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特表2025-505323哺乳動物において正常な血液カルシウム濃度を支持するための方法および組成物
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  • 特表-哺乳動物において正常な血液カルシウム濃度を支持するための方法および組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-21
(54)【発明の名称】哺乳動物において正常な血液カルシウム濃度を支持するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/06 20060101AFI20250214BHJP
   A61P 3/14 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
A61K33/06
A61P3/14
A61P7/00
A61P3/02 102
A61K31/593
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/20
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024570415
(86)(22)【出願日】2023-02-06
(85)【翻訳文提出日】2024-08-09
(86)【国際出願番号】 US2023012408
(87)【国際公開番号】W WO2023154247
(87)【国際公開日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】63/308,838
(32)【優先日】2022-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/722,789
(32)【優先日】2022-04-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】524302455
【氏名又は名称】コントラクト マニュファクチャリング サービシズ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ゴフ、ジェシー ポール
(72)【発明者】
【氏名】シルバーホーン、タッカー ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ハント、ブライアン トーマス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076AA36
4C076AA51
4C076BB01
4C076BB36
4C076BB37
4C076CC14
4C076CC21
4C076CC23
4C076CC42
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA15
4C086DA16
4C086HA04
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA35
4C086MA36
4C086MA52
4C086NA12
4C086NA14
4C086NA15
4C086ZA51
4C086ZC21
4C086ZC23
4C086ZC61
4C086ZC75
(57)【要約】
出産後0~6時間以内に低カルシウム血症を発症するリスクがある周産期の哺乳動物に経口投与するための組成物であって、腸管上皮を横切る受動傍細胞輸送を用いて周産期の哺乳動物によって迅速に吸収可能な形態のカルシウムと腸管上皮を横切るカルシウムの能動輸送を刺激するのに十分な量の1-アルファ水酸化ビタミンD化合物とを含み、カルシウムおよび1-アルファ水酸化ビタミンDが周産期の哺乳動物における正常な血中カルシウム濃度の維持を支持するために同時に投与される、組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出産後0~6時間以内に低カルシウム血症を発症するリスクがある周産期の哺乳動物に経口投与するための組成物であって、腸管上皮を横切る受動傍細胞輸送を用いて周産期の哺乳動物によって迅速に吸収可能な形態のカルシウムおよび腸管上皮を横切るカルシウムの能動輸送を刺激するのに十分な量の1-アルファ水酸化ビタミンD化合物を含み、カルシウムおよび1-アルファ水酸化ビタミンDが周産期の哺乳動物における正常な血中カルシウム濃度の維持を支持するために同時に投与される、組成物。
【請求項2】
投与されるカルシウムの形態が、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、またはギ酸カルシウムを含む急速に水に可溶なカルシウム塩を、単独または組み合わせて含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
塩化カルシウムが、副甲状腺ホルモンへの組織の正常な感受性を支持するために投与後8時間以内に代償性代謝性アシドーシスを誘導するために十分な量で組み込まれる、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、1,25-ジヒドロキシビタミンDまたは1-アルファヒドロキシビタミンDまたはそれらの類似体を、カルシウムの経細胞ルーメン吸収または腸管吸収を刺激するのに十分な量で含む、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、石灰生成植物または石灰生成植物から調製された抽出物に見られる1,25-ジヒドロキシビタミンDの配糖体である請求項1記載の組成物。
【請求項6】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、腎25-ヒドロキシビタミンD-1-アルファヒドロキシラーゼ酵素の有意な阻害を生じさせ、それにより1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性産生を阻害し、結果として遅延型低カルシウム血症が組成物の投与後4~10日に生じるほどの量で組み込まれていない、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物およびカルシウムが、少なくとも1.2kg/L(g/ml)の密度を有するボーラス、錠剤、またはペレットの形態で同時に投与され、かつボーラス、錠剤またはペレットから2時間未満の時間をかけて放出される請求項1記載の組成物。
【請求項8】
血中カルシウムレベルを増加させる、または血中カルシウムレベルを正常化する、または血中カルシウムレベルを維持する、または哺乳動物の低カルシウム血症を回避するための方法であって、前記方法が、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の組成物と急速に水に可溶なカルシウム源とを周産期の哺乳動物に出産直後に同時に投与することを含む方法。
【請求項9】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物およびカルシウムが、少なくとも1.2kg/L(g/ml)の密度を有するボーラス、錠剤またはペレットの形態で同時に投与され、かつボーラス、錠剤またはペレットから2時間未満の時間をかけて放出される請求項8記載の方法。
【請求項10】
1-アルファ水酸化ビタミンDおよび該化合物のカルシウム塩が、いかなる追加用量もない単回用量で同時に投与される場合により正常な血中カルシウム濃度を支持する請求項8記載の方法。
【請求項11】
組成物が、出産6時間以内に周産期の哺乳動物に投与される場合、最も好ましくは出産3時間以内に投与される場合に、正常血中カルシウム濃度を支持することができる、または低カルシウム血症を軽減することができる、請求項8記載の方法。
【請求項12】
組成物が、出産3時間以内に周産期の哺乳動物に投与された場合に、正常血中カルシウム濃度を支持することができる、または低カルシウム血症を軽減することができる、請求項11記載の方法。
【請求項13】
乳牛などの泌乳開始時に低カルシウム血症を発症するリスクのある周産期の哺乳動物における低カルシウム血症を軽減する請求項8記載の方法。
【請求項14】
投与されるカルシウムが、投与後8時間以内にカルシウムホメオスタシスを改善するように、副甲状腺ホルモンに対する組織の感受性を支持するために動物の代償性代謝性アシドーシスを誘導するのに十分な量の塩化カルシウムまたは硫酸カルシウムを含む形態である、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
