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  • 特表-抗ALK1抗体およびその使用方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-12
(54)【発明の名称】抗ALK1抗体およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20250204BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250204BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250204BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20250204BHJP
【FI】
C07K16/28
A61K39/395 N ZNA
A61P9/10 101
C12N15/13
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024543374
(86)(22)【出願日】2023-01-23
(85)【翻訳文提出日】2024-08-20
(86)【国際出願番号】 US2023011339
(87)【国際公開番号】W WO2023141327
(87)【国際公開日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】63/302,408
(32)【優先日】2022-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/335,444
(32)【優先日】2022-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】524273535
【氏名又は名称】ジェノバック・アンチボディ・ディスカバリー・エルエルシー
(71)【出願人】
【識別番号】593152720
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Yale University
【住所又は居所原語表記】2 Whitney Avenue, New Haven, CT 06510, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【弁理士】
【氏名又は名称】四本 能尚
(74)【代理人】
【識別番号】100174447
【弁理士】
【氏名又は名称】龍田 美幸
(74)【代理人】
【識別番号】100185960
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 理愛
(72)【発明者】
【氏名】ヒュベルトゥス シュレーア
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアム セッサ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA14
4C085BB11
4C085CC23
4C085EE01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
(57)【要約】
アクチビンA受容体様1型(ALK1)に結合する抗体が提供される。そのような抗体を投与することを含む治療および使用も提供される。
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.配列番号2の重鎖可変配列および配列番号3の軽鎖可変配列;
b.配列番号4の重鎖可変配列および配列番号5の軽鎖可変配列;
c.配列番号6の重鎖可変配列および配列番号7の軽鎖可変配列;
d.配列番号10の重鎖可変配列および配列番号11の軽鎖可変配列;ならびに
e.配列番号12の重鎖可変配列および配列番号13の軽鎖可変配列
から選択される重鎖可変配列および軽鎖可変配列の相補性決定領域(CDR)を含む抗ALK1抗体。
【請求項2】
a.配列番号2の重鎖可変配列および配列番号3の軽鎖可変配列;
b.配列番号4の重鎖可変配列および配列番号5の軽鎖可変配列;
c.配列番号6の重鎖可変配列および配列番号7の軽鎖可変配列;
d.配列番号10の重鎖可変配列および配列番号11の軽鎖可変配列;ならびに
e.配列番号12の重鎖可変配列および配列番号13の軽鎖可変配列
から選択される可変重鎖配列および可変軽鎖配列をさらに含む、請求項1に記載の抗ALK1抗体。
【請求項3】
前記重鎖可変配列が、配列番号2、4、6、10、または12に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を含み、前記軽鎖可変配列が、配列番号3、5、7、11、または13に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を含む、請求項1に記載の抗ALK1抗体。
【請求項4】
重鎖可変配列が、配列番号2、4、6、10、または12において1~10個のアミノ酸の置換、挿入または欠失を含み、軽鎖可変配列が、配列番号3、5、7、11、または13において1~10個のアミノ酸の置換、挿入または欠失を含む、請求項1に記載の抗ALK1抗体。
【請求項5】
SSYWN(配列番号26)を含むCDRH1、EVNHSGSTNYNPSLKS(配列番号27)を含むCDRH2、およびSPRSGRIVGAVFDY(配列番号28)を含むCDRH3を含む重鎖;ならびにGGNNIGPKSVH(配列番号29)を含むCDRL1、DDSDRPS(配列番号30)を含むCDRL2、およびQVWDSSNDHVV(配列番号31)を含むCDRL2を含む軽鎖
を含む抗ALK1抗体。
【請求項6】
SRSYYWG(配列番号32)を含むCDRH1、NIYYSGSAFYNPSLKS(配列番号33)を含むCDRH2、およびWDNWDVGAFDI(配列番号34)を含むCDRH3を含む重鎖;ならびにTGTSSDVGGYNYVS(配列番号35)を含むCDRL1、EVSKRPS(配列番号36)を含むCDRL2、およびTSFAGSNNWV(配列番号37)を含むCDRL2を含む軽鎖
を含む抗ALK1抗体。
【請求項7】
ALK1に関連する疾患または障害を治療または予防する方法であって、ALK1に関連する疾患または障害を有する対象に、請求項1から6のいずれか一項に記載の抗体を投与するステップを含む、方法。
【請求項8】
疾患が、アテローム性動脈硬化症である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
対象が、ヒトである、請求項7または8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、これにより開示全体が参照により本明細書に組み込まれる、2022年1月24日に出願された米国仮特許出願第63/302,408号、および2022年4月27日に出願された米国仮特許出願第63/335,444号の優先権を主張するものである。
【0002】
アクチビンA受容体様1型(ALK1)に結合する抗体が提供される。そのような抗体を投与することを含む治療および使用も提供される。
【背景技術】
【0003】
以下の考察は、読者が本開示を理解することを補助するために提示するものであり、先行技術を記載または構成するものと認められるものではない。
【0004】
アクチビン受容体様キナーゼ-1またはALK1は、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)ファミリーのタンパク質のI型細胞表面受容体である。内皮細胞生物学における、および血管新生におけるALK1の役割は徹底的に研究されている。しかし、心血管恒常性におけるALK1の可能性のある役割が最近示唆された。実際に、ALK1の、細胞増殖および遊走を調節する能力、ならびにいくつかの細胞型における細胞外マトリックス(ECM)タンパク質発現をモジュレートする能力に起因して、ALK1が心血管リモデリングにおいて重要な役割を果たすことが現在実証されている。
【0005】
ALK1は、内皮細胞において発現されるだけでなく、平滑筋細胞、筋線維芽細胞、肝星細胞、軟骨細胞、単球、筋芽細胞、マクロファージまたは線維芽細胞においても発現されるが、これらの細胞におけるその役割は深く分析されていない。これらの細胞におけるALK1の機能に起因して、この受容体は、アテローム性動脈硬化症などのいくつかの心血管疾患において役割を果たす。一般に心血管疾患、特にアテローム性動脈硬化症は世界的に死亡の主な原因となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、アテローム性動脈硬化症ならびに他の疾患および障害を治療するための、ALK1を標的とする治療法、例えば、ALK1に結合する抗体が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、ALK1に結合する抗体、ならびに、種々の状態(例えば、アテローム性動脈硬化症)を治療するための方法/本開示の抗体の使用を提供する。
【0008】
一態様では、本開示は、配列番号2の重鎖可変配列および配列番号3の軽鎖可変配列;配列番号4の重鎖可変配列および配列番号5の軽鎖可変配列;配列番号6の重鎖可変配列および配列番号7の軽鎖可変配列;配列番号10の重鎖可変配列および配列番号11の軽鎖可変配列;ならびに配列番号12の重鎖可変配列および配列番号13の軽鎖可変配列から選択される重鎖可変配列および軽鎖可変配列の相補性決定領域(complementarity determining region)(CDR)を含む抗ALK1抗体を提供する。
