄、または他の適当な材料で作ることができる。ベル5もねずみ鋳鉄または他の適切な材料で作ることができる。特に、ディスク全体(すなわち、ブレーキバンド、固定部、およびベル)をねずみ鋳鉄で作ってもよい。
【0070】
好ましくは、ブレーキバンド2は鋳造によって作られる。同様に、固定部分及び/又はベルがねずみ鋳鉄製である場合、これらは鋳造によって製造されてもよい。
【0071】
環状の固定部分は、(添付の図に示すように)ブレーキバンドと一体に作られてもよいし、ブレーキバンドに機械的に連結された別体として作られてもよい。
【0072】
HVOF、HVAFまたはKM、あるいはLMDまたはHSLC技術は、当業者に公知の3つの成膜技術であるので、詳細な説明は省略する。
【0073】
HVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)は、混合燃焼室と噴霧ノズルを備えた噴霧装置を使用する粉末噴霧成膜技術である。酸素と燃料がチャンバに供給される。1MPaに近い圧力で形成される高温の燃焼ガスは、収束-発散ノズルを通過し、粉末材料は極超音速(つまりMACH1より高い)に達する。成膜される粉末材料は、高温のガス流に噴射され、その中で急速に溶融し、1000m/sの速度で加速される。成膜面に衝突すると、溶融材料は急速に冷却され、高運動エネルギー衝撃によって非常に緻密でコンパクトな構造を形成する。
【0074】
HVAF(高速空気燃料)蒸着技術は、HVOF技術と類似している。違いは、HVAF技術では、酸素の代わりに空気が燃焼室に供給されることである。そのため、手元の温度はHVOF技術よりも低い。これにより、コーティングの熱変質をより制御することができる。
【0075】
KM(Kinetic Metallization)蒸着法は、金属粉末を音波蒸着ノズルを通して2段階で噴霧する固体蒸着プロセスであり、不活性ガス流中で金属粒子を加速し、摩擦帯電させる。キャリア流には熱エネルギーが供給される。このプロセスでは、圧縮された不活性ガス流の位置エネルギーと供給された熱エネルギーが粉末の運動エネルギーに変換されます。粒子が高速で加速され帯電すると、成膜面に向けられる。このような表面に金属粒子が高速で衝突すると、粒子が大きく変形する(衝突に垂直な方向で約80%)。この変形により、粒子の表面積が大幅に増加する。衝撃の効果として、粒子と蒸着表面との間に親密な接触が形成され、これにより金属結合が形成され、非常に緻密でコンパクトな構造を有する被膜が形成される。
【0076】
有利には、高運動エネルギー衝撃蒸着技術であるという事実を共有する上記の3つの蒸着技術の代替として、異なる蒸着方法を利用するが、非常に緻密でコンパクトな構造を有するコーティングを生成することができる他の技術を使用することができる。
【0077】
HVOFまたはHVAFまたはKMまたはLMDまたはHSLC成膜技術と、ベース層30および表面保護被膜3の形成に使用される化学成分との組み合わせは、それらが堆積される下部材料上で高い結合強度を得ることと、高い炭化物含有量を有する粉末を堆積させることの両方を可能にする。
【0078】
上述したように、ベース層30および表面保護被膜3は、ブレーキバンドの2つのブレーキ面の少なくとも一方を覆っている。
【0079】
以下では、「コーティング」という用語は、ベース層30と表面保護被膜3とによって与えられる全体の両方を指し、表面保護被膜3を含まないがベース層3に炭化物を含む変形例では、ベース層30のみを指す。
【0080】
好ましくは、図2および図3に示すように、ディスク1は、ブレーキバンド2の両方のブレーキ面2a、2bを覆うコーティング3、30を備える。
【0081】
特に、コーティング3、30は、ブレーキバンドのみを覆ってもよいし、単一のブレーキ面を覆ってもよいし、両方を覆ってもよい。
【0082】
