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特表2025-504701合成熱可塑性物品を処理するための固相法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-14
(54)【発明の名称】合成熱可塑性物品を処理するための固相法
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/21 20060101AFI20250206BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20250206BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20250206BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250206BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20250206BHJP
【FI】
D06M15/21
C09D4/00
C09D4/02
C09D7/63
C09D7/65
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024565895
(86)(22)【出願日】2023-01-17
(85)【翻訳文提出日】2024-08-30
(86)【国際出願番号】 US2023010906
(87)【国際公開番号】W WO2023146769
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】17/583,945
(32)【優先日】2022-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524279146
【氏名又は名称】グリーン テーマ テクノロジーズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】GREEN THEME TECHNOLOGIES INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】シア、ジャオ
【テーマコード(参考)】
4J038
4L033
【Fターム(参考)】
4J038DL102
4J038FA011
4J038FA111
4J038JA66
4J038PA19
4J038PB02
4J038PB05
4J038PC08
4J038PC10
4L033AA08
4L033AB09
4L033CA12
(57)【要約】
合成熱可塑性物品の固相分岐及び/又は架橋は、局所的アプローチを使用して達成される。前記物品の表面は、ポリエン及びフリーラジカル開始剤を含む組成物を用いてコーティングされる。次いで、前記物品及び塗布されたコーティングを加熱して、熱可塑性物質中に分岐及び/又は架橋を誘導する。これは、前記熱可塑性物質の結晶融解温度未満において、又は布の場合には、前記布中の繊維の溶融温度未満において行われる。係る手法において処理された布は、垂直燃焼試験において減少した滴下を示すか、又は滴下を示さない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成熱可塑性成分を含む合成熱可塑性物品を処理するための固相法であって、前記熱可塑性成分は、100℃以上の結晶融解温度を有する1つ以上の合成熱可塑性樹脂を含み、前記方法は、
a)前記合成熱可塑性樹脂の前記結晶融解温度未満の温度において、コーティング組成物を前記物品の1つ以上の表面に塗布して、前記物品の1つ以上の合成熱可塑性成分と接触させる工程であって、前記コーティング組成物は、i)前記コーティング組成物の重量に基づいて、30~99.9重量パーセントの1つ以上のポリエン化合物であって、2~6個のビニル基を有しビニル基当量が125g/当量以下である1つ以上のポリエン化合物と、(ii)1つ以上のフリーラジカル開始剤と、を含み、前記物品におけるポリアミド成分、ポリエステル成分、又はその両方の1kg当たり0.04kg以上のポリエン化合物と0.005kg以上のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤とを提供するのに十分な量の前記コーティング組成物が前記物品に対し塗布される、工程と、
b)コーティングされた前記物品を、70℃以上かつ前記合成熱可塑性樹脂の前記結晶融解温度未満の温度に加熱して、前記ペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤を分解して、フリーラジカルを形成し、前記合成熱可塑性樹脂中に架橋を生成する工程と、を備える、固相法。
【請求項2】
前記合成熱可塑性成分は、脂肪族ポリアミドと、ポリエステルと、ポリアクリロニトリルと、のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の固相法。
【請求項3】
前記合成熱可塑性成分は、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン4/6、ナイロン5/6、ナイロン6/6、ナイロン6/9、ナイロン10/10及びナイロン10/12からなる群から選択される1つ以上の熱可塑性脂肪族ポリアミド樹脂を含む、請求項2に記載の固相法。
【請求項4】
前記合成熱可塑性成分は、ポリ(エチレンテレフタレート)と、ポリ(ブチレンテレフタレート)と、ポリ(エチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(エチレンサクシネート)と、ポリ(1,4-シクロヘキシレン-ジメチレンテレフタレートと、ポリ(ブチレンサクシネート)と、からなる群から選択される1つ以上の熱可塑性ポリエステル樹脂を含む、請求項2に記載の固相法。
【請求項5】
前記合成熱可塑性成分は、1つ以上の熱可塑性ポリアクリロニトリルを含む、請求項2に記載の固相法。
【請求項6】
前記合成熱可塑性物品は布であり、前記布は、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂からなる繊維を単独で含むか、又は該繊維と、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂以外のポリマーからなる繊維とのブレンドを含み、それらの繊維は、ASTM D7138-16に従って測定したときに100℃以上の溶融温度を有する、請求項1に記載の固相法。
【請求項7】
布の溶融、滴下、又はその両方を低減するための固相法であって、前記布は、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂からなる繊維を単独で含むか、又は該繊維と、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂以外のポリマーからなる繊維とのブレンドを含み、それらの繊維は、ASTM D7138-16に従って測定したときに100℃以上の溶融温度を有し、前記方法は、
a)前記繊維の前記溶融温度未満の温度において、コーティング組成物を前記布の1つ以上の表面に塗布する工程であって、前記コーティング組成物は、i)前記コーティング組成物の重量に基づいて、30~99.9重量パーセントの1つ以上のポリエン化合物であって、2~6個のビニル基を有しビニル基当量が125g/当量以下である1つ以上のポリエン化合物と、(ii)1つ以上のフリーラジカル開始剤と、を含み、布1kg当たり0.04kg以上のポリエン化合物と0.005kg以上のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤とを提供するのに十分な量の前記コーティング組成物が前記物品に対し塗布される、工程と、
b)コーティングされた前記布を、70℃以上かつ前記繊維の前記溶融温度未満の温度に、1分間~2時間のあいだ加熱する工程と、を備える、固相法。
【請求項8】
前記合成熱可塑性樹脂は、脂肪族ポリアミドと、ポリエステルと、ポリアクリロニトリルと、のうちの1つ以上である、請求項7に記載の固相法。
【請求項9】
前記脂肪族ポリアミドは、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン4/6、ナイロン5/6、ナイロン6/6、ナイロン6/9、ナイロン10/10及びナイロン10/12からなる群から選択される、請求項8に記載の固相法。
【請求項10】
前記合成熱可塑性樹脂は、ポリ(エチレンテレフタレート)と、ポリ(ブチレンテレフタレート)と、ポリ(エチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(エチレンサクシネート)と、ポリ(1,4-シクロヘキシレン-ジメチレンテレフタレートと、ポリ(ブチレンサクシネートと、からなる群から選択される、請求項8に記載の固相法。
【請求項11】
前記合成熱可塑性樹脂は、ポリアクリロニトリルである、請求項8に記載の固相法。
【請求項12】
