(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】サイトメガロウイルス抗原を標的とするTCRおよびそれを発現するT細胞ならびに使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/725 20060101AFI20250212BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20250212BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20250212BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250212BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20250212BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250212BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20250212BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20250212BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20250212BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20250212BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C07K14/725
C07K19/00 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
A61K38/16
A61K48/00
A61K35/17
A61K35/28
A61P31/20
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024545099
(86)(22)【出願日】2022-12-02
(85)【翻訳文提出日】2024-07-29
(86)【国際出願番号】 CN2022136297
(87)【国際公開番号】W WO2023142683
(87)【国際公開日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】202210099611.0
(32)【優先日】2022-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524282445
【氏名又は名称】上海市第一人民医院
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】王鵬然
(72)【発明者】
【氏名】沈良華
(72)【発明者】
【氏名】張岩
(72)【発明者】
【氏名】宋献民
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA02
4C084NA14
4C084ZB33
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB37
4C087BB65
4C087CA12
4C087NA14
4C087ZB33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、サイトメガロウイルス抗原を標的とするTCRおよびそれを発現するT細胞ならびに使用を提供し、具体的に、HLA-A*0201限定でサイトメガロウイルスpp65抗原エピトープを標的とする特異的T細胞およびその使用を公開し、当該T細胞が持つT細胞受容体は特異的にCMV-pp65を標的とし、そして正確かつ迅速にCMVウイルスを排除することができる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)であって、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、TCRα鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列がCAFPYNNNDMRF (配列番号13)で、ならびに/あるいは
前記TCRβ鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列がCASSLEGYTEAFF (配列番号21)であることを特徴とするTCR。
【請求項2】
前記TCRα可変ドメインのの3つの相補性決定領域(CDR)は、
α-CDR1:SSNFYA(配列番号9)、
α-CDR2:MTLNGDE(配列番号11)、
α-CDR3:CAFPYNNNDMRF(配列番号13)で;ならびに/あるいは
前記TCRβ鎖可変ドメインの3つの相補性決定領域は、
β-CDR 1:MNHEY(配列番号17)、
β-CDR 2:SMNVEV(配列番号19)、
β-CDR 3:CASSLEGYTEAFF(配列番号21)である
ことを特徴とする請求項1に記載のT細胞受容体(TCR)。
【請求項3】
TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインは配列番号7と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列で、ならびに/あるいは、前記TCRβ鎖可変ドメインは配列番号15と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項4】
前記TCRのアミノ酸配列は配列番号1で示されることを特徴とする請求項1に記載のTCR。
【請求項5】
多価TCR複合体であって、少なくとも2つのTCR分子を含み、かつそのうちの少なくとも1つのTCR分子は上記請求項のいずれかに記載のTCRであることを特徴とする複合体。
【請求項6】
請求項1に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補配列を含むことを特徴とする核酸分子。
【請求項7】
前記の核酸分子はTCRα鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列の配列番号8を含み、ならびに/あるいは
前記の核酸分子はTCRβ鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列の配列番号16を含む
ことを特徴とする請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
請求項6記載の核酸分子を含み、好適に、ウイルスベクターで、より好適に、レンチウイルスベクターであることを特徴とするベクター。
【請求項9】
分離された宿主細胞であって、請求項8に記載のベクターを含むか、あるいは染色体に外来の請求項6記載の核酸分子が組み込まれていることを特徴とする宿主細胞。
【請求項10】
請求項6に記載の核酸分子または請求項8に記載にベクターが形質導入されており、好適に、T細胞または幹細胞であることを特徴とする細胞。
【請求項11】
薬学的に許容されるビヒクルと、請求項1-4のいずれかに記載のTCR、請求項5に中記載のTCR複合体、請求項6に記載の核酸分子、あるいは請求項10に中記載の細胞とを含有することを特徴とする薬物組成物。
【請求項12】
請求項1-4のいずれかに記載のT細胞受容体、または請求項5に記載のTCR複合体または請求項10に記載の細胞の使用であって、サイトメガロウイルス感染症を治療する薬物の製造のためであることを特徴とする使用。
【請求項13】
疾患を治療する方法であって、治療を必要とする対象に請求項1-4のいずれかに記載のTCR、請求項5に記載のTCR複合体、請求項6に記載の核酸分子、または請求項10に記載の細胞または請求項11に記載の薬物組成物を施用することを含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
前記の疾患はサイトメガロウイルス感染に関連する疾患(サイトメガロウイルス感染症)、たとえば、CMV網膜炎、CMV肺炎、CMV胃腸炎やCMV脳炎などであることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイトメガロウイルス由来抗原ペプチドを認識できるTCR、上記TCRを発現するサイトメガロウイルス特異的T細胞、ならびにサイトメガロウイルス関連疾患の予防および治療におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトメガロウイルス(cytomegalovirus、CMV)はヒトヘルペスウイルス科β亜科に属し、明らかな宿主種の特異性を有し、ヒトヘルペスウイルス科のうち、最も大きく、構造も最も複雑なウイルスである。CMVはヒト間における感染が非常に広く、成人の感染率が95%以上に達し、通常、不顕性感染になっており、多くの感染者は臨床症状がないが、一定の条件において複数の臓器およびシステムを侵すと重度な疾患になることがある。近年、CMV感染の診断・治療が大きく進歩することで、移植後のCMV感染の発症率が明らかに低下してきたが、CMV感染は同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)の患者においては未だに高い発生率のままで、それによる間接的な結果、たとえば、継発性移植片機能不全、GVHD、全死因死亡率などが患者の予後にまだ大きな影響を与える。一方、既存の抗CMV薬も、剤形が単調、標的が類似、顆粒球減少/腎臓損傷につながるなど、不足な点が多い。現在の抗ウイルス薬、たとえば、アシクロビル(acyclovir)、ガンシクロビル(ganciclovir)などは、重度な副作用、たとえば、骨髄抑制などを引き起こすことが多い。
【0003】
ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)は、約20-25種類のタンパク質を含有し、そのうち、HCMV感染およびウイルス複製の媒介において3種類のタンパク質、すなわち、ORF UL83によってコードされるpp65タンパク質、ORF UL82によってコードされるリン酸化タンパク質pp71およびORF UL69によってコードされるpUL69タンパク質の作用が最も重要である。上記3種類のタンパク質の共通の特徴は、HCMVの宿主細胞に対する感染およびウイルスの複製を開始させることで、同時にT細胞が媒介する細胞毒性作用の逃避においても重要な作用がある。研究では、上記3種類のタンパク質のうち、pp65タンパク質による移植片の血管病変および拒絶反応の作用が最も重度である。allo-HSCTによる免疫障害は、潜伏していたHCMVを再活性化させることで、重度の臨床合併症につながる。
