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再表2017-22628上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法、上皮疾患治療剤のスクリーニング方法、及び上皮疾患治療剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2017年2月9日
【発行日】2018年5月31日
(54)【発明の名称】上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法、上皮疾患治療剤のスクリーニング方法、及び上皮疾患治療剤
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20180427BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20180427BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20180427BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20180427BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20180427BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20180427BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20180427BHJP
【FI】
   G01N33/68
   G01N33/50 Z
   G01N33/15 Z
   C12Q1/02ZNA
   A61P27/02
   A61P1/16
   A61P11/00
   A61P13/12
   A61P1/00
   A61P43/00 105
   A61P17/00
   A61P17/02
   A61P31/22
   A61P9/10
   A61P35/00
   A61K35/28
   A61K35/51
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】23
【出願番号】特願2017-532548(P2017-532548)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2016年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-152575(P2015-152575)
(32)【優先日】2015年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-152576(P2015-152576)
(32)【優先日】2015年7月31日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
【住所又は居所】大阪府吹田市山田丘1番1号
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
【住所又は居所】大阪府大阪市生野区巽西1丁目8番1号
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】西田 幸二
【住所又は居所】大阪府吹田市山田丘1番1号 国立大学法人大阪大学内
(72)【発明者】
【氏名】林 竜平
【住所又は居所】大阪府吹田市山田丘1番1号 国立大学法人大阪大学内
(72)【発明者】
【氏名】本間 陽一
【住所又は居所】大阪府大阪市生野区巽西1丁目8番1号 ロート製薬株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】大久保 徹
【住所又は居所】大阪府大阪市生野区巽西1丁目8番1号 ロート製薬株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】柴田 峻
【住所又は居所】大阪府大阪市生野区巽西1丁目8番1号 ロート製薬株式会社内
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA78
2G045FB02
4B063QA05
4B063QA20
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QQ79
4B063QR36
4B063QR48
4B063QR56
4B063QR62
4B063QR77
4B063QS16
4B063QS25
4B063QS33
4B063QS34
4B063QX02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB59
4C087BB63
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA33
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA66
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB33
(57)【要約】
本発明は、上皮疾患に対する治療・予防効果を有する細胞又はその培養上清を簡便に選択でき、かつ細胞又はその培養上清を含む上皮疾患の治療剤において、薬理効果・所定の品質等を有するか否かの評価、判断が簡便かつ高精度で実施可能となる、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法を提供することを課題とする。
本発明は、細胞及び/又はその培養上清を含む製剤において、サイクロフィリンBを指標に、上記細胞又はその培養上清の、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法である。上記上皮疾患は、上皮間葉転換が関与している疾患であることが好ましい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞及び/又はその培養上清を含む製剤において、サイクロフィリンBを指標に、上記製剤の、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法。
【請求項2】
上記上皮疾患が、上皮間葉転換が関与している疾患である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
上記上皮疾患が、眼部、肝臓、肺、腎臓、消化管、気道又は腹膜における疾患である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
