(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-07-10
(54)【発明の名称】電池形成プロトコル
(51)【国際特許分類】
H01M 10/054 20100101AFI20250703BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20250703BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20250703BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20250703BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20250703BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20250703BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20250703BHJP
【FI】
H01M10/054
H01M10/0569
H01M4/587
H01M4/133
H01M4/58
H01M10/058
H01M10/0568
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2024574549
(86)(22)【出願日】2023-06-30
(85)【翻訳文提出日】2025-01-31
(86)【国際出願番号】 AU2023050612
(87)【国際公開番号】W WO2024000043
(87)【国際公開日】2024-01-04
(32)【優先日】2022-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511095676
【氏名又は名称】ディーキン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】フォーサイス, マリア
(72)【発明者】
【氏名】ハウレット, パトリック
(72)【発明者】
【氏名】サン, ジェニー
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AK01
5H029AL08
5H029AM07
5H029AM09
5H029CJ16
5H029HJ10
5H029HJ20
5H050AA01
5H050BA15
5H050CA01
5H050CB09
5H050GA18
(57)【要約】
本発明は、超濃縮イオン液体電解質中のNIBハードカーボンアノードのための改善された形成プロトコルに関する。炭酸塩系溶媒について確立された方法とは対照的に、高電流密度2C形成プロトコルは、1Cおよび1/10C形成プロトコルと比較して、1/2C電流密度での後続のサイクル中に、最も低いEIS抵抗と共に最も高い比容量をもたらした。可変サイクル条件(例えば、長期サイクルの場合は1/5C)は、高Cレート処理の影響を受けず、これらの電解質におけるコンディショニングのために高レート形成プロトコルを適用する必要性を実証した。XPSおよびNMR分析により、高Cレート形成後により薄いSEI層が形成され、電解質/電極境界を横切るNa+電荷移動および拡散を促進することができることが明らかになった。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルであって、
少なくとも1つのイオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含む超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質であって、前記超濃縮ナトリウム塩/イオン液体電解質中の前記ナトリウム塩の濃度が、前記電解質中の前記ナトリウム塩の飽和限界の75%以上である、超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質と、
電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極または正極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、前記材料から前記セル内の前記超濃縮電解質にナトリウムイオンを放出する、対電極または正極と、
ハードカーボン作用電極または負極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、前記超濃縮電解質から前記ハードカーボン負極において受け取ったナトリウムイオンを、前記ハードカーボンに吸蔵される還元ナトリウムとして吸収する、ハードカーボン作用電極または負極と
を備え、
(a)前記ハードカーボン負極が、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、低秩序/短距離硫黄(S
8
2-~S
2-)種を実質的に含まない、
かつ任意選択的に、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、原子状窒素種を実質的に含まない、
形成された固体電極界面(SEI)を備え、
ならびに/または
(b)前記固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極が、電気化学インピーダンス分光法によって決定される、1回目の形成サイクルの後に200オーム未満の前記SEIに関連する界面抵抗(R
int)を有する、
電気化学セル。
【請求項2】
前記形成されたSEIが、セルの全電圧窓内で、1/2C~5Cの範囲の高い定電流密度において最大で5回の形成サイクルの間、対応する初期状態のセルを分極することにより前記ハードカーボン電極上の前記電解質を還元することによって生成される、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記形成されたSEIが、セルの全電圧窓内で、2Cの電流密度での定電流において最大で2回の形成サイクルの間、対応する初期状態のセルを分極させることにより前記ハードカーボン電極上の前記電解質の還元によって生成される、請求項1または2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記SEI組成物が、
XPS試験および/またはエッチング調査によって示される、前記形成された試験セルのSEIよりも多くのC-N種を含む外層、
40分のエッチング後のCとOとの比が1以上であり、40分のAr+クラスタエッチング後に初期状態のハードカーボンを反映する組成を有すること
の1つ以上を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
SEI形成サイクルの完了後、1/2Cまたはそれより遅いCレートを使用する公称Cレートサイクル中に、前記セルが、99.2%以上、好ましくは99.3%以上、好ましくは99.4%以上、好ましくは99.5%以上、好ましくは99.6%以上、好ましくは99.7%以上、好ましくは99.8%以上、好ましくは99.9%以上のクーロン効率(CE)を示す、請求項1~4のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項6】
前記超濃縮電解質の前記イオン液体が、好ましくは前記イオン液体アニオンおよび前記ナトリウム塩アニオンのうちの1つ以上から誘導されるFSI
-アニオンまたはTFSI
-アニオンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項7】
前記超濃縮電解質の前記イオン液体が、ピロリジニウムカチオン、好ましくはアルキル化ピロリジニウムカチオン、好ましくは1-メチル-1-アルキル-ピロリジニウムカチオン(C
3mpyr
+)、最も好ましくは1-メチル-1-プロピル-ピロリジニウムカチオン(C
3mpyr
+)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項8】
前記電解質が、Na[TFSI]および[C
3mpyr][TFSI]、Na[TFSI]および[C
4C
3pyr][TFSI]、Na[TFSI]および[C
3mpyr][FSI]、Na[TFSI]および[C
4C
3mpyr][FSI]、Na[FSI]および[C
3mpyr][TFSI]、Na[FSI]および[C
4C
3mpyr][TFSI]、Na[FSI]および[C
3mpyr][FSI]、Na[FSI]および[C
4C
3mpyr][FSI]、またはこれらの組み合わせを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項9】
前記電解質が、[C
3mpyr][FSI]イオン液体または[C
3mpyr][TFSI]イオン液体であり、少なくとも約50mol%のNaFSI塩を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項10】
前記超濃縮電解質および前記形成されたSEIが、炭酸塩種を含まない、請求項1~9のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項11】
フルセル構成の前記セルおよび前記対電極が、前記セルおよび前記対電極の原子構造内でナトリウムイオンを可逆的にインターカレート/脱インターカレートし、可逆的な酸化/還元反応によってナトリウムイオンを吸収/脱離し、またはナトリウムイオンとの合金化/脱合金化反応を促進することができる材料を含むか、または前記材料から構成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項12】
前記対電極または正極が、Na
0.45Ni
0.22Co
0.11Mn
0.66O
2、Na
2/3Fe
2/3Mn
2/3(O3)、Na
2/3Fe
2/3Mn
1/3O
2(P2)、オリビン型NaFePO
4、Na
xFePO
4、ケイ酸塩、または一般式Na
2M
2(XO
4)
3(M=遷移金属およびX=P、S)のナシコン型相を含むか、またはこれらから構成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項13】
ハードカーボン作用電極または負極を備えるセルにおける、前記ハードカーボン電極上にSEIを形成するための超濃縮イオン液体電解質の使用であって、前記超濃縮イオン液体電解質が、前記電解質中のナトリウム塩の飽和限界の75%以上のナトリウム塩濃度を含み、ここで、
(a)前記ハードカーボン負極が、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、低秩序/短距離硫黄(S
8
2-~S
2-)種を実質的に含まない、
かつ任意選択的に、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、原子状窒素種を実質的に含まない、
形成された固体電極界面(SEI)を備え、
ならびに/または
(b)前記固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極が、電気化学インピーダンス分光法によって決定される、1回目の形成サイクルの後に200オーム以下の前記SEIに関連する界面抵抗(R
int)を有する、
使用。
【請求項14】
前記電解質が、少なくとも約50mol%のNaFSI塩を含む[C
3mpyr][FSI]ILである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
ナトリウムイオン電気化学に基づいて初期状態のセルを提供するステップであって、前記フレッシュセルが、
電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極または正極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、前記材料から前記セル内の超濃縮電解質にナトリウムイオンを放出する、対電極または正極、
ハードカーボン作用電極またはハードカーボン負極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、前記超濃縮電解質から前記ハードカーボン負極において受け取ったナトリウムイオンを、前記ハードカーボンに吸蔵される還元ナトリウムとして吸収する、ハードカーボン作用電極またはハードカーボン負極、ならびに
少なくとも1つのイオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含む超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質
を備え、
前記超濃縮イオン液体電解質中のナトリウムイオン濃度が、前記電解質中の前記ナトリウムイオンの飽和限界の75%以上である、
ステップと、
セルの全電圧窓内で、1/2C~5Cの範囲、好ましくは2Cの高い定電流密度において最大5回の形成サイクルの間、前記初期状態のセルを分極させることにより前記ハードカーボン電極上の前記電解質の還元によって形成されたSEIを生成することによって、形成された対象セルを製造するステップであって、
(a)前記ハードカーボン負極が、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、低秩序/短距離硫黄(S
8
2-~S
2-)種を実質的に含まない、
かつ任意選択的に、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、原子状窒素種を実質的に含まない、
形成された固体電極界面(SEI)を備え、
ならびに/または
(b)前記固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極が、電気化学インピーダンス分光法によって決定される、1回目の形成サイクルの後に200オーム以下の前記SEIに関連する界面抵抗(R
int)を有する、
ステップと
を含む、セル形成方法。
【請求項16】
セル分極が、前記セルを定電流で充電および放電することによって生じる、請求項15に記載のセル形成方法。
【請求項17】
前記セルが、ハーフセル構成またはフルセル構成にある、請求項15または16に記載のセル形成方法。
【請求項18】
前記形成された対象セルの公称Cレートが1/2Cまたは1/5Cである、請求項15~17のいずれか一項に記載のセル形成方法。
【請求項19】
前記形成された対象セルが、最大50サイクル、好ましくは最大100サイクルの間、1/2sCまたはそれより遅い公称Cレートでさらに定電流条件でサイクルされ、公称Cレートサイクル中、前記形成された対象セルが、99.2%以上、好ましくは99.3%以上、好ましくは99.4%以上、好ましくは99.5%以上、好ましくは99.6%以上、好ましくは99.7%以上、好ましくは99.8%以上、好ましくは99.9%以上のクーロン効率(CE)を示す、請求項15~18のいずれか一項に記載のセル形成方法。
【請求項20】
各形成分極サイクル中に充放電サイクルを記録するステップをさらに含み、前記ハードカーボン電極上の実質的に完全で安定したSEI形成に関連する前記記録された対応する充放電サイクル中の1つ以上のマーカーの観察が完全な形成を示し、前記マーカーが、
(a)放電-充電曲線マーカー/特徴
-記録された電圧-容量サイクルにおける著しい電解質還元勾配の欠如および/または実質的に静的な電解質還元勾配の観察、
前記記録された充放電サイクルにおける不変の特徴/特徴の安定性の観察、
-前記記録された充放電サイクルにおける「低電圧」特徴の非存在(例えば、例示されたハーフセルの初期サイクル後に約1.5V未満)、
-前記負の活性電極へのナトリウムイオンの挿入に関連する曲線特徴の存在/出現なしに、すなわち、インターカレーション特徴(例えば、ナトリウム化/リチウム化)の非存在下で、前記セルのカットオフ放電電位限界および結果として生じる放電容量に達したことの観察、
(b)電気化学インピーダンス分光法(EIS)マーカー/特徴
-例えば記録されたナイキストプロット分析を含む電気化学インピーダンス研究における低いおよび/または安定したEISスパンの証拠、
-低インピーダンスSEIの形成の証拠、
-形成された試験セルよりもイオン伝導性が高いSEIの証拠、ならびに
(c)微分容量分析マーカー/特徴
-記録された微分容量曲線(dQ/dV)における電解質の還元/分解および/または電解質添加剤の還元/分解ピークの非存在、
-金属イオン挿入ピークの非存在は、金属イオン挿入前に完全な放電が生じることを示し、および
-高レートセルの場合に完全充電容量に達する前のNa
+挿入ピーク信号カットオフの代わりの、より高いレートにおける前記ハードカーボン材料の活性部位へのNa
+イオンの吸着および/または化学吸着のピークの存在
を含む、請求項15~19のいずれか一項に記載のセル形成方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[技術分野]
本発明は、特にハードカーボンアノードを含むナトリウムイオン電池のための迅速な電池形成方法またはプロトコルに関する。
【0002】
[背景技術]
高エネルギー密度および長寿命の、特に製造コストが低い電池が望ましい。充電式ナトリウムイオン電池セルは、一般に、セルがプレサイクル状態にあることを意味する放電状態または「フレッシュ」状態または「初期」状態で組み立てられる。フレッシュセルは、電池製造中の次のステップとして「形成」されなければならない。電池セル形成は、工場内のフレッシュ電池セルに対して初期充電/放電(分極サイクル)動作のセット(典型的には2/3の分極サイクル)を実行するプロセスである。充電中、正極活物質(例えば、酸化ナトリウム)は、移動可能なナトリウム輸送イオンを生成し、移動可能なナトリウム輸送イオンは、負極活物質(例えば、炭素、グラファイト)に拡散し、そこで還元され、充電前はナトリウムイオンを含まない(初期状態の)負極材料に「吸収」される。放電時には逆反応が起こり、吸蔵された化学エネルギーは、取り付けられた負荷に電力を供給するために使用される電気エネルギーに変換される。充電ステップおよびその後の放電ステップは、「分極サイクル」と呼ばれる。1回目の分極サイクルの間、電気化学的電解質界面が、電極、および主に負極に固体電解質界面(SEI)の形態で蓄積し、これは液体電解質を使用する全てのナトリウムイオン電池のアノード表面に形成される不動態化層である。SEI形成は、最初の数サイクルで電解質の一部を消費する電解質成分分解/還元生成物から形成されるため、セルの化学的性質および電解質成分に大きく依存する。有用な形成プロトコルは、電池性能にとって重要な良質で堅牢なSEIを形成し、改善されたサイクル安定性、より高い容量および/またはより高いクーロン効率をもたらし、これらは全て、アノードおよび電解質の劣化の減少の証拠である。理想的なSEIは、界面を横切る輸送イオンの迅速な輸送を提供すると同時に、良好な電子絶縁体であり、それにより、そうでなければセルの容量損失を迅速にもたらし得るさらなる劣化から電解質を保護する。SEIは、サイクル条件下およびエージング条件下の両方で安定であるべきである。SEI形成は、サイクル中に電解質からの輸送イオンの不可逆的消費をもたらし、達成可能な容量の減少および抵抗の増加、したがってセル内のインピーダンスの増加を引き起こす。従来、最良のSEI層は、使用される輸送イオンに対して選択的に透過性であり、また、薄いSEIが最適な電池性能を支援するイオン輸送に対する抵抗を低下させるので、可能な限り薄く、典型的にはわずか数ナノメートルの厚さであることが望ましい。しかしながら、SEIが薄すぎると、電解質をアノードでの還元から十分に保護することができない。良好なSEIは、アノードの表面全体に均一に分布し、アノードと電解質との間の接触を完全に防止し、機械的に堅牢/強力であるべきであるが、望ましくない副反応を回避するために化学的に不活性であるべきである。
【0003】
