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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2016年12月22日
【発行日】2018年4月5日
(54)【発明の名称】イヌiPS細胞の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20180309BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20180309BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20180309BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180309BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/0775
   C12N5/0797
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】25
【出願番号】特願2017-524884(P2017-524884)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2015-123775(P2015-123775)
(32)【優先日】2015年6月19日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
【住所又は居所】大阪府堺市中区学園町1番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100104307
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 尚司
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 俊夫
【住所又は居所】大阪府堺市中区学園町1番1号 公立大学法人大阪府立大学内
(72)【発明者】
【氏名】西村 俊哉
【住所又は居所】大阪府堺市中区学園町1番1号 公立大学法人大阪府立大学内
(72)【発明者】
【氏名】田中 恵里菜
【住所又は居所】大阪府堺市中区学園町1番1号 公立大学法人大阪府立大学内
(72)【発明者】
【氏名】鳩谷 晋吾
【住所又は居所】大阪府堺市中区学園町1番1号 公立大学法人大阪府立大学内
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 喜久弥
【住所又は居所】大阪府堺市中区学園町1番1号 公立大学法人大阪府立大学内
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA91Y
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB12
4B065BB19
4B065BB23
4B065BB31
4B065BB34
4B065BB37
4B065BB40
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC11
4B065BC46
4B065BD45
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】長期にわたり安定して継代できるイヌiPS細胞株を、極めて簡単な組成の培養液を用いて作製する。
【解決手段】 核初期化因子であるOCT3/4、SOX2、KLF4及びC-MYCの4つの転写因子を、例えばドキシサイクリンにより前記転写因子の発現を制御できる薬剤誘導性のベクターにより導入したイヌ体細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の存在下でLIFのような分化多能性維持因子(塩基性線維芽細胞増殖因子は含まれない)、さらに好ましくはMEK抑制因子、GSK3β抑制因子などの分化抑制因子を含まない培養液で培養して、イヌiPS細胞を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イヌの体細胞からイヌiPS細胞株を作製する方法であって、
イヌ体細胞に核初期化因子を導入する工程と、
核初期化因子を導入したイヌ体細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下で分化多能性維持因子を含まない培養液を用いて培養をする工程を含む方法。
【請求項2】
前記培養液は、分化抑制因子を含まない培養液である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記培養液は、N2B27培地を基本培地とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
イヌの体細胞からイヌiPS細胞株を作製する方法であって、
イヌ体細胞に核初期化因子を導入する工程と、
核初期化因子を導入したイヌ体細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子のみを含むN2B27培地を用いて培養をする工程を含む方法。
【請求項5】
前記核初期化因子は次の3つの遺伝子:OCT3/4SOX2KLF4であるか、当該3つの遺伝子にさらにC-MYCを含む4つの遺伝子である請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記核初期化因子の発現を、薬剤の添加により制御できる薬剤誘導性ベクターを用いて、前記核初期化因子をイヌ体細胞に導入する請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
フィーダー細胞の存在下又はフィーダー細胞の非存在下にあるマトリゲル上で、前記核初期化因子が導入されたイヌ体細胞を培養する請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか1項に記載の方法で作成されたイヌiPS細胞。
【請求項9】
イヌ体細胞に核初期化因子を導入する工程と、
核初期化因子を導入したイヌ体細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下で分化多能性維持因子を含まない培養液を用いて培養して、イヌiPS細胞株を得る工程と、
培養で得られた細胞を分化誘導する工程を含む、イヌ体細胞の製造方法。
【請求項10】
前記イヌ体細胞は、間葉系幹細胞である請求項9に記載のイヌ体細胞の製造方法。
【請求項11】
前記イヌ体細胞は、骨芽細胞又は神経幹細胞である請求項9に記載のイヌ体細胞の製造方法。
【請求項12】
内因性のOCT3/4KLF4SOX2の少なくとも1つの遺伝子、好ましくは全ての遺伝子とNANOG遺伝子の発現が見られ、かつ分化多能性を有する生体から分離されたイヌ体細胞由来の細胞。
【請求項13】
さらに、GBX2の遺伝子の発現が見られる請求項12に記載のイヌ体細胞由来の細胞。
【請求項14】
ドキシサイクリンの存在下で、外因性遺伝子のOCT3/4KLF4SOX2の少なくとも1つ、好ましくは全ての遺伝子の発現、さらにC-MYCが導入された場合にはこれら4つの遺伝子の発現が見られる請求項12又は13に記載の細胞。
