IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニの特許一覧

特表2025-501759動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法
<>
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図1
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図2
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図3
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図4
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図5
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図6
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図7
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図8
  • 特表-動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-23
(54)【発明の名称】動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 17/22 20060101AFI20250116BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20250116BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20250116BHJP
【FI】
B60T17/22 Z
G06T7/00 610Z
F16D66/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538141
(86)(22)【出願日】2022-12-19
(85)【翻訳文提出日】2024-08-16
(86)【国際出願番号】 IB2022062454
(87)【国際公開番号】W WO2023119111
(87)【国際公開日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】102021000032399
(32)【優先日】2021-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.MATLAB
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】アリオリ,フランチェスカ
(72)【発明者】
【氏名】ベネッティ,ダニーロ
(72)【発明者】
【氏名】チェルッティ,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】グリッリ,ピエトロ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】マルマッサーリ,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ネポーテ,ニコロ
(72)【発明者】
【氏名】ロッジア,ルイージ
(72)【発明者】
【氏名】スカルペッリーニ,ディエゴ
【テーマコード(参考)】
3D049
3J058
5L096
【Fターム(参考)】
3D049BB26
3D049HH47
3D049HH48
3D049HH51
3D049QQ04
3D049RR06
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA62
3J058BA32
3J058CB11
3J058DB25
3J058FA01
5L096BA03
5L096CA02
5L096DA01
(57)【要約】
動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報をコンピュータ処理によって検出する方法である。コンピュータ処理によって、動的な動作条件下におけるブレーキディスク表面の温度変化に関する情報、及び/又はホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの位置/分布に関する情報を自動的に検出する方法は、複数のデジタル画像及び/又はデジタルビデオを取得するステップと、デジタル画像及び/又はデジタルビデオの各フレームの表現をマトリックスデータの形式で取得するステップと、このマトリックスデータに基づいて、画像解析又は「コンピュータビジョン」アルゴリズムからなるアルゴリズムによる処理を実行し、ブレーキディスクの表面の関心領域上の温度変化に関する情報、及び/又はホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの位置/分布に関する情報を取得して提供するステップを備える。取得ステップは、少なくとも1つの熱探知カメラによって、前記の動的動作条件の変化中に、熱特性評価されるブレーキディスクの少なくとも1つの関心領域の複数のデジタル画像及び/又は複数のデジタルビデオフレームからなるデジタルビデオを取得することを含む。このようなデジタル画像及び/又はデジタルビデオフレームの各々は、カラーマップによって、各ポイントで検出された温度を描写する。処理ステップは、取得された複数のデジタル画像及び/又はデジタルビデオフレームの解析に基づいてマスクを生成することによって関心領域を特定するステップと、次に、生成されたマスクを取得されたデジタル画像及び/又はデジタルビデオフレームの各々に適用し、関心領域に関連する処理済みマトリックスデータを取得するステップと、次に、解析領域を定義し、定義された解析領域に関連するデータに対して熱解析を実行し、各関心ポイントにおける温度変化に関する情報を取得するステップと、最後に、各関心ポイントにおける温度変化に関する情報に基づいてホットポイントを特定するステップを含む。提供するステップは、得られた情報をデジタル画像又はグラフィック及び/又はデジタルテーブル及び/又はデジタルビデオの形態で提供することを含む。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動的動作条件下で、ブレーキディスクの表面上の温度変化に関する情報、及び/又は、ブレーキディスクの表面上のホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの位置/分布に関する情報を、コンピュータ処理によって自動的に検出するための方法であって、
