(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-04
(54)【発明の名称】熱電子カソード用モノリシックヒーター
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20250128BHJP
H05B 3/14 20060101ALI20250128BHJP
【FI】
H01J37/06
H05B3/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542036
(86)(22)【出願日】2023-01-12
(85)【翻訳文提出日】2024-08-23
(86)【国際出願番号】 US2023060528
(87)【国際公開番号】W WO2023137360
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524264072
【氏名又は名称】アプライド フィジックス テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED PHYSICS TECHNOLOGIES, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100213333
【氏名又は名称】鹿山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルド ジー マゲラ
(72)【発明者】
【氏名】アーロン エム トロク
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル エイ ウェンリッチ
(72)【発明者】
【氏名】マシュー シー ザッピー
【テーマコード(参考)】
3K092
5C101
【Fターム(参考)】
3K092PP20
3K092QB15
5C101DD08
5C101DD14
5C101DD15
5C101DD18
(57)【要約】
熱電子カソードを加熱するためのモノリシックグラファイトヒーターは、第1および第2の導電性アームを含み、第1および第2の導電性アームのそれぞれは、近位端に電極マウント、遠位端に熱頂点、および電極マウントと熱頂点との間に遷移領域を有し、熱頂点のそれぞれを電気的かつ機械的に結合して、カソードマウントまたはその近傍に最大ジュール熱領域を形成し、遷移領域のそれぞれに沿ってジュール熱を減少させるカソードマウントと、該カソードマウントに形成されたプレスフィット開口部とを含み、プレスフィット開口部は、最大ジュール熱領域によって提供される作動熱電力生成に応じて、そこから生成される熱電子放出を促進するため、熱電子カソードの少なくとも一部を受け入れる大きさである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電子カソードを加熱するためのモノリシックグラファイトヒーターであって、
第1および第2の導電性アームであって、第1および第2の導電性アームのそれぞれは、近位端に電極マウント、遠位端に熱頂点、および前記電極マウントと前記熱頂点との間に遷移領域を有する第1および第2の導電性アームと、
熱頂点のそれぞれを電気的かつ機械的に結合して、カソードマウントまたはその近傍に最大ジュール熱領域を形成し、遷移領域のそれぞれに沿ってジュール熱を減少させるカソードマウントと、
前記カソードマウントに形成されたプレスフィット開口部であって、前記最大ジュール熱領域によって提供される作動熱電力生成に応じて、そこから生成される熱電子放出を促進するため、前記熱電子カソードの少なくとも一部を受け入れる大きさであるプレスフィット開口部と、
を備える、モノリシックグラファイトヒーター。
【請求項2】
遷移領域のそれぞれは、
長方形のベース、前記長方形のベースよりも小さい長方形の上部、一対の対向する切り取られた三角形の面、および前記一対の対向する切り取られた三角形の面間の均一な厚さを含む、
請求項1に記載のモノリシックグラファイトヒーター。
【請求項3】
前記最大ジュール熱領域は、
前記熱電子カソードの動作温度付近から、該動作温度の約10パーセント高い温度範囲で動作するように構成されている、
請求項1に記載のモノリシックグラファイトヒーター。
【請求項4】
前記温度範囲は、
約1,800ケルビンから約1,980ケルビンまでである、
請求項3に記載のモノリシックグラファイトヒーター。
【請求項5】
前記カソードマウントは、長方形の本体を含む、
請求項1に記載のモノリシックグラファイトヒーター。
【請求項6】
前記カソードマウントは、円筒形の本体を含む、
請求項1に記載のモノリシックグラファイトヒーター。
【請求項7】
前記第1の導電性アームの前記電極マウントの第1の開口部に配置された第1の電極と、
