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特表2025-503046L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスターAu18(L-NIBC)14、その組成物及び利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-01-30
(54)【発明の名称】L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスターAu18(L-NIBC)14、その組成物及び利用
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20250123BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 27/06 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250123BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250123BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20250123BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20250123BHJP
【FI】
A61K33/242
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61P27/06
A61P1/16
A61P3/10
A61K9/10
A61K47/69
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543134
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(85)【翻訳文提出日】2024-09-18
(86)【国際出願番号】 CN2022073051
(87)【国際公開番号】W WO2023137672
(87)【国際公開日】2023-07-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519000526
【氏名又は名称】深▲セン▼深見医薬科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHENZHEN PROFOUND VIEW PHARMACEUTICAL TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 3311, Building 9A,District II,Shenzhen Bay Eco-Technology Park, No. 3609, Baishi Road, High-tech Zone Community, Yuehai Street, Nanshan District, Shenzhen, Guangdong 518000 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110003845
【氏名又は名称】弁理士法人籾井特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ 涛▲塁▼
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076CC01
4C076CC10
4C076CC16
4C076CC21
4C076CC41
4C076DD51
4C076FF36
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086HA28
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA21
4C086NA03
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA16
4C086ZA33
4C086ZA75
4C086ZC35
(57)【要約】
L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスターAu18(L-NIBC)14、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、又は緑内障の治療のためのその使用、及び多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、又は緑内障の治療用の医薬を製造するためのその使用。多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、又は緑内障を治療するための組成物及び方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスター分子であって、
金コアと、
前記金コアに結合されたリガンドL-NIBCと、
を含み、Au18(L-NIBC)14の式を有する、L-NIBC結合金クラスター分子。
【請求項2】
被験体における疾患の治療用の医薬の製造に使用するための、請求項1に記載のL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14
【請求項3】
前記疾患は、多発性硬化症である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記疾患は、アルツハイマー病(AD)である、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記疾患は、肝硬変である、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記疾患は、糖尿病である、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
前記疾患は、パーキンソン病(PD)である、請求項2に記載の使用。
【請求項8】
前記疾患は、緑内障である、請求項2に記載の使用。
【請求項9】
請求項1に記載のL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む組成物であって、被験体における疾患を治療するために使用される、組成物。
【請求項10】
前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14が前記組成物中の金クラスター分子の混合物中の成分として使用される場合、前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14は、前記混合物中の少なくとも7%のクロマトグラフィー含有量を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
前記疾患は、多発性硬化症である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項12】
前記疾患は、アルツハイマー病(AD)である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項13】
前記疾患は、肝硬変である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項14】
前記疾患は、糖尿病である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項15】
前記疾患は、パーキンソン病(PD)である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項16】
前記疾患は、緑内障である、請求項9又は10に記載の組成物。
【請求項17】
被験体における疾患を治療する方法であって、前記被験体に組成物を投与することを含み、ここで、前記組成物は、請求項1に記載のL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む、方法。
【請求項18】
前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14が前記組成物中の金クラスター分子の混合物中の成分として使用される場合、前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14は、前記混合物中の少なくとも7%のクロマトグラフィー含有量を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記疾患は、多発性硬化症である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
前記疾患は、アルツハイマー病(AD)である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項21】
前記疾患は、肝硬変である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項22】
前記疾患は、糖尿病である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項23】
前記疾患は、パーキンソン病(PD)である、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項24】
前記疾患は、緑内障である、請求項17又は18に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金クラスター(AuC)、特にL-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む組成物、様々な疾患の治療用の薬剤を調製するための金クラスター分子Au18(L-NIBC)14の使用、並びに金クラスター分子Au18(L-NIBC)14及び組成物を使用して様々な疾患を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金クラスター(AuC)とは、リガンド結合金コアを含み、金コアの直径が3nm未満である物質の一種を指す。金クラスターはエネルギー準位の分裂により分子のような特性を示すため、金クラスター内の各金クラスター分子は分子式によって表すことができる。しかしながら、金クラスターでは、金クラスター分子の金原子の数は2から1000にまで及ぶ場合があり、リガンドの数も1から1000にまで及ぶ場合がある。状況を更に複雑にしているのは、金クラスターが同数の金原子を有するとしても、リガンドの種類及び調製条件によってリガンドの数が変動することである。したがって、同じリガンド結合金クラスター内に存在する可能性のある、特定の数の金原子と特定の数のリガンドとを有する金クラスター分子については不明なままである。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14、被験体における疾患の治療に使用するためのL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む組成物、及びL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を用いて被験体における疾患を治療する方法を提供する。
【0004】
或る特定の実施の形態において、本発明は、L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスター分子であって、金コアと金コアに結合されたリガンドL-NIBCとを含み、Au18(L-NIBC)14の式を有する、L-NIBC結合金クラスター分子を提供する。
【0005】
或る特定の実施の形態において、本発明は、被験体における疾患の治療用の医薬の製造に使用するためのL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を提供する。或る特定の実施の形態において、疾患としては、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、及び緑内障が挙げられる。
【0006】
或る特定の実施の形態において、本発明は、被験体における疾患の治療用の組成物であって、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む、組成物を提供する。或る特定の実施の形態において、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14が組成物中の金クラスター分子の混合物中の成分として使用される場合、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14は、混合物中の少なくとも7%のクロマトグラフィー含有量を有する。或る特定の実施の形態において、疾患としては、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、及び緑内障が挙げられる。
【0007】
或る特定の実施の形態において、本発明は、被験体における疾患を治療する方法であって、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む組成物を被験体に投与することを含み、疾患が多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、2型糖尿病、パーキンソン病(PD)、及び緑内障からなる群から選択される疾患である、方法を提供する。
【0008】
本発明の目的及び利点は、添付の図面と関連した本発明の好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0009】
次に、本発明による好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。図面において、同様の参照符号は同様の要素を示す。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】S8(Au18(L-NIBC)14)のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)及び質量スペクトルを示す図である。図1AはS8(Au18(L-NIBC)14)のSECを示し、図1BはS8(Au18(L-NIBC)14)のESI質量スペクトル(広範囲)を示し、図1C図1Fは様々な質量電荷比(M/z)を有する質量スペクトルピークを増幅した後に表示された質量スペクトル同位体ピークを示し、ここで、図1Cにおいて、z=-2、図1Dにおいて、z=-3、図1Eにおいて、z=-4、図1Fにおいて、z=-5である。
図2】S8(Au18(L-NIBC)14)の典型的なUV-Vis吸収スペクトルを示す図である。
図3】S8(Au18(L-NIBC)14)の赤外吸収スペクトル(上のスペクトル)及びリガンドL-NIBCの赤外吸収スペクトル(下のスペクトル)を示す図である。
図4】初期水溶液のpH値の変化に伴う水相及び油相におけるS8薬物の分布の変化を示す図である。
図5】EAEモデル薬物試験の行動臨床スコアを示す図である。