添付の図に示されていない解決策によれば、コーティング3、30は、環状固定部4やベル5のようなディスク1の他の部分にも及んで、ディスク1の全表面を覆うまでになってもよい。特に、コーティング3、30は、ブレーキバンドに加えて、固定部のみ、またはベルのみを覆ってもよい。その選択は、ディスク全体またはその一部の間で均一な着色および/または仕上げを行うために、外観上の理由によって実質的に決定される。
【0083】
有利には、被膜3,30を形成するための粒子材料の堆積は、少なくとも被膜の厚さの点で、ディスクの表面上で差別化された方法で実施することができる。
【0084】
ブレーキバンド域において、被膜3,30は、対向する2つのブレーキ面において同じ厚さにすることができる。別の解決策を提供することもでき、その場合、コーティング3、30は、ブレーキバンドの2つのブレーキ面の間で異なる厚さを区別することによって作られる。
【0085】
本方法の一実施形態によれば、ベース層30を堆積させるステップb)は、レーザ成膜技術、好ましくはLMD(レーザ金属堆積法)またはEHLA(極限高速レーザ材料堆積法)によって、あるいは溶射成膜技術によって、あるいはコールドスプレー成膜技術によって、ニッケル含有量が多くとも15%に等しいか、あるいは多くとも7.5%に等しいか、あるいは多くとも5%に等しいか、あるいは全くニッケルを含まない鋼からなる粒子状の組成物を堆積させることを含む。
【0086】
有利な実施形態では、ステップb)において、粒子形態の組成物は、全粒子組成物の50重量%を超えない割合で混合された炭化物をさらに含む。
【0087】
有利な実施形態では、ステップb)において、粒子状の組成物は、鋼に加えて、金属酸化物または金属とセラミック材料との混合物、好ましくはアルミニウム酸化物Al2O3の混合物、またはAl2O3と金属間マトリックスFe-Crとの混合物、例えばFe28Crも含む。
【0088】
有利な実施形態では、ステップb)において、粒子の形態の組成物は、鋼に加えて、金属酸化物または金属とセラミック材料との混合物、好ましくは、アルミニウム酸化物Al2O3、またはAl2O3と金属間マトリックスFe-Crとの混合物、例えば、Fe28Crも含む、 Fe28Cr、および炭化タングステン(WC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化チタン(TiC)、炭化クロムからなる群から選択される炭化物の1種以上からなる。
【0089】
したがって、本方法の前述の変形例により、ベース層30が上述の鋼と金属酸化物との混合物、または別の変形例では、鋼と金属酸化物と上述の炭化物との混合物からなるブレーキバンド2を得ることが可能であることが明らかである。
【0090】
ブレーキバンドの好ましい変形例、およびベース層30、中間層300および表面被覆層3の配置順序も、添付の図を参照することにより、よりよく理解される。
【0091】
好ましくは、中間層300を堆積させるステップa1)は、レーザ成膜技術、好ましくはLMD(レーザ金属堆積法)またはEHLA(極限高速レーザ材料堆積法)により、または溶射成膜技術により、またはコールドスプレー成膜技術により、5%-15%のニッケル含有量を有する鋼からなる粒子状の組成物を堆積させることを含む。
【0092】
この方法の有利な変形例によれば、ブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方と基層30との間、および/またはブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方と中間層300との間、および/または基層30と表面保護被膜3との間、および/または中間層300と基層30との間に、補助フェライト-軟窒化層を堆積するステップe1)が含まれる。
【0093】