上記上皮疾患が、線維症である、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
上記上皮疾患が、角膜疾患、網膜疾患又は表皮疾患である、請求項1から4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
上記上皮疾患が、翼状片、瘢痕、EBウイルス角膜炎、角膜上皮幹細胞疲弊症、硝子体網膜症、又は強皮症である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
上記上皮疾患が、癌である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項8】
上記細胞が、間葉系幹細胞である、請求項1から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
上記間葉系幹細胞が、脂肪由来間葉系幹細胞又は臍帯由来間葉系幹細胞である、請求項8記載の方法。
【請求項10】
細胞におけるサイクロフィリンBの発現量、又は細胞培養上清中のサイクロフィリンBの含有量を測定する工程
を含む、上記細胞又は細胞培養上清の、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法。
【請求項11】
得られたサイクロフィリンB量を、基準となるサイクロフィリンB量と比較する工程
をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項記載の方法を用いる、上皮疾患治療剤のスクリーニング方法。
【請求項13】
請求項12記載のスクリーニング方法により選択された上皮疾患治療剤であって、間葉系幹細胞又はその培養上清を含むことを特徴とする、上皮疾患治療剤。
【請求項14】
上記上皮疾患が、上皮間葉転換が関与している疾患である、請求項13記載の上皮疾患治療剤。
【請求項15】
上記上皮疾患が、眼部、肝臓、肺、腎臓、消化管、気道又は腹膜における疾患である、請求項13又は14記載の上皮疾患治療剤。
【請求項16】
上記上皮疾患が、線維症である、請求項13から15のいずれか1項記載の上皮疾患治療剤。
【請求項17】
上記上皮疾患が、角膜疾患、網膜疾患又は表皮疾患である、請求項13から16のいずれか1項記載の上皮疾患治療剤。
【請求項18】
上記上皮疾患が、翼状片、瘢痕、EBウイルス角膜炎、角膜上皮幹細胞疲弊症、硝子体網膜症、又は強皮症である、請求項17項記載の上皮疾患治療剤。
【請求項19】
上記上皮疾患が、癌である、請求項13記載の上皮疾患治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法、上皮疾患治療剤のスクリーニング方法、及び上皮疾患治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮間葉転換(Epithelial Mesenchymal Transition;EMT)とは、上皮細胞がその細胞極性や周囲細胞との細胞接着機能を失い、遊走、浸潤能を得ることで間葉系様の細胞へと変化するプロセスである。上皮間葉転換は中胚葉形成や神経管形成等を含む様々な発生プロセス、創傷治癒において重要な役割を果たしている。また、上皮間葉転換が、組織の線維化、癌の浸潤、転移等の多くの疾患においても関与していることが近年明らかになってきている。
【0003】
例えば、殆どの癌において、転移の間、腫瘍細胞で上皮間葉転換が起こることが知られている(非特許文献1参照)。また、上皮間葉転換は、損傷組織が線維化反応を起こすための共通のメカニズムであると広く示唆されている。さらに、近年、トランスフォーミング増殖因子(TGF)−βがin vitro及びin vivoで肺胞上皮細胞(AEC)、乳房上皮細胞、その他の上皮細胞におけるEMTのインデューサーであることが示されている(非特許文献2〜7参照)。このようにEMTは、その基礎疾患の病因を問わず、線維化において共通の普遍的な役割を果たしている可能性がある。
【0004】
癌の転移や線維化が起こる分子メカニズムについての研究は、ある程度進展しているにもかかわらず、癌転移、線維症には未だ十分に有効な治療剤が存在しない。特に、線維症を患う患者にとっての唯一の救済策は臓器移植であるため、種々の線維症に対して優れた効果を有する新規治療剤が強く求められている。
【0005】
一方、細胞や細胞の培養上清を用いる治療方法として、間葉系幹細胞やその培養上清を含む医薬組成物を、標的組織の損傷部を修復するために用いる方法が知られている(特許文献1及び2参照)。また、間充織幹細胞の培養上清を含む医薬組成物を、疾病または損傷による続発性筋肉線維症等の治療に用いる方法も知られている(特許文献3参照)。しかし、これらの医薬組成物は癌転移やその他の線維症に十分有効な治療薬ではなく、さらには、細胞や細胞培養上清を含む医薬組成物の治療有効性を簡便に評価したり、医薬品開発への適性を迅速に判断してスクリーニングする方法は、知られていない。
【0006】
細胞はその種類や処理条件等により種々の機能を備え、またその培養上清は細胞の種類やその処理条件等によって異なる種々多様な因子を含むため、医薬品成分、化粧品成分等として注目されている。このような種々多様な細胞や細胞培養上清について、上皮疾患に対する治療・予防効果を有するか否か、その効果はどの程度か、等について評価・判定するためには、例えば動物モデルを使用した実験を行う必要があり、評価に必要な時間、コストの面において負担が大きい。
【0007】
一方、サイクロフィリンは、免疫抑制剤サイクロスポリンAに結合する蛋白質として見出され、免疫細胞の活性化に関与することが知られている(非特許文献8参照)。ヒトサイクロフィリンとしては、サイクロフィリンA(非特許文献9参照)、サイクロフィリンB(非特許文献10参照)及びサイクロフィリンC(非特許文献11参照)が知られている。しかし、サイクロフィリンとEMTとの関連については何ら報告された例がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開2011/118795号
【特許文献2】特表2010−540662号公報
【特許文献3】特表2007−528703号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Thiery,J.P.、Nat.Rev.Cancer、2002、vol.2:p.442−454
【非特許文献2】Miettinen,P.J.et al.、Journal of cell Biology、1994、vol.127:p.2021−2036
【非特許文献3】Fan,J.M.et al.、Kidney Int、1999、vol.56:p.1455−1467
【非特許文献4】Hales,A.M.et al.、Curr Eye Res、1994、vol.13:p.885−890
【非特許文献5】Kasai,H.et al.、Respir Res、2005,vol.6:p.56