【請求項15】
酵素処理により単一細胞に分割可能である請求項12〜14の何れか1項に記載の細胞。
【請求項16】
請求項12〜15の何れか1項に記載の細胞から分化誘導されたイヌ体細胞。
【請求項17】
請求項12〜15の何れか1項に記載の細胞から分化誘導された間葉系幹細胞。
【請求項18】
請求項12〜15の何れか1項に記載の細胞から分化誘導された骨芽細胞又は神経幹細胞。
【請求項19】
請求項12〜15の何れか1項に記載の細胞を分化誘導して、イヌ体細胞を作製する方法。
【請求項20】
請求項12〜15の何れか1項に記載の細胞を分化誘導して、間葉系幹細胞を作製する方法。
【請求項21】
請求項12〜15の何れか1稿に記載の細胞を分化誘導して、骨芽細胞又は神経幹細胞を作製する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイヌiPS細胞の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イヌは、マウスやラットなどのげっ歯類と比較して生理学的にヒトに近いことに加え、大型であり、また寿命も長いため、比較的多量の薬物などの投与が可能で、長期間の実験にも適している。また、ヒトと同様の環境で生活していることからもヒトの疾患モデル動物としてより重宝されている。さらに、イヌで見られる遺伝性疾患の半数以上が同じ遺伝子の変異によるヒト疾患に類似し、イヌゲノム配列が解明されたことからも、疾患モデルとしてのイヌの需要はさらに広がる可能性がある。
【0003】
これまでに、イヌiPS細胞の作製例として種々の報告があるが、これらの報告においては、基本培地であるDMEM/F12(Dulbecco's Modified Eagle 培地とHam's F-12培地とを等量ずつ混合した培地)に、FBSなどの血清やKSRなどの血清代替物、さらにLIFのような分化抑制剤を添加した培養液が用いられていた。例えば、特許文献1では、基本培地にMAPKK(マイトジェン活性化タンパク質キナーゼキナーゼ)阻害剤であるPD0325901とALK(アクチビンレセプター様キナーゼ)阻害剤であるA-83-01とGSK(グリコーゲン合成酵素キナーゼ)阻害剤であるCHIR99021とLIF(白血病抑制因子)とHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤であるバルプロ酸を混合した培養液が使用されている。また、特許文献2では、基本培地に血清代替物であるKSRとLIFとbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を混合した培養液が使用されている。さらに非特許文献1には、基本培地にKSRとLIFとbFGF、さらにはGSK3β(グリコーゲン・シンターゼ・キナーゼ3β)抑制因子、MEK(ERK-MAP キナーゼ経路遮断剤)抑制因子、TGF-β(ベータ型変異増殖因子)拮抗薬を混合した培養液が用いられている。
【0004】
一方、ヒトiPS細胞やマウスiPS細胞においては、bFGFを用いずに、基本培地であるDMEM/F12培地に神経細胞培養に使用されるN2サプリメント(商品名)を混合した培地とneurobasal培地にB27サプリメント(商品名)を混合した培地の混合培地にLIF、MEK阻害剤、GSK3β阻害剤を加えた培地が使用されている(非特許文献2、3)。これらの文献では、得られたiPSコロニーを酵素処理することで単一細胞を得ることができ、当該単一細胞も50代程度の継代培養ができたとある。
【0005】
さらに、非特許文献4や5では、より未分化なマウスiPS細胞に類似した立体的なコロニー形成能を持つものことが報告されてはいるが、酵素を用いた継代法に耐えうることができず、各阻害剤を培地に添加しなければその形態は維持できない。また、長期間の継代培養ができていないことから、これらのiPS細胞の株化には至っていないと考えられる。
【0006】
これまでのところ、LIFやSK3β阻害剤のような分化多能性維持因子やMEK阻害剤などの分化抑制因子を用いることなく、bFGFのような細胞増殖促進因子のみの存在下で、体細胞からイヌiPS細胞が作製され、しかも長期にわたって継代培養できるiPS細胞が作製されたとの報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−161254号公報
【特許文献2】特開2011−050379号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Whitworth DJ. et al, 2014, Stem Cells Dev., Vol.23:3021-33
【非特許文献2】Jacob Hanna et al., 2014, PNAS, Vol.107(20), p9222-9227
【非特許文献3】Ying QL et al., 2008, Nature, Vol.453:519-23
【非特許文献4】Whitworth DJ. et al, 2012, Stem Cells Dev., Vol.21:2288-97
【非特許文献5】Nishimura T. et al, 2013, Stem Cells Dev., Vol.22:2026-35
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、長期にわたり安定して継代できるイヌiPS細胞株を、極めて簡単な組成の培養液を用いて作製することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、イヌの体細胞からイヌiPS細胞株を作製する方法であって、イヌ体細胞に核初期化因子を導入する工程と、核初期化因子を導入したイヌ体細胞を、塩基性維芽細胞増殖因子の存在下で分化多能性維持因子を含まない培養液を用いて培養をする工程を含む方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、極めて簡単な組成の培養液で、長期にわたり安定して継代できるイヌiPS細胞株が製造される。また、この細胞を分化誘導すればイヌの間葉系幹細胞(MSC)やその他イヌの幹細胞、体細胞がin vitroで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はフィーダー細胞上各種の培養条件で培養したイヌiPSコロニーの顕微鏡観察による画像である。
図2図2はフィーダー細胞上で50代継代培養したイヌiPSコロニー(bFGFのみを使用した場合)の顕微鏡観察による画像である。(A)は40倍の倍率での画像、(B)は400倍の倍率での画像である。
図3図3はフィーダー細胞上で得られたイヌiPS細胞を酵素処理して得られた単一細胞を培養した細胞の顕微鏡観察による画像である。(A)はフィーダー細胞上での培養で得られた細胞を、(B)マトリゲル上での培養で得られた細胞を示す。
図4図4は未分化マーカーを免疫染色したフィーダー細胞上で培養したイヌiPS細胞(30代継代)の共焦点レーザー顕微鏡観察における画像である。(A)はOCT3/4、(B)はNANOG、(C)はSSEA4を示す。