【0009】
本抗体は、配列番号2の重鎖可変配列および配列番号3の軽鎖可変配列;配列番号4の重鎖可変配列および配列番号5の軽鎖可変配列;配列番号6の重鎖可変配列および配列番号7の軽鎖可変配列;配列番号10の重鎖可変配列および配列番号11の軽鎖可変配列;ならびに配列番号12の重鎖可変配列および配列番号13の軽鎖可変配列から選択される可変重鎖配列および可変軽鎖配列をさらに含んでよい。
【0010】
一部の実施形態では、重鎖可変配列は、配列番号2、4、6、10、または12に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を含み、軽鎖可変配列は、配列番号3、5、7、11、または13に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を含む。
【0011】
一部の実施形態では、重鎖可変配列は、配列番号2、4、6、10、または12において1~10個のアミノ酸の置換、挿入または欠失を含み、軽鎖可変配列は、配列番号3、5、7、11、または13において1~10個のアミノ酸の置換、挿入または欠失を含む。
【0012】
別の態様では、本開示は、SSYWN(配列番号26)を含むCDRH1、EVNHSGSTNYNPSLKS(配列番号27)を含むCDRH2、およびSPRSGRIVGAVFDY(配列番号28)を含むCDRH3を含む重鎖;ならびにGGNNIGPKSVH(配列番号29)を含むCDRL1、DDSDRPS(配列番号30)を含むCDRL2、およびQVWDSSNDHVV(配列番号31)を含むCDRL2を含む軽鎖を含む抗ALK1抗体を提供する。
【0013】
別の態様では、本開示は、SRSYYWG(配列番号32)を含むCDRH1、NIYYSGSAFYNPSLKS(配列番号33)を含むCDRH2、およびWDNWDVGAFDI(配列番号34)を含むCDRH3を含む重鎖;ならびにTGTSSDVGGYNYVS(配列番号35)を含むCDRL1、EVSKRPS(配列番号36)を含むCDRL2、およびTSFAGSNNWV(配列番号37)を含むCDRL2を含む軽鎖を含む抗ALK1抗体を提供する。
【0014】
一部の実施形態では、本開示の抗体は、ヒトALK1、マウスALK1、カニクイザルALK1、またはこれらの組合せに結合する。一部の実施形態では、本開示の抗体は、ALK5には結合しない。一部の実施形態では、本開示の抗体は、BMP9シグナル伝達を遮断しない。
【0015】
本開示は、前述の態様または実施形態のいずれか1つによる抗ALK1抗体と、薬学的に許容できる担体とを含む医薬組成物も提供する。一部の実施形態では、医薬組成物は、注射または注入用に製剤化されたものであってよい。
【0016】
別の態様では、本開示は、ALK1に関連する疾患または障害を治療または予防する方法であって、ALK1に関連する疾患または障害を有する対象に、前述の態様または実施形態のいずれか1つによる抗体または医薬組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。
【0017】
一部の実施形態では、疾患は、アテローム性動脈硬化症である。一部の実施形態では、アテローム性動脈硬化症を発症するリスクが低減し、対象は、動脈硬化巣をまだ発症していない。一部の実施形態では、さらなる動脈硬化巣形成が低減または阻害される。一部の実施形態では、既存の動脈硬化巣が破壊される。一部の実施形態では、既存の動脈硬化巣のサイズまたは数が低減する。
【0018】
一部の実施形態では、抗ALK1抗体または医薬組成物を静脈内、皮下、筋肉内、または腹腔内に投与する。
【0019】
一部の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0020】
別の態様では、本開示は、ALK1と低密度リポタンパク質(LDL)の相互作用を遮断する方法であって、対象に、前述の態様または実施形態のいずれか1つによる抗体または医薬組成物を投与するステップを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、対象は、アテローム性動脈硬化症を有する、またはアテローム性動脈硬化症を発症するリスクがある。一部の実施形態では、BMP9シグナル伝達は阻害されない。一部の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0021】
別の態様では、本開示は、ALK1に関連する疾患、例えばアテローム性動脈硬化症などを治療するための医薬の製造のための、本明細書に開示される抗体のいずれかの使用を提供する。
【0022】
別の態様では、本開示は、ALK1と低密度リポタンパク質(LDL)の相互作用を遮断するための医薬の製造のための、本明細書に開示される抗体のいずれかの使用を提供する。
【0023】
別の態様では、本開示は、ALK1に関連する疾患、例えばアテローム性動脈硬化症などの治療に使用するための、抗ALK1抗体を提供する。
【0024】
別の態様では、本開示は、ALK1と低密度リポタンパク質(LDL)の相互作用の遮断に使用するための抗ALK1抗体を提供する。
【0025】
前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は例示的、説明的なものであり、特許請求された本開示のさらなる説明を提供することを意図したものである。本開示の他の目的、利点、態様および反復を以下により詳細に提示する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】開示される抗体のALK1の種々の哺乳動物オルソログへの結合を確認するためのALK1結合アッセイの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
アクチビンA受容体様1型(ALK1)に結合する抗体が提供される。ALK1に結合する抗体を形成することが可能な抗体重鎖および軽鎖も提供される。さらに、1つまたは複数の特定の相補性決定領域(CDR)を含む抗体、重鎖、および軽鎖が提供される。ALK1に結合する抗体をコードするポリヌクレオチドが提供される。抗体重鎖または軽鎖をコードするポリヌクレオチドも提供される。ALK1に対する抗体を作製および/または精製する方法が提供される。本抗体を使用した治療が提供される。そのような方法としては、これだけに限定されないが、アテローム性動脈硬化症を治療する方法が挙げられる。
【0028】
I.定義
本明細書において使用される用語法は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、限定的なものではないことが理解されるべきである。
【0029】
本明細書で使用される科学技術用語は、特に定義されていなければ、当業者に一般に理解されている意味を有する。別段の指定がない限り、本明細書に提示されている手引きに基づいて、本明細書に記載の方法の実施において当業者に公知の材料および/または方法体系を利用することができる。
【0030】
本明細書で使用される場合、「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単数の用語は、文脈により明確に別段の規定がなされない限り、複数の指示対象を包含する。単数の目的語への言及は、そうであることが明示されていない限り「ただ1つの(one and only one)」を意味するものではなく、「1つまたは複数の(one or more)」を意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「約」が数値と共に使用される場合、明示された数値だけでなく、その数値のプラス10%またはマイナス10%も意味する。例えば、「約10」は、「10」および「9~11」の両方と理解されるべきである。
【0032】
同じく本明細書で使用される場合、「および/または」は、二者択一(「または(or)」)と解釈される場合に組合せの欠如を指し、それらを包含するだけでなく、関連する列挙された項目の1つまたは複数のありとあらゆる可能性のある組合せも指し、それらを包含する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「A/B」の形態または「Aおよび/またはB」の形態の句は、(A)、(B)、または(AおよびB)を意味し、「A、B、およびCのうちの少なくとも1つ」の形態の句は、(A)、(B)、(C)、(AおよびB)、(AおよびC)、(BおよびC)、または(A、B、およびC)を意味する。
【0034】
本明細書で使用される場合、抗ALK1抗体に関して「治療有効量」という句は、薬物がそのような治療を必要とする対象に投与されるところの特定の薬理学的効果をもたらす、その抗体の用量を意味する。例えば、治療有効量は、腫の蓄積またはアテローム性動脈硬化症の徴候および症状を低減させる、好転させる、または排除するために有効なものであり得る。抗ALK1抗体の治療有効量は、そのような用量が当業者によって治療有効量であると考えられているとしても、必ずしも個々の対象1例1例の疾患または状態(例えば、アテローム性動脈硬化症)の治療に有効であるとは限らないことが強調される。当業者は、特定の対象を治療するために必要に応じて、標準的な実施に従い、考えられる治療有効量を調整することができる。治療有効量は、例えば、対象の年齢および体重、ならびに/または対象の全体的な健康、ならびに/または対象の疾患もしくは状態(例えば、アテローム性動脈硬化症)の重症度に応じて変動し得る。