ハードカーボン(HC)は、ナトリウムセルにより適したグラファイトのアノード代替物であるが、より複雑なナトリウムイオン吸収機構およびSEI形成プロセスを有することが知られている。これは、より高い表面積、および厚く不均一なSEIをもたらす多孔質性に起因するHCの反応性に起因する。より厚いSEIは輸送イオン拡散を妨げ、それによって電池性能を低下させ、その一方で、不均一なSEIは局所的な副反応を支援し、経時的に性能を低下させる。ほとんどのHC/SEI研究は、ヘキサフルオロホスフェートもしくはTFSI塩、様々な炭酸塩、フッ素化炭酸塩または他の溶媒などの従来の膜形成電解質添加剤を含む。常に、これらの添加剤の分解生成物は、形成時にHC SEIの一部を形成する。しかしながら、最先端のエステル溶媒系ナトリウムイオン電池電解質(例えば、プロピレンカーボネート(PC)およびエチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)およびジエチルカーボネート(DEC)など)の分解生成物は、有機種が豊富な最外層のSEI層をもたらし、SEIをしばしば不安定にし、ナトリウムイオン輸送に対して大きな電荷移動抵抗および高いエネルギー障壁を有する。いくつかのグループは、NIB用のイオン液体/炭酸塩電解質を含み、改善されたSEI層はイオン液体電解質に由来する。
【0004】
必要な堅牢で均質な界面を形成するために、市販の電池製造で使用されるセルの化学的性質に依存する電池形成/コンディショニングプロトコルは、典型的には、最大1週間かかる。典型的には、低電流での数サイクルの低速定電流充放電が、高温での様々な休止期間を伴って実行される。従来の遅い形成は、最も均一で安定したSEI層を生成すると考えられている。典型的には、均一で安定したSEI層が形成されることを確実にするために、輸送金属の挿入、したがって形成充電中の負極への充電容量を最大にするために、非常に小さい電流密度(例えば、同等の低電流密度を使用して1/10Cまたは1/20C)が長期間使用される。したがって、形成時間は非常に遅い(例えば、分極サイクルあたり20~40時間での2/3サイクルは、単独で休止なしなどでの形成に40~120時間かかることを意味する)。したがって、電池生産効率は低く、従来のプロトコルには高い資本コストがかかる。1/1Cレートを超える電流密度は、早期の経年劣化によって電極を損傷すると考えられているため、セル性能に有害であると見なされ、したがって商業的形成中に回避されてきた。さらに、急速な形成は、サイクル中に(電気めっきを介して)デンドライト生成の危険性があり、セルを損傷し、通常の動作下での性能を低下させる。
【0005】
電気化学的性能、製造コストおよび時間効率のバランスをとる新しい形成プロトコルが、特にHCアノードを含むセルの場合に望ましい。ナトリウムイオン電池(NIB)は、次世代LIB代替品と見なされている。LIBと同じ低速かつ高価な従来の形成プロトコルがNIBに適用される。しかしながら、NIB用に形成されたSEIは、それらのLIB対応物よりも安定性が低い。Na+サイズの増加を含むNa+とLi+との間の顕著な違い、および反応性の違いは、NIBの均一かつ安定したSEI形成をより困難にする。最後に、NIB SEI成分は、SEI安定性の問題である溶解度の増加を示す。したがって、LIBのSEI形成のこのような知識は、NIB形成に直接移すことができず、NaセルにおけるSEI形成は経験的に研究されている。NIBのHCに対するSEIの望ましい組成特性については、全体的にほとんど知られていない。
【0006】
Rakovら(Chem.Mater.2022、34;「Rakov 2022」)は、高粘度超濃縮電解質(100IL)におけるLi堆積/ストリッピング研究を報告し、ここで、SEI組成物ではLix(アニオン)y(x>y)が優勢であるため、低濃度Li塩含有IL電解質と比較して、高電流密度(≧10.0mA cm-2~1.0mAh cm-2の充電深度)を含有する単一のLi金属アノードプレコンディショニングステップがSEI組成物に利益をもたらすことが見出された。しかしながら、20重量%のエーテル共溶媒を含有する低粘度の超濃縮電解質(80IL20DME)を使用した場合、より中程度のプレコンディショニングステップ電流密度(6.0mA cm-2/1.0mA cm-2)により、より良好に最適化されたLi堆積形態がもたらされ、さらには、15.0mA cm-2/1.0mAh cm-2の極端な電流において最良のサイクル性能がもたらされる。粘性電解質とより流動性の高い電解質とで最適化された電流密度が異なるため、Rakov 2022は、個々の調整された前処理プロトコルを電解質組成に応じて適用すべきであることを示唆したが、そのようなプロトコルをどのように導出すべきかは示さなかった。しかしながら、注目すべきは、Rakov 2022の焦点が、単一のプレコンディショニングステップ後の対称セル内のリチウム金属アノードでのSEI形成に限定されており、NIB内のHCアノードでのSEI形成には何もないことである。説明したように、NIBにおけるHC上のSEI形成の予測不可能な性質のために、Rakov 2022は、ハードカーボンアノードを使用するNIBシステムにおける再SEI形成に価値はないことを教示している。
【0007】
Rakov 2020(Nature Materials、19、2020、1096-1101)は、50mol%NaFSI塩を含むC3mpyrFSI ILに基づくナトリウム対称セルにおいて、50℃での長時間の電気化学サイクルの前に、プレコンディショニング処理として異なる負極分極を適用している。異なる電極分極は、ステップごとに0.1mAh cm-2の充電深度で、0.1、1.0、および5.0mA cm-2の3つの異なる電流密度を5回の短いサイクルで印加することによって試験された。プレコンディショニング後、各試験セルを、0.1および1.0mA cm-2の電流密度で20サイクル、次いで5.0mA cm-2でそれぞれ10回のサイクルにわたって、さらに長時間サイクルした。5.0mA cm-2でプレコンディショニングされたセルは、最大の初期分極電位および最短の堆積時間をもたらし、その後の0.1mA cm-2および1.0mA cm-2の両方でのサイクルでは、3つのセルの中で最小の過電位を示した。0.1mA cm-2および1.0mA cm-2のより低い電流でプレコンディショニングされたセルは、短絡のために故障したか、または不安定な電圧プロファイルを示す。NIB中のHCアノードにおけるSEI形成には何もない。説明したように、NIB中のHC上のSEI形成の予測不可能な性質のために、Na金属対称セルを含むRakov 2020の教示は、NIBセル中のNa-HC系におけるHC SEI形成に関する情報を提供しない。
【0008】
最近、Kishoreら(Chem.Commun.、2020、56、12925~12928)は、形成およびコンディショニングがLIBにおいて最も理解されていないプロセスの1つであるが、NIBについてはより一層知られていないかまたは理解されていないことを認めている。そして、Kishoreは、Na層状酸化物カソードおよびHCアノードを備えるNIBにおいて形成時間を短縮し、サイクル寿命を最大化するための形成プロトコルを報告している。形成は、様々な目標電圧窓内の一連の低電流(0.12mA cm-2、10mA gcat
-1)サイクルが、記載された様々な電圧窓にわたって実行される5つの充放電サイクルに適用されることを含んでいる。プロトコルF4およびF5は、標準電圧窓の狭い電圧サブセットを含み、電圧窓1.0~1.8および1.8~2.6Vで実行され、それぞれ6時間および17時間の最小形成時間を記録した。しかしながら、F4およびF5セルは、150サイクル後の容量保持に関して最悪のセル性能を示した(それぞれ51.1%および54.3%)。最良の結果は、低い電流および3.6~3.8Vの電圧で形成されたF2であり、これは9.2%の容量低下を示し、42時間の形成時間をもたらした。Kishoreは、NIB中のHCアノード上のSEI形成の予測不可能性、および多くの実験的形成プロトコルに関与する複雑さの種類を実証しており、これは商業的/工業的用途に適していない可能性がある。
【0009】
上で説明したように、LIB中およびNa/Na対称性セルからのSEI形成に対する依存性は、上で論じたように様々な理由でNIBに直接移行できない。複数の低速ステップにわたる低電流密度を含む従来の考え方は、典型的には、NIBセル内のHCアノード上での最良のSEIの適切な形成を確実にするために適用される。
【0010】
[発明の概要]
第1の態様では、本発明は、電気化学セルであって、
少なくとも1つのイオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含む超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質であって、
超濃縮ナトリウム塩イオン液体電解質中のナトリウム塩濃度が、イオン液体電解質中のその飽和限界の75%以上である、
超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質と、
電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極または正極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、材料からセル内の超濃縮ナトリウム塩電解質にナトリウムイオンを放出する、対電極または正極と、
ハードカーボン作用電極または負極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、超濃縮電解質からハードカーボン負極において受け取ったナトリウムイオンを、ハードカーボンに吸蔵される還元ナトリウムとして吸収する、ハードカーボン作用電極または負極と
を備え、
(a)ハードカーボン負極が、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、低秩序/短距離硫黄(S8
2-~S2-)種を実質的に含まない、
かつ任意選択的に、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、原子状窒素種を実質的に含まない、
形成された固体電極界面(SEI)を備え、
ならびに/または
(b)固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極が、電気化学インピーダンス分光法によって決定される、1回目の形成サイクルの後に200オーム未満のSEIに関連する界面抵抗(Rint)を有する、
電気化学セルを提供する。
【0011】
第2の態様では、本発明は、ハードカーボン作用電極または負極を備えるセルにおける、ハードカーボン電極上にSEIを形成するための超濃縮イオン液体電解質の使用であって、超濃縮イオン液体電解質は電解質中のその飽和限界の75%以上のナトリウム塩濃度を含み、ここで、
(a)ハードカーボン負極が、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、低秩序/短距離硫黄(S8
2-~S2-)種を実質的に含まない、
かつ任意選択的に、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、原子状窒素種を実質的に含まない、
形成された固体電極界面(SEI)を備え、
ならびに/または
(b)固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極が、電気化学インピーダンス分光法によって決定される、1回目の形成サイクルの後に200オーム以下のSEIに関連する界面抵抗(Rint)を有する、
使用を提供する。
【0012】
第3の態様では、本発明は、セル形成方法であって、
ナトリウムイオン電気化学に基づいて初期状態のセルを提供するステップであって、フレッシュセルが、
電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極または正極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、材料からセル内の超濃縮電解質にナトリウム金属イオンを放出する、対電極または正極、
ハードカーボン作用電極または負極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、超濃縮電解質からハードカーボン負極において受け取ったナトリウムイオンを、ハードカーボンに吸蔵される還元ナトリウムとして吸収する、ハードカーボン作用電極または負極、ならびに
少なくとも1つのイオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含む超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質
を備え、
超濃縮イオン液体電解質中のナトリウムイオン濃度が、電解質中のその飽和限界の75%以上である、
ステップと、
セルの全電圧窓内で、1/2C~5Cの範囲、好ましくは2Cの高い定電流密度において最大5回の形成サイクルの間、初期状態のセルを分極させることによるハードカーボン電極上の電解質の還元によって形成されたSEIを生成することによって、形成された対象セルを製造するステップであって、
(a)ハードカーボン負極が、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、低秩序/短距離硫黄(S8
2-~S2-)種を実質的に含まない、
かつ任意選択的に、
例えば、XPS試験およびエッチング調査によって特定される、原子状窒素種を実質的に含まない、
形成された固体電極界面(SEI)を備え、
ならびに/または
(b)固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極が、電気化学インピーダンス分光法によって決定される、1回目の形成サイクルの後に200オーム以下のSEIに関連する界面抵抗(Rint)を有する、
ステップと
を含む、方法を提供する。
【0013】
本発明者らは、高電流密度駆動SEI形成が、驚くほど高伝導性であり、電極/電極境界を横切るNa+イオン拡散を非常に効果的に促進するハードカーボン(HC)上のSEIを生成することを見出した。改善されたSEIおよび関連する改善されたセル性能は、いくつかの実施形態では、1/2Cまたはそれより遅いCレート(例えば1/5C)を使用した安定かつ高性能のサイクルによって実証され、セルは、公称レートサイクル(形成が完了した後)で、99.0%超、好ましくは99.2%以上、好ましくは99.3%以上、好ましくは99.4%以上、好ましくは99.5%以上、好ましくは99.6%以上、好ましくは99.7%以上、好ましくは99.8%以上、好ましくは99.9%以上のクーロン効率を示す。例えば、いくつかの実施形態では、公称1/10Cセルレート(形成後)でのサイクル時のセルは、最も好ましくは50、100、200または300サイクル後に、99.5%以上、好ましくは99.6%以上、より好ましくは99.7%以上、最も好ましくは99.8%以上のCEを示す。
【0014】
添付の図面を参照して、本発明の実施形態を単なる例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1a-e】
図1は、同じ時間スケールでの(a)、および別々の時間スケールに置かれた(b)、全てのセルについての最初の5回のサイクルの電圧-時間プロット;異なるCレート(1/10C、1Cおよび2C)下での、1回目のサイクル(c)および5回目のサイクル(d)におけるNa/HCセルの定電流充電/放電曲線;3つの異なる形成されたセルに関する、6回目のサイクルにおける定電流充電/放電曲線の拡大図(e);1回目のサイクルおよび5回目のサイクルにおけるNa/HCハーフセルの定電流充電/放電であり、電流密度は0.1C(1C=300mAh/g)(f);走査レート0.1mV/sでの、1回目のサイクルおよび5回目のサイクルにおけるNa/HCハーフセルのCV曲線(g)を示す。
【
図1f-g】
図1は、同じ時間スケールでの(a)、および別々の時間スケールに置かれた(b)、全てのセルについての最初の5回のサイクルの電圧-時間プロット;異なるCレート(1/10C、1Cおよび2C)下での、1回目のサイクル(c)および5回目のサイクル(d)におけるNa/HCセルの定電流充電/放電曲線;3つの異なる形成されたセルに関する、6回目のサイクルにおける定電流充電/放電曲線の拡大図(e);1回目のサイクルおよび5回目のサイクルにおけるNa/HCハーフセルの定電流充電/放電であり、電流密度は0.1C(1C=300mAh/g)(f);走査レート0.1mV/sでの、1回目のサイクルおよび5回目のサイクルにおけるNa/HCハーフセルのCV曲線(g)を示す。
【
図2a-i】
図2は、異なるCレート下での、1回目のサイクル(d)-(f)および5回目のサイクル(g)-(i)におけるNa/HCセルのdQ/dV対V曲線;異なるCレート2Cセル下での、2-4回目のサイクル(h)-(k)における、1Cセル下での、2-4回目のサイクル(k)-(m)における、1/10Cセル下での、2-4回目のサイクル(n)-(p)における、Na/HCセルのdQ/dV対V曲線、を示す。
【
図2j-r】
図2は、異なるCレート下での、1回目のサイクル(d)-(f)および5回目のサイクル(g)-(i)におけるNa/HCセルのdQ/dV対V曲線;異なるCレート2Cセル下での、2-4回目のサイクル(h)-(k)における、1Cセル下での、2-4回目のサイクル(k)-(m)における、1/10Cセル下での、2-4回目のサイクル(n)-(p)における、Na/HCセルのdQ/dV対V曲線、を示す。
【
図3a-b】
図3は、異なる形成プロトコルを用いたNa/HCハーフセルのサイクル安定性を示す。1/2C(a)および1/5C(g)における、3つのセルの長期放電容量;1/2C電流密度(b)および1/5C電流密度(d)における、3つのセルの長期充電容量サイクル;1/2C電流密度(b)および1/5C電流密度(h)でサイクルしたNa/HCセルのクーロン効率;(a、b、g、h)の挿入図は、サイクルおよびCEについて選択されたサイクルである。開始時の10回のサイクルの3つの形成セルの累積不可逆容量(e);1/2C電流密度での2C形成セルの長期サイクル(f);2C形成セルの50回目のサイクルおよび300回目のサイクルの定電流充電/放電曲線(i);異なる形成レート(2C、3C、10C、1C=300mA)、続いて長期サイクルのための1/2CでのNa/HCセルのサイクル安定性;挿入図は、20~40回目のサイクルからの2Cおよび3Cセルのサイクル安定性の拡大図である(j)。
【
図3c-h】
図3は、異なる形成プロトコルを用いたNa/HCハーフセルのサイクル安定性を示す。1/2C(a)および1/5C(g)における、3つのセルの長期放電容量;1/2C電流密度(b)および1/5C電流密度(d)における、3つのセルの長期充電容量サイクル;1/2C電流密度(b)および1/5C電流密度(h)でサイクルしたNa/HCセルのクーロン効率;(a、b、g、h)の挿入図は、サイクルおよびCEについて選択されたサイクルである。開始時の10回のサイクルの3つの形成セルの累積不可逆容量(e);1/2C電流密度での2C形成セルの長期サイクル(f);2C形成セルの50回目のサイクルおよび300回目のサイクルの定電流充電/放電曲線(i);異なる形成レート(2C、3C、10C、1C=300mA)、続いて長期サイクルのための1/2CでのNa/HCセルのサイクル安定性;挿入図は、20~40回目のサイクルからの2Cおよび3Cセルのサイクル安定性の拡大図である(j)。
【
図3i-j】