【0004】
近年、免疫チェックポイント阻害剤、CAR-T(Chimeric Antibody Receptor Engineered T Cell)およびTCR-T(T cell Receptor Engineered T Cell)をはじめとする細胞免疫治療は腫瘍治療の分野において大きな進展が得られた。TCR-T治療は腫瘍抗原または特定のウイルス抗原に対する特異的TCRを獲得し、そして遺伝子工学技術によってT細胞を改変し、体内へ注入することで、腫瘍を治療するか、ウイルス感染を排除する目的を果たす。
【0005】
allo-HSCT患者は免疫機能が低下するため、有効にCMVを排除することができず、原発性CMV感染または潜伏していたCMVの再活性化が発生しやすい。HSCT患者のCMV感染/再活性化が発生すると、CMVに関連する発熱、ひいては臓器に及ぶ一連の関連疾患につながり、疾患の再発および被験者の生存と密接に関連し、そして現在の通常の薬物治療の効果が劣る。そのため、CMV-TCR-T細胞療法をHSCTまたはほかの臓器移植後のCMV感染の治療および予防の分野に応用することができれば、臨床における価値および使用の将来性が非常にある。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、HLA-A*0201限定でサイトメガロウイルス抗原エピトープpp65を標的とする特異的TCR、当該TCRを発現するTCR-T細胞およびその使用を提供することにある。
【0007】
本発明の第一の側面では、T細胞受容体(TCR)であって、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、TCRα鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列がCAFPYNNNDMRF (配列番号13)で、ならびに/あるいは
前記TCRβ鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列がCASSLEGYTEAFF (配列番号21)であるものを提供する。
もう一つの好適な例において、前記TCRは特異的にNLVPMVATV-HLA-A*0201複合体に結合する。
もう一つの好適な例において、前記TCRα鎖可変ドメインの3つの相補性決定領域(CDR)は以下のものである:
α-CDR1:SSNFYA(配列番号9)、
α-CDR2:MTLNGDE(配列番号11)、
α-CDR3:CAFPYNNNDMRF(配列番号13)。
もう一つの好適な例において、前記TCRβ鎖可変ドメインの3つの相補性決定領域は以下のものである:
β-CDR 1:MNHEY(配列番号17)、
β-CDR 2:SMNVEV(配列番号19)、
β-CDR 3:CASSLEGYTEAFF(配列番号21)。
もう一つの好適な例において、前記TCRはTCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインは配列番号7と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列で、ならびに/あるいは前記TCRβ鎖可変ドメインは配列番号15と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
もう一つの好適な例において、前記TCRはα鎖可変ドメインのアミノ酸配列の配列番号7を含む。
もう一つの好適な例において、前記TCRはβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列の配列番号15を含む。
もう一つの好適な例において、前記TCRはαβヘテロ二量体で、TCRα鎖定常領域TRAC*01およびTCRβ鎖定常領域TRBC1*01またはTRBC2*01を含む。
もう一つの好適な例において、前記TCRのα鎖のアミノ酸配列は配列番号3である。
もう一つの好適な例において、前記TCRのβ鎖のアミノ酸配列は配列番号5である。
もう一つの好適な例において、前記TCRはα鎖とβ鎖の間に人工的鎖間ジスルフィド結合を含有する。
もう一つの好適な例において、前記TCRのアミノ配列は配列番号1で示される。
【0008】
本発明の第二の側面では、多価TCR複合体であって、少なくとも2つのTCR分子を含み、かつそのうちの少なくとも1つのTCR分子は本発明の第一の側面に記載のTCRである複合体を提供する。
【0009】
本発明の第三の側面では、本発明の第一の側面に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補配列を含む核酸分子を提供する。
もう一つの好適な例において、前記核酸分子はTCRα鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列の配列番号8を含む。
もう一つの好適な例において、前記の核酸分子はTCRβ鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列の配列番号16を含む。
もう一つの好適な例において、前記核酸分子はTCRα鎖をコードするヌクレオチド配列の配列番号4を含む。
もう一つの好適な例において、前記核酸分子はTCRβ鎖をコードするヌクレオチド配列の配列番号6を含む。
もう一つの好適な例において、前記核酸分子はヌクレオチド配列の配列番号2を含む。
【0010】
本発明の第四の側面では、本発明の第三の側面に記載の核酸分子を含むベクターを提供する。好適に、前記のベクターはウイルスベクターである。より好適に、前記のベクターはレンチウイルスベクターである。
【0011】
本発明の第五の側面では、分離された宿主細胞であって、本発明の第四の側面に記載のベクターを含有するか、あるいはゲノムに外来の本発明の第三の側面に記載の核酸分子が組み込まれた宿主細胞を提供する。
【0012】
本発明の第六の側面では、本発明の第三の側面に記載の核酸分子または本発明の第四の側面に記載のベクターが形質移入された細胞を提供する。好適に、前記細胞はT細胞または幹細胞である。
【0013】
本発明の第七の側面では、薬学的に許容されるビヒクルと、本発明の第一の側面に記載のTCR、本発明の第二の側面に記載のTCR複合体、本発明の第三の側面に記載の核酸分子、本発明の第四の側面に記載のベクター、または本発明の第六の側面に記載の細胞とを含有する薬物組成物を提供する。
【0014】
本発明の第八の側面では、本発明の第一の側面に記載のT細胞受容体、または本発明の第二の側面に記載のTCR複合体、本発明の第三の側面に記載の核酸分子、本発明の第四の側面に記載のベクター、または本発明の第六の側面に記載の細胞の使用であって、サイトメガロウイルス関連疾患を治療する薬物の製造のための使用を提供する。
【0015】
本発明の第九の側面では、疾患を治療する方法であって、治療が必要な対象に適量の本発明の第一の側面に記載のT細胞受容体、または本発明の第二の側面に記載のTCR複合体、本発明の第三の側面に記載の核酸分子、本発明の第四の側面に記載のベクター、または本発明の第六の側面に記載の細胞、または本発明の第七の側面に記載の薬物組成物を施用することを含む方法を提供する。
【0016】
好適に、前記の疾患はサイトメガロウイルス感染に関連する疾患(サイトメガロウイルス感染症)、たとえば、CMV網膜炎、CMV肺炎、CMV胃腸炎やCMV脳炎などである。
【0017】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組合せ、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、CMV-pp65-TCR-Tの特異性刺激およびスクリーニングの流れである。
【
図2】
図2は、CMV-pp65-TCR-T細胞の体外特異的増幅の結果である。
【
図3】
図3は、CMV-pp65-TCR-Tベクターの情報である。
【
図4】
図4は、CMV-pp65-TCR-Tの体外結合の検証である。
【
図5】
図5は、CMV-pp65-TCR-Tの体外活性化の検証である。
【
図6】
図6は、CMV-pp65-TCR-Tの体外殺傷の検証である。
【
図7】
図7は、CMV-pp65-TCR-Tの皮下腫瘍移植モデルにおける体内殺傷の検証である。
【
図8】
図8は、CMV-pp65-TCR-Tの転移モデルにおける体内殺傷の検証である。
【0019】
具体的な実施形態
本発明は、HLA-A*0201限定でサイトメガロウイルス(Cytomegalovirus、CMV)pp65抗原エピトープNLVPMVATVを標的とする特異的T細胞およびその使用を公開するが、当該T細胞が持つT細胞受容体(T cell receptor、TCR)は特異的にCMV-pp65を標的とし、そして正確かつ迅速にCMVウイルスを排除することができる。CMV-pp65に高親和力のTCR遺伝子がレンチウイルスを介してT細胞に感染すると、CMV-pp65特異的なTCR-T細胞を製造することができる。CMV-pp65-TCR-T細胞は、直接正確な標的作用によって迅速にCMVウイルスを排除すると同時に、間接的にTCR-T細胞が媒介する免疫再構築により、ウイルスを徹底的に排除し、そして再感染を防止し、長期間で保護作用を発揮することができる。そのため、本発明のpp65抗原エピトープ特異的なpp65-TCR-T細胞は、特異的にHLA-A*0201限定でCMV pp65抗原を発現する標的細胞に結合して殺傷することができ、CMV関連疾患のTCR-T治療に新たな臨床プロトコールを提供し、HSCTまたはほかの臓器移植後のCMV感染の治療および予防の分野に応用すると、臨床における価値および使用の将来性が非常にある。
【0020】
用語
MHC分子は免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質で、MHCクラスIまたはクラスII分子でもよい。そのため、抗原の提示に特異性があり、異なる個体が異なるMHCを有し、タンパク質抗原のうちの異なる短鎖ペプチドをそれぞれのAPC細胞の表面に提示することができる。人類のMHCは、通常、HLA遺伝子またはHLA複合体と呼ばれる。
T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に提示された特異的抗原ペプチドの唯一の受容体である。免疫系において、抗原特異的TCRとpMHC複合体の結合によってT細胞と抗原提示細胞(APC)が直接物理的に接触し、さらにT細胞およびAPCの両者のほかの細胞膜の表面の分子が互いに作用し、これによって一連の後続の細胞シグナル伝達やほかの生理反応が生じることで、異なる抗原に特異的なT細胞はその標的細胞に対して免疫反応を果たす。
