(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-06
(54)【発明の名称】原料組成物、熱硬化性PAN系中間膜及びその製造方法、電気化学装置
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20250130BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250130BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20250130BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20250130BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/052
H01M10/0565
H01M10/058
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024538729
(86)(22)【出願日】2022-12-26
(85)【翻訳文提出日】2024-06-24
(86)【国際出願番号】 CN2022142124
(87)【国際公開番号】W WO2023125462
(87)【国際公開日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】202111609879.6
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524239726
【氏名又は名称】合肥国▲軒▼高科▲動▼力能源有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100158920
【氏名又は名称】上野 英樹
(72)【発明者】
【氏名】朱 冠楠
(72)【発明者】
【氏名】李 洋
(72)【発明者】
【氏名】▲許▼ 涛
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲義▼▲飛▼
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA03
5G301CA05
5G301CA06
5G301CA08
5G301CA12
5G301CA15
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA25
5G301CA28
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE01
5H029AJ06
5H029AK03
5H029AL12
5H029HJ01
5H029HJ14
(57)【要約】
本発明では、原料組成物、熱硬化性PAN系中間膜及びその製造方法、電気化学装置が提供されている。かかる原料組成物は、熱硬化型PAN系ポリマー材料、リチウム塩、及び改質助剤を含み、熱硬化型PAN系ポリマー材料とリチウム塩との質量比は20:1~3:1、熱硬化型PAN系ポリマー材料と改質助剤との質量比は18:1~3:1であり、改質助剤は、カーボネート系改質助剤、ニトリル系改質助剤、及びイオン液体系改質助剤から選ばれる1種又は数種の組み合わせを含む。本発明ではさらに、原料組成物を予備混合してから溶融押出を行い、その後に押出されたプロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで製造された熱硬化型PAN系中間膜が提供されている。本発明では、改質助剤を用いることにより、PAN系ポリマーの融点を低減させ、溶融過程中でその熱分解が発生しないことを確保することができ、それに加えて、膜のリチウムイオン導電率を向上させることもできる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物であって、
前記原料組成物は、熱硬化型PAN系ポリマー材料、リチウム塩、及び改質助剤を含み、
前記熱硬化型PAN系ポリマー材料とリチウム塩との質量比は20:1~3:1、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料と前記改質助剤との質量比は18:1~3:1であり、
前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤、ニトリル系改質助剤、及びイオン液体系改質助剤から選ばれる1種又は数種の組み合わせを含む、ことを特徴とする原料組成物。
【請求項2】
前記原料組成物はセラミック材料をさらに含み、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料の総重量を100%とすると、前記セラミック材料の使用量は5~80wt%であり、
好ましくは、前記セラミック材料の使用量は10~50wt%であり、
さらに好ましくは、前記セラミックス材は、無機イオン伝導体及び/又は無機非イオン伝導体を含み、
より好ましくは、前記無機イオン伝導体は、酸化物、ハロゲン化物、硫化物、窒化物及び炭化物から選ばれる1種又は数種を含み、前記無機非イオン伝導体は、金属酸化物及び非金属酸化物から選ばれる1種又は数種を含み、
さらに好ましくは、前記セラミックス材料は、チタン含有酸化物、アルミニウム含有酸化物、ホウ素含有酸化物、ジルコニウム含有酸化物及びケイ素含有酸化物から選ばれる1種又は数種を含み、
よりさらに好ましくは、前記セラミックス材料は、シリカ、アルミナ、リン酸チタンアルミニウムリチウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸エステルリチウム、ジルコニウム酸リチウム、ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸素、リチウムインジウムクロロハロゲン化物、硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物、ホウ素水素化リチウム、及びリチウムランタンジルコニウムタンタル酸素高速イオン伝導体から選ばれる1種又は数種の組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の原料組成物。
【請求項3】
前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤又はニトリル系改質助剤であり、
好ましくは、前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤である、ことを特徴とする請求項1に記載の原料組成物。
【請求項4】
前記カーボネート系改質助剤は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブテンカーボネート、メチルエチルカーボネートから選ばれる1種又は数種を含み、
さらに好ましくは、前記ニトリル系改質助剤は、ブチロニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ヘキサニトリル、ヘキサンジニトリル、ヘプタニトリル、オクタンニトリル、ノニトリル、n-ドデカニトリル、n-トリデカノニトリル、n-テトラデカノニトリルから選ばれる1種又は数種を含み、
