(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】CD32aに特異的な結合タンパク質
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20250212BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250212BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20250212BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20250212BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250212BHJP
A61P 31/18 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C07K14/00
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/11 Z
A61K38/16
A61K48/00
A61P31/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024542249
(86)(22)【出願日】2023-01-13
(85)【翻訳文提出日】2024-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2023050760
(87)【国際公開番号】W WO2023135264
(87)【国際公開日】2023-07-20
(32)【優先日】2022-01-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】524265507
【氏名又は名称】パウル-エアリッヒ-インスティテュート,ブンデスインスティテュート フュア インプシュトッフェ ウント ビオメディツィーニシェ アルツナイミッテル
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】バネッサ・リーヒェルト
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ・ハートマン
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・ブーフホルツ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・シチュテック
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084BA44
4C084ZB33
4C084ZC55
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA18
4H045BA21
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、アンキリンリピートを含み、特にその結果CD32aと特異的に結合する、またはCD32a陽性細胞を特異的に標的化する結合タンパク質に関する。このような結合タンパク質をコードする核酸、核酸、前記核酸を含むベクター、前記結合タンパク質を含む粒子、前記核酸を含む宿主細胞、医薬組成物、ならびに医薬および/またはいくつかの遺伝子治療における使用のためにこれらのいずれかが開示される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質であって、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインはCD32aと特異的に結合し、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは:
i)配列番号28、29および30、ならびに
ii)互いに独立して最大10個のアミノ酸置換を含む、配列番号28、29および30
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1個のアンキリンリピートユニットを含み、好ましくは、置換は、配列番号28、29および30に従うアミノ酸配列の1位、3位、4位、6位、14位、15位、および/もしくは27位において互いに独立している、ならびに/または配列番号28、29および30に従うアミノ酸配列の最大3個の他の位置において互いに独立している、結合タンパク質。
【請求項2】
少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質であって、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインはCD32aと特異的に結合し、
前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、配列番号1~27に従うアミノ酸配列からなる群から選択される1個のアンキリンリピートドメインと少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、結合タンパク質。
【請求項3】
前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、配列番号31
X1DX2X3GX4TPLHLAAX5X6GHLEIVEVLLKX7GADVNA(配列番号31)
に従うアミノ酸配列からなる少なくとも1個のアンキリンリピートユニットを含み、
ここで、
X1~X6は、グリシン、プロリンまたはシステインを除く任意のアミノ酸であってよく、
X7は、ヒスチジン、アスパラギンまたはチロシンであってよく、
ここで、配列番号31においてXで示される位置以外の場合により最大5個のアミノ酸は、任意のアミノ酸で置換される、請求項1または2に記載の結合タンパク質。
【請求項4】
X1は、T、E、N、S、Y、またはWであり、好ましくはTであり、
X2は、E、N、T、W、H、K、N、またはIであり、好ましくはEであり、
X3は、E、F、K、H、M、A、またはTであり、好ましくはEであり、
X4は、L、T、A、V、F、Q、またはAであり、好ましくはLであり、
X5は、L、Q、V、E、M、V、またはYであり、好ましくはLであり、
X6は、I、F、E、Q、H、V、W、またはDであり、好ましくはIであり、
X7はY、NまたはHであり、好ましくはYである、
請求項3に記載の結合タンパク質。
【請求項5】
X1は、A、H、M、T、D、Q、S、またはVであり、好ましくはAであり、
X2は、M、Y、N、E、W、D、H、またはTであり、好ましくはMであり、
X3は、D、W、Q、S、V、F、E、またはHであり、好ましくはDであり、
X4は、T、R、Q、N、M、D、S、Y、またはPであり、好ましくはTであり、
X5は、Q、E、V、H、T、R、M、またはYであり、好ましくはQであり、
X6は、E、Y、W、F、またはAであり、好ましくはEであり、
X7は、Y、またはNであり、好ましくはYであり、
場合により、15位から始まり15位を含むアミノ酸が欠損している、
請求項3に記載の結合タンパク質。
【請求項6】
X1は、D、A、S、Q、H、またはYであり、好ましくはDであり、
X2は、F、I、H、V、Y、T、V、C、好ましくはFであり、
X3は、W、A、F、V、EまたはGであり、好ましくはWであり、
X4は、H、Y、L、MまたはFであり、好ましくはHであり、
X5は、W、F、I、H、またはRであり、好ましくはWであり、
X6は、F、I、Q、D、またはLであり、好ましくはFであり、
X7は、H、YまたはNであり、好ましくはHである、
請求項3に記載の結合タンパク質。
【請求項7】
N末端および/またはC末端キャッピングリピートドメインをさらに含み、好ましくは、N末端および/またはC末端キャッピングリピートドメインが、前記アンキリンリピートユニットのいずれか1個とは異なるアミノ酸配列を有する、請求項3~6のいずれか1項に記載の結合タンパク質。
【請求項8】
前記結合タンパク質が抗原結合タンパク質を含み、好ましくは、それはDARPinを含む、またはDARPinである、請求項1~7のいずれか1項に記載の結合タンパク質。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の結合タンパク質をコードする核酸を含む核酸。
【請求項10】
請求項9に記載の核酸、または請求項1~8のいずれか1項に記載の結合タンパク質を含むベクター。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか1項に記載の少なくとも1種の結合タンパク質を提示するベクター。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか1項に記載の少なくとも1種の結合タンパク質、または請求項9に記載の核酸、または請求項10もしくは11に記載のベクターと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項13】
医薬品として使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の結合タンパク質、請求項9に記載の核酸、請求項10もしくは11に記載のベクター、または請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
対象における、好ましくはHIV関連状態である、CD32aの変化に関連する状態の治療、予防または診断に使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の結合タンパク質、請求項9に記載の核酸、請求項10もしくは11に記載のベクター、または請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
対象における、好ましくはHIV関連疾患である、CD32aの変化に関連する状態の治療、予防または診断に使用するための、請求項1~8のいずれか1項に記載の結合タンパク質、請求項9に記載の核酸、請求項10もしくは11に記載のベクター、または請求項12に記載の医薬組成物を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CD32aに対する結合特異性を有する結合タンパク質、ならびにこのような結合タンパク質をコードする核酸、前記核酸を含むベクター、医薬および/または遺伝子治療において使用するための前記結合タンパク質;ならびに前記結合タンパク質、核酸またはベクターを含む医薬組成物に関する。特に、本発明は、CD32bではなくCD32aと特異的に結合する前記結合タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
CD32(FcyRllまたはFCGR2としても知られる)は表面受容体糖タンパク質であり、様々な免疫細胞、例えば血小板、好中球、マクロファージ、および樹状細胞などに存在する。ヒトでは、3つの主要なCD32サブタイプがある:CD32a、CD32b、およびCD32cである。
【0003】
CD32aは細菌によって活性化された血小板応答の媒介に関与し、傷害を受けた血管に対する血小板の活性化、接着、凝集に重要な役割を果たすことが知られている。さらに、血小板上のCD32aは、ヘパリン治療の生命を脅かす副作用であるヘパリン誘発性血小板減少症に関与している。
【0004】
さらに、CD32aの活性化はT細胞抗腫瘍細胞性免疫の産生に必要かつ十分であることが知られている。CD32aは自己免疫やアレルギーにも関連している。例えば、CD32aがアナフィラキシーやアレルギー反応を誘発することが知られている。加えて、CD32a受容体のSNP H131Rが様々な作用と関係していることも知られている。CD32aは、関節リウマチや感染症リスクの増加など、いくつかのヒト自己免疫疾患と関連している。
【0005】
したがって、CD32aの検出と標的化は非常に重要な意味を持つようになった。それにもかかわらず、主要なCD32サブタイプ間の相同性が極めて高いため、異なるタイプを区別することは非常に困難である。HIV研究の分野では、最近CD32aがHIVリザーバー・マーカーとなる可能性が確認されたが、CD32bが存在する中でCD32a陽性細胞のわずかなサブセットを同定することは技術的に困難であるため、議論の余地がなかったわけではない。信頼性の高いCD32a特異的細胞検出試薬がないため、異なるCD32陽性免疫細胞サブセットを識別し、末梢血からCD4+CD32+Tリンパ球の少数集団を分離するためには、逐次的に、複数の周期で、磁気ビーズによる細胞選別法を使用しなければならなかった。
【0006】
遺伝子レベルでは、CD32aとCD32bを識別する市販のqPCRプライマーペアが利用可能である。しかし、細胞レベル、より具体的には細胞表面上のCD32aを検出するには、CD32aとCD32bの非常に相同性の高い細胞外ドメインを識別できる結合タンパク質が必要である。CD32a抗体はいくつか市販されているが、ほとんどはCD32bとも結合する。識別可能なものは、タンパク質の細胞内部分に対して発現しているか、細胞表面のCD32aを検出する特異性が検証されていないかのどちらかである。総合すると、細胞表面のCD32aに選択的に結合することができる抗体や抗体アナログは知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、CD32a発現細胞とCD32b発現細胞の混合細胞において、CD32b陽性細胞集団を事前に除去することなく、CD32a陽性細胞を選択的に認識できる結合タンパク質を設計した。発見された結合タンパク質は、CD32a受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質を提供し、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、CD32aと特異的に結合し、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、
i)配列番号28、29および30、ならびに
ii)互いに独立して最大10個のアミノ酸置換を含む、配列番号28、29および30
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有するアンキリンリピートモジュールを含み、好ましくは、置換は、配列番号28、29および30の1位、3位、4位、6位、14位、15位、および/または27位において互いに独立している、および/または配列番号28、29および30の最大3個の他の位置において互いに独立している。
【0009】
第2の態様において、本発明は、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質に関し、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、CD32aと特異的に結合し、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、配列番号1~27からなる群から選択される1個のアンキリンリピートドメインと少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0010】
第3の態様において、本発明は、結合タンパク質、本明細書中に記載されるN末端キャッピングリピートおよび/またはC末端キャッピングリピートをコードする核酸配列を含む核酸に関する。
【0011】
さらなる態様において、本発明は、第3の態様の核酸を含む宿主細胞に関し、それは、場合により本発明の結合タンパク質を発現する。
【0012】
さらなる態様において、本発明は、第3の態様の核酸分子を含むベクターに関する。
【0013】
さらなる態様において、本発明は、分子を含む粒子に関し、この分子は、場合により、本明細書に記載される結合タンパク質である。
【0014】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の結合タンパク質、本明細書に記載の核酸、本明細書に記載の宿主細胞、本明細書に記載のベクター、本明細書に記載の粒子、またはそれらの複数を含む組成物に関する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の、結合タンパク質、核酸、宿主細胞、ベクター、および/または粒子のうちの少なくとも1種を含む医薬組成物に関する。
【0016】
さらなる態様において、本発明は、医薬品として使用するための、記載の結合タンパク質、核酸、宿主細胞、ベクター、粒子、組成物または医薬組成物に関する。
【0017】
さらに別の態様において、本発明は、記載の結合タンパク質、核酸、ベクター、宿主細胞、粒子、組成物または医薬組成物を含むキットに関する。
【0018】
本発明の一態様において、本明細書に開示される結合タンパク質、核酸、ベクター、粒子、宿主細胞、組成物、医薬組成物、またはキットは、状態の治療、予防、または診断に使用するためのものである。
【0019】