前記第2の導電性アームの前記電極マウントの第2の開口部に配置された第2の電極と、
をさらに備える、請求項1に記載のモノリシックグラファイトヒーター。
【請求項8】
電極マウントのそれぞれを固定するセラミックベースをさらに備える、
請求項1に記載のモノリシックグラファイトヒーター。
【請求項9】
請求項1に記載のモノリシックグラファイトヒーターと、
前記プレスフィット開口部に取り付けられた前記熱電子カソードと、
を備える、熱電子エミッタ。
【請求項10】
第1および第2の導電性アームの間の隙間に配置された機械的分離部の少なくとも一部をさらに備え、
前記機械的分離部は、前記プレスフィット開口部に取り付けられた前記熱電子カソードの組み立て中に安定性を提供するように構成されている、
請求項9に記載の熱電子エミッタ。
【請求項11】
熱電子エミッタを製造する方法であって、
モノリシックグラファイトヒーターを形成するステップと、
電極を電極マウントのそれぞれに結合するステップと、
前記カソードマウント内の材料を除去して、前記熱電子カソードの少なくとも一部を受け入れるための開口部をそこに画定するステップと、
を含み、
前記モノリシックグラファイトヒーターは、
第1および第2の導電性アームを有し、第1および第2の導電性アームのそれぞれは、近位端に電極マウント、遠位端に熱頂点、および前記電極マウントと前記熱頂点との間に遷移領域を有し、
前記モノリシックグラファイトヒーターは、
熱頂点のそれぞれを電気的かつ機械的に結合して、カソードマウントまたはその近傍に最大ジュール熱領域を形成し、遷移領域のそれぞれに沿ってジュール熱を減少させるカソードマウントを有する、
方法。
【請求項12】
前記形成する工程は、
前記モノリシックグラファイトヒーターを固体ブロックから機械加工することを含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記形成する工程は、
前記モノリシックグラファイトヒーターを成形するために原料を加熱することを含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記熱電子カソードを前記開口部に圧入するステップと、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記近位端を、セラミックベース上に取り付けるステップと、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
熱局在化領域で発生した作動熱電力に応じて、前記熱電子カソードから生成された熱電子放出を促進するために、前記モノリシックグラファイトヒーターを通して電流の流れを作動させるステップと、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記第1および第2の導電性アームを接続する分離部の少なくとも一部を除去することによって、前記第1および第2の導電性アームを分離するステップと、
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記材料を除去するステップは、
前記開口部をドリルで開けるステップを含む、
請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2022年1月12日に提出された米国仮特許出願第63/266,717号の優先権を主張するものであり、当該出願の開示全体を、本明細書に参照のために取り込む。
【技術分野】
【0002】
本開示は、一般的には熱電子エミッタに関する。特に、本出願は、熱電子カソードに熱を局在させるように形作られ、共通材料で形成されたヒーターに関する。
【背景技術】
【0003】
オレゴン州マクミンビルの Applied Physics Technologies, Inc. (APTech) は、熱電子および電界放出カソードの開発を専門としている。例えば、APTech は、CeBix(R) カソード (六ホウ化セリウム)、LaB6カソード (六ホウ化ランタン)、HfC カソード (ハフニウムカーバイド)、CFE、およびESEソースを提供している。同社のカソードは、顕微鏡検査、マイクロ分析、積層造形、ならびに製品およびワークフローに電子源を採用しているその他の業界など、さまざまな用途で使用されている。
【0004】
熱電子カソード源は、フェルミ-ディラック状態密度の高エネルギーテールが材料の仕事関数を超える温度まで加熱される。したがって、優れた熱電子エミッタは、仕事関数が低く、高温での材料安定性が良好で、真空適合性も良好である。熱電子カソード源の動作温度は、約1,800ケルビン以上であり、通常は、熱電子カソード源は、高真空(約 1E-6 mbar)から超高真空(約 1E-9 mbar)で動作する。
【0005】
