(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-02-28
(54)【発明の名称】ナノ構造複屈折光学素子およびナノ構造複屈折光学素子を備えた顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20250220BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20250220BHJP
G02B 21/06 20060101ALI20250220BHJP
G02B 27/28 20060101ALI20250220BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B21/00
G02B21/06
G02B27/28 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024546256
(86)(22)【出願日】2023-02-02
(85)【翻訳文提出日】2024-10-02
(86)【国際出願番号】 GB2023050230
(87)【国際公開番号】W WO2023148493
(87)【国際公開日】2023-08-10
(32)【優先日】2022-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500125788
【氏名又は名称】ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON
(71)【出願人】
【識別番号】524289879
【氏名又は名称】ザ マリン バイオロジカル ラボラトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・カザンスキー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・シュリバク
【テーマコード(参考)】
2H052
2H149
2H199
【Fターム(参考)】
2H052AA05
2H052AB01
2H052AC05
2H052AC18
2H052AD31
2H052AD34
2H052AF14
2H149AA00
2H149AB26
2H149BA04
2H149BA22
2H149FA42Z
2H149FA43Z
2H149FA45Z
2H149FC01
2H149FD04
2H149FD05
2H149FD47
2H199AB29
2H199AB37
2H199AB45
2H199AB52
(57)【要約】
入射光ビームを、直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された出力光ビームに変換するための複屈折光学素子であって、入射ビームを受ける入力面と、出力面と、入力面と出力面との間の均一な厚さとを有する透明基板であって、入力面に平行な面内で不均一な複屈折を有する基板を備え、複屈折は、基板内にランダムに配置された複数のナノ構造によって提供され、入射ビームを基板内で剪断させて、直交する直線偏光と、互いに角度をなす波面と、を有する2つの出力ビームに変換し、出力ビームが出力面に平行な剪断方向に沿って空間的に分離して出力面を離れるように構成され、各ナノ構造は、入力面に平行な面において楕円形断面を有する扁球形状を有し、楕円形断面の方向は複屈折の遅軸配向を与え、扁球状形状のサイズは複屈折のリターダンス値を与え、方向及びサイズは、基板の不均一な複屈折を提供するためにナノ構造間で変化する、複屈折光学素子。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光ビームを、直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離した出力光ビームに変換するための複屈折光学素子であって、
入射ビームを受ける入力面と、出力面と、前記入力面と前記出力面との間の均一な厚さとを有する透明基板であって、前記入力面に平行な面内で不均一な複屈折を有し、前記複屈折が、前記基板内にランダムに配置された複数のナノ構造によって提供され、入射ビームを前記基板内で剪断させて、直交する直線偏光と互いに角度をなす波面とを有する2つの出力ビームに変換し、前記出力ビームが前記出力面に平行な剪断方向に沿って空間的に分離して前記出力面を離れるように構成されている、基板を備え、
前記ナノ構造の各々は、前記入力面に平行な面において楕円形の断面を有する扁球形状を有し、楕円形断面の方向は複屈折の遅軸方向を与え、扁球状形状のサイズは複屈折のリターダンス値を与え、前記方向及びサイズは、前記基板の不均一な複屈折を提供するために前記ナノ構造間で変化する、複屈折光学素子。
【請求項2】
前記不均一な複屈折は、複屈折が前記剪断方向と平行な第1の方向に沿って変化し、前記剪断方向と直交する第2の方向に沿って一定である、前記基板にわたった複屈折プロファイルを有している、請求項1に記載の複屈折光学素子。
【請求項3】
前記第1の方向に沿った複屈折プロファイルは、変化するリターダンス値と不変遅軸方位とを有する、請求項2に記載の複屈折光学素子。
【請求項4】
複屈折光学素子において、前記リターダンス値は、前記複屈折プロファイルの対向する端の間で前記第1の方向に沿って一定の勾配を有する、請求項3に記載の複屈折光学素子。
【請求項5】
前記第1の方向に沿って、前記リターダンス値は、前記複屈折プロファイルの中心でゼロであり、前記複屈折プロファイルの一端で最大の正の値まで増加し、前記複屈折プロファイルの反対側の端で最大の負の値まで減少する、請求項4に記載の複屈折光学素子。
【請求項6】
前記第1の方向に沿った前記複屈折プロファイルは、前記複屈折プロファイルの第1の端と前記複屈折プロファイルの中心との間に第1の遅軸方位と、前記中心と前記第1の端とは反対側の前記複屈折プロファイルの第2の端との間に前記第1の遅軸方位と直交する第2の遅軸方位とを有する、請求項3~5のいずれか1項に記載の複屈折光学素子。
【請求項7】
前記第1の遅軸方位及び前記第2の遅軸方位のうち一方が前記第1の方向に平行であり、前記第1の遅軸方位及び前記第2の遅軸方位のうち他方が第2の方向に平行である、請求項6に記載の複屈折光学素子。
【請求項8】
前記リターダンス値は、前記遅軸方位が前記第1の方向に平行である場合に正であり、前記遅軸方位が前記第2の方向に平行である場合に負である、請求項7に記載の複屈折光学素子。
【請求項9】
前記第1の方向に沿って、前記複屈折プロファイルは、Δ=αx-αX/2によって定義されるリターダンス値Δと、φ=90°のときx < X/2であり、φ = 0°のときx > X/2、で定義される遅軸方位φとを有し、xは0とXとの間の前記第1の方向に沿った位置を示し、Xは前記第1の方向に沿った前記複屈折プロファイルのサイズであり、αはxに対するリターダンスΔの導関数である、請求項3~8のいずれか一項に記載の複屈折光学素子。
【請求項10】
前記第1の方向に沿った複屈折プロファイルは、不変リターダンス値と変化する遅軸方位とを有している、請求項2に記載の複屈折光学素子。
【請求項11】
前記遅軸方位は、前記複屈折プロファイルの対向する端の間で前記第1の方向に沿って一定の勾配を有している、請求項10に記載の複屈折光学素子。
【請求項12】
前記遅軸方位が前記複屈折プロファイルの第1の端において前記第2の方向に平行であり、前記複屈折プロファイルの、第2の反対側の端において前記第1の方向に平行な方位に向かって、又は前記第1の方向に平行な方位に対して一定の速度で回転する、請求項10又は11に記載の複屈折光学素子。
【請求項13】
前記不変リターダンス値が、入射ビームの意図された波長の半分の値である、請求項10~12のいずれか一項に記載の複屈折光学素子。
【請求項14】
前記第1の方向に沿って、前記複屈折プロファイルは、Δ=λ/2で定義されるリターダンス値Δと、φ=β-xで定義された遅軸方位φとを有し、λは入射ビームの意図された波長であり、xは前記第1の方向に沿った位置を示し、βは前記遅軸方位の回転の勾配の大きさである、請求項10~13のいずれか一項に記載の複屈折光学素子。
【請求項15】
前記複屈折プロファイルが、前記第1の方向に沿った大きさが前記第2の方向に沿った大きさと等しくなるような正方形形状を有する、請求項2~14のいずれか一項に記載の複屈折光学素子。
【請求項16】
前記基板が石英ガラスを備えている、請求項1~15のいずれか一項に記載の複屈折光学素子。
【請求項17】
入射光ビームを、直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された出力光ビームに変換するための光学アセンブリであって、
請求項1から16のいずれか1項に記載の第1の複屈折光学素子と、
請求項1から16のいずれか1項に記載の第2の複屈折光学素子と、
前記第1の複屈折光学素子と前記第2の複屈折光学素子との間に挟まれた光学回転子と、
