(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の医薬組成物は、CCR8に対する抗体を含有することを特徴とする、
【0014】
本発明のCCR8はマウス、ラット、ハムスター、モルモット、イヌ、ブタ、サル、ヒトを含む霊長類の哺乳動物を由来とするものを含む。好ましくはヒトCCR8である。
【0015】
CCR8に対する抗体は、CCR8に結合する抗体であれば、ヒト由来抗体、マウス由来抗体、ラット由来抗体、ウサギ由来抗体またはヤギ由来抗体のいずれの抗体でもよく、さらにそれらのポリクローナル抗体、モノクローナル抗体でもよく、完全型抗体、抗体断片(例えば、F(ab’)
2、Fab’、FabまたはFv断片)、キメラ化抗体、ヒト化抗体または完全ヒト型抗体のいずれのものでもよい。好ましくは、ヒト由来抗体、ヒト化抗体または完全ヒト型抗体である。
【0016】
本発明の抗体は、CCR8の全長タンパク質または部分タンパク質を抗原として、公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。なお、本発明の抗体は細胞表面上に発現するCCR8に結合することが望ましいため、部分タンパク質は、CCR8の細胞外領域が望ましい。これらの抗原は、公知のタンパク質発現ならびに精製法によって調製することができる。
【0017】
上記以外に、CCR8に対する抗体の作成に適した抗原としては、例えば発現ベクターなどによりCCR8を強制発現させた細胞、CCR8発現プラスミドベクター、CCR8発現ウイルスベクター等(アデノウイルスベクターなど)があげられる。
【0018】
ポリクローナル抗体は、公知の方法によって製造することができる。例えば、抗原タンパク質あるいはそれとキャリアー蛋白質との混合物で、適当な動物に免疫を行ない、その免疫動物から抗原タンパク質に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造することができる。用いられる動物としては、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、モルモットが一般的に挙げられる。抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを抗原タンパク質と共に投与することができる。投与は、通常約2週毎に1回ずつ、計約3〜10回程度行なうのが一般的である。ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された動物の血液、腹水などから採取することができる。抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、ELISA法によって測定することができる。ポリクローナル抗体の分離精製は、例えば、抗原結合固相あるいはプロテインA あるいはプロテインGなどの活性吸着剤を用いた精製法、塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法などの免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
【0019】
モノクローナル抗体は、既知の一般的な製造方法によって調製することができる。具体的には、本発明の抗原を、必要に応じてフロイントアジュバントとともに、哺乳動物、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモットまたはウサギの皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1乃至数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1〜21日毎に1〜4回免疫を行って、最終免疫より約1〜10日後に免疫感作された哺乳動物から抗体産生細胞を取得することができる。免疫を施す回数及び時間的インターバルは、使用する免疫原の性質などにより、適宜変更することができる。
【0020】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(Nature、1975、vol.256、p495〜497)及びそれに準じた方法に従って行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギまたはヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラットまたはヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞を細胞融合させることによってハイブリドーマを調製することができる。
細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、一般的にはマウスから得られた株化細胞、例えばP3−U1、NS−1、SP−2、653、X63、AP−1などを使用することができる。
【0021】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の、前述のマウス免疫感作で用いた本発明の抗原に対する反応性を、RIA、ELISA、FACS等の測定法によって測定し、当該抗原あるいはハプテンに対して特異的結合を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって行う。そして、通常は抗原を固相化しそこに結合する培養上清中の抗体を、放射性物質、蛍光物質、酵素などで標識した二次抗体で検出する方法が用いられる。また、抗原の発現細胞を用いる場合には、該細胞にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に蛍光で標識した二次抗体を反応させた後、フローサイトメーター等の蛍光検出装置で該細胞の蛍光強度を測定することにより、該細胞膜上の本発明の抗原に結合できるモノクローナル抗体を検出することができる。
【0022】
選択したハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロで培養するか、またはマウス、ラット、モルモット、ハムスターまたはウサギ等、好ましくはマウスまたはラット、より好ましくはマウスの腹水中等で培養し、得られた培養上清、または哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地あるいは既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
【0023】
基本培地としては、例えば、Ham’F12培地、MCDB153培地あるいは低カルシウムMEM培地等の低カルシウム培地及びMCDB104培地、MEM培地、D−MEM培地、RPMI1640培地、ASF104培地あるいはRD培地等の高カルシウム培地等が挙げられ、該基本培地は、目的に応じて、例えば血清、ホルモン、サイトカイン及び/または種々無機あるいは有機物質等を含有することができる。
【0024】
モノクローナル抗体の単離、精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、イオン交換クロマトグラフィー(DEAEまたはDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。
【0025】
本発明の抗体として、抗体遺伝子を抗体産生細胞、例えばハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Carlら、THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES、1990年発行)。
