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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年9月28日
【発行日】2019年2月7日
(54)【発明の名称】視覚フィルタ同定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20190111BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20190111BHJP
【FI】
   A61B3/10 B
   A61B10/00 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2018-507448(P2018-507448)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2017年3月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-59657(P2016-59657)
(32)【優先日】2016年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【住所又は居所】京都府京都市左京区吉田本町36番地1
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】大西 裕介
【テーマコード(参考)】
4C316
【Fターム(参考)】
4C316AA13
4C316AA21
4C316AA29
4C316FA01
4C316FA04
4C316FB12
4C316FZ03
(57)【要約】
本発明は、視覚に関する時間フィルタを,眼球運動反射を用いて非侵襲的に,客観的にかつ定量的に同定することを目的とする。本発明は、一様に一定輝度を有する初期画像,初期画像と同じ平均輝度を有する第1刺激パターン画像,第1刺激パターン画像と共に仮現運動を惹起する第2刺激パターン画像を順番に提示させながら,第2刺激パターン画像の提示中における一定期間内に眼球運動を測定し,測定時に用いた第1刺激パターン画像の提示時間長に対応付けて保存する。この際,各試行回で使用する第1刺激パターン画像の提示時間長の設定を変更する。個々の提示時間長について計算される視線方向の変化によって特定される測定波形と,第1刺激パターン画像と第2刺激パターン画像を眼球運動反応の運動エネルギーモデルに入力して計算されるシミュレーション結果との差が最小になるように,運動エネルギーモデルのパラメータ値を最適化し,検査対象に固有の時間フィルタを計算する(図2参照)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)検査対象の前方に配置したモニタ上に,一様に一定輝度を有する初期画像,前記初期画像と同じ平均輝度を有する第1刺激パターン画像,前記第1刺激パターン画像と共に仮現運動を惹起する第2刺激パターン画像を順番に提示するステップと,
(b)前記第2刺激パターン画像の提示中における一定期間内に眼球運動を測定し,測定時に用いた前記第1刺激パターン画像の提示時間長と対応付けて保存するステップと,
(c)前記(a)及び前記(b)に示す各ステップの実行を1試行回とし,各試行回で使用する前記第1刺激パターン画像の提示時間長の設定を変更しながら,複数回の試行を繰り返すステップと,
(d)前記(c)のステップにおける各試行回について,測定された前記眼球運動の測定データに基づいて視線方向の変化を計算するステップと,
(e)眼球運動反応の運動エネルギーモデルに,前記第1刺激パターン画像と前記第2刺激パターン画像を入力してシミュレーション結果を計算するステップと,
(f)前記(d)のステップで得られた視線方向の前記変化と,前記変化に対応付けられた前記提示時間長とによって特定される測定波形と,前記(e)のステップで得られたシミュレーション結果との差が最小になるように,前記運動エネルギーモデルのパラメータ値を最適化し,検査対象に固有の時間フィルタを計算するステップと,
を有することを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の視覚フィルタ同定方法において,
前記(d)のステップにおいて,
同じ提示時間長について測定された複数個の前記測定データの平均値を,当該提示時間長における視線方向の前記変化の代表値として使用する
ことを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の視覚フィルタ同定方法において,
前記(a)及び前記(b)の各ステップにおいて,前記第1刺激パターン画像の各提示時間長について,前記第2刺激パターン画像として,第1の方向への仮現運動を惹起するパターン画像を提示する第1の試行と,前記第1の方向とは逆向きの第2の方向への仮現運動を惹起するパターン画像を提示する第2の試行とを行い,
前記(d)のステップにおいて,前記第1の試行における変化と前記第2の試行における変化との差分を,各提示時間長について更に計算し,算出された値を前記提示時間長に対応する前記変化の代表値として使用する,
ことを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【請求項4】
請求項1に記載の視覚フィルタ同定方法において,