有利な実施形態によれば、この方法は、ブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bのうちの一方とベース層30との間、および/またはブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bのうちの一方と中間層300との間、および/またはベース層30と表面保護被膜3との間、および/または中間層300とベース層30との間に、補助フェロアルミネーション層を堆積させるステップe2)を含んでいる。
【0094】
好ましくは、フェロアルミネーションのステップe2)は、以下のステップからなる。
e21)溶融アルミニウムが前記ブレーキバンド2の少なくとも所定の表面領域を覆うように、所定の温度に維持された溶融アルミニウム中に前記ブレーキバンド2を少なくとも部分的に浸漬するステップであって、前記浸漬は、前記ブレーキバンド2の表面層における金属間鉄-アルミニウム化合物の形成に伴う前記鋳鉄または鋼の表面微細構造中へのアルミニウム原子の拡散を可能にするように、所定の時間にわたって延長され、その結果、前記ブレーキバンド2の前記所定の表面領域に金属間鉄-アルミニウム化合物からなる層を生成するステップ。
e22)前記ブレーキバンド2を溶融アルミニウムから抜き出すステップ。
e23) 抽出後に前記ブレーキバンド2に付着したままのアルミニウムを除去して、前記金属間鉄-アルミニウム化合物の層を表面に露出させるステップ。
【0095】
表面に露出した金属間鉄-アルミニウム化合物の層は、前記所定の表面領域において、鋳鉄または鋼製のブレーキバンド2に高い耐腐食性および耐摩耗性を与える。
【0096】
好ましくは、金属間鉄-アルミニウム化合物層は、鉄-アルミニウム金属間化合物の主相としてFeAl3からなる。
【0097】
有利な実施形態によれば、溶融アルミニウムが維持される所定の温度は750℃以下であり、好ましくは690℃-710℃であり、さらに好ましくは700℃に等しい。
【0098】
本方法の有利な態様によれば、所定の浸漬時間期間は、前記金属間化合物層の所望の厚さの関数として固定され、溶融アルミニウムの温度が同じである場合、前記厚さは、浸漬時間が増加するにつれて増加し、溶融アルミニウムの温度が同じである場合、前記厚さは、浸漬時間が増加するにつれて増加し、好ましくは、前記所定の浸漬時間は、5-60分の間であり、さらに好ましくは、30分に等しい。
【0099】
有利な態様によれば、浸漬のステップe21)の前に、本方法は、前記ブレーキバンド2のそのような所定の表面領域を所定の深さまで脱炭するステップf)を含んでいる。
【0100】
アルミニウム原子の拡散浸透(アルミン化によって誘導される)を受けたブレーキバンドの表面層における炭素の存在は、金属間化合物に加えて炭化鉄の形成をももたらすことが実験的に判明している。炭化鉄の存在は、金属間化合物層に不連続点を生じさせ、この点が腐食現象と割れの両方を誘発する可能性がある。有利なことに、表面脱炭により、鉄炭化物の形成を回避(または少なくとも大幅に低減)することができ、耐食性が高く、割れが発生しにくい金属間化合物層を形成することができる。
【0101】
好ましくは、前記ステップf)において、前記少なくとも1つの所定の表面領域の脱炭は、電解プロセスによって実施される。
【0102】
より詳細には、前記電解プロセスは、前記ブレーキバンドの所定の表面領域を溶融塩浴に浸漬し、浴とブレーキバンドとの間に電位差を印加することによって実施される。
【0103】
電位差を印加する際、ブレーキバンドは正極(カソード)に接続され、前記溶融塩浴は負極(アノード)に接続される。炭素、特にグラファイトフレークの形態の炭素は、陽極で放出される電子と原子状酸素の移動によって二酸化炭素に酸化される。炭素は主に酸素と反応し、最終的に二酸化炭素として結合する。
【0104】
電解プロセスによって誘発されるブレーキバンドの表面の酸化は、そこに存在する炭素に限定されるものではなく、鋳鉄(鉄)の金属マトリックスにまで及び、金属酸化物の表面膜の形成を引き起こす。極性を反転させると、金属酸化物の表面被膜が減少し、元の金属状態に戻る。
【0105】