熱電子カソード源を動作温度まで上げるヒーター構造は、通常、タングステン、レニウム、タンタル、モリブデンなどの耐火金属、またはそれらの組み合わせから形成される。全ての物理量は、温度依存性があるため、クリープ、熱膨張、蒸発、ドリフト、その他の物理量は、全て、ヒーター構造の設計に関係する。
【0006】
熱電子カソード源用の従来のヒーターの1つのタイプは、ミニ フォーゲル マウント(MVM)と呼ばれ、APTech から入手可能である。MVMは、前述の熱電子カソードを採用する熱電子エミッタのヒーターとして使用される。米国特許第7,544,523号の
図5は、典型的なMVMを示している。このMVMでは、2つのポストが厚いセラミックベースにしっかりと固定され、中心に向かって逆V字型に曲げられている。それらのポストは、通常、高温でも高い弾性率を維持するモリブデンレニウム合金またはその他の材料で作られている。組み立て中、それらのポストは、熱電子カソードおよび熱分解グラファイトブロックを受け入れるためにわずかに広げられる。その後、それらのポストを解放すると、熱電子カソードおよび熱分解グラファイトブロックは、それらのポストの締め付け力によって所定の位置に保持される。ただし、MVMの一般的な故障モードは、動作中または複数のMoReポストの緩和中に、熱電子カソード源に生じる応力破壊である。
【0007】
ヒーターの他の例としては、標準形状に機械加工されたフィラメント、および従来のワイヤまたはリボンフィラメントがある。耐火金属ワイヤまたはリボンである長くて細いフィラメントには、温度および機械的安定性の問題がある。例えば、フィラメント(ワイヤ)は、再結晶化、スポット溶接のばらつき、熱による応力緩和により、時間の経過とともに物理的に変化したり、動いたりすることがある。
【発明の概要】
【0008】
開示されているモノリシックヒーターは、フィラメントとして機能する最も高温の部分が熱電子カソード源に最適な位置にあるように、形状および構造が設計されている。構造の選択可能な限定領域は、フィラメントの形状を調整することによって高温にされる。フィラメントは、単一の材料から構成されている。モノリシックデバイスは、機械的ストレスに関して、グラファイトが2,000ケルビンでの金属に比べて熱膨張係数が低いため、機械的に安定している。機械的安定性が向上すると、電子ビームの動きが少なくなると考えられている。開示されている実施形態は、フィラメントの焼損リスクを軽減し、ヒーターの安定性および動作寿命を改善し、放射損失を減らし、所定の(標準)電源でより高い動作温度を可能にし、大きな物体を加熱する能力を備えている。
【0009】
一態様では、熱電子カソードを加熱するためのモノリシックグラファイトヒーターは、第1および第2の導電性アームを含む。第1および第2の導電性アームのそれぞれは、近位端に電極マウント、遠位端に熱頂点、および電極マウントと熱頂点との間に遷移領域を有する。モノリシックグラファイトヒーターは、また、熱頂点のそれぞれを電気的かつ機械的に結合して、カソードマウントまたはその近傍に最大ジュール熱領域を形成し、遷移領域のそれぞれに沿ってジュール熱を減少させる。モノリシックグラファイトヒーターは、カソードマウントに形成されたプレスフィット開口部を有する。プレスフィット開口部は、最大ジュール熱領域によって提供される作動熱電力生成に応じて、そこから生成される熱電子放出を促進するため、熱電子カソードの少なくとも一部を受け入れる大きさである。
【0010】
さらなる特徴および利点は、添付の図面を参照して進められる以下の実施形態の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
特定の要素または行為の説明を簡単に識別できるように、参照番号の最上位の数字は、その要素が最初に導入された図の番号を指す。
【0012】
【
図1】一実施形態に係るヒーターのカソードマウントに取り付けられた円筒形の熱電子カソードを加熱するためのモノリシックグラファイトヒーターの図である。
【
図2】カソードマウントに開口部をあけ、それぞれの電極ベースに電極を合わせる前の、
図1に示すモノリシックグラファイトヒーターの等角図である。
【
図3】組み立てられた状態の
図1のモノリシックグラファイトヒーターを示す熱電子エミッタの等角図である。
【
図4】
図1に示すモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示すマルチフィジカルソフトウェアシミュレーションのParaView視覚化画像である。
【
図5】
図1に示すモノリシックグラファイトヒーターの側面図の表面温度勾配モデルを示す別のシミュレーション画像である。
【
図6】
図1に示すモノリシックグラファイトヒーターのカソードマウントの側面図での熱試験の結果を示す熱画像ソフトウェアアプリケーションの画像キャプチャである。
【
図7】