【0035】
「治療する(treat)」、「治療(treatment)」または「治療(treating)」という用語は、ALK1に関連する疾患または障害(例えば、アテローム性動脈硬化症)に関して本明細書で使用される場合、対象における疾患もしくは状態(例えば、アテローム性動脈硬化症における粥腫形成)の病態生理学的特色を低減させる、好転させる、もしくは排除すること、疾患もしくは障害の徴候もしくは症状を低減させる、好転させる、もしくは排除すること、ならびに/または他の点で生活の質を改善することを指す。例えば、アテローム性動脈硬化症の場合では、治療には、血流を改善すること、血圧を低下させること、血管内皮の内層内/上へのコレステロール粥腫の沈着を阻害すること、既存の粥腫を破壊すること、または前述のいずれかまたは全ての組合せが必要となる。
【0036】
「予防する(prevent)」、「予防(preventing)」または「予防(prevention)」という用語は、ALK1に関連する疾患または障害(例えば、アテローム性動脈硬化症)に関して本明細書で使用される場合、疾患または障害の発症を妨げるまたはそのリスクを低減させることを指す。例えば、アテローム性動脈硬化症の予防には、粥腫形成の素因がある個体における粥腫の形成を予防することまたはそのような個体における粥腫形成のリスクを低減させることが必要となる。
【0037】
「個体」、「対象」、および「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用され、任意の個々の哺乳動物対象、例えば、ウシ、イヌ、ネコ、ウマ、またはヒトを指す。特定の実施形態では、対象、個体、または患者は、ヒトである。
【0038】
抗原またはエピトープに「特異的に結合する」という用語は、当技術分野においてよく理解されている用語であり、そのような特異的な結合を決定するための方法も当技術分野で周知である。分子は、特定の細胞または物質に対して、代替の細胞または物質に対するよりも頻繁に、急速に、長い持続時間で、および/または、高い親和性で反応または会合する場合、「特異的な結合」または「優先的な結合」を示すといえる。抗体が、標的に、他の物質に結合するよりも、高い親和性、結合力で、容易に、および/または長い持続時間で結合する場合、その抗体はその標的に「特異的に結合する」または「優先的に結合する」。例えば、ALK1エピトープに特異的にまたは優先的に結合する抗体は、このエピトープに、他のALK1エピトープまたは非ALK1エピトープに結合するよりも、高い親和性、結合力で、容易に、および/または長い持続時間で結合する抗体である。例えば、第1の標的に特異的にまたは優先的に結合する抗体(または部分もしくはエピトープ)は、第2の標的に特異的にまたは優先的に結合してもしなくてもよいことも、この定義を読むことによって理解される。したがって、「特異的な結合」または「優先的な結合」は、必ずしも排他的な結合を求めるものではない(しかしそれを含み得る)。必ずしもではないが、一般に、結合への言及は優先的な結合を意味する。「特異性」は、結合性タンパク質の、抗原に選択的に結合する能力を指す。
【0039】
「抗体」という用語は、本明細書では最も広範な意味で使用され、これだけに限定されないが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性(例えば、二重特異性T細胞誘導抗体)および三重特異性抗体など)を含めた種々の抗体構造、ならびに、所望の抗原結合活性を示す限りは抗体断片、を包含する。
【0040】
「CDR」という用語は、当業者に知られている少なくとも1つの同定様式によって定義される相補性決定領域を示す。
【0041】
「重鎖可変領域」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも3つの重鎖CDRを含む領域を指す。一部の実施形態では、重鎖可変領域は、3つのCDR、ならびに少なくともFR2およびFR3を含む。一部の実施形態では、重鎖可変領域は、少なくとも重鎖HCDR1、フレームワーク(FR)2、HCDR2、FR3、およびHCDR3を含む。一部の実施形態では、重鎖可変領域は、FR1の少なくとも一部分および/またはFR4の少なくとも一部分も含む。
【0042】
「重鎖定常領域」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも3つの重鎖定常ドメイン、C1、C2、およびC3を含む領域を指す。当然、特に別の指定がなければ、ドメイン内の非機能変更型(non-function-altering)欠失および変更は「重鎖定常領域」という用語の範囲内に包含される。非限定的な例示的な重鎖定常領域として、γ、δ、およびαが挙げられる。非限定的な例示的な重鎖定常領域としては、εおよびμも挙げられる。各重鎖定常領域が抗体のアイソタイプに対応する。例えば、γ定常領域を含む抗体はIgG抗体であり、δ定常領域を含む抗体はIgD抗体である。α常領域を含む抗体はIgA抗体である。さらに、μ定常領域を含む抗体はIgM抗体であり、ε定常領域を含む抗体はIgE抗体である。ある特定のアイソタイプは、サブクラスにさらに細分することができる。例えば、IgG抗体は、これだけに限定されないが、IgG1(γ1定常領域を含む)、IgG2(γ2定常領域を含む)、IgG3(γ3定常領域を含む)、およびIgG4(γ4定常領域を含む)抗体を包含し、IgA抗体は、これだけに限定されないが、IgA1(α1定常領域を含む)およびIgA2(α2定常領域を含む)抗体を包含し、IgM抗体は、これだけに限定されないが、IgM1およびIgM2を包含する。
【0043】
「重鎖」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも重鎖可変領域を含み、リーダー配列を伴うまたは伴わない、ポリペプチドを指す。一部の実施形態では、重鎖は、重鎖定常領域の少なくとも一部分を含む。「全長重鎖」という用語は、本明細書で使用される場合、重鎖可変領域および重鎖定常領域を含み、リーダー配列を伴うまたは伴わない、ポリペプチドを指す。
【0044】
「軽鎖可変領域」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも3つの軽鎖CDRを含む領域を指す。一部の実施形態では、軽鎖可変領域は、3つのCDR、ならびに少なくともFR2およびFR3を含む。一部の実施形態では、軽鎖可変領域は、少なくとも軽鎖LCDR1、フレームワーク(FR)2、LCDR2、FR3、およびLCDR3を含む。例えば、軽鎖可変領域は、軽鎖CDR1、フレームワーク(FR)2、CDR2、FR3、およびCDR3を含み得る。一部の実施形態では、軽鎖可変領域は、FR1の少なくとも一部分および/またはFR4の少なくとも一部分も含む。
【0045】
「軽鎖定常領域」という用語は、本明細書で使用される場合、軽鎖定常ドメイン、CLを含む領域を指す。非限定的な例示的な軽鎖定常領域は、λおよびκを含む。当然、特に別の指定がなければ、ドメイン内の非機能変更型欠失および変更は「軽鎖定常領域」という用語の範囲内に包含される。
【0046】
「軽鎖」という用語は、本明細書で使用される場合、少なくとも軽鎖可変領域を含み、リーダー配列を伴うまたは伴わない、ポリペプチドを指す。一部の実施形態では、軽鎖は、軽鎖定常領域の少なくとも一部分を含む。「全長軽鎖」という用語は、本明細書で使用される場合、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域を含み、リーダー配列を伴うまたは伴わない、ポリペプチドを指す。
【0047】
「親和性」は、分子(例えば、抗体)の単一の結合性部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間の非共有結合性相互作用の総計の強度を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(K)によって表すことができる。親和性は、当技術分野で公知の一般的な方法(例えば、本明細書に記載のものを含めた、ELISA K、KinExA、バイオレイヤー干渉法(BLI)、および/または表面プラズモン共鳴デバイス(例えば、BIAcore(登録商標)デバイス)など)によって測定することができる。
【0048】
「K」という用語は、本明細書で使用される場合、抗体-抗原相互作用の平衡解離定数を指す。
【0049】
「キメラ抗体」は、本明細書で使用される場合、重鎖および/または軽鎖の一部が特定の供給源または種に由来し、重鎖および/または軽鎖の残部の少なくとも一部が異なる供給源または種に由来する抗体を指す。一部の実施形態では、キメラ抗体は、第1の種(例えば、マウス、ラット、カニクイザルなど)由来の少なくとも1つの可変領域および第2の種(例えば、ヒト、カニクイザルなど)由来の少なくとも1つの定常領域を含む抗体を指す。一部の実施形態では、キメラ抗体は、少なくとも1つのマウス可変領域および少なくとも1つのヒト定常領域を含む。一部の実施形態では、キメラ抗体は、少なくとも1つのカニクイザル可変領域および少なくとも1つのヒト定常領域を含む。一部の実施形態では、キメラ抗体の可変領域の全てが第1の種由来であり、キメラ抗体の定常領域の全てが第2の種由来である。キメラ構築物は、上記の通り機能的断片であってもよい。
【0050】