【非特許文献6】Saika,S.et al.、Am J Pathol, 2004,vol.164:p.651−663
【非特許文献7】Willis,BC.et al.、Am J Pathol,2005,vol.166:p.1321−1332
【非特許文献8】Handschumacher,R.E.et al.、Science、1984、226:p.544
【非特許文献9】Haendler,B.、EMBO J、1987、6(4):p.947
【非特許文献10】Price,E.R.et al.、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、1991、88(5):p.1903
【非特許文献11】Schneider,H.et al.、Biochemistry、1994、33(27):p.8218
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような情況の中、種々多様な細胞又は細胞培養上清を含む製剤について、上皮疾患に対する治療・予防効果を有するか否か、その効果はどの程度か、等について、簡便かつ効率よく評価・判定できる方法が求められている。そこで、本発明は、上皮疾患に対する治療・予防効果を有する細胞又は細胞培養上清を簡便に選択でき、かつ細胞又は細胞培養上清を含む上皮疾患の治療剤において、薬理効果・所定の品質等を有するか否かの評価、判断が簡便かつ高精度で実施可能となる、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法を提供することを課題とする。さらに、この方法を使用した、細胞又は細胞培養上清を含む上皮疾患治療剤のスクリーニング方法、及びこのスクリーニング方法により選択される上皮疾患治療剤を提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために種々検討した結果、本発明者らは、細胞におけるサイクロフィリンB発現量、又は細胞培養上清中のサイクロフィリンBの含有量が、その細胞又は細胞培養上清が示す上皮疾患に対する治療・予防効果と相関することを見出し、本発明を完成するに至った。即ち、細胞又は細胞培養上清中のサイクロフィリンBを指標とすることで、この細胞培養上清が上皮疾患に対する治療・予防効果を有するか否か、またその効果の程度について、簡便に評価できることを見出した。
【0012】
本発明の要旨は、以下に記載する通りである。
〔1〕細胞及び/又はその培養上清を含む製剤において、サイクロフィリンBを指標に、上記製剤の、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法。
〔2〕上記上皮疾患が、上皮間葉転換が関与している疾患である、〔1〕記載の方法。
〔3〕上記上皮疾患が、眼部、肝臓、肺、腎臓、消化管、気道又は腹膜における疾患である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕上記上皮疾患が、線維症である、〔1〕から〔3〕のいずれか記載の方法。
〔5〕上記上皮疾患が、角膜疾患、網膜疾患又は表皮疾患である、〔1〕から〔4〕のいずれか記載の方法。
〔6〕上記上皮疾患が、翼状片、瘢痕、EBウイルス角膜炎、角膜上皮幹細胞疲弊症、硝子体網膜症、又は強皮症である、〔5〕記載の方法。
〔7〕上記上皮疾患が、癌である、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔8〕上記細胞が、間葉系幹細胞である、〔1〕から〔7〕のいずれか記載の方法。
〔9〕上記間葉系幹細胞が、脂肪由来間葉系幹細胞又は臍帯由来間葉系幹細胞である、〔8〕記載の方法。
〔10〕細胞におけるサイクロフィリンBの発現量、又は細胞培養上清中のサイクロフィリンBの含有量を測定する工程を含む、上記細胞又はその培養上清の、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法。
〔11〕得られたサイクロフィリンB量を、基準となるサイクロフィリンB量と比較する工程をさらに含む、〔10〕記載の方法。
〔12〕〔1〕から〔11〕のいずれか記載の方法を用いる、上皮疾患治療剤のスクリーニング方法。
〔13〕〔12〕記載のスクリーニング方法により選択された上皮疾患治療剤であって、間葉系幹細胞又はその培養上清を含むことを特徴とする、上皮疾患治療剤。
〔14〕上記上皮疾患が、上皮間葉転換が関与している疾患である、〔13〕記載の上皮疾患治療剤。
〔15〕上記上皮疾患が、眼部、肝臓、肺、腎臓、消化管、気道又は腹膜における疾患である、〔13〕又は〔14〕記載の上皮疾患治療剤。
〔16〕上記上皮疾患が、線維症である、〔13〕から〔15〕のいずれか記載の上皮疾患治療剤。
〔17〕上記上皮疾患が、角膜疾患、網膜疾患又は表皮疾患である、〔13〕から〔16〕のいずれか記載の上皮疾患治療剤。
〔18〕上記上皮疾患が、翼状片、瘢痕、EBウイルス角膜炎、角膜上皮幹細胞疲弊症、硝子体網膜症、又は強皮症である、〔17〕記載の上皮疾患治療剤。
〔19〕上記上皮疾患が、癌である、〔13〕記載の上皮疾患治療剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、上皮疾患に対する治療・予防効果を有する細胞又は細胞培養上清を簡便に選択でき、かつ細胞又は細胞培養上清を含む上皮疾患の治療剤が、薬理効果・所定の品質等を有するか否かの評価・判断が簡便かつ高精度で実施可能となる、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法を提供することができる。また、この方法を用いたスクリーニング方法によると、上皮疾患に対する優れた治療・予防効果を有する細胞又は細胞培養上清を簡便かつ高精度で選択することができるため、新規の上皮疾患治療剤の探索研究において、有効に活用することができる。これにより、開発者の負担を顕著に低減することもできる。さらに、細胞及び/又は細胞培養上清を含む上皮疾患の治療剤が、薬理効果・所定の品質等を有するか否か、例えば薬事法上の承認を受ける際の規格を満たしているか否かの判断等においても、本発明の方法によると、簡便かつ高精度で実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】各種細胞培養上清中のサイクロフィリンBのウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
図2】各種細胞培養上清のEMT抑制効果を示す図である。
図3】間葉系幹細胞培養上清のEMT抑制効果を示す図である。
図4】網膜色素上皮細胞に対するEMT誘導剤の作用を示す図である。
図5】間葉系幹細胞培養上清のEMT抑制効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