前記ポリエン化合物は、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、エチルオキシル化及び/又はプロポキシル化グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラアクリレート、エリスリトールジ、トリ又はテトラアクリレート、アクリル化ポリエステルオリゴマー、ビスフェノールAジアクリレート、アクリル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エトキシル化ビスフェノールAジアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートオリゴマー、アクリル化ウレタンオリゴマー、1,4-ブタンジオールジアリルエーテル、1,5-ペンタンジオールジアリルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジアリルエーテル、ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、テトラエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、アルコキシル化ヘキサンジオールジアリルエーテル、ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、エトキシル化トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、プロポキシル化トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、グリセリンジ又はトリアリルエーテル、エトキシル化及び/又はプロポキシル化グリセリンジ又はトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラアリルエーテル、エリスリトールジ、トリ又はテトラアリルエーテル、アクリル化ポリエステルオリゴマー、ビスフェノールAジアクリレート、アクリル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エトキシル化ビスフェノールAジアリルエーテル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、コハク酸ジアリル、クエン酸ジ又はトリアリルトリアリルシアヌレート並びにトリアリルイソシアヌレートのうちの1つ以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載の固相法。
【請求項13】
前記フリーラジカル開始剤は、前記コーティング組成物の総重量の2%~8%を構成する、請求項1~12のいずれか一項に記載の固相法。
【請求項14】
前記コーティング組成物は、1グラム当たり0.1mmol~2mmolのビニル基を有する末端ビニルポリシロキサンをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の固相法。
【請求項15】
前記コーティング組成物は、1グラムあたり0.1mmol~2mmolのビニル基を有する前記末端ビニルポリシロキサンを5~50重量%含む、請求項14に記載の固相法。
【請求項16】
前記ポリエン化合物と、前記フリーラジカル開始剤と、1グラムあたり0.1mmol~2mmolのビニル基を有する前記末端ビニルポリシロキサンとは、合計で、前記コーティング組成物の総重量の50%~100%を構成する、請求項14又は15に記載の固相法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、合成熱可塑性物品を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族ポリアミド(一般に「ナイロン」として知られている)ポリエステル及びポリアクリロニトリル(PAN)などの合成熱可塑性物質は、とりわけ、繊維及び糸を製造するという目的のために使用され、そうした繊維及び糸は続いて布を製造するために編まれたり織られたりする。ポリアミドの布は、その高い強度及び耐摩耗性が顕著である。ポリアミド、ポリエステル及びPANの布は、衣類、及び軍隊、準軍事組織及び法執行機関の職員用の保護具を製造するのに有用である。これらの布は、住宅、オフィス及び/又は他の建物の内部において使用するための様々な製品を製造するためにも使用され、その様々な製品は、とりわけ、カーペット、カーテン(drapes and curtains)、家具の張地、寝具、シャワーカーテン、ウインドウトリートメント、壁紙及び他の装飾用被覆材を含む。
【0003】
熱可塑性材料であるので、ポリアミド、ポリエステル及びPANなどのポリマーは、熱軟化して流動することが可能であり、十分に高い温度に加熱された場合、熱軟化して流動する。前述の用途のうちの少なくともいくつかにおいて、物品が、裸火又は他の加熱源に対し曝露されるときの滴下(ドリップ)を阻止することが重要である。これは、多くの場合、火災安全性の問題であり、滴下した燃焼物質は、炎を広げたり、人又は動物に滴下したりすることによって、傷害又は死を引き起こす可能性がある。この懸念は、特定の点火条件下における液滴形成について評価する、ASTM D6413-11、EN 13501-1シングルバーニングアイテム(Single Burning Item)試験及び英国規格BS5867 Part 2-Type B試験などの様々な標準燃焼試験に反映されている。
【0004】
標準化された燃焼試験における熱可塑性物品の性能を改善するために、多くの戦略が考案されている。それらの戦略では、多くの場合、チャー形成剤、有機リン化合物、有機ハロゲン化合物、水和鉱物、赤リン及びホウ酸塩などの様々な添加剤が含有される。これらの添加剤は全て欠点を有する。それらの添加剤によって、コストが増加し、追加の処理工程が必要とされ、物理的及び/又は審美的特性に影響が及ぼされる。いくつかの場合では、それらによって暴露リスク又は環境リスクがもたらされる。ほとんどは、溶融及び/又は滴下にほとんど影響を及ぼさない。
【0005】
成形されたナイロン部品は、熱可塑性ナイロンを、ポリエン化合物(トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、及びトリメチロールプロパントリメタクリレートなど)とコンパウンド化し、次いで、このコンパウンド化した材料を型内で照射することによって架橋することが可能である。例えば、非特許文献1を参照されたい。原則として、溶融及び/又は滴下は、熱可塑性ポリマーを架橋することによって減少させることが可能であるが、このプロセスは、工業規模における繊維又は布の製造に対応可能でない。同様に、ポリマーは、そうしたポリエン化合物と様々なフリーラジカル開始剤との組み合わせを使用して架橋又は分岐されている。これは、例えば、特許文献1及び非特許文献2において説明されている。これらの方法は、融解状態で行われる。それらの方法では、相当な量のゲルが生成されるので、工業的な繊維又は糸の製造に適応可能でない。これらのゲルは紡糸口金を詰まらせ、紡糸工程及び/又は続く延伸工程中に繊維の破損を引き起こす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2019/152264号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pramanikら、Radiation Physics and Chemistry,2009,Vol.79,p.199-205
【非特許文献2】Yangら、Polymer Testing,2008,Vol.27,p.957-963
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、合成熱可塑性成分を含む合成熱可塑性物品を処理するための固相法であって、前記合成熱可塑性成分は、100℃以上の結晶融解温度を有する1つ以上の合成熱可塑性樹脂を含む、固相法である。すなわち、該方法は、
a)前記合成熱可塑性樹脂の前記結晶温度未満の温度において、コーティング組成物を前記物品の1つ以上の表面に塗布し、前記物品の1つ以上のポリアミド及び/又はポリエステル成分と接触させる工程であって、前記コーティング組成物は、i)2~6個のビニル基を有しビニル基当量が125g/当量以下である1つ以上のポリエン化合物と、(ii)1つ以上のフリーラジカル開始剤と、を含み、前記物品における合成熱可塑性成分1kg当たり0.04kg以上のポリエン化合物と0.005kg以上のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤とを提供するのに十分な量の前記コーティング組成物が前記物品に対し塗布される、工程と、
b)コーティングされた前記物品を、70℃以上かつ前記合成熱可塑性樹脂の前記結晶融解温度未満の温度に加熱して、前記ペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤を分解して、フリーラジカルを形成し、前記脂肪族合成熱可塑性樹脂中に架橋を生成する工程と、を備える。
【0009】
非常に驚くべきことに、本出願人は、コーティング組成物を局所的に塗布した後、固体状態(すなわち、合成熱可塑性樹脂の結晶融解温度未満)の加熱工程を行うことによって、合成熱可塑性樹脂に架橋を生じさせることが可能であることを見出した。この手法における架橋する能力によって、非常に実質的な利点が提供される。物品を製造する前に合成熱可塑性樹脂中に架橋剤(ポリエン及びフリーラジカル開始剤)を溶融ブレンドすることが不要になる。したがって、特別なグレードの樹脂は必要とされず、それらを製造するためのコンパウンド化のコストが回避される。非特許文献1に記載されているような放射線処理工程は不要になり、したがって排除可能である。簡単で安価なコーティング及び加熱装置を使用可能である。該プロセスは、連続操作及びバッチ操作の両方に適合可能であり、それゆえに、しばしば、既存の生産ラインにおいて実施され得る。