TCRは、α鎖/β鎖またはγ鎖/δ鎖のヘテロ二量体の形態で細胞膜の表面に存在する糖タンパク質である。95%のT細胞において、TCRヘテロ二量体はα鎖とβ鎖からなるが、5%のT細胞はγ鎖とδ鎖からなるTCRを有する。天然のαβヘテロ二量体TCRはα鎖およびβ鎖を有し、α鎖およびβ鎖はαβヘテロ二量体TCRのサブユニットを構成する。広義的に、αおよびβ鎖はそれぞれ可変領域、連結領域および定常領域を含み、β鎖は、通常、さらに可変領域と連結領域の間に短い多変領域を含むが、この多変領域は通常連結領域の一部と見なされる。各可変領域は、フレームワーク領域(framework regions)に嵌っているCDR1、CDR2、およびCDR3という3つのCDR(相補性決定領域)を含む。CDR領域によってTCRとpMHC複合体の結合が決まり、中では、CDR3は可変領域および連結領域から組み換えてなるため、超可変領域と呼ばれる。TCRのα鎖およびβ鎖は、一般的に、それぞれ二つの「ドメイン」、すなわち、可変ドメインと定常ドメインを有するとされ、可変ドメインは連結する可変領域と連結領域で構成される。TCR定常ドメインの配列は国際免疫遺伝情報システム(IMGT)の公開データベースで見つかり、たとえば、TCR分子α鎖の定常ドメインの配列は「TRAC*01」で、TCR分子β鎖の定常ドメインの配列は「TRBC1*01」または「TRBC2*01」である。また、TCRのαおよびβ鎖は、さらに、膜貫通領域および細胞内領域を含む。
本発明において、用語「本発明のポリペプチド」、「本発明のTCR」、「本発明のT細胞受容体」は、入れ替えて使用することができる。
【0021】
天然の鎖間ジスルフィド結合と人工的鎖間ジスルフィド結合
天然TCRの膜近位領域のCα鎖とCβ鎖の間に1組のジスルフィド結合が存在し、本発明で「天然の鎖間ジスルフィド結合」と呼ぶ。本発明において、人工的に導入される、位置が天然の鎖間ジスルフィド結合の位置と異なる鎖間共役ジスルフィド結合を「人工的鎖間ジスルフィド結合」と呼ぶ。
【0022】
発明の詳述
TCR分子
抗原加工の過程において、抗原は細胞内で分解され、さらにMHC分子を介して細胞の表面に運ばれる。T細胞受容体は抗原提示細胞の表面のペプチド-MHC複合体を認識することができる。そのため、本発明の第一の側面では、NLVPMVATV-HLA-A*0201複合体に結合できるTCR分子を提供する。好適に、前記TCR分子は分離されたものまたは精製されたものである。当該TCRのαおよびβ鎖は、それぞれ、3つの相補性決定領域(CDR)を有する。
本発明の一つの好適な実施形態において、前記TCRのα鎖は以下のアミノ酸配列を有するCDRを含む:
α-CDR1:SSNFYA(配列番号9)、
α-CDR2:MTLNGDE(配列番号11)、
α-CDR3:CAFPYNNNDMRF(配列番号13)。
本発明の一つの好適な実施形態において、前記TCRのβ鎖は以下のアミノ酸配列を有するCDRを含む:
β-CDR 1:MNHEY(配列番号17)、
β-CDR 2:SMNVEV(配列番号19)、
β-CDR 3:CASSLEGYTEAFF(配列番号21)。
上記本発明のCDR領域のアミノ酸配列は任意の適切なフレームワーク領域に嵌めてキメラTCRを製造することができる。フレームワーク領域が本発明のTCRのCDR領域と適合であれば、当業者は本発明で公開されるCDR領域で相応する機能を有するTCR分子を設計または合成することができる。そのため、本発明のTCR分子とは、上記αおよび/またはβ鎖のCDR領域の配列ならびに任意の適切なフレームワーク領域を含むTCR分子である。
本発明のTCRα鎖可変ドメインは配列番号7と少なくとも90%、好適に95%、より好適に98%の配列同一性を有するアミノ酸配列で、ならびに/あるいは本発明のTCRβ鎖可変ドメインは配列番号15と少なくとも90%、好適に95%、より好適に98%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
本発明の一つの好適な例において、本発明のTCR分子はαとβ鎖から構成されるヘテロ二量体である。具体的に、一方では、前記ヘテロ二量体TCR分子のα鎖は可変ドメインおよび定常ドメインを含み、前記α鎖可変ドメインのアミノ酸配列は上記α鎖のCDR1(配列番号9)、CDR2(配列番号11)およびCDR3(配列番号13)を含む。好適に、前記TCR分子はα鎖可変ドメインのアミノ酸配列の配列番号7を含む。より好適に、前記TCR分子のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は配列番号7である。もう一方では、前記ヘテロ二量体TCR分子のβ鎖は可変ドメインおよび定常ドメインを含み、前記β鎖可変ドメインのアミノ酸配列は上記β鎖のCDR1(配列番号17)、CDR2(配列番号19)およびCDR3(配列番号21)を含む。好適に、前記TCR分子はβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列の配列番号15を含む。より好適に、前記TCR分子のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は配列番号15である。
本発明の一つの好適な例において、本発明のTCR分子はαの一部または全部ならびに/あるいはβ鎖の一部または全部で構成される一本鎖TCR分子である。一本鎖TCR分子の記述は文献Chungら (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91, 12654-12658を参照する。文献における記載によれば、当業者は容易に本発明のCDR領域を含む一本鎖TCR分子を構築することができる。具体的に、前記一本鎖TCR分子はVα、VβおよびCβを含み、好適に、N末端からC末端の順で連結している。
前記一本鎖TCR分子のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は上記α鎖のCDR1(配列番号9)、CDR2(配列番号11)およびCDR3(配列番号13)を含む。好適に、前記一本鎖TCR分子はα鎖可変ドメインのアミノ酸配列の配列番号7を含む。より好適に、前記一本鎖TCR分子のα鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は配列番号7である。前記一本鎖TCR分子のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は上記β鎖のCDR1(配列番号17)、CDR2(配列番号19)およびCDR3(配列番号21)を含む。好適に、前記一本鎖TCR分子はβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列の配列番号15を含む。より好適に、前記一本鎖TCR分子のβ鎖の可変ドメインのアミノ酸配列は配列番号15である。
本発明の一つの好適な例において、本発明のTCR分子の定常ドメインはヒトまたはネズミの定常ドメインである。当業者はヒトの定常ドメインのアミノ酸配列を知っているか、関連書籍またはIMGT(国際免疫遺伝情報システム)の公開データベースを閲覧・検索することによって得ることができる。たとえば、本発明のTCR分子α鎖の定常ドメインの配列は「TRAC*01」でもよく、TCR分子β鎖の定常ドメインの配列は「TRBC1*01」または「TRBC2*01」でもよい。好適に、本発明のTCR分子α鎖のアミノ酸配列は配列番号3で、ならびに/あるいはβ鎖のアミノ酸配列は配列番号5である。
本発明のTCRはそのαとβ鎖定常ドメインの残基の間に導入された人工的ジスルフィド結合を含んでもよい。なお、定常ドメインの間に上記の導入された人工的ジスルフィド結合が含まれていても含まれていなくても、本発明のTCRはいずれもTRAC定常ドメイン配列とTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列を含有してもよい。TCRのTRAC定常ドメイン配列とTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列はTCRに存在する天然のジスルフィド結合を介して連結していてもよい。
本発明のTCR定常領域を改造することにより、内因性TCR鎖とのミスマッチを阻止することができる。そのために、本発明のTCRにおいて、そのαとβ鎖定常ドメインの残基の間に人工的ジスルフィド結合を導入した。
また、本発明のTCRは1種類よりも多い種の配列から誘導されるキメラTCRを含んでもよい。たとえば、ネズミ科TCRがヒトT細胞においてヒトTCRよりも有効に発現することができることを示した研究がある。そのため、本発明のTCRはヒトの可変ドメインおよびネズミの定常ドメインを含んでもよい。この方法の欠点は免疫応答を引き起こす可能性があることである。そのため、養子T細胞治療に使用する場合、ネズミ科のT細胞の移植が許容されるように、免疫抑制のための調節プランが必要である。
なお、本明細書において、アミノ酸の名称は、世界中に汎用の一文字のアルファベットまたは三文字のアルファベットの表示を使用し、アミノ酸の名称の一文字のアルファベットと三文字のアルファベットの相応関係は以下の通りである:Ala (A)、Arg (R)、Asn (N)、Asp (D)、Cys (C)、Gln (Q)、Glu (E)、Gly (G)、His (H)、Ile (I)、Leu (L)、Lys (K)、Met (M)、Phe (F)、Pro (P)、Ser (S)、Thr (T)、Trp (W)、Tyr (Y)、Val (V)。
【0023】
核酸分子
本発明の第二の側面では、本発明の第一の側面のTCR分子またはその一部をコードする核酸分子を提供するが、前記一部は一つまたは複数のCDR、αおよび/またはβ鎖の可変ドメイン、ならびにα鎖および/またはβ鎖でもよい。
本発明の第一の側面のTCR分子のα鎖のCDR領域をコードするヌクレオチド配列は以下の通りである。
α CDR1- TCCAGCAATTTCTACGCC(配列番号10)
α CDR2- ATGACCCTCAACGGCGATGAA(配列番号12)
α CDR3- TGTGCTTTTCCTTATAACAACAACGATATGAGGTTC(配列番号14)
本発明の第一の側面のTCR分子のβ鎖のCDR領域をコードするヌクレオチド配列は以下の通りである。
β CDR1- ATGAACCATGAATAC(配列番号18)
β CDR2- TCTATGAATGTGGAGGTG(配列番号20)
β CDR3- TGCGCTTCCTCCCTCGAGGGGTACACCGAGGCATTTTTT(配列番号22)