さらに好ましくは、前記イオン液体系改質助剤中のカチオンは、アルキル四級アンモニウムカチオン、アルキル四級ホスホニウムカチオン、N,N-ジアルキルイミダゾールカチオン、N-アルキルピリジンカチオンから選ばれる1種または数種を含み、そのアニオンは、ハロゲンイオン、酢酸塩イオン、硝酸塩イオン、テトラフルオロホウ酸塩イオン、トリフルオロ酢酸塩イオンから選ばれる1種又は数種を含む、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の原料組成物。
【請求項5】
前記リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、ビスシュウ酸ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドから選ばれる1種又は数種を含み、
好ましくは、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料は、アクリロニトリルまたはその誘導体、イタコン酸またはその誘導体を含むモノマーを共重合したものである、ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の原料組成物。
【請求項6】
前記熱硬化型PAN系ポリマー材料は熱硬化型PAN系ポリマー繊維であり、単位膜長さ当たりの前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は1×10
3~1×10
7/cmであり、前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は50nm~2μmであり、
単位膜長さ当たりの前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は、以下の式1)により算出したものであり、
(数1)
N=4ρ’/(dρ) 式1)
前記式1)中、ρ’は前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の中間の圧密密度で、単位がg/cm
3であり、ρは前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度で、単位がg/cm
3であり、dは前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の平均直径で、単位がcmである、ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の原料組成物。
【請求項7】
熱硬化型PAN系中間膜を製造するための製造方法であって、
原料組成物を予備混合してから溶融押出を行い、その後に押出されたプロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得することを含み、
前記原料組成物は、前記熱硬化型PAN系中間膜を製造するための請求項1乃至6の何れか一項に記載の原料組成物である、ことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記溶融押出の温度は80~350℃であり、好ましくは120~300℃である、ことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記製造方法は、
工程(1):前記熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物を予備混合することで、予備混合済み材料を獲得する工程と、
工程(2):前記予備混合済み材料に対して溶融押出を行うことで、プロトタイプ厚膜を獲得する工程と、
工程(3):前記プロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得する工程と、
を含むか、または、
工程(1)′:前記熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物中の熱硬化型PAN系ポリマー材料及び改質助剤を予備混合することで、予備混合済み材料を獲得する工程と、
工程(2)′:前記予備混合済み材料に対して溶融押出を行うことで、プロトタイプ厚膜を獲得する工程と、
工程(3)′:前記プロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、中間膜製品を獲得する工程と、
工程(4)′:前記中間膜製品をリチウム塩溶液に浸漬し又は前記中間膜製品の両側にリチウム塩溶液を均一に噴射し、その後乾燥を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得する工程と、
を含み、
好ましくは、前記工程(2)及び前記工程(2)′では、前記溶融押出に用いられる装置はそれぞれ独立的にボールミル、密閉式混合機、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、造粒機から選ばれる1種又は数種の組合せを含み、
さらに好ましくは、前記工程(2)及び前記工程(2)′では、前記プロトタイプ厚膜の厚さはそれぞれ独立的に100μm~2mmであり、
さらに好ましくは、前記工程(3)及び前記工程(3)′では、前記延伸処理はそれぞれ独立的に横方向延伸、縦方向延伸、または双方向延伸を含み、
さらに好ましくは、前記工程(4)′では、前記乾燥温度は70~90℃であり、
さらに好ましくは、前記工程(4)′では、前記リチウム塩溶液に用いられる溶媒は、イソプロパノール及び/又はジメチルエーテルを含む、ことを特徴とする請求項7または8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項7乃至9の何れか一項に記載の製造方法によって製造された、ことを特徴とする熱硬化型PAN系中間膜。
【請求項11】
前記熱硬化型PAN系中間膜は液体電解質セパレータ又は固体電解質膜であり、
前記固体電解質膜の厚さは好ましくは1~100μm、より好ましくは5~60μm、さらに好ましくは15~30μmであり、
さらに好ましくは、前記固体電解質膜の圧密密度の範囲は、0.8~4.5g/cm
3である、ことを特徴とする請求項10に記載の熱硬化型PAN系中間膜。
【請求項12】
液体電気化学装置及び固体電気化学装置を含み、前記液体電気化学装置にはセパレータが含まれ、前記固体電気化学装置には固体電解質膜が含まれる電気化学装置であって、
前記セパレータは請求項11に記載の液体電解質セパレータ、前記固体電解質膜は請求項11に記載の固体電解質膜である、ことを特徴とする電気化学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料組成物、熱硬化性PAN系中間膜及びその製造方法、電気化学装置に関し、かかる中間膜には液体電気化学装置用のセパレータ及び固体電気化学装置用の固体電解質膜が含まれ、電気化学エネルギー貯蔵装置の肝心な材料の設計及び製造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
現在、大規模商業化されたリチウムイオン電池には通常、有機カーボネート系液体電解液が用いられるため、液漏れ、燃焼、爆発などの安全問題が存在し、しかも電池エネルギー密度の絶え間ない向上につれて、その安全性は絶え間なく低下していき、これはリチウムイオン電池の発展を制約する重大な要素となっている;液体リチウムイオン電池に用いられる中間セパレータは、その熱安定性及び機械的強度が電池の安全性に極めて重要な役割を負担している。一方では、自身にイオン伝導機能が備えられたセパレータを利用する場合、電解液の使用量を大幅に低減させるとともに、セパレータの高耐熱性と高強度特性を組み合わせれば液体電池の安全性を総合的に向上させることができる。他方では、電池の安全性の問題を根本的に解決するために、既存の電解液と一般的なセパレータの代わりに固体電解質を用いて形成した固体電池は、優れた安全性、高エネルギー密度、及び広範な作業温度範囲を兼ね備えており、商業化が最も有望な次世代リチウムイオン電池の1つとして公認されている。
