特表-16136708IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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再表2016-136708膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2016年9月1日
【発行日】2017年12月7日
(54)【発明の名称】膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/00 20060101AFI20171110BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20171110BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20171110BHJP
【FI】
   C07K7/00ZNA
   C07K14/00
   C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】20
【出願番号】特願2017-502369(P2017-502369)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年2月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-38433(P2015-38433)
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 信至
(72)【発明者】
【氏名】毛利 浩太
(72)【発明者】
【氏名】日渡 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】落合 恭平
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB25
4B065BC07
4B065BD25
4B065BD28
4B065BD32
4B065BD39
4H045BA09
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA18
4H045EA20
4H045EA50
(57)【要約】
本発明の高分子化合物は、一般式(1)又は一般式(2)で表される基を側鎖に有する。

(式中、X1は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸の残基を表し、X2は膜透過性ペプチドの残基を表し、X3は、水酸基、アミノ基、炭素数1〜4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を表し、aは1〜50の数を表す。)

(式中、X4は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸の残基を表し、X5は膜透過性ペプチドの残基を表し、X6は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ベンジル基、炭素数1〜6のアシル基、アリールスルホニル基又はカルボオキシル基を表し、bは1〜50の数を表す。)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される基を側鎖に有する高分子化合物。
【化1】
(式中、X1は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸から末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X2は膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X3は、水酸基、アミノ基、炭素数1〜4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を表し、aは1〜50の数を表す。)
【化2】
(式中、X4は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸から末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X5は膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X6は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ベンジル基、炭素数1〜6のアシル基、アリールスルホニル基又はオキシカルボニル基を表し、bは1〜50の数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)のX2又は前記一般式(2)のX5を構成するアミノ酸の少なくとも1つが塩基性アミノ酸である請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項3】
幹高分子がビニル系親水性高分子である請求項1に記載の高分子化合物。
【請求項4】
低膜透過性化合物を、細胞内又は粘膜内に導入するための導入剤であって、請求項1〜3の何れか1項に記載の高分子化合物からなる導入剤。
【請求項5】
請求項4に記載の導入剤を使用する、低膜透過性化合物を、細胞内に導入するための方法。
【請求項6】
請求項4に記載の導入剤を使用する、低膜透過性化合物を、粘膜内に導入するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低膜透過性化合物を、細胞内又は粘膜内に導入する場合に有用な、高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、合成ペプチドやタンパク質、さらにはDNAや糖を細胞内に導入し、細胞内でのタンパク質相互作用を調節し、細胞内情報伝達や転写などをコントロールすることで、それらの機能を解明したり、特殊な機能を誘導したりする試みがなされている。このようなアプローチにより、今まで謎とされてきた遺伝情報の解明や、病原の解明、またその治療方法の開発が期待できる。また、ES細胞やiPS細胞の開発により、核酸やタンパク質によって細胞機能をコントロールする技術はますます重要性を増している。
【0003】