図6-1】EAEマウスモデルにおけるHE染色実験の結果を示す図である。図6Aは、例示的な薬物投与群の組織学的スコアの統計結果であり、ここで、###:ブランクコントロール群との比較(P<0.001)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、図6B図6Fは、ブランクコントロール群、モデルコントロール群、S1薬物投与群、S8薬物投与群、及びS9薬物投与群のそれぞれの例示的な画像である。
図6-2】図6-1に続く図である。
図7】EAEモデル薬物試験におけるS8薬物、S9薬物、及びS9+S8薬物の行動臨床スコアを示す図である。
図8-1】S1、S2、S8、及びS9の180日間連続の薬物投与が雄マウスのモリス水迷路試験におけるパフォーマンスに対して及ぼす効果を示す図である。図8Aは位置ナビゲーション実験(positioning navigation experiment)の訓練中のプラットフォーム探索潜時を示し、図8Bはプラットフォーム横断回数を示し、図8Cは標的象限での水泳距離を示し、図8Dは標的象限での滞在時間を示し、ここで、#:正常ブランクコントロール群との比較(P<0.05)、##:正常ブランクコントロール群との比較(P<0.01)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)。
図8-2】図8-1に続く図である。
図9】APP/PS1二重トランスジェニックADモデルマウスの海馬内及び皮質内のAβ1-40プラークの形成に対する様々な金クラスター薬物の効果を示す図である。ここで、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、$:S9薬物投与群との比較(P<0.05)。
図10-1】5xFADトランスジェニックマウスモデルにおける脳内Aβプラーク形成に対する薬物の効果を示す図である。図10Aは大脳皮質内のAβプラーク数を示し、図10Bは海馬領域内のAβプラーク数を示し、図10Cはモデルコントロール群におけるマウスの大脳皮質内のAβプラークの例示的な画像を示し、図10DはS8薬物投与群におけるマウスの大脳皮質内のAβプラークの例示的な画像を示し、図10Eはモデルコントロール群におけるマウスの海馬内のAβプラークの例示的な画像を示し、図10FはS8薬物投与群におけるマウスの海馬内のAβプラークの例示的な画像を示し、ここで、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、$:S9薬物投与群との比較(P<0.05)。
図10-2】図10-1に続く図である。
図11-1】5xFADトランスジェニックADモデルマウスの脳皮質内及び海馬領域内のIba1陽性細胞及びGFAP細胞の数に対する薬物の効果を示す図である。図11Aは脳皮質内のIba1陽性細胞の数を示し、図11Bは海馬内のIba1陽性細胞の数を示し、図11Cは脳皮質内のGFAP陽性細胞の数を示し、図11Dは海馬内のGFAP陽性細胞の数を示し、ここで、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、$:S9との比較(P<0.05)。
図11-2】図11-1に続く図である。
図12-1】CClでモデリングする肝硬変モデルマウスにおける血清指標に対する薬物の効果を示す図である。図12AはALTの血清レベルを示し、図12BはASTの血清レベルを示し、図12CはTBILの血清レベルを示し、図12DはMAOの血清レベルを示し、図12EはALBの血清レベルを示し、ここで、#:ブランクコントロール群との比較(P<0.05)、##:ブランクコントロール群との比較(P<0.01)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、$:S9薬物投与群との比較(P<0.05)。
図12-2】図12-1に続く図である。
図12-3】図12-2に続く図である。
図13-1】様々な薬物が投与されたCClでモデリングする肝硬変モデルマウスの肝臓組織の例示的なHE染色画像及び病理学的スコアを示す図である。図13Aはブランクコントロール群を示し、図13Bはモデルコントロール群を示し、図13CはS1薬物投与群を示し、図13DはS8薬物投与群を示し、図13EはS9薬物投与群を示し、図13Fは病理学的スコアを示し、ここで、###:ブランクコントロール群との比較(P<0.001)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、$:S9薬物投与群との比較(P<0.05)。
図13-2】図13-1に続く図である。
図14】マウス糖尿病モデルにおける同時にモデリング及び薬物投与を行うプロトコルIからの空腹時血糖値及び耐糖能レベルの結果を示す図である。図14Aは空腹時血糖値を示し、図14Bは胃内ブドウ糖投与後の様々な時点での耐糖能レベルを示し、ここで、##:ブランクコントロール群との比較(P<0.01)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)。
図15】モデリング後に薬物を様々な様式で投与するプロトコルIIからの空腹時血糖及び耐糖能の結果を示す図である。図15Aは急性薬物投与後の耐糖能の結果を示し、図15Bは1ヶ月連続の薬物投与後の空腹時血糖の結果を示し、図15Cは2ヶ月連続の薬物投与後の空腹時血糖の結果を示し、図15Dは2ヶ月連続の薬物投与後の耐糖能の結果を示し、ここで、#:ブランクコントロール群との比較(P<0.05)、##:ブランクコントロール群との比較(P<0.01)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、$:S9薬物投与群との比較(P<0.05)。
図16-1】同時にモデリング及び薬物投与を行うプロトコルIからのインスリン免疫組織化学の結果を示す図である。図16Aはブランクコントロール群の例示的な画像を示し、図16Bはモデルコントロール群の例示的な画像を示し、図16CはS8薬物投与群の例示的な画像を示し、図16Dは平均光学密度を示し、ここで、#:ブランクコントロール群との比較(P<0.05)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、図16Eは、ブランクコントロール群のHE染色の例示的な画像を示し、図16Fは、モデルコントロール群のHE染色の例示的な画像を示し、図16Gは、S2薬物投与群のHE染色の例示的な画像を示す。
図16-2】図16-1に続く図である。
図17-1】MPTP損傷誘発PDモデルマウスの行動に対する薬物の効果の結果を示す図である。図17Aは移動距離を示し、図17Bは移動速度を示し、図17Cは水泳距離を示し、図17Dは水泳時間を示し、図17Eは落下潜時を示し、図17Fは落下率を示し、ここで、#:ブランクコントロール群との比較(P<0.05)、##:ブランクコントロール群との比較(P<0.01)、###:ブランクコントロール群との比較(P<0.001)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、***:モデルコントロール群との比較(P<0.001)、$:S9薬物投与群との比較(P<0.05)。
図17-2】図17-1に続く図である。
図17-3】図17-2に続く図である。
図18】MPTP損傷誘発PDモデルにおけるマウス脳内線条体内のTH発現に対する薬物の効果のWB試験結果を示す図である。ここで、##:ブランクコントロール群との比較(P<0.01)、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、***:モデルコントロール群との比較(P<0.001)、$:S9薬物投与群との比較(P<0.05)。
図19-1】虚血再灌流動物モデルにおけるラットERG DA3.0及びDA10.0に対する様々な薬物の効果を示す図である。図19Aはモデリング後の7日目(D8)でのモデルコントロール群におけるラットの左眼(正常な眼)(右パネル)及び右眼(モデリングする眼)(左パネル)での例示的なERG(DA3.0)を示し、図19B及び図19Cはそれぞれ各群におけるラットの右眼での全視野ERG DA3.0及びDA10.0のb波振幅の結果を示し、図19Dは投与後の7日目(D8)でのS8薬物投与群におけるラットの左眼(正常な眼)(右パネル)及び右眼(モデリング及び薬物投与する眼)(左パネル)での例示的なERG DA3.0を示し、ここで、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、**:モデルコントロール群との比較(P<0.01)、$:S9薬物投与群との比較。
図19-2】図19-1に続く図である。
図20】虚血再灌流モデリング及び薬物投与によって誘発された眼底の病理学的変化をトルイジンブルーにより超薄切片を染色することによって示す図である。図20Aは病理学的スコアの結果を示し、図20Bはブランクコントロールとしての左眼の例示的な画像を示し、図20Cはモデルコントロール群における右眼の例示的な画像を示し、図20DはS8薬物投与群における右眼の例示的な画像を示し、ここで、###:ブランクコントロール群との比較、:モデルコントロール群との比較(P<0.05)、***:モデルコントロール群との比較(P<0.001)、$:S9薬物投与群との比較。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、本発明の或る特定の実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって、より容易に理解され得る。
【0012】
本出願全体を通じて、出版物が参照される場合、本発明の属する技術水準をより完全に説明するのに、これらの出版物の開示内容は、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0013】
本明細書において使用される場合、「投与」とは、被験体への、経口(「po」)投与、坐剤としての投与、局所接触、静脈内(「iv」)投与、腹腔内(「ip」)投与、筋肉内(「im」)投与、病巣内投与、海馬内投与、脳室内投与、鼻内投与、若しくは皮下(「sc」)投与、又は徐放性デバイス、例えばミニ浸透圧ポンプ若しくは侵食性インプラントの埋め込みを意味する。投与は、非経口及び経粘膜(例えば、経口、経鼻、膣内、直腸内、又は経皮)を含むあらゆる経路によって行われる。非経口投与としては、例えば、静脈内、筋肉内、細動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、及び頭蓋内が挙げられる。その他の送達方式としては、限定されるものではないが、リポソーム製剤、静脈内注入、経皮パッチ等の使用が挙げられる。
【0014】
「全身投与」及び「全身投与される」という用語は、化合物又は組成物が循環系を介して薬学的作用の標的部位を含む体内の部位に送達されるように、化合物又は組成物を哺乳動物に投与する方法を指す。全身投与としては、限定されるものではないが、経口投与、鼻内投与、直腸内投与、及び非経口投与(すなわち、筋肉内、静脈内、動脈内、経皮、及び皮下等の消化管を介する以外)が挙げられるが、但し、本明細書において使用される場合、全身投与には、髄腔内注射及び頭蓋内投与等の循環系を経由する以外の手段による脳領域への直接投与は含まれない。
【0015】
本明細書において使用される場合、「治療する」及び「治療」という用語は、その用語が適用される疾患若しくは病態、又はそのような疾患若しくは病態の1つ以上の症状のいずれかの発症を遅らせ、進行を遅滞若しくは退行させ、又は緩和若しくは予防することを指す。
【0016】
「患者」、「被験体」、又は「個体」という用語は、哺乳動物、例えばヒト、又は霊長類(例えば、マカク、パン・トログロダイト(pan troglodyte)、ポンゴ)、飼い慣らされた哺乳動物(例えば、ネコ、イヌ)、農業哺乳動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ)、及び実験用哺乳動物若しくは齧歯類(例えば、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、モルモット)を含む非ヒト哺乳動物を区別なく指す。
【0017】
本発明は、L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスター分子を提供する。L-NIBC結合金クラスター分子は、金コアと、金コアに結合されたリガンドL-NIBCとを含む。L-NIBC結合金クラスター分子は、Au18(L-NIBC)14の式を有する。
【0018】
本発明は、被験体における疾患の治療に使用するためのL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を提供する。疾患としては、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、及び緑内障が挙げられる。
【0019】
本発明は、被験体における疾患の治療に使用するための組成物を提供する。疾患としては、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、及び緑内障が挙げられる。
【0020】
本発明は、組成物を被験体に投与することによる、被験体における疾患を治療する方法を提供する。疾患としては、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、及び緑内障が挙げられる。
【0021】
或る特定の実施形態において、組成物は、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む。
【0022】
或る特定の実施形態において、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14が組成物における金クラスター分子の混合物中の成分として使用される場合、混合物中のL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14は、少なくとも7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、21%、22%、23%、24%、25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、41%、42%、43%、44%、45%、46%、47%、48%、49%、50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のクロマトグラフィー含有量を有する。
【0023】
或る特定の実施形態において、組成物は薬学的に許容可能な添加剤を更に含む。或る特定の実施形態において、添加剤はリン酸緩衝溶液又は生理学的食塩水である。
【0024】
本発明は、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、又は緑内障の治療用の薬剤を製造するための、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14の使用を提供する。
【0025】