以下では、本明細書に含まれる図の内容が記述される。この文脈では、上記および/または下記の発明の詳細な説明も参照せよ。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】細胞表面に曝露したCD32aに結合するDARPinクローンの同定。DARPin大腸菌粗抽出物は、N3C DARPinについては安定発現CD32 Sup T1細胞(SupT1-CD32a)またはCD32b Sup T1細胞(SupT1-CD32b)への結合について、N2C DARPinについては安定発現CD32 CHO細胞(CHO-CD32aまたはCHO-CD32b)への結合について、フローサイトメトリーにより解析した。細胞表面でCD32bおよびCD32aを認識する2種のDARPinは53.F1と53.2.D8である。A:CD32a発現細胞株、B:CD32b発現細胞株。
【
図2】同定されたN3C DARPinの配列解析。Nキャップ、リピートエレメント、Cキャップを網羅するDARPinライブラリーの配列ロゴ。作製したN3C DARPinライブラリーのフレームワーク(灰色)と多様な位置(黒)を確認するため、出力レパートリーをプラスミドpQE-HisHAにクローニングし、大腸菌XL-1 Blueに形質転換した。VV-N3Cライブラリー由来の33クローンのうち、26配列がユニークなDARPinをコードしており、WebLogo 3(http://weblogo.threeplusone.com/create.cgi)を使用して配列ロゴを作成した。VV-N2Cライブラリー由来のDARPin52.H6はこの解析には含まれていない。
【
図3】精製CD32a-DARPinによるCD32a陽性細胞集団の特異的標識。精製DARPinは、安定発現CD32a CHO細胞(CHO-CD32a)、CD32b CHO細胞(CHO-CD32b)または野生型CHOへの結合をフローサイトメトリーにより解析した。
【
図4】CD32a、CD32b、およびCD32cアイソタイプの細胞外ドメインのタンパク質配列アラインメント。ヒトCD32aの細胞外ドメイン(配列番号87のアミノ酸34から217)、167位のヒスチジンがアルギニンに変異しており、全長CD32aを参照すると「CD32a H167R」とも呼ばれ、または成熟CD32aを参照すると「mCD32a H134R」とも呼ばれる)、ヒトCD32bの細胞外ドメイン(配列番号88のアミノ酸43から217)およびヒトCD32cの細胞外ドメイン(配列番号89のアミノ酸43から223)のアラインメントである。アミノ酸配列の違いは灰色で強調されている。下線を引いた134位のヒスチジン(全長配列CD32aのアミノ酸167に相当)は、リボソームディスプレイ手順ではH167R変異を保有する組み換えCD32aタンパク質を使用し、細胞結合アッセイでは野生型H167 CD32aタンパク質を過剰発現する細胞を使用したので、特異的結合には関係ないと考えられる。
【
図5】キメラSupT1-CD32b細胞株へのDARPinの結合。精製DARPinは、キメラCD32bタンパク質、およびCHO細胞上で安定発現させた野生型CD32bまたはCD32aタンパク質との結合について、二次抗体コントロール染色と比較してフローサイトメトリーで解析された。CD32bの細胞外ドメインにおける変異とその位置の概要は表2に見出すことができる。
【
図6】CD32a-DARPinを提示したLVによるCD32a特異的遺伝子導入。293T細胞の細胞表面に一過性に発現したNiV-Gタンパク質に融合した選択されたCD32a-DARPinと組み換えCD32タンパク質の結合。
【
図7】ニパウイルス偽型レンチウイルスベクターの概略構成(改変、出典:Frank et al,2018)。
【
図8】CD32a特異的DARPinによる形質導入。濃縮しない小規模アプローチで生産されたLVベクター粒子による形質導入を介するCD32a特異的DARPinの同定。
【
図9】ニパ偽型CD32aによる形質導入。FCSとパネキシン(Panexin)を細胞培養補助剤として比較しながら大量生産で生産された53.2.F11-レンチウイルスベクター。
【
図10】ヒトCD32aおよびCD32bに対する精製DARPin 53.2.F11[TEV]の親和性決定。固定化した組み換えヒトCD32a標的タンパク質[A]または組み換えヒトオフターゲットCD32bタンパク質[B]に濃度を変えて結合したDARPinのセンサーグラム。注入時のバッファーの不均等によって生じたピークは手動で除去した。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を以下に詳細に説明する前に、本発明は、多様であり、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコルおよび試薬に限定されないことを理解されたい。また、本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明するためだけのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0022】
好ましくは、本明細書で使用される用語は、“A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)”, Leuenberger, H.G.W, Nagel, B. and Klbl, H. eds. (1995), Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland)に記載されているように定義され、“Pharmaceutical Substances:Syntheses, Patents, Applications” by Axel Kleemann and Jurgen Engel, Thieme Medical Publishing, 1999; “Merck Index:An Encyclopedia of Chemicals, Drugs, and Biologicals”、edited by Susan Budavari et al.,CRC Press,1996,and the United States Pharmacopeia-25/National Formulary-20,published by the United States Pharmcopeial Convention, Inc., Rockville Md., 2001に記載されているように定義される。
【0023】
本発明の実施では、特に断らない限り、化学、生化学、細胞生物学、免疫学、および組み換えDNA技術の従来法を使用するが、これらは当該分野の文献で説明されている(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd Edition, J. Sambrook et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989)。
【0024】
本明細書およびそれに続く特許請求の範囲を通じて、文脈上別段の定めがない限り、「含む(comprise)」という語、および「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」などの変形は、記載された整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を包含することを意味するが、他の整数もしくはステップまたは整数もしくはステップの群を排除することを意味しないと理解される。以下の文章において、本発明の異なる態様をより詳細に定義する。このように定義された各態様は、明確に反対の指示がない限り、他の態様と組み合わせることができる。特に、場合による、好ましい、または有利であると示された任意の特徴は、場合による、好ましい、または有利であると示された任意の他の特徴と組み合わせてもよい。
【0025】
これ以下において、本発明の要素について説明する。これらの要素は、特定の実施形態とともに列挙されている;しかし、追加の実施形態を作成するために、任意の方法および任意の数で組み合わせることができることを理解されたい。様々に記載された実施例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載された実施形態のみに限定するように解釈されるべきではない。この明細書は、明示的に記載された実施形態を任意の数の開示された要素および/または好ましい要素と組み合わせた実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願における全ての記載された要素の任意の順列および組み合わせは、文脈がそうでないことを示さない限り、本出願の記載によって開示されたとみなされるべきである。
【0026】
定義
以下では、本明細書で頻繁に使用される用語の定義を提示する。これらの用語は、その使用の各例において、本明細書の残りの部分では、それぞれ定義された意味および好ましい意味を有する。
【0027】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、内容が明確に指示する場合を除き、複数の参照語を含む。本明細書における値の範囲の記載は、単に、範囲内に入る各個別の値を個別に参照するための省略法として機能することを意図している。本明細書において別段の指示がない限り、各個別の値は、本明細書に個別に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載される全ての方法は、本明細書で特に示されない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実行することができる。本明細書で提示されるあらゆる例、または例示的な言語(例えば、「など」)の使用は、単に本開示をより良く説明することを意図しており、特許請求の範囲を限定するものではない。本明細書中のいかなる文言も、本開示の実施に不可欠な特許請求されていない要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0028】
「約」という用語は、およそまたはほぼを意味し、一実施形態において本明細書に規定される数値または範囲の文脈では、記載または特許請求される数値または範囲の±20%、±10%、±5%、または±3%を意味する。
【0029】
明示的に別段の指定がない限り、「含む(comprising)」という用語は、本明細書の文脈において、「含む(comprising)」によって導入されるリストのメンバーに加えて、場合により、さらなるメンバーが任意に存在し得ることを示すために使用される。しかしながら、本開示の具体的な実施形態として、「含んでいる(comprising)」という用語は、さらなるメンバーが存在しない可能性を包含する、すなわち、本実施形態の目的のために、「含んでいる(comprising)」は、「からなる(consisting of)」の意味を有すると理解されるべきであることが期待される。
【0030】
「タンパク質」という用語は、本発明の文脈において、ポリペプチドを指し、ポリペプチドの少なくとも一部は、そのポリペプチド鎖内および/またはポリペプチド鎖間で二次構造、三次構造または四次構造を形成することによって、規定された三次元配置を有するか、または獲得することができる。タンパク質が2個またはそれ以上のポリペプチドから構成される場合、個々のポリペプチド鎖は非共有結合または共有結合、例えば2個のポリペプチド間のジスルフィド結合によって連結される。個々に二次構造または三次構造を形成することによって明確な三次元配置を有するか、または獲得することができる部分またはタンパク質は、「タンパク質ドメイン」と呼ばれる。このようなタンパク質ドメインは、当業者によく知られている。
【0031】
アミノ酸は、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質を形成する構成単位である。以下に、アミノ酸に使用される略語と一文字コードを示す。
【0032】
【0033】
本開示によれば、「ペプチド」という用語は、オリゴペプチドおよびポリペプチドを含み、ペプチド結合を介して互いに連結された、約2個またはそれ以上、約3個またはそれ以上、約4個またはそれ以上、約6個またはそれ以上、約8個またはそれ以上、約10個またはそれ以上、約13個またはそれ以上、約16個またはそれ以上、約20個またはそれ以上、および最大約50個、約100個または約150個の連続したアミノ酸を含む物質を指す。「タンパク質」または「ポリペプチド」という用語は、大きなペプチド、特に少なくとも約151個のアミノ酸を有するペプチドを指すが、「ペプチド」、「タンパク質」および「ポリペプチド」という用語は、本明細書では通常同義語として使用される。
【0034】
本発明の文脈において、「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合を介して連結された複数の、すなわち2個またはそれ以上のアミノ酸の1個またはそれ以上の鎖からなる分子に関する。好ましくは、ポリペプチドは、ペプチド結合を介して連結された8個超のアミノ酸からなる。
【0035】
本発明の目的のために、アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)の「バリアント」は、アミノ酸挿入バリアント、アミノ酸付加バリアント、アミノ酸欠失バリアントおよび/またはアミノ酸置換バリアントを含む。「バリアント」という用語は、全てのスプライスバリアント、翻訳後修飾バリアント、コンフォメーション、アイソフォームおよび種のホモログ、特に細胞によって天然に発現されるものを含む。「バリアント」という用語は、特にアミノ酸配列のフラグメントを含む。
【0036】
アミノ酸挿入バリアントは、特定のアミノ酸配列における単一または2個またはそれ以上のアミノ酸の挿入を含む。挿入を有するアミノ酸配列バリアントの場合、1個またはそれ以上のアミノ酸残基がアミノ酸配列の特定の部位に挿入されるが、得られる産物を適切にスクリーニングするランダム挿入も可能である。アミノ酸付加バリアントは、1個またはそれ以上のアミノ酸、例えば、1個、2個、3個、5個、10個、20個、30個、50個、またはそれ以上のアミノ酸のアミノ末端および/またはカルボキシ末端の融合を含む。アミノ酸欠失バリアントは、配列から1個またはそれ以上のアミノ酸を除去することによって特徴付けられ、例えば、1個、2個、3個、5個、10個、20個、30個、50個またはそれ以上のアミノ酸を除去することによって特徴付けられる。欠失はタンパク質のどの位置にあってもよい。タンパク質のN末端および/またはC末端での欠失を含むアミノ酸欠失バリアントは、N末端および/またはC末端切断バリアントとも呼ばれる。アミノ酸置換バリアントは、配列中の少なくとも1個の残基が除去され、その代わりに別の残基が挿入されることを特徴とする。修飾は、相同タンパク質またはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列の位置にあること、および/またはアミノ酸を類似の特性を有する他のアミノ酸と置き換えることが優先される。好ましくは、ペプチドおよびタンパク質のバリアントにおけるアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち、同様に荷電または非荷電アミノ酸の置換である。保存的アミノ酸変化は、それらの側鎖が関連するアミノ酸ファミリーの1個の置換を含む。
【0037】
天然に存在するアミノ酸は、一般的に酸性(アスパラギン酸、グルタミン酸)、塩基性(リジン、アルギニン、ヒスチジン)、非極性(アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、および非荷電極性(グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン)アミノ酸の4つのファミリーに分けられる。フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンは、芳香族アミノ酸として共同で分類されることもある。一実施形態において、保存的アミノ酸置換は、以下の群内の置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。
【0038】
本発明の文脈で使用される「配列類似性」という用語は、同一であるか、または保存的アミノ酸交換を表すアミノ酸の割合を示す。2個のアミノ酸配列間の「配列同一性」という用語は、2個の所与の配列間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。「パーセント同一性」という用語は、最良のアラインメントの後に得られる、比較される2個の配列間で同一であるアミノ酸残基のパーセンテージを示すことを意図しており、このパーセンテージは純粋に統計的なものであり、2個の配列間の差異はランダムに、その全長にわたって分布している。2個のアミノ酸配列間の配列比較は、従来、最適にアラインメントした後に、これらの配列を比較することによって実施され、前記比較は、配列類似性の局所領域を同定し、比較するために、セグメントごとまたは「比較の窓」ごとに実施される。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するためのアラインメントは、技術的に既知のツールを使用して、好ましくは最良の配列アラインメントを使用して、例えばCLC main Workbench(CLC bio)またはAlignを使用して、標準的な設定、好ましくはEMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5を使用して行われる。同一性のパーセンテージは、最も類似性の高い配列または配列ストレッチだけでなく、比較に使用される全長配列を参照して決定される。したがって、比較に使用した100アミノ酸長の配列のうち、連続する50個のアミノ酸と100%の配列同一性を持つアミノ酸は、(連続する50個のアミノ酸の外側に同一性を持つアミノ酸が存在しないという仮定において)50%の配列同一性しか有さない。
