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特表2025-505010テルリプレシンを用いた疾患の治療方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-19
(54)【発明の名称】テルリプレシンを用いた疾患の治療方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/095 20190101AFI20250212BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
A61K38/095
A61P7/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024546209
(86)(22)【出願日】2023-02-03
(85)【翻訳文提出日】2024-09-20
(86)【国際出願番号】 US2023012258
(87)【国際公開番号】W WO2023150254
(87)【国際公開日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】63/306,368
(32)【優先日】2022-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524289983
【氏名又は名称】バイオビー インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マーカム,ペネロペ
(72)【発明者】
【氏名】パルンボ,ジョセフ,エム.
【テーマコード(参考)】
4C084
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA17
4C084BA26
4C084DB29
4C084MA17
4C084MA59
4C084MA66
4C084NA06
4C084NA14
4C084ZA51
(57)【要約】
アルギニンバソプレシンまたはその類似体を用いた、低ナトリウム血症のリスクを低減する疾患の治療方法が提供される。具体的には、本発明は、テルリプレシンとガバペンチンまたはプレガバリンの併用投与を受けている被験体が、重度の低ナトリウム血症の発生率が高いという新規な観察に関する。本発明の方法は、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬剤を投与されている被験体を、アルギニンバソプレシンもしくはその類似体による治療から除外すること、またはアルギニンバソプレシンもしくはその類似体を投与する前に、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬剤の被験体への用量を減量すること、または、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与期間中に、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の投与を中止するか、またはアルギニンバソプレシンもしくはその類似体の用量を減量することのいずれかを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体にアルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する方法であって、
被験体が、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の群より選択される1種以上の薬物を投与されているかどうかを評価する工程、ならびに
被験体が1種以上の上記薬物を投与されていない場合にのみ、アルギニンバソプレシンまたはその類似体を被験体に投与する工程、
を含む、上記方法。
【請求項2】
前記1種以上の薬物がガバペンチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与が、持続点滴、静脈内注射ボーラス、静脈内注射緩徐ボーラス、注射もしくは注入による皮下投与、または経鼻送達を含む、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
被験体にアルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する方法であって、
被験体が、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の群より選択される1種以上の薬物を投与されているかどうかを評価する工程、ならびに
被験体の上記1種類以上の薬物の用量を減量する工程、
被験体の上記1種以上の薬物の用量を減量した後にのみ、アルギニンバソプレシンまたはその類似体を被験体に投与する工程、
を含む、上記方法。
【請求項5】
