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特表2025-504620バイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のためのプロセス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-13
(54)【発明の名称】バイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のためのプロセス
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/02 20060101AFI20250205BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20250205BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250205BHJP
   C12N 1/16 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
C12P1/02 Z
C12M1/02 A
C12M1/00 Z
C12M1/00 D
C12N1/16 G
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2024566704
(86)(22)【出願日】2022-02-01
(85)【翻訳文提出日】2024-07-30
(86)【国際出願番号】 EP2022052304
(87)【国際公開番号】W WO2023147838
(87)【国際公開日】2023-08-10
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524286672
【氏名又は名称】コリピ・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・アルプター
(72)【発明者】
【氏名】ティル・ウテシュ
(72)【発明者】
【氏名】アン-ピン・ゼン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB07
4B029CC01
4B029DA04
4B029DB01
4B029DF01
4B029DG08
4B029GA08
4B029GB01
4B029GB02
4B029GB03
4B029GB10
4B064AD85
4B064AH01
4B064CA06
4B064CC01
4B064CC06
4B064CC30
4B064DA20
4B065AA72X
4B065AC14
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、バイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のためのプロセスおよび装置に関する。プロセスは、第1および第2のバイオリアクター(2、3)ならびに槽(4)中で実行される第1および第2のバイオプロセスを含む。第1のバイオプロセスは、バイオ生成物が生成する結果となる二酸化炭素製造バイオプロセスであり、第2のバイオプロセスは、第1のバイオプロセスにおいて製造されたCOが、Oを電子受容体としてHを酸化する水素細菌によって消費される、化学合成自己栄養バイオプロセスである。電気分解生成したHとOとは分離され、Oは、第2および/または第1のバイオプロセスに直接供給され、一方、Hは、最初に槽(4)中に収容されている媒質中に溶解される。H飽和媒質は、次に、第2のバイオプロセスに供給される。第2のバイオプロセスにおいて製造されたバイオマスは、追加のCおよびN源として第1のバイオプロセスに供給される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のためのプロセスであって、
a)第1のバイオリアクター中での第1の圧力p1における第1の媒質中の第1の種類の微生物の培養を含む第1のバイオプロセスであって、前記バイオ生成物と二酸化炭素COとが生成する結果となる第1のバイオプロセスと、
b)第2のバイオリアクター中での第2の圧力p2における第2の媒質中の第2の種類の微生物の培養を含む第2のバイオプロセスであって、バイオマスを製造し、分子酸素Oと、分子水素Hと、ステップa)の第1のバイオプロセスにおいて製造されたCOの少なくとも一部と、を消費するプロセスである第2のバイオプロセスと、
c)水をOとHとに電気分解し、電気分解によって製造されたOの少なくとも一部を前記第2のバイオプロセスおよび/または前記第1のバイオプロセスに供給し、電気分解によって製造されたHの少なくとも一部をヘッドスペースおよび第3の媒質を第3の圧力p3において収容している槽に供給するステップであって、前記第3の媒質は、前記第2のバイオリアクター中の第2の媒質と同一であるステップと、
d)Hを含有する前記第3の媒質の少なくとも一部を前記槽から前記第2のバイオプロセスに供給するステップと、
を含み、ステップb)の第2のバイオプロセスにおいて製造されたバイオマスの少なくとも一部は、ステップa)の第1のバイオプロセスのためのC源として用いられるプロセス。
【請求項2】
p3≧p2≧p1、好ましくはp3>p2>p1である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記第1のバイオプロセスは、好気バイオプロセス、好ましくは発酵プロセスであり、脂質および/またはカロチノイドの製造のための発酵プロセスがさらに好ましい、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第2のバイオプロセスは、O、HおよびCOの化学合成無機独立栄養消費を含む、請求項1~3の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記第2のバイオプロセスは、40~55℃、好ましくは45~55℃、50~55℃または50~53℃の間の温度で実施される、請求項1~4の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記第2の種類の微生物を含有する前記第2のバイオリアクターの第2の媒質の一部は、前記第2のバイオリアクターから回収され、前記第2の媒質中に含有されるバイオマスは、少なくとも部分的に前記第2の媒質から分離され、加水分解され、前記第1のバイオプロセスに供給され、前記バイオマスから分離された前記第2の媒質は、前記第2のバイオプロセスにリサイクルされる、請求項1~5の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記第2のバイオリアクターからの第2の媒質の一部は、前記槽中に供給され、前記槽の前記ヘッドスペース中に噴霧され、同じ量の第3の媒質が前記槽から前記第2のバイオリアクターに供給される、請求項1~6の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
電気分解によって製造されたOの一部は、前記第1のバイオプロセスに供給される、請求項1~7の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記第1の種類の微生物は、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属の微生物、好ましくはロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)であり、前記第2の種類の微生物は、ヒドロゲノフィラス(Hydrogenophilus)属の微生物、好ましくはヒドロゲノフィラス・テルモルテオラス(Hydrogenophilus thermoluteolus)である、請求項1~8の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
p1は、大気圧より大である、請求項1~9の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記プロセスは、連続プロセスである、請求項1~10の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
請求項1~11の何れか一項に記載のプロセスによるバイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のための装置(1)であって、
a)第1のバイオプロセスを実行するために構成されている第1のバイオリアクター(2)であって、前記第1のバイオプロセスは、第1の圧力p1における第1の媒質(23)中の第1の種類の微生物の培養を含み、前記第1のバイオプロセスは、前記バイオ生成物と二酸化炭素COとが生成する結果となる第1のバイオリアクター(2)と、
b)第2のバイオプロセスを実行するために構成されている第2のバイオリアクター(3)であって、前記第2のバイオプロセスは、第2の圧力p2における第2の媒質(33)中の第2の種類の微生物の培養を含み、前記第2のバイオプロセスは、バイオマスを製造し、分子酸素Oと、分子水素Hと、ステップa)のバイオプロセスにおいて製造されたCOの少なくとも一部と、を消費するプロセスである第2のバイオリアクター(3)と、
c)ヘッドスペース(42)および第3の媒質(43)を第3の圧力p3において収容するように構成されている槽(4)と、
d)水をOとHとに電気分解するための電気分解装置(5)と、
を含み、前記装置(1)は、さらに、
-前記第1のバイオリアクター(2)中で製造されたCOの前記第2のバイオリアクター(3)への移送のために、前記第1のバイオリアクター(2)の第1の出口(25)を前記第2のバイオリアクター(3)の第1の入口(34)に流体接続する第1の流体接続部(61)と、