カルシウムが、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、またはギ酸カルシウムを、単独または組み合わせて、動物における非代償性代謝性アシドーシスを誘導することなく、投与後最初の6~12時間の間に正常なカルシウム濃度を支持し、および低カルシウム血症を軽減するために、カルシウムの受動的、ビタミンD-非依存的、傍細胞吸収を促進するのに十分な量で含む、請求項8記載の方法。
【請求項16】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、1,25-ジヒドロキシビタミンDもしくは1-アルファヒドロキシビタミンDまたはそれらの類似体を含んでなり、投与後12時間から72時間まで、正常な血中カルシウム濃度を支持するため、または低カルシウム血症を軽減するために、カルシウムの経細胞ルーメン吸収または腸管吸収を刺激するのに十分な量で投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、石灰生成植物または石灰生成植物から調製された抽出物から得られる1,25-ジヒドロキシビタミンDのグリコシドを含んでなり、投与後12時間から72時間まで、正常な血中カルシウム濃度を支持するため、または低カルシウム血症を軽減するために、カルシウムの経細胞ルーメン吸収または腸管吸収を刺激するのに十分な量で投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、腎25-ヒドロキシビタミンD-1-アルファヒドロキシラーゼ酵素の有意な阻害を生じさせ、それにより1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性産生を阻害し、結果として遅延型低カルシウム血症が組成物の投与後4~10日に生じるほどの量で組み込まれていない、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、出産後の最初の数日の低カルシム症を予防または治療するための経口医薬および周産期の哺乳動物へのそのような医薬の投与に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物、特に乳牛は、出産後、泌乳が始まると、泌乳の開始により、動物の体が食事性カルシウムおよび骨カルシウム貯蔵から循環血液に戻すことができる量よりも多くのカルシウムを循環血液から汲み上げ、乳汁に入れることができる。カルシウムが体内で多くの機能を発揮するためには、乳牛の血中(血漿または血清において決定される)カルシウム濃度は約9~10mg/dl(2.25~2.5mM)であるべきである。しかし、泌乳開始時に起こる大量かつ急激なカルシウム排出の結果、多産の(multiparous)乳牛の5%近くで急性かつ重度の低カルシウム血症が起こる(Goff, 2014)。これらの牛は横たわり、乳熱として知られる臨床症状である筋麻痺を起こし、適切に治療されなければ死に至ることが多い。多産の乳牛の約50%および未経産牛の約25%が、分娩の頃に無症状の低カルシウム血症と呼ばれるかなりの程度の低カルシウム血症を経験する。牛がかなりな程度の低カルシウム血症であるとされる血清カルシウム濃度は、文献によって8.0~8.6mg/dl(2~2.15mM)と幅がある。低カルシウム血症はカルシウムの静脈内投与または経口投与により治療することができるが、泌乳初期に著しい低カルシウム血症を起こした牛は、免疫機能障害、子宮炎、第四胃変位、胎盤留置、乳房炎、およびケトーシスのリスクが高まる(Goff, 2014)。
【0003】
幸いなことに、畜牛とすべての哺乳動物は、一般的に分娩後数日以内に正常な血中カルシウム濃度を回復できるシステムを有している。カルシウムのホメオスタシスは主に副甲状腺によって介在され、副甲状腺は血中カルシウム濃度の低下に反応して副甲状腺ホルモン(PTH)を分泌する。PTHは骨カルシウム貯蔵からのカルシウム放出を刺激し、尿中に失われるカルシウム量を減少させる。PTHはまた、ビタミンDホルモンである1,25-ジヒドロキシビタミンDを産生する腎酵素を活性化する。1,25-ジヒドロキシビタミンDは、腸管上皮を横切るカルシウムの経細胞吸収(能動輸送としても知られる)を刺激し、食事性カルシウムの利用を大幅に増加させる(Goff, 2018)。カルシウムのホメオスタシスが正常に機能している場合、ウシは、周産期の間血中カルシウム濃度のわずかでかつ短時間の低下を経験するのみである。残念ながら、牛群の約半数の牛で、泌乳の最初の数日において約8mg/dl(2mM)より高い血中カルシウム濃度を維持する能力が損なわれている。PTH刺激に対する骨および腎臓細胞の応答能力の低下が、低カルシウム血症の長期化または重症化をもたらすカルシウムホメオスタシスの欠陥として関与している(Goff, 2014)。いくつかの因子がカルシウムホメオスタシスを妨害し、血中カルシウム濃度の低下をより急激かつ長期化させる可能性がある。カルシウムホメオスタシスに影響を及ぼす牛の因子には、牛の高齢化と品種がある。
【0004】
栄養因子もまた、カルシウムホメオシタシス系の回復力に影響を及ぼす。カリウム(K+)、ナトリウム(Na+)、カルシウム(Ca+2)、およびマグネシウム(Mg+2)などの食餌性カチオンは、牛の血液に吸収されると、牛の血液のpHを上昇させる。塩化物(C1-)、硫酸塩(SO4 -2)、リン酸塩(PO4 -3)などの食餌性アニオンは、血液中に吸収されると牛の血液を酸性にする。吸収されない飼料中のカチオンやアニオンは、血中pHに影響を与えない。飼料から吸収されるカチオンとアニオンのミリ当量数の差によって、血中pHが決定される(Goff, 2018)。牛の飼料は一般的にK+を多く含む飼料で構成されているため、牛は通常、代償性代謝性アルカローシスの状態にある。K+は飼料からほぼ100%の効率で吸収されるため、飼料のK+は強くアルカリ化する。Na+も飼料または水Na+がほぼ100%の効率で吸収されるため、高度にアルカリ化する。Ca+2およびMg+2カチオンは、飼料からの吸収効率はK+やNa+よりもはるかに低いが、飼料中に比較的高濃度で含まれることがあるため、吸収されたCa+2およびMg+2は牛の血液をアルカリ性にする。
【0005】
+を多く含む飼料を給餌された結果として代償性代謝性アルカローシスに陥った牛は、アニオンを飼料に添加することで代償性代謝性アシドーシスに陥った牛と同様にPTH刺激に反応しない(Goff, 2014)。代謝性アルカローシスは骨カルシウム吸収を阻害する(Block, 1994)。さらに、1,25-ジヒドロキシビタミンDの適時産生を刺激するPTHの能力が損なわれ、食餌性カルシウムの利用が低下する。代償性代謝性アシドーシスを誘発するために、飼料中のカチオン-アニオンの差を調整することは、乳牛の乳熱と低カルシウム血症を軽減するために一般的に利用されている手段である。分娩前の牛の餌に塩化物イオンと硫酸アニオンを加えることで、分娩時に牛が経験する低カルシウム血症の程度を大幅に軽減することができる。これにより、PTHに対する骨と腎臓の細胞の感受性が回復し、カルシウムのホメオスタシス機構が改善される。乳牛の低カルシウム血症を軽減するために分娩前後に給餌する飼料の栄養管理の詳細については、よく説明されている(Goff, 2014)。アニオンを添加した飼料は嗜好性が悪く、分娩前の飼料乾物摂取量を低下させる可能性がある。出産前後に飼料摂取量を減らすと、牛がケトーシス、子宮炎、第四胃変位を起こしやすくなる可能性がある。しかし、低カルシウム血症を軽減するためのアニオンの使用には注意点がある。アニオンを飼料に添加しても、尿のpHが約6.8未満になるまで牛を十分に酸性化できなければ、低カルシウム血症を軽減するための飼料の効果は大幅に低下する。尿pHが約5.75未満に低下すると、乾物摂取量が減少し、分娩前の飼料消費量減少に伴う他の代謝問題につながる可能性がある。適切なアニオンの補給はカルシウムのホメオスタシスを改善するが、一部の潜在性低カルシウム血症や、臨床的低カルシウム血症(乳熱)さえも起こることがある。
【0006】