(g)前記時間フィルタをフーリエ解析して周波数領域における特性を同定するステップ を更に有することを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【請求項5】
請求項1に記載の視覚フィルタ同定方法において,
前記(b)のステップにおける前記一定期間は,前記第2刺激パターン画像の提示開始から50ミリ秒〜200ミリ秒の区間である
ことを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【請求項6】
請求項1に記載の視覚フィルタ同定方法において,
前記第1刺激パターン画像と前記第2刺激パターン画像はいずれも空間周波数が等しいパターンであり,前記第2刺激パターン画像の前記第1刺激パターン画像に対する位相θのずれは,一定方向に対して0°<θ<180°である
ことを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【請求項7】
請求項1に記載の視覚フィルタ同定方法において,
前記初期画像と前記第1刺激パターン画像には注視視標が表示される
ことを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【請求項8】
検査対象の前方に配置されたモニタ上に,一様に一定輝度を有する初期画像,前記初期画像と同じ平均輝度を有する第1刺激パターン画像,前記第1刺激パターン画像と共に仮現運動を惹起する第2刺激パターン画像を順番に提示させる視覚刺激提示部であり,各試行回で使用する前記第1刺激パターン画像の提示時間長の設定を変更しながら,前記初期画像,前記第1刺激パターン画像及び前記第2刺激パターン画像の提示を複数回繰り返す視覚刺激提示部と,
前記第2刺激パターン画像の提示中における一定期間内に測定された眼球運動の測定データを,測定時に用いた前記第1刺激パターン画像の提示時間長と対応付けて記録するデータ記録部と,
個々の前記提示時間長について測定された前記眼球運動の測定データに基づいて視線方向の変化を計算する第1の計算部と,眼球運動反応の運動エネルギーモデルに,前記第1刺激パターン画像と前記第2刺激パターン画像を入力してシミュレーション結果を計算する第2の計算部と,前記提示時間長と対応する視線方向の前記変化とによって特定される測定波形と,前記シミュレーション結果との差が最小になるように,前記運動エネルギーモデルのパラメータ値を最適化し,検査対象に固有の時間フィルタを計算する第3の計算部を有するデータ解析部と
を有することを特徴とする視覚フィルタ同定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,視覚機能の基本的な性能を表す視覚フィルタを,非侵襲的,客観的かつ定量的に同定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
視覚機能を評価する技術には,例えば「視力検査法」や「視野測定検査法」がある。これらの技術は,視覚の「空間解像度」の評価や「見える範囲の広さ」の評価に用いられる。また,動く物体を見る時の視力を測るための技術として,例えば「動体視力の検査法」がある。この技術は,移動する物体に対する視覚の「空間解像度」の評価に用いられる。
【0003】
この他,「臨界融合周波数」を測る方法,時間周波数毎に知覚コントラスト感度を調べて周波数特性を定量化する方法等があり,近年では,時間フィルタを推定する方法も提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Burr & Morrone, J. Opt. Soc. Am. A, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし,前述した多くの手法は,「見えるか否か」といった「意識にのぼる知覚」を,被験者が口頭又はボタン操作により医師等に伝える必要があり,この種の方法には,以下のような問題がある。
【0006】
まず,報告内容や測定結果に,被験者の恣意が含まれている可能性がある。換言すると,被験者が嘘を付くことも可能である。被験者が故意に又は思い込みにより,実際とは異なる答えを報告し得る状態では,十分に客観性を持ったデータを取得することはできない。
【0007】
また,既存の方法では,被験者が検査者の指示を理解した後に,自らの口や手を随意的に動かして答える必要がある。しかし,この手法では,検査の意図を十分に理解することや質問に適切に答えることができない被検者(例えば乳幼児,身体疾患や神経・精神疾患などが原因で質問に適切に答えることができない患者など)には適用することができない。
【0008】
このため,既存の検査手法は,発達期の子供の視覚機能の縦断的調査などには不向きであり,検査対象もヒトに限られている。また,前述した非特許文献1においても,視覚機能の基本的な性質を表す視覚フィルタを,眼球運動反射を用いて非侵襲的に,客観的にかつ定量的に同定する手法については示していない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために,本発明は,一例として,以下の手法を提案する。
(a)検査対象の前方に配置したモニタ上に,一様に一定輝度を有する初期画像,前記初期画像と同じ平均輝度を有する第1刺激パターン画像,前記第1刺激パターン画像と共に仮現運動を惹起する第2刺激パターン画像を順番に提示するステップと,
(b)前記第2刺激パターン画像の提示中における一定期間内に眼球運動を測定し,測定時に用いた前記第1刺激パターン画像の提示時間長と対応付けて保存するステップと,