図6の熱画像ソフトウェアアプリケーションの画像キャプチャであり、
図1に示すモノリシックグラファイトヒーターのカソードマウントの平面図における熱試験の結果である。
【
図8】別のモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示す別のParaView視覚化画像である。
【
図9】
図8に示すモノリシックグラファイトヒーターの側面図の表面温度勾配モデルを示す別のシミュレーション画像である。
【
図10】カソードマウントでの局所加熱を欠くモノリシックグラファイトヒーターの他のバリエーションの等角図である。
【
図11】別の実施形態に係る熱電子カソードソースのマウントを示す等角図のシーケンスの第1の部分である。
【
図12】別の実施形態に係る熱電子カソードソースのマウントを示す等角図のシーケンスの第2の部分である。
【
図13】一実施形態に係る熱電子エミッタの製造方法のフローチャートである。
【
図14】円筒形のカソードマウントを有するモノリシックグラファイトヒーターである。
【
図15】熱電子カソードが埋め込まれた段付き円筒形のカソードマウントを有するモノリシックグラファイトヒーターである。
【
図16】別の実施形態に係るモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示すマルチフィジカルソフトウェアシミュレーションのParaView視覚化画像である。
【
図17】別の実施形態に係るモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示すマルチフィジカルソフトウェアシミュレーションのParaView視覚化画像である。
【
図18】別の実施形態に係るモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示すマルチフィジカルソフトウェアシミュレーションのParaView視覚化画像である。
【
図19】別の実施形態に係るモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示すマルチフィジカルソフトウェアシミュレーションのParaView視覚化画像である。
【
図20】別の実施形態に係るモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示すマルチフィジカルソフトウェアシミュレーションのParaView視覚化画像である。
【
図21】別の実施形態に係るモノリシックグラファイトヒーターのジュール熱勾配モデルを示すマルチフィジカルソフトウェアシミュレーションのParaView視覚化画像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、熱電子カソード102を加熱するためのモノリシックグラファイトヒーター100を示す図である。モノリシックグラファイトヒーター100は、第1の導電性アーム104と第2の導電性アーム106とを含む。
【0014】
第1の導電性アーム104は、近位端110に第1の電極マウント108、遠位端114に第1の熱頂点112、および第1の電極マウント108と第1の熱頂点112との間に第1の遷移領域116を含む。第1の電極118は、第1の電極マウント108の第1の開口部120に配置される。グロメット142は、第1の電極118に押し付けられた円形のリングである。
【0015】
同様に、第2の導電性アーム106は、近位端110に第2の電極マウント122、遠位端114に第2の熱頂点124、および第2の電極マウント122と第2の熱頂点124との間に第2の遷移領域126を含む。第2の電極128は、第2の電極マウント122の第2の開口部130に配置される。グロメット144は、第2の電極128に押し付けられた円形のリングである。
【0016】
カソードマウント132は、第1の熱頂点112と第2の熱頂点124との間に架け渡され、熱頂点のそれぞれを電気的および機械的に結合して、カソードマウント132に隣接し、第1の遷移領域116および第2の遷移領域126のそれぞれに沿って減少する最大ジュール熱領域134を形成する。したがって、最大ジュール熱領域134は、一定電流に対して抵抗が最も高い領域である。
【0017】
カソードマウント132は、プレスフィット開口部136が形成されている。プレスフィット開口部136は、最大ジュール熱領域134によって提供される作動熱電力生成に応じて、そこから生成される熱電子放出を促進するために、熱電子カソード102の少なくとも一部(例えば、底部の円筒形セクション)を受け入れる大きさになっている。モノリシックグラファイトヒーター100は、電流が片側を上向きに流れ、反対側を下向きに流れるという点でフィラメントのように動作する。加熱についてのさらなる詳細は、
図4-
図7を参照して後に示され、説明される。