前記1種以上の薬物が、ガバペンチンまたはプレガバリンから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与が、持続点滴、静脈内注射ボーラス、静脈内注射緩徐ボーラス、注射もしくは注入による皮下投与、または経鼻送達を含む、請求項4または5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与されている被験体における低ナトリウム血症のリスクを低減する方法であって、
被験体が、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の群より選択される1種以上の薬物を投与されているかどうかを評価する工程、
被験体が上記1種以上の薬物を投与されている場合、被験体へのアルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与を停止する工程、
被験体が上記1種以上の薬物の投与の中止への移行または用量の減量への移行の後に、被験体へのアルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与を開始する工程であって、被験体が上記1種以上の薬物の投与の中止への移行または用量の減量への移行の後のアルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与は、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の同量のまたは減量した用量を含む工程
を含む、上記方法。
【請求項8】
前記1種以上の薬物が、ガバペンチンまたはプレガバリンから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与が、持続点滴、静脈内注射ボーラス、静脈内注射緩徐ボーラス、注射もしくは注入による皮下投与、または経鼻送達を含む、請求項7または8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
治療有効量のアルギニンバソプレシンまたはその類似体を被験体に投与し、低ナトリウム血症について被験体をモニタリングすることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年2月3日に出願された米国仮出願第63/306,368号の優先権を主張するものであり、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
テルリプレシンは、より強力なその代謝物である8-リジンバソプレシン(8-LVP)のプロドラッグと考えられており、ヒトのノナペプチドホルモンであるアルギニンバソプレシン(AVP)の類似体である。テルリプレシンは、アミノ末端に3つのグリシル残基(glycyl residue)が付加され、8位がアルギニンからリジンに置換されている点でAVPと異なる。静脈内投与後、末端のグリシン残基(glycine residue)は順次除去され、8-LVPとなる。テルリプレシンは、バソプレシン1型受容体(体循環、内臓循環、腎循環、および冠状循環の血管平滑筋に高密度で存在し、また子宮筋層および血小板にも存在する)に8-LVPが高い親和性で結合することにより、その血管収縮活性を媒介する。AVPと8-LVPはいずれも腎臓のバソプレシン2型受容体に結合し、アクアポリンチャネルを介した水分の再吸収を刺激することにより抗利尿作用を引き起こす。バソプレシン2型受容体に対する8-LVPの結合親和性はAVPより約12倍低い。AVP類似体であるデスモプレシンは、夜尿症の治療のため外来での実施(outpatient basis)で長期的に使用されており、V2型受容体に選択的に結合し、抗利尿活性を有するが、血管収縮活性は持たない。オキシトシン(AVPとはアミノ酸が2つだけ異なるノナペプチド)も、V2型受容体に結合し、抗利尿活性を示す。
【0003】
テルリプレシンは米国以外では、肝硬変の2つの生命を脅かす合併症、すなわち1型肝腎症候群(HRS-1、最近ではHRS-急性腎障害(HRS-AKI)と呼ばれる)と出血性食道静脈瘤(BEVまたはEVBと呼ばれる)の治療薬として承認されている。
【0004】
V2受容体を活性化するバソプレシンおよびその類似体は、抗利尿作用と水分貯留を引き起こし、血清ナトリウムの減少や低ナトリウム血症のリスクを伴う。デスモプレシンを誘因とした低ナトリウム血症の発生率は、夜間頻尿の成人において7.6%と報告されている(Neurourol. Urodyn. 23, 302-305. doi:10.1002/nau.20038)。テルリプレシンを単回ボーラス投与で急性(acutely)投与すると、抗利尿作用が発現し(Krag, 2008)、これにより水分貯留、循環血液量増加(hypervolemia)、血清ナトリウム濃度の希釈、および低ナトリウム血症(希釈性低ナトリウム血症)を引き起こす可能性があることが報告されている。実際、BEVの急性期治療(2mgのテルリプレシンボーラス注射を1日最大4回、最大2日間投与)では、テルリプレシンで治療した門脈圧亢進性出血患者の67%が、血清ナトリウムの5mmol以上の低下と定義される低ナトリウム血症を経験した(Sola, 2010)。しかし、肝硬変による門脈圧亢進症患者に対して非硬変性門脈圧亢進症患者では、重度の低ナトリウム血症(血清ナトリウムの減少が≧10mmol/L)の発生率が大幅に増加(4%に対して27%)しているため(Eriksen 2018)、テルリプレシンで治療した進行性肝硬変のBEV患者における低ナトリウム血症の発生率ははるかに低いと考えられる。