【0026】
具体的には、目的とする抗体を産生するハイブリドーマや抗体を産生する免疫細胞、例えば感作リンパ球等を癌遺伝子等により不死化させた細胞から、抗体の可変領域(V領域)をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えばグアニジン超遠心法(Chirgwin、J.M.ら、Biochemistry(1979) 18、5294-5299)等により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(ファルマシア製)等を使用してmRNAを調製する。
【0027】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First−strand cDNA Synthesis Kit等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5’−Ampli FINDER RACEKit (クローンテック製)およびPCRを用いた5’−RACE法(Frohman,M.A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1988年、第85巻、 8998ページなど)を使用することができる。得られたPCR産物から目的とするDNA断片を精製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0028】
目的とする抗体のV領域をコードするDNAが得られれば、これを所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターへ組み込む。または、抗体のV領域をコードするDNAを、抗体C領域のDNAを含む発現ベクターへ組み込んでもよい。本発明で使用される抗体を製造するには、抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー/プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0029】
抗体遺伝子の発現は、抗体の重鎖(H鎖)または軽鎖(L鎖)を別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAを単一の発現ベクターに組み込んで宿主を形質転換させてもよい(WO94/11523参照)。
【0030】
上記以外の本発明の抗体の作製方法には、いわゆるファージディスプレイ技術(Nature Biotechnology 23,1105(2005))も用いることができる。具体的には、例えばヒトや動物(例えば、ウサギ、マウス、ラット、ハムスターなど)のBリンパ球を材料として公知の方法により作製された抗体遺伝子ライブラリー、もしくはヒトや動物のGerm Line配列から選別、および改変して完全合成した抗体遺伝子ライブラリーを、バクテリオファージ、大腸菌、酵母、動物細胞等の細胞表面やリボソーム上等に提示させる。このとき、細胞表面に提示させる抗体の形態としてはIgG分子、IgM分子、Fabフラグメント、一本鎖Fv(scFv)フラグメント等が挙げられる。
【0031】
こうして得た抗体フラグメント遺伝子は公知の方法によりIgG抗体遺伝子の対応領域と組替えることにより、抗体遺伝子を得ることができる。そして、このようにして得られた遺伝子を適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて抗体を産生することができる(例えば、Carlら、THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES、1990年発行)。
【0032】
本発明の抗体には、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した抗体、例えば、キメラ化抗体、ヒト化抗体や、完全ヒト型抗体等が含まれる。
【0033】
本発明の抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)、放射性物質、トキシン、糖鎖等の各種分子と結合したコンジュゲート抗体でもよい。このようなコンジュゲート抗体は、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。なお、抗体の修飾方法はこの分野においてすでに確立されている。本発明における抗体にはこれらのコンジュゲート抗体も包含される。
【0034】
本発明の抗体には抗体のFc領域にN−グリコシド結合糖鎖が結合し、該N−グリコシド結合糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない抗体が包含される。抗体のFc領域にN−グリコシド結合糖鎖が結合し、該N−グリコシド結合糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない抗体としては、例えばα1,6−フコース転移酵素遺伝子が欠損したCHO細胞(国際公開第2005/035586号、国際公開第02/31140号)を用いて作製される抗体が挙げられる。抗体のFc領域にN−グリコシド結合糖鎖が結合し、該N−グリコシド結合糖鎖の還元末端のN−アセチルグルコサミンにフコースが結合していない本発明の抗体は、高いADCC活性を有する。
【0035】
また本発明の抗体は、そのN末端あるいはC末端に他のタンパク質を融合してもよい(Clinical Cancer Research, 2004, 10, 1274−1281)。融合するタンパク質は当業者が適宜選択することができる。
【0036】
抗体断片とは、前述する本発明の抗体の一部であって、当該抗体と同様にCCR8に特異的な結合性を有する断片を意味する。抗体断片とは、具体的には、Fab、F(ab')
2、Fab'、一本鎖抗体 (scFv)、ジスルフィド安定化抗体(dsFv)、2量化体V領域断片 (Diabody)、CDRを含むペプチド等を挙げることができる(エキスパート・オピニオン・オン・テラピューティック・パテンツ、第6巻、第5号、第441〜456頁、1996年)。
【0037】
また、本発明の抗体は、2個の異なる抗原決定部位を有し、異なる抗原に結合する二重特異性抗体(bispecific抗体)でもよい。
【0038】
ADCC(Antibody-dependent cell mediated cytotoxicity;抗体依存性細胞介在性細胞傷害)活性とは、生体内で、腫瘍細胞等の細胞表面抗原などに結合した抗体が、抗体のFc領域とエフェクター細胞表面上に存在するFcレセプターとの結合を介してエフェクター細胞を活性化し、腫瘍細胞等を傷害する活性を意味する。エフェクター細胞としては、ナチュラルキラー細胞、活性化されたマクロファージ等があげられる。
【0039】
また、本発明の抗体は、Treg細胞又はマクロファージ細胞を除去させることが出来る点から、CCR8を発現する細胞に対してADCC活性を有する抗体が好ましい。本発明の抗体がこのようなADCC活性を有するか否かは、例えば、後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物に含まれるCCR8に対する抗体は、Treg細胞又はマクロファージ細胞の腫瘍内への集積を抑制する観点から、CCR8の中和抗体が好ましい。CCR8の中和抗体とは、CCR8に対する中和活性を有する抗体を意味する。CCR8に対する中和活性を有するか否かは、CCL1のCCR8に対する生理作用を抑制するか否かを測定することにより判別できる。例としては、これらに限定されるものではないが、CCL1のCCR8への結合、あるいはCCL1によるCCR8発現細胞の遊走または細胞内Ca