【0010】
該プロセスは、実際に、溶融紡糸、押出、ブロー成形などの溶融加工法を使用して製造された合成熱可塑性物品を簡単な手法において改質して、別の方法では溶融加工操作に使用可能でない架橋熱硬化性ポリマーの特性により類似した特性を物品中に(又は少なくとも処理された表面に)生成することを可能にする。1つの特定の利点は、処理された製品が、垂直燃焼試験(vertical flame test)において火炎に対し曝されたときに、一般に、溶融及び/又は滴下の低減又は場合によっては排除を示すことである。これは、該物品が、個人用衣服、保護具、及び建築用、家具用又は装飾用製品の一部を構成又は形成する布又はシート材料である場合に、重要な利点である。
【0011】
本発明のプロセスは、典型的には、物品の寸法又は幾何学的形状に影響を及ぼさず、プロセスの結果としてのサイズ及び形状における変化は、無視できるか、場合によっては存在しない。
【0012】
第2の態様では、本発明は、布の溶融、滴下、又はその両方を低減するための固相法であって、前記布は、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂からなる繊維を単独で含むか、又は該繊維と、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂以外のポリマーからなる繊維とのブレンドを含み、それらの繊維は、ASTM D7138-16に従って測定したときに100℃以上の溶融温度を有する。該方法は、以下の工程を備える。すなわち、
a)前記繊維の前記溶融温度未満の温度において、コーティング組成物を前記布の1つ以上の表面に塗布する工程であって、前記コーティング組成物は、i)前記コーティング組成物の重量に基づいて、30~99.9重量パーセントの1つ以上のポリエン化合物であって、2~6個のビニル基を有しビニル基当量が125g/当量以下である1つ以上のポリエン化合物と、(ii)1つ以上のフリーラジカル開始剤と、を含み、布1kg当たり0.04kg以上のポリエン化合物と0.005kg以上のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤とを提供するのに十分な量の前記コーティング組成物が前記物品に対し塗布される、工程と、
b)コーティングされた前記布を、70℃以上かつ前記繊維の前記溶融温度未満の温度に、1分間~2時間のあいだ加熱する工程と、を備える。
【0013】
布は、処理後も可撓性及び柔軟性を維持し、特に、繊維又はフィラメントは、凝集して大きな塊を形成しない。触覚特性(「手触り(hand)」と表現されることもある)の変化はほとんど又は全く見られない。空気の流れは、実質的に変化しないか、ほんのわずかしか変化しない。
【0014】
本発明のさらなる利点は、コーティング組成物が、有益な効果を提供する追加の成分をさらに含み得ることである。追加の成分は、例えば、可塑剤、布用柔軟剤、染料、疎水性及び/又は疎油性処理剤、並びにほか多数を含んでもよい。
【0015】
該プロセスは、脂肪族ポリアミド、ポリエステル及び/又はPANの布を処理するのに特に適している。脂肪族ポリアミド、ポリエステル、及び/又はPANの布は、例えば、脂肪族ポリアミド、ポリエステル、又はPANの繊維を単独で含むか、脂肪族ポリアミド、ポリエステル、及び/若しくはPANの繊維と互いとのブレンド、及び/又は脂肪族ポリアミド、ポリエステル、及び/若しくはPANの繊維とポリアミド、ポリエステル、若しくはPAN以外の1つ以上の他のポリマーからなる繊維とのブレンドを含んでもよく、そうした他のポリマーからなる繊維は、ASTM D7138-16に従って測定したときに100℃以上の溶融温度を有する。
【0016】
処理される物品は、100℃以上の結晶融解温度を有する1つ以上の合成熱可塑性樹脂を含む1つ以上の合成熱可塑性成分を含む。そうした合成熱可塑性樹脂の例としては、ポリアミド、ポリエステル、及びPANが挙げられる。いくつかの実施形態では、合成熱可塑性樹脂は、合成熱可塑性成分の全重量の50%以上、75%以上又は90%以上を構成する。
【0017】
いくつかの実施形態では、合成熱可塑性樹脂は、ポリアミドであるか、ポリアミドを含む。ポリアミドは脂肪族であり、すなわち芳香族基を含まない。それは、アミド結合によって結合された繰り返し単位を有する熱可塑性有機ポリマーである。アミド基当たりの式分子量は、好ましくは500g/mol以下であり、好ましくは300g/mol以下である。ポリアミドは、ISO 3146:2000の毛細管法に従って測定したときに、100℃以上、好ましくは150℃以上の結晶融解温度を有する。ポリアミドは、α,ω-アミノ酸のポリマー、ジカルボン酸とジアミンとのコポリマー、環状ラクタムのポリマー、又はそれらの任意の2つ以上の組み合わせであってもよい。有用なポリアミドの例としては、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン4/6、ナイロン5/6、ナイロン6/6、ナイロン6/9、ナイロン10/10及びナイロン10/12が挙げられる。
【0018】
他の実施形態では、合成熱可塑性樹脂は、ポリエステルであるか、ポリエステルを含む。ポリエステルは、芳香族基を含んでいても含んでいなくてもよい。それは、エステル結合によって結合された繰り返し単位を有する熱可塑性ポリマーである。エステル基あたりの式分子量は、好ましくは500g/mol以下、好ましくは300g/mol以下である。ポリエステルは、ISO 3146:2000の毛細管法に従って測定したときに、100℃以上、好ましくは150℃以上の結晶融解温度を有する。ポリエステルは、例えば、限定されないが、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンテレフタレート)、ポリ(エチレンアジペート-co-テレフタレート)、ポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(1,4-シクロヘキシレン-ジメチレンテレフタレート又はポリ(ブチレンサクシネート)であってもよい。
【0019】
さらに他の実施形態では、合成熱可塑性樹脂は、ポリ(アクリロニトリル)であるか、それを含む。
合成熱可塑性成分は、合成熱可塑性樹脂に加えて他の材料を含有してもよい。これらは、例えば限定するものではないが、多くの中でも特に、合成熱可塑性樹脂にブレンドされるか、合成熱可塑性樹脂とディスパージョンを形成する他のポリマー;充填剤及び強化剤;レオロジー改質剤;衝撃改質剤;可塑剤;着色剤;様々な熱可塑性加工助剤(滑剤など);防腐剤;殺生物剤;酸化防止剤及びUV安定剤などが含まれてもよい。
【0020】
該物品は、合成熱可塑性樹脂を含有しない1つ以上の構成要素を含んでもよい。そうした他の構成要素は、例えば、接着剤で、機械的に、磁気的に、又は別様に、合成熱可塑性構成要素に対し付けられてもよい。例えば、該物品は、合成熱可塑性樹脂からなる1つ以上の層と、いかなる合成熱可塑性樹脂も含有しない1つ以上の他の層とを有する多層構造であってもよい。
【0021】
特に興味深い物品は、100℃以上の結晶融解温度を有する1つ以上の合成熱可塑性樹脂からなる繊維(特に1つ以上の脂肪族ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、及びPAN繊維)を有する布を含む。そうした布は、合成熱可塑性樹脂からなる繊維及び/又は糸を含み、該繊維及び/又は該糸は、一体に織られるか、編まれるか、絡み合わされるか、結び付けられるか、フェルト化されるか、溶融結合されるか、接着される。100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂からなる繊維又は糸は、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂ではない他の材料からなる他の繊維又は糸とブレンドされてもよい。そうした他の繊維は、例えば、綿、エラストマーポリウレタン(スパンデックスを含む)、セルロース、羊毛、絹、アラミド、ポリプロピレン、ポリアセテート、セルロースエステル(レーヨンなど)などの材料からなる繊維であってもよく、又はそれらを含んでもよい。該繊維は、ASTM D7138-16の方法A(2つ以上の異なる繊維のブレンドの場合)又は方法B(単一成分繊維の場合)に従って、100℃以上、好ましくは150℃以上の溶融温度を有する。該布は、100mm以上(例えば300mm~7メートル以上)の幅を有し得るロール製品の形態であってもよいか、衣類、カーテン、寝具、カーペット、壁装材などの物品などの完成物品の全部又は一部分を構成していてもよいか、又はその両方であってもよい。
【0022】