図3は、異なる形成プロトコルを用いたNa/HCハーフセルのサイクル安定性を示す。1/2C(a)および1/5C(g)における、3つのセルの長期放電容量;1/2C電流密度(b)および1/5C電流密度(d)における、3つのセルの長期充電容量サイクル;1/2C電流密度(b)および1/5C電流密度(h)でサイクルしたNa/HCセルのクーロン効率;(a、b、g、h)の挿入図は、サイクルおよびCEについて選択されたサイクルである。開始時の10回のサイクルの3つの形成セルの累積不可逆容量(e);1/2C電流密度での2C形成セルの長期サイクル(f);2C形成セルの50回目のサイクルおよび300回目のサイクルの定電流充電/放電曲線(i);異なる形成レート(2C、3C、10C、1C=300mA)、続いて長期サイクルのための1/2CでのNa/HCセルのサイクル安定性;挿入図は、20~40回目のサイクルからの2Cおよび3Cセルのサイクル安定性の拡大図である(j)。
【
図4】
図4は、5回のサイクルの異なる形成プロセス(2C、1Cおよび1/10C)を用いた、Na/HCセル中のHCアノードの3電極EIS測定(a-c);1回目、2回目および5回目の形成サイクル後の3つのセルのフィッティング結果によるEIS抵抗(d-f)を示す。
【
図5a-c】
図5は、調査した3つの異なるCレート下での最初の5回の形成サイクル後のHCアノードのXPSスペクトルを示す:C 1s(a)、N 1s(b)およびS 2p(c)。(c)の挿入図は小さい硫黄種が存在する156~164eVの1/10C形成セルの拡大図である;初期状態、1/10C、1Cおよび2C試料でのC 1sスペクトル(d)、初期状態、1/10C、1Cおよび2C試料でのO 1sスペクトル(e);異なるエッチング時間0分、2分、10分および40分後の、3つの形成プロトコルのC 1sスペクトル(f)-(h)である。
【
図5d-e】
図5は、調査した3つの異なるCレート下での最初の5回の形成サイクル後のHCアノードのXPSスペクトルを示す:C 1s(a)、N 1s(b)およびS 2p(c)。(c)の挿入図は小さい硫黄種が存在する156~164eVの1/10C形成セルの拡大図である;初期状態、1/10C、1Cおよび2C試料でのC 1sスペクトル(d)、初期状態、1/10C、1Cおよび2C試料でのO 1sスペクトル(e);異なるエッチング時間0分、2分、10分および40分後の、3つの形成プロトコルのC 1sスペクトル(f)-(h)である。
【
図5f-h】
図5は、調査した3つの異なるCレート下での最初の5回の形成サイクル後のHCアノードのXPSスペクトルを示す:C 1s(a)、N 1s(b)およびS 2p(c)。(c)の挿入図は小さい硫黄種が存在する156~164eVの1/10C形成セルの拡大図である;初期状態、1/10C、1Cおよび2C試料でのC 1sスペクトル(d)、初期状態、1/10C、1Cおよび2C試料でのO 1sスペクトル(e);異なるエッチング時間0分、2分、10分および40分後の、3つの形成プロトコルのC 1sスペクトル(f)-(h)である。
【
図6a-e】
図6は、5回の形成サイクル後の2C形成セル(a)、5回の形成サイクル後の1C形成セル(b)、5回の形成サイクル後の1/10C形成セル(c)および初期状態のセル(d)のエッチング時間(分)およびエッチング深さ(nm)に関するXPSエッチング深さプロファイルを示し、異なる形成セルを有するハードカーボンアノード上のSEI形成の概略図(e);1/10CセルについてのハードカーボンのN 1sのエッチング深さ(f)、400~404eVの拡大図(g)である。
【
図6f-g】
図6は、5回の形成サイクル後の2C形成セル(a)、5回の形成サイクル後の1C形成セル(b)、5回の形成サイクル後の1/10C形成セル(c)および初期状態のセル(d)のエッチング時間(分)およびエッチング深さ(nm)に関するXPSエッチング深さプロファイルを示し、異なる形成セルを有するハードカーボンアノード上のSEI形成の概略図(e);1/10CセルについてのハードカーボンのN 1sのエッチング深さ(f)、400~404eVの拡大図(g)である。
【
図7】
図7は、1/10Cで形成された試験セルの6回目の形成サイクルの充放電曲線を示し、1Cおよび2Cで形成された対象セルが
図7(a)に示されている。(a)の曲線の拡大図が
図7(b)に示されている。
【
図8】
図8は、形成された1/10C試験セルならびに形成された1Cセル(a)および2C対象セル(b)の不可逆容量対サイクル数のサイクルプロットを示す。様々な電流密度1/10、1/5、1/2、1、2、4C(1C=300mAh/g)での2Cおよび1/10C形成セルのレート性能試験(c)、1/10、1/5および1/2Cでの2Cおよび1/10C形成セルのレート性能の拡大図である。HCの質量負荷は0.8mg/cm
2である(d)。
【
図9】
図9は、様々なサイクルにわたる累積不可逆容量を示すグラフである。
【
図10】
図10は、異なるサイクルにおける異なる形成セルのフィッティングした生のEISデータを示し、1回目、2回目および5回目のサイクルにおける2Cセル(a-c)、1回目、2回目および5回目のサイクルにおける1Cセル(d-f)、1回目、2回目および5回目のサイクルにおける1/10Cセル(g-i)である。
【
図11】
図11は、異なるCレート形成プロトコルの下で5回のサイクルにわたってサイクルされた電極(電極は充電状態にある)のex-situの
23Na(a)および
19F(b) MAS NMRスペクトルを示し、電解質に浸漬されたHCおよびニートILも含まれる。
【0016】
[発明を実施するための形態]
本発明は、電気化学セルであって、
少なくとも1つのイオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含む超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質であって、
超濃縮イオン液体電解質中のナトリウムイオン濃度が、電解質中のその飽和限界の75%以上である、
超濃縮ナトリウム塩含有イオン液体電解質と、
電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極または正極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、材料からセル内の超濃縮電解質にナトリウムイオンを放出する、対電極または正極と、
ハードカーボン作用電極または負極であって、ナトリウム化ステップまたは充電ステップ中に、超濃縮電解質からハードカーボン負極において受け取ったナトリウムイオンを、ハードカーボンに吸蔵されるナトリウム金属として還元吸収する、ハードカーボン作用電極または負極と
を備え、
ハードカーボン負極が、形成された固体電極界面(SEI)を備え、固体電極界面が、
XPS試験およびエッチング調査において、約396eVの結合エネルギーのピークによって特定される原子状窒素種を完全に含まないこと、および
XPS試験およびエッチング調査において約164eV~160eVの結合エネルギーのピークによって特定される低秩序/短距離硫黄(S8
2-~S2-)種を完全に含まないこと
の少なくとも一方である、電気化学セルに関する。
【0017】
本発明者らは、改善されたSEIが、より薄いおよび/もしくはよりイオン伝導性のSEIであり、かつ/または形成されたSEIが、従来の形成レート/電流密度で形成されたセルと比較して、低インピーダンスによって示されるように、好ましい(驚くほど低い/低減された)界面抵抗に関連することを発見した。本発明者らは、高速形成セルのSEIに低秩序/短距離硫黄(S8
2-~S2-)種が存在しないことにより、SEI層を通じたより速いNa+拡散を支援するより薄いSEI層がもたらされると考えている。本明細書に記載のXPS研究が、低速電流密度(1/10C)で形成されたハードカーボン上のSEIと高電流密度(1Cおよび2C)で形成されたハードカーボン上のSEIとの間のいくつかの組成差を示しているので、SEI組成物中に1つ以上の原子状窒素種が存在しないことが有益であり得るとも考えている。
【0018】
従来、本明細書に記載の無機種がNa+の拡散エネルギー障壁がより低いと考えられ、Na移動速度を高めると予想される理由について、本発明者らは、SEI中のより還元された硫黄種の存在がSEI層をより厚くし、実際にNa+拡散経路を増加させ、反応速度を低下させることを見出した。SEI中の他の種、例えばXPS分析によって決定される原子状窒素種も、Na+拡散経路の厚さ、大きさを増大させること可能性がある。本発明者らは、ここで、これらの種が存在しないSEIは、実際に、ハードカーボン上に形成された、より薄い、より多孔性の、もしくはより低密度のSEI、または少なくとも他の様態でよりイオン伝導性のSEI層を有することを見出した。その結果、より短いナトリウムイオン拡散経路および/またはよりイオン伝導性の特徴を有するものが得られる。先行技術には、本明細書に記載の組成的SEI特徴の1つ以上が、ナトリウムハードカーボンセルのSEI形成の改善および優れたセル性能のために重要であるという教示もない。
【0019】
いくつかの実施形態では、SEIの厚さは、エッチング調査、例えば、初期状態の電極の表面と一致するXPS信号を見るためにエッチングする時間によって決定または少なくとも近似することができる。使用することができる電気化学または電子顕微鏡法を含む他の方法を使用して、SEI厚さを測定することができる。典型的には、従来通りに形成されたSEIは、数百ナノメートルの厚さを示す。本発明者らは、これらの組成物のエッチング調査の報告(例えば、ACS Appl.Mater.Interfaces 2021、13、4、5706-5720)を公開しており、電気化学的方法を使用したSEI厚さの推定については5710頁に記載している。その関連部分は参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
いくつかの実施形態では、SEIのイオン伝導度および/またはSEIの界面抵抗は、電気化学インピーダンス分光法(EIS)の周知の方法によって決定または推測することができる。好ましい固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極は、電気化学インピーダンス分光法によって決定される、1回目の形成サイクル後に300オーム未満、より好ましくは200オーム未満のSEIに関連する界面抵抗(Rint)を有する。形成サイクルの終わりに、好ましい固体電極界面(SEI)/ハードカーボン電極は、75オーム未満、場合によっては50オームのSEIに関連する界面抵抗(Rint)を有し、本発明のSEIを通じたNa+の輸送の容易さを示している。
【0021】
実質的に完全で安定した改善されたSEI形成は、従来通りに形成されたSEIと比較した場合、第1および第2の態様の方法において上に示したセル性能特徴によって示される。加えて、または別々に、実質的に完全で安定した改善されたSEIは、活物質表面上に形成されたより薄いまたは他の様態でよりイオン伝導性のSEI層を有するものである。実質的に完全で安定した改善されたSEIは、より短い金属イオン拡散経路を有するものおよび/またはよりイオン伝導性の特徴を有するものである。より短い金属イオン拡散経路は、より薄い、もしくはより多孔質もしくはより低密度のSEI、またはこれらの要因のうちの1つ以上の組み合わせの結果であり、全体として、他の点では上記の従来の形成条件が適用される同等のセルで形成されたSEIと比較して、より短いイオン拡散経路をもたらすと考えられる。SEI形成のための従来の考え方が、非常にゆっくりと構築される厚い包括的なSEI層および/または電解質に添加された膜形成添加剤からの成分を含むものが、最適な電池性能を確保するために必要とされることを指示しているので、このような改善されたSEIの生成は驚くべき発見であった。本結果は完全に対照的であり、高電流レートおよび速い形成時間で超濃縮イオン液体電解質を使用して形成すると、SEI形成に使用される電解質を少なくしながら電池性能の改善を促進する、イオン伝導率が改善された/イオン拡散経路が短縮された(より薄い、もしくはより低密度である、もしくはより多孔質である、またはこれらの特性のうち全てなど)より良好なSEIが生成される。さらに、改善されたSEI形成時に生じるセルの不可逆容量損失が少ないため、本発明のセルは、従来のセルよりも出発電解質が多く、したがって、よりゆっくりとした経年劣化による容量低下を経験するため、より長い寿命を有すると予想される。
【0022】
適切には、SEIは、本明細書に記載の最適化されたセル形成条件に従って形成される。本発明の方法によって得ることができる、または得られる形成された対象セルも本明細書に記載される。
【0023】
望ましくは、形成された対象セルの改善されたSEIは、XPS試験および/またはエッチング調査によって示されるように、形成された試験セルのSEIよりも多くのC-N種を含む外層を有する組成を有する。
【0024】
XPSおよびエッチング調査は、1/10C電流密度で形成された試験セルのSEI組成が、原子状窒素(本明細書に記載の試験では約396eVの結合エネルギー)に起因する特徴を有することを示している。望ましくは、本発明の方法によって、1Cおよび2Cにおいて形成されたセルのSEI組成のXPS分析は、約396eVに原子状窒素に起因する特徴が存在しない。
【0025】
好ましくは、形成された対象セルの改善されたSEIは、XPS試験およびエッチング調査によって示されるように、小さい硫黄含有種(低秩序/短距離硫黄(S8
2-~S2-))が存在しないか、または形成された試験セルのSEIに見られるよりも小さい硫黄含有種を含有する。これらの種は、1/10C形成セルのより厚いSEIに関連し、これはNa+拡散経路を増加させ、反応速度を低下させる。
【0026】
好ましくは、形成された対象セル中の改善されたSEIは、40分間のエッチング後に、1以上であるCとOの比を含む。
【0027】
1/10Cレートならびに1Cおよび2Cのより高いレートで形成されたSEIの上記の組成差は、SEIが存在する成分種に関して異なることを裏付けている。これらの違いは、より高い電流密度において形成されたセルについて観察された性能の改善に関連する。
【0028】
望ましくは、形成された対象セルの改善されたSEIは、XPS試験およびエッチング調査および/またはEIS測定によって示されるように、形成された試験セルのSEIよりも薄い層である。
【0029】
また、本明細書では、好ましくは20時間以下、好ましくは10時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは2.5時間以下の合計時間でナトリウムイオン電気化学セル内のハードカーボンアノード上に改善されたSEIを形成するセル形成方法のための最適化されたセル形成条件を特定する方法であって、
ナトリウムイオン電気化学に基づいて2つ以上のフレッシュ(初期状態の)セルを提供するステップであって、各フレッシュセルが、
セル分極中に、セル内の超濃縮ナトリウム塩/イオン液体電解質にナトリウムイオンを放出することができる電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極、ならびに
ハードカーボン作用電極であって、超濃縮電解質からハードカーボン作用電極において受け取ったナトリウム金属イオンを、ハードカーボン作用電極に吸蔵される還元ナトリウムとして吸収する、ハードカーボン作用電極
を備え、
超濃縮ナトリウム塩/イオン液体電解質が、イオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含み、ナトリウム塩濃度が、電解質中のその飽和限界の75%以上である、
ステップと、
第1のフレッシュな試験セルにセル形成プロセスを適用することによって、フレッシュな試験セルのハードカーボン作用電極上にSEIを生成することによって形成された試験セルを製造するステップであって、
単一放電の場合少なくとも10時間、より好ましくは単一放電の場合少なくとも20時間の期間内にフレッシュな試験セルの全放電容量を達成するように予め定められた第1の電流密度(例えば、1/10C以下、または1/20C以下と同等の電流密度)において、フレッシュな試験セルの全電圧窓内で第1のフレッシュな試験セルを分極させる工程、ならびに任意選択的に、
形成された試験セルのハードカーボン電極上の実質的に完全で実質的に安定したSEI形成に関連する、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在を特定する工程、ならびに必要に応じて、
形成された試験セルのハードカーボン電極上の実質的に完全で安定したSEI形成に関連する、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在が観察されるまで、得られた形成された試験セルに対して、同じ第1の電流密度または異なるより高いもしくはより低い予め定められた形成電流密度において分極サイクルステップを1回以上繰り返す工程
を含む、ステップと、
フレッシュな第1の対象セルに改善されたセル形成プロセスを適用することによって、形成された対象セルの作用電極上に、改善されたSEIを有する形成された対象セルを製造するステップであって、
フレッシュな第1の対象セルのセルのカットオフ放電電位限界および結果として生じる放電容量を、単一放電の場合5時間未満、単一放電の場合2時間未満、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは単一放電の場合30分以下の期間で達成するように予め定められた、フレッシュな試験セルに使用される電流密度よりも高い電流密度である第2の電流密度において、フレッシュな第1の対象セルの全電圧窓内でフレッシュな第1の対象セルを分極させる工程、
形成された第1の対象セルのハードカーボン電極上の実質的に完全で実質的に安定した改善されたSEI形成に関連する、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在を特定する工程、ならびに必要に応じて、
1つ以上のマーカーの存在および/または非存在が、形成された第1の対象セルのハードカーボン電極上に実質的に完全で実質的に安定した改善されたSEI形成が生じたことを示すまで、得られた形成された第1の対象セルに対して、同じ予め定められた第2の電流密度において、または異なるより高いもしくはより低い所定の形成電流密度において分極工程を1回以上繰り返す工程
を含む、ステップと
を含み、
形成された第1の対象セルのハードカーボン上に形成されたSEIの改善が、そのように形成された第1の対象セルが、同じ公称Cレートで形成された第1の試験セルについて示される比容量および/またはクーロン効率と比較して、形成された第1の対象セルの公称Cレートでのサイクル中により高い比容量および/またはより高いクーロン効率を示すことによって証明される、
方法が記載される。
【0030】
上記のSEI組成の特徴の1つ以上に加えて、好ましくは、形成された対象セルのハードカーボン上の改善されたSEIは、以下によってさらに定義されるSEI組成を有する:
XPS試験および/または同じエッチング時間でのエッチング調査によって示されるように、形成された試験セルのSEIよりも多くのC-N種を含む外層を有すること、
40分間のエッチング後に、1以上であるCとOの比を含む組成を有すること。
【0031】
公称Cレートでの比較は、他の全てのものが等しい、例えば両方に同じ数の分極工程が適用された形成されたセルについて行われる。セルのカットオフ放電電位限界は、セル放電が完了したと見なされる規定の電圧限界であり、典型的には、問題のセルの最良の性能をもたらす典型的な動作条件下で電池の最大有用容量を達成することを可能にするものであり、また、セルの化学的性質に依存する。セルの充電が完了したと見なされる対応するセルのカットオフ充電電位限界が存在する。任意のセルの適切なカットオフ電位限界を決定することは、当業者である電気化学者の通常の権限内である。Cレートは、電池がその最大容量に対して充電または放電されるレートの尺度である。例えば、1Cは、電池を1時間で完全に充電または放電するために必要な電流が電池から印加または消耗されることを意味し、1/10Cでは、10時間で電流が印加/消耗され、2Cでは、選択された電圧カットオフ点まで電池を完全に充電または放電するために30分で電流が印加/消耗される。電極に使用される活物質の量が少ないため、ここではCレートを使用する。しかしながら、より多くの量の活物質を使用する電極について、完全な充電/放電をもたらすために必要な電流密度を電気化学的に容易に決定することができる。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明によるセルは、-20℃~150℃、例えば-10℃~150℃、0℃~150℃、0℃~125℃、0℃~100℃、0℃~75℃、0℃~50℃、または0℃~25℃の温度で動作することができる。