【0018】
熱電子カソード102は、モノリシックグラファイトヒーター100のプレスフィット開口部136に圧入されるため、溶接は不要である。これにより、熱電子カソード102の形状の設計スペースが広くなり、放出特性が向上する。さらに、モノリシックグラファイトヒーター100は、一体型の機械加工されたグラファイトで作られているため、ホウ化物または炭化物などの硬質材料を、圧入時に破損することなく受け入れることができる。
【0019】
いくつかの実施形態では、モノリシックグラファイトヒーター100は、1つの材料から機械加工される。モノリシックグラファイトヒーター100は、第1の導電性アーム104と第2の導電性アーム106との間に機械的分離部138を備えて機械加工されるため、モノリシックグラファイトヒーター100は、熱電子カソード102の機械加工および取り付けの際に安定する。
図1は、機械的分離部138の少なくとも一部がギャップ140内に配置されていることを示している。
【0020】
図2は、プレスフィット開口部136をドリルで開ける前、および第1の電極118と第2の電極128を結合する前のモノリシックグラファイトヒーター100を示している。いくつかの実施形態では、モノリシックグラファイトヒーター100は、精密機械加工、成形、焼結、放電加工(EDM)を使用して形成されることが可能であり、または、3Dプリントされることが可能である。さらに、カソードマウント132は、さまざまな形状(例えば、長方形、円筒形、あるいは、さまざまな熱電子カソードソースを取り付けるためのその他の形状)を有することができる。さまざまな形状の例は、
図14および
図15に示されている。
【0021】
図2は、それぞれの電極マウントおよび遷移領域の詳細も示している。いくつかの実施形態では、それぞれの遷移領域には、長方形のベース202、長方形のベース202よりも小さい長方形の上部204、一対の対向する切り取られた三角形の面206、および一対の対向する切り取られた三角形の面206間の均一な厚さ208が含まれる。
【0022】
いくつかの実施形態では、それぞれの電極マウントは椅子型をしている。例えば、第1の電極マウント108は、第1の電極118(
図1)を収容するための座面210と、第1の遷移領域116がそこから延びる背部212と、を含む。
【0023】
図3は、セラミックヒーターベース302上に取り付けられた機械加工されたモノリシックグラファイトヒーター100、カソードマウント132に圧入された熱電子カソード102、ならびに第1電極118および第2電極128を含む熱電子エミッタ300を示す。
【0024】
セラミックヒーターベース302は、片側が第1電極118および第2電極128にろう付けされており、もう片側が近位端110に面している。第1電極118および第2電極128は、グロメット142、144で固定されているため、溶接は不要である。これにより、機械的な安定性も向上する。スポット溶接の完全性は多くのパラメータに依存するため、この取り付け方式は機械加工公差に依存しており、機械加工公差はより制御可能である。スポット溶接の位置を、0.001インチ以内に正確に制御することは、0.001インチの機械加工公差を維持することよりも困難である。
【0025】
図3は、垂直レイアウトの熱電子エミッタ300を示しているが、当業者であれば、水平レイアウトまたは他の方向も可能であることがわかる。熱電子エミッタ300は、既存の顧客ソースに後付けする(つまり、複数のMVMを置き換える)ことも可能である。
【0026】
ジュール熱を受けたワイヤに関する[次式1]の1次元の時間に依存しない熱方程式は、温度に依存する係数と動作温度での無視できない黒体放射により高度に非線形となるヒーター構造の物理特性を記述している。この方程式は、1次元の場合であっても、フィラメント(加熱されたワイヤ)などの最も単純なヒーター形状であっても、解析的に扱いにくいものである。
【数1】
【0027】
熱伝導率k(T)、抵抗率ρ(T)、放射率
は、全て温度に依存する。さらに、k(T)は導関数内にあるため、2次導関数に非線形性が生じ、T
4項による別の非線形性も生じる。
【0028】
数値的手法は、さまざまなヒーター形状および材料について定量的な結果を得るために採用されている。開示されたヒーター構造の設計には、マルチフィジカルシミュレーションソフトウェア(例えば、オープンソースソフトウェアとして入手可能な Elmer FEM)および視覚化ツール(例えば、ニューメキシコ州ロスアラモスの Sandia National Laboratories、Kitware Inc.が開発したParaView ソフトウェア)が使用されている。
【0029】