を備えている光学アセンブリ。
【請求項18】
前記光学回転子は90°の回転を提供するように構成され、前記第1の複屈折光学素子及び前記第2の複屈折光学素子は光軸が互いに直交するように配置されている、請求項17に記載の光学アセンブリ。
【請求項19】
請求項1~16のいずれか1項に記載の複屈折光学素子であって、顕微鏡内の照明光ビームを、顕微鏡内に設置された試料を照らすための直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された光ビームに剪断するように配置されている複屈折光学素子と、
請求項1~16のいずれか1項に記載の複屈折光学素子であって、透過又は反射により、試料からの直交する直線偏光を有する空間的に分離された2つの光ビームを受け、観察又は検出のために、空間的に分離された2つの光ビームを単一の出力光ビームに収束するように配置された複屈折光学素子と、
のうち一方又は両方を備えている微分干渉コントラスト顕微鏡。
【請求項20】
請求項17又は18に記載の光学アセンブリであって、顕微鏡内の照明光ビームを、前記顕微鏡内に置かれた試料を照らすための直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された光ビームに剪断するように配置されている光学アセンブリと、
請求項17又は18に記載の光学アセンブリであって、透過または反射により試料から直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された光ビームを受け、観察または検出のために2つの空間的に分離された光ビームを単一の出力光ビームに収束するように配置されている光学アセンブリと、
のうち一方又は両方を備えている方向非依存微分干渉コントラスト顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米国国立衛生研究所(National Institutes of Health)から授与された助成金番号GM101701の下で、米国政府の支援とともに行われたものである。政府は本発明について一定の権利を有する。
【0002】
本発明は、ナノ構造複屈折光学素子と、および微分干渉コントラスト顕微鏡における当該光学素子の使用と、に関する。
【背景技術】
【0003】
ウォラストンプリズムは、偏光を操作するのに用いることができる光学素子である。ウォラストンプリズムを介した伝搬は、2つの出力ビームが、伝搬方向が発散して空間的に分離されるように、入射光ビームを、互いに角度をなす波面を有する2つの直線偏光された出力光ビームを備えている出力に変換する。ウォラストンプリズムは、斜面が当接し、2つのくさびの光軸が互いに直交する状態で、ともに固着される複屈折材料の2つの直角プリズム又はくさびから形成される。光軸の直交方向によって供給される屈折率の違いにより、伝播する光ビームの通常成分と非通常成分が発散し、2つの別々の出力ビームが得られる。発散角はくさび角に依存する。くさびのために、石英や方解石などの単軸複屈折結晶材料が用いられてもよい。
【0004】
関連する装置はノマルスキープリズムである。これもまた、直交する光軸を備える複屈折材料の2つのプリズム又はくさびを備えている。しかし、ウォラストンプリズムでは、光軸の両方がプリズムの入力面と出力面に平行である一方で、ノマルスキープリズムでは、入力くさびは入力面に対して角度をつけて向いている光軸を有している。この結果、2つの出力ビームの角度のついた波面は、空間的に分離された出力ビームは発散するのではなく、むしろプリズムの外側の焦点に収束する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国特許第7233434号明細書
【特許文献2】米国特許第7564618号明細書
【特許文献3】国際公開第2019/158910号明細書
【特許文献4】米国特許第2020/109767号明細書
【特許文献5】米国特許第2020/109768号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J-M Desse and F Olchewsky, “Use of Wollaston prism for dual-reference digital holographic interferometry”, https://doi.org/10.1364/DH.2019.Tu4B.4
【非特許文献2】RD Small, VA Sernas and RH Page, “Single Beam Schlieren Interferometer using a Wollaston prism”, https://doi.org/10.1364/AO.11.000858
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バルク結晶からのくさびの切断と研磨、それに続くプリズムを作成するための固着は、複雑で困難であり、コストのかかる完成品につながる可能性がある。
【0008】
ウォラストンプリズムとノマルスキープリズムの重要な応用として、微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡がある。これは、透明な試料中の光路(屈折率)勾配の単色シャドウキャスト像を生成する顕微鏡の一種であり、染色されていない生きた細胞や隔離された細胞小器官の構造や運動などの観察を可能にする。より洗練されたバージョンは、方向非依存型DIC顕微鏡である。両方のタイプの顕微鏡において、観察される試料を介して空間的に分離され直交偏光された一対の光ビームを通過させることによってイメージングが達成され、試料は2つのビームの間に必要な光路差を導入する。2つのビームを供給するために、ウォラストンプリズム及び/又はノマルスキープリズムが用いられる。第1のプリズムは試料の前に置かれ、試料を介した伝播のためのビームを平行にする集束レンズと関連する。対物レンズは、試料との相互作用の後にビームを収集し、観察のためにビームが1本のビームに再結合する、2番目のプリズムに収束させる。
【0009】
ウォラストンプリズムやノマルスキープリズムのコスト(小さなくさび角の要求によって悪化することもある)の他に、さらなる難点は、プリズムが意図される顕微鏡のモデルやデザインの仕様に合わせなければならず、異なる顕微鏡間で交換することができないことである。また、顕微鏡に取り付けるために、プリズムを取り外し、特定の形状にカットしなければならない。しかしながら、顕微鏡メーカーは顕微鏡に適したプリズムを提供してくれるわけではない。従って、新規注文のプリズムに一般に6か月以上の納期がかかることにより、新規プロジェクトの大幅な遅れを引き起こすことがある。
【0010】
従って、ウォラストン・プリズムやノマルスキー・プリズムの代替品に関心がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
態様および実施形態は、添付の特許請求の範囲に記載されている。
【0012】
本明細書に記載される特定の実施形態の第一の態様によれば、入射光ビームを、直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された出力光ビームに変換するための複屈折光学素子であって、入射ビームを受けるための入力面と、出力面と、入力面と出力面との間の均一な厚さと、を有する透明基板であって、入力面に平行な面において不均一な複屈折を有する、透明基板を備え、当該複屈折は、基板内にランダムに配置された複数のナノ構造によって提供され、入射ビームを基板内で剪断させて、直交する直線偏光と互いに角度をなす波面を有する2つの出力ビームに変換し、出力ビームが出力面に平行な剪断方向に沿って空間的に分離して出力面を離れるように構成され、各ナノ構造が入力面に平行な面において楕円断面を有する長扁円球状を有し、楕円断面の方位は複屈折の遅軸方位を与え、扁円球状形状のサイズは複屈折のリターダンス値を与え、方位およびサイズは、基板の不均一な複屈折を提供するためにナノ構造間で変化する、複屈折光学素子が提供される。
【0013】
本明細書に記載される特定の実施形態の第二の態様によれば、入射光ビームを、直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された出力光ビームに変換するための光学アセンブリであって、第一の態様に従った第1の複屈折光学素子と、第一の態様に従った第2の複屈折光学素子と、第1の複屈折光学素子と第2の複屈折光学素子との間に挟まれた光学回転子と、を備える光学アセンブリが提供される。
【0014】