【0003】
現在までに、固体電池電解質としては、硫化物電解質、酸化物電解質、ポリマー電解質及びハロゲン化物電解質などの様々な種別の固体電解質材料が挙げられる。その中で、ポリマー電解質は最も優れた加工性能を有し、最も早く産業化応用に推進されることが有望な固体電解質の種別であると認められており、一方、PAN系ポリマー電解質は高いリチウムイオン導電率を有することから広く注目され、研究されている。その中で、中国特許CN110165291Aには、液体電解質に匹敵するPAN系複合電解質及びその製造方法が開示されており、噴出紡糸(blown spinning)などの技術によって大量の比界面積が構築され、表面リチウムイオン伝導法によってPAN系ポリマー電解質のイオン導電率が大幅に向上していき、但し、噴出紡糸技術に所要する装置は高精度が要求されているため、収率が低く、一致性が悪く、連続化生産の難度が高く、その産業化発展が抑制され、一方、熱硬化型PAN系ポリマーの熱分解温度がその融点温度より低いため、伝統的な溶融押出延伸による高分子成膜技術はこのようなポリマー電解質の製造方法に順調に適用することができない。
【0004】
したがって、熱硬化型PAN系中間膜を製造するための新規な原料組成物、製造方法、及びその使用を提供することは、すでに本分野で一刻も早く解決しなければならない課題となっている。
【発明の概要】
【0005】
上記の欠点及び不足を解決するために、本発明の一目的は、熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物を提供することにある。
【0006】
本発明の別の一目的は、熱硬化型PAN系中間膜を製造するための製造方法を提供することにある。
【0007】
本発明のさらに別の一目的は、熱硬化型PAN系中間膜を提供することにある。
【0008】
本発明の最後の一目的は、電気化学装置を提供することにある。
【0009】
上記の目的を実現するために、本発明の一態様では、熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物であって、前記原料組成物は、熱硬化型PAN系ポリマー材料、リチウム塩、及び改質助剤を含み、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料とリチウム塩との質量比は20:1~3:1、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料と前記改質助剤との質量比は18:1~3:1であり、前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤、ニトリル系改質助剤、及びイオン液体系改質助剤から選ばれる1種又は数種の組み合わせを含む、原料組成物が提供されている。
【0010】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記原料組成物はセラミック材料をさらに含み、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料の総重量を100%とすると、前記セラミック材料の使用量は5~80wt%である。
【0011】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記セラミックス材料の使用量は10~50wt%である。
【0012】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記セラミックス材は、無機イオン伝導体及び/又は無機非イオン伝導体を含む。
【0013】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記無機イオン伝導体は、酸化物、ハロゲン化物、硫化物、窒化物及び炭化物から選ばれる1種又は数種を含み、前記無機非イオン伝導体は、金属酸化物及び非金属酸化物から選ばれる1種又は数種を含む。
【0014】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記セラミックス材料は、チタン含有酸化物、アルミニウム含有酸化物、ホウ素含有酸化物、ジルコニウム含有酸化物及びケイ素含有酸化物から選ばれる1種又は数種を含む。
【0015】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記セラミックス材料は、シリカ、アルミナ、リン酸チタンアルミニウムリチウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸エステルリチウム、ジルコニウム酸リチウム、ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸素、リチウムインジウムクロロハロゲン化物、硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物、ホウ素水素化リチウム、及びリチウムランタンジルコニウムタンタル酸素高速イオン伝導体から選ばれる1種又は数種の組み合わせを含む。ここで、本発明に用いられるセラミックス材料は何れも市販で入手可能なものか、または既存の一般的な方法によって製造可能なものである。
【0016】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤又はニトリル系改質助剤である。熱硬化型PAN系中間膜を製造する際に改質助剤を用いることにより、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料の融点を熱分解温度以下に低下させることができ、さらに溶融延伸法により熱硬化型PAN系ポリマー繊維が得られるように確保することができる。
【0017】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤である。
【0018】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記カーボネート系改質助剤は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブテンカーボネート、メチルエチルカーボネートから選ばれる1種又は数種を含む。
【0019】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記ニトリル系改質助剤は、ブチロニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ヘキサニトリル、ヘキサンジニトリル、ヘプタニトリル、オクタンニトリル、ノニトリル、n-ドデカニトリル、n-トリデカノニトリル、n-テトラデカノニトリルから選ばれる1種又は数種を含む。
【0020】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記イオン液体系改質助剤中のカチオンは、アルキル四級アンモニウムカチオン、アルキル四級ホスホニウムカチオン、N,N-ジアルキルイミダゾールカチオン、N-アルキルピリジンカチオンから選ばれる1種または数種を含み、そのアニオンは、ハロゲンイオン、酢酸塩イオン、硝酸塩イオン、テトラフルオロホウ酸塩イオン、トリフルオロ酢酸塩イオンから選ばれる1種又は数種を含む。本発明の幾つかの実施例では、前記イオン液体系変性助剤は、ジメチルオクタデシルヒドロキシエチルニトロアンモニウムであってもよい。
