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特表2025-535118AAVカプシドの精製のためのクロマトグラフィー方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2025-10-22
(54)【発明の名称】AAVカプシドの精製のためのクロマトグラフィー方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/02 20060101AFI20251015BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20251015BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20251015BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20251015BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20251015BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20251015BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20251015BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20251015BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20251015BHJP
【FI】
C12N7/02
C12N7/01
A61K35/76
A61P43/00 105
A61K48/00
G01N30/00 B
G01N30/26 A
G01N30/88 E
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2025521129
(86)(22)【出願日】2023-10-11
(85)【翻訳文提出日】2025-06-10
(86)【国際出願番号】 IB2023060237
(87)【国際公開番号】W WO2024079655
(87)【国際公開日】2024-04-18
(31)【優先権主張番号】63/379,115
(32)【優先日】2022-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/489,684
(32)【優先日】2023-03-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】517271175
【氏名又は名称】メイラグティーエックス ユーケー アイアイ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(74)【代理人】
【識別番号】100231902
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 李花
(72)【発明者】
【氏名】ジャヤン セナラトネ
(72)【発明者】
【氏名】シアン デイビス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA44
4B065CA46
4C084AA13
4C084NA13
4C084ZB21
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087ZB21
(57)【要約】
本開示は、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを生成及び精製するための方法であって、弱分配モードで陰イオン交換クロマトグラフィーを使用して完全カプシドを空カプシドから分離することを含む、方法を提供する。本開示はまた、本方法によって濃縮されたrAAV完全カプシドの集団、本方法によって単離及び濃縮されたrAAV完全カプシドの集団、ならびに濃縮された完全カプシドの集団を含む医薬組成物も提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
完全カプシドと空カプシドとの混合物中の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)の完全カプシドを濃縮する方法であって、前記方法が:
(i)rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液を提供するステップと;
(ii)陰イオン交換(AEX)カラムまたは膜を平衡化するステップと;
(iii)前記rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液を、弱分配モードAEXクロマトグラフィーに供して、前記空カプシドを前記完全カプシドから分離して、完全カプシドが濃縮されたAEX溶離液を得るステップと、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記溶液はアフィニティークロマトグラフィー溶離液であり、ステップ(iii)が、前記アフィニティークロマトグラフィー溶離液を前記平衡化したAEXカラムまたは膜に適用することと、前記AEXカラムまたは膜を少なくとも1回洗浄することと、rAAV完全カプシドを前記AEXカラムまたは膜から溶離することとを含み、前記弱分配モードは、完全カプシドが結合した空カプシドを前記AEXカラムまたは膜から置き換え、前記空カプシドが前記AEXカラムまたは膜を通って流れることで、AEXフロースルーを生成し、前記完全カプシドが溶離まで前記AEXカラムまたは膜に結合したままでいることをもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アフィニティークロマトグラフィー溶離液が、前記平衡化されたAEXカラムまたは膜に供される前に、目標塩濃度に希釈される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記目標塩濃度が、約85mM~約95mMの範囲内である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記目標塩濃度が約90mMであり、前記塩がNaClである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記AEXカラムまたは膜が、前記rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液でロードする前に、約50mMのTris、約85mM~約95mMのNaCl、及び約0.5%超(w/v)のポリソルベート80を含む平衡化緩衝液で平衡化されており、ここで、前記平衡化緩衝液が、約9.0のpHである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記平衡化緩衝液が、約50mMのTris、約90mMのNaCl、及び約0.75%のポリソルベート80を含み、前記平衡化緩衝液が、約9.0のpHである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記AEXカラムまたは膜を少なくとも1回洗浄することが、(i)約50mMのtris;(ii)約85mM~約95mMのNaCl、及び(iii)約0.5%超(w/v)のポリソルベート80を含む第1の洗浄緩衝液を含み、前記第1の洗浄緩衝液が約pH9.0である、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の洗浄緩衝液が、(i)約50mMのtris;(ii)約90mMのNaCl、及び(iii)約0.75%のポリソルベート80を含み、前記第1の洗浄緩衝液が約pH9.0である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記AEXカラムまたは膜を少なくとも1回洗浄することが、(i)約50mMのtris;(ii)約100mM~約125mMのNaCl、及び(iii)約0.5%超(w/v)のポリソルベート80を含む第2の洗浄緩衝液による第2の洗浄をさらに含み、前記第2の洗浄緩衝液が約pH9.0である、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の洗浄緩衝液が、(i)約50mMのtris;(ii)約125mMのNaCl、及び(iii)約0.75%のポリソルベート80を含み、前記第2の洗浄緩衝液が約pH9.0である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記完全カプシドが、(i)約50mMのtris;(ii)約125mM~250mMのNaCl、及び(iii)約0.5%超(w/v)のポリソルベート80を含む溶離緩衝液によって前記AEXカラムまたは膜から溶離され、前記溶離緩衝液が約pH9.0である、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記溶離緩衝液が、(i)約50mMのtris;(ii)約250mMのNaCl、及び(iii)約0.75%のポリソルベート80を含み、前記溶離緩衝液が約pH9.0である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記AEXクロマトグラフィーカラムまたは膜が、高流量吸着膜を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記高流量吸着膜が、Sartobind(登録商標)Qクロマトグラフィー膜を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
完全カプシド濃縮を定量化するために、前記AEX溶離液またはその試料を分析超遠心分離に供するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記濃縮された完全カプシドが、AAV血清型2カプシドタンパク質及び導入遺伝子を含むポリヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記導入遺伝子が、アクアポリン1(AQP1)である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記濃縮された完全カプシドが、80%を超える完全カプシドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記濃縮された完全カプシドが、約81.5%の完全カプシドを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記濃縮された完全カプシドが、90%を超える完全カプシドを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記濃縮された完全カプシドが、95%を超える完全カプシドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
濃縮された完全カプシドを含む前記AEX溶離液をタンジェント流濾過に供し、完全カプシドの精製された調製物を得るステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
完全カプシド及び空カプシドの混合物中のrAAV完全カプシドを単離及び濃縮するための方法であって、前記方法が:
(i)ウイルス産生細胞から、rAAVの完全カプシドと空カプシドとの混合物を、細胞を溶解し、得られた溶解物を清澄化することにより単離するステップと;
