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再表2017-141825冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年8月24日
【発行日】2018年12月27日
(54)【発明の名称】冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20181130BHJP
   F04B 39/02 20060101ALI20181130BHJP
   C10M 125/02 20060101ALI20181130BHJP
   C10M 105/32 20060101ALI20181130BHJP
   C10M 105/06 20060101ALI20181130BHJP
   C10M 107/24 20060101ALI20181130BHJP
   C10M 107/34 20060101ALI20181130BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20181130BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20181130BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20181130BHJP
   C10N 20/06 20060101ALN20181130BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20181130BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20181130BHJP
【FI】
   F04B39/00 A
   F04B39/00 107B
   F04B39/02 K
   C10M125/02
   C10M105/32
   C10M105/06
   C10M107/24
   C10M107/34
   C10M101/02
   C09K5/04 B
   C09K5/04 Z
   C09K5/04 E
   F25B1/00 396A
   F25B1/00 396C
   F25B1/00 396Z
   C10N20:06 Z
   C10N30:06
   C10N40:30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】24
【出願番号】特願2018-500080(P2018-500080)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年2月10日
(31)【優先権主張番号】特願2016-29407(P2016-29407)
(32)【優先日】2016年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100170494
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 貴規
(72)【発明者】
【氏名】大八木 信吾
【テーマコード(参考)】
3H003
4H104
【Fターム(参考)】
3H003AA02
3H003AB04
3H003AC03
3H003BD07
4H104AA04C
4H104BA04A
4H104BB31A
4H104BB41A
4H104CB02A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA08C
4H104LA03
4H104PA01
4H104PA20
4H104QA19
(57)【要約】
冷媒圧縮機(171)であって、電動要素(106)と、電動要素(106)により駆動され、摺動部を有し、冷媒を圧縮する圧縮要素(107)とを備えている。そして、摺動部を潤滑させる冷凍機油(103)に、直径が100pmから10nmのフラーレン(181)が添加されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動要素と、
前記電動要素により駆動され、摺動部を有し、冷媒を圧縮する圧縮要素とを備え、
前記摺動部を潤滑させる冷凍機油に、直径が100pmから10nmのフラーレンが添加された
冷媒圧縮機。
【請求項2】
前記フラーレンは、
C60フラーレン、C70フラーレン、および、前記C70よりも炭素数が多い高次フラーレンのうち、いずれかのフラーレンである、
または、
前記C60フラーレン、前記C70フラーレン、および、前記高次フラーレンのうち、少なくとも二つが混合されたミックスフラーレンである
請求項1に記載の冷媒圧縮機。
【請求項3】
前記フラーレンの形状は、円球形、または、楕円球形である
請求項1または請求項2に記載の冷媒圧縮機。
【請求項4】
前記フラーレンの添加量は、前記冷凍機油に対する飽和溶解量、または、それ以下である
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項5】
前記圧縮要素で圧縮される冷媒は、HFC系冷媒、または、前記HFC系冷媒を含む混合冷媒であり、
前記冷凍機油は、
エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、および、ポリアルキレングリコールのうちのいずれかである、または、
前記エステル油、前記アルキルベンゼン油、前記ポリビニルエーテル、および、前記ポリアルキレングリコールのうち、少なくとも二つの混合油である
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項6】
前記圧縮要素で圧縮される冷媒は、
R600a、R290、およびR744のうち、いずれかの自然冷媒である、
または、
前記R600a、前記R290、および前記R744のうち、少なくともいずれかを含む混合冷媒であり、
前記冷凍機油は、
鉱油、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、およびポリアルキレングリコールのうち、いずれかひとつ、または、