【0033】
好ましくは、本発明の最適化方法において、本方法は、
1つ以上のフレッシュな対象セルにセル形成プロセスを適用することによって、形成された第2の対象セルの作用電極上に改善されたSEIを有する、さらに形成された第2の対象セルを製造する追加のステップであって、
第1の態様の方法のために選択された期間よりも短い期間に、フレッシュな第2の対象セルのセルのカットオフ放電電位限界、および結果として生じる放電容量を達成するように予め定められた、第2の電流密度よりも高い第3の電流密度において、フレッシュな第2の対象セルの全電圧窓内でフレッシュな第2の対象セルを分極させる工程、ならびに
形成された第2の対象セルのハードカーボン電極上での、実質的に完全かつ実質的に安定したさらなる改善されたSEI形成に関連する、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在を特定する工程、ならびに必要に応じて、
1つ以上のマーカーの存在および/または非存在が、形成された第2の対象セルのハードカーボン電極上に実質的に完全で安定した改善されたSEI形成が生じたことを示すまで、得られた形成された第2の対象セルに対して、同じ予め定められた第3のより高い電流密度において、または異なるより高いもしくはより低い予め定められた形成電流密度において分極工程を1回以上繰り返す工程
を含む、追加のステップ
をさらに含んでもよく、
形成された第2の対象セルのハードカーボン上に形成されたSEIの改善は、そのように形成された第2の対象セルが、同じ公称Cレートで形成された試験セルおよび形成された第1の対象セルについて示される比容量および/またはクーロン効率と比較して、形成された対象セルの公称Cレートでのサイクル中により高い比容量および/またはより高いクーロン効率を示すことによって証明される。公称Cレートでのこの比較は、他の全てのものが等しい、例えば両方に同じ数の分極工程が適用された形成されたセルについて行われることが理解されよう。
【0034】
本方法のさらなる改善は、必要に応じて、さらなるフレッシュな第3の対象セルまたは1つ以上の後続のフレッシュな追加の対象セルに対してこのステップを繰り返すことによって達成されてもよく、それによって、形成されたSEIのさらなる改善は、セルの公称Cレートでのさらなる改善された性能の観察によって示される。
【0035】
いくつかの実施形態では、実質的に完全で実質的に安定したSEIを生成するために、最大5回または5回の形成サイクルが必要である。5回の分極サイクルの各々に対する単一放電段階の場合少なくとも10時間の期間を各々が含む5回のサイクルは、5×20時間の合計時間、すなわち100時間の合計形成時間を必要とすることが理解されよう。対照的に、5回の分極サイクルの各々に対する単一放電段階の場合5時間以下の期間を各々が含む5回のサイクルは、5×10時間の合計時間、すなわち50時間の合計形成時間を必要とし、これは従来の形成プロトコルの合計時間の半分である。同様に、対照的に、5回の分極サイクルの単一放電段階に関して30分の期間を各々が含む5回のサイクルは、合計時間5×0.5時間を必要とし、これは合計形成時間2.5時間であり、これは、同等のセルが合計時間100時間で形成される公称Cレートでのサイクル中よりも40倍速く、同時に良好な性能をもたらす。
【0036】
本明細書にはまた、ナトリウムイオン電気化学セル内のハードカーボンアノード上に、改善されたSEIを20時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは2.5時間以下の合計時間で形成するセル形成方法であって、
ナトリウムイオン電気化学に基づいてフレッシュセルを提供するステップであって、フレッシュセルが、
セル分極中にセル内の超濃縮電解質中にナトリウムイオンを放出することができる電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極、および
ハードカーボン作用電極であって、超濃縮電解質からハードカーボン作用電極において受け取ったナトリウムイオンを、ハードカーボン作用電極に吸蔵される還元ナトリウムとして吸収する、ハードカーボン作用電極
を備え、
超濃縮ナトリウムイオンイオン液体電解質が、イオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含み、ナトリウム塩濃度が、電解質中のその飽和限界の75%以上である、
ステップと、
単一放電の場合5時間未満、単一放電の場合2時間未満、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは単一放電の場合30分以下の期間で、フレッシュな対象セルのセルのカットオフ放電電位限界、および結果として生じる放電容量を達成する予め定められた形成電流密度においてフレッシュな対象セルを分極する工程、
ハードカーボン電極上の実質的に完全で安定したSEI形成に関連する、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在を特定する工程、ならびに必要に応じて、
1つ以上のマーカーの存在および/または非存在が、形成された対象セルのハードカーボン電極上での実質的に完全で安定した改善されたSEI形成の発生を示すまで、得られた形成された対象セルに対して、同じ予め定められた形成電流密度において分極工程を1回以上繰り返す工程であって、
改善されたSEIを生成するために必要な予め定められた形成電流密度および/または分極サイクル反復回数が、第1の態様の方法によって特定される、
工程
によるセル形成プロセスをフレッシュな対象セルに適用することによって、形成された対象セルの作用電極上に改善されたSEIを有する形成された対象セルを製造するステップと
を含む、方法が記載される。
【0037】
好ましくは、本発明の方法では、セル分極は、各セルを定電流で充電および放電することによって生じる。
【0038】
電気化学インピーダンス分光法(EIS)を使用して、異なる電流密度におけるハードカーボン表面の界面抵抗を示すことができる。
【0039】
本発明の方法によって得るころができる、および/または得られる形成された対象セルも本明細書に記載される。好ましくは、セルのSEI組成は、上記の第1の態様に従って定義される。
【0040】
本発明者らは、ハードカーボン作用電極(または電池の負極)および超濃縮ナトリウム塩/イオン液体電解質を含むナトリウムイオン系セルにおけるSEI形成の改善および電気化学セル性能の改善のための新しい形成プロトコルを開発した。本発明は、問題のセルの全電圧窓を含む形成分極サイクルにおいて従来にない高い電流密度を使用する、本明細書に記載の形成方法によって製造されたセルに及ぶ。ハードカーボンはフルセルナトリウムイオン電池での使用に適しているが、概念実証は、ハードカーボン負極のナトリウム化を含むハーフセル研究によって実証されている。本発明の方法を使用すると、初期状態のハードカーボンのナトリウム化は、1回目の形成サイクル中に実質的に完全なSEI形成を含み、場合によっては最初の数回の形成サイクルで完全に完了し、典型的には5回の形成サイクル後に完全に完了する。形成プロセスは、少なくとも1回の分極サイクル、いくつかの実施形態では、最大10回の分極サイクル、好ましくは、最大10回、最大9回、最大8回、最大7回、最大6回、最大5回、最大3回の形成サイクルを経た電気化学セルの結果として、電極表面と電解質との間(界面)にSEIが形成されたハードカーボン電極をもたらすことが理解されよう。実質的に完全で実質的に安定したSEIを形成するために分極サイクルが少ない方が好ましい方法は、これがより短い全体形成時間をもたらすので好ましい。
【0041】
本発明者らはまた、完全に完了したSEI形成を確実にするために5回の完全な形成サイクルを含む、20時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは2.5時間以下という従来にない短い合計形成期間で所望の程度のSEI形成を達成することができる、本発明の好ましい形成方法での使用に必要な最適な形成条件/パラメータを特定する方法を開発した。しかしながら、いくつかの方法では、形成期間はさらに短く、ここで、SEIは、本明細書に記載されるようなただ1回または2回の高電流密度分極サイクルの後に完全に形成される。改善された方法は、本明細書に記載の約1回または2回から5回の形成サイクルを適用することによって実質的に完全で実質的に安定したSEI形成を生成することができ、各分極サイクルは、単一放電の場合5時間以下、好ましくは単一放電の場合2時間以下、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは30分以下、場合によっては単一放電ステップの場合15分以下である放電段階を含むことが理解されよう。この高速サイクルをサポートするために必要とされる高い電流密度(1/2C~5C)は、単一放電の場合少なくとも10時間、より好ましくは単一放電の場合少なくとも20時間の従来の分極/サイクルレートを使用して可能な全放電容量と比較して、対応する比較的低い容量でセルのカットオフ電位限界に達することを意味することが理解されよう。2/3のそのような低速サイクルが従来の形成方法に使用されるので、合計形成時間は約40~120時間かかる。対照的に、本発明の形成方法ははるかに短く、それにより、実質的に完全で安定したSEIは、例えば、方法のために選択された電流密度に応じて、単一放電の場合5時間以下、好ましくは単一放電の場合2時間以下、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは単一放電の場合30分以下の期間の約5回のサイクルで形成することができ、わずか20時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは2.5時間以下の合計形成時間につながる。
【0042】
望ましくは、本方法は、連続する充電および放電サイクルの間の休止期間、または単一の充電および放電サイクルの連続するフルサイクルを含まない。いくつかの好ましい実施形態では、完全かつ安定したSEI形成は、1回の形成サイクル後に、4回以下の形成サイクル、好ましくは3回以下の形成サイクル、好ましくは2回以下の形成サイクル、およびいくつかの特に好ましいサイクルで生じる。
【0043】
いくつかの好ましい実施形態では、本明細書に記載の形成プロトコルは、従来の形成プロトコル(例えば、1/10C以下もしくは1/20C以下のレートで全放電容量を与える電流密度、または同等の電流密度を含む)と比較して、ハードカーボン負極上のSEI形成およびコンディショニング時間を、好ましくは少なくとも約10分の1、好ましくは少なくとも約15分の1、より好ましくは約20分の1(例えば、従来の形成方法よりも最大約20倍速い)、場合によっては最大38分の1に短縮することができる。本発明の方法から生じるコスト削減および効率向上は明らかである。
【0044】
したがって、本発明は、NIBセルにおいて、ハードカーボン電極上に改善されたSEIを20時間以下の合計時間で形成するステップを含む新規かつ従来にないセル形成方法を提供する。
【0045】
従来にない短時間で形成される実質的に完全で実質的に安定した改善されたSEIは、従来の、しかし上記のようなはるかに遅い形成方法(例えば、1/10Cまたは1/20Cレートで2/3の分極サイクル)を使用して同一のセル(同じ化学的性質、材料、製造、バッチなど)で形成されるSEIと少なくとも同程度に良好な高性能/改善されたSEIである。「少なくとも同程度に良好」とは、SEIが、単一放電の場合少なくとも10時間、より好ましくは単一放電の場合少なくとも20時間を利用する分極を含む従来の形成方法(他の全てが等しい)を使用して形成されたSEIと、より良好(より高い)ではないにしても同じイオン伝導率、および/またはより良好(より低い)ではないにしても同じインピーダンスを有することを意味する。しかしながら、本発明の好ましい形成方法は、合計時間20時間以下で実質的に完全で実質的に安定したSEIである改善されたSEIを生成し、これは、上述のような従来の形成方法を使用して形成されたであろうSEIよりも高いイオン伝導率および/または低いインピーダンスを有するSEIをもたらすことが分かった。したがって、本発明の改善されたSEIは、はるかに遅いレートで形成された同等のセルのSEIと比較して、組成的に異なり、ならびに/または構造的に異なり、ならびに/または機械的特性、および/もしくは化学的特性、例えば組成、物理的特性、例えば厚さ、多孔度、密度などの1つ以上、および電気的特性、例えばSEIのインピーダンスおよびナトリウムイオンのイオン伝導度に関して異なる。本発明のSEIは、以下の特徴のうちの1つ以上を有すると考えられる:例えば、XPSによって、例えば、XPS試験およびエッチング調査で約396eVの結合エネルギーのピークによって特定されるような原子状窒素種を実質的に含まないこと、ならびに例えば、XPSによって、例えば、XPS試験およびエッチング調査で約164eV~約160eVの結合エネルギーのピークによって特定されるような低秩序/短距離硫黄(S8
2-~S2-)種を含まないこと。さらに、本明細書に記載の形成方法は、(SEI形成の改善および形成中の関連する不可逆容量損失が少ない電解質消費の減少の結果として、)上記のレートで従来通りに形成されたセルと比較して優れた性能を示す形成されたセルをもたらす。有利かつ驚くべきことに、観察された改善された性能改善は、形成時間が従来の形成プロトコルよりも最大約20倍速い因子であるにもかかわらず達成される(例えば、単一放電の場合10時間以上、より典型的には単一放電サイクルの場合20時間を含む形成サイクルを使用し、その少なくとも2回または3回が良好なSEI形成に必要である)。本方法は、形成中に非常に高い電流密度を使用することを回避する当技術分野における従来の考え方に反するので、結果は驚くべきものである。先行技術には、本明細書に記載の組成的SEI特徴が、ナトリウムハードカーボンセルのSEI形成の改善および優れたセル性能のために重要であるという教示もない。
【0046】
セル形成条件
本方法は、フレッシュセルにセル形成プロセスを適用することにより、第1のフレッシュセルの作用電極上に(「従来の」)SEIを生成することによって、形成された試験セルを製造するステップを含み、それにより、形成された試験セルは、典型的には低速/低速の形成方法条件の従来のセットを受け、これは、従来のレートでは、単一の分極サイクルの単一放電の場合10時間以上、さらには単一の分極サイクルの単一放電の場合20時間以上かかる。従来のセル形成ステップを実施することは、従来の条件下で生じる典型的なSEI形成に使用される低電流密度(これは、1/10Cまたは1/20Cなどの遅いレートである)でのSEI挙動の指標を提供するので、任意選択であるが有用なステップである。この指標は、より高い電流密度で可能なより短い放電サイクルを含むことが望ましい本発明による初期の改善された形成条件を設定するのに有用である。これにより、本発明の形成方法で使用されるより高い電流密度を容易に決定することができる。例えば、第1のフレッシュな試験セルに適用されたこの第1の形成プロセスに関する電気分析研究はまた、形成されたSEIの完全性および/または安定性の程度、ならびにそのように形成されたSEIのイオン伝導度および/またはインピーダンスに関する情報など、SEI形成が生じていることおよび/またはSEI形成の程度を示す1つ以上のマーカーの特定を含む、従来のレートでのSEI形成の性質、段階および完全性/安定性に関する情報を提供することができる。これらのマーカーは、形成方法が適用される対象セルにおけるSEI形成を比較するのに有用であり得、本発明の方法で使用されるより高いレート/電流密度条件で形成された実質的に完全で安定したSEIの形成を特定するのに役立ち得る。それらはまた、改善されたSEIと従来通りに形成されたSEIとの特性および/または性能比較の基礎を提供し、本発明の利点を実証する。したがって、第1の態様の方法は、「従来通り」に形成された試験セルのベースラインを確立するステップを含んでもよい。したがって、この場合の方法は、以下のステップを含む:
予め定められた第1の電流密度において、フレッシュな試験セルの全電圧窓内で第1のフレッシュな試験セルを分極して、単一放電の場合少なくとも10時間、より好ましくは単一放電の場合少なくとも20時間の期間(例えば、1/10Cまたは1/20C放電ステップに相当する電流密度)にセルの全放電容量を達成するステップ、ならびに任意選択的に、ハードカーボン電極上の実質的に完全で安定したSEI形成に関連する記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在を特定するステップ、ならびに任意選択的に必要に応じて、形成された新しい試験セルのハードカーボン電極上の実質的に完全で安定したSEI形成に関連する、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在が観察されるまで、同じ第1の電流密度で試験セルの分極を1回以上繰り返すステップ。従来の考え方は、1/20Cレートが特定の試験セルに最良のSEIを生成することを示唆するが、1/10Cも許容可能なセル性能をサポートする許容可能なSEIを形成すると見なされている。次いで、本発明の方法は、以下のステップを含んでもよい:
ステップa)で使用される電流密度よりも高い電流密度である予め定められた第2の電流密度であって、より高い電流密度が単一放電の場合5時間以下、好ましくは単一放電の場合2時間以下、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは単一放電の場合30分以下の期間でセルの全放電容量を達成する、第2の電流密度において、1つ以上のマーカーがハードカーボン作用電極上に実質的に完全で安定した改善されたSEIの形成の証拠を提供するまで、対象のフレッシュセル(化学的性質、特性が同一であり、第1のステップで使用されるフレッシュセルを構成する)に対してステップa)を繰り返すことによって形成された対象セルを製造するステップ。
【0047】
対象セルは、従来にない形成工程が適用されるセルである。
【0048】
必要に応じて(マーカー、すなわちその存在または非存在が、SEIのさらなる発達に有益であることを示す)、本方法は、1つ以上のマーカーがハードカーボン作用電極上の実質的に完全で安定した改善されたSEIの形成の十分な証拠を提供するまで、同じ第2の電流密度において、同じ形成された対象セル上で上記の製造ステップを1回以上さらに繰り返すことを含み得る。
【0049】
形成された対象セルのハードカーボン上に形成されたSEIの改善は、形成された対象セルが、形成された試験セルについて示された比容量および/またはクーロン効率と比較して、形成された対象セルの公称Cレートでのサイクル中により高い比容量および/またはより高いクーロン効率を示す場合に容易に証明されることに留意されたい。公称Cレートでのこの比較は、他の全てのものが等しい、例えば両方に同じ数の分極工程が適用された形成されたセルについて行われることが理解されよう。これにより、直接性能比較が保証され、唯一の違いは、形成されたセルに適用される特に高いレート/電流密度形成条件および繰り返し分極工程の数である。
【0050】