【0039】
相同アミノ酸配列は、本開示に従って、アミノ酸残基の少なくとも40%、特に少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%または少なくとも99%の同一性を示す。
【0040】
好ましくは、所与のアミノ酸配列と前記所与のアミノ酸配列のバリアントであるアミノ酸配列との間の類似性の程度、好ましくは同一性の程度は、本発明の結合タンパク質の文脈において、少なくとも約60%、65%、70%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%であろう。類似性または同一性の程度は、好ましくは、参照アミノ酸配列の全長の少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または約100%であるアミノ酸領域について与えられる。例えば、参照アミノ酸配列が200個のアミノ酸からなる場合、類似性または同一性の程度は、好ましくは少なくとも約20個、少なくとも約40個、少なくとも約60個、少なくとも約80個、少なくとも約100個、少なくとも約120個、少なくとも約140個、少なくとも約160個、少なくとも約180個、または約200個のアミノ酸、好ましくは連続アミノ酸について与えられる。好ましい実施形態において、類似性または同一性の程度は、参照アミノ酸配列の完全長について与えられる。配列類似性、好ましくは配列同一性を決定するためのアラインメントは、技術的に公知のツールを使用して行うことができ、好ましくは、最良の配列アラインメントを使用して、例えば、Alignを使用して、標準設定、好ましくは、EMBOSS::needle、Matrix:Blosum62、Gap Open 10.0、Gap Extend 0.5により行うことができる。
【0041】
本明細書に記載のアミノ酸配列バリアントは、例えば、組み換えDNA操作によって、当業者によって容易に調製できる。置換、付加、挿入または欠失を有するペプチドまたはタンパク質を調製するためのDNA配列の操作は、例えば、Sambrookら(1989)に詳細に記載されている。さらに、本明細書に記載されるペプチドおよびアミノ酸バリアントは、例えば、固相合成および類似の方法などの公知のペプチド合成技術の助けを借りて容易に調製できる。
【0042】
一実施形態において、アミノ酸配列(ペプチドまたはタンパク質)のフラグメントまたはバリアントは、好ましくは「機能的フラグメント」または「機能的バリアント」である。本発明の文脈において使用されるアミノ酸配列の「機能的フラグメント」または「機能的バリアント」という用語は、それが由来するアミノ酸配列と同一または類似の1個またはそれ以上の機能的特性を示す、すなわち機能的に同等である任意のフラグメントまたはバリアントに関する。「機能的フラグメント」または「機能的バリアント」という用語は、本明細書で使用される場合、特に、親分子または配列のアミノ酸配列と比較して1個またはそれ以上のアミノ酸が改変されたアミノ酸配列を含み、親分子または配列の1個またはそれ以上の機能、例えば標的分子への結合を依然として果たすことができるバリアント分子または配列を指す。一実施形態において、親分子または配列のアミノ酸配列の改変は、分子または配列の結合特性に有意な影響を及ぼさないか、または変化させない。異なる実施形態において、機能性フラグメントまたは機能性バリアントの結合は減少しても有意に存在し、例えば、機能性バリアントの結合は、親分子または配列の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%であってもよい。しかしながら、他の実施形態において、機能性フラグメントまたは機能性バリアントの結合は、親分子または配列と比較して増強されることがある。
【0043】
指定されたアミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)に「由来する」アミノ酸配列(ペプチド、タンパク質またはポリペプチド)とは、最初のアミノ酸配列の起源を指す。好ましくは、特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列またはそのフラグメントと同一、本質的に同一または相同なアミノ酸配列を有する。特定のアミノ酸配列に由来するアミノ酸配列は、その特定の配列またはそのフラグメントのバリアントであってもよい。例えば、本明細書での使用に好適な抗原は、ネイティブ配列の望ましい活性を保持しつつ、それらが由来する天然に存在する配列またはネイティブ配列とは配列が異なるように改変することができることが、当業者には理解されよう。
【0044】
組み換えタンパク質、組み換えタンパク質ドメイン、組み換え結合タンパク質などで使用される「組み換え」という用語は、前記ポリペプチドが、関連技術の当業者に周知の組み換えDNA技術の使用によって産生されることを意味する。例えば、ポリペプチドをコードする組み換えDNA分子(例えば、遺伝子合成によって産生される)は、細菌発現プラスミド(例えば、pQE30、Qiagen社製)、酵母発現プラスミドまたは哺乳動物発現プラスミドにクローニングできる。例えば、このような構築された組み換え細菌発現プラスミドを適切な細菌(例えば、大腸菌)に挿入すると、この細菌はこの組み換えDNAによってコードされるポリペプチドを産生することができる。このようにして産生されたポリペプチドを組み換えポリペプチドと呼ぶ。したがって、本発明の文脈における「組み換え」という用語は、「遺伝子工学によって作られた」という意味である。好ましくは、本発明の文脈における組み換え細胞のような「組み換え体」は、天然には存在しない。
【0045】
本明細書で使用する「天然に存在する」という用語は、分子が自然界に存在する事実を指す。例えば、生物(ウイルスを含む)中に存在し、自然界の供給源から単離することができ、実験室でヒトにより意図的に改変されていないペプチドまたは核酸は、天然に存在するものである。
【0046】
「結合タンパク質」という用語は、本発明の文脈において、1個またはそれ以上の結合ドメインを含むタンパク質を指す。さらに、このような結合タンパク質は、結合ドメインではない付加的なタンパク質ドメイン、多量体化部位、ポリペプチドタグ、ポリペプチドリンカーおよび/または非タンパク質性ポリマー分子を含んでいてもよい。多量体化部位の例は、機能的免疫グロブリンFcドメインを提供するために対になる免疫グロブリン重鎖定常領域、およびロイシンジッパー、または2個のこのようなポリペプチド間に分子間ジスルフィド結合を形成する遊離チオールを含むポリペプチドである。非タンパク質性ポリマー分子の例は、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアルキレンである。単一のCys残基は、例えば、当業者に周知のマレイミド化学を使用することによって、ポリペプチドに他の部位を結合させるために使用される。好ましくは、前記結合タンパク質は組み換え結合タンパク質である。
【0047】
「リピートタンパク質」という用語は、1個またはそれ以上のリピートドメインを含むタンパク質/(ポリ)ペプチドを指す。好ましくは、前記リピートタンパク質の各々は、最大4個のリピートドメインを含む。より好ましくは、前記リピートタンパク質の各々は、最大2個のリピートドメインを含む。最も好ましくは、リピートタンパク質の各々は、1個のリピートドメインのみを含む。さらに、前記リピートタンパク質は、追加の非リピートタンパク質ドメイン、(ポリ)ペプチドタグ、(ポリ)ペプチドリンカー、リピートタンパク質の検出を可能にし得る酵素(例えば、アルカリホスファターゼ)、または標的化のために使用できる部分(例えば、免疫グロブリンまたはそのフラグメント)および/またはエフェクター分子を含んでいてもよい。
【0048】
「(ポリ)ペプチドタグ」または「タンパク質タグ」という用語は、本発明の文脈において、(ポリ)ペプチド/タンパク質に結合したアミノ酸配列を互換的に指し、ここで、前記アミノ酸配列は、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質の精製、検出、もしくは標的化に有用であるか、または前記アミノ酸配列は、ポリペプチド/タンパク質の物理化学的挙動を改善するか、または前記アミノ酸配列は、エフェクター機能を有する。結合タンパク質の個々の(ポリ)ペプチドタグ、部分および/またはドメインは、互いに直接またはポリペプチドリンカーを介して連結される。これらのポリペプチドタグは全て当技術分野で周知であり、当業者に十分に利用可能である。ポリペプチドタグの例は、小さなポリペプチド配列、例えば、His、HA、myc、FLAG、またはStrep-タグ、GFP、または前記(ポリ)ペプチド/タンパク質の検出を可能にする、酵素のような部分(例えば、アルカリホスファターゼのような酵素)、または標的化におよび/もしくはエフェクター分子として使用できる部分(例えば、免疫グロブリンまたはそのフラグメント)である。酵素はまた、TEVプロテアーゼのようなプロテアーゼであってもよく、酵素は、例えば第X因子であってもよい。(ポリ)ペプチドまたはタンパク質は、当技術分野で主に知られている蛍光タグや放射性標識タグのようなタグを提示してもよい。
【0049】
「ポリペプチドリンカー」という用語は、本発明の文脈において、例えば、2個のタンパク質ドメイン、ポリペプチドタグとタンパク質ドメイン、タンパク質ドメインとポリエチレングリコールなどの非ポリペプチド部分、または2個の配列タグを連結することができるアミノ酸配列を指す。このような追加のドメイン、タグ、非ポリペプチド部分およびリンカーは、関連技術の当業者に公知である。そのようなリンカーの特定の例は、可変長のグリシンーセリンーリンカーおよびプロリンースレオニンーリンカーであり;好ましくは、前記リンカーは2~24アミノ酸の長さを有し;より好ましくは、前記リンカーは2~16アミノ酸の長さを有する。
【0050】
「リピートドメイン」という用語は、本発明の文脈において、構造ユニットとして2個またはそれ以上の連続するリピートユニット(モジュール)を含むタンパク質ドメインを指し、前記構造ユニットは、同じ折り畳みを有し、強固に積み重なって、例えば、共同疎水性コアを有する超らせん構造を形成する。好ましくは、リピートドメインは、N末端および/またはC末端のキャッピングユニット(またはモジュール)をさらに含む。さらに好ましくは、前記N末端および/またはC末端キャッピングユニット(またはモジュール)は、キャッピングリピートである。
【0051】
リピートタンパク質は、前記リピートモジュールのいずれか1個とは異なるアミノ酸配列を有するN末端および/またはC末端のキャッピングモジュールをさらに含んでもよい。「キャッピングモジュール」という用語は、リピートドメインのN末端またはC末端リピートモジュールに融合したポリペプチドを指し、前記キャッピングモジュールは、前記リピートモジュールと緊密な三次相互作用を形成し、それにより、連続するリピートモジュールと接触していない側で前記リピートモジュールの疎水性コアを溶媒から遮蔽するキャップを提供する。前記N末端および/またはC末端のキャッピングモジュールは、リピートユニットに隣接する天然に存在するリピートタンパク質に見出されるキャッピングユニットまたは他のドメインであってもよく、またはそれに由来してもよい。
【0052】
「キャッピングユニット」という用語は、本発明の文脈において、天然に存在するフォールディングされた(ポリ)ペプチドを指し、前記(ポリ)ペプチドは、N末端またはC末端がリピートユニットに融合した特定の構造ユニットを規定し、前記(ポリ)ペプチドは、前記リピートユニットと緊密な三次相互作用を形成し、それによって、前記リピートユニットの一方の疎水性コアを溶媒から遮蔽するキャップを提供する。好ましくは、キャッピングユニットはキャッピングリピートである。「キャッピングリピート」という用語は、前記隣接するリピートユニットと類似または同じフォールディングおよび/または前記隣接するリピートユニットとの配列類似性を有するキャッピングユニットを指す。
【0053】
「構造ユニット」という用語は、本発明の文脈において、ポリペプチド鎖に沿って互いに近接する二次構造の2個またはそれ以上のセグメント間の三次元的相互作用によって形成される、ポリペプチドの局所的に秩序化された部分を指す。このような構造ユニットは構造モチーフを示す。「構造モチーフ」という用語は、少なくとも1個の構造ユニットに存在する二次構造エレメントの三次元的配置を指す。構造モチーフは当業者によく知られている。構造ユニットは単独では定義された三次元配置を獲得することはできないが;例えばリピートドメインにおけるリピートモジュールとして連続的に配置されることにより、隣接するユニットが相互に安定化し、超らせん構造をもたらす。
【0054】
「設計されたリピートタンパク質」および「設計されたリピートドメイン」という用語は、本発明の文脈において、それぞれリピートタンパク質またはリピートドメインを互換的に指す。設計されたリピートタンパク質および設計されたリピートドメインは合成物であり、自然由来ではない。それらはそれぞれ、対応する設計された核酸の発現によって得られる人工タンパク質またはドメインである。好ましくは、発現は真核細胞または細菌細胞などの原核細胞で、または無細胞in vitro発現系を使用して行われる。したがって、設計されたアンキリンリピートタンパク質(すなわちDARPin)は、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む本発明の結合タンパク質に相当する。
【0055】
「リピートユニット」という用語は、本発明の文脈においては、設計されたリピートドメインのリピートアミノ酸配列を指し、これらは元来、天然に存在するリピートタンパク質のリピートユニット(モジュール)に由来する。各リピートドメインは、ファミリーまたはサブファミリーまたは天然に存在するリピートタンパク質、例えばファミリーまたはアルマジロリピートタンパク質またはアンキリンリピートタンパク質の1個またはそれ以上のリピートユニットに由来する。
【0056】
「リピートモジュール」という用語は、本発明の文脈において、1個またはそれ以上の天然に存在するリピートタンパク質のリピート配列モチーフを含むアミノ酸配列を指し、前記「リピートモジュール」(ユニット)は複数のコピーで見出され、タンパク質のフォールディングを決定する全ての前記モチーフに共通する定義されたフォールディングトポロジーを示す。このようなリピートユニットは、フレームワーク残基と相互作用残基を含む。このようなリピートユニットの例は、アルマジロリピートユニット、ロイシンリッチリピートユニット、アンキリンリピートユニット、テトラトリコペプチドリピートユニット、HEATリピートユニット、ロイシンリッチバリアントリピートユニットである。このようなリピートユニットを2個またはそれ以上含む天然に存在するタンパク質は、「天然に存在するリピートタンパク質」と呼ばれる。リピートタンパク質の個々のリピートユニットのアミノ酸配列は、リピートユニットの一般的なパターン、すなわちモチーフを実質的に保持したまま、互いに比較した場合、かなりの数の変異、置換、付加、および/または欠失を有していてもよい。
【0057】
「リピートモジュールのセット」という用語は、本発明の文脈においては、リピートドメインに存在するリピートモジュールの総数を指す。リピートドメインに存在するそのような「リピートモジュールのセット」は、2個またはそれ以上の連続したリピートモジュールを含み、2個またはそれ以上のコピーに含まれる1個のタイプのリピートモジュールだけから構成され、または、それぞれが1個またはそれ以上のコピーに存在する2個またはそれ以上の異なるタイプのモジュールから構成される。このような、例えば3個のリピートモジュールを含むリピートモジュールのセットは、例えば
図5に示すように、N末端からC末端まで連続して、リピートモジュール1、リピートモジュール2、リピートモジュール3を含んでよい。
図5に示すようなリピートモジュール1は、好ましくはアミノ酸29から61を含む。
図5に示すリピートモジュール2は、好ましくはアミノ酸62から94を含む。
図5に示すようなリピートモジュール3は、好ましくはアミノ酸95から127を含む。
【0058】
異なるリピートドメインは、リピートドメインあたりのリピートモジュールの数が同じであってもよいし、リピートドメインあたりのリピートモジュールの数が異なっていてもよい。
【0059】
好ましくは、セットで含まれるリピートモジュールは、相同リピートモジュールである。本発明の文脈において、「相同リピートモジュール」という用語は、前記リピートモジュールのフレームワーク残基の70%超が相同であるリピートモジュールを指す。好ましくは、前記リピートモジュールのフレームワーク残基の80%超が相同である。最も好ましくは、前記リピートモジュールのフレームワーク残基の90%超が相同である。Fasta、BlastまたはGapのようなポリペプチド間の相同性のパーセンテージを決定するコンピュータプログラムは、関連技術分野の当業者に知られている。
【0060】