【0005】
低ナトリウム血症の発生率は、1型肝腎症候群で長期治療を受けている肝硬変患者では、BEVに比べてはるかに低いと報告されている(14%対41%、Kang 2013)。HRS患者に毎日のアルブミンと併用して14日間にわたってテルリプレシンを投与すると、血清ナトリウムの減少も改善することが報告されている(Ortega, 2002)。肝腎症候群の治療のためにテルリプレシンを最長14日間間欠的にボーラス注射した最大かつ最新のランダム化プラセボ対照試験では、テルリプレシンで処置した199人の患者で低ナトリウム血症の発生率が5%未満であったと報告されている(Wong, 2021 supplemental data Table S9a)。
【0006】
テルリプレシンを持続点滴(continuous infusion)として長期投与している肝硬変患者における低ナトリウム血症の発生率は、さらに低い頻度と予想される。テルリプレシンを持続点滴として投与することで、ボーラス静注(IV bolus dosing)を繰り返すよりも、この患者集団におけるテルリプレシンの抗利尿作用と低ナトリウム血症の発症の可能性を最小限に抑えることができる。ボーラス静脈内投与では、テルリプレシンのV1を介する薬力学的作用は3~4時間持続するが、ボーラス投与後4~6時間経つとV2を介する抗利尿作用が優位になる可能性がある(Escorsell 1997)。テルリプレシンをボーラス投与ではなく持続点滴として投与することで、V1作用がV2作用を上回る安定した血漿中濃度を維持して低ナトリウム血症のリスクを低減することにより、V2を介する抗利尿作用のリスクを最小限に抑えることができる。
【0007】
実際、再発性HRSまたは難治性腹水を伴う肝硬変患者に対して毎日アルブミンを投与せずに外来診療(outpatient setting)にてテルリプレシンを持続点滴投与するというより長期的な治療により、腎機能が改善し腹水が減少するだけでなく、血清ナトリウム濃度も改善することができると報告されている(McGlure 2019)。
【0008】
低ナトリウム血症、副腎不全、再発性肝腎症候群および/または腹水を含む肝硬変の合併症を治療または予防するために、外来での実施を含めテルリプレシンを長期的に使用することへの関心が高まっている。低ナトリウム血症は肝性脳症と関連性があり、発作や死亡のリスクさえも高める可能性があるため、外来診療の場ではモニタリングがより制限される中、テルリプレシンの使用に伴う低ナトリウム血症のリスクを減らすことは必須である。同様に、肝腎症候群、出血性静脈瘤、低血圧の治療など、より急性期の医療の現場では、患者の12%超で発生し、そのうち少なくとも30%に神経学的症状が現れると報告されている重度の低ナトリウム血症(血清ナトリウムの減少が10mmol/L超)のリスクを最小限に抑えることが重要である。このような状況では、血清ナトリウムの減少は急速に起こる可能性があり、大半の患者は治療3日目までに血清ナトリウムの減少を経験する[Kang 2013]。したがって、テルリプレシン、バソプレシン、バソプレシンの類似体、またはV2受容体活性を有する関連ペプチドの投与を受けている患者において、特に患者のモニタリング頻度が低い外来診療において、低ナトリウム血症のリスクを予測し、低減する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、被験体にアルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する方法であって、被験体が、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の群より選択される1種以上の薬物を投与されているかどうかを評価する工程、ならびに被験体が1種以上のこのような薬物を投与されていない場合にのみ、被験体にアルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する工程を含む、上記方法に関する。
【0010】
本開示はまた、被験体にアルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する方法であって、被験体が、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の群より選択される1種以上の薬物を投与されているかどうかを評価する工程、1種以上のこのような薬物の被験体への用量を減量する工程、ならびに1種以上のこのような薬物の被験体への用量を減量した後(once)にのみ、被験体にアルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する工程、を含む上記方法に関する。