【0021】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、ビスシュウ酸ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドから選ばれる1種又は数種を含む。
【0022】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料は、アクリロニトリルまたはその誘導体、イタコン酸またはその誘導体を含むモノマーを共重合したものである。
【0023】
本発明による以上に記載の原料組成物の具体的な一実施形態として、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料は熱硬化型PAN系ポリマー繊維であり、単位膜長さ当たりの前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は1×103~1×107/cmであり、前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は50nm~2μmであり、単位膜長さ当たりの前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は、以下の式1)により算出したものであり、
(数1)
N=4ρ’/(dρ) 式1)
前記式1)中、ρ’は前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の中間の圧密密度で、単位がg/cm3であり、ρは前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度で、単位がg/cm3であり、dは前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の平均直径で、単位がcmである。
【0024】
本発明の他の一態様では、熱硬化型PAN系中間膜を製造するための製造方法であって、原料組成物を予備混合してから溶融押出を行い、その後に押出されたプロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得することを含み、前記原料組成物は、前記熱硬化型PAN系中間膜を製造するための以上に記載の原料組成物である、製造方法が提供されている。
【0025】
本発明では、押出されたプロトタイプ厚膜に対して延伸処理を行うことで、単位膜面積当たりの熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数、高分子界面の数、セラミック材料と高分子界面(セラミック材料が用いられる場合)の数を高めることができ、得られた熱硬化型PAN系中間膜に、熱硬化型PAN系ポリマー繊維が凝集したり、セラミック材料がランダムに堆積/凝集又は分散したりすることにより高分子界面、及びセラミック材料と高分子界面(セラミック材料が用いられる場合)が共同で形成された三次元相互貫入型構造の形態構造を持たせ、それによって、前記熱硬化型PAN系中間膜のイオン導電率を向上させつつ、前記熱硬化型PAN系中間膜が最終的に所要する厚さに達することを確保することができる。
【0026】
本発明で提供される熱硬化型PAN系中間膜では、セラミック材料が三次元相互貫入ポリマー相の間に凝集/堆積または分散の形態でランダムに分布されており、それによってポリマーの非結晶領域を広め、固体電解質の界面数を増加させ、リチウム塩の解離を促進するなどができる。
【0027】
本発明による以上に記載の熱硬化型PAN系中間膜を製造するための製造方法の具体的な一実施形態として、前記溶融押出の温度は80~350℃、好ましくは120~300℃である。
【0028】
前記固体電解質膜では、前記リチウム塩は、一部がポリマー材料に溶解しており、一部が非結晶状態(リチウム塩は、加工過程中で溶融して、熱硬化型PAN系ポリマーとはある結合作用が発生したため、元の結晶状態ではなく、非結晶状態になる)でポリマー材料とはある相互作用が発生してポリマー表面に凝集または付着することとなる。溶液法による製造時のリチウム塩の全溶解又は静電紡糸による製造時のリチウム塩の全濃縮に比べて、本発明で提供される、このようなリチウム塩の存在形態を有する熱硬化型PAN系中間膜のイオン導電率が最も高い。
【0029】
本発明による以上に記載の熱硬化型PAN系中間膜を製造するための製造方法の具体的な一実施形態として、前記製造方法は、
工程(1):熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物を予備混合することで、予備混合済み材料を獲得する工程と、
工程(2):前記予備混合済み材料に対して溶融押出を行うことで、プロトタイプ厚膜を獲得する工程と、
工程(3):前記プロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得する工程と、
を含むか、または、
工程(1)′:熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物中の熱硬化型PAN系ポリマー材料及び改質助剤を予備混合することで、予備混合済み材料を獲得する工程と、
工程(2)′:前記予備混合済み材料に対して溶融押出を行うことで、プロトタイプ厚膜を獲得する工程と、
工程(3)′:前記プロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、中間膜製品を獲得する工程と、
工程(4)′:前記中間膜製品をリチウム塩溶液に浸漬し、又は前記中間膜製品の両側にリチウム塩溶液を均一に噴射し、その後リチウム塩溶液が噴射された中間膜製品又は浸漬して得られた中間膜製品に対して乾燥を行って溶媒を除去することで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得する工程と、
を含む。
【0030】
本発明による以上に記載の製造方法の具体的な一実施形態として、工程(2)及び工程(2)′では、溶融押出に用いられる装置はそれぞれ独立的にボールミル、密閉式混合機、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、造粒機から選ばれる1種又は数種の組合せを含む。
【0031】
本発明による以上に記載の製造方法の具体的な一実施形態として、工程(2)及び工程(2)′では、前記プロトタイプ厚膜の厚さはそれぞれ独立的に100μm~2mmである。
【0032】
本発明による以上に記載の製造方法の具体的な一実施形態として、工程(3)及び工程(3)′では、前記延伸処理はそれぞれ独立的に横方向延伸、縦方向延伸、または双方向延伸を含む。
【0033】
本発明による以上に記載の製造方法の具体的な一実施形態として、工程(4)′では、前記乾燥温度は70~90℃である。
【0034】
本発明による以上に記載の製造方法の具体的な一実施形態として、工程(4)′では、リチウム塩溶液に用いられる溶媒は、一般的な溶媒から選ばれる何れか1種であり、好ましくは、前記溶媒はイソプロパノール及び/又はジメチルエーテルである。
【0035】
本発明のさらに別の一態様では、以上に記載の製造方法によって製造された熱硬化型PAN系中間膜が提供されている。
【0036】