そのため、本発明のTCRのα鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は配列番号10、配列番号12および配列番号14を含み、ならびに/あるいは本発明のTCRのβ鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は配列番号18、配列番号20および配列番号22を含む。
本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は一本鎖または二本鎖のものでもよく、当該核酸分子はRNAまたはDNAでもよく、そしてイントロンを含んでも含まなくてもよい。好適に、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列はイントロンを含まないが、本発明のポリペプチドをコードすることができ、たとえば、本発明のTCRのα鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は配列番号8を含み、ならびに/あるいは本発明のTCRのβ鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は配列番号16を含む。より好適に、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は配列番号4および/または配列番号6を含む。あるいは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は配列番号2である。
なお、遺伝子コドンの縮重により、異なるヌクレオチド配列は同様のポリペプチドをコードしてもよい。そのため、本発明のTCRをコードする核酸配列は本発明の図面で示される核酸配列と同様のものでもよく、縮重変異体でもよい。本発明における一例で説明すると、「縮重変異体」とは配列番号1のタンパク質配列をコードするが、配列番号2の配列と異なる核酸配列である。
ヌクレオチド配列はコドン最適化されたものでもよい。異なる細胞は具体的なコドンの利用において異なるが、細胞の種類により、配列におけるコドンを変更することによって発現量を増加させることができる。哺乳動物細胞および数種類のほかの生物のコドン選択表は当業者に公知のものである。
本発明の核酸分子の全長配列あるいはその断片は、通常、PCR増幅法、組換え法または人工合成の方法で得られるが、これらに限定されない。現在、本発明のTCR(またはその断片、あるいはその誘導体)をコードするDNA配列は完全に化学合成で獲得することがすでに可能である。さらに、このDNA配列を本分野で周知の各種の既知のDNA分子(あるいはベクターなど)や細胞に導入してもよい。DNAは、コード鎖でも非コード鎖でもよい。
【0024】
ベクター
また、本発明は本発明の核酸分子を含むベクターに関し、発現ベクター、すなわち、体内または体外において発現できる構築体を含む。常用のベクターは細菌プラスミド、ファージおよび動植物ウイルスを含む。
ウイルス送達システムは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターを含むが、これらに限定されない。
好適に、ベクターは本発明のヌクレオチドを細胞、たとえば、T細胞に移動させることで、当該細胞に抗原特異的TCRを発現させることができる。理想的な場合、当該ベクターはT細胞において高レベルで発現を続けることができる。
【0025】
細胞
また、本発明は本発明のベクターまはたコード配列で遺伝子工学によって生成する宿主細胞に関する。前記宿主細胞は、本発明のベクターを含有するか、あるいは染色体に本発明のの核酸分子が組み込まれている。宿主細胞は、原核細胞および真核細胞、たとえば、大腸菌、酵母細胞、CHO細胞、293T細胞などから選ばれる。
また、本発明は、本発明のTCRを発現する分離された細胞、特にT細胞を含む。当該T細胞は被験者から分離されたT細胞から誘導されたものでもよく、あるいは被験者から分離された混合細胞群、たとえば、末梢血リンパ球(PBL)群の一部でもよい。たとえば、当該細胞は末梢血単核球(PBMC)から分離されたものでもよく、CD4+ヘルパーT細胞またはCD8+細胞傷害性T細胞でもよい。当該細胞はCD4+ヘルパーT細胞/CD8+細胞傷害性T細胞の混合群に存在してもよい。
あるいは、本発明の細胞は、幹細胞、たとえば、造血幹細胞(HSC)から誘導されたものでもよい。幹細胞の表面にCD3分子が発現されないため、遺伝子をHSCに移動させても細胞の表面にTCRが発現されることがない。しかし、幹細胞の分化が胸腺のリンパ球前駆体(lymphoid precursor)に移行した場合、CD3分子の発現は胸腺細胞の表面における当該導入されたTCR分子の発現を開始させる。
多くの方法は本発明のTCRをコードするDNAまたはRNAのT細胞への形質移入に適する(たとえば、Robbinsら、(2008)J. Immunol.180:6116-6131)。本発明のTCRを発現するT細胞は養子免疫治療に使用することができる。当業者は養子治療を行う多くの適切な方法を知っている(たとえば、Rosenbergら、(2008)Nat Rev Cancer8(4):299-308)。
【0026】
サイトメガロウイルス(cytomegalovirus、CMV)関連疾患
また、本発明は被験者においてCMV関連疾患を治療および/または予防する方法であって、CMV特異的T細胞を当該被験者へ養子移入する工程を含む方法に関する。当該CMV特異的T細胞は主にCMVマトリックスリン酸化タンパク質pp65を認識することができる。当該CMV特異的T細胞はエピトープNLVPMVATVを認識することができる。
CMVは幅広く存在するヒトヘルペスウイルスで、約50%の正常な個体に感染している。多くの症例において、免疫反応はCMV由来の抗原を認識することによって急性感染を抑えることができる。その後、当該ウイルスは潜伏状態で宿主の一生を通してずっと存在する。外への増殖は、ウイルス膜タンパク質に対する中和抗体、HLA限定のCMV特異的ヘルパーT細胞および細胞傷害性T細胞ならびにMHC限定のエフェクター因子を含む、免疫系のエフェクター因子機序によって阻止される。
CMV感染は一部のハイリスクな層には一大事である。感染リスクの主な範囲は、胎児または新生児、および免疫無防備状態の個体、たとえば、臓器移植のレシピエント、白血病患者またはヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者を含む。
一般的に、三つの臨床様態のCMV感染が存在し、以下のものを含む:
(1)新生児CMV封入体症で、無症状から、肝臓、脾臓および中枢神経系に影響し、障害が残る重症までの可能性があるもの;
(2)急性獲得性CMV感染で、伝染性単核症に類似し、発熱、不調、骨格筋痛などの症状が現れるもの;
(3)免疫無防備状態の人(たとえば、臓器移植した人mたはHIVに罹患した人)のCMV感染で、CMV網膜炎、CMV肺炎、CMV胃腸炎およびCMV脳炎のリスクがあるもの。
本発明のTCRは同種異系造血幹細胞後の潜伏CMVの再活性化の治療および/または予防に使用することができる。
Allo-HSCTレシピエントのCMV疾患は主に潜伏ウイルスにの再活性化によるものとされている。ウイルスの拡散はドナーの骨髄輸注または同種異系血液製品によることがある。免疫無防備状態の骨髄移植レシピエントにおいて、ウイルスの再活性化は、通常、進行性のCMV感染につながり、このような患者における感染性発症率および死亡率の要因になっている。進行性CMV感染はこれらの患者の移植後の免疫抑制および遅い免疫回復の両者の結果である。
本発明の方法において、たとえば、本発明のCMV-特異的T細胞受容体を発現するT細胞でAllo-HSCTレシピエントに対して養子免疫治療を行う。
【0027】
予防および治療方法
用語「予防」とは疾患の進展を回避、遅延、抵抗または阻害することである。たとえば、CMV感染および/またはCMV再活性化の可能性を予防または降下することができる。
本明細書において用いられる「治療」とは疾患の症状を緩和、治癒または減少するか、疾患の進展を減少または阻止することである。
関連疾患に罹患した患者または志願者のT細胞を分離し、そして本発明のTCRを上記T細胞に導入し、さらにこれらの遺伝子工学によって修飾された細胞を患者の体内に回送することによって予防または治療するすることができる。
そのため、本発明は、CMV関連疾患を治療する方法であって、分離された本発明のTCRを発現するT細胞、好適に患者自身由来のT細胞を、患者の体内に回送することを含む方法を提供する。一般的に、以下のことを含む:
(1)患者のT細胞を分離する;
(2)本発明の核酸分子または本発明のTCR分子をコードできる核酸分子を体外においてT細胞に形質導入する;
(3)遺伝子工学によって修飾されたT細胞を患者の体内に回送する。
分離、形質移入および回送する数は医師によって決定されてもよい。
【0028】
本発明の主な利点は以下の通りである。
(1)本発明のTCRは直接正確な標的作用によって迅速にCMVウイルスを排除することができる。
(2)本発明のTCRは体内におけるタンパク質の発現量が高く、かつ内因性TCR鎖とミスマッチしない。
(3)本発明のTCRを発現するT細胞は、殺傷能力が強く、特異性が高いなどで、有効に造血幹細胞移植(HSCT)患者またはほかの移植患者のCMV感染の治療に使用することができる。
以下の具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。下記実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、たとえばSambrookおよびRussellら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第三版)(2001) に記載の条件などの通常の条件に、あるいは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。特に断らない限り、%と部は、重量で計算された。以下、実施例で使用された実験材料および試薬は、特に説明しない限り、いずれも市販品として得られる。
【0029】
実施例1 体外における単核球(Monocytes)から樹状細胞(DC細胞)への分化の誘導
(1)リンパ球分離液(Lymphoprep)で密度勾配遠心法によって健康なドナー/患者の血液におけるPBMC(または再生された凍結保存PBMC)を獲得し、細胞傷害性T細胞培地(cytotoxic T lymphocyte medium)で再懸濁させた後、350 gで5 min遠心して上清を除去し、適量のDC細胞培地を入れて6ウェルプレートにおいてPBMCを再懸濁させ、インキュベーターにおいて2 h培養した後、培地および固まった非付着細胞を吸い取って捨てた。
(2)各ウェルに側壁に沿って軽く3 mlの最終濃度が1×のDC Differentiation Supplement(GM-CSFとIL-4)を含有するDC細胞培地(DC medium)を入れ、6ウェルプレートを37℃、5% CO2インキュベーターにおいて5 d培養した。