図4は、このような数値的方法の結果を、テーパー構造におけるジュール熱の相対的な大きさを示すモノリシックグラファイトヒーター100のジュール熱シミュレーションビュー400の形で示している。テーパー形状のため、ジュール熱勾配402は、それぞれの遷移領域で増加し、カソードマウント132に隣接する最大ジュール熱領域134に達する。ジュール熱は、それぞれの頂点付近で最大になり、複数のアームで減少する。テーパー状の複数のアームは、ベースに十分な熱を伝導するため、カソードマウント132付近に「ピンチポイント」が作成され、複数のアームが十分に冷えて燃え尽きることはない。他のいくつかの実施形態では、最大ジュール熱領域は、カソードマウント自体に存在する場合がある。
【0030】
単位体積あたりのジュール熱電力は、表面積の放射損失と断面積を通した伝導損失とのバランスが取れており、加熱構造上のどの点の温度も、熱電子カソード102の動作温度に可能な限り近くなる。真空中で加熱される場合、エネルギーが失われるのは伝導および放射のみである。CADとマルチフィジックスソルバーを使用してジオメトリを最適化することで、伝導損失と放射損失とのバランスが取れるように構造を設計し、ヒーター構造を安全な動作温度に保ち、耐用年数を延ばすことができる。この目的のために、正味の電力損失を調整できる。
【0031】
さらに、一般的な電源の実現可能な制限内に収まるように、総電力の入力は、可能な限り最小限に抑えられる。電力の最小化は、一部の使用ケースでは望ましいが、全ての使用ケースで望ましいわけではない。最小電力の入力で動作することは、電源の制限およびエミッタ環境での熱損失を考慮すると望ましいが、機械的安定性およびヒーターの寿命が最適化されている場合は、より高い電力の入力も許容される可能性がある。
【0032】
図5は、モノリシックグラファイトヒーター100の温度分布500の熱モデル化の例を示している。この例では、熱電子カソード102が、約1,800ケルビンに加熱される。動作温度1,800ケルビンでは、最も熱い部分は、熱頂点に集中している。また、それぞれのアームは、ベースに向かって伸びるにつれて大きくなるため、それぞれのアームは、より多くの電力を伝導し、複数のアームの電力生成が低下する。単位体積あたりのピーク電力生成も熱頂点で最大になる。
【0033】
図6は、熱電子カソード102として、600μmのCeB6結晶を備えたモノリシックグラファイトヒーター100の熱画像600のテスト結果の例を示している。テストのデータは下表に示されており、熱画像600は、[表1]のTgrightを中心としている。カソードマウント132(Tgleft、Tgright)は、結晶がマウントされている部分で、結晶の端(Tcrystal)よりも低温である。構造における複数のアームは、非常に急速に冷却されるため、温度がデバイスの能力を下回る。
【0034】
【0035】
図7は、熱電子カソード102として、600μmのCeB6結晶を備えたモノリシックグラファイトヒーター100の熱画像700の追加のテスト結果の例を示しており、熱画像700は、Tcrystalを中心としている。この例では、結晶は、1,800ケルビン(放射率@.77)に設定されている。熱画像600のROI2温度は、熱画像700のROI4温度と似ている。
【0036】
図8および
図9は、カソードマウントで熱を局所化しない別の設計の例を示している。例えば、
図8は、ジュール熱がアームで最大であることを示している。熱伝導率が十分に高くないため、ベースに十分な熱を伝導できず、熱電子エミッタの動作温度でアームが焼損する(
図9参照)。言い換えると、カソードマウントと比較して、アームでの電力生成が高すぎる。
【0037】
下表は、
図8および
図9の構造(ワイヤフィラメント設計に典型的な細長いアームを持つ)とモノリシックグラファイトヒーター100との比較を示している。
【表2】
【0038】
[表2]に示されているように、1,800ケルビンでは、カソードマウント(Tcenter)は、結晶よりもわずかに高温になり、アームは少なくとも300ケルビンより高温になる。この高温では、アームは故障する。また、同じ温度で、モノリシックグラファイトヒーター100の全体的な電力は低くなる。
【0039】
図10は、望ましくない熱局所領域の動作に関するその他の不具合を示している。初期の試みでは、アームの断面積を最小限に抑える試みが行われた。これにより、薄いセクションを持つフィラメントを製造する際に、(a)梱包/出荷中の実現可能な歩留まりおよび耐久性、ならびに、(b)開口部の穴あけおよび結晶のプレスに耐える構造的完全性という2つの問題が発生した。フィラメントがこのような薄いセクションを持つように作られ、内部または外部に切り離された箇所の支持が無い場合、アームはカソードを取り付ける際のストレスで簡単に折れてしまう。
【0040】
図11および