(ii)前記清澄化された溶解物をアフィニティークロマトグラフィーに供し、アフィニティークロマトグラフィー溶離液を得るステップと;
(iii)前記アフィニティークロマトグラフィー溶離液を弱分配モードAEXクロマトグラフィーに供して、空カプシドを完全カプシドから分離して、濃縮された完全カプシドを含むAEX溶離液を得るステップと、を含む、前記方法。
【請求項25】
前記細胞が、哺乳動物細胞である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記細胞が懸濁液中で培養されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記細胞が、シェーカーフラスコ、スピナーフラスコ、細胞バッグ、またはバイオリアクタ中で培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1~27のいずれか一項に記載の方法によって濃縮された完全カプシドの集団。
【請求項29】
請求項28に記載の完全カプシドの集団を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2022年10月11日に出願された米国仮出願連続番号第63/379,115号、及び2023年3月10日に出願された米国仮出願連続番号第63/489,684号に対する優先権の権益を主張するものであり、これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを生成及び精製するための方法であって、弱分配モードで陰イオン交換クロマトグラフィーを使用して完全カプシドを空カプシドから分離することを含む、方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、複製欠損型パルボウイルスである。AAV粒子は、3つのカプシドタンパク質-VP1、VP2、及びVP3-を有するカプシドを含み、カプシドは、約4.8kbの長さの一本鎖DNAゲノムを封入し、一本鎖DNAゲノムは、プラス鎖であってもマイナス鎖であってもよい。いずれかの鎖を含む粒子は感染性であり、親の感染する一本鎖を二本鎖形態に変換し、その後に増幅することによって複製が行われ、そこから、子の一本鎖が置き換えられてカプシドにパッケージングされる。
【0004】
AAVは、複製を行うためには、他のウイルス、主にアデノウイルスとの、共感染に依存する。その一本鎖ゲノムは、3つの遺伝子、rep(複製)、cap(カプシド)、及びaap(アセンブリ)を含み、3つのプロモーター、代替翻訳開始部位、及び異なるスプライシングの使用を通して、少なくとも9つの遺伝子産物を生じる。これらのコード配列は、ゲノムの複製及びパッケージングに必要な、末端逆位反復配列(ITR)と隣接している。rep遺伝子は、ウイルスゲノムの複製及びパッケージングに関与する、4つのタンパク質(Rep78、Rep68、Rep52、及びRep40)をコードするのに対して、cap発現は、ウイルスゲノムを保護する外側カプシドシェルを形成し、かつ細胞の結合と内在化に積極的に関与する、ウイルスカプシドタンパク質(VP1、VP2、及びVP3)を生じる。aap遺伝子は、cap遺伝子と重なる代替リーディングフレームで、アセンブリ-活性化タンパク質(AAP)をコードする。このAAPタンパク質は、カプシドアセンブリに対する足場の機能を提供すると考えられる。
【0005】
AAV粒子は、遺伝子治療及び遺伝子ワクチンを含む、治療用途のベクターとして、魅力的となる特徴を有する。AAVは、多くの哺乳動物細胞を含む広範囲の細胞型に感染し、インビボで、多くの異なる組織を標的にする可能性をもたらす。AAVは、緩慢に分裂する細胞と、分裂しない細胞に感染する。治療用途では、組み換えAAV(rAAV)が使用され、そこでは、ゲノムが異種導入遺伝子を含み、典型的には、ITRを保持しているが、ウイルスのrep、cap、及びaap遺伝子を欠いている。Repタンパク質が存在しない場合、ITRに隣接した導入遺伝子は、転写活性のある核外染色体要素またはエピソームを形成することができ、この核外染色体要素またはエピソームは、本質的に、形質導入された細胞の寿命にわたり持続することができる。
【0006】
rAAVベクター産生方法の重要な目標は、AAVカプシド化された残留DNA不純物や空カプシドを含む、産生物関連不純物の生成を最小限に抑えながら、安定した、高いベクター生産性を達成することである。細胞1つ当たり生成されるベクターゲノム(VG)として測定すると、rAAVベクターの生産性は、細胞1つ当たり10未満~2×10VGの範囲で、非常に可変であり得る。高い費用対効果に加えて、高い生産性の重要な利点は、出発原料が全採取バイオマスに対するrAAVベクター生成物の比率がより高い場合に、精製がより効率的となり得ることにある。
【0007】
rAAVベクターの産生中、産物関連の不純物の除去はrAAV精製の重要な部分である。超遠心分離を使用した場合、完全カプシドから空カプシドを分離することは可能であるが、拡大可能であるクロマトグラフィー法はより困難であることが証明されている。代替として、結合及び溶離モードでの陰イオン交換クロマトグラフィーは、超遠心分離によって達成される高い完全カプシド比を再現する試みで一般に調査されている。しかしながら、完全カプシドと空カプシドの特性が類似しているため、生成物の収率と完全カプシド比との間に急激なトレードオフがもたらされ、最適な条件を選択することが困難になる。これはまた、AAVカプシドとクロマトグラフィーマトリックスとの間の複雑な相互作用によって妨げられ、これは、さらなる産物の損失をもたらすことが多い。したがって、空カプシドなどの産生物関連不純物を低減するrAAV精製方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、弱分配モードで陰イオン交換クロマトグラフィーを使用する、完全カプシドを空カプシドから分離する(完全カプシドの濃縮)ことを含む、rAAV粒子を生成及び精製するための方法を提供する。本明細書には、完全カプシドと空カプシドとの混合物中のrAAV完全カプシドを濃縮する方法が記載され、この方法は、
(i)rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液を提供することと;
(ii)陰イオン交換(AEX)カラムまたは膜を平衡化することと;
(iii)rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液を、弱分配モードAEXクロマトグラフィーに供して、空カプシドを完全カプシドから分離して、完全カプシドが濃縮されたAEX溶離液を得ることと、を含む。
【0009】
本方法の実施形態では、溶液はアフィニティークロマトグラフィー溶離液であり、ステップ(iii)は、アフィニティークロマトグラフィー溶離液を平衡化したAEXカラムまたは膜に適用することと、AEXカラムまたは膜を少なくとも1回洗浄することと、AEXカラムまたは膜からrAAV完全カプシドを溶離することと、を含む。これらの方法では、弱分配モードにより、結合した空カプシドがAEXカラムまたは膜から完全カプシドに置き換えられ、空カプシドがAEXカラムまたは膜を通って流れることで、AEXフロースルーが生じ、完全カプシドが溶離までAEXまたは膜カラムに結合されたままになる。
【0010】
いくつかの実施形態では、アフィニティークロマトグラフィー溶離液は、平衡化されたAEXカラムまたは膜に供される前に、目標塩濃度に希釈される。目標塩濃度は、典型的には、約85mM~約95mMの範囲内である。目標塩濃度は、例えば、約90mMであり得、塩は、例えば、NaClであり得る。
【0011】
本方法の実施形態では、AEXカラムまたは膜は、rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液でロードする前に、約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、約85mM~約95mMのNaCl(例えば、約84、84.9、85、86、87、88、89、89.5、90、90.5、91、92、93、94、95、95.5)、及び約0.5%超(例えば、0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80を含む平衡化緩衝液で平衡化されており、ここで、平衡化緩衝液は、約9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)のpHである。平衡化緩衝液は、約50mMのTris、約90mMのNaCl、及び約0.75%のポリソルベート80を含み得、約9.0のpHを有し得る。
【0012】
本方法の実施形態では、AEXカラムまたは膜を少なくとも1回洗浄することは、(i)約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、(ii)約85mM~約95mM(例えば、約84、84.9、85、86、87、88、89、89.5、90、90.5、91、92、93、94、95、95.5)のNaCl、及び(iii)約0.5%超(例えば、0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80、を含む第1の洗浄緩衝液を含み、ここで、第1の洗浄緩衝液は約pH9.0である(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)。第1の洗浄緩衝液は、例えば、(i)約50mMのTris、(ii)約90mMのNaCl、及び(iii)約0.75%のポリソルベート80を含み得、約pH9.0であり得る。
【0013】
実施形態では、AEXカラムまたは膜を少なくとも1回洗浄することは、(i)約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、(ii)約100mM~約125mM(例えば、約99、100、101、105、110、120、124、125、126mM)のNaCl、及び(iii)約0.5%超(例えば、0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80を含む第2の洗浄緩衝液による第2の洗浄を含み、ここで、第2の洗浄緩衝液は、約pH9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)である。第2の洗浄緩衝液は、例えば、(i)約50mMのTris、(ii)約125mMのNaCl、及び(iii)約0.75%のポリソルベート80を含み得、約pH9.0であり得る。
【0014】
実施形態では、完全カプシドは、AEXカラムまたは膜から、(i)約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、(ii)約125mM~約250mM(例えば、約124、125、126、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、251mM)のNaCl、及び(iii)約0.5%超(例えば、0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80を含む溶離緩衝液により溶離され、ここで、溶離緩衝液は、約pH9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)である。溶離緩衝液は、例えば、(i)約50mMのTris、(ii)約250mMのNaCl、及び(iii)約0.75%のポリソルベート80を含み得、溶離緩衝液は約9.0のpHである。
【0015】