++増加またはCCL1刺激に感受性のある遺伝子の発現変動などを測定することが挙げられる。また、後述の実施例に記載の方法にて測定することもできる。
【0041】
本発明のCCR8に対する抗体は、腫瘍内浸潤Treg細胞除去作用を有するものが好ましい。本発明の抗体が腫瘍内浸潤Treg細胞除去作用を有しているか否かは、例えば、後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0042】
本発明のCCR8に対する抗体は、腫瘍内浸潤マクロファージ細胞除去作用を有するものが好ましい。本発明の抗体が腫瘍内浸潤マクロファージ細胞除去作用を有しているか否かは、例えば、後述の実施例に記載の方法にて測定することができる。
【0043】
本発明の抗体は、医薬組成物として有用である。したがって本発明の抗体を含む医薬組成物は、経口的または非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。非経口的投与としては、例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、鼻腔内投与、吸入などを選択することができる。
【0044】
本発明の「癌治療用医薬組成物」における「癌」には、すべての固形癌及び血液癌が含まれる。具体的には、乳癌、子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、胃(胃腺)癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、膀胱癌、メラノーマ、大腸癌、腎癌、非ホジキンリンパ腫、尿路上皮癌、肉腫、血球癌(白血病、リンパ腫等)、胆管癌、胆のう癌、甲状腺癌、前立腺癌、精巣癌、胸腺癌、肝臓癌等が挙げられる。好ましくは乳癌、子宮体癌、卵巣癌、、肺癌、大腸癌、腎癌、肉腫が挙げられ、より好ましくは乳癌、大腸癌、腎癌、肉腫が挙げられる。
また、本発明の「癌治療用医薬組成物」における「癌」は、腫瘍特異抗原を発現する癌が好ましい。
【0045】
なお、本明細書に記載の「癌」は、卵巣癌、胃癌等の上皮性の悪性腫瘍のみならず、慢性リンパ性白血病やホジキンリンパ腫等の造血器がんを含む非上皮性の悪性腫瘍も意味するものとし、本明細書において、「がん(cancer)」、「癌(carcinoma)」、「腫瘍(tumor)」、「新生物(neoplasm)」等の用語は互いに区別されず、相互に交換可能である。
【0046】
本発明のCCR8に対する抗体は、
(1)本発明の医薬組成物の治療効果の補完及び/又は増強、
(2)本発明の医薬組成物の動態、吸収改善、投与量の低減及び/又は、
(3)本発明の医薬組成物の副作用の軽減、
のために他の薬剤と組み合わせて、併用剤として投与してもよい。
【0047】
本発明のCCR8に対する抗体と他の薬剤の併用剤は、1つの製剤中に両成分を配合した配合剤の形態で投与してもよく、また別々の製剤にして投与する形態をとってもよい。この別々の製剤にして投与する場合には、同時投与および時間差による投与が含まれる。また、時間差による投与は、本発明抗体を先に投与し、他の薬剤を後に投与してもよいし、他の薬剤を先に投与し、本発明化合物を後に投与してもかまわず、それぞれの投与方法は同じでも異なっていてもよい。
【0048】
本発明のCCR8に対する抗体と併用してもよい他の薬剤としては、例えば抗PD―1抗体、抗PD−L1抗体又は抗CTLA−4抗体が挙げらる。抗PD―1抗体又は抗PD−L1抗体が好ましく、抗PD―1抗体がより好ましい。
【0049】
本発明において、抗PD―1抗体としては、例えば、ニボルマブ(Nivolumab)、ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)が挙げられる。
【0050】
本発明において、抗PD−L1抗体としては、例えば、アテゾリズマブ(Atezolizumab)、アベルマブ(Avelumab)、デュルバルマブ(Durvalumab)が挙げられる。
【0051】
本発明において、抗CTLA−4抗体としては、例えば、イピリムマブ(Ipilimumab)が挙げられる。
【0052】
本発明の医薬組成物の対象患者は癌患者であるか又はその疑いがあることが想定される。有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.01mgから100mgの範囲から選ばれる。あるいは、患者あたり5〜5000mg、好ましくは10〜500mgの投与量を選ぶことができる。しかしながら、本発明の抗体又はその抗体断片を含む医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。また、投与期間は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。本発明の医薬組成物は、投与経路次第で医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。このような担体および添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、カゼイン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などが挙げられる。使用される添加物は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、遺伝子操作的手法として、特に断らない限り、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory)に記載されている方法を用いた。
【実施例1】
【0054】
腎癌腫瘍内浸潤細胞及びPBMCの抽出と解析
術前に抗癌剤や放射線等の治療を行っていない淡明細胞型腎細胞癌(clear cell renal cell carcinoma; ccRCC)の患者(3例)から外科的治療により摘出された原発腫瘍組織の一部を用いて以下の解析を行った.腫瘍重量を測定後、腫瘍塊をハサミで2mm角に切断し、Tumor Dissociation Kit, human (130-095-929, Miltenyi)及び gentleMACS(TM)Dissociator (Miltenyi, 130-093-235)を用いてキットの添付プロトコルにしたがい腫瘍組織のホモジネートを作製した。ホモジネートを70umのセルストレイナーに通し、溶血処理を行った後,30%パーコール/PBS溶液でデブリスおよび死細胞を除去し、腫瘍組織単細胞を得た。
同一患者の末梢血単核球(PBMC)は末梢血からFicoll-paque PLUS (GE Healthcare社)を用いた密度勾配遠心法により分取した. 分離した腫瘍内細胞及びPBMCは細胞数を計測後、Human TruStain FcX(TM)(BioLegend, 422-301)及びZombie NIR
TM Fixable Viability kit (BioLegend, 423105)を添付プロトコルにしたがい処理し、氷中で30分間染色した。その後2%FCS/HEPES/HBSSで1回洗浄後、以下の標識抗体、標識抗体添付プロトコルにしたがい染色した。
【0055】
腫瘍内浸潤細胞については、抗CD3抗体 (BioLegend, Clone UCHT1)、抗CD4抗体(BioLegend, Clone OKT4), 抗CD25抗体(BioLegend, Clone BC96)、を用い氷中で30分間反応させ,細胞表面の染色を行った.2%FCS/HEPES/HBSSで2回洗浄後,Foxp3 / Transcription Factor Staining Buffer Set (eBioscience, 00-5523-00) を使用し、キット添付プロトコル通りに細胞を固定、膜透過処置をした。さらにPE標識抗FoxP3抗体 (eBioscience, Clone PCH010)を用いてFoxP3を染色した。キット付属の洗浄液で1回洗浄後、フローサイトメトリー (BD Biosciences, BD LSRFortessa) により解析した。ccRCC腫瘍内CD4+ CD25+ T細胞はほぼすべてTreg細胞のマーカーであるFoxP3を発現していることを確認した (