本プロセスの工程a)では、物品の1つ以上の表面に対するコーティング組成物であり、物品の1つ以上の合成熱可塑性成分と接触させる。該コーティング組成物は、i)2~6個のビニル基を有しビニル基当量が150g/当量以下である1つ以上のポリエン化合物と、(ii)1つ以上のフリーラジカル開始剤と、を含む。該コーティング組成物は、有利には、物品に塗布される温度において、液体の形態であるか、分散された固体を含有する液相を有するディスパージョンの形態である。ディスパージョンである場合、ポリエン化合物及びフリーラジカル開始剤は、各々独立して、液相若しくは固相に、又は部分的に両方に存在してもよい。ディスパージョンの液相は、例えば、ポリエン化合物若しくはフリーラジカル開始剤、又は両方であってもよく、その代わりに、又はそれに加えて、液相は、担体若しくは他の機能性成分であってもよいか、それらを含んでもよい。いくつかの実施形態では、該コーティング組成物は、液体ポリエン化合物と、随意で、1つ以上の他の液体成分(担体及び/又は他の液体機能性成分など)とを含む液相中の固体フリーラジカル開始剤粒子のディスパージョンである。
【0023】
ポリエン化合物は、1分子当たり2~6個のビニル基を含有する。本発明の目的のための「ビニル」基は、-CHR=CHR基であり、ここで、各Rは、独立して、水素、6個までの炭素原子を有する直鎖の、分枝鎖のもしくは環状のアルキル、又はフェニルである。ビニル基は、好ましくは、アリル(すなわち、-CH-CHR=CHRの形態を有するより大きな基の一部)であるか、エノン(すなわち、-C(O)-CHR=CHRの形態を有するより大きな基の一部)であるか、又はその両方である。Rは、好ましくは、各場合において水素である。
【0024】
いくつかの実施形態では、ポリエン化合物は各々(1つより多い場合)、1分子当たり2~4個のビニル基を含有し、特定の実施形態では、1分子当たり2又は3個のビニル基を含有する。
【0025】
各ポリエン化合物は、ビニル基当量が125g/当量以下であり得る。
適当なポリエン化合物の例としては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸とポリオールとのエステルに対応する様々な化合物が挙げられる。これらは、例えば、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、エチルオキシル化及び/又はプロポキシル化グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラアクリレート、エリスリトールジ、トリ又はテトラアクリレート、アクリル化ポリエステルオリゴマー、ビスフェノールAジアクリレート、アクリル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エトキシル化ビスフェノールAジアクリレートなど、及びアクリレート基がメタクリレート基で置き換えられた対応する化合物を含む。他の適当なアクリレート化合物は、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートオリゴマー及びアクリル化ウレタンオリゴマーを含む。
【0026】
他の適当なポリエン化合物は、2つ以上のアリル基を有する化合物である。これらの例は、ポリオールのポリアリルエーテル及びポリカルボン酸のポリアリルエステルを含む。
適当なポリアリルエーテルは、例えば、1,4-ブタンジオールジアリルエーテル、1,5-ペンタンジオールジアリルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジアリルエーテル、ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、テトラエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、アルコキシル化ヘキサンジオールジアリルエーテル、ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、エトキシル化トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、プロポキシル化トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、グリセリンジ又はトリアリルエーテル、エチルオキシル化及び/又はプロポキシル化グリセリンジ又はトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラアリルエーテル、エリスリトールジ、トリ又はテトラアリルエーテル、アクリル化ポリエステルオリゴマー、ビスフェノールAジアクリレート、アクリル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エトキシル化ビスフェノールAジアリルエーテルなどを含む。
【0027】
適当なポリアリルエステルの例としては、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、コハク酸ジアリル、クエン酸ジ又はトリアリルなどが挙げられる。
【0028】
他の有用なポリエン化合物は、トリアリルシアヌレート及びトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を含む。
フリーラジカル開始剤は、本プロセスの工程b)の条件下において熱的に反応及び/又は分解してフリーラジカルを生成する1つ以上の化合物である。22℃において固体であるフリーラジカル開始剤が好ましく、トルエン中において測定したときに30~70℃以上の10時間半減期温度(フリーラジカル開始剤の製造業者によって報告される)及び特に80~120℃の10分半減期温度を有するフリーラジカル開始剤も同様である。フリーラジカル開始剤は、好ましくは、水1リットル当たり1グラム以下の程度まで水に可溶であり、トルエン1リットル当たり25グラム以上の程度までトルエンに可溶である。
【0029】
アゾフリーラジカル開始剤が特に有用であることが見出されている。アゾフリーラジカル開始剤は、R-N=N-R’部分を含み、式中、R及びR’は、それぞれの隣接する窒素への炭素-窒素結合を形成する有機基である。アゾフリーラジカル開始剤の例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルペンタンニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)及び2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)が挙げられる。
【0030】
他の有用なフリーラジカル開始剤は、例えば、1)アシルペルオキシド(例えば、アセチルペルオキシド又はベンゾイルペルオキシド)、2)アルキルペルオキシド(例えば、クミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ラウロイルペルオキシド又はt-ブチルペルオキシド)、3)ヒドロペルオキシド(例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド又はクミルヒドロペルオキシド)、4)ペルエステル(例えば、過安息香酸t-ブチル)、5)他の有機ペルオキシド(例えば、アシルアルキルスルホニルペルオキシド、ジアルキルペルオキシジカーボネート、ジペルオキシケタール又はケトンペルオキシド)、6)環状ケトン及び1,2,4-トリオキセパン(例えば、米国特許第8,334,348号明細書に記載される)、7)アジド化合物、8)様々なテトラジン及び9)様々な過硫酸塩化合物(例えば、過硫酸カリウム)を含む。
【0031】
ポリエン化合物は、例えば、コーティング組成物の総重量の30%~99.9%を構成してもよい。特定の実施形態では、ポリエン化合物は、コーティング組成物の総重量の35%以上、40%以上、45%以上、又は50%以上を構成する。他の特定の実施形態では、ポリエン化合物は、コーティング組成物の総重量の最大99.5%、最大99%、最大95%、最大80%、最大70%、又は最大50%を構成する。
【0032】
フリーラジカル開始剤は、例えば、コーティング組成物の総重量の0.1%~50%を構成する。特定の実施形態では、ポリエン化合物は、コーティング組成物の総重量の0.5%以上、1%以上、2%以上、3%以上、又は4%以上を構成する。他の特定の実施形態では、ポリエン化合物は、コーティング組成物の総重量の最大25%、最大15%、最大10%、最大7.5%、又は最大6%を構成する。
【0033】
いくつかの実施形態では、ポリエン化合物及びフリーラジカル開始剤は、合計して、コーティング組成物の総重量の35%以上、45%以上、50%以上、60%以上、又は75%以上、及びその最大100%、最大98%、又は最大90%を構成する。
【0034】
いくつかの実施形態では、コーティング組成物は、1つ以上の末端ビニルポリシロキサンをさらに含む。ポリシロキサンは、例えば、0.05mmol/グラム以上、0.1mmol/グラム以上、及び最大2mmol/グラム、好ましくは最大1mmol/グラム、又は最大0.5mmol/グラムのビニル含有量を有し得る。ポリシロキサンは、1分子当たり2個以上のビニル基又は3個以上のビニル基、及び1分子当たり最大10個のビニル基を含有してもよく、6mm/s~1000mm/sの公称粘度(その製造業者によって報告される)を有してもよい。そうした末端ビニルポリシロキサン製品は、AB Specialty SiliconesからAndisil(登録商標)の商品名において入手可能である。存在する場合、そうした末端ビニルポリシロキサンは、例えば、コーティング組成物の総重量の5%以上、10%以上、又は20%以上、及びその最大69.9%、最大60%、最大50%を構成してもよい。
【0035】