好ましくは、前述の電解プロセスは、ブレーキバンドの表面が炭素を酸化させるために陰極に接続されている所定の期間の後に、金属酸化物膜を元の金属状態に戻すように極性を反転させることを含むことができる。
【0106】
操作的には、脱炭深さは、電解プロセスの継続時間を調整することによって制御され、場合によってはいくつかの極性反転サイクルに分割される。脱炭ステップ(ブレーキバンド酸化ステップ;陰極接続)の時間を長くすることにより、他の条件がすべて同じであっても、脱炭深さは増加する。
【0107】
脱炭は、レーザ処理や化学処理など、上述の電解処理に代わる処理によって実施することもできる。
【0108】
しかし、電解処理による脱炭が好ましいのは、以下の理由による。
レーザ処理よりもはるかに効率的かつ迅速であり、より短時間でより完全かつ均一な炭素除去が保証される;
電解処理は、化学処理(例えば、過マンガン酸カリウムによる処理)よりもはるかに効率的であり(より短時間で、より完全かつ均一な炭素除去を確実にする)、処理された部分に鋳鉄金属マトリックスの酸化領域を残さないからである。
【0109】
より詳細には、鋳鉄金属マトリックス上の酸化した領域では、溶融アルミニウムの濡れ性がドロドロに低下し、このことがアルマイト処理および金属間化合物層の特徴に悪影響を及ぼすことが観察されている。このような理由からも、電解脱炭プロセスは、上記に示した代替プロセスよりも好ましい。
【0110】
既に述べたように、金属間化合物層の成長厚さは、主に溶融アルミニウムの温度および溶融アルミニウムへの浸漬時間に影響される。しかし、金属間化合物層の厚さに影響を与える付加的な要因として、溶融アルミニウム中のケイ素含有量があることが判明している。溶融アルミニウム中のケイ素の重量含有率が高いほど、他の条件は同じで、金属間化合物層は薄くなる。好ましくは、溶融アルミニウム中のケイ素含有量は1重量%未満である。
【0111】
好ましくは、溶融アルミニウムは、1重量%を超えない不純物含有量を有する。特に、最大純度99.7重量%のアルミニウムを使用することができ、以下の不純物(重量%)を有する: Si≦0.30%;Fe≦0.18%;Sr≦0.0010%;Na≦0.0025%;Li≦0.0005%;Ca≦0.0020%;P≦0.0020%;Sn≦0.020%。
【0112】
場合によっては、ブレーキバンドが脱炭を受け、その結果、金属間化合物層が形成される表面層から黒鉛薄片が除去されたにもかかわらず、得られた金属間化合物層は、黒鉛薄片が除去されなかったかのように、黒鉛薄片を含み続けることが判明した。このような現象は、アルミニウム中の鉄の溶解が非常に速いため、脱炭層がすぐに消費され、その結果、脱炭層の下の層、すなわち黒鉛片が存在する層で金属化合物が形成されるという事実によって説明することができる。
【0113】
換言すれば、溶融アルミニウムへの鉄の過剰な溶解性は、ブレーキバンドの表面脱炭の有益な効果の全部または一部を打ち消す可能性がある。
【0114】
有利には、アルミニウム浴中の鉄の溶解を遅らせるために、鉄が溶解した溶融アルミニウム浴に浸漬するステップb1)を実施することができる。これにより、アルミニウム中への鉄の溶解が抑制され、FeAl3の形成が運動学的に促進され、脱炭層での金属間化合物の形成が許容される。
【0115】
好ましくは、アルミニウム浴中の溶液中の鉄の含有量は5重量%を超えず、さらに好ましくは3重量%-5重量%であり、かなり好ましくは4重量%に等しく、アルミニウム中への鋳鉄の鉄の溶解プロセスを遅らせる有意な効果を確保する。
【0116】
例えば、以下の組成(重量%)のアルミニウム浴を使用することができる: Al≦97%;Fe3-5%;以下の不純物を含む: Si≦0.30%;Fe≦0.18%;Sr≦0.0010%;Na≦0.0025%;Li≦0.0005%;Ca≦0.0020%;P≦0.0020%;Sn≦0.020%。
【0117】