リピートユニットは、対応するリピートユニットの全てのコピーに存在するアミノ酸残基を有する位置(「固定位置」)と、異なるアミノ酸残基または「ランダム化された」アミノ酸残基を有する位置(「ランダム化位置」)、すなわちフレームワーク残基および相互作用残基とを含んでよい。
【0061】
このようなリピートユニットの一例は、アンキリンリピートユニットである。このようなリピートユニットを2個またはそれ以上含む天然に存在するタンパク質は、「天然に存在するリピートタンパク質」と呼ばれる。リピートタンパク質の個々のリピートユニットのアミノ酸配列は、リピートユニットの一般的なパターン、またはモチーフを実質的に保持したまま、互いに比較した場合、かなりの数の変異、置換、付加、および/または欠失を有していてもよい。
【0062】
「アンキリンリピートユニット」という用語は、本発明の文脈において、アンキリンリピートであるリピートユニットを指す。アンキリンリピートは当業者によく知られている。
【0063】
「DARPin」という用語は、本発明の文脈においては、遺伝子工学的に設計された抗体模倣タンパク質である設計されたアンキリンリピートタンパク質を指し、高度に特異的で高親和性の標的タンパク質結合を示す。DARPinは当技術分野でよく知られており、Binz HK, et al.(2003)JMB.332 (2):489-503 に最初に記載されており、Pluckthun A (2015).Annu.Rev. Pharmacol.Toxicol.55 (1):489-511 で総説されている。DARPinは、天然に存在するアンキリンリピートタンパク質に基づいているが、例えば、所与の標的分子に対する結合親和性、細胞表面発現などに影響を与えることができる1個またはそれ以上のアミノ酸変異を含んでいる。通常、DARPinは4~5個のリピートを含み、そのうち最初のリピート(N-キャッピングリピート)と最後のリピート(C-キャッピングリピート)は疎水性タンパク質コアを水性環境から遮蔽する役割を果たす。DARPinは天然のアンキリンリピートタンパク質ドメインの平均サイズに相当する。リピート数が3個未満のタンパク質(すなわち、キャッピングリピートと1個の内部リピート)は、十分安定した三次構造を形成しない。DARPinの分子量は、以下のチャートに示すように、リピートの総数に依存する:本発明のDARPinは、好ましくは2~6個、より好ましくは3~5個のアンキリンリピートユニットを含み、N-およびC-キャップリピートで挟まれている。各アンキリンリピートユニットは約33アミノ酸残基を含む。
【0064】
「リピート配列モチーフ」または「リピートコンセンサス配列」という用語は、本発明の文脈においては、1個またはそれ以上のリピートユニットから推定されるアミノ酸配列を指す。このようなリピート配列モチーフは、フレームワーク残基位置と標的相互作用残基位置とを含む。前記フレームワーク残基位置は、前記リピートユニットのフレームワーク残基の位置に対応する。前記標的相互作用残基位置は、前記リピートユニットの標的相互作用残基の位置に対応する。このようなリピート配列モチーフは、固定位置とランダム化位置とを含む。「固定位置」という用語は、リピート配列モチーフにおけるアミノ酸位置を指し、前記位置は特定のアミノ酸に設定される。しばしば、このような固定位置はフレームワーク残基の位置に対応する。
【0065】
「ランダム化された位置」という用語は、本発明の文脈において、リピート配列モチーフ中のアミノ酸位置を指し、2個またはそれ以上のアミノ酸が前記アミノ酸位置で許容される。しばしば、このようなランダム化位置は、標的相互作用残基の位置に対応する。しかしながら、フレームワーク残基のいくつかの位置もまたランダム化される。
【0066】
「フレームワーク残基」という用語は、本発明の文脈において、リピートユニットのアミノ酸残基、またはリピートモジュールの対応するアミノ酸残基を指し、フォールディングトポロジーに寄与する、すなわち、前記リピートユニット(またはモジュール)のフォールディングに寄与する、または隣接するユニット(またはモジュール)との相互作用に寄与する。このような寄与は、リピートユニット(またはモジュール)内の他の残基との相互作用、またはα-ヘリックスやβ-シートに見られるようなポリペプチドのバックボーンコンフォメーションへの影響、または直鎖ポリペプチドまたはループを形成するアミノ酸ストレッチである可能性がある。
【0067】
「標的相互作用残基」という用語は、本発明の文脈においては、標的物質との相互作用に寄与するリピートユニットのアミノ酸残基、またはリピートモジュールの対応するアミノ酸残基を指す。このような寄与は、標的物質との直接的な相互作用、または他の直接相互作用残基への影響であり、例えば、直接相互作用残基と前記標的との相互作用を許容または増強するために、リピートユニット(またはモジュール)のポリペプチドのコンフォメーションを安定化させることによるかもしれない。このようなフレームワークおよび標的相互作用残基は、X線結晶構造解析、NMRおよび/またはCD分光法などの物理化学的方法によって得られた構造データの解析によって、あるいは構造生物学および/またはバイオインフォマティクスの実務者によく知られている既知の関連構造情報との比較によって同定することができる。
【0068】
「フォールディングトポロジー」という用語は、本発明の文脈においては、前記リピートユニットまたはリピートモジュールの三次構造を指す。フォールディングトポロジーは、α-ヘリックスもしくはβ-シートの少なくとも一部を形成するアミノ酸のストレッチ、または直鎖ポリペプチドもしくはループを形成するアミノ酸のストレッチ、またはα-ヘリックス、β-シートおよび/もしくは直鎖ポリペプチド/ループの任意の組み合わせによって決定される。
【0069】
「連続した」という用語は、本発明の文脈においては、リピートユニットまたはリピートモジュールがタンデムに配置されている配置を指す。設計されたリピートタンパク質においては、少なくとも2個、通常は約2~6個、特に少なくとも約6個、頻繁には20個またはそれ以上のリピートユニットが存在する。ほとんどの場合、リピートドメインのリピートユニットは高度の配列同一性(対応する位置に同じアミノ酸残基)または配列類似性(アミノ酸残基は異なるが、類似の物理化学的特性を有する)を示し、アミノ酸残基のいくつかは強く保存されている重要な残基であるかもしれない。しかし、リピートユニットの共通のフォールディングトポロジーが維持されている限り、リピートドメインの異なるリピートユニット間のアミノ酸の挿入および/または欠失、および/または置換による高度の配列可変性は、可能であろう。
【0070】
ほとんどの場合、前記リピートユニットは、高度の配列同一性(対応する位置に同じアミノ酸残基)または配列類似性(アミノ酸残基は異なるが、類似の物理化学的特性を有する)を示し、アミノ酸残基の一部は、天然に存在するタンパク質に見られる異なるリピートユニットに強く保存されている重要な残基であるかもしれない。
【0071】
しかし、共通のフォールディングトポロジーが維持される限り、天然に存在するタンパク質に見られる異なるリピートユニット間のアミノ酸の挿入および/または欠失、および/または置換による、高度な配列可変性は可能であろう。
【0072】
「標的に特異的に結合する」、「標的特異性」、「標的に対する結合特異性を有する」、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語は、交換可能であり、本発明の文脈において、結合タンパク質または結合ドメインがヒトCD32aの細胞外ドメイン(配列番号87(場合により天然CD32a変異体Q63R、M140V、H167RおよびI218Vの細胞外ドメイン、位置は、配列番号87に従う全長配列を参照して示されている)のアミノ酸34から217)に対して、無関係なタンパク質よりも低い解離定数で結合し、好ましくは、本発明の結合タンパク質または結合ドメインは、ヒトCD32aの細胞外ドメイン(配列番号87(場合により、天然CD32aバリアントQ63R、M140V、H167RおよびI218Vの細胞外ドメイン)のアミノ酸34から217)には、ヒトCD32bの細胞外ドメイン(配列番号88のアミノ酸43から217)またはヒトCD32cの細胞外ドメイン(配列番号89のアミノ酸43から223)よりも低い解離定数で結合する。より低い解離定数は、少なくとも10倍低く、好ましくは102倍低く、より好ましくは103倍低く、より好ましくは104倍低く、さらに好ましくは105倍低くてもよい。最も好ましい実施形態において、ヒトCD32aの細胞外ドメイン(配列番号87(場合により、天然バリアントQ63R、M140V、H167RおよびI218V)のアミノ酸34から217)に対する解離定数は、少なくとも106、より好ましくは107、さらに好ましくは108、または最も好ましくは109倍、ヒトCD32bの細胞外ドメイン(配列番号88のアミノ酸43から217)に対するような無関係なタンパク質に対する対応する解離定数よりも低く、ヒトCD32cの細胞外ドメイン(配列番号89のアミノ酸43から223)よりも低い解離定数を有する。
【0073】
「標的」という用語は、核酸分子、ポリペプチドまたはタンパク質、炭水化物、または他の天然に存在する分子などの個々の分子を指し、そのような個々の分子の任意の一部分、またはそのような分子の2個またはそれ以上の複合体を含む。標的は全細胞または組織サンプルであってもよいし、非天然の分子または部分であってもよい。好ましくは、標的は天然存在するもしくは非天然に存在するポリペプチド、または化学修飾、例えば天然もしくは非天然のリン酸化、アセチル化、もしくはメチル化によって修飾されたポリペプチドである。特に本発明では、標的はCD32aである。
【0074】
「CD32a」という用語は、FCGR2Aとしても知られるタンパク質を指す。CD32aは免疫グロブリンガンマのFc領域に結合する低親和性受容体II-aである。ヒトCD32aの細胞外ドメインは、関連タンパク質CD32bおよびCD32cの細胞外ドメインと非常に相同性が高い。ヒトCD32a(配列番号87のアミノ酸34から217)の細胞外ドメイン、167位のヒスチジンがアルギニンに変異しており、全長CD32aを参照して「CD32a H167R」とも呼ばれ、成熟CD32aを参照して「mCD32a H134R」とも呼ばれる)、ヒトCD32bの細胞外ドメイン(配列番号88のアミノ酸43から217)、およびヒトCD32cの細胞外ドメイン(配列番号89のアミノ酸43から223)のアラインメントを
図4に示す。
【0075】
本発明の文脈で使用される「コンセンサス配列」という用語は、2個またはそれ以上の配列間の配列アラインメントにおいて各位置に見られる、ヌクレオチドまたはアミノ酸のいずれかの最も頻度の高い残基の計算された順序を指す。これは、関連配列が互いに比較され、類似配列モチーフが計算される多重配列アラインメントの結果を表す。保存配列モチーフはコンセンサス配列として描かれ、同一アミノ酸、すなわち比較された配列間で同一のアミノ酸、保存アミノ酸、すなわち比較されたアミノ酸配列間で異なるが、全てのアミノ酸が特定の機能的または構造的アミノ酸群、例えば極性または中性に属するアミノ酸、および可変アミノ酸、すなわち比較された配列間で明らかな関連性を示さないアミノ酸を示す。表1は、N-およびC-キャッピングユニットを含むリピートユニットの配列のアラインメントを示す。アラインメントは手作業で作成されたか、あるいはデフォルトの設定を使用したClustal Omegaであるアルゴリズムを使用して言及したアラインメントを作成した。いくつかの実施形態において置換することができる7つのアミノ酸の位置は、強調表示されている。
【0076】
本発明の結合タンパク質または結合ドメインなどの薬物の「終末血漿半減期」という用語は、擬平衡に達した後、哺乳動物に適用した薬物の血漿中濃度が半分に達するのに必要な時間を指す。この半減期は、哺乳動物に投与された薬物の用量の半分を排除するのに必要な時間とは定義されない。
【0077】
「生物活性化合物」という用語は、疾患を有する哺乳動物に適用された場合に、前記疾患を修飾する化合物を指す。生物活性化合物は、拮抗性または作動性の特性を有し、タンパク質性生物活性化合物または非タンパク質性生物活性化合物であってよい。
【0078】
「結合を競合する」という用語は、本発明の2個の異なる結合ドメインが同じ標的に同時に結合することができない一方で、両者は同じ標的に個別に結合することができることを意味する。したがって、このような2個の結合ドメインは、前記標的への結合のために競合する。好ましくは、前記2個の競合する結合ドメインは、前記標的上の重複するまたは同じ結合エピトープに結合する。2個の結合ドメインが標的への結合のために競合するかどうかを決定するための、競合酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)または競合SPR測定(例えば、BioRad社からのProteon装置を使用することによる)のような方法は、当業者に周知である。
【0079】
本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語には、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組み換え産生分子、化学合成分子などのDNAおよびRNAが含まれる。核酸は一本鎖でも二本鎖でもよい。RNAには、in vitro転写RNA(IVT RNA)または合成RNAが含まれる。本発明によれば、ポリヌクレオチドは好ましくは単離される。核酸はベクターに含まれていてもよい。
【0080】
「ベクター」または「発現ベクター」という用語は、本発明の文脈においては、互換的に使用され、本発明の核酸の集合体または本発明の核酸の集合体の一部である1個の核酸を細胞、好ましくは哺乳動物細胞に導入することができる、または導入するポリヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドとタンパク質の混合物を指す。ベクターの例としては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ラムダファージのようなファージベクター、レトロウイルス、アデノウイルス随伴ウイルスベクター(AAV)、アデノウイルスまたはバキュロウイルスベクターのようなウイルスベクター、または細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)、またはP1人工染色体(PAC)のような人工染色体ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。前記ベクターは、クローニングベクターだけでなく、発現ベクターも含む。特に、ベクターは、本発明のプロモーターおよび核酸の集合体または核酸の集合体の一部である1個の核酸を適当な宿主細胞に輸送するために使用される。発現ベクターは、宿主細胞内での発現ベクターの自律複製を促進する「レプリコン」ポリヌクレオチド配列を含むことができる。宿主細胞内に入ると、発現ベクターは宿主染色体DNAとは無関係に、または宿主染色体DNAと同時に複製され、ベクターおよびその挿入DNAの複数のコピーを生成することができる。複製不能な発現ベクターが使用される場合(安全上の理由からしばしばそうなる)、ベクターは複製せず、単に核酸を直接発現させるだけかもしれない。発現ベクターのタイプによっては、発現ベクターは細胞から消失する、すなわち核酸によってコードされた新抗原を一過的に発現するだけであったり、細胞内で安定であったりすることができる。発現ベクターは通常、発現カセット、すなわち核酸のmRNA分子への転写を可能にする必要なエレメントを含んでいる。
【0081】
「ウイルスベクター」という用語は、本発明の文脈において、感染性ウイルス粒子に組み立てできる一本鎖または二本鎖の核酸配列を指すために使用される。この核酸配列は、完全なウイルスゲノムであっても部分的なウイルスゲノムであってもよい。後者の場合、ウイルスゲノムは好ましくは1個またはそれ以上の異種遺伝子を含む。一部のウイルス粒子では、感染性ウイルス粒子の組み立てを可能にするために、ウイルスゲノムの非常に短い配列のみが必要である。例えば、感染性アデノ随伴ウイルス粒子の組み立てには、所与の長さの異種核酸の5’および3’に配置された短い(約200bpの長さの)リピート配列(通常、アデノ随伴ウイルスでは4.5.から5.3kB)だけが、感染性アデノ随伴ウイルス粒子の組み立てを可能にする。所与のウイルスを組み立てるための最小核酸配列はよく知られている。ウイルスゲノムが大きければ大きいほど、および感染性ウイルス粒子を組み立てるための最小ウイルス配列が小さければ小さいほど、ウイルスベクターに挿入できる異種遺伝子は大きくなる。
【0082】
本明細書で使用する「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科の属を指す。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染することができるという点で、レトロウイルスの中でもユニークである。宿主細胞のDIMAにかなりの量の遺伝情報を送達することができるので、遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の一つである。HIV、SIV、およびFIVは全てレンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、in vivoでかなりのレベルの遺伝子導入を達成する手段を提供する。
【0083】