或る特定の実施形態において、L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14の投薬量は、少なくとも0.001mg/kg/日、0.005mg/kg/日、0.01mg/kg/日、0.05mg/kg/日、0.1mg/kg/日、0.5mg/kg/日、1mg/kg/日、2mg/kg/日、3mg/kg/日、4mg/kg/日、5mg/kg/日、6mg/kg/日、7mg/kg/日、8mg/kg/日、9mg/kg/日、10mg/kg/日、15mg/kg/日、20mg/kg/日、30mg/kg/日、40mg/kg/日、50mg/kg/日、60mg/kg/日、70mg/kg/日、80mg/kg/日、100mg/kg/日、200mg/kg/日、300mg/kg/日、400mg/kg/日、500mg/kg/日、600mg/kg/日、700mg/kg/日、800mg/kg/日、900mg/kg/日、又は1000mg/kg/日である。各疾患について有効な投薬量を日常的な臨床試験によって突き止めることができる。
【0026】
以下の実施例は本発明の原理を説明することのみを目的として提供されており、これらは決して本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0027】
実施形態
実施形態1.試料の調製
1.1.プロトコルI
氷浴及び撹拌の条件下で、塩化金酸の含有量が5gである2500mlの塩化金酸の無水メタノール溶液を反応器に加えた後、500mlの酢酸を加えた。十分に冷却した後、L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)の含有量が36gである500mlのL-NIBCのメタノール溶液を加えた。60分間反応させた後、NaBHの含有量が40gである1500mlのNaBHのエタノール溶液を撹拌しながら加えた。このとき、溶液は素早く褐色がかった黒色に変わり、大量のガスが発生することとなる。30分間反応させた後、5000mlのアセトンを加えて反応を止めたところ、生成物が沈殿した。遠心分離機で遠心分離した後、下方の沈殿物を採取し、上方の上清を捨てた。遠心分離により得られた沈殿物を500mlの超純水中に溶解し、室温25℃及び中性条件下で7日間寝かせた。次いで、500ダルトンの保持分子量を有する透析バッグを用いて超純水中で透析し、毎日水を交換した。7日後、透析バッグをほどき、バッグ内の溶液を収集した。収集した溶液を凍結乾燥して金クラスター粗生成物を得た。
【0028】
金クラスター粗生成物は、様々な分子式を有する多くの金クラスター分子を含み得るが、金クラスター粗生成物中に実際にどのような金クラスター分子が含まれているかは全く分からない。金クラスター粗生成物中の特定の金クラスター分子の実際の含有量又はその治療効果に関しては知る方法がなく、これらの未知の要因が金クラスター粗生成物の創薬可能性及び新薬適用に大きな困難をもたらす。したがって、金クラスター粗生成物中に含まれる様々な成分を分離する必要がある。この目的のために、上記の金クラスター粗生成物を水中に溶解し、分取クロマトグラフィーによって分離し、異なる保持時間を有する画分を流出時間に応じて収集した。各画分をそれぞれ500ダルトンの透析バッグを用いて透析し、凍結乾燥後に一連の金クラスター試料を得た。幾つかの試料を選択し、各試料中の主成分の分子式を超高分解能磁気共鳴質量分析法(Bruker Daltonics、Solarix 7.0T ESI)と他の方法とを組み合わせることによって決定した。それらの分子式は以下の通りである:
試料1(S1):主成分としてAu25(L-NIBC)18
試料2(S2):主成分としてAu(L-NIBC)
試料3(S3):主成分としてAu(L-NIBC)
試料4(S4):主成分としてAu10(L-NIBC)
試料5(S5):主成分としてAu(L-NIBC)
試料6(S6):主成分としてAu11(L-NIBC)
試料7(S7):主成分としてAu13(L-NIBC)
試料8(S8):主成分としてAu18(L-NIBC)14
比較の便宜上、金クラスターの粗生成物を実験に含め、以下のように指定した:
試料9(S9):金クラスター粗生成物の3つのバッチの混合物。
【0029】
1.2.プロトコルII
氷浴及び撹拌の条件下で、塩化金酸の含有量が5グラムである1300mlの塩化金酸の無水メタノール溶液を反応器に加えた後、200mlの酢酸を加え、L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)の含有量が12グラムである300mlのL-NIBCのメタノール溶液を加え、1mlの超純水を加え、撹拌しながら30分間反応させた後、NaBHの含有量が18グラムである500mlのNaBHのメタノール溶液を加え、このとき、溶液は素早く褐色がかった黒色に変わり、大量のガスが発生することとなり、30分間反応させた後、3000mlのアセトンを加えて反応を止めたところ、生成物が沈殿した。遠心分離機で遠心分離した後、下方の沈殿物を採取し、上方の上清を捨てた。遠心分離により得られた沈殿物を500mlの超純水中に溶解し、酸性条件下で25℃にて7日間寝かせた。遠心分離後に沈殿物を捨てた。次いで、500ダルトンの保持分子量を有する透析バッグを用いて弱酸性水中で上清を透析し、毎日水を交換した。7日後、透析バッグをほどき、バッグ内の溶液を収集した。収集した溶液を凍結乾燥して金クラスター粗生成物を得た。試料中の主成分の分画及び分子式の決定を上記1.1のプロトコルIに記載されるように実施した。この結果により、Au18(L-NIBC)14が検出されないことが明らかとなった。
【0030】
実施形態2.S8(Au18(L-NIBC)14)の特性評価
分子式Au18(L-NIBC)14は、超高分解能質量分析法によって与えられたS8の典型的な分子式である。L-NIBCにはカルボキシル基が存在するため、異なる溶液又は溶媒中では、pH値の違い及び溶液又は溶媒中の金属カチオン又は他のカチオンの存在により、異なる数の水素イオンが対応する金属カチオン又は他のカチオンによって置き換えられる可能性がある。
【0031】
図1は、S8(Au18(L-NIBC)14)のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)及び質量スペクトルを示している。図1Aに示されるように、S8(Au18(L-NIBC)14)のSECスペクトルにより最大99.54%の純度が明らかとなる。図1Bは、S8(Au18(L-NIBC)14)の大規模ESI質量スペクトルを示し、スペクトルが非常にきれいであることを示していることから、これは不純物が殆どないことを示している。図1C図1Fは、様々な質量電荷比(M/z)を有するS8(Au18(L-NIBC)14)の質量スペクトル同位体ピークを示している。
【0032】
図2は、S8(Au18(L-NIBC)14)の典型的なUV-Vis吸収スペクトルを示している。図2に示されるように、500nm~700nmの範囲に明らかな吸収ピークが存在する。
【0033】
図3は、S8(Au18(L-NIBC)14)の赤外吸収スペクトル(上のスペクトル)及びリガンドL-NIBCの赤外吸収スペクトル(下のスペクトル)を示している。2500cm-1付近に位置するリガンドL-NIBCのチオール基(-SH)の吸収特性ピークはS8ではもはや見えないのに対し(ボックス内に示される)、他の官能基の特性吸収ピークは依然として存在していることが見て取れることから、これは、S8におけるリガンドL-NIBCがチオール基を介して金原子に結合していることを示している。
【0034】
様々なpH値を有する水溶液中のS8薬物の親水性特性/親油性特性を調べるのに、10mgのS8薬物を10mlの様々なpH値を有する水溶液中に溶解し(超純水に5MのHClを加えてそのpH値を1~7の範囲に調整し、特定のpH値をpHメーターにより測定し、測定されたpH値を初期水溶液のpH値として定義する)、次いで、10mlのn-オクタノールをそれぞれ水溶液の上部に加え、水溶液及びn-オクタノールを振盪により完全に混合し、次いで、n-オクタノール相及び水相が2層に分離するまで静置した。上方のn-オクタノール相及び下方の水相中の金の重量比濃度(ppm)をグラファイト炉原子吸光光度計により測定し、脂質-水分配係数Pを式(1):
logP=log(Co/Cw)(1)
(式中、Co及びCwはそれぞれ油相中及び水相中のS8薬物の濃度を表す)に従って計算した。
【0035】
図4に示されるように、初期水溶液の高いpH値(例えば、pH>3.4)で、S8薬物は主に水相中に溶解するが、n-オクタノール相中の含有量は非常に低く、その脂質-水分配係数は-2未満である(P<0.01)。しかしながら、初期水溶液がpH3.4を下回ると、pH値の低下に伴って水相中の含有量は急速に減少するのに対し、n-オクタノール相中の含有量は急激に増加する。初期水溶液のpH値が3.0に減少すると、脂質-水分配係数は約1に達し(P=9.7)、初期水溶液のpH値が2.8であるとき、脂質-水分配係数は1.31に達する(P=20.5)。S8薬物は、初期水溶液のpH値の非常に狭い範囲内で親水性特性/親油性特性の大幅な逆転に至ったことが見て取れる(上記の点線の中央領域に示される通り)。これらの特性は従来の薬物とは大幅に異なっており、これは臨床応用に向けた薬物の製剤設計において大きな意義を有し得る。
【0036】
実施形態3.多発性硬化症の動物実験(実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)モデル)
3.1.EAEモデル実験
7週齢~9週齢のC57BL/6N雌マウス。動物を規則に準拠して飼育及び維持した。
【0037】
0日目に、マウスを体重別に無作為に群分けした後、完全フロイントアジュバント(CFA)(Hooke Laboratories)中の200μlのミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)ペプチドを右脇腹及び左脇腹に1部位当たり100μlずつ皮下注射した。百日咳毒素(PTX)を、MOG免疫化の0時間後及び48時間後に腹腔内注射した。上記のAuC試料をそれぞれ表1に従って1日目から28日目にかけて与えた。動物(n=10)をEAEの臨床徴候について毎日スコアリングした。
【0038】
ヘマトキシリン・エオシン染色(HE)は、組織及び細胞について最も一般的に使用される染色法の1つである。ヘマトキシリン染色溶液は核に対して高い親和性を有し、核を青く染め、エオシン染色溶液は細胞質に対して高い親和性を有し、細胞質をピンク色又は赤色に染める。各群から3匹のマウスを選び、組織を-80℃の冷凍庫で凍結し、組織切片のために凍結組織を取り出し、凍結スライサー(ボックス温度、-20℃)に入れて15分間平衡させた。組織切片は10μmであった。
【0039】
HE染色は次の通りである。行動試験の後、マウスに麻酔をかけ、心臓に灌流し、次いでマウスの脳を摘出し、4%のパラホルムアルデヒドで固定した。勾配脱水後、凍結した冠状切片を接着用スライドで貼り付けた。脳スライスを貼り付けたスライドをオーブンに37℃で15分間入れ、スライドをヘマトキシリン染色溶液で8分間染色し、余分な染料を水道水で10分間洗い流し、スライドを精製水で数秒間すすぎ、スライドを分化溶液(differentiation solution)で30秒間分化し(任意)、水道水で10分間すすぎ、次いで、スライドをエオシンで1分間染色し、水道水で10分間、70%のエタノールで10秒間、80%のエタノールで10秒間、90%のエタノールで10秒間、100%のエタノールで10秒間、キシレンで5分間、新たなキシレンで5分間すすぎ、中性ガムシールで密封したところ、顕微鏡観察により核が青色であり、細胞質がピンク色であることが明らかとなった。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
3.2.結果及び分析
図5は、S1、S2、S8、及び金クラスター粗生成物S9によって表される薬物投与群におけるEAEモデルマウスの行動臨床スコアの試験結果を示している。図5に示されるように、S1(Au25(L-NIBC)18)薬物及びS2(Au(L-NIBC))薬物は、EAEモデルマウスの行動臨床スコアを有意に改善しなかった。しかしながら、S8(Au18(L-NIBC)14)薬物群における全てのマウスは、最初の13日間は正常マウスとほぼ同じであり、14日目から行動臨床スコアの弱い増加を示し、実験期間全体において行動臨床スコアは1未満であった。モデル群のマウスと比較すると、大きな改善が見られた(9日目から、P<0.001)ことから、これは、S8薬物がMOG薬物によって引き起こされたマウスの行動障害の抑制に対して魅力的な効果を有したことを示している。S8薬物群と比較すると、S9(金クラスター粗生成物)薬物投与群だけが19日目までモデルコントロール群に対して有意差を示し(P<0.05)、行動臨床スコアの最高点は2点を上回り、一方、フォローアップ投与においてスコアは急速に改善し、22日目からは1点未満に減少したが、S9薬物の治癒効果はS8薬物の治癒効果よりも有意に低いことが依然として示された。他の5つの薬物(S3~S7)の試験結果はS1及びS2の結果と同様であり、明らかな薬力学的効果は見られなかったため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。
【0043】
図6-1および図6-2は、HE染色の試験結果を示している。EAE動物モデルにおいて、多数の免疫細胞が骨髄に侵入することになる。免疫細胞の骨髄への侵入をHE染色により確認することができる。図6Aは、例示的な薬物投与群の組織学的スコアの統計結果を示している。図6Aに示されるように、S8薬物はEAEモデリングによって引き起こされる組織学的スコアの増加を有意に減らすことができ(P<0.01、**)、また、S9(金クラスター粗生成物)薬物の投与もスコアを有意に減らすことができる(P<0.05、)が、S8薬物よりも有意に有効性が低く、S1及びS2は明らかな効果を有しない。薬物S3~薬物S7は薬物S1及び薬物S2と同様であり、明らかな効果がないため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。図6B図6Fは、それぞれブランクコントロール群、モデルコントロール群、S1投与群、S8投与群、及びS9投与群の例示的なHE染色画像である。モデルコントロール群においては、ボックス内に示されるように、多数の免疫細胞が骨髄に侵入した(図6C)のに対し、ブランクコントロール群のマウスにおいては、このような現象は見られなかった(図6B)ことが見て取れる。図6Dは、S1薬物投与群の例示的なHE染色画像であり、ボックス内に示されるように、モデルコントロール群マウスと同様に多数の免疫細胞の侵入を確認することができる。S8薬物投与(図6E)は、骨髄への免疫細胞の侵入を大幅に減少させることができ、免疫細胞の浸潤が殆ど見えないことから、これは効果が優れていることを示している。S9薬物投与群は特定の治療効果を有するが、骨髄中に或る程度の免疫細胞侵入を依然として確認することができた(図6F)。S1と同様に、S2~S7は免疫細胞の骨髄への侵入を有意に抑制しなかった。これらの結果は図5に示される行動結果と一致している。
【0044】
上記の結果により、S8薬物(Au18(L-NIBC)14)がEAEモデルマウスの脳内炎症及び行動臨床スコアを有意に改善することができ、この実験において他の薬物と比較して明らかな利点を有することが実証される。S8薬物の効果はS9(金クラスター粗生成物)薬物よりも優れている。したがって、S8薬物は多発性硬化症及びその他の免疫関連疾患において幅広い適用の見込みがある。
【0045】