分娩後に低カルシウム血症に罹患する牛の多くでは、カルシウムのホメオスタシス反応が、感知できる潜在性または臨床性低カルシウム血症に罹患していない牛よりも遅れるようである。これは特に、臨床性低カルシウム血症を再発する牛で顕著である(Goff et a1., 1989)。乳熱の牛に対する伝統的な治療法は、10~12gのカルシウムを静脈内投与し、一時的ではあるが、血中カルシウム濃度を神経や筋肉の機能など、正常なカルシウム機能を支持するレベルまで速やかに回復させることである。この医療介入により、血中カルシウム濃度は6~10時間維持され、牛のカルシウムホメオスタシス機構が活性化するのに十分な時間が得られることが多い。カルシウムホメオスタシス機構が完全に活性化すると、牛は正常な血中カルシウム濃度を維持するのに十分なカルシウムを骨および飼料から摂取する一方で、カルシウムは引き続き乳生産によって失われる。しかし、一部の牛ではカルシウムホメオスタシス機構があまりに損なわれ過ぎて、カルシウム注射から12~24時間後に再発し、2回目または3回目の乳熱を起こす。Goff et al., (1989)が示したように、これらの牛は1,25-ジヒドロキシビタミンDの産生に非常に時間がかかる。一旦、1,25-ジヒドロキシビタミンDが産生され始めると、カルシウムホメオスタシスを制御できるようになり、それ以上治療しなくても血中カルシウム濃度を維持できるようになる。分娩後に血中1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度が早期に上昇する牛は、分娩後速やかに血中1,25-ジヒドロキシビタミンDが上昇しない牛に比べて、正常な血中カルシウム濃度を維持する能力が向上する。他の研究では、分娩後速やかに1,25-ジヒドロキシビタミンDを産生する正常カルシウム牛の血中1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度のピークは、後から1,25-ジヒドロキシビタミンDを産生する牛よりも低いことが示されている。(Goff et a1., 1991)。これらの研究やその他の研究により、多くの研究者が乳牛の低カルシウム血症を予防する手段として、1,25-ジヒドロキシビタミンDの投与を研究するようになった。
【0007】
分娩前の乳牛に1,25-ジヒドロキシビタミンDまたはその類似体を投与することで、低カルシウム血症の軽減に成功している(Horst et a1., 1997)。残念なことに、この方法は分娩時期の予測が成功の鍵を握るという欠点がある。1,25-ジヒドロキシビタミンDまたはその類似体の単回用量を分娩前12~24時間未満に経口または非経口投与した場合、または分娩後に単独投与した場合、1,25-ジヒドロキシビタミンDは、多くの牛で低カルシウム血症に影響を与えるのに十分迅速にカルシウムの能動輸送を刺激しないであろう。分娩前の投与時期が早すぎる場合(3~4日よりも前)、効果的なものとするために2回目、さらには3回目の投与を行わなければならない場合がある。血漿中半減期の長い1,25-ジヒドロキシビタミンDの類似体を用いれば、治療のウィンドウを1~2日延ばすことができるが、それでも分娩の少なくとも12~24時間前に投与しなければ有効ではない。1,25-ジヒドロキシビタミンDの徐放性製剤が記載されているが、やはり効果的なものとするためには分娩前に投与しなければならない。分娩まで、そして分娩後も小さな用量で毎日投与することで、低カルシウム血症を効果的に予防することもできる(Horst et a1., 1997)。しかし、外因性1,25-ジヒドロキシビタミンDに長期間さらされると、乳牛が内因性1,25-ジヒドロキシビタミンDを作る能力が阻害されるため、外因性1,25-ジヒドロキシビタミンDの効果が弱まった4~10日後に低カルシウム血症を発症する可能性がある。1,25-ジヒドロキシビタミンDを大量に投与すれば、分娩の5~7日前まで有効なウィンドウをわずかに延長できるが、これも外因性1,25-ジヒドロキシビタミンDへの長期曝露に関連する問題を悪化させる(Horst et.a1., 1997)。投与時期の問題と内因性1,25-ジヒドロキシビタミンD合成の阻害を引き起こす可能性の問題は、周産期の低カルシウム血症を予防するために1,25-ジヒドロキシビタミンDを使用することの実用性を大きく低下させる。
【0008】
周産期の牛のより正常な血中カルシウム濃度を保つための第二の方法は、分娩直後に容易に可溶化するカルシウムを大量に経口投与することである。一般に、30~75gのカルシウムがボーラス、ペースト、または液体ドレンチの形態で投与される。吸収細胞と直接接触している液体(ルーメン液または腸内チャイム)中のイオン化カルシウム濃度を約4mMより大きくすることで、カルシウムは受動的な傍細胞輸送機構を利用して吸収される(Goff, 2018)。この機序は、1,25-ジヒドロキシビタミンDによる刺激とは無関係である。これは、血中カルシウム濃度の急速な、しかし限定的な上昇を引き起こす。可溶化しやすい塩化カルシウムの形で50gのカルシウムを経口投与すると、約4gのカルシウムが牛の血中に吸収され、その結果、血中カルシウムは1時間以内に約1mg/dl(0.25mM)上昇し、約6~8時間持続することが実証されている。より大きな用量も投与できるが、治療ウィンドウ(血中カルシウムが正常値まで増加する時間)は1~3時間しか増加しない(Goff and Horst, 1993)。治療ウィンドウを拡大するための一般的な方法は、経口カルシウムを、一般的に分娩後数時間以内に投与される初回投与後、12~24時間で2回目、場合によっては3回目を投与することである。この場合、酪農家は乳牛を探して拘束し、各用量を投与するため、より多くの労力が必要となる。より一般的に使用されるカルシウム塩のアニオンである塩化物または硫酸塩の過剰な吸収を引き起こすこともある。これは、牛を非代償性代謝性アシドーシスの状態にし、牛の健康がさらに損なわれる可能性がある(Goff and Horst, 1994)。投与されたカルシウムのうち、傍細胞経路で吸収されるのはごく一部であるが、残りのカルシウムは、カルシウムの能動輸送機構が1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性産生により活性化されれば、吸収可能となる。
【発明の概要】
【0009】
本開示は、出産後0~6時間以内に低カルシウム血症を発症するリスクのある周産期の哺乳動物に経口投与するための組成物について記載する;この組成物は、腸管上皮を横切る受動的傍細胞輸送を用いて周産期の哺乳動物によって迅速に吸収可能な形態のカルシウムと、腸管上皮を横切るカルシウムの能動輸送を刺激するのに十分な量の1-アルファ水酸化ビタミンD化合物とを含み、カルシウムおよび1-アルファ水酸化ビタミンDが、周産期の哺乳動物における正常な血中カルシウム濃度の維持を支持するために同時に投与される。
【0010】
本開示はさらに、投与されるカルシウムの形態は、単独または好ましくは組み合わせて、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、またはギ酸カルシウムなどの急速に水に可溶なカルシウム塩を含むことが記載されている。
【0011】
本開示はさらに、塩化カルシウムが、副甲状腺ホルモンに対する組織の正常な感受性を支持するために、投与後8時間以内に代償性代謝性アシドーシスを誘導するのに十分な量で組み込まれることを記載する。
【0012】
本開示はさらに、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物は、カルシウムの経細胞ルーメン吸収および/または腸管吸収を刺激するのに十分な量で、1,25-ジヒドロキシビタミンDまたは1-アルファヒドロキシビタミンD、またはその類似体を含むことを記載する。
【0013】
本開示はさらに、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、石灰生成植物または石灰生成植物から調製される抽出物に見られるような1,25-ジヒドロキシビタミンDの配糖体であることを記載する。
【0014】
本開示はさらに、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、腎25-ヒドロキシビタミンD-1-アルファヒドロキシラーゼ酵素の有意な阻害を生じさせ、それにより1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性産生を阻害し、結果として遅延型低カルシウム血症が組成物の投与後4~10日に生じるほどの量で組み込まれていないことを記載する。
【0015】
本開示はさらに、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物およびカルシウムが、少なくとも1.2kg/L(g/ml)の密度を有するボーラス、錠剤、またはペレットの形態で同時に投与され、2時間未満の時間にわたってボーラス、錠剤、またはペレットから放出される組成物を記載する。
【0016】
本開示はまた、哺乳動物の、血中カルシウムレベルを上昇させるため、または血中カルシウムレベルを正常化するため、または血中カルシウムレベルを正常もしくは健常に維持するため、または低カルシウム血症を回避するための方法を記載し;この方法は、出産直後の周産期の哺乳動物に、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物と急速に水に可溶なカルシウム源とを同時に投与することを含む。