特定の実施形態では、コーティング組成物は、30~60重量%、特に35~65重量%のポリエン化合物と、2~10重量%のフリーラジカル開始剤と、25~75重量%の上記のようなビニル含有量を有する1つ以上の末端ビニルポリシロキサンとを含む。これらの3つの成分は、合計して、例えば、コーティング組成物の総重量の45%~100%又は70%~100%を構成してもよい。
【0036】
コーティング組成物は、前述のポリエン化合物、フリーラジカル開始剤、及び末端ビニルポリシロキサンとは異なる他の成分を含有してもよく、他の成分は、担体として機能してもよい(すなわち、液相を提供又は補充するために)、及び/又は他の特定の機能を果たしてもよい。
【0037】
有用な担体又は担体の混合物は、22℃において液体であるか、又は22℃において固体であるが、70℃以下、好ましくは50℃以下の融解温度を有する材料である。担体はまた、好ましくは100℃以上、より好ましくは125℃以上、さらにより好ましくは150℃以上の沸点を有する。有用な担体の例としては、(i)14~30個の炭素原子を有する脂肪族モノアルコール又は脂肪族モノカルボン酸;(ii)脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル(該エステルは、18~48個の炭素原子、好ましくは20~36個の炭素原子を有する);(iii)1つ以上のヒドロキシ基を有するポリエーテル;(iv)末端ビニル以外のポリシロキサン(直鎖状、分岐状又は環状であり得る);(v)ポリシロキサン-ポリ(アルキレングリコール)コポリマー;(vi)ワックス(例えばポリエチレンワックス、蜜ろう、ラノリン、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、オリキュリーワックス、サトウキビワックス、ホホバワックス、エピクチクラワックス、ココナッツワックス、石油ワックス、パラフィンワックスなど);(vii)フルオロポリマー、(viii)固体の植物油及び/又は動物油又は脂肪;(viii)最大100℃の純相の融点すなわち軟化点を有する別の有機オリゴマー又はポリマー、又は(ix)様々な可塑剤がある。
【0038】
脂肪族モノアルコールには、1-ドデカノール、1-テトラデカノール、1-ヘキサデカノール、1-オクタデカノールなどの飽和脂肪族アルコールを含む脂肪族アルコールがあり、脂肪族アルコールは、脂肪族アルコール鎖中に1つ以上の炭素-炭素不飽和部位を有する。脂肪酸と脂肪アルコールとの有用なエステルには、例えば、オクタデカン酸ヘキシル、オクタデカン酸オクチル、オクタデカン酸ドデシル、オクタデカン酸ヘキサドデシルなどがある。エステルの脂肪酸及び/又は脂肪族アルコール部分は、1つ以上の炭素-炭素不飽和部位を含有してもよい。
【0039】
適当なポリエーテルは、プロピレンオキシド、テトラメチレングリコールなどの1つ以上の環状エーテルのポリマーである。分子量は、最大100℃の融点を有するポリマーを製造するのに十分に高い。ポリエーテルは、1つ以上のヒドロキシ基を含有してもよい。それは、直鎖又は分枝鎖であってもよい。ポリエーテルは、末端アルキルエステル基を含有してもよい。適当なポリエーテルの特定の例としては、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンオキシド)のモノアルキルエステル、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)のモノアルキルエステル、エチレンオキシド-プロピレンオキシドのコポリマー及びそのモノアルキルエステル、ポリ(テトラメチレンオキシド)などが挙げられる。
【0040】
有用なポリシロキサンとしては、例えば、ポリ(ジメチルシロキサン)及びそのコポリマーが挙げられる。ポリシロキサンは、直鎖状、分岐状又は環状であってもよい。有用なシロキサン-ポリ(アルキレングリコール)のコポリマーとしては、例えば、ブロック又はグラフト構造を有することが可能であるポリ(ジメチルシロキサン-ポリ(エチレングリコール)のコポリマーが挙げられる。特に好ましいポリシロキサンとしては、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、及び直鎖又は分岐ポリジメチルシロキサン(PDMS)オイル、ポリメチルヒドロシロキサン(PMHS)オイル、及び他の液体シクロメチコンが挙げられる。
【0041】
パラフィン又は蜜ろうワックスは、特に好ましいワックス担体である。ステアリル及びセチルアルコールは、特に好ましいアルコール担体であり、22℃において固体である。
可塑剤には、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、アジピン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル、テレフタル酸エステル、様々な脂肪酸エステル、エポキシ化植物油、スルホンアミド、有機リン酸塩、クエン酸アルキル、アセチル化モノグリセリドなどがある。
【0042】
担体は、硬化した組成物に特定の機能的な寄与を提供し得る。いくつかの実施形態では、担体は、硬化した組成物に増加した疎水性及び/又は疎油性を提供する。それは、可塑化機能を果たしてもよい。担体は可燃性を増加させるものではない。
【0043】
担体はまた、100℃未満の沸点を有し、重合性不飽和を有さない(すなわち、上記のようなモノマーではない)低分子量有機化合物を含んでもよい。これらの低分子有機化合物は、例えば、PPG-14モノブチルエステル等の液体のポリエ-テル、ポリエ-テルモノアルキルエステル;n-ヘキサン、n-ペンタン、n-ヘプタン、ヘンイコサン、ドコサン、トリコサン、テトラコサン、ペンタコサン、ヘキサコサン、ヘプタコサン、オクタコサン、ノナコサン、トリアコンタン等の液体のアルカン;n-プロパノール、イソプロパノ-ル、n-ブタノール、t-ブタノール、メタノ-ル、及びエタノ-ル等の液体のアルコ-ル;パーフルオロヘキサン、パ-フルオロヘプタン、パーフルオロデカン-ピナン、パ-フルオロデカン-オクタン、パ-フルオロドデカン等のフッ素化アルカン;塩化イソアミル、塩化イソブチル、塩化ベンジル等の塩素化アルカン及び塩素化芳香族化合物;エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、ジエチレングリコ-ル、トリエチレングリコ-ル、ジプロピレングリコ-ル、トリプロピレングリコ-ル、及び1,4-ブタンジオ-ル等のアルカンジオール及びポリアルキレングリコ-ル;セバシン酸ジイソプロピル及びグリセロールトリパルミタート等の液体のエステル;アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン;ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ラウリン酸等の液体の脂肪酸;1-ナフタルアミン;ビフェニル;ベンゾフェノン;ジフェニルアミン;1,2-ジフェニルエタン;無水マレイン酸;ピラジン;チモール;グリセリン;ソルビトール又は他の糖;及びジベンジリデンソルビトールを含む。
【0044】
担体は、存在する場合、コーティング組成物の総重量の最大64.9%を構成してもよい。しかしながら、そうした担体は、好ましくは、仮に存在するとしても、有意により低い量で存在する。好ましい上量は、最大50%、最大25%、又は最大10%である。
【0045】
そうした他の成分の他の例としては、1分子当たりちょうど1つのフリーラジカル重合性基を有し、最大500の分子量を有する1つ以上のフリーラジカル硬化性モノマーが挙げられる。そうしたモノマーの例は、8つ以上の炭素原子を有する1つ以上のヒドロカルビル基、及び/又は重合性基に直接若しくは間接的に結合した1つ以上のシロキサン基を有する。ヒドロカルビル基は、部分的にフッ素化又は過フッ素化されていてもよい。フリーラジカル重合性基は、フリーラジカル重合において重合する任意のものであり得るものの、好ましくはビニル、アクリレート、メタクリレート又はクロロシラン基である。該モノマーの水に対する溶解度は、30℃において、水100質量部当たり、好ましくは2質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下であり、さらにより好ましくは0.25質量部以下である。水は、30℃において、モノマー100重量部当たり、好ましくは2重量部以下、より好ましくは1重量部以下、より好ましくは0.25重量部以下の程度までモノマーに可溶である。そうしたモノマーの例は、国際公開第2015/127479号にさらに説明されている。モノマーの具体的な例としては、以下のうちの1つ以上が挙げられるが、これらに限定されない。すなわち、オクチルアクリレート、オクチルメタクリレート、デシルアクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、オクタデシルアクリレート、オクタデシルメタクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2-(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート、2-(パーフルオロオクチル)エチルトリクロロシラン、ビニルシロキサン、ビニルナフタレン。
【0046】