【0011】
本開示はまた、アルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与されている被験体における低ナトリウム血症のリスクを低減する方法にも関し、この方法は、被験体が、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の群より選択される1種以上の薬物を投与されているかどうかを評価する工程、被験体が1種以上のこのような薬物を投与されている場合、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の被験体への投与を中止するかまたはその用量を減量する工程、ならびに被験体が1種以上のこのような薬物の投与の中止へ移行(weaned off)または用量の減量へ移行(weaned to a reduced dose)してから、被験体へのアルギニンバソプレシンまたはその類似体の元の用量での投与を再開する工程、を含む。
【0012】
前述の実施形態のいずれかにおいて、1種以上のこのような薬物はガバペンチンまたはプレガバリンである。
【0013】
前述の実施形態のいずれにおいても、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与は、持続点滴、静脈内注射ボーラス投与、静脈内注射緩徐ボーラス投与、注射もしくは注入による皮下投与、または経鼻送達を含む。
【0014】
本開示はまた、治療有効量のアルギニンバソプレシンまたはその類似体を被験体に投与する工程、および低ナトリウム血症について被験体の血清ナトリウムレベルをモニタリングする工程を含む方法にも関する。
【0015】
本開示を説明するため、本開示の特定の実施形態が図面に描かれている。しかしながら、本開示は、図面に描かれた実施形態の正確な手順および手段に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】テルリプレシンの持続点滴による治療開始前後の、患者1の1日毎のテルリプレシンの用量、利尿薬の用量、および血清ナトリウム値を示す。
図2】テルリプレシンの持続点滴による治療開始前後の、患者2の1日毎のテルリプレシンの用量、利尿薬の用量、および血清ナトリウム値を示す。
図3】テルリプレシンの持続点滴による治療開始前後の、患者3の1日毎のテルリプレシンの用量、利尿薬の用量、および血清ナトリウム値を示す。
図4】テルリプレシンの持続点滴による治療開始前後の、患者4の1日毎のテルリプレシンの用量、利尿薬の用量、および血清ナトリウム値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、アルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する新規な方法に関する。当業者であれば、アルギニンバソプレシンには種々の類似体があることを認識しているであろう。限定する訳ではないが、アルギニンバソプレシンの類似体の例として、テルリプレシン、アルギプレシン、デスモプレシン、フェリプレシン、リプレシン、またはオルニプレシンが挙げられる。本方法は、ガバペンチン、ガバペンチンの類似体、ガバペンチノイド、または低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物を同時に投与されていない被験体にのみ、アルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与する、あるいは、ガバペンチン、ガバペンチンの類似体、ガバペンチノイド、または低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の用量を減量した被験体にのみアルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与することにより、アルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与されている被験体における低ナトリウム血症のリスクを低減するものである。
【0018】
本発明の別の実施形態は、被験体が、ガバペンチン、ガバペンチン類似体、ガバペンチノイド、および低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の群より選択される1種以上の薬物を投与されているかどうかを評価し、被験体が1種以上のこのような薬物を投与されている場合、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の用量を減量するか、または被験体へのアルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与を停止し、そして被験体が1種以上のこのような薬物の中止への移行または1種以上のそのような薬物の用量の減量への移行をした場合にのみ、被験体へのアルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与を以前の用量以下の用量で再開することにより、アルギニンバソプレシンまたはその類似体を投与されている被験体における低ナトリウム血症のリスクを低減する方法を含む。