前記鉱油、前記エステル油、前記アルキルベンゼン油、前記ポリビニルエーテル、および前記ポリアルキレングリコールのうち、少なくとも二つの混合油である
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項7】
前記圧縮要素で圧縮される冷媒は、HFO系冷媒、または、前記HFO系冷媒を含む混合冷媒であり、
前記冷凍機油は、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、およびポリアルキレングリコールのうち、いずれかひとつ、または、
前記エステル油、前記アルキルベンゼン油、前記ポリビニルエーテル、および前記ポリアルキレングリコールのうち、少なくとも二つの混合油である
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項8】
前記電動要素は、複数の運転周波数でインバータ駆動される構成である
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項9】
前記圧縮要素は、
主軸部を有するクランクシャフトと、
前記主軸部を軸支する軸受部を有し、ボアを形成するシリンダブロックと、
前記ボアに遊嵌されたピストンと、を有し、
前記摺動部は、少なくとも、前記主軸部と前記軸受部との間、および、前記ピストンと前記ボアとの間に形成される
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の冷媒圧縮機。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の冷媒圧縮機と、
前記冷媒圧縮機、放熱器、減圧装置、および吸熱器が、配管によって環状に連結された冷媒回路とを備えた、
冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷蔵庫、およびエアコンディショナ等に使用される、冷媒圧縮機、ならびに、それを用いた冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、化石燃料の使用を少なくするため、高効率な冷媒圧縮機の開発が進められている。
【0003】
このような冷媒圧縮機の高効率化に適する技術として、従来、冷媒圧縮機のピストンおよびクランクシャフト等の摺動面に、リン酸塩被膜を形成する技術がある。これにより、機械加工仕上げの加工面の凹凸を消し、摺動部材同士の初期なじみを良好にすることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、摺動面の摩擦係数を小さくするために、潤滑油に、石油系、または石炭系の重質留分を熱処理することにより得られる、直径0.1μmから100μmの炭素系光学的異方性球体を添加することが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
この潤滑油は、添加された、直径が0.1μmから100μmの炭素系光学的異方性球体が固体潤滑剤として作用することにより、摺動面の摩擦係数を小さくし、発熱を減少させるとともに、摩耗を軽減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−238885号公報
【特許文献2】特公昭60−3360号公報
【発明の概要】
【0007】
本開示は、信頼性が高く、高効率の冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍装置を提供するものである。
【0008】
本開示の冷媒圧縮機は、電動要素と、電動要素により駆動され、摺動部を有し、冷媒を圧縮する圧縮要素とを備え、摺動部を潤滑させる冷凍機油に、直径が100pmから10nmのフラーレンが添加された構成である。
【0009】
これにより、フラーレンが、摺動部に安定的に供給されて、固体潤滑剤として作用するので、凝着摩耗および異常摩耗の発生が防止できるとともに、摩擦損失を低減させることができる。
【0010】
本開示の冷媒圧縮機は、直径が100pmから10nmまでのフラーレンを添加した冷凍機油が用いられることにより、凝着摩耗および異常摩耗の発生を防止できる。また、摩擦損失を低減することができるので、信頼性が高く、高効率な冷媒圧縮機、およびそれを用いた冷凍装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の第1の実施の形態における冷媒圧縮機の断面図である。
図2図2は、本開示の第1の実施の形態におけるフラーレンの模式図である。
図3図3は、本開示の実施の形態にかかる、摩擦摩耗試験における各フラーレン添加油を用いた時の摩擦係数を示した特性図である。
図4図4は、本開示の実施の形態にかかる、摩擦摩耗試験における各フラーレン添加油を用いた時のボールに生じた摺動痕の長さを示した特性図である。
図5A図5Aは、本開示の実施の形態における、摩擦摩耗試験後のボールに生じた摺動痕の一例を示した拡大図である。
図5B図5Bは、本開示の実施の形態における、摩擦摩耗試験後のボールに生じた摺動痕の一例を示した拡大図である。
図6図6は、本開示の第2の実施の形態における冷凍装置の構成を示す模式図である。
図7図7は、本開示の比較例となる冷媒圧縮機の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、比較例の説明を行い、本開示が解決しようとする課題について、詳細に説明する。
【0013】
図7は、本開示の比較例となる冷媒圧縮機100の断面図である。
【0014】
図7に示されるように、冷媒圧縮機100は密閉容器1を備える。密閉容器1は、底部に冷凍機油2を貯留している。また、密閉容器1は、固定子3および回転子4からなる電動要素5と、電動要素5によって駆動される、往復式の圧縮要素6とを収容している。
【0015】
次に、圧縮要素6の詳細を説明する。
【0016】
クランクシャフト7は、回転子4が圧入固定された主軸部8と、主軸部8に対して偏心して形成された偏心軸9とからなる。クランクシャフト7には、給油ポンプ10が設けられている。
【0017】
シリンダブロック11は、略円筒形(円筒形を含む)のボア12からなる圧縮室13を形成している。シリンダブロック11には、主軸部8を軸支する軸受部14が設けられている。
【0018】