(c)前記(a)及び前記(b)に示す各ステップの実行を1試行回とし,各試行回で使用する前記第1刺激パターン画像の提示時間長の設定を変更しながら,複数回の試行を繰り返すステップと,
(d)前記(c)に示すステップにおける各試行回について,測定された前記眼球運動の測定データに基づいて視線方向の変化を計算するステップと,
(e)眼球運動反応の運動エネルギーモデルに,前記第1刺激パターン画像と前記第2刺激パターン画像を入力してシミュレーション結果を計算するステップと,
(f)前記(d)に示すステップで得られた視線方向の前記変化と,前記変化に対応付けられた前記提示時間長とによって特定される測定波形と,前記(e)に示すステップで得られたシミュレーション結果との差が最小になるように,前記運動エネルギーモデルのパラメータ値を最適化し,検査対象に固有の時間フィルタを計算するステップと,
を有することを特徴とする視覚フィルタ同定方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,視覚機能の基本的な性質を表す視覚フィルタを,眼球運動反射を用いて非侵襲的に,客観的にかつ定量的に同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実験に使用する視覚フィルタ同定装置の概略構成を示す図。
図2】MOD検査法における1試行回を構成する画像の配置を説明する図。
図3】MOD検査法における時間フィルタの同定に用いる測定区間を説明する図。
図4】MOD検査法の複数試行回で測定される眼球位置の変化データを示す図。
図5図4に示す変化データを提示時間長の長さ順に並べた図。
図6】MOD検査法によって測定された応答特性を示す図。
図7】運動エネルギーモデルの出力(シミュレーション結果)の最適化を説明する図。
図8】同定された時間フィルタの例を示す図。
図9】視覚フィルタの周波数特性を説明する図。
図10】ISI検査法における1試行回を構成する画像の配置を説明する図。
図11】ISI検査法における時間フィルタの同定に用いる測定区間を説明する図。
図12】ISI検査法の複数試行回で測定される眼球位置の変化データを示す図。
図13図12に示す変化データを提示時間長の長さ順に並べた図。
図14】MOD検査法とISI検査法を組み合わせて測定した応答特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では,本発明の実施例を,図面を用いて説明する。なお,本発明の実施例は,後述する実施例に限定されるものではなく,その技術思想の範囲において,種々の変形が可能である。
【0013】
(1)実施例1
(1−1)視覚フィルタ同定装置の構成
図1に,発明者らが実験に使用した視覚フィルタ同定装置1の概略構成を示す。視覚フィルタ同定装置1は,刺激提示用モニタ2,視覚刺激提示装置3,実験制御・データ記録装置4,眼球運動測定装置5,データ解析装置6で構成される。このうち,視覚刺激提示装置3,実験制御・データ記録装置4,データ解析装置6は,いずれもコンピュータで構成され,各装置に対応する機能はプログラムの実行を通じて実現される。
【0014】
コンピュータは,外部とデータをやり取りする入出力装置,データを記録する記憶装置,プログラムの実行状況や各装置の状態を制御する制御装置,データの計算や加工を実行する演算装置等で構成される。以下の説明では,視覚刺激提示装置3,実験制御・データ記録装置4,データ解析装置6は,いずれも独立したコンピュータによって実現されているものとする。もっとも,これら装置に対応する機能の全て又は一部を,1つのコンピュータ上で実現しても良い。
【0015】
刺激提示用モニタ2は,時間フィルタの同定に使用する各種の画像を提示するデバイスであり,検査対象(例えばヒト,動物)の前方に配置される。刺激提示用モニタ2には,例えばCRT(Cathode Lay Tube),液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ,プロジェクタを使用する。実験では,19インチのCRTモニタ(サイズ:360×270mm,解像度:1280×1024 pixels,リフレッシュレート:100Hz)を使用した。
【0016】
正確な測定データを得るため,本実施例では,測定時に,検査対象の頭部を固定した。頭部の固定には,ヒトであれば,例えば顎を台座(あご台)に押し当てる方法,バイトブロックと呼ばれる歯形を噛む方法などを使用する。本実施例では,検査対象とモニタ画面までの距離を63.4cmとした。勿論,この数値は一例である。
【0017】
視覚刺激提示装置3は,刺激提示用モニタ2に提示する所定の画像(後述する第1刺激パターン画像と第2刺激パターン画像を含む。)を生成する装置である。本実施例の場合,画像の生成には,市販のソフトウェアであるMATLAB(登録商標)と,心理学分野で開発されたフリーソフトのPsychtoolboxを使用した。
【0018】
実験制御・データ記録装置4は,視覚刺激提示装置3と連動して,各種の画像の出力を制御する装置である。本実施例では,NIH(National Institutes of Health)が開発したソフトウェア(REX:Real-time EXperimental system)を使用した。なお,REXは,LabView(商標)などの市販のソフトでも代替可能である。実験制御・データ記録装置4は,ハードウェアとして,少なくともA/D変換器,UDP通信機能を備えている。