-前記第2のバイオリアクター(3)中で製造されたバイオマスの前記第1のバイオリアクター(2)への移送のために、前記第2のバイオリアクター(3)の第1の出口(35)を前記第1のバイオリアクター(2)の第1の入口(24)に流体接続する第2の流体接続部(62)と、
-第2の媒質(33)の前記槽(4)への移送のために、前記第2のバイオリアクター(3)の第2の出口(37)を前記槽(4)の第1の入口(44)に流体接続する第3の流体接続部(63)と、
-第3の媒質(43)の前記第2のバイオリアクター(3)への移送のために、前記槽(4)の第1の出口(45)を前記第2のバイオリアクター(3)の第2の入口(36)に流体接続する第4の流体接続部(64)と、
-酸素Oの前記第2のバイオリアクター(3)への移送のために、前記電気分解装置(5)の第1の出口(55)を前記第2のバイオリアクター(3)の第3の入口(38)に流体接続する第5の流体接続部(65)と、
-酸素Oの前記第1のバイオリアクター(2)への移送のために、前記電気分解装置(5)の第1の出口(55)を前記第1のバイオリアクター(2)の第3の入口(28)に流体接続する第6の流体接続部(66)と、
-水素Hの前記槽(4)への移送のために、前記電気分解装置(5)の第2の出口(57)を前記槽(4)の第2の入口(46)に流体接続する第7の流体接続部(67)と、
を含む装置(1)。
【請求項13】
前記第2の流体接続部(62)は、前記第2のバイオリアクター(3)の第1の出口(35)と前記第1のバイオリアクター(2)の第1の入口(24)との間に、前記第2の媒質(33)から前記第2の種類の微生物を分離するための分離装置(6)と、前記第2の媒質(33)から前記分離装置(6)によって分離された前記第2の種類の微生物を加水分解するための加水分解装置(7)と、を含む、請求項12に記載の装置(1)。
【請求項14】
前記第2のバイオリアクター(3)の第2の出口(37)を前記槽(4)の第1の入口(44)に流体接続する前記第3の流体接続部(63)は、前記ヘッドスペース(42)を含む前記槽(4)の上部(41)中に延在し、前記延在部分は、前記槽(4)に供給される第2の媒質(33)を霧状にするためのノズル(12)を含む、請求項12または13の何れか一項に記載の装置(1)。
【請求項15】
前記第1のバイオリアクター(2)の第1の出口(25)を第2のバイオリアクター(3)の第1の入口(34)に流体接続する第1の流体接続部(61)は、COを、前記第2のバイオリアクター(3)へのその移送の前に濃縮するためのCO濃縮装置(8)を含む、請求項12~14の何れか一項に記載の装置(1)。
【請求項16】
前記第1のバイオリアクター(2)の第1の出口(25)を前記第2のバイオリアクター(3)の第1の入口(34)に流体接続する前記第1の流体接続部(61)は、COを中間貯蔵するためのCO貯蔵タンク(13)を含む、請求項12~15の何れか一項に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーの分野、特にバイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ生成物、たとえばバイオ系化学物質のバイオテクノロジー的製造は、長らく公知であり、たとえば化学工業における商業利用に向けて持続可能性および環境友好性を高めた方法での化学物質の提供が期待される。例として、石油から誘導される化石燃料を置き換えるためにバイオエタノールまたはバイオディーゼルのようないわゆるバイオ燃料がバイオプロセスで製造されている(たとえば特許文献1、特許文献2参照)。しかし、増加しつつある大気中の二酸化炭素(CO)の量に起因する地球温暖化を考慮すると、化学物質を大規模に製造するためのバイオプロセスも持続可能であるためにCOの放出を最小限にしなければならない。
【0003】
特許文献1と特許文献2との両方は、第1のバイオプロセスにおいて製造されたCOの、製造されたCOを再使用するための、第2のバイオプロセスにおける固定を記載している。特許文献1は、炭素源を脂質に変換するための方法であって、脂質製造は、油性酵母ヤロウィア・リポリティカ(Yarrowia lypolytica)を用いて好気発酵槽中で実行され、脂質製造時に発生する二酸化炭素は、クロストリジウム属(Clostridium sp.)の細菌によって嫌気発酵槽中で実行されるCO固定によって炭素基質に変換される方法を開示している。これらのクロストリジウムは、水の電気分解によって製造され嫌気発酵槽中に供給されるH気体を還元剤として用いる。特許文献2は、製造されたCOを、たとえばバイオ燃料を産生する酵母細胞によって固定する光合成植物細胞を用いる、バイオ燃料の製造を開示している。
【0004】
特許文献3は、とりわけ、たとえば煙道気体からの二酸化炭素の酸水素(「クナールガス(Knallgas(爆鳴気)」)細菌による捕集および固定のための方法であって、酸素および水素は、たとえば水の電気分解によって提供することができる方法を記載している。「クナールガス」細菌を用いるバイオ燃料のバイオテクノロジー的製造は、非特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/088364(A9)号
【特許文献2】国際公開第2009/133351(A2)号
【特許文献3】国際公開第2011/139804(A2)号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ブリガム(Brigham)、C.、「ラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha)およびその他の『クナールガス』細菌を用いるCO2およびH2からのバイオ燃料のバイオテクノロジー的製造への展望(Perspectives for the biotechnological Production of biofuels from CO2 and H2 using Ralstonia eutropha and other ‘Knallgas’ bacteria)」、アプライド・マイクロバイオロジー・アンド・バイオテクノロジー(Applied Microbiology and Biotechnology)103巻(2019年)、10.1007/s00253-019-09636-y)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
持続可能性、特に二酸化炭素の純生産量を最小にすることに関してバイオ生成物、特にバイオ系化学物質のバイオテクノロジー的製造を改善することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の側面において本発明は、バイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のためのプロセスであって、
a)第1のバイオリアクター中での第1の圧力p1における第1の媒質中の第1の種類の微生物の培養を含む第1のバイオプロセスであって、該バイオ生成物と二酸化炭素COとが生成する結果となる第1のバイオプロセスと、
b)第2のバイオリアクター中での第2の圧力p2における第2の媒質中の第2の種類の微生物の培養を含む第2のバイオプロセスであって、バイオマスを製造し、分子酸素Oと、分子水素Hと、ステップa)の第1のバイオプロセスにおいて製造されたCOの少なくとも一部と、を消費するプロセスである第2のバイオプロセスと、
c)水をOとHとに電気分解し、電気分解によって製造されたOの少なくとも一部を第2のバイオプロセスおよび/または第1のバイオプロセスに供給し、電気分解によって製造されたHの少なくとも一部をヘッドスペースおよび第3の媒質を第3の圧力p3において収容している槽に供給するステップであって、第3の媒質は、第2のバイオリアクター中の第2の媒質と同一であるステップと、
d)Hを含有する第3の媒質の少なくとも一部を槽から第2のバイオプロセスに供給するステップと、
を含み、ステップb)の第2のバイオプロセスにおいて製造されたバイオマスの少なくとも一部は、ステップa)の第1のバイオプロセスのためのC源として用いられ、p3≧p2≧p1であるプロセスを提供する。
【0009】
本プロセスは、2つのバイオプロセスを組み合わせ、第1のバイオプロセスは、CO製造プロセスであり、第2のバイオプロセスは、CO消費バイオプロセスであり、第2のバイオプロセスは、水素を酸化し、酸素を還元する微生物、たとえば「クナールガス」細菌による、第1のバイオプロセスにおいて製造された二酸化炭素の非光合成生物固定を含む。第1のバイオプロセスと第2のバイオプロセスとは、別々のバイオリアクター中で空間的に互いに離間して実行される。第1のバイオプロセスにおいて製造されたCOは、第2のバイオプロセスにおいて少なくとも部分的に、好ましくは少なくともほとんど、または完全に消費されるために第2のバイオプロセスに供給される。本発明のプロセスは、好ましくは、「COニューラル」プロセス、すなわち製造された二酸化炭素が少なくとも基本的には完全に消費され、そのため環境にCOが放出されないプロセスである。第2のバイオプロセスにおいて製造されたバイオマスは、炭素源として第1のバイオプロセスからのCOの少なくとも一部とともに第1のバイオプロセスのための追加の炭素源として用いられる。バイオマスは、追加の窒素源として使用されることもある。さらに、水の電気分解によって製造され、第2のバイオプロセスの微生物によって電子受容体として用いられる酸素気体は、第2のバイオプロセスに、あるいはまたはさらに、第1のバイオプロセスに直接供給され、電気分解によって製造され、第2のバイオプロセスの微生物によって電子供与体として用いられる水素気体は、直接ではなく、別の槽中に収容されている媒質を介して間接的に第2のバイオプロセスに供給される。第2のバイオプロセスへの酸素と水素とのこの別々の供給の利点は、たとえば、爆発保護に関する安全性の増大である。さらに、これは、水媒質中のHの乏しい溶解度への対策として役立つ。