一般に、ポリペプチド、核酸、糖等の水溶性高分子量物質は、高い親水性を有するため、細胞膜を通過することが困難である。そこで、これらを細胞内に導入する方法として、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、ウイルスベクター法、膜透過性ペプチド法等が知られている。
【0004】
このうち、膜透過性ペプチド法は、膜透過性ペプチドが細胞のマクロピノサイトーシスを誘発するのを利用する方法である。膜透過性ペプチド法としては、細胞に導入しようとする目的化合物と膜透過性ペプチドを共有結合させて導入する方法(例えば、特許文献1,2を参照)や膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物と細胞に導入しようとする目的化合物を共存させ、目的化合物のみを導入する方法(例えば、特許文献3〜4を参照)が知られている。目的化合物と膜透過性ペプチドとを共有結合させて導入する方法は、細胞へのダメージが少ないが、煩雑な前処理が必要である。一方、膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物を使用する方法は、簡便であるが、従来知られた膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物は、水溶性高分子量物質の導入効率が不十分であり、弱い細胞毒性もあるため使用濃度に制限がでる場合があり、目的化合物の導入効率を向上させる場合に問題となっていた。
【0005】
また、膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子は、薬剤の上皮からの吸収促進剤への応用(例えば、特許文献5を参照)も提案されているが、十分な吸収促進効果を得るには、高濃度で使用する必要があり、実用化する場合には粘膜に対する刺激性の懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】US2003/229202A1
【特許文献2】特開2005−052083号公報
【特許文献3】US2010/113559A1
【特許文献4】特開2011−229495号公報
【特許文献5】特開2010−100781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、核酸、タンパク質等の水溶性高分子量物質や、薬剤を、簡便な方法で、高い効率で、細胞内又は粘膜内に導入できる高分子化合物及びその高分子化合物を用いる導入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、膜透過性ペプチドを有する特定の基を側鎖に有する高分子化合物を使用することにより、核酸、タンパク質等の水溶性高分子量物質や薬剤を細胞内や粘膜内に容易に導入できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される基を側鎖に有する高分子化合物を提供するものである。
【化1】
(式中、X1は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸から末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X2は膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X3は、水酸基、アミノ基、炭素数1〜4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を表し、aは1〜50の数を表す。)
【化2】
(式中、X4は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸から末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X5は膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、X6は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ベンジル基、炭素数1〜6のアシル基、アリールスルホニル基又はオキシカルボニル基を表し、bは1〜50の数を表す。)
【0010】
また本発明は、薬剤又は水溶性高分子化合物等の低膜透過性化合物を、粘膜内又は細胞内に導入するための導入剤であって、上記高分子化合物からなる導入剤を提供するものである。
また本発明は、上記導入剤を使用する、低膜透過性化合物を細胞内又は粘膜内に導入するための方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、一般式(1)又は一般式(2)で表される基を側鎖に有する高分子化合物は、煩雑な前処理を行わなくとも、低膜透過性化合物を高い効率で細胞内や粘膜内に導入できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の一例について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。なお、本発明において、低膜透過性化合物とは、生物学的利用能(bioavailability)の低い化合物を意味し、具体的には、生物学的利用率(extent of bioavailability)が50%以下の化合物を意味する。生物学的利用率は以下の式により算出することができる。
生物学的利用率(%)=100×(経口投与により血液中に到達した量)/(静脈投与により血液中に到達した量)
ここでいう「血液中に到達した量」は、血中濃度と横軸(時間軸)によって囲まれた部分の面積(薬物血中濃度−時間曲線下面積:AUC)として求められる。
【0013】
本発明の高分子化合物及びそれを用いた本発明の導入剤(以下、両者をまとめて本発明の高分子化合物ともいう)は、膜透過性ペプチド残基を有しており、低膜透過性化合物を効率良く細胞に取り込ませることができる。膜透過性ペプチドが細胞に取り込まれる機構は、一般的には、膜透過性ペプチドが細胞のマクロピノサイトーシスを誘発して取り込まれるもので、周囲に低膜透過性化合物が存在する場合には、膜透過性ペプチドとともにこれらの低膜透過性化合物が取り込まれるものと考えられている。本発明の高分子化合物では、膜透過性ペプチド残基により細胞の複数の箇所でマクロピノサイトーシスが誘発されるが、本発明の高分子化合物は、巨大分子であり、また、本発明の高分子化合物の1分子を細胞が複数の箇所から取り込むことも困難である。このため、本発明の高分子化合物の周囲に低膜透過性化合物が存在する場合には、本発明の高分子化合物によりマクロピノサイトーシスを誘発された細胞により、低膜透過性化合物が偶発的に、かつ継続的に取り込まれることになる。従って、膜透過性ペプチド残基と低膜透過性化合物との間の相互作用は、必ずしも必要とされず、本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物とを混合したものを細胞又は粘膜に接触させるだけで、低膜透過性化合物を細胞内又は粘膜内に導入できるものと考えられる。