「ヒト化抗体」は、本明細書で使用される場合、非ヒト可変領域のフレームワーク領域内の少なくとも1つのアミノ酸がヒト可変領域由来の対応するアミノ酸によって置き換えられた抗体を指す。一部の実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つのヒト定常領域またはその断片を含む。一部の実施形態では、ヒト化抗体は、抗体断片、例えば、Fab、scFv、(Fab’)などである。ヒト化という用語は、非ヒト(例えば、マウス)抗体の、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖形態、または、非ヒト免疫グロブリンの最小の配列を含有するその断片(例えば、抗体のFv、Fab、Fab’、F(ab’)もしくは他の抗原結合性部分配列)も示す。ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(complementary determining region)(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有するマウス、ラット、またはウサギなどの非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置換されている、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)を包含し得る。一部の場合では、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体においても移入されたCDRまたはフレームワーク配列においても見いだされないが、抗体の性能をさらに改良し、最適化するために含められる残基を含み得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、および一般には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み得、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである。一部の実施形態では、ヒト化抗体はまた、一般にはヒト免疫グロブリンのものである、免疫グロブリン定常領域またはドメイン(Fc)の少なくとも一部分も含み得る。ヒト化抗体の他の形態は、元の抗体に対して変更された1つまたは複数のCDR(CDR L1、CDR L2、CDR L3、CDR H1、CDR H2、および/またはCDR H3)を有し、これらは、元の抗体の1つまたは複数のCDRに「由来する」1つまたは複数のCDRとも称される。理解される通り、ヒト化配列は、その一次配列によって同定することができ、必ずしも抗体が創出されたプロセスを示すものではない。
【0051】
「CDRグラフト抗体」は、本明細書で使用される場合、第1の(非ヒト)種の1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)が第2の(ヒト)種のフレームワーク領域(FR)にグラフトされたヒト化抗体を指す。
【0052】
「ヒト抗体」は、本明細書で使用される場合、ヒトにおいて産生された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子を含む非ヒト動物、例えばXenoMouse(登録商標)マウスにおいて産生された抗体、および、抗体レパートリーがヒト免疫グロブリン配列に基づくファージディスプレイなどのin vitroにおける方法を使用して選択された抗体(Vaughanら、1996、Nature Biotechnology、14:309~314;Sheetsら、1998、Proc. Natl. Acad. Sci.(USA)95:6157~6162;HoogenboomおよびWinter、1991、J. Mol. Biol.、227:381;Marksら、1991、J. Mol. Biol.、222:581)を包含する。「ヒト抗体」という用語は、ヒト配列である配列の属を示す。したがって、この用語は、抗体が創出されたプロセスを指定するものではなく、関連性のある配列の属を指定するものである。
【0053】
アミノ酸置換は、これだけに限定されないが、ポリペプチド内の1つのアミノ酸の別のアミノ酸による置換えを含み得る。例示的な保存的置換を表1に示す。アミノ酸置換を目的の抗体に導入することができ、産物を所望の活性、例えば、抗原への結合の保持/改善、免疫原性の低減、またはADCCもしくはCDCの改善についてスクリーニングすることができる。
【0054】
【表1】
【0055】
アミノ酸は、共通する側鎖特性に応じて群分けすることができる:
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の方向性に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0056】
非保存的置換には、これらのクラスのうちの1つのメンバーを別のクラスのメンバーと交換することが伴う。
【0057】
「ベクター」という用語は、宿主細胞において増やすことができるクローニングされたポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドを含有するように工学的に操作することができるポリヌクレオチドを記載するために使用される。ベクターは、以下のエレメントの1つまたは複数を含み得る:複製開始点、目的のポリペプチドの発現を調節する1つもしくは複数の調節配列(例えば、プロモーターおよび/もしくはエンハンサーなど)、ならびに/または1つもしくは複数の選択マーカー遺伝子(例えば、抗生物質耐性遺伝子、および比色定量アッセイに使用することができる遺伝子、例えば、β-ガラクトシダーゼなど)。「発現ベクター」という用語は、目的のポリペプチドを宿主細胞において発現させるために使用するベクターを指す。
【0058】
「宿主細胞」は、ベクターまたは単離されたポリヌクレオチドのレシピエントになり得るまたはレシピエントになった細胞を指す。宿主細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。例示的な真核細胞としては、哺乳動物細胞、例えば、霊長類または非霊長類動物細胞;真菌細胞、例えば酵母;植物細胞;および昆虫細胞が挙げられる。非限定的な例示的な哺乳動物細胞としては、これだけに限定されないが、NSO細胞、PER.C6(登録商標)細胞(Crucell)、ならびに293およびCHO細胞およびそれらの誘導体、例えば、それぞれ293-6E細胞およびDG44細胞が挙げられる。
【0059】
「医薬製剤」および「医薬組成物」という用語は、活性成分(1つまたは複数)の生物活性が有効になるような形態にあり、製剤が投与される対象に対して許容できない毒性をもつ追加的な構成成分を含有しない、調製物を指す。そのような製剤は無菌性であり得る。
【0060】
「薬学的に許容できる担体」は、一緒になって対象への投与のための「医薬組成物」を構成する治療剤との使用に関して当技術分野において従来のものである、無毒性の固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、封入材料、製剤化補助剤、または担体を指す。薬学的に許容できる担体は、使用される投薬量および濃度でレシピエントに対して無毒性であり、製剤の他の成分に対して適合性である。薬学的に許容できる担体は、使用される製剤に適したものである。
【0061】
「無菌」製剤は、無菌性である、または生きている微生物およびそれらの胞子を本質的に含まない。
【0062】
II.ALK1およびALK1関連疾患
アクチビンA受容体様1型(ALK1;Entrez:94、Ensembl:ENSG00000139567、UniProt:P37023)は、内皮細胞において発現される、トランスフォーミング増殖因子-ベータ受容体ファミリーの膜貫通型セリン/トレオニン受容体キナーゼである。トランスフォーミング増殖因子-β(TGFβ)スーパーファミリーに入るリガンドは、膜貫通型受容体複合体を介してシグナル伝達を行い、胚軸パターン形成、心臓および血管発生、上皮間葉転換、ならびに線維症を含めた、発生ならびに疾患において重要な無数のプロセスを制御する。シグナル伝達受容体の中で、アクチビンA受容体様1型(ACVRL1、ALK1をコードする)は、高度の細胞型特異性を有し、動脈性内皮細胞(EC)において主に発現される。ヒトALK1のアミノ酸配列は、
MTLGSPRKGLLMLLMALVTQGDPVKPSRGPLVTCTCESPHCKGPTCRGAWCTVVLVREEGRHPQEHRGCGNLHRELCRGRPTEFVNHYCCDSHLCNHNVSLVLEATQPPSEQPGTDGQLALILGPVLALLALVALGVLGLWHVRRRQEKQRGLHSELGESSLILKASEQGDSMLGDLLDSDCTTGSGSGLPFLVQRTVARQVALVECVGKGRYGEVWRGLWHGESVAVKIFSSRDEQSWFRETEIYNTVLLRHDNILGFIASDMTSRNSSTQLWLITHYHEHGSLYDFLQRQTLEPHLALRLAVSAACGLAHLHVEIFGTQGKPAIAHRDFKSRNVLVKSNLQCCIADLGLAVMHSQGSDYLDIGNNPRVGTKRYMAPEVLDEQIRTDCFESYKWTDIWAFGLVLWEIARRTIVNGIVEDYRPPFYDVVPNDPSFEDMKKVVCVDQQTPTIPNRLAADPVLSGLAQMMRECWYPNPSARLTALRIKKTLQKISNSPEKPKVIQ(配列番号1)である。