【0010】
用語「バイオ生成物」は、バイオプロセスの生成物、たとえば化石原料に基づく化学物質と対照的に、たとえば生細胞中の化学反応の成分であるか、生細胞中の化学反応によって製造されるかまたは生細胞中の化学反応に関与する化合物、特に有機化合物を指す。バイオマスから誘導されるバイオ系化学物質は、化石原料から誘導される既存の化学物質と構造的に同一であってもそのような化学物質と構造的に異なっていてもよい。バイオ系化学物質の例は、たとえば脂肪酸および脂肪酸誘導体、たとえば脂質、アルコール、たとえばジオール、および酸、バイオポリマーまたは重合用モノマー、ペプチド等を含む。この用語は、バイオプロセスの生成物、たとえば生きているか、凍結乾燥されたかまたは加水分解された微生物としてのバイオマスも包含する。上記で定義されたように、用語「バイオ系化学物質」は、生細胞中の化学反応の成分であるか、生細胞中の化学反応によって製造されるかまたは生細胞中の化学反応に関与する化合物、特に有機化合物に関する。用語「バイオ化学物質」も「バイオ系化学物質」と同義的に用いられることがある。本発明は、主にバイオ系化学物質の製造に関連して記載されることがあり、また主にこのことを意図しているが、このことは、たとえばバイオ生成物としてのバイオマスの製造を除外すると解釈されるべきではない点に留意するべきである。
【0011】
用語「脂質」は、(クロロホルムまたはエーテルのような)非極性有機溶媒中に可溶性であり、水のような極性溶媒中に通常は不溶性である有機化合物に関し、たとえば油脂、油、ワックス、リン脂質およびステロイドを含む。
【0012】
本明細書において用いられる用語「バイオプロセス」は、あらゆる生物プロセス、すなわち所望の生成物を得るために生細胞、特に細菌のような生きている微生物、または生細胞の機能構成要素、たとえば酵素、無細胞系またはオルガネラを含むプロセスに関する。生成物は、化合物、たとえば有機化合物、化合物の混合物、たとえば有機化合物の混合物またはバイオマスのことがある。例は、グルコース、デンプン、グリセロールまたは類似物のような基質からの脂質の製造である。
【0013】
「バイオリアクター」とは、適当な媒質、たとえば微生物、たとえば細菌細胞の培養物の増殖を支援するために適した水媒質を提供することができるか、生物プロセスおよび/または生化学プロセスおよび反応を実行させることができるかまたは生物プロセスおよび/または生化学プロセスおよび反応を行わせることができる条件を創出することができる作業体積を含む反応器を意味すると理解される。これらのプロセスおよび反応は、物質変換、たとえば生細胞または無細胞系による物質の合成、修飾または分解、あるいはバイオマスの成長、すなわち生細胞、たとえば細菌細胞の増殖であってよい。実行されるべきプロセスのタイプおよび/またはプロセスを実行するために用いられる微生物のタイプに応じて、バイオリアクターは、たとえば媒質の通気/換気および/または撹拌のための設備を備えることがある。
【0014】
バイオリアクターまたは槽に関する用語「閉じた」は、光バイオリアクターまたは槽を加圧することができるように光バイオリアクターまたは槽が周囲の環境に対して閉じられていることを意味する。これは、バイオリアクターまたは槽が、たとえば流体、たとえば気体、たとえばCO、または液体を容器に導入するかまたは容器から取り出すことができる開口部、接続部または類似物を有する可能性を除外しない。
【0015】
本明細書において用いられる用語「クナールガス細菌」、「水素細菌」、「H細菌」または「酸水素細菌」は、自己栄養的に成長する、すなわち水素(H)を酸化し、酸素(O)を最終電子受容体として用いる一方で二酸化炭素を固定することができる、生理学的に定義された群の細菌に関する。用語水素細菌またはH細菌に代わって略語HOBが用いられることがある。用語「酸水素」は、「クナールガス」と同義的に用いられることがある。「クナールガス」は、気体水素と気体酸素との混合物である。クナールガス細菌は、好気性の任意化学合成無機独立栄養細菌である。クナールガス細菌の例は、ヒドロゲノフィラス・テルモルテオラス(Hydrogenophilus thermoluteolus)、ヒドロゲノバクター・テルモフィラス(Hydrogenobacter thermophilus)、ヒドロゲノビブリオ・マリナス(Hydrogenovibrio marinus)、クプリアビダス・メタリヅランス(Cupriavidus metallidurans)(旧アルカリゲネス・ユウトロファ(Alcaligenes eutropha)またはラルストニア・ユートロファ(Ralstonia eutropha))、ロドコッカス・オパカス(Rhodococcus opacus)、キサントバクター・アウトロフィカス(Xantobacter autotrophicus)およびクプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus necator)である。次の簡略化された一般反応スキームは、クナールガス細菌によるOを電子受容体とするH酸化による好気的CO固定を記載する。H+O+CO→バイオマス+H
【0016】
用語「化学合成の(chemotrophic)」は、光から自らのエネルギーを導く「光栄養(phototrophic)」生物とは対照的に化合物の酸化をエネルギー源として用いる生物に関する。用語「化学合成無機栄養の(chemolithotrophic)」は、有機化合物を電子供与体として用いる生物に関する用語「化学合成有機酸化の(chemoorganotrophic)」とは対照的に無機化合物、たとえば水素気体を電子供与体として用いる生物に関する。用語「独立栄養生物(autotroph)」または「従属栄養生物(heterotroph)」は、炭素源に関し、「独立栄養」生物ではCOが炭素源であり、「従属栄養」生物では有機炭素化合物が炭素源である。用語「混合栄養の(mixotrophic)」は、有機化合物とCOとの両方を炭素源として用いることができる生物のために用いられることがある。用語「化学合成無機独立栄養の(chemolithoautotrophic)」は、無機化合物をエネルギー源および電子供与体、COを炭素源として用いる生物に関する。用語「条件的化学合成無機独立栄養の(facultative chemolithoautotrophic)」は、化学合成有機従属栄養的に(chemoorganoheterotrophically)成長することもできる生物を示す。たとえば、「クナールガス」細菌は、Hが対流圏濃度であるときは従属栄養的に成長し、Hがより高い濃度で利用可能であるときだけ化学合成無機栄養的に成長する(パンフリー(Pumphrey)GM、ランチョウ-ペイルース(Ranchou―Peyruse)A、スペイン(Spain)、JC.、「DNA安定同位体探測による独立栄養水素細菌の培養非依存検出(Cultivation-independent detection of autotrophic hydrogen-oxidizing bacteria by DNA stable-isotope probing)」、アプライド・エンバイアロンメンタル・マイクロバイオロジー(Applied Environmental Microbiology)、77巻、14号、p.4931-4938(2011年)、doi:10.1128/AEM.00285-11)。
【0017】
用語「酵母」は、真核単細胞菌類の微生物に関する。酵母の例は、サッカロミセス・セレビシアエ(Saccharomyces cerevisiae)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ヤロウィア・リポリティカである。用語「油性酵母」は、細胞乾燥重量の20%以上を脂質の形で蓄えることができる酵母に関する(たとえば脂肪、たとえばエイベルン(Abeln)、F.、チャック(Chuck)、C.J.、「油性酵母研究の歴史、先端技術および将来展望(The history,state of the art and future prospects for oleaginous yeast research)」、マイクロバイアル・セル・ファクトリーズ(Microbial Cell Factories)、20巻、p.221(2021年)、doi:10.1186/s12934-021-01712-1;ブロムクビスト(Blomqvist)、J.、ピコバ(Pickova)、J.、ティラミ(Tilami)、S.K.ら、「魚餌中の成分としての油性酵母原料(Oleaginous yeast as a component in fish feed)」、サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)、8巻、p.15945(2018年)、doi:10.1038/s41598-018-34232-x参照)。油性酵母の例は、クタネオトリコスポロン・オレアギノスス(Cutaneotrichosporon oleaginosus)、ロドトルラ・トルロイデス(Rhodotorula toruloides)、ヤロウィア・リポリティカ、リポミセス・スタルキイ(Lipomyces starkeyi)、トリコスポロン・オレアギノスス(Trichosporon oleaginosus(旧クリプトコッカス・クルバタス(Cryptococcus curvatus))およびロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)である。