<細胞又はその培養上清を含む製剤の、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法>
本発明の評価方法は、細胞及び/又はその培養上清中のサイクロフィリンBを指標に、上記細胞又はその培養上清の、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価できる方法である。以下に、本発明の評価方法を詳細に説明する。本発明の評価方法は、細胞におけるサイクロフィリンBの発現量、又は細胞培養上清中のサイクロフィリンBの含有量を測定する工程(以下、「測定工程」ともいう)を含む。また、得られたサイクロフィリンB量を、基準となるサイクロフィリンB量と比較する工程(以下、「比較工程」ともいう)を含むことが好ましい。さらに、細胞又は細胞培養上清の上皮疾患に対する治療・予防効果を確認するために上皮間葉転換(EMT)抑制活性を測定する工程(以下、「確認工程」ともいう)を含むことがより好ましい。なお、上記サイクロフィリンB量とは、細胞におけるサイクロフィリンBの発現量及び/又は細胞培養上清中のサイクロフィリンBの含有量をいう。
【0017】
上記測定工程においては、細胞におけるサイクロフィリンBの発現量、又は細胞培養上清中のサイクロフィリンBの含有量を測定する。
【0018】
本発明の方法により評価される細胞としては、動物細胞であってもよいし、植物細胞であってもよいが、細胞を含む医薬組成物を使用する対象と同種由来の細胞であることが好ましい。特に、ヒトの上皮疾患に対する治療、予防のために使用する場合には、ヒトの細胞であることが好ましい。このような細胞としては、本発明者により培養上清に上皮疾患に対する効果(上皮間葉転換の抑制効果)が確認された間葉系幹細胞がより好ましく、例えば、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、胎盤、絨毛膜、脱落膜又は臍帯由来の間葉系幹細胞が挙げられるが、これらのうち、サイクロフィリンBの分泌量が多い細胞である臍帯由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞がさらに好ましく、臍帯由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞が特に好ましい。
【0019】
本発明の方法により評価され得る細胞培養上清としては、細胞を培養液中で培養して得られる培養上清であれば特に限定されない。細胞が増殖、又は維持され得る条件の下、細胞を培養して得られた培養液(培養後の培養液)から細胞を除去したものを意味するが、このような培養上清から、例えば、残存培地成分(培養前の培養液の成分のうち、培養後の培養液中に残存している成分)、培養液の水分などの、本発明の効果に寄与しない成分の少なくとも一部をさらに除去したものも、便宜上、本明細書における細胞培養上清に含まれるものとする。なお、簡便性の観点からは、培養後の培養液から細胞を除去したものをそのまま培養上清として用いることが好ましい。上記培養上清を得るための細胞としては、全段落と同様の細胞を挙げることができる。
【0020】
本発明の評価方法により測定するサイクロフィリンBは、当業者に公知の任意のサイクロフィリンBである。種は特に限定されないが、評価対象の細胞又は細胞培養上清と同種由来のサイクロフィリンBを測定対象とすることが好ましい。例えば、本発明の評価対象をヒトの上皮疾患の治療に用いる場合には、ヒト由来のサイクロフィリンBを特異的に検出する手段を用いて測定することが好ましい。基準として用いるサイクロフィリンBとしては、例えば、天然供給源からの抽出、サイクロフィリンBをコードする組換え核酸の発現、又は化学合成によって得られ得る。サイクロフィリンBをコードする組換え核酸の発現においては、真核生物、原核生物のいずれを使用してもよい。純度は、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動のような任意の適切な方法又はHPLC分析等によって測定され得る。
【0021】
ヒト由来のサイクロフィリンBとしては、配列表の配列番号1のアミノ酸配列を含むものが挙げられる。マウス由来のサイクロフィリンBとしては、配列表の配列番号2のアミノ酸配列を含むものが挙げられる。
【0022】
サイクロフィリンB量のうち、細胞におけるサイクロフィリンBの発現量としては、細胞内又は細胞表面におけるタンパクの発現量でもよいし、mRNA等の遺伝子の発現量でもよい。細胞におけるサイクロフィリンBの発現量の測定方法としては、当業者に従来公知の方法を用いることができる。例えば、細胞破砕液についてウェスタンブロッティングを行う方法、ELISAによる方法等が挙げられる。また、細胞表面におけるタンパク発現の測定方法としては、FACS解析等が挙げられる。上記ウェスタンブロッティングを行う方法、ELISAによる方法、FACS解析のいずれにおいても、サイクロフィリンBに特異的に結合する抗サイクロフィリンB抗体を使用し、サイクロフィリンBの発現量を精度よく測定することができる。なお、ウェスタンブロッティングを行う方法においては、得られるサイクロフィリンB特異的なブロットの強度を、濃度のわかる標準標品(ポジティブコントロール)の強度と比較することで、サンプル中のサイクロフィリンB発現量を算出することができる。
【0023】
サイクロフィリンB量のうち、細胞培養上清中のサイクロフィリンBの含有量の測定方法としては、当業者に従来公知の方法を用いることができる。例えば、細胞培養上清についてウェスタンブロッティングを行う方法、ELISAによる方法等が挙げられる。上記ウェスタンブロッティングを行う方法、ELISAによる方法のいずれにおいても、サイクロフィリンBに特異的に結合する抗サイクロフィリンB抗体を使用し、サイクロフィリンBの発現量を精度よく測定することができる。なお、ウェスタンブロッティングを行う方法においては、得られるサイクロフィリンB特異的なブロットの強度を、濃度のわかる標準標品(ポジティブコントロール)の強度と比較することで、サンプル中のサイクロフィリンB含有量を算出することができる。
【0024】
本発明の評価方法においては、本比較工程により、評価対象の細胞におけるサイクロフィリンBの発現量又は細胞培養上清中のサイクロフィリンB含有量と、基準とするサイクロフィリンBの発現量又は含有量とを比較する。評価の目的、対象に合わせて、基準とするサイクロフィリンB量を適宜選択することができる。
【0025】
さらに、本発明の評価方法による評価結果を確認するために、評価対象の細胞又は細胞培養上清について、上皮間葉転換(Epithelial Mesenchymal Transition;EMT)抑制効果を測定する「確認工程」を有することが好ましい。
【0026】