図1)。
【0056】
次いで,上記腫瘍内浸潤細胞及びPBMCを抗CD3抗体, 抗CD4抗体, 抗CD45RA抗体(BD Biosciences, Clone HI100)及び抗CD25抗体で染色し、CD3+ CD4+ T細胞について、CD45RA及びCD25発現量で二次元展開した。PBMCの結果は
図2であり、腫瘍内浸潤細胞の結果を
図3に示す。腫瘍内浸潤細胞の場合は、セルソーター(FACSAriaII)を用いてCD3+ CD4+ CD45RA- でかつCD25発現強度を指標に
図1Cに示すとおり強陽性細胞(Fr2), 弱陽性細胞(Fr3)、陰性細胞(Fr4とFr5)の4つに分画して、それぞれのフラクションに含まれる細胞を回収した。PBMCも腫瘍内浸潤細胞と同様に二次元展開し、CD45RA及びCD25の発現強度を指標に
図2に示すとおりFr1〜Fr6に分画し、それぞれのフラクションに含まれる細胞を回収した。
【実施例2】
【0057】
分画した細胞からのRNAの分離とcDNA配列解析
分離回収された各細胞は、RLT buffer (Qiagen)に溶解し、Agencourt RNAClean XP (Bechman Coulter) を用いてtotal RNAを抽出した。回収したRNAは、SMART-Seq v4 Ultra Low Input RNA kit for Sequencing (Clontech)を用いてcDNA化し、KAPA Hyper Prep Kit for illumina (Kapa Biosystems)を用いてライブラリー調整をおこなった。cDNA合成、ライブラリー調整は、常時Agilent 2100 Bioanalyzer (Agilet Technologies)を用いてクオリティーコントロールをおこない、問題ないことを確認した。完成したcDNAライブラリーはKAPA library Quantification kit Illumina Platforms (Kapa Biosystems)を用いてタイトレーション後、Hiseq4000 (illumina)を用いてペアエンドリードでDNA sequencingをおこない、各サンプルあたり100塩基対の配列データを2000万リード以上取得した(fastqファイル)。
生データ(fastq ファイル)はFastQCにより解析し、アダプター配列及びリピート配列はCutAdaptを用いて除去した。各ペアエンドリードはcmpfastq_peプログラムを使用して各ペアを揃えた。ゲノムマッピングはhg38を参照配列として、Bowtie2を持つTOPHAT2プログラムによりデフォルトセッティングでゲノムにマッピングした。マッピングされたリードはSAMtoolsプログラムにより配列ソートされ、HTSEQプログラムによりリードカウントした。カウントデータの正規化はDeseq2プログラムを使用した。得られた各分画について、どの分画がTreg細胞を含んでいるかを以下の方法で確認した。
【0058】
Treg細胞はマーカー遺伝子としてFoxP3及びIkzf2遺伝子を恒常的に発現しており、また刺激により活性化していても、IFNγやIL2はほとんど分泌しないことが判っている。Treg細胞が含まれているか否か、これら遺伝子の発現量を調べることで、ある程度確認することは可能である。上記RNA-Seqデータをもとに腫瘍浸潤細胞とPBMCの各分画について、これら遺伝子の発現量を調べた結果、腫瘍浸潤細胞中のFr2、Fr3、 PBMCのFr2にIkzf2とFoxP3が特異的に発現し、それ以外の分画にはほとんど発現していないことが判明した(
図4)。また腫瘍浸潤細胞のFr4,5及びPBMC細胞中のFr4,Fr5にはIFNγ(IFNgamma)及びIL2が特異的に発現し、それ以外の分画には発現していないことが判明した。(
図4)。以上より、腫瘍浸潤細胞中のFr2、Fr3、PBMCのFr2にTreg細胞が含まれ、それ以外の分画には含まれていないことが判明した。
【実施例3】
【0059】
FoxP3領域の脱メチル化率の測定
FoxP3領域の脱メチル化率はTreg細胞の割合を正確に求める指標であるため、上記で得た腎癌腫瘍浸潤細胞のFr2〜Fr5の細胞についてFoxP3領域の脱メチル化率を検討した。FoxP3遺伝子の第一イントロン内の特定のCpG領域にはTreg細胞特異的に脱メチル化されている領域が存在する(chrX, 49118000-49118500, hg19)。腫瘍内浸潤細胞の各分画に含まれる細胞について、この領域の脱メチル化を解析することで、今回得られた分画がTreg細胞のみからなっているのか、それとも他の細胞も混在しているのかを検証可能である。
腫瘍内浸潤CD4+ T細胞の各分画(Fr2,3,4,5)を回収し、フェノール抽出法を用いてgenome DNAを回収した。Genome DNAに対し、MethylEasy Xceed キット (Human Genetic Signatures) を用いてBisulfite処理をおこない、Treg細胞特異的脱メチル化領域であるFOXP3 intron1 領域(chrX, 49118000-49118500, hg19)に対しアンプリコンPCRをおこなった。DNAメチル化の検出は、メチル化DNA特異的FAM蛍光プローブと脱メチル化特異的VIC蛍光プローブを用意し、QuantStudio 3D digital PCRシステム (Applied Biosystems)によりおこなった。アンプリコンPCR後、FAMおよびVIC蛍光プローブの発光数をカウントし、両蛍光数の比率からDNAメチル化率を算出し、各分画(Fr2〜Fr5)のメチル化率とした。
その結果腫瘍内浸潤細胞中のFr2及びFr3に含まれる細胞では、FOXP3 intron1 領域(chrX, 49118000-49118500)内のCpG配列の95%以上が脱メチル化されており、Fr4及びFr5の脱メチル化率は50%以下であった。このことから、Fr2及びFr3に含まれる細胞のほぼすべてがTreg細胞であると判明した(
図5)。
【実施例4】
【0060】
CCR8の同定
Treg細胞(腫瘍浸潤細胞中のFr2)に特異的に発現する一群の遺伝子を同定するために腫瘍由来の各CD4+ T細胞分画と同一患者PBMC由来CD4+ T細胞分画の遺伝子発現データについて階層的クラスター解析を行い、Treg細胞中のFr2に発現し、腫瘍由来Fr5及び、PBMCのFr4, Fr5にはほとんど発現していない遺伝子としてCCR8を同定した(
図6)。
【実施例5】
【0061】
マウスCCR8強制発現細胞の作製
マウスCCR8(以下、mCCR8と記載する場合がある。)のORF全長を発現ベクター(pcDNA3.4)に挿入し、pcDNA3.4- mCCR8プラスミドを構築した。塩基配列はアミノ酸を変更しない範囲で、哺乳類で使用頻度の高いコドンに変更した。HEK293細胞にリポフェクタミン3000を用いてpcDNA3.4及びpcDNA3.4- mCCR8発現プラスミドをそれぞれ導入し、Geneticin(G418)濃度1mg/mlで2週間薬剤選択を行った。