【0014】
本発明の高分子化合物は、一般式(1)又は一般式(2)で表される基を側鎖に有するグラフト型の高分子化合物である。本発明では、本発明の高分子化合物の主鎖部分を幹高分子と呼ぶ。以下、本発明の高分子化合物の構造について詳細に説明する。
【0015】
[一般式(1)で表される基]
一般式(1)において、X1は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸から末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、aは1〜50の数を表す。中性アミノ酸としては、例えば、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ヒドロキシプロリン等が挙げられ、ω−アミノアルカン酸としては、3−アミノプロパン酸、4−アミノブタン酸、5−アミノペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸等が挙げられる。X1に適用される中性アミノ酸としては、低膜透過性化合物の導入効率が上がることから、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニンが好ましく、グリシン、アラニン、セリンが更に好ましく、グリシンが最も好ましい。aは、1〜30の数が好ましく、1〜20の数が更に好ましく、1〜10の数が最も好ましい。aが2〜50の数の場合には、X1は、1種の中性アミノ酸残基又はω−アミノアルカン酸残基でもよいし、これら残基から選ばれる2種以上の組合せでもよい。
【0016】
一般式(1)において、X2は膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表す。本発明の高分子化合物の膜透過性ペプチド残基は、細胞や粘膜、導入しようとする低膜透過性化合物に応じて適宜選択されてよいが、膜透過性ペプチド残基を構成するアミノ酸の少なくとも1つは塩基性アミノ酸であることが好ましい。また、塩基性アミノ酸は、L体又はD体のいずれであってもよく、細胞や粘膜、導入しようとする低膜透過性化合物に応じて適宜選択されてよい。
【0017】
塩基性アミノ酸としては、アルギニン、オルニチン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン等が挙げられ、中でも、グアニジノ基含有アミノ酸が好ましく、アルギニンが更に好ましい。膜透過性ペプチド残基中の塩基性アミノ酸の割合が高いほど、低膜透過性化合物の導入効率が上がることから、膜透過性ペプチドを構成する全アミノ酸に対する塩基性アミノ酸の割合は、モル基準で、50%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましい。膜透過性ペプチド基を構成するアミノ酸のうち、塩基性アミノ酸以外のアミノ酸は、中性アミノ酸であることが好ましい。尚、本明細書中でアミノ酸と記載する場合、特に断らない限り、α−アミノ酸を意味する。
【0018】
膜透過性ペプチド基を構成するアミノ酸の数は、低膜透過性化合物の導入効率が上がることから、5〜30であることが好ましく、6〜20であることが更に好ましく、7〜15であることが最も好ましい。
【0019】
膜透過性ペプチドの好ましい具体例としては、7〜30個のアルギニンがペプチド結合したアルギニンオリゴマー、GRKKRRQRRRPPQなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称HIV−1 Tat:配列番号1)、TRQARRNRRRRWRERQRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称HIV−1 Rev:配列番号2)、RRRRNRTRRNRRRVRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称FHV Coat:配列番号3)、TRRQRTRRARRNRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称HTLV−II Rex:配列番号4)、KLTRAQRRAAARKNKRNTRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称CCMV Gag:配列番号5)等の親水性の塩基性ペプチド;RQIKIWFQNRRMKWKKなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称アンテナペディア:配列番号6)、KMTRAQRRAAARRNRWTARなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称BMW Gag:配列番号7)、RQIKIWFQNRRMKWKKなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称ペネトラチン:配列番号8)、NAKTRRHERRRKLAIERなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称P22N:配列番号9)、DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPDDPVDなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称VP22:配列番号10)等の両親媒性の塩基性ペプチド;GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称トランスポータン:配列番号11)、AGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称TP−10:配列番号12)等の疎水性の塩基性ペプチドが挙げられる。これらの中で、低膜透過性化合物の導入効率が優れることから、親水性の塩基性ペプチドが好ましく、アルギニンオリゴマーが更に好ましい。アルギニンオリゴマーの中でも、アルギニンの繰り返し数は、7〜20が好ましく、7〜15が更に好ましく、7〜10が最も好ましい。