本明細書に記載される特定の実施形態の第三の態様によれば、第一の態様に従った複屈折光学素子であって、顕微鏡内の照明光ビームを、顕微鏡内に設置された試料を照らすための直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された光ビームへと剪断するように配置された複屈折光学素子と、第一の態様に従った複屈折光学素子であって、透過又は反射により、試料からの直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された光ビームを受け、観察又は検出のために、2つの空間的に分離された光ビームを単一の出力光ビームに収束するように配置された複屈折光学素子と、のうち一方又は両方を含む微分干渉コントラスト顕微鏡が提供される。
【0015】
本明細書に記載される特定の実施形態の第四の態様によれば、第二の態様に従った光学アセンブリであって、顕微鏡内の照明光ビームを、顕微鏡内に設置された試料を照らすための直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された光ビームへと剪断するように配置された光学アセンブリと、第二の態様に従った光学アセンブリであって、透過又は反射によって、試料から直交する直線偏光を有する2つの空間的に分離された光ビームを受け、2つの空間的に分離された光ビームを、観察又は検出のための単一の出力光ビームに収束するように配置された光学アセンブリと、のうち一方又は両方を含む、方位非依存性分干渉コントラスト顕微鏡が提供される。
【0016】
これらおよび特定の実施形態のさらなる態様は、添付の独立請求項および従属請求項に記載されている。従属請求項の特徴は、特許請求の範囲に明示的に規定されている以外の組み合わせで、互いに、及び独立請求項の特徴と組み合わせることができることが理解されることとなる。さらに、本明細書に記載されるアプローチは、以下に規定されるような特定の実施形態に制限されるものではなく、本明細書に提示される特徴の任意の適切な組み合わせを含み、企図するものである。例えば、デバイス及び装置が、以下に記載される様々な特徴のいずれか1つ以上を適切に含む、本明細書に記載されるアプローチに従って提供され得る。
【0017】
本発明のより良い理解のため及び本発明がどのように実施され得るかを示すために、次に添付の図面を例として参照する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例および実施形態に従ったナノ構造複屈折光学素子が使用され得る微分干渉コントラスト顕微鏡の第一の実施例の概略図である。
【
図2】本発明の実施例および実施形態に従ったナノ構造複屈折光学素子が使用され得る微分干渉コントラスト顕微鏡の第二の実施例の概略図である。
【
図3】
図1及び
図2に示すタイプの微分干渉コントラスト顕微鏡で従来使用されているようなビーム剪断プリズムの構造と動作を示す概略図である。
【
図4】本発明の一態様によるナノ構造複屈折光学素子の第一の実施例の概略平面図であり、提案された複屈折プロファイルのグラフ表示が示されている。
【
図5】
図4の例の提案された複屈折プロファイルを含むように作製されたナノ構造複屈折光学素子の写真である(多色偏光顕微鏡とカラーCCDカメラとを使用して撮影された)。
【
図6A】従来のビーム剪断プリズムを取り付けた場合に微分干渉コントラスト顕微鏡を用いて撮影された試料の画像である。
【
図6B】
図5で示したナノ構造複屈折光学素子を取り付けた場合に、同じ微分干渉コントラスト顕微鏡を用いて撮影された
図6Aに示した試料と同じ試料の画像である。
【
図7】本発明の一態様に従ったナノ構造複屈折光学素子の第二の実施例の概略平面図であり、代替の提案された複屈折プロファイルのグラフ表示が示されている。
【
図8】
図7の例の提案された複屈折プロファイルを含むように作製されたナノ構造複屈折光学素子の写真である(多色偏光顕微鏡およびカラーCCDカメラを使用して撮影された)。
【
図9A】従来のビーム剪断プリズムを取り付けた場合に微分干渉コントラスト顕微鏡を使用して撮影された試料の画像である。
【
図9B】
図8に示したナノ構造複屈折光学素子を取り付けた場合に、同じ微分干渉コントラスト顕微鏡を用いて撮影された、
図9Aに示した試料と同じ試料の画像である。
【
図10】本発明の実施例及び実施形態に従ったナノ構造複屈折光学素子が用いられる、方位非依存性微分干渉コントラスト顕微鏡の第一の実施例の概略図である。
【
図11】本発明の実施例及び実施形態によるナノ構造化複屈折光学素子が用いられる、方位非依存性微分干渉コントラスト顕微鏡の第二の実施例の概略図である。
【
図12】本発明に従ったナノ構造光学素子における複屈折が提供される、基板内の個々の扁平異方性ナノポア又はナノ構造の簡略化された概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書では、特定の実施例および実施形態の態様および特徴が議論/説明される。特定の実施例および実施形態のいくつかの態様および特徴は、従来通りに実施され得、これらは、簡潔にするために、詳細に議論/説明されない。従って、詳細に説明されていない本明細書で議論される装置およびデバイスの態様および特徴は、そのような態様および特徴を実装するための任意の従来技術に従って実装され得ることが理解されることとなる。
【0020】
微分干渉コントラスト(DIC)顕微鏡は、参照光又は照明光ビームが、観察中の試料を通って伝達される前に、少量(一般にエアリーディスクの直径よりやや小さい)だけ剪断される、ビーム剪断干渉システムである。剪断される(sheared)」とは、ビームが空間的に分離された2つのビームに分割されることを意味し、この場合、剪断を発生させるためにウォラストンプリズム又はノマルスキープリズムが従来から使用されているため、ビームは直交する直線偏光状態もまた持つ。剪断されたビームを試料に照射することにより、顕微鏡は光路の勾配を示す単色シャドウキャスト像を生成する。基準方向に沿って光路が増加する、それらの試料の領域は明るく(又は暗く)表示され、一方で光路差が減少する領域は逆のコントラストで表示される。光路の勾配が急になるにつれて、画像のコントラストは著しく向上する。DIC技術のもう一つの重要な特徴は、試料の効果的な光学的区分を生成することである。これは、高開口数対物レンズを高開口数集光照明とともに用いた場合に特に顕著である。
【0021】
図1は、既知の構成に従ったDIC顕微鏡の一例の概略図であり、照明光が検出又は観察のために試料を通って伝達される。DIC顕微鏡10は、試料が照らされ得る単色平面波参照光ビーム14を照射する光源12を備えている。光ビーム14は、光ビーム14の偏光状態を適切な方位で通常成分15と非通常成分15とに設定するために、45°の方位角の偏光子16を通過する。その後、光ビーム14は、その直交する光軸が光ビーム14の通常成分及び非通常成分と平行になるように配置された第1のウォラストンプリズム18の入力面に入射する。従って、ウォラストンプリズム18は0°の方位角(光伝搬方向に垂直な面内の角度方向)を有する。ウォラストンプリズム18は、入射ビーム14を、直交する直線偏光15aを有している2つの空間的に分離された平面波光ビーム14a、14bに分割又は剪断するようにふるまう。直線偏光された光ビーム14a、14bは、ウォラストンプリズム18の特性である、分割角又は剪断角ε1によって分離された発散伝搬方向で、ウォラストンプリズム18の出力面から出発し、当該分離はウォラストンプリズム18の出力面に平行な剪断方向に沿ってなされる。発散した直線偏光ビーム14a、14bは、伝搬方向を再方位させ、直線偏光ビーム14a、14bを互いに平行にするために、ウォラストンプリズム18から焦点距離fcに設置された集光レンズ20に伝搬し、剪断量dだけ剪断方向に沿って間隔を空けられる。直線偏光ビーム14a、14bは、方位角を変更することを可能にする回転ステージ24に装着された試料22を通って伝達され、試料の材料を介した伝達が、直線偏光ビーム14a、14b間に光路差δを生成する。ビーム14a、14bは、対物レンズ26によって集光され、対物レンズ26の後方で対物レンズ26の焦点距離である距離fobに設置された第2のウォラストンプリズム28(やはり方位角0°)の剪断角又は分割角に一致するように選択された角度ε2でそれらの伝搬方向を収束させる。第2のウォラストンプリズム28は、収束する空間的に分離された直線偏光ビーム14a、14bを受け、それらを空間的に一致させて、試料22によって導入された光路差δが保存され、第2のウォラストンプリズム28によって導入された光路差バイアスΓによって補足され、全光路差Γ+δを与える、単一の出力光ビーム14cを出力する。出力ビーム14は、45°の方位角で光学分析器に通された後、試料22のシャドウキャスト像を観察又は検出するための接眼レンズ又はイメージセンサ32に到達し、試料22の位相不均一性の可視化を可能にする。
【0022】
図1への挿入図は、第2のウォラストンプリズム28が、対物レンズ26の焦点距離fobを超えて設置されたノマルスキープリズム34と置き換えられてもよいことを示している。