本方法の実施形態では、AEXクロマトグラフィーカラムまたは膜は、高流量吸着膜、例えば、Sartobind(登録商標)Qクロマトグラフィー膜を含む。実施形態では、本方法は、濃縮された完全カプシドを含むAEX溶離液をタンジェント流濾過(TFF)に供し、完全カプシド(例えば原薬)の精製調製物を得るステップをさらに含むことができる。
【0016】
実施形態では、ポリソルベート20及びポロキサマー188は、本明細書に記載の緩衝液のうちの1つ以上において使用され得る。
【0017】
本方法の実施形態では、本方法は、完全カプシド濃縮を定量化するために、AEX溶離液を分析超遠心分離に供するステップをさらに含む。
【0018】
本方法の実施形態では、濃縮された完全カプシドは、AAV血清型2カプシドタンパク質と、導入遺伝子、例えば、アクアポリン1(AQP1)などの導入遺伝子を含むポリヌクレオチド配列とを含み得る。
【0019】
実施形態では、濃縮された完全カプシドは、80%超の完全カプシド(例えば、約80.5、81.5、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96%の完全カプシド)、90%超の完全カプシド、及び95%超の完全カプシドを含む。
【0020】
また、本明細書には、完全カプシドと空カプシドとの混合物中のrAAV完全カプシドを単離及び濃縮する方法も記載される。この方法は:ウイルス産生細胞からrAAVの完全カプシドと空カプシドとの混合物を、細胞を溶解し、得られた溶解物を清澄化することにより単離することと;清澄化した溶解物をアフィニティークロマトグラフィーに供し、アフィニティークロマトグラフィー溶離液を得ることと、空カプシドを完全カプシドから分離するために、アフィニティークロマトグラフィー溶離液を弱分配モードAEXクロマトグラフィーに供し、濃縮された完全カプシドを含むAEX溶離液を得ることと、を含む。実施形態では、細胞は哺乳動物細胞である。細胞は典型的には、懸濁液中、例えば、シェーカーフラスコ、スピナーフラスコ、セルバッグ、またはバイオリアクタ内で培養される。
【0021】
本発明はまた、本方法によって濃縮されたrAAV完全カプシドの集団、本方法によって単離及び濃縮されたrAAV完全カプシドの集団、ならびに濃縮された完全カプシドの集団を含む医薬組成物も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】pI(1)の上下の空AAVカプシド及び完全AAVカプシドの電荷を示す図である。
図2】形成された環境により、空カプシドが完全カプシドに置き換えられる、弱分配プロセスを示す図である。
図3】洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)と、空カプシドの除去(VP/mL)との関係を示すグラフである。
図4】洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)と、溶離液中の完全カプシド比(%)との間の関係を示すグラフである。
図5】洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)と、溶離液中のVG回収率(%)との間の関係を示すグラフである。
図6】洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)に基づく最適領域を示すプロットである。
図7】ロード比と、完全カプシド(VG)及び空カプシド(VP)のブレークスルー(%)との関係を示すグラフである。
図8】2リットル(L)スケールでの最適化されたAAV-AQP1 AEXステップのクロマトグラムである。
図9】AEXプロセスのスケーラビリティを示す結果の要約を示すグラフである。2Lスケールは、10mLのSartobind(登録商標)Qを使用して操作されたプロセスを指し、80は、75mLのSartobind(登録商標)Qを使用して操作されたプロセスを指す。
図10】ベクターゲノム及びベクター粒子のフロースルー中のブレークスルーの程度を示すブレークスルー実験の結果を示すグラフである。
図11】10mLのSartobind(登録商標)Qを使用するプロセスを確認するために行った実験(実施例2に記載)からのクロマトグラムの抜粋である。この抜粋は、カラム洗浄2及び溶離段階に焦点を当てている。
図12】10mLのSartobind(登録商標)Qで行った確認実行によって生成された溶離液で行った分析的超遠心分離の結果を示す。
図13】初期の陰イオン交換クロマトグラフィーランスルーのクロマトグラムである。
図14】90mMのNaClフィード及び平衡伝導度での4E14VG/mLのロード負荷までのVGブレークスルーと空カプシドブレークスルーの両方を示すブレークスルー曲線を示す。
図15】VGロード負荷が4E14vg/mlに増加したときのカラムのVG濃度(上のグラフ)と、VGロード負荷が4E14VG/mLに増加したときのカラムの空カプシド比(下のグラフ)とを示す対のグラフである。
図16】VGロード負荷が4E14VG/mLに増加するにつれての、カラム上の完全カプシド比の増加を示すグラフである。
図17】達成可能な濃縮のレベルを強調するために、9mS/cmと8mS/cmの両方で4E14VG/mLまでロードした場合のカラム上の完全カプシドの濃度を示すグラフである。
図18】20Lスケール確認実行での最適化AAV-AQP1 AEXステップのクロマトグラムである。
図19】「初期プロセス」及び「最終プロセス」における、USP、捕捉クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、及びタンジェント流濾過(TFF)のそれぞれの後のVG回収率及び完全カプシド%値を示す。
図20】完全カプシド比及びVG回収率の20Lと80Lのバッチの間での比較を示すグラフ、ならびに図8の溶離ピークが82%の完全カプシドを含むことを確認する分析超遠心分離(AUC)の結果を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示は、弱分配モードで陰イオン交換クロマトグラフィーを使用する、完全カプシドを空カプシドから分離する(完全カプシドの濃縮)ことを含む、rAAVを生成及び精製するための方法を提供する。完全カプシドと空カプシドとの混合物中でrAAV完全カプシドを濃縮する方法は、以下のステップ:
(i)rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液を提供することと;
(ii)陰イオン交換(AEX)カラムまたは膜を平衡化することと;
(iii)rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液を、弱分配モードAEXクロマトグラフィーに供して、空カプシドを完全カプシドから分離して、完全カプシドが濃縮されたAEX溶離液を得ることと、を含む。
【0024】
完全カプシドと空カプシドとの混合物中でrAAV完全カプシドを単離及び濃縮する方法は、以下のステップ:
(i)ウイルス産生細胞から、rAAVの完全カプシドと空カプシドとの混合物を、細胞を溶解し、得られた溶解物を清澄化することにより単離することと;
(ii)清澄化された溶解物をアフィニティークロマトグラフィーに供し、アフィニティークロマトグラフィー溶離液を得ることと;
(iii)アフィニティークロマトグラフィー溶離液を弱分配モードAEXクロマトグラフィーに供して、空カプシドを完全カプシドから分離して、濃縮された完全カプシドを含むAEX溶離液を得ることと、を含む。
【0025】
本発明はまた、本方法によって濃縮されたrAAV完全カプシドの集団、本方法によって単離及び濃縮されたrAAV完全カプシドの集団、ならびに濃縮された完全カプシドの集団を含む医薬組成物(例えば、薬物、原薬)も提供する。実施形態では、本方法は、産生力価の増加、及び完全カプシド対空カプシドのより高い比(F:E)をもたらす。より具体的には、本開示は、例えば、完全カプシドと空カプシドとの混合物においてrAAVの完全カプシドを濃縮する方法を提供する。実施形態では、生成収率は50%超であり、空カプシドの50%超が除去され、80%超のF:E比が達成される。
【0026】
rAAVを精製するための弱分配モードでのAEX
本明細書に記載の精製方法及び濃縮方法は、rAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液から、rAAVの完全カプシド(すなわち、組み換えゲノムを含むrAAV粒子)を精製することを含む。溶液は、任意のrAAV産生/精製方法の結果であってよい。典型的には、溶液は、AEXクロマトグラフィーに供される前に、目標塩(例えば、NaCl)濃度に希釈することによってコンディショニングされる。例えば、溶液は、約90mM(例えば、約89、90、91mM)のNaCl濃度まで、約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、約0.75%(w/v)のポリソルベート80、及び約9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)により希釈される。実施形態では、溶液はアフィニティークロマトグラフィー溶離液である。アフィニティークロマトグラフィーは、rAAV粒子(例えば、rAAV完全カプシド)を産生及び精製する典型的な方法におけるいくつかの精製ステップのうちの1つである。rAAVの産生/精製の方法は当該技術分野で周知であり、このような方法の例を以下に記載する。
【0027】
本明細書に記載の方法において、弱分配モードAEXクロマトグラフィーは、完全カプシドを空カプシドから分離するために使用される精製技術である(図1及び2)。この形式のクロマトグラフィーは、ウイルスゲノムを含むカプシドと空カプシドとの間の電荷差を利用する。カプシドpIを上回るpH値の標的化は、VG含有完全カプシドが、空カプシドよりも大きな負電荷を保有することを意味する。本明細書に記載される精製方法及び濃縮方法では、弱分配は、完全カプシドの結合がより好ましい環境を作り出すことによって、完全カプシドを空カプシドから分離するプロセスを記載するものである。
【0028】
弱分配モードでの陰イオン交換クロマトグラフィーは、歴史的に使用されてきたフロースルーモードAEX方法及び結合-溶離モードAEX方法とは異なる(Liu et al.,MAbs.2010;2(5):480-499、Kelley et al., Biotechnology and Bioengineering vol.101:553-566、2008)。結合及び溶離モードAEXでは、最初に(目的の)生成物プールを陰イオン交換カラムにロードし、次いで目的の生成物をより高い塩濃度でステップまたは直線勾配で溶離し、不純物の大部分をカラムに結合させたままにする。不純物は、洗浄または再生ステップ中にカラムから溶離される。フロースルーモードAEXでは、操作pHは通常8~8.2であり、生成品ロードならびに平衡化緩衝液及び洗浄緩衝液中の伝導度は最大10mS/cmである。条件は、生成物がカラムに結合しない一方で、核酸及び宿主細胞タンパク質などの酸性不純物がカラムに結合するように選択される。弱分配モードでの陰イオン交換クロマトグラフィーの使用は、目的の生成物について、アフィニティークロマトグラフィー及び陰イオン交換を含む2つのクロマトグラフィー回収プロセスを可能にし得る。フロースルークロマトグラフィーと同様に、プロセスは均一濃度で実行されるが、フロースルーモードとは対照的に、生成物と不純物の両方の結合が増強され、0.1~20、好ましくは1~3の生成物分配係数(Kp)を達成するように、伝導度及びpHが選択される。これは、除去すべき不純物が生成物よりも酸性度が高いという事実の利点を利用する。生成物と不純物の両方が陰イオン交換樹脂に結合するが、不純物の結合がフロースルーモードよりもはるかに密接に結合され、これが不純物の除去の増加をもたらし得る。したがって、フロースルーモードでは効率的に除去されない弱い結合の不純物は、その分配係数(Kp)が増加した条件下でより高い程度で除去され得る。フロースルーモードでの陰イオン交換クロマトグラフィーと比較して、ウイルス、宿主細胞タンパク質、及び生成物関連種のクリアランスが増加するため、弱分配クロマトグラフィーは、2カラムでの回収プロセスを可能にし得る。弱分配クロマトグラフィーの一態様は、pH及び対イオンの条件を生成物ごとに最適化する必要があることである。これは、ほとんどの生成物の陰イオン交換マトリックス(樹脂または膜)で標準化された条件を使用できるいくつかのプラットフォームクロマトグラフィープロセスとは対照的である。