少なくとも1つの熱探知カメラによって、熱特性評価される前記ブレーキディスクの少なくとも1つの関心領域の複数のデジタル画像及び/又は複数のデジタルビデオフレームを含むデジタルビデオを取得するステップであって、前記複数のデジタル画像及び/又は前記デジタルビデオフレームの各々はカラーマップによって各ポイントで検出された温度を描写し、前記取得するステップが動的な動作条件の変化中に実行される、取得するステップと、
前記複数のデジタル画像及び/又は前記複数のデジタルビデオフレームのそれぞれの表現をマトリックスデータの形式で獲得する、獲得するステップと、
前記複数のデジタル画像又は複数のデジタルビデオフレームを、画像解析アルゴリズム又はコンピュータビジョンアルゴリズムを含むアルゴリズムによって処理し、温度変化に関する情報、及び/又は、前記ブレーキディスクの表面の前記関心領域上のホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの位置/分布に関する情報を獲得する、処理するステップと、
獲得された前記情報をデジタル画像又はグラフィック及び/又はデジタルテーブル及び/又はデジタルビデオの形態で提供する、提供するステップと、
前記処理するステップは、
取得された複数のデジタル画像及び/又は取得された複数のデジタルビデオフレームの解析に基づいてマスクを生成することによって前記関心領域を特定する、特定するステップと、
生成された前記マスクを、取得された前記デジタル画像及び/又は取得された前記デジタルビデオフレームのそれぞれに適用し、前記関心領域に関連する処理済みマトリックスデータを取得する、適用するステップと、
解析領域を定義する、定義するステップと、
定義された前記解析領域に関連するデータに対して熱解析を実行し、各関心点における温度変化に関する情報を取得する、取得するステップと、
前記各関心点の温度変化に関する前記情報に基づいてホットスポットを特定する、特定するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記関心領域が前記ブレーキディスクの少なくとも1つのブレーキバンドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記関心領域が、前記ブレーキディスクの2つのそれぞれの側面に、互いに対応する2つのブレーキバンドを含み、
前記取得するステップが、少なくとも2つの前記熱探知カメラによって、前記複数のデジタル画像及び/又は前記複数のデジタルビデオフレームを、関心のある各ブレーキバンドについて1つずつ取得することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記関心領域が、前記ブレーキディスクの2つのそれぞれの側表面に、互いに対応する2つのブレーキバンドを含み、
前記取得するステップが、熱探知カメラと少なくとも1つのミラーとによって、複数のデジタル画像及び/又は複数のデジタルビデオを取得することを含み、
前記熱探知カメラが、一方のブレーキバンドの関心部分の前記デジタル画像及び/又は前記デジタルビデオを直接取得し、
さらに、前記熱探知カメラが配置されている場所に関して、前記ブレーキディスクの反対側の側面に配置された、他方のブレーキバンドの関心部分の前記デジタル画像及び/又は前記デジタルビデオの、少なくとも1つのミラーによって提供される反射を取得する、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記関心領域が、前記ブレーキディスクの1つ又は複数のブレーキバンドの部分を含む、請求項1、3-4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記動作条件が、少なくとも1つのブレーキイベント又はブレーキテストを含む、請求項1-5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記動作条件が、少なくとも1つのブレーキディスクベンチテストを含み、前記ブレーキディスクベンチテストが複数のブレーキテストイベントを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
運転条件が、ブレーキディスクベンチで行われる複数の試験を含み、
前記複数の試験に属して一連の試験で行われる試験が、前記複数の試験を行うオペレータによって選択可能である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記複数の試験のそれぞれは、複数の試験ブレーキイベントを含み、
前記試験ブレーキイベントは、前記ブレーキディスクの各側面における解析を含み、
前記ブレーキディスクの各側面における解析は、前記各側面について撮影された前記複数のデジタルビデオフレームの各フレームに関する解析を含み、
前記各フレームに関する解析は、前記関心領域のそれぞれの部分を描写する前記デジタルビデオフレームの一部に関する解析を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記方法の一部のステップは、前記複数の試験のすべての試験で共通であり、
前記方法のその他のステップは、前記各フレーム又は一組の所定のフレーム部分のそれぞれについて個別に実施され、かつ、各試験、各ブレーキ動作、前記ブレーキディスクの各側面、前記各フレーム、及び前記各フレームの一部について、入れ子構造で試験全体に拡張される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
マスクを生成することによって前記関心領域を特定し、生成された前記マスクを、取得された前記複数のデジタル画像及び/又は前記複数のデジタルビデオフレームの各々に適用する前記ステップが、コンピュータによって、解析のために有意であるとみなされた一組のデジタル画像又はデジタルビデオフレームを処理するステップを含み、
有意とみなされた前記デジタル画像又は前記デジタルビデオフレームについて、前記処理するステップは、
負の温度を、又は、所定の低温閾値より低い温度を、低い値又はゼロの値にするステップと、
前記デジタル画像又は前記デジタルビデオフレームにフィルタを適用してノイズを低減するステップと、
前記デジタル画像又は前記デジタルビデオフレームに大津セグメンテーションを適用するステップと、
時間軸上でピクセルごとに平均化し、平均化されたデジタル画像又は平均化されたデジタルビデオフレームを取得するステップと、