ボア12に遊嵌されたピストン15は、ピストンピン16を介して、偏心軸9との間を、連結手段であるコンロッド17によって連結されている。ボア12の端面は、バルブプレート18によって封止されている。
【0019】
ヘッド19は、高圧室を形成する。ヘッド19は、バルブプレート18の、ボア12が設けられている側とは反対側に固定されている。サクションチューブ20は、密閉容器1に固定されるとともに、冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続され、冷媒ガス(図示せず)を密閉容器1内に導く。サクションマフラ21は、バルブプレート18とヘッド19とに挟持されている。
【0020】
クランクシャフト7の主軸部8と軸受部14、ピストン15とボア12、ピストンピン16とコンロッド17、および、クランクシャフト7の偏心軸9とコンロッド17は、それぞれ、相互に摺動部を形成する。これら複数の摺動部を構成する摺動部材の中で、鉄系材料同士の組み合わせにおいては、どちらか一方の摺動部材表面に、多孔質結晶体からなる不溶解性のリン酸塩被膜が形成されている。
【0021】
以上のような構成において、次に動作を説明する。
【0022】
商用電源(図示せず)から供給される電力は、電動要素5に供給されて、電動要素5の回転子4を回転させる。回転子4は、クランクシャフト7を回転させ、偏心軸9の偏心運動により、連結手段のコンロッド17およびピストンピン16を介して、ピストン15が駆動される。ピストン15は、ボア12内を往復運動する。これにより、サクションチューブ20を通して密閉容器1内に導かれた冷媒ガスが、サクションマフラ21から吸入され、圧縮室13内で連続して圧縮される。
【0023】
冷凍機油2は、クランクシャフト7の回転に伴って、給油ポンプ10から各摺動部に給油される。冷凍機油2は、各摺動部を潤滑させるとともに、ピストン15とボア12との間においては、シール機能を司る。
【0024】
ここで、クランクシャフト7の主軸部8と軸受部14との間においては、回転運動が行われており、冷媒圧縮機の停止中は、回転速度が0m/sとなる。そして、起動時には、金属接触状態から回転運動が開始される。しかしながら、リン酸塩被膜をクランクシャフト7の主軸部8に形成することにより、初期なじみ性を有するリン酸塩被膜によって、起動時の金属接触による異常摩耗を防止できる。
【0025】
近年の冷媒圧縮機においては、このような構成において、その高効率化を、さらにハイレベルにすべく、より粘度の低い冷凍機油2が使用されたり、または、各摺動部における摺動長が、より短く設計されたりする。この場合、比較例に記載されたリン酸塩被膜では、早期に摩耗または摩滅して、なじみ効果の持続が困難となり、長期的な耐摩耗性が低下する可能性がある。
【0026】
さらに、冷媒圧縮機100においては、クランクシャフト7が一回転する間に、クランクシャフト7の主軸部8にかかる荷重は大きく変動する。この負荷変動に伴って、クランクシャフト7と軸受部14との間で、冷凍機油2に溶け込んだ冷媒ガスが気化して発泡し、油膜が切れて金属接触する頻度が増加する。
【0027】
その結果、クランクシャフト7の主軸部8に形成されたリン酸塩被膜が、早期に摩耗して、摩擦係数が上昇し、摺動部の発熱が大きくなって、凝着等の異常摩耗が生じる可能性がある。ピストン15とボア12との間においても、同様の現象が起きるため、同様の課題を有している。
【0028】
また、比較例において、前述した、特許文献2記載の潤滑油を冷凍機油2として使用しても、長期的な耐摩耗性が低下する懸念がある。
【0029】
すなわち、冷媒圧縮機100において、ジャーナル軸受を構成する、主軸部8と軸受部14との間のクリアランスは、大抵十数μmから30μmが一般的である。また、往復運動する、ピストン15とボア12との間のクリアランスは、圧縮時の冷媒リークを抑制して高効率化を図るために、より小さく、具体的には、10μm未満となる傾向にある。
【0030】
ここで、直径が、30μmから100μmの範囲にある炭素系光学的異方性球体は、摺動部材間のクリアランスよりも大きくなるため、摺動部材間に入り込むことができず、固体潤滑剤として作用しない可能性がある。
【0031】
また、直径が、0.1μmから30μmの範囲にある光学的異方性球体は、クリアランスよりも個々の球体は小さいものの、分子間力の影響により凝集し易い。その結果、凝集した光学的異方性球体のサイズがクリアランスよりも大きくなることにより、摺動部材間に入り込まなかったり、または、入り込んだとしても、サイズが大きいために、摺動部材表面に傷が生じ、摩擦損失が大きくなったり、凝着摩耗および異常摩耗の起点となる可能性がある。
【0032】
加えて、冷媒圧縮機100は、運転および停止を繰り返すので、特に、冷媒圧縮機100の静止時においては、光学的異方性球体自体の自重、または、凝集体の自重により、沈殿が発生する。そこで、例えば、特殊な分散剤等を添加して、一時的に光学的異方性球体または凝集体を冷凍機油中に分散させたとしても、それぞれの自重により、やがて沈殿が発生する。
【0033】
その結果、冷凍機油中に光学的異方性球体を均一に分散させて、長期に亘って固体潤滑剤として安定的に作用させることは困難となる可能性がある。
【0034】
本開示は、このような点に鑑みて、比較例における上述した課題を解決したものであり、信頼性が高く、高効率の冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍装置を提供するものである。
【0035】
本開示の第1の態様は、電動要素と、電動要素により駆動され、摺動部を有し、冷媒を圧縮する圧縮要素とを備えている。そして、摺動部を潤滑させる冷凍機油に、直径が100pmから10nmのフラーレンが添加された構成である。
【0036】
これにより、フラーレンが、摺動部材間に安定的に供給されて固体潤滑剤として作用する。よって、凝着摩耗および異常摩耗を未然に抑制して、長期信頼性を向上させることができるとともに、摩擦損失が低減されるので、高い性能を実現できる。
【0037】
第2の態様は、第1の態様において、フラーレンは、C60フラーレン、C70フラーレン、および、C70よりも炭素数が多い高次フラーレンのうち、いずれかのフラーレンである、または、C60フラーレン、C70フラーレン、および、C70よりも炭素数が多い高次フラーレンのうち、少なくとも二つが混合されたミックスフラーレンであってもよい。