【0023】
図2は、照明光ビームが試料から反射される、異なる既知の構成に従ったDIC顕微鏡の第二の実施例の概略図である。光源12は従来と同様に照明光ビーム14を照射し、当該ビームはフィルタ36を通過して半透明のビームスプリッタ38に到達する。ビームスプリッタ38によって反射された光ビーム14の一部は、偏光子16(45°の方位角)と、ウォラストンプリズム18(0°の方位角)と、集光レンズ20とを通り、従来と同様に、2つの空間的に分離された、平行かつ直交する直線偏光ビーム14a、14bを提供し、被試料22に到達する。
図1の例のように試料22を通過するのではなく、光ビーム14a、14bは試料22から反射され、レンズ20と、ウォラストンプリズム18と、偏光子16とを再び通過し、これらの構成要素が
図1の例の対物レンズ、第2のウォラストンプリズム、及び分析器として機能し、試料22からの光路差情報を持つ単一の出力光ビーム14cを生成する。出力光ビーム14cの一部は、イメージセンサ又は接眼レンズ32での検出又は観察のために、ビームスプリッタ38(光源12をビームスプリッタからの反射から保護するフィルタ36)を通過する。この反射型構成では、透過型配置よりも少ない部品を有し、よりコンパクトな顕微鏡が得られるが、特にビームスプリッタでの光学的損失が観察や検出に利用できる光強度を低下させる傾向があり、より暗い画像を与える。
図1の例と同様に、ウォラストンプリズムをノマルスキープリズムに置き換えてもよい。
【0024】
しかしながら、
図1及び
図2の例のようなDIC顕微鏡によって可能なDIC顕微鏡観察はいくつかの欠点を有している。最適なイメージングを達成するために、光学系に対して試料が適切に向いていることを確保する必要がある。また、結果は直接的に定量的ではない。これらの限界に対処するため、方位非依存性(OI-)DIC顕微鏡が開発された(特許文献1及び2)。これにより、試料又はプリズムを機械的に回転させたり調整したりする必要なく、バイアス方向と剪断方向を迅速に切り替えることができる。試料の定量的な光路長(位相)画像を、高い忠実度及び分解能で得ることができる。特に、個々のウォラストンプリズム又はノマルスキープリズムは、互いに方位角が90°の2つのウォラストンプリズム又はノマルスキープリズムの間に挟まれた切替可能な90°の回転子を備えているビーム剪断アセンブリによって各々置き換えられる。回転子は、例えば液晶デバイスによって具現化することができる。
【0025】
背景のセクションで述べたように、(標準型と方位非依存型の両方の)DIC顕微鏡に影響する問題は、適切なウォラストンプリズムとノマルスキープリズムの適合性と入手性である。プリズムは、数多くのものが様々なメーカーによって市販されている、特定の顕微鏡モデルに適合するように設計されなければならない。従って、オリンパス製の顕微鏡用に設計されたプリズムは、ツァイス、ライカ、ニコンなど、他のメーカー製の顕微鏡には使用することができない。互換性のために、プリズムは顕微鏡設計に必要な形状にアンマウントされ、カットされているのと同様に、適切な光学性能(特に剪断角とバイアス)を持たなければならない。しかしながら、顕微鏡メーカーは適切なプリズムを顕微鏡に提供していない場合があり、ユーザーはプリズムを別途入手しなければならず、コストがかかり、数か月かかることがある。ウォラストンプリズムやノマルスキープリズムの高コストの要因は、複屈折結晶材料を適切なくさび角(一般にDIC顕微鏡においては小さいことが要求される)で必要なくさび形状に切断・研磨する必要があることと、プリズムを光学的に適切な方法で固着する次の段階があることである。
【0026】
従って、DIC顕微鏡やその他の応用の使用のための、ウォラストンプリズムやノマルスキープリズムに代わるプリズムを提供することが提案され、同じ光学的機能や性能を、より単純で安価なフォーマットで提供し、また、顕微鏡やその他の光学装置の特定の設計の要件を満たすように光学特性を簡単に調整することも可能にする。
【0027】
これを実現するために、基板の材料内部に形成されているナノ構造によって複屈折が与えられる基板を備えている光学素子が提案されている。ナノ構造を「書き込む」手順は、ウォラストンプリズム及びノマルスキープリズムのビーム剪断機能を模倣し、剪断角とバイアスとを任意の用途に応じて設定できる、基板にわたって複屈折を変化させるプロファイルを与えるナノ構造を作成するように容易に調整できる。前記光学素子は、1つの入力ビームを2つの出力ビームに同様に変換(分割、分割、剪断)することで、プリズムの光学的作用をシミュレーションする。ナノ構造の適切な成形によって達成される様々な複屈折は、プリズムのくさび間の傾斜した境界によって生成される多様な複屈折に対応する。基板は均一な厚さの1枚の透明光学材料であるため、ウォラストンプリズムやノマルスキープリズムのくさびの切断、研磨、固着に必要な製造精度が回避される。また、自然で固有の複屈折を持つ光学結晶の必要性がないため、石英や方解石などの高価な結晶材料を安価なシリカ系ガラスで置き換えることができる。
【0028】
ナノ構造およびナノ構造を形成する技術については、後でより詳細に説明する。まず、ウォラストンプリズムとノマルスキープリズムの動作原理を説明し、提案される複屈折光学素子によって複製するために必要な光学特性、特にDIC顕微鏡での使用に関して理解する。
【0029】
上記で説明したように、
図1は、第1のウォラストンプリズムによって生成された2つの直交偏光ビームが空間的に分離される、剪断量又は距離dを示している。この距離は、集光レンズによって平行化された後のビーム間の間隔であるため、ウォラストンプリズムによって生成される2つのビーム間の剪断角と、ビームが集光レンズと出会い、剪断角に沿ってビームが発散し、それによって空間的な分離が増大する、ウォラストンプリズムの後方の距離と、の両方に依存する。剪断距離は、DIC顕微鏡のコントラスト、感度、分解能、光学断面の深さを決定する、DIC顕微鏡の重要なパラメータである。
【0030】
図3は、入射ビームの剪断におけるプリズム(ウォラストン又はノマルスキー)及びその動作の模式図である。入射又は入力ビーム14は、伝搬方向zに沿って伝搬する単色平面波であり、伝搬方向zに直交するx-y平面に位置する、通常偏光成分の波面Exと非通常偏光成分Eyとを有する。ビーム14はプリズム18の入力面18aに入射し、入力面はx-y平面に位置する。直交する光軸を備えている2つのくさびから形成されたプリズムの複屈折構造は、既知の原理に従い、ビーム14を、プリズム18の出力面18bから出発する、わずかに異なる発散した伝搬方向(やはり一般にz方向)を備えている2つの別々の直線偏光ビームに分割又は剪断する。第1の出力ビーム14aは、平面波面Exとx方向に沿った直線偏光とを有し、第2の出力ビーム14bは、平面波面Eyとy方向に沿った直交する直線偏光とを有する。剪断方向、従ってビーム14a、14bの両方が位置する剪断面は、この例ではx軸に平行である。剪断面が出力面に直交する一方で、剪断方向もまた出力面に平行である。出力ビーム14a、14bの伝搬方向は、(プリズム18の光学特性と構造とに依存する)剪断角εによって分離される。その結果、波面ExとEyとは互いに同じ角度εで位置し、伝搬方向zに沿って光路差を有している。
図3の形状からわかるように、剪断角ε(ラジアン)は、座標x(剪断方向)に関する光路差Δ(代わりに、プリズム18のバイアス又はリターダンス)の導関数に等しく、ε=dΔ/dxとなる。
【0031】
DIC顕微鏡では、発散ビームを集光レンズに通すことにより、剪断量又は剪断距離dが設定される(
図1参照)。レンズが焦点距離fを有している場合、剪断距離dはd = fε = ε Lt/Mで与えられ、Mはレンズの倍率である。Ltは、いくつかの顕微鏡メーカーによって採用されているような、無限遠対物レンズのためのチューブレンズの標準的な基準焦点距離である。例えば、オリンパスは180 mm、ツァイスは164.5 mm、ニコンとライカは200 mmの基準焦点距離を用いている。
【0032】
特定の従来のウォラストンプリズムやノマルスキープリズムを提案されている複屈折光学素子で代替するために、この特性を光学素子で再現するため、プリズムの剪断角を決定する必要がある。
図3(特許文献3)の形状に従って剪断角度をもたらすために、剪断方向に沿った座標に関するリターダンスの導関数が、多くのDIC顕微鏡プリズムのために測定されている。例として、オリンパス製プリズムU-DIC40HRのリターダンス導関数は15 nm/mmで、対応する剪断角は15 μradであり、オリンパス製プリズムU-DIC20HRのリターダンス導関数は30 nm/mmで、対応する剪断角は30 μradである。
【0033】