ここで上皮間葉転換とは、上皮細胞がその細胞極性や周囲細胞との細胞接着機能を失い、遊走、浸潤能を得ることで間葉系様の細胞へと変化するプロセスである。この上皮間葉転換は、癌の転移や組織の線維化においても関与していることが近年明らかになってきている。従って、この上皮細胞における上皮間葉転換を抑制する効果がある細胞培養上清は、癌、線維症等の上皮疾患の治療・予防薬として有効である可能性が高い。そこで、本発明の評価方法においては、評価結果の確認のために、EMT抑制効果を測定することが好ましい。
【0027】
上記EMT抑制効果を測定する方法としては、例えば、in vitroにおけるEMT抑制実験が挙げられる。即ち、任意の上皮細胞(組織から単離したプライマリーの細胞であっても、確立された細胞株であってもよい)に対して、EMTを誘導する処理を行う。このような処理としては、例えば、TGF−β及びTNF−αによる処理が代表的な処理方法として挙げられる。これらの誘導剤によってEMTが誘導されたことは、上皮細胞に特異的な遺伝子発現が低下し、間葉細胞に特異的な遺伝子発現が増強することにより確認することができる。上皮細胞に特異的に発現する遺伝子としては、例えば、Claudin−1、Claudin−3、Claudin−4、E−cadherin、Cytokeratin等が挙げられる。また、間葉細胞に特異的に発現する遺伝子としては、例えば、Vimentin、Slug、α−Smooth Muscle Actin、N−cadherin、Fibronectin等が挙げられる。本発明の医薬組成物は、EMTを抑制する効果を有するので、EMTを誘導した細胞に作用させた場合に、又はEMTを起す前の細胞に作用させた後にEMTを誘導する処理をした場合に、上皮細胞特異的な遺伝子発現の低減を抑え、間葉細胞特異的な遺伝子発現の増強を抑制することができる。
【0028】
<上皮疾患治療剤のスクリーニング方法>
本発明の上皮疾患治療剤のスクリーニング方法は、本発明の上記評価方法を用いる。本発明の評価方法により、評価対象の細胞又は細胞培養上清の上皮疾患に対する治療・予防有効性を評価した後、上皮疾患治療剤として次の開発段階に進めるか否かを判断する方法である。本発明のスクリーニング方法によると、上皮疾患に対する治療・予防効果を有する細胞又は細胞培養上清を簡便に選択できるため、新規の上皮疾患治療剤の探索研究において、有効に活用することができる。
【0029】
<上皮疾患治療剤>
本発明は、本発明のスクリーニング方法により選択された上皮疾患治療剤も含む。
本発明の上皮疾患治療剤が含む細胞又は細胞培養上清における「細胞」としては、動物細胞であってもよいし、植物細胞であってもよいが、細胞を含む医薬組成物を使用する対象と同種由来の細胞であることが好ましい。特に、ヒトの上皮疾患に対する治療、予防のために使用する場合には、ヒトの細胞であることが好ましい。このような細胞としては、本発明者により培養上清に上皮疾患に対する効果(上皮間葉転換の抑制効果)が確認された間葉系幹細胞が好ましい。上記間葉系幹細胞としては、例えば、骨髄、脂肪、筋肉、神経、皮膚、羊膜、胎盤、絨毛膜、脱落膜又は臍帯由来の間葉系幹細胞が挙げられるが、これらのうち、サイクロフィリンBの分泌量が多い細胞である臍帯由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞が好ましく、臍帯由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞がより好ましい。
【0030】
本発明者らは、本発明のスクリーニング方法を用いて、間葉系幹細胞又はその培養上清がサイクロフィリンBを含み、上皮間葉転換を抑制する効果を有することから、上皮疾患に対して優れた治療・予防効果を奏することを見出した。
【0031】
本発明における上皮疾患治療剤として、以下のようにして得られる間葉系幹細胞又はその培養上清を含めることができる。上記間葉系幹細胞は、例えば以下の方法によって培養する。即ち、組織由来の間葉系幹細胞、株化された間葉系幹細胞等の間葉系幹細胞を馴化培地中で培養し、続いて目的に応じた特定の培地中で間葉系幹細胞を培養する。
【0032】
上記馴化培地としては、当業者に従来公知の培地を間葉系幹細胞の種類毎にそれぞれ選択して用いることができ、特に限定されない。馴化培地としては、例えば、Promo Cell社、Life Line社、Lonza社等の間葉系幹細胞培養用培地等が挙げられる。馴化培地は、生物由来原料(例えば、動物血清)を含有してもよいが、得られる細胞やその培養上清を動物(ヒトを含む)の疾患の治療のために用いることを考慮すると、生物由来原料を含まない培地(例えば、無血清培地)であることが好ましい。
【0033】
上記特定の培地は、目的や、間葉系幹細胞の種類毎にそれぞれ選択して用いることができる。例えば、通常間葉系幹細胞の培養に用いられる培地、通常間葉系幹細胞以外の培養に用いられる培地、馴化培地から特定の成分を除いた培地、又は馴化培地に特定の成分を加えた培地を用いることができる。例えば、Lonza社のTheraPEAK(登録商標) MSCGM−CD(登録商標) Mesenchymal Stem Cell Medium, Chemically Defined等を用いることができるが、これに限定されない。FCSの含有量は、通常0.1%〜20%であり、0.2%〜10%であることが好ましい。なお、馴化培地と、この特定の培地とが同じ組成であってもよい。
【0034】
上記無血清培地としては、添加剤としての動物血清を含まない培地であればよく、特に限定されない。公知の基本培地に、動物血清を除くその他添加剤を含有した組成を有するものを用いることができる。基本培地の組成は、培養するべき細胞の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、イーグル培地のような最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、最小必須培地α(MEM−α)、間葉系細胞基礎培地(MSCBM)、Ham’s F−12及びF−10培地、DMEM/F12培地、Williams培地E、RPMI−1640培地、MCDB培地、199培地、Fisher培地、Iscove改変ダルベッコ培地(IMDM)、McCoy改変培地等が挙げられる。
【0035】
基本培地に加えるその他の添加剤としては、アミノ酸類、無機塩類、ビタミン類及び炭素源や抗生物質等の他の添加剤を挙げることができる。これらの添加剤の使用濃度は特に限定されず、通常の哺乳動物細胞用培地に用いられる濃度で用いることができる。
【0036】
アミノ酸類としては、例えば、グリシン、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−スレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、L−バリン等が挙げられる。
【0037】
無機塩類としては、例えば、塩化カルシウム、硫酸銅、硝酸鉄(III)、硫酸鉄、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0038】