前記平均化されたデジタル画像又は前記平均化されたデジタルビデオフレームに大津セグメンテーションを適用し、セグメント化されたデジタル画像又はセグメント化されたセグメント化されたデジタルビデオフレームを得るステップと、
エッジ認識アルゴリズムによって前記ブレーキディスクのエッジを認識し、前記セグメント化されたデジタル画像又は前記セグメント化されたデジタルビデオから前記エッジを除去するステップと、
画像クリーニングアルゴリズムにより前記マスクをリファインして、精製し、最終的に処理済みデジタル画像又は処理済みデジタルビデオを得る、リファインするステップを含む、請求項1-10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記処理済みマトリックスデータを得るステップが、前記デジタルビデオフレームを形成する行列のインデックスに関連するデカルト座標を極座標系に変換することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複数の試験のそれぞれが複数のブレーキイベントを含む場合、解析のために有意であるとみなされる前記一組のデジタル画像又はデジタルビデオフレームは、前記試験の最後のN個のブレーキイベントであって、前記ブレーキディスクが最高温度に達し、それにより前記画像の冷たい背景に対してより視認されるN個のイベントから取得されたデジタル画像又はデジタルビデオフレームを含み、
前記エッジ認識アルゴリズムは、前記認識ステップにおいて、ソーベルエッジ検出アルゴリズムを含み、
前記画像クリーニングアルゴリズムは、前記リファインするステップにおいて、画像上の汚れ及び/又は小さな隙間及び/又は小さな物体を除去する機能を実行するように構成された二値画像モルフォロジーアルゴリズムを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記解析領域を定義する前記定義するステップは、
解析される前記ブレーキディスクの前記ブレーキバンドを、1つの内側サブゾーン、1つの中央サブゾーン、および1つの外側サブゾーンの3つの等しいサブゾーンに分割するステップであって、各サブゾーンは解析されることを意図している、ステップ;
又は
オペレータが、コマンドインターフェースを用いて、前記デジタルビデオフレーム化されたブレーキバンドの2つの部分の各々について、前記解析領域を定義するように適合された少なくとも1つの設定パラメータを設定するステップであって、前記少なくとも1つの設定パラメータは、
(i)前記解析の前記関心バンドの角度幅と;
(ii)前記1つの内側サブゾーン、前記1つの中央サブゾーン及び前記1つの外側サブゾーンの3つの前記サブゾーンを画定するように適合された前記ブレーキバンド上の内側半径及び外側半径の値であって、各サブゾーンは解析されることを意図している値とを含み、
前記デジタル画像又は前記デジタルビデオフレームの各画素は、前記解析領域に属するか否かを示すためにマークされ、属する場合は、どの解析サブゾーンに属するかを示す、請求項1-13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
定義された前記解析領域に関連するデータに対して熱解析を実行し、各関心点における温度変化に関する情報を取得する、取得するステップと、前記各関心点の温度変化に関する前記情報に基づいてホットスポットを特定する、特定するステップとが、
前記解析領域の平均温度よりも所定のパーセンタイルだけ高い温度を有する解析領域の任意の領域を潜在的ホットスポットとして特定するステップと、
前記潜在的ホットスポットのそれぞれについて重心の座標を計算するステップと、
前記潜在的ホットスポットの1つ又は複数の有効性要件を検証し、前記1つ又は複数の有効性要件を満たす潜在的ホットスポットのみをホットスポットとして特定するステップとを含み、
前記一つ又は複数の有効性要件が、
(a)前記潜在的ホットスポットの面積が最小ホットスポット面積閾値より大きいこと、
(b)前記潜在的ホットスポットの前記重心が、平均温度が、前記解析の対象のブレーキバンドの温度分布よりも所定のパーセンタイルだけ小さいか、又は前記分布の中央値温度よりも小さい場合に冷間と定義される領域以外の非冷間ゾーンにあること、
(c)前記潜在的なホットスポットの面積が、最大ホットスポット面積閾値より小さいこと、
(d)2つのホットスポットの前記重心の半径座標間の距離が所定の距離閾値より大きいことで、そうでなければ、前記2つのホットスポットは一つと見なされ、面積が大きい方の情報が保存されること、を含む、請求項1-14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
各領域内の前記温度変化を計算するステップと、
前記温度変化が予め設定された温度変化の限界値以内である場合、前記ゾーン上のバンドの存在を認識するステップとを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
温度変化に関する前記情報、及び/又は、ブレーキディスクの表面の関心領域上のホットスポット及び/又は帯域及び/又はゾーンの位置/分布に関する前記情報は、識別されたホットスポットの各々について、前記ホットスポットが発見された位置及び/又は領域及び/又はバンド及び前記デジタルビデオフレームに関する情報、並びに/又は前記情報が関係するブレーキイベント及び/又は試験を特定するメタデータを含む、請求項1-16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記ブレーキディスクの表面の前記関心領域上の温度変化に関する前記情報、及び/又はホットスポット及び/又はバンド及び/又は領域の位置/分布に関する前記情報を提供する前記ステップが、
前記ホットスポット認識の出力を表示するステップ、及び/又は
前記ホットスポットの総数又は領域ごとの数の時間推移を表示すること、及び/又は
各フレームについて、全体的に、又は領域に分割して、ディスクの両面のそれぞれについて、ホットバンドの有無に関するデータを表示すること、及び/又は
オリジナルのデジタルビデオフレームの再精巧化されたバージョンを表示すること、及び/又は