【0019】
検査対象の眼球位置の記録もREXで行う。本実施例の場合,検査対象の眼球位置を表す電圧値は,A/D変換器を通じて12ビットのデータ値に変換される。変換後のデータ値は,1ミリ秒ごとに収集し,ハードディスク等に記録する。実験制御・データ記録装置4は,上,下,左,右5°に直径0.5°の円形の注視視標を提示するように視覚刺激提示装置3に対して指示を出し,注視視標の提示中に眼球運動測定装置5によって計測された電圧出力をハードディスク等に記録する。注視視標の提示中に測定された電圧信号を取得しておくことにより,仮現運動刺激の提示により測定された電圧信号を眼球の回転角(degree)に換算することができる。
【0020】
眼球運動測定装置5は,仮現運動を惹起する画像の提示に伴って生じる眼球運動を測定する装置であり,基本的に,被験者がモニタを見ている間,眼球運動を常に測定する。もっとも,後述するデータ解析に必要な期間についてのみ,眼球運動の測定を実行しても良いし,刺激提示用モニタ2にグレー画像を含めて何らかの画像が表示されている間中,眼球運動の測定を実行しても良い。
【0021】
眼球運動の測定方法には,既に知られている様々な手法を用いることができる。例えば第1,第4プルキンエ像を利用する方法,サーチコイル法,強膜反射法を用いることができる。この他,検査対象の眼球部分をビデオカメラで撮像し,撮像された画像から眼球の動きを抽出する方法を用いることもできる。本実施例では,被験者の眼球位置(視線の向き)を,第1,第4プルキンエ像を利用する方法(Dual-Purkinje Image Eye Tracker, Foreward technology社製)を用いて計測した。なお,眼球位置は,眼球運動計測装置の電圧信号として得られる。
【0022】
データ解析装置6は,仮現運動を惹起する画像の提示に伴って測定されたデータを解析して,検査対象に固有の視覚フィルタ(時間フィルタを含む)を同定する計算処理を実行する装置である。処理動作の詳細については後述するが,眼球運動反応の運動エネルギーモデルから算出されるシミュレーション結果が測定データと合致するように運動エネルギーモデルのパラメータを最適化することにより,時間フィルタを同定する。本明細書では,「眼球運動反応の運動エネルギーモデル」との用語を,眼球運動反応を説明可能な任意の運動エネルギーモデルの意味で使用する。なお,本実施例では,眼球運動反応の運動エネルギーモデルの一例として,1985年にAdelsonとBergenが運動の主観的な知覚を説明するために提案したモデルを使用する。もっとも,Elaborated Reichardt modelその他のモデルを用いても良い。
【0023】
(1−2)MOD(Motion Onset Delay)検査法
本実施例では,反射的に誘発される眼球運動反応の測定手法として,MOD検査法と呼ぶ手法を適用する。本実施例の場合,画像の提示単位である試行を複数回繰り返すことにより,時間フィルタの同定に必要とされる測定データを収集する。図2及び図3は,MOD検査法における提示単位としての1試行回を構成する画像の配置を表している。なお,図2及び図3に示す1試行回に対応する画像の提示は,実験制御・データ記録装置4による制御の下,視覚刺激提示装置3が実行する。
【0024】
各試行回は,(1)注視視標と第1グレー画像をモニタ画面に提示する期間,(2)注視視標と第1刺激パターン画像をモニタ画面に提示する期間,(3)第2刺激パターン画像をモニタ画面に提示する期間,(4)第2グレー画像をモニタ画面に提示する期間で構成される。本実施例の場合,第1グレー画像と第2グレー画像は,いずれも画面全体が一様な輝度値(例えば5cd/m)を有している。もっとも,第1グレー画像の輝度値と第2グレー画像の輝度値は同じでなくても良い。ただし,第1グレー画像の輝度値と,第1刺激パターン画像および第2刺激パターン画像の平均輝度値は同じである。
【0025】
各試行回は,直径が0.5°の円形の注視視標を,第1グレー画像の中央に提示することで開始される。本実施例の場合,第1グレー画像の提示時間は,試行回毎に異なるように, 500〜1000ミリ秒の間でランダムに変更される。もっとも,第1グレー画像の提示時間は,例えば500〜1000ミリ秒の間の固定長でも良い。この提示時間が経過すると,注視視標と第1刺激パターン画像がモニタ画面に提示される。
【0026】
本実施例では,第1刺激パターン画像として,水平方向に沿って,正弦波状に輝度が変化する縦縞パターン(空間周波数:0.25cycles/deg,マイケルソンコントラスト:32%,平均輝度5cd/m)を使用する。第1刺激パターン画像の輝度は,2048階調のグレイレベルで表現される。第1刺激パターン画像の提示時間長は,試行回毎に異なるようにランダムに可変される。検査対象が提示時間長を予測できないようにするためである。もっとも,被験者の予測による影響が無いことが保障されるのであれば,必ずしもランダムである必要は無く,事前に定めたパターンに基づいて各試行回の提示時間長を変更しても良い。
【0027】
本実施例では,各試行回における第1刺激パターン画像の提示時間長を,例えば0ミリ秒,10ミリ秒,20ミリ秒,30ミリ秒,40ミリ秒,60ミリ秒,80ミリ秒,160ミリ秒,320ミリ秒,640ミリ秒の中からランダムに選択する。提示時間長が0ミリ秒とは,第1刺激パターン画像が提示されないことを意味する。
【0028】