コーティング組成物は、1つ以上の発泡剤をさらに含有してもよい。適当な発泡剤は、22℃において液体であるものの、硬化工程の条件下において揮発する物理的(吸熱性)タイプ、及び硬化反応の条件下において分解するなど、反応してガスを形成する物理的タイプを含む。有機物理的発泡剤が存在する場合、硬化性組成物が、10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2重量%以下、さらにより好ましくは1重量%以下、一層より好ましくは0.25重量%以下の100℃未満の沸点を有する有機化合物を含有するように、少量で使用されるものである。化学発泡剤は、好ましくは二酸化炭素又は窒素を生成する。化学発泡剤には、いわゆるアゾタイプ、ペルオキシ発泡剤(ペルオキシエステル、ペルオキシカーボネートなど)、ならびにある種のカルバメート及びシトレート化合物が含まれる。
【0047】
硬化性組成物は、成分を単に混合することによって調製可能である。フリーラジカル開始剤が分解する温度に曝されない限り、添加の順序は一般に重要ではない。組成物を形成する好ましい方法は、撹拌しながら10℃~50℃の温度において任意の順序においてそれらを組み合わせることである。
【0048】
コーティング組成物は、物品に対し塗布され、物品の1つ以上の合成熱可塑性成分と接触する。それは、多くの便利な方法のいずれかを使用して塗布されることが可能である。その便利な方法は、例えば、ロール、ブラシ、噴霧、物品を組成物中に浸漬すること、パドルを適用し、例えば、エアナイフ又はドクターブレードなどを使用して物品の表面中に組成物を擦り付けることなどである。特に連続工業プロセスにおいて、それを塗布する特に有用な方法は、ローラーを使用して物品上にそれを塗ることである。そうした場合の硬化性組成物は、任意の好都合な手法においてローラーに対し塗布され、基材をローラーと接触させることによって基材に転写される。
【0049】
塗布温度(すなわち、塗布時の物品の温度)は、合成熱可塑性樹脂の結晶融解温度未満であるか、布の場合、ASTM D-7138-16の適用可能な方法に従って測定したときに繊維の溶融温度未満である。物品がプロセス全体を通して固体状態のままであることが重要である。塗布温度は、好ましくは70℃以下であり、より好ましくは50℃以下又は35℃以下である。特に好ましい塗布温度は、10~35℃である。
【0050】
塗布されるコーティングの量は、物品の重量に関して、及び/又はコーティング組成物が塗布されるその表面積に関して表すことが可能である。
いくつかの実施形態において、コーティング組成物の量は、物品中の合成熱可塑性成分1kg当たり0.04kg~0.75kgのポリエン化合物、及び物品中の合成熱可塑性成分1kg当たり0.005kg~0.05kgのペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤を提供するのに十分である。コーティング組成物が物品の複数の面に対し塗布される場合、前述の重量は、塗布されたコーティングの全てにおけるポリエン化合物とペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤との合計重量に対して適用される。コーティング組成物の量は、物品中の合成熱可塑性成分1kg当たり0.05kg以上、0.06kg、0.075kg以上又は0.9kg以上のポリエン化合物及び0.006kg以上のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤を提供するのに十分であり得る。いくつかの実施形態では、コーティング組成物の量は、物品中の合成熱可塑性成分1kg当たり、0.6kg以下、0.4kg以下、又は0.3kg以下のポリエン化合物、及び0.04kg以下又は0.03kg以下のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤を提供するように選択される。コーティング組成物の総重量は、例えば、物品中の合成熱可塑性成分1kg当たり0.05kg~1kg、特に0.075kg~0.5kgのコーティング組成物であってよい。
【0051】
次いで、コーティングされた物品を加熱して、ペルオキシル又はアゾフリーラジカル開始剤を分解して、フリーラジカルを形成し、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂中に架橋を生成する。加熱工程は、酸素欠乏雰囲気中において行うことが好ましい。本発明の目的のための酸素欠乏雰囲気は、1モルパーセント以下の酸素分子(O)を含有するガスである。酸素欠乏雰囲気は、0.1モルパーセント以下の酸素分子を含有してもよい。酸素欠乏雰囲気は、98モルパーセント以上、好ましくは99モルパーセント以上、より好ましくは99.9モルパーセント以上の不活性ガス、例えば窒素、アルゴン、二酸化炭素、蒸気、ヘリウム又はそれらの任意の2つ以上の混合物を含有してもよい。
【0052】
この加熱工程中の温度は、70℃以上かつ合成熱可塑性樹脂の結晶融解温度未満であるか、又は布の場合には、ASTM D7138-16の適用可能な方法に従って決定される繊維溶融温度未満である。物品は、加熱工程中、固体状態のままであり、その元の寸法及び幾何学的形状に対して変化を示さないか、又は無視できるほどの変化しか示さない。好ましい温度は、80℃以上、又は90℃以上、最大150℃、又は最大125℃である。
【0053】
加熱工程は、好ましくは、1kGy以下、0.1kGy以下、0.01kGy以下の紫外線、e-ビーム放射線、又は他の電離放射線などの電離放射線の実質的な非存在下において実施される。物品は、自然のバックグラウンド放射線のために存在し得る場合を除いて、加熱工程中にそうした電離放射線に曝露されないことが特に好ましい。
【0054】
加熱工程中の大気圧は、大気圧未満、大気圧又は超大気圧であってもよい。ゲージ圧689kPa~6895kPa(ゲージ圧100~1000psi)のような超大気圧が有利である。
【0055】
加熱工程は、例えば、1分間以上、15分間以上、又は30分間以上継続されてもよい。2時間より長い期間は一般に不必要であるものの、より多くの架橋が必要であるか、物品が大きい又は厚い場合には使用可能である。加熱工程中、フリーラジカル開始剤はフリーラジカルを生成する。フリーラジカル及びポリエンは、合成熱可塑性樹脂を架橋する。架橋密度は一般に、加熱時間の増加と共に増加する。
【0056】
架橋は、典型的には、物品のポリアミド及び/又はポリエステル成分の物理的及び/又は熱的特性における変化をもたらす。架橋された合成熱可塑性成分は、とりわけ、i)熱硬化性樹脂に特有な非溶融挙動、ii)着火の遅延、及び/又はiii)裸火に曝されたときの滴下の減少のうちの1つ以上を示してもよい。
【0057】
機械的特性もまた、架橋の結果として幾らか変化してもよい。本発明に従って処理された布は、多くの場合、ASTM D6413-11、EN 13501-1シングルバーニングアイテム(Single Burning Item)試験及び英国規格BS5867 Part 2-Type B試験のような燃焼試験に供したときに、滴下の有意な減少を示す。本発明に従って処理された布は、多くの場合、空気の流れ、「手触り(hand)」、ドレープ性などの特性のわずかな変化を示す。
【0058】
コーティング組成物の様々な随意の成分、又はそれらの反応生成物は、処理された物品とともに残り、処理された物品上にコーティングを形成してもよいか、いくつかの場合において、物品の合成熱可塑性成分に浸透してもよいか、その両方であってもよい。特定の担体は、存在する場合、処理された物品と共に残り、処理された物品に機能特性を付与することができる。末端ビニルポリシロキサンは、工程(b)の条件下において合成熱可塑性樹脂に重合及び/又はグラフト化して弾性を付与してもよい。
【0059】
以下の例は、本発明を説明するためのものであるものの、本発明の範囲を限定するものではない。全ての部及び百分率は、他に示されない限り、重量による。
例1
トリアリルイソシアヌレート47.5部と、公称粘度500mm/s及びビニル含有量0.15mmol/gを有する末端ビニルポリシロキサンポリマー47.5部と、アゾビスイソ(ブチロニトリル)5部と、を高剪断ミキサー中において混合することにより、コーティング組成物を調製する。
【0060】
係るコーティング組成物を、約35℃~40℃において、グラビアコーターを使用して、以下の布の各々の各面に塗布する。両方のコーティングの合計重量は、布1kg当たり約0.3kgである。塗布されるトリアリルイソシアヌレートの量は、布1kg当たり約0.1425kgであり、塗布されるアゾビスイス(ブチロニトリル)(azobisis(butyronitrile))の量は、布1kg当たり約0.015kgである。
【0061】
布A:迷彩色のナイロン6,6とスパンデックスとの98:2ブレンド、布重量144グラム/m
布B:迷彩色の100%ナイロン6,6、布重量48グラム/m
【0062】
布C:灰色の100%ナイロン6,6、布重量50グラム/m
布D:100%アクリル、布重量287グラム/m
布A、B、及びCの各々は、ASTM D7138-16に従って測定したとき、150℃より大きな繊維溶融温度を示す。ナイロン6,6自体は、150℃より大きな結晶融解温度を有する。
【0063】
コーティング後、布を、次いで、オートクレーブ中において、ゲージ圧2.76MPa(400psig)の窒素(酸素含有量100ppm未満)下、100℃において1時間熱処理して、ナイロン中に架橋を生成する。
【0064】
処理された布及び未処理の布の試料を、DA Atlas M021A通気性試験機において通気性について、及びAATCC TM-022噴霧試験を使用して撥水性について評価する。
【0065】