生き残った細胞をトリプシンで剥離し、DMEM/10%FCS培地で洗浄後、PE標識抗mCCR8抗体(クローンSA214G2)を1/200希釈で添加、30分間氷上で抗体を反応させ、その後DMEM/10%FCSで1回洗浄し、細胞表面に発現するmCCR8を標識した。セルソーター(FACSAriaII)によりmCCR8発現している細胞集団をソーティングにより濃縮した。陽性細胞集団をDMEM/10%FCS(1mg/mlのG418含有培地)存在下で37℃ CO2インキュベーターで2週間培養した。pcDNA3.4 を形質転換した細胞は薬剤選択のみを行い、ソーティングはしなかった。発現確認のため両細胞を市販抗PE標識抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2)で染色し、フローサイトメーター(FACSAriaII)で解析した。その結果を示す(
図7)。pcDNA3.4を形質転換した細胞と比較して、pcDNA3.4−mCCR8を形質転換した細胞は、99%以上の細胞でmCCR8の発現を認めた。
【実施例6】
【0062】
抗マウスCCR8抗体(SA214G2)のFcγR刺激能の検討
抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2, BioLegend社より購入)のADCC活性に必要なFcgR刺激能をmFcγRIV ADCC Reporter Bioassays Core kit (Promega社)を用いて評価した。本キットではエフェクター細胞上のFcγRの活性化が当該細胞のNFATプロモーター下流につないだルシフェラーゼ遺伝子の発現量で示され、これを定量することでFcγRシグナルの活性化を定量可能となる。
以下、簡単に記述する。トリプシンで剥離したmCCR8発現HEK293ターゲット細胞(ターゲット細胞)1x10
5/wellとキット添付FcγR発現エフェクター細胞を1:1.5の比率で、96wellプレート中で混合した。細胞混合後すぐにmCCR8抗体を添加した。その濃度は
図8に示すように33ug/mlから0.033ug/mlでとした(N=2)。エフェクター細胞のみを陰性対象とした。抗体添加後14時間後に細胞を回収し、ルシフェラーゼ活性を測定した(
図8)。N=2の平均値を表示する。
結果、陰性対象ではいかなる抗体濃度でもルシフェラーゼ活性は認められなかったのに対し、ターゲット細胞添加群では抗体濃度依存的な活性が認められた。縦軸は発光量相対値を示す。
図8より最大活性値は約6000Relative Light Unit (R.L.U)であり、EC50値(約3500R.L.U)は約0.1μg/mlであった(図中のライン)。以上の結果より抗マウスCCR8抗体(SA214G2)がFcγRIVを活性化できることを明らかにした。
【実施例7】
【0063】
ADCC活性の測定
実施例5で作製したmCCR8安定発現HEK293細胞を用いて、抗mCCR8抗体(SA214G2)の細胞傷害活性を評価した。
C57BL/6マウスの脾臓を分離し、脾臓細胞をセルストレイナーに通して回収した。細胞を洗浄後、ビオチン化抗CD49b (clone DX5) 抗体を4℃で30分反応させ、洗浄後にストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi)を用いてNK細胞を精製し、エフェクター細胞とした。マウスCCR8発現HEK293細胞は、Cell Trace Violet (CTV) (サーモフィッシャー社、C34557)を用いて終濃度2.5uMで染色し、標的細胞(ターゲット細胞)とした。96well プレート中でエフェクター細胞 : 標的細胞 = 5 : 1(エフェクター細胞数は2.5x10
5)の比率で200μLに混合し、抗マウスCCR8抗体またはアイソタイプコントロール抗体 (ラットIgG2b, clone RTK4530) を終濃度1μg/mlで添加し、37℃のCO
2インキュベーター中で一晩培養した。その後, PE標識Annexin V (AnnexinV-PE, MBL社、4696-100)を添付プロトコルに従い1/100希釈で添加し、37℃で30分染色後、1回洗浄した。フローサイトメーターでCTV染色された標的細胞中のAnnexin V陽性アポトーシス細胞率を解析した。トリプリケート(N=3)で実施し、その平均値と標準偏差を示す。2回同様の実験を行った代表例を示す。(
図9)。アイソタイプコントロール抗体と比較して、抗マウスCCR8抗体を添加すると、標的細胞中のAnnexin V 陽性細胞率が6倍程度有意に増加した。以上より抗マウスCCR8抗体(SA214G2)はADCC活性を有することが判明した。
【実施例8】
【0064】
CCR8に対する中和活性の測定
マウスCCR8安定発現HEK293細胞を用いてマウスCCR8のリガンドであるマウスCCL1による細胞内カルシウム流入を指標として抗マウスCCR8抗体(SA214G2)のCCR8に対する中和活性を評価した。
カルシウム測定には以下の試薬を使用した。
HEPES (WAKO CAS.NO7365-45-9)
HBSS(+) without Phenol Red (WAKO)
Fluo3-AM (cat F023 同人化学)
プロベネシド (CAS-No:57-66-9, ナカライテスク)
Pluronic F127 (P3000MP; Life Technology社)
10mM HEPES/HBSS/0.1% BSA Buffer (HBSSに終濃度10mM HEPESと終濃度0.1% BSAになるようにそれぞれ添加)
Fluo3-AMを4μmol/L、Pluronic F127を0.04%の終濃度で10mM HEPES/HBSS Bufferに溶解した。この溶液に細胞を懸濁し、37℃で1時間インキュベートすることで、Fluo3-AMを細胞に取り込ませた。その後細胞を10mM HEPES/HBSS/0.1%BSA溶液で3回洗浄し、1.25uM プロベネシドを含む10mM HEPES/HBSS/0.1%BSA 溶液に 2x10
5/mlの細胞濃度になるように懸濁した。そして、10分間37℃、CO2インキュベーターでインキュベートした。さらに抗mCCR8抗体(SA214G2)あるいはIsotype Control抗体(Clone LTF-2, Bio X Cell)を5μg/mlの濃度で添加した。さらに20分間37℃でインキュベートした。
細胞は2mL溶液を水晶ガラス製キュベットに入れ、予め測定室を35℃に温度設定しておいた分光光度計HITACHI F7000にセットした。測定条件は下記のとおりである。
励起波長 508.0nm、蛍光(測定)波長 527.0nm、励起側スリット5nm、蛍光側スリット 5nm、ホトマル電圧 950V、レスポンス 0.5s
蛍光波長が安定するまで約30秒間スターラーで撹拌しながらインキュベートした。波長が安定したら、マウスCCL1を終濃度50nM(4μL)になるように添加し、測定を開始した。測定の結果、抗mCCR8抗体を予め添加することより、mCCL1による細胞内カルシウム流入がほぼ完全に抑制されることが判明した(
図10)。コントロール抗体添加では抑制は認められなかった。なお、グラフ中のギャップはアゴニストを細胞に投与するために機器の蓋の開閉をした際のものである。以上より抗mCCR8抗体(SA214G2)抗体はマウスCCR8に対する中和活性を有することが判明した。
【実施例9】
【0065】
CT26におけるmCCR8の発現の確認
CT26細胞を6ウェルディッシュで培養し、約50%のコンフルエント状態になった時点で培養液を除去し、10mM EDTA/PBSを5ml添加し、37℃で5分間インキュベートした。その結果細胞はほぼすべて剥離され、ピペットでサスペンドすることで、ほぼ単一細胞にまで分離できた。2回D−MEM/10%FCSで洗浄し、D-MEM/10%FCSにサスペンドし、LIVE/DEAD(登録商標) Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kit (ThermoFisher Scientific, L34975)とAPC標識抗mCCR8(SA214G2)又はAPC標識Isotype Control抗体で、氷中で細胞を染色した。1時間後に3回D-MEM/10%FCSで洗浄し、フローサイトメーター(FACSCantoII)でmCCR8発現率を解析した。Isotype Control抗体を用いてバックグラウンドを設定し、バックグラウンドレベル以上の陽性細胞率(P6)とAPC蛍光の中央値(Median)を算出した(