ビデオを再作成するように、前記アルゴリズムの出力に基づいて再精巧化されたデジタルビデオフレームを集約すること、を含む請求項1-17のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータ処理によって、動的動作条件下におけるブレーキディスク表面の熱情報を自動的に検出するための方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、動的なベンチテスト中に、車両ブレーキシステム用のブレーキディスクの表面上の温度変化に関する情報、及び/又はホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの位置/分布に関する情報を自動的に検出するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ブレーキ時に発生する熱の放散は、ブレーキシステムの性能評価において最も重要な問題の1つである。
【0004】
ブレーキディスクの場合、摩擦部材(パッドとブレーキ面)で発生した熱はディスクに熱ひずみを引き起こし、機械要素間の局所的な接触領域とサーマルホットスポットの発生につながる可能性がある。ホットスポットは、高い熱勾配によって特徴付けられるブレーキバンドの領域である。
【0005】
ブレーキ時のサーマルホットスポットの形成は、いくつかの悪影響をもたらす可能性がある。
【0006】
材料の観点からは、サーマルホットスポットの存在による熱機械応力が、塑性変形変動を伴う牽引および圧縮応力サイクルを誘発することが実証されている。
【0007】
サーマルホットスポットの存在は、ディスク表面のクラックの出現と進展にも影響する。
【0008】
最後に、ドライビングの観点から、ブレーキシステム内の高温がブレーキ性能を悪化させ、「フェージング」又は「ホットジャダー」現象、すなわち望ましくない低周波振動を誘発することが知られている。
【0009】
ブレーキディスクを適切に特性評価するためにも、ブレーキディスク自体の設計を改善するための示唆を得るためにも、動的条件下におけるブレーキディスクのサーマルホットスポット現象を解析することは極めて重要である。
【0010】
現在、ホットスポット現象を研究するための標準的な手順は、ダイナモメーターテストベンチ上でブレーキシステムをテストすることである。例えば、サーモグラフィを備えた試験装置によって、温度情報を代表する画像を取得できるように、実験セットアップがベンチ上に設けられている。
【0011】
各試験では、動作パラメータに関して事前に定義された一連のブレーキ動作が適用され、各ブレーキ動作で取得されたフレームを順番に組み合わせてビデオを形成することができる。
【0012】
しかしながら、ディスク上の温度分布と、例えば変形や振動の発生といった複雑な物理現象との間の関係を解析するためには、現在知られている試験ツールで提供されている標準的な解析ツールは、少なくとも部分的に欠けているか、又は不適当である。
【0013】
実際、現在入手可能な公知の赤外線サーモグラフィ用の標準ソフトウェアでは、いくつかの情報を自動的に抽出することは可能であるが、そのような情報は、上記の解析を満足のいく方法で実行するには十分ではない。
【0014】
このため、この分野の先行技術では、ホットスポット、コールドゾーン、ホットバンド、すなわち、周囲と比較して高温の円形クラウンなどの温度分布の不均一性に関する情報を記録するために、赤外線サーマルカメラから提供されたビデオを専門のオペレータが個別に目視検査することが規定されている。これらの特徴から、その数、大きさ、および温度値に関連する測定基準が記録される。
【0015】
この既知の情報抽出手順は、取得されたビデオを資格のあるオペレータが個別にスクリーニングする必要があるため、非常に時間がかかる。
【0016】
さらに、このような手順は、通常、オペレータのバイアスの影響を受け、あまり客観的でなく、再現性の低い結果をもたらす。
【0017】
上記で開示したように、動的な動作条件下におけるブレーキディスクのサーマルホットスポットに関連する情報の検出および解析の領域では、多くのニーズが依然として満たされておらず、現在までに知られている解決策では十分に効果的な解決策が提供されていない。
【発明の概要】
【0018】
したがって、本発明は、動的動作条件下におけるブレーキディスクに関連する熱情報を検出および解析するための方法に向けられている。
【従来の技術】
【0019】
特に、本発明の目的は、コンピュータ処理によって、動的動作条件下におけるブレーキディスクの表面上の温度変化に関する情報、及び/又はホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの局在化/分布に関する情報を自動的に検出するための方法を提供することであり、これにより、従来技術を参照して上記で訴えた欠点を少なくとも部分的に回避することができ、考慮される技術分野において特に感じられる前述のニーズに応えることができる。このような目的は、請求項1に記載の方法によって達成される。
【0020】
このような方法のさらなる実施形態は、請求項2-18に定義される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明による方法のさらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して、非限定的な指示として与えられる、好ましい実施形態の以下の説明から明らかになる。
【0022】
図1図1は、本発明の方法の実施形態で提供される、デジタル画像/ビデオ取得ステップで得られるフレーミングの例を示す。
【0023】
図2図2は、本発明による方法の実施形態に含まれるステップの簡略化された流れ図を示す。
【0024】
図3図3は、本発明による方法の実施形態において実行される解析の階層を示す。
【0025】
図4図4は、本発明による方法の実施形態で構成されるマスク定義手順で提供される、異なる画像処理ステップを示す。
【0026】
図5図5は、実施形態による、図2の「データ準備」ブロックに含まれるステップの簡略化されたフロー図である。
【0027】
図6図6は、本発明による方法の実施形態による、ホットスポットの検索および検証のための入力パラメータの設定例を示す。
【0028】
図7図7は、実施オプションによる、図2の"温度解析 "ブロックに含まれるステップの簡略化された流れ図を示す。
【0029】
図8図8および図9はそれぞれ、本発明による方法のそれぞれの実施形態において出力として提供される、再精巧化されたビデオおよび接続されたフレームを有する折れ線グラフを示す。
図9図8および図9はそれぞれ、本発明による方法のそれぞれの実施形態において出力として提供される、再精巧化されたビデオおよび接続されたフレームを有する折れ線グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1-9を参照して、動的な動作条件下で、温度変化に関する情報、及び/又はブレーキディスクの表面上のホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの位置/分布に関する情報を、コンピュータ処理によって自動的に検出する方法を説明する。