(3)5日目に、培地を交換しないまま、各ウェルに30 μlの100×DC Maturation Supplementを培地(DC Maturation Supplementの最終濃度が1×である)に入れた。6ウェルプレートを37℃、5% CO2のインキュベーターにおいて成熟まで2 d誘導した。
(4)7日目に、成熟DC細胞(Mature DC)を収穫でき、ピペットで強く吹いて混ぜ、そしてウェルプレートの底部細胞を再懸濁されることによって成熟DC細胞を収集し、収集された成熟DC細胞を15 mL遠心管に移し、350 gで5 min遠心した後、上清を除去し、密度が2×106 細胞/mlになるようにDC細胞培地(DC medium)でDCを再懸濁させて後続の実験に供した。
【0030】
実施例2 ヒトCMV-pp65抗原特異的T細胞の体外における刺激および増幅
(1)上記成熟DC細胞(Mature DC)に5 μg/mlのCMV-PP65目的ペプチドを入れた。封止膜(Parafilm)で密封した後、ローテーター(MACSmix)に入れ、インキュベーターにおいて4 h回転結合させた。mDCとCMV-PP65目的ペプチド(CMV-peptide)のインキュベートが終了した後、照射装置によって40 Gyの照射量でCMV-PP65目的ペプチド搭載DC細胞(CMV-peptide-loaded DC)を照射した。照射終了後、遠心でCMV-PP65目的ペプチド搭載DC細胞を15 ml遠心管に収集した。
(2)リンパ球分離液(Lymphoprep)で密度勾配遠心法によって健康なドナーの血液におけるPBMCを獲得し、キット(EasySepTM Human CD8 Positive Selection Kit)でPBMCにおけるCD8+ T細胞を分離し、DC/Tが1:2.5の比率で、CMV-PP65目的ペプチド搭載DC細胞(CMV-peptide-loaded DC)とCD8+ T細胞を12ウェルプレートに入れて培養し、培養系に最終濃度が30 ng/mlのIL-21、および5 μg/mlのCMV-PP65目的ペプチド(CMV-PP65 peptide)を入れた。
(3)12ウェルプレートを37℃、5% CO2のインキュベーターにおいて一晩インキュベートした。1日目に、各ウェルに10 ng/mlのIL-2、IL-7、IL-15を入れ、さらにインキュベーターにおいて37℃、5% CO2で10日培養した。培養過程において、2~3日おきに半分の量で液を交換した。そして、5日目および10日目に、各培養系に最終濃度が5 μg/mlのCMV-PP65目的ペプチド(CMV-PP65 peptide)を入れた。
(4)11日目に、上記工程を参照し、照射されたCMV-PP65目的ペプチド搭載DC細胞(Irradiated CMV-peptide-loaded DC)を調製して各培養系における細胞と二回目の体外刺激を行い、7日刺激を続けた。
(5)18日目に、ウェルプレートの各ウェルから500 μlの細胞を吸い取り、緩衝液(FACS buffer)で二回洗浄した後、CMV-PP65-HLA:A:0201 Dextramer-FITCとCD8a-PEを入れ、均一に混合した後、4℃で光を避けて20 minインキュベートし、インキュベート終了後、FACS bufferで3回洗浄した後、400 μlの1×DAPI使用液を含有する緩衝液(FACS buffer)で細胞を再懸濁させた後、CD8+/Dextramer+(%)の比率を検出した。
【0031】
実施例3 単細胞シークエンシングによるHLA:A:0201限定型CMV-pp65抗原特異的TCRの獲得
(1)フローサイトメトリーによってCD8+/Dextramer+ T細胞を分別し、10X Genomics単細胞シークエンシング技術によってCD8+/Dextramer+ T細胞のTCRαとTCRβ鎖の配列を獲得した。
(2)単細胞シークエンシングによってTCRの配列を得た後、出現頻度が最も高いTCRα/β鎖の配列に対して配列最適化を行い、外因性TCRがT細胞の内因性TCRとミスマッチしないように、その定常領域を改変した。発現配列に対してコドン最適化を行い、タンパク質の発現量を向上させた。TCRαとTCRβが一つの発現ベクターにおいて同時に発現するが、余分なプロリンテールが生じないように、P2Aおよびフーリンプロテアーゼによって酵素切断を行った(フーリン切断、Furin-cleavage)。
(3)レンチウイルス発現ベクターを構築し、上記TCRαとTCRβの配列を同一のレンチウイルス発現ベクターに挿入し、293T細胞でウイルスのパッケージングを行い、CMV-pp65抗原特異的TCRの特異的ウイルス粒子を生産した。
【0032】
実施例4 CMV-pp65-TCRレンチウイルスの感染からT細胞の活性化によるCMV-pp65-TCR-Tの生成
(1)キット(EasySepTM Human CD8 Positive Selection Kit)によってPBMCにおけるCD8+ T細胞を分離し、1:3のCD8+ T細胞:CD3/28 免疫ビーズ(Dynabeads)の比率で、体外においてCD3/28免疫ビーズ(Dynabeads)でCD8+ T細胞を活性化させ、37℃でCD8+ T細胞を2 d刺激して活性化させた。
(2)CMV-pp65-TCRレンチウイルス粒子で活性化CD8+ T細胞を感染させ、8 μg/mlのポリブレン(polybrene)を入れ、500×g、90 min、30℃で遠心感染を行った。遠心終了後、インキュベーターにおいて、37℃、5% CO2で3日培養し、さらにCMV-pp65-TCRレンチウイルスの二回目の感染を行った。
(3)CMV-pp65-TCRレンチウイルスの二回目の感染から3日後、CMV-pp65-TCR-T細胞を吸い取り、緩衝液(FACS buffer)で二回洗浄した後、CMV-PP65-HLA*A:0201 Dextramer-FITCとCD8a-PE抗体を入れて染色し、FACSによってCD8+/Dextramer+(%)の比率を検出し、さらにフローサイトメトリーによってCD8a+/Dextramer+ T細胞を分別して後続の体外殺傷実験に供した。
【0033】
実施例5 HLA:A*0201限定型CMV-pp65-TCR-T体外活性化実験
A.FACSによるTCR-T細胞のCD137、IFNγおよびTNF-αの発現レベルの検出
(1)レンチウイルスでK562細胞を感染させてそれぞれK562-A:0201-GFP、K562-A:0201-GFP-mCherry-vectorおよびK562-A:0201-GFP-pp65-mCherry細胞を調製した。
(2)実施例4で調製されたCMV-pp65-TCR-T/Reported-TCR-T細胞を取り、それぞれエフェクター標的比率1:1で、それぞれTCR-T細胞とK562細胞を丸底96ウェルプレートに接種して培養した。
(3)24 h共培養した後、細胞外染色を行い、固定して膜を破壊し、細胞内染色後、FACSによって共培養系におけるCD8+T細胞のCD137、TNFαおよびIFNγの発現レベルを検出することで、K562-A:0201-GFP-pp65-mCherry標的細胞が体外において特異的にCMV-pp65-TCR-T細胞を活性化させるか評価した。
【0034】
B.ElispotによるTCR-T細胞のIFNγの放出レベルの検出
(1)無菌のpH 7.4のカルシュウム・マグネシウムイオンフリーの1×DPBSでコーティング抗体(MabtechIFNγ、1-D1K:1 mg/ml)を 15 μg/ml(1.5 μg/100 μl)に希釈した。各ウェルに100 μlの希釈された1-D1K抗体溶液を入れ、4~8 ℃で一晩インキュベートした。
(2)プレートにおける抗体を除去し、無菌DPBSで洗浄した後、エフェクター標的比1:1の比率で細胞をプレートに敷き、各ウェルに100 μlの1640完全培地、3×104 CMV-pp65-TCR-T細胞またはK562細胞を入れ、細胞が均一になるように軽くプレートの縁部を叩き、インキュベーターに置き、37 ℃、5% CO2で20 h培養した。
(3)20 h後、細胞を除去し、細胞が完全に除去されるようにDPBSで4~6回洗浄し、さらに各ウェルに100 μlのビオチンで標識された検出抗体7-B6-1-biotinを入れて37 ℃で2 hインキュベートした。インキュベート終了後、DPBSでプレートを5回洗浄し、最後の一回は液体を捨てた後、軽く無菌紙に叩いて乾燥させた。その後、各ウェルに200 μlのStreptavidin-HRPを入れ、37 ℃で1 hインキュベートした。
(4)インキュベート終了後、DPBSでプレートを5回洗浄し、各ウェルに100 μlの基質TMBを入れ、はっきりとしたスポットが現れるまで反応させた。最後に、脱イオン水を入れて呈色反応を停止させた。Elispots-reader装置によってプレートをスキャンして統計分析を行った。
【0035】
実施例6 HLA:A*0201限定型CMV-pp65-TCR-Tのpp65-HLA*A0201-K562細胞に対する体外における特異的殺傷
(1)レンチウイルスでK562細胞を感染させてそれぞれK562-A:0201-GFP対照細胞およびK562-A:0201-GFP-pp65-mCherry標的細胞を調製した。
(2)実施例4で調製されたCMV-pp65-TCR-T/Reported-TCR-T細胞を取り、それぞれ1:1および5:1のエフェクター標的比で、T細胞とK562細胞を丸底96ウェルプレートに接種して培養した。
(3)24 h共培養した後、FACSによって共培養系におけるK562-A:0201-GFPまたはK562-A:0201-GFP-pp65-mCherryの比率を検出することで、CMV-pp65-TCR-TおよびReported-TCR-Tが特異的にK562-A:0201-GFP-pp65-mCherry細胞を殺傷するか評価し、そして二つのTCR-Tの殺傷効率を比較した。
【0036】
実施例7 HLA:A*0201限定型CMV-pp65-TCR-Tのpp65-HLA*A0201-K562細胞に対する体内における特異的殺傷
(1)レンチウイルスでK562細胞を感染させてK562-A:0201-GFP-pp65-luciferase標的細胞を、レンチウイルスでCD8+T細胞を感染させてCMV-pp65-TCR-Tエフェクター細胞を調製した。