【0017】
本開示はまた、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物およびカルシウムが、少なくとも1.2kg/L(g/ml)の密度を有するボーラス、錠剤またはペレットの形態で同時に投与され、2時間未満の時間にわたってボーラス、錠剤またはペレットから放出される方法についても記載する。
【0018】
本開示はさらに、1-アルファヒドロキシル化ビタミンD化合物およびそのカルシウム塩が、いかなる追加用量(additional doses)もなしに単回用量で同時投与された場合に、より正常な血中カルシウム濃度を支持することができる方法を記載する。
【0019】
本開示はさらに、出産後6時間以内、最も好ましくは出産後3時間以内に周産期の哺乳動物に投与した場合に、組成物が正常な血中カルシウム濃度を支持するか、または低カルシウム血症を軽減することができる方法を記載する。
【0020】
本開示はさらに、泌乳開始時に低カルシウム血症を発症するリスクのある周産期の哺乳動物、例えば乳牛の低カルシウム血症を軽減する方法を記載する。
【0021】
本開示はさらに、投与されるカルシウムの形態が、投与後8時間以内にカルシウムホメオスタシスを改善するように、副甲状腺ホルモンに対する組織の感受性を支持するために動物の代償性代謝性アシドーシスを誘導するのに十分な量の塩化カルシウムまたは硫酸カルシウムを含む方法を記載する。
【0022】
本開示はさらに、カルシウムの形態が、単独でまたは好ましくは組み合わせて、動物において非代償性代謝性アシドーシスを誘導することなく、投与後最初の6~12時間の間に、正常な血中カルシウム濃度を支持するため、および低カルシウム血症を軽減するために、カルシウムの受動的、ビタミンD非依存的、傍細胞吸収を促進するのに十分な量で、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、またはギ酸カルシウムである、方法を記載する。
【0023】
本開示はさらに、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、投与後12時間~72時間まで、正常な血中カルシウム濃度を支持するためまたは低カルシウム血症を軽減するためにカルシウムの経細胞ルーメン吸収および/または腸管吸収を刺激するのに十分な量で投与される、1,25-ジヒドロキシビタミンDもしくは1-アルファヒドロキシビタミンDまたはそれらの類似体を含む、方法を記載する。
【0024】
本開示はさらに、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、石灰生成植物または石灰生成植物から調製される抽出物から得られる1,25-ジヒドロキシビタミンDの配糖体であり、投与後12時間~72時間まで、正常な血中カルシウム濃度を支持するためまたは低カルシウム血症を軽減するためにカルシウムの経細胞ルーメン吸収および/または腸管吸収を刺激するのに十分な量で投与される方法を記載する。
【0025】
本開示はさらに、1-アルファ水酸化ビタミンD化合物が、腎25-ヒドロキシビタミンD-1-アルファヒドロキシラーゼ酵素の有意な阻害を生じさせ、それにより1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性産生を阻害し、結果として遅延型低カルシウム血症が組成物の投与後4~10日に生じるほどの量で組み込まれていない方法を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】ボーラス投与後4時間の血漿1,25-ジヒドロキシビタミンDの増加を示すグラフである。
図2】処置したウシと処置していないウシを比較する分娩後血中カルシウムレベルを示すグラフである。
図3】処置したウシと処置していないウシを比較する分娩後血中カルシウムレベルを示すグラフである。
図4】処置したウシと処置していないウシを比較する分娩後血中カルシウムレベルを示すグラフである。
図5】分娩後の血漿カルシウムレベルを示すグラフである。
図6】処置および未処置後の血漿カルシウムレベルを示すグラフである。
図7】処置および未処置後の血漿カルシウムレベルを示すグラフである。
図8】処置および未処置後の血漿カルシウムレベルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示は、カルシウムの迅速な傍細胞吸収を促進し、牛を酸性化して副甲状腺ホルモンに対する組織の感受性を高める経口カルシウム塩の急速に可溶な供給源を、外因性1,25-ジヒドロキシビタミンDまたはその1-アルファ水酸化類似体と共に提供し、低カルシウム血症および乳熱を予防または軽減するために、食餌性カルシウムのより長時間かつより効率的な経細胞吸収を促進する方法を説明する。該方法は、好ましくは、出産直後に可溶性カルシウム塩源および外因性1,25-ジヒドロキシビタミンDまたはその類似体を提供する。可溶性カルシウム塩源および外因性1,25-ジヒドロキシビタミンDは、1回のみ提供される。出産直後とは、可溶性カルシウム塩源および外因性1,25-ジヒドロキシビタミンDまたはその類似体が出産後の6時間以内に与えられることを意味する。
【0028】
用語、1,25-ジヒドロキシビタミンDおよび1,25-OH2Dは、本明細書において互換可能に使用され、同じ構造を示していると考えるべきである。
【0029】
1,25-OH2Dの基本的な構造は、ステロイドを含む。このステロイドの炭素には、Maestro et al., (2019)に記載された慣例により番号が振られる。1-アルファが水酸化される多数の他の可能性のあるビタミンD化合物は、1,25-OH2Dに加えてまたは1,25-OH2Dに代えて利用することができ、Maestro et al., (2019)に挙げられたものが含まれるがこれに限定されるものではない。
【0030】
特に断りのない限り、添え字のない「ビタミンD」は、単独で、接尾辞または接頭辞として、あるいは修飾語として使用され、ビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、ビタミンD4(22-ジヒドロエルゴカルシフェロール)、およびビタミンD5(シトカルシフェロール)のいずれかを指す。
【0031】
アルファ配置における炭素番号1でヒドロキシル化されたビタミンDセコステロイドは、「1-アルファ水酸化ビタミンD」化合物と呼ばれる。1-アルファ-水酸化ビタミンD化合物には、1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物(すなわち、1,25-ジヒドロキシビタミンD2、1,25-ジヒドロキシビタミンD3、1,25-ジヒドロキシビタミンD4、1,25-ジヒドロキシビタミンD5);その活性類似体;または1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物またはその活性類似体の血中、組織または細胞レベルを増加させるその不活性類似体が挙げられる。
【0032】
1-アルファ-水酸化ビタミンD化合物に関して使用される「類似体」とは、1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物の生物学的前駆体、1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物の生物学的代謝産物、または1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物と構造的類似性を有するか、または1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物から誘導されると当技術分野で認識されている天然化合物または合成化合物を指す。
【0033】
1-アルファ-水酸化ビタミンD化合物およびその類似体に関して使用される「活性」とは、体内の非標的組織、非標的細胞、または他の部位で修飾またはさらに代謝されることなく、標的組織または標的細胞でビタミンD依存性効果を直接もたらす類似体を指す。1-アルファ-水酸化ビタミンD」を修飾するために使用される場合、「活性」という用語は、1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物またはその活性類似体を指す。本発明にも有用な1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の「不活性」類似体とは、体内の非標的組織、非標的細胞、または他の部位で修飾またはさらに代謝されることなく、標的組織または標的細胞でビタミンD依存性効果を直接的に発揮できないものをいう。「ビタミンD依存性効果」には、1,25-ジヒドロキシビタミンD化合物の投与または処置により生じる、本明細書に開示される効果、当該分野で公知の効果、または今後発見される効果のいずれかが含まれる。ビタミンD依存性効果の例としては、ルーメンおよび腸管上皮を介したカルシウムの経細胞吸収の刺激、ならびに骨に対する同化および異化作用が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