本明細書で使用する「アデノウイルス随伴ウイルスベクター」とは、パルボウイルス科に属するデペンドパルボウイルス属を指す。このウイルスベクターは遺伝子治療に使用することができ、分裂している細胞および静止している細胞の両方に感染し、宿主細胞のゲノムに統合することなく染色体外の状態で持続することができる。アデノ随伴ウイルス(AAV)は非エンベロープ型ウイルスで、標的細胞にDNAを送達するように操作することができる。ウイルス遺伝子を欠き、様々な治療応用に関心のあるDNA配列を含むAAV組み換え粒子を作製することができ、遺伝子治療のための最も安全な戦略の一つとなっている。
【0084】
「コードする」という用語は、遺伝子、cDNA、mRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列が、定義されたヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNA、およびmRNA)または定義されたアミノ酸配列のいずれかを有する生物学的プロセスにおいて、他のポリマーおよび高分子の合成のための鋳型として機能する固有の特性、およびそこから生じる生物学的特性を指す。したがって、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳が細胞または他の生物学的系においてタンパク質を産生する場合、タンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり、通常配列表で提供されるヌクレオチド配列であるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写の鋳型として使用される非コード鎖の両方を、タンパク質またはその遺伝子もしくはcDNAの産物をコードすると呼ぶことができる。
【0085】
本開示によれば、「RNAがコードする」という用語は、標的組織の細胞内などの適切な環境にRNAが存在する場合、翻訳の過程で、それがコードするペプチドまたはタンパク質を産生するためにアミノ酸の組み立てを指示できることを意味する。一実施形態において、RNAは細胞の翻訳機構と相互作用することができ、ペプチドまたはタンパク質の翻訳を可能にする。細胞は、コードされたペプチドまたはタンパク質を細胞内(例えば、細胞質内および/または核内)で産生することもできるし、コードされたペプチドまたはタンパク質を分泌することもできるし、表面で産生することもできる。
【0086】
本明細書で使用される「内因性」とは、生物、細胞、組織、または系由来の、あるいはその内部で産生される任意の物質を指す。
【0087】
本明細書において、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織、または系の外から導入された、または外部で産生された任意の物質を指す。
【0088】
本明細書で使用する「発現」という用語は、特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳として定義される。発現は一過性であっても安定であってもよい。本発明によれば、発現という用語には「異常な発現」または「異常発現」も含まれる。
【0089】
本発明によれば、遺伝子発現レベルが「変化した」とみなされるのは、遺伝子発現が対照レベルと比較して10%、25%、50%以上増加または減少した場合である。あるいは、対照レベルと比較して、遺伝子発現が少なくとも0.1倍、少なくとも0.2倍、少なくとも1倍、少なくとも2倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍以上増加または減少している場合、発現レベルは「増加」または「減少」とみなされる。
【0090】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照サンプルにおいて検出されたタンパク質発現レベルを指し、「正常対照レベル」と「疾患対照レベル」の両方を含む。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであっても、複数の発現パターンに由来するものであってもよい。例えば、対照レベルは、過去に検査された細胞からの発現パターンのデータベースとすることができる。「正常対照レベル」とは、正常で健康な個体、またはCD32aの発現変化に関連する状態(HIV関連疾患など)に罹患していないことが知られている個体の集団において検出される遺伝子発現レベルを指す。正常な個体とは、CD32a発現の変化に関連する状態の臨床症状がない個体である。一方、「疾患対照レベル」とは、CD32a発現の変化に関連する状態に罹患している集団に見られるCD32a関連遺伝子の発現プロファイルを指す。
【0091】
本明細書において、「連結した」、「融合した」、または「融合」という用語は、互換的に使用される。これらの用語は、2個またはそれ以上の要素または成分またはドメインが結合することを指す。
【0092】
本開示の文脈において、「粒子」という用語は、分子または分子複合体によって形成される構造化実体に関する。一実施形態において、「粒子」という用語は、媒体中に分散したマイクロサイズまたはナノサイズのコンパクト構造体などの、マイクロサイズまたはナノサイズの構造体に関する。一実施形態において、粒子は、DNA、RNAまたはそれらの混合物を含む粒子などの核酸含有粒子である。
【0093】
ポリマーおよび脂質のような正に帯電した分子と、負に帯電した核酸とのの静電的相互作用が、粒子形成に関与している。この結果、核酸粒子の複合化と自発的形成が起こる。一実施形態において、核酸粒子はナノ粒子である。
【0094】
本開示で使用されるように、「ナノ粒子」とは、非経口投与に適した平均直径を有する粒子を指す。
【0095】
「核酸粒子」は、目的の標的部位(例えば、細胞、組織、器官など)に核酸を送達するために使用することができる。核酸粒子は、DOTAPなどの少なくとも1種のカチオン性またはカチオン性イオン化可能な脂質または脂質様物質、プロタミンなどの少なくとも1種のカチオン性ポリマー、またはそれらの混合物と核酸から形成することができる。核酸粒子には、脂質ナノ粒子(LNP)に基づく製剤およびリポプレックス(LPX)に基づく製剤が含まれる。
【0096】
いかなる理論にも拘束されるつもりはないが、カチオン性またはカチオン的にイオン化可能な脂質または脂質様物質とカチオン性ポリマーが核酸と組み合わさって凝集体を形成し、この凝集によりコロイド的に安定な粒子が得られると考えられる。
【0097】
本明細書に記載の粒子は、カチオン性またはカチオン的にイオン化可能な脂質または脂質様物質以外の少なくとも1種の脂質または脂質様物質、カチオン性ポリマー以外の少なくとも1種のポリマー、またはそれらの混合物をさらに含んでもよい。
【0098】
核酸粒子は1種類超の核酸分子を含んでいてもよく、核酸分子の分子パラメーターは、モル質量、または分子構造、キャッピング、コード領域または他の特徴などの基本的な構造エレメントに関してのように、互いに類似していても異なっていてもよい。
【0099】
本明細書に記載される核酸粒子は、一実施形態において、約30nm~約1000nm、約50nm~約800nm、約70nm~約600nm、約90nm~約400nm、または約100nm~約300nmの範囲の平均直径を有してよい。
【0100】
本明細書に記載される核酸粒子、例えば本明細書に記載されるプロセスによって作製される核酸粒子は、約0.5未満、約0.4未満、約0.3未満、または約0.2未満またはそれ以下の多分散性指数を示す。一例として、核酸粒子は、約0.1~約0.3または約0.2~約0.3の範囲の多分散性指数を示すことができる。
【0101】
本明細書に記載の核酸粒子は、少なくとも1種のカチオン性またはカチオン的にイオン化可能な脂質または脂質様物質および/または少なくとも1種のカチオン性ポリマーからコロイドを得ること、およびコロイドを核酸と混合して核酸粒子を得ることを含み得る広範な方法を使用して調製することができる。
【0102】
本明細書で使用する「コロイド」という用語は、分散粒子が沈殿しないタイプの均質な混合物に関する。混合物中の不溶性粒子は微細であり、粒径は1~1000ナノメートルである。混合物はコロイドまたはコロイド懸濁液と呼ばれることがある。「コロイド」という用語は、懸濁液全体ではなく、混合物中の粒子のみを指すこともある。
【0103】
「平均直径」という用語は、いわゆるキュムラントアルゴリズムを使用したデータ解析により動的レーザー光散乱(DLS)によって測定される粒子の平均流体力学的直径を指し、このアルゴリズムは、結果として、長さの寸法を有するいわゆるZ平均、および無次元である多分散性指数(PI)を提供する(Koppel, D., J. Chem. Phys. 57, 1972, pp 4814-4820, IS0 13321)。ここでは、粒子の「平均直径」、「直径」または「サイズ」は、このZ平均の値と同義に使用される。
【0104】
「多分散性指数」は、「平均直径」の定義で述べたように、いわゆるキュムラント解析による動的光散乱測定に基づいて計算することが好ましい。特定の前提条件の下で、これはナノ粒子の集合体のサイズ分布の尺度としてとらえることができる。
【0105】
様々なタイプの核酸含有粒子が、粒子状の核酸の送達に適していることが以前に記載されている(例えば、Kaczmarek, J. C. et al., 2017, Genome Medicine 9, 60)。非ウイルス核酸送達ビヒクルの場合、核酸のナノ粒子カプセル化は、核酸を分解から物理的に保護し、特定の化学的性質によっては、細胞への取り込みおよびエンドソームからの脱出を助けることができる。
【0106】
本開示は、核酸、少なくとも1個のカチオン性またはカチオン的にイオン化可能な脂質または脂質様物質、および/または少なくとも1種のカチオン性ポリマーを含み、核酸と会合して核酸粒子を形成する粒子、ならびにそのような粒子を含む組成物を記載する。核酸粒子は、粒子に非共有結合的相互作用によって異なる形態で複合体化された核酸を含んでいてもよい。本明細書に記載の粒子は、ウイルス粒子、特に感染性ウイルス粒子ではない、すなわち、それらは、ウイルス的には細胞に感染できない。
【0107】
好適なカチオン性またはカチオン的にイオン化可能な脂質または脂質様物質およびカチオン性ポリマーは、核酸粒子を形成するものであり、「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語に含まれる。「粒子形成成分」または「粒子形成剤」という用語は、核酸と会合して核酸粒子を形成するあらゆる成分に関する。このような成分は、核酸粒子の一部となり得るあらゆる成分を含む。
【0108】
カチオン性ポリマーは化学的柔軟性が高いため、ナノ粒子に基づく送達によく使われる材料である。通常、カチオン性ポリマーは、負に帯電した核酸を静電的にナノ粒子に凝縮させるために使用される。これらの正に荷電した基は、しばしばアミンからなり、pH5.5から7.5の範囲でプロトン化状態が変化し、エンドソームの破裂をもたらすイオン不均衡を引き起こすと考えられている。ポリ-L-リジン、ポリアミドアミン、プロタミン、ポリエチレンイミンなどのポリマーや、キトサンなどの天然に存在するポリマーは全て核酸送達に応用されており、本明細書ではカチオン性ポリマーとして適している。加えて、核酸送達に特化したポリマーを合成した研究者もいる。特にポリ(β-アミノエステル)は、その合成の容易さと生分解性により、核酸デリバリーに広く使用されている。このような合成ポリマーも、本明細書のカチオン性ポリマーとして適している。
【0109】
「遺伝子改変」という用語は、核酸による細胞のトランスフェクションを含む。「トランスフェクション」という用語は、核酸、特にRNAを細胞に導入することに関する。本発明の目的上、「トランスフェクション」という用語は、細胞への核酸の導入、またはそのような細胞による核酸の取り込みも含み、ここで細胞は対象、例えば患者中に存在してもよい。したがって、本発明によれば、本明細書に記載の核酸のトランスフェクションのための細胞は、in vitroまたはin vivoで存在することができ、例えば、細胞は患者の器官、組織および/または有機体の一部を形成することができる。本発明によれば、トランスフェクションは一過性または安定性であり得る。トランスフェクションの用途によっては、トランスフェクトされた遺伝物質が一過的に発現されるだけで十分である。RNAを細胞にトランスフェクトして、そのコードされたタンパク質を一過性に発現させることができる。トランスフェクションプロセスで導入された核酸は通常核ゲノムに組み込まれないので、外来核酸は有糸分裂によって希釈されるか分解される。核酸のエピソーム増幅を可能にする細胞は、希釈率を大幅に減少させる。トランスフェクトされた核酸が細胞およびその娘細胞のゲノムに実際に残ることが望まれる場合、安定したトランスフェクションが起こらなければならない。このような安定したトランスフェクションは、トランスフェクションプロセスで導入された核酸が核ゲノムに組み込まれた場合に起こり得、例えば、トランスフェクションにウイルスに基づくシステムまたはトランスポゾンに基づくシステムを使用することによって達成できる。一般に、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞は、抗原受容体をコードする核酸で安定的にトランスフェクトされるが、一般に、抗原をコードする核酸は細胞に一過性にトランスフェクトされる。
【0110】
「医薬組成物」という用語は、治療上有効な薬剤を、好ましくは薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤とともに含む製剤に関する。前記医薬組成物は、対象への前記医薬組成物の投与による疾患または障害の治療、予防、または重症度の軽減に有用である。医薬組成物は、当技術分野では医薬製剤としても知られている。
【0111】
「薬学的に許容される」という用語は、本明細書で使用される場合、好ましくは、医薬組成物の活性剤の作用と相互作用しない材料の非毒性を意味する。特に、「薬学的に許容される」とは、連邦政府または州政府の規制機関によって承認されるか、または動物、より詳細にはヒトにおける使用のために、米国薬局方、欧州薬局方または他の一般に認められた薬局方に記載されていることを意味する。
【0112】
「担体」という用語は、天然または合成性の有機または無機成分を指し、その中に活性成分が、適用を容易にし、強化し、または可能にするために配合される。本発明によれば、「担体」という用語は、対象への投与に適した1種またはそれ以上の適合性のある固体または液体の充填剤、希釈剤またはカプセル化物質も含む。可能な担体物質(例えば、希釈剤)は、例えば、滅菌水、リンゲル液、乳酸化リンゲル液、生理的食塩水、静菌生理食塩水(例えば、0.9%のベンジルアルコールを含む生理食塩水)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ハンク溶液、固定油、ポリアルキレングリコール、水素化ナフタレン、および生体適合性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマーまたはポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンコポリマーである。一実施形態において、担体はPBSである。得られた溶液または懸濁液は、好ましくはレシピエントの血液に対して等張である。適切な担体およびその処方については、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 17th ed., 1985, Mack Publishing Co.に記載されている。
【0113】
「細胞」という用語は、本発明の文脈において、真核細胞または原核細胞、例えば細菌細胞、酵母細胞、または哺乳動物の細胞、好ましくはヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、サル、またはネコの細胞を指すために使用される。
【0114】
本発明の態様と好ましい実施形態
以下では、本発明の異なる態様をより詳細に定義する。このように定義された各態様は、反対のことが明確に示されていない限り、任意の他の態様と組み合わせることができる。特に、好ましいまたは有利であると示された任意の特徴は、好ましいまたは有利であると示された任意の他の特徴または複数の特徴と組み合わせることができる。
【0115】
本発明につながる研究において、驚くべきことに、特異的結合タンパク質が相同性の高いCD32aとCD32bを識別できることが示された。
【0116】
第1の態様において、本発明は、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質を提供し、ここで、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、CD32aと特異的に結合し、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、
i)配列番号28、29および30、ならびに
ii)互いに独立して最大10個のアミノ酸置換を含む、配列番号28、29および30
からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する少なくとも1個のアンキリンリピートモジュールを含む。
【0117】