【0063】
ALK1シグナル伝達の欠陥により、動脈と静脈の直接接続、または動静脈奇形(AVM)を特徴とする常染色体優性血管障害である遺伝性出血性末梢血管拡張症(HHT)が引き起こされるおそれがある。さらに、ALK1シグナル伝達が、肺動脈性肺高血圧症、がん、およびアテローム性動脈硬化症などの他の血管関連疾患においても役割を果たし得ることが現在理解されている。さらに、ALK1は、先端/柄細胞選択、遊走、および増殖を含めた発芽性血管新生の種々の側面に関係づけられており、また、最近の研究から、開存性の灌流血管内の定方向内皮細胞遊走を支配する流れに基づくシグナルの伝達におけるALK1の役割が示唆されている。
【0064】
マウスにおける試験により、アテローム性動脈硬化症が生じやすい、流れが妨げられる部位である動脈の湾曲部および分岐部における強力なAlk1発現が実証されている。ヒト冠状動脈アテローム硬化病変の内皮、新生内膜、および中膜におけるALK1発現の増大も実証されている。ALK1が、HHTにおけるその役割とは見たところ無関係の機構によってアテローム性動脈硬化症に直接関係づけられることが現在理解されている。
【0065】
簡単に述べると、ALK1の頂端に局在する細胞外ドメインが、循環しているApoB100含有低密度リポタンパク質(LDL)に比較的低い親和性で結合し得、LDLの内皮下腔へのトランスサイトーシスを媒介し、アテローム硬化病変が開始される。この活性にはBMP9/BMP10、エンドグリン、BMPRII、またはALK1キナーゼ活性は必要なく、BMP9/BMP10はLDL結合に競合することができず、これらのリガンドが異なるALK1残基に結合することが示唆される。したがって、LDL/ALK1相互作用を標的とすることは、アテローム性動脈硬化症を予防するための新しい薬物を開発するための、実現可能な手法であり得る。
【0066】
下により詳細に提示する通り、本開示の抗体は、ALK1に関連する疾患および障害、例えばアテローム性動脈硬化症、ならびに本明細書に含まれる他の疾患または障害(例えば、HHT、AVM、肺動脈性肺高血圧症、がんなど)のいずれかを治療するために使用することができる。
【0067】
III.抗ALK1抗体
本開示は、ALK1に結合する抗体(すなわち、「抗ALK1抗体」)を提供する。本開示の抗体は、ALK1に選択的に結合することができ、これだけに限定されないが、アテローム性動脈硬化症、HHT、AVM、肺動脈性肺高血圧症、およびがんを含めた、ALK1に関連する疾患または障害を治療するために使用することができる。
【0068】
ALK1は、血管におけるLDLコレステロールの蓄積において重要な役割を果たし得る。本開示の抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10およびBVO-B-1H7-E3)は、血液から組織内へのLDLの輸送(LDLトランスサイトーシスとも称される)を容易にする血管壁における「LDL-ALK1経路」を妨害することにより、LDL集積を遮断することができる。これが今度は、心疾患に至る動脈の詰まりの予防または緩徐化を補助する。本明細書に開示されるコンフォメーション選択的ALK1結合性モノクローナル抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10およびBVO-B-1H7-E3)は、内皮へのLDLトランスサイトーシスを効率的に遮断するが、BMP9シグナル伝達は遮断せず、その結果、粥腫形成の劇的な減少がもたらされる。本開示の抗ALK1抗体は、ヒトALK1、マウスALK1、カニクイザルALK1、またはこれらの組合せに結合し得る。
【0069】
本明細書に記載の抗ALK1抗体は、in vitro供給源(例えば、ハイブリドーマまたは組換えにより抗体を産生する細胞株)およびin vivo供給源(例えば、齧歯類、ウサギ、ヒトなど)を含めた任意の手段によって得ることができる。本開示の抗体は、ヒト、ヒト化(部分的または完全)、またはキメラであってよい。ヒト抗体、部分的ヒト化抗体、完全ヒト化抗体、およびキメラ抗体は、例えば、1つまたは複数の内在性免疫グロブリン遺伝子が1つまたは複数のヒト免疫グロブリン遺伝子によって置き換えられたトランスジェニック動物(例えば、マウス)の使用など、当技術分野で公知の方法によって作出することができる。内在性抗体遺伝子がヒト抗体遺伝子によって有効に置き換えられたトランスジェニックマウスの例としては、これだけに限定されないが、HUMAB-MOUSE(商標)、Kirin TC MOUSE(商標)、およびKM-MOUSE(商標)が挙げられる(例えば、Lonberg、Nat. Biotechnol.、23(9):1117~25(2005)、およびLonberg、Handb. Exp. Pharmacol.、181: 69~97(2008)を参照されたい)。
【0070】
本明細書に開示される抗Alk1抗体は、一般に、モノクローナル、組換え、またはその両方である。モノクローナル抗体(mAb)は、当技術分野で公知の方法によって、例えば、抗体産生細胞を不死化細胞と融合して、ハイブリドーマを得ることによって、ならびに/または、コンビナトリアル抗体ライブラリー技術を使用して免疫化された動物の骨髄、B細胞、および/もしくは脾臓細胞から抽出されたmRNAからmAbを生成することによって、ならびに/または、ALK1抗原を用いて免疫化された対象由来の血清からモノクローナル抗体を単離することによって、得ることができる。組換え抗体は、当技術分野で公知の方法によって、例えば、ファージディスプレイ技術、酵母表面ディスプレイ技術(Chaoら、Nat. Protoc.、1(2): 755~68(2006))、哺乳動物細胞表面ディスプレイ技術(Beerliら、PNAS、105(38): 14336~41(2008)を使用すること、ならびに/または、抗体ポリペプチドを発現もしくは共発現させることによって、得ることができる。抗体を作出するための他の技法が当技術分野で公知であり、それらを本明細書に記載の方法において使用される抗体を得るために使用することができる。
【0071】
一般には、抗体は、4つポリペプチド:重(H)鎖ポリペプチドの2つの同一コピーおよび軽(L)鎖ポリペプチドの2つのコピーからなる。一般には、各重鎖は、1つのN末端可変(V)領域および3つのC末端定常(C1、C2およびC3)領域を含有し、各軽鎖は、1つのN末端可変(V)領域および1つのC末端定常(C)領域を含有する。軽鎖および重鎖の各対の可変領域が抗体の抗原結合性部位を形成する。
【0072】
「抗体断片」という用語は、本明細書で使用される場合、ALK1に結合する能力を示す、ALK1結合性抗体の1つまたは複数の部分を指す。結合性断片の例として、(i)Fab断片(V、V、CおよびCH1ドメインからなる一価断片);(ii)F(ab’)断片(ヒンジ領域におけるジスルフィド橋によって連結した2つのFab断片で構成される二価断片);(iii)Fd断片(VおよびC1ドメインで構成される);(iv)Fv断片(抗体の単一の腕のVおよびVドメインで構成される)、(v)dAb断片(Vドメイン);ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、例えば、VCDR3が挙げられる。他の例として、単鎖Fv(scFv)構築物が挙げられる。例えば、Birdら、Science、242:423~26(1988);Hustonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、85:5879~83(1988)を参照されたい。他の例として、(i)ALK1結合性ドメインポリペプチド(例えば、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、またはリンカーペプチドを介して融合した重鎖可変領域と軽鎖可変領域など)と免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドの融合物、(ii)免疫グロブリン重鎖CH2定常領域とヒンジ領域の融合物、および(iii)免疫グロブリン重鎖CH3定常領域とCH2定常領域の融合物を含むALK1結合性ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質が挙げられ、ここで、二量体形成を防止するために、ヒンジ領域が、1つまたは複数のシステイン残基が例えばセリン残基によって置き換えられることによって改変されていてよい。
【0073】
本開示の抗体は、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDから選択される抗体のクラスに属するものであってよい。より詳細には、本開示の抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4であってよい。一部の実施形態では、本開示の抗体は、IgG、IgM、IgA、IgE、またはIgD抗体の定常領域、フレームワーク領域の全部または一部、またはそれらの組合せを含み得る。例えば、開示される抗体は、IgG1構造が、別のIgGクラスの免疫グロブリン、またはIgM、IgA、IgE、またはIgD免疫グロブリンの対応する構造に置き換わる(またはそれと「切り換わる」)ように改変されていてよい、IgG1免疫グロブリン構造を含み得る。この型の改変または切り換えを、ペプチドの中和機能、例えば、抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体結合(CDC)を強化するために実施することができる。一部の実施形態では、抗ALK1抗体は、哺乳動物抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体であってよい。