【0018】
用語「水を電気分解する」は、水を水素と酸素とに分割するために直流が用いられるプロセスに関する。用語「電気分解装置」は、水を電気分解することができる装置を示すために用いられる。
【0019】
用語「水素」は、明確に表明されるかまたは文脈から疑いなく明白でない限り、二水素、すなわち単結合によって結合した2つの水素原子からなる元素分子Hに関する。Hに代わって用語「分子水素」または「気体水素」も同義的に用いられることがある。
【0020】
用語「酸素」は、明確に表明されるかまたは文脈から疑いなく明白でない限り、単結合によって結合した2つの酸素原子からなる元素分子Oに関する。Oに代わって用語「分子酸素」または「気体酸素」も同義的に用いられることがある。
【0021】
用語「C源」または「炭素源」は、細胞材料を構成する化合物中に組み込むことができるかまたは組み込まれている少なくとも1つの炭素原子を含む化合物に関する。特に独立栄養細菌にとってのC源の例は、COである。
【0022】
「第2のバイオプロセスにおいて製造されたバイオマスの少なくとも一部は、第1のバイオプロセスのためのC源として用いられる」という用語は、該バイオマスが第1のバイオプロセスの唯一の炭素源であることを意味すると解釈されるべきではない。むしろ、バイオマスは、第1のバイオプロセスにおいて用いられる追加の炭素源として使用される。さらに、この用語は、該バイオマスが他の目的で、たとえば追加の窒素源として使用され得ることも除外しない。
【0023】
用語「CO固定」または「炭素固定」は、特に二酸化炭素の形での、無機炭素の有機炭素化合物、たとえば炭水化物への生物取り込みに関する。用語「二酸化炭素の非光合成生物固定」は、光合成を含まない、すなわち非光合成生物による炭素固定に関する。
【0024】
用語「発酵」または「発酵の」は、微生物の活動が化合物、食品または飲料に望ましい変化をもたらすあらゆるプロセスを指す。
【0025】
「第3の媒質は、第2の媒質と同一である」という表現は、第3の媒質と第2の媒質とが少なくとも基本的に同じ組成、すなわちは基本的に同じ濃度の同じ成分を有することを意味する。この用語は、溶解した気体の濃度、たとえばH、OおよびCOの濃度が同一であることを暗に意味するものではない。
【0026】
「電気分解によって製造されたOの少なくとも一部を第2のバイオプロセスおよび/または第1のバイオリアクターに供給する」という表現は、電気分解生成したOの全部または一部が第1のバイオプロセスだけに供給されるか、電気分解生成したOの全部または一部が第1のバイオプロセスだけに供給されるか、あるいは電気分解生成したOの少なくとも一部が、同時であれ断続的であれ、第1のバイオプロセスに部分的に供給され、第2のバイオプロセスに部分的に供給されることを含む。用語「の一部」または「部分的に」は、連続する全気体流の部分流、または時間的に分割されたO気体の流れの一部分を指すことがある。したがって第2のバイオプロセスに導かれる酸素の連続流の一部が全酸素流から分離され、第1のバイオプロセスの酸素供給のために用いられることがあり(下記参照)、および/または全酸素気体流は、たとえば第1の期間は第2のバイオプロセス、第2の期間は第1のバイオプロセスに供給されることがある。酸素が第2のバイオプロセスに「直接」供給されるという定式化は、該酸素が貯蔵タンク、たとえば気体ボンベ中に中間貯蔵されることを除外しない。
【0027】
「第1のバイオプロセスにおいて製造された二酸化炭素は、第1のバイオプロセスから回収され、第2のバイオプロセスに供給される」という表現は、COが第1のバイオプロセスから選択的に回収され、第2のバイオプロセスに供給されることを意味すると解釈されるべきではなく、COを含有する空気が第1のバイオプロセスから、たとえば第1のバイオリアクターのヘッドスペースから回収され、任意選択としてCOが富化または濃縮されたCO含有空気が第2のバイオリアクターに供給されることを意味すると解釈されるべきである。
【0028】
本発明のプロセスにおいて、電気分解生成した酸素は、一実施形態において、第2の種類の微生物の酸素の供給のために第2のバイオプロセスだけに供給されてよい。代替実施形態において、電気分解生成した酸素は、この実施形態において好ましくは好気バイオプロセスまたは少なくとも微好気バイオプロセスである第1のバイオプロセスだけに供給されてよい。この実施形態において、好気性の第2のバイオプロセスの酸素供給は、第1のバイオプロセスにおいて製造されたCOを含有する気体流によって提供され、この気体流は、第1のバイオプロセスから回収され、第2のバイオプロセスに供給される。したがって、第2のバイオプロセスは、第1のバイオプロセスからの残留酸素を供給される。別の実施形態において、電気分解生成した酸素は、第1のバイオプロセスに部分的に供給されて、第2のバイオプロセスに部分的に供給される。酸素は、量または時間に関して分割され、すなわち、第1および第2のバイオプロセスに連続的に供給されるかまたはこれらのバイオプロセスに断続的に供給される2つの部分流に分割されてよい。
【0029】
本発明のプロセスの好ましい実施形態において、第3の圧力p3は、第2の圧力p2以上であり、第2の圧力p2は、第1の圧力p1以上である。特に好ましい、第3の圧力p3は、第2の圧力p2より大きく、第2の圧力は、第1の圧力p1より大きく、すなわちp3>p2>p1である。さらに好ましい、p1は、大気圧より大きい。H気体が供給される第3の媒質を有する槽の中の圧力p3が大きくなるほど気体の溶解度の圧力依存性に起因して第3の媒質中に溶解させることができるHの量が大きくなる。第2のバイオリアクター中の圧力p2が圧力p3と比較して低くなると、第2の媒質へのHの放出が容易になる。槽は、第3のバイオリアクターとして構成されてよい。
【0030】
第1のバイオプロセスは、所望のバイオ生成物と二酸化炭素COとが製造される結果となるどのようなバイオプロセスであってもよい。好ましくは、第1のバイオプロセスは、HまたはCOのような強く還元する気体の製造を含まないバイオプロセスである。第1のバイオプロセスは、好気プロセス、嫌気プロセスまたは微好気プロセスであってよい。好ましくは、第1のバイオプロセスは、好気プロセスまたは少なくとも微好気プロセスである。バイオ生成物は、それぞれのバイオ生成物に適当なあらゆる方法によって、たとえばバイオ生成物が細胞中に貯蔵されている場合、第1のバイオプロセスにおいて培養された細胞の少なくとも一部を回収することによって、第1のバイオプロセスから回収されてよい。第1のバイオプロセスから回収された細胞は、次に、バイオ生成物を得るためにさらに処理されることがある。第1のバイオプロセスは、バイオマス、たとえば第1のバイオプロセスにおいて増殖した生きている微生物の細胞塊の製造のためのバイオプロセスのこともある。本発明によるプロセスの好ましい実施形態において、第1のバイオプロセスは、好気バイオプロセスである。さらに好ましい、第1のバイオプロセスは、脂質の製造のための発酵プロセスである。好ましくは、発酵プロセスは、油性酵母、好ましくはロドスポリジウム・トルロイデスの培養を含む。あるいはまたはさらに、第1のバイオプロセスは、好ましくはロドスポリジウム・トルロイデスを用いる、カロチノイドの製造を含む(たとえば、イグレハ(Igreja)、W.S.;マイア(Maia)、F.d.A.;ロペス(Lopes)、A.S.;クリステ(Christe)、R.C.、「低コスト基質を用いるカロチノイドのバイオテクノロジー的製造は培養パラメータの影響を受ける 総説(Biotechnological Production of Carotenoids Using Low Cost-Substrates Is Influenced by Cultivation Parameters:A Review)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・モレキュラー・サイエンセズ(International Journal of Molecular Sciences)、22巻、p.8819(2021年)、doi:10.3390/ijms22168819;ヤエガシ(Yaegashi)、J.、カービー(Kirby)、J.、イトウ(Ito)、M.ら、「ロドスポリジウム・トルロイデス、リグノセルロースからテルペンバイオ燃料およびバイオ生成物への変換のための新しいプラットフォーム生物(Rhodosporidium toruloides:a new platform organism for conversion of lignocellulose into terpene biofuels and bioproducts)」、バイオテクノロジー・フォア・バイオフューエルズ・アンド・バイオプロダクツ(Biotechnology For Biofuels And Bioproducts)、10巻、p.241(2017年)、doi:10.1186/s13068-017-0927-5参照)。第1のバイオプロセスにおいて用いられる微生物、たとえば酵母細胞は、遺伝子工学的に操作されてよい。
【0031】
好気性の第1のバイオプロセスの場合、電気分解法で生成した酸素は、第1のバイオプロセスだけに供給されてよく、または好気プロセスを支持するために第1のバイオプロセスにも部分的に供給されてよい。後者は、たとえばa)O気体流は、2つの気体流に分割され、その一方が第2のバイオプロセス、他方が第1のバイオプロセスに供給されるか、またはb)全O気体流が第1または第2のバイオプロセスに断続的に供給されることで実行されてよい。両選択肢a)とb)との組み合わせも当然可能である。上記のように、酸素は、第1のバイオプロセスだけに供給され、第2のバイオプロセスは、第1のバイオプロセスから回収されたCOを含有する気体の流れによって酸素を供給されることも可能である。