体内で作用して生物学的に活性な1,25-ジヒドロキシビタミンDまたはその類縁体を形成する1,25-ジヒドロキシビタミンDの生物学的に不活性な類似体を用いてもよい。それらは、一般的に1,25-ジヒドロキシビタミンDよりも利用するのに安価である。そのような化合物の1つは1-アルファビタミンD3であり、25位の炭素でヒドロキシル化されて活性1,25-OH2D3を形成する。本発明の実施に有用な他の不活性1-アルファ-水酸化ビタミンD化合物は、C-1位、C-3位、C-24位、またはC-25位のいずれか、または間接的にはC-26位に存在し得る、1~5個のプロ部分を含み得る。本開示の目的のために、プロ部分は、1,25OH2Dの切断(遊離)形態に存在する任意のヒドロキシル基に付加され得ることが理解される。例えば、1,25-ジヒドロキシビタミンD3では、プロ部分は、C-24位、C-25位、C-3位、またはそれらの任意の組み合わせにおいて、ヒドロキシル基に付加され得る。
【0035】
1-アルファ水酸化ビタミンD化合物において、プロ部位は硫酸基またはグリコン基を含むことができる。「グリコン部分」とは、グリコピラノシルまたはグリコフラノシル、ならびにそれらのアミノ糖誘導体およびグルクロニドのような他の部分を意味する。ビタミンD配糖体のグリコン部分は、最大20グリコン単位を含むことができる。好ましいのは、ルリヤナギ(Solanum glaucophyllum)、ケストルム・ディウルナム(Cestrum diurnum)およびトリセタム・フラベセンス(Trisetum flavescens)のような石灰生成植物に存在するようなβ-グリコシド結合を有するものである。
【0036】
正常な血中カルシウム濃度の維持または低カルシウム血症の軽減に有効な1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の必要量は、もちろん治療対象の哺乳動物個体によって異なり、最終的には獣医開業医または畜産家の判断による。考慮すべき因子には、製剤の性質、哺乳動物の体重、表面積、年齢、全身状態、および投与される特定の化合物が含まれる。一般に、1,25-ジヒドロキシビタミンD3当量活性の好適な有効用量は、約0.1~約2μg/kg体重、好ましくは0.2~1ug/kg、最も好ましくは0.25~0.5ug/kgの範囲である。
【0037】
外因性1-アルファヒドロキシル化ビタミンDおよびカルシウム塩は、好ましくはボーラスという好ましい形態で哺乳動物に投与される。本出願においてボーラスとは、反芻動物のルーメンラフト上で浮遊しないように、密度が1.2g/mlより大きい、典型的には円筒形の丸みを帯びた塊を含む。治療される特定の哺乳動物への投与に適した形状であれば、どのような形状でも本開示の範囲内である。また、本出願においては、本明細書で使用される哺乳動物という用語は、全てのウシ、水牛、豚、馬、ラバ、ロバ、ヒツジ、およびヤギのような全ての家畜に適用されるものとする。特に興味深いのは乳牛である。
【0038】
Horstら(1997)に要約されているように、泌乳開始時に動物が経験する可能性のある低カルシウム血症を予防またはその程度を軽減する手段として、出産前に投与される1-アルファ水酸化化合物の使用について、文献に多数記載されている。これらの化合物は、腸管を介したカルシウムの経細胞的または能動的輸送を刺激し、骨カルシウムの放出も促進するため、効果的である。低カルシウム血症の制御にビタミンD化合物を使用することは、3つの問題のために広く採用されていない。これらは、出産に関連したビタミンD化合物の投与時期、過剰な高カルシウム血症による毒性を引き起こす可能性、および1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性合成の阻害を引き起こす可能性であり、これにより投与されたビタミンD化合物の効果が減弱した約4~10日後に低カルシウム血症が起こる。先行技術の投与タイミングでは、ビタミンD化合物を効果的に投与するには分娩数日前のウィンドウ内に投与する必要があった。先行技術の1-アルファビタミンD化合物は、1-アルファビタミンDが腸管上皮を介したカルシウムの能動輸送に関与するタンパク質の転写および翻訳を開始させるのに12~24時間を必要とするため、分娩の少なくとも12~24時間前に投与する必要があった。例えば、出産の4日よりも前に1-アルファヒドロキシビタミンD3や1,25-ジヒドロキシビタミンD3を投与しても、カルシウムの能動輸送に対するこれらの化合物の有益な効果は、牛が分娩する前に薄れてしまうため、有効でない。1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の投与後24時間から96時間の間に、牛が分娩することを正確に予測することは非常に困難である。これが困難であるため、先行技術では一般的に、1回目の投与後4~5日以内に牛が出産しなかった場合、2回目の投与を行うことが推奨されている(Horst et. al., 1997)。投与量を増やすか、1,25OH2Dのより強力な類似体を使用すれば、有効性のウィンドウを1~3日延ばすことができるが、急性高カルシウム血症や毒性に関連した問題を引き起こす可能性もある。これを複雑にしているのが第3の問題である。Horst et al., (1997)に記載されているように、低カルシウム血症や乳熱を予防するためにビタミンD化合物を反復投与するかまたは高用量のビタミンD化合物を投与すると、1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性合成の実質的な阻害となる可能性がある。この結果、外因性のビタミンD化合物の有効な効果が弱まった後4~10日で低カルシウム血症を発症し得る。
【0039】
米国特許第9,757,415号明細書の教示によれば、低カルシウム血症を予防および/または治療し、乳牛の血中カルシウム濃度を安定化させるためのルリヤナギ配糖体を含む組成物を製造することができ、これは過剰な高カルシウム血症を引き起こしたり、1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性合成の過剰な阻害を引き起こしたりしない。この組成物は、1,25-OH2D3を解放する配糖体のルーメン微生物による開裂によって1,25-OH2D3に変換される1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の供給源として、ルリヤナギの葉由来の1,25-OH2D3の配糖体を利用する。この方法の利点は、葉材が高価でなく、1-アルファ-ビタミンD化合物の天然飼料源とみなすことができることである。ドロマイト状のカルシウムをルリヤナギ配糖体と混合し、ルーメン液中でゆっくりとしか可溶化しないため、ルリヤナギ配糖体をルーメン液中により長時間放出することができる硬い圧縮ボーラスを形成する。この特許の組成物を最も効果的に使用するには、分娩の24~72時間前に投与する必要がある。ドロマイト石灰石の形態のカルシウムはルーメン液に溶けにくく、ルーメンと腸管上皮を横切るビタミンD非依存性の傍細胞経路では、あまり吸収されない。したがって、ドロマイト状カルシウムは、ルリヤナギの葉に含まれる1,25-OH2D配糖体から遊離される1,25-OH2Dによって開始される経細胞カルシウム吸収経路が活性化される前に、正常な血中カルシウム濃度の維持に実質的に寄与することはない。この組成物は分娩の72時間前まで投与可能であり、これは先行技術と同様である。牛では出産時期の予測が困難な場合があるため、徐放性ボーラス投与後5日以内に分娩しなかった場合は、おそらく2回目のボーラスが投与される。この製剤を使用する際の主な障害は、周産期の低カルシウム血症を予防するためにビタミンD化合物を使用する先行技術のほとんどと同様に、投与の正確なタイミングである。
【0040】