【0020】
一般式(1)において、X3は、水酸基、アミノ基、炭素数1〜4のアルコキシル基又はベンジルオキシ基を表す。炭素数1〜4のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、1−メチルプロポキシ基、t−ブトキシ基等が挙げられる。低膜透過性化合物の導入効率の点から、X3としては、水酸基、アミノ基、t−ブトキシ基、ベンジルオキシ基が好ましく、水酸基、アミノ基が更に好ましく、アミノ基が最も好ましい。
【0021】
一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物中、一般式(1)で表される基が複数存在する場合、それぞれの一般式(1)で表される基の、X1、X2、X3及びaは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0022】
[一般式(2)で表される基]
一般式(2)において、X4は、中性アミノ酸又はω−アミノアルカン酸から末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表し、bは1〜50の数を表す。中性アミノ酸としては、例えば、アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ヒドロキシプロリン等が挙げられ、ω−アミノアルカン酸としては、3−アミノプロパン酸、4−アミノブタン酸、5−アミノペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸等が挙げられる。X4に適用される中性アミノ酸としては、低膜透過性化合物の導入効率の点や合成の容易さの点から、グリシン、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、セリン、トレオニン、フェニルアラニンが好ましく、グリシン、アラニン、セリンが更に好ましく、グリシンが最も好ましい。bは、1〜30の数が好ましく、1〜20の数が更に好ましく、1〜10の数が最も好ましい。bが2〜50の数の場合には、X4は、1種の中性アミノ酸残基又はω−アミノアルカン酸残基でもよいし、これら残基から選ばれる2種以上の組合せでもよい。
【0023】
一般式(2)において、X5は膜透過性ペプチドから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基を表す。本発明の高分子化合物の膜透過性ペプチド残基は、細胞や粘膜、導入しようとする低膜透過性化合物に応じて適宜選択されてよいが、膜透過性ペプチド残基を構成するアミノ酸の少なくとも1つは塩基性アミノ酸であることが好ましい。また、塩基性アミノ酸は、L体又はD体のいずれであってもよく、細胞や粘膜、導入しようとする低膜透過性化合物に応じて適宜選択されてよい。
【0024】
塩基性アミノ酸としては、アルギニン、オルニチン、リジン、ヒドロキシリジン、ヒスチジン等が挙げられ、中でも、グアニジノ基含有アミノ酸が好ましく、アルギニンが更に好ましい。膜透過性ペプチド残基中の塩基性アミノ酸の割合が高いほど、低膜透過性化合物の導入効率が上がることから、膜透過性ペプチドを構成する全アミノ酸に対する塩基性アミノ酸の割合は、モル基準で、50%以上であることが好ましく、70%以上であることが更に好ましい。膜透過性ペプチド基を構成するアミノ酸のうち、塩基性アミノ酸以外のアミノ酸は、中性アミノ酸であることが好ましい。
【0025】
膜透過性ペプチド基を構成するアミノ酸の数は、低膜透過性化合物の導入効率が上がることから、5〜30であることが好ましく、6〜20であることが更に好ましく、7〜15であることが最も好ましい。
【0026】
膜透過性ペプチドの好ましい具体例としては、7〜30個のアルギニンがペプチド結合したアルギニンオリゴマー、GRKKRRQRRRPPQなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称HIV−1 Tat:配列番号1)、TRQARRNRRRRWRERQRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称HIV−1 Rev:配列番号2)、RRRRNRTRRNRRRVRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称FHV Coat:配列番号3)、TRRQRTRRARRNRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称HTLV−II Rex:配列番号4)、KLTRAQRRAAARKNKRNTRなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称CCMV Gag:配列番号5)等の親水性の塩基性ペプチド;RQIKIWFQNRRMKWKKなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称アンテナペディア:配列番号6)、KMTRAQRRAAARRNRWTARなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称BMW Gag:配列番号7)、RQIKIWFQNRRMKWKKなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称ペネトラチン:配列番号8)、NAKTRRHERRRKLAIERなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称P22N:配列番号9)、DAATATRGRSAASRPTERPRAPARSASRPDDPVDなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称VP22:配列番号10)等の両親媒性の塩基性ペプチド;GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称トランスポータン:配列番号11)、AGYLLGKINLKALAALAKKILなるアミノ酸配列を有するペプチド(通称TP−10:配列番号12)等の疎水性の塩基性ペプチドが挙げられる。これらの中で、低膜透過性化合物の導入効率が優れることから、親水性の塩基性ペプチドが好ましく、アルギニンオリゴマーが更に好ましい。アルギニンオリゴマーの中でも、アルギニンの繰り返し数は、7〜20が好ましく、7〜15が更に好ましく、7〜10が最も好ましい。