本発明による以上に記載の熱硬化型PAN系中間膜の具体的な一実施形態として、前記熱硬化型PAN系中間膜は液体電解質セパレータ又は固体電解質膜であり、前記固体電解質膜の厚さは好ましくは1~100μm、より好ましくは5~60μm、さらに好ましくは15~30μmであり、さらに好ましくは、前記固体電解質膜の圧密密度の範囲は0.8~4.5g/cm3である。
【0037】
最後、本発明ではさらに、液体電気化学装置と固体電気化学装置を含み、前記液体電気化学装置にはセパレータが含まれ、前記固体電気化学装置には固体電解質膜が含まれる電気化学装置であって、前記セパレータは以上に記載の液体電解質セパレータ、前記固体電解質膜は以上に記載の固体電解質膜である、電気化学装置が提供されている。
【0038】
液体電気化学装置は液体イオン電池(例えば液体リチウムイオン電池、液体ナトリウムイオン電池、液体亜鉛イオン電池など)に限らないものとし、固体電気化学装置は固体電池に限らないものとする。
【0039】
既存の技術と比べ、本発明は以下の技術効果をもたらすことができる。
1)本発明に用いられる改質助剤は、イオン伝導の向上、ポリマー融点の低減、成膜加工性能の向上を兼ね備えた助剤であり、熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物に該改質助剤を加えて熱硬化型PAN系ポリマー材料と複合させることにより、熱硬化型PAN系ポリマー材料の融点温度を熱分解温度よりも低くなるように低減させ、熱硬化型PAN系ポリマー材料の溶融過程中で熱分解が発生しないことを確保し、溶融押出延伸技術の実現条件を満たすことができ、溶融押出延伸技術によって熱硬化型PAN系中間膜の連続生産を行うことができ、それに加えて、リチウムイオン伝導媒質として、得られた中間膜のイオン導電率をさらに向上させ(即ち本発明で提供される熱硬化型PAN系中間膜はイオン伝導が可能なものである)、該膜の総合性能も顕著に向上させることもできる。
2)大きな比界面積を持つ固体電解質膜を製造できるという本分野で既存する一般的な噴出紡糸技術に比べ、本発明で提供される製造方法に用いられる溶融押出延伸方法は、技術が簡単で成熟し、効率が高く、連続的に大規模な量産ができ、一致性が高く、製造された中間膜の総合性能を大幅に向上させると同時に、その工業化難度が高い問題を解決することができる;そして、この製造方法では、溶媒及びそれに関連する如何なる処理も使用せず、環境に優しく、環境汚染がなく、エネルギー消費が低い。
【図面の簡単な説明】
【0040】
本発明の実施例または既存の技術による技術案をより明確に説明するために、以下、実施例の説明に必要な図面について簡単に説明し、言うまでもなく、以下の説明に言及される図面は、本発明の一部の実施例に関するもの過ぎず、当業者にとっては、創造的な労働をしない前提下、これらの図面からもその他の図面を得ることができる。
【
図1】本発明の実施例1で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の実物画像である;
【
図2】本発明の実施例1で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の走査型電子顕微鏡図である;
【
図3a】本発明の実施例1で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図である;
【
図3b】本発明の実施例2で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図である;
【
図3c】本発明の実施例3で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図である;
【
図3d】本発明の実施例4で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図である;
【
図4】本発明の適用実施例で提供される固体リチウムイオン電池の充放電サイクルグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明で開示される「範囲」は下限及び上限の形態で与えられるものである。下限及び上限はそれぞれ1つ又は複数であっても良い。与えられた範囲は1つの下限と1つの上限を選んで定義されるものである。選ばれた下限と上限により特別な範囲の境界が定義される。このように定義される全ての範囲は組み合わせ可能であり、言い換えると、任意の下限は任意の上限と組み合わせて1つの範囲を形成することができる。例えば、特定のパラメータの範囲として60~120及び80~110がリストされる場合、範囲として60~110及び80~120も予想できると認められる。また、リストされた最小範囲値が1、2、リストされた最大範囲値が3、4、5である場合、範囲として1~3、1~4,1~5、2~3、2~4、2~5が何れも予想できる。
【0042】
本発明では、特に説明がない限り、数値範囲「a~b」はa~bの間にある任意の実数の組み合わせの短縮表現を表すものとし、ここで、a及びbが共に実数である。例えば、数値範囲「が実数である。本発明には「で示される本発明の間の全ての実数が既にリストされたことを意味しており、「間のすべてはこれらの数値の組み合わせの短縮表現に過ぎない。
【0043】
本発明では、特に説明がなければ、本発明で言及された全ての実施形態及び好適な実施形態は、互いに組み合わされて新しい技術案を形成することができる。
【0044】
本発明では、特に説明がなければ、本発明で言及された全ての技術特徴及び好適な特徴は、互いに組み合わされて新しい技術案を形成することができる。
【0045】
本発明の目的、技術案及び利点をより明確にするために、以下、本発明について図面及び実施例を結合しながらさらに詳細に説明する。以下に記載される実施例は、本発明の実施例の全部ではなく、その一部に過ぎず、しかも、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明を説明するためのものに過ぎない。本発明の実施例に基づき、当分野の通常の技術者が創造的な労働をせずに得られる全ての他の実施例は、本発明の保護範囲内に含まれるものとする。実施例では具体的な条件が明記されていない場合、通常の条件又はメーカーが提供する条件に従って行うものとする。所用する試薬や機器については、生産メーカーが明記されていない場合、市販で購入できる通常の製品であるものとする。
【0046】
実施例1
本実施例では、以下の工程を含む製造方法により製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜が提供されている。
(1)ポリアクリロニトリル共重合体粉末(捷馬製造、PAN:3~25万)50g、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド10g、ビニルカーボネート3g、及びシリカ(D50粒径:210nm)10gを密閉型遊星式混合装置によって1200rpmの回転速度で10min予備混合した;
(2)予備混合済み材料を取り出して単軸押出機に加えて溶融押出を行い、溶融押出温度を195℃とし、溶融押出により得られたプロトタイプ厚膜の厚さを350μmとする;
(3)プロトタイプ厚膜に対して双方向延伸及び冷却定型を行うことで、
図1に示すような厚み31μmの成形固体電解質薄膜、即ち熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を獲得する。
【0047】
上記の工程(1)~工程(3)の操作を、湿度が5%を超えない乾燥環境下で実施することは必要となる。
【0048】