【0029】
完全カプシドと空カプシドの混合物中でrAAV完全カプシドを濃縮する方法では、rAAV完全カプシド及び空カプシドを含む溶液が提供される。上述のように、溶液は、任意のrAAV産生/精製方法の結果であり得、実施形態では、溶液は、アフィニティークロマトグラフィー溶離液である。溶液を受容するAEXカラムまたは膜は、典型的には、適切な事前平衡化緩衝液で事前に平衡化される。例えば、好適な事前平衡化緩衝液は、約50mMのTris、約1MのNaCl、及び約0.75%ポリソルベート80を含み、約9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)のpHを有する。事前平衡化ステップの後、AEXカラムまたは膜は平衡化緩衝液で平衡化される。典型的には、平衡化緩衝液は、約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、約85mM~約95mM(例えば、約84、84.9、85、86、87、88、89、89.5、90、90.5、91、92、93、94、95、95.5)の塩(例えば、NaCl)、及び約0.5%超(例えば、0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80を含む。いくつかの実施形態では、平衡化緩衝液は、約50mMのTris、約90mMのNaCl、ならびに0.5%(w/v)超のポリソルベート80、及び約0.75%超のポリソルベート80を含み、約9.0のpHを有する。この方法では、任意の適切なAEXカラム(複数可)または膜(複数可)が使用され得る。実施形態では、高流量吸着膜が使用される。そのような膜の例は、Sartobind(登録商標)Qクロマトグラフィー膜である。そのような膜の別の例は、Pall Corporation’s Mustang(登録商標)Q膜である。
【0030】
AEXカラムまたは膜の平衡化後、溶液(実施例1及び2では「フィード」、「供給材料」、及び「調整済みフィード」と呼ばれる)が、平衡化したAEXカラムまたは膜に加えられる。溶液は、任意の適切なロード比で適用され得る。実施例1及び2に記載の実験では、5×1013~1×1015VG/mLのロード比を使用し、81.5%の完全カプシド比溶離%を得た。ロード溶液のフロースルーは、典型的には、空カプシドからなる(完全カプシドは、カラムまたは膜とのより強い相互作用を有し、空カプシドを置換する)。実施形態では、フロースルーまたはその試料を分析して、そのウイルスゲノム及びウイルス粒子濃度を、任意の適切な方法によって決定することができる。
【0031】
溶液の適用に続いて、AEXカラムまたは膜は、少なくとも1回(例えば、1回、2回、3回)洗浄される。少なくとも第1の洗浄では、AEXカラムまたは膜は、約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、約85mM~約95mM(例えば、約84.5、84.9、85、85.5、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、95.5、96mM)のNaCl、及び約0.5%超(例えば、約0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80を含む第1の洗浄緩衝液により洗浄される。第1の洗浄緩衝液は、典型的には、約pH9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)である。例えば、第1の洗浄緩衝液は、約50mMのTris、約90mMのNaCl、及び約0.75%のポリソルベート80を含み得、約9.0のpHを有し得る。実施形態では、約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、約100mM~約125mMのNaCl(例えば、約99、100、101、105、110、120、124、125、126mM)のNaCl、及び約0.5%超(例えば、0.5%、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80を含む第2の洗浄緩衝液による2回の洗浄がある。第2の洗浄緩衝液は、典型的には、約9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)のpHである。例えば、第2の洗浄緩衝液は、約50mMのTris、約125mMのNaCl、及び約0.75%のポリソルベート80を含み得、第2の洗浄緩衝液は、約9.0のpHを有する。カラムまたは膜の洗浄液は、典型的には、ほとんどが空カプシドからなるが、完全カプシドを含み得る。洗浄液、または洗浄液の画分(試料)を、任意の適切な方法によって、それらのウイルスゲノム及びウイルス粒子濃度について分析することができる。
【0032】
少なくとも1回の洗浄(例えば、2回の洗浄)に続いて、完全カプシドがカラムまたは膜から溶離され、完全カプシドについて濃縮されたAEX溶離液が得られる。完全カプシドは、概して、約10mM~約1000mM(例えば、約10、49、50、51、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000mM)のTris、約125mM~約250mM(例えば、約124、125、126、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、251mM)のNaCl、及び約0.5%超(例えば、約0.5、0.6、0.7、0.75、0.8、0.9、1.0%)(w/v)のポリソルベート80を含む溶離液により、AEXカラムまたは膜から溶離する。溶離液は、典型的には、約pH9.0(例えば、約8.8、8.9、9.0、9.1、9.2)である。溶離緩衝液の例は、約50mMのTris、約250mMのNaCl、及び約0.75%のポリソルベート80を含み、pH約9.0を有する緩衝液である。完全カプシドについて濃縮されたAEX溶離液の試料を、そのウイルスゲノム及びウイルス粒子濃度、ならびにその完全カプシド比及びウイルスゲノム回収率について分析することができる。したがって、実施形態では、本方法はさらに、完全カプシドについて濃縮されたAEX溶離液またはその試料を、pPCR及び分析用超遠心分離(AUC)に供し、完全カプシド濃縮の定量化をすること(例えば、ベクター精製の品質及び有効性をモニターすること、組換えウイルス粒子の調製物における空カプシドの相対量を測定すること)を含む。AUCは、サイズ、形状、化学量論、及び結合特性などの高分子の特性を、すべて真の溶液状態環境で調査するための、広く適用可能であり、情報量の多い方法である。AUCは、中程度に高い濃度での定量的及び定性的な情報を評価することができる。AUCを使用して、組換えウイルス粒子の調製物を特性評価する方法は、既知である(例えば、本明細書に参照により組み込まれる米国特許公開第20200225139号を参照されたい)。
【0033】
事前平衡化、平衡化、洗浄、及び溶離ステップのすべてについて、任意の適切な膜体積(MV)及び流速(MV/分)を使用することができる。表6及び8に適切なMV及びMV/分の例を示す。完全カプシドと空カプシドの混合物中でrAAV完全カプシドを濃縮する方法の具体例は、実施例1及び2に記載される。
【0034】
実施形態では、完全カプシドについて濃縮されたAEX溶離液は、遺伝子治療薬として投与され得る製剤(例えば、薬物、原薬)の追加の精製及び調製のためにTFF(例えば、TFF透析)に供される。
【0035】
実施形態では、本方法は、少なくとも約30%、例えば、約30%~40%、少なくとも65%、約65%~95%、少なくとも80%、約80%~85%(例えば、79%、79.5%、80%、80.5%、81%、81.5%、82%、83%、85%、85%)、約90%~95%(例えば、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、95.5%)などの空AAV粒子(空カプシド)に対するrAAV完全粒子(完全カプシド)の比を提供する。ヌクレアーゼ抵抗性AAVカプセル化DNA不純物のレベルは、ヘルパープラスミド中の関連する配列用に設計された、プライマー及びプローブを使用するqPCRによって、または高コピー数ゲノム配列に対して、評価されてもよい。qPCR前に行われるヌクレアーゼ処理への感受性により、ヌクレアーゼ感受性の「ネイキッド」残留DNA不純物と、ヌクレアーゼ不感受性のカプセル化された残留DNA不純物とを、区別することができる。完全AAVカプシドは、カプシド特異的ELISAアッセイ、及びカプシド粒子力価とVG力価との比較により決定された空カプシドの量を使用して、測定してもよい。分光光度法は、非AAVカプシド不純物が実質的に除去された試料に、使用してもよい。
【0036】
本方法は、製造規模、例えば、約5~約10リットル、約10~約20リットル、約20~約50リットル、約50~約100リットル(例えば、79、80、81)、約100~約200リットル、またはそれ以上の培養に拡大可能であり、多様なAAV血清型/カプシドバリアントを含むrAAVに適用可能である。実施例1及び2に記載される実験は、rAAV完全カプシドが大(製造)スケールで濃縮され得ることを実証する。
【0037】
本明細書に開示される方法によって産生されたrAAVベクター(rAAV完全カプシド)は、標的細胞において導入遺伝子を発現するのに有用である。これらのrAAVベクターは、標的細胞で維持及び発現され得る導入遺伝子を含むポリヌクレオチドを、標的細胞内に導入することができるため、遺伝子治療に使用することが可能である。rAAVベクターは、ヒト患者の標的細胞に異種ポリヌクレオチド配列(例えば、治療用タンパク質またはレポータータンパク質をコードするポリヌクレオチド配列、及びタンパク質発現のための調節因子)を送達することが可能である。導入遺伝子の例の非排他的なリストには、RPGR、RPE65、GAD65、GAD67、CNGB3、及びAQP1が含まれる。いくつかの実施形態では、2つのAAV ITRは、AAV2 ITRである。本方法では、AAVのcap遺伝子は、例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAVrh10、AAV-PHP.5、AAV-PHP.B、AAV-PHP.eB、AAV2-retro、AAV9-retro、AAVrh74、AAVrh、及びそれらのハイブリッドなどの、AAV血清型またはAAVバリアント由来のものであってもよい。
【0038】
「ベクター」という用語は、ポリヌクレオチドを標的細胞内に導入するためのビヒクルを指す。ベクターは、ウイルスベクター(例えば、rAAVベクター、HSVベクター)もしくはプラスミドなどの非ウイルスベクター、またはリポソーム、ゼラチン、もしくはポリアミンなどの化合物と結合したDNAであってもよい。発現ベクターは、宿主細胞または標的細胞における発現のための調節因子を有する、遺伝子産物(例えば、タンパク質またはRNA)をコードする、ポリヌクレオチド配列を含むベクターである。