【0031】
本方法は、複数のデジタル画像及び/又はデジタルビデオを取得するステップと、デジタル画像及び/又はデジタルビデオの各フレームの表現をマトリックスデータの形で取得するステップと、画像解析又は「コンピュータビジョン」アルゴリズムからなるアルゴリズムによって処理を実行するステップと、温度変化に関する情報、及び/又はブレーキディスクの表面の関心領域上のホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの位置/分布に関する情報を取得し、次に提供するステップとを含む。
【0032】
前述の取得ステップは、少なくとも1つの赤外線カメラを使用して、前述の動的動作条件の変化中に、熱特性評価されるブレーキディスクの少なくとも1つの関心領域の複数のデジタル画像及び/又は複数のデジタルビデオフレームからなるデジタルビデオを取得することからなる。このようなデジタル画像及び/又はデジタルビデオフレームの各々は、カラーマップによって、各点で検出された温度を描写する。
【0033】
前述の処理ステップは、取得された複数のデジタル画像及び/又はデジタルビデオフレームの解析に基づいてマスクを生成することにより、関心領域を特定するステップと、次に、生成されたマスクを、取得されたデジタル画像及び/又はデジタルビデオフレームのそれぞれに適用し、関心領域に関連する処理済みマトリックスデータを取得するステップと、次に、解析領域を定義し、定義された解析領域に関連するデータに対して熱解析を実行し、各関心点の温度変化に関する情報を取得するステップと、最後に、各関心点の温度変化に関する前記情報に基づいてホットポイントを特定するステップと、を含む。
【0034】
前記提供するステップは、得られた情報をデジタル画像又はグラフィックス及び/又はデジタルテーブル及び/又はデジタルビデオの形態で提供することを含む。
【0035】
本方法の一実施形態によれば、前記関心領域は、ディスクの少なくとも1つのブレーキバンドからなる。
【0036】
本方法の別の実施形態によれば、前述の関心領域は、ブレーキディスクの2つのそれぞれの側面の互いに対応する2つのブレーキバンドを含む。
【0037】
この場合、前述の取得ステップは、各注目ブレーキバンドに対して1つずつ、少なくとも2つの赤外線カメラによって複数のデジタル画像及び/又はデジタルビデオを取得することを含む。
【0038】
本方法の別の実施形態によれば、前述の関心領域は、ブレーキディスクの2つのそれぞれの側部表面上の互いに対応する2つのブレーキバンドを含む。
【0039】
この場合、前述の取得ステップは、熱探知カメラと少なくとも1つのミラーとを用いて、複数のデジタル画像及び/又はデジタルビデオを取得することからなり、熱探知カメラは、一方のブレーキバンドの関心部分のデジタル画像及び/又はデジタルビデオを直接取得し、さらに、熱探知カメラが配置されている場所に関してブレーキディスクの反対側の側表面上に位置する他方のブレーキバンドの関心部分のデジタル画像及び/又はデジタルビデオの、少なくとも1つのミラーによる反射を取得する。
【0040】
本方法の一実施形態によれば、前述の関心領域は、ブレーキディスクの1つ又は複数のブレーキバンドの部分から構成される。
【0041】
本方法の実施態様によれば、前述の動作条件は、少なくとも1つのブレーキイベント又はブレーキテストを含む。
【0042】
実施オプションによれば、前述の動作条件は、少なくとも1つのブレーキディスクベンチ試験からなり、各試験は複数のブレーキテストイベントを含む。
【0043】
本方法の実施オプションによれば、前述の運転条件は、ブレーキディスクベンチで実施される複数の試験を含み、このような複数の試験に属する、一連の試験で実施される試験は、試験を監督するオペレータによって選択可能である。
【0044】
本方法の一実施態様によれば、各試験は複数の試験ブレーキイベントを含み、各試験ブレーキイベントは順にブレーキディスクの各側面上の解析を有し、ブレーキディスク側面上の各解析は順に、そのような側面上でキャプチャされるデジタルビデオの各フレームに対する解析を含み、各フレーム解析は順に、関心領域のそれぞれの部分を描写するフレームの一部分上の解析を含む。
【0045】
ある実施態様によれば、本方法の幾つかのステップは、前述した複数の検査の全ての検査に共通であるが、他のステップは、各フレーム又は一組の予め定義されたフレーム部分の各々に対して個別に実施される。個別に実施されるそのようなステップは、次に、各試験について、各ブレーキ動作について、ブレーキ側の各側面について、各フレームについて、および各所定フレーム部分について、入れ子構造に従って試験全体に拡張される。
【0046】
本方法の一実施形態によれば、マスクを生成することによって関心領域を特定するステップと、生成されたマスクを取得されたデジタル画像及び/又はデジタルビデオフレームの各々に適用する前記ステップは、解析のために重要であるとみなされたデジタル画像又はデジタルビデオフレームのセットをコンピュータによって処理することを含む。
【0047】
このような処理ステップは、重要であるとみなされた各デジタル画像又はデジタル画像フレームについて、以下のステップを順次含む。
負の温度又は低い温度閾値(例えば10℃)より低い温度を低い値又はゼロ値(典型的には0)に強制するステップ;
デジタル画像又はビデオフレームにフィルタを適用してノイズを低減するステップ。
デジタル画像又はビデオフレームに大津セグメンテーションを適用するステップ。
時間軸上のピクセルごとに平均化し、それぞれの平均化デジタル画像又は平均化デジタルビデオフレームを得るステップ。
平均化されたデジタル画像又は平均化されたデジタルビデオフレームに大津セグメンテーションを適用し、セグメント化されたデジタル画像又はセグメント化されたデジタルビデオフレームを得るステップ。
エッジ認識アルゴリズムによってブレーキディスクのエッジを認識し、セグメント化されたデジタル画像又はセグメント化されたデジタルビデオからエッジを除去するステップ。
画像クリーニングアルゴリズムによってマスクをリファイン(改良)し、最終的に処理済みデジタル画像又は処理済みデジタルビデオを得るステップ。
【0048】
ある実施態様によれば、前述の処理されたデジタル画像又は処理されたデジタルビデオに対応する、得られたデジタルデータは、マトリックス形式で編成され、これにより、関心領域に関連する前述の処理されたマトリックスデータが得られる。
【0049】
実施形態に従って、処理されたマトリックスデータを得るステップは、フレームを形成する行列のインデックスに関連するデカルト座標を極座標系に変換することをさらに含む。