図11)。その結果APC蛍光強度の中央値に差は認められず、また陽性細胞も0.2%とほとんど認められなかった。以上より、CT26細胞は抗mCCR8抗体には認識されず、CT26細胞はmCCR8を発現しないことが確認された。
【実施例10】
【0066】
大腸癌細胞株のCT26細胞を用いて腫瘍内浸潤細胞のCCR8発現確認
マウスBalb/cマウス(7w、メス)の背部皮内に3x10
5個(50μL)のCT26細胞(N=3)を移植し、移植3日目にラット抗KLH(キーホールリンペットヘモシアニン、Clone LTF-2)抗体(IgG2b)400μgを腹腔内に投与した。投与後4日目(4d)と7日(7d)目に、3例の個体より腫瘍を回収した(N=3)。CT26細胞の腫瘍塊を、ハサミで細かく切断し、市販キット(Tumor Dissociation Kit, mouse, Miltenyi と the gentleMACS(TM) Dissociator, Miltenyi Biotech cat. 130-095-929)を用いて添付キットプロトコルに従い、腫瘍浸潤細胞を調製した。
調製された細胞は70umのセルストレイナーに通した後、2回10mM HEPES/HBSS/2%FBSで洗浄した。その後、赤血球溶解液(Miltenyi社)で5分間処理し、赤血球を除去し、さらに2%FCS(Fetal Calf Serum)/10mM HEPES/HBSSバッファーで2回洗浄した。腫瘍浸潤細胞を2つに分け、一つはTreg細胞の同定、もう一方はミエロイド系(マクロファージ)細胞の同定を行った。以下の方法及び抗体により細胞を染色した。使用した抗体及び染色試薬、アッセイバッファーは下記の通りである。
【0067】
以下が使用した抗体である。
(Treg細胞確認用抗体セット)
PE anti-mouse/rat FoxP3 (clone FJK-16s) eBiosciences
Anti-mouse CD4 PerCP/Cy5.5 (clone RM4-5)eBiosciences
Anti-mouse CD8a FITC (clone 5H10-1)Biolegend
Bv421 anti-mouse CD25 (clone PC61) BioLegend
Bv510 anti-mouse CD45 (clone 30-F11) Biolegend
AF647 Anti-mouse CCR8 (clone SA214G2) BioLegend
AF647 Isotype Control (clone RTK4530) BioLegend(CCR8の陰性コントロール)
(ミエロイド、マクロファージ細胞確認用抗体セット)
AF647 Anti-mouse CCR8 (clone SA214G2) BioLegend
AF647 Isotype Control (clone RTK4530) BioLegend(CCR8の陰性コントロール)
Bv510 anti-mouse CD45 (clone 30-F11) Biolegend
FITC anti-mouse Gr-1(clone RB6-8C5) Biolegend
Bv421 anti-mouse F4/80 (clone BM8) BioLegend
PECy7 anti-mouse CD11b (clone M1/70) BioLegend
PerCP/Cy5.5 Anti-mouse MHC classII IA/IE (clone M5/114.15.2)BioLegend
PE anti-mouse CD206 (clone C068C2) BioLegend
(その他、使用した試薬)
Zombie NIR Fixable Viability Kit (cat no.423106) BioLegend
BD Pharmingen Transcription Factor buffer Set (cat no.562574)
BD Pharmingen Lysing Buffer (cat no.555899)
HBSS(-) Wako 084-08345
FCS(Hyclone cat no.SH30070.03)
【0068】
染色の方法は以下の通りである。浸潤細胞をZombie NIR Fixable Viability Kit試薬を用いて、30分間氷中で染色した。2%FCS/10mM HEPES/HBSSで1回洗浄後、Treg及びCCR8陽性細胞については、Bv510標識抗CD45、 PerCP.Cy5.5標識抗マウスCD4、FITC標識抗マウスCD8,Bv421標識抗マウスCD25、AF647標識抗マウスCCR8抗体(又はAF647標識されたアイソタイプコントロール抗体)で染色した。単球系細胞についてはBv510標識抗CD45、FITC anti-mouse Gr-1、PECy7 anti-mouse CD11b、Bv421 anti-mouse F4/80、PerCP/Cy5.5標識 MHCクラス2(IA/IE)抗体,PE標識 anti-mouse CD206抗体で染色した。
染色は30分間氷中で実施した。2%FCS/HEPES/HBSSで2回洗浄後、細胞を市販キット(FoxP3 staining kit、eBioscience社)を用いて添付プロトコルにしたがい固定し、PE標識抗FoxP3抗体を用いて細胞内FoxP3を染色した。当該キット添付バッファーで洗浄後、フローサイトメーターを用いて細胞を解析した。
【0069】
CD45+CD4+T細胞を解析した。CD45+CD4+T細胞中でアイソタイプコントロール抗体での染色により陰性細胞領域を決定し、抗マウスCD25及び抗マウスFoxP3抗体でどちらも陽性となる細胞をTreg細胞として、投与4日後(移植7日後)と投与7日後(移植10日後)の存在頻度を算出した。その結果、マウス腫瘍内のCD45+CD4+T細胞中の約23%(4d)と約30%(7d)がCD25+FoxP3+細胞であった(
図12)。
【0070】
次にCD45+CD4+CD25+FoxP3+T細胞中のCCR8発現を解析した。CD45+CD4+CD25+FoxP3+T細胞をアイソタイプコントロール抗体で染色することより陰性細胞領域を決定し、抗マウスCCR8抗体で陽性となる細胞をCCR8+Treg細胞として、投与4日後(移植7日後)と投与7日後(移植10日後)の存在頻度を算出した(
図13)。その結果マウス腫瘍内のCD45+CD4+CD25+FoxP3+T細胞中の約50%(4d)と約67%(7d)がCCR8+細胞であった(
図13)。
【0071】
ミエロイド系細胞については、フローサイトメーターでCD45+細胞とFSC/SSCでミエロイド系集団にゲートし、そのうち CD11b+Gr1+CD206+細胞中のCCR8+細胞率を解析した。その結果移植7日後(投与後4日後)と10日後(投与後7日後)のどちらも40−50%の細胞でCCR8陽性であることが判明した(
図14)。またこれとは異なるマクロファージ細胞集団として、CD45+CD11b+F4/80+細胞(N=3)でのCCR8発現率を同様に測定した所、移植10日目(7d)の時点で45.3%(表準偏差±8.2%)の当該細胞で発現していることを確認した。以上の結果から腫瘍内浸潤細胞の少なくともCD4+CD25+FoxP3+T細胞とCD11b+Gr1+CD206+マクロファージ(M2型マクロファージといわれている)でCCR8が発現していることが判明した。