最適な形成条件下でのセル形成の形成
本発明は、ナトリウムイオン電気化学セル内のハードカーボンアノード上に改善されたSEIを20時間以下、好ましくは5時間以下、より好ましくは2.5時間以下の合計時間で形成するセル形成方法を提供する。改善されたSEIが形成された後、セルは、特定のセルの公称Cレートでのサイクル中に記載された性能改善を示す。
いくつかの実施形態では、(例えば、上記の第1の態様の方法に従って特定されると)最適化された形成条件のセットは、同一のフレッシュ(初期状態の)セル、または市販の電池製造で遭遇し得るような同一のフレッシュ(初期状態の)セルのバッチに適用可能な形成方法で適用することができる。このような形成方法は、
ナトリウムイオン電気化学に基づいて、形成されるべき1つ以上のフレッシュセルを提供する第1のステップであって、フレッシュセルが、
セル分極中にセル内の超濃縮電解質中にナトリウムイオンを放出することができる電気化学的に酸化可能な材料を含む対電極と、
ハードカーボン作用電極であって、超濃縮電解質からハードカーボン作用電極において受け取ったナトリウムイオンを、ハードカーボン作用電極に吸蔵される還元ナトリウムとして吸収する、ハードカーボン作用電極と
を備え、
超濃縮ナトリウムイオンイオン液体電解質が、イオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含み、ナトリウムイオン濃度が、電解質中のその飽和限界の75%以上である、
第1のステップを含む。
【0051】
次いで、形成方法は、
単一放電の場合5時間以下、好ましくは単一放電の場合2時間以下、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは単一放電の場合30分以下の期間でフレッシュな対象セルのセルのカットオフ放電電位限界、および結果として生じる放電容量を達成する予め定められた形成電流密度においてフレッシュな対象セルを分極する工程、ならびに
ハードカーボン電極上の実質的に完全で安定したSEI形成に関連する、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における1つ以上のマーカーの存在および/または非存在を特定する工程、ならびに必要に応じて、
1つ以上のマーカーの存在および/または非存在が、対象セルのハードカーボン電極上での実質的に完全で安定した改善されたSEI形成の発生を示すまで、結果として形成された対象セルに対して、同じ予め定められた第2の電流密度において、または異なるより高いもしくはより低い予め定められた形成電流密度において分極工程を1回以上繰り返す工程
によるセル形成プロセスをフレッシュな対象セルに適用することによって、形成された対象セルの作用電極上に改善されたSEIを有する形成された対象セルを製造するステップを含み、
ハードカーボン上に形成されたSEIの改善は、形成された対象セルが、形成された試験セルについて示された比容量および/またはクーロン効率と比較して、形成された対象セルの公称Cレートでのサイクル中により高い比容量および/またはより高いクーロン効率を示すことによって証明される。好ましくは、(i)予め定められた形成電流密度および/または(ii)改善されたSEIを生成するために必要な分極工程の数に対応する分極サイクルの繰り返し回数は、第1の態様に記載の最適化されたセル形成条件を特定する方法によって特定される。
【0052】
適切には、本発明の方法は、0℃~100℃、好ましくは20℃~85℃、より好ましくは25℃~80℃、さらにより好ましくは45℃~55℃の温度範囲で実行される。いくつかの好ましい実施形態では、本方法は50℃(±2%)で実行される。好ましくは、セル分極は、単一放電の場合少なくとも10時間、より好ましくは単一放電の場合少なくとも20時間の期間でセルの全放電容量を達成する予め定められた第1の電流密度において、フレッシュな試験セルの完全な電圧窓内でフレッシュな試験セルを定電流で充電および放電することを含む。セルを「充電する」とは、作用電極でイオンが還元される(すなわち、ナトリウム化またはリチウム化など)ようなセルの分極を指し、「放電する」とは、作用電極での酸化の逆プロセス(すなわち、脱ナトリウム化、脱リチウム化など)である。
【0053】
いくつかの実施形態では、分極中、電流密度は、単一放電の場合5時間未満、単一放電の場合2時間未満、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは単一放電の場合30分以下の期間で、セルのカットオフ放電電位限界および結果として生じる放電容量に達するように選択される。所望の形成時間は、上述の方法において完全放電を達成するために使用される電流密度のレベルを導くことが理解されよう。
【0054】
実施形態では、形成時間は、実質的に完全で実質的に安定した改善されたSEIがハードカーボン作用電極上に形成されるのに必要な時間を意味し、これはセルの上記の性能要件を満たすことを特徴とする。要するに、いくつかの実施形態では、実質的に安定した改善されたSEIは、形成された対象セルが、形成された試験セルについて示された比容量および/またはクーロン効率と比較して、形成された対象セルの公称Cレートでのサイクル中により高い比容量および/またはより高いクーロン効率を示す場合に、より高い性能をサポートするのに十分に完全なものである。いくつかの好ましい実施形態では、試験セルと比較して形成された対象セルのより高い性能は、公称Cレートにおいて、最大で少なくとも50サイクル、少なくとも100サイクル、少なくとも200サイクル、少なくとも500サイクル、少なくとも1000サイクル、少なくとも2000サイクル後に観察され得る。Cレートは、充電/放電電流を公称定格電池容量で割ったものとして定義される。例えば、2,500mAh定格電池での5,000mA放電は、30分で完全放電が生じるような2Cレートになる。同様に、2,500mAh定格電池での2,500mAの放電は、1時間で完全放電が生じるような1Cレートになる。同様に、2,500mAh定格電池での250mAの放電は、10時間で完全放電が生じるような1/10Cレートになる。
【0055】
望ましくは、本方法中に印加される電流密度は一定の電流密度である。
【0056】
好適には、ハードカーボン作用電極はハードカーボンを含み、より好ましくはハードカーボンから本質的になる。
【0057】
いくつかの実施形態では、第2の電流密度は、単一放電ステップの場合5時間以下の期間の分極サイクルでセルのカットオフ放電電位限界を達成する。いくつかの実施形態では、第2の電流密度は、分極サイクルの単一放電ステップの場合2時間以下の期間でセルのカットオフ放電電位限界を達成する。
【0058】
いくつかの実施形態では、試験セルの形成ステップにおける作用電極での第1の予め定められた電流密度は、200mA/g以下、150mA/g以下、100mA/g以下、50mA/g以下、10mA/g以下である。いくつかの実施形態では、試験セルの形成ステップにおける作用電極での第1の予め定められた電流密度は、約50mA/g~約100mA/gである。いくつかの実施形態では、第1の対象セルの形成ステップにおける作用電極での第2のまたは第3のまたはそれ以降の電流密度は、約350mA/g以上、約375mA/g以上、約400mA/g以上、約450mA/g以上、約500mA/g以上、約550mA/g以上、約600mA/g以上、約650mA/g以上、約700mA/g以上、約750mA/g以上、約800mA/g以上、約850mA/g以上、約900mA/g以上である。
【0059】
特に、本実施例に記載のC3mpyrFSIベースの超濃縮イオン液体の場合、1/10Cレートは完全放電のために30mA/gの電流密度を必要とし、1Cレートは300mA/gの電流密度を必要とし、2Cレートは600mA/gの電流密度を必要とした。
【0060】
「超濃縮」イオン液体系電解質は、本発明のセルでの使用に適したナトリウムイオンイオン液体電解質を含み、セルの使用温度において液体形態で存在する限り特に限定されない。適切には、「超濃縮」イオン液体系電解質は、50ppm未満の水を含有するという点で乾燥している。超濃縮電解質のイオン液体は、好ましくは、ピロリジニウムカチオン、好ましくはアルキル化ピロリジニウムカチオン、好ましくは1-メチル-1-アルキル-ピロリジニウムカチオン(C3mpyr+)、最も好ましくは1-メチル-1-プロピル-ピロリジニウムカチオン(C3mpyr+)を含む。しかしながら、ハードカーボンのナトリウム化のために、好ましい電解質は、特に本実施例に記載されているC3mpyrFSI系の超濃縮イオン液体である。
【0061】
それ以外では、本発明に従って使用されるナトリウム塩/イオン液体電解質は、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビスルフェート([C4mim][HSO4])、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([Cnmim][Br])、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([C16mim][Cl])、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([C8mim][Cl])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([C4mim][BF4])、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([C8mim][BF4])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([C2mim][Tf2N])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([C4mim][Cl])、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロフェレート(III)([C6mim][FeCl4])、1-プロピル-3-メチルイミダゾリウムヨージド([C3mim][I])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホネート([C2mim][OTf])、1-アルキル-3-メチルイミダゾリウムトリフレート([Cnmim][Tf])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアセテート([C2mim][OAc])、N-ブチル-N-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(([C4mPyr][Tf2N])または([C4mpy][Tf2N]))、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([C2mim][BF4])、1-ドデシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([C12mim][Br])、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([C8mim][Tf2N])、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([C16mim][Tf2N])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロリド([C2mim][Cl])、1-(3-アミノプロピル)-3-メチルイミダゾリウムブロミド([(3-アミノプロピル)mim][Br])、1,2-ジメチル-3-ブチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([C4(2-Ci)mim][Tf2N])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムジシアナミド([C4mim][N(CN)2])、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート([C16mim][BF4])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート([C4mim][PF6])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([C4mim][Tf2N])、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([C4mpyr][Tf2N])、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラクロロフェレート(III)([C4mim][FeCl4])、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([C2mim][Br])、1-ヘキサデシル-3-メチルイミダゾリウムブロミド([C16mim][Br])、1,2-ジメチル-3-(3-ヒドロキシプロピル)イミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(C2-OH)N-エチル-トリス(2-(2-メトキシエトキシ)エチル)エタンアンモニウムビス(フルオロスルホニル)イミド([N2(2O2O1)3][FSI])およびN-エチル-トリス(2-(2-メトキシエトキシ)エチル)エタンアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([N2(2P2O1)3][TFSI])から選択される1つ以上の有機塩を含み得る。
【0062】
いくつかの実施形態では、本発明に従って使用されるナトリウム塩/イオン液体電解質は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([Tf2N]、または[TFSI])、ビス(フルオロスルホニル)イミド([FSI])、またはそれらの組み合わせから選択される塩を含む1つ以上の有機塩を含み得る。
【0063】
例えば、有機塩は、1-ブチル(プロピル)-1-メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([C4C3mpyr][TFSI])、およびN-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド([C3mpyr][FSI])を含む。本発明の電解質を形成するための使用に適した有機塩は、Gebrekidan Gebresilassie Eshetu、Michel Armand、Bruno Scrosati、およびStefano Passerini、Energy Storage Materials Synthesized from Ionic Liquids Angewandte Chemie Int.Ed.2014、volume 53、page 13342に開示されるものを含んでもよく、その内容はその全体が本明細書に含まれる。
【0064】
望ましくは、電解質はリン系有機塩を含む。すなわち、本発明に従って使用されるナトリウムイオンイオン液体電解質はまた、本明細書に開示される有機塩のリン類似体から選択される1つ以上の有機塩を含んでもよい。本明細書に開示される有機塩のリン「類似体」とは、本明細書に開示される有機塩と同じ化学構造を共有し、窒素原子をリン原子で置き換えた有機塩を意味する。
【0065】
したがって、本発明に従って使用される電解質は、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([P66614][Tf2N])、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムビス(フルオロスルホニル)イミド([P66614][FSI])、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド([P1224][Tf2N])、ジエチル(メチル)(イソブチル)ホスホニウムビス(フルオロメタンスルホニル)アミド([P1224][FSI])、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([P1224][Tf2N])、トリイソブチル(メチル)ホスホニウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド([P1444][FSI])、トリエチル(メチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([P1222][Tf2N])、トリエチル(メチル)ホスホニウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド([P1222][FSI])、トリメチル(イソブチル)ホスホニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド([P111i4][Tf2N])およびトリメチル(イソブチル)ホスホニウムビス(フルオロメタンスルホニル)イミド([P111i4][FSI])から選択される1つ以上の有機塩を含み得る。
【0066】
本発明に従って使用される電解質はまた、(例えば、カチオン上のアルキル鎖を置換することによって)カチオン側鎖にアルコキシエーテル官能基を組み込む、本明細書に記載されるものから選択される1つ以上の有機塩を含み得る。
【0067】
いくつかの実施形態では、本発明に従って使用される電解質は、ナトリウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(Na[TFSI])、ナトリウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Na[FSI])、ナトリウムトリフラート(NaOTf)、過塩素酸ナトリウム(NaClO4)、テトラフルオロホウ酸ナトリウム(NaBF4)およびヘキサフルオロリン酸ナトリウム(NaPF6)から選択される1つ以上のナトリウム塩を含む。
【0068】
望ましくは、ナトリウムイオンはNa+であり、電解質は、Na[TFSI]および[C3mpyr][TFSI]、Na[TFSI]および[C4C3pyr][TFSI]、Na[TFSI]および[C3mpyr][FSI]、Na[TFSI]および[C4C3mpyr][FSI]、Na[FSI]および[C3mpyr][TFSI]、Na[FSI]および[C4C3mpyr][TFSI]、Na[FSI]および[C3mpyr][FSI]、Na[FSI]および[C4C3mpyr][FSI]、またはそれらの組み合わせを含む。
【0069】
望ましくは、電解質は、ナトリウム(ビス(フルオロスルホニル)イミド(Na[FSI])およびN-プロピル-N-メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(C3mpyr[FSI])を含む。
【0070】
他の適切なイオン液体にては、オキサゾリジニウムカチオン、例えば、[C1moxa]+、[C2moxa]+;アンモニウムカチオン、例えば、[N111,1O1]、または官能基を有するアンモニウム、例えば、シアノアンモニウム、モルホリニウム;電荷拡散カチオン、例えば、ヘキサメチルグアニジニウム;ピロリジニウム、例えば、[C2epyr]+、[C(i3)mpyr]が含まれる。これらのカチオンは、任意の適切なアニオン、特にTFSI-、FSI-、BF4
-またはPF6
-アニオンと共に使用することができる。本発明にとって特に好ましいのは、HMG(ヘキサメチルグアニジニウム)、オキサ(ジメチルオキサゾリジニウムなど)およびアンモニウム(例えば、テトラメチルおよびメチル、トリエチルなど)を含むカチオンを有し、特にFSIおよびTFSIを有するILである。
【0071】