【0039】
「rAAV」、「rAAVベクター」、「rAAV粒子」、または「rAAVビリオン」は、エクスビボ、インビトロ、またはインビボの、標的細胞のその後の感染のために、カプシドタンパク質にパッケージングされる(すなわち、カプシドタンパク質によってカプシド化される)、組換えAAVベクターゲノムを指す。これらの語句は、空のAAVカプシド及び標的細胞で発現すべき導入遺伝子を含む、完全な組換えAAVゲノムを欠くAAVカプシドを除外している。したがって、カプシドに加えて、rAAVベクターは、rAAVゲノムを含む。「rAAVゲノム」または「rAAVベクターゲノム」は、rAAV粒子を形成するように、最終的にパッケージングまたはカプシド化される、目的の導入遺伝子を含むポリヌクレオチド配列を指す。典型的には、rAAVについては、AAVゲノム(例えば、rep、cap、及びaap遺伝子を含む)の大部分が削除されており、一方または両方のITR配列は、導入遺伝子とともにrAAVゲノムの一部として残存している。本明細書で使用される場合、「導入遺伝子」は、遺伝子産物(例えば、治療用タンパク質またはレポータータンパク質)をコードするポリヌクレオチド配列、及び標的細胞での遺伝子産物の発現のための調節因子を指す。
【0040】
「空カプシド」及び「空粒子」は、AAVカプシドシェルを有するが、導入遺伝子配列と1つまたは2つのITRとを含む組換えAAVゲノム全体または一部が欠失している、AAV粒子を指す。そのような空カプシドは、導入遺伝子を1つ以上の標的細胞内に導入する機能を有しない。実施形態では、単離されたrAAV粒子は、空AAV粒子から分離される。
【0041】
rAAVゲノム(例えば、ITRを含む)は、同一の株もしくは血清型(または、サブグループもしくはバリアント)に基づいていてよく、またはそれらが互いに異なっていてもよい。非限定的な例として、1つの血清型ゲノムに基づく、rAAVプラスミド、またはベクターゲノムもしくは粒子(カプシド)は、ベクターゲノムをパッケージングする1つ以上のカプシドタンパク質と同一であってもよい。さらに、rAAVゲノムは、rAAVベクターゲノムをパッケージングする1つ以上のカプシドタンパク質とは異なる、AAVゲノムから誘導してもよい(例えば、AAV2ゲノムから誘導される、1つ以上のITRを含む)。
【0042】
本明細書に開示されている方法によって産生、単離、精製、及び濃縮されてもよいrAAVベクターとしては、任意のAAV株または血清型に由来するカプシド及びゲノムを含む、任意のrAAVベクターが挙げられる。非限定的な例として、rAAVベクターカプシド及び/またはゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAV13、AAV-PHP-5、AAV-PHP-B、AAV-PHP-eB、AAV2-retro、AAV9-retro、AAVrh74、AAVrh、AAVrh.10(すなわち、AAVrh.10 ITR及びAAVrh.10カプシドタンパク質を含むAAV)などに基づいてもよい。実施形態では、rAAVベクターは、同一のAAV株または血清型に由来するゲノム及びカプシドタンパク質を含む。例えば、rAAVベクターは、rAAV2ベクター(すなわち、AAV2 ITR及びAAV2カプシドタンパク質を含むrAAV)であってもよい。
【0043】
実施形態では、AAVベクターは、1つのAAV血清型に由来するITR、及び異なるAAV血清型に由来するカプシドタンパク質を含む、偽型rAAVベクターである。いくつかの実施形態では、偽型rAAVは、rAAV2/5(すなわち、AAV2 ITR及びAAV5カプシドタンパク質を含むrAAV)、rAAV2/8(すなわち、AAV2 ITR及びAAV8カプシドタンパク質を含むrAAV)、rAAV2/9(すなわち、AAV2 ITR及びAAV9カプシドタンパク質を含むAAV)、rAAV2/10(すなわち、AAV2 ITR及びAAV10カプシドタンパク質を含むrAAV)である。実施形態では、rAAVベクターは、AAV2バリアントrAAV2-retro(WO2017/218842からの配列番号44、参照により本明細書に組み込まれる)などのバリアントAAVカプシドである、カプシドタンパク質を含む。
【0044】
rAAVの生成方法
上記で説明したように、rAAV精製及び濃縮方法は、任意の適切な生成方法によって得られるまたは生成されるrAAVの完全カプシド及び空カプシドを含む溶液(例えば、溶解物、溶離液)に適用され得る。rAAVを生成する方法は、当該技術分野でよく知られている。一般に、方法は、プロデューサー細胞を拡大させることと、プロデューサー細胞にrAAVベクター、AAVのrep及びcap、ならびにヘルパー遺伝子の核酸配列を導入することと、形質導入されたプロデューサー細胞を、rAAV粒子が産生されるような条件下で培養することと、rAAV粒子を単離することと、を含む。rAAVを生成させる方法の特定の実施形態を、以下に詳細に記載する。
【0045】
細胞株
rAAVベクター産生方法は、一般的に、例えば、(i)rAAV産生のための許容宿主細胞(プロデューサー細胞)、(ii)例えば、アデノウイルスヘルパー機能を提供する遺伝子を含む適切なコンストラクトによって供給され得る、ヘルパーウイルス機能、(iii)トランスパッケージングrep/capコンストラクト、及び(iv)適切な産生培地を含む、特定の要素を必要とする。
【0046】
プロデューサー細胞は、rAAVゲノム産生コンストラクト、ヘルパー機能コンストラクト、及びAAV機能(例えば、rep及びcapの発現)を提供するコンストラクトが存在する場合に、rAAVを産生するための許容宿主細胞である、任意の細胞である。この用語には、トランスフェクトされた元の細胞の子孫も含まれてもよい。したがって、プロデューサー細胞はまた、外来性DNA配列でトランスフェクトされた宿主細胞、またはそのDNA配列が宿主細胞ゲノムに組み込まれた宿主細胞の子孫である。単一の親細胞の子孫は、自然的、偶発的、または意図的な変異のために、形態、またはゲノムDNA相補体もしくは総DNA相補体において、元の親と必ずしも完全に同一である必要はないことが、理解される。
【0047】
実施形態では、rAAV粒子を産生するために使用される細胞は、HEK293細胞、BHK細胞、及びHeLa細胞を含む、哺乳動物細胞である。例示的なプロデューサー/宿主細胞としては、HEK293などの、ヒト胎児腎(HEK)細胞が挙げられる。好ましい実施形態では、プロデューサー細胞は、懸濁培養に適合したHEK293細胞を含む、懸濁液中での増殖のために適合される。さらに好ましい実施形態では、プロデューサー細胞は、無血清培地中での増殖のために適合される。実施形態では、プロデューサー細胞は、例えば、シェーカーフラスコ、スピナーフラスコ、細胞バッグ、またはバイオリアクタの、1つ以上であってもよい、少なくとも1つの培養容器内で増加する。
【0048】
本明細書に開示されるrAAVの産生、単離、精製、及び濃縮の方法で使用されてもよい、プロデューサー細胞株としては、哺乳動物または昆虫細胞株が挙げられる。「細胞株」という用語は、適切な培養条件下で、インビトロで、連続的または長期の増殖及び分裂が可能な細胞集団を指す。細胞株は、単一の前駆細胞に由来するクローン集団であってもよいが、必ずしもそうである必要はない。細胞株では、このようなクローン集団の保存または移動の間、ならびに組織培養における長期の継代の間、核型において、自発的または誘発される変化が生じてもよい。したがって、細胞株に由来する子孫細胞は、先祖細胞または培養物と、正確に同一ではなくてもよい。
【0049】
rAAV産生を行うためには、プロデューサー細胞株は、rAAVゲノム産生コンストラクト、ヘルパー機能コンストラクト、及び/またはAAVのrep/capコンストラクトの1つ以上が、プロデューサー細胞内に存在することが必要となる場合がある。これらは、3つのコンストラクト(例えば、3つのプラスミド)として導入されてもよく、またはプロデューサー細胞は、これらの機能の一部または全てを安定的にプロデューサー細胞ゲノムに組み込む、1つ以上のコンストラクトを既に有していてもよい。実施形態では、1つ以上のヘルパー遺伝子には、1つ以上のアデノウイルス遺伝子、単純ヘルペスウイルス1型遺伝子、またはバキュロウイルス遺伝子の、全部または一部が含まれてもよい。本明細書で使用される場合、細胞に関する「安定した」または「安定的に組み込まれた」という用語は、選択可能なマーカー、及び/または異種核酸配列などの核酸配列、またはプラスミドもしくはベクター(もしくは、その一部)が、(例えば、相同組換え、非相同末端結合、トランスフェクションなどによって)染色体に挿入されているか、または染色体外でレシピエント細胞もしくは宿主生物に保持されており、染色体内に残存していたか、もしくは染色体外に一定時間保持されていることを、意味する。
【0050】
プロデューサー細胞株の拡大
本明細書に記載の方法の実施形態では、(rAAVゲノムを含む)rAAVゲノム産生コンストラクト、及び/またはヘルパーウイルス機能及びAAV機能を提供する他のコンストラクトを導入するステップの前に、拡大段階または拡大ステップを使用して、プロデューサー細胞の数を増加させる。拡大段階または拡大ステップを、1つ以上の細胞培養容器において実施してもよい。例えば、拡大段階または拡大ステップを、体積が増加する一連の細胞培養容器において実施してもよい。プロデューサー細胞株の拡大に使用される細胞培養培地は、プロデューサー細胞の増殖(すなわち、数の増加)に適切な、任意の培地であってもよい。好ましい実施形態では、拡大段階培養培地は動物成分を含まず、例えば、動物由来の血清または他の成分を含まない。既知組成の、動物成分を含まない培地は、市販されている。
【0051】
実施形態では、本明細書では時に抗凝集剤(ACA)と呼ばれる、抗凝集補助剤が、細胞凝集を低減するために拡大培地に添加される。ACAは、例えば、Irvine Scientific社から市販されている。抗凝集補助剤は、1つ以上の時点で、拡大段階培養培地に添加されてもよい。実施形態では、抗凝集補助剤としては、デキストラン硫酸、ヘパリン、及び/またはプロデューサー細胞の凝集を抑制する他の硫酸化グリコサミノグリカンが挙げられる。実施形態では、抗凝集補助剤は、約25μg/ml~約250μg/ml、例えば、約25μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約150μg/ml、及び/または約200μg/mlの濃度に培地に添加されてもよい、ヘパリンナトリウムを含む。
【0052】
実施形態では、拡大段階培養培地は、約2mM~約6mM(例えば、約2mM、約3mM、約4mM、約5mM、または約6mM)の濃度の、グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上を含み、及び/またはこれらを含むように補充される。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上は、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、L-グルタミン、グルタミン酸塩、グリシル-L-グルタミン、グルタミンタンパク質加水分解物、L-グルタミン酸、及びグルタミンジペプチドの、1つ以上であってもよい。ジペプチドL-アラニル-L-グルタミンとして提供されるグルタミン補充剤の、市販されている例は、GlutaMAX(ThermoFisher)である。
【0053】