(2)マウス皮下腫瘍移植モデル:day0ではNOGマウスの右側の脇下に1×106の標的細胞を皮下注射し、day3ではそれぞれ尻尾から5×106の初代CD8+ T細胞(CD8+T day3群)とCMV-pp65-TCR-T細胞(pp65-TCR-T day3群)を静脈注射し、さらにday7では尻尾から5×106のCMV-pp65-TCR-T細胞(pp65-TCR-T day7群)を静脈注射した。腫瘍細胞の注射後のd0(+4h)、d7、d14、d21、d28、d35でマウスに対して生物発光イメージングを行って腫瘍細胞におけるルシフェラーゼ(luciferase)の発現を検出し、そしてそのルシフェラーゼの光子数強度を定量することで、CMV-pp65-TCR-TがK562-A:0201-GFP-pp65-luciferase標的細胞の生長を抑制するか評価した。
(3)マウス尾静脈転移モデル:day0ではNOGマウスの尻尾から1×106の標的細胞を静脈注射し、day3ではそれぞれ尻尾から1×107の初代CD8+ T細胞とCMV-pp65-TCR-T細胞を静脈注射した。腫瘍細胞の注射後のd0(+4h)、d28、d35、d42、d49、d56でマウスに対して生物発光イメージングを行って腫瘍細胞におけるルシフェラーゼの発現を検出し、そしてそのルシフェラーゼの光子数強度を定量することで、CMV-pp65-TCR-Tの標的細胞K562-A:0201-GFP-pp65-luciferaseに対する抑制作用を評価した。
【0037】
実験結果:
CMV-pp65-TCR-Tのスクリーニングの流れ:
図1は本発明のCMV-pp65-TCR-Tの特異性刺激およびスクリーニングの流れで、試験全体は健康なHLA-A:0201ドナーのCD8+ T細胞を自家のmDCにpp65ポリペプチドと搭載して二回刺激した後、CMV-PP65-HLA*A:0201 DextramerでCMV-pp65抗原特異的TCR-T細胞に対して特異性の分析を行った。
フローサイトメトリーの結果(
図2)から、二回のmDC-pp65ポリペプチドによる刺激後、健康なドナーD6のCD8a
+/Dextramer
+ Tの比率が0.16%から81.3%に向上したことが示され、CMV-pp65特異的TCR-T細胞が体外において特異的に増幅したことがわかる。
【0038】
単細胞シークエンシングによるCMV-pp65-TCR配列の獲得:
自家mDCにpp65ポリペプチドを搭載して二回刺激した後、CMV-PP65-HLA*A:0201 DextramerおよびCD8a抗体でCMV-pp65抗原特異的TCR-T細胞に対してフローサイトメトリーによる分別を行い、得られたCMV-pp65-TCR-T細胞を10×Genomics法によって単細胞シークエンシングし、CMV-pp65-TCR-T細胞のαとβ鎖の配列を得た。
単細胞シークエンシング後、得られた頻度のトップ10位をランキングした。単細胞シークエンシングの結果から、分別されたCD8a+/Dextramer+ T細胞における99.64%のT細胞クローンが一つのTCR-Tで構成されることが示され、本実験(抗体特異的T細胞分別、Antigen-specific T cell priming)の特異性が良いことが証明された。当該T細胞クローンは2本のα鎖を含むが、そのうちの1本は余分なα鎖で、その後でCMV-PP65-HLA*A:0201 Dextramer体外結合実験によって排除された。
最終的に得られたTCR配列は以下の通りである。
CMV-pp65-TCR:
MGPQLLGYVVLCLLGAGPLEAQVTQNPRYLITVTGKKLTVTCSQNMNHEYMSWYRQDPGLGLRQIYYSMNVEVTDKGDVPEGYKVSRKEKRNFPLILESPSPNQTSLYFCASSLEGYTEAFFGQGTRLTVVEDLRNVTPPKVSLFEPSKAEIANKQKATLVCLARGFFPDHVELSWWVNGKEVHSGVCTDPQAYKESNYSYCLSSRLRVSATFWHNPRNHFRCQVQFHGLSEEDKWPEGSPKPVTQNISAEAWGRADCGITSASYQQGVLSATILYEILLGKATLYAVLVSTLVVMAMVKRKNSRAKRGSGATNFSLLKQAGDVEENPGPMEKNPLAAPLLILWFHLDCVSSILNVEQSPQSLHVQEGDSTNFTCSFSSSNFYALHWYRWETAKSPEALFVMTLNGDEKKKGRISATLNTKEGYSYLYIKGSQPEDSATYLCAFPYNNNDMRFGAGTRLTVEPDIQNPEPAVYQLKDPRSQDSTLCLFTDFDSQINVPKTMESGTFITDKCVLDMKAMDSKSNGAIAWSNQTSFTCQDIFKETNATYPSSDVPCDATLTEKSFETDMNLNFQNLSVMGLRILLLKVAGFNLLMTLRLWSS(配列番号1)、配列におけるCは人工的突然変異によって導入されたシステイン残基である
コドン最適化されたTCRコード配列は以下の通りである。
ATGGGGCCCCAGCTTTTGGGTTATGTAGTTCTTTGTCTCCTGGGCGCTGGACCGCTGGAAGCACAAGTCACTCAAAACCCTAGGTACCTGATCACCGTGACCGGAAAGAAGCTGACTGTGACCTGCTCTCAGAACATGAACCATGAATACATGTCATGGTACAGGCAGGATCCTGGGCTCGGACTTAGACAGATTTACTACTCTATGAATGTGGAGGTGACAGATAAAGGGGATGTGCCAGAAGGCTATAAGGTCTCCAGGAAGGAGAAGAGAAACTTTCCCTTGATCTTGGAGTCTCCGTCCCCAAACCAGACCTCTCTGTACTTCTGCGCTTCCTCCCTCGAGGGGTACACCGAGGCATTTTTTGGACAGGGGACTAGACTGACCGTGGTGGAGGATCTGAGAAATGTGACTCCACCCAAGGTCTCCTTGTTTGAGCCATCAAAAGCAGAGATTGCAAACAAACAAAAGGCTACCCTCGTGTGCTTGGCCAGGGGCTTCTTCCCTGACCACGTGGAGCTGAGCTGGTGGGTGAATGGCAAGGAGGTCCACAGTGGGGTCTGCACGGACCCTCAGGCCTACAAGGAGAGCAATTATAGCTACTGCCTGAGCAGCCGCCTGAGGGTCTCTGCTACCTTCTGGCACAATCCTCGCAACCACTTCCGCTGCCAAGTGCAGTTCCATGGGCTTTCAGAGGAGGACAAGTGGCCAGAGGGCTCACCCAAACCTGTCACACAGAACATCAGTGCAGAGGCCTGGGGCCGAGCAGACTGTGGGATTACCTCAGCATCCTATCAACAAGGGGTCTTGTCTGCCACCATCCTCTATGAGATCCTGCTAGGGAAAGCCACCCTGTATGCTGTGCTTGTCAGTACACTGGTGGTGATGGCTATGGTCAAAAGAAAGAATTCAAGAGCCAAAAGAGGTTCTGGCGCCACCAACTTCAGCCTGCTGAAGCAGGCCGGCGACGTGGAGGAGAACCCCGGCCCCATGGAAAAGAACCCTCTGGCTGCCCCCCTGTTGATACTGTGGTTCCACCTGGACTGCGTGAGCAGCATTCTGAACGTCGAACAGTCCCCTCAGTCTCTGCACGTCCAAGAGGGAGATTCCACCAATTTTACTTGTAGTTTTAGCTCCAGCAATTTCTACGCCCTGCACTGGTACCGGTGGGAGACCGCCAAGTCTCCCGAAGCCCTCTTTGTGATGACCCTCAACGGCGATGAAAAAAAAAAAGGGAGAATTAGCGCCACCCTGAACACTAAAGAGGGCTATTCTTACTTGTATATAAAAGGGTCTCAGCCTGAGGACAGCGCTACATACTTGTGTGCTTTTCCTTATAACAACAACGATATGAGGTTCGGGGCCGGAACAAGGTTGACCGTTGAGCCTGACATCCAGAACCCAGAACCTGCTGTGTACCAGTTAAAAGATCCTCGGTCTCAGGACAGCACCCTCTGCCTGTTCACCGACTTTGACTCCCAAATCAATGTGCCGAAAACCATGGAATCTGGAACGTTCATCACTGACAAATGCGTGCTGGACATGAAAGCTATGGATTCCAAGAGCAATGGGGCCATTGCCTGGAGCAACCAGACAAGCTTCACCTGCCAAGATATCTTCAAAGAGACCAACGCCACCTACCCCAGTTCAGACGTTCCCTGTGATGCCACGTTGACCGAGAAAAGCTTTGAAACAGATATGAACCTAAACTTTCAAAACCTGTCAGTTATGGGACTCCGAATCCTCCTGCTGAAAGTAGCGGGATTTAACCTGCTCATGACGCTGAGGCTGTGGTCCAGT(配列番号2)
【0039】
中では、
α鎖およびそのコード配列は以下の通りである。
MEKNPLAAPLLILWFHLDCVSSILNVEQSPQSLHVQEGDSTNFTCSFSSSNFYALHWYRWETAKSPEALFVMTLNGDEKKKGRISATLNTKEGYSYLYIKGSQPEDSATYLCAFPYNNNDMRFGAGTRLTVEPDIQNPEPAVYQLKDPRSQDSTLCLFTDFDSQINVPKTMESGTFITDKCVLDMKAMDSKSNGAIAWSNQTSFTCQDIFKETNATYPSSDVPCDATLTEKSFETDMNLNFQNLSVMGLRILLLKVAGFNLLMTLRLWSS(配列番号3)
ATGGAAAAGAACCCTCTGGCTGCCCCCCTGTTGATACTGTGGTTCCACCTGGACTGCGTGAGCAGCATTCTGAACGTCGAACAGTCCCCTCAGTCTCTGCACGTCCAAGAGGGAGATTCCACCAATTTTACTTGTAGTTTTAGCTCCAGCAATTTCTACGCCCTGCACTGGTACCGGTGGGAGACCGCCAAGTCTCCCGAAGCCCTCTTTGTGATGACCCTCAACGGCGATGAAAAAAAAAAAGGGAGAATTAGCGCCACCCTGAACACTAAAGAGGGCTATTCTTACTTGTATATAAAAGGGTCTCAGCCTGAGGACAGCGCTACATACTTGTGTGCTTTTCCTTATAACAACAACGATATGAGGTTCGGGGCCGGAACAAGGTTGACCGTTGAGCCTGACATCCAGAACCCAGAACCTGCTGTGTACCAGTTAAAAGATCCTCGGTCTCAGGACAGCACCCTCTGCCTGTTCACCGACTTTGACTCCCAAATCAATGTGCCGAAAACCATGGAATCTGGAACGTTCATCACTGACAAATGCGTGCTGGACATGAAAGCTATGGATTCCAAGAGCAATGGGGCCATTGCCTGGAGCAACCAGACAAGCTTCACCTGCCAAGATATCTTCAAAGAGACCAACGCCACCTACCCCAGTTCAGACGTTCCCTGTGATGCCACGTTGACCGAGAAAAGCTTTGAAACAGATATGAACCTAAACTTTCAAAACCTGTCAGTTATGGGACTCCGAATCCTCCTGCTGAAAGTAGCGGGATTTAACCTGCTCATGACGCTGAGGCTGTGGTCCAGT(配列番号4)