本発明によれば、電解質中のナトリウム塩濃度は、電解質中のその飽和限界の75%以上である。電解質中のナトリウム塩の濃度は、ナトリウム塩および有機塩の総モルに対するナトリウム塩のmol%である。「電解質中の飽和限界」は、所与の温度で電解質からナトリウム塩が析出しない、電解質中のナトリウム塩の最も高い濃度を意味する。言い換えれば、電解質に添加されたさらなるナトリウム塩が溶解しない場合、ナトリウム塩濃度は所与の温度で電解質中のその飽和限界にある。基準温度での電解質中のナトリウム塩イオンの飽和限界は、当技術分野で公知の標準的な手順に従って好都合に測定することができる濃度である。そのような手順によれば、初期温度において、量を漸進的に増加させながらナトリウム塩が有機塩に添加され、初期温度は、飽和限界が決定されるべき基準温度よりも高い。ナトリウム塩の添加は、未溶解塩の可視沈殿物の形成まで継続し、飽和限界を超えることを示す。次いで、温度を基準温度まで下げ、さらなるナトリウム塩を有機塩から沈殿させる。ナトリウム塩の沈殿が止まると、ナトリウム塩沈殿物の総量は、当業者に公知の手段を使用して沈殿物を溶液から分離することによって決定される。基準温度におけるナトリウム塩飽和限界は、有機塩に添加された全ナトリウム塩とナトリウム塩沈殿物の量との差として計算される。
【0072】
「電解質中のその飽和限界の75%以上」は、電解質中の飽和限界の75%~100%の範囲内のナトリウム塩濃度を意味する。例えば、所与の温度で電解質中のナトリウム塩の飽和限界が60mol%である場合、本発明による電解質中のナトリウム塩濃度は45mol%以上である(45mol%は60mol%の75%である)。言い換えれば、この例では、本発明による電解質中のナトリウム塩の濃度は、45mol%~60mol%の範囲内である。
【0073】
電解質の飽和限界は、セルの動作温度における限界である。「セルの動作温度」は、例えばSEI層が形成されるとき、電極に取り付けられた外部負荷に電力を供給している放電中、および/または充電中に、セルが機能するようになる温度を意味する。言い換えれば、セルの動作温度において、ナトリウム塩/イオン液体電解質は、電解質中のその飽和限界の75%以上であるナトリウム塩濃度を有する。
【0074】
好ましくは、超濃縮イオン液体系電解質中のナトリウム塩濃度は、電解質中のその飽和限界の80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、または100%である。好ましくは、超濃縮イオン液体系電解質中のナトリウム塩濃度は、40mol%以上、50mol%以上、60mol%以上、70mol%以上、80mol%以上、90mol%以上、または95mol%以上である。いくつかの実施形態では、電解質中のナトリウム塩の濃度は、電解質中のその飽和限界の76%以上、77%以上、78%以上、79%以上、80%以上、81%以上、82%以上、83%以上、84%以上、85%以上、86%以上、87%以上、88%以上、89%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上である。いくつかの実施形態では、電解質中のナトリウムイオンの濃度はその飽和限界にある。
【0075】
電解質中のその飽和限界の75%以上であることに加えて、いくつかの実施形態では、電解質中のナトリウム塩濃度は、40mol%、50mol%、またはそれ以上であり得る。例えば、電解質中のナトリウム塩のモル濃度は、少なくとも40mol%、50mol%、55mol%、60mol%、65mol%、70mol%、80mol%、または90mol%であり得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、セルはハーフセル構成にある。例えば、セルがハーフセル構成にある場合、対電極はナトリウム金属であり、作用電極は負極材料、例えばハードカーボンである。他の実施形態では、セルはフルセル構成にある。例えば、セルはフルセル構成にあってもよく、対電極は、それらの原子構造内でナトリウムイオンを可逆的にインターカレート/脱インターカレートし、可逆的な酸化/還元反応によってナトリウムイオンを吸収/脱離し、またはナトリウムイオンとの合金化/脱合金化反応を促進することができる材料を含むか、またはそれらから構成される。
【0077】
いくつかの実施形態では、対電極は、Na0.45Ni0.22Co0.11Mn0.66O2、Na2/3Fe2/3Mn2/3(O3)、Na2/3Fe2/3Mn1/3O2(P2)、オリビン型NaFePO4、NaxFePO4、ケイ酸塩、一般式Na2M2(XO4)3(M=遷移金属およびX=P、S)のナシコン型相を含むか、またはそれらから構成される。
【0078】
好ましい実施形態では、ステップa)の予め定められた第1の電流密度は、形成のために1/10Cレートを使用して、従来の形成プロセスに対応する10時間の期間でセルの全放電容量を達成する。好ましい実施形態では、ステップb)の予め定められた一定の第2のより高い電流密度は、0.5時間以下の期間でセルの全放電容量を達成する。好ましい実施形態では、ステップb)の予め定められた一定の第2のより高い電流密度は、0.25時間以下の期間でセルの全放電容量を達成する。期間が0.25時間または0.5時間であることが望ましい場合、ステップa)において10時間以下の期間を使用することが最も好ましい。
【0079】
形成された対象セルの公称Cレートは1/2Cまたは1/5Cであることが望ましいが、同じCレートがステップa)の形成された試験セルに適用される限り、任意の特に望ましい適切な公称Cレートを使用することができる。好ましくは、形成された対象セルは、形成された試験セルと性能を比較する目的で、最大100サイクル、好ましくは最大50サイクルの間、より低いCレートにおいてさらに定電流サイクルされ得る。
【0080】
好ましくは、公称Cレートサイクル中(SEI形成が完了した後)、形成された対象セルは、20回目のサイクル以降、より好ましくは10回目のサイクル以降、さらにより好ましくは6回目のサイクル以降(5回の形成サイクルプロセスの場合)、99.2%以上、好ましくは99.3%以上、好ましくは99.4%以上、好ましくは99.5%以上、好ましくは99.6%以上、好ましくは99.7%以上、好ましくは99.8%以上、好ましくは99.9%以上のクーロン効率(CE)を示す。性能は、好ましくは、セルの公称選択Cレートにおいて、10回以上、50回以上、または100回以上のサイクル後に、形成された試験セルと比較される。セルが経年劣化するにつれて不可逆的な容量損失またはフェードが発生し、セルがサイクルされるにつれて1から離れるCEの小さな低下が蓄積し、したがって、サイクルの後半に必然的に生じる容量フェードが、セルが経年劣化するにつれてより急激に初期に発生することを考慮すると、公称Cレートでのサイクルの形成後のCEが高いほど良好であり、ここで、開始CEは100%よりも99%に近い。したがって、早期の公称Cレートサイクル中のCEがより高いことを考慮すると、本発明のセルは、決定された寿命容量損失点の終了に達する前に全体的により長いサイクル寿命(達成可能なサイクル数)を示す。
【0081】
望ましくは、ハードカーボン電極上の実質的に完全で安定したSEI形成に関連する(例えば、記録された対応する充放電サイクルまたは関連する分析における)1つ以上のマーカーは、以下を含む:
(a)放電-充電曲線マーカー/特徴
SEIの発達の進行を示す特徴を用いて以前のサイクルと比較して、記録された電圧-容量サイクルにおける実質的に静的な電解質還元電圧勾配が明らかには観察されないこと、および/または観察されること、
特定の形成サイクルと先行または後続の形成サイクルとの間の差の比較下での記録された充放電サイクルにおける不変の特徴/特徴の安定性が観察されること、
特定の形成サイクルと先行または後続の形成サイクルとの間の差の比較下で、記録された充放電サイクルに「低電圧」特徴(例えば、例示されたハーフセルの初期サイクル後に約1.5V未満)がないこと。低電圧特徴は、電解質の還元/分解および/または電解質添加剤の還元/分解に関連するものとして当業者に公知/決定可能である。そのような特徴は、使用される特定の電解質系に対して実行される別個の電気化学的研究によって、例えば、使用される金属塩のイオン液体(カチオンおよび/またはアニオン)およびアニオンの酸化還元ピーク電圧を特定することができるCV研究などによって、または含まれる任意の添加剤によって決定することができる、
負の活性電極へのナトリウムイオンの挿入に関連する曲線特徴、すなわち、インターカレーション特徴の存在/出現なしにセルのカットオフ放電電位限界に達したことが観察されること、すなわち、例えば、記載されたハーフセルの例では、ナトリウムイオンの挿入は、約0.01Vの平坦なプラトーの存在によって特定される(すなわち、形成サイクル中の曲線に挿入ピークが存在せず、挿入ピークは、形成された改善されたSEIが実質的に完了し、実質的に安定した後のサイクルで見られる)、ならびに
サイクル間の最小または安定した不可逆的容量損失が観察されること、
(b)電気化学インピーダンス分光法(EIS)マーカー/特徴
例えば記録されたナイキストプロット分析を含む電気化学インピーダンス研究における低いおよび/または安定したEISスパンの証拠。例えば、不安定なSEIの場合、EISは、安定性の欠如に起因してインピーダンスの著しい増加および/またはノイズへの減衰を示す。安定したSEIはこの挙動を反映しない、
低インピーダンスSEIの形成の証拠、例えば、EISの大きさおよび負荷時の分極量から生じる、すなわち、同等の条件(電流、温度など)下でのフルセルまたは対称セルの負荷時の相対電位の低下または増加、
形成された試験セルよりもイオン伝導性が高いSEIの証拠。例えば、提供されたハーフセル研究では、10秒~100秒の範囲のオーム値は、SEIおよび電極界面を通るNaイオンの良好な移動を示す。
(c)微分容量分析マーカー/特徴
記録された微分容量曲線(dQ/dV)に電解質の還元/分解および/または電解質添加剤の還元/分解ピークがないこと。例えば、dQ/dVにFSI-アニオン還元ピークが存在しないことは、金属FSI塩を含む超濃縮ILにおける本明細書に記載のハーフセルの例におけるSEI層の完全な形成を意味する、
金属イオン挿入ピークが存在しないことは、金属イオン挿入前に完全な放電が生じることを示す、
高レートセルの完全充電容量に達する前のNa+挿入ピークの代わりに、高レートでのハードカーボン電極の活性部位へのNa+イオンの吸着および/または化学吸着のピークの存在、ならびに
十分なSEI形成後に挿入ピークが見えるようになる、挿入ピークが存在しないこと。
【0082】
脱離ステップと比較したナトリウムイオン吸収ステップの容量の検出可能な差は、任意の特定の分極サイクル中にSEI形成で消費された電荷を示す。形成サイクルが進むにつれて、SEIは、使用されるセルの化学的性質および電解質に応じて、組成、イオン伝導度、厚さ、多孔度、密度などの特性に関して発達する。SEIの発達は、通常、従来の遅い充電/放電レート(1/10C以下、1/20C以下)で実行される数回の形成サイクル(例えば2/3サイクル)で完了すると見なされており、これは、セルの以後の最良の性能に必須であると考えられていたセルの完全な充電および完全な放電を可能にすることを含む。したがって、サイクルが進むにつれて電荷消費が少なくなることは、任意の所与のサイクルのSEI形成の完全性の程度を示す。SEI形成が進行するにつれて、SEIがより完全かつより安定になり、より少ない追加の電解質が消費されるので、1つの形成サイクルから次の形成サイクルに進む電荷損失(不可逆容量損失)が減少する。形成されたSEIが実質的に完全かつ安定である、すなわち、最適なSEI形成が生じたと、この段階で追加の電解質分解がほとんど生じないことを考慮すると、連続する分極サイクルにおける充電ステップと放電ステップとの間で失われる電荷が最小限に抑えられる。したがって、隣接するサイクル間の不可逆容量損失が減少していることおよび/または充電ステップと放電ステップとの間の充電損失が最小であることの観察を使用して、その後に実質的に完全で実質的に安定したSEI形成があるサイクルを特定することもできる。
【0083】
試験フレッシュセルに対して実行される第1の形成サイクルの間、本方法は、単一放電の場合少なくとも10時間、より好ましくは単一放電の場合少なくとも20時間の期間内にセルの全放電容量を達成するのに十分低い電流密度を使用する。これは、試験フレッシュセルの形成が、SEI形成が遅くなるのに十分なほど遅くなり、サイクルが、形成されたSEIが実質的に完全になることを保証するのに十分な時間にわたって自然に進行することを意味する。したがって、試験フレッシュセルの分析は、低速形成ステップのための実質的に完全で実質的に安定したSEI形成に関連する電気化学分析パラメータ/1つ以上のマーカーの存在および/または非存在を特定することができる。
【0084】
「フレッシュセル」は、まだ分極されておらず、したがって初期状態の電極を備える製造されたセルである。本明細書に記載の方法の様々なステップで言及される1つ以上のフレッシュセルへの言及は、フレッシュな無極性セルが使用されることを意味し、そのセルは、実験および製造の制御限界内で同じ種類の化学的性質、活物質の量、電解質の種類などを有する同じバッチのセルからのものである。
【0085】
対象のフレッシュセルに対して実行される1回目の形成サイクルでは、電流密度は、単一放電の場合5時間未満、単一放電の場合2時間未満、好ましくは単一放電の場合1時間以下、より好ましくは単一放電の場合30分以下の期間で、対象セルのセルのカットオフ放電電位限界および結果として生じる放電容量を達成するように、試験セルに使用される電流密度よりも高くなるように選択される。選択された電流密度が高いほど、試験セル上の同じステップのものよりも速い時間でフレッシュな対象セルのカットオフ放電電位限界に達することになる。例えば、使用されるより高い電流密度は、ナトリウムイオンのインターカレーションがハードカーボン電極で生じる前にカットオフ放電電位限界に達する可能性があることを意味する。したがって、対象セルの好ましい電流密度は、低い放電容量でカットオフをもたらすものである。したがって、対象セルは、試験セルと比較して放電容量の減少を示す。
【0086】
別の態様では、本発明は、ハードカーボン負極、好ましくはナトリウムイオン電気化学セル内のハードカーボン負極上に改善されたSEIを10時間以下で形成する形成方法におけるセル内の超濃縮イオン液体電解質の使用に関する。本方法および超濃縮イオン液体電解質の特徴について上述した。好ましくは、使用は、ハードカーボン作用電極を備えるナトリウムイオン電気化学セル、好ましくはハードカーボン作用電極の形成方法において、イオン液体および少なくとも1つのナトリウム塩を含む超濃縮電解質であって、ナトリウムイオン濃度が電解質中のその飽和限界の75%以上である、超濃縮電解質の使用であり、セル形成は50℃において10時間以下で完了する。適切には、使用は、ナトリウムイオンがナトリウムイオンであり、ハードカーボン作用電極がハードカーボンであり、電解質が約50mol%のNaFSI塩を含む[C3mpyr][FSI]ILであるセルを含む。この場合、約は±2%を意味する。
【0087】
定義
「電気化学セル」は、化学ポテンシャルエネルギーを電気エネルギーに変換することができる装置を意味する。
【0088】
「ハーフセル」は、セルがハーフセル構成にあり、それによってセルが研究中の作用電極および対電極を備え、電位によって制御されることを意味する。ハーフセル構成では、負のセル電圧への放電中にのみ電荷を取り出すことができる。ハーフセル構成の場合、本発明のセルは、電解質の電気化学的特性を測定すること、または本発明によるフルセル構成で使用するのに適した正極を特定することを支援することができる診断または試験装置としての使用に適し得る。
【0089】
「フルセル」は、セルが、電池などの、セル電圧によって制御されるフルセル構成にあることを意味する。このような構成では、セルは、対電極としての正極材料、および作用電極としての負極材料をさらに含む。本明細書で使用される場合、「フルセル構成」という表現は、充電後に正極および負極が実質的な電位差(例えば、約1V超)を支持し、正のセル電圧での放電中にそこから電荷を取り出すことができるセル構成を指す。電極対が適切な対の負および正の活物質電極である場合、セルはフルセル構成にある。電極対が負極で高い電流密度を支持し、多数の分極または充電/放電サイクルを維持する場合、この対は、高容量でサイクル安定性の金属イオンベースの充電式電池として機能することができるセルでの使用に適している。
【0090】
「インターカレーション」は、電極の原子構造への輸送金属イオンの可逆的挿入を意味する。
【0091】
「負極」は、放電中に電子がセルから出る電極(放電中はアノード、充電中はカソード)を指す。例えば、本発明に従って使用されるナトリウムイオンイオン液体電解質と電気的に接触しているとき、負極材料は、(i)少なくとも1つの分極サイクルを経た結果としてSEI層の形成を生じさせ、電極での電解質還元がSEOを形成する。負極は、その原子構造内にナトリウムイオンを可逆的にインターカレートすることができ、可逆的な酸化/還元反応を促進することによってナトリウムイオンと相互作用(例えば、吸収/脱着)することができ、またはナトリウムイオンとの合金化/脱合金化反応を促進することができるハードカーボン材料を含む(またはそれから作製される)ことができる。ハードカーボン負極が含み得る(または作製され得る)材料の例には、ハードカーボン、グラファイト、活性化中空カーボン、膨張グラファイト、ハードカーボン複合体、およびそれらのドープ類似体が含まれる。
【0092】
「正極」は、放電中に電子がセルに入る電極(放電中はカソード、充電中はアノード)を指す。例えば、正極は、それらの原子構造内にナトリウムイオンを可逆的にインターカレートすることができ、可逆的な酸化/還元反応によってナトリウムイオンを吸収/脱着することができ、または本明細書に記載のナトリウムとの合金化/脱合金化反応を促進することができる材料を含む(またはそれから作製される)ことができる。
【0093】
「ナトリウムイオンイオン液体電解質」とは、ナトリウム塩を有機塩に溶解させたイオン液体を指す。いくつかの実施形態では、ナトリウム塩は、有機塩のナトリウム塩同等物(すなわち、同じアニオンを共有する)である。
【0094】
「分極サイクル」は、セルを充電および放電させるサイクルを意味する。「形成サイクル」は、作用電極、負極材料または「アノード」上のSEI層の形成を促進する、セルの寿命内の1回目のサイクルまたは最初の数回(最大で最初の5回)の分極サイクルを意味する。「分極サイクル」を経たセルとは、特定の密度の電流が一方向に沿って負極を通って流れるステップと、電流が切り替えられて、逆方向に沿って負極を通って流れるステップとを含む2ステップサイクルをセルが受けたことを意味することが意図されている。いくつかの実施形態では、本発明によるセルは、電流が負極を通って反対方向に沿って周期的に流れるように構成および使用することができる。すなわち、セルは、交互に入れ替わる反対方向に沿って負極を通って電流が流れる複数の分極サイクルを受けることができる。その結果、交互に入れ替わる符号の電位を観測することができる。
【0095】
当業者は、「充電/放電サイクル」という表現の技術的意味、およびそのような手順をどのように実行するかを知っているであろう。例えば、充電/放電サイクルは、組み立て後に再充電可能電池を作動させるために実行される充電/放電であってもよい。当業者には知られているように、これは、制御された電圧、温度、および環境条件下で充電/放電ルーチンによって負極を形成するために採用される手順を指し、これは、負極に固体電解質界面(SEI)層の形成を誘発することを意図して行われる。誤解を避けるために、本発明の文脈において、分極サイクルは1回の充電/放電サイクルと等価であることが理解されよう。
【0096】