実施形態では、拡大段階培養培地は、非イオン性ポリオール界面活性剤、例えば、ポロキサマー188(ポリエチレンとポリプロピレンエーテルグリコールのコポリマー)を含み、及び/またはこれを含むように補充される。実施形態では、非イオン性ポリオール界面活性剤は、拡大段階培養培地中に、約0.05%~約0.2%(w:v)(例えば、約0.05%、約0.1%、約0.1%、または約0.2%)で存在する。実施形態では、拡大段階培養培地は、約4mMのL-アラニル-L-グルタミンジペプチド、及び0.1%(w:v)のポロキサマー188を含む。
【0054】
実施形態では、拡大段階培養培地のpHは、約7.1~約7.5(例えば、約7.1、約7.2、約7.3、約7.4、または約7.5)のpHで維持される。実施形態では、pHは、COスパージングによって、約7.2~約7.4で維持される。実施形態では、1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトを細胞内に導入する前に、培養培地のpHを約6.9に変化させ、COスパージングを停止させる。
【0055】
1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトの導入
rAAVベクターの産生は、典型的には、基本的な生合成機構を提供するプロデューサー細胞株、ならびに(i)rAAVゲノム(目的の導入遺伝子及びAAV ITRに隣接する関連する調節因子)を提供するコンストラクト、及び(ii)rAAVベクター産生を指示するのに必要な遺伝子産物を提供する追加の遺伝子を含む1つ以上のコンストラクト、を必要とする。これらの追加の遺伝子としては、ベクターゲノムの複製及びパッケージングを支援するのに必要な、AAV由来の遺伝子(例えば、AAVのrep及びcap)、ならびにヘルパーウイルス由来の遺伝子(例えば、アデノウイルスE1a、E1b、E2a、E4、及びVA)が挙げられる。
【0056】
「ヘルパーウイルス遺伝子」または「ヘルパーウイルス由来の遺伝子」とは、AAVが複製のために非AAV由来のウイルス遺伝子の遺伝子産物に依存している、非AAV由来のウイルス遺伝子を指す。この用語としては、AAV遺伝子転写の活性化、段階特異的AAVのmRNAスプライシング、及びAAVのDNA複製に関与するものを含む、AAV複製において必要なタンパク質及び/またはRNAが挙げられる。ヘルパーウイルス遺伝子は、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、及びワクシニアウイルスなどの、既知のAAVヘルパーウイルスのいずれかに由来してもよい。したがって、「ヘルパーウイルス機能」は、AAV産生に必要なヘルパーウイルス遺伝子(例えば、アデノウイルスE1a、E1b、E2a、E4、及びVA)によって提供されるこれらの機能を指す。これらのヘルパーウイルス機能は、プロデューサー細胞内に導入された1つ以上のベクター上で提供されてもよく、安定的にプロデューサー細胞によって発現してもよく、あるいは両者の組合せとしてもよい。
【0057】
本明細書で使用される場合、「AAV機能」または「AAVアクセサリ機能」は、産生的AAV複製及びパッケージングのために、トランスで機能するAAV遺伝子産物を提供するために、プロデューサー細胞で発現され得るAAV由来のコード配列を指す。したがって、AAV機能としては、rep及びcapを含むAAVオープンリーディングフレーム(ORF)と、特定のAAV血清型のaapなどの他のものとが含まれる。このようなAAV機能は、1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトによって提供されており、これは、プラスミドベクター、非プラスミドベクター、またはAAVヘルパー機能を提供する、プロデューサー細胞の染色体に組み込まれたポリヌクレオチドコンストラクトであってもよい。本明細書に開示された方法で使用されてもよいAAV機能を提供するプラスミドは、市販されている。
【0058】
本方法の実施形態では、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子は、プロデューサー細胞(例えば、HEK293細胞)によって構成的に発現され、一方、他のヘルパーウイルス遺伝子は、例えば、AAV産生に必要な残りのヘルパーウイルス遺伝子をコードする1つ以上のポリヌクレオチドコンストラクトのトランスフェクションによって、プロデューサー細胞内に導入される。AAV由来の遺伝子(例えば、rep及びcap)は、1つ以上のヘルパーウイルス遺伝子を含む同一のポリヌクレオチドコンストラクト中に含まれてもよく、別々のポリヌクレオチドコンストラクト上に含まれてもよい。rAAVゲノムを提供するかコードするポリヌクレオチドコンストラクト(例えば、rAAVゲノム産生ベクター)がプロデューサー細胞株に導入された後に、rAAV粒子が生成される。実施形態では、rAAV粒子は、(i)rAAVゲノム産生ベクターと、(ii)ヘルパーウイルス遺伝子(例えば、E4、E2a、及びVA)ならびにAAV遺伝子(例えば、rep及びcap)を提供する1つ以上のベクターとを、プロデューサー細胞に一過的にトランスフェクトした後に産生される。実施形態では、これらのベクターは、プラスミドである。
【0059】
本明細書に開示された方法の実施形態では、拡大段階に続いて、ITRに隣接する導入遺伝子を含む第1のポリヌクレオチドコンストラクトと、ヘルパーウイルス遺伝子及びAAVのrep及びcap遺伝子を含む第2のポリヌクレオチドコンストラクトとが、拡大されたプロデューサー細胞内に導入される。第1のポリヌクレオチドコンストラクト及び第2のポリヌクレオチドコンストラクトがプラスミドである場合、この系は、2プラスミド系と呼ばれてもよい。
【0060】
本明細書に開示された方法の実施形態では、拡大段階に続いて、ITRに隣接する導入遺伝子を含む第1のポリヌクレオチドコンストラクトと、ヘルパーウイルス遺伝子を含む第2のポリヌクレオチドコンストラクトと、なAAVのrep及びcap遺伝子とを含む第3のポリヌクレオチドコンストラクトとが、拡大されたプロデューサー細胞内に導入される。第1のポリヌクレオチドコンストラクト、第2のポリヌクレオチドコンストラクト、及び第3のポリヌクレオチドコンストラクトがプラスミドである場合、この系は、3プラスミド系と呼ばれてもよい。
【0061】
1つ以上の組換えプラスミドを使用してrAAVベクターを産生する場合、「rAAVゲノム産生プラスミド」は、導入遺伝子(調節配列に作動可能に連結されている)、及びrAAVへのパッケージングを意図した1つ以上のITR、ならびにプラスミドのクローニング及び増幅に重要であるが、rAAVベクターにパッケージングまたはカプシド化されない非rAAVゲノム成分(プラスミド骨格)を含むプラスミドを指す。本明細書で使用される場合、「コンストラクト」という用語は、プラスミドであり得る組み換えポリヌクレオチドコンストラクト(すなわち、異なる供給源に由来するエレメントを有するポリヌクレオチド)を指す。
【0062】
「導入」及び「トランスフェクト」という用語は、宿主細胞または標的細胞へのポリヌクレオチドの導入を指す。実施形態では、宿主細胞は、プロデューサー細胞、例えば、HEK293細胞である。実施形態では、rAAVゲノム産生プラスミドは、ヘルパーウイルス機能及びAAV機能を提供する1つ以上のプラスミドと一緒に、一過性トランスフェクション法によってプロデューサー細胞内に導入される。導入遺伝子及びITR(複数可)を含む第1のポリヌクレオチドコンストラクト(例えば、rAAVゲノム産生ベクター)と、任意選択の、AAV機能(rep及びcap遺伝子)及びヘルパーウイルス機能を提供する、第2のポリヌクレオチドコンストラクト、及び/または第3のポリヌクレオチドコンストラクトを導入する、プロデューサー細胞の一過性トランスフェクションは、例えば、リン酸カルシウム共沈、カチオン性脂質ベースのトランスフェクション、及びカチオン性ポリマーベースのトランスフェクションを含む、標準的なトランスフェクション法によって達成されてもよい。カチオン性脂質ベースのトランスフェクションとしては、例えば、リポフェクタミン(DOSPA(2,3-ジオレオイルオキシ-N-[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]-N,N-ジメチル-1-プロパンジニウムトリフルオロアセート)とDOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン)の、3:1混合物)が挙げられる。カチオン性ポリマーベースのトランスフェクションとしては、例えば、直鎖状、及び/または分枝鎖状の、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリ-L-リジン、ポリ-L-アルギニン、及びポリアミドアミンデンドリマーなどが挙げられる。実施形態では、プロデューサー細胞の一過性トランスフェクションは、PEIベースのトランスフェクション試薬を使用して行われる。PEIは、直鎖状または分枝鎖状のポリマーであってもよい。実施形態では、PEIは、20~25kDの直鎖状PEIである。例えば、実施形態では、PEIは、jetPEIまたはPEIpro(Polyplusから入手可能)である。加えて、プロデューサー細胞の一過性トランスフェクションを、カチオン性脂質とカチオン性ポリマーとの両方を含むトランスフェクション試薬を使用して行ってもよい。
【0063】
rAAVは、代替的には、バキュロウイルスベクターを使用して昆虫細胞(例えば、sf9細胞)内で、またはHSV感染ベビーハムスター腎臓(BHK)細胞(例えば、BHK21)内で、産生されてもよい。いずれの方法でも、rAAV産生は、rAAVゲノム、1つ以上のAAVrep及びcap、ならびにrAAV複製及びパッケージングに必要なヘルパーウイルス機能を保有する2つ以上の組換えウイルスの同時感染によって、宿主細胞、昆虫細胞、または哺乳動物細胞内のぞれぞれで誘発される。
【0064】
rAAV粒子の産生
一般的に、産生段階(産生ステップとも呼ばれる)は、rAAVゲノムベクター、及び/またはヘルパーウイルス機能及び/またはAAV機能を提供するベクターを、プロデューサー細胞内に導入するステップの後に続く。実施形態では、rAAVゲノムベクターの導入後、少なくとも約48時間(例えば、47.5、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、96.5、または97時間)にわたり細胞を培養することによって、rAAV粒子を産生する。実施形態では、トランスフェクトされたプロデューサー細胞を、約72~約100時間、約90時間~約100時間、約92時間~約98時間、または約94~約98時間培養する(すなわち、産生段階を維持する)。実施形態では、産生段階は、約96時間維持される。
【0065】
産生段階培地は、プロデューサー細胞におけるrAAVの産生に適切な、任意の細胞培養培地であってもよい。実施形態では、産生培地は、血清などの動物性産物を含まない。この文脈において「含まない」とは、培地が、血清などの動物性産物の検出不可能なレベルを有することを意味する。実施形態では、産生培地のpHは、拡大段階培地のpHと比較して低下している。実施形態では、産生培地は、約6.8~約7.4(例えば、約6.8、約6.9、約7.0、約7.1、約7.2、約7.3、または約7.14)のpHで維持される。実施形態では、pHは、約6.9~約7.3で維持される。
【0066】
本方法の実施形態では、産生段階は、産生段階細胞培養培地へのカルシウムイオンの添加を含む。本明細書ではカルシウム補充とも呼ばれる、産生培地にカルシウムイオンを添加することは、カルシウムイオン(Ca2+)をカルシウム塩、例えば、CaClの形態で添加することを含む。カルシウムイオンは、産生段階中、rAAVゲノムベクターの導入後(例えば、トランスフェクション後)に1回以上添加されてもよい。例えば、カルシウムイオンは、産生段階開始から(すなわち、トランスフェクション後)、約0時間~約48時間、例えば、約1時間、約6時間、約10時間、約12時間、約20時間、約24時間、約30時間、約36時間、及び/または約48時間で1回以上添加されてもよい。