β鎖およびそのコード配列は以下の通りである。
MGPQLLGYVVLCLLGAGPLEAQVTQNPRYLITVTGKKLTVTCSQNMNHEYMSWYRQDPGLGLRQIYYSMNVEVTDKGDVPEGYKVSRKEKRNFPLILESPSPNQTSLYFCASSLEGYTEAFFGQGTRLTVVEDLRNVTPPKVSLFEPSKAEIANKQKATLVCLARGFFPDHVELSWWVNGKEVHSGVCTDPQAYKESNYSYCLSSRLRVSATFWHNPRNHFRCQVQFHGLSEEDKWPEGSPKPVTQNISAEAWGRADCGITSASYQQGVLSATILYEILLGKATLYAVLVSTLVVMAMVKRKNS(配列番号5)
ATGGGGCCCCAGCTTTTGGGTTATGTAGTTCTTTGTCTCCTGGGCGCTGGACCGCTGGAAGCACAAGTCACTCAAAACCCTAGGTACCTGATCACCGTGACCGGAAAGAAGCTGACTGTGACCTGCTCTCAGAACATGAACCATGAATACATGTCATGGTACAGGCAGGATCCTGGGCTCGGACTTAGACAGATTTACTACTCTATGAATGTGGAGGTGACAGATAAAGGGGATGTGCCAGAAGGCTATAAGGTCTCCAGGAAGGAGAAGAGAAACTTTCCCTTGATCTTGGAGTCTCCGTCCCCAAACCAGACCTCTCTGTACTTCTGCGCTTCCTCCCTCGAGGGGTACACCGAGGCATTTTTTGGACAGGGGACTAGACTGACCGTGGTGGAGGATCTGAGAAATGTGACTCCACCCAAGGTCTCCTTGTTTGAGCCATCAAAAGCAGAGATTGCAAACAAACAAAAGGCTACCCTCGTGTGCTTGGCCAGGGGCTTCTTCCCTGACCACGTGGAGCTGAGCTGGTGGGTGAATGGCAAGGAGGTCCACAGTGGGGTCTGCACGGACCCTCAGGCCTACAAGGAGAGCAATTATAGCTACTGCCTGAGCAGCCGCCTGAGGGTCTCTGCTACCTTCTGGCACAATCCTCGCAACCACTTCCGCTGCCAAGTGCAGTTCCATGGGCTTTCAGAGGAGGACAAGTGGCCAGAGGGCTCACCCAAACCTGTCACACAGAACATCAGTGCAGAGGCCTGGGGCCGAGCAGACTGTGGGATTACCTCAGCATCCTATCAACAAGGGGTCTTGTCTGCCACCATCCTCTATGAGATCCTGCTAGGGAAAGCCACCCTGTATGCTGTGCTTGTCAGTACACTGGTGGTGATGGCTATGGTCAAAAGAAAGAATTCA(配列番号6)
【0040】
α鎖可変領域およびそのコード配列は以下の通りである。
MEKNPLAAPLLILWFHLDCVSSILNVEQSPQSLHVQEGDSTNFTCSFSSSNFYALHWYRWETAKSPEALFVMTLNGDEKKKGRISATLNTKEGYSYLYIKGSQPEDSATYLCAFPYNNNDMRFGAGTRLTVEP(配列番号7)
ATGGAAAAGAACCCTCTGGCTGCCCCCCTGTTGATACTGTGGTTCCACCTGGACTGCGTGAGCAGCATTCTGAACGTCGAACAGTCCCCTCAGTCTCTGCACGTCCAAGAGGGAGATTCCACCAATTTTACTTGTAGTTTTAGCTCCAGCAATTTCTACGCCCTGCACTGGTACCGGTGGGAGACCGCCAAGTCTCCCGAAGCCCTCTTTGTGATGACCCTCAACGGCGATGAAAAAAAAAAAGGGAGAATTAGCGCCACCCTGAACACTAAAGAGGGCTATTCTTACTTGTATATAAAAGGGTCTCAGCCTGAGGACAGCGCTACATACTTGTGTGCTTTTCCTTATAACAACAACGATATGAGGTTCGGGGCCGGAACAAGGTTGACCGTTGAGCCT(配列番号8)
それに含まれる3つのCDR配列は以下の通りである。
α-CDR1:SSNFYA(配列番号9)、コード配列:TCCAGCAATTTCTACGCC(配列番号10);
α-CDR2:MTLNGDE(配列番号11)、コード配列:ATGACCCTCAACGGCGATGAA(配列番号12);
α-CDR3:CAFPYNNNDMRF(配列番号13)、コード配列:TGTGCTTTTCCTTATAACAACAACGATATGAGGTTC(配列番号14)
【0041】
β鎖可変領域およびそのコード配列は以下の通りである。
MGPQLLGYVVLCLLGAGPLEAQVTQNPRYLITVTGKKLTVTCSQNMNHEYMSWYRQDPGLGLRQIYYSMNVEVTDKGDVPEGYKVSRKEKRNFPLILESPSPNQTSLYFCASSLEGYTEAFFGQGTRLTVV(配列番号15)
ATGGGGCCCCAGCTTTTGGGTTATGTAGTTCTTTGTCTCCTGGGCGCTGGACCGCTGGAAGCACAAGTCACTCAAAACCCTAGGTACCTGATCACCGTGACCGGAAAGAAGCTGACTGTGACCTGCTCTCAGAACATGAACCATGAATACATGTCATGGTACAGGCAGGATCCTGGGCTCGGACTTAGACAGATTTACTACTCTATGAATGTGGAGGTGACAGATAAAGGGGATGTGCCAGAAGGCTATAAGGTCTCCAGGAAGGAGAAGAGAAACTTTCCCTTGATCTTGGAGTCTCCGTCCCCAAACCAGACCTCTCTGTACTTCTGCGCTTCCTCCCTCGAGGGGTACACCGAGGCATTTTTTGGACAGGGGACTAGACTGACCGTGGTG(配列番号16)
【0042】
それに含まれる3つのCDR配列は以下の通りである。
β-CDR 1:MNHEY(配列番号17)、コード配列:ATGAACCATGAATAC(配列番号18);
β-CDR 2:SMNVEV(配列番号19)、コード配列:TCTATGAATGTGGAGGTG(配列番号20);
β-CDR 3:CASSLEGYTEAFF(配列番号21)、コード配列:TGCGCTTCCTCCCTCGAGGGGTACACCGAGGCATTTTTT(配列番号22)。
【0043】
CMV-pp65-TCR-Tベクターの構築および配列最適化:
シークエンシングによってpp65-TCR(配列番号1)の配列を得た後、配列の最適化を行い、具体的に以下のことを含む:
(1)その定常領域を改造し、内因性TCR鎖とのミスマッチを阻止した;
(2)発現配列に対してヒト由来コドン最適化を行い、TCRタンパク質の発現量を向上させた;
(3)P2Aおよびフーリン切断によってα鎖およびβ鎖が一つのプラスミドにおいて同時に発現され、P2Aの単独使用による末端のプロリン残留が生じないようにした。
その後、最適化されたpp65-TCR配列(
図3)をレンチウイルス発現ベクターにクローニングした。
【0044】
CMV-pp65-TCR-T体外結合実験:
293T細胞でTCRレンチウイルスのパッケージングを行い、CMV-pp65-TCRレンチウイルスで健康なHLA-A:0201ドナーのPBMCまたはjurkat Tを二回感染させた後、CMV-pp65-HLA*A:0201 Dextramerの染色を行い、フローサイトメトリーの結果から、Tetramer
+/mTCRβC
+jurkatT(
図4のA)およびDextramer
+/初代CD8
+ T(
図4のB)細胞の群分けが明らかであったことがわかり、当該結果から、本プロジェクトのスクリーニングおよび同定されたCMV-pp65-TCR-Tは健康なドナーのjurkatTおよび初代CD8
+ T細胞において正常に発現され、そしてCMV-PP65-HLA*A:0201 Tetramer/Dextramerと結合することができることが示された。
【0045】
CMV-pp65-TCR-T体外活性化実験:
体外において対照細胞K562-A:0201-GFP、ベクター対照群の細胞K562-A:0201-GFP-mCherry-vector、および標的細胞K562-A:0201-GFP-pp65-mCherryを調製し、CMV-pp65-TCR-Tエフェクター細胞と標的細胞または対照(ベクター対照およびブランク対照)を体外において共培養し、細胞内外の染色後、フローサイトメトリーによってCMV-pp65-TCR-T細胞のCD137およびIFNγの発現レベルを検出した。
フローサイトメトリー実験の結果(
図5)から、K562-A:0201-GFP-pp65-mCherry標的細胞は体外において特異的にCMV-pp65-TCR-T細胞を活性化させ、活性化後、CMV-pp65-TCR-TのCD137およびIFNγの発現レベルが顕著に向上したが、ベクター対照群のK562細胞と対照K562細胞はCMV-pp65-TCR-T細胞に明らかな活性化作用が無かったことが示された。
また、IFNγ-Elispot実験の結果から、同様に、K562-A:0201-GFP-pp65-mCherry標的細胞は体外において特異的にCMV-pp65-TCR-T細胞を活性化させ、活性化後、CMV-pp65-TCR-TのIFNγ発現レベルが顕著に向上したが、対照細胞K562-A:0201-GFPはCMV-pp65-TCR-Tに活性化作用が無かったことが示された。
【0046】
CMV-pp65-TCR-T体外殺傷実験:
体外において標的細胞K562-A:0201-GFP-pp65-mCherry、CN102656188Aで公開されたReported TCR-Tおよび本プロジェクトのCMV-pp65-TCR-Tを調製した。
CMV-pp65-TCR-TまたはReported TCR-Tエフェクター細胞と標的細胞をエフェクター標的比1:1および5:1で、体外において24 h共培養した後、フローサイトメトリーによってGFP+標的細胞の比率を検出し、フローサイトメトリー実験の結果(
図6のA、B)から、CMV-pp65-TCR-TとReported TCR-T細胞はいずれも体外においてpp65を発現するK562-A:0201-GFP-pp65-mCherry細胞を殺傷したが、本プロジェクトで公開されたCMV-pp65-TCR-Tは殺傷効果の面においてReported TCR-Tよりも良かったことが示された。