「クーロン効率(CE)」は、所与のセットの動作条件に対する放電容量とその先行する充電容量との商として定義される。これは、電気化学エネルギー吸蔵反応がどの程度可逆的であるかの尺度であり、1未満の任意の値は、非生産的な、しばしば不可逆的な反応を示す。1からのCEの減少は、1000回の反応ごとの非生産的反応の数を反映し、サイクルごとに反応物の不可逆的な損失をもたらし、数百サイクルでは大きな結果をもたらす。
【0097】
「不可逆容量」は、所与のセットの動作条件に対して放電容量とその先行する充電容量との間で失われる電荷の量として定義され、分極サイクル中に発生する不可逆プロセスの大きさを反映する。
【0098】
「累積不可逆容量」は、複数の分極サイクルにわたる不可逆容量の累積合計として定義され、セル内の不可逆プロセスの進行を反映する。
【0099】
好ましい実施形態の説明
本発明を、以下の実施例を参照して説明する。実施例は、本明細書に記載の発明を例示するものであり、限定するものではないことを理解されたい。
【0100】
本発明の背後にある適用の一般的な原理は、50mol%のNaFSI塩を含むC3mpyrFSI ILである、1:1のIL:Na塩である超濃縮IL中のナトリウム金属対電極およびハードカーボン作用電極を備える初期状態のセルの高電流密度分極(最大5回の形成サイクル)を含む以下のハーフセル研究によって実証される。形成されたSEIは、本開示に記載の所望の組成的特徴を有する。
【0101】
材料および方法
電解質の調製およびスラリー注型
ハードカーボン(HC)は、クラレ社(Kuranode、SSA=4m2/g)より購入した。Na金属をSigma-Aldrichから購入した。電池グレードのナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(NaFSI、99.7%)およびN-メチル-N-プロピルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド(C3mpyrFSI、99.9%)は、Boron molecularから購入した。ジメチルカーボネート(DMC、99%)は、Sigma-Aldrichから購入し、サイクルした電極を洗浄するために使用した。電解質は、使用前に50℃でシュレンクラインによって真空下で乾燥させた。超濃縮イオン液体は、50mol%NaFSIをC3mpyrFSIに溶解し、グローブボックスに移す前に50℃で24時間撹拌することによって調製した。HCアノードは、ハードカーボン、カルボキシメチルセルロース(CMC、Sigma-Aldrich)およびカーボンブラック(Sigma-Aldrich)を溶媒としての水と8:1:1の比で混合することによって調製した。次いで、スラリーを、ドクターブレードを使用してAl集電体上にコーティングした。HC電極の質量負荷は1mg/cm2である。
【0102】
電気化学測定
0.1ppm未満のO2およびH2Oレベルを有するグローブボックス内でNa/HCセルを調製した。R2032ハーフセルを、作用電極としてHC電極(直径8mm)、ならびに対電極および参照電極としてNa金属(直径10mm)を用いて組み立てた。Solupor(登録商標)ポリエチレン5P09B(直径19mm、厚さ38μm、多孔度86%)をセパレータとして使用した。それぞれ対電極および参照電極として2つの別個のNa金属を用いて、特注の設定で同じ方法で3電極セルを組み立てた。組み立てたセルを試験前に湿潤のために50℃で24時間静置した。Neware電池サイクラーを使用して、0.01~2Vの電圧範囲内の異なるCレート(2C、1C、および1/10C、C=300mAh/g)でNa/HCセルをサイクルした後、長期試験のために同じ電流密度でサイクルした。EIS測定は、1MHz~100mHzの周波数範囲を有するBiologic VMPポテンショスタットを使用して実施した。
【0103】
材料および電極の特性評価
事後の特性評価を、X線光電子分光法(XPS)および固体状態核磁気共鳴分光法(NMR)によって実行した。XPSは、半球型分析装置を備えたThermo Scientific Nexsa分光計で行った。入射放射は、72W(6mAおよび12kV、400×800μmスポット)の単色Al KαX線(1486.6eV)であった。サーベイ(ワイド)および高解像度(ナロー)走査を、それぞれ150および50eVの分析器パスエネルギーで記録した。サーベイ走査は、1.0eVのステップサイズおよび10msの滞留時間で実行した。高解像度走査は、0.1eVのステップサイズおよび50msの滞留時間で得られた。分析チャンバ内のベース圧力は5.0×10-9mbar未満であった。低エネルギーデュアルビーム(イオンおよび電子)フラッドガンを使用して、表面帯電を補償した。全てのデータをCasa XPSを用いて処理し、エネルギー較正は284.8eVにおけるC 1sピークの低結合エネルギー成分を基準とした。エッチング深さは(0.30481nm/sの)Ta2O5に基づいており、全ての深さ分析において近似値として使用されている。固体状態マジック角回転(MAS)NMR実験は、500MHz(11.7T)のBruker Avance III広角分光計で収集した。異なる形成プロトコルの下で形成されたサンプルを、Arグローブボックス内のサイクルカソードから引っ掻いた。IL電解質に24時間浸漬し対照試料も同様の手順で調製した。次いで、サンプルをDMCですすぎ、真空下で乾燥させた後、充填剤材料として窒化ホウ素と混合し、次いで1.3mm MAS NMRロータに入れた。次いで、乾燥空気を使用してそれらを40kHzで回転させた。23Naスペクトルは、単一パルス実験および0.5秒の再循環遅延を使用して、取得した20,000万回の走査によって取得した。19Fスペクトルは、Hahnエコーパルスシーケンスを使用して、50μsのエコー遅延、1sの再循環遅延、および取得した20,000万回の走査によって取得した。両方の核を、固体NaF(23Naについてδ=7.4ppmおよび19Fについて-224.2ppm)を使用して参照した。全てのサンプルをアルゴン環境で充填した。
【0104】
結果および考察
実施例1-定電流充放電SEI形成-容量、サイクル性能およびクーロン効率
セルの定電流充放電(定電流で分極されたセルの電位の測定に基づく)は、SEI形成中に発生する不可逆容量損失を明らかにし、セルサイクルとしての容量保持を考慮することによって、例えば、特定のセルについて公称Cレートが遅い場合のSEI安定性をさらに示す。
【0105】
第1のナトリウム化プロセスの結果としてハードカーボン電極で生じる初期SEI形成(ハーフセル構成の初期セルの第1の形成サイクル中に生じる)は、電解質成分の還元/分解に関連する特徴、例えば、フルセル測定における第1の充電ステップ中の電圧勾配の存在から認識可能であるが、ナトリウム金属対電極を含むハーフセル研究の場合、第1のハードカーボンナトリウム化ステップ/放電プロセスで進行する。電解質反応からの電解質の還元/分解に関連する電圧勾配は、不完全なSEI形成の有用なマーカーである。後続の形成サイクルにおける同様の電解質分解/還元電圧勾配の存在は、特定のサイクルのSEIが完了していないことを示すか、または連続するナトリウム化サイクルにわたって電圧勾配が短くなるにつれてSEIが完了に近づいているという情報を提供することができる。同様に、SEI形成/電解質還元ピークは、サイクリックボルタンメトリー実験で観察することができる。他のマーカーには、著しい変動およびノイズの発生などのサイクル中のEISの変化が含まれ、また、他のマーカーはSEIが完全ではなく安定していない場合にも明らかである。逆に、サイクル中の実質的にノイズのないEISは、安定で完全なSEIの形成を示す。例えば、10以下、好ましくは5以下、最も好ましくは3以下のS/N比は、SEIが安定/完全であることを示す。
【0106】
さらに、連続する充電ステップと放電ステップとの間で失われる不可逆的な電荷が最小限であるという観察を使用して、SEIの実質的に完全で実質的に安定した形成をもたらすサイクルを特定することもできる。
【0107】
概念実証実験では、ハーフセルの化学的性質に関して、ナトリウム化の場合0.01Vカットオフ電圧および脱ナトリウム化プロセスの場合2Vの全電圧窓内で、3つの異なる形成プロトコル(試験セルの場合1/10C、対象セルの場合1Cまたは2C)、ナトリウム金属を対電極として使用するフレッシュなハーフセル構成のハードカーボン作用電極に適用した。ベースライン(1/10C、HCの場合C=300mAh/gに基づく)および代替形成プロトコル(1Cおよび2C)についての様々な電位対時間曲線を
図1aで観察することができる。この研究では、最大5回の形成サイクルを使用して完全で安定したSEIの進行/確立を観察したが、より高い電流密度のプロセスでは、完全なSEI形成が1回目または2回目のサイクルの直後に生じた。従来の遅い1/10C電流密度ステップを用いる従来の形成プロトコルでは、1回の完全な形成サイクルに約20時間(放電ステップに約10時間)がかかり、合計で、1/10C試験セルにおける完全で安定したSEI確立に必要な5回のサイクル(
図1b参照)に約95時間かかる。対照的に、1Cおよび2C形成プロトコルは、充電または放電サイクルあたりそれぞれ約1時間および約0.5時間しかかからず、1Cおよび2Cセルの5回の形成サイクルの場合、5回のサイクルの合計形成時間(1/10Cで完全かつ安定したSEI確立を観察するために必要)をそれぞれ5時間および2.5時間という非常に短い時間に短縮する。1回目または2回目のサイクルの直後に完全なSEI形成が生じる場合、この時間はさらに短くなる。
【0108】
図1cの定電流充電/放電曲線から明らかなように、1回目の形成サイクルでは、ガルバニックハーフセル内のハードカーボンのナトリウム化を含み、従来の遅い1/10C形成試験セルは、カットオフナトリウム化電圧で313mAh/gの全放電容量を示す放電曲線を示し、約0.75Vで開始する減少勾配、続いて約0.01Vでの長い平坦なプラトーが続く。0.85Vと0.97Vとの間のプラトーの減少は、1/10Cにおいて1回目のサイクルで観察することができ(
図1(f)を参照)、これは5回目のサイクルで消失した。約0.75Vの放電電圧低下勾配は、ハードカーボン表面上のSEI形成(すなわち、電解質の分解)に起因し、それにより、約0.01Vから始まる、その後の長い平坦なプラトーはハードカーボングラファイト層内で生じるNa
+挿入に起因し、遅いCレートにおいて達成される高容量に寄与する(
図1(c)および
図1(f)を参照)。1/10Cレートは、分極中に全放電容量を達成することが最適なSEI形成に有益であると予想される従来の遅い形成レートで使用される低い電流密度を反映する。CVサイクル(
図1(g)参照)は、1回目のサイクルの電解質分解に由来する小さな還元ピーク(約0.73V)を示すが、5回目のサイクルには観察されず、SEI形成が1/10C条件下で5回目のサイクルまでに主に完了したことを示している。0.2Vと1Vとの間の広い反応ピークは、炭素欠陥上のNaクラスタの吸着に対応する。
【0109】
しかしながら、興味深いことに、1C対象セルおよび2C対象セルの場合、1回目の形成サイクルのナトリウム化反応は完了しておらず、このことは、開始時の0.5Vおよび0.35Vでそれぞれ生じる短い反応勾配によって示されており、容量の大部分は電解質還元(SEI形成を意味する電圧勾配)および表面へのNa+吸着によって支配され、1/10Cセルで観察された1回目の形成サイクル中のナトリウム挿入/インターカレーションの容量増加はない。したがって、高レートセルで達成される全放電比容量は、313mAh/gの1/10Cセルと比較して、1Cでは121mAh/g、2Cでは97mAh/gと非常に低い。観察された不十分な容量を考慮すると、これらのセルは、これらの形成条件下で有用なSEIを生成すると予想されなかったであろう。
【0110】
2C対象セルの電圧勾配は1Cセルの電圧勾配よりも短く、同じく1/10Cセルの電圧勾配よりも短いので、これは、2CセルのSEI形成において生じる電解質分解が最も少なかったことを示すと同時に、両方の高電流密度の場合において、1/10Cセルの同じ段階と比較して、SEI形成中に生じた電解質分解がより少なかったことを示す。すなわち、SEI形成中に使い果たされる電解質が少なくなる。失われる電解質の量は、連続サイクルの充電と放電との間で失われる不可逆容量に対応する。さらに、5回目のサイクルの曲線は、充放電曲線間の容量損失が非常に少ないことを示しており(
図1(d)参照)、全てのセルにおいて5回目のサイクルが完了するまでに、形成されたSEIがその段階で実質的に完全かつ実質的に安定であったことを示している。
【0111】
1/10Cで形成された試験セル、ならびに1Cおよび2Cで形成された対象セルについての6回目のサイクルの充放電曲線を
図7(a)および
図7(b)に示す(
図7(b)は、
図7(a)の一部の拡大図である)。2Cレートでの6回目の形成サイクルで2C形成された対象セルの曲線は、他のセルの場合よりも2C試料の方がナトリウム化過電位および脱ナトリウム化過電位が低いことを示し、それにより、電位は、以前の(5回目の)形成サイクルと比較して、ならびに1Cおよび1/10C形成セルの6回目のサイクルプロファイルと比較して、より容易なナトリウム化と同等のナトリウム化中はより負ではなく、より容易な脱ナトリウム化中はより正ではない。これは、5回目の形成サイクルまでに生じた完全で安定したSEI形成によるものである。セルがこのサイクル中にはるかに多くの電荷を収容および放出していることを示す、ハードカーボンアノードへのナトリウム挿入/インターカレーションに関連する長い電圧プラトーの存在も興味深い。
【0112】
図1(d)は、考慮される形成プロトコルの完了後に、1/2Cの公称Cレートで形成された3つのセルのその後の充電/放電挙動を明確に示す。予想外にも、2C形成セルは242.5mAh/gの最も高い放電容量を送達し、続いて1/10Cセルでは237.0mAh/g、1Cセルでは216.8mAh/gであった。これは、高いCレートに起因するSEI形成が、形成速度および使用される過酷な高電流密度条件を考慮すると、驚くほど良好な容量貯蔵の点でナトリウム吸蔵に有益であることを明らかにする。
【0113】
実施例2-微分容量分析
デルタdQ/dV分析は、SEIの形成を含むピークデコンボリューション、およびNa
+インターカレーション/デインターカレーションについての包括的な理解を与えることができる。したがって、異なる形成Cレート下でのSEI形成手順を区別することができる。0.96Vおよび0.87Vの2つの還元ピークが1/10Cセルの初期サイクルで見られ(
図2f)、これらは異なる配位環境に起因する電解質中のFSI
-アニオンの電気化学的還元に割り当てられる。1回目のサイクルの還元ピークは、全てのセルについて5回目のサイクル(
図2g~
図2i)で検出されず、その段階までの完全で安定したSEIの確立を示すことに留意されたい。Cレートを1Cおよび2Cに増加させると、1Cセルの場合0.52V、2Cセルの場合0.45Vとなり、1回目の放電過程でピーク位置が低電位側(よりマイナス側)にシフトした。これらの変化は、これらの条件下で生じる界面および質量輸送相互作用に起因するSEI形成機構の違いを示唆している。
【0114】
興味深いことに、電流密度が1/10Cから1Cおよび2Cに増加すると、ピークの大きさは大幅に減少し、ピーク形状は広くなる。これは、低Cレートの下で炭素表面に接近する大量の電荷によって引き起こされる可能性があり、その電荷の大部分は低プラトー領域(0.01~0.1V)に移動し、全容量をもたらす。一方、ピーク強度は、濃度勾配に関連するより高いレートでのNa
+イオン輸送によって制限され、相平衡の緩和時間が短くなり、炭素表面付近に不均一なNa分布が生じる。その結果、ハードカーボン表面にわたる不均一なナトリウム分布は、より高い過電位およびより広い酸化還元ピークをもたらす。一方、SEI層および対応するSEI構成を形成するための電解質分解プロセスも影響を受けるが、これについては以下の部分で説明する。1回目のサイクルの還元ピークは、次のサイクルでは検出されないので(
図2(d)~
図2(i)、
図2(j)~
図2(q))、これは1回目のサイクルで確立されたSEI形成を示す。
図2(g)~
図2(h)の0.6Vの2つの大きなピークは、炭素材料の活性部位へのNa
+イオンの吸着/化学吸着に起因し、これは、容量の大部分が拡散の寄与による
図2(i)の挿入ピークとは異なる。
【0115】
実施例3-クーロン効率
次いで、完全かつ安定したSEI形成(5回のサイクル後)を有する全ての形成されたセルを、5回の形成サイクルの完了後のさらなる評価のために、セルについて同じ選択された公称Cレート(1/2Cおよび1/5C)でサイクルした。
【0116】
このようなサイクルでは、形成されたセルは1/2Cで明確な容量変動を示し(
図3(a)、
図3(c)、
図3(d)および
図3(g)、40回目のサイクルでの比容量は、それぞれ2Cの場合258mAh/g、1Cの場合250mAh/gおよび1/10Cの場合240mAh/gである(
図3(b)参照)。1/2C電流密度において全てのNa/HCセルの容量が増分する傾向は、おそらく超濃縮電解質の高Cレート下でのハードカーボン材料への濡れ性に起因すると考えられ、これは濃度勾配に関連することに留意されたい。
図3の3つのセルの長期充電容量は、2Cセルが最も高い充電容量を有し、1/10Cセルが最も低い値を有する同じ傾向に従う。
図3(b)および
図3(h)の3つのセルについてのクーロン効率(CE)は、サイクルデータと一致しており、1/10Cのセルがサイクル中に平均99.0%の最も低いCEを示すのに対して、1Cおよび2Cのセルはより高く、両方とも99.6%に近い。これはおそらく、より多くの不可逆的な電気化学的副生成物が形成される1/10C形成からのSEI再構築に関連している。1/10CセルのCEが低いと、容量フェージングがある程度速くなり、フルセル性能に悪影響を及ぼす。
【0117】
1Cおよび2Cで形成された対象セルの99.6%の優れたCEは、高Cレート下での5回目の形成サイクルまでの炭素表面上の堅牢で実質的に完全で実質的に安定したSEI層の形成に関連すると考えられ、SEI層は広く均質であり、1/10C試験セルのものよりもイオン伝導性であり、したがってSEIを横切るNa+の拡散を促進する。5回のサイクル後のSEIの安定性は、EIS研究からも観察することができる。
【0118】
図2bは、SEIが最初に形成される1回目のサイクル中に電解質分解が生じている、
図2aの挿入図である。
図2(b)の3つの矢印は、非常に小さく、これらの曲線で見るのが困難な還元プラトーを指し示している。したがって、この特徴は、
図2d~
図2fの挿入図(それぞれ0.45V、0.52V、0.96Vで)からの還元ピークと一致する
図2d~
図2e)の対応するdQ/dV曲線を考慮することによってより明確に証明され得、これは電解質分解ピークを明確に示していた。
【0119】
さらに、
図2cは、1/10C試験セルの場合の約0.01VでのNa
+挿入プラトーを示すが、1Cおよび2C対象セルは同じ挿入プラトーを示さない。これは、使用する高電流がオーミック抵抗に伴う大きな分極をもたらすため、1/10Cセルよりもカットオフ電位に到達するまでの時間が短く、挿入反応が完了しないためである。これは、1Cおよび2Cの対象セルが形成サイクル中に1/10Cセルよりもはるかに低い容量を有する理由である。SEI形成は、SEIが1V~0.5Vの領域を通って形成されるので、1V~0.5Vの領域において示される。特に、
図3aおよび
図3bから分かるように、5回の形成サイクルで観察された容量は、長期的に容量に影響を及ぼさない。代わりに、2Cは、1V~0.5Vの間の領域に形成されたSEIがより完全でよりイオン伝導性であるため、より良好な容量を有し、Na
+反応速度を向上させる。
【0120】
3つのセルの累積不可逆容量を