金クラスター分子Au18(L-NIBC)14が独特な効力を示したため、S9試料(金クラスター粗生成物)中のAu18(L-NIBC)14の含有量を検出した。クロマトグラフィーの結果(検出波長220nm)によると、Au18(L-NIBC)14クロマトグラフィーピークの純度は面積百分率法によって2.8%と計算された。研究により、金クラスター粗生成物中のAu18(L-NIBC)14のクロマトグラフィー含有量は、調製方法、調製条件、及び調製バッチの影響により変動することが明らかになった。本研究のプロトコルIの調製方法及び調製条件下では、Au18(L-NIBC)14のクロマトグラフィー含有量は様々な調製バッチに応じて1%~4%の範囲内であった。
【0046】
S9薬物(金クラスター粗生成物)の効力がS8薬物の効力よりも有意に低いという事実は、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14の含有量が試料の効力に影響を与える重要な要因の1つであることを示している。この点を更に調べるのに、S9薬物(金クラスター粗生成物)に様々な量のS8薬物を加えて、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14のクロマトグラフィー含有量が各S9+S8薬物において異なるように一連のS9+S8薬物を取得し、次いで、EAEモデルを用いて試験した。この結果により、S9+S8薬物中の金クラスター分子Au18(L-NIBC)14のクロマトグラフィー含有量が7%に達するか又はそれを超えると、そのような薬物は大きな効力を示すことが明らかになったことから、これは、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14の7%以上のクロマトグラフィー含有量を有するL-NIBC-AuC生成物はMSの治療に有効であることを示している。
【0047】
図7は、S8薬物、S9薬物、及びS9+S2混合薬物のEAEモデル薬物試験の行動臨床スコアを示しており、ここで、S9+S2混合薬物中の金クラスター分子Au18(L-NIBC)14のクロマトグラフィー含有量は約21%であった。金クラスター粗生成物S9に少量のS8を加えると、EAEモデルマウスに対する治療効果が有意に増加し、S8と殆ど変わらないことが見て取れる。
【0048】
実施形態4.アルツハイマー病(AD)動物モデル実験
4.1.APP/PS1二重トランスジェニックADモデルマウスの実験
4.1.1.方法
雄C57BL/6生殖系列APP/PS1トランスジェニックADモデルマウスを、モデルコントロール群、S1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、S4薬物投与群、S5薬物投与群、S6薬物投与群、S7薬物投与群、S8薬物投与群、及び金クラスター粗生成物S9薬物投与群へと無作為に分けた。同時に、同齢群のC57BL/6野生型マウスを正常コントロール群として設けた。各群には15匹のマウスが含まれていた。S1群、S2群、S3群、S4群、S5群、S6群、S7群、S8群、及びS9群に、対応する薬物の生理食塩水溶液を1日1回、マウス体重1kg当たり10mgの用量及び100μlの注射容量で腹腔内注射した。モデルコントロール群及び正常コントロール群におけるマウスに、同容量の生理食塩水を腹腔内注射した。
【0049】
マウスが3ヶ月齢になったとき、薬物投与を開始した。180日間連続の投与後、全ての動物の認知機能及び記憶機能をモリス水迷路試験によってアッセイした。
【0050】
位置ナビゲーション実験:モリス水迷路試験システムは、円形の水プールと自動ビデオ録画及び分析システムとからなっていた。水プールの上部にあるカメラはコンピューターに接続されていた。水迷路は、120cmの直径及び60cmの高さを有する円形の水プールと9cmの直径を有するプラットフォームとからなっていた。液面はプラットフォームよりも0.5cm高く、水温は22±0.5℃であった。白色顔料を使用して水を乳白色に染めた。位置ナビゲーション実験を使用して水迷路におけるマウスの学習能力及び記憶能力を測定し、これを5日間続けた。水迷路は東、西、南、及び北の4方向にある4つの象限に分かれていた。プラットフォームを固定した象限に配置した。実験全体を通して、プラットフォームの位置を固定した。訓練中、マウスを、様々な象限における1/2ラジアンから外壁近くでプールの壁に頭を向けた状態で静かに水に入れた。マウスが隠れたプラットフォームに登るのにかかった時間を記録するか、又は記録時間が60秒に達した時点で実験を止めた。マウスを、プラットフォームに登った後30秒間プラットフォーム上に留まらせた。マウスが60秒以内にプラットフォームを見つけることができなかった場合、実験者はマウスを誘導してプラットフォームに登らせ、30秒間プラットフォーム上に留まらせる。マウスのプラットフォーム探索の逃避潜時をカメラ追跡システムによって記録した。実験後、全てのマウスを別の場所に移し、ドライヤーによって優しく乾かした。各マウスを、訓練セッションの合間に20分の間隔を置いて5日間連続で1日4回訓練した。
【0051】
空間プローブ試験:5日目の訓練を終えた後、6日目にプラットフォームを取り外し、マウスをプラットフォームから最も遠い地点からプールの壁に向かって静かに水中に入れ、マウスの60秒間の移動軌道をカメラにより記録し、マウスがプラットフォームを横切った回数、標的象限における滞在時間、及び標的象限における水泳距離をソフトウェアにより分析した。
【0052】
実験結果はx±SEMにより表される。全てのデータをSPSSソフトウェア(SPSS 21)により処理し、事後ダネット検定により分析した。P<0.05は、差が統計的に有意であることを示す。クラスカル・ウォリスH検定及びマン・ホイットニーU検定を使用して、正規分布に属しないデータの統計分析を行った。
【0053】
行動試験後、7%の抱水クロラールの腹腔内注射によってマウスに麻酔をかけ、心臓灌流接続を確立し、生理食塩水を使用して7分間素早く流した後、組織を4%の抱水クロラールで7分間灌流させた。灌流後、脳組織を慎重に採集し、4%の灌流溶液中に入れ、後の使用に備えて室温で貯蔵した。免疫組織化学的方法を使用して、海馬内及び皮質内のAβ1-40の発現を検出した。灌流組織を脱水し、ヒアリン化し、ワックス処理して包埋し、パラフィンスライサーでスライスした。キシレン及び無水エタノールで段階的に脱ワックスする。マイクロ波による抗原修復後、切片を酸化水素とともにインキュベートし、切片を血清により30分間ブロッキングした。一次抗体(マウス抗Aβ1-40、1:100)を室温で加え、4℃で一晩(15時間)インキュベートした。一次抗体を捨て、切片をPBSで洗浄し、HRP標識ヤギ抗マウス二次抗体を加え、室温で30分間インキュベートした。スライスをPBSで洗浄した後、顕色剤DABを加えて発色させ、スライスをハリスヘマトキシリンにより対比染色し、脱水して密封した。蛍光顕微鏡を使用して写真を撮影し、Image Jを使用してスライスの定量分析を行った。
【0054】
4.1.2.結果
図8-1および図8-2は、180日間連続のS1、S2、S8、及びS9の薬物投与がモリス水迷路試験における雄マウスのパフォーマンスに対して及ぼす効果を示している。図8Aに示されるように、位置ナビゲーション実験の訓練中、正常コントロール群(ブランク)と比較して、モデルコントロール群(モデル)マウスのプラットフォーム探索潜時は、訓練2日目から5日目まで正常マウスよりも有意に長かった(P<0.05、#、P<0.01、##)。モデルコントロール群と比較して、S1薬物投与群及び金クラスター粗生成物S9薬物投与群のプラットフォーム探索潜時は明らかに減少し、4日目及び5日目に有意差を示した(P<0.05、)。S8薬物投与により、モデリングしたマウスにおけるプラットフォーム探索潜時の更により有意な減少がもたらされ、モデルコントロール群と比較して、2日目から5日目まで有意差が認められた(P<0.05、)。S9薬物投与群と比較して、S8薬物投与群のプラットフォーム探索潜時は3日目に有意に短かった(P<0.05、$)。これら全ての結果により、S8薬物の効果がS1薬物及び金クラスター粗生成物S9薬物の効果よりも良好であることが実証された。S2薬物投与群ではプラットフォーム探索潜時の明らかな減少は示されなかった。
【0055】
図8B図8Dに示されるように、空間プローブ試験の結果により、モデルコントロール群のマウスは、正常コントロール群のマウスと比較して、水泳距離(図8C)(P<0.01、##)及び標的象限での滞在時間(図8D)(P<0.05、#)の有意な減少を示し、より短いプラットフォーム横断時間を有意差なく示した(P>0.05)ことが明らかとなった。モデルコントロール群と比較して、S2薬物はマウスのプラットフォーム横断時間を増加させることができなかった(図8B)のに対し、S1薬物投与群、S2薬物投与群、及びS9薬物投与群におけるプラットフォーム横断時間は増加したが、いずれも有意差を示さなかった(P>0.05)。標的象限の水泳距離及び標的象限の滞在時間(図8C及び図8D)については、S1薬物、S8薬物、及びS9薬物はこれら2つの値を有意に改善することができ(P<0.05、)、ここで、S8薬物投与群の増加幅はS1薬物投与群及びS9薬物投与群の増加幅よりも大きい。しかしながら、S2薬物はこれら2つの値を有意に増加させることはできなかった。
【0056】
これらのデータにより、S1薬物、S8薬物、及び金クラスター粗生成物S9薬物は全てADモデルマウスの認知能力及び記憶能力を有意に改善し得るものの、S8薬物はS1薬物及びS9薬物よりも良好な治療効果を示したことが明らかとなる。S2薬物では明らかな効果は示されなかった。
【0057】
S3薬物~S7薬物を180日間連続で投与した結果はS2薬物の結果と同様である。モデルコントロール群と比較して、位置ナビゲーション実験の訓練中のプラットフォーム探索潜時、又はプラットフォーム横断時間、標的象限での水泳距離、及び空間プローブ試験における標的象限での滞在時間に明らかな増加は見られなかったことから、これは、S3薬物~S7薬物がADモデルマウスの認知能力及び記憶能力の改善に対して明らかな効果を示さなかったことを示している。
【0058】
免疫組織化学検査の結果により、S8金クラスター分子(Au18(L-NIBC)14)がAPP/PS1二重トランスジェニックADモデルマウスの脳内のAβ1-40線維性プラークの形成を有意に減少させ得ることが更に確認された。図9は、モデルコントロール群とS1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、又はS9薬物投与群との間の海馬内及び皮質内の平均光学密度値の観点からのAβ1-40プラーク数の比較を示している。図9に示されるように、S8薬物は、海馬内及び皮質内のAβ1-40プラークの数を有意に減少させることができ、モデルコントロール群と比較して、その減少は有意である(P<0.01、**)。金クラスター粗生成物S9も比較的良好な減少効果を示し、海馬内及び皮質内のAβ1-40プラークの数はモデルコントロール群の数よりも有意に低かった(P<0.05、)が、減少幅はS8薬物投与群よりも有意に低かった(P<0.05、$)。S1薬物投与群はS9薬物投与群と同様に脳内のAβ線維性プラークの数を減少させたが、減少幅はS8薬物投与群よりも有意に低かった。これらの結果により、S8薬物がAD脳内線維性プラークの減少に対して優れた効果を有し、S1薬物及び金クラスター粗生成物S9よりも優れていることが実証された。しかしながら、S2薬物は治療効果を示さなかった。S3薬物~S7薬物はS2薬物と同様に治療効果を示さないため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。
【0059】
4.2.五重トランスジェニック(five-transgenic)5xFAD ADモデルマウスの実験
従来のマウスモデル(上述のAPP/PS1二重トランスジェニックマウスモデル等)は、ADの病因及び治療薬の初期の探索及び研究に役立つ。しかしながら、ADの病原は複雑であるため、より徹底的な研究にはより適切な動物モデルが必要である。5xFADは比較的新しいAPP/PS1トランスジェニックADマウスモデルであり、これは5つの家族性遺伝子突然変異を有し、様々なAD関連の神経障害及び記憶機能不全を伴う。APP/PS1二重トランスジェニックマウスモデル及びその他のAD動物モデルと比較すると、神経病理学的病変の特性がより明白であるため、5xFADはますます広く認識されるようになった。
【0060】
4.2.1.方法
モデルマウスは、C57BL/6の背景を有する5xFAD雄マウスであった。実験用のマウスを、モデルコントロール群、S1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、S4薬物投与群、S5薬物投与群、S6薬物投与群、S7薬物投与群、S8薬物投与群、及び金クラスター粗生成物S9薬物投与群へと分けた。同時に、同齢群のC57BL/6野生型マウスを正常コントロール群として設けた。各群には15匹のマウスが含まれていた。薬物投与群におけるマウスに、対応する薬物の生理食塩水溶液を、マウス体重1kg当たり10mgの用量及び100μlの注射容量で1日1回腹腔内注射した。マウスが2ヶ月齢になったとき、薬物投与を開始した。モデルコントロール群及び正常コントロール群におけるマウスに、同容量の生理食塩水を薬物投与群の場合と同じスケジュールに従って腹腔内注射した。
【0061】
3ヶ月連続の薬物投与後、全ての動物の認知機能及び記憶機能をモリス水迷路試験によってアッセイした。
【0062】
空間学習能力の試験
モリス水迷路システムは、マウス水泳用の水迷路と自動ビデオ録画及び分析システムとからなる。水迷路の上部にあるカメラはコンピューターに接続されていた。水迷路は、110cmの直径及び60cmの高さを有する円形の水プールからなる。マウスの水泳訓練中は、水プール中の水を黒インクによって暗くし、水温を22±0.5℃に保つ。水迷路は北、南、西、及び東の象限に分けられている。9cmの直径を有するプラットフォームを固定した象限に配置する。プラットフォームは水面よりも0.5cm低い。
【0063】
マウスを訓練して、5日間にわたって水迷路内の隠れたプラットフォームについて学習させた。訓練中、マウスを様々な象限においてプールの壁に頭を向けた状態で静かに水に入れた。マウスが隠れたプラットフォームを見つけてそこに登るのにかかった時間を記録し、マウスをプラットフォームに登った後30秒間プラットフォーム上に留まらせた。マウスが60秒以内にプラットフォームを見つけることができなかった場合、訓練を止め、実験者はマウスを誘導してプラットフォームに登らせ、30秒間プラットフォームに留まらせた。マウスのプラットフォーム探索潜時をカメラ追跡システムによって記録した。実験後、全てのマウスを別の場所に移し、ドライヤーによって優しく乾かした。各マウスを、訓練セッションの合間に20分の間隔を置いて5日間連続で1日4回訓練した。
【0064】
空間記憶能力の試験(空間プローブ試験)
水泳訓練を5日後に完了した。6日目にプローブ試験を開始した。マウスをプラットフォームから最も遠い地点からプールの壁に向かって静かに水中に入れ、マウスの60秒間の移動軌道をビデオカメラにより記録し、マウスがプラットフォームを横切った回数、標的象限における滞在時間、及び標的象限における水泳距離をソフトウェアにより分析した。
【0065】