ウォラストンプリズムやノマルスキープリズムを置き換えるための本明細書で提案される複屈折光学素子は、複屈折が不均一で、基板の平面にわたって変化する単純な平面基板であり、使用時には、光学素子は、この平面が入射光学平面波の伝搬方向に直交するように方位される。既に説明したDIC顕微鏡に関して、基板の平面はx-y平面に位置し、基板は伝搬方向zに沿って厚みを有している。必要な剪断効果は、変化する複屈折のプロファイルで生み出すことができる。プロファイルは、異なるx-y位置が異なる複屈折値を示すz方向に沿った複屈折の値で構成される(変化は、剪断方向を与える、これらの方向のうち一方向に沿ってのみ存在し、他の方向に沿った変化はない)。従って、有限のビーム断面積を備えている入射ビームでは、横断面(x-y平面内)のビームの異なる部分が異なる複屈折を経る。任意の位置における複屈折は、リターダンス量と、(複屈折では通常の)遅光軸方向の方向(方位角)と、の2つの成分を備えている。様々な複屈折プロファイルは、必要なビームシェアリングを提供することができ、達成される剪断量(2つの出力ビームの角度分離)とバイアス(2つの出力ビーム間の光路差)とは、プロファイルにわたってリターダンスと遅軸方向とを調整することによって選択可能である。2つの例について詳細に説明する。
【0034】
第一の例は、可変リターダンスと不変(固定)遅軸方向とからなる複屈折プロファイルを有している。第二の例は不変(固定)リターダンスと、可変遅軸方向とを備えている逆の配置を有している。リターダンス及び遅軸方向の両方が変化する、より複雑な構成もまた想定される。しかしながら、複屈折の一方の成分のみが可変である場合、ナノ構造を形成するためのプロセス(以下でさらに説明される)を簡略化することができるため、これが好ましいと考えられる。また、実施例では、複屈折プロファイルは一次元であり、基板の平面内で、一方の方向(説明したようにx方向、剪断方向に対応する)に沿って変化し、他方の方向(説明したようにy方向)に沿って一定である。これは、くさび境界の形状により、ビーム剪断プリズムに相当する。しかしながら、ビーム剪断を達成するために、x方向及びy方向の両方に沿ってプロファイルを変化させることもまた可能である。
【0035】
(第一の詳細な実施例)
光学素子の基板が、X-Y平面のX mm×Y mmのフィールド内で定義された複屈折プロファイルを有していると仮定する。入射ビームが通常円形断面であることを考慮すると、正方形のフィールドが実用的である。従って、複屈折プロファイルは、XとYとが正方形のフィールドで等しい、0 mm < x < X mm、0 mm < y < Y mmの領域に存在する。任意のx位置で絶対リターダンス値Δを与えるために、x方向に沿ってαのリターダンス導関数が必要である(そのため剪断方向はx方向)。x方向に沿って、可変リターダンスはフィールドの中心(x = X/2)でゼロの値を有するように選択され、フィールドの一方の端(x = X)で正の最大値に増加し、フィールドの反対側の端(x = 0)で負の最大値に増加し、最大値は等しくなる。正のリターダンスを有するフィールドの半分では、遅軸の方向φは固定され、x方向に平行に選択される。負のリターダンスを有するフィールドの他の半分では、遅軸の方向も固定されているが、正の半分の遅軸の方向と直交しているため、y方向に平行である。しかしながら、直交する遅軸の方向は逆でもよいし、x方向及びy方向に対して角度をつけてもよい。
【0036】
従って、x方向を水平方向、y方向を垂直方向として選択する場合、(x方向に沿った)複屈折プロファイルは数学的に次のように記述できる。
【0037】
【0038】
具体的な例を検討する。複屈折フィールドは10 mm×10 mmと設定し、0 mm<x<10 mm、0 mm<y<10 mmで説明できる。リターダンス導関数αは、上述の実際のオリンパスU-DIC40HRプリズムに対応するように、15 nm/mmに選択されている。従って、x方向のフィールドの各半分は5mmの幅を有し、のフィールドの端での最大リターダンスを与える。従って、複屈折プロファイルは次の式で与えられる:
【0039】
【0040】
図4は、この複屈折プロファイルを有している光学素子の概略平面図である。光学素子50は、一定の厚さで直径25 mmの平面形状を有している石英ガラスから形成された円形の基板52を備えている。複屈折プロファイルは、基板の中心の正方形のフィールド54を横切って、10 mm×10 mmの領域にわたって書き込まれている。フィールドの各半分における遅軸φの方向は、両端矢印で示されている。上述のように、方向は、2つの半分がx=5mmの中心線の両側に位置する、各半分の内部で固定又は一定である。縦線は、リターダンスΔの値が、x = 5 mmで0 mm、x = 0 mmでは-75 nm、x = 10 mmで+75 nmである場所を示している。x方向に沿ったリターダンス値の変化は、濃淡によって示されており、濃淡の飽和度はリターダンスの絶対的な大きさに比例している(従って、最大飽和度はフィールド54の端に位置する)。リターダンスの絶対値は、上で示したα・xに対するΔの依存性によって、中心線からの距離とともに直線的に増加する。言い換えれば、リターダンスは一定の勾配を有している。第一の実施例に従って構成された光学素子は、ウォラストンプリズムと光学的に等価である。
【0041】
図5は、本明細書に従って作製した実験用光学素子の写真である。当該写真は、多色偏光顕微鏡とカラーCCDカメラ(Lumenera Infinity 3-1C)とを用いて撮影された。図から分かるように、濃淡のパターンが
図4の複屈折プロファイルの理論的表現に対応し、光学素子が設計に従って正常に作製されたことを示している。
【0042】
第一の実施例の実験用光学素子の性能を評価するために、DIC顕微鏡のために構成された顕微鏡に使用して、試料の画像を取得し、従来の剪断プリズムが備えられた同じ顕微鏡を用いて撮影された同じ試料の画像と比較した。顕微鏡は、40倍の対物レンズと、高分解能DICスライダーU-DICTHRと、バンドパスフィルタ576/10 nmと、画像を記録するための単色CCDカメラLumenera Infinity 3-1Mと、が備え付けられた研究用顕微鏡Olympus BX61を使用した。照明経路(つまり、光源と試料との間のプリズムの位置、
図1参照)には、オリンパスのU-DIC40HRである従来のDIC剪断プリズム、又は第一の実施例の実験光学素子のいずれかが設置された。U-DIC40HRは、上述のように15 nm/mmのリターダンス導関数から生じる15 μradの剪断角を有し、また上述のように、第一の実施例の光学素子もこの同じリターダンス導関数(したがって同じ剪断角)を有するように作製された。
【0043】
この試料には、Fisher Permounting Medium(Fisher Scientific Company LLC製)に埋め込まれている、液晶細胞のスペーサーとして用いられるガラス棒の短いセグメントが備えられている。これは、DIC顕微鏡を介した典型的な観察対象である、細胞構造中の透明なフィラメントに光学的に類似しているため選択された。波長546 nmにおけるガラス棒及びペルマウントの屈折率が、Jamin-Lebedeff顕微鏡(Zeiss社製)を用いて測定され、それぞれ1.554と1.524であった。懸濁液の一滴を顕微鏡スライドとカバースリップとの間に置き、作製した試料を
図1のように顕微鏡の回転可能なステージに置いた。
【0044】
図6Aは、U-DIC40HRプリズムを取り付けた顕微鏡で記録した試料の画像を示し、
図6Bは、第一の実施例の光学素子を取り付けた顕微鏡を用いて記録した試料の画像を示す。図からわかるように、どちらの画像も鮮明で、同じコントラストを有している。従って、第一の実施例に従って構成された複屈折プロファイルを有する光学素子は、何らの画質の損失なく、従来のDIC顕微鏡プリズムを容易に置き換えることができる。さらに、(さらに以下で議論される)光学素子の基板に複屈折ナノ構造を形成する際の柔軟性は、光学素子が従来のDICプリズムと比較して改善された性能を示す可能性を提供する。
【0045】
(第二の詳細な実施例)
この実施例では、光学素子の複屈折フィールドの複屈折プロファイルは、不変(固定)リターダンスと可変遅軸方位を有する。再び、光学素子の基板が、X mm×Y mmの寸法を有するx-y平面内のフィールド内に定義された複屈折プロファイルを有し、正方形のフィールドにおいてXとYが等しい、プロファイルが0 mm<x<X mm、0 mm<y<Y mmの領域に存在すると仮定する。x方向に沿った剪断方向を与えるために、遅軸の方向又は方位角φがx方向に沿って変化する。遅軸方位角の値がフィールド全体で一定の勾配を持つという点で、変動は均一である。従って、遅軸方位角の値はxの値に比例する。リターダンスΔはx方向に沿って一定の値に固定されるので、全てのx位置で同じ量のリターダンスがある。この実施例では、意図する入射光ビームの波長λの半分のリターダンス値が選択されるが、他の値もまた用いられてもよい。
【0046】