図3eに要約する。1/10Cセルは、38mAh/gの1Cセルおよび36mAh/gの2Cセルと比較して、初期サイクルで59mAh/gの最も高い不可逆容量を有し、より速いレートのセルの電解質消費量が少ないことを意味する。これは、大量の電解質分解に関連する1/10Cセルの0.75Vでの還元プラトーによって確認される。1/10Cセルの高い累積不可逆容量は、連続形成サイクルで観察され得るが(
図3eの挿入図)、電流密度を1/2Cに変更すると、3つのセルの値は無視できるようになる。
図3(f)は、300サイクルにわたる1/2Cの電流密度下での2C形成セルのサイクル安定性を実証している。セルは、300サイクル後に259mAh/gの高度に可逆的な容量を示し、容量保持率は99.7%である。
図3(i)の50回目のサイクルおよび300回目のサイクルの充電/放電曲線は、2つのサイクル間の無視できる容量差を意味し、安定したサイクル性能とよく一致している。高速形成プロトコルのレート性能試験への影響は、
図8(c)、
図8(d)にも見出すことができ、ここで、2Cセルは、電流密度が2Cから1/10Cに減少したときに260mAh/gのより高い比容量を有する。2C形成セルは、1/5Cおよび1/2Cでそれぞれ8mAh/gおよび6mAh/gの平均容量増加で、低い電流密度で1/10Cセルを超える利点を維持する。しかしながら、1/5Cの電流密度が印加された場合(
図3g)、全てのセルは280±2mAh/gのかなり高い容量を示すが、
図3dの充電容量は、不可逆的なNa
+インターカレーションに起因して275±2mAh/gの比較的低い値を有する。一方、CEは、
図3hで98.5±0.2%の同様の値を示し、セル性能が速い形成Cレートによって低下しないことを示している。2C形成と比較するために、Na/HCセルで3Cおよび10Cのより高いCレートも調べた(
図3(j))。電流密度が1/2Cに変化すると、10Cセルは、容量が6回目のサイクルから50回目のサイクルまで77.8mAh/gから216.7mAh/gに増加しながらゆっくりと回復した。興味深いことに、2Cおよび3Cセルの容量は、20回目のサイクルでそれぞれ260mAh/gおよび250mAh/gに急速に増加した。これは、Na+拡散を促進せず、したがって容量が2C形成セルよりも低い好ましくないSEIが、炭素表面上の10C形成から生成されることによって説明することができる。挿入図は、20~40回目のサイクルの間に3Cセルから2Cセルまで6mAh/gの平均容量増加があることを示す。ここで、本発明者らは、現在の条件下で、2C前処理が、超濃縮イオン液体電解質が使用される場合のHCナトリウムイオンハーフセルにおける最適化された形成プロトコルであると結論付けた。明らかに、本明細書に記載の最適化された形成プロトコルはセル性能を制限せず、代わりに、予想外にも、高速Cレート後のセルは、特定の電流密度下で従来の形成セルよりも良好な性能を示し、超濃縮イオン液体電解質中のNa/HCの形成時間を38分の1に減少させることができる。
【0121】
実施例4-電気化学インピーダンス分光法
形成プロトコルを炭素表面の界面特性と相関させるために、EIS(電気化学インピーダンス分光法)測定を実施した。対電極として1つのNa箔、参照電極として1つのNaロール、および作用電極としてハードカーボンを用いて、3電極構成を設計した。したがって、Na金属は、EIS実験において参照電極および対電極の両方として機能する。3電極EIS測定の目的は、Na対電極からの界面特性への寄与を排除することである。
図4(a)~
図4(c)のナイキストプロットは、1回目のサイクル、2回目のサイクルおよび5回目のサイクルの後の3つの形成セルの様々なEIS抵抗を示し、2Cセルの場合の抵抗が最も低いと同時に、1/10Cセルが最も高い値を有することを明確に示している。曲線を、等価回路を使用して3つの成分にさらにフィッティングし、結果を
図4(d)~
図4(f)、表1、および
図10に示す。好ましいSEI/HC電極は、1回目の形成サイクル、2回目の形成サイクル、3回目の形成サイクル、4回目の形成サイクルまたは5回目の形成サイクル後に、500オーム未満、好ましくは300オーム以下、より好ましくは200オーム以下のR
intを有する。特に好ましいSEI/HC電極は、1回目の形成サイクル、2回目の形成サイクル、3回目の形成サイクル、4回目の形成サイクルまたは5回目の形成サイクル後に100オーム以下、より好ましくは75オーム以下のR
intを有する。場合によっては、例えば2Cでの1回を超える形成サイクルの後、R
intは50オーム未満であり得る。R
intは、上述のようにEISを設定することによって決定することができる。
【0122】
【表1】
オーム抵抗は、電解質および集電体を含む電池全体からのものである。高周波領域の半円は、Na
+がSEI層を横切って拡散する界面抵抗に割り当てられる。中周波半円は、HCバルクへのNa
+拡散に起因する電荷移動抵抗である。
【0123】
2C形成セルは45オームで最も小さい抵抗を示したが、1C形成セルは300オームの抵抗を有し、1/10C形成セルは700オームの最も高い抵抗を示した。2Cセルは、5回の形成サイクル中、界面抵抗と電荷移動抵抗の両方において安定した傾向を示す。2Cセルからの界面抵抗(最適化された形成プロトコル)は、1/10Cセルの界面抵抗よりも著しく小さく、2C条件下での堅牢で高イオン伝導性のSEI形成を示す。これは、1回目のサイクル後の1/10C形成セルの完全な電解質分解およびSEI形成の発生によって説明することができ、それによって厚いSEI層が形成され、観察されたより高い抵抗を説明する長いNa
+拡散経路がもたらされる。対照的に、2C形成セルの場合のSEI形成プロセスは非常に速く、したがって、よりイオン伝導性の高い異なる組成のSEI層が達成される。2CセルのSEIは、電極/電解質界面を横切るNa
+拡散に有益であり、活性化エネルギーを減少させる。対照的に、
図4(f)の1/10Cセルの場合の、5回のサイクル後の界面抵抗の減少は、従来の形成プロセスの下での不完全なSEI形成およびより大きな電解質消費の原因となり、Na
+拡散速度が遅い原因となる。
【0124】
実施例5-XPSおよびエッチング調査
XPS試験を実施して、異なる形成プロトコル下でHCアノード上に形成されたSEI組成を分析した。
図5aおよび
図5dのC1sスペクトルは、3つのHC電極が全て分解されたイオン液体からのC-N(402eV)およびC=O(288.3eV)種によって覆われていることを示し、その一方、1/10Cセルでは、1Cおよび2Cセルと比較して、より少量のC-N種が見出される(
図5(f)~
図5(h))。C-Nピークは2分のエッチング後に消失し、これはSEIのC-N含有種が外層に位置することを示す。興味深いことに、1/10C形成電極ではC-Nピークはほとんど観察されない。
【0125】
図5(b)のN 1sスペクトルはC 1sスペクトルと一致し、Ar
+エッチング後に除去することができるSEIの外層にC3mpyr
+からのN
+(402.8eV)が存在することを説明している(
図6(f)および
図6(g))。C3mpyr
+とは別に、SEI層に見られるNS=O(398eV)およびN=SO(399.8eV)に対応する2つの主なピークがあり、これらはFSI
-分解に由来する。興味深いことに、原子状窒素に起因し、40分のAr
+クラスタエッチングの後でも依然として得られる、396eVの追加のピークが1/10Cセルで観察される。
図6(f)のエッチングプロファイルから検出できるように、原子状窒素はSEI層全体を通して存在する。
図5(c)のS 2p高解像度スペクトルは、3つ全ての系について-SO
2F-(168.6eV)および-SO
x-(166.3eV)の存在を示し、164eV未満(164~160eV)の「小さい」硫黄含有種(
図5(c)の挿入図)は、1/10Cハードカーボンをその1Cおよび2C対応物と区別する。
図5(e)で観察され得るように、3つ全てのセルの別の無機SEI組成はNa
2Oである。これらの無機種は、より低いNa
+の拡散エネルギー障壁を有し、それによってNa移動速度を高めることが報告されているが、1/10C形成セルのSEI中のより還元された硫黄種の存在は、SEI層をより厚くし、それによってNa
+拡散経路を増加させ、それらの対応物と比較して反応速度を低下させた。
【0126】
図6(a)~
図6(d)のエッチング深さプロファイルは、考慮される3つの異なる形成プロトコルに由来するSEI組成物の明確な理解を与える。硫黄(S)、フッ素(F)、酸素(O)および窒素(N)の量は、エッチングの最初の6分間にわたって連続的に増加することを示したが、炭素は、3つ全ての系について有意な減少を示す。これは、SEIの外層には、Na
2O、Na
2SO
x/NaNSO
2F、NaFなどの無機種が存在するためである。特に、2C形成HC電極の場合、40分のエッチング後のCとOの比は1を超え(
図6(a))、これは初期状態の電極(
図6(d))と同じ傾向であり、2Cハードカーボンの表面が40分のエッチング後にバルク表面に近づいていることを示している。対照的に、1/10C電極の場合のC/Oの比は1未満であり、これは、より多くのNa
2O種がSEIの内層に存在し、したがってより厚いSEI層に寄与していることを示す。1Cハードカーボンの場合のC/O比(
図6(b))は、2Cセルと1/10Cセルとの間にあり、SEI厚さが容量およびEIS抵抗に重要な役割を果たす同じ傾向に従う。
図6(e)の概略図は、3つの形成処理からのSEI組成の違いを実証している:薄いSEI層が、2C形成中にハードカーボン表面上に迅速に形成され、より短いNa
+拡散経路およびより高いイオン伝導率を有する。逆に、1/10Cセルはより広範な電解質分解を経験し、SEI組成物の中でより多くの無機種ならびに少量の硫黄および原子状窒素元素が発生したため、SEIは1Cおよび2Cセルよりもはるかに厚く、それによって炭素中間層へのNa+拡散が妨げられ、イオン伝導性が低下した。本発明者らの以前の研究は、SEI形成の影響が、Li電池およびNa電池の両方において、電解質極性、電解質濃度から前処理プロトコルまで変化することを示した。特に、MDシミュレーション結果は、高速前処理下でアノードの内層に構築されたより高い濃度のNa
xFSI
y凝集体が、セルサイクルのための好ましい無機リッチSEIを形成すると結論付けた。低速の対応物では、電極表面はNa
xFSI
y凝集体の濃度が低いが、かなりの数のC3mpyr
+カチオンを有する。C3mpyr
+カチオン分解の関与は、厚い有機支配的なSEI層をもたらす。
【0127】
2Cハードカーボン上のC/Oの比は、初期状態の電極の比と一致しており(
図6d)、2C形成セルのハードカーボン上のエッチングされた表面がバルク表面に近づいていることを示している。しかしながら、1/10C形成セル電極の反対のC/O比(1より大きい)はより厚いSEI層を有し、これが40分のAr
+エッチングがSEIの底部に到達しなかった理由であることが示唆される。
【0128】
1C形成セルハードカーボン(
図6b)のC/O比は2Cと1/10Cセルの間にあり、上記の容量およびEIS抵抗の傾向に従っている。
【0129】
高電流形成処理下で、薄いまたは他の様態でよりイオン伝導性のSEI層が炭素表面上に徐々に形成し、SEIはより短いNa+拡散経路およびよりイオン伝導性の特徴を有すると結論付けることができる。より短いNa+拡散経路は、より薄い、もしくはより多孔質もしくはより低密度のSEI、または全体としてより短いイオン拡散経路をもたらすこれらの要因のうちの1つ以上の組み合わせの結果であり得る。有機電解質からのSEI形成のための従来の考え方が、最適な電池性能を確保するために厚い包括的なSEI層が必要であることを指示しているので、これは驚くべき発見であった。本結果は完全に対照的であり、高電流レートおよび速い形成時間で超濃縮イオン液体電解質を使用して形成すると、SEI形成に使用される電解質を少なくしながら電池性能の改善を促進する、イオン伝導率が改善された/イオン拡散経路が短縮された(より薄い、もしくはより低密度である、もしくはより多孔質である、またはこれらの特性のうち全てなど)より良好なSEIが生成される。
【0130】
XPS研究は、1/10Cセルが完全な電解質分解(1/10CセルにおけるSEI形成についてより多くの不可逆的な容量損失を示すサイクルマーカーと一致する)を経験し、SEI成分の中でより多くの硫黄および原子状窒素元素が発生することを裏付けており、したがって、SEIは、1Cおよび2C形成セルのよりイオン伝導性のSEIのSEIよりもはるかに厚く、多孔性が低く、または高密度であると考えられる。1/10CからのSEIは、イオン伝導性が低いという特徴の結果として、カーボングラファイト層へのNa+拡散を妨げる。さらに、先に述べたように、1/10Cセルの形成中に生じる電解質分解の程度が大きいほど、結果として生じる電解質不足に起因して、長期的により速い容量減衰が最終的にもたらされる。
【0131】
実施例6-累積不可逆容量対サイクル数
図8(a)は、最初の5回の形成サイクルを含む最初の1~10回目の分極サイクルについての1/10C試験セルならびに1Cおよび2C対象セルの場合の、不可逆容量(mAh/g)対サイクル数のプロットである。不可逆容量データは、1Cおよび2C形成セル(1~5回目のサイクル)では不可逆容量損失がはるかに少ないが、その後(6~10回目のサイクル)、必要な実質的に完全で安定したSEIの形成後、さらなる不可逆容量損失は非常に低く、6~10回目のサイクルの各セルで非常に類似していることを示している。このデータは、本発明の形成方法に従って形成されたセルについて、各形成サイクル中にSEI形成に入る電荷が、市販の形成プロトコルで使用される従来の低電流密度と一致する電流密度を使用して形成された試験セルの対応するサイクルよりも少ないことを示している。より少ない電荷がSEI形成に転換されるという事実は、サイクル1~5で対象セルに対して形成されたSEIが試験セルのSEIと比較して異なるおよび/または改善されることを示す。違い/改善は、(ナトリウムイオン輸送に関して)SEIがよりイオン伝導性であること;SEIがより薄く、よりイオン伝導性であり、および/もしくは多孔質であり、および/もしくはより低密度であり、および/もしくはより低いインピーダンスを有し、および/もしくはより高い安定性を有すること;SEIが同様の厚さであり、よりイオン伝導性であり、および/もしくは多孔性であり、および/もしくはより低密度であり、および/もしくはより低いインピーダンスを有し、および/もしくはより高い安定性を有すること、または全体としてより短いイオン拡散経路をもたらすこれらの要因の1つ以上の組み合わせのうちの1つ以上であり得ると考えられる。本発明によって提案された形成プロセスによって形成されるSEIのさらなる重要な特徴は、低インピーダンスを維持する際の(必要な形成サイクルが完了した後の)SEIのその後の安定性、およびセルについて公称Cレートでの後のサイクル中の持続的な電荷移動である。
【0132】
図9は、最初の5回の形成サイクルからの累積不可逆容量を示しており、3つ全てのセルの中で1/10C形成試験セルが最大不可逆容量を有することを示しており、これは厚いまたは高密度のSEI層の形成に関連する電解質分解が大きいことに関連する可能性がある。対照的に、2Cおよび1Cセルは、はるかに少ない累積不可逆容量を実証し、はるかに少ない全体的な電解質分解を示し、形成されたSEIが上記の特性の1つ以上(薄い、密度が低い、多孔質であるなど)を有するより短いNa+拡散経路を有することを示唆している。
【0133】
形成後にセルを同じより低い電流密度でサイクルした場合、2C形成からのセルは、6~10回目のサイクルに最も高い累積不可逆容量を示し、これは進行中のSEI形成に起因する可能性がある。それにもかかわらず、25回のサイクル後、1/10C形成試験セルからの累積不可逆容量は最大70mAh/gの最高値を有し、これは、高電流密度形成で形成されたSEIおよびその性質が低電流密度形成試験セルと比較して長期サイクルに大きな影響を及ぼすことを示し、したがって、形成された対象セルにより良好な容量利用をもたらす。
【0134】
実施例7-NMR研究
異なる形成プロトコル下でのHC電極の界面特性をさらに調べるために、固体状態23Naおよび19F MAS核磁気共鳴(NMR)測定を実施した。全ての電極を、様々なCレート(すなわち、1/10C、1Cおよび2C)下において、超濃縮イオン液体電解質中でサイクルした。電解質に浸漬された対照試料(浸漬されたHCと表記)も含まれる。
図11aのスペクトルは全て、23Naの電解質残渣信号に対して正規化され、また、
図11bのスペクトルは全て、19Fスペクトルの電解質残渣信号(S-F)によって正規化されている。これは、含まれる量が非常に少ないことに起因して、サンプル量を定量的に測定することが困難であり、かつ窒化ホウ素充填剤材料を小さいサンプルロータに添加することが困難であるためである。
図11aでは、-8.9ppmでのIL残渣シグナルが全ての電極について観察され、IL残渣が有機溶媒によって容易に洗い流すことができないことを示している。しかしながら、本発明者らは、3つの形成電極について+9.2ppmに別のピークを観察したが、浸漬されたHCについて信号は見えない。このピークは、文献によって、電解質分解生成物からのNaFに割り当てられる。興味深いことに、本発明者らはスペクトルをIL残渣で正規化したが、2C試料の場合S/N比が非常に低く、1/10Cが最も高い値を有することが分かる。これは、2C電極上のSEI材料の量がより少ないことの証拠となり、EISおよびXPSの結果とよく一致する。SEI組成のさらなる調査のために、19F MASスペクトルも試験した。
図11bには、電解質残渣からのS-F基、MASロータ材料からのC-F基(すなわち、サンプルから生じていないバックグラウンド信号)、および電解質分解からのNaFピークに起因する3つのフッ素ピークがある。NaFピークは、ここでも、HC浸漬電極ではなく、3つの形成電極にのみ現れる。一方、2CセルのS/N比は最も低く、23Naスペクトルと一致する。
【0135】
結論
本発明者らは、超濃縮IL電解質を使用する場合のナトリウムイオン電池用のハードカーボンアノードについての最適化された形成プロトコルを開発した。電流密度を一定の電位範囲内に調整することにより、電気化学的性能を維持しながら、合計形成時間を38分の1に短縮することができる。高Cレート(2C、C=300mAh/g)下の電池は、さらには、長期試験にわたって1/2Cでサイクルした場合、低Cレート形成でそれらの対応物よりも性能が優れている。3電極EIS、XPSおよびNMR技術によるSEI層の包括的な分析は、本発明者らの最適化された形成プロトコルによって、より薄く、よりイオン伝導性のSEI構造が開発されたことを実証している。高レート形成セルのEIS試験からの界面抵抗はまた、高イオン伝導性SEI層形成の結果である、SEI層を横切るNa+拡散速度の促進を確認する。
【0136】
結論として、超濃縮イオン液体電解質中のNIBハードカーボンアノードについて、3つの形成プロトコルを調査した。炭酸塩系溶媒について確立された方法[6,41]とは対照的に、高電流密度2C形成プロトコルは、1Cおよび1/10C形成プロトコルと比較して、1/2C電流密度での後続のサイクル中に、最も低いEIS抵抗と共に最も高い比容量をもたらした。可変サイクル条件(例えば、長期サイクルの場合は1/5C)は、高Cレート処理の影響を受けず、これらの電解質におけるコンディショニングのために高レート形成プロトコルを適用する必要性を実証した。XPSおよびNMR分析により、高Cレート形成後により薄いSEI層が形成され、電解質/電極境界を横切るNa+電荷移動および拡散を促進することができることが明らかになった。SEI組成のわずかではあるが有意な差(高レート形成後の還元されたS種およびN種の非存在)もまた、2C試料の性能向上に寄与している可能性がある。最適化された形成プロトコルは、ナトリウムイオン電池における従来の低レート形成よりも性能が優れている。そのような新しい形成プロトコルは、工業用途に大きな影響を与える可能性があり、形成時間および製造コストを低減することによって、ILなどの代替の安全な電解質材料の使用を可能にする。
【国際調査報告】