【0032】
本発明のプロセスの好ましい実施形態において、第2のバイオプロセスは、非光合成バイオプロセスであり、O、HおよびCOの化学合成無機独立栄養消費を含む。この実施形態において、第2のバイオプロセスは、Oを電子受容体としてHを酸化し、二酸化炭素を固定するクナールガス細菌が増殖するバイオプロセスである。好ましくは、二酸化炭素は、少なくとも大部分が、さらに好ましい、全体が第1のプロセスから生じる。第2のバイオプロセスにおいて用いられる微生物は、遺伝子工学的に操作されてよい。
【0033】
特に好ましい、第1のバイオプロセスは、酵母細胞、好ましくはロドスポリジウム属、特に好ましい、ロドスポリジウム・トルロイデスの培養を含む、脂質および/またはカロチノイドの発酵製造のための好気プロセスであり、第2のバイオプロセスは、HおよびOによるクナールガス細菌、好ましくはヒドロゲノフィラス属、特に好ましい、ヒドロゲノフィラス・テルモルテオラスの化学合成無機独立栄養培養を含む。電気分解によって製造されたOは、第2のバイオリアクター中に供給されるが、電気分解からのHは、槽中に供給され、そこで第3の媒質中に溶解され、その一部は、水素細菌にHを供給するために第2のバイオリアクター中に供給される。第1のプロセスのための主炭素源は、たとえば炭素質の廃棄物および副生物(たとえばバイオマス加水分解物、糖蜜等)であってよい。しかし、他の炭素源、たとえばグリセロールまたはグルコースも可能である。この実施形態において、酵母細胞によって製造された二酸化炭素は、クナールガス細菌のバイオマスの製造を含む第2のバイオプロセスに供給され、クナールガス細菌は、化学合成無機独立栄養的に増殖する。したがって、本発明のプロセスの好ましい実施形態において第1の種類の微生物は、ロドスポリジウム属の微生物、好ましくはロドスポリジウム・トルロイデスであり、第2の種類の微生物は、ヒドロゲノフィラス属の微生物、好ましくはヒドロゲノフィラス・テルモルテオラスである。第2のバイオプロセスのためのクナールガス細菌と第1のバイオプロセスのための酵母または細菌との他の組み合わせも当然可能である。
【0034】
本発明によるプロセスの好ましい実施形態において、第2のバイオプロセスは、40~55℃、好ましくは45~55℃、50~55℃または50~53℃の間の温度において実施される。これは、好熱クナールガス細菌、たとえばヒドロゲノフィラス・テルモルテオラスの培養の場合に特に好ましい。
【0035】
本発明のプロセスの好ましい実施形態において、槽中の第3の媒質は、嫌気的に維持される。これは、たとえば、媒質が通気されないことで、および媒質中に導入されたHであらゆる酸素を消費する媒質中のクナールガス細菌の活動の結果として実現されてよい。
【0036】
第1、第2および第3の媒質は、それぞれの場合に、意図される目的、たとえば培養される微生物の増殖を支援するために適当である水媒質である。
【0037】
第2のバイオプロセスのための新鮮な媒質は、好ましくは槽中に供給されるが、あるいはまたはさらに、第2のバイオリアクター中にも供給されることがある。
【0038】
本発明のプロセスの好ましい実施形態において、第2の種類の微生物を含有する第2のバイオリアクターの第2の媒質の一部は、第2のバイオリアクターから回収され、該第2の媒質中に含有されるバイオマスは、少なくとも部分的に第2の媒質から分離され、加水分解され、第1のバイオプロセスに供給され、バイオマスから分離された第2の媒質は、第2のバイオプロセスにリサイクルされる。あるいは、またはさらに、バイオマスから分離された媒質は、槽に戻されてもよい。この実施形態において、第2のバイオプロセスにおいて製造されたバイオマスは、第1のバイオプロセスのための追加の炭素および窒素源、すなわち第1のバイオリアクター中で培養される微生物を増殖させるための基質として用いられる。さらに、第2のバイオプロセスにおいて製造され、第2の媒質から分離されたバイオマスの少なくとも一部は、プロセス全体から回収され、別個のバイオ生成物、たとえば魚餌として用いられてよい。
【0039】
本発明のプロセスのさらなる好ましい実施形態において、第2のバイオリアクターからの第2の媒質の一部は、槽に供給され、第3の媒質を収容している槽のヘッドスペース中に噴霧され、ある量、好ましくは槽に供給される第2の媒質の量と基本的に同じ量の第3の媒質が槽から第2のバイオリアクター中に供給される。第2のバイオリアクター中の媒質と槽中の媒質とは同じなので、第2のバイオリアクター中の媒質と槽中の媒質との一部が、好ましくは連続的に第2のバイオリアクターから槽へ、および第2のバイオリアクターに戻って循環する。媒質は、たとえばポンプおよびノズルの助けを借りて槽のヘッドスペース中に噴霧される。ポンプは、第2の媒質のうちの槽中に供給される部分の圧力を圧力>p3に高め、槽のヘッドスペース中で媒質を霧状にする。同時に、槽中のある量、好ましくは同じ量の第3の媒質が第2のバイオリアクターに戻される。この実施形態において、第2および第3の媒質の一部は、中の細菌を含めて第2のバイオプロセスと第3のバイオプロセスとの間で循環する。槽のヘッドスペース中の第2の媒質の微細な分布は、気相から液相へのHの移行を促進する。このようにして、槽中に供給された電気分解生成H気体は、槽中の媒質中に効率的に溶解し、第2のバイオプロセスに供給される。
【0040】
本発明のプロセスは、バッチプロセス、セミバッチプロセスまたは連続プロセスとして構成されてよい。好ましくは、本発明のプロセスは、連続プロセス、すなわち連続プロセスとして構成される。
【0041】
第1のバイオプロセスにおいて製造された二酸化炭素は、第1のバイオリアクターから、たとえば第1のバイオリアクターのヘッドスペースから回収され、第2のバイオリアクター中に供給される。第1のバイオリアクターからの回収の後、かつ第2のバイオリアクターへの導入の前に、該二酸化炭素は、好ましくは、たとえば適当な分離膜、たとえばCOからNを分離する中空糸膜(たとえばトン(Tong)Z、セキズカルデス(Sekizkardes)AK.、「CO分離用高性能膜における最近の展開(Recent Developments in High-Performance Membranes for CO Separation)」、メンブレンズ(Membranes)(バーゼル)、11巻、2号、p.156(2021年)、doi:10.3390/Membranes11020156;ハリルポーア(Khalilpour)R.、マムフォード(Mumford)K.、ツァイ(Zhai)H.、アッバス(Abbas)A.、スティーブンス(Stevens)G.、ルービン(Rubin)E.S.、「煙道気体からの膜利用炭素捕集:総説(Membrane-based carbon capture from flue gas:a review)」、ジャーナル・オブ・クリーナー・プロダクション(Journal of Cleaner Production)、103巻、p.286-300(2015年)、doi:10.1016/j.jclepro.2014.10.050;US 10118136 B2参照)を使用することによって濃縮される。適当な膜は、たとえば中空糸膜「セピュラン(SEPURAN)(登録商標)グリーン(エボニク・インヅスツリー(Evonik Industrie)、エッセン、ドイツ)である。
【0042】
第1のバイオリアクターから回収されたCOは、任意選択として、たとえば第1のバイオプロセスと第2のバイオプロセスとが二酸化炭素製造および消費に関して同期して進行していない場合、および第2のバイオプロセスへのCO供給のより良好な制御のために、貯蔵タンク、たとえば気体ボンベ中に中間貯蔵されてよい。
【0043】
好ましい実施形態において、電気分解法で生成した酸素は、クナールガス細菌の代謝活動を支援するために、少なくとも部分的に第2のバイオプロセスに直接供給される。酸素は、連続的にまたは断続的に第2のバイオプロセスに供給されることがある。酸素は、貯蔵タンク、たとえば気体ボンベ中に中間貯蔵されることがある。酸素は、第2のバイオプロセスにおいて測定された物理パラメータ、たとえばpH、pO、pH、温度、細胞質量等に応じて第2のバイオプロセスに供給されることもある。第2のバイオリアクター中に供給される酸素の流速を制御するために、流量調節が適用されることがある。この実施形態において、電気分解法で生成した酸素は、特に好気バイオプロセスの場合に、連続的にまたは断続的に第1のバイオプロセスに追加的に供給されてよい。第1のバイオプロセスへの酸素流量も調節の対象とされてよい。
【0044】
第2の側面において本発明は、本発明のプロセスによるバイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のための装置であって、
a)第1のバイオプロセスを実行するために構成されている第1のバイオリアクターであって、第1のバイオプロセスは、第1の圧力p1における第1の媒質中の第1の種類の微生物の培養を含み、第1のバイオプロセスは、バイオ生成物と二酸化炭素COとが生成する結果となる第1のバイオリアクターと、
b)第2のバイオプロセスを実行するために構成されている第2のバイオリアクターであって、第2のバイオプロセスは、第2の圧力p2における第2の媒質中の第2の種類の微生物の培養を含み、第2のバイオプロセスは、バイオマスを製造し、分子酸素Oと、分子水素Hと、ステップa)のバイオプロセスにおいて製造されたCOの少なくとも一部と、を消費するプロセスである第2のバイオリアクターと、
c)ヘッドスペースおよび第3の媒質を第3の圧力p3において収容するように構成されている槽と、
d)水をOとHとに電気分解するための電気分解装置と、
を含み、該装置は、さらに、
-第1のバイオリアクター中で製造されたCOの第2のバイオリアクターへの移送のために、第1のバイオリアクターの第1の出口を第2のバイオリアクターの第1の入口に流体接続する第1の流体接続部と、