本実施例で製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の圧密密度は3.2g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度は1.184g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は200nm、前記式1)により算出した単位膜面積当たりの熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は5.4×10
5/cmである;前記熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図は
図3aに示す通りであり、
図3aに示すデータから算出したそのイオン導電率は5.4×10
-4S/cmである。
【0049】
本実施例で製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の走査電子顕微鏡図は
図2に示す通りであり、
図2から明らかなように、前記熱硬化型PAN系複合固体電解質膜には、直径約200nmのストライプ形状のポリマー繊維凝集物が形成され、一方、セラミック粒子がポリマー繊維間にランダムに堆積/凝集または分散されている。それによって、ポリマー繊維間、及びポリマー繊維とセラミックス粒子との間が交互に重なり合い、共同で三次元相互貫入型構造を有する高界面ネットワークを形成し、さらに熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率を効果的に向上させることができる。
【0050】
また、本発明で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜では、セラミック材料が三次元相互貫入ポリマー相の間に凝集/堆積または分散の形態でランダムに分布されており、それによってポリマーの非結晶領域を広め、固体電解質の界面数を増加させ、リチウム塩の解離を促進するなどができる。
【0051】
実施例2
本実施例では、以下の工程を含む製造方法により製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜が提供されている。
(1)ポリアクリロニトリル共重合体粉末(捷馬製造、PAN:3~25万)35g、過塩素酸リチウム3g、プロピレンカーボネート3g、及びリン酸チタンアルミニウムリチウム(D50粒径:150nm)10gを密閉型遊星式混合装置によって1500rpmの回転速度で20min予備混合した;
(2)予備混合済み材料を取り出して単軸押出機に加えて溶融押出を行い、溶融押出温度を220℃とし、溶融押出により得られたプロトタイプ厚膜の厚さを300μmとする;
(3)前記プロトタイプ厚膜に対して双方向延伸及び冷却定型を行うことで、厚み25μmの成形固体電解質薄膜、即ち熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を獲得する。上記の操作を、湿度が5%を超えない環境下で実施することは必要となる。
【0052】
本実施例で製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の圧密密度は3.8g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度は1.184g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は80nm、前記式1)により算出した単位膜面積当たりの熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は1.6×10
6/cmである;前記熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図は
図3bに示す通りであり、
図3bに示すデータから算出したそのイオン導電率は6×10
-4S/cmである。
【0053】
実施例3
本実施例では、以下の工程を含む製造方法により製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜が提供されている。
(1)ポリアクリロニトリル共重合体粉末(捷馬製造、PAN:3~25万)60g、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド6g、ジメチルオクタデシルヒドロキシエチルニトロアンモニウム(Dimethyl octadecyl hydroxy ethyl ammonium nitrate)6g、及びリチウムランタンジルコニウムタンタル酸素高速イオン伝導体(D50粒径:150nm)20gを密閉型遊星式混合装置によって2000rpmの回転速度で15min予備混合した;
(2)予備混合済み材料を取り出して単軸押出機に加えて溶融押出を行い、溶融押出温度を200℃とし、溶融押出により得られたプロトタイプ厚膜の厚さを320μmとする;
(3)前記プロトタイプ厚膜に対して双方向延伸及び冷却定型を行うことで、厚み33μmの成形固体電解質薄膜、即ち熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を獲得する。上記の操作を、湿度が5%を超えない環境下で実施することは必要となる。
【0054】
本実施例で製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の圧密密度は4.1g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度は1.184g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は240nm、前記式1)により算出した単位膜面積当たりの繊維の数は5.7×10
5/cmである;前記熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図は
図3cに示す通りであり、
図3cに示すデータから算出したそのイオン導電率は5×10
-4S/cmである。
【0055】
実施例4
本実施例では、以下の工程を含む製造方法により製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜が提供されている。
(1)ポリアクリロニトリル共重合体粉末(捷馬製造、PAN:3~25万)60g、六フッ化リン酸リチウム15g、スクシノニトリル(Succinonitrile)12g、及びナノアルミナ(D50粒径:170nm)6gを密閉型遊星式混合装置によって2000rpmの回転速度で10min予備混合した;
(2)予備混合済み材料を取り出して単軸押出機に加えて溶融押出を行い、溶融押出温度を180℃とし、溶融押出により得られたプロトタイプ厚膜の厚さを330μmとする;
(3)前記プロトタイプ厚膜に対して双方向延伸及び冷却定型を行うことで、厚み35μmの成形固体電解質薄膜、即ち熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を獲得する。上記の操作を、湿度が5%を超えない環境下で実施することは必要となる。
【0056】
本実施例で製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の圧密密度は3.1g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度は1.184g/cm