【0027】
一般式(2)において、X6は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、ベンジル基、炭素数1〜6のアシル基、アリールスルホニル基又はカルボオキシル基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、2級ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、2級ペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基、2級ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1〜6のアシル基としては、ホルミル基、アセチル基、プロピノイル基、ブチノイル基、ペンチノイル基、ヘキシノイル基等が挙げられる。アリールスルホニル基としては、p−トルエンスルホニル基、2−ニトロベンゼンスルホニル基、トリフルオロアセチル基等が挙げられる。オキシカルボニル基としては、例えば、t−ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基、2,2,2−トリクロロエトキシカルボニル基、アリルオキシカルボニル基等が挙げられる。低膜透過性化合物の導入効率の点から、X6としては、アセチル基、水素原子、メチル基、トリフルオロアセチル基が好ましく、アセチル基、水素原子が更に好ましく、アセチル基が最も好ましい。
【0028】
一般式(2)で表される基を側鎖に有する高分子化合物中、一般式(2)で表される基が複数存在する場合、それぞれの一般式(2)で表される基の、X4、X5、X6及びbは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0029】
[幹高分子]
本発明のグラフト型高分子の幹高分子は、特に限定されないが、細胞やタンパク質等の水溶性高分子量物質との親和性に優れることから親水性高分子であることが好ましい。ここで、親水性高分子とは、水溶性高分子、または水中で膨潤する高分子を意味する。本発明において、水溶性高分子とは、常圧下で25℃の水に0.1質量%以上の量で均一に溶解する高分子をいう。
【0030】
親水性高分子としては、例えば、グアーガム、アガロース、マンナン、グルコマンナン、ポリデキストロース、リグニン、キチン、キトサン、カラギーナン、プルラン、コンドロイチン硫酸、セルロース、ヘミセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、カチオンデンプン、デキストリンの多糖類又は多糖類の変性物;アルブミン、カゼイン、ゼラチン、ポリグルタミン酸、ポリリジン等の水溶性タンパク質又は水溶性ポリペプチド;ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(アクリル酸ヒドロキシエチル)、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリN−ビニルアセトアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリ(2−アミノエチル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸/アクリルアミド共重合物、(メタ)アクリル酸/N−イソプロピルアクリルアミド共重合物、(メタ)アクリル酸/N−ビニルアセトアミド共重合物、(メタ)アクリル酸/マレイン酸共重合物、(メタ)アクリル酸/フマル酸共重合物、エチレン/マレイン酸共重合物、イソブチレン/マレイン酸共重合物、スチレン/マレイン酸共重合物、アルキルビニルエーテル/マレイン酸共重合物、アルキルビニルエーテル/フマル酸共重合物等のビニル系親水性高分子;水溶性ポリウレタン等が挙げられる。
【0031】
幹高分子への膜透過性ペプチド基のグラフト化が容易になることから、幹高分子としては、本発明の高分子化合物が、一般式(1)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の場合には、カルボキシル基を有する高分子が好ましく、カルボキシル基を有する親水性高分子がより好ましく、カルボキシル基を有するモノマーとカルボキシル基を有しないモノマーとの共重合物が更に好ましく、(メタ)アクリル酸/N−ビニルアセトアミド共重合物が最も好ましい。
また、一般式(2)で表される基を側鎖に有する高分子化合物の場合には、アミノ基を有する高分子が好ましく、アミノ基を有する親水性高分子がより好ましく、キトサンが最も好ましい。なお、アミノ基又はカルボキシル基を有するとは、一般式(1)又は(2)で表される基を側鎖に有する前の幹高分子に該当するものであればよい。
【0032】
幹高分子がカルボキシル基を有する場合、幹高分子を構成するモノマーユニットの数に対するカルボキシル基を有するモノマーユニットの数の割合は、本発明の高分子化合物として好ましいものを得やすい観点等から5〜80%が好ましく、10〜60%がより好ましい。
幹高分子がアミノ基を有する場合、幹高分子を構成するモノマーユニットの数に対するアミノ基を有するモノマーユニットの数の割合は、本発明の高分子化合物として好ましいものを得やすい観点等から5〜100%が好ましく、10〜100%がより好ましい。なお、上記で述べたアミノ基又はカルボキシル基を有するユニットの割合は、一般式(1)又は一般式(2)で表される基を側鎖に有する前の幹高分子に該当することが好ましい。
【0033】
[本発明の高分子化合物]
本発明の高分子化合物は、一般式(1)又は一般式(2)で表される基を側鎖に有するところに特徴がある。本発明の高分子化合物における、一般式(1)又は一般式(2)で表される基の割合があまりに低い場合及びあまりに高い場合は、低膜透過性化合物の導入効率が低くなることから、本発明の高分子化合物中の、一般式(1)又は一般式(2)で表される基の数が、幹高分子を構成するモノマーユニット(多糖類又は多糖類の変性物の場合は単糖ユニット、水溶性タンパク質又は水溶性ポリペプチドの場合はアミノ酸ユニット)の数に対して、0.001〜0.9であることが好ましく、0.005〜0.8であることが更に好ましく、0.01〜0.7であることが最も好ましい。