【0067】
培養培地中のカルシウムイオンの総濃度が、0.3mM超~10mM未満となるように、カルシウムイオン(例えば、CaCl)を産生培地に添加してもよい。実施形態では、カルシウムイオンは、約1mM~約9mM、約1mM~約8mM、約1mM~約7mM、約2mM~約9mM、約2mM~約8mM、約2mM~約7mM、約2mM~約6mM、約2m~約5mM、または約2mM~約4mMの総濃度まで添加される。
【0068】
実施形態では、産生段階は、グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上を、産生段階培地に添加することを含む。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの1つ以上は、例えば、L-アラニル-L-グルタミン、L-グルタミン、グルタミン酸塩、グリシル-L-グルタミン、グルタミンタンパク質加水分解物、L-グルタミン酸、及びグルタミンジペプチドの、1つ以上であってもよい。グルタミン、グルタミン前駆体、またはグルタミンを含むアミノ酸ジペプチドの少なくとも1つを含む溶液は、例えば、トランスフェクション後、約6時間、約12時間、約24時間、約48時間、または約72時間の1つ以上で、産生段階培地に添加されてもよい。
【0069】
実施形態では、産生段階は、ソルビトールを産生段階培地に添加することを含む。ソルビトールは、産生段階の間の1つ以上の時点で、例えば、トランスフェクション後、約6時間、約12時間、約20時間、約24時間、及び/または約48時間で、産生段階培地に添加されてもよい。実施形態では、ソルビトールは、約50mM~約200mM、または約80mM~約120mMの濃度、あで、産生培地に添加される。実施形態では、ソルビトールは、約100mMの濃度まで、産生培地に添加される。
【0070】
実施形態では、産生段階は、抗凝集補助剤を産生段階培地に添加することを含む。抗凝集補助剤は、1つ以上の時点で(例えば、トランスフェクション後、約6時間、約10時間、約12時間、約20時間、約24時間、約48時間、または約72時間の1つ以上で)、産生段階培養培地に添加されてもよい。実施形態では、抗凝集補助剤としては、デキストラン硫酸、ヘパリン、及び/またはプロデューサー細胞の凝集を抑制する他の硫酸化グリコサミノグリカンが挙げられる。実施形態では、抗凝集補助剤は、約25μg/ml~約250μg/ml、例えば、約25μg/ml、約50μg/ml、約100μg/ml、約150μg/ml、及び/または約200μg/mlの濃度に培地に添加されてもよい、ヘパリンナトリウムを含む。
【0071】
実施形態では、抗凝集補助剤は、産生段階培地に添加されないか、または産生段階の終了直前に、例えば、産生段階の終了の、約24時間以内、約12時間以内、約6時間以内、約3時間以内、約2時間以内、または約1時間以内にのみ、産生段階培地に添加される。
【0072】
rAAVの単離及び精製
本明細書に記載される方法の実施形態は、産生段階の終了時にrAAV粒子(rAAV完全カプシド)を単離及び精製することを含む。実施形態では、rAAV粒子は、rAAVベクター、及び/またはヘルパー機能、及び/またはAAVのrep/cap配列の導入後(換言すると産生段階の開始後)、48時間以上(例えば、47.5、48、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、96.5、97時間)で、単離されてもよい。例えば、rAAV粒子は、rAAVベクター、及び/またはヘルパー機能、及び/またはAAVのrep/cap配列の導入後、約90~約100時間、約92時間~約98時間、または約94~約98時間で、単離されてもよい。実施形態では、rAAV粒子は、rAAVベクター、及び/またはヘルパー機能及び/またはAAVのrep/cap配列の導入後、約96時間で単離される(例えば、細胞が溶解される)。rAAVを単離することは、例えば、プロデューサー細胞を溶解して細胞溶解物を得るステップ、溶解物を清澄化して清澄化された溶解物を得るステップ、及び後続する精製ステップを含む、複数のステップを含んでもよい。
【0073】
rAAV粒子は、生成後にプロデューサー細胞内に保持されてもよく、細胞内rAAVベクターを放出する方法は、物理的破壊及び化学的破壊、例えば、洗浄剤の使用、マイクロ流動化、及び/またはホモジナイズを含む。実施形態では、細胞からの細胞膜破壊(溶解)及びrAAVまたはAAVの粒子の放出(回収)は、両性洗浄剤N,N-ジメチルテトラデシルアミンN-オキシド(TDAO)(MilliporeSigma Burlington,MAからDeviron(登録商標)C16として市販されている)を使用して達成される。例えば、rAAV5、AAV5、rAAV2、またはAAV2粒子を回収する場合、約0.1%~約0.5%(例えば、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.51%)のDeviron(登録商標)C16を使用することができる。他の実施形態では、高浸透圧ショック(外部容積モル濃度の増加)を使用して、細胞を溶解させ、rAAVまたはAAVの粒子を放出する。例えば、rAAV8またはAAV8の粒子を回収する場合、プロデューサー細胞は、約90~約120分(例えば、約89、90、95、100、105、115、120、121分)のインキュベーション持続時間で約400mM(例えば、約399、400、401mM)のNaCl濃度の高浸透圧ショックに供され得る。細胞溶解の間同時に、及び/または細胞溶解の後、混入しているDNAを分解するために、ベンゾナーゼのようなヌクレアーゼが添加されてもよい。典型的には、得られた溶解物を清澄化することで、細胞残屑が除去され、清澄化された細胞溶解物が提供される。実施形態では、清澄化された溶解物は、本明細書に記載されるような完全カプシドを空カプシドから分離するために、弱分配モードでAEXに供される。
【実施例
【0074】
実施例1.高い空AAVカプシドの除去及び生成物収量を提供するための弱分配モードでの陰イオン交換クロマトグラフィーの使用
AAV-AQP1(AAV2)の完全カプシド濃縮を最大化するために陰イオン交換ステップを開発した。完全カプシドと空カプシドの特性が類似しているため、生成物の収率と完全カプシド比との間にトレードオフがもたらされ、最適な条件を選択することが困難となった。異なる界面活性剤のタイプ及び濃度でスクリーニングを行い、AAV2ベクターの産物収量を最大化した。設計空間を探索することで、結合及び溶離モードの代替として弱分配モードが同定され(図1、2)、フロースルーのみにおける空カプシドの50%超の除去を達成する条件が特定された。高NaCl洗浄と組み合わせて、80%超の完全カプシドを有する溶離液が達成された。これらの結果は、分析超遠心分離(AUC)で確認した場合に80%超の完全カプシド比、及び50%超の生成物収率が、本明細書に記載の新規条件を使用して堅牢に達成され得ることを示す。設計空間を理解し、プロセスの失敗点を特定することは、プロセスが製造規模で再現可能であることを意味した。
【0075】
最初の実験設計では、さらなる最適化のためのパラメータ及び範囲を、初期のAEXプラットフォーム適合実験から特定した。これらを表1に列挙する。
【0076】
【表1】
【0077】
洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)と、(i)空カプシドの除去、(ii)溶離液中の完全カプシドの比率、及び(iii)溶離液中のVG回収率との関係を分析した。結果を図3~5に示す。所望の結果に沿って、設計空間内の最適な領域を強調するために組み合わされた実験計画法(DOE)の結果(図6)。洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度に基づく最適領域からのパラメータ及び値を表2に示す:
【0078】
【表2】
【0079】
ロード比が弱分配にどのように影響するかを理解するために、ロード比と完全カプシド(VG)及び空カプシド(VP)のブレークスルーとの関係を分析した。結果(図7)は、弱分配の効果が、ロード比を増加させることによって最大化されることを示した。パラメータ及び値を表3に示す:
【0080】
【表3】
【0081】
図7を参照すると、機会の窓の利用により、空カプシドの最大80%が通過するが、完全カプシドの10%のみがフロースルーで失われる。
【0082】
知見を照合すると、図3に示す結果から、空カプシドを最大に除去するには、洗浄2と溶離の両方で高NaCl濃度が必要であることが示された。洗浄2のNaClを増加させると、最大30%のVG損失が生じた。50%のVG回収率が溶離段階において依然として回収された。パラメータ及び最適化された範囲を表4に示す:
【0083】
【表4】
【0084】
2Lスケールでの最適化されたAAV-AQP1 AEXステップのクロマトグラムを図8に示し、反転(カプシド化DNAの存在によって典型的に高い完全カプシドを示す260nm及び280nmのUV吸光度トレースの反転)により強調表示された80%の完全カプシド比に留意されたい。パラメータ及び値を表5に示す:
【0085】
【表5】
【0086】
図9に示すように、このプロセスは、VG回収率と完全カプシド比との両方について、2Lから80Lまで拡大可能である。
【0087】
実施例2:完全カプシドの濃縮及び収量増加のためのAEX弱分配プロトコール
以下に記載する実験は、本明細書に記載のrAAV精製方法が、完全カプシド比及びVG回収率に関して一貫していることを実証し、このプロセスが拡大可能であることを示している。
【0088】
材料
AAV供給材料
本試験に記載する実験用の供給材料は、アクアポリン1遺伝子をコードする導入遺伝子がパッケージされた血清型2のアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドからなるものであった。
【0089】
これらのカプシドは、三重プラスミド複合体で一過性にトランスフェクトされたHEK293細胞を使用した細胞培養によって産生された。細胞培養の生産段階の完了後、細胞をTriton X-100を使用して溶解してAAVを放出させ、得られた溶解物をベンゾナーゼで処理した。次いで、0.2μmのPESフィルターを使用して溶解物を清澄化した。
【0090】
AAVX(ThermoFisher)アフィニティークロマトグラフィー樹脂及びAKTA Avant(Cytiva)クロマトグラフィーシステムを使用して、AAVカプシドの初期精製を行った。この精製は、清澄化した溶解物をAAVX樹脂1mL当たり清澄化溶解物200mLのロード比及び滞留時間1分でベッド高5cmのAAVXカラムにロードすることによって行った。捕捉されたAAVカプシドを、50mMのグリシン、180mMのNaCl、0.25%(w/v)のポリソルベート80からなる溶離緩衝液(pH2.7)を使用して溶離した。
【0091】
化学物質
これらの実験で使用したすべての化学物質は、Merck KGaAから購入したGMP(医薬品製造管理及び品質管理基準)グレードの試薬であった。
【0092】
方法
陰イオン交換クロマトグラフィー
すべての小規模陰イオン交換クロマトグラフィー(AEX)実験を、1mLのSartobind Q (Sartorius)AEX膜及びAKTA Avant(Cytiva)クロマトグラフィーシステムを使用して行った。
【0093】