3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は200nm、前記式1)により算出した単位膜面積当たりの繊維の数は5.2×10
5/cmである;前記熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率結果図は
図3dに示す通りであり、
図3dに示すデータから算出したそのイオン導電率は2.3×10
-4S/cmである。
【0057】
実施例5
本実施例では、以下の工程を含む製造方法により製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜が提供されている。
(1)ポリアクリロニトリル共重合体粉末(捷馬製造、PAN:3~25万)60g、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム20g、スクシノニトリル(Succinonitrile)15g、及びハロゲン化物電解質Li3InCl6(D50粒径:200nm)9gを密閉型遊星式混合装置によって1500rpmの回転速度で20min予備混合した;
(2)予備混合済み材料を取り出して単軸押出機に加えて溶融押出を行い、溶融押出温度を200℃とし、溶融押出により得られたプロトタイプ厚膜の厚さを280μmとする;
(3)前記プロトタイプ厚膜に対して双方向延伸及び冷却定型を行うことで、厚み22μmの成形固体電解質薄膜、即ち熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を獲得する。上記の操作を、湿度が5%を超えない環境下で実施することは必要となる。
【0058】
本実施例で製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜の圧密密度は4.0g/cm3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度は1.184g/cm3、熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は100nm、前記式1)により算出した単位膜面積当たりの繊維の数は1.4×106/cmである;前記熱硬化型PAN系複合固体電解質膜のイオン導電率は8×10-4S/cmである。
【0059】
比較例4-1
本比較例では、改質助剤が添加されない条件下で熱硬化型PAN系複合固体電解質膜が製造され、前記製造方法は以下の工程を具体的に含む。
(1)ポリアクリロニトリル共重合体粉末(捷馬製造、PAN:3~25万)60g、六フッ化リン酸リチウム15g、及びナノアルミナ(D50粒径:170nm)6gを密閉型遊星式混合装置によって2000rpmの回転速度で10min予備混合した;
(2)予備混合済み材料を取り出して単軸押出機に加えて溶融押出を行い、溶融押出温度を220℃とし、但し押出成膜ができず、原因について分析した結果、該温度下で溶融していないため、押出ができないからである;溶融押出温度を徐々に240℃以上に上昇させても押出ができないが、粉末に変色が見られ、且つガスが放出され、このことは該温度条件下でポリアクリロニトリル共重合体に脱水素反応及び熱分解反応が発生したことを示す。
【0060】
実施例4と比較例4-1との比較から明らかなように、熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を製造する際に改質助剤を添加しないと、ポリアクリロニトリル共重合体の融点温度(依然として元の310℃程度)を低減させることができず、この場合、製造過程中でポリアクリロニトリル共重合体には熱分解が先に発生してしまい、最終的に溶融延伸法により高圧密密度、高イオン導電率を有する熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を製造することができなかった。
【0061】
適用実施例1
本適用実施例では、固体電解質として本発明の実施例1で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜が用いられた固体リチウムイオン電池が提供されており、前記固体リチウムイオン電池の組み立ては以下の工程を具体的に含む。
1)高ニッケル三元正極、即ちLi(Ni0.8Mn0.1Co0.1)O2、NCM811を正極材料とし、NCM811、カーボンブラック導電剤(SP)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)の質量分率(即ちNCM811、カーボンブラック導電剤及びポリフッ化ビニリデンの総重量を基準として算出した質量分率)がそれぞれ97%、1.3%及び1.7%となるように混合し、さらに塗布、ロールプレス、極片のプレス加工、ベーキングを行うことによって、積載量44mg/cm2、直径12mmのNCM811正極片を製造する;
上記の工程1)の操作を、湿度が5%を超えない乾燥環境下で実施することは必要となる;
2)上記の工程1)で製造された直径12mmのNCM811正極片を正極片とし、実施例1で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を中間膜とし、何れの液体も滴下せず、最後に直径14mmの一般的な金属リチウム片を負極片として被覆し、封口し、このようにバックル電池の組み立てを完了した。
【0062】
上記の工程2)をグローブボックス内で実施する。
【0063】
本適用実施例で提供される固体リチウムイオン電池に対して充放電サイクル分析を行った結果、前記固体リチウムイオン電池の充放電サイクルグラフは
図4に示すように通りであり、
図4から明らかなように、実施例1で製造された熱硬化型PAN系複合固体電解質膜を中間膜として全固体バックル電池を組み立て、この電池は300回以上で安定的にサイクル可能であり、現在研究されている先進レベルに達したものであり、それによって本発明の実施例で提供される熱硬化型PAN系複合固体電解質膜によれば、高イオン導電率を提供できるだけでなく、界面インピーダンスを効果的に低減させ、全固体電池の安定サイクルを確保することもできる。
【0064】
上記のことは、本発明の具体的な実施例に過ぎず、本発明の実施範囲を制限するものではない。それ故、それと等同な部品の置換、または本発明の保護範囲に従って行った等同な変更及び修飾は共に、本発明がカバーする範囲に属するものとする。また、本発明における技術的特徴と技術的特徴との間、技術的特徴と技術的発明との間、技術的発明と技術的発明との間は自在に組み合わされて使用されることが可能となる。
【手続補正書】
【提出日】2024-07-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物であって、
前記原料組成物は、熱硬化型PAN系ポリマー材料、リチウム塩、及び改質助剤を含み、
前記熱硬化型PAN系ポリマー材料とリチウム塩との質量比は20:1~3:1、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料と前記改質助剤との質量比は18:1~3:1であり、
前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤、ニトリル系改質助剤、及びイオン液体系改質助剤から選ばれる1種又は数種の組み合わせを含む、ことを特徴とする原料組成物。
【請求項2】
前記原料組成物はセラミック材料をさらに含み、前記熱硬化型PAN系ポリマー材料の総重量を100%とすると、前記セラミック材料の使用量は5~80wt%であり、