【0034】
本発明の高分子化合物があまりに小さい場合には、本発明の高分子化合物が細胞に取り込まれやすくなり、あまりに大きい場合には導入しようとする低膜透過性化合物の導入効率が低下することから、本発明の高分子化合物の重量平均分子量は10万〜5000万が好ましく、20万〜3000万が更に好ましく、30万〜1000万が最も好ましい。なお、本発明において重量平均分子量とは、水系溶媒を用いてGPC分析を行った場合の重量平均分子量であって、幹高分子が多糖類若しくは多糖類の変性物、又は水溶性タンパク質の場合には、プルラン換算の重量平均分子量、幹高分子がビニル系親水性高分子の場合には、ポリエチレングリコール(PEG)若しくはポリエチレンオキシド(PEO)換算の重量平均分子量をいう。
【0035】
本発明の高分子化合物は、従来知られた膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物よりも、低膜透過性化合物の導入効率が高い。これは、従来知られた膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物(例えば、特開2010−100781号公報を参照)が、膜透過性ペプチドが幹高分子に直接結合しているのに対して、本発明の高分子化合物では、膜透過性ペプチドと幹高分子とが、下記一般式(1a)又は下記一般式(2a)で表される基を介して結合していることにより、膜透過性ペプチド残基の自由度が向上したためではないかと推定している。また、本発明の高分子化合物では、下記一般式(1a)又は下記一般式(2a)で表される基を介していることにより、幹ポリマーの膜透過性ペプチドを有する基による置換が、従来知られた膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物よりも、より温和な条件で、高い置換率で行えるという利点もある。
【化3】
(式中、X1およびaは一般式(1)と同義である。)
【化4】
(式中、X4およびbは一般式(2)と同義である。)
【0036】
[本発明の高分子化合物の製法]
本発明の高分子化合物を製造方法は特に限定されず、一般式(1)又は一般式(2)で表される基を有する重合性モノマーを重合して製造してもよいし、幹高分子に一般式(1)又は一般式(2)で表される基を導入して製造してもよいが、製造の容易さの点から、幹高分子に一般式(1)又は一般式(2)で表される基を導入して製造することが好ましい。幹高分子がカルボキシル基を有する親水性高分子である場合には、カルボキシル基に下記一般式(1b)で表されるペプチド化合物のアミノ基をペプチド反応させることにより得ることができる。カルボキシル基とアミノ基との反応は、公知の方法を用いればよく、例えば、カルボキル基をN−ヒドロキシコハク酸イミドによりスクシイミドエステル化した後、アミノ基を反応させる方法等が挙げられる。また、幹高分子がアミノ基を有する親水性高分子である場合には、アミノ基に下記一般式(2b)で表されるペプチド化合物のカルボキシル基をペプチド反応させることにより得ることができる。この方法によれば、幹高分子の側鎖として、アミド結合を介して一般式(1)又は(2)で表される基を最も簡単に導入できる。ただし、一般式(1)又は(2)で表される基の固定法は、本法に限るものではなく、一般的に知られている化学反応を用いて、固定化できる。
【化5】
(式中、X1、X2、X3およびaは一般式(1)と同義である。)
【化6】
(式中、X4、X5、X6およびbは一般式(2)と同義である。)
【0037】
[低膜透過性化合物]
本発明の高分子化合物は、低膜透過性化合物を細胞内や粘膜内に導入するための導入剤として使用することにより、種々の低膜透過性化合物が導入可能になる。このような低膜透過性化合物としては、例えば、インスリン及びインスリン分泌促進剤(例えば、エキセンディン−4、GLP−1)などのペプチド・タンパク性医薬品、ステロイドホルモン、非ステロイド系鎮痛抗炎症剤、精神安定剤、抗高血圧薬、虚血性心疾患治療薬、抗ヒスタミン薬、抗喘息薬、抗パーキンソン薬、脳循環改善薬、制吐剤、抗うつ薬、抗不整脈薬、抗凝固薬、抗痛風薬、抗真菌薬、抗痴呆薬、シェーングレン症候群治療薬、麻薬性鎮痛薬、ベータ遮断薬、β1作動薬、β2作動薬、副交感神経作動薬、抗腫瘍薬、利尿薬、抗血栓薬、ヒスタミンH1レセプター拮抗薬、ヒスタミンH2レセプター拮抗薬、抗アレルギー薬、禁煙補助薬、ビタミン等の医薬品;
【0038】
デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)及びこれらの類似体又は誘導体(例えば、ペプチド核酸(PNA)、ホスホロチオエートDNA等)等の核酸化合物;酵素、抗体、糖タンパク質、転写因子等のペプチド化合物;
【0039】
プルラン、アミロペクチン、アミロース、グリコーゲン、シクロデキストリン、デキストラン、ヒドロキシエチルデキストラン、マンナン、セルロース、デンプン、アルギン酸、キチン、キトサン、ヒアルロン酸等の多糖誘導体およびそれらの誘導体等が挙げられる。
【0040】
本発明の高分子化合物が、適用される細胞は、動物、植物、細菌等のいずれの細胞でもよいが、低膜透過性化合物の導入効率の点から、ヒト等の噛乳類の細胞が好ましい。本発明の高分子化合物が、適用される粘膜も、低膜透過性化合物の導入効率の点から、ヒト等の噛乳類の細胞が好ましい。
【0041】
[細胞]
本発明の高分子化合物を使用することにより、種々の細胞内に低膜透過性化合物を導入することが可能であり、培養液(液体培地ともいう)等に分散された細胞、固定培地等に接着した細胞、生体組織の細胞等のいずれの細胞にも低膜透過性化合物を導入することが可能である。細胞は、組織細胞や神経細胞等を形成する接着系の細胞と、血球細胞等の浮遊系の細胞に大別できる。浮遊系の細胞に対しては、マイクロインジェクション法やエレクトロポレーション法は適用できず、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、ウイルスベクター法等が適用できたが、導入効率は満足できるものではなかった。本発明の導入方法は、接着系の細胞だけでなく、浮遊系の細胞に対しても、低膜透過性化合物を高い導入効率で導入することが可能である。
【0042】
[細胞内への導入方法]