米国特許第5,395,622号明細書の教示によれば、塩化カルシウムおよび硫酸カルシウムを含むカルシウム塩を含むボーラスは、牛への投与後4~8時間、周産期の牛の血中カルシウム濃度の改善を支持することができる。したがって、米国特許第5,395,622号明細書で教示されているように、血中カルシウム濃度をより長期間にわたって改善するために、カルシウム塩の2回目のボーラスの投与は、1回目のボーラス投与から12時間後または24時間後に行うことが推奨されている。Goff and Horst (1993)は、カルシウムの経口投与後に血中カルシウム濃度が上昇する時間の長さは、投与するカルシウムの用量を増やすことにより1~4時間延長できることを示した。しかしながら、高カルシウム血症が発現する可能性があるため、投与量は制限しなければならない。さらに重要なことは、塩化物の3~3.5当量を超える塩化カルシウムの大用量が利用される場合、牛は非代償性代謝性アシドーシスを発症するリスクがあるということである。Goff and Horst (1994)で示されているように、プロピオン酸カルシウムも急速に溶けるカルシウム源であるが、酸性化しない。プロピオン酸カルシウムはまた、塩化カルシウムと比較して、投与量が血中カルシウム濃度を上昇させることができる期間を引き延ばす可能性がある(Goff and Horst, 1993)。
【0041】
本開示の予防的アプローチには、先行技術のアプローチと比較していくつかの利点がある。牛が子牛を出産したことを酪農家が確認したら、すぐにボーラスを投与することができる。酪農家は、分娩前の牛に外因性1-アルファ水酸化ビタミンDを投与する正しい時期を予測しようとする必要がない。さらに、本開示の好ましいボーラス形態は単回用量で投与されるため、現在入手可能なカルシウムボーラスを利用する際にしばしば推奨されるように、正常カルシウム血症を促進するために経口カルシウム補給剤を複数回投与するために牛を見つけて拘束する必要性がなくなる。これらの利点は、塩化カルシウムやプロピオン酸カルシウムなどの可溶性カルシウム塩の混合物を与えることで、ルーメンと腸管上皮を横切るカルシウムの受動的吸収を促進し、製剤投与後最大12時間血中カルシウム濃度を維持することで達成される。これにより、次の60~72時間のより正常な血中カルシウム濃度を支持するルーメンおよび腸管組織を横切るカルシウムの能動輸送を刺激するために製剤中の外因性1-アルファ水酸化ビタミンDが必要とする時間が与えられる。経口カルシウム塩には塩化カルシウムが含まれ、少量の代謝性アシドーシスを促進するような方法で投与されるため、骨カルシウムの放出および1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性合成が促進され、正常カルシウム血症が支持され得る。プロピオン酸カルシウムまたは他の酸性化せず迅速に吸収されるカルシウム源も製剤に含めることにより、より多くの総量のカルシウムを安全に投与することができ、投与後12時間以上にわたってより正常なカルシウム血症の血中カルシウム濃度を維持することができる。1-アルファ水酸化ビタミンDの外因性投与は、血中1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度を4時間未満で急速に上昇させ、低カルシウム血症の発症に反応して1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性合成が通常起こると予想される4~12時間前に、能動経細胞カルシウム輸送を活性化するプロセスを開始する。外因性の1-アルファ水酸化ビタミンDは、食餌性カルシウムおよび腸管のルーメンに残存するボーラス・カルシウムをより多く利用することを可能にする。この経口可溶性カルシウム塩と外因性1-アルファ水酸化ビタミンD化合物との相乗効果により、周産期低カルシウム血症に対して、いずれの先行技術のアプローチ単独よりも高い有効性が得られ、また、より簡便に使用できる。
【0042】
投与するカルシウム塩の量は、正常な血中カルシウム濃度を最長12時間支持するのに十分な量でなければならない。これにより、外因性1-アルファ水酸化ビタミンDが、腸管内腔から牛の血液中へのカルシウムのより効率的な能動輸送を刺激するのに十分な時間を有するまで、牛は低カルシウム血症から保護される。1,25-ジヒドロキシビタミンDの量は、投与後12~18時間以内に腸管でのカルシウム吸収を刺激するのに十分な量でなければならない。先行技術の組成物は、分娩前に投与しなければ効果が得られないため、分娩前に投与する可能性のある期間(24~96時間)中、1,25-ジヒドロキシビタミンD活性の十分な血中濃度を確保し、分娩後の最初の数日間、能動カルシウム輸送を刺激できるように、通常、合計300~600ugの範囲の1-α水酸化ビタミンD化合物の用量を含んでいた。本発明の組成物は、分娩後6時間以内という容易に特定可能な時点で投与されるため、有効であることが判明した本発明の1-アルファ水酸化ビタミンDの量は、総用量300ug未満である。これにより、多量の1-アルファ水酸化ビタミンD化合物を投与した4~10日後に低カルシウム血症が発症することが観察されているように、1,25-ジヒドロキシビタミンDの内因性合成を低下させる腎25-ヒドロキシビタミンD-1-アルファヒドロキシラーゼ酵素の阻害のリスクを低減することができる。
【0043】
製造方法
以下に述べる方法は、体重500~700kgの乳牛に最も効果的であることが判明しているカルシウムと1-α-水酸化ビタミンD化合物との量を利用するものである。他の動物種への用量は、体重の違いに合わせて調整する必要がある。
【0044】
固形用量経口製剤(すなわちボーラス)の調製
牛に投与するためのこの最も好ましい製剤では、カルシウム塩(好ましくは、80~150gのCaCl2・xH2O(ここで、xは0以上、6以下である)および250gまでのプロピオン酸カルシウム)および1-アルファ水酸化ビタミンD化合物(好ましくは、100~280ugの1,25-ジヒドロキシビタミンDに相当する)を、糖新生を支持する化合物(すなわち、プロピレングリコール、グリセリン、プロピオン酸塩)、電解質バランス(塩化カリウムおよび塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウム)、酵母、非ステロイド性抗炎症薬、およびルーメン発酵性飼料(すなわち、アルファルファミール、大豆ミール)を含むがこれらに限定されるものではない他の材料とともに混合する。これらの材料は、ポンプで圧送可能な混合物が形成されるまで、水と一緒に混合される。また、混合容器に水を加え、その水に上記の材料を加え、均質なポンプ可能な混合物が形成されるまで混合することも可能である。ポンピング可能な混合物を作るために利用される調製方法にかかわらず、ポンピング可能な混合物は、次に、動物が飲み込むことができる物品(すなわち、錠剤またはボーラス)の形状になる紙、ポリマー、金属または他の材料から作られる型に充填するために利用することができる。均質なポンピング可能な混合物を型に充填したら、均質なポンピング可能な混合物が固化するまで、型を0.5~24時間(好ましくは冷却下で)休ませる。固化後、固形製品は、製品を飲み込みやすくするために混合物でコーティングしてもしなくてもよい。得られた製品は、破損や風雨にさらされないように包装される。製品は動物に経口投与される。米国特許第5,395,622号明細書および米国特許出願公開第2007/0098810号明細書には、ボーラスの製造方法が詳細に記載されており、両者とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0045】
牛への投与を容易にするため、カルシウム塩および外因性1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の有効用量を、1つの大きなボーラスまたは複数の小さなボーラスに分配することができる。
【0046】
錠剤の調製
このバージョンでは、カルシウム塩(好ましくは80~150gの塩化カルシウムおよび250gまでのプロピオン酸カルシウム)および1-アルファ水酸化ビタミンD化合物(好ましくは100~280ugの1,25-ジヒドロキシビタミンDに相当)を、圧縮錠剤または圧縮ボーラスの製造に一般的に利用される材料とともに混合する。これらの材料は賦形剤と呼ばれ、結合剤(すなわち、デキストロース、微結晶セルロース)、滑沢剤(すなわち、ステアリン酸マグネシウム)、流動化剤(すなわち、リン酸二カルシウム、二酸化ケイ素)、崩壊剤(すなわち、デンプン)、および他の賦形剤などの品目を含むことができる。次にこの混合物に十分な力を加え、流動性のある材料を圧縮して一つの固形塊にする。一旦固形塊が形成されると、獣医学または畜産学の当業者に公知のアプリケーターおよび技術を利用して、任意の数のこれらのユニットを動物に投与することができる。牛への投与を容易にするために、カルシウム塩および外因性1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の有効用量を、1つの大きな錠剤または複数の小さな錠剤に分配することができる。