【0038】
これにより、さらに、凝着摩耗を未然に抑制して、長期信頼性を向上させることができる。そして、いずれのフラーレンも、活性を有しているので、貧油条件、および、起動時において、冷凍機油の劣化起点となるラジカル反応をトラップして不活性化することができる。よって、冷凍機油の潤滑性能を長期に亘って保持することができる。
【0039】
第3の態様は、第1の態様または第2の態様において、フラーレンの形状は、円球形、または、楕円球形であってもよい。
【0040】
これにより、さらに、対向する摺動面が相対移動する際に、フラーレンが転がって、摺動面間の摩擦が転がり摩擦になるので、摺動部の摩擦係数が小さくなり、高い性能を実現することができる。
【0041】
第4の態様は、第1の態様から第3の態様までのいずれか1つの態様において、フラーレンの添加量は、冷凍機油に対する飽和溶解量、または、それ以下である構成であってもよい。
【0042】
これにより、さらに、冷媒圧縮機が停止しても、冷凍機油中にフラーレンが均一に分散したままの状態が維持される。よって、再起動時の摺動部材間の金属接触を緩和して、長期耐久性を向上させることができる。
【0043】
第5の態様は、第1の態様から第4の態様までのいずれか1つの態様において、圧縮要素で圧縮される冷媒は、R134a等のHFC系冷媒、または、HFC系冷媒を含む混合冷媒であってもよい。また、冷凍機油は、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、および、ポリアルキレングリコールのうちいずれか、または、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、および、ポリアルキレングリコールのうち、少なくとも二つの混合油であってもよい。
【0044】
これにより、消費電力低減の観点から、粘度の低い冷凍機油が使用されたり、各摺動部材間の摺動長がより短く設計されたとしても、異常摩耗を防止し、かつ、摺動損失の低減が図れる。よって、高信頼性を有し、高効率な冷媒圧縮機を実現することができる。
【0045】
第6の態様は、第1の態様から第4の態様までのいずれか1つ態様において、冷媒は、R600a、R290、およびR744のうち、いずれかの自然冷媒である、または、R600a、R290、およびR744のうち、少なくともいずれかを含む混合冷媒であってもよい。また、冷凍機油は、鉱油、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、およびポリアルキレングリコールのうち、いずれかひとつ、または、鉱油、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、およびポリアルキレングリコールのうち、少なくとも二つの混合油であってもよい。
【0046】
これにより、異常摩耗を防止し、かつ、摺動損失の低減が図れ、高信頼性を有し、高効率な冷媒圧縮機を実現することができる。そして、温室効果の少ない冷媒を使用することにより、地球温暖化抑制を図ることができる。
【0047】
第7の態様は、第1の態様から第4の態様までのいずれか1つの態様において、圧縮要素で圧縮される冷媒は、R1234yf等のHFO系冷媒、または、HFO系冷媒を含む混合冷媒であってもよい。そして、冷凍機油は、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、およびポリアルキレングリコールのうちいずれかひとつ、または、エステル油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、およびポリアルキレングリコールのうち少なくとも二つの混合油であってもよい。
【0048】
これにより、さらに、摺動熱等により冷媒が分解した際に、酸性物質(例えばフッ酸)が生じたとしても、フラーレンがこれらをトラップして不活性化することができる。これにより、冷凍機油の全酸価の上昇、および、摺動部材表面への攻撃性が低減されて、高信頼性を有し、高効率な冷媒圧縮機を実現することができる。さらに、可燃性を有さず、かつ、温室効果の少ない冷媒を使用することで、地球温暖化抑制を図ることができる。
【0049】
第8の態様は、第1の態様から第7の態様のいずれか1つの態様において、電動要素は、複数の運転周波数でインバータ駆動される構成であってもよい。
【0050】
これにより、さらに、各摺動部への給油量が少なくなる低速運転時においても、また、回転数が増加し、摺動部に掛かる荷重が増加し、摺動部の発熱により冷凍機油の粘度が低下するような苛酷な高速運転時においても、異常摩耗を防止して、高い信頼性を維持することができる。加えて、インバータ制御により冷媒圧縮機の運転を最適化することにより、省エネルギー化を実現することができる。
【0051】
第9の態様は、第1の態様から第8の態様のいずれか1つの態様において、圧縮要素は、主軸部を有するクランクシャフトと、主軸部を軸支する軸受部を有し、ボアを形成するシリンダブロックと、ボアに遊嵌されたピストンと、を有していてもよい。そして、摺動部は、少なくとも、主軸部と軸受部との間、および、ピストンとボアとの間に形成される構成であってもよい。
【0052】
第10の態様は、第1の態様から第9の態様のいずれか1つの態様の冷媒圧縮機と、冷媒圧縮機、放熱器、減圧装置および吸熱器が、配管によって環状に連結された冷媒回路とを備えた構成であってもよい。
【0053】
これにより、摩擦損失が低減され、性能が向上した冷媒圧縮機の搭載によって、冷凍装置の消費電力を低減し、省エネルギー化を実現することができる。
【0054】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、これらの実施の形態によって、本開示が限定されるものではない。
【0055】
(第1の実施の形態)
図1は、本開示の第1の実施の形態における冷媒圧縮機171の断面図であり、図2は、同第1の実施の形態におけるフラーレン181の模式図である。
【0056】