実験結果はx±SEMにより表される。全てのデータをSPSSソフトウェア(SPSS 21)により処理し、事後ダネット検定により分析した。P<0.05は、差が統計的に有意であることを示す。クラスカル・ウォリスH検定及びマン・ホイットニーU検定を使用して、正規分布に属しないデータの統計分析を行った。
【0066】
行動試験後に病理学的分析を行った。マウスをCOにより屠殺した後、心臓灌流接続を確立した。生理食塩水を使用して5分間~10分間素早く流した後、組織を4%のPFA中で一晩固定した。翌日、組織を脱水し、ヒアリン化し、ワックス処理してパラフィン中に包埋し、パラフィン包埋ブロックを形成して、パラフィンスライサーを用いてスライスした。スライスした後、スライスをキシレン及び無水エタノールで段階的に脱ワックスする。次いで、免疫組織化学的方法によりアミロイドプラーク、アストロサイト、及びミクログリアを検出した。マイクロ波による抗原修復後、切片を酸化水素とともにインキュベートし、切片を血清により30分間ブロッキングした。一次抗体(マウス抗Aβ42、1:100)、GFAP、及びIba1を室温で加えた。一次抗体を捨て、切片をPBSで洗浄し、HRP標識ヤギ抗マウス二次抗体を加え、室温で30分間インキュベートした。スライスをPBSで洗浄した後、顕色剤DABを加えて発色させ、スライスをハリスヘマトキシリンにより対比染色し、脱水して密封した。蛍光顕微鏡を使用して写真を撮影し、Image Jを使用してスライスの定量分析を行った。
【0067】
4.2.2.結果
行動研究の結果により、訓練の2日目から5日目までは、モデルコントロール群のマウスのプラットフォーム探索潜時は、正常コントロール群のマウスのプラットフォーム探索潜時よりも有意に長いことが明らかとなった。モデルコントロール群と比較して、S8薬物投与群のマウスのプラットフォーム探索潜時は有意に減少し、3日目からはモデルコントロール群と比較して有意差が見られた。S1薬物投与群及び金クラスター粗生成物S9薬物投与群では、モデルコントロール群と比較してプラットフォーム探索潜時の減少が示されたが、統計的に有意性ではなかった。S2薬物投与群~S7薬物投与群においては明らかな減少は観察されなかった。
【0068】
空間プローブ試験でも同様の結果が得られた。S8薬物は、プラットフォーム横断時間、標的象限における水泳距離、及び標的象限における滞在時間を有意に改善することができた。S1薬物投与群及び金クラスター粗生成物S9薬物投与群では若干の減少が示されたが、統計的に有意ではなかった。S2薬物投与群~S7薬物投与群では効果は示されなかった。
【0069】
図10-1および図10-2は、モデルコントロール群及び薬物投与群におけるマウスの脳内皮質内及び海馬内の線維性プラークのAβ42免疫化学染色結果を示している。図10A図10B図10C、及び図10Eに示されるように、モデルコントロール群のマウスにおいては5ヶ月齢で上記の領域に多数のAβプラークが現れた。モデルコントロール群と比較して、S9薬物投与群マウスの脳内皮質内及び海馬内のAβプラークの数は或る程度まで減少したが、有意差はなかった(P>0.05)。しかしながら、S8薬物は脳内皮質内及び海馬内のAβプラークの数を半分以上減少させた(P<0.01)ことから、これは、S8薬物が優れた治療効果を有し、その効果が金クラスター粗生成物S9の効果よりもはるかに良好であることを示している。また、金クラスター粗生成物S9薬物投与群とS8薬物投与群との間にも有意差が見られる(P<0.05、$)ことから、効果の違いが更に実証される。図10D及び図10Fはそれぞれ皮質及び海馬の免疫組織化学染色の例示的な画像を示している。S1薬物はS9薬物と同様の効果を示し、モデルコントロール群と比較して或る程度の減少が見られたが、有意差はなかった。S2薬物投与群はモデルコントロール群と比較して減少を示さなかったことから、これは効果がないことを示している。S3薬物投与群~S7薬物投与群はS2薬物投与群と同様に明らかな効果を有しなかった。
【0070】
脳内炎症はADの病原に関するもう一つの重要な仮説である。ミクログリア及びアストロサイトは神経炎症を引き起こす主な細胞である。Iba1及びGFAPはそれぞれミクログリア及びアストロサイトについてのマーカーである。これらのタンパク質の発現の増加は、ミクログリア及びアストロサイトの数の増加並びに細胞の活性化を示している。多くの研究により、ADマウスの脳内のIba1及びGFAの発現が大幅に増加していることが明らかにされている。これらの細胞の活性化により、インターロイキン(IL-1β、IL-6)、腫瘍壊死因子(TNF)、及び活性酸素種等のサイトカインの大量の産生がもたらされ、神経機能不全及び死が引き起こされる可能性がある。したがって、Iba1陽性(Iba1)細胞及びGFAP陽性(GFAP)細胞の数に対する薬物の効果を評価することで、脳内炎症関連プロセスに対する薬物の効果を示すことができる。
【0071】
図11-1および図11-2は、5xFADトランスジェニックADモデルマウスの脳内皮質内及び海馬領域内のIba1陽性細胞及びGFAP細胞の数に対する薬物の効果を示している。図11A及び図11Bは、それぞれモデルコントロール群及び各薬物投与群におけるマウスの皮質内及び海馬内のIba1細胞の免疫組織化学染色の試験結果を示している。図11C及び図11Dは、対応するGFAP細胞の免疫組織化学染色の試験結果である。S1薬物は脳内皮質内及び海馬内のIba1細胞及びGFAP細胞の数に対して有意な効果を有しなかったことが見て取られることから、これは、S1薬物が脳の炎症に対して有意な抑制効果を有しないことを示している。S2~S7にはS1と同様に明らかな抑制効果はない。金クラスター粗生成物S9は、脳内皮質内及び海馬領域内のIba1陽性細胞及びGFAP細胞の数を減少させたが、モデルコントロール群と比較して有意差はなかった(P>0.05)。しかしながら、S8薬物は脳の炎症に対して有意な抑制効果を示した。図11Aに示されるように、モデルコントロール群と比較して、S8薬物投与により皮質内のIba1細胞の数が約40%減少し、有意差を示している(P<0.01、**)。図11Bに示されるように、モデルコントロール群と比較して、S8薬物投与により海馬内のIba1細胞の数が有意に27%減少した(P<0.05、)。図11C及び図11Dに示されるように、モデルコントロール群と比較して、皮質内及び海馬内のGFAP細胞の数はそれぞれ24%(P<0.05、)及び15%(P<0.05、)有意に減少した。これらの結果により、S8薬物がAD関連脳内炎症に対して優れた抑制効果を有することが明らかとなる。
【0072】
上記の結果により、S8薬物が五重トランスジェニック5xFADモデルマウス試験において優れた治療効果を示し、少なくとも認知行動及び記憶行動の改善、タンパク質線維化及び脳内炎症の抑制という3つの側面からADの治療に肯定的な役割を果たし得ることが明らかとなる。APP/PS1二重トランスジェニックマウスモデルの試験結果と合わせると、S1薬物は特定の治療効果を有し、全体的な効果の観点からS9薬物がS1薬物より優れているが、S8薬物とは比較にならないことが見て取れる。S2薬物~S7薬物は明らかな治療効果を示すことができなかった。
【0073】
以上の結果により、同じリガンドを含む様々な金クラスター分子の分子構造が、アルツハイマー病の予防及び治療における金クラスター分子の適用効果に対して大きな影響を与えることが明らかとなる。L-NIBCを含む様々な金クラスター分子に関して、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14(S8薬物)が、他の7つの金クラスター分子及び金クラスター粗生成物S9に比べて極めて大きな利点を有し、アルツハイマー病の予防用及び治療用の薬物の開発により適している。
【0074】
更なる研究により、金クラスター粗生成物S9薬物にS8薬物を加えて混合薬物を得たところ、混合薬物中の金クラスター分子Au18(L-NIBC)14の含有量が7%に達すると、混合薬物の治療効果が有意に増加したことが明らかとなる。
【0075】
実施形態5.肝硬変マウスモデル実験
5.1.方法
マウス肝硬変モデルのモデリング
6週齢~8週齢及び16g~20gの体重のSPF雄C57BL/6Nマウスを、それらの体重に基づいて、11個の群(n=10)、すなわち、ブランクコントロール群、モデル群、S1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、S4薬物投与群、S5薬物投与群、S6薬物投与群、S7薬物投与群、S8薬物投与群、及びS9薬物投与群へと無作為に分けた。ブランクコントロール群を除き、他の群におけるマウスの肝硬変モデルを四塩化炭素(CCl)誘発処理法によって作製した。モデリングプロトコルは次の通りであった:(1)各マウスに、10%のCCl(オリーブオイルで希釈)を体重1g当たり7μlで週2回、合計8週間にわたって腹腔内注射し、ブランクコントロール群のマウスに、同量のオリーブオイル溶媒を腹腔内注射した。(2)6週目からは毎週2匹のマウスを選び、最後の注射から48時間後に殺処分した。肝臓の外観を観察した。外観が肝硬変の特性と一致したら(8週目)、肝臓組織をホルマリンで固定した。HE染色及びマッソン染色を使用して、肝硬変のモデルを評価した。
【0076】
薬物投与
モデリングが成功したら、S1薬物投与群~S9薬物投与群のマウスに、それぞれ対応する薬物を腹腔内注射により10mg/kgで与え、ブランクコントロール群及びモデル群のマウスに生理学的食塩水を10ml/kgで腹腔内投与した。投与を1日1回、20日間連続で行った。
【0077】
生化学的アッセイ
薬物投与が完了したら、マウスの眼窩から血液を採集し、血清を取得して、Zhongsheng Beikongのキット及び生化学分析装置(Siemens)を使用して、アルブミン(アルブミン、ALB)、総ビリルビン(TBil)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、及びモノアミンオキシダーゼ(MAO)の生化学的試験を行った。検出方法をキットの使用説明書に厳密に従って実施した。
【0078】
病理学的検査
HE染色
安楽死後、マウスの肝臓組織試料を4%のパラホルムアルデヒド固定液で48時間以上固定した。固定後、肝臓試料をアルコール勾配により脱水し、キシレン及びエタノールで処理した。次いで、肝臓組織をワックス中に浸して包埋した。包埋材料をトリミングし、取り付け、修復した後、肝臓組織をパラフィンミクロトームでスライスし、スライスは4μmの厚さを有していた。HE染色の主なプロセスは次の通りである。65℃のオーブン内でベーキングした後、スライスをキシレンで処理し、勾配エタノールで脱水した。スライスをヘマトキシリン、青色増強溶液、及び0.5%のエオシンで順次染色した後、勾配エタノール及びキシレンで処理し、中性ガムで密封した。肝臓組織の線維化を顕微鏡で観察した。
【0079】
マッソン染色
ベーキング後、マウスの肝臓組織スライスを脱ワックスし、脱水した。クロム処理後、核をルゴーのヘマトキシリン染色溶液で染色した。水で洗浄した後、スライスをマッソンのポンソーレッド酸性フクシンで染色し、スライスを2%の氷酢酸水溶液中に浸し、1%のリンモリブデン酸溶液で分化させた。アニリンブルー溶液又はライトグリーン溶液で直接染色した後、スライスを0.2%の氷酢酸水溶液中にしばらく浸し、次いで95%のアルコール、無水アルコール、及びキシレンで透明化し、次いで中性ガムで密封した。肝臓組織を顕微鏡で観察した。
【0080】
5.2.結果
モデル群におけるマウスの肝臓は、増殖する線維性隔壁によって様々なサイズの円形又は楕円形の塊に分割された。図12-1~図12-3に示されるように、血清ALT指標、血清TBil指標、血清AST指標、及び血清MAO指標はブランクコントロール群の指標と比較して有意に増加し(P<0.01、##)、血清ALBはブランクコントロール群と比較して有意に減少した(P<0.05、#)ことから、これは、この実験モデリングが成功したことを示している。
【0081】
図12-1~図12-3は、肝硬変モデルマウスにおけるALT(図12A)、AST(図12B)、TBil(図12C)、MAO(図12D)、及びALB(図12E)の血清レベルに対する薬物の効果を示している。この結果により、金クラスター粗生成物S9薬物がモデリングしたマウスにおけるALT、AST、及びTBilの血清レベルを有意に改善することができ(P<0.05、)、かつS8薬物がモデリングしたマウスの血清における5つの指標全てを有意に改善することができること(P<0.05、、P<0.01、**)が明らかとなる。金クラスター粗生成物S9薬物投与群と比較して、S8薬物投与群は5つの指標全てのレベルのより大幅な改善を示し、ALT、AST、及びTBILのレベルに有意差が見られた(P<0.05、$)ことから、これは、肝硬変モデルマウスにおける血清指標の改善に対するS8薬物の効果が金クラスター粗生成物S9薬物の効果よりも有意に良好であることを示している。S1薬物はS9薬物と同様の効果を有し、改善効果を有したが、改善の幅はS8薬物よりもはるかに低い。S2薬物はモデルマウスの血液における5つの指標の明らかな改善を示さなかった。S3薬物~S7薬物はS2薬物と同様に明らかな改善効果を有しないため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。上記の結果により、S8薬物は他の薬物と比較して肝硬変に対して優れた治療効果を有することが明らかとなった。
【0082】
図13-1および図13-2はマッソン染色実験の結果を示している。図13A図13B図13C図13D、及び図13Eはそれぞれ、ブランクコントロール群、モデルコントロール群、S1薬物投与群、S8薬物投与群、及びS9薬物投与群の例示的な画像を示している。図13Aに示されるように、ブランクコントロール群のマウスからの正常な肝臓組織は、明確な構造、インタクトな肝小葉、中心静脈を中心とした放射状の配置を有する整然と並んだ肝細胞索、正常な肝細胞核、及び集水領域(catchment area)における少量のみの線維組織を有していた。図13Bに示されるように、モデルコントロール群の肝臓組織において、肝細胞は病的であり、風船のような構造が現れ、肝小葉がほぼ消失し、偽小葉が豊富に形成され、肝臓組織内に多数の増殖したプロトフィブリルが存在し、円形又は楕円形の線維性隔壁を形成していた。
【0083】
図13Dに示されるように、モデルコントロール群と比較して、S2薬物投与群マウスの肝臓組織は、肝臓障害からの極めて顕著な回復を示し、明確な構造、インタクトな肝小葉、整然と並んだ肝細胞索を示し、観察可能な線維増殖及び偽小葉を示さず、正常な肝臓組織との明らかな違いを示さなかったことから、これは極めて顕著な薬力学を示している。
【0084】
図13Eに示されるように、金クラスター粗生成物S9薬物投与群も比較的顕著な効果を示したが、ブランクコントロール群と比較して、或る特定の量の線維増殖及び偽小葉構造が存在する。上記の血清指標の結果と合わせると、S8薬物の総合的な治療効果はS9薬物の治療効果よりも明らかに良好であることが明らかとなる。図13Cに示されるように、S1薬物はS9薬物と同様であり、S1薬物は或る特定の治療効果を有したものの、S8薬物より依然として劣っている。S2薬物~S7薬物は治療効果を示すことができなかった。ここで、肝細胞は病的であり、肝小葉がほぼ消失し、偽小葉が豊富に形成され、肝臓組織内に多数の増殖したプロトフィブリルが存在し、円形又は楕円形の線維性隔壁を形成していた。モデルコントロール群と比較して有意差は見られない。