図5図5はフィーダー細胞上で培養したイヌiPS細胞(30代継代)の未分化マーカー遺伝子(C-MYCOCT3/4KLF4GBX2NANOGSOX2)の発現状態を示すグラフである。
図6図6はフィーダー細胞上で培養したイヌiPS細胞の外因性未分化マーカー遺伝子(E2A-C-MYC)の発現状態を示すグラフである。
図7図7はイヌiPS細胞の分化能を示す図であって、(A)は胚様体の顕微鏡観察による画像を、(B)は胚体様から得られた分化細胞における遺伝子発現を示すサザンブロッティングの画像である。(B)中のiPS細胞はネガティブコントロールである。
図8図8はイヌiPS細胞(35代継代)の染色体画像である。
図9図9はイヌiPS細胞の未分化の維持に対するbFGFの濃度影響を示す図である。
図10図10はイヌiPS細胞の増殖率に対するbFGFの濃度影響を示す図である。
図11図11はイヌiPS細胞から分化誘導されたMSCの顕微鏡観察における画像である。図に示す点線囲みは、胚様体の周囲に分化誘導されたMSCを示す。
図12図12はイヌiPS細胞から分化誘導した後、継代培養したMSCの顕微鏡観察による画像である。(A)は対照である成犬MSCを、(B)は分化誘導したMSCを示す。
図13図13はイヌiPS細胞から分化誘導されたMSCのフローサイトメトリーによる細胞表面マーカー(CD44及びCD90)の発現状態を示すグラフである。
図14図14はイヌiPS細胞から分化誘導されたMSCのフローサイトメトリーによる細胞表面マーカー(CD34及びCD45)の発現状態を示すグラフである。
図15図15はイヌiPS細胞から分化誘導されたMSCの細胞表面マーカー(OCT3/4及びNANOG)の発現状態を示す共焦点レーザー顕微鏡観察による画像である。
図16図16はイヌiPS細胞から分化誘導されたMSCの細胞表面マーカーの発現状態を示す共焦点レーザー顕微鏡観察による画像である。(A)はNESTINを、(B)はGFAPを示す。
図17図17は分化誘導されたMSCからさらに分化誘導された骨様細胞の顕微鏡観察による画像である。(A)は無染色細胞を、(B)はALP染色細胞を、(C)はVon Kossa染色細胞を示す。
図18図18は分化誘導されたMSCからさらに分化誘導された神経様細胞の顕微鏡観察における画像である。(A)はNeurosphereを、(B)は伸長した神経幹細胞様細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るイヌiPS細胞の作製方法は、イヌ体細胞に核初期化因子を導入する工程と、核初期化因子を導入したイヌ体細胞を、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下で分化多能性維持因子を含まない培養液を用いて培養する工程を含む。
【0014】
本発明において使用され得るイヌ体細胞は、イヌから採取される体細胞であれば特に限定されず、例えば、胎子期の体細胞であり、成熟した体細胞でもあり得る。具体的には、神経幹細胞や造血幹細胞、間葉系幹細胞、精子幹細胞などの幹細胞、リンパ球、上皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞等の既に分化した細胞等であり得る。
【0015】
核初期化因子は体細胞の核初期化を誘導する因子である。核初期化因子を体細胞に導入することでイヌ体細胞に分化多能性及び自己複製能が備えられる。該核初期化因子はこれらの機能を有する限り特に限定されず、例えば、転写因子に代表される核酸(遺伝子)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物又はこれらの混合物等であり、好ましくは転写因子である。転写因子としても、イヌ体細胞を核初期化する因子であれば特に限定されず、公知の転写因子、例えば、OCT3/4SOX2KLF4、C-MYCなどの遺伝子が示される。また、その他の因子として、NANOGLIN28TERT、SV40ラージT抗原が例示される。これらの核初期化因子の1種又は2種以上が用いられ、例えば、iPS細胞の作製に汎用されているOCT3/4SOX2KLF4、C-MYCの4つの因子の組み合わせや、発癌のリスク低減する観点から、この組み合わせからC-MYCを除いたOCt3/4SOX2及びKLF4の3因子の組み合わせが好ましく用いられる。また、転写因子は、好ましくはイヌ由来の因子であるが、ヒトやマウスなどイヌ以外の動物種の転写因子でもあり得る。
【0016】
核初期化因子の体細胞への導入方法も体細胞の核初期化が可能な方法であれば特に限定されるものではなく、公知の方法が使用され得る。例えば、転写因子をコードする核酸であれば、該核酸を発現することが可能なベクターを用いてイヌ体細胞に導入する方法が示される。2種以上の核酸(転写因子)を用いる場合には、使用される全ての核酸を1つのベクターに組み込んでイヌ体細胞内で同時に発現させてもよく、複数のベクターを用いてイヌ体細胞内で同時に発現させてもよい。
【0017】
当該ベクターとしては、例えば、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、センダイウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シルビスウイルス、ラブドウイルス、パラミクソウイルス、オルソミクソウイルス等のウイルスベクター;YAC(Yeast artificial chromosome)ベクター、BAC(Bacterial artificial chromosome)ベクター、PAC(P1-derived artificial chromosome)ベクター等の人工染色体ベクター;プラスミドベクター;宿主細胞内で自律複製可能なエピゾーマルベクター等が挙げられる。導入した転写因子の発現を人為的に制御することで、効率的に体細胞を初期化することができ、また、継続的に転写因子を発現することで、安定してiPS細胞を培養維持することができるとの観点から、薬剤の添加により転写因子を発現させる薬剤誘導性ベクター、例えばドキシサイクリンを用いるドキシサイクリン誘導性Tet-Onレンチウイルスベクター(TetO-FUW-OSKM:Addgene社製)が示される。ベクターの導入方法も特に限定されず、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、DEAEデキストラン法、遺伝子銃法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法等の公知の方法が利用され得る。
【0018】
核初期化因子を導入されたイヌ体細胞は培養液にて培養され、初期化される。本発明においては、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下でLIFなどの分化多能性維持因子を含まない培養液が用いられる。この培養液の基礎培地には、動物細胞の培養に用いられる培地が用いられる。基礎培地は、例えば、BME培地であり、BGJb培地であり、GLASGOW MEM培地であり、IMDM培地であり、Eagle MEM培地であり、DMEM培地であり、F12培地であり、Neuro Basal Mediumであり得る。
【0019】