図1において、密閉容器101内には、R134aからなる冷媒ガス102が充填されている。密閉容器101の底部には、冷凍機油103としてエステル油が貯留されている。密閉容器101は、固定子104および回転子105からなる電動要素106と、電動要素106によって駆動される、往復式の圧縮要素107とを収容している。
【0057】
冷凍機油103には、断面が実質的に円形(円形を含む)で、断面の平均粒径が、100pmから10nmの微細粒子であるフラーレン181が混入されている。
【0058】
ここで、フラーレン181とは、炭素原子181aが球状のネットワーク構造を構成し、炭素原子181aのみで構成された炭素分子の総称である。フラーレン181は、ダイヤモンドおよびグラファイトに続く、第三の炭素同素体のことである。フラーレン181は、他の炭素同素体とは異なり、単一分子として取り出せ、その分子の直径は約1nmである。
【0059】
最も有名なフラーレン181としては、C60の分子がある。図2に示されるように、C60の分子は、60個の炭素原子181aが、12個の五員環181bと20個の六員環181cとからなる、球状の接頭正二十面体を構成している。C60の分子は、いわゆるサッカーボール状の真球構造であり、特に分子ベアリング効果があると考えられている。このようなC60以外にも、同様に70個の炭素原子からなるC70、および、さらに炭素数の多い高次フラーレン等が存在する。
【0060】
次に、フラーレン181の製造プロセスについて簡単に説明する。
【0061】
炭化水素原料を特殊な燃焼プロセスによって燃焼合成することにより、フラーレン181を含んだ、スートと呼ばれる、すすが得られる。このスートを、有機溶媒で濾すと、C60とC70と高次フラーレンとを含んだフラーレン181は溶解し、ナノムブラックと呼ばれる残渣と分けられる。この溶解したC60とC70と高次フラーレンとを含んだフラーレンが、ミックスフラーレンと呼ばれている。これを単離精製することで、ミックスフラーレン、または各種フラーレン単体を得ることができる。
【0062】
本実施の形態では、フラーレン181として、C60、C70および高次フラーレンからなるミックスフラーレンを用いている。
【0063】
これらのフラーレン181は、その構造から極めて特殊な性質を発現し、炭素同素体であるにも関わらず、ベンゼンおよびトルエン等の有機溶剤にも可溶である。
【0064】
ここで、フラーレン181が、冷凍機油103であるエステル油に可溶であるか否かに関して、実験的に確認を行う。
【0065】
室温(25℃)において、直径が100pmから10nmで、かつ、C60、C70、および高次フラーレン(C76、C82等)からなるミックスフラーレンを、エステル油に適量添加し、十分に攪拌してサンプルを作成した。その後、そのサンプルを一定時間放置して、フラーレン181の沈殿および析出の有無の確認を行った。その結果、今回の評価に供したエステル油は、フラーレン181を溶解可能であることが確認された。さらに、その濃度が、0.1から0.2%を越えた付近から、フラーレン181の沈殿および析出が発生することが確認された。
【0066】
以上の結果から、冷凍機油103であるエステル油、すなわちC=O(カルボニル構造)またはC−O−C(エーテル構造)を有する溶媒において、フラーレン181が可溶可能であることが判明した。また、今回、評価に供した冷凍機油103であるエステル油に対するフラーレン181の飽和溶解量(フラーレン181が冷凍機油103中に分散して均一系を形成する溶解現象にあって、フラーレンが冷凍機油103に最大限溶解する割合)は、0.1から0.2%であることが判明した。
【0067】
次に、圧縮要素107の詳細を以下に説明する。
【0068】
クランクシャフト108は、回転子105が圧入固定された主軸部109と、主軸部109に対して偏心して形成された偏心軸110とからなる。クランクシャフト108の下端には、冷凍機油103に連通する給油ポンプ111が設けられている。
【0069】
鋳鉄からなるシリンダブロック112は、略円筒形(円筒形を含む)のボア113を形成するとともに、主軸部109を軸支する軸受部114を備えている。
【0070】
また、回転子105にはフランジ面120が形成され、軸受部114の上端面がスラスト面122になっている。フランジ面120と軸受部114のスラスト面122との間には、スラストワッシャ124が挿入されている。フランジ面120、スラスト面122およびスラストワッシャ124が、スラスト軸受126を構成している。
【0071】
ある一定量のクリアランスを保ってボア113に遊嵌されたピストン132は、鉄系の材料からなり、ボア113と共に圧縮室134を形成する。また、ピストン132は、ピストンピン137を介して、連結手段であるコンロッド138によって、偏心軸110と連結されている。ボア113の端面は、バルブプレート139で封止されている。
【0072】
このように、相互に摺動部を形成している、クランクシャフト108の主軸部109と軸受部114、ピストン132とボア113、ピストンピン137とコンロッド138、および、クランクシャフト108の偏心軸110とコンロッド138の中で、鉄系材料同士の組み合わせにおいては、どちらか一方の摺動部材表面に、多孔質結晶体からなる不溶解性のリン酸塩被膜が形成されている。具体的には、一例として、クランクシャフト108およびピストン132の摺動面の表面に、それぞれ、リン酸塩被膜が形成されている。
【0073】
ヘッド140は、高圧室を形成し、バルブプレート139の、ボア113が設けられた側とは反対側に固定されている。サクションチューブ(図示せず)は、密閉容器101に固定されるとともに、冷凍サイクルの低圧側(図示せず)に接続されている。サクションチューブは、冷媒ガス102を密閉容器101内に導く。サクションマフラ142は、バルブプレート139とヘッド140とに挟持されている。
【0074】
以上のように構成された冷媒圧縮機171について、以下その動作を説明する。
【0075】
商用電源(図示せず)から供給される電力は、電動要素106に供給されて、電動要素106の回転子105を回転させる。回転子105は、クランクシャフト108を回転させる。これによる、偏心軸110の偏心運動により、連結手段のコンロッド138からピストンピン137を介して、ピストン132が駆動される。ピストン132は、ボア113内を往復運動し、サクションチューブ(図示せず)を通して密閉容器101内に導かれた冷媒ガス102が、サクションマフラ142から吸入され、圧縮室134内で圧縮される。