ビタミン類としては、例えば、コリン、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB4、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンB12、ビタミンB13、ビタミンB15、ビタミンB17、ビタミンBh、ビタミンBt、ビタミンBx、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンF、ビタミンK、ビタミンM、ビタミンP等が挙げられる。
【0039】
他の添加剤としては、繊維芽細胞増殖因子(FGF)、内皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮成長因子(EGF)、インスリン様成長因子(IGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、肝細胞増殖因子(HGF)等の増殖因子;ペニシリン、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、カナマイシン等の抗生物質;グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース等の炭素源;マグネシウム、鉄、亜鉛、カルシウム、カリウム、ナトリウム、銅、セレン、コバルト、スズ、モリブデン、ニッケル、ケイ素等の微量金属;β−グリセロリン酸、デキサメタゾン、ロシグリタゾン、イソブチルメチルキサンチン、5−アザシチジン等の幹細胞分化誘導剤;2−メルカプトエタノール、カタラーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ、N−アセチルシステイン等の抗酸化剤;アデノシン5’−一リン酸、コルチコステロン、エタノールアミン、インスリン、還元型グルタチオン、リポ酸、メラトニン、ヒポキサンチン、フェノールレッド、プロゲステロン、プトレシン、ピルビン酸、チミジン、トリヨードチロニン、トランスフェリン、ラクトフェリン等が挙げられる。
【0040】
本発明における間葉系幹細胞に好適な無血清培地として、市販の無血清培地を使用することもできる。この無血清培地は、抗酸化剤、動物血清アルブミン、成長因子、界面活性剤、Edgリガンド、セロトニンリガンド等をさらに含有してもよい。
【0041】
間葉系幹細胞の培養条件は、それぞれの間葉系幹細胞に適した方法であれば特に限定されず、従来と同様の方法が用いられる。通常、30℃〜37℃の温度、2%〜7%CO環境下、5%〜21%O環境下で行われる。また、間葉系幹細胞の継代の時期及び方法もそれぞれの細胞に適していれば特に限定されず、細胞の様子を見ながら、従来と同様に行うことができる。
【0042】
上記特定の培地中で培養した間葉系幹細胞について、細胞の状態を勘案して適切な回数の継代を行った後、通常その1日後〜5日後、好ましくは2日後〜5日後、より好ましくは2日後〜4日後、さらに好ましくは3日後〜4日後に、遠心分離して細胞培養上清を回収する。細胞培養上清は、1回のみの回収でもよいし、複数日に渡って複数回回収してもよい。
【0043】
本発明の上皮疾患治療剤は、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、その他の有効成分や、一般的な医薬品、医薬部外品等が含むことができる有効成分以外の薬学的に許容される担体等の成分が挙げられる。
【0044】
[上皮疾患治療剤の調製方法]
本発明の上皮疾患治療剤は、本発明のスクリーニング方法により選択された細胞又は細胞培養上清と、その他の成分を常法により混合して製造することができる。
【0045】
[上皮疾患治療剤の用途]
本発明の上皮疾患治療剤は、線維症及び線維症関連疾患、並びに癌及び癌関連疾患等の上皮疾患に対して好適に用いられる。なかでも、EMTが関与する疾患、さらには、眼部、肝臓、肺、腎臓、消化管、気道、腹膜等においてEMTが関与する疾患に対して好ましく用いられる。
【0046】
本発明の上皮疾患治療剤が用いられる具体的な疾患としては、例えば、癌、前癌性症状、炎症性疾患、代謝疾患、心血管疾患、胃腸疾患、腹膜疾患、肺疾患、気道疾患、肝疾患、腎疾患、消化管疾患、眼部疾患(角膜疾患、網膜疾患)、表皮疾患等が挙げられる。
【0047】
上記疾患の詳細な具体例としては、食道癌、胃食道逆流症、バレット食道、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、虫垂癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肛門癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、甲状腺癌、軟骨分解、関節リウマチ、乾癬性関節炎、脊椎関節炎、変形性関節症、痛風、乾癬、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、うっ血性心不全、脳卒中、大動脈弁狭窄症、腎不全、狼瘡、膵炎、アレルギー、線維症、貧血、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、化学療法/放射線関連合併症、I型糖尿病、II型糖尿病、自己免疫性肝炎、C型肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、劇症肝炎、セリアック病、非特異性大腸炎、アレルギー性結膜炎、糖尿病性網膜症、シェーグレン症候群、ブドウ膜炎アレルギー性鼻炎、喘息、石綿症、珪肺、慢性閉塞性肺疾患、慢性肉芽腫性炎症、嚢胞性線維症、サルコイドーシス、糸球体腎炎、脈管炎、皮膚炎、HIV関連悪液質、大脳マラリア、強直性脊椎炎、らい病、肺線維症、線維筋痛、翼状片、瘢痕、EBウイルス角膜炎、角膜上皮幹細胞疲弊症、硝子体網膜症、強皮症等が挙げられる。
【0048】
本発明の上皮疾患治療剤は、EMTに関与する疾患の治療又は予防において好ましく用いられるという観点から、特に、角膜疾患、網膜疾患、表皮疾患に好適に用いられる。具体的には、翼状片、瘢痕、EBウイルス角膜炎、硝子体網膜症、強皮症等が挙げられる。さらに、本発明の医薬組成物は、癌及び前癌性症状からなる群より選択される疾患においても好ましく用いられる。具体的には、食道癌、胃食道逆流症、バレット食道、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、虫垂癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肛門癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、乳癌、肺癌、甲状腺癌等が挙げられる。
【0049】
本発明の上皮疾患治療剤は、他の抗癌剤、抗線維症剤、抗炎症剤等の他の薬剤と併用して用いることもできる。他の薬剤と同時に投与してもよいし、他の薬剤を投与する前後の適切な時期に投与してもよい。