処理された布をまた、以下のように垂直燃焼滴下試験に供する。すなわち、7.62cm(3インチ)×30.48cm(12インチ)の布試料を垂直に吊り下げる。高さ3.81cm(1.5インチ)の炎を試料の下端の下に置き、12秒間着火させた後、取り出した。燃焼中の試料の可燃性及び溶融/滴下を観察する。
【0066】
未処理の布の各々は、垂直燃焼滴下試験の条件下において溶融し、滴りを形成する。処理後、布試料のいずれにおいても溶融又は滴下は観察されない。
加えて、全ての布は、撥水性において大きな改善を示し、布Aの場合0から70の等級に、布B及びCの場合0から100の等級に増加した。全ての布は、わずかに減少した通気性を示す。
【0067】
例2
トリアリルイソシアヌレート47部と、公称粘度500mm/s及びビニル含有量0.15mmol/gを有する末端ビニルポリシロキサンポリマー25部と、公称粘度1000mm/sを有するポリ(ジメチルシロキサン)24部と、アゾビスイソ(ブチロニトリル)3部と、を高剪断ミキサー中において混合することにより、コーティング組成物を調製する。
【0068】
係るコーティング組成物を、約23℃において、グラビアコーターを使用して、布A及び布Bの各々の各面に塗布する。両方のコーティングの合計重量は、布1kg当たり約0.3kgである。塗布されるトリアリルイソシアヌレートの量は、布1kg当たり約0.14kgであり、塗布されるアゾビスイス(ブチロニトリル)の量は、布1kg当たり約0.009kgである。コーティング後、布を、オートクレーブ中において、ゲージ圧2.76MPa(400psig)の窒素(酸素含有量100ppm未満)下、100℃において30分間熱処理して、ナイロン中に架橋を生成する。
【0069】
処理された布の試料及び未処理の布の試料を、通気性、撥水性及び垂直燃焼滴下試験における性能について評価する。
前述のように、未処理の布の各々は、垂直燃焼滴下試験の条件下において溶融し、滴りを形成する。処理後、20回の洗浄サイクルを受けた後でさえ、布試料のいずれにおいても溶融又は滴りは観察されない。
【0070】
布Aの撥水性噴霧等級は、ゼロから60に増加し、20回の洗浄サイクルを受けた後に50まで低下した。未処理の布Aの通気性は、3.49L/s(7.2標準立方フィート/分)であり、これは、処理後に本質的に変化しないままである。処理された布の通気性は、20回の洗浄サイクル後に1.98L/s(4.2CFM)まで低下する。
【0071】
布Bの撥水性噴霧等級は、処理後に0から60に増加する。通気性は、処理後に11.0L/s(23.3CFM)から8.07L/s(17.1CFM)まで減少し、20回の洗浄サイクル後にさらに6.04L/s(12.8CFM)まで減少する。
【0072】
例3
布Aの別個の試料を、以下のコーティング組成物のうちの1つを用いて各面上において処理し、30分間熱処理して、先の例に説明されているように布中に架橋を生成する。
【0073】
組成物3A:トリアリルイソシアヌレート37部と、公称粘度500mm/s及びビニル含有量0.15mmol/gを有する末端ビニルポリシロキサンポリマー20部と、公称粘度1000mm/sを有するポリ(ジメチルシロキサン)19.5部と、アゾビスイソ(ブチロニトリル)2.5部とシアヌル酸メラミン20部。
【0074】
組成物3B:トリアリルイソシアヌレート37部と、公称粘度500mm/s及びビニル含有量0.15mmol/gを有する末端ビニルポリシロキサンポリマー20部と、公称粘度1000mm/sを有するポリ(ジメチルシロキサン)19.5部と、アゾビスイソ(ブチロニトリル)2.5部と、ポリリン酸メラミン20部。
【0075】
各場合において塗布されるトリアリルイソシアヌレートの量は、布1kg当たり約0.111kgであり、アゾビスイス(ブチロニトリル)の量は、布1kg当たり約0.0075kgである。
【0076】
処理された試料のいずれもが、燃焼試験において溶融又は滴下を示さない。通気性は、未処理の試料については11.0L/s(7.2CFM)であり、組成物3A及び3Bを用いて処理した試料については、それぞれ2.83L/s(6.2CFM)及び3.21L/s(6.8CFM)までわずかに低下するだけである。撥水性等級は、各場合において50である。
【0077】
例4
トリアリルイソシアヌレート46.5部と、公称粘度500mm/s及びビニル含有量0.15mmol/gを有する末端ビニルポリシロキサンポリマー46.5部と、アゾビスイソ(ブチロニトリル)5部と、を高剪断ミキサー中において混合することにより、コーティング組成物を調製する。
【0078】
係るコーティング組成物を、約23℃において、139グラム/平方メートルの重量を有するポリ(エチレンテレフタレート)布上に塗布し、そして前述の例に説明されているように1時間加熱して、樹脂中に架橋を生成する。塗布されるトリアリルイソシアヌレートの量は、布1kg当たり約0.1395kgであり、アゾビスイス(ブチロニトリル)の量は、布1kg当たり約0.015kgある。係る布は、ASTM D7138-16に従って測定したときに150℃より大きな溶融温度を有する。未処理の布は垂直燃焼試験下において溶融及び滴下するが、処理された布は溶融又は滴下を示さない。処理された布の通気性は、未処理の布の187L/s(397CFM)と比較して、176L/s(373CFM)である。
【0079】
比較試料A及びB
布A及びBの各面をコーティング組成物を用いてコーティングし、前述の例に説明したのと同じ一般的な手法において硬化させる。コーティング組成物は、米国特許出願公開第2017/0029663号明細書に一般的に説明されている通りであり、38%のオクタデシルアクリレートと、11%の1,6-ヘキサンジオールジアクリレートと、5%のジペンタエリスリトールペンタアクリレートと、3%のラウリルペルオキシドと、公称粘度10mm/s(10CSt)を有する43%非末端ビニルポリ(ジメチルシロキサン)とを含有する。係る組成物は、わずか14重量%のポリエン(1,6-ヘキサンジオール及びジペンタエリスリトールペンタアクリレート)を含有する。各場合において、組み合わせた両方のコーティングに塗布されるポリエンの総量は、布1kg当たり約0.048kgであり、ラウリルペルオキシドの総量は、布1kg当たり約0.009kgである。こうして処理された布は、垂直燃焼試験に供したときに溶融し、滴下する。コーティング組成物中の大量のオクタデシルアクリレート及びポリ(ジメチルシロキサン)は、たとえかなり大量のポリエン及びフリーラジカル開始剤がコーティングと共に提供されたとしても、布中に架橋を導入する組成物の能力に悪影響を及ぼすと考えられる。
【0080】
例5A-5C
布Bの別個の試料を、以下の表に示すような様々なコーティング重量において、以下のコーティング組成物のうちの1つを用いて各面上において処理し、そして30分間熱処理して、前述の例において説明されている手法において、この布に架橋を生成する。こうして処理した試料を前述の燃焼試験、噴霧試験及び通気性試験に供し、結果を表に示す。
【0081】
組成物5A:トリアリルイソシアヌレート92部及び過酸化ラウロイル8部。
組成物5B:トリアリルイソシアヌレート94部及び過酸化ラウロイル6部。
組成物5C:トリアリルイソシアヌレート96部及び過酸化ラウロイル4部。
【0082】
【表1】
【0083】
*本発明の一例ではない。
表中のデータは、塗布されたフリーラジカル開始剤の量の効果を示す。布1kg当たり0.005kg未満の塗布量では効果が不十分である。1kg当たり0.006kgの塗布量でさえ、試料5Bにおいてわずかな利益を提供するものの、塗布されるフリーラジカル開始剤の当量は、全体のコーティング重量がより高い場合に良好な結果を提供する。
【0084】
例6
布Dの各面を、92.6%のトリアリルイソシアヌレート及び7.4%の過酸化ラウロイルを含有するコーティング組成物を用いて各面上にコーティングする。全コーティング重量(両面)は0.1kg/kgである。ポリエンの塗布重量は0.0926kg/kgであり、過酸化ラウロイルの塗布重量は0.0074kg/kgである。次いで、500mm/sの末端ビニルポリシロキサンを、同様に0.1kg/kgの総コーティング重量において、各側のポリエン/フリーラジカル開始剤を覆って塗布する。次いで、コーティングされた布を、ゲージ圧2.07MPa(400psig)の窒素圧力及び100ppm未満の酸素レベル下において、135℃で30分間硬化させる。燃焼試験において溶融は見られない。処理された布は、70の噴霧等級及び13.4L/s(28.4立方フィート/分)の通気性を有する。
【0085】
ポリシロキサンのコーティング重量を0.15kg/kgまで増加させた場合、同様の結果が見られる。
【手続補正書】
【提出日】2024-08-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成熱可塑性成分を含む合成熱可塑性物品を処理するための固相法であって、前記熱可塑性成分は、100℃以上の結晶融解温度を有する1つ以上の合成熱可塑性樹脂を含み、前記方法は、
a)前記合成熱可塑性樹脂の前記結晶融解温度未満の温度において、コーティング組成物を前記物品の1つ以上の表面に塗布して、前記物品の1つ以上の合成熱可塑性成分と接触させる工程であって、前記コーティング組成物は、i)前記コーティング組成物の重量に基づいて、30~99.9重量パーセントの1つ以上のポリエン化合物であって、2~6個のビニル基を有しビニル基当量が125g/当量以下である1つ以上のポリエン化合物と、(ii)1つ以上のフリーラジカル開始剤と、を含み、前記物品におけるポリアミド成分、ポリエステル成分、又はその両方の1kg当たり0.04kg以上のポリエン化合物と0.005kg以上のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤とを提供するのに十分な量の前記コーティング組成物が前記物品に対し塗布される、工程と、