【0019】
1990年代半ばに米国で承認された抗けいれん薬であるガバペンチンは、神経障害性疼痛の治療に適応外使用されることが増えている。実際、2019年には、ガバペンチンは米国で7番目によく処方される薬になったと報告されている(Mattson CL, Chowdhury F, Gilson TP. Note from the Field: Trends in Gabapentin Detection and Involvement in Drug Overdose Deaths - 23 States and the District of Columbia, 2019-2020. MMWR Morb Mortal Wkly Rep 2022;71:664-666; http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7119a3external icon)。ガバペンチンの肝硬変患者への適応外処方が最近増加しているのは、糖尿病に伴う神経障害性疼痛の管理に有効であることが評価され、また、非アルコール性脂肪肝炎疾患が原因の肝硬変患者のうち、糖尿病を併発し、糖尿病に伴う神経障害性疼痛を有する患者の割合が増加しているためである。肝臓で代謝されず、タンパク質結合もしないため、肝硬変患者では、抗てんかん薬の第一選択薬として推奨しており(Pediatr Neurol. 2017 Dec; 77:23-36; doi: 10.1016/j.pediatrneurol.2017.09.013)、ガバペンチンは、特に神経障害性疼痛患者に対する非オピオイド療法の第一選択薬と考えられている(Rakoski et al., Pain management in patients with cirrhosis, Clinical Liver Disease, 11:6, 135-140 (June 2018);https://doi.org/10.1002/cld.711)。実質的な中毒性物質ではないが、ガバペンチンの治療を完全に中止すると、錯乱、見当識障害、胃腸障害、発汗、高血圧、不眠、発作などの離脱症状が現れることがある。これらの理由から、使用を中止する前に、被験体がガバペンチンの用量を徐々に減量していくことが推奨される。
【0020】
本発明は、抗利尿/バソプレシン/V2受容体/アクアポリンとの関連性が報告されていない抗けいれん薬であり、低ナトリウム血症を引き起こす可能性のある薬剤のリスト(drug-induced-hyponatraemia.pdf(resourcepharm.com))に含まれておらず、抗てんかん薬の中で低ナトリウム血症のリスクが最も低いとされる(Falhammar 2018)ガバペンチンが、テルリプレシンで治療を受けている肝硬変患者において、低ナトリウム血症のリスクを増大させる可能性がある、という驚くべき知見に基づくものである。肝硬変患者に対するガバペンチノイドの使用が推奨されるようになったのはごく最近のことであるため、テルリプレシンを用いた以前の研究ではこの関連性が認識されていなかった可能性がある。
【0021】
いくつかの実施形態では、被験体が、ガバペンチン、ガバペンチンの類似体、プレガバリンなどのガバペンチノイド、またはアルバマゼピン、オクスカルバゼピン、エスリカルバゼピン、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、およびレベチラセタムなどの低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物を同時に投与されていない場合にのみ、被験体をアルギニンバソプレシンまたはその類似体で処置することによって、低ナトリウム血症を発症するリスクが低減される。
【0022】
いくつかの実施形態では、アルギニンバソプレシンまたはその類似体をすでに投与されている被験体において、被験体がガバペンチン、ガバペンチンの類似体、プレガバリンのようなガバペンチノイド、またはアルバマゼピン、オクスカルバゼピン、エスリカルバゼピン、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、レベチラセタムのような低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬剤も投与されていることが明らかになった場合、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与を中止(discontinued)、中断(interrupted)、または用量を減量する。アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与は、被験体がガバペンチン、ガバペンチンの類似体、プレガバリンなどのガバペンチノイド、またはアルバマゼピン、オクスカルバゼピン、エスリカルバゼピン、バルプロ酸ナトリウム、ラモトリギン、レベチラセタムなどの低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている他の薬物の投与の中止に移行または用量の減量に移行した場合にのみ継続する。