従って、x方向を水平方向、y方向を垂直方向と選択すると、(x方向に沿った)複屈折プロファイルは数学的に次のように記述できる。
【0047】
【0048】
この設計により、基板を介して伝搬する波面の進化が幾何学的位相原理に従う光学素子が得られる。
【0049】
具体的な例を考える。複屈折フィールドは10 mm×10 mmとすると、0 mm < x < 10 mm, 0 mm < y < 10 mmとすることができる。回転の遅軸勾配βは5.5°/mmに選ばれる。波長λは560 nmに選ばれ、リターダンスΔはこの値の半分の280 nmになる。
【0050】
図7は、この複屈折プロファイルを有する光学素子の概略平面図である。光学素子50は、やはりシリカガラスから形成された円形の基板52を備え、一定の厚さ及び直径25 mmの平面形状を有する。複屈折プロファイルは、基板の中心にある正方形のフィールド54を横切って、10 mm×10 mmの領域にわたって書き込まれている。リターダンスΔは、複屈折フィールドにわたって280 nmに固定されている。遅軸φの変化する方向は、両端の矢印で示されている。上記の関係に従って、遅軸の方向が一定の勾配であることを示すと、場の左端ではx=0 mmであるからφ=0°、場の中央ではx=5 mmであるからφ=27.5°、場の右端ではx=10 mmであるからφ=55°であり、xの値が大きくなるにつれてこれらの位置の間を滑らかに移行する。図に使用されているフィールドの濃淡は、出力ビームの偏光面の方位角に対応する。リターダンスが波長の半分に設定されているため、出力偏光面は遅軸の方位角の2倍の角度だけ回転している。従って、出力偏光方位角χは、図に示すように、x方向に沿って0°から110°まで変化する。
【0051】
図8は、本明細書に従って作製した実験用光学素子の写真である。この写真は、多色偏光顕微鏡とカラーCCDカメラ(Lumenera Infinity 3-1C)とを用いて撮影された。図から分かるように、濃淡パターンは
図7の複屈折プロファイルの理論的表現と一致しており、光学素子が設計に従って正常に作製されたことを示している。
【0052】
複屈折プロファイルを備えている光学素子が垂直偏光の直線偏光ビームに照射されると、出力ビームの偏光面の方位角χはχ = 2βxで与えられる(つまり、上述のように遅軸の方位角の2倍)。しかしながら、角度χによる直線偏光の回転は、直交する2つの円形(左右)固有波ψ間の位相シフトとして記述することができるため、ψ = 2χ = 4βxとなる。そして、左右の円形固有波間の位相シフトの導関数は、dψ/dx = 4βで与えられる。従って、光路差又はリターダンス導関数εは、ε=(λ/360°)dψ/dx=λ(β/90°)で記述できる。(余談ではあるが、幾何学的位相光学素子として説明できる、第二の実施例の光学素子は、ビーム剪断能力を備えているプリズムのさらなる例である、フレネルトリプリズムと同様に動作するが、異なるビーム偏光の変換原理を用いている)。
【0053】
リターダンス導関数が剪断角に対応することに留意されたい。この実施例では、λ = 560 nm、β = 5.5°/mmのため、2つの直交円偏光ビーム間に導入される剪断角は34 μrad(2ミリ度)である。これはオリンパス製のDICプリズムU-DIC20HRの剪断角と同様であり、既に述べたように30 μradである。従って、実験用光学素子とオリンパス製プリズムとを比較し、その性能を評価することが可能である。
【0054】
従って、第一の実施例の実験用光学素子と同様の実験が、第二の実施例の実験用光学素子をDIC顕微鏡のために構成された顕微鏡に用いて、試料の画像を取得し、従来の剪断プリズムを備えた同じ顕微鏡を用いて撮影された同じ試料の画像と比較することにより行われた。顕微鏡は、再びオリンパス製のBX61顕微鏡で、20倍の対物レンズと、高分解能DICスライダーU-DITHCERと、バンドパスフィルタ576/10 nmと、画像を記録するための単色CCDカメラである、Lumenera Infinity 3-1Mと、が取り付けられた。照明経路(つまり、光源と試料との間のプリズム位置、
図1参照)には、従来のDIC剪断プリズム、この場合はオリンパス製のU-DIC20HR(上述のように、第二の実施例の光学素子と同様の剪断角を有している)、又は第二の実施例の実験用光学素子のいずれかが配置された。第一の実施例の光学素子を用いた実験と同じ試料が使用された。
【0055】
図9AはU-DIC20HRプリズムを取り付けた顕微鏡を用いて記録された試料の画像を示し、
図6Bは第二の実施例の光学素子を取り付けた顕微鏡を用いて記録された試料の画像を示す。どちらの画像も良好な画質であるが、従来のプリズムで得られた画像の方が、より均一な視野と、少し優れたコントラストとを有していると感じられるかもしれない。この理由の一つは、光学素子の剪断角(34 μrad)がオリンパスのプリズムの剪断角(30 μrad)より少し高いため、前者は後者の直接的な代替品ではなく、顕微鏡内部の異なる剪断距離を生成し、顕微鏡の他の構成部品は最適化されない。また、さらなる研究により、第二の実施例の光学素子には製造上の欠陥があることが判明した。しかしながら、(基板に複屈折ナノ構造を形成するプロセスのパラメータを変更することによって達成できる)剪断角が正しく一致し、欠陥がなければ、同じ画質が得られると予想される。従って、第二の実施例に従って構成された複屈折プロファイルを備えている光学素子は、何らの画質の損失なく、従来のDIC顕微鏡プリズムと容易に置き換えることもまたできる。
【0056】
従って、
図1の例のように配置されたDIC顕微鏡や、光を試料に透過させる他の同様の配置は、ウォラストンプリズムやノマルスキープリズムを、本明細書に記載の複屈折光学素子で置き換えることによって再構成してもよい。プリズムの両方を代替してもよいし、単一のプリズムのみ(試料の前の第1のプリズム又は試料の後の第2のプリズムのいずれか)を代替してもよい。両方のプリズムが置換されている場合、2つの光学素子は同じであってもよく、又は異なっていてもよい。例えば、一方は第一の詳細な実施例に従っていてもよく、一方は第二の詳細な実施例に従っていてもよく、両方が同じ詳細な実施例に従っていてもよいが、(顕微鏡の他の構成要素との機能性に応じて)複屈折プロファイルにおける光軸方位角又はリターダンスの値が異なっていてもよい。同様に、
図2の実施例の反射型DIC顕微鏡の単一のウォラストンプリズム又はノマルスキープリズムは、例えば第一の詳細な実施例又は第二の詳細な実施例に従って、本明細書に記載の複屈折光学素子で代替してもよい。
【0057】
さらに、本明細書で説明する複屈折光学素子は、方位非依存(OI-)DIC 顕微鏡(特許文献1及び2)にも使用してもよい。これらは、非OIバージョンのDIC顕微鏡とほぼ同様の構造を有するが、方位非依存を可能にするための重要な違いは、各ビーム剪断プリズムが、光軸が直交して配置された一対のビーム剪断プリズム(ウォラストン又はノマルスキー)と、それらの間に挟まれた90°の光学回転子と、を備えているビーム剪断アセンブリに置き換えられていることである。光学回転子は、例えば液晶デバイスであってもよい。これらのプリズムは、本明細書に記載されているように(例えば、第一又は第二の詳細な実施例に従って)複屈折光学素子と置き換えて、90°の光学回転子を間に挟んだ一対の複屈折光学素子を備えているビーム剪断アセンブリを提供する。
【0058】
図10は、従来のビーム剪断プリズムの代わりに複屈折光学素子が含まれる、
図1の実施例と同様に、試料を通った照明ビームの透過を用いるOI-DIC顕微鏡70の一例の概略図である。
図1及び
図2の実施例と共通する構成要素は、比較及び説明を容易にするために同じ参照数字が付されている。光源12は、45°偏光子16と、0°方向の位相シフタ56とを通過する照明ビーム14を出射する。次に、ビームは、方位角0°で光軸を備えている第1の複屈折光学素子61と、第1の複屈折光学素子61に直交する光軸を備えている第2の複屈折光学素子63を備えている、そして方位角90°で、それらの間に挟まれた90°の光学回転子62を備えている、第1のビーム剪断アセンブリ60に到達する。第1のビーム剪断アセンブリは、入力照明ビームを、剪断角(簡単のために図示せず)で発散する、必要な一対の直交偏光ビーム(14a、14b)に剪断する。2つのビーム14a、14bは、上述のように、剪断距離だけ間隔をあけてビームを平行にする集光レンズ20を通過し、観察される経路差パターンを取得するために試料22を透過する。対物レンズ26がビーム14a、14bを収集し、第2のビーム剪断アセンブリ64に収束させる。これもまた、第1の複屈折光学素子65と、第1の光学素子65の光軸と直交する光軸を備えている第2の複屈折光学素子67とに挟まれた光学回転子66を備えている。しかしながら、第2のビーム剪断アセンブリ64は、第1のビーム剪断アセンブリ60に関して180°だけ回転し、第1の複屈折光学素子65の光軸と第2の複屈折光学素子67の光軸とはそれぞれ270°と180°の方位にある。第2のビーム剪断アセンブリ64は、上述のように、ビームを重複する共通のアライメントにもたらし、出力ビーム14cを試料22によって誘起された経路差情報を伝達する顕微鏡に供給する。出力ビーム14cは、-45°で変位補償器68と光学分析器とを通過し、検出/観察のために画像センサー又は他の光学検出器32に到達する。