b)コーティングされた前記物品を、70℃以上かつ前記合成熱可塑性樹脂の前記結晶融解温度未満の温度に加熱して、前記ペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤を分解して、フリーラジカルを形成し、前記合成熱可塑性樹脂中に架橋を生成する工程と、を備える、固相法。
【請求項2】
前記合成熱可塑性成分は、脂肪族ポリアミドと、ポリエステルと、ポリアクリロニトリルと、のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の固相法。
【請求項3】
前記合成熱可塑性成分は、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン4/6、ナイロン5/6、ナイロン6/6、ナイロン6/9、ナイロン10/10及びナイロン10/12からなる群から選択される1つ以上の熱可塑性脂肪族ポリアミド樹脂を含む、請求項2に記載の固相法。
【請求項4】
前記合成熱可塑性成分は、ポリ(エチレンテレフタレート)と、ポリ(ブチレンテレフタレート)と、ポリ(エチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(エチレンサクシネート)と、ポリ(1,4-シクロヘキシレン-ジメチレンテレフタレートと、ポリ(ブチレンサクシネート)と、からなる群から選択される1つ以上の熱可塑性ポリエステル樹脂を含む、請求項2に記載の固相法。
【請求項5】
前記合成熱可塑性成分は、1つ以上の熱可塑性ポリアクリロニトリルを含む、請求項2に記載の固相法。
【請求項6】
前記合成熱可塑性物品は布であり、前記布は、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂からなる繊維を単独で含むか、又は該繊維と、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂以外のポリマーからなる繊維とのブレンドを含み、それらの繊維は、ASTM D7138-16に従って測定したときに100℃以上の溶融温度を有する、請求項1に記載の固相法。
【請求項7】
布の溶融、滴下、又はその両方を低減するための固相法であって、前記布は、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂からなる繊維を単独で含むか、又は該繊維と、100℃以上の結晶融解温度を有する合成熱可塑性樹脂以外のポリマーからなる繊維とのブレンドを含み、それらの繊維は、ASTM D7138-16に従って測定したときに100℃以上の溶融温度を有し、前記方法は、
a)前記繊維の前記溶融温度未満の温度において、コーティング組成物を前記布の1つ以上の表面に塗布する工程であって、前記コーティング組成物は、i)前記コーティング組成物の重量に基づいて、30~99.9重量パーセントの1つ以上のポリエン化合物であって、2~6個のビニル基を有しビニル基当量が125g/当量以下である1つ以上のポリエン化合物と、(ii)1つ以上のフリーラジカル開始剤と、を含み、布1kg当たり0.04kg以上のポリエン化合物と0.005kg以上のペルオキシ又はアゾフリーラジカル開始剤とを提供するのに十分な量の前記コーティング組成物が前記物品に対し塗布される、工程と、
b)コーティングされた前記布を、70℃以上かつ前記繊維の前記溶融温度未満の温度に、1分間~2時間のあいだ加熱する工程と、を備える、固相法。
【請求項8】
前記合成熱可塑性樹脂は、脂肪族ポリアミドと、ポリエステルと、ポリアクリロニトリルと、のうちの1つ以上である、請求項7に記載の固相法。
【請求項9】
前記脂肪族ポリアミドは、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン8、ナイロン9、ナイロン10、ナイロン12、ナイロン4/6、ナイロン5/6、ナイロン6/6、ナイロン6/9、ナイロン10/10及びナイロン10/12からなる群から選択される、請求項8に記載の固相法。
【請求項10】
前記合成熱可塑性樹脂は、ポリ(エチレンテレフタレート)と、ポリ(ブチレンテレフタレート)と、ポリ(エチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(ブチレンアジペート-co-テレフタレート)と、ポリ(エチレンサクシネート)と、ポリ(1,4-シクロヘキシレン-ジメチレンテレフタレートと、ポリ(ブチレンサクシネートと、からなる群から選択される、請求項8に記載の固相法。
【請求項11】
前記合成熱可塑性樹脂は、ポリアクリロニトリルである、請求項8に記載の固相法。
【請求項12】
前記ポリエン化合物は、1,4-ブタンジオールジアクリレート、1,5-ペンタンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、アルコキシル化ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エトキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、プロポキシル化トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、エチルオキシル化及び/又はプロポキシル化グリセリントリアクリレート、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラアクリレート、エリスリトールジ、トリ又はテトラアクリレート、アクリル化ポリエステルオリゴマー、ビスフェノールAジアクリレート、アクリル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エトキシル化ビスフェノールAジアクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリアクリレートオリゴマー、アクリル化ウレタンオリゴマー、1,4-ブタンジオールジアリルエーテル、1,5-ペンタンジオールジアリルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジアリルエーテル、ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリエチレングリコールジアリルエーテル、テトラエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル、ジプロピレングリコールジアリルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、アルコキシル化ヘキサンジオールジアリルエーテル、ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、プロポキシル化ネオペンチルグリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、エトキシル化トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、プロポキシル化トリメチロールプロパンジ又はトリアリルエーテル、グリセリンジ又はトリアリルエーテル、エトキシル化及び/又はプロポキシル化グリセリンジ又はトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラアリルエーテル、エリスリトールジ、トリ又はテトラアリルエーテル、アクリル化ポリエステルオリゴマー、ビスフェノールAジアクリレート、アクリル化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、エトキシル化ビスフェノールAジアリルエーテル、マレイン酸ジアリル、フマル酸ジアリル、フタル酸ジアリル、テレフタル酸ジアリル、コハク酸ジアリル、クエン酸ジ又はトリアリルトリアリルシアヌレート並びにトリアリルイソシアヌレートのうちの1つ以上である、請求項1~11のいずれか一項に記載の固相法。
【請求項13】
前記フリーラジカル開始剤は、前記コーティング組成物の総重量の2%~8%を構成する、請求項1~11のいずれか一項に記載の固相法。
【請求項14】
前記コーティング組成物は、1グラム当たり0.1mmol~2mmolのビニル基を有する末端ビニルポリシロキサンをさらに含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の固相法。
【請求項15】
前記コーティング組成物は、1グラムあたり0.1mmol~2mmolのビニル基を有する末端ビニルポリシロキサンを5~50重量%含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の固相法。
【請求項16】
前記ポリエン化合物と、前記フリーラジカル開始剤と、1グラムあたり0.1mmol~2mmolのビニル基を有する前記末端ビニルポリシロキサンとは、合計で、前記コーティング組成物の総重量の50%~100%を構成する、請求項14に記載の固相法。
【国際調査報告】