【0023】
前述の実施形態のいずれにおいても、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与は、連続投与またはボーラス投与を含み得る。非限定的な例として、BEVを治療するために、最初はテルリプレシン2mgの静脈内注射ボーラスを被験体に4時間ごとに投与する。出血がコントロール下にある場合は、4時間ごとに1mgのテルリプレシン酢酸塩の静脈内投与に調整する。治療は合計48時間を超えて続けるべきでない。テルリプレシン投与のもう一つの非限定的な例として、HRS-1を治療するために、被験体に6時間毎に1~2mgのテルリプレシンを最長14日間ボーラス注射することができる。
【0024】
投薬回数は、当業者には容易に明らかであり、治療される疾患の種類や重症度など(ただしこれらに限定されない)の種々の要因に依存する。本開示のアルギニンバソプレシンまたはその類似体の実際の投与量は、特定の患者、組成物、および投与様式に対して所望の治療応答を達成するのに有効でありかつ患者にとって毒性ではない活性成分の量となるように変更することができる。当分野において通常の知識を有する医師(医者や獣医等)であれば、必要な医薬組成物の有効量を容易に決定し、処方することができるであろう。
【0025】
被験体、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトへのアルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与は、公知の手順を用いて、被験体のBEVやHRS-1を治療もしくは予防したり腹水を軽減したりするのに有効な投与量および投与期間で実施することができる。治療的効果を得るために必要な治療用化合物の有効量は、使用される具体的な化合物の活性、投与時間、化合物の排泄速度、治療期間、その化合物と併用される他の薬物、化合物または材料、疾患や障害の状態、治療を受ける患者の年齢、性別、体重、体調、精神健康および既往歴、ならびに医療分野において周知であるその他の因子等の要因に応じて変化し得る。投与レジメンは、最適な治療応答をもたらすように調整することができる。例えば、数回に分けた用量を毎日投与してもよいし、治療状況の必要性(exigency)に応じて用量を比例的に減量してもよい。
【0026】
本開示は、アルギニンバソプレシンまたはその類似体の投与(例えば持続点滴、静脈内注射ボーラス、緩徐ボーラス、または皮下注射もしくは点滴等)を提供するものである。ボーラス静脈内投与では、テルリプレシンのV1を介する薬力学的作用が3~4時間持続し、ボーラス投与後4~6時間経つとV2を介する抗利尿作用が優位となる。アルギニンバソプレシンまたはその類似体を、ボーラス投与ではなく持続点滴として投与することにより、V1作用がV2作用を上回る安定した血漿中濃度を維持することで、V2を介する抗利尿作用のリスクを最小限に抑えることができる。
【実施例
【0027】
本開示を、以下の実施例を参照して説明する。これらの実施例は、例示のみを目的として挙げており、本開示は、決してこれらの実施例に限定されるものとして解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書に提供される開示の結果として明らかになるあらゆるバリエーションを包含するものとして解釈されるべきである。
【0028】
これ以上の説明は省略するが、当業者であれば、先の説明および以下の例示的実施例を用いて、特許請求の範囲に記載される方法を実施することができると考えられる。以下の実施例は、本開示を何ら限定するものとして解釈されるものではない。
【0029】
[実施例1]テルリプレシンによる治療を受けている患者における低ナトリウム血症の臨床観察。
肝硬変および難治性の腹水を患う患者を対象に、テルリプレシンを持続点滴により投与し、その安全性と有効性を評価する現在進行中の臨床試験において、以下のような臨床所見が得られた。
【0030】
NASHによる肝硬変で腹水が再発し、利尿薬フロセミドによる治療が無効であった65歳の女性患者1は、1日目にテルリプレシン(3mg/日)の点滴を開始した。患者1のテルリプレシンの用量(mg/日)、日々のフロセミドの用量、血清ナトリウム値は図1に記録されている。用量3mg/日にてテルリプレシンによる治療を6日間行った後、研究計画書通りにテルリプレシンの用量を4mg/日に増量した。増量前にベースラインからの血清ナトリウムの緩やかな減少(3mmol/L)が認められた。4mg/日にて7日間治療した後、血清ナトリウムはさらに8mmol/L減少し、13日間の投与でベースラインに対して合計11mmol/L減少した(139mmol/Lに対して128mmol/L)。利尿薬フロセミドを7日間中止したところ、血清ナトリウムはさらに4mmol/L減少して124mmol/Lとなった。患者は無症状であった。テルリプレシンの点滴を中止した。2日後、血清ナトリウムは7mmol/L増加して131mmol/Lとなり、さらに徐々に増加し、中止10日後に135mmol/Lとなった。低ナトリウム血症はテルリプレシンに関連していると考えられた。