本発明に用いられる培養液は、分化多能性維持因子を含まない培地であって、さらに好ましくは分化抑制因子も含まない培地である。本明細書において、分化多能性維持因子とは、得られたiPS細胞の分化多能性を維持する、すなわち、幹細胞の分化多能性を維持するために人為的に添加される因子をいう。分化多能性維持因子は、幹細胞が分化多能性を保つのに必要な細胞シグナル経路を活性化させる因子であり、例えば、これまで汎用されているLIFやActivinなどが示される。また、本明細書において、分化抑制因子とは、幹細胞が分化するのに必要な細胞シグナルを阻害するものをいい、得られたiPS細胞が自ら分化、すなわち個々の細胞が種々の機能を発揮し、異種の細胞に変化することを阻害する。例えば、これまで汎用されているMEK阻害薬剤である。分化多能性維持因子や分化抑制因子は、その作用機序において分化多能性維持因子としても分化抑制因子としても利用し得る場合には、分化多能性維持因子として取り扱えば足りる。また、両者を含まない培地を用いる場合には、本発明の性質上両者を区別する必要もない。本発明は、そのような因子を加えることなく、iPS細胞を作製、又はiPS細胞として維持可能することを目的とするものだからである。従って、本発明の培養液は、特許文献1に記載されたようなMAPKK阻害薬剤やALK阻害薬剤、GSK阻害薬剤であるCHIR99021、HDAC阻害薬剤など、その作用機序から見て分化多能性維持因子と同じ作用を発揮する因子を含まず、さらに好ましくは分化抑制因子と同じ作用を発揮する因子も含まない。なお、塩基性線維芽細胞増殖因子は分化多能性維持因子の範疇に入る因子ではあるが、本願発明では塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)は必須成分として取り扱われるので、本願発明における「分化多能性維持因子」には塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を含めないものとする。
【0020】
また、本発明においては無血清の培養液が使用される。無血清の培養液とは、培養液が無調整又は未精製の血清、例えばFBSや組成の不明な血清代替物、例えばKSRを含まない培地を意味する。
【0021】
一方、培養液には塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が必須成分として添加される。bFGFは公知の成分である。bFGFの添加量は、適宜当業者によって決定され得る。その添加量は、例えば培養液中1mlに対して、その下限量は例えば0.01ngであり、0.1ngであり、0.5ngであり、1ngであり得る。また、その上限量は例えば10,000ngであり、5,000ngであり、1,000ngであり、500ngであり、200ngであり得る。bFGFの由来は問わず、例えばヒト由来であり、ウシ由来であり、イヌ由来でもあり得る。
【0022】
培養液は、さらに、bFGF以外の細胞の増殖や生育の維持に関する因子を含み得る。当該因子は、例えば、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、アルブミン、ビタミン、増殖因子、抗酸化剤、2−メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類であり得る。具体的には、いわゆるサプリメントと称されるものであって、細胞増殖に寄与し得る因子である。培養液は、1種又は2種以上の因子を含み、例えば、N2サプリメント(Invitorogen社)、B27サプリメント(Invitorogen社)のような混合物が好ましく用いられる。
【0023】
本発明において好ましく用いられる培養液は、上記の基礎培地に必須の成分であるbFGFのみを添加した培養液であり、さらには、DMEM/F12培地に、N2サプリメント、B27サプリメントの少なくとも1つのサプリメント、好ましくは2つのサプリメント(N2及びB27)を含むN2B27培地に必須成分であるbFGFのみを加えた培養液、より望ましくはこれにアルブミンを加えた培養液である。
【0024】
核導入されたイヌ体細胞は、フィーダー細胞上又はフィーダーレスで培養される。フィーダー細胞も、これまでのイヌiPS細胞やヒトiPS細胞、マウスiPS細胞の作製に使用された各種の細胞が用いられ、例えば、イヌ胎子由来線維芽細胞やマウス胎子由来線維芽細胞が示される。フィーダーレスとは、フィーダー細胞を用いずにウェルやディッシュなどの培養器具上で培養することを意味する。フィーダーレスの場合には、好ましくはマトリゲルのような人工基底膜マトリックスをコートした培養器具が用いられる。
【0025】
本発明により得られるイヌiPS細胞は、イヌの体細胞由来の細胞であって、内因性のOCT3/4KLF4SOX2の少なくとも1つ、好ましくは全ての遺伝子とNANOG遺伝子の発現が見られる細胞である。さらに好ましくは内因性のC-MYCGBX2の遺伝子の発現が見られる細胞である。そして、さらに望ましくはドキシサイクリンの存在下で、外因性の遺伝子である4つの遺伝子OCT3/4(例えばE2A-OCT3/4)やSOX2(例えばE2A-SOX2)KLF4(例えばE2A-KLF4)のうち少なくとも1つの遺伝子、好ましくはこれらの3つ遺伝子の発現が見られる細胞である。そして、C-MYC(例えばE2A-OCT3/4)が導入された場合には、これら4つの外因性遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子、好ましくはこれら4つの遺伝子の発現が見られる細胞である。
【0026】
核導入されたイヌ体細胞の培養条件は、適宜当業者により設定され得る。例えば、30〜40℃の培養温度で、1〜10%程度のCO2存在下で、5日〜1週間、好ましくは1週間〜2週間の培養期間である。その一例を挙げると、約5%のCO2存在下、37℃、2週間の培養である。
【0027】
得られるiPS細胞は、自己複製能と分化多能性を有する。自己複製能は、分化多能性を保持した状態(未分化状態)で増殖できる能力であり、自己複製能を有することは継代が可能であることを意味する。特に、本発明の作製方法により得られたイヌiPS細胞は、従来のイヌiPS細胞に比べて長い継代、つまり少なくとも10代、30代、好ましくは50代以上の継代が可能である。また、当該作製方法により得られたイヌiPS細胞は、酵素処理によりその凝集体(細胞塊)を単一細胞に分割することができ、単一細胞の状態で継代培養できる。酵素処理は、例えばトリプシンによる処理であり、アクターゼによる処理であり得る。酵素処理は、酵素溶液と得られたiPS細胞の細胞塊を接触させることで行われる。処理の条件は当業者により適宜決定できる事項であって、例えば0.01%以上1.0%のトリプシン溶液、好ましくはさらにEDTAを含む溶液が用いられる。当該酵素処理による分割は、いわゆるピペッティングやセルナイフによる分割などの物理的方法に変わる分割方法である。特許文献1に記載の方法で得られるイヌiPS細胞の細胞塊は酵素処理により単一細胞に分割できなかったが、本発明の作製方法によれば酵素処理により単一細胞への分割が可能な細胞塊(細胞集団)が得られ、継代培養の際の効率化が図られる。
【0028】