-第2のバイオリアクター中で製造されたバイオマスの第1のバイオリアクターへの移送のために、第2のバイオリアクターの第1の出口を第1のバイオリアクターの第1の入口に流体接続する第2の流体接続部と、
-第2の媒質の槽への移送のために、第2のバイオリアクターの第2の出口を槽の第1の入口に流体接続する第3の流体接続部と、
-第3の媒質の第2のバイオリアクターへの移送のために、槽の第1の出口を第2のバイオリアクターの第2の入口に流体接続する第4の流体接続部と、
-酸素Oの第2のバイオリアクターへの移送のために、電気分解装置の第1の出口を第2のバイオリアクターの第3の入口に流体接続する第5の流体接続部と、
-酸素Oの第1のバイオリアクターへの移送のために、電気分解装置の第1の出口を第1のバイオリアクターの第3の入口に流体接続する第6の流体接続部と、
-水素Hの槽への移送のために、電気分解装置の第2の出口を槽の第2の入口に流体接続する第7の流体接続と、
を含む装置に関する。
【0045】
本発明の装置は、本発明のプロセスを実行するように構成され、第1のバイオリアクターと、第2のバイオリアクターと、バイオリアクターとして構成されてもよい槽と、を含む。これらのバイオリアクターおよび槽は、本発明のプロセスを実行するように互いに流体接続される。したがって、本装置は、これらのバイオリアクターおよび槽を、第1のバイオリアクター中で製造されたCOの第2のバイオリアクターへの移送を可能にし、第2のバイオリアクターから第1のバイオリアクターにバイオマスを移送し、電気分解装置によって発生した酸素を第2のバイオリアクターおよび/または第1のバイオリアクターに、水素を槽中に供給し、第2のバイオリアクターと槽との間で媒質を循環させるように、流体的に相互接続する流体接続部、たとえばパイプまたは管または類似物を含む。
【0046】
本発明の装置の好ましい実施形態において、第2の流体接続部は、第2のバイオリアクターの第1の出口と第1のバイオリアクターの第1の入口との間に、第2の種類の微生物を第2の媒質から分離するための分離装置と、分離装置によって第2の媒質から分離された第2の種類の微生物を加水分解するための加水分解装置とを含む。分離装置は、バッチ式もしくは連続式で動作する遠心分離装置または中空糸膜モジュールであってよい。第2の種類の微生物から分離された媒質は、第2のバイオリアクターに戻され、槽中に供給されるかまたはプロセスから回収されてよい。
【0047】
本発明の装置のさらなる好ましい実施形態において、第2のバイオリアクターの第2の出口を槽の第1の入口に流体接続する第3の流体接続部は、ヘッドスペースを含む槽の上部中に延在し、延在部分は、槽中に供給された第2の媒質を霧状にするためのノズルを含む。
【0048】
さらに好ましい、第1のバイオリアクターの第1の出口を第2のバイオリアクターの第1の入口に流体接続する第1の流体接続部は、第1のバイオリアクター中で製造され、第1のバイオリアクターから回収されたCOを、それが第2のバイオリアクターに移送される前に濃縮するためのCO濃縮装置、好ましくは膜利用CO濃縮装置を含む。さらに一層好ましい、第1の流体接続部は、COを貯蔵するためのCO貯蔵タンク、たとえば気体ボンベを含む。したがって、COは、中間貯蔵され、必要なときに第2のバイオプロセスに供給されてよい。このことは、たとえばプロセス不調の場合に、または同等でないCO製造速度と消費速度とを補償するために、第1のバイオプロセスにおけるCO製造の第2のバイオプロセスにおけるCO消費からの切り離しを可能にするため、有利である。
【0049】
酸素Oの第1のバイオリアクターへの移送のために電気分解装置の第1の出口を第1のバイオリアクターの第3の入口に流体接続する第6の流体接続部は、第5の流体接続部の一部を共有する。本発明の装置の好ましい実施形態において、電気分解装置の第1の出口を第2のバイオリアクターの第3の入口に流体接続する第5の流体接続部は、第1のバイオリアクター中に延在し、電気分解装置の第1の出口を第1のバイオリアクターの第3の入口に流体接続する。好ましくは、酸素流を分割し、同時に第1および第2のバイオリアクターの両方に導くか、あるいは第1のバイオリアクターまたは第2のバイオリアクターのどちらかに断続的に導くことができるように、第5の流体接続部中に二方弁が挿入される。
【0050】
槽は、本装置が第1、第2および第3のバイオリアクターを含むように、バイオリアクターとして構成されてもよい。
【0051】
以下において、本発明は、単なる例として添付図面を参照してさらに詳細に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明による装置の実施形態を示す略図。気体流は破線、液体流は実線。
図2図2に示した本発明による装置の実施形態の気体流および液体流を示した略図。気体流は破線、液体流は実線。
【発明を実施するための形態】
【0053】
図1は、本発明の装置1の簡略化された略図を示す。本装置は、3つの区画A、BおよびCを含む。区画Aは、第1のバイオリアクター2、区画Bは、第2のバイオリアクター3、区画Cは、第3のバイオリアクターとして構成されることがある槽4を含む。第1のバイオリアクター2および第2のバイオリアクター3は、第1のバイオリアクター2中の第1の媒質23または第2のバイオリアクター3中の第2の媒質33を撹拌するための第1の撹拌装置21および第2の撹拌装置31をそれぞれ備える。第1のバイオリアクター2中では第1の圧力p1、第2のバイオリアクター3中では第2の圧力p2、槽4中では第3の圧力p3が優勢である。
【0054】
第1のバイオリアクター2を含む区画Aにおいて、第1のバイオプロセスが実行され、第1のバイオプロセスは、第1のバイオリアクター2中で培養される第1の種類の微生物によって所望のバイオ系化学物質が生成し、二酸化炭素COの生成を伴うバイオプロセスである。そのような第1のバイオプロセスの例は、可変脂質製造のためのロドスポリジウム・トルロイデスによる通気酵母発酵である。ここでは、たとえば炭素含有廃材料および副生物(バイオマス加水分解物、糖蜜等)が主なC源として用いられる。脂質に加えて、R.トルロイデスは、水産物養殖における餌として(エビ養殖場、サケ養殖場、たとえばブロムクビスト(Blomqvist)、J.、ピコバ(Pickova)、J.、ティラミ(Tilami)、S.K.ら、「魚餌中の成分としての油性酵母(Oleaginous yeast as a component in fish feed)」、サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)、8巻、p.15945(2018年)、doi:10.1038/s41598-018-34232-x参照)または食品産業における着色剤として(たとえばイグレハ(Igreja)、W.S.、マイア(Maia)、F.d.A.、ロペス(Lopes)、A.S.、クリステ(Christe)、R.C.、「低コスト基質を用いるカロチノイドのバイオテクノロジー的製造は、培養パラメータの影響を受ける 総説(Biotechnological Production of Carotenoids Using Low Cost-Substrates Is Influenced by Cultivation Parameters:A Review)」、インターナショナル・ジャーナル・オブ・モレキュラー・サイエンセズ(International Journal of Molecular Sciences)、22巻、p.8819(2021年)、doi:10.3390/ijms22168819参照)用いることができるカロチノイド含有バイオマスを産生する。脂質プロファイルは、R.トルロイデスの遺伝子組み替えによって調整することができる(ウェン(Wen) Z.、チャン(Zhang)S.、オドー(Odoh)C.K.、ジン(Jin)M.、チャオ(Zhao)Z.K.、「ロドスポリジウム・トルロイデス―脂質以降のための潜在的赤色酵母シャーシ(Rhodosporidium toruloides-A potential red yeast chassis for lipids and beyond)」、FEMSイースト・リサーチ(FEMS Yeast Research)、20巻、5号、p.foaa038(2020年)、doi:10.1093/femsyr/foaa038)。製造された脂質プロファイルは、それらの脂質を化粧品/食品業界向にたとえばパーム油状からカカオバター状に分類することができるように変えて適応させることができる。
【0055】
第1の媒質23と第1の種類の微生物、ここではたとえば油性酵母ロドスポリジウム・トルロイデスの細胞とを収容している第1のバイオリアクター2に空気100が通気される。あるいはまたはさらに、水を電気分解する電気分解装置5中で発生した酸素が第1のバイオリアクター2に供給されてよい。第1のバイオリアクター2中で製造されたCOを含有する排気は、第1のバイオリアクター2のヘッドスペース32からコンプレッサー9を用いて回収され、第1の流体接続部61を介して区画Bの第2のバイオリアクター3中で実行されるバイオプロセスにC源として供給される。たとえばパイプまたは管のことがある第1の流体接続部61は、第1のバイオリアクター2の第1の出口25を第2のバイオリアクター3の第1の入口34に流体接続する。第2のバイオリアクター3への途中でCOは、CO濃縮装置8、たとえば膜利用CO濃縮装置8を用いて濃縮され、その結果、主にNを含有するCO欠乏空気102が排気流から除かれる。したがってCO、またはより正確にはCOが濃縮された空気が第2のバイオリアクター3に供給される送気速度vg2(図2参照)は、通気速度、すなわち空気100が第1のバイオリアクター2およびコンプレッサー9に供給される速度によって設定される。図示の実施形態において、第1の流体接続部61は、ここで、COの流れの方向でCO濃縮装置8の後にCOを中間貯蔵するための貯蔵タンク13をさらに含む。バイオ生成物101、たとえば区画Aにおいて製造されたバイオ系化学物質、たとえば第1のバイオプロセスにおいて第1の媒質23中に排出されて行くかまたは増殖した細胞中に蓄積されて行く化学物質を区画Aにおいてバイオプロセスから回収することができる。