【0085】
図13Fは、S1薬物、S2薬物、S8薬物、及び金クラスター粗生成物S9薬物が肝硬変の組織病理学的スコアに対して及ぼす効果の結果を示している。モデルコントロール群の組織病理学的スコアは0.5から3.35±0.42に増加し、ブランクコントロール群と比較して極めて有意な差を示すことが見て取れる(P<0.001、###)。S8薬物投与群のスコアはモデルコントロール群と比較して1.33±0.25に有意に減少した(P<0.01、**)。金クラスター粗生成物S9薬物投与群はモデルコントロール群と比較して有意な減少を示したが(P<0.05、)、減少幅はS8薬物投与群よりも49%低く、これらの間には有意差が見られる(P<0.05、$)。これらの結果により、S8薬物が肝硬変により引き起こされる肝臓障害に対して優れた保護効果を有し、治療効果が金クラスター粗生成物S9薬物よりも有意に良好であることが実証された。S1薬物はS9薬物と同様に治療効果を有するが、S8薬物ほどではない。S2薬物は明らかな効果を示さなかった。S3薬物投与群~S7薬物投与群の結果はS2薬物投与群の結果と同様であり、明らかな効力を有しなかったため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。HE染色の結果はマッソン染色の結果と一致しており、本明細書においては詳細に説明しない。
【0086】
上記の結果から、病理学的試験結果が生化学試験結果と一致していることが見て取られ、これにより総合的に、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14(S8薬物)は肝硬変に対して有意な治療効果を有し、金クラスター粗生成物S9薬物及び他の金クラスター薬物の治療効果よりも有意に良好であることが明らかとなる。金クラスター分子Au18(L-NIBC)14(S8薬物)は、肝硬変の治療(予防及び治癒)用の薬物の開発により適している。
【0087】
更なる研究により、金クラスター粗生成物S9薬物にS8薬物を加えて混合薬物を得たところ、混合薬物中のAu18(L-NIBC)14の含有量が7%に達すると、混合薬物の治療効果が有意に増加したことが明らかとなる。
【0088】
実施形態6.糖尿病動物モデル実験
6.1.方法
6.1.1.糖尿病モデリング、薬物投与、及び血糖試験
本実験は、モデリング中に薬物投与を行うプロトコルと、モデリングが成功に終わった後に薬物投与を行うプロトコルの2つのプロトコルを採用した。これらのプロトコルはそれぞれ以下の通りであった:
【0089】
プロトコルI.同時のモデリング及び薬物投与
SPFグレードのC57BL/6雄マウスを、空腹時血糖値に応じて、ブランクコントロール群、モデルコントロール群、S1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、S4薬物投与群、S5薬物投与群、S6薬物投与群、S7薬物投与群、S8薬物投与群、及びS9薬物投与群へと無作為に分けた(1群当たりn=12)。高脂肪食及び少ない用量のストレプトゾトシンを与えることによって糖尿病のマウスモデルを樹立し、モデリング初日に薬物投与を開始した。最初に、各群におけるマウスに実験室標準の維持飼料を1週間与え、1週間後、ブランクコントロール群を除く他の群に高脂肪食を3週間与えた。3週間後、モデルコントロール群及びS1薬物投与群~S9薬物投与群におけるマウスにストレプトゾトシン(100mg/kg)を5日間連続で腹腔内注射したところ、膵臓に更なる損傷がもたらされ、2型糖尿病のモデルが得られた。ブランクコントロール群にコントロールと同じ量の生理食塩水を注射した。維持飼料を与えた初日から、S1薬物投与群~S9薬物投与群に体重1kg当たり10mgの用量で1日1回腹腔内投与し、ブランクコントロール群及びモデルコントロール群に同量の生理食塩水を腹腔内注射した。この投与方法を実験終了まで35日間継続した。モデリング及び薬物投与試験の後、全てのマウスを5時間絶食させて起点の血糖(空腹時血糖)を検出し、次いで、ブドウ糖(体重1g当たり1.5mg)を胃内投与した後、血糖値をそれぞれ0.5時間、1時間、1.5時間、及び2時間の時点で検出した。
【0090】
プロトコルII.モデリング成功後の薬物投与
高脂肪食によって誘発された糖尿病マウスモデルを使用して、血糖値の低下に対する薬物の効果を研究した。SPFグレードのB6マウスを、ブランクコントロール群(通常給餌)、モデルコントロール群、S1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、S4薬物投与群、S5薬物投与群、S6薬物投与群、S7薬物投与群、S8薬物投与群、及びS9薬物投与群へと無作為に分けた。モデルコントロール群及び9つの薬物投与群に2ヶ月齢の時点で高脂肪食を与えた。ブランクコントロール群におけるマウスに標準的な実験用飼料を与えた。給餌を3ヶ月間行った。5ヶ月齢の時点で、マウスの血糖を測定して、高脂肪食を与えられたマウスが血糖の上昇及び糖代謝障害を有するかどうかを判定することで、モデリングの成功を確認した。2種類の薬物投与があった。一方は急性投与であり、9つの薬物投与群におけるマウスに1回腹腔内注射(5mg/kg)し、30分後に対応する空腹時血糖及び耐糖能を測定した。もう一方は長期投与であり、9つの薬物投与群におけるマウスに2ヶ月間腹腔内注射(5mg/kg/日)した。ブランクコントロール群及びモデルコントロール群に同量の生理食塩水を腹腔内注射した。薬物投与の1ヶ月後又は2ヶ月後に、全てのマウスを一晩中16時間絶食させて空腹時血糖を検出し、次いで、ブドウ糖(体重1g当たり1.5mg)を胃内投与した後、血糖値をそれぞれ15分、30分、45分、60分、及び120分の時点で検出した。
【0091】
6.1.2.HE染色
上記試験の完了後、各群における動物を安楽死させ、動物の膵臓を速やかに採集し、4%のパラホルムアルデヒド中で固定した後、固定された動物の膵臓組織を包埋ボックスに入れ、流水で30分間洗浄して固定溶液を除去した。組織をアルコール勾配(50%、70%、80%、95%、無水エタノール)により脱水し、環境的透明剤(environmental transparent agent)で処理した。透明組織を純粋なパラフィン(I、II、III)中に毎回1時間ずつ順次浸して、組織を包埋し、残りの透明剤を完全に除去した。包埋した膵臓組織をパラフィンスライサーで連続的に3μmの切片にスライスし、スライスを後の使用に備えて60℃で1時間ベーキングした。スライスをキシレン中に15分間入れて脱ワックスし、これを3回繰り返した後、スライスを勾配エタノール(100%、85%、及び75%)中にそれぞれ5分間浸し、流した水道水で5分間すすいでスライスを脱ワックスする。スライスをヘマトキシリン染料溶液中で5分間染色した後、余分な染料溶液を水道水で洗い流し、0.7%の塩酸エタノールを使用して10秒間色を分離し、スライスを核及び核クロマチンが透き通るまで水道水で洗浄した。スライスを70%及び90%のエタノールで10分間脱水し、0.5%のエオシン溶液で5分間染色し、余分な染料を水道水で洗い流した。染色したスライスを70%、80%、90%、及び100%のエタノールで10秒間脱水し、透明剤でヒアリン化し、換気した場所で乾燥させた。適量の中性ガムを垂らした後、スライスをカバーガラスで密封した。病理切片を光学顕微鏡により観察し、写真を撮影した。
【0092】
6.1.3.インスリン免疫組織化学
プロトコルIの試験が完了した後、3μmの膵臓スライスを順次取得した。3μmの膵臓スライスを脱ワックスした後、これらを室温で3%Hの脱イオン水とともに5分間~10分間インキュベートして内因性過酸化物をブロックし、リン酸緩衝液(PBS)で5分間3回洗浄した。スライスを抗原修復溶液中に入れ、マイクロ波オーブンにおいて抗原を修復した。自然冷却後、スライスをPBSで5分間3回洗浄した。5%のBSAブロッキング溶液を滴加し、スライスを37℃で30分間インキュベートした。ブロッキング溶液を捨て、インスリン免疫組織化学一次抗体インキュベーション溶液(抗体比:1:200)を加え、37℃で1時間~2時間インキュベートし、PBSで5分間3回すすいで余分な一次抗体を除去した。セイヨウワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体インキュベーション溶液を滴加し、スライスを37℃で30分間インキュベートした。スライスをPBSで5分間3回洗浄した。スライスをDABで着色し、顕微鏡下で観察して発色時間を制御し、水道水で洗浄して染色を終わらせた。核をヘマトキシリンで対比染色し、水道水ですすぎ、様々な濃度のアルコール(75%、85%、及び100%)で勾配脱水し、透明剤及び中性ガム密封を施した。膵臓組織を顕微鏡により観察し、インスリンの発現を免疫組織化学により検出し、写真撮影した。各スライスから、膵島を含む3つの視野(400倍)を無作為に選択した。各視野の平均光学密度を、Image Pro Plusバージョン6.0ソフトウェアを使用することによって定量的に測定し、スライスの平均光学密度として平均値を取った。
【0093】
6.2.結果
図14Aは、同時にモデリング及び薬物投与を行うプロトコルIからの空腹時血糖値の試験結果を示している。図14Aに示されるように、モデルコントロール群の空腹時血糖は20.3±4.1mMであり、これはブランクコントロール群における正常マウスの空腹時血糖(11.5±2.1mM、P<0.01、##)よりも有意に高かった。S8薬物投与群の空腹時血糖は13.1±2.3mMであり、これはモデルコントロール群の空腹時血糖よりも有意に低かった(P<0.05、)。S9薬物投与群の空腹時血糖は15.1±2.9mMに低下し、これはモデルコントロール群の空腹時血糖と有意差がある(P<0.05、)。S1薬物投与群の空腹時血糖は16.7±1.7mMに低下し、これはモデルコントロール群の空腹時血糖と有意差はない(P>0.05)。S2投与群~S7投与群はモデルコントロール群と同レベルであり、明らかな効果を有しなかった。
【0094】
図14Bは、同時にモデリング及び薬物投与を行うプロトコルIからの耐糖能レベルの試験結果を示しており、ここで、0時間は、図14Aにおける空腹時血糖に対応する。モデルコントロール群における各時点での血糖値は、ブランクコントロール群における血糖値よりも有意に高かった(P<0.01、##)ことから、これはモデリングが成功したことを示している。S1薬物投与群における空腹時血糖値及びブドウ糖を与えた後の様々な時点での血糖値はモデルコントロール群における値よりも低く、ここで、空腹時血糖(0時間)、0.5時間、及び2時間のデータ(P<0.05、)は有意差があることから、これはS1薬物が或る特定の低血糖効果を有することを示している。S9薬物投与群はS1薬物投与群と同様であるが、空腹時血糖(0時間)、0.5時間、1.5時間、及び2時間のデータはモデルコントロール群のデータと比較して有意差がある(P<0.05、)。S8薬物投与群の0時間、0.5時間、1時間、1.5時間、及び2時間の時点での血糖値はモデルコントロール群の血糖値よりも有意に低く(0時間、P<0.05、、残りの時点、P<0.01、**)、血糖の減少幅はS1薬物及び金クラスター粗生成物S9薬物よりもはるかに大きかった(0.5時間~2.0時間の血糖の結果においては、血糖低下の減少幅はほぼ2倍超であった)。S2薬物の投与では、全ての時点で血糖は有意に低下しなかった。S3薬物~S7薬物の結果はS2薬物の結果と同様であり、明らかな効果は見られなかったため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。
【0095】
図15は、モデリング後に薬物を様々な様式で投与するプロトコルIIからの空腹時血糖及び耐糖能の結果を示している。図15Aは、急性薬物投与後の耐糖能の結果を示しており(比較の便宜上、S2、S8、及びS9のデータのみを示している)、ここで、0分は、空腹時血糖に相当する。図15Aに示されるように、モデルコントロール群における空腹時血糖及び他の時点での血糖のデータはどちらも、ブランクコントロール群におけるデータよりも有意に高い(P<0.05、#)ことから、これはモデリングの成功を示している。その中でも、モデルコントロール群の0時間空腹時血糖は10.8±2.3mMであったのに対し、ブランクコントロール群の0時間空腹時血糖は6.7±1.1mMであった。各薬物投与群における急性薬物投与のため、それらの空腹時血糖はモデルコントロール群の空腹時血糖と有意差がなかった。金クラスター粗生成物S9薬物投与群では、ブドウ糖を与えた後の各時点での血糖値はモデルコントロール群における血糖値よりも低く、15分の時点での結果は有意差があった(P<0.05、)。S1薬物投与群はS9薬物投与群と同様であったため、本明細書においてはこれを詳細に説明しない。S8薬物では、モデルコントロール群に対する各時点での血糖の減少幅はS9薬物投与群の減少幅よりも大きく(減少幅は15分~60分の時点で39%~2.2倍高かった)、15分、30分、45分、及び60分の時点でモデルコントロール群と比較して有意差が見られた(P<0.05、)。S2薬物投与群は、全ての時点でモデルコントロール群と同じレベルを示した。S3薬物投与群~S7薬物投与群はS2薬物投与群と同様であり、各時点でモデルコントロール群と同じレベルであった。
【0096】
図15B及び図15Cは、それぞれ1ヶ月間連続又は2ヶ月間連続の薬物投与後のプロトコルIIからの空腹時血糖の結果である(比較の便宜上、S2、S8、及びS9のデータのみを示す)。モデルコントロール群の空腹時血糖はそれぞれ12.2±0.7mM及び10.4±0.6mMであり、これらは、ブランクコントロール群のデータ(5.8±0.5mM及び5.5±0.3mM)と比較して有意に増加した(P<0.01、##)。S9薬物投与群の値は減少したが、モデルコントロール群と比較して有意差は見られなかった(P>0.05)。S8薬物投与群の減少幅はより大きく、値はそれぞれ9.8±0.3mM及び8.3±0.4mMに有意に減少し(減少幅はそれぞれS9薬物より35%及び3.2倍高い)、これはモデルコントロール群と比較して有意であった(P<0.05、)。S2薬物投与群はモデルコントロール群のレベルと同じレベルであり、明らかな減少は見られなかった。S3薬物~S7薬物はS1薬物と同様であり、大きな減少は見られなかったため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。
【0097】
図15Dは、S8薬物の2ヶ月連続の薬物投与後の耐糖能の結果を示している。図15Dに示されるように、0分、15分、30分、60分、及び120分の時点でのS8薬物投与群の血糖値はモデルコントロール群の血糖値よりも有意に低く(P<0.05、)、これによりS8薬物の優れた低血糖効果が検証された。
【0098】
上記の結果により、S8薬物が優れた低血糖効果を示し、その効果がS1薬物及び金クラスター粗生成物S9薬物よりも有意に良好であることが相互に裏付けられ、総合的に示される。S2薬物~S7薬物は明らかな低血糖効果を有しなかった。
【0099】