分化多能性は三胚葉(外胚葉、内胚葉、中胚葉)系の幹細胞、すなわち、あらゆる幹細胞に分化できる能力であり、分化多能性を有することはイヌES細胞と同様にあらゆる幹細胞に分化することを意味する。従って、得られたイヌiPS細胞は、これを分化誘導することで、種々の細胞、例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、血液細胞、神経細胞、生殖細胞などが作製され得る。また、作製されたイヌiPS細胞を分化して得られた細胞、例えば幹細胞や体細胞は、さらにiPS細胞へ戻すことも可能である。これは、例えば前記の薬剤誘導性ベクターが導入された細胞に当該薬剤を作用させることや、新たに核初期化因子を導入することで達成され得る。
【0029】
継代培養条件は、上記核初期化する際に用いた培養液と同様の培養液が用いられ得る。また、継代培養に際しては、初期化する際に用いた培養液組成に対して、分化多能性維持因子や分化抑制因子を用いても差し支えない。フィーダー細胞の有無も問わず、フィーダー細胞上でも、またフィーダーレスの条件でも差し支えない。
【0030】
分化誘導方法も特に制限されず、公知であるiPS細胞からの分化誘導方法が適用され得る。例えば、間葉系幹細胞(MSC)への分化には、DMEM/F12培地にウシ胎子血清(FBS)やNon essential amino acid(NEAA)を加えた培地で浮遊培養して胚様体を作製した後、これをMEM-α Glutamax(商品名:GIBCO社製)にMEM NEAAやFBS、bFGFを加えた培地で接着培養する方法が、骨様細胞には、作製した胚様体をDMEM培地にFBS、β−glycerophosphateを加えた骨分化培地で培養する方法が例示されるが、これらに限られるものではない。
【0031】
以上のように本発明の方法によれば、従来の方法に比べてより少ない因子、特にLIFのような分化多能性維持因子、さらには分化抑制因子を用いずにイヌ体細胞からイヌiPSを作製できる。得られたイヌiPS細胞は、多世代の継代可能な自己複製能と三胚葉系の幹細胞、さらには各種の体細胞や生殖細胞に分化する分化多能性を有する。
【0032】
以下、以下の実施例に基づいて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0033】
〔イヌiPS細胞株の作製〕
イヌ胎子線維芽細胞(CEF)に、ドキシサイクリンの添加により遺伝子を発現させることができる薬剤誘導性レンチウイルスを用いて遺伝子導入を行い、イヌiPS細胞の作製を試みた。N2B27培地を基礎培地として、添加因子としてLIF、bFGF、GSK3β阻害薬剤(CHIR99021)及びMEK阻害薬剤(PD0325901)の要否について検討を行った。また、フィーダー細胞(マウス胎子線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:MEF)の要否についても検討を加えた。なお、以下において、試薬の濃度は全て最終濃度である。
【0034】
1.フィーダー細胞(マウス胎子線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast:MEF))の作製
妊娠14.5日齢のICRマウス(Slc:ICR、日本SLC社製)から胎子を摘出し、常法に従って得た胎子組織を、DMEM培地(SIGMA社製)に10%FBS(PAA Laboratories GmbH 社製、Ontario、Canada)、2mM L-glutamine(SIGMA社製)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液(SIGMA社製)を添加した培養液で37℃、5%CO2下で培養した。この初代培養細胞は増殖後、継代を行い、3代以内の継代細胞を実験に使用した。また、実験には、10μg/mlマイトマイシン注用(協和発酵工業社製)を添加した前記培養液で、37℃、5%CO2下で2.5時間培養してマイトマイシンC処理を行った。D-PBS(-)5mlで細胞を洗浄し、0.25%トリプシン-EDTA溶液(SIGMA社製)で回収し、フィーダー細胞とした。
【0035】
2.イヌ胎子線維芽細胞(CEF)へのレンチウイルスによる遺伝子の導入
1)パッケージング細胞の準備
パッケージング細胞として293FT cell line(Invitrogen社製)を用いた。DMEMに10%FBS、2mM L-glutamine、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、0.1mM MEM NEAA(GIBCO社製)、1mM sodium pyruvate(SIGMA社製)、500μg/ml geneticin(Invitrogen社製、培養初日および遺伝子導入時は除去)を添加した培養液を用いた。100mm組織培養用ディッシュに培養液10mlを入れ、細胞数が2×106個の濃度で、37℃、5%CO2下で培養した。この培養細胞は増殖後、0.25%トリプシン-EDTA溶液を用いて回収した。得られた293FT細胞を100mm組織培養用ディッシュに、上記の293FT細胞用の培養液を入れ、1ディッシュ当たりの細胞数が2×106個となるように播種し、37℃、5%CO2下で一晩培養した。
【0036】
2)核初期化因子導入用ウイルス液の調整
予め準備しておいたテトラサイクリン制御性トランス活性化因子を発現するFUW-M2rtTAレンチウイルスベクター(Addgene社製)とレンチウイルス構成タンパク発現ベクター(psPAX2およびpMD2.G(Addgene社製))を、 Lipofectamin 2000(Invitrogen社製)を用いたリポフェクタミン法により、1)で準備した293FT細胞に導入した。さらに、4つの多能性維持遺伝子(マウスOCT3/4、KLF4、SOX2、C-MYC)が組み込まれてテトラサイクリン応答因子を持ったTetO-FUW-OSKMレンチウイルスベクター(Addgene社製)とレンチウイルス構成タンパク発現ベクターを上記と同様にして新たな293FT細胞に導入した。24時間後にそれぞれの培養液を交換し、さらに24時間後、0.45μm cellulose acetate filter (Whatman社製、Kent、ME)を用いてFUW-M2rtTA及びTetO-FUW-OSKMのウイルス液を回収した。
【0037】
3)CEFの準備とレンチウイルスの感染
妊娠30週齢のビーグル犬(日本SLC社製)から胎子(雄)を摘出し、常法に従って得た胎子組織からCEFを、前記MEFと同様の条件で培養した。培養には、DMEM培地に10%FBS、2mM L-glutamine、100IU/mlペニシリン-100μg/mlストレプトマイシン混合溶液を添加した培養液を用いた。CEFを35mm組織培養用ディッシュ(IWAKI社製)に、1ディッシュ当たりの細胞数が9.5×104個となるように播種し、37℃、5%CO2下で一晩培養した。ディッシュ一面に増殖したCEFに、上記2つのウイルス液の混合液に8μg/mlポリブレン(Nacalai Tesque社製)を添加したものを加え、CEFにウイルスを感染させた。
【0038】
3.イヌiPS細胞作製
1)イヌiPS細胞の作製条件の検討
イヌiPS細胞の作製条件を調べるために、基材条件及び培地条件(添加因子)について、表1に示す条件で検討した。また、対照として特許文献1に記載された条件を採用した。対照にはドキシサイクリンのみを添加したN2B27培地を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