本発明の高分子化合物を用いて、細胞内に低膜透過性化合物を導入する場合には、本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物を含有する水性溶液または水性分散液を、細胞と接触させればよく、ウイルスベクター法や膜透過性ペプチドを用いた従来の導入方法のような煩雑な前処理を必要とせず、また細胞への悪影響をあまり与えることなく、細胞内に低膜透過性化合物を導入できる。
【0043】
本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物とを溶解または分散させ、これらを含有する水性溶液または水性分散液となる水性媒体としては、蒸留水、細胞培養に一般的に用いられる培養液のほか、生理食塩水、5質量%ブドウ糖水溶液等の等張水が挙げられるが、細胞に対する影響が少ないことから培養液、生理食塩水及び5質量%ブドウ糖水溶液が好ましい。
【0044】
細胞を水性溶液または水性分散液に懸濁する場合には、低膜透過性化合物と本発明の高分子化合物とを含有する水性溶液または水性分散液に、細胞を懸濁させればよく、必要に応じて、これら3者を含有する懸濁液を撹拌や振盪してもよい。また、細胞が固体培地等に接着されていたり、細胞組織が大きかったり等の理由により、細胞を水性溶液または水性分散液に懸濁できない場合には、低膜透過性化合物と本発明の高分子化合物とを含有する水性溶液または水性分散液に細胞を浸漬させればよい。
【0045】
低膜透過性化合物を細胞内に導入する場合、本発明の高分子化合物の使用濃度は、特に限定されないが、水性溶液または水性分散液において0.1μg/mL〜10mg/mLとするのが好適である。また、導入する低膜透過性化合物の濃度も特に限定されないが、水性溶液または水性分散液において0.5μg/mL〜10mg/mLとするのが好適である。更に、細胞を培養液若しくは生理食塩水に懸濁させる場合の細胞の濃度も限定されないが、水性溶液または水性分散液において1万〜200万cells/mLとするのが好適である。
【0046】
本発明の高分子化合物、導入しようとする低膜透過性化合物、および細胞の3者を共存させる時間は特に限定されないが、30分〜24時間とするのが好適である。
【0047】
[粘膜]
本発明の高分子化合物を粘膜内に使用することにより、種々の粘膜内に低膜透過性化合物を導入することが可能である。粘膜としては、鼻粘膜、口腔粘膜、膣粘膜、直腸粘膜、眼粘膜、胃粘膜、腸管粘膜等が挙げられる。従来の膜透過性ペプチドを側鎖に有する高分子化合物は粘膜への刺激性が大きかったことから、例えば、鼻粘膜に使用すると痒みが発生する場合があったが、本発明の高分子化合物ではこのような痒みが軽減される。
【0048】
[粘膜内への導入方法]
本発明の高分子化合物を用いて、粘膜内に低膜透過性化合物を導入する場合には、本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物の混合物を粘膜に密着させればよく、この混合物が粘膜から剥離しにくい剤形であれば、剤形は限定されない。好ましい剤形は、粘膜によって異なるが、例えば、丸剤、錠剤、トローチ剤、貼付剤、坐薬、パップ剤等が挙げられる。本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物の混合物との混合物は、剤形により、液状、乳状、懸濁状、ゲル状、粉末状、固形状等の形状を選択すればよい。低膜透過性化合物は目的に応じて、1種のみを導入してもよく、2種以上を組み合わせてもよい。また、必要に応じて、賦形剤、乳化剤、分散剤、ゲル化剤、保湿剤等を併用してもよい。
【0049】
[小突起アレイの利用]
本発明の高分子化合物は低膜透過性化合物を、皮膚を経由して細胞内に導入することはできないが、小突起アレイ(シート上に微細な突起を配した薬剤送達部材。例えば、US2005025778A1、特開2008−006178等を参照)を利用することにより、皮膚下の細胞内に低膜透過性化合物を導入することが可能になる。例えば、本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物との混合物を表面に塗布した小突起アレイ、又は本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物との混合物を含有する小突起を有する小突起アレイを、皮膚表面に貼り、微細な突起により皮膚を貫通させて、皮膚下に本発明の高分子化合物と低膜透過性化合物とを浸透させることにより、皮膚下の細胞内に低膜透過性化合物を導入することが可能になる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を更に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。尚、特に限定のない限り、実施例中の「部」や「%」は質量基準によるものである。
【0051】
<実施例1>
イオン交換水1kgにN−ビニルアセトアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物(商品名:GE160−105、昭和電工社製)10gを溶解し、強酸性陽イオン交換樹脂(商品名:アンバーリスト15DRY、オルガノ社製)を10g加えて2時間撹拌した後に、イオン交換樹脂を濾別し、濾液を濃縮し、凍結乾燥してN−ビニルアセトアミド/アクリル酸共重合物(以下、GE160−105H)を8.6g得た。
ジメチルホルムアミド(DMF)15mLに500mgのGE160−105Hを溶解した。この溶液を0℃に冷やし、5mLのDMFに溶解した1.1gのN−ヒドロキシコハク酸イミドを添加し、更に5mLのDMFに溶解した1.96gのジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を添加して室温(25℃)で24時間攪拌し反応を行った。析出する固体をろ過によりろ別し、ろ液を500mLのアセトニトリルへゆっくり滴下し、再沈殿によりスクシンイミドエステル化GE160−105(以下、GE160−105OSu)を620mg得た。
【0052】