その後、CMV-pp65-TCR-TおよびReported TCR-Tエフェクター細胞と標的細胞をエフェクター標的比1:1で体外において共培養し、24h後、細胞内染色を行い、さらにフローサイトメトリーによってサイトカインTNF-αの発現を検出することで、CMV-pp65-TCR-TおよびReported TCR-Tのサイトカイン放出の状況を評価した。フローサイトメトリー実験の結果から、本プロジェクトでスクリーニングおよび同定されたCMV-pp65-TCR-T細胞はReported TCR-Tよりも体外においてより高いレベルのTNF-αを放出し、特異的にpp65を発現するK562-A:0201-GFP-pp65-mCherry細胞を殺傷したが(
図6のC)、CMV-pp65-TCR-TとK562-A0201対照群細胞を共培養した後、TNF-αおよびIFN-γのサイトカイン放出がなかったことがわかり、その特異性が良いことが示された。
【0047】
CMV-pp65-TCR-Tの皮下腫瘍移植モデルにおける体内殺傷実験
体外においてK562-A:0201-GFP-pp65-luciferase標的細胞およびCMV-pp65-TCR-Tエフェクター細胞を調製し、day0ではNOGマウスの右側の脇下に1×10
6の標的細胞を皮下注射し、day3ではそれぞれ尻尾から5×10
6の初代CD8
+ T細胞(CD8
+T day3群)とCMV-pp65-TCR-T細胞(pp65-TCR-T day3群)を静脈注射し、さらにday7では尻尾から5×10
6のCMV-pp65-TCR-T細胞(pp65-TCR-T day7群)を静脈注射した(
図7のA)。腫瘍細胞の注射後の0-5週目にマウスに対して生物発光イメージング検出を行い(
図7のB)、そしてマウスのルシフェラーゼの光子数強度を定量した。体内実験の結果から、本プロジェクトのCMV-pp65-TCR-T細胞は体内において特異的にK562-A:0201-GFP-pp65-luciferase標的細胞を殺傷することができ(
図7のB、C)、day3またはday7のCMV-pp65-TCR-Tの注射はいずれも顕著に腫瘍細胞K562-A:0201-GFP-pp65-luciferaseの生長を抑制し、顕著にマウスの生存時間を延長させることができ(
図7のD)、その標的細胞に対する殺傷効果が顕著にpp65-TCR形質導入が行われなかったCD8
+T対照群細胞よりも良いことが示された。
【0048】
CMV-pp65-TCR-Tの転移モデルにおける体内殺傷実験:
体外においてK562-A:0201-GFP-pp65-luciferase標的細胞およびCMV-pp65-TCR-Tエフェクター細胞を調製し、day0ではNOGマウスの尻尾から1×10
6の標的細胞を静脈注射し、day3ではそれぞれ尻尾から5×10
7の初代CD8
+ T細胞とCMV-pp65-TCR-T細胞を静脈注射した(
図8のA)。腫瘍細胞の注射後の4-8週目にマウスに対して生物発光イメージング検出を行い(
図8のB)、そしてマウスのルシフェラーゼの光子数強度を定量した。
体内実験の結果から、本プロジェクトのCMV-pp65-TCR-T細胞は体内において特異的にK562-A:0201-GFP-pp65-luciferase標的細胞を殺傷することができ(
図8のBとC)、day3のCMV-pp65-TCR-Tの注射は顕著に腫瘍細胞K562-A:0201-GFP-pp65-luciferaseの生長を抑制し、その抑制効果が顕著にpp65-TCR形質導入が行われなかったCD8+T対照群細胞よりも良いことが示された。
【0049】
技術効果
CMVはヒト間における感染が非常に広く、中国の成人の感染率が95%以上に達し、通常、不顕性感染になっており、多くの感染者は臨床症状がないが、一定の条件において複数の臓器およびシステムを侵すと重度な疾患になることがある。CMV活性化は造血幹細胞移植(HSCT)患者においてよく見られ、一部の患者は薬物治療効果が劣るか、薬剤耐性が低く、薬物治療クールを完成することができい。患者は免疫機能が低下し、有効にCMVを排除することができず、CMVに関連する発熱から臓器に及ぶ一連の関連性疾患を引き起こす可能性があり、高い病死率を有する。既存の抗CMV薬も、剤形が単調、標的が類似、顆粒球減少/腎臓損傷につながるなど、不足な点が多い。そのため、HSCT患者のCMV感染の治療のための新たな臨床治療プロトコールが切望されている。本プロジェクトのCMV-TCR-T細胞は、正確にターゲティングしてCMVウイルスに感染した標的細胞を排除すると同時に、間接的にTCR-T細胞が媒介する免疫再構築により、ウイルスを徹底的に排除し、そして再感染を防止し、長期間で保護作用を発揮することができる。
本プロジェクトの発明のCMV-pp65-TCR-Tは以下の特徴を有する。
体内外実験から、CMV-pp65-TCR-Tは正確にターゲティングして迅速にCMV抗原を発現する標的細胞を排除することができ、体内におけるタンパク質の発現量が高く、かつ内因性TCR鎖とミスマッチがなく、殺傷能力が強く、特異性が高いなどが示された。そして、体外実験から、本プロジェクトのCMV-pp65-TCR-TはCN102656188Aで公開されたReported-TCR-Tよりも標的細胞に対する殺傷作用が顕著で、有効にHSCT患者またはほかの移植患者のCMV感染の治療に使用することができることが示された。
また、既存の関連する公開発明と比べ、本プロジェクトはTCR-T分野で公認されたゴールド基準のELISPOT(酵素結合イムノスポット)体外実験の証拠を提供し、本プロジェクトのスクリーニングによって得られたTCRは特異的にCMV抗原を認識することができることが示された。同時萎、本プロジェクトの発明は尾静脈モデルによってCMV特異的TCR搭載T細胞が特異的にCMV抗原を発現する標的細胞を排除することが実証された以外、より臨床CMV感染の状況に近い皮下腫瘍移植モデルで、同様に本プロジェクトのスクリーニングによって得られたCMV特異的TCR搭載T細胞が特異的にCMV抗原を発現する標的細胞を排除することが実証された。
つまり、本プロジェクトの発明は完全で、分野の基準に合い、かつより臨床CMV感染状況に近い体内外データを提供し、スクリーニングによって得られたCMV抗原特異的TCRの特異性、有効性が十分に実証された。
【0050】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【配列表】
【手続補正書】
【提出日】2024-08-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)であって、
TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、
TCRα鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列がCAFPYNNNDMRF(配列番号13)
であり、かつ/または
TCRβ鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列がCASSLEGYTEAFF(配列番号21)であ
る、TCR。
【請求項2】
TCRα
鎖可変ドメイン
の3つの相補性決定領域(CDR)は、
α-CDR1:SSNFYA(配列番号9)、
α-CDR2:MTLNGDE(配列番号11)、
α-CDR3:CAFPYNNNDMRF(配列番号13)で
あり;
かつ/または
TCRβ鎖可変ドメインの3つの相補性決定領域は、
β-CDR1:MNHEY(配列番号17)、
β-CDR2:SMNVEV(配列番号19)、
β-CDR3:CASSLEGYTEAFF(配列番号21)である
、
請求項1に記載のT細胞受容体(TCR)。
【請求項3】
TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、
TCRα鎖可変ドメインは配列番号7と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列で
あり、
かつ/またはTCRβ鎖可変ドメインは配列番号15と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列である
、請求項1に記載のTCR。
【請求項4】
TCRのアミノ酸配列は配列番号1で示される
、請求項1に記載のTCR。
【請求項5】
多価TCR複合体であって、少なくとも2つのTCR分子を含み、かつそのうちの少なくとも1つのTCR分子は
請求項
1に記載のTCRであ
る、TCR複合体。
【請求項6】
請求項1に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補配列を含む
、核酸分子。
【請求項7】
核酸分子は、TCRα鎖可変ドメインをコードする
、配列番号8のヌクレオチド配
列を含み、
かつ/または
核酸分子は、TCRβ鎖可変ドメインをコードする
、配列番号16のヌクレオチド配
列を含む
、
請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
請求項6
に記載の核酸分子を含み、好適に
は、ウイルスベクターで
あり、より好適に
は、レンチウイルスベクターである
、ベクター。
【請求項9】
分離された宿主細胞であって、請求項8に記載のベクターを含むか、
または外来の請求項6
に記載の核酸分子が
染色体に組み込まれている
、宿主細胞。
【請求項10】
請求項6に記載の核酸分子
で形質導入されており、好適に
は、T細胞または幹細胞である、細胞。
【請求項11】
請求項8に記載のベクターで形質導入されており、好適には、T細胞または幹細胞である、細胞。
【請求項12】
薬学的に許容されるビヒクルと、請求項1~4のいずれか
一項に記載のTCR、請求項5
に記載のTCR複合体、請求項6に記載の核酸分子、
または請求項10
若しくは11に記載の細胞とを含有する
、薬物組成物。
【請求項13】
請求項1~4のいずれか
一項に記載のT細胞受容体、または請求項5に記載のTCR複合体
、または請求項10
若しくは11に記載の細胞の使用であって、サイトメガロウイルス感染症を治療する
ための薬物の製造
における、使用。
【請求項14】
治療を必要とする対象において疾患を治療する
ための医薬であって、
請求項
12に記載の薬物組成物
の適量を
含む、医薬。
【請求項15】
疾患はサイトメガロウイルス感染に関連する疾患
である、請求項
14に記載の
医薬。
【請求項16】
サイトメガロウイルス感染に関連する疾患が、CMV網膜炎、CMV肺炎、CMV胃腸炎、CMV脳炎からなる群から選択される、請求項15に記載の医薬。
【国際調査報告】