【0050】
実施オプションによれば、各試験が複数のブレーキイベントからなる場合、解析のために有意であるとみなされるデジタル画像又はデジタルビデオフレームのセットは、試験の最後のN(たとえば3)回のブレーキイベント、すなわちブレーキディスクが最高温度に達し、したがって画像の冷たい背景に対してより視認されるイベントから撮影されたデジタル画像又はデジタルビデオフレームから構成される。
【0051】
実施形態に従って、認識ステップにおいて、前述のエッジ認識アルゴリズムは、ソーベルエッジ検出アルゴリズムから構成される。
【0052】
実施形態に従って、前記画像クリーニングアルゴリズムは、リファインステップにおいて、画像上の汚れ及び/又は小さな隙間及び/又は小さな物体を除去する機能を実行するように構成されたバイナリ画像モルフォロジーアルゴリズムを含む。
【0053】
本方法の一実施形態によれば、解析領域を定義する前記ステップは、解析されるブレーキディスクのブレーキバンドを、1つの内側サブゾーン、1つの中央サブゾーン及び1つの外側サブゾーンの3つの等しいサブゾーンに分割することからなり、各サブゾーンは、個別に解析されることが意図されている。
【0054】
本方法の別の実施態様によれば、解析領域を定義する前記ステップは、オペレータがコマンドインターフェースを用いて、2つのフレーム化されたブレーキバンド部分の各々について、解析領域を定義するように適合された少なくとも1つの設定パラメータを設定することを含む。
【0055】
実施形態によれば、オペレータによって定義可能な設定パラメータは次のとおりである。
(i)解析対象帯域の角度幅;
(ii)解析対象の3つのサブゾーン(内側、中央、外側のサブゾーン)を画定するための、バンドの内側半径と外側半径の値。
【0056】
実施形態に従って、デジタル画像又はビデオフレームの各画素は、それが解析領域に属するか否かを示し、属する場合には、それがどの解析サブゾーンに属するかを示すようにマークされる。
【0057】
例えば、解析領域に含まれる各フレームの各画素には、その画素が属するゾーン(内側ゾーン、中央ゾーン又は外側ゾーン)を識別する1から3の間の番号が割り当てられる。)画素が解析領域から除外されている場合は、0が割り当てられる。
【0058】
本方法の一実施形態によれば、各関心点の温度変化に関する情報を得るために、定義された解析領域に関連するデータに対して熱解析を実行する前述のステップと、サーマルホットスポットを特定する前述のステップは、以下のステップを含む。
潜在的なサーマルホットスポットとして、解析領域自体の平均温度よりも所定のパーセンタイルで高い温度を有する解析領域の任意の領域を特定するステップ;
それぞれの潜在的なサーマルホットスポットについて、重心の座標を計算するステップ;
潜在的なサーマルホットスポットの1つ又は複数の有効性要件を検証し、前述の1つ又は複数の有効性要件を満たす潜在的なサーマルホットスポットのみをサーマルホットスポットとして特定するステップ。
【0059】
異なる実施オプションによれば、前記有効性要件は、以下に列挙する要件の1つ以上又は全てを含む。
a. 潜在的なサーマルホットスポットの面積が最小ホットスポット面積閾値より大きい。
b. 潜在的なサーマルホットスポットのバリセンターが,非冷間ゾーンにある。ここで,ゾーンは,その平均温度が,解析対象のブレーキバンド側の温度分布よりも所定のパーセンタイルだけ小さい場合,例えば,そのような分布の中央値温度よりも小さい場合に,冷間と定義される。
c. 潜在的なサーマルホットスポットの面積が,最大ホットスポット面積閾値未満である。
d. 2つのサーマルホットスポットの重心の半径座標間の距離が距離閾値より大きい。そうでない場合、2つのサーマルホットスポットは1つとみなされ、面積が大きい方の情報が保存される。
【0060】
実施形態によれば、本方法は、各ゾーン内部の温度変化を計算するステップと、前述の温度変化が温度変化の所定の限界値内にある場合に、考慮されるゾーン上のバンドの存在を認識するステップとをさらに含む。
【0061】
本方法の可能な実施形態によれば、ブレーキディスクの表面の関心領域上のホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの温度変化及び/又は局在化/分布に関する前述の情報は、識別されたサーマルホットスポットの各々について、位置(例えば、重心又は重心の幾何学的座標など)、及び/又は面積、及び/又はゾーン、及びホットスポットが発見されたフレームに関する情報、及び/又はそのような情報が参照するブレーキイベント及び/又は試験を識別するメタデータを含む。
【0062】
本方法の一実施形態によれば、ブレーキディスクの表面の関心領域上のホットスポット及び/又はバンド及び/又はゾーンの温度変化及び/又は位置/分布に関する情報を提供する前述のステップは、コンピュータインターフェースを介してデータを表示することを含む。
【0063】
様々な可能な実施形態によれば、このような表示ステップは、アルゴリズムの出力を表示すること、及び/又は、全体的に又はゾーン毎に分割された、サーマルホットスポットの数の時間推移を(例えば折れ線グラフによって)表示すること、及び/又は、全体的に又はゾーン毎に分割された各フレームについて、及びディスクの2つの側面の各々について、ホットバンドの有無に関するデータを表示することを含む。
【0064】
実施形態によれば、表示ステップは、元のデジタルビデオフレームの再処理されたバージョンを表示することも含む。
【0065】
例えば、デジタルビデオフレームは、同じフレーム内の95番目の温度パーセンタイルより上及び5番目の温度パーセンタイルより下の画素であって、同じブレーキバンドに属すると考えられる画素を強調して再着色され、又は、検出されたサーマルホットスポットの重心に対応する画素がデジタルビデオフレーム上にマークされる。
【0066】
実施形態によれば、表示ステップは、ビデオを再作成するために、アルゴリズムの出力に基づいて再処理されたデジタルビデオフレームを集約することをさらに含む。
【0067】
再び図1-9を参照して、本発明の特定の実施形態による、単に非限定的な例として、方法の更なる詳細を以下に示す。
【0068】
この例では、動的なベンチテスト中にサーモグラフィで取得したビデオから、ブレーキディスク表面の温度変化とホットスポットの分布に関する情報を自動的に抽出することができる「コンピュータビジョン」アルゴリズムを検討する。
【0069】
「赤外線カメラ」という用語は、フレームで囲まれた対象物から熱情報(例えば、赤外線を受信することによる温度検出)を検出し、熱情報が何らかの形で(例えば、カラーマップの形で)描写されたデジタル画像又はビデオを出力として提供することができるあらゆる電子的手段を示すことに留意されたい。