ウイルス感染の24時間後に培養液を交換し、さらに24時間後0.25%トリプシン-EDTA溶液を用いて継代し、準備しておいたMEF細胞(フィーダー細胞)又はマトリゲル(Becton Dickinson Bioscience bioscience社製)をコーティングしたディッシュに、2.で得られた感染済みCEFを、CEF培養液を用いて、1つの35mm組織培養用ディッシュ当たりの細胞数が2〜3×104個となるように播種し、37℃、5%CO2下で培養した。
【0041】
播種翌日より、N2B27培地[DMEM/F12培地(Lifetechnologies社製)に1×N2(Invitrogen社製)を添加した培地とNeuro Basal Mediumに1×B27(Invitrogen社製)を添加した培地を1対1(容量比)に混合した培地]に、5mg/mlアルブミン(ウシ血清由来アルブミン:BSA)、1mM L-グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、1%NEAAと、0.1mM 2-メルカプトエタノール(SIGMA社製)と、4μg/ml ドキシサイクリン(Clontech)と、表1に従って、4ng/ml basic fibroblast growth factor(bFGF:Peprotech Rocky社製)、1000U/ml leukemia inhibitory factor(LIF:和光純薬工業社製)、2つ阻害薬剤(3μM GSK3βinhibitor:CHIR99021、1μM MEK inhibitor:PD0325901、各TOCRIS社製)を加えた培地に交換し、その後毎日培地を交換した。bFGFとLIFは培地交換ごとに添加した。また、対照として、市販のイヌiPS培地(DMEM/F12培地、SIGMA社製)に20%KSR(GIBCO社製)と、2mM L-グルタミンと、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液と、0.1mM NEAAと、1.14μM 2-メルカプトエタノールと、4ng/ml bFGFと、1000U/ml LIFを加えた培地(特許文献1参照)を用いて、培養を行った。
【0042】
2)イヌiPS細胞の継代
MEF細胞上で培養したCEF細胞については、出現した初代コロニーをウイルス感染後8〜20日後に、ガラスピペットの細い先端をバーナーで熱し、45度に曲げたセルナイフを用いて物理的にコロニーを分割し、MEFコートした新たな35mm組織培養用ディッシュに、前記1)でiPS細胞の作製に用いたN2B27培地を用いて播種した。以後、3〜6日間隔で同様にして継代した。また、安定して培養できたコロニーについては、0.05%トリプシン-EDTA溶液を用いた単一細胞での酵素継代を行った。一方、マトリゲル上に播種したCEF細胞についてもウイルス感染後8〜20日後に、同様の方法で継代し、フィーダーレス下で培養を行った。
【0043】
フィーダー細胞上で培養した場合、培養開始5日後で初代コロニーが出現した。フィーダー細胞上で培養した場合の出現コロニーの顕微鏡観察による画像を図1に示す。図1に示すようにコロニーの形態はドーム方から扁平型で多様であった。また、このときのコロニー作製効率(作製数/培養細胞数)は表2に示すとおりであり、LIFのみを添加した場合はもちろんのこと、bFGFのみを添加したN2B27培地でもiPS細胞が作製された。しかしながら、コロニーの作製効率はbFGFのみを用いた場合は、LIFのみを用いた場合に比べておおよそ2倍の細胞数となり作製効率がよかった。なお、表2の分母には3ディッシュの合計細胞数を表している。
【0044】
継代では、MEF上でbFGFのみを用いた場合の継代培養数は50回以上にも及んだが、その他の場合にはわずか数回でしかなかった。15回継代培養した細胞の顕微鏡画像を図2に示す。また、フィーダー細胞を使用せずにマトリゲル上で培養した場合にもコロニーが作製されることが確認された。MEF上で得られたコロニーはMEF上およびマトリゲル上の双方で、酵素処理により単一細胞の継代が可能となった(図3)。しかも、これら単一細胞から50回以上の長期にわたる継代も行えた。
【0045】
【表2】
【0046】
〔イヌiPS細胞株の特性解析〕
フィーダー細胞上で得られたイヌiPS細胞株の細胞特性として、未分化マーカーの発現、分化能、核型分析、ALP活性及び増殖率を調べた。
【0047】
1.未分化マーカーの発現
免疫染色及び量的リアルタイムPCRにより未分化マーカー(OCT3/4、NANOG、SSEA4等)の発現を調べた。
1)免疫染色
30代継代された細胞株を4%パラホルムアルデヒドで室温、5分間固定した。D-PBS(-)(Nacalai Tesque社製)で洗浄後、0.5% Triton X-100(Nacalai Tesque社製)で5分間透過処理をした。さらに、1%BSA含有D-PBS(-)中で30分間のブロッキングを行なった。その後、一次抗体としてヤギ抗NANOGポリクロナール抗体(Abcam社製)、ウサギ抗OCT3/4モノクロナール抗体(SANTA CRUZ社製)、マウス抗SSEA4モノクロナール抗体(Millipore社製)をNANOGは100倍希釈、OCT3/4とSSEA4は1,000倍希釈したものを加えて、4℃で一晩培養した。
【0048】
0.1%BSA/PBSで洗浄後、二次抗体を使用した。二次抗体はNANOGに対してはPE標識ロバ抗ヤギIgG抗体(NOVUS社製)を、OCT3/4に対してはAlexa546標識ヤギ抗マウスIgG抗体(Invitrogen社製)を、SSEA4に対してはCy3標識ヤギ抗マウスIgM抗体(Chemicon社製)をそれぞれ1,000倍に希釈して使用した。30〜60分間染色後、ProLong Gold antifade reagent with DAPI(Invitrogen社製)を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Nikon Clsi型、ニコン社製)にて観察した。その結果を図4に示した。
【0049】
2)量的リアルタイムPCRによる未分化マーカーの解析
30代継代されたイヌiPS細胞から、RNeasy(登録商標) Micro Kit(QIAGEN社製)を用いてtotal RNAの抽出を行った。内因性遺伝子であるcanine OCT3/4C-MYCKLF4及びNANOGに対しては、すでに明らかになっているイヌの塩基配列(OCT3/4:Accession:XM_538830.1、C-MYC:Accession:NM_001003246.2、KLF4:Accession:XM_005626996.1、NANOG:Accession:XM_005642425)を基にプライマーを設計した。また、Canine SOX2に対してはLeeら(J Biol Chem. 286:32697-704)が報告したプライマーを、GBX2に対してはVaagsら(Stem Cells. 27:329-40)が報告したプライマーを使用した。外因性遺伝子であるE2A-C-MYCに対して、addgene社から報告されているベクター配列を基にプライマー(センス鎖とアンチセンス鎖)を設計した。
【0050】