【実施例11】
【0072】
抗mCCR8抗体投与による腫瘍内浸潤Treg細胞或いは腫瘍内浸潤マクロファージ細胞の除去効果の検討
マウスBalb/cマウス(7w、メス)の背部皮内に3x10
5個のCT26細胞(50uL)を移植した。移植3日後にラット抗マウスCD198(CCR8)抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)或いはアイソタイプコントロール抗体(Clone LTF-2)を尾静脈内に400μg(液量400μL)投与した(各群N=3)。腫瘍移植7日後(抗体投与後4日)と10日後(抗体投与後7日)に腫瘍を回収し、腫瘍内浸潤細胞を調製し、解析した(
図15)。
腫瘍内浸潤Treg細胞は実施例10と同様の方法で回収した。用いた抗体は実施例10と同じである。
【0073】
まず最初に、浸潤細胞をZombie NIR Fixable Viability Kitを用いて、30分間氷中で染色した。2%FCS/10mM HEPES/HBSSで1回洗浄後、Bv510標識抗CD45、PerCP.Cy5.5標識抗マウスCD4、FITC標識抗マウスCD8抗体,Bv421標識抗マウスCD25、AF647標識抗マウスCCR8抗体(又はAF647標識されたアイソタイプコントロール抗体)で染色した。染色は30分間氷中で実施した。2%FCS/HEPES/HBSSで2回洗浄後、細胞を市販キット(FoxP3 staining kit、eBioscience社)を用いて添付プロトコルにしたがい固定し、PE標識抗FoxP3抗体を用いて細胞内FoxP3を染色した。当該キット添付バッファーで洗浄後、フローサイトメーターを用いて細胞を解析した。
【0074】
CD45+CD4+FoxP3+CD25+細胞をマウスTreg細胞とした。Treg細胞中でAF647標識されたアイソタイプコントロール抗体での染色により陰性細胞領域を決定し、AF647標識された抗マウスCCR8抗体でコントロールと比較して陽性となる細胞をCCR8陽性細胞としてその頻度を算出した。
その結果、
図16のようにアイソタイプ抗体投与マウスの腫瘍内CD45+CD4+CD25+FoxP3+T細胞(Treg細胞)比率を100%とした場合の(10日後)抗マウスCCR8(SA214G2)抗体投与マウスでの同細胞(Treg細胞)の陽性率は、腫瘍移植7日後(抗体投与後4日)で約80%、10日後(抗体投与後7日)で約40%であった(
図16)。有意水準**はP<0.01(t検定)であった。以上より抗CCR8抗体投与7日後で腫瘍内浸潤Treg細胞の約60%が抗CCR8抗体により除去されていることが示された。
【0075】
上記と同様に移植後7日目(d7)の腫瘍より腫瘍浸潤細胞を分離し、CD45+細胞のうち、FSC/SSCでミエロイド集団にゲートし(FSC/SSC+と表記する)、その細胞中のCD11b+ F4/80+ 細胞について解析した。F4/80(Ly719)はマウス成熟マクロファージと単球のマーカーである。
図17に示すとおり、アイソタイプコントロール(N=3)と比較して抗mCCR8抗体投与群(N=3)で、CD11b+ F4/80+ 細胞の存在比率が減少した(t検定; P=0.062)。グラフはCD45+ FSC/SSC+ 単核球細胞集団中のF4/80+細胞の存在比率を示す。
図17でF4/80+細胞をさらにMHC(腫瘍組織適合抗原)クラス2分子のうち、IA/IE陽性或いはクラス2(IA/IE)陰性細胞の存在比率を示す。
図18に示すとおり、アイソタイプコントロール(N=3)と比較して、抗mCCR8抗体投与群(N=3)で、IA/IE陰性群で減少傾向を示し、IA/IE陽性群では有意に減少した(t検定;有意水準*; P<0.05)。以上よりマウスCT26腫瘍内単球/マクロファージ集団或いはその一部の集団の腫瘍内細胞数が減少していることが判明した。
【実施例12】
【0076】
大腸癌由来CT26を用いた抗mCCR8抗体投与による抗腫瘍効果の評価
マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に3x10
5個の大腸癌由来CT26細胞(50uL)を移植した。腫瘍移植3日後にラット抗マウスCD198(CCR8)抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)を静脈内に400μg(400μL)投与した(N=10)。コントロールはアイソタイプコントロール抗体を投与した(N=10)。腫瘍移植8日後(抗体投与後5日)より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図19)。
その結果移植7日目にはアイソタイプコントロール抗体投与群と比較して、抗mCCR8投与群で有意差は認められなかったが、11日目、14日目、17日目、21日目において有意に抗mCCR8抗体投与群の腫瘍体積が減少した(有意水準は11日目と14日目が、***;P<0.001、17日目と21日目が**; P<0.01)。また抗マウスCCR8抗体投与群では14日目以降腫瘍体積が減少し、17日目にはほぼ完全に消失した(個体別データは
図20、平均値データは
図21に示す。)。以上の結果より、抗mCCR8抗体投与により、免疫抑制細胞として指摘されているTreg及び単球/マクロファージに発現するmCCR8の機能を抑制し、あるいはそれら発現細胞を抗体のADCC活性により死滅(除去)することで、腫瘍免疫が亢進し、腫瘍の退縮、消滅につながったと結論した。
【0077】
多くの文献等ですでに報告されているが、マウスTreg細胞のマーカーであるマウスCD25に対する特異的抗体(抗CD25)をマウスに投与し、マウスTreg細胞を除去した場合、腫瘍移植前の投与では弱い抗腫瘍効果を示し、移植後2日目以降での投与では、まったく抗腫瘍効果を示さないことが報告されている。我々も今回と同じCT26細胞系で抗CD25抗体の移植後3日目での投与を実施したが、まったく抗腫瘍効果は認められなかった。以上より、抗CD25抗体と比較して、抗mCCR8抗体の方が強い薬効を有していると結論した。
【実施例13】
【0078】
次にCT26を用いて、マウスPD−1に対する特異抗体である抗PD-1抗体(clone RMP1−14、Bio X Cell 社)の薬効評価を行い、抗mCCR8と比較検討した。マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に2x10
5個の大腸癌由来CT26細胞(50μL)を移植した。移植後7日目より抗PD-1抗体(200μg/head, i.p.)を3〜4日おきに計3回実施した。
その結果アイソタイプコントロール抗体を投与した群(N=8)と比較して抗PD-1抗体を投与した群(N=8)で抗腫瘍効果が認められた。移植後14、17、20日目でのアイソタイプコントロールの腫瘍体積の平均と標準偏差は、それぞれ601.7±378.1mm
3、956.3±467.7mm
3及び1528.4±774.1mm
3であり、一方抗PD-1抗体投与群ではそれぞれ175.3±42.6mm
3、174.7±55.8mg及び209.6±99.8mm
3であった。抗PD-1抗体は移植後14、17、20日目のいずれの時点においてもコントロールと比較して腫瘍体積の増加が有意に抑制されていた。しかし腫瘍が完全に消失した個体は、観察期間(移植後20日目まで)では8匹中1匹であった。一方抗mCCR8抗体投与では同期間中に、10匹全例で、腫瘍の完全消失が認められた。以上より、標準的な投与法での抗PD-1抗体と比較して、抗mCCR8抗体の方が強い薬効を有していると結論した。
【実施例14】
【0079】
抗mCCR8抗体投与マウスにおける自己免疫疾患の惹起の有無の確認