【0070】
この実施例は、テストベンチ試験を受けたブレーキディスクの熱情報を検出するためのプロセスに向けられている。
【0071】
このプロセスは、テストベンチ上のデータを取得するステップと、そのようなデータを処理するステップとの2つのステップを参照して以下に開示される。
【0072】
データ取得ステップに関して言えば、この実施例では、ブレーキシステムはテストベンチ上で試験され、そのテストベンチ上には実験的取得セットアップが設けられている。
【0073】
この実施例では、ディスクの2つのブレーキバンドの経時的な温度変化を、赤外線カメラとミラーを用いて記録する。サーモグラフィは、ブレーキバンドの一部を直接撮影し、ミラーの反射を通してディスクの反対側のブレーキバンドの一部を間接的に撮影するように配置される。
【0074】
この撮影はディスクが回転している間に行われ、赤外線サーモグラフィの撮影レートは、ブレーキ動作の全期間において、フレーミングされた回転ディスク部分が常に同じになるように設定される。この撮影ステップによって得られるフレーミングの例を図1に示す。
【0075】
各試験は、操作パラメータ(例えば、初速度および最終速度、ブレーキシステムの圧力又は車両の減速度、ブレーキ開始時のシステム温度)の観点から事前に定義された一連のブレーキ動作の適用を提供する。関連データは、ビデオフレームごとに1つずつ、それに応じて番号が付けられた異なるフレーム変数「Frame_00N」に格納される。各フレーム変数には、ある寸法(ビデオ高さ)×(ビデオ幅)を有するフロート配列が格納される。
【0076】
前述のように、本明細書において、フレーム又はデジタルビデオフレームという用語は、赤外線カメラのフレーミングに対応するデータのセットを示すために使用される。
【0077】
本明細書で開示される実施例では、各ブレーキ動作について取得されたフレームが順番に組み合わされてビデオを形成する。マトリックス形式のビデオ(そのような形式の例はMATLAB MATである)は、赤外線サーマルカメラの出力である。
【0078】
この例では、データはファイルシステム上にファイルとして保存され、フォルダに整理される。各フォルダは異なるテストを表し、異なるビデオファイルを含む。ファイルは、指定された試験のすべてのブレーキイベントのシーケンスにおける対応するブレーキイベントの位置として番号付けされる。
【0079】
取得ステップに続いてデータ処理ステップが行われ、その論理ステージは図 2に示されている。
【0080】
解析ユニットは各ステップで異なることがある。ある操作は各試験に対して一度だけ行われ、他の操作は各フレーム又はその部分に対して個別に行われ、各試験に対して、各ブレーキ動作に対して、ディスクの各側面に対して、各フレームに対して、各部分に対して(前述のように)というタイプの入れ子構造に従って試験全体に拡張される。
【0081】
この階層構造は図3に示されており、本書に記載された例と同様に、ブレーキバンドの3つの部分(内側、中央、外側)が各フレームについて分離されている。
【0082】
ユーザとの対話は、グラフィックユーザインタフェース(GUI)、例えば特別に開発されたGUIを有するソフトウェアアプリケーションによって行われる。
【0083】
最初のステップは、解析されるテストをユーザが選択することを含む。ソフトウェアアプリケーションは、選択されたテストに関連するすべてのブレーキ動作に関連するビデオを含むフォルダをユーザが選択することを可能にする。
【0084】
次のステップは、このアプリケーションにとって興味深い解析ゾーン、すなわちディスクのブレーキバンドに対応するマスクを生成することを含む。
【0085】
マスクを得るために、本方法のこの実施形態で使用されるアルゴリズムは以下の操作(図4)を実行する。
すなわち、それぞれの試験に対する入力として、最後の3つのブレーキ動作のビデオ(すなわち、ディスクが最高温度に達し、したがって、画像の冷たい背景に対してより視認性が高いもの)をとる。
各フレームにおいて、ある閾値(例えば10℃)より低いマイナス温度又は低い温度が、強制的に0値にする。
ノイズを減らすために、各フレームにフィルタが適用される(図4のボックス1)。
大津セグメンテーションが各フレームに適用される(図4のボックス2)。大津セグメンテーション(又は大津法)は、デジタル画像のヒストグラムを自動的に閾値処理するための、それ自体既知の方法である。
時間軸上のピクセルごとに平均化する(図4のボックス3)。
大津セグメンテーションを再び適用する(図4のボックス4)。
Sobel Edge Detection(それ自体既知のアルゴリズム)によりディスクのエッジの認識とその除去を行う(図4のボックス5)。
二値画像モルフォロジー(それ自体既知のアルゴリズム、例えば汚れ、小さな隙間、小さな物体の除去)によりマスクをリファインする(図4のボックス6)。
【0086】
この処理の下流で、オペレータは、アルゴリズムによって提案されたマスク案を受け入れるか、又は自分のニーズに基づいてさらに修正することができる。
【0087】
この比較は、GUI上でマスクと、ブレーキバンドが背景にはっきりと見えるテストのビデオフレームと、を重ね合わせることで可能になる。
【0088】
実施オプションでは、オペレータはGUIを通して以下のことが可能である。
1.マスクを拡大又は縮小する。
2.RANSACアルゴリズムによって図形内で識別された楕円との交点に基づいて、マスク内の2つの図形の輪郭を再定義する。
3.補間ベジェ曲線の制御点を操作することにより、マスクを完全に作り直す。
【0089】
通常、この操作はテスト全体に対して1回実行される。
【0090】
所望のマスクが定義されると、この実施形態では、実際の温度解析の準備として、いくつかのデータ処理操作が実行される。このような操作は図5に示されており、試験中の各ブレーキ動作の各フレームに対して実行される。
【0091】
最初に、ブレーキ動作の各フレームにマスクが適用される。次に、各フレームは自動的に2つの部分に分割され、それぞれがブレーキバンドの片側に関連し、それを完全に含む。カットはフレームの幅と長さの一方だけが変化するように行われる。さらに、カットのために定義される位置指標は1つだけである。ここからは、ブレーキバンドの両側に関連するフレームが並行して処理される。
【0092】
次のステップは、フレームを形成する行列のインデックスに関連するデカルト座標を、解析される対象物の形状からより自然な極座標系に変換することを含む。
【0093】