特に鉄の含有量が溶解限界に近い場合、鉄を溶解したアルミニウム浴を用いてアルマイト処理を行うことにより、より多孔質の金属間化合物層が得られることが実験的に見出されている。これは、鋳鉄と比較して、鉄を含む溶融アルミニウム浴の粘度が高く、その結果、濡れ性が低下することによって説明できる。
【0118】
有利には、脱炭層の下にそのような層が形成され、そこに存在するグラファイトフレークが組み込まれるのを避けながら、コンパクトで均一であり、したがってあまり多孔質ではない金属間化合物層を形成するために、浸漬の前記ステップb1)は、2つのサブステップで実施される。
前記所定の表面領域上に金属間鉄-アルミニウム化合物からなる初期層を得るために、溶液中の鉄を実質的に含まない(またはせいぜい不純物として存在する;例えば、鉄含有量が0.20重量%未満である)溶融アルミニウムの第1浴に浸漬する第1サブステップb11);および
所定の厚さを有する金属間鉄-アルミニウム化合物からなる最終層が前記所定の表面領域上に得られるまで、前記初期層を増加させるために、溶液中の鉄を含む第2の溶融アルミニウム浴に浸漬する第2のサブステップb12)を含む。
【0119】
前記第1の浴中における前記ブレーキバンドの浸漬時間は、前記第2の浴中における前記ブレーキバンドの浸漬時間よりも短い。
【0120】
好ましくは、前記第1の浴中における前記ブレーキバンドの浸漬は、可能な限り短いが、前記所定の表面領域上に10μmを超えない厚さを有する金属間鉄-アルミニウム化合物からなる初期層を得るのに十分な時間だけ延長される。特に、前記第1の浴への浸漬時間は、第1の浴が約700℃の温度である場合、3-5分である。浸漬時間は、浴温度が上昇するにつれて減少しなければならない。
【0121】
より詳細には、前記厚さは、第2の浴の温度が同じで、浸漬時間が増加するにつれて増加し、前記厚さは、第2の浴の温度が同じで、浸漬時間が増加するにつれて増加する。
【0122】
有利には、前記第1の溶融アルミニウム浴および前記第2の浴の両方が、1重量%を超えない不純物含有量を有する。特に、前記2つの溶融アルミニウム浴は、1重量%未満のケイ素含有量を有する。
【0123】
好ましくは、第2のアルミニウム浴中の溶液中の鉄の含有量は5重量%を超えず(700℃におけるアルミニウム中の鉄の溶解限界は4重量%に等しい;鉄飽和アルミニウム)、さらに好ましくは3重量%と5重量%の間であり、かなり好ましくは4重量%に等しい。鋳鉄からアルミニウムへの鉄の溶解プロセスを遅らせる有意な効果を確保するためには、鉄含有量は3%未満であってはならない。
【0124】
有利には、前記第1の浴および前記第2の浴の両方は、680℃未満、好ましくは750℃より高くない温度、より好ましくは690℃と710℃の間、さらに好ましくは700℃に等しい温度に保たれる。
【0125】
有利には、本方法は、少なくとも前記所定の表面領域において、浸漬の前記ステップe21)の前に実施されるブレーキバンドの表面前処理のステップを含むことができる。好ましくは、前記表面前処理ステップは、ラッピング、脱脂、サンドブラスト及び/又は表面酸化物の化学的除去からなる。
【0126】
好ましくは、本方法は、前記ステップe21)の浸漬の前に、溶融アルミニウム浴から表面酸化物層を除去するステップを含む。表面酸化物を除去するこのようなステップは、浸漬が単一の浴中で行われる場合、および浸漬が第1および第2の浴中で2つの連続したステップで行われる場合の両方で実施される。
【0127】
本発明の好ましい実施形態によれば、抽出後に前記ブレーキバンドに付着したままのアルミニウムを除去するステップは、2つのサブステップで実施される。
第1の除去サブステップは、溶融アルミニウムから抽出されたばかりのブレーキバンドに対して実施され、ブレーキバンドに付着したままの溶融アルミニウムを除去する。
溶融アルミニウムから抽出され、冷却されたブレーキバンドに対して第2の除去サブステップを実施し、前記第1の除去サブステップの後に残った凝固した残留アルミニウムを除去する。