【0059】
図11は、
図2の例と同様に、試料での照明ビームの反射を利用するOI-DIC顕微鏡71の一例の概略図であり、従来のビーム剪断プリズムの代わりに複屈折光学素子が含まれている。
図1、
図2および
図10の実施例と共通する構成要素には、比較及び説明を容易にするため、同じ参照数字が付されている。光源12は、0°で45°偏光子16と位相シフタ56(
図10の配置と同様)を通過した後、ビーム14の一部を試料に向けるビームスプリッタ38(
図2の配置と同様)に到達する照明ビーム14を照射する。ビームはまず変位補償器68を通過した後、
図10の配置における第1のビーム剪断アセンブリ60と同様に、光軸が0°方位にある第1の複屈折光学素子61と、光軸が第1の複屈折光学素子61に直交し、90°方位にある第2の複屈折光学素子63と、これらの間に挟まれた90°光学回転子62とを備えている、ビーム剪断アセンブリ60に到達する。ビーム剪断素子60は、上述のように、試料22に到達する前に集光レンズ20によって平行化される、DIC顕微鏡に必要な2つの空間的に分離したビーム14a、14bを生成する。ここで、ビーム14a、14bは反射され、集光レンズ20とビーム剪断アセンブリ60とを透過して空間分離を除去し、単一の出力ビーム14cを提供し、次に変位補償器68を通り、ビームスプリッタ38に到達し、出力ビーム14cの一部を-45°で光学分析器30を透過し、最後にイメージセンサ32を透過する(
図2の例について説明したのと同様)。
【0060】
従って、本明細書で提案される複屈折光学素子は、方位非依存DIC顕微鏡及び方位依存DIC顕微鏡の両方においてうまく使用することができる。複屈折光学素子は、従来のビーム剪断プリズムよりも安価であり、後述する製造方法によって、(現在適切なプリズムを入手するのにコストがかかる市販のDIC顕微鏡を含む)顕微鏡の各特定のモデル又は構成に対して個別に容易にカスタマイズすることができる。このようなカスタマイズされた光学素子は、より精密であり、顕微鏡における製造誤差やアライメント誤差を補正するように構成することができ、より良好な画像コントラストを提供することができる。さらに、光学素子は負の複屈折を示し、最大リターダンスは約200nmと低い。これは、正の複屈折を有し、約5000nmのはるかに大きなリターダンスを有する従来の石英ビーム剪断プリズムとは対照的である。負の複屈折と小さなリターダンス量とにより、DIC顕微鏡の視野を広げることができる。
【0061】
本明細書に記載の光学素子の複屈折は、光学素子内に形成されたナノ構造によって提供される。ナノ構造は、光学的に透明な材料、一般にはシリカガラスに周期的又はランダムに分布するナノポアの集合体を備えている。ナノポアは、バルク材料において屈折率を変化させ、負の複屈折を提供するナノメートルスケールの構造変更又は変化である。まだ十分に理解されていないが、ナノポアはバルク材料内の空隙と考えられている。ナノポアは、バルク材料に複屈折特性を与える形状と方位を持つ。ナノポアは、基板に向けられる超短パルス(フェムト秒)レーザー光の作用によって形成され、「書き込まれる」。パルスの光学特性は、ナノポアの形状と方向を決定する。従って、パルス特性を変更することによって複屈折特性を調整することができ、基板に適用する際、レーザーパルスを適切に制御することによって、ウォラストンプリズムやノマルスキープリズムのビーム剪断能力をエミュレートする複屈折プロファイルを基板内に形成することができる。
【0062】
基板に供給される光エネルギーの量(レーザーパルスのパワー、持続時間、繰り返し率を含む因子によって決まる)は、形成されるナノ構造のタイプを決定する。パルスは、基板に恒久的な材料改質を誘発するのに十分な蓄積熱と格子熱とを供給することができる。タイプII(特許文献3)と呼ばれるナノ構造の一タイプは、ナノポアが自己組織化され、光学格子として機能する周期的な分布を持つナノ格子を備え、異方的な屈折率パターンとそれによる複屈折とを提供する。異方性はレーザーパルスの偏光に強く依存するため、誘導される複屈折を必要なプロファイルに調整することができる。
【0063】
本願の目的にとってより有用なタイプのナノ構造は、タイプIIの構造と比較して低減された光伝搬損失を有し、タイプXと呼ばれている(特許文献3)。タイプXナノ構造は、タイプIIナノ構造の自己組織化周期性を生み出すのに必要な適用される光パルス密度よりも低い密度を用いて書き込むことができる。タイプXナノ構造は、タイプIIのナノ格子の複屈折の約4倍未満の複屈折を示すが、レーザーパルスの適切なビーム整形によって、光学素子を通る意図された光伝搬方向に比較的長い長さでナノ構造を書き込むことができる。50μm以上のオーダー、例えば約100μmまでの長さを書き込むことができる。複屈折動作に必要なパラメータは、複屈折及び光路長の積として定義される、位相リターダンスであるため、光伝搬方向に沿って位置するナノ構造のこの長さは、低い複屈折を補償する。リターダンスパラメーターは、ナノポアの長さを制御するためのレンズを調整することと、ナノポアの密度、個々のナノポアのアスペクト比及び体積を制御するためにレーザーエネルギー及びパルス量を調整することとにより、容易に変化させることができる。
【0064】
タイプXの複屈折構造改質は、ランダムに分布した個々のナノポア又はナノ構造を備えている。しかしながら、所望の複屈折を提供するためにはナノ構造の周期性は必要ではなく、代わりにバルク材料内の個々の構造の方位に依存する。従って、自己組織化の欠如は、高品質の光学素子の製造に対する障害にはならない。また、タイプXの異方性は、レーザー書き込みビームの偏光によって制御される。各ナノポアは、扁円球状(楕円球状)又はレンズ状である、形状によって異方性が定義される。上述のように、一般的には光学素子の光学入力面の後方で一定の深さの層内にあるが、ナノポアは基板材料内でランダムに離間している。各ナノポアの扁円球状は、光学素子を通る光伝搬方向に平行で、光学素子の入力面に垂直なその円形断面の平面に向いている。入力面に平行な楕円形又は長円形の断面は、その長軸を任意の角度で方位させることができ、長軸は書き込み光ビームの偏光に対して垂直に形成される。短軸は、書き込み光ビームの偏光に平行である。全体形状がレンズ状であるため、光伝搬方向におけるナノ構造の範囲、すなわち、入力面から出力面まで光学素子の厚さを通る方向に沿った長さは、長軸と同じであるか、又は類似していてもよい。ナノ構造の全体の形状は、焦点付近のレーザーパルスの強度分布によって決まる。
【0065】
図12は、本実施例では、ビーム剪断効果を提供する複屈折プロファイルを備えている複屈折光学素子を備えている、光学素子80内の個々のナノポア86を高度に模式的かつノンスケールで示している。明確にするために、単一のナノポアが示されているだけであるが、上述したように、実際には、ナノ構造改質は、光学素子基板の材料内に、タイプX改質の場合はランダムに、タイプII改質の場合は周期的に配置された多数のこのようなナノポアを備えている。「ナノ構造」という用語は、単一のナノポアを指してもよく、ナノポアの集合体(ナノ格子のような、より広いグループ内のサブグループ、又は光学素子内に存在するすべてのナノポアのいずれか)を指してもよい。光学素子80は、入射光を受けるための入力面82を有し、入射光は、光学素子の厚さtに平行な伝搬方向zに沿って光学素子内を伝搬し、入力面82とは反対側の出力面84を通って出発する。フェムト秒パルスの集光された書き込み光ビームIは、入力面82に入射し、この実施例では、光学素子10を形成する試料のy方向、すなわち幅方向に平行に整列された直線偏光Eを有する。作製された光学素子80のその後の使用において、入射又は入力光ビームI(DIC顕微鏡の照明光ビームなど)は、書き込みプロセスによって作成された光学素子80の複屈折によって、出力光ビームI’(この実施例では2つの部分に剪断され、図示せず)に改質又は変換される。ナノポア86は、光学素子の厚さtに実質的に平行な長さLを有し、これは一般には100nm以下である。長さLは、入力面12の平面に対して垂直である。ナノポア86は、長軸又は高さHと、高さに直交する小さい短軸又は幅Wとを有する楕円形、長円形又は扁球形を有している、入力面に平行な平面における断面形状を有する。長軸は短軸よりも大きい。幅Wは、一般には約30 nm以下の大きさを有している。ナノポア86の扁球状形状のため、長さLと高さHとは実質的に等しく、長さLと高さHとを通るナノポア20の断面はほぼ円形になってもよい。