20mgのGE160−105OSuを0.2mLのDMFへ溶解し、一般式(1b)において、aが4、X1がグリシンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X2がオクタアルギニンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X3がアミノ基である化合物(RS Synthesis社製、商品名:H−(Gly)4−(D−Arg)8−NH2(Purity:90%), TFA Salt)148mgをDMF0.8mLに溶解させてを混合し、60℃で24時間攪拌し、反応を行った。反応の後、反応溶液をセルロース透析チューブ(シームレスセルロースチューブ,和光純薬社製)に入れ、チューブの両口を縛った後、イオン交換水を用いて2日間透析を行った。その後、チューブの内容物を凍結乾燥して、62mgの実施例1の高分子化合物を得た。実施例1の高分子化合物は、一般式(1)のX1がグリシンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X2がオクタアルギニンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X3がアミノ基、aが4である化合物である。実施例1の高分子化合物の重量平均分子量は160万であり、NMRの積分値から下記の構造を有することが分かった。なお、式中、Glyはグリシン残基、Argはアルギニン残基を表し、x:y:z=70:1:29である。
【化7】
【0053】
<実施例2>
実施例1において、H−(Gly)4−(D−Arg)8−NH2の使用量を148mgから50mgに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、54mgの実施例2の高分子化合物を得た。実施例2の高分子化合物は、一般式(1)のX1がグリシンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X2がオクタアルギニンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X3がアミノ基、aが4である化合物である。実施例2の高分子化合物の重量平均分子量は160万であり、NMRの積分値から下記の構造を有することが分かった。なお、式中、Glyはグリシン残基、Argはアルギニン残基を表し、x:y:z=70:15:15である。
【化8】
【0054】
<実施例3>
一般式(2b)において、bが4、X4がグリシンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X5がオクタアルギニンから末端アミノ基および末端カルボキシル基を除いた残基、X6がアセチル基である化合物(RS Synthesis社製、商品名:HO−(Gly)4−(D−Arg)8−COCH3(Purity:90%))150mgを0.5mLのDMFに溶解させた。132mgのN−ヒドロキシコハク酸イミドを添加した後、DMF0.3mLに溶解させた230mgのDCCを添加した。更に重量平均分子量約10万のキトサンのDMF溶液(100mg/mL)を添加し、室温(25℃)で24時間攪拌した。反応溶液をセルロース透析チューブ(シームレスセルロースチューブ,和光純薬社製)に入れ、チューブの両口を縛った後、イオン交換水を用いて2日間透析を行った。その後、チューブの内容物を凍結乾燥して、32mgの実施例2の高分子化合物を得た。実施例3の高分子化合物の重量平均分子量は11万であり、NMRの積分値から下記の構造を有することが分かった。なお、式中、Glyはグリシン残基、Argはアルギニン残基を表し、x:y=80:20である。
【化9】
【0055】
<比較例1>
H−(Gly)4−(D−Arg)8−NH2のDMF溶液の代わりに、オクタアルギニンの末端カルボキシル基がアミド化された化合物(GL Biochem社製、商品名:RRRRRRRR−NH2,[R=D−Arg]TFA Salt)のDMSO溶液(350mg/mL)0.5mLを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、32mgの比較例1の高分子化合物を得た。比較例1の高分子化合物の重量平均分子量は160万であり、NMRの積分値から下記の構造を有することが分かった。なお、式中、Argはアルギニン残基を表し、x:y:z=70:15:15である。
【化10】
【0056】
<比較例2>
US2010113559A1の製造例に準拠し、重量平均分子量約10万のキトサンを用いて、比較例2の高分子化合物を製造した。比較例2の高分子化合物は下記の構造を有する化合物である。なお、式中、Argはアルギニン残基を表し、x:y=80:20である。
【化11】
【0057】
<細胞>
CHO細胞:チャイニーズハムスター卵巣由来細胞
<培地>
Ham'sF12培地(商品名、和光社製)
Opti−MEM培地(商品名、Life Technologies社製)
<試薬>
トリプシン/EDTA溶液:0.25%のトリプシン、1mmol/LのEDTA水溶液<低膜透過性化合物>
FITC−BSA:フルオレセイン標識−牛血清アルブミン(Sigma-Aldrich社製)
<細胞内への導入効率>
24穴プレートの各ウエルにCHO細胞のHam'sF12培地懸濁液(2×105cells/mL)500μLを播種し、炭酸ガスインキュベーターで24時間、前培養した。上清の培地を除去した後、FITC−BSAのOpti−MEM培地溶液(10μg/mL)250μLを添加し、更に実施例1〜3の高分子化合物、又は比較例1〜2の高分子化合物のOpti−MEM培地溶液(100μg/mL)250μL添加して、炭酸ガスインキュベーターで1時間培養した。上清の培地溶液を除去し、リン酸緩衝生理食塩水500μLで2回洗浄した後、トリプシンEDTA溶液100μLを添加して、培養したCHO細胞をプレートから剥離、分散させた。次に、0.08%トリパンブルー溶液100μLを添加し細胞を懸濁させ、マイクロチューブに回収した。回収した細胞懸濁液を、セルストレーナーを通過させ、フローサイトメトリーによりMFI(平均蛍光強度)を測定した。また、高分子化合物を使用しなかったものをブランクとした。結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
細胞外のFITC−BSAはトリパンブルーにより失活して蛍光を発せず、細胞内に導入されたFITC−BSAのみが蛍光を発する。MFIは細胞あたりの1ケあたりの蛍光強度の平均値を示すことから、MFIの値が大きいほど、水溶性高分子化合物であるFITC−BSAが細胞内に取込まれたことを表している。表1の結果から、実施例1〜3の高分子化合物は、水溶性高分子量物質の細胞内への導入効率が高いことが分かる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【国際調査報告】