【0128】
好ましくは、本方法は、前記除去の前記第1のサブステップと前記除去の前記第2のサブステップとの間に実施される前記ブレーキバンドを急冷するステップを含む。
【0129】
有利には、除去の前記第1のサブステップは、まだ液体であるアルミニウムの機械的なシェービングによって実施することができる。
【0130】
有利には、前記第2の除去サブステップは、機械的に除去されなかった固化アルミニウムの化学的除去によって実施され得る。
【0131】
好ましくは、前記化学的除去は、アルミニウムを塩化第二鉄に少なくとも4分間さらすことにより、以下の反応を起こさせることにより実施される。
Al+FeCl3→AlCl3+Fe
【0132】
塩化第二鉄による化学的除去は、必然的にアルミニウムの凝固後に行われなければならない。塩化第二鉄は315℃で沸騰するため、溶融アルミニウムと接触させることはできない。好ましくは、前記化学的除去は、前記急冷のステップの後に行われる。
【0133】
フェロアルミネーションに言及する方法の前記ステップは、従って、耐摩耗性および耐腐食性が向上したブレーキバンド、ひいてはブレーキディスクを得ることを可能にする。
【0134】
金属間鉄-アルミニウム化合物層は、鉄とアルミニウムとの間の複数の金属間化合物、特にFe3Al、FeAl、FeAl2、FeAl3およびFe2Al5から構成され得ることは注目に値する。優勢な金属間化合物相は、熱力学的に安定なFeAl3である。
【0135】
一実施形態によれば、本方法は、ブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方とベース層30との間、および/またはブレーキバンドの2つのブレーキ面2a,2bの一方と中間層300との間、および/またはベース層30と表面保護被膜3との間、および/または中間層300とベース層30との間に、補助フェライト-軟窒化層および補助フェロアルミネート層を堆積させることを含む。
【0136】
上記の説明から理解されるように、本発明によるブレーキディスクは、従来技術で導入された欠点を克服することを可能にする。
【0137】
ニッケルの含有量が低減された、あるいは完全にニッケルを含まない鋼のベース層と鋳鉄バンドとの組み合わせにより、本発明によるブレーキディスク1は、使用中にニッケル粒子が生成および放出される傾向が実質的にない。
【0138】
更に、特に有利な変形例によれば、炭化物を含むか又は炭化物で被覆された表面保護被膜3を追加することにより、耐摩耗特性を向上させ、ベース層の鋼中のニッケルの不足を補うこともでき、適切で増大した機械的強度を提供することもできる。
【0139】
特に有利な態様では、全くニッケルを含まない鋼と、10%-15%のクロム(Cr)と、多くとも1%のケイ素(Si)と、多くとも4%のマンガン(Mn)と、0.16%-0.5%の炭素(C)と、好ましくは0.16%-0.25%の炭素(C)と、残部の鉄(Fe)とからなるベース層30により、高温での使用中に脆性が少なく、同時に十分な防錆コーティングを有するニッケルを含まないマルテンサイト鋼を製造することができる。さらに、このような有利な側面は、鋼に含まれる炭化物の割合を少なくする可能性と相乗的に組み合わされるため、適切な被覆硬度を維持しながら、製造に必要な資源を削減することができる。
【0140】
有利なことに、好ましくはニッケルを含まないベース層30は、表面保護被膜3の機械的な「クッション」機能(摩耗防止)も果たす。実際、ベース層30は、使用時にディスクにかかる応力を少なくとも部分的に減衰させる弾性挙動を示す。したがって、ベース層30は、ディスクと表面保護被膜3との間で、一種のダンパーまたはクッションとして機能する。これにより、2つの部品間の応力の直接伝達が防止され、表面保護被膜3に亀裂が生じる危険性も低減される。
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【国際調査報告】