次に、抽出したtotal RNAから逆転写反応により、cDNAの合成を行った。合成には、My Cycler(商品名:バイオ・ラッドラボラトリーズ社製)を用いた。合成されたcDNA溶液1μlにつき、SsoFastTM EvaGreen(登録商標) Supermix(Bio Rad社製)5μl、外因性及び内因性未分化マーカーの25pmol/μl センス鎖とアンチセンス鎖のプライマー溶液各0.2μl、を加え、滅菌蒸留水で総量10μlとした。その後、MiniOpticon(登録商標) System(Bio Rad社製)を用いて反応させた。Canine OCT3/4C-MYCKLF4NANOGSOX2およびGBX2にはCEF、iPS細胞株7:26代継代培養(P26)、iPS細胞株9:P21、iPS細胞株9マトリゲル上培養:P35から得られたmRNAよりcDNAを作製し用いた。E2A-C-MYCには、iPS細胞株9:P15を継代後にドキシサイクリンを除いて2日目、4日目、6日目のコロニーから得られたmRNAからcDNAを作製し用いた。内部標準マーカーとしてβACTINを使用した。ネガティブコントロールにはCEFを使用した。
【0051】
免疫染色ではNanog、OCT3/4およびSSEA4に陽性であり(図4)、リアルタイムPCRでは内因性未分化マーカーであるC-MYCOCT3/4KLF4GBX2NANOGSOX2の各遺伝子の発現がみられた(図5)。また、ドキシサイクリン非存在下では、イヌiPS細胞は増殖を止め、外因性未分化マーカーであるE2A-C-MYCの遺伝子はドキシサイクリン非存在下でその発現は急速に抑制された(図6)。
【0052】
2.分化能
分化能として、胚様体の形成及び外胚葉マーカーであるTUJ1、中胚葉マーカーであるDESMIN、 内胚葉マーカーであるGATA4の遺伝子発現を調べた。
1)胚様体の形成
得られたイヌiPS細胞を、4〜6日間の浮遊培養を行った。なお、培養液はDMEM/F12培地に20%FBS、2 mM L-グルタミン、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、0.1mM NEAA、1.14μM 2-メルカプトエタノールを添加した培地を使用した。形成した胚様体は、0.1%ゼラチンコートした35mm組織培養用ディッシュで、同様の培地を用いて約1〜2週間接着培養を行った。
【0053】
2)遺伝子発現
前記未分化マーカーの測定時と同様の方法で、1)で作製された胚様体からtotal RNAを回収した。回収したRNAから逆転写反応でcDNAを作製してPCRを行った後、2.0%アガロースゲルで、100V 20分間電気泳動した。オリゴヌクレオチドプライマーにはGATA4DESMINおよびTUJ1を使用した。DESMINに対するプライマーは、公知であるイヌの塩基配列(DESMIN:Accession:NM_001012394.1)を基に設計した。GATA4に対するプライマーはVaagsら(Stem Cells. 27:329-40)が報告したプライマーを使用した。TUJ1に対するプライマーはHayesら(Stem Cells. 26:465-73)が報告したプライマーを使用した。
【0054】
得られたイヌiPS細胞を4〜6日間浮遊培養すると図7(A)に示すように胚様体が形成された。また、これらの胚体様を接着培養することで、種々の細胞へと分化し、これらの分化細胞では、外胚葉マーカーであるTUJ1、中胚葉マーカーであるDESMIN、 内胚葉マーカーであるGATA4の遺伝子発現がみられた(同図(B))。
【0055】
3.核型分析
得られたイヌiPS細胞コロニーを分割せずに、0.1%ゼラチンコートした35mm組織培養ディッシュに継代した。35代継代した細胞を簡易ヘマカラーキット(Merk chemicals社製、Darmstad、Germany)を用いてギムザ染色して、光学顕微鏡下で観察した。図8に示されたように、78本のイヌ常染色体2nが観察され、性染色体がXY型で観察された。
【0056】
4.ALP活性
得られたイヌiPS細胞株(フィーダー細胞上で培養された細胞株)について、bFGF濃度を4,10,20,100ng/mlで添加し、未分化状態に対する影響を未分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を指標にして調べた。ALP活性はStemgent(登録商標) Alkaline Phosphatase Staining Kit II(Stemgent社製)を用いて酵素染色した後に判定した。その結果を図9に示す。この結果から、bFGF濃度を上げることで陽性を示す細胞数が増加し、未分化状態の維持が向上することが示唆された。図9はマトリゲル上で培養したイヌiPS細胞の場合を示すが、MEF上での培養では100ng/mlのbFGFを含む培地で培養することが、未分化状態の維持には好ましいと言える(図示せず)。
【0057】
5.増殖率測定
得られたイヌiPS細胞株(フィーダー細胞上で培養された細胞株)について、bFGF濃度を4,10,20,100ng/mlで添加してマトリゲル上で培養し、その増殖性に対する影響を調べた。単一細胞継代後96時間における増殖率をワケンカウンター(和研薬株式会社製)にて測定した。その結果を図10に示す。4ng/ml以上の添加はイヌiPS細胞の増殖率に影響を与えることはなかった。また、MEF上での培養でも4ng/ml以上の添加はイヌiPS細胞の増殖率に影響を与えることはなかった(図示せず)。
【0058】
6.まとめ
上記のように、ドキシサイクリン誘導性レンチウイルスベクターを用いて、N2B27培地にbFGFのみを添加する培地により、長期継代可能であり、かつ、酵素分割で単一細胞継代が可能なイヌiPS細胞を作製できた。このiPS細胞は、フィーダー細胞上ではもちろんのことフィーダーレスでも維持することが可能であり、凍結融解によってもその形態及び増殖能に変化はみられなかった(図示せず)。マウスiPS細胞などの未分化な幹細胞は単一細胞継代で継代できることが報告されていることから、得られたイヌiPS細胞はマウス型iPS細胞と同様に未分化度が高いと考えられる。
【実施例2】
【0059】
〔間葉系幹細胞への分化誘導〕
次に実施例1で作製したイヌiPS細胞から間葉系幹細胞(MSC)へ分化誘導し、その形態的構造や機能について解析を行った。
【0060】
1.イヌiPS細胞からMSCへの分化誘導
イヌiPS細胞を実施例1と同様にして浮遊培養によって胚様体を形成させ、4日後に60mm細胞培養用ディッシュ(IWAKI社製)接着培養した。接着時に培地をMEM-α Glutamax(GIBCO社製)に1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、1%MEM NEAA、10%FBS、および8ng/ml bFGFを添加したMSC培地に変更し、37℃、5% CO2下で培養した。培地交換は2日に1回行ない、bFGFの添加は毎日行なった。次に70〜80%コンフルエントまで増殖した細胞を0.05%トリプシン-EDTA溶液で処理して細胞を回収し、新しいディッシュに播種することで継代培養を行った。また、対照として、成犬由来の骨髄間質細胞(BMSC)を同様にして継代培養を行った。
【0061】