【0076】
冷凍機油103は、クランクシャフト108の回転に伴い、給油ポンプ111から各摺動部に給油される。冷凍機油103は、摺動部を潤滑させるとともに、ピストン132とボア113との間においてはシール機能を司る。
【0077】
近年の冷媒圧縮機171においては、高効率化を図るために、より粘度の低い冷凍機油103が使用されたり、各摺動部材間の摺動長がより短く設計されたりする。つまり、摺動条件は、より過酷な方向へ、すなわち、摺動部間の油膜がより薄くなる、または形成され難い方向へと変化している。
【0078】
さらに、圧縮された冷媒ガス102のガス圧により、クランクシャフト108の主軸部109と、シリンダブロック112の軸受部114との間、および、主軸部109に対して偏心して形成された偏心軸110とコンロッド138との間に、負荷変動をともなう変動荷重が掛かる。この負荷変動に伴って、主軸部109と軸受部114との間等において、冷凍機油103に溶け込んだ冷媒ガス102が繰り返し気化して発泡が発生する。これらのことから、クランクシャフト108の主軸部109と軸受部114との間等の摺動部において、油膜が切れて金属接触する頻度が増加する可能性が高くなっている。
【0079】
このような状況下において、従来の冷媒圧縮機では、摺動部表面に形成された多孔質結晶体からなる不溶解性のリン酸塩被膜が摩耗または摩滅して、早期に消失して、鉄系材料同士が摺動する。このため、長期的な耐摩耗性が低下する可能性がある。
【0080】
しかしながら、本実施の形態のように、断面の平均粒径が100pmから10nmの微細粒子であるフラーレン181が混入された冷凍機油103を用いると、凝着摩耗および異常摩耗を未然に抑制し、摩擦損失を低減することができる。
【0081】
以下、詳細に説明する。
【0082】
まず、フラーレン181の溶解量をパラメータとして、エステル油の摩擦摩耗特性への作用を明確化すべく要素実験を行った。
【0083】
高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)製の市販のボール3個と、同じく高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)製で、表面をダイヤモンドスラリーで研磨し、表面粗さをRa0.01以下に仕上げたディスクとを用いて、3ボール・オン・ディスク式摩耗試験が実施された。
【0084】
表面に形成されたリン酸塩被膜が摩耗して基材が露出した状態、いわゆる鉄系同士が摺動する状態を想定し、本要素実験で使用した試料(ボール、およびディスク)には、リン酸塩被膜処理は施されていない。
【0085】
VG10(40℃での粘度が10mm/s)のエステル油をリファレンスとして、フラーレン181が適量添加された数種の冷凍機油を、試験前のディスクの表面に適量滴下し、試験中は補充しない、いわゆる貧油条件下で実験が行われた。
【0086】
準備されたエステル油は以下の通りである。
【0087】
飽和溶液(フラーレン濃度は0.1%から0.2%)、飽和溶液を基準として1/20倍に希釈した溶液(濃度は0.005%から0.01%、以下、1/20希釈液と称す)、1/5倍に希釈した溶液(濃度は0.02%から0.04%、以下、1/5希釈液と称す)、5倍に濃くした溶液(濃度は0.5%から1%、以下、5倍濃縮液と称す)、および、10倍に濃くした溶液(濃度は1%から2%、以下、10倍濃縮液と称す)の5種類が準備された。
【0088】
5倍濃縮液、および10倍濃縮液の場合は、攪拌しても、ある時間が経過すると、フラーレン181、およびフラーレン181の凝集体の、沈殿および析出現象が発生する。これはフラーレン181の量が多いためであると推定される。
【0089】
一方、飽和溶液、1/5倍希釈液、および、1/20倍希釈液においては、長時間(60日)室温で放置しても、沈殿および析出現象は全く発生しなかった。
【0090】
また、摩擦摩耗試験においては、比較例として、フラーレン181を添加しないエステル油(以下、ベース油と称す)も用いられた。
【0091】
なお、摩擦摩耗試験においては、試験開始前に、超音波洗浄槽で30分間攪拌したフラーレン添加エステル油を、ディスクの摺動部に10滴(約60μL程度)滴下させた後、試験を開始した。また、負荷荷重20N、回転速度0.2m/sで、5分間(すべり距離100m)摺動させる条件で試験を実施した。
【0092】
そして、試験中の摩擦係数計測、および、試験後の摺動痕観察の結果から、フラーレン181の溶解量と摩擦摩耗特性との相関性の評価が行われた。
【0093】
図3は、本開示の実施の形態にかかる、摩擦摩耗試験における各フラーレン添加油を用いた時の摩擦係数を示した特性図である。
【0094】
図3においては、起動時の摩擦係数と、運転時の摩擦係数とが示されている。ここで、起動時の摩擦係数とは、試験開始からすべり距離10m到達時までに生じた摩擦係数の平均値を指す。一方、運転時の摩擦係数とは、すべり距離が50m到達時から試験終了時までに生じた摩擦係数の平均値を指す。
【0095】
図3に示されるように、ベース油に比べて、フラーレン添加油の起動時、および、運転時における摩擦係数が、いずれも低下していることが分かる。さらに、飽和溶液における摩擦係数が、最も低いことが分かる。
【0096】
図4は、本開示の実施の形態にかかる、摩擦摩耗試験における各フラーレン添加油を用いた時のボールに生じた摺動痕の長さを示した特性図である。
【0097】
ここで、摺動痕の長さとは、摺動方向に対して垂直方向の最大長さのことである。
【0098】
また、図5Aおよび図5Bは、本開示の実施の形態における、摩擦摩耗試験後のボールに生じた摺動痕の一例を示した拡大図である。図5Aには、飽和溶液における摩擦摩耗試験後の摺動痕が示され、図5Bには、5倍濃縮液における試験後の摺動痕が示されている。
【0099】
図4に示されるように、ベース油に比べて、フラーレン添加油の摺動痕の長さは短い。加えて、1/5倍希釈液、飽和溶液、および、5倍濃縮液における摺動痕長さが比較的小さいことが分かる。
【0100】