図12は、熱電子エミッタ300の組み立てシーケンス1100を示しており、開口部の穴あけ、プレスフィット開口部136での結晶のプレス、および構造の切断の段階的なプロセスを示している。切断は、電極間に電流が流れる1つの経路があることを確保するために必要である。当業者は、比較的大きなモノリシック構造が、溶接、バネ、ネジ、エポキシ、またはその他の材料を使用して組み立てられたマルチピース構造よりも機械的に安定していることを理解する。
【0041】
図13は、熱電子エミッタを製造する方法1300を示している。ブロック1302において、熱電子エミッタを製造する方法1300は、モノリシックグラファイトヒーター100(
図1)を形成するステップを必要とする。モノリシックグラファイトヒーター100を形成するステップは、固体ブロックからの機械加工、材料の成形、焼結、EDMを使用した成形、または、3D印刷をするステップを必要としてよい。ブロック1304において、熱電子エミッタを製造する方法1300は、電極を電極マウントのそれぞれに結合させるステップを必要とする。ブロック1306において、熱電子エミッタを製造する方法1300は、カソードマウント内の材料を除去して(例えば、穴あけ)、熱電子カソードの少なくとも一部を受け入れるための開口部をカソードマウントに画定するステップを必要とする。他の実施形態では、異なるカソード形状を受け入れるために、異なる機械加工された特徴(例えば、スロット、ポケット、または突起)が形成されてよい。
【0042】
ヒーターが入るデバイスの形状によって、ヒーターの形状が決まる。例えば、前述の実施形態は、MVMの代替として適しているため、実施形態は、同じ型の因子、電源、電子仕様に適合してよい。
図16-
図21は、熱を局所化するモノリシックグラファイトヒーターのいくつかのバリエーションを示しているが、さまざまな使用ケースに合わせて形状が異なる。例えば、
図16は、細長いバージョンを示している。
【0043】
図17は、高さの低いバージョンを示している。このバージョンでは、熱頂点は、構造に沿って、第1の電極から第2の電極まで移動する中間点にある。
図17のバージョンは、
図8および
図9に示されているバージョンと比較すると、結晶マウントのサイズおよび結晶のサイズ(熱質量)が異なり、その結果、熱頂点が中央に向かっている。
【0044】
図18は、より高温のバージョン1800を示している。このバージョン1800において、側壁1802は、まっすぐな側壁ではなく、ベース1804から熱頂点1806の方向に凹状に湾曲しており、実質的に凹状の三角形の面1808を形成している。これらの面1808は、まっすぐな三角形の面に比べて表面積が小さいため、最大ジュール熱が効果的に増加する。
【0045】
図19は、三角形のアームが、主面が互いに向き合わないように配置されている別のバリエーションを示している。
【0046】
図20は、各アームに開口部がある別のバリエーションを示している。これにより、脚部の熱損失が低減され、機械的安定性を過度に損なうことなく効率が向上する。
【0047】
図21は、開口部がベースから熱頂点まで延び、それによって各脚が分岐する別の変形例を示している。
【0048】
当業者は、開示の基本原理から逸脱することなく、上記の実施形態の詳細に多くの変更を加えることができることを理解するであろう。例えば、開示されたヒーターは、他の耐火金属、ホウ化物、または炭化物を含むグラファイト以外の材料から作ることができる。さらに、熱の局所化は、熱カソード源以外のロッド、金属ワイヤ、金属コイル、または他のデバイスを加熱するために使用することができる。したがって、本発明の範囲は、以下の請求項および同等物によってのみ決定されるべきである。
【符号の説明】
【0049】
100 モノリシックグラファイトヒーター
102 熱電子カソード
104 第1の導電性アーム
106 第2の導電性アーム
108 第1の電極マウント
110 近位端
112 第1の熱頂点
114 遠位端
116 第1の遷移領域
118 第1の電極
120 第1の開口部
122 第2の電極マウント
124 第2の熱頂点
126 第2の遷移領域
128 第2の電極
130 第2の開口部
132 カソードマウント
134 最大ジュール熱領域
136 プレスフィット開口部
138 機械的分離部
140 ギャップ
142 グロメット
144 グロメット
202 長方形のベース
204 長方形の上部
206 切り取られた三角形の面
208 厚さ
210 座面
212 背部
300 熱電子エミッタ
302 セラミックヒーターベース
400 ジュール熱シミュレーションビュー
402 ジュール熱勾配
500 温度分布
600 熱画像
700 熱画像
1100 組み立てシーケンス
1300 熱電子エミッタを製造する方法
1302 ブロック
1304 ブロック
1306 ブロック
1800 バージョン
1802 側壁
1804 ベース
1806 熱頂点
1808 面
【国際調査報告】