【0074】
一部の実施形態では、本開示の抗ALK1抗体は、抗体を治療的状況により適したものにする1つまたは複数の変異を含み得る。そのような変異、変更、または改変は、例えば、ペプチドの、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、抗体依存的細胞媒介性ファゴサイトーシス(ADCP)、および/または補体結合(CDC)のような細胞傷害性機能を媒介する能力を増大させるための、Fc領域の変化を含み得る。Fc受容体への結合を増強するFcドメインの多数の変異、例えば、S239D/A330L/I332E、F243L、およびG236Aが報告されている。それに加えて、またはその代わりに、循環半減期を増大させるFc領域の変異を構造に組み入れることができる。例えば、FcドメインとFcRnのpH依存性相互作用を、pH6.0における親和性が増大する一方でpH7.4における最小の結合が保持されるように工学的に操作するための変異により、生理的条件下での半減期を増大させ、有効性を改善することができる。一部の実施形態では、本開示の抗体をポリエチレングリコール(PEG)および/またはアルブミンとコンジュゲートすることができ、それにより、抗体の半減期を増大させ、潜在的な免疫原性を低減させることができる。
【0075】
例示的な抗ALK1抗体の重鎖可変および軽鎖可変アミノ酸配列を以下の表2に開示する。表2の重鎖可変および軽鎖可変配列をコードする核酸配列を表3に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3-1】
【0078】
【表3-2】
【0079】
【表3-3】
【0080】
本開示は、表2に開示されている配列の1つまたは複数と同じCDR配列および/または同じフレームワーク領域配列および/または同じ可変領域配列を含む抗体を提供する。例えば、一部の実施形態では、本開示の抗ALK1抗体は、配列番号2のCDRを含む重鎖可変領域および配列番号3のCDRを含む軽鎖可変領域を含み得る。一部の実施形態では、本開示の抗ALK1抗体は、配列番号4のCDRを含む重鎖可変領域および配列番号5のCDRを含む軽鎖可変領域を含み得る。一部の実施形態では、本開示の抗ALK1抗体は、配列番号6のCDRを含む重鎖可変領域および配列番号7のCDRを含む軽鎖可変領域を含み得る。一部の実施形態では、本開示の抗ALK1抗体は、配列番号10のCDRを含む重鎖可変領域および配列番号11のCDRを含む軽鎖可変領域を含み得る。一部の実施形態では、本開示の抗ALK1抗体は、配列番号12のCDRを含む重鎖可変領域および配列番号13のCDRを含む軽鎖可変領域を含み得る。
【0081】
一部の実施形態では、抗ALK1抗体は、SSYWN(配列番号26)を含むCDRH1、EVNHSGSTNYNPSLKS(配列番号27)を含むCDRH2、およびSPRSGRIVGAVFDY(配列番号28)を含むCDRH3を含む重鎖;ならびにGGNNIGPKSVH(配列番号29)を含むCDRL1、DDSDRPS(配列番号30)を含むCDRL2、およびQVWDSSNDHVV(配列番号31)を含むCDRL2を含む軽鎖を含み得る。一部の実施形態では、抗ALK1抗体は、BVO-A-9F7-A10である。
【0082】
一部の実施形態では、抗ALK1抗体は、SRSYYWG(配列番号32)を含むCDRH1、NIYYSGSAFYNPSLKS(配列番号33)を含むCDRH2、およびWDNWDVGAFDI(配列番号34)を含むCDRH3を含む重鎖;ならびにTGTSSDVGGYNYVS(配列番号35)を含むCDRL1、EVSKRPS(配列番号36)を含むCDRL2、およびTSFAGSNNWV(配列番号37)を含むCDRL2を含む軽鎖を含み得る。一部の実施形態では、抗ALK1抗体は、BVO-B-1H7-E3である。
【0083】
一部の実施形態では、抗ALK1抗体は、配列番号2、4、6、10、または12のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列を含む。一部の実施形態では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVH配列は、参照配列と比べて置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含有するが、その配列を含む抗ALK1抗体は、ALK1に結合する能力を保持する。一部の実施形態では、配列番号2、4、6、10、または12における合計で1~10アミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アミノ酸)が置換されている、挿入されている、および/または欠失している。一部の実施形態では、置換、挿入、または欠失は、CDRの外側の領域(すなわち、FR内)に存在する。抗ALK1抗体は、配列番号2、4、6、10、または12のVH配列を、その配列の翻訳後修飾を含め、含んでもよい。
【0084】
一部の実施形態では、抗ALK1抗体は、配列番号3、5、7、11、または13のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)配列を含む。一部の実施形態では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するVL配列は、参照配列と比べて置換(例えば、保存的置換)、挿入、または欠失を含有するが、その配列を含む抗ALK1抗体は、ALK1に結合する能力を保持する。一部の実施形態では、配列番号3、5、7、11、または13の合計で1~10アミノ酸(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10アミノ酸)が置換されている、挿入されている、および/または欠失している。一部の実施形態では、置換、挿入、または欠失は、CDRの外側の領域(すなわち、FR内)に存在する。抗ALK1抗体は、配列番号3、5、7、11、または13のVL配列を、その配列の翻訳後修飾を含め、含んでもよい。
【0085】
上記の通り、本開示の抗体は、ヒト、マウス、およびカニクイザルを含めた種々の哺乳動物ALK1タンパク質に結合し得る。例えば、BVO-B-1H7-E3は、ヒト、マウス、およびカニクイザルALK1に結合し、BVO-A-9E7-A10は、ヒトおよびカニクイザルALK1に結合する。対照的に、BVN-B-2F11-E4(対照)は、ヒトALK1に対して弱い結合しか示さない。
【0086】
ALK1に結合することに加えて、本開示の抗体は、他の有益な特性も有し得る。例えば、本開示の抗体は、BMP9(骨形成タンパク質-9)シグナル伝達を遮断することはできず、SMAD1/5のリン酸化が可能である。BMP9は、胎児前脳基底部コリン作動性ニューロン(BFCN)の、アセチルコリンと称される神経伝達物質に応答する能力の誘導および維持において役割を果たし、また、SMADシグナル伝達経路を介した間葉系幹細胞(MSC)の骨芽細胞系列への分化を誘導する。本開示の目的に関して注目すべきことに、BMP9は、ALK1のリガンドである。TGF-β受容体複合体を形成するI型膜糖タンパク質であるエンドグリンは、ALK1のGDF2/BMP-9結合のための補助受容体である。したがって、ある特定の開示される抗体の、BMP9シグナル伝達を遮断することなくALK1に結合する能力は独特のものである。一部の実施形態では、本開示の抗体は、ALK1に結合し、BMP9シグナル伝達を遮断しない。
【0087】
ある特定の開示される抗体の別の特色は、ALK5に対する交差反応性をほとんどまたは全く伴わずに、ALK1に結合する能力である。ALK5は、ALK1と同様にTGF-β受容体であり、これらの受容体はどちらも同様の構造および配列を共有する。したがって、ALK5に対する交差反応性を伴わないALK1への選択的結合は、抗体のオフターゲット作用の可能性を最小限にするので、本開示の抗体の望ましい特色である。一部の実施形態では、本開示の抗体は、ALK5には結合しない、またはそれと交差反応しない。BVO-B-1H7-E3もBVO-A-9E7-A10もALK5には結合しない。
【0088】
本明細書に開示される抗体のいずれも、ALK1に関連する疾患および障害、例えばアテローム性動脈硬化症を治療および/または予防するために使用することができる。最適な用量および投与経路は、例えば、投与経路および剤形、対象の年齢および体重、ならびに/または、疾患の型および重症度を含めた対象の状態に基づいて変動し得、当業者が決定することができる。以下により詳細に考察する通り、本抗体は、任意の意図された投与経路によって対象に投与するために適した医薬組成物に製剤化することができる。
【0089】
IV.医薬組成物
アテローム性動脈硬化症を含めた、ALK1に関連する疾患および障害の治療または予防における使用のための医薬組成物が提供される。医薬組成物は、本明細書に記載の抗ALK1抗体を活性成分として含む。
【0090】