例えば提示時間長の数が10個である場合,10試行回の間に,同じ提示時間長が重複して出現しないように,10個の提示時間長の中から1つの提示時間長をランダムに選択し,第1刺激パターン画像の提示に使用する。なお,10試行回の間,提示時間長が単調に増加する出力形態や提示時間長が単調に減少する出力形態は望ましくない。
【0029】
第1刺激パターン画像は,第2刺激パターン画像との間で仮現運動が惹起されるパターンであれば良い。従って,第1刺激パターン画像は,前述した縦縞パターンに限らず,上下方向に沿って正弦波状に輝度が変化する横縞パターン,斜め方向に沿って正弦波状に輝度が変化する斜縞パターン,格子模様でも良い。また,第1刺激パターン画像における輝度変化は正弦波に限られず,二値的に変化しても良い。
【0030】
第1刺激パターン画像の提示時間長が経過すると,モニタ画面上から注視視標が消え,同時に第2刺激パターン画像の提示が開始される。なお,前述のMOD(Motion Onset delay)は,第1刺激パターン画像が提示されてから第2刺激パターン画像が提示されるまでの時間間隔(すなわち,第1刺激パターン画像の提示時間長)のことである。
【0031】
本実施例における第2刺激パターン画像は,第1刺激パターン画像と同じパターン画像(本実施例の場合は正弦波状の縦縞パターン)であるが,その位相が,第1刺激パターン画像に対して90°(1/4波長)右又は左にずれたものを使用する。なお,位相θは,0°<θ<180°の範囲であれば任意である。もっとも,位相のずれ量は各試行回で同じである。本実施例では,第2刺激パターン画像を200ミリ秒提示する。勿論,200ミリ秒は一例である。
【0032】
なお,モニタ画面に提示される画像が第1刺激パターン画像から第2刺激パターン画像に切り替わることで反射的に生じる眼球位置の変化の測定データとしては,図3に示すように,第2刺激パターン画像の提示が開始されてから50ミリ秒〜200ミリ秒(好ましくは80ミリ秒〜160ミリ秒)の区間を使用する。反射による眼球運動は刺激パターンの変化に対して遅れるためである。なお,眼球運動の測定に用いる区間は一例であり,仮現運動刺激のコントラストや空間周波数に応じて適切な時間を設定することが望ましい。
【0033】
後述するサッケード運動(高速な眼球運動による視線のシフト)を含む試行の除外をデータ解析で実行するために,少なくとも第2刺激パターン画像の提示が開始される前の時点(例えば50ミリ秒前)から眼球運動の記録を開始することが望ましい。
【0034】
第2刺激パターン画像の提示時間長が経過すると,第2グレー画像がモニタ画面上に提示される。第2グレー画像には注視視標が提示されない。本実施例における第2グレー画像の提示時間長は約1.5秒であり,この提示時間長が経過すると,次の試行回が開始される。
【0035】
本実施例では,第1刺激パターン画像について用意された10種類の提示時間長×2種類の動き方向(右方向と左方向)について計20試行を1ブロックとして実行される。もっとも,動き方向は1方向だけでも良い。また,提示時間長あるいは動き方向の種類を増やしても良い。なお,同じ提示時間長と同じ動きの方向を満たす試行が複数回実行されることが望ましい。同一条件について複数個の測定データを収集することができれば,それらの平均値を計算することにより,測定ノイズを低減できる。本実施例では,30ブロック(20×30(=600)試行)実行される。
【0036】
図4に,第1刺激パターン画像の提示時間長が10ミリ秒となる刺激条件で測定したデータ(眼球位置の変化)を,眼球位置の変化速度に換算した波形例を示す。図4は,同じ刺激条件で行われた複数回の試行中に取得された複数の測定データの平均値に対応する変化速度の波形を表しており,具体的には,右方向への動きを与えた場合の測定データから左方向への動きを与えた場合の測定データを差し引いた波形を表している。図4の横軸は,図3に示す測定区間内における第2刺激パターン画像の提示を開始した時間をゼロとした経過時間(ミリ秒)であり,縦軸は,眼球位置の変化速度である。
【0037】
眼球位置を変化速度に換算する処理は,データ解析装置6が実行する。また,実験制御・データ記録装置4は,各測定回の測定データに対して,第1刺激パターン画像の提示時間長と仮現運動刺激の方向を対応付け,ハードディスク等に記録する。従って,全ての試行回の終了時点には,図5に示す測定データがハードディスク上に記録されることになる。なお,図4はデータ解析の仕組みを説明するための図面であり,実際のデータ解析動作では,複数回の試行中に取得された眼球位置の変化速度データの平均値を計算することなく,眼球位置のデータから各提示時間長に対応する眼球位置の変化のデータを直接計算する。
【0038】
図5は,様々な第1刺激パターン画像の提示時間長で測定された測定データ(図4に示す眼球位置の変化速度)を,測定時に使用した第1刺激パターン画像の提示時間長の長さ順に並べ替えて示す図である。ここで,各提示時間長に対応する波形のうち例えば80ミリ秒〜160ミリ秒の期間の積分値が,各提示時間長に対応する眼球位置の変化を示し,検査対象に固有の時間フィルタを同定するための基礎データに対応する。図5もデータ解析の仕組みを説明するための図面であり,実際のデータ解析動作では,積分値を計算することなく,眼球位置のデータから各提示時間長に対応する眼球位置の変化のデータを直接計算する。
【0039】
(1−3)データ解析動作