【0056】
区画Bにおいて、第2の種類の微生物、すなわち化学合成無機栄養性のいわゆる「クナールガス細菌」が第2のバイオリアクター3中でCO、HおよびOに依存して増殖する。区画Bにおいて培養される第2の種類の微生物は、指定される気体要件を有するあらゆる微生物であってよい。適当な微生物の例は、特に高い増殖速度を有するヒドロゲノフィラス・テルモルテオラスである(アライ(Arai)H、ショウムラ(Shomura)Y、ヒグチ(Higuchi)Y、イシイ(Ishii)M.、「適度に好熱条件的な化学合成無機独立栄養水素細菌(ヒドロゲノフィラス・テルモルテオラスTH-1)の全ゲノム配列(Complete Genome Sequence of a Moderately Thermophilic Facultative Chemolithoautotrophic Hydrogen-Oxidizing Bacterium,Hydrogenophilus thermoluteolus TH-1)」、マイクロバイオロジー・リソース・アナウンスメンツ(Microbiology Resource Announcements))、7巻、6号、p.e00857-18(2018年)、doi:10.1128/MRA.00857-18)。区画Bにおけるバイオプロセスは、区画Aにおける関連バイオプロセスからのCOおよび残留Oならびに下記でより詳細に説明される電気分解装置5からの純HおよびOを受け取る。
【0057】
第2のバイオリアクター3中で増殖する水素細菌によって用いられるOおよびHは、電気分解装置5によって発生する。Oは、電気分解装置5の第1の出口55と第2のバイオリアクター3の第3の入口38とを流体接続する第5の流体接続部65を介して第2のバイオリアクターに直接供給される。図1に示される本発明の装置1の実施形態において流体接続部65の延在部分651が第1のバイオリアクター2の第3の入口28を流体接続部65、したがって電気分解装置5の第1の出口55と流体接続し、その結果、電気分解装置5によって発生したOを第6の流体接続部66を介して第1のバイオリアクター2にも供給することでき、第6の流体接続66は、第5の流体接続部65の一部を共有する。O気体流を、第2のバイオリアクター3に供給される第1の部分vg4(図2参照)と延在部分651を介して第1のバイオリアクター2に供給される第2の部分vg5とに分けるために、たとえば二方弁86が用いられることがある。弁86は、代替法として、O流を第1のバイオリアクター2だけに導くか、またはO流を第2のバイオリアクターもしくは第1のバイオリアクター2に断続的に導くために用いられることがある。O気体は、別個の貯蔵タンク(図示せず)中に中間貯蔵されることがある。
【0058】
用いられる水媒質中では顕著に低くなるHの溶解度に起因して、かつ可燃性の空間を避け、したがって防爆を創出するべくOまたはHを含有する気相を分離するために、Hは、第2のバイオリアクター3に直接供給されない。代わって、H入口は、第3の媒質43を収容している槽4を含む区画Cに配置を替えられるが、第3の媒質43は、第2のバイオリアクター3中の第2の媒質33に対応する。H気体は、電気分解装置5の第2の出口57を槽4の第2の入口46と流体接続する第7の流体接続部67を介して槽4に供給される。H気体は、別個の貯蔵タンク(図示せず)に中間貯蔵されることもある。電気分解装置5は、槽4中に過剰圧力を蓄積する。この実施形態において、槽4中で優勢な圧力p3は、他の区画、すなわち区画AおよびB中の圧力p1およびp2と比較して最も高い圧力である。圧力の増大は、より高いHの溶解度係数を提供する。圧力は、電気分解装置5に流される電流I(H送気速度vg3に比例する、図2参照)と第2の弁82の位置(閉度)とによって調整される。区画Bと区画Cとの間を循環する媒質は、H気体導入に追加の好ましい効果を及ぼす。この媒質サイクル操作のために第2のバイオリアクター3と槽4との間に第3および第4の流体接続部63、64が配置される。第3の流体接続部63は、第2のバイオリアクター3の第2の出口37を槽の第1の入口44と流体接続し、第1の入口44は、槽4のヘッドスペース42の高さにおいて槽4の上部41に配置される。第2のバイオリアクター3から槽4に第2の媒質33を圧送するために第3の流体接続部63中に第1のポンプ10が配置される。第4の流体接続部64は、槽4の第1の出口45を第2のバイオリアクター3の第2の入口36と流体接続し、槽4から第2のバイオリアクター3への第3の媒質43の戻り流を可能にする。第2のバイオリアクター3への第3の媒質43の流れは、たとえば第2の弁82で制御することができる。第2の媒質33の一部は、区画Bから回収され、ノズル12を通してそれを区画Cの槽4のヘッドスペース42に微細に噴霧するために、第1のポンプ10を用いて圧力>p3にされる。H雰囲気を有する槽4のヘッドスペース42中のこの微細な分配は、液相中のHのさらなる濃縮を確実にする。区画Bにおける第2のバイオプロセスへのH飽和媒質の流入は、vl1とvl2(図2参照)を用いて第1のポンプ10と第2の弁82による回路によって調節することができる。このサイクル中には、種々の溶解気体濃度から利益を得ることができる第2の種類の微生物、すなわちクナールガス細菌もあろう。
【0059】
区画Bには、好ましくは圧力p3より低い圧力p2があり、p2は、溶解したHが周囲の媒質中により良好に放出されることを可能にする。ここで、COおよびOの流入は、第2の撹拌装置31による撹拌と、第2のバイオリアクター3のヘッドスペース32の高さに配置された第2のバイオリアクター3の第3の出口39と第1のバイオリアクター2のヘッドスペース22の高さに配置された第1のバイオリアクター2の第2の入口26とを流体接続する第9の流体接続部69中に配置された弁81を介する区画Aと区画Bとの間の任意選択の気体サイクルと、によって増加される。
【0060】
区画Aにおける圧力p1は、好ましくは、BおよびCにおけるより低いが、好ましくは大気圧をわずかに上回る。区画Bおよび区画Cにおいて、必要な場合、過剰な圧力は弁83および弁84を用いて低くするかまたは制御することができる。
【0061】
区画Bにおいて発生したバイオマスは、好ましくは、第2の種類の微生物の十分な細胞密度に達したら第2のポンプ11および分離装置6を介して連続的に抜き出される。このプロセスにおいて、第2の種類の微生物を含有する第2の媒質33は、第2のバイオリアクター3から回収され、細胞は、分離装置6、たとえば連続遠心分離装置、たとえばディスクスタック遠心分離装置、または中空糸膜モジュールを用いて第2の媒質33から分離され、加水分解装置7中で加水分解され、第1のバイオリアクター2に供給される。これを目的として、第2の流体接続部62、たとえばパイプまたは管は、第2のバイオリアクター3の第1の出口35を第1のバイオリアクター2の第1の入口24と流体接続する。分離装置6は、第2の媒質33の流れの向きに関して、ポンプ11の後に配置され、加水分解装置7は、分離装置6の後に配置される。この実施形態において、細胞から分離された第2の媒質33は、分離された第2の媒質33を有する分離装置6の部分を第2のバイオリアクター3の第4の入口30に流体接続する第8の流体接続部68を介して区画Bのバイオプロセスに戻される。任意選択として、第2の媒質は、たとえば再処理のために第5の弁85を介して回路から取り出され、区画C中に再導入されてよい。抜き出されたバイオマスは、加水分解装置7を用いて加水分解され、追加のCおよびN源として区画Aにおけるバイオプロセスに供給される。バイオマスの少なくとも一部も回収され、別個のバイオ生成物、たとえば魚餌として用いられてよい。区画Aにおけるバイオプロセスの動作モード(たとえばバッチまたは連続)に応じて、バイオマス後処理は、連続的にまたは間隔をおいて実行されてよい。このようにして、脂質発酵ステップにおける高価なグルコースの推定20~60%を節約することができ、脂質収率が高くなる方向にC収支を顕著に移行させることができる。
【0062】
区画Cにおいて、たとえば槽4の第3の入口48において、新鮮な媒質103が本プロセスに導入されてよい。たとえば第1のバイオリアクター2の第3の出口29を介して、第1の種類の微生物および/または第1の媒質23が区画Aから回収されてよい。
【0063】
図2は、図1に示される装置の簡略化された方式を示し、区画A、BまたはCへの、および区画A、BまたはCの間の気体流(破線)および液体流(実線)を示す(図1の記載参照)。
【符号の説明】
【0064】
1 本発明の装置
2 第1のバイオリアクター
21 第1の撹拌装置
22 ヘッドスペース
23 第1の媒質
24 第1の入口
25 第1の出口
26 第2の入口
28 第3の入口
29 第3の出口
3 第2のバイオリアクター
30 第4の入口
31 第2の撹拌装置
32 ヘッドスペース
33 第2の媒質
34 第1の入口
35 第1の出口
36 第2の入口
37 第2の出口
38 第3の入口
39 第3の出口
4 槽
41 槽の上部
42 ヘッドスペース
43 第3の媒質
44 第1の入口
45 第1の出口
46 第2の入口
48 第3の入口
5 電気分解装置
55 (第1の)出口
57 (第2の)出口
6 分離装置
61 第1の流体接続部
62 第2の流体接続部
63 第3の流体接続部
64 第4の流体接続部