前記セラミックス材は、無機イオン伝導体及び/又は無機非イオン伝導体を含み、
前記無機イオン伝導体は、酸化物、ハロゲン化物、硫化物、窒化物及び炭化物から選ばれる1種又は数種を含み、前記無機非イオン伝導体は、金属酸化物及び非金属酸化物から選ばれる1種又は数種を含み、
前記セラミックス材料は、チタン含有酸化物、アルミニウム含有酸化物、ホウ素含有酸化物、ジルコニウム含有酸化物及びケイ素含有酸化物から選ばれる1種又は数種を含み、
前記セラミックス材料は、シリカ、アルミナ、リン酸チタンアルミニウムリチウム、ホウ酸リチウム、ホウ酸エステルリチウム、ジルコニウム酸リチウム、ガーネット型リチウムランタンジルコニウム酸素、リチウムインジウムクロロハロゲン化物、硫銀ゲルマニウム鉱型硫化物、ホウ素水素化リチウム、及びリチウムランタンジルコニウムタンタル酸素高速イオン伝導体から選ばれる1種又は数種の組み合わせを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の原料組成物。
【請求項3】
前記改質助剤は、カーボネート系改質助剤又はニトリル系改質助剤であ
る、ことを特徴とする請求項1に記載の原料組成物。
【請求項4】
前記カーボネート系改質助剤は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブテンカーボネート、メチルエチルカーボネートから選ばれる1種又は数種を含み、
前記ニトリル系改質助剤は、ブチロニトリル、スクシノニトリル、バレロニトリル、ヘキサニトリル、ヘキサンジニトリル、ヘプタニトリル、オクタンニトリル、ノニトリル、n-ドデカニトリル、n-トリデカノニトリル、n-テトラデカノニトリルから選ばれる1種又は数種を含み、
前記イオン液体系改質助剤中のカチオンは、アルキル四級アンモニウムカチオン、アルキル四級ホスホニウムカチオン、N,N-ジアルキルイミダゾールカチオン、N-アルキルピリジンカチオンから選ばれる1種または数種を含み、そのアニオンは、ハロゲンイオン、酢酸塩イオン、硝酸塩イオン、テトラフルオロホウ酸塩イオン、トリフルオロ酢酸塩イオンから選ばれる1種又は数種を含む、ことを特徴とする請求項
1に記載の原料組成物。
【請求項5】
前記リチウム塩は、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、ビスシュウ酸ホウ酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドから選ばれる1種又は数種を含み、
前記熱硬化型PAN系ポリマー材料は、アクリロニトリルまたはその誘導体、イタコン酸またはその誘導体を含むモノマーを共重合したものである、ことを特徴とする請求項
1に記載の原料組成物。
【請求項6】
前記熱硬化型PAN系ポリマー材料は熱硬化型PAN系ポリマー繊維であり、単位膜長さ当たりの前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は1×10
3~1×10
7/cmであり、前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の直径は50nm~2μmであり、
単位膜長さ当たりの前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の数は、以下の式1)により算出したものであり、
(数1)
N=4ρ’/(dρ) 式1)
前記式1)中、ρ’は前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の中間の圧密密度で、単位がg/cm
3であり、ρは前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の密度で、単位がg/cm
3であり、dは前記熱硬化型PAN系ポリマー繊維の平均直径で、単位がcmである、ことを特徴とする請求項
1に記載の原料組成物。
【請求項7】
熱硬化型PAN系中間膜を製造するための製造方法であって、
原料組成物を予備混合してから溶融押出を行い、その後に押出されたプロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得することを含み、
前記原料組成物は、前記熱硬化型PAN系中間膜を製造するための請求項1乃至6の何れか一項に記載の原料組成物である、ことを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記溶融押出の温度は80~350℃であ
る、ことを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記製造方法は、
工程(1):前記熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物を予備混合することで、予備混合済み材料を獲得する工程と、
工程(2):前記予備混合済み材料に対して溶融押出を行うことで、プロトタイプ厚膜を獲得する工程と、
工程(3):前記プロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得する工程と、
を含むか、または、
工程(1)′:前記熱硬化型PAN系中間膜を製造するための原料組成物中の熱硬化型PAN系ポリマー材料及び改質助剤を予備混合することで、予備混合済み材料を獲得する工程と、
工程(2)′:前記予備混合済み材料に対して溶融押出を行うことで、プロトタイプ厚膜を獲得する工程と、
工程(3)′:前記プロトタイプ厚膜に対して延伸処理及び/又は薄膜定型処理を行うことで、中間膜製品を獲得する工程と、
工程(4)′:前記中間膜製品をリチウム塩溶液に浸漬し又は前記中間膜製品の両側にリチウム塩溶液を均一に噴射し、その後乾燥を行うことで、前記熱硬化型PAN系中間膜を獲得する工程と、
を含み、
前記工程(2)及び前記工程(2)′では、前記溶融押出に用いられる装置はそれぞれ独立的にボールミル、密閉式混合機、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、造粒機から選ばれる1種又は数種の組合せを含み、
前記工程(2)及び前記工程(2)′では、前記プロトタイプ厚膜の厚さはそれぞれ独立的に100μm~2mmであり、
前記工程(3)及び前記工程(3)′では、前記延伸処理はそれぞれ独立的に横方向延伸、縦方向延伸、または双方向延伸を含み、
前記工程(4)′では、前記乾燥温度は70~90℃であり、
前記工程(4)′では、前記リチウム塩溶液に用いられる溶媒は、イソプロパノール及び/又はジメチルエーテルを含む、ことを特徴とする請求項
7に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項
7に記載の製造方法によって製造された、ことを特徴とする熱硬化型PAN系中間膜。
【請求項11】
前記熱硬化型PAN系中間膜は液体電解質セパレータ又は固体電解質膜であり、
前記固体電解質膜の厚さは
1~100μm
であり、
前記固体電解質膜の圧密密度の範囲は、0.8~4.5g/cm
3である、ことを特徴とする請求項10に記載の熱硬化型PAN系中間膜。
【請求項12】
液体電気化学装置及び固体電気化学装置を含み、前記液体電気化学装置にはセパレータが含まれ、前記固体電気化学装置には固体電解質膜が含まれる電気化学装置であって、
前記セパレータは請求項11に記載の液体電解質セパレータ、前記固体電解質膜は請求項11に記載の固体電解質膜である、ことを特徴とする電気化学装置。
【国際調査報告】