本開示の抗ALK1抗体の医薬組成物は、標準的な方法に従って、製剤として調製することができる(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science、Mark Publishing Company、Easton、USAを参照されたい)。医薬組成物は、一般に、抗体に加えて、担体および/または添加剤を含む。例えば、一部の実施形態では、医薬組成物は、1つまたは複数の界面活性物質(例えば、PEGおよびTween)、賦形剤、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸)、着色料、香味剤、保存剤、安定剤、緩衝剤(例えば、リン酸、クエン酸、および他の有機酸)、キレート剤(例えば、EDTA)、懸濁化剤、等張化剤(isotonizing agent)、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯正剤、軽質無水ケイ酸、ラクトース、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタルジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、スクロース、カルボキシメチルセルロース、トウモロコシデンプン、および無機塩を含む。一部の実施形態では、医薬組成物は、1つまたは複数の他の低分子量ポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチン、および免疫グロブリンなどのタンパク質、ならびにグリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、およびリシンなどのアミノ酸を含む。
【0091】
抗ALK1抗体は、注射用の水溶液として調製することができ、その場合、抗ALK1抗体を、例えば生理食塩水、デキストロース、または他の賦形剤またはトニファイヤー(tonifier)(すなわち、等張化剤(tonicity agent))を含有する等張性溶液に溶解させることができる。トニファイヤーとしては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウムを挙げることができる。さらに、適当な可溶化剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、多価アルコール(例えば、プロピレングリコールおよびPEG)、ならびに非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80およびHCO-50)を同時に使用することができる。
【0092】
本開示の医薬組成物は、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、筋肉内投与、または経口投与を含めた任意の適切な投与経路用に製剤化することができる。典型的な実施形態では、抗ALK1抗体を、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、リポソーム製剤など、静脈内投与、皮下投与、腹腔内投与、または筋肉内投与用に製剤化する。より詳細には、本開示の抗ALK1抗体を静脈内投与、皮下投与、または筋肉内投与用に製剤化することができる。
【0093】
種々の剤形および投与経路のための薬学的に許容できる担体は当技術分野で公知である。例えば、液体調製物のための溶媒、可溶化剤、懸濁化剤、等張化剤(isotonicity agent)、緩衝液、および緩和剤が公知である。一部の実施形態では、医薬組成物は、1つまたは複数の追加的な構成成分、例えば、1つまたは複数の保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤/香味剤、吸着剤、湿潤剤などを含む。
【0094】
本開示は、対象におけるALK1に関連する疾患および障害、例えばアテローム性動脈硬化症の治療または予防における使用のための医薬組成物であって、本明細書に開示される抗ALK1抗体を活性成分として含む、医薬組成物を提供する。
【0095】
本明細書に開示される医薬組成物のいずれも、ALK1に関連する疾患および障害、例えばアテローム性動脈硬化症を治療および/または予防するために使用することができる。最適な用量および投与経路は変動し得る。
【0096】
V.治療および予防
本開示は、ALK1に関連する疾患および障害、例えばアテローム性動脈硬化症を治療または予防する方法を提供する。さらに、本開示は、ALK1と低密度リポタンパク質(LDL)の相互作用を遮断する方法を提供する。さらに、本開示は、ALK1のLDLへの結合を遮断する方法を提供する。さらに、本開示は、ALK1に関連する疾患および障害、例えばアテローム性動脈硬化症を治療または予防するための、本開示の抗ALK1抗体の使用を提供する。さらに、本開示は、ALK1と低密度リポタンパク質(LDL)の相互作用を遮断するための、本開示の抗ALK1抗体の使用を提供する。さらに、本開示は、ALK1のLDLへの結合を遮断するための、本開示の抗ALK1抗体の使用を提供する。
【0097】
上記の通り、ALK1は、血管におけるLDLコレステロールの蓄積において重要な役割を果たし得る。本開示の抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10およびBVO-B-1H7-E3)は、血液から組織内へのLDLの輸送(LDLトランスサイトーシスとも称される)を容易にする血管壁における
「LDL-ALK1経路」を妨害することにより、LDL集積を遮断することができる。これが今度は、心疾患に至る動脈の詰まりの予防または緩徐化を補助する。本明細書に開示されるコンフォメーション選択的ALK1結合性モノクローナル抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10およびBVO-B-1H7-E3)は、内皮へのLDLトランスサイトーシスを効率的に遮断するが、BMP9シグナル伝達は遮断せず、その結果、粥腫形成の劇的な減少がもたらされる。したがって、本開示の抗体は、アテローム性動脈硬化症の治療および/または予防のために特によく適するものである。
【0098】
アテローム性動脈硬化症は、動脈壁への脂肪、コレステロールおよび他の物質の蓄積である。この蓄積は粥腫と称される。粥腫は、動脈を狭め、それにより血流が遮断されるおそれがある。粥腫はまた、破裂し、血餅をもたらすおそれがある。アテローム性動脈硬化症は、心臓の問題であるとみなされることも多いが、身体のあらゆる場所の動脈にも影響を及ぼし得る。軽度のアテローム性動脈硬化症では通常いかなる症状もないが、中等度~重度のアテローム性動脈硬化症では、粥腫形成の場所に応じて、胸痛または胸部圧迫感(狭心症)、高血圧、および腎不全が引き起こされるおそれがある。アテローム性動脈硬化症はまた、一過性脳虚血発作(TIA)、脳卒中、末梢動脈疾患、および心不全などの共存症の発症ももたらし得る。
【0099】
一般に、本明細書に開示される治療は、対象に治療有効量の抗ALK1抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10またはBVO-B-1H7-E3)を投与することを含む。特に、本開示は、アテローム性動脈硬化症を治療または予防する方法であって、アテローム性動脈硬化症を有する対象に、本明細書に開示される抗ALK1抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10またはBVO-B-1H7-E3)を投与するステップを含む、方法を提供する。一部の実施形態では、抗体により、粥腫がまだ発生していない対象におけるアテローム性動脈硬化症を発症するリスクを低減させることができる。一部の実施形態では、抗体により、さらなる粥腫形成を阻害するまたは低減させることができる。一部の実施形態では、抗体により、既存の粥腫を破壊するまたは既存の粥腫のサイズもしくは数を低減させることができる。
【0100】
有効量の開示される抗ALK1抗体を、1回または複数回の投与、適用または投薬量で投与することができる。そのような送達は、個々の投薬量単位を使用する期間、治療剤のバイオアベイラビリティ、投与経路などを含めた多数の変数に依存する。しかし、任意の特定の対象に対する本開示の抗ALK1抗体の特定の用量レベルは、使用される特定の化合物の活性、対象の年齢、体重、全体的な健康、性別、および食事、投与時間、排出速度、薬物の組合せ、ならびに処置される特定の障害の重症度および投与形態を含めた種々の因子に依存し得ることが理解される。治療および予防投薬量は、一般に、安全性および有効性が最適化されるように用量設定される。投薬量は、医師が決定し、必要に応じて、観察された治療効果に適するように調整することができる。一般には、in vitroおよび/またはin vivo試験からの投薬量と効果の関連性から、患者への投与の適正な用量に関する有用な手引きを最初にもたらすことができる。一般に、in vitroにおいて有効であることが見いだされた濃度と釣り合う血清中レベルを実現するために有効な量の化合物を投与することが望まれる。
【0101】
抗ALK1抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10またはBVO-B-1H7-E3)の投与は、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、皮内投与、または腹腔内投与であり得る。一般に、最も一般的な投与経路は抗体の注射または注入である。投与は、単回投薬、またはある治療期間にわたる反復投薬を含み得る。
【0102】