図16-1および図16-2は、同時にモデリング及び薬物投与を行うプロトコルIからのHE染色及びインスリン免疫組織化学の結果を示している。図16A図16B、及び図16Cは、それぞれブランクコントロール群、モデルコントロール群、及びS8薬物投与群の例示的な免疫組織化学画像である。免疫組織化学の結果により、各群におけるマウスでは黄色乃至褐色のインスリン陽性信号が見られることが示された(備考:灰色の画像では褐色がより暗く、灰色の画像では黄色がより明るかった)。主な発現位置は膵島細胞であった。ブランクコントロール群におけるインスリン染色は強い褐色の陽性信号を示し(図16Aにおいて点線で囲まれた領域によって示されるように、この色は灰色の画像においては非常に暗かった)、モデルコントロール群におけるインスリン染色信号は大幅に弱まり、色は大幅により明るく、まばらな薄褐色乃至黄色となり(図16Bにおいて点線で囲まれた領域によって示されるように、この色は灰色の図においてはより明るかった)、一方、S8薬物投与群におけるマウスはブランクコントロール群における正常マウスと同様であり、強い褐色の陽性信号を示した(図16Cにおいて点線で囲まれた領域によって示されるように、この色は灰色の図においては非常に暗かった)。図16Dは、ブランクコントロール群、モデルコントロール群、及び様々な薬物投与群の平均光学密度値の統計結果を示している。図16Dに示されるように、モデルコントロール群におけるインスリンの発現はブランクコントロール群における発現よりも有意に低く(P<0.05、#)、S1薬物投与群及びS9薬物投与群におけるインスリンの発現はモデルコントロール群における発現よりも高かった(S9薬物投与群においてより顕著)が、その差は有意ではなかった(P>0.05)ことから、これは、S1及びS9が膵島に対して何らかの保護効果を有することを示している。モデルコントロール群と比較して、S8薬物投与群は有意に高いインスリン発現を示した(P<0.05、)ことから、これは、S8薬物が膵島の障害からの保護又は膵島障害の修復に対して非常に良好な効果を有することを示している。S2薬物投与群はインスリン発現がモデルコントロール群と同じレベルであったことから、これは、S2薬物が膵島を保護又は修復する機能を有しなかったことを示している。S3薬物~S7薬物はS2薬物と同様であったため、本明細書においてはこれらを詳細に説明しない。プロトコルIIにおけるモデリング後の薬物投与の試験結果はここでの結果と同様であった。S8薬物はまた膵島の損傷からの保護又は膵島損傷の修復に対して有意な効果を示した(モデルコントロール群と比較して、P<0.01)。S9はまたモデルコントロール群の効果と有意差のある或る特定の効果を有するが(P<0.05)、S9はS8薬物よりもはるかに有効性が低い。
【0100】
一方、HE染色の結果により、ブランクコントロール群(図16E)と比較して、モデルコントロール群(図16F)の膵臓が、主に膵島の数の減少、膵島容積の激しい減少、膵島細胞の数の大幅な減少、及び軽度乃至中等度の膵島炎症として現れる明らかな組織学的変化を示したことが明らかとなる。S8薬物投与群(図16G)において、モデルコントロール群と比較して膵島の組織構造が大幅に改善され、ブランクコントロール群と比較して、膵島における異常な変化も炎症細胞浸潤も見られなかったことから、これはまた、膵島に対するS8薬物の優れた保護効果を示している。S9薬物投与群の膵島組織構造もモデルコントロール群と比較して大幅に改善されたが、その効果はS8薬物投与群の効果よりははるかに明らかではなく、より具体的には、膵島容積が或る程度まで減少し、膵島細胞の数も減少し、膵島において少量の炎症細胞浸潤も現れた。S1薬物はS9薬物よりも有効性が低いが、モデルコントロール群と比べて比較的良好な効果を示す。S2薬物投与群はモデルコントロール群と同じレベルであったことから、これは、S2薬物が膵島を保護又は修復する機能を有しなかったことを示している。薬物S3~薬物S7は薬物S2と同様であり、明らかな効力を示さないため、本明細書において詳細な説明を示さない。
【0101】
これらの結果により、S8薬物は血糖指標を有意に改善することができるだけでなく、膵島を障害から保護し、又は膵島の障害を修復することができ、その効果は金クラスター粗生成物S9薬物及び他の薬物の効果よりもはるかに良好であることが明らかとなる。
【0102】
上記の結果により、同じリガンドを含む様々な金クラスター分子の分子構造が、2型糖尿病の予防及び治療に対して大きな影響を与えることが明らかとなる。リガンドL-NIBCを含む様々な金クラスター分子に関して、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14(S8薬物)は2型糖尿病の予防及び治療に対して優れた効果を示し、金クラスター粗生成物及び他の7つの金クラスター分子よりも2型糖尿病の予防及び治療において非常に大幅な利点を有する。
【0103】
一方、膵島損傷はI型糖尿病の典型的な特性の1つである。膵島保護及び膵島修復におけるS8薬物の優れた役割はI型糖尿病の予防及び治療において大きな利点及び幅広い適用の見込みがある。
【0104】
更なる研究により、金クラスター粗生成物S9薬物にS8薬物を加えて混合薬物を得たところ、混合薬物中のAu18(L-NIBC)14の含有量が7%に達すると、混合薬物の治療効果が有意に増加したことが明らかとなる。
【0105】
実施形態7.パーキンソン病(PD)動物モデル実験
7.1.方法
MPTP(1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)損傷モデルは、PD研究において広く使用されている動物モデルである。この研究ではこの動物モデルを使用した。実験動物はSPF雄C57BL/6マウスであった。マウスを、各群に12匹のマウスが含まれるブランクコントロール群、モデルコントロール群、S1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、S4薬物投与群、S5薬物投与群、S6薬物投与群、S7薬物投与群、S8薬物投与群、及びS9薬物投与群へと無作為に分けた。モデルコントロール群のマウスに、MPTP(30mg/kg/日)を7日間腹腔内注射してMPTP誘発PDマウスモデルを樹立し、ブランクコントロール群に同量の生理食塩水を腹腔内注射した。各薬物投与群に、最初にMPTP(30mg/kg/日)を腹腔内注射した後、0.5時間後に、対応する薬物(10mg/kg/日)を1日1回、7日間連続で腹腔内注射した。
【0106】
モデル動物の行動に対する薬物の効果をオープンフィールド、ロータロッド試験、及び水泳試験によって分析した。具体的な方法は以下の通りである:
【0107】
オープンフィールド:実験のために、動物を給餌ケージから自発活動検出器に移す。動物を新しい環境に5分間順応させた後、5分以内にそれらの自発的な活動及び変化の記録を始め、次いで、5分以内の動物の移動距離及び移動速度によってそれらの活動能力の強さを測定する。
【0108】
ロータロッド試験:動物は回転するロッドの上でバランスを保って連続的に移動する必要がある。これは動作協調性を見るのに広く使用されている実験である。実験のために、動物を回転するロッドの上に置いて滑らないようにする。ローラーの直径は6cmであり、回転速度は20rpm/分であった。5回の順応後、動物を毎回15分間試験し、3連続の回について平均値を取る。動物が滑り落ちると、それに応じて下部の感知プラットフォームが停止し、回転するロッドからの落下の潜時が記録される。各試験において、ロッドから落ちる潜時及びロッドから落ちる動物の数を記録する。
【0109】
水泳試験:試験対象のマウスを60cmの水深及び22℃の水温を有するモリス水槽に入れる。10分間以内での動物の水泳距離及び水泳時間を記録して、それらの活動能力の強さを測定する。
【0110】
行動試験後、脳内線条体内のタンパク質をウエスタンブロット(WB)により検出した。脳の必要な部分を氷から取り出し、RIPA溶解バッファーで溶解した。均質物を4℃、12000gで30分間遠心分離し、タンパク質を抽出し、試料を調製した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動を55V~60Vで4.5時間実施し、タンパク質を半乾式法により60mAにて約1.5時間かけてメンブレンに転写した。メンブレンを室温で5%の脱脂粉乳により1時間ブロッキングし、ウサギ抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH)をTBSTで希釈したもの(希釈比1:300)を加え、4℃で一晩インキュベートした。抗体を回収し、メンブレンをTBSTにより1回当たり10分で3回洗浄した。IRDye R 680RDヤギ抗ウサギをTBSTで希釈したもの(希釈比1:3000)を加え、TBSTにより1回当たり10分で3回洗浄した。タンパク質信号を2色赤外線レーザーイメージングシステムによってスキャンした。
【0111】
全てのデータをPrism 5.0ソフトウェアにより処理し、データはt検定又は一元配置ANOVAを使用してx±SDで表され、P<0.05は、差が統計的に有意であることを示す。
【0112】
7.2.結果
図17-1~図17-3は行動試験の結果を示している。
【0113】
モデルコントロール群におけるマウスは、MPTP投与から3分後~5分後に振戦、運動の低下、背中を丸めた姿勢、後肢の開き、不安定な歩行、立てた尻尾、及び逆立った毛を示し、1匹又は2匹のマウスは癲癇発作を示した。上記の症状は30分後~60分後に徐々に軽減し、基本的に24時間後には正常に戻った。しかしながら、投与回数が増えるにつれて急性反応は減少したが、24時間後には運動の低下、歩行の不安定性、及び鈍い応答がますます顕著になった。
【0114】
図17A及び図17Bに示されるように、MPTPを7日間連続で注射した後、ブランクコントロール群と比較して、モデルコントロール群におけるマウスの自発運動距離は約32%減少し(P<0.01、##)、移動速度は約29%減少した(P<0.01、##)ことから、これは運動遅延の症状を示している。S8薬物投与群の自発運動距離及び移動速度はモデルコントロール群の自発運動距離及び移動速度よりも有意に高く(P<0.01、**)、ブランクコントロール群のレベルまでほぼ回復した。S9薬物投与群の自発運動距離及び移動速度もモデルコントロール群の自発運動距離及び移動速度より有意に高かった(P<0.05、)が、増加幅はS8薬物投与群よりも有意に小さかった(S8薬物投与群の自発運動距離及び移動速度の増加幅はS9薬物投与群の増加幅よりもそれぞれ51%及び139%高かった、P<0.05)。S1薬物投与群はS9薬物投与群と同様であり、モデルコントロール群の増加幅と比較して有意な増加を示した(P<0.05)が、増加幅はS8薬物投与群よりも有意に小さかった。S2薬物投与群~S7薬物投与群はモデルコントロール群と比較して自発運動距離及び移動速度の点で有意差を示さなかった(P>0.05)。
【0115】
マウスの水泳能力試験において、水泳時間が長く、水泳距離が長いほど、四肢の運動協調性はより良好である。図17C及び図17Dに示されるように、ブランクコントロール群と比較して、モデルコントロール群におけるマウスの10分間の水泳距離は約27%減少し、水泳時間は約18%減少した(P<0.01、##)。モデルコントロール群と比較して、S8薬物投与群の水泳距離及び水泳時間は有意に増加し(P<0.01、**)、ここで、水泳距離は33%増加し、水泳時間は21%増加した。モデルコントロール群と比較して、金クラスター粗生成物S9薬物投与群の水泳距離及び水泳時間も有意に増加した(それぞれ21%及び11%増加)が、増加幅はS8薬物投与群よりも有意に小さかった(S9薬物投与群とS8薬物投与群との比較、P<0.05、$)。S1薬物投与群はS9薬物投与群と同様であり、またモデルコントロール群と比較して有意な増加を示したが、増加幅はS8薬物投与群よりも有意に小さかった。残りのS2薬物~S7薬物の値はモデルコントロール群の値と同様であり、モデルコントロール群とは有意差は見られなかった(P>0.05)。
【0116】
図17E及び図17Fに示されるように、ロータロッド行動試験において、ブランクコントロール群におけるマウスは13.1±2.1分の落下潜時及び31±1.6%の落下率を示した。モデルコントロール群におけるマウスの落下潜時は5.6±1.8分に有意に減少し、落下率は78.1±5.0%に有意に増加したことから、これは、MPTPモデリングにより運動協調能力が低下し、掴みが不安定になり、落下しやすくなることを示している。モデルコントロール群と比較して、S8薬物投与群の落下潜時は有意に増加し(P<0.01、**)、落下率は極めて有意に減少した(P<0.0001、***)。これらの結果により、S8がMPTP誘発性運動協調機能障害を見事に改善する機能を有することが実証された。金クラスター粗生成物S9投与群では、落下潜時は延長し(P<0.05、)、落下率も有意に減少した(P<0.01、**)が、増加幅及び減少幅はS8薬物投与群よりも小さかった(S8とS9とを比較すると、落下率に有意差がある、P<0.05、$)。S1薬物投与群はS9薬物投与群と同様であり、またモデルコントロール群と比較して落下潜時及び落下率の有意な改善も示した(P<0.05、)が、改善の幅もS8薬物投与群より明らかに小さかった。その他の薬物投与群はそれらの落下潜時及び落下率においてモデルコントロール群と同等又は同様のレベルであり、有意差は見られなかった(P>0.05)ことから、これは有意な効力が見られないことを示している。
【0117】
ウエスタンブロット(WB)を使用して、脳内線条体におけるチロシンヒドロキシラーゼ(TH)タンパク質の発現を更に検出した。THはドーパミン(DA)生合成経路の主要な酵素である。THイムノブロット法は組織内のTHの発現レベルを示すことができるため、DAニューロンの変化が明らかとなる。図18はWB試験の結果を示している。図18に示されるように、MPTP処理により、モデルコントロール群におけるTH発現レベルはブランクコントロール群におけるTH発現レベルの47.5±3.7%まで減少した。金クラスター粗生成物S9の処理により、モデリングしたマウスにおけるTH発現レベルはブランクコントロール群におけるTH発現レベルの71.1±2.3%まで回復し、モデルコントロール群と比較して有意差が示された(P<0.01、**)ことから、これは、金クラスター粗生成物S9がDAニューロンの特定の損失に対して比較的良好な保護効果を有することを示している。S8薬物の処理により、モデリングしたマウスにおけるTH発現レベルはブランクコントロール群におけるTH発現レベルの91.8±3.3%まで回復し、モデルコントロール群と比較して極めて有意な差を示し(P<0.001、***)、また、S9薬物投与群と比較しても有意な差を示した(P<0.05、$)ことから、これは、S8薬物がDAニューロンの特定の損失に対して優れた保護効果を有し、その保護効果が金クラスター粗生成物S9よりも優れていることを裏付けている。S1薬物の処理によっても、モデリングしたマウスにおけるTH発現レベルは60.7±4.2%まで回復した(P<0.05、)が、回復幅はS9投与群よりも明らかに小さく、S8薬物投与群よりも更に小さい。S2薬物投与群~S7薬物投与群におけるTH発現量はモデルコントロール群の発現量と同じレベルであったことから、これは、S2薬物~S7薬物が有意な神経保護効果を有しないことを示している。
【0118】