好ましくは、最大9個のアミノ酸、より好ましくは最大8個のアミノ酸、より好ましくは最大7個のアミノ酸、より好ましくは最大6個のアミノ酸、より好ましくは最大5個のアミノ酸、より好ましくは最大4個のアミノ酸、より好ましくは最大3個のアミノ酸、より好ましくは最大2個のアミノ酸、より好ましくは最大1個のアミノ酸が置換され、最も好ましくは、配列番号28、29および30のアミノ酸は置換されていない。
【0118】
ここで、10個のアミノ酸が置換されている場合、最大10個の置換アミノ酸は、好ましくは、配列番号28、29および30の1位、3位、4位、6位、14位、15位、27位および/または3個のさらなる位置にあり、9個のアミノ酸が置換されている場合、最大9個の置換アミノ酸は、好ましくは、配列番号28、29および30の1位、3位、4位、6位、14位、15位、27位および/または2個のさらなる位置にあり、8個のアミノ酸が置換されている場合、最大8個のアミノ酸は、好ましくは、配列番号28、29および30の1位、3位、4位、6位、14位、15位、27位および/または1個のさらなる位置にあり、7個のアミノ酸が置換されている場合、最大7個のアミノ酸は、好ましくは配列番号28、29および30の1位、3位、4位、6位、14位、15位、27位にある。
【0119】
好ましくは、配列番号28、29および/または30において1位、3位、4位、6位、14位および/または15位のアミノ酸が置換されている場合、これらのアミノ酸は任意のアミノ酸であり、好ましくはグリシン、プロリンまたはシステインを除く任意のアミノ酸である。好ましくは、27位のアミノ酸が配列番号28、29および/または30において置換されている場合、このアミノ酸は任意のアミノ酸であり、好ましくはヒスチジン、アスパラギンまたはチロシンである。
【0120】
第1の態様の一実施形態において、結合タンパク質は少なくとも2個のリピートモジュールを含んでおり、それらは同一であっても異なっていてもよい。第1の態様の一実施態様において、結合タンパク質は2~20個のリピートモジュールを含んでおり、それらは同一であっても異なっていてもよい。第1の態様の一実施態様において、結合タンパク質は3個のリピートモジュールを含んでおり、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0121】
好ましい実施形態において、結合タンパク質は、3個のリピートモジュールを含み、ここで、リピートモジュール1は、配列番号28に従うアミノ酸配列を有し、リピートモジュール2は、配列番号29に従うアミノ酸配列を有し、リピートモジュール3は、配列番号に従う30アミノ酸配列を有し、好ましくは、各モジュール中の10アミノ酸またはそれ以下が任意のアミノ酸で置換され、好ましくは、9、8、7、6、5、4、3、2、または1アミノ酸が置換され、最も好ましくは、アミノ酸は置換されない。
【0122】
好ましい実施形態において、結合タンパク質は、3個のリピートモジュールを含み、リピートモジュール1は配列番号28に従うアミノ酸配列を有し、リピートモジュール2は配列番号29に従うアミノ酸配列を有し、リピートモジュール3は配列番号30に従うアミノ酸配列を有し、好ましくは、各モジュール中の5アミノ酸またはそれ以下が任意のアミノ酸で置換され、好ましくは4、3、2、または1が置換され、最も好ましくは、アミノ酸は置換されない。
【0123】
好ましい結合タンパク質は、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含み、前記アンキリンリピートモジュールは、2×10-5M以下の解離定数(Kd)でCD32aと結合する。好ましくは、前記アンキリンリピートモジュールは、表面プラズモン共鳴(SPR)で測定した場合、2×10-6M以下、より好ましくは2×10-7M以下、2×10-8M以下、または最も好ましくは2×10-9M以下のKdでCD32aと結合する。2×10-5M以下のKdでCD32aと結合するアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質を実施例に示す。
【0124】
本発明のタンパク質の結合タンパク質中にCD32aと結合する2個またはそれ以上のリピートドメインを含むと、本発明の結合タンパク質が2個またはそれ以上のCD32a抗原に、例えば細胞の表面で同時に結合することから生じる親和性効果により、本発明の結合タンパク質の親和性を高めることができることが当業者には理解される。したがって、CD32aと結合する前記リピートドメインの1個を含む本発明の好ましい結合タンパク質は、2×10-5M以下のKdでCD32aに結合する。好ましくは、本発明の前記結合タンパク質は、SPRで測定した場合、2×10-6M以下、より好ましくは2×10-7M以下、2×10-8M以下、または最も好ましくは2×10-9M以下のKdでCD32aと結合する。2×10-5M以下のKdでCD32aと結合する本発明の結合タンパク質を実施例に示す。
【0125】
CD32aと結合する前記アンキリンリピートドメインを2個、3個、4個またはそれ以上含む本発明の別の好ましい結合タンパク質は、2×10-5Mまたはそれ以下のKdでCD32aに結合する。好ましくは、本発明の前記結合タンパク質は、SPRで測定した場合、2×10-6M以下、より好ましくは2×10-7M以下、2×10-8M以下、または最も好ましくは2×10-9M以下のKdでCD32aと結合する。2×10-5M以下のKdでCD32aと結合する本発明の結合タンパク質を実施例に示す。
【0126】
本発明の結合タンパク質のアンキリンリピートはCD32aと特異的に結合する。好ましくは、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質は、ヒトCD32aと特異的に結合する。
【0127】
好ましくは、本発明の結合ドメインは、アンキリンリピートドメインまたは設計されたアンキリンリピートドメインである。設計されたアンキリンリピートドメインの例を実施例に示す。
【0128】
第2の態様において、本発明は、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質に関し、ここで、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、CD32aと特異的に結合し、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、配列番号1~27からなる群から選択される1個のアンキリンリピートドメインと少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0129】
上記で定義したように、前記アンキリンリピートドメインは、2×10-5M以下のKdでCD32aと結合する。好ましくは、前記リピートドメインは、SPRで測定した場合、2×10-6M以下、より好ましくは2×10-7M以下、より好ましくは2×10-8M以下、または最も好ましくは2×10-9M以下のKdでCD32aと結合する。2×10-5M以下のKdでCD32aと結合するアンキリンリピートドメインを含む結合タンパク質を実施例に示す。
【0130】
本発明の好ましい結合タンパク質は、2×10-5M以下のKdでCD32aと結合する。好ましくは、前記結合タンパク質は、SPRで測定した場合、2×10-6M以下、より好ましくは2×10-7M以下、2×10-8M以下、または最も好ましくは2×10-9M以下のKdでCD32aと結合する。2×10-5M以下のKdでCD32aと結合する本発明の結合タンパク質を実施例に示す。
【0131】
好ましくは、本発明の結合タンパク質におけるアンキリンリピートドメインは、配列番号1~27からなる群から選択されるアンキリンリピートドメインにおけるランダム化されたリピートユニットまたはランダム化された位置と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。好ましくは、本発明の結合タンパク質中のアンキリンリピートドメインは、少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。最も好ましい実施形態において、本発明の結合タンパク質中のアンキリンリピートドメインは、配列番号1~27のいずれかのアミノ酸配列を含む。
【0132】
一実施形態において、本発明の結合タンパク質は、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含み、以下の配列モチーフ
X1DX2X3GX4TPLHLAAX5X6GHLEIVEVLLKX7GADVNA(配列番号31)
に従うアミノ酸配列からなる少なくとも1個のアンキリンリピートモジュールを含み、
X1からX6は、グリシン、プロリンまたはシステインを除く任意のアミノ酸であってよく、
X7はヒスチジン、アスパラギンまたはチロシンであってよく、
ここで、配列番号31においてXで示される位置以外の場合により最大5個、好ましくは4個、3個、2個または1個のアミノ酸が、任意のアミノ酸で置換される。好ましい実施形態において、配列番号31においてXで示される位置以外の最大2個のアミノ酸が、任意のアミノ酸で置換される。リピートモジュール1における本発明の一実施形態において、
X1は、T、E、N、S、Y、またはWであり、好ましくはTであり、
X2は、E、N、T、W、H、K、N、またはIであり、好ましくはEであり、
X3は、E、F、K、H、M、A、またはTであり、好ましくはEであり、
X4は、L、T、A、V、F、Q、またはAであり、好ましくはLであり、
X5は、L、Q、V、E、M、V、またはYであり、好ましくはLであり、
X6は、I、F、E、Q、H、V、W、またはDであり、好ましくはIであり、
X7は、Y、N、またはHであり、好ましくはYである。
【0133】
したがって、リピートモジュール1の好ましい実施形態において、X1はTであり、X2はEであり、X3はEであり、X4はLであり、X5はLであり、X6はIであり、X7はYである。
【0134】
リピートモジュール2における本発明の一実施形態において、
X1は、A、H、M、T、D、Q、S、またはVであり、好ましくはAであり、
X2は、M、Y、N、E、W、D、H、またはTであり、好ましくはMであり、
X3は、D、W、Q、S、V、F、E、またはHであり、好ましくはDであり、
X4は、T、R、Q、N、M、D、S、Y、またはPであり、好ましくはTであり、
X5は、Q、E、V、H、T、R、M、またはYであり、好ましくはQであり、
X6は、E、Y、W、F、またはA、好ましくはEであり、
X7は、Y、またはN、好ましくはYである、
場合により、この配列は初期停止コドンを有し、場合により、13位から始まり13位を含むアミノ酸、好ましくは14位、最も好ましくは15位を含むアミノ酸を欠損している。
【0135】
したがって、リピートモジュール2の好ましい実施形態において、X1はAであり、X2はMであり、X3はDであり、X4はTであり、X5はQであり、X6はEであり、X7はYである。
【0136】
リピートモジュール3における本発明の一実施形態において、
X1は、D、A、S、Q、H、またはYであり、好ましくはDであり、
X2は、F、I、H、V、Y、T、V、Cであり、好ましくはFであり、
X3は、W、A、F、V、EまたはGであり、好ましくはWであり、
X4は、H、Y、L、MまたはFであり、好ましくはHであり、
X5は、W、F、I、H、またはRであり、好ましくはWであり、
X6は、F、I、Q、D、またはLであり、好ましくはFであり、
X7は、H、Y、またはNであり、好ましくはHである。
【0137】
したがって、リピートモジュール3の好ましい実施形態において、X1はDであり、X2はFであり、X3はWであり、X4はHであり、X5はWであり、X6はFであり、X7はHである。
【0138】
したがって、好ましい実施形態のリピートモジュール1において、X1はTであり、X2はEであり、X3はEであり、X4はLであり、X5はLであり、X6はIであり、X7はYであり、リピートモジュール2において、X1はAであり、X2はMであり、X3はDであり、X4はTであり、X5はQであり、X6はEであり、X7はYであり、リピートモジュール3において、X1はDであり、X2はFであり、X3はWであり、X4はHであり、X5はWであり、X6はFであり、X7はHである。
【0139】
一実施形態において、本発明の結合タンパク質は、リピートコンセンサス配列を含む少なくとも2個、または少なくとも3個のリピートモジュールを含む、これらは同一であっても異なっていてもよい。好ましい実施形態において、本発明の結合タンパク質は、3個のリピートモジュールを含み、これらは同一でも異なっていてもよい。好ましくは、本発明の結合タンパク質のリピートドメインは、リピートモジュール1、リピートモジュール2およびリピートモジュール3のリピートコンセンサス配列を含む少なくとも3個のリピートモジュールを含む。
【0140】
本明細書に記載される全ての態様の1個の実施形態において、本発明の結合タンパク質は、N末端および/またはC末端キャッピングリピートドメインをさらに含み、好ましくは、N末端および/またはC末端キャッピングリピートドメインは、アンキリンリピートモジュールのいずれか1個とは異なるアミノ酸配列を有する。
【0141】
好ましくは、前記N末端キャッピングリピートドメインのアミノ酸配列は、配列番号32と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記C末端キャッピングリピートドメインのアミノ酸配列は、配列番号33と少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0142】
好ましくは、前記N末端キャッピングリピートドメインのアミノ酸配列は、配列番号32に対して少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0143】
好ましくは、前記C末端キャッピングリピートドメインのアミノ酸配列は、配列番号33に対して少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも91%、92%、93%、94%95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0144】
その代わりに、N末端キャッピングリピートドメインは、配列番号32に従うアミノ酸配列からなり、ここで場合により最大5個、好ましくは最大4個、3個、2個または1個のアミノ酸が任意のアミノ酸で置換されている。C末端キャッピングリピートドメインは、配列番号33に従うアミノ酸配列からなり、ここで場合により最大8個、好ましくは最大7個、6個、5個、4個、3個、2個、または1個のアミノ酸が任意のアミノ酸によって置換されている。
【0145】
さらに好ましいのは、当該分野で公知の任意のN末端またはC末端キャッピングを含む結合タンパク質である。N末端および/またはC末端キャッピングリピートドメインを含む本発明の結合タンパク質の例は、それぞれ配列番号34~60および61~86に対応するアミノ酸配列である。
【0146】
一実施形態において、結合タンパク質は、場合によりリピートタンパク質と融合した別のペプチドまたはタンパク質成分をさらに含む。一実施形態において、結合タンパク質は、脂質もしくは脂質様成分、または別の非ペプチド成分をさらに含む。
【0147】
好ましい実施形態において、少なくとも1個のアンキリンリピートドメインを含む本発明の結合タンパク質は、CD32a受容体の細胞外ドメイン、好ましくはCD32a細胞外ドメインのIg様C2型2ドメインと特異的に結合し、より好ましくは、特異的結合は、CD32aのIg様C2型2ドメインの168位のロイシンと結合することを含む。一実施形態において、前記少なくとも1個のアンキリンリピートドメインは、CD32aへの結合についてIgG、好ましくはIgGのFc部分と競合してもよい。
【0148】
好ましい実施形態において、CD32aは霊長類CD32aであり、より好ましくはヒトCD32aである。
【0149】
好ましい実施形態において、本発明の結合タンパク質はCD32a、CD32bおよびCD32cを識別し、好ましくはCD32bまたはCD32cに結合せず、最も好ましくはCD32bに結合しない。
【0150】
また好ましくは、前記結合タンパク質は、CD32bと結合せず、CD32bの結合に対するKdは2×10-5M超、より好ましくは2×10-4M超、または最も好ましくは2×10-3M超で示される。
【0151】
好ましくは、本発明の結合タンパク質は、抗原結合タンパク質、好ましくは組み換え抗原結合タンパク質を含む。好ましくは、前記結合タンパク質は、抗体またはそのフラグメント、例えばFabまたはscFvフラグメントではない。最も好ましくは、本発明の結合タンパク質はDARPinを含む、またはDARPinである。
【0152】
さらなる態様において、本発明は、本明細書中に記載される結合タンパク質、N末端キャッピングリピートおよび/またはC末端キャッピングリピートをコードする核酸を含む核酸に関する。
【0153】