65 第5の流体接続部
651 延在部分
66 第6の流体接続部
67 第7の流体接続部
68 第8の流体接続部
69 第9の流体接続部
7 加水分解装置
8 CO濃縮装置
81 弁
82 第2の弁
83 弁
84 弁
85 第5の弁
86 二方弁
9 コンプレッサー
10 第1のポンプ
11 第2のポンプ
12 ノズル
13 CO貯蔵タンク
100 空気
101 バイオ生成物
102 CO欠乏空気
103 新鮮な媒質
p1 第1の圧力
p2 第2の圧力
p3 第3の圧力
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2023-12-01
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のためのプロセスであって、
a)第1のバイオリアクター中での第1の圧力p1における第1の媒質中の第1の種類の微生物の培養を含み、前記バイオ生成物と二酸化炭素COとが生成する結果となる第1のバイオプロセスであって、第1のバイオプロセスにおいて製造された二酸化炭素は、第2のバイオプロセスに供給され
b)第2のバイオリアクター中での第2の圧力p2における第2の媒質中の第2の種類の微生物の培養を含む第2のバイオプロセスであって、バイオマスを製造し、分子酸素Oと、分子水素Hと、ステップa)の第1のバイオプロセスにおいて製造されたCOの少なくとも一部と、を消費するプロセスである第2のバイオプロセスと、
c)水をOとHとに電気分解し、電気分解によって製造されたOの少なくとも一部を前記第2のバイオプロセスおよび/または前記第1のバイオプロセスに供給し、電気分解によって製造されたHの少なくとも一部をヘッドスペースおよび第3の媒質を第3の圧力p3において収容している槽に供給するステップであって、前記第3の媒質は、前記第2のバイオリアクター中の第2の媒質と同一であるステップと、
d)Hを含有する前記第3の媒質の少なくとも一部を前記槽から前記第2のバイオプロセスに供給するステップと、
を含み、ステップb)の第2のバイオプロセスにおいて製造されたバイオマスの少なくとも一部は、ステップa)の第1のバイオプロセスのためのC源として用いられ、
第1の種類の微生物は、酵母細胞であり、かつ、前記第2のバイオプロセスは、O 、H およびCO の化学合成無機独立栄養消費を含み、
第1の媒質、第2の媒質及び第3の媒質は、各場合において、微生物の培養物の増殖を支援するために適した水媒質である、プロセス。
【請求項2】
p3≧p2≧p1、好ましくはp3>p2>p1である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記第1のバイオプロセスは、好気バイオプロセス、好ましくは発酵プロセスであり、脂質および/またはカロチノイドの製造のための発酵プロセスがさらに好ましい、請求項1または2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記第2のバイオプロセスは、40~55℃、好ましくは45~55℃、50~55℃または50~53℃の間の温度で実施される、請求項1~の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記第2の種類の微生物を含有する前記第2のバイオリアクターの第2の媒質の一部は、前記第2のバイオリアクターから回収され、前記第2の媒質中に含有されるバイオマスは、少なくとも部分的に前記第2の媒質から分離され、加水分解され、前記第1のバイオプロセスに供給され、前記バイオマスから分離された前記第2の媒質は、前記第2のバイオプロセスにリサイクルされる、請求項1~の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記第2のバイオリアクターからの第2の媒質の一部は、前記槽中に供給され、前記槽の前記ヘッドスペース中に噴霧され、同じ量の第3の媒質が前記槽から前記第2のバイオリアクターに供給される、請求項1~の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
電気分解によって製造されたOの一部は、前記第1のバイオプロセスに供給される、請求項1~の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記第1の種類の微生物は、ロドスポリジウム(Rhodosporidium)属の微生物、好ましくはロドスポリジウム・トルロイデス(Rhodosporidium toruloides)であり、前記第2の種類の微生物は、ヒドロゲノフィラス(Hydrogenophilus)属の微生物、好ましくはヒドロゲノフィラス・テルモルテオラス(Hydrogenophilus thermoluteolus)である、請求項1~の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
p1は、大気圧より大である、請求項1~の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記プロセスは、連続プロセスである、請求項1~の何れか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
請求項1~10の何れか一項に記載のプロセスによるバイオ生成物のバイオテクノロジー的製造のための装置(1)であって、
a)第1のバイオプロセスを実行するために構成されている第1のバイオリアクター(2)であって、前記第1のバイオプロセスは、第1の圧力p1における第1の媒質(23)中の第1の種類の微生物の培養を含み、前記第1のバイオプロセスは、前記バイオ生成物と二酸化炭素COとが生成する結果となる第1のバイオリアクター(2)と、
b)第2のバイオプロセスを実行するために構成されている第2のバイオリアクター(3)であって、前記第2のバイオプロセスは、第2の圧力p2における第2の媒質(33)中の第2の種類の微生物の培養を含み、前記第2のバイオプロセスは、バイオマスを製造し、分子酸素Oと、分子水素Hと、ステップa)のバイオプロセスにおいて製造されたCOの少なくとも一部と、を消費するプロセスである第2のバイオリアクター(3)と、
c)ヘッドスペース(42)および第3の媒質(43)を第3の圧力p3において収容するように構成されている槽(4)と、
d)水をOとHとに電気分解するための電気分解装置(5)と、
を含み、前記装置(1)は、さらに、
-前記第1のバイオリアクター(2)中で製造されたCOの前記第2のバイオリアクター(3)への移送のために、前記第1のバイオリアクター(2)の第1の出口(25)を前記第2のバイオリアクター(3)の第1の入口(34)に流体接続する第1の流体接続部(61)と、
-前記第2のバイオリアクター(3)中で製造されたバイオマスの前記第1のバイオリアクター(2)への移送のために、前記第2のバイオリアクター(3)の第1の出口(35)を前記第1のバイオリアクター(2)の第1の入口(24)に流体接続する第2の流体接続部(62)と、
-第2の媒質(33)の前記槽(4)への移送のために、前記第2のバイオリアクター(3)の第2の出口(37)を前記槽(4)の第1の入口(44)に流体接続する第3の流体接続部(63)と、
-第3の媒質(43)の前記第2のバイオリアクター(3)への移送のために、前記槽(4)の第1の出口(45)を前記第2のバイオリアクター(3)の第2の入口(36)に流体接続する第4の流体接続部(64)と、
-酸素Oの前記第2のバイオリアクター(3)への移送のために、前記電気分解装置(5)の第1の出口(55)を前記第2のバイオリアクター(3)の第3の入口(38)に流体接続する第5の流体接続部(65)と、
-酸素Oの前記第1のバイオリアクター(2)への移送のために、前記電気分解装置(5)の第1の出口(55)を前記第1のバイオリアクター(2)の第3の入口(28)に流体接続する第6の流体接続部(66)と、
-水素Hの前記槽(4)への移送のために、前記電気分解装置(5)の第2の出口(57)を前記槽(4)の第2の入口(46)に流体接続する第7の流体接続部(67)と、
を含み、
第1の媒質、第2の媒質及び第3の媒質は、各場合において、微生物の培養物の増殖を支援するために適した水媒質である、装置(1)。
【請求項12】
前記第2の流体接続部(62)は、前記第2のバイオリアクター(3)の第1の出口(35)と前記第1のバイオリアクター(2)の第1の入口(24)との間に、前記第2の媒質(33)から前記第2の種類の微生物を分離するための分離装置(6)と、前記第2の媒質(33)から前記分離装置(6)によって分離された前記第2の種類の微生物を加水分解するための加水分解装置(7)と、を含む、請求項11に記載の装置(1)。
【請求項13】
前記第2のバイオリアクター(3)の第2の出口(37)を前記槽(4)の第1の入口(44)に流体接続する前記第3の流体接続部(63)は、前記ヘッドスペース(42)を含む前記槽(4)の上部(41)中に延在し、前記延在部分は、前記槽(4)に供給される第2の媒質(33)を霧状にするためのノズル(12)を含む、請求項11または12の何れか一項に記載の装置(1)。
【請求項14】
前記第1のバイオリアクター(2)の第1の出口(25)を第2のバイオリアクター(3)の第1の入口(34)に流体接続する第1の流体接続部(61)は、COを、前記第2のバイオリアクター(3)へのその移送の前に濃縮するためのCO濃縮装置(8)を含む、請求項11~13の何れか一項に記載の装置(1)。
【請求項15】
前記第1のバイオリアクター(2)の第1の出口(25)を前記第2のバイオリアクター(3)の第1の入口(34)に流体接続する前記第1の流体接続部(61)は、COを中間貯蔵するためのCO貯蔵タンク(13)を含む、請求項11~14の何れか一項に記載の装置(1)。
【国際調査報告】