上記の結果は、同じリガンドを含む様々な金クラスター分子の分子構造がそれらのPDの予防及び治療に対して大きな影響を与えることを示している。リガンドL-NIBCを含む様々な金クラスター分子に関して、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14(S8薬物)がAD治療に対して優れた治療効果を示した。金クラスター分子Au25(L-NIBC)18(S1薬物)及び金クラスター粗生成物S9薬物も明らかな治療効果を有するが、行動試験又はTH WBのいずれかからの効果は金クラスター分子Au18(L-NIBC)14(S8薬物)よりも小さい。他の6つの金クラスター分子は明らかな治療効果を有しなかった。これは、他の7つの金クラスター分子及び金クラスター粗生成物S9と比較して、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14がPDの予防及び治療において非常に大きな利点を有し、PDの予防用及び治療用の薬物の製造により適していることを示している。
【0119】
更なる研究により、金クラスター粗生成物S9薬物にS8薬物を加えて混合薬物を得たところ、混合薬物中のAu18(L-NIBC)14の含有量が7%に達すると、混合薬物の治療効果が有意に増加したことが明らかとなる。
【0120】
実施形態8.虚血再灌流緑内障動物モデル
8.1.方法
100匹の雄SDラットを、モデリング前のERGのb波振幅に応じて10個の群に無作為に分けた。右眼に眼虚血再灌流モデリングを行い、左眼にはモデリング処置を行わず(ブランクコントロールとして)、モデリング当日(1日目、D1として数える)から投与を開始した。モデルコントロール群に処置を行わなかったことを除き、残りは全て薬物投与群であり、これには、片方の眼当たり1mgの用量で点眼によって1日3回、21日間連続で投与したS1薬物投与群、S2薬物投与群、S3薬物投与群、S4薬物投与群、S5薬物投与群、S6薬物投与群、S7薬物投与群、S8薬物投与群、及びS9薬物投与群が含まれる。D1の薬物投与時間をモデリングの約3時間前、2時間前、及び1時間前に設け、D1を除く残りの投与日の薬物投与間隔は3時間であった。試験中、動物には全身臨床観察及び局所眼観察を毎日行い、それらの体重を週1回測定した。薬物投与前並びに最初の薬物投与後の7日目(D8)、14日目(D15)、及び21日目(D22)に、動物を全視野網膜電図(ERG)及び光干渉断層撮影(OCT)によって検査した。
【0121】
最後の検査の後、全ての動物を安楽死させて肉眼解剖学的観察を行い、両眼の眼球を採集し、デビッドソン溶液中に固定して、サンプリング、パラフィン包埋、切片化、及びHE染色を含む日常的な組織学的処理を行った。周囲の結合組織を除去した後、視神経を予冷したPFA固定溶液中に素早く入れ、素早く修復し、脱水し、樹脂で包埋し、超薄切片を得て、トルイジンブルー染色を行った。眼球及び視神経の様々な部分の構造を光学顕微鏡下で視神経軸索の形態、網膜の各層の厚さ、及び細胞の形態学的変化に着目して観察した。切片は病理学者により光学顕微鏡用いて検査及び評価された。病変を、標準用語を使用して診断し、等級分けした。顕微鏡検査の結果をそれぞれ軽微(1点)、軽度(2点)、中等度(3点)、及び重度(4点)の4つの等級分け方法により等級分けし、スコアリングして、群間の比較を容易にした。
【0122】
データの統計分析:データを統計ソフトウェアSPSS 22.0によって処理した。最初に、ルビーン検定を使用してデータの均一性を検定した。データが均一であった場合(P>0.05)、一元配置ANOVAを実施し、ルビーン検定分析によりデータが非正規分布であることが示される場合(P≦0.05)、クラスカル・ウォリスノンパラメトリック検定を実施するものとする。クラスカル・ウォリスノンパラメトリック検定の結果が有意(P≦0.05)である場合、マン・ホイットニーU検定を更に使用してペアワイズ比較を行う。P<0.05を統計的に有意であると見なした。
【0123】
8.2.結果
網膜電図(ERG)は、虚血再灌流緑内障動物の視神経機能障害を評価するのに一般的な方法である。光刺激下で網膜視覚細胞によって生成される一群の複雑な電位変化を電極によって導き出し、適切な拡大装置(magnifying device)によって記録することができ、これが網膜視神経機能の変化を直接反映するERG図である。
【0124】
図19Aは、モデリング後の7日目(D8)のモデルコントロール群におけるラットの左眼(正常眼)(右パネル)及び右眼(モデリングする眼)(左パネル)での例示的なERG(DA3.0)を示している。図19Aに示されるように、左眼と右眼との間のa波の振幅には有意差は見られないが、b波には有意な変化が見られる。ブランクコントロールとして、正常な左眼のb波は正常な振幅で明瞭に見えたが、モデリングする右眼のb波の振幅は有意に減少し、波形は不明瞭になった。右眼及び左眼におけるDA10.0のb波振幅はDA3.0の振幅と同様であり、また有意に変化した。上記の結果により、モデリングする眼の視神経機能が重度に低下し、モデリングが成功したことが明らかとなった。
【0125】
図19B及び図19Cは、それぞれ各群におけるラットの右眼での全視野ERG DA3.0及びDA10.0のb波振幅の結果を示している。モデリング中及び薬物投与前に、各群におけるラット間に右眼でのb波の振幅に有意差は見られなかった。同時期でのモデルコントロール群と比較すると、S8薬物投与群におけるラットの右眼でのDA3.0のb波振幅(図19B)は、D8、D15、及びD22でのモデルコントロール群における振幅よりも有意に高く(D8:P<0.01、**、D15:P<0.05、、D22:P<0.05、)、DA10.0のb波振幅(図19C)もモデルコントロール群の振幅よりも有意に高かった(全日、P<0.05、)。
【0126】
図19Dは、投与後の7日目(D8)のS8薬物投与群におけるラットの左眼(正常眼)(右パネル)及び右眼(モデリング及び薬物投与する眼)(左パネル)での例示的なERG DA3.0を示している。S8薬物投与後に、右眼のERG波形は明瞭かつ正常であり、右眼と左眼との間でb波の形状及び振幅に有意差が見られないことが見て取れる。右眼及び左眼でのERG DA10.0のb波振幅はDA3.0のb波振幅と同様であり、左眼と右眼との間に有意差は見られないため、本明細書においてはこれを詳細に説明しない。これらの結果により、S8薬物が虚血再灌流によって誘発される緑内障ラットモデルにおける視神経機能の障害を有意に改善し得ることが明らかとなる。
【0127】
S9薬物投与群におけるラットの右眼でのb波DA3.0の振幅もモデルコントロール群におけるラットの右眼での振幅より高く、D15及びD22で有意差を示した(P<0.05、)が、増加幅はS8薬物投与群におけるラットの右眼よりも明らかに低かった(D8で有意差が見られる、P<0.05、$)。S9薬物投与群におけるラットの右眼でのb波DA10.0の振幅もモデルコントロール群におけるラットの右眼での振幅よりも高く、D8で有意差が示された(P<0.05、)。これらの結果により、金クラスター粗生成物S9が虚血再灌流によって誘発された緑内障ラットモデルにおける視神経機能の障害を改善する効果を有するが、改善の効果はS8薬物よりも明らかに低いことが明らかとなった。
【0128】
S1薬物投与群におけるラットの右眼でのb波DA3.0の振幅はD8でモデルコントロール群におけるラットの右眼での振幅よりも有意に高く(P<0.05、)、D15及びD22では或る程度までの増加が見られたが、有意差はなかった。S1薬物投与群におけるラットの右眼でのb波DA10.0の振幅はモデルコントロール群におけるラットの右眼での振幅よりも有意に高かった。これらの結果により、S1薬物が虚血再灌流によって誘発された緑内障ラットモデルにおける視神経機能の障害を改善する効果を有するが、改善の効果はS8薬物よりも明らかに低いことが明らかとなる。
【0129】
S2薬物~S7薬物は治療効果を一切示さなかった。
【0130】
光干渉断層撮影(OCT)を更に使用して、ラット網膜の厚さ変化を調べた。これらの結果により、モデルコントロール群における視神経乳頭から750μm又は1500μmの右眼の網膜の厚さは日数が増えるにつれて徐々に減少傾向を示すことが明らかとなった。例えば、視神経乳頭から1500μmでは、モデリング前と比較してモデリング後の21日目(D22)に網膜の厚さが約11%減少し、その差は有意であった(P<0.01)。モデリング及び薬物投与の後、S8薬物投与群におけるラットの右眼の厚さは対応する日にモデルコントロール群におけるラットの右眼の厚さよりも有意に厚く、その差は14日目(D15)(P<0.05)及び21日目(D22)(P<0.01)に有意であった。この結果はまたS8薬物がラットの網膜に対して及ぼす保護効果を示している。
【0131】
図20は、虚血再灌流モデリング及び薬物投与によって誘発された眼底の病理学的変化をトルイジンブルーによる超薄切片の染色により示している。図20Aは病理学的スコアの結果を示し、図20B図20C、及び図20Dはそれぞれブランクコントロールとしての左眼、モデルコントロール群における右眼、及びS8薬物投与群における右眼の例示的な画像を示している。病理学的検査により、ブランクコントロールとしての左眼の視神経構造は明瞭であり、髄鞘は様々なサイズの絞輪(rings)を有し、明らかな異常は見られなかった(図20B)。モデルコントロール群の右眼においては、モデリング後に重度の視神経構造障害及びミエリン喪失が観察された(図20C)。モデルコントロール群の右眼と比較して、S9投与薬物群におけるラットの右眼はより良好な改善効果を示したが、視神経構造は或る程度病的であり、髄鞘の喪失は明らかであり、病理学的スコアはモデルコントロール群の右眼のスコアよりも有意に低かった(図20A)(P<0.05、)。モデルコントロール群の右眼と比較して、S2薬物投与群の右眼は極めて明らかな改善を示し、視神経構造は正常な左眼と同様に明瞭であり、少量の僅かな脱髄しか観察されず(図20D)、病理学的スコアはモデルコントロール群の右眼のスコアよりも有意に低かった(図20A)(P<0.001、***)。S9薬物投与群におけるラットの右眼と比較して、S8薬物投与群におけるラットの右眼の病理学的スコアは有意により低い(P<0.05、$)ことから、これは、S8薬物の治療効果が金クラスター粗生成物S9薬物の治療効果よりもはるかに良好であることを示している。S1薬物はS9薬物と同様に或る特定の改善効果も示したが、S8薬物の効果よりも有意に低かったため、本明細書においてはこれを詳細に説明しない。S2薬物~S7薬物は明らかな効果を示さなかった。
【0132】
以上の結果により、同じリガンドを含む様々な金クラスター分子の分子構造が視神経保護におけるそれらの効果並びに緑内障の予防及び治療に対して大きな影響を与えることが明らかとなる。L-NIBCを含む様々な金クラスター分子に関して、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14(S8薬物)が極めて優れた治療効果を有し、金クラスター粗生成物S9薬物及び金クラスター分子Au25(L-NIBC)18(S1薬物)も明らかな治療効果を有するが、その治療効果は金クラスター分子Au18(L-NIBC)14よりもはるかに低い。他の6つの金クラスター分子は明らかな治療効果を有しない。上記の結果から、金クラスター分子Au18(L-NIBC)14は緑内障の予防及び治癒において極めて大きな利点を有することが見て取れる。
【0133】
更なる研究により、金クラスター粗生成物S9薬物にS8薬物を加えて混合薬物を得たところ、混合薬物中のAu18(L-NIBC)14の含有量が7%に達すると、混合薬物の治療効果が有意に増加したことが明らかとなる。
【0134】
本発明は特定の実施形態を参照して説明されているが、実施形態は例示的なものであり、本発明の範囲は限定されないことが理解されるであろう。本発明の代替的な実施形態は、本発明が属する技術分野における当業者には明らかとなるであろう。このような代替的な実施形態は、本発明の範囲内に含まれるものと見なされる。したがって、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって規定され、上述の説明によって裏付けられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10-1】
図10-2】
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図12-3】
図13-1】
図13-2】
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図17-1】
図17-2】
図17-3】
図18
図19-1】
図19-2】
図20
【手続補正書】
【提出日】2024-09-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
L-N-イソブチリルシステイン(L-NIBC)結合金クラスター分子であって、
金コアと、
前記金コアに結合されたリガンドL-NIBCと、
を含み、
Au18(L-NIBC)14の式を有する、L-NIBC結合金クラスター分子。
【請求項2】
被験体における疾患の予防及び/又は治療における請求項1に記載のL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14 の使用。
【請求項3】
前記疾患は、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、又は緑内障である、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
請求項1に記載のL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む組成物であって、被験体における疾患を治療するために使用される、組成物。
【請求項5】
前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14が前記組成物中の金クラスター分子の混合物中の成分として使用される場合、前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14は、前記混合物中の少なくとも7%のクロマトグラフィー含有量を有する、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
前記疾患は、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、又は緑内障である、請求項又はに記載の組成物。
【請求項7】
被験体における疾患の予防及び/又は治療における請求項4又は5に記載の組成物の使用であって
前記被験体に前記組成物を投与することを含み、
ここで、前記組成物は、請求項1に記載のL-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14を含む、使用
【請求項8】
前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14が前記組成物中の金クラスター分子の混合物中の成分として使用される場合、前記L-NIBC結合金クラスター分子Au18(L-NIBC)14は、前記混合物中の少なくとも7%のクロマトグラフィー含有量を有する、請求項に記載の使用
【請求項9】
前記疾患は、多発性硬化症、アルツハイマー病(AD)、肝硬変、糖尿病、パーキンソン病(PD)、又は緑内障である、請求項又はに記載の使用
【国際調査報告】