一実施態様において、核酸配列は、少なくとも1個の転写制御ユニットに作動可能に連結される。本発明による核酸の一実施形態において、核酸は少なくともオープンリーディングフレームを追加で含む。別の実施形態において、核酸は、遺伝子の少なくとも調節領域を追加で含む。好ましくは、調節領域は転写調節領域であり、より具体的には、調節領域はプロモーター、エンハンサー、サイレンサー、遺伝子座制御領域、およびボーダーエレメントからなる群から選択される。本発明による核酸は、通常、mRNA、DNA、cDNA、染色体DNA、染色体外DNA、プラスミドDNA、ウイルスDNAまたはRNAを含むリボ核酸を含み、組み換えウイルスベクターも含む。本発明による核酸の一実施態様において、核酸はDNAまたはRNAであり、別の好ましい実施態様において、核酸はプラスミドまたは組み換えウイルスベクターの一部である。本発明の核酸は、好ましくは、本発明の結合タンパク質のアミノ酸配列をコードする任意の核酸配列から選択される。そのため、アミノ酸が置換された上記本発明の結合タンパク質をコードする全ての核酸バリアントは、遺伝暗号の変性によってヌクレオチド配列が変化する核酸バリアントを含む。特に、選択された宿主生物においてコードされた融合タンパク質の改良された発現を導く核酸バリアントのヌクレオチド配列が好ましい。核酸配列を宿主細胞の特異的な転写/翻訳機構に適切に調整するための表は、当業者に公知である。一般に、ヌクレオチド配列のG/C含量を特定の宿主細胞の条件に適合させることが好ましい。ヒト細胞における発現のためには、最大G/C含量(それぞれ本発明の結合タンパク質をコードする)の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、30%、50%、70%、さらに好ましくは90%のG/C含量の増加が好ましい。このような核酸および/または誘導体の調製および精製は、通常、標準的な手順で行われる。
【0154】
これらの配列バリアントは、好ましくは、CD32aに対する結合特異性を有する本発明の結合タンパク質を導く。したがって、本発明の核酸配列は、本発明の全ての結合タンパク質バリアントをコードする。さらに、プロモーターまたは他の発現制御領域が、本発明の結合タンパク質をコードする核酸と作動可能に連結され、定量的または組織特異的様式で結合タンパク質の発現を調節する。
【0155】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の核酸を含み、場合により結合タンパク質を発現する宿主細胞に関する。一実施形態において、細胞は動物、好ましくは脊椎動物由来であり、これは好ましくは魚類、鳥類、または哺乳動物、好ましくは哺乳動物からなる群から選択される。
【0156】
さらに、本明細書に記載の核酸または結合タンパク質、を含む、から本質的になる、またはからなる、ベクターが提供される。
【0157】
既に叙述したように、本発明の結合タンパク質をコードする核酸はRNAまたはDNAであってよい。同様に、本発明の結合タンパク質をコードする本発明の核酸は、線状または環状化されたフラグメント、単離されたフラグメントであってもよく、または、好ましくはプラスミド、もしくは組み換えウイルスDNAとしてベクターに挿入されてよい。
【0158】
全ての態様の一実施形態において、結合タンパク質は分子であり、場合により、粒子中に含まれる。
【0159】
一実施形態において、粒子はさらに核酸を含み、好ましくは、核酸はRNAまたはDNAである。粒子は、in vitro/ex vivoだけでなく、in vivoでも細胞に核酸を送達してよい。好ましくは、粒子は免疫細胞、より好ましくはCD4+T細胞、マクロファージ、単球、血小板、好中球、好酸球、好塩基球、および肥満細胞に核酸を送達する。一実施形態において、粒子は非ウイルス粒子である。一実施形態において、粒子は、脂質に基づくおよび/またはポリマーに基づく粒子である。一実施形態において、粒子はナノ粒子である。
【0160】
一実施形態において、粒子は、その表面上の本発明の結合タンパク質またはDARPinで機能化される。一実施形態において、粒子は、リピートタンパク質を少なくとも1個の粒子形成成分に連結することにより、本発明の結合タンパク質で機能化される。CD32a陽性細胞の遺伝子改変のための積み荷を運ぶ粒子を本明細書に記載の結合剤で機能化することにより、CD32a陽性細胞への積み荷の特異的送達および改変がもたらされる。
【0161】
本明細書に記載される全ての態様の一実施形態において、遺伝子改変は一過性または安定である。本明細書に記載される全ての態様の一実施形態において、遺伝子改変は、ウイルスに基づく方法、トランスポゾンに基づく方法、または遺伝子編集に基づく方法によって行われる。一実施形態において、遺伝子編集に基づく方法は、CRISPRに基づく遺伝子編集を含む。
【0162】
CD32陽性細胞を特異的に標的化するために、本明細書に記載の結合タンパク質またはDARPinで機能化された本明細書に記載の粒子による細胞の遺伝子改変は、抗原受容体をコードする核酸をCD32陽性細胞のような細胞に送達して、抗原受容体を発現するように遺伝子改変された細胞を産生するために、ex vivo/in vitroまたはin vivoで使用することができる。このような遺伝子改変には、非ウイルスに基づくDNAトランスフェクション、非ウイルスに基づくRNAトランスフェクション、例えばmRNAトランスフェクション、トランスポゾンに基づくシステム、およびウイルスに基づくシステムが含まれる。非ウイルスに基づくDNAトランスフェクションは、挿入突然変異誘発のリスクが低い。トランスポゾンに基づくシステムは、統合エレメントを含まないプラスミドよりも効率的に導入遺伝子を統合することができる。ウイルスに基づくシステムには、AAVやアデノウイルスベクターだけでなく、ガンマレトロウイルスやレンチウイルスベクターの使用も含まれる。レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターは、細胞を永続的に形質導入するエンベロープ粒子であるが、AAVとアデノウイルスベクターは、少なくとも有糸分裂活性細胞への一過性の遺伝子送達を媒介する無防備の粒子である。エンベロープ型および無防備ウイルスベクター粒子表面上のDARPinの提示は確立されており、以前にも記述されている。
【0163】
本発明は、本発明の少なくとも1種の結合タンパク質を提示するベクターにも関する。
【0164】
例えば、脂質および/またはポリマーに基づくナノ粒子のような非ウイルスベクターは、CD32a陽性細胞に結合するためにCD32a特異的DARPinに結合させることができる。CD32a陽性細胞に結合すると、これらの粒子はエンドサイトーシスされる。その内容物、例えば治療遺伝子をコードする核酸は、例えば微小管関連配列(MTAS)や核局在化シグナル(NLS)を含むペプチドが含まれることにより、CD32a陽性細胞の核に誘導される可能性がある。
【0165】
ウイルスベクターまたは非ウイルスベクターにパッケージされた治療遺伝子は、例えば、CD32a+HIVリザーバー細胞を排除するための細胞傷害性遺伝子、またはCD32a+細胞に新規治療活性を付与する免疫治療遺伝子であってよい。これらは、CD32a標的粒子と全て組み合わせることができる多種多様な選択肢の一例に過ぎない。
【0166】
核酸に隣接するトランスポゾンと、高活性トランスポザーゼをコードする別の核酸、例えばプラスミドを含めることで、治療用核酸を効率的に染色体に組み込むことができる。
【0167】
もう一つの可能性は、CRISPR/Cas9法を使用して、治療遺伝子を特定の遺伝子座に意図的に配置することである。例えば、治療遺伝子がキメラ抗原受容体(CAR)であった場合、既存のT細胞受容体(TCR)はノックアウトされ、一方でCARはノックインされ、そうでなければTCRの発現を抑制する内因性プロモーターの動的制御下に置かれることになる。
【0168】
したがって、抗原受容体をコードする核酸の他に、本明細書に記載の粒子は、CRISPR/Cas9(または関連)のような遺伝子編集ツール、またはスリーピングビューティー(sleeping beauty)もしくはピギーバック(piggy bag)のようなトランスポゾンシステムを積み荷として送達することもできる。ゲノム統合/編集のためのこのようなツール(例えば、トランスポザーゼ、CRISPR/Cas9のような遺伝子編集ツール)は、タンパク質またはコードする核酸(DNAまたはRNA)として送達される。それにもかかわらず、治療用遺伝子の一過性の発現を誘導するために、mRNAを送達することも選択肢の一つである。
【0169】
CD32a+に関する特定の例である、慢性感染HIV陽性細胞は、CRISPR/Casツールの送達であり、組み込まれたプロウイルスHIVゲノムを切除および/または不活性化する。CD32a特異的DARPinを表面に提示しているHIVリザーバー細胞であれば、上記のいずれかのベクターシステムにより、慢性感染したHIVリザーバー細胞にこれらの編集機構を正確に送達することができる。
【0170】
本発明の全ての態様の一実施形態において、治療遺伝子を発現するように遺伝子改変された細胞は、治療遺伝子をコードする核酸で安定的または一過性にトランスフェクトされる。したがって、治療遺伝子をコードする核酸は、細胞のゲノムに組み込まれるか、組み込まれない。
【0171】
本発明の全ての態様の一実施形態において、本明細書に記載される細胞は、治療される対象に対して自己由来、同種異系由来、または同系由来であってよい。一実施形態において、本開示は、患者からの細胞の除去およびその後の患者への細胞の再送を想定している。一実施形態において、本開示は患者からの細胞の除去を想定していない。後者の場合、細胞の遺伝子改変の全工程がin vivoで行われる。
【0172】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の結合タンパク質、本明細書に記載の核酸、本明細書に記載の宿主細胞、本明細書に記載の粒子、またはそれらの複数を含む組成物に関する。
【0173】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載の結合タンパク質、核酸、宿主細胞、ベクター、および/または粒子の少なくとも1種を含む医薬組成物に関する。
【0174】
医薬組成物は、1種またはそれ以上の担体および/または賦形剤をさらに含んでもよく、これらの全ては好ましくは薬学的に許容される。本発明によれば、医薬組成物は、所望の反応または所望の効果を生成するために、有効量の活性剤、例えば、本明細書に記載のポリペプチド、核酸、ベクター、または細胞を含む。本発明による医薬組成物は、好ましくは無菌状態である。医薬組成物は、均一な剤形で提供することができ、それ自体公知の方法で調製することができる。本発明に従う医薬組成物は、例えば、溶液または懸濁液の形態であってよい。
【0175】
本発明の組成物において使用できる薬学的に許容される担体、アジュバントまたはビヒクルとしては、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンなどの血清タンパク質、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物性飽和脂肪酸の部分グリセリド混合物などの緩衝物質、水、硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩などの塩または電解質、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリエチレングリコールおよび羊毛脂肪が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬組成物は、経口投与、非経口投与、吸入スプレーによる投与、局所投与、直腸投与、鼻腔投与、口腔投与、経膣投与により、または移植リザーバーを介して投与することができる。本明細書で使用される非経口的という用語は、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、関節滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内および頭蓋内注射または点滴技術を含む。好ましくは、医薬組成物は経口、腹腔内または静脈内に投与される。本発明の医薬組成物の無菌注射可能な形態は、水性懸濁液または油性懸濁液であってよい。これらの懸濁液は、適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、当該分野で公知の技術に従って処方することができる。無菌注射製剤は、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液のように、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の無菌注射可能な溶液または懸濁液であってもよい。採用できる許容可能なビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、無菌の固定油が溶媒または懸濁媒体として慣例的に採用されている。
【0176】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、状態の治療、予防、または診断における使用に適している。好ましくは、状態は、対象におけるCD32a発現レベルの変化に関連する。CD32a発現レベルの変化とは、対照レベルと比較してCD32aの発現が増加または減少することを指す。
【0177】
本発明の一態様において、本明細書に開示される結合タンパク質、核酸、ベクター、粒子、宿主細胞、組成物または医薬組成物は、医薬品として使用される。好ましくは、医薬品は、好ましくは、アレルギー、自己免疫疾患、またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって引き起こされるような免疫不全障害の文脈で、免疫調節剤である。
【0178】
本明細書に開示される結合タンパク質、核酸、ベクター、粒子、宿主細胞、組成物または医薬組成物は、状態の治療、予防または診断に使用することができる。好ましくは、状態はCD32aの発現レベルに関連し、好ましくはCD32aの発現レベルの変化に関連し、および/またはCD32aの標的化が望まれる。
【0179】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に開示された結合タンパク質、核酸、宿主細胞、ベクター、粒子、組成物または医薬組成物を含むキットに関する。好ましくは、キットは、状態の治療、予防または診断における使用のためのものである。好ましくは、キットは、状態を治療、予防または診断する方法において、キットを使用するための説明書をさらに含む。好ましくは、前記状態は、CD32a発現レベルに関連する状態、好ましくはCD32a発現レベルの変化に関連する状態、および/またはCD32aの標的化が望まれる状態である。
【0180】
本明細書に記載される全ての態様の一実施形態において、CD32a発現レベルの変化に関連する状態は、アレルギー、自己免疫疾患/免疫不全、またはヘパリン誘発性血小板減少症である。免疫不全には、HIV、関節リウマチ、ハンチントン病、α-抗トリプシン欠損症、ならびに結腸がん、黒色腫、腎臓がん、リンパ腫、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性リンパ性白血病(CLL)、胃腸腫瘍、肺がん、神経膠腫、甲状腺がん、乳房がん、前立腺腫瘍、肝臓がん、パピローマウイルス誘発がん(例えば、子宮頸がん)など多様なウイルス誘発腫瘍、腺がん、ヘルペスウイルス誘発腫瘍(例えば、バーキットリンパ腫、EBV誘発B細胞リンパ腫)、B型肝炎誘発腫瘍(肝細胞がん)、HTLV-1およびHTLV-2誘発リンパ腫、聴神線維腫症、肺がん、咽頭がん、肛門がん、膠芽細胞腫、リンパ腫、直腸がん、星状細胞腫、脳腫瘍、胃がん、網膜芽細胞腫、基底細胞腫、脳転移、髄芽細胞腫、膣がん、膵臓がん、精巣がん、黒色腫、膀胱がん、ホジキン症候群、髄膜腫、シュネーベルガー病、気管支がん、下垂体がん、菌状息肉症、食道がん、乳がん、神経鞘腫、棘細胞腫、バーキットリンパ腫、喉頭がん、胸腺腫、体がん、骨がん、非ホジキンリンパ腫、尿道がん、CUP症候群、乏突起膠腫、外陰がん、腸がん、食道がん、小腸腫瘍、頭蓋咽頭腫、卵巣がん(ovarial carcinoma、ovarian cancer)、肝臓がん、白血病から選択されるがん、または、皮膚がん、もしくは眼がんから選択されるがんなどが含まれる。好ましくは、状態は、HIVまたは関節リウマチであり、より好ましくはHIVである。
【0181】
当業者には、意図した発明を成功裏に実施することを同様に可能にする、利用可能な様々な代替技術や手順が存在する。
実施例
【実施例1】
【0182】
CD32a-DARPinの同定
リボソームディスプレイ
リボソームディスプレイによる選択は、Hartmannら(Hartmann et al. 2018)の記載に従って行った。合計で最大5回の選択ラウンドを行った。ベイトタンパク質(bait protein)として、C末端Hisタグでタグ付けされたCD32aの細胞外ドメイン(CD32a-His、Sino-Biologicals社製)を、ビオチン化ありまたはなしで使用した。CD32bについては、組み換えCD32bタンパク質(CD32b-His、Sino-Biologicals社製)を使用して対抗選択を行った。最初の3回の選択ラウンドは、固定化したビオチン化CD32a-His(Sino Biologicals社製、10374-H27H1-B)を使用して行い、粘着性DARPinの選択を除外するためのニュートラビジンまたはストレプトアビジンに対する事前選択ステップを含む。4回目と5回目の選択ラウンドは溶液中で行った。4回目の選択ラウンドでは、CD32aに対する高い親和性と特異性を持つ結合剤を選択するために、ビオチン化されていないCD32a-Hisタンパク質(Sino Biologicals社製、10374-H27H)によるオフレート(off-rate)選択を行い、5回目の選択ラウンドでは、ビオチン化されていないCD32b-His(Sino Biologicals社製、10259-H27H)タンパク質による対抗選択を含んだ。