また、図5Aおよび図5Bに示されるように、飽和溶液に比べて、5倍濃縮液の場合は、ボール表面に微細な傷が生じていることが分かる。1/20倍希釈液、および1/5倍希釈液の場合は、図5Aと同様な摺動痕形態を示す一方で、ベース油、および10倍濃縮液の場合は、図5Bと同様な摺動痕形態、すなわち微細な傷が生じることが分かった。
【0101】
以上の結果について、以下のように考察する。
【0102】
フラーレン181、または、その一部は、摺動部における、局所的に接触している箇所に入り込んで、固体潤滑効果を発揮すると考えられる。すなわち、炭素のもつ非凝着性と、球状分子の転がり作用とによって、エステル油の潤滑性能を補っていると考えられる。
【0103】
また、フラーレン181の飽和溶液において、最も摩擦係数が低くなるのに対して、フラーレン添加量が飽和溶液よりも少なくなるに伴って、摩擦係数が増加する。この要因は、局所的に接触している箇所に介在するフラーレン181の量が少なくなって、固体潤滑作用を呈する効力が低下したためと思われる。
【0104】
一方で、フラーレン添加量が飽和溶液よりも多くなるに伴って、摩擦係数が増加する傾向にある。この要因は、溶解し切れずに析出したフラーレン181、またはフラーレン181同士が凝集して形成された凝集体が、摺動面の表面の傷付きを発生させるためと考えられる。
【0105】
これらのことから、フラーレン181を冷凍機油103に添加して摩擦摩耗特性を最も向上させるためには、使用する冷凍機油103に応じて、フラーレン181の添加量を飽和溶解量とすることが重要であるといえる。具体的には、飽和溶解量から1/20倍希釈液、好ましくは、飽和溶解量から1/50倍希釈液程度までの添加量がよい。
【0106】
次に、冷媒圧縮機171を用いて、実機を用いた耐久性試験を行った。
【0107】
なお、使用された冷凍機油103は、1/5倍希釈液、飽和溶液、およびベース油(エステル油)の3種として、各々冷媒圧縮機171に封入された。本試験は、クランクシャフト108の主軸部109の摩耗を加速させるべく、短時間で運転と停止とが繰り返される、高温高負荷断続運転モードで行われた。
【0108】
そして、実機信頼性試験後に、冷媒圧縮機171が解体され、クランクシャフト108が取り出され、その摺動部が観察された。
【0109】
その結果、ベース油を用いた場合には、摺動表面に形成されていたリン酸塩被膜の大部分が摩耗、または摩滅して消失しており、かつ、鉄系同士が摺動している箇所には、凝着摩耗によるものと推察される傷が発生していた。
【0110】
一方、1/5倍希釈液および飽和溶液においては、ベース油に比べてリン酸塩被膜の損耗が顕著に抑制されており、摺動部材の損傷は顕著に軽微であった。
【0111】
本実施の形態によれば、電動要素106と、電動要素106により駆動され冷媒を圧縮する圧縮要素107とを備え、直径が100pmから10nmのフラーレン181を添加した冷凍機油103を用いた冷媒圧縮機171が構成される。
【0112】
これにより、以上の要素実験および実機による信頼性試験の結果から、フラーレン181が、摺動部材間に安定的に供給されて、固体潤滑剤として作用することで、凝着摩耗および異常摩耗を未然に抑制することができる。そして、長期信頼性を向上できるとともに、摩擦損失が抑制されるので、高い性能を実現することができる。
【0113】
なお、本実施の形態の実機信頼性試験においては、摺動部材表面に、多孔質結晶体からなる不溶解性のリン酸塩被膜が形成されているが、要素実験の結果から、リン酸塩被膜が形成されていない場合においても、同様の効果が得られると推測される。
【0114】
また、フラーレン181は、図2に示されるような構造対称性に起因して、高い電子受容性を有している。具体的には、1個のフラーレン181で、6個の電子を捕捉することが可能である。よって、フラーレン181には、冷凍機油103および冷媒ガス102の酸化の要因であるラジカルを取り除き、冷凍機油103および冷媒ガス102の劣化を抑制する効果が期待される。これにより、長期に亘って冷媒圧縮機171の信頼性を確保することができる。
【0115】
なお、フラーレン181の形状は、円球形、または楕円球形であることから、対向する摺動面が相対移動する際に、フラーレン181が転がることで、転がり摩擦になる、すなわち、分子ベアリング効果を発揮する。これにより、摺動部の摩擦係数が小さくなり、高い性能を実現できる。また、起動時にトルクを低減させることで、冷媒圧縮機171の起動性を顕著に向上させることができる。
【0116】
また、本実施の形態では、冷凍機油103としてエステル油を用いたが、その他の冷凍機油103に対してもフラーレン181を添加し、同様の効果を奏させることは可能である。また、エステル油等に代表されるような、極性を有する冷凍機油103では、TCP(トリクレジルフォスフェート)等に代表されるような極圧剤(摩耗防止剤)が作用しないことが一般的に知られている。しかしながら、本実施の形態のフラーレン181を用いることにより、冷凍機油103が有する極性、または無極性に関わらず、固体潤滑作用を奏することが可能である。
【0117】
加えて、冷凍機油103として使用される、鉱油、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、および、ポリアルキレングリコール、それぞれにおける、フラーレン181の飽和溶解量は、概ね0.1%から0.5%の範囲であった。フラーレン181を過剰に添加すると、生成された凝集体等の影響により、摺動面に傷が発生して、摩擦低減効果が低くなる。よって、フラーレン181の添加量は、飽和溶解量、または、それ以下にすることが望ましい。
【0118】
冷媒圧縮機171内の温度変動、および圧力変動に加え、冷媒ガス102の溶け込み量の変動により、冷凍機油103の粘度は常時変動する。このことから、室温雰囲気でのフラーレン181の飽和溶解量よりも、実際の冷媒圧縮機171内の飽和溶解量のほうが、若干低くなる可能性が考えられる。
【0119】
このことから、フラーレン181の析出および沈殿の可能性を、できる限り抑制するためには、摩擦摩耗特性が改善できる範囲で、フラーレン181の添加量を、可能な限り必要最小量とする、すなわち、室温での飽和溶解量よりも少なくする方が望ましい。さらに、冷媒圧縮機171が停止状態になったとしても、冷凍機油103中にフラーレン181が均一に分散したままの状態が維持される。これにより、再起動時の摺動部材間の金属接触を緩和して、長期耐久性を向上させることができる。