【0050】
本発明の上皮疾患治療剤は、常法によって適宜の製剤とすることができる。本発明の上皮疾患治療剤が細胞を含む場合には、一般的な細胞製剤が含む成分を配合することができる。また、本発明の上皮疾患治療剤が細胞培養上清を含む場合には、製剤の剤型としては散剤、顆粒剤などの固形製剤であってもよいが、優れた予防・治療効果を得る観点からは、溶液剤、乳剤、懸濁剤などの液剤とすることが好ましい。特に点眼剤とする場合には、溶液剤であることがより好ましい。上記液剤の製造方法としては、例えば間葉系幹細胞の培養上清をそのまま使用する方法、その他溶剤と混合する方法や、さらに懸濁化剤や乳化剤を混合する方法を好適に例示することができる。以上のように、本発明における上皮疾患治療剤の製剤においては、製剤上の必要に応じて、適宜の薬学的に許容される担体、例えば、賦形剤、結合剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、安定化剤、無痛化剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、吸着剤、甘味剤、希釈剤などの任意成分を配合することができる。
【0051】
本発明の上皮疾患治療剤の投与方法としては特に制限されないが、血管内投与(好ましくは静脈内投与)、腹腔内投与、腸管内投与、皮下投与、点眼による投与等が好ましい。
【0052】
本発明の医薬組成物の製剤の投与量は、疾患の種類やその症状の度合い、剤型、投与対象の体重等によって変わり得る。本発明の上皮疾患治療剤が細胞を含む場合には、1日当たり、細胞を1X10個〜1X10個の範囲で投与することができる。なお、本発明の予防・治療剤の投与は、1日のうち1〜複数回に分けて行ってもよい。また、本発明の医薬組成物の製剤の投与は、単回投与でもよいし、継続的に行ってもよい。継続的に行う場合は、例えば、3日に1回以上の頻度で、2回以上継続して投与することができ、中でも、2日に1回以上の頻度で、3回以上継続して投与することが好ましく、1日に1回以上の頻度で4回以上継続して投与することがより好ましい。
【0053】
本発明の上皮疾患治療剤が点眼剤である場合、点眼剤に汎用されている技術を用い、必要に応じて製薬学的に許容され得る添加剤を用いて調製することができる。
【0054】
例えば、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。本点眼液のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。
【0055】
本発明の上皮疾患治療剤の投与対象となる動物としては、特に制限されないが、ヒト、サル、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウシ、ブタ、ウマ、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、イヌ等が好ましく、中でもヒトがより好ましい。また、本発明の上皮疾患治療剤が含む細胞培養上清の細胞は、投与対象となる動物の種類と一致した由来であることが、疾患に対するより安定して優れた予防及び/又は治療効果を得る観点から好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0057】
<細胞培養上清のサイクロフィリンB含有量の測定及び角膜上皮細胞(HCEC)におけるEMT抑制効果の評価>
間葉系幹細胞は脂肪由来幹細胞(AD−MSC, Lonza)、骨髄由来幹細胞(BM−MSC, Lonza)、臍帯由来幹細胞(UC−MSC,Lifeline Cell Technology)を使用し、培養液はヒト間葉系幹細胞専用完全合成培地キット(MSC−GMCD,Lonza)を用いた。線維芽細胞は、ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF,クラボウ)を使用し、培養液は10% FBS含有 DMEM(Lifetechnologies)を用いた。それぞれの細胞を培養液で培養した後、MSC−GMCD培地に交換し、さらに2−5日間培養した後、上清を300xgで遠心処理後、上清を評価用の培養上清として取得した。各細胞の培養上清を総タンパク量が25μg(陽性細胞のHepG2 cell lysateは12.5μg)となるように調製し、5%β−mercaptoethanol を含有した4 x NuPAGE LDS Sample Buffer(Bio−Rad)を総量の1/4量加え、70℃で10分間インキュベートし、サンプルとした。SDS−PAGEは4−12%のNuPAGE Novex Bis−Trisゲル(invitrogen)を用いて電気泳動した。iBlotシステム(invitrogen)を用いてPVDFメンブレンに転写した後、5% skim milk/PBS中で室温にて1時間ブロッキングした。0.05% Tween20含有TBS(TBS−T)で5分間3回洗浄したメンブレンを一次抗体に室温で1〜4時間または4℃で一晩反応させ、TBS−Tで5分間3回洗浄した後、二次抗体に室温で45分間反応させた。一次抗体には、抗Cyclophilin B抗体(#ab16045, abcam)(1,200倍希釈)を使用した。二次抗体には、HRP標識抗ウサギIgG抗体(10,000倍希釈)を使用した.抗体はいずれもTBSで希釈して使用した。発光にはECL prime(GE healthcare Bio−Sciences)を使用し、ChemiDoc XRS(Bio−Rad) にて検出した。結果を図1に示す。
【0058】
また、それぞれの培養上清のEMT抑制効果を次のように調べた。48 well plate(BD Falcon)に角膜上皮細胞(HCEC)を2.0×10 cells/well (2.67×10 cells/cm)の細胞密度で播種し、37℃、5 % CO条件下にて培養し、24時間後、10 ng/mL濃度のTGF−β1およびTNF−αを添加した培養液を加え、さらに4日間培養を行った後、AD、BM、またはUC−MSC、およびNHDFの培養上清(すべてMSC−GMCD培地)を培地全体の半量となるように添加し、さらに2日間培養を行った後、 QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN)を用いてRNAを抽出・精製し、SuperScript(登録商標) III First−Strand Synthesis SuperMix for qRT−PCR (Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAを用いてTaqmanアッセイ(Life technologies)により遺伝子発現解析を行った。結果を図2に示す。
また、両方の結果を表1に合わせて示した。
【0059】
【表1】