以下では,データ解析装置6で実行されるデータ解析動作の内容を説明する。データ解析装置6は,実験制御・データ記録装置4から読み出した測定データを,MATLAB(登録商標)を用いてデータ解析する。具体的には,各提示時間長に対応する眼球位置の変化のデータを,運動エネルギーモデルを用いて解析し,時間フィルタを同定する。データ解析は,以下の手順で実行される。
【0040】
(1)まず,データ解析装置6は,ディジタルローパスフィルタ(例えば4−pole Butterworth Filter,-3dB at 25Hz)を用い,各試行回について測定された眼球位置のデータから高周波ノイズを除去する。
【0041】
(2)次に,データ解析装置6は,ノイズを取り除いた眼球位置のデータの時間差分を計算し,眼球位置の変化速度を計算する。
【0042】
(3)さらに,データ解析装置6は,眼球速度データの時間差分を計算し,眼球位置の変化に関する加速度を計算する。
【0043】
(4)続いて,データ解析装置6は,眼球速度及び眼球加速度のデータを用い,第2刺激パターン画像の提示が開始される50ミリ秒前(第1刺激パターン画像の提示期間)から第2刺激パターン画像の提示が開始されてから200ミリ秒までの時間区間内にサッケード運動(高速な眼球運動による視線のシフト)が起こった試行を取り除く。本実施例の場合,サッケード運動は,眼球速度が30degree/sを超える眼の動き,又は,眼球加速度が1000degree/sを超える眼の動きとして定義する。
【0044】
(5)この後,データ解析装置6は,サッケード運動が検出されなかった試行回の測定データのみを対象として,第2刺激パターン画像の提示が開始されてから80ミリ秒後から160ミリ秒後までの間に測定された測定データに基づいて眼球位置の変化(deg)を計算する。本実施例では,第2刺激パターン画像の提示が開始されてから80〜160ミリ秒の区間に生じた眼球運動反応を計算するため,160ミリ秒に相当する時刻の眼球位置から80ミリ秒に相当する時刻の眼球位置のデータを減算することによって,眼球運動位置の変化を計算した。もちろん,眼球位置の変化速度の例えば80ミリ秒〜160ミリ秒の期間の積分値をその替わりに用いても良い。
【0045】
(6)次に,データ解析装置6は,各提示時間長に対応する眼球運動反応を得るために,同じ刺激条件について収集された複数回の測定データの平均を計算する。
【0046】
(7)さらに,データ解析装置6は,S/Nを改善するために,第2刺激パターン画像が第1刺激パターン画像に対して右方向に動いたときの眼球運動反応の平均値と,左方向に動いたときの眼球運動反応の平均値の差分を計算する。なお,仮現運動刺激の方向が逆方向であると,眼球運動反応の方向も逆方向(符号が正負逆)となるため,差分を計算することで測定値を2倍にする効果がある。
【0047】
これらの計算の結果,データ解析装置6は,検査対象たる被検者の刺激条件に対する応答特性(測定データ)を得る。図6に,測定された応答特性のイメージを示す。図6の横軸は第1刺激パターン画像の提示時間長であり,縦軸は対応する反応の大きさ(第2刺激パターン画像の提示開始から80〜160ミリ秒の間に起こった眼球位置の変化の大きさ)である。
【0048】
(8)その後,データ解析装置6は,次式で与えられる時間フィルタを含む運動エネルギーモデル(Adelson & Bergen, 1985)に,測定時と同じ刺激条件の画像を入力値として適用し,各刺激条件に対応するシミュレーション結果を計算する。
【数1】
ここで,kは時間スケール,bは負の成分の大きさ,Nは次数を規定するパラメータである。なお,運動エネルギーモデルは次数のみが異なるFastフィルタとSlowフィルタの二つの時間フィルタを含む。ここで,Fastフィルタの次数をNfastとし,Slowフィルタの次数をNslow(>Nfast)とする。最初のシミュレーション演算には,各パラメータについて用意した初期値を使用する。
【0049】
従って,データ解析装置6は,第1刺激パターン画像と第2刺激パターン画像を入力する1試行回を,第1刺激パターン画像の提示時間長を変更しながら複数回の試行を繰り返すように,前述した運動エネルギーモデルに入力し,これら複数回の入力のそれぞれについてシミュレーション結果を計算する。なお,運動エネルギーモデルの出力は,右方向と左方向のエネルギーの差(以下「運動エネルギーモデル出力」という。)であり,時間の関数で与えられる。
【0050】
本実施例では,0〜160ミリ秒に相当する時刻の運動エネルギーモデルの平均値をシミュレーション結果とする。もっとも,平均値を計算する区間は,0〜160ミリ秒に限らない。また,平均値に代えて積分値を用いても良い。
【0051】
(9)次に,データ解析装置6は,運動エネルギーモデルのシミュレーション結果と各刺激条件について定量化された応答特性(測定データ)との差が最小になるように,運動エネルギーモデル中の時間フィルタの特性を決めるパラメータの値(k,b)と運動エネルギーモデル全体の出力を調節するスケーリング定数(C)を最適化する。本実施例では,Fast時間フィルタの次数NfastとSlow時間フィルタの次数Nslowをそれぞれ3と6に固定して最適化を実施するが,Nfast及びNslowも同時に最適化しても良い。換言すると,シミュレーション結果と各提示時間長に対応する眼球運動反応の平均値の差分が最小になるように運動エネルギーモデルのパラメータの値を最適化する。眼球運動の時間波形そのものを合わせるのではなく,第1刺激パターン画像の提示時間長に依存して決まる,眼球運動反応の大きさの平均値とモデルの出力とが合致するように最適化する。