【0120】
なお、本実施の形態では、冷媒ガス102をR134a冷媒とし、冷凍機油103をエステル油としたが、他のHFC(ハイドロフルオロカーボン)系冷媒のうち、いずれかひとつ、またはそれらの混合冷媒とし、冷凍機油103を、アルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、およびポリアルキレングリコールのうちいずれかひとつ、またはこれらの混合油を用いても、同じ効果、すなわち、高信頼性および高効率化が得られる。
【0121】
なお、冷媒ガス102を、R600a、R290、およびR744等の自然冷媒のうち、いずれかひとつ、またはこれらを含む混合冷媒としてもよい。また、冷凍機油103を、鉱油、エステル油またはアルキルベンゼン油、ポリビニルエーテル、および、ポリアルキレングリコールのうち、いずれかひとつとする、または、これらのうち少なくとも二つの混合物を用いてもよい。このような場合にも、同じ効果が得られるとともに、温室効果の少ない冷媒ガス102を使用することにより、地球温暖化抑制を図ることもできる。
【0122】
加えて、冷媒ガス102を、HFO(ハイドロフルオロオレフィン)系冷媒のいずれかひとつ、またはその混合冷媒とし、冷凍機油103を、エステル油、ポリアルキレングリコール、ポリビニルエーテル、および鉱油のうち、いずれかひとつ、または、これらの混合油を用いても、摺動熱等により冷媒が分解した際に生じた酸性物質(例えばフッ酸)を、フラーレン181がトラップして不活性化する。これにより、冷凍機油の全酸価の上昇、および、摺動部材表面の攻撃性が低減されて、高信頼性で高効率な冷媒圧縮機171を実現できる。そして、可燃性を有さず、かつ、温室効果の少ない冷媒を使用することで、地球温暖化抑制を図ることができる。
【0123】
なお、本実施の形態では、フラーレン181が、冷凍機油103に直接添加される場合で説明したが、これは、圧縮機組立時等に、フラーレン181を、クランクシャフト108等の部品に用いられる潤滑油に添加しておき、この潤滑油が冷凍機油103に混ざることによって添加されるようにしてもよい。
【0124】
また、本実施の形態では、商用電源によって駆動される冷媒圧縮機171について説明したが、複数の運転周波数でインバータ駆動される冷媒圧縮機171に適用してもよい。
【0125】
このような、インバータ駆動される冷媒圧縮機171においては、摺動部が、回転数の変動によって過酷な条件に置かれる。このような過酷な条件、すなわち、各摺動部への給油量が少なくなる低速運転時、および、回転数が増加し、摺動部に掛かる荷重が増加するとともに、摺動部の発熱により冷凍機油103の粘度が低下するような苛酷な高速運転時においても、異常摩耗を防止して、高い信頼性を維持することができる。加えて、インバータ制御によって冷媒圧縮機171の運転を最適化することにより、省エネルギー化を実現することができる。
【0126】
(第2の実施の形態)
次に、本開示の第2の実施の形態について説明する。
【0127】
図6は、本開示の第2の実施の形態における冷凍装置300の構成を示す模式図である。
【0128】
ここでは、冷媒回路270に、第1の実施の形態で説明した冷媒圧縮機171が搭載された冷凍装置300の基本構成の概略について説明する。
【0129】
図6において、冷凍装置300は、一面が開口した断熱性の箱体と、その開口を開閉する扉体とで構成された本体275、本体275の内部を、物品の貯蔵空間276と機械室277とに区画する区画壁278、および、貯蔵空間276内を冷却する冷媒回路270を具備している。
【0130】
冷媒回路270は、冷媒圧縮機171と、放熱器272と、減圧装置273と、吸熱器274とを、環状に配管接続することにより、構成されている。
【0131】
吸熱器274は、送風機(図示せず)を具備した貯蔵空間276内に配置されている。吸熱器274の冷却熱は、矢印で示されるように、送風機によって貯蔵空間276内を循環するように撹拌され、貯蔵空間276内は冷却される。
【0132】
以上説明したように、冷凍装置300に、本開示の第1の実施の形態で説明された、信頼性が高く、かつ、高効率な冷媒圧縮機171を搭載することにより、長期信頼性を確保することができる。さらに、冷凍装置300の消費電力を低減し、省エネルギー化を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0133】
以上のように、本開示によれば、低粘度冷凍機油を用いながら、信頼性の高い冷媒圧縮機およびそれを用いた冷凍装置を提供することが可能となるので、冷凍サイクルを用いた機器に幅広く適用でき、有用である。
【符号の説明】
【0134】
1 密閉容器
2 冷凍機油
3 固定子
4 回転子
5 電動要素
6 圧縮要素
7 クランクシャフト
8 主軸部
9 偏心軸
10 給油ポンプ
11 シリンダブロック
12 ボア
13 圧縮室
14 軸受部
15 ピストン
16 ピストンピン
17 コンロッド
18 バルブプレート
19 ヘッド
20 サクションチューブ
21 サクションマフラ
100 冷媒圧縮機
101 密閉容器
102 冷媒ガス
103 冷凍機油
104 固定子
105 回転子
106 電動要素
107 圧縮要素
108 クランクシャフト
109 主軸部
110 偏心軸
111 給油ポンプ
112 シリンダブロック
113 ボア
114 軸受部
120 フランジ面
122 スラスト面
124 スラストワッシャ
126 スラスト軸受
132 ピストン
134 圧縮室
137 ピストンピン
138 コンロッド
139 バルブプレート
140 ヘッド
142 サクションマフラ
171 冷媒圧縮機
181 フラーレン
181a 炭素原子
181b 五員環
181c 六員環
270 冷媒回路
272 放熱器
273 減圧装置
274 吸熱器
275 本体
276 貯蔵空間
277 機械室
278 区画壁
300 冷凍装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
【国際調査報告】