【0047】
ドレンチ製品の調製
このバージョンでは、カルシウム塩(好ましくは80~150gの塩化カルシウムおよび250gまでのプロピオン酸カルシウム)および1-アルファ水酸化ビタミンD化合物(好ましくは100~280ugの1,25-ジヒドロキシビタミンDに相当する)を、糖新生を支持する化合物(すなわち、プロピレングリコール、グリセリン、プロピオン酸塩)、電解質バランス(すなわち、塩化カリウムおよび塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムおよび塩化マグネシウム)、酵母、非ステロイド性抗炎症薬、およびルーメン発酵性飼料(すなわち、アルファルファミール、大豆ミール)を含むがこれらに限定されるものではない他の材料とともに混合する。これらの原料は一緒に混合され、約85~90%乾物の乾燥物質として包装される。1-アルファ水酸化ビタミンDの形態として、1,25-ジヒドロキシビタミンDまたは類似の脂溶性ビタミンD化合物を利用する場合、水不溶性の1,25-ジヒドロキシビタミンDを溶液中に保つための薬剤を組み込む必要がある。このような材料は当該技術分野で多く知られており、1,25-ジヒドロキシビタミンDビタミンDとエマルジョンを形成し、ドレンチの水に懸濁した状態を保つ中鎖トリグリセリドなどの薬剤が含まれる。1-アルファ水酸化ビタミンDの原料がグリコシドやグルクロニドである場合、例えばルリヤナギのような石灰生成植物由来の材料に含まれる可能性があるが、これらのビタミンD化合物はすでに水溶性であるため、乳化剤は必要ない。飼育場では、ドレンチミックスをバケツまたは他の適切な容器に入れた適量の水(通常0.5~20L)に加え、大型の動物の獣医療で一般的に行われているように、ドレンチガン、食道チューブ、またはルーメンに伸びるチューブを介して、分娩直後の牛に経口投与される。
【0048】
ゲルまたはペーストの調製
この場合、カルシウム塩(好ましくは、80~120gの塩化カルシウムおよび100~250gのプロピオン酸カルシウム)および1-アルファ水酸化ビタミンD化合物(好ましくは、100~280ugの1,25-ジヒドロキシビタミンDに相当)を、担体(すなわち、プロピレングリコール、グリセロール、水、または植物油)および増粘剤(すなわち、キサンタンガム、二酸化ケイ素)と混合して、エマルジョンまたは懸濁液を形成し、これを、典型的には250~400mlの容量のチューブに入れる。上記のように、他の化合物を含めることもできる。混合物を入れたチューブは、典型的には、牛の口の奥に経口投与するために、畜産および獣医学の技術に精通している技術を使って、コーキングガンに入るように設計されている。牛への投与を容易にするために、カルシウム塩および外因性1-アルファ水酸化ビタミンD化合物の有効用量を、1本の大きなペーストチューブまたは複数の小さなチューブに分配することができる。
【0049】
本開示の範囲内で多数の修正および変形が当業者には明らかであろうから、以下の実施例は例示としてのみ意図されている。
【実施例
【0050】
実施例1
150ugの1,25-ジヒドロキシビタミンD3または5、7.5もしくは10gのルリヤナギ(solanum glaucophyllum)の葉(1,25-ジヒドロキシビタミンD3配糖体を葉に含む植物)のいずれかを組み込んだカルシウム塩ボーラスを調製した。牛のルーメン内では、生物学的に不活性な1,25-ジヒドロキシビタミンD3配糖体がルーメン細菌酵素によって切断され、生物活性のある1,25-ジヒドロキシビタミンD3になる。本実験および本明細書で述べる以下のすべての実験に使用した葉のバッチは、Gil et al., (2007)の方法を改変して、葉1gあたり1,25-ジヒドロキシビタミンD3の14ug相当を含むことが特定された。本試験に使用したホルスタイン牛は妊娠しており、泌乳期も終わりに近く、試験後2週間以内に乾乳期を迎える予定であった。これらの牛はカルシウムバランスが正であるため、血中の内因性1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度が比較的低く、ボーラスの投与に起因する血漿中の1,25-ジヒドロキシビタミンDの上昇の良好な解明が可能となると予想されたため、これらの牛を使用した。我々の対象動物は分娩直後の牛であるが、これまでの研究で、血漿中1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度は、牛が分娩前に経験した低カルシウム血症の程度と採血時期によってかなり変動する(低値と超高値)ことが判明している。牛の体重は600~720kgで、泌乳量は16~28kg/日であった。1頭の牛が、合計で、300ugの1,25-ジヒドロキシビタミンD、または140、210および280ugの1.25-ジヒドロキシビタミンD活性相当を供給するルリヤナギ(S. glaucophyllum)の葉10、15もしくは20gのいずれかを含むボーラスを受けるように、シングルタイプのボーラスを2つ投与する処置とした。血液サンプルは、ボーラスを投与する直前(0時間目)、およびボーラスを投与してから1、4、24、48、72、および96時間後に、各牛の頸静脈からヘパリンリチウムバキュテナーチューブに採取した。血漿中の1,25-ジヒドロキシビタミンD3濃度を液体クロマトグラフィー質量分析計で分析した。
【0051】
図1に示すように、ボーラス投与後4時間までにすべての牛で血漿中の1,25-ジヒドロキシビタミンDが有意に上昇した。血漿中1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度は、投与後48時間では投与前の1,25-ジヒドロキシビタミンD濃度よりも有意に上昇したままであったが、投与後72時間および96時間では維持されなかった。合成1,25-ジヒドロキシビタミンD3を投与された牛の血漿中1,25-ジヒドロキシビタミンDは、ルリヤナギ葉由来の1,25-ジヒドロキシビタミンD3配糖体を投与された牛よりも速やかに上昇した。これは、血液に吸収され得るようにルーメン細菌が配糖体を活性型1,25-ジヒドロキシビタミンDに変換するためにかかる時間を反映している可能性がある。
【0052】
実施例2~5について、統計分析は、処置内にネスト化された牛で、ボーラス投与後の時間を反復尺度として用いた反復測定分散分析で構成された。Tukeyの平均値比較検定を用いて、各時点における処置血漿カルシウムの平均値を比較し、帰無仮説が正しい確率がP<0.075である場合に、差が有意であると宣言した。
【0053】
実施例2
実施例2は、ジャージー牛とホルスタイン牛の両方に、低カルシウム血症の制御を助けるために設計された高アニオン封入率の分娩前飼料を給餌した酪農場で行われた。多産牛のみを使用し、経産回数によって処置に割り当てた牛をブロックした。各品種に対する処置の効果は別々に示し、その後合算した。処置プロトコルはジャージー牛とホルスタイン牛で同一とし、分娩前の最後の21日間は同居させた。
【0054】
ホルスタイン
ホルスタインの分娩前2週間の尿pHの平均は5.68であった。これらの牛の分娩前の乾物(DM)摂取量は23lbs.(10.5kg)/日と推定された。ホルスタイン7頭には分娩時にボーラスを投与しなかった。9頭の牛に市販の経口カルシウムボーラスを投与し、主に塩化カルシウムから約50gのカルシウムを供給した。これらのホルスタイン牛は分娩時に処置を受け、そして翌朝(最初のボーラス後12~24時間)に再度投与を受けた。10頭のホルスタイン牛は、分娩の2時間以内に一時に、いずれもルリヤナギの葉を含むカルシウム塩ボーラスを2つ投与した。この2つのボーラスは合計78gのカルシウムを供給し、その大部分は塩化カルシウムで、一部はプロピオン酸カルシウムによるものであり、1-アルファ水酸化ビタミンDを1,25-ジヒドロキシビタミンDの配糖体の形態で供給したルリヤナギの葉は、196ugの1,25-ジヒドロキシビタミンD3に相当することが特定された。血漿サンプルは各牛から処置前、処置後3、12、24、36、48、および72時間に採取した。血漿カルシウム濃度はArsenazio III試薬法を用いて測定した。
【0055】
図2は、ホルスタイン牛の平均血中Ca±その平均値の標準誤差を表す。Ca+SGボーラスを投与されたホルスタイン牛では、分娩後36時間および48時間での血漿中カルシウムが、ボーラスを投与されていないまたはCaボーラスを投与された牛よりも有意に高かった。Ca含有ボーラスはいずれも、ボーラスを投与されていないホルスタイン牛と比較して、分娩後3時間の血漿中カルシウム濃度を有意に上昇させた。試験中、平均血漿中Caが8.25mg/dl(2.06mM)を上回ったのは、Ca+SGボーラスのホルスタイン牛のみであった。ボーラス無投与群とCaボーラス投与群では、分娩後3日間の平均血漿中カルシウム濃度が8.0mg/dl(2mM)にも達しなかった。