【0183】
簡単に説明すると、最初の3回の選択ラウンドでは、翻訳されたVV-N2CおよびVV-N3C DARPinライブラリーは、固定化されたニュートラビジンまたはストレプトアビジン(どちらも66nM)を使用したプレパンニングステップに供された。オンターゲット選択のために、ライブラリーを固定化したビオチン化CD32a-His(425.5nM)とインキュベートした。得られたDARPinライブラリーは増幅され、次の選択ラウンドの鋳型として使用された。固定化標的タンパク質を使用した3回目ラウンドの後、4回目のラウンドと5回目のラウンドの選択を溶液中の標的で行った。4回目のラウンドでは、ライブラリーはまずビオチン化CD32a-Hisターゲット(17pmol)に曝露され、その後10倍過剰のビオチン化CD32a(170pmol)にオフレート選択として曝露された。最後に、5回目のラウンドは2つのアプローチに分けられた:(i)一方のアプローチでは、ライブラリーをビオチン化CD32a-Hisタンパク質(17pmol)に曝露する前に、ビオチン化されていないCD32b-Hisタンパク質(17pmol)で予備選択した、(ii)もう一方のアプローチでは、ライブラリーをまずビオチン化CD32a-Hisタンパク質に曝露し、その後ビオチン化されていないCD32b-Hisタンパク質(170pmol)で対抗選択した。5回目の選択ラウンドの後、DARPinをコードするDNAフラグメントを大腸菌にクローニングし、シングルクローン解析(single clone analysis)によってCD32aとの結合を解析した。
【0184】
DARPinの発現と粗溶解物の調製
5回目の選択ラウンド後に選択したDARPinのCD32aへの特異的結合を試験するために、DNAフラグメントを細菌発現ベクターpQE-HisHAにクローニングし、前に記載したように大腸菌XL 1-blueに形質転換した(Hartmann et al. 2018)単一クローンを摘出し、600μlの2YT培地(2YT、1%グルコース、100μg/mlアンピシリン)中、37℃で一晩培養した後、培養液を1mlの2YT培地で希釈してOD600を0.1にし、2YT培地中の5.5mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)100μLの添加により1時間培養後にDARPinsの発現を誘導した。37℃で5時間培養後、遠心分離で菌体を回収し、ペレットを-80℃で一晩保存した。翌日、ペレットを氷上で解凍し、B-PERII溶液(Thermo Scientific社製)を加えて溶解し、その後室温で2時間インキュベートした。溶解したペレットをボルテックスし、TBSで1:10に希釈した後、遠心分離で細胞残屑を除去した。粗DARPinを含む上清を分注し、細胞結合アッセイで使用するまで-80℃で保存した。粗溶解物の調製は常に氷上で行い、タンパク質の品質低下を避けるため、最大3回の凍結融解サイクルを行った。5回目の選択ラウンドから合計285個のDARPinクローンを大腸菌で発現させ、細胞表面に発現したCD32aへの結合を試験した。試験されたDARPinクローンの中から有望な候補を同定し、標準的な配列決定技術を使用して塩基配列を決定し、DNAおよびタンパク質の配列を得た。
【0185】
細胞ベースの結合アッセイ
選択されたDARPinクローンのCD32a結合能を解析するために、細胞ベースの結合アッセイを、レンチウイルス導入によって作製され、CD32抗体染色によって適切な細胞表面発現が確認された安定なCD32aまたはCD32b受容体発現細胞株を使用して実施した(データは示さず)。簡単に説明すると、8×10
3~1×10
5細胞を5~25μlの粗DARPin抽出物と4℃で60分間インキュベートした。インキュベーションに続いて、細胞を2回洗浄して、DARPinを検出する蛍光標識抗体で染色し、フローサイトメトリーで解析した。試験した285クローンのうち、45個の個々のDARPinクローンがヒトCD32a陽性細胞に特異的に結合したが、2個のDARPin(53.F11、53.2.D8)だけがCD32b陽性細胞にオフターゲット結合を示した(
図1)。注目すべきは、1個のDARPin(52.H6)以外の同定されたCD32a結合DARPinは全てVV-N3Cライブラリー由来であったことである。
【0186】
【0187】
DARPin配列解析
配列決定の結果、同定された45個のCD32a特異的候補のうち34個が一般的なDARPin構造に似ており、そのうち27個はユニークなアミノ酸配列を持っていた(表1)。残りのDARPin候補については、典型的なDARPin構造は完全ではなかった(初期の配列切断など)ので、これらの候補はそれ以上考慮されなかった。個々のDARPinクローンは、N末端とC末端のキャッピングリピートドメインによってフランジ状に配置された少なくとも1個の多様なリピートドメインを含む。各リピートユニットは同じ構造モチーフを含み、33個のN3C DARPinのフレームワーク残基の69.8%超が互いに相同である。各多様なリピートドメイン中の1位、3位、4位、6位、14位および15位の多様なアミノ酸は、グリシン、プロリンまたはシステインを除く任意のアミノ酸を含むことができる。各多様なリピートドメイン中の27位の多様なアミノ酸は、ヒスチジン、アスパラギンまたはチロシンを含むことができる。個々のDARPinクローンおよびリピートモチーフの多様な位置を評価した結果、選択されたCD32a-DARPinは、第1の多様なリピートでは、1位にスレオニン(T)、3位と4位にグルタミン酸(E)、6位と14位にロイシン(L)、15位にイソロイシン(I)、27位にチロシン(Y)、第2の多様なリピートでは、1位にアラニン(A)、3位にメチオニン(M)、4位にアスパラギン酸(D)、6位にスレオニン(T)、14位にグルタミン(Q)、15位にグルタミン酸(E)、27位にチロシン(Y)であり、第3の多様なリピートでは、1位にアスパラギン酸(D)、3位と15位にフェニルアラニン(F)、4位と14位にトリプトファン(W)、6位と27位にヒスチジン(H)を選択的に保有することを示した(
図2および表1)。
【実施例2】
【0188】
精製CD32a-DARPinによるCD32a陽性細胞集団の特異的標識
CD32aとCD32bを発現する細胞集団を識別できるCD32a特異的DARPinを同定するために、34個のDARPin候補のうち6個を、Hartmannら(Hartmann et al.2018)が記載したように、精製したCD32a-DARPinを使用して、若干の修正を加えてさらに詳細に調べた。簡単に言えば、各DARPinについて、単一のコロニーを30℃で一晩、溶原性培養液(LB)完全培地に接種した。翌日、新鮮なLB完全培地100mlに一晩培養したものを5ml接種した。光学密度ODが0.7になった時点で、300μMのIPTGを添加してタンパク質の発現を誘導した。37℃で4時間培養した後、遠心分離によってバクテリアを回収し、ペレットを-80℃で保存した。ペレットは氷上で解凍し、溶解バッファーに再懸濁し、機械的抽出のために超音波で破砕するか、化学的抽出のためにB-PERIIと混合した。細胞残屑を遠心分離で除去し、上清を再貯蔵し、グリセロールバッファー(2.5×)を加えた。Ni-ニトリロ三酢酸(NTA)アガロースカラムでのDARPinの精製は、製造元の指示に従って行った。この手順の間、SDS PAGE用のサンプルを異なる時間に採取した。溶出画分を、透析チューブを使用して4℃で一晩かけてPBSに対して透析した(MWCOは使用した抽出方法によって異なる)。透析したDARPinタンパク質をブラッドフォードタンパク質分析で測定し、必要に応じて、保存のため、グリセロールとプロテアーゼ阻害剤を補充した。
【0189】
選択した精製DARPinタンパク質のCD32a結合能を解析するため、一過性または安定なCD32aまたはCD32b発現細胞株を使用して細胞ベースの結合アッセイを行った。簡単に説明すると、8×10
4~1×10
5の細胞を異なる量の精製DARPinとインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄して、DARPinのHisタグを検出する蛍光標識抗体で染色し、フローサイトメトリーで解析した。選択された精製DARPinは、DARPin候補によって細胞の染色強度が異なるが、CD32+細胞とオフターゲット細胞を区別することができた(
図3)。利用可能なCD32a細胞表面受容体の結合は、1μg以下のDARPin濃度で達成されるようである。
【実施例3】
【0190】
CD32a-DARPinの結合部位のマッピング
CD32aとCD32bの細胞外ドメインの配列は12アミノ酸しか違わないが、最初の両アミノ酸はシグナルペプチドに近いため、この研究では考慮しない(
図4)。これらのアミノ酸のうち、どのアミノ酸がCD32a DARPin結合に寄与するかを同定するために、細胞外ドメインに1~5個のCD32a特異的アミノ酸を保有するキメラCD32bタンパク質(表2)を合成し、SupT1細胞上で発現させ、上記のように、細胞ベースの結合アッセイにおける標的集団として使用した。全てのキメラCD32bタンパク質は細胞表面によく発現し、様々な程度までlgG-Fcと結合した(データは示さず)。興味深いことに、細胞外ドメインの始まりから数えて135位にあるセリンの代わりにロイシンを保有するキメラCD32bバリアントだけが、CD32a-DARPin結合を媒介することができた(
図5)。CD32bのECDにおけるこの単一のアミノ酸交換が、CD32a-DARPin結合を可能にするのに十分であり、選択されたDARPinによるCD32aとCD32bの識別につながることは、一点変異S135Lのみを持つキメラCD32b.mut10受容体の結合解析によってさらに確認された。対照的に、キメラCD32b.mut11の一点変異N138Tは、キメラCD32b.mut4、CD32b.mut6、CD32b.mut8、およびCD32b.mut9バージョンにも存在するが、DARPinの結合には至らなかった。注目すべきことに、このロイシンはCD32aのIg様C2型2ドメインに配置され、これはCD32a受容体のネイティブリガンドであるlgG(Maxwell et al, 1999; Ramsland et al,2011)のFc部分のための結合領域である。
【0191】
CD32a-DARPinがlgG抗体とCD32a結合で競合するかどうかを解析するために、競合アッセイを行った。事前にlgG抗体を細胞に添加したところ、CD32a+細胞へのDARPinの結合は、存在しなくなるまで減少することが示された(データは示さず)。したがって、CD32a受容体表面のlgG結合領域とDARPin結合領域には正の相関があると推測される。
【0192】
【実施例4】
【0193】
CD32a-DARPinを提示したLVによるCD32a特異的遺伝子導入
DARPinは以前、レンチウイルスベクターを選択した受容体に再度標的化するのに適したツールであることが示された(Hartmann et al, 2018; Frank et al, 2018)。この目的のためには、DARPinをニパウイルスの糖タンパク質(NiV-G)に遺伝子的に融合させる必要がある。同定された7つのDARPin候補(53.2.G2、53.2A8、53C8、52H6、53.2.F11、53D8、53H3)は、Frank et al, 2020の記載に従って、N末端が切断され天然受容体が盲検化されたNiV-GのC末端にクローニングされた。選択されたCD32a-DARPinの結合能と特異性が、NiV-Gタンパク質への融合と293T細胞上での提示によって消失しないかどうかを解析するために、様々なDARPin-NiV-Gタンパク質を一過性に発現する293T細胞を使用して細胞ベースの結合アッセイを行った。
【0194】
簡単に説明すると、DARPin提示細胞はPEIを使用するHEK293T細胞の一過性トランスフェクションによって作製した。トランスフェクションミックスは、400ngの全DNAを無添加の30μlのDMEMと混合し、24ウェルプレートあたり2μlのPEI溶液を補充した30μlのDMEMに加えた。室温で15分間インキュベートした後、トランスフェクションミックスを細胞に加え、6時間後に培地を新鮮な細胞培養液に交換した。トランスフェクション後2日目に、1×10
5の細胞を、250ngのビオチン化組み換えCD32aまたはCD32bタンパク質とインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、蛍光標識したストレプトアビジンで染色し、フローサイトメトリーで解析した。
図7は、CD32a-DARPinのNiV-Gへの融合と哺乳動物細胞での発現が、CD32a受容体結合能および受容体特異性を保持していることを示している。これらの発見は、選択されたDARPinがCD32aに対して高い特異性を有することを示す以前の結果(
図1、
図3および
図6)と一致している。
【0195】
次のステップでは、それらDARPin候補をエンベロープに提示し、レポーターとしてGFPを保有する受容体標的レンチウイルスベクター(CD32a-LV)を、前に記載したように、CD32a特異的導入遺伝子送達を媒介する能力についてスクリーニングした(Frank et al.、2020)。CD32a-LVの概略構成を
図7に示す。
【0196】
簡単に説明すると、LVベクター粒子は、小規模フォーマット(12ウェル、DNA合計0.8μg)または大規模フォーマット(T175フラスコ、DNA合計35μg)のいずれかで、PEIを使用するHEK293T細胞の一過性トランスフェクションにより作製した。小規模生産のトランスフェクションミックスでは、800ngの全DNAを53μlのDMEM(添加物なし)と混合し、12ウェルプレートあたり3μlのPEI溶液を補充した50μlのDMEMに加えた。室温で15分間インキュベートした後、トランスフェクションミックスを細胞に添加した。6時間後、培地を新鮮な細胞培養液に交換した。トランスフェクション後2日目に、ベクター粒子を含む細胞上清を回収し、小規模生産用に遠心分離して細胞残屑を除去するか、濾過した。上清は形質導入実験に使用した。大規模でのLV生産については、Frank et al.、2020に記載されている。
【0197】
作製したCD32a-LV粒子を、CD32a陽性(HT1080-CD32a)および陰性(HT1080-wt、HT1080-CD32b)細胞株への形質導入の能力についてスクリーニングした。試験した7つの候補は全て、LV粒子上に提示させるとCD32a特異的遺伝子導入を媒介した(
図8)。これらからDARPin 53.2.F11と53.H3を大規模生産(20x T175培養フラスコ)で生産し、さらにCD32aまたはCD32b受容体発現の有無にかかわらず、SupT1細胞への導入効率を評価した(
図9;データはCD32a.53H3-レンチウイルスベクターについては示していない)。興味深いことに、無血清培地(Panexin)を使用すると、標的細胞への導入率が高くなる。この発見は、CD32a-DARPinの競合物質として働くかもしれないウシ胎児血清(FCS)中のlgGの存在によって説明されるかもしれない。
【実施例5】
【0198】
選択したCD32a-DARPinの速度論的測定
選択したDARPinのヒトCD32aに対する結合親和性を決定するために、Biacore T200装置(Cytiva社製)にて表面プラズマ共鳴(SPR)測定を行った。ヒトCD32bに対するDARPinの特異性をさらに証明するために、ヒトCD32bに対するDARPinの潜在的結合も分析した。
【0199】
簡単に説明すると、ニュートラビジンNAチップ(Cytiva社製)を製造業者のプロトコルに従って調製し、110RUのヒトビオチン化CD32a(または985RU)および114RUのヒトビオチン化CD32bタンパク質をそれぞれ固定化した。ランニングバッファーとして、20mMのHEPES、150mMのNaCl、0.05%のTween 20を使用した。DARPinサンプルは濃度を変えながら3分間注入され、続いて15分間の解離段階を経て、その後10mM NaOHで再生した。タンパク質-タンパク質相互作用の結合動態を解析し、Biacore T200評価ソフトウェアを使用してフィッティングした。各測定値から、コーティングされていない参照フローセルのシグナルを差し引いた。
【0200】
SPR実験において、選択したDARPinは組み換えCD32aタンパク質に特異的で、CD32bタンパク質やニュートラビジンとは交差反応しなかった。本発明者らは、53.2.F11と同じDARPinであるが、His-タグとHA-タグの間にTEV切断部位を保有する、DARPin 53.2F11[TEV]の固定化ヒトCD32aタンパク質に対する結合動態を測定したところ、親和性(KD)は低ナノモル領域(<2×10
-9M)であったが、ヒトCD32bに対する親和性は評価できなかった(ベースライン以下)(
図10)。試験した他の全てのDARPin候補(53.H3、53.D8、53.2.F11、52.H6、53.A8、53.C8)では、CD32aに対する同様の親和性(<2×10
-9M)が観察されたが、CD32bに対する結合は常にベースライン以下であった。
【配列表】
【国際調査報告】