これらの実験用の緩衝液は、50mMのTris、0.75%(w/v)のポリソルベート80、pH9、及び実験の段階で必要とされる様々な濃度のNaClからなっていた。これらの実験用の供給は、50mMのTris、0.75%(w/v)のポリソルベート80、pH9.0で目標NaCl濃度に希釈することによってコンディショニングしたAAVX溶離液であった。表6に、本試験でAEX実験に使用した方法を記載する。
【0094】
【表6】
【0095】
実験の設計
DoE試験を実施して、完全カプシド比及びベクターゲノム(VG)回収率に対するロード、洗浄段階、及び溶離段階のNaCl濃度、ならびにロード比の影響を評価した。本試験は16回の実験で構成され、それぞれの実験で試験したパラメータ値を表7に記載する。フロースルー、洗浄2、及び溶離液の試料をそれぞれの実行から収集し、それらのベクターゲノム及びベクター粒子の濃度を分析した。
【0096】
【表7】
【0097】
ブレークスルー実験
AEXプロセスに対するロード比の影響をさらに評価するために、ブレークスルー実験を行った。NaCl濃度90mMにコンディショニングした供給で、AEX膜を1×1015VG/mLのロード比にロードした。フロースルーを1mL画分に分画し、得られた画分を分析して、それらのVG及びVPの濃度を決定した。
【0098】
確認及びスケールアップ実験
10mLのSartobind Qモジュールで精製を実施することにより、最適化されたプロセスを確認した。この実行に使用した方法を表8に詳述する。フロースルー、カラム洗浄2、及び溶離液の試料を、それらのVG及びVPの濃度について分析した。さらに、溶離液の試料を分析的超遠心分離及びqPCRによって分析して、完全カプシド比及びVG回収率を確認した。
【0099】
【表8】
【0100】
拡大可能性を実証するために、プロセスを75mLのSartobind(登録商標)Q膜にスケールアップした。この実行は、表8に詳述した同じ方法を使用して実施し、溶離液の試料を分析的超遠心分離及びqPCRによって分析して、その完全カプシド比及びVG回収率を決定した。
【0101】
分析方法
本試験で作製した試料中のベクターゲノム濃度を、AQP1導入遺伝子の領域に特異的なプライマー及びプローブを使用したqPCRによって決定した。ベクター粒子濃度は、Gyrolab(登録商標)AAVX Titerキット(Gyrus Protein Technologies)を使用して決定した。
【0102】
DoE及びブレークスルー実験の間、空カプシド比は、ベクターゲノム濃度をベクター粒子濃度で割ることによって推定した。確認及びスケールアップ実験では、完全カプシド比を、Optima AUC(Beckman)を使用した分析超遠心分離によって測定した。
【0103】
結果
DoE
AEXプロセスの設計空間を、完全カプシド比及びVG回収率を最大化する条件を特定することを目的とした実験計画法を行うことにより調査した。本研究において調査した変数は、供給のNaCl濃度、洗浄2のNaCl濃度、溶離のNaCl濃度、及びロード比であった。これらの変数について試験した範囲を表9に詳述する。これらの実験の結果を表10に詳述する一方、このデータセットで観察された傾向を図3図4、及び図5に示す。
【0104】
【表9】
【0105】
【表10-1】
【0106】
【表10-2】
【0107】
これらの実験用の供給は、推定完全カプシド率が10%未満であった。表10は、試験した条件のいくつかで、推定全カプシド比が有意に増加した(最大87%)ことを示す。図3は、高い当量/供給及び洗浄2のNaCl濃度が、溶離液プール中の空カプシドの減少をもたらすことを示している。これは、供給中のNaCl濃度が高いほど、空カプシドがAEX膜に結合することが妨げられるためである。同様に、カラム洗浄2中のNaCl濃度が高いと、この段階で空カプシドが溶離され、後の溶離液プールからそれらが除去される。
【0108】
図4は、これらの効果が、溶離液プールにおいてより高い完全カプシド比にどのように転換されるかを示す。空カプシドが結合することが防止されるか、またはカラムから洗浄されると、得られる溶離液プールは、高い完全カプシド比を有する。供給及びカラム洗浄2のNaCl濃度を増加させることの影響を図5に示す。完全カプシドのAEX膜との相互作用がより強いにもかかわらず、これらの完全カプシドの一部は、供給及び洗浄2のNaCl濃度が増加して、これらの相互作用を妨害するため、フロースルー及び洗浄水に失われる。図6は、これらの実験で見られる傾向を組み合わせて、高い完全カプシド比及び高いVG回収率が達成され得る領域を強調する。
【0109】
ブレークスルー実験
上記のDoE研究では、空カプシドが供給の高いNaCl濃度でSartobind(登録商標)Q AEX膜に結合せずに膜を通過することが観察された。この影響を、ブレークスルー実験を行うことによってさらに調査した。この実験は、この効果を最大化するように95mMの供給のNaCl濃度で実施し、カプシドがフロースルーに確実にブレークスルーするように膜に1×1015VG/mLをロードした。
【0110】
フロースルーの試料を分析して、それらのVG及びVP濃度を決定した。その結果を図10に示す。これらの結果は、これらの供給条件下で、ベクター粒子が実験開始のほぼ直後にブレークスルーし始めることを示している。しかしながら、ベクターゲノムは、約2.5×1014VG/mLのロード比までブレークスルーしないので、ブレークスルーするベクター粒子は、空カプシドであると結論付けることができる。
【0111】
これらの結果はまた、ベクターゲノムが段階的なブレークスルーを経ることを示している。典型的には、鋭いブレークスループロファイルが予想され、これは、クロマトグラフィーマトリックスが飽和に達したことを示す。しかしながら、この段階的なブレークスルーは、弱分配が行われている可能性があることを示している。弱分配の下では、完全カプシドは、完全カプシドが膜と有するより強い荷電相互作用に起因して、クロマトグラフィー膜に結合した空カプシドを置換し始める。これは、最終的に膜から溶離される生成物の完全カプシド比をさらに増加させるという利点を有する。
【0112】
確認実行及びスケールアップ
特定したプロセス条件は、10mLのSartobind(登録商標)Qを使用してより大規模で実行を行うことによって確認し、プロセス条件を表8に詳述する。カラム洗浄2及び溶離の段階に焦点を当てた、この実行のクロマトグラムの抜粋を図11に示す。この図は、260nm及び280nmのUV吸光度トレースの反転を示し、これは典型的には、カプシド化DNAの存在に起因する高い完全カプシド比を示す。この実行からの溶離液を分析超遠心分離によって分析して、完全カプシドの比率を確認した。完全カプシド比は、供給中の31%から溶離液中の81.5%に増加することが分かった。溶離液の対応するAUCトレースを図12に示す。
【0113】
プロセスの拡大可能性を確認するために、75mLのSartobind(登録商標)Qでさらなる実行を行った。10mLと75mLの実行の結果を図9で比較する。この図は、このプロセスが完全カプシド比及びVG回収率に関して一貫していることを示し、このプロセスが拡大可能であることを示している。
【0114】
実施例3. 初期AEXプラットフォーム及び追加の実験からのパラメータ及び範囲の特定
プラットフォーム適合実験を行った。図13には、初期のAEXクロマトグラフィーランスルーのクロマトグラムを示す。AEXステップで使用した条件を以下に示す:
【0115】
【表11】
【0116】
以下の表11に示すパラメータ及び範囲は、初期のAEXプラットフォーム適合実験から特定した(図13)。これらの初期実験は、図19において「初期プロセス」と称され、これは、初期プロセスにおけるUSP、捕捉クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)、及びタンジェント流濾過(TFF)のそれぞれ後のVG回収率及び完全カプシド%値を示す。これらの値を、本明細書に記載の本発明の最適化プロセス(図19の「最終プロセス」を参照されたい)から得られた値と比較する。
【0117】
【表12】
【0118】
パラメータと溶離液中の空カプシド、完全カプシド、及びVG回収%との間の以下の関係について図3~5を参照されたい:
図3:洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)と、溶離液中に存在する空カプシド(VP/mL)との関係
図4:洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)と、溶離液中の完全カプシド比(%)との関係
図5:洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)と、溶離液中のVG回収率(%)との関係
【0119】
図6図1~3の洗浄2及び当量/供給のNaCl濃度(mM)に基づく最適領域を示す。図及び2は、形成された環境により、空カプシドが完全カプシドに置き換えられる、弱分配プロセスを示す。pIの上下の空AAVカプシド及び完全なAAVカプシドの電荷を示す。(Cytiva Life Sciences Marlborough, Massachusetts 2022. Enhanced AAV downstream processing).
【0120】
追加のブレークスルー実験を行って、ロード負荷を増加させるときに、異なる供給及び平衡伝導率で弱分配が異なる速度で利用されるかどうかを同定した。
【0121】
方法及び材料
実行1:伝導度90mMのNaClでの供給材料及び平衡化緩衝液。
実行2:伝導度80mMのNaClでの供給材料及び平衡化緩衝液。
【0122】
0.08mLのSartobind QにAAV-AQP1中和AAVX溶離液を4E14VG/mLにロードし、フロースルー試料を分画し、VG力価についてはqPCRを、VP力価についてはGyrolabを使用して分析した。
【0123】
【表13】
【0124】
【表14】
【0125】
【表15】
【0126】
図14から、空カプシドと完全カプシドの両方のブレークスルー曲線を計算するとき、9mS/cmの目標伝導度は、空カプシドよりも完全カプシドの結合に有利に働くように見えることがわかる。カラムで何が起こっているかを検査するために、VGロード負荷が4E14vg/mlに増加したときのカラム上のVG濃度を調べた(図15、上のグラフ)。VGロード負荷を4E14VG/mLに増加したときのカラム上の空カプシド比を調べた(図15、下グラフ)。カラム上の完全カプシド比への影響を決定するために、VGロード負荷が増加した際のカラム上の完全カプシド比を分析した。図16に示すように、任意の形態の洗浄または溶離ステップの前に38%から>55%への増加が観察された。図14に示したものと同様に、図17を見ると、目標9mS/cmでのロードの方が、目標8mS/cmよりも高いレベルの濃縮が可能であることは明らかであり、弱分配を利用して濃縮率を最大化しようとするとき、供給及び平衡供給の伝導率が重要であることを示唆している。
【0127】
20Lスケール確認実行での最適化AAV-AQP1 AEXステップのクロマトグラムについては図18を参照されたい。この図に示すように、80%の完全カプシド比が得られた。この確認実行から得たパラメータ及び値を下記表15に示す。再び図19を参照すると、「初期プロセス」の値と「最終プロセス」の値との差が示されている。
【0128】
【表16】
【0129】
20L及び80Lのバッチへのスケールアップに関して、20L及び80Lのバッチの完全カプシド比とVG回収率との比較を図20に示す。この図はまた、図18の溶離ピークが80%の完全カプシドを含んでいることを確認するAUCの結果も含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
【国際調査報告】