いくつかの場合では、これら2つの寸法に沿った書き込みプロセス中のナノポアの成長は、異なって進化する可能性があるため、長さLと高さHとの間にわずかな、又はそれ以上の有意な差が生じることがある。例えば、長さLが高さHよりも大きくなることがある。しかしながら、一般的には、LとHとは、両方より小さい幅Wと比較すると、少なくとも互いに類似することとなる。入力面82は、高さ寸法hと直交する幅方向bとを有している。ナノ構造20の幅Wと高さHとは、高さhと幅bとに対してある角度をなし、これは高さ方向(長軸)に沿って位置するものとして定義されるナノポア86の方向を設定する。HおよびWのいずれかは、h又はbのいずれかと平行であり得るか、又は平行なアライメントの間の任意の角度で配置され得る。この方位(長軸Hの方向)は、ナノポアを備えているナノ構造によって提供される複屈折の遅軸の方向(方位角)である。方向は、書き込み光ビームIの偏光Eによって設定され、WはEに平行で、HはEに垂直である。従って、書き込み光ビームの偏光方向の回転は、生成される複屈折の遅軸方向を制御する。光伝搬方向に沿った寸法である、ナノポア20の長さLは、複屈折から利用可能な全リターダンスを部分的に決定し、ナノポアを形成するために適用される光エネルギーの量を制御することによって変化させることができる。リターダンスに対するナノポア形状の寄与は、ナノポアの体積、及びWとHとの比によって変化する。全体の総リターダンスは、ナノポアの密度及びナノポアを含む領域又は体積の長さにもまた依存する。総エネルギーは、パルス持続時間、個々のパルスエネルギー、パルス繰り返し率、パルス数、及びパルス集束の開口数を含むパラメータを変更することによって変更することができる。従って、ナノ構造によって提供される複屈折のリターダンスと遅軸方向との両方を容易に制御することができ、本明細書に記載されているような複屈折変化のプロファイルを容易に作成することができる。
【0066】
タイプII構造及びタイプX構造の両方において、一貫した均一な複屈折を作成するために、超短レーザーパルスを基板材料に複数回照射するのが一般的である。例えば、約10パルス、50パルス、100パルス、又はそれ以上のパルスが用いられてもよい。書き込みビームのレーザー光は偏光され、ナノポアを扁球状に成形して所望の複屈折を生み出す異方性を得るためには、定義された偏光方向が必要である。偏光された書き込み光は、レーザーパルスによって基材で誘起された初期球状ナノポアの赤道で増強される、異方性電場分布を有し、球をレーザー光の偏光方向に垂直に向くより長い寸法を有する扁平形状に成長させる。従って、特定の複屈折のナノポアを基板に書き込むことは、複屈折の遅軸方向を規定するように選択された偏光方向又は方位と、複屈折のリターダンスのレベルを規定するように選択された光エネルギー量とを備えている超短レーザーパルスを用いて達成することができる。
【0067】
ナノ構造の書き込みは、複屈折の遅軸方位を定義するために直線偏光を用いて実行することができる。完全な方位範囲を提供するためには、偏光方位は0°から180°の間で可変である必要があり、電気光学変調器のような直線偏光状態を生成する可変リターダンス偏光素子を用いて設定される。あるいは、楕円偏光は基板材料にナノ構造を書き込むのに用いることができ、楕円偏光の方向は、直線偏光と同じように作用して複屈折ナノ構造の遅軸方向を定義することが分かっている。従って、楕円偏光は直線偏光に容易に取って代わることができる。さらに、複屈折ナノ構造のリターダンスもまた楕円偏光の楕円率に依存するため、ナノ構造を書き込む際にリターダンスを制御するのにこの特性を利用することができる。この配置により、特定のリターダンスを得るために光出力の量を調整する必要性を回避することができる。完全な可変複屈折プロファイルの作製を通して、一定のパルスパワー(及び書き込み速度、パルス繰り返し率、及び供給される出力の総量を決定するその他の要因)を使用することができ、偏光特性のみを変化させる必要がある。
【0068】
複屈折ナノ構造およびそれを基板に書き込む方法に関する追加情報は、WO 2019/158910(特許文献3)、WO 2020/109767(特許文献4)及びWO 2020/109768(特許文献5)に記載されている。
【0069】
本明細書に記載のウォラストンプリズム及びノマルスキープリズムを複屈折光学素子に置き換える魅力的な特徴は、そのようなプリズムを製造するのに用いられる石英や方解石などの高価な光学的に複屈折する結晶材料を回避することができることである。光学素子を形成するために用いられる基板のバルク材料は、(書き込みレーザーパルスの波長で高い透過率を有する、紫外から近赤外(おおよそ200 nmから2500 nm)までのスペクトルにわたる少なくともいくつかの波長に対して、及びそれが意図される顕微鏡の照明ビームの波長に対して、有意な透過率を有する)透明材料である。有用には、材料は非晶質ガラス材料であってもよい。例えば、溶融シリカを含むシリカ(二酸化ケイ素、SiO2)であってもよい。シリカ又は他のガラス材料は、その光学特性を変更するために他の材料でドープされ得る(特定の用途にとって興味深くあり得る)。ドープされたガラス又は多成分ガラスの例は、Al2O3、B2O3、アルカリ土類酸化物及びNa2/K2Oなどの材料を含んでいてもよく、他の元素及び化合物を用いてもよく、本開示はこの点で限定されない。光学素子の他の材料としては、レーザー誘起ナノ構造を支持できる任意の材料であってもよく、タイプII改質又はタイプX改質などのナノ格子が以前に実証された材料も含まれる。これは、多成分ガラス、GeO2ガラス、多孔質ガラス、エアロゲルガラス、シリコン及びシリコン材料、半導体材料、ニオブ酸リチウム及び他の酸化リチウム化合物を含んでいる。しかしながら、他の材料は除外されない。ナノ構造は、光学素子の基板材料の体積内に埋め込まれるように形成される。これらは単層で形成することができ、層の厚さは約50 μmから約500 μmの範囲で適切な複屈折効果をもたらすが、他の層の厚さは除外されない。
【0070】
複屈折ナノ構造を基板に書き込むのにかかる時間は、生成されるリターダンスの量に比例する。一実施例として、第一の実施例に従った光学素子における10 mm×10 mm角の複屈折フィールドの平均リターダンスが37.5 nmであるのに対し、第二の実施例に従った光学素子は280 nmのリターダンスを有する可能性がある。従って、第一の例の光学素子の書き込み時間は、第二の例の光学素子の書き込み時間の少なくとも5倍となり得、場合によっては好ましい構成となり得る。しかしながら、より大きな複屈折フィールドサイズ又はより大きな平均リターダンスが要求される場合には、第二の例の光学素子が好ましい場合がある。最終画像で高い解像度を有するDIC顕微鏡は、小さな剪断距離を必要とするため、一般的には第一の実施例の光学素子がよりよい選択肢である。一方、最終画像で高いコントラストを有するDIC顕微鏡は、大きな剪断距離を必要とし、従ってこの場合は第二の例の光学素子がより良い選択となり得る。
【0071】
本明細書に記載の複屈折光学素子は、ウォラストンプリズム、ノマルスキープリズム、及びフレネルトリプリズムなどのビーム剪断プリズムの動作をシミュレーションする。従って、その応用はDIC顕微鏡での使用に限定されず、他の光学装置において従来のビーム剪断プリズムを置き換えて追加的に用いてもよい。例えば、デジタルホログラフィック干渉計(特許文献6)やシアリング干渉計(特許文献7)などが含まれる。また、高精度のゼロ次ソレイユバビネ補償器を製造するために用いてもよい。説明される光学素子は、反対方向に方位させることができ、任意の追加の補償複屈折板を必要とすることなく、ソレイユバビネ補償器の石英くさびの代わりに用いることができる、事実上ゼロ次複屈折くさびである。この改良は精度の向上及びより広角の視を提供することができる。
【0072】
本明細書で説明される様々な実施形態は、特許請求の範囲に記載される特徴の理解および教示を支援するためにのみ提示される。これらの実施形態は、実施形態の代表的なサンプルとしてのみ提供され、網羅的及び/又は排他的なものではない。本明細書に記載される利点、実施形態、実施例、機能、特徴、構造、及び/又は他の態様は、特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲に対する制限、又は特許請求の範囲に対する均等物に対する制限とみなされるものではなく、特許請求の範囲に係る本発明の範囲から逸脱することなく、他の実施形態を利用し、変更を加えることができることを理解されたい。本発明の様々な実施形態は、好適には、本明細書に具体的に記載されたもの以外の、開示された要素、構成要素、特徴、部分、ステップ、手段などの適切な組み合わせを備え、これらからなり、又はこれらから本質的に構成され得る。さらに、本開示は、現時点で特許請求の範囲に記載されていないが、将来特許請求の範囲に記載され得る他の発明を含み得る。
【国際調査報告】