【0052】
最適化には,非線形最小自乗法などの非線形最適化計算法の既知のアルゴリズムを使用する。図7に,最適化のイメージを示す。運動エネルギーモデルのシミュレーション結果と各刺激条件について定量化された応答特性(測定データ)との差が最小になるパラメータ値が確定した時点で,検査対象たる被験者の視覚の時間分解能の基盤となる視覚系の時間フィルタが定量的に同定される。図8に,同定された時間フィルタの例を示す。同図は測定データを最も良く再現する時間フィルタの例である。
【0053】
(10)この後,データ解析装置6は,同定された時間フィルタをフーリエ解析し,周波数領域における特性を計算する。図9に,計算される視覚フィルタの周波数特性の一例を示す。本明細書では,周波数特性を表すフィルタと前述した時間フィルタを含めて視覚フィルタという。視覚フィルタより,最適時間周波数,パスバンド周波数帯,最適スピードなどの視覚系の時間分解能や性質を表す定量的な情報を得ることができる。
【0054】
(1−4)実施例の効果
前述したように,本実施例で説明する視覚フィルタ同定装置1を用いれば,眼球運動反応を使用するため,従来技術のような課題(「被験者が検査者の指示を理解しなければならない」,「被験者が随意的に身体を動かして反応しなければならない」,「恣意性の混入により十分な客観性を持ったデータが得られない」等)の心配がなく,視覚系の時間分解能を表す視覚系の時間フィルタを,非侵襲的に客観的かつ定量的に同定することができる。
【0055】
本実施例に係る技術は,視覚系の最も基本的な機能(視覚フィルタ)の性能を調べるものであるため,網膜,視神経,大脳皮質一次視覚野,高次視覚野(後頭,頭頂連合野の運動視・空間視領域)の正常・異常の新たな定量的診断法の開発にも利用できる。勿論,本実施例に係る技術は,治療,リハビリテーション,トレーニング等の効果を測定する検査法の開発にも利用できる。
【0056】
換言すると,実施例に係る技術は,医学や福祉の分野における様々な診療科(小児科,眼科,神経内科,精神科,リハビリテーションなど)における基本視覚機能の検査,検査機器などの開発に利用することができる。しかも,(1)幼児,児童から成人,(2)質問に対して適切に答えることができない患者,(3)ヒト以外の動物を検査対象に含めることができる。
【0057】
また,実施例に係る技術は,反射的な眼球運動反応を手がかりにするので,同一人に対して繰り返し何度でも適用することができる。このため,縦断的検査も可能で,発達や治療の効果の測定に用いることもできる。例えば発達や老化に伴う視覚機能の変化,精神神経疾患に伴う視覚機能の障害の評価するための装置や製品に活用できる。
【0058】
本実施例で定量化できる視覚フィルタは,動体視力を決める要因の一つとなる。これまで動体視力の検査法は「動く対象をどれだけ詳細に見ることができるか」という空間分解能を測定するものであったが,本実施例に係る技術は,視覚像の「変化」を見るための時間分解能を測定するものであり,動きそのものの認識に関わるものである。すなわち,これまでには測定されていない動体視力の新たな次元の測定を行うことができ,例えば競技選手の視覚能力を評価する新たな視覚機能検査への活用が期待でき,教育,体育分野の産業における製品開発にも適用可能である。
【0059】
また,実施例に係る技術は,実験動物を対象とした実験機器に組み込むことも考えられる。この評価法はマウスなどの動物にも適用することが可能であり,科学研究および創薬などへの活用も期待できる。
【0060】
(2)実施例2
(2−1)ISI(InterStimulus Interval)検査法
実施例1で説明したMOD検査法は,ISI検査法と組み合わせて用いることもできる。ISI検査法とは,仮現運動刺激を与える第1刺激パターン画像と第2刺激パターン画像の間にそれらの平均輝度値を有する画像を挿入した際に誘発される追従眼球運動を測定する検査方法であり,仮現運動刺激の移動方向とは逆向きの運動を検査対象に知覚させる。
【0061】
MOD検査法に基づく測定とISI検査に基づく測定の実行順序については,MOD検査法に基づく測定の実行後に,ISI検査法に基づく測定を実行しても良いし,ISI検査法に基づく測定の実行後に,MOD検査法に基づく測定を実行しても良いし,MOD検査法に基づく測定とISI検査法に基づく測定を交互に実行しても良いし,MOD検査法の各試行とISI検査法の各試行を混ぜてランダムな順序で測定しても良い。以下では,視覚フィルタ同定装置1(図1)を使用するISI検査法について説明する。
【0062】
図10及び図11に,ISI検査法における1試行回の画像配置を示す。図10及び図11に示す1試行回に対応する画像の提示は,実験制御・データ記録装置4による制御の下,視覚刺激提示装置3が実行する。
【0063】
各試行回は,図10に示すように,(1)注視視標と第1グレー画像をモニタ画面に提示する期間,(2)注視視標と第1刺激パターン画像をモニタ画面に提示する期間,(3)注視視標と第2グレー画像をモニタ画面に提示する期間,(4)第2刺激パターン画像をモニタ画面に提示する期間,(5)第3グレー画像をモニタ画面に提示する期間で構成される。第1刺激パターン画像と第2刺激パターン画像の間に,注視視標と第2グレー画像が提示される点が実施例1との違いである。
【0064】