【0031】
患者2は63歳の男性で、アルコール性肝硬変と再発性腹水があり、利尿剤による治療が不可能であり、3mg/日のテルリプレシンによる治療を開始した。患者2の1日のテルリプレシンの用量と血清ナトリウム値は図2に記録されている。翌日、血清ナトリウムはベースラインの137mmol/Lから131mmol/Lに減少し、患者は無症状であったため、治療は7日目まで継続され、血清ナトリウムは123mmol/Lに減少したことが認められた。患者は無症状のまま14日目まで治療が続けられ、血清ナトリウムは124mmol/Lのままであった。テルリプレシンの点滴が中断されると、血清ナトリウムは3日後に134mmol/Lに回復した。低ナトリウム血症はテルリプレシンに関連していると考えられた。
【0032】
患者3は52歳の男性で、NASHによる肝硬変であり、利尿薬であるフロセミドとスピロノラクトンによる治療を継続しているにもかかわらず腹水がコントロールされておらず、用量3mg/日でのテルリプレシンの持続点滴静注による治療を開始した。患者3のテルリプレシンの用量(mg/日)、日々のフロセミドの用量、血清ナトリウム値は図3に記録されている。治療14日後、血清ナトリウムは治療前の134mmol/Lから132mmol/Lにわずかに減少した。テルリプレシンの用量を4mg/日に増量したところ、2日後と6日後の血清ナトリウムは129mmol/Lであった。治療は継続され、血清ナトリウムは28日目に117mmol/Lまで減少したことが確認され、点滴を停止した。患者は無症状であったが、救急外来を受診するよう指示された。血清ナトリウムはその後3日間で徐々に10mmol/L増加し、127mmol/Lとなった。低ナトリウム血症はテルリプレシンに関連していると考えられた。
【0033】
患者4は、我々の前回の第2a相試験でテルリプレシンを持続点滴した6人の患者のうちの1人で、抗利尿薬スピロノラクトンとフロセミドを服用しているにもかかわらず、肝硬変のために腹水が再発した63歳の男性であった。患者3のテルリプレシン、フロセミド、血清ナトリウム値は図4に記録されている。研究計画書通りに、この患者は初期用量2mg/日にてテルリプレシンによる治療を開始し、5日目に3mg/日に増量した。血清ナトリウムは時間の経過とともに徐々に減少し、5日目には10mmol/Lの減少に達し、その時点で患者はフロセミドの服用を停止した。血清ナトリウムは減少し続け、スピロノラクトンを2日間停止したが、血清ナトリウムの減少には影響しなかった。テルリプレシンの点滴を9日間の治療後に停止したところ、血清ナトリウムは薬剤中止の2日後に回復した。無症状であった重度の低ナトリウム血症は、テルリプレシン治療に関連したものと考えられた。
【0034】
肝硬変患者にテルリプレシンを持続点滴投与した場合に予想される低ナトリウム血症の発生率が低いことを考えると、これまでにテルリプレシンを持続点滴として長期投与した腹水のある肝硬変患者10人のうち3人(30%)が低ナトリウム血症(血清ナトリウムが10mmol/L以上減少)を発症し、これがテルリプレシンに関連するものであると考えられることは、驚くべきことであった(以下の実施例を参照)。さらに、我々が以前に実施した第2a相試験(n=6)でも、同様にテルリプレシン投与に応答して無症候性低ナトリウム血症を発症した患者が1名いた。
【0035】
今回の試験でテルリプレシン治療に応答して低ナトリウム血症を起こした3人の患者の共通点を探すと、これら3人の患者は、毎日ガバペンチン(患者1と2)またはプレガバリン(患者3)を服用していたが、テルリプレシン治療に無作為に割り付けられた(randomized)他の7人の患者はいずれもこれらの薬を服用していなかった。さらに、前回の第2a相試験における6人のうちテルリプレシンに応答して低ナトリウム血症を発症した1人である患者もガバペンチンを服用していた。
【0036】
[実施例2]外来診療における低ナトリウム血症の検出。
アルギニンバソプレシンまたはその類似体と低ナトリウム血症との関連が知られていることから、アルギニンバソプレシンまたはその類似体で治療を受けている患者の血清ナトリウム値をモニタリングすることが以前から推奨されている。低ナトリウム血症を引き起こすことが知られている薬剤で治療を受けている患者のモニタリングには、錯乱、吐き気、嘔吐、精神状態の変化などの低ナトリウム血症の症状に対する毎日の評価、投与開始または用量増量の1~2日後および全治療サイクルにわたる週1回の血清ナトリウムのモニタリング、およびsNAが特定の閾値を下回った場合(例えば、<125mmol/L)の治療の中断が含まれる。
【0037】
参考文献
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】