このステップの下流で、この実施例では、GUI(図6参照)を通して、フレーム化されたブレーキバンドの2つの部分のそれぞれについて、ユーザが以下のパラメータを宣言することが要求される。
【0094】
1.ユーザは、帯域幅がほぼ一定であるゾーンを選択するよう求められる。実際、テストベンチの寸法、あるいはブレーキキャリパーのみの寸法のため、目に見える角度帯域区間全体のフレームを得ることはほとんど不可能である。
【0095】
2.バンドの内側半径と外側半径の値。これらの2つの値は、バンド上の3つのゾーン(内側ゾーン、中央ゾーン、外側ゾーン)を定義し、それぞれで通常異なる熱パターンが観測される。バンドはデフォルトで3つの等しいゾーンに分割されているが、ユーザは映像で観察された状況に基づいてこれらの値を変更することができる。
【0096】
これらのパラメータが定義され保存されると、解析領域に含まれる各フレームの各画素に、その画素が属するゾーン(内側ゾーン、中央ゾーン、外側ゾーン)を識別する 1から3までの整数番号が割り当てられる。画素が解析領域から除外されている場合は、「0」が割り当てられる。
【0097】
次のステップは、試験中に発生した温度パターンを解析することである。各フレームのブレーキバンドに定義された3つのゾーンのそれぞれについて、以下の操作が実行される(図7に要約)。
【0098】
1.ホットスポット(又はサーマルホットスポット)探索。ホットスポットは、ゾーン自体の温度よりも一定のパーセンタイルで高い温度を持つ領域として定義される。
【0099】
2.各ホットスポットについて、重心の座標を計算する。
【0100】
3.有効性要件をチェックする。
【0101】
ディスク上の穴などによる小さなホットスポットを排除するため、各ホットスポットの面積に最小閾値を設定する。
【0102】
3b.非コールドゾーンに重心を持つホットスポットだけがホットスポットとして認識される。コールドゾーンとは、平均温度が解析対象のブレーキバンド側の温度分布よりもあるパーセンタイルだけ低いゾーン、例えばそのような分布の中央値温度よりも低いゾーンとして定義される。ホットスポットはどのゾーン上でも先験的に定義することができるので、この工夫がない場合、各ゾーンの最もホットなポイントは、コールドゾーンのものであってもホットスポットとして検出されることになり、これは避けなければならない。
【0103】
4.ブレンドされたホットスポットが存在しないことを確認する。
【0104】
4a.角度的にブレンドされたホットスポットのチェック。
【0105】
上記1で定義されたホットスポットが、実際には複数のホットスポットの接合によって形成され、非常に広範囲に及んでいることがある。この問題は、最大面積の閾値を較正することで解決される。
【0106】
上記ポイント1で特定されたホットスポットが閾値よりも大きな面積を持つ場合、そのゾーンに対して、上記ポイント1~3の操作が、ポイント1で選択されたパーセンタイルよりも高いパーセンタイルを検索に使用して、再度実行される。パーセンタイルが増加した処理データは保存され、広すぎるホットスポットが検出されたゾーンの角度部分において、前の処理のデータと置き換わる。
【0107】
4b.半径方向にブレンドされたホットスポットをチェックする。
【0108】
2つのホットスポットの重心の半径座標間の距離がある閾値より小さい場合、それらは1つのホットスポットとみなされ、より大きな面積を持つ初期の1つのホットスポットに関する情報が保存される。
【0109】
5.各ゾーン内の温度変化を計算し、その変化がある所定の限界値内にある場合、そのゾーン上にバンドが存在することを認識する。
【0110】
上述した動作フローの出力には、識別されたホットスポットについて、ブレーキ動作とテストに関す る識別メタデータに加えて、ホットスポットが発見された位置(バリセンターの幾何学的座標)、エリア、ゾーンとフレームに関する情報が含まれる。これらのデータは、異なるレベルで集計し、表形式でエクスポートすることができる。
【0111】
アプリケーション内では、アルゴリズムの出力を表示することが可能である。
【0112】
特に、ドロップダウン・メニューを通じて所望のブレーキ動作が選択されると、様々な表示がユーザに提供される。
【0113】
例えば、折れ線グラフによって、ホットスポットの数の時間推移を、合計又はゾーン別に表示することが可能である。さらに、GUI上のボタンにより、各フレームのホットバンドの有無に関するデータを全体的又はゾーン別に表示することが可能である。グラフはディスクの両面のそれぞれについて追跡することができる。
【0114】
さらに、元のフレームを再精巧化したものを表示することも可能である。特に、本明細書で説明する方法の実施形態では、少なくとも以下のオプションが利用可能である。
定義における何等かのエラー(例えば、ベンチレーションチャンバを含むエラー)を強調するために、同じフレーム内で95温度パーセンタイル以上の画素と5温度パーセンタイル未満の画素を強調表示によって再着色され、ブレーキバンドに属すると考えられるフレーム。
アルゴリズムによって検出されたホットスポットの重心に対応する画素がマークされたフレーム。
【0115】
アルゴリズムの出力に基づいて再解析されたフレームは、ビデオを再作成 するために集約される(図8参照)。
【0116】
最後に、個々のディスプレイを接続することが可能である。例えば、X軸上で選択されたフレームに対して、対応する再解析フレームを表示するように折れ線グラフを反応させることが可能である(図9参照)。この方法によって、ユーザは、アルゴリズムによって提案された解析結果について視覚的なフィードバックを得ることができる。
【0117】
グラフィックの出力は、表形式のものと同様に、ユーザ/オペレータがエクスポートして保存することができる。
【0118】
このように、先に示した本発明の目的は、上記で詳細に開示した特徴により、上述の方法によって完全に達成される。本発明による方法によって解決される利点及び技術的問題は、方法の様々な特徴及び態様を参照して、既に上述した。
【0119】
特に、上述した解決策により、動的条件下でディスクブレーキをフレーミングする赤外線カメラによって提供されるデータを、正確、迅速、客観的、再現可能かつ安価に解析することができる。
【0120】
偶発的なニーズを満たすために、当業者は、以下の特許請求の範囲から逸脱することなく、上述した方法の実施形態に変更および適合を加えることができ、又は機能的に同等である他の要素と置き換えることができる。可能な実施形態に属するものとして記載された各特徴は、記載された他の実施形態とは無関係に達成することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】