本実施例の場合,第1グレー画像と第2グレー画像と第3グレー画像は,いずれも画面全体が一様な輝度値(例えば5cd/m)を有している。もっとも,第1グレー画像の輝度値と第2グレー画像の輝度値が,第1刺激パターン画像の平均輝度値と第2刺激パターン画像の平均輝度値と同じであれば良い。
【0065】
図11に示すように,注視視標と第1グレー画像の提示時間は,試行回毎に異なるように,500〜1000ミリ秒の間でランダムに変更される。もっとも,第1グレー画像の提示時間は,例えば500〜1000ミリ秒の間の固定長でも良い。この提示時間が経過すると,注視視標と第1刺激パターン画像がモニタ画面に提示される。第1刺激パターン画像には,実施例1と同じ画像を使用する。すなわち,第1刺激パターン画像として,水平方向に沿って,正弦波状に輝度が変化する縦縞パターン(空間周波数:0.25cycles/deg,マイケルソンコントラスト:32%,平均輝度5cd/m)を使用する。ただし,第1刺激パターン画像の提示時間長は,320ミリ秒の固定長である。
【0066】
この提示時間が経過すると,注視視標と第2グレー画像がモニタ画面に提示される。第2グレー画像の提示時間長は,試行回毎に異なるようにランダムに可変される。検査対象が提示時間長を予測できないようにするためである。
【0067】
本実施例では,各試行回における第2グレー画像の提示時間長を,例えば0ミリ秒,10ミリ秒,20ミリ秒,30ミリ秒,40ミリ秒,60ミリ秒,80ミリ秒,160ミリ秒,320ミリ秒,640ミリ秒の中からランダムに選択する。提示時間長が0ミリ秒とは,第2グレー画像が提示されないことを意味する。
【0068】
例えば提示時間長の数が10個である場合,10試行回の間に,同じ提示時間長が重複して出現しないように,10個の提示時間長の中から1つの提示時間長をランダムに選択し,第1刺激パターン画像の提示に使用する。なお,10試行回について,提示時間長が単調に増加する出力形態や提示時間長が単調に減少する出力形態は望ましくない。
【0069】
この提示時間が経過すると,モニタ画面上から注視視標が消え,同時に第2刺激パターン画像の提示が開始される。第2刺激パターン画像には,実施例1と同じ画像を使用する。すなわち,第2刺激パターン画像は,第1刺激パターン画像と同じパターン画像であるが,その位相が,第1刺激パターン画像に対して90°(1/4波長)右又は左にずれたものを使用する。位相のずれ量は各試行回で同じである。本実施例では,第2刺激パターン画像を200ミリ秒提示する。なお,反射的に生じる眼球位置の変化の測定に用いる期間は,実施例1と同じである
【0070】
第2刺激パターン画像の提示時間長が経過すると,第3グレー画像がモニタ画面上に提示される。第3グレー画像には注視視標が提示されない。本実施例の場合も,第3グレー画像の提示時間長は約1.5秒であり,この提示時間長が経過すると,次の試行回が開始される。各試行を繰り返す回数は,実施例1と同様である。
【0071】
図12に,第2グレー画像の提示時間長が10ミリ秒となる刺激条件で測定したデータ(眼球位置の変化)を,眼球位置の変化速度に換算した波形例を示す。図12は,同じ刺激条件で行われた複数回の試行中に取得された複数の測定データの平均値に対応する変化速度の波形を表しており,より正確には,右方向への動きを与えた場合の測定データから左方向への動きを与えた場合の測定データを差し引いた波形を表している。図12の横軸は,第2刺激パターン画像の提示を開始した時間をゼロとした経過時間(ミリ秒)であり,縦軸は,眼球位置の変化速度である。眼球位置の変化速度への換算処理は,データ解析装置6が実行する。また,実験制御・データ記録装置4は,各測定回の測定データに対して,第2グレー画像の提示時間長と仮現運動の方向を対応付け,ハードディスク等に記録する。従って,全ての試行回の終了時点には,図13に示す測定データがハードディスク上に記録されることになる。
【0072】
図13は,様々な第2グレー画像の提示時間長で測定された測定データ(図12に示す眼球位置の変化速度)を,測定時に使用した第2グレー画像の提示時間長の長さ順に並べて示す図である。ここで,各提示時間長に対応する波形のうち例えば80ミリ秒〜160ミリ秒の期間の積分値が,各提示時間長に対応する眼球位置の変化を示し,検査対象に固有の時間フィルタを同定するための基礎データに対応する。なお,ISI検査法におけるデータ解析動作はMOD検査法のデータ解析動作と同じであるので説明を省略する。
【0073】
図14に,MOD検査法を用いて測定した応答特性の測定データとISI検査法を用いて測定した応答特性の測定データを同じ時間軸上に配置した応答特性のイメージを示す。ISI検査法では第1刺激パターン画像の提示時間長が320ミリ秒と長いため,MOD検査法に対応する測定データの後ろ側に配置される。この図の場合,MOD検査法における第1刺激パターン画像の提示時間長の最大値は320ミリ秒である。
【0074】
(2−2)実施例の効果
以上説明したように,モニタ画面に提示する画面の組合せを替えてMOD検査とISI検査をそれぞれ実行し,それらの測定データをデータ解析すれば,眼球運動反応に加えて主観的視知覚に関する視覚フィルタを1台の視覚フィルタ同定装置1を用いて,非侵襲的に客観的かつ定量的に同定することができる。
【符号の説明】
【0075】
1…視覚フィルタ同定装置,
2…刺激提示用モニタ,
3…視覚刺激提示装置,
4…実験制御・データ記録装置,
5…眼球運動測定装置,
6…データ解析装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
【国際調査報告】