本開示の方法および使用の一部の実施形態では、抗ALK1抗体を、毎日、2日に1回、1週間に2回、1週間に3回、1週間に4回、1週間に5回、1週間に6回、1週間に1回、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、8週間に1回、9週間に1回、10週間に1回、11週間に1回、12週間に1回、1年に2回、1年に1回、および/または必要に応じて投与する。
【0103】
本開示の方法および使用の一部の実施形態では、治療または予防の持続時間は、約1日、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約5週間、約6週間、約7週間、約8週間、約9週間、約10週間、約11週間、約12週間、約13週間、約14週間、約15週間、約16週間、約17週間、約18週間、約19週間、約20週間、約24週間、約30週間、約36週間、約40週間、約48週間、約50週間、約1年間、約2年間、約3年間、約4年間、約5年間、または必要に応じてである。
【0104】
本開示は、ALK1に関連する疾患および障害、例えばアテローム性動脈硬化症の治療または予防のための医薬の製造における抗ALK1抗体の使用を提供する。
【実施例
【0105】
以下に考察する実施例は、本発明を純粋に例示することを意図したものであり、本発明をいかようにも限定するものと解釈されるべきではない。実施例は、以下の実験が実施した全ての実験または唯一の実験であることを表すものではない。
【0106】
(実施例1)
ALK1結合性抗体の単離
OmniRatを、遺伝子銃(Gene Gun)法を使用して免疫化した、すなわち、金粒子にDNAをローディングし、Gene Gun(Helios)を使用して動物の皮膚内に投与した。言い換えると、免疫化のために、ALK1をトランスフェクトした/発現する細胞を注射したのではなく、プラスミドDNAを直接使用し、それによりOmniラットの皮膚細胞/DCにおけるALK1の発現を誘導した。
【0107】
免疫化した動物のポリクローナル血清を活性について試験した。目的のB細胞を単離し、ハイブリドーマを作出した。ハイブリドーマを単離し、サブクローニングした後、上清を使用して、モノクローナル抗体を再評価した。
【0108】
(実施例2)
ALK1結合評価
種々の単離された抗体を、マウス(mouse)(マウス(murine))、ヒト、およびカニクイサル由来のALK1に結合する能力について評価した。フローサイトメトリーを使用して、特定の細胞結合型ALK1分子に結合する一次抗ALK1抗体を検出する蛍光標識した二次抗体によって生じる蛍光強度を測定した。より正確に述べると、一次抗体を含有するハイブリドーマ上清を、ヒト、カニクイサルおよびマウスALK1を発現する一過性にトランスフェクトされた細胞への結合についてフローサイトメトリーによって試験した。PE標識したヤギ抗ラット二次抗体を使用することによってシグナルを生じさせた。陰性対照として、トランスフェクトしていない細胞の上清を試験することに加えて、ヒト、カニクイサルおよびマウスのALK1をトランスフェクトした細胞を二次抗体のみ(上清を伴わない)と共にインキュベートした。例示的な結果が図(図1)に示されている。
【0109】
図(図1)に見ることができる通り、BVO-A-9F7-A10およびBVO-B-1H7-E3は、ヒトおよびカニクイザルALK1に対しては強力な結合を示したが、マウスオルソログに対する交差反応性は低かった。
【0110】
マウスALK1の発現はカニクイザルALKおよびヒトALKと比較してはるかに弱いと思われることに留意するべきである。さらに、これは抗タグ抗体のN末端タグへの結合によって行ったので、多くの場合、得られたシグナルは必ずしも、ある特定のタンパク質の「実際の」細胞表面発現レベルを反映するものではないことが見いだされた。多くの場合、「実際の」発現は、タグから得られたシグナルによって示されるものよりも高く、これは、おそらく、タグ配列に抗タグ抗体が完全に近づけず、その結果、シグナルが低くなったことに起因する。例えば、この現象は、使用されるタグの型(myc、FLAGまたはHisなど)にさえ左右され、同じ抗原を用いても、一部では他のものよりも低い/高い発現レベルが示唆されることが分かっており、これは、特異的な(抗標的)抗体を用いた並行試験で確認することができない。図(図1)に示されている通り、特異的な抗ALK1抗体では、抗タグ抗体を用いて生成される発現対照よりもはるかに高いシグナルがもたらされる。
【0111】
とはいえ、マウスALK1に関する低シグナルから、問題の抗体が非常に低い抗マウス交差反応性しか有さないと推定することはできない。低シグナルは、はるかに低い発現対照によって示される、マウスALK1の細胞表面発現がカニクイザルおよびヒトと比較してはるかに低いことによってもたらされる可能性がある。
【0112】
いずれにしても、本開示の抗体、特にBVO-A-9F7-A10およびBVO-B-1H7-E3は、複数の哺乳動物ALK1オルソログに対して強力かつ特異的な結合親和性を示した。
【0113】
(実施例3)
ALK5結合評価
フローサイトメトリーを使用して、特定の細胞結合型ALK5分子に結合する抗ALK1一次抗体を検出する蛍光標識した二次抗体から生じる蛍光強度を測定した。より正確に述べると、一次抗体を含有するハイブリドーマ上清を、ヒトおよびマウスALK5を発現する一過性にトランスフェクトされた細胞への結合についてフローサイトメトリーによって試験した。PE標識したヤギ抗ラット二次抗体を使用することによってシグナルを生じさせた。陰性対照として、トランスフェクトしていない細胞の上清を試験することに加えて、ヒトおよびマウスのALK5をトランスフェクトした細胞を二次抗体のみ(上清を伴わない)と共にインキュベートした。
【0114】
(実施例4)
BMP9シグナル伝達評価
89種の抗ALK1抗体を評価して、抗体がBMP9結合およびSMAD1/5シグナル伝達を阻害するかどうかを決定した。評価した89種の抗体のうち、合計12種がBMP9シグナル伝達を遮断しなかった。
【0115】
【表4】
【0116】
上記の表に、上記のアッセイによって評価した抗体を示す。これらの抗体のうち、BVN-A-2B2、BVN-A-2C7、BVN-A-2D10、BVN-B-2F11、BVN-B-5B5、BVO-A-1D5、BVO-A-9C4、BVO-A-9C5、BVO-A-9F7、BVO-B-1H7、BVO-B-5D2、およびBWG-3B3はBMP9シグナル伝達を遮断しなかった。
【0117】
(実施例5)
アテローム性動脈硬化症実験
BVO-A-9F7-A10は、培養したヒトおよびマウス内皮細胞において、LDL取り込みを遮断するが、BMP9シグナル伝達は遮断しないことが示されている。さらに、予備実験において、マウスを抗ALK抗体で処置して一晩置くことにより、in vivoにおいて血管壁へのLDL取り込みが低減した。BVO-B-1H7-E3でも同様の結果がもたらされることが予想される。
【0118】
以下の、予言的試験の目的は、マウスモデルにおいてALK1抗体を用いた長期にわたる処置によりアテローム性動脈硬化症が低減するかどうかを調査することである。
【0119】
実験計画:
LDL受容体を欠く8~10週齢のマウスに、コレステロールが豊富な高脂肪食(HFD)を14週間にわたって給餌して、実験的アテローム性動脈硬化症を誘導する。
【0120】
マウスを対照または抗ALK抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10またはBVO-B-1H7-E3;マウス当たり400~500マイクログラム×1週間に3回)を用いて14週間の持続時間にわたって処置する。
【0121】
14週間の時点で、以下の分析を実施する:
1.FACによる血漿中脂質(コレステロール、TG)および炎症細胞集団
2.抗体レベルに関して血漿採取(PK評価)
3.3カ所の解剖学的位置におけるアテローム性動脈硬化症の程度の評価:1.大動脈(中性脂質集積の正面イメージング)、2.大動脈根の横断面、および3.腕頭動脈
4.ApoB 100免疫化学、マクロファージ(F4/80またはCD68染色)、病変壊死および線維性被膜(H&E切片から)を含めた病変組成の分析。
【0122】
結果から、本開示の抗体(例えば、BVO-A-9F7-A10およびBVO-B-1H7-E3)がアテローム性動脈硬化症の治療または予防に適したものであることが示される。
【0123】
本明細書で言及されている特許および刊行物は全て、本開示が関する分野の当業者のレベルを示すものである。特許および刊行物は全て、個々の刊行物について具体的にかつ個別に参照により組み込まれることが示されたものと同じく、参照により本明細書に組み込まれる。
【0124】
さらに、本開示が、目的を遂行し、言及された目標および利点ならびにそれに固有のものを得るために十分に適合されていることが当業者には容易に理解される。当業者は改変および他の使用を想起されよう。これらの改変は、本開示非限定的な実施形態が記載されている、本開示および特許請求の範囲によって定義される主旨に包含される。
【0125】
本開示は、主旨またはそれに必須の特徴から逸脱することなく、他の特定の形態に具体化することができる。したがって、前述の実施形態は、あらゆる点で、本開示を限定するものではなく、例示的なものであるとみなされるべきである。したがって、本開示の範囲は、前述の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示され、したがって、特許請求の範囲と同等の意味および範囲の中に入る変化は全て、その範囲内に包含されるものとする。
図1
【配列表】
2025504500000001.xml
【国際調査報告】