【0056】
ジャージー
分娩前のジャージー牛の平均尿pHは5.85で、25%のジャージー牛の尿pHは5.5未満であった。分娩前の乾物飼料摂取量は18lbs.(8.2kg)DM/日と推定された。10頭のジャージー牛が分娩時に市販の経口Caボーラスを投与され、その12~24時間後に2回目のCaボーラスを投与された。14頭のジャージー牛が、分娩時にのみカルシウムとルリヤナギの葉を含む2つのCa+SGボーラスを投与された。3頭のジャージー牛は分娩後、無処置(ボーラスなし)とした。ボーラス組成と採血のタイミングは、本実施例のホルスタイン種について上述した通りであった。
【0057】
図3に示すように、3時間の時点では、Ca+SGボーラスとCaボーラスを投与した牛は、ボーラス無投与の牛に比べて血漿カルシウムが有意に増加した。それ以降、Caボーラスとボーラス無しの牛の血漿カルシウム濃度は同程度になった。Ca+SGボーラスを投与した牛は、分娩後3、12、24、および36時間で、ボーラス無投与の牛よりも血漿中カルシウムが有意に増加した。Ca+SGボーラスを投与された牛の血漿中カルシウムは、分娩後24時間および36時間で、Caボーラス投与牛におけるよりも統計学的に良好であった。Ca+SGボーラスを投与した牛のみ、試験の12~72時間の平均血漿中カルシウムが8.5mg/dlより高かった。
【0058】
ジャージーおよびホルスタインの混合データ
全ての牛は分娩前後で同じように飼育され、同じように給餌されたので、実施例2の全ての牛の結果を図4に合わせた。各時点の牛の頭数を増やすことで、試験の統計的検出力が高まる。Ca+SGボーラス処置群は、分娩後3~48時間の血漿中カルシウムがボーラス無処置群より高く、分娩後24、36、48時間の血漿中カルシウム濃度がCaボーラス処置群より高い。Ca+SGボーラス処置群のみ、12~72時間の平均血漿中カルシウム濃度が8.5mg/dlを超えた。
【0059】
実施例3
実施例3では、牧場にいる牛群の牛に、尿pHが6~6.8になるよう、食餌にアニオンを与えた。これは一般に、乳牛の臨床的低カルシウム血症を予防する効果的な手段と考えられている。この牛群の乳量は103 lds.(46.8kg)/日、脂肪分3.9%であった。これらの牛の分娩数週間前の平均尿pHは6.6であった。この試験では、9頭の多産牛が分娩時に市販のカルシウムボーラス(Caボーラス)を1つ投与され(43gCa/ボーラス)、分娩後12~24時間後に再度投与され、合計86gのCaが主に塩化カルシウムから与えられた。6頭の牛には、分娩時のみCa+10gSGボーラスを2つ投与した。これら2つのボーラスは、塩化カルシウムとプロピオン酸カルシウムを主成分とする78gのカルシウムと、1,25-ジヒドロキシビタミンD3の配糖体として140ugの1,25-ジヒドロキシビタミンD相当を供給する10gのルリヤナギの葉が含まれる。7頭の牛に、分娩時のみCa+15gSGボーラスを2つ投与した。これら2つのボーラスは、主に塩化カルシウムとプロピオン酸カルシウムからの78gのカルシウムと、1,25-ジヒドロキシビタミンD3の配糖体として210ugの1,25-ジヒドロキシビタミンD相当を供給する15gのルリヤナギの葉を含んでいた。血漿サンプルはボーラス投与前(時間=0)と分娩後4、12、24、48、および72時間に頸静脈から採取した。
【0060】
図5に示されるように、Caボーラス牛は、Ca+SGボーラス処置のいずれの牛よりも、処理前の血漿中カルシウム濃度がわずかに高かった。Ca+15gSGボーラス牛では、2日目までに血漿中カルシウム濃度が9mg/dlを超えた。Caボーラスの牛は、分娩後最初の3日間の血漿中カルシウム濃度が8.5mg/dl未満であった。Ca+10gSG群の牛は、2日目までに血漿中カルシウムが8.5mg/dlを超えた。これらのデータから、15gのルリヤナギの葉の用量は、低カルシウム血症を予防するためのボーラスへの組み込みに関して、10gのルリヤナギの葉の用量よりも有効であったことが示唆された。
【0061】
実施例4
この実施例は、大規模な商業酪農場で、乳熱と低カルシウム血症を予防するためにアニオンを給餌されているホルスタイン種とホルスタイン×ジャージーの交雑種の多産牛を用いた。分娩前の数週間の尿pHは平均5.7であった。
【0062】
60頭の牛を、分娩予定日に基づき、産回数と品種でブロックした3処置群のいずれかに割り付けた(ホルスタイン種、ホルスタイン×ジャージー種、2産期(N=10)または3産期以上(N=10)に入る牛が各群にほぼ同数ずついる)。処置は以下の通りである。A.分娩時のみ、ルリヤナギ(Solanum glaucophyllum)の葉入りカルシウムボーラス2つ(カルシウム78g、196ugの1,25-ジヒドロキシビタミンDに相当する1,25-ジヒドロキシビタミンD3配糖体を供給)。B.40g/用量のカルシウムを供給する塩化カルシウムを含むカルシウム含有ゼラチンカプセルボーラス。これらは、合計カルシウム80g/牛として、分娩時と、再度分娩後12~24時間とに投与された。C.分娩後にボーラスを投与されなかった牛。血漿サンプルは、分娩直後かつ処置前(時間=0)、ならびに分娩後24、48、72、96、および120時間に採取した。
【0063】
データは牛の産回数に基づいて示される。各処置群には10頭の牛がいた。2産牛(図6)において、Ca+SGボーラス処置群の牛は、処置後24~96時間の血中Ca濃度が他のいずれの処置群よりも高かった。図7は、3産以上の牛の血漿中カルシウム濃度を示している。Ca+SGボーラス処置群では、24時間以内に平均血漿中カルシウム濃度が8mg/dlを超えた。ボーラス無処置群の3産以上の牛は、処置後48時間の血漿中カルシウム濃度が8mg/dlを超えていた。Caボーラスを投与した3産以上の牛は、処置後72時間までに血漿中カルシウム濃度を達成した。
【0064】
実施例5
実施例5では、牛の低カルシウム血症の発生を抑えるため、アニオン性飼料を使用していない複数の小規模牧場の多産牛を使用した。分娩後数時間以内に、牛に4種類の処置のいずれかを行った。6頭の牛は分娩後、ボーラスで処置しなかった(ボーラスなし)。4頭の牛は、分娩後に静脈内カルシウム(グルコン酸カルシウムの形態でカルシウム10.5g)で処置した(IV Ca)。22頭の牛には、分娩後にカルシウム塩およびルリヤナギの葉を含むボーラスを2つ投与し、78gのカルシウムと196ugの1,25-ジヒドロキシビタミンD3に相当する1,25-ジヒドロキシビタミンD3配糖体を供給した(Ca+SGボーラス)。24頭の牛は、分娩時とその12~24時間後に市販の経口カルシウム塩ボーラスで処置した。このカルシウム塩ボーラスはそれぞれ40~44gのカルシウムを供給し、総カルシウム用量は主に塩化カルシウムから80~88gであった(Caボーラス)。
【0065】
全頭、処置がなされる前に血漿中カルシウム濃度を測定しており、全頭が低カルシウム血症(血漿中カルシウムが8.0mg/dl未満)と考えられた。分娩後にボーラスなしの処置を受けた牛は、分娩後最初の4時間の間に血中カルシウムがさらに低下した。図8に示すように、ボーラスなしの処置を受けた牛では、分娩後96時間近くまで血中カルシウム濃度が8.0mg/dl未満(一般に潜在性低カルシウム血症を患う牛の指標と考えられている)のままであった。Caボーラス処置群の牛は、4時間の時点でカルシウムの減少が小さく、4時間の時点での血中カルシウム濃度はボーラス無投与の牛よりも有意に良好であった。しかし、分娩後12~120時間のそれらの血漿中カルシウム濃度は、分娩後ボーラス無投与の牛のものと同程度であった。カルシウム溶液の静脈内投与(Ca IV)は、結果として、分娩後4時では最も高い血漿中カルシウム濃度となった。しかし、分娩後24時間から84時間にかけて、これらの牛は最も低い血漿中カルシウム濃度を示した。カルシウムの静脈内投与は牛のカルシウムホメオスタシス機構を阻害し、泌乳後2日目および3日目に、無処置の場合よりも多くの低カルシウム血症が観察された。Ca+SGボーラス処置の牛は、分娩後の各時点で血漿中カルシウム濃度の上昇を示し、それらの血中カルシウム濃度は分娩後24時間までに潜在性低カルシウム血症の閾値である8.0mg/dlを超えた。処置4時間後から処置84時間後まで、分娩時にのみCa+SGボーラスを投与された牛は、市販の経口カルシウムボーラスを分娩後2回投与された牛よりも有意に高い血漿中Ca濃度を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】