接着培養で得られたMSCの顕微鏡観察における画像を図11に、また、継代培養したMSCの顕微鏡観察における画像を図12に示す。図12に示す点線囲みの部分に、胚様体の周囲に分化してできたMSCが観察された。また、図12に示すように、成犬由来のBMSCの継代培養と同様に、継代を重ねても得られたイヌiPS細胞由来MSCの継代においても変化は見られなかった。
【0062】
2.フローサイトメトリーによる細胞表面マーカーの解析
分化誘導したMSCを0.05%トリプシン-EDTA溶液で処理して細胞を回収し、PE標識マウス抗イヌCD34抗体(Becton Dickinson Bioscience社製)、FITC標識ラット抗イヌCD45抗体(AbD Serotec社製)、PE標識ラット抗イヌCD44抗体(Becton Dickinson Bioscience社製)及びビオチン化マウス抗イヌCD90抗体(AbD Serotec社製)を加え、氷上で30分静置して反応させた。さらに抗CD90抗体に対しては、静置後、浮遊細胞をFCN液(D-PBS(-)に2%FBSと1mg/ml sodium azideを添加した溶液)にて洗浄した後、streptavidin-PE-Cy5 (Becton Dickinson Bioscience社製)を加えて氷上で30分静置して反応させた。染色後、各細胞表面マーカーの発現をフローサイトメーター(FACSCaliburTM、Becton Dickinson社製)を用いて測定した。また、対照としてイヌ骨髄間質細胞由来MSC(BMSC)についても測定を行った。得られたイヌiPS細胞はBMSCと同様に、CD90とCD44に陽性であり(図13)、CD45とCD34陰性であった(図14)。
【0063】
3.未分化マーカーおよび神経系マーカーに対する免疫染色
分化誘導したMSCを4%パラホルムアルデヒド中で10分間固定した。D-PBS(-)(Nacalai Tesque社製)で洗浄後、0.5%Triton X-100(Nacalai Tesque社製)で5分間透過処理をした。さらに、1%BSA含有D-PBS(-)中で30分間のブロッキングを行なった。その後、一次抗体として、ウサギ抗OCT3/4ポリクローナルIgG抗体(Santa Cruz社製)、ヤギ抗NANOGポリクロナール抗体(Abcam社製)、ウサギ抗NESTINポリクローナル抗体(Millipore社製)、及びウサギ抗glial fibrillary acidic protein(GFAP)ポリクローナル抗体(Millipore社製)を、抗NANOG抗体は100倍希釈、他は1000倍希釈したものを室温で60分間反応させた。二次抗体は、OCT3/4、NESTIN及びGFAPに対しては、Alexa 546標識抗ウサギIgG抗体(Invitrogen社製)を1000倍希釈、NANOGに対してはPE標識ロバ抗ヤギIgG抗体(NOVUS社製)を100倍希釈して、室温で30分間反応させた。染色後、ProLong(登録商標) Gold antifade reagent with DAPI(Invitrogen社製)を用いて封入し、共焦点レーザー顕微鏡(Nikon clsi型:ニコン社製)にて観察した。イヌiPS細胞由来のMSCは神経幹細胞マーカーであるNESTINに陽性であり、グリア細胞マーカーであるGFAPに陰性であった(図15)。さらに未分化マーカーであるOCT3/4及びNANOGに陰性を示した(図16)。
【実施例3】
【0064】
〔骨様細胞への分化誘導〕
分化誘導して得られたMSCから骨様細胞へ分化誘導を行った。得られたMSCを12wellプレート(IWAKI社製)に細胞数が4×103個/cm2となるように播種した。1日後から培地を、DMEM培地(1.0g/L glucose)(Nacalai Tesque社製)に10%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、50μMアスコルビン酸(和光純薬工業社製)、10mM β-glycerophosphate(Nacalai Tesque社製)、100nM Dexamethasone(SIGMA社製)を添加したものに変更した。培地交換は2日に1回半量行ない、28日間37℃、5%CO2下で培養した。分化誘導した細胞について、骨芽細胞で陽性となるアルカリフォスファアターゼ(ALP)染色を、Stemgent Alkaline Phosphatase Staining Kit II(Stemgent社製)を用いて行った。また、骨芽細胞による石灰沈着の確認を行なうため、Von Kossa染色を行なった。細胞を95%エタノール(SIGMA社製)で15分間室温にて固定した。超純水で洗浄後、5%硝酸銀(和光純薬工業社製)溶液を加え、室温、蛍光灯下で1〜2時間反応させた。次に、超純水で洗浄後、5%チオ硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)溶液を加えて3分間反応させ、洗浄後、光学顕微鏡によって観察した。分化誘導された細胞(図17(A))は、骨芽細胞マーカーであるALP染色に陽性を示し(同図(B))、VonKossa染色に陽性を示した(同図(C))。
【実施例4】
【0065】
〔神経様細胞への分化誘導〕
分化誘導して得られたMCSから神経様細胞に分化誘導した。得られたMSCをアストロサイト培養上清添加培地(Neuron Culture Medium)(住友ベークライト社製)に20ng/ml bFGFを添加した培養液の入った無処理60mmディッシュ(IWAKI社製)に移し、37℃、5%CO2下で培養した。培地交換は2日に1回、半量行ない、bFGFの添加は毎日行なった。10日間の培養後、形成した浮遊細胞塊を10μg/mlラミニン(AGCテクノグラス社製)をコートしたpoly-L-lysine-coated 35mmディッシュ(IWAKI社製)に移し、Neurobasal Mediumに2mM L-glutamine、1%ペニシリン/ストレプトマイシン混合溶液、B27 Supplement(50x、GIBCO社製)を添加した培地にて37℃、5%CO2下で接着培養した。培地交換は2日に1回半量行ない、毎日、終濃度20ng/mlのbFGFおよびヒト組換え上皮細胞増殖因子(EGF、R&D Systems社製)を添加した。得られたMSCを神経幹細胞分化培地で培養することで、Neuroshpereが得られた(図18(A))。このNeurosphereを接着培養することで、Neurosphereの周囲から神経幹細胞様の形態を示した細胞が出現した(図18(B))。
【実施例5】
【0066】
〔MSCのiPS細胞への再初期化〕
実施例2においてイヌiPS細胞を分化誘導することで得られたMSCを10回以上継代したのち、再び実施例1のbFGF添加N2B27培地を用いたイヌiPS細胞の作製方法と同様にして、ドキシサイクリンを培養液に添加することで、一度分化誘導させたMSCから再びイヌiPS細胞コロニーを作製することができた(図示せず)。しかも、MSCに核初期化因子を再度導入することなくiPS細胞への再初期化が行えた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、簡単な培地組成で、長期にわたり継代が可能なイヌiPS細胞が作製される。
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【国際調査報告】