AD−MSC、AD−MSC2:脂肪由来間葉系幹細胞
BM−MSC:骨髄由来間葉系幹細胞
UC−MSC:臍帯由来間葉系幹細胞
NHDF:皮膚線維芽細胞
【0060】
HCECをTGF−β及びTNF−αで処理することにより、EMTが起こり、上皮マーカーであるClaudin−1の発現低下が、また、間葉マーカーであるVimentin及びSlugの発現増強が見られたが(サンプルNo.6)、各種MSC培養上清を添加すると、EMT抑制効果が見られた。このEMT抑制効果は、培養上清中のサイクロフィリンB含有量と相関していた。従って、培養上清中のサイクロフィリンBを指標として、EMT抑制効果の有無、その程度について規定すると共に、評価、判定することが可能であることがわかった。
【0061】
また、上記MSC培養上清のうち、サイクロフィリンBの含有量が多いAD−MSC、UC−MSCの培養上清は、EMT抑制効果が高いことから、上皮疾患治療剤として、好適に用いられる。特に、眼部、肝臓、肺、腎臓、消化管、気道又は腹膜における疾患、中でも、角膜疾患、具体的には、翼状片、瘢痕、EBウイルス角膜炎等に有効である。
【0062】
次に、上記試験にて、角膜上皮細胞(HCEC)に対して高いEMT抑制効果を示したAD−MSCの培養上清と同様のものについて、表皮角化細胞(NHEK)、網膜色素上皮細胞株(ARPE−19)に対する効果を評価した。
【0063】
<表皮角化細胞(NHEK)におけるEMT抑制効果の評価>
サイクロフィリンB含有培養上清の表皮角化細胞(NHEK)のEMT抑制効果を次のように調べた。すなわち、24 well plate(BD Falcon)に表皮角化細胞(NHEK)を2.0×10 cells/well (1.06×10 cells/cm)の細胞密度で播種し、37℃、5% CO条件下にて培養し、24時間後、10 ng/mL濃度のTGF−β1およびTNF−αを添加した培養液を加え、さらに3日間培養を行った後、サイクロフィリンBを含有するAD−MSCの培養上清(すべてMSC−GMCD培地)を培地全体の半量となるように添加し、さらに3日間培養を行った後、RNeasy kit(QIAGEN)を用いてRNAを抽出・精製し、SuperScript(登録商標) III First−Strand Synthesis SuperMix for qRT−PCR (Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAを用いてTaqmanアッセイ(Life technologies)により遺伝子発現解析を行った。その結果を図3に示す。
【0064】
図3に示すとおり、NHEKをTGF−β1及びTNF−αで処理することにより、EMTが起こり、間葉マーカーであるN−cadherin及びSlugの発現増強が見られたが(Control)、AD−MSC培養上清(MSC−CM)を添加すると、角膜上皮細胞(HCEC)に対してと同様に、高いEMT抑制効果が見られた。このことから、サイクロフィリンBの含有量が多いMSCの培養上清は、上皮疾患治療剤として好適に用いられ、特に表皮疾患、具体的には、強皮症等に有効であることがわかった。
【0065】
<網膜色素上皮細胞株(ARPE−19)におけるEMT抑制効果の評価>
網膜色素上皮細胞株(ARPE−19)のTGF−β1添加によるEMT様遺伝子変動を、以下のように確認した。すなわち、24 well plate(BD Falcon)に網膜色素上皮細胞株(ARPE−19)を2.5×10 cells/cmの細胞密度で播種し、37℃、5% CO条件下にて、5または10ng/mL濃度のTGF−β1を含む培養液(10%FBS含有DMEM/F12)で4日間培養を行った後、QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN)を用いてRNAを抽出・精製し、SuperScript(登録商標) III First−Strand Synthesis SuperMix for qRT−PCR (Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAを用いてTaqmanアッセイ(Life technologies)により遺伝子発現解析を行った。その結果を図4に示す。
【0066】
次に、網膜色素上皮細胞株(ARPE−19)に対するサイクロフィリンB含有MSC培養上清のEMT抑制効果を次のように調べた。すなわち、24 well plate(BD Falcon)に網膜色素上皮細胞株(ARPE−19)を2.5×10 cells/cmの細胞密度で播種し、37℃、FBS含有DMEM/F12)を用いて4日間培養を行った後、サイクロフィリンBを含有するAD−MSCの培養上清(すべてMSC−GMCD培地)を培地全体の半量となるように添加し、さらに3日間培養を行い、QIAzol Lysis Reagent(QIAGEN)を用いてRNAを抽出・精製し、SuperScript(登録商標) III First−Strand Synthesis SuperMix for qRT−PCR (Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAを用いてTaqmanアッセイ(Life technologies)により遺伝子発現解析を行った。その結果を図5に示す。
【0067】
図4に示すとおり、ARPE−19をTGF−β1及びTNF−αで処理することにより、EMTが起こり、間葉マーカーであるFibronectin及びN−cadherinの発現増強が見られたが、AD−MSC培養上清(MSC−CM)を添加すると、角膜上皮細胞(HCEC)に対してと同様に、高いEMT抑制効果が見られ、これらの遺伝子発現が抑制された。他の間葉マーカーであるSnail及びSlugの発現も同様に抑制された(図5)。このことから、サイクロフィリンBの含有量が多いMSCの培養上清は、上皮疾患治療剤として好適に用いられ、特に眼部における疾患、中でも網膜疾患、具体的には硝子体網膜症等に有効であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によると、上皮疾患に対する治療・予防効果を有する細胞又は細胞培養上清を簡便に選択でき、かつ細胞又は細胞培養上清を含む上皮疾患の治療剤が、薬理効果・所定の品質等を有するか否かの評価・判断が簡便かつ高精度で実施可能となる、上皮疾患に対する治療及び/又は予防有効性を評価する方法を提供することができる。また、この方法を用いたスクリーニング方法によると、上皮疾患に対する優れた治療・予防効果を有する細胞又は細胞培養上清を簡便かつ高精度で選択することができるため、新規の上皮疾患治療剤の探索研究において、有効に活用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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【国際調査報告】