次に実施例12での、投与後18日目までのマウスの状態について評価した。コントロール抗体投与群と抗CCR8抗体投与群間で、当該期間中の体重に有意差は無かった。またどちらの群も立毛は認められなかった。投与後18日目に解剖した。コントロールと比較して抗CCR8抗体投与群で、リンパ節及び腸管の肥大があるか検討したが、どちらも違いはなく、肥大は認められなかった。以上の所見より、抗CCR8抗体投与マウスにおいて、抗腫瘍効果を発揮した期間中に、自己免疫疾患の兆候は認められないと結論した。一般的には、抗腫瘍効果が惹起される程度まで、マウスの全身のTregを除去すると、除去後14日程度で重篤な自己免疫疾患が惹起されることが論文で報告されており、Treg抑制療法をふくむ腫瘍免疫療法の懸念材料となっている。今回の結果は、抗CCR8抗体投与により強い抗腫瘍免疫効果が認められたマウスにおいて、抗体投与後18日目においても自己免疫疾患はまったく惹起されていなかった。その一つの説明として、マウスおよびヒトCCR8は腫瘍組織と比較して、PBMC、脾臓、リンパ節での発現が低いことが報告されている。しかしこれら末梢組織でCCR8発現Treg細胞を除去あるいは機能阻害した場合に、自己免疫疾患が惹起されるか否かは今まで報告がなかった。今回初めて、自己免疫疾患を惹起しないことが判明し、従来の知見からは予測できない効果と考えられる。
【実施例15】
【0080】
大腸癌由来Colon−26を用いた抗mCCR8抗体投与による抗腫瘍効果の評価
マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に2x10
5個の大腸癌由来Colon−26細胞(50μL)を移植した。腫瘍移植3日後にラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)を静脈内に400μg(400μL)投与した(N=10)。コントロールはアイソタイプコントロール抗体を投与した(N=10)。腫瘍移植3日後(抗体投与後5日)より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した。その腫瘍がエンドポイント体積(800mm
3)に達した時点で、各動物のエンドポイントとした。その結果移植後14日目及び18日目にアイソタイプコントロール抗体投与群と比較して、抗mCCR8投与群で腫瘍体積増加が抑制された。14日目での腫瘍体積の平均はアイソタイプコントロール抗体投与群で451.3mm
3(標準偏差は±177.5mm
3)、抗CCR8抗体投与群で322.6mm
3(標準偏差は±146.0mm
3)であり、14日目の腫瘍体積が350mm
3以上の個体はアイソタイプコントロール群で10例中9例、抗mCCR8投与群で10例中4例であり、この分離態様に関して、ピアソンのカイ2乗検定ではP=0.019で有意差があった。したがって14日目に350mm
3の腫瘍体積に達した個体数に差が認められた。また移植後18日目での腫瘍体積の平均は、アイソタイプコントロール抗体投与群で874.7mm
3(標準偏差は±269.2mm
3)、抗CCR8抗体投与群で585.4mm
3(標準偏差は±401.7mm
3)であった(
図22)。18日目の腫瘍体積が600mm
3以上の個体はアイソタイプコントロール群で10例中9例であり、一方抗mCCR8投与群では10例中4例であり、この分離態様に関して、ピアソンのカイ2乗検定ではP=0.019であり有意差があった。したがって18日目で600mm
3の腫瘍体積に達した個体数に差が認められた。さらに腫瘍体積が800mm
3になった時点をエンドポイントとして予め設定した。腫瘍体積が800mm
3を超え、死亡したとみなした個体は、14日まではどちらも認められず、18日目でアイソタイプコントロール群が、10例中7例、抗CCR8抗体群が10例中3例であった。18日目での生存率について、ピアソンのカイ2乗検定を行い、生存率に差があるか検討した結果、P=0.025で生存率に有意差があった。
また同じ細胞株を用いた同様の実験で、アイソタイプコントロール抗体を投与した群と比較して抗PD-1抗体(clone RMP1−14、Bio X Cell 社)の投与群で、抗腫瘍効果は認められなかった。以上より抗mCCR8抗体は抗PD-1抗体耐性のColon26細胞に対してより高い抗腫瘍効果を示した。
【実施例16】
【0081】
ヒト腎癌浸潤細胞のCCR8の発現解析
14例のヒト腎癌腫瘍内浸潤細胞でのCCR8の発現解析を行った。14例の腎癌患者の背景は、性別は男性11名と女性3名であり、年齢中央値は68.5歳、病理病期はT1Aが6名、T1Bが2名、T3Aが5名、T3bが1名であった。具体的には、腎癌(Clear Cell Renal Cell Carcinoma, ccRCC)患者14名の腎癌原発腫瘍内浸潤細胞を実施例1の
図1と同様に単離し、Anti-CD4 (BioLegend, Clone OKT4)、 anti-CD3 (BioLegend, Clone UCHT1), anti-CD45RA (BD Biosciences, Clone HI100), anti-CD8 (Biolegend, RPA-T8), anti-CCR8 (BioLegend, Clone L263G8), anti-FoxP3 (eBioscience, Clone 236A/E7)、anti-FoxP3のアイソタイプコントロール抗体で染色し、フローサイトメトリー (BD Biosciences, BD LSRFortessa) で解析した。CD3+CD8+T細胞及びCD3+CD4+T細胞について解析した。CD3+CD4+T細胞については、さらにFoxP3発現の有無で2群にわけて解析した。アイソタイプコントロール抗体の染色により、FoxP3発現の陰性対照とした。CCR8の発現強度は各患者サンプルのFACS解析値の平均値(MFI)を使用した。表1に抗CCR8抗体及びそのアイソタイプコントロール抗体での染色のMFI値の平均及びその標準偏差を示す。
【表1】
【0082】
CD8+ T細胞にはほとんどCCR8は発現していないことが判明した(表1)。CD4+ FoxP3- T細胞は少し発現しているが、CD4+ FoxP3+ T細胞ではMFI値の平均がCD4+ FoxP3- T細胞の8倍以上であり、CD4+ FoxP3+ T細胞にCCR8が有意に強く発現していることが判明した(表1)。
図23は表1の結果をグラフで示したものである。グラフの各プロットはフローサイトメーターによる各患者サンプルのCCR8発現量の平均値(MFI)を示す。グラフの横線は各サンプルのMFI値の平均値を示す。バーは標準偏差を示す。有意水準 ***は、 P<0.001を示す。以上の結果から、ヒト腎癌(ccRCC)において、腫瘍内に浸潤しているCD3+CD4+FoxP3+T細胞表面に特異的に、CCR8タンパク質が発現していることが判明した。この結果はRNA-Seq解析によるmRNA発現解析とも一致する。
上記ccRCCの14サンプルについて、腫瘍浸潤CD4+ T細胞について、FoxP3とCCR8のフローサイトメトリー解析を行った。FoxP3陽性細胞中のCCR8陽性細胞の割合、FoxP3陰性細胞でCCR8陽性細胞の割合をサンプルごとにプロットした。(
図24)。FoxP3及びCCR8共にアイソタイプコントロール抗体での染色を陰性標準として使用し、この閾値以上の細胞を陽性細胞とした。その結果、腫瘍内CD3+CD4+FoxP3+T細胞のCCR8発現率は約75%であり、CD3+CD4+FoxP3−T細胞のCCR8発現率は、約10%であった。
以上の結果よりヒト腎癌腫瘍内浸潤細胞のうちFoxP3を発現するTreg細胞のほとんどでCCR8が発現し、Treg細胞以外のCD4陽性T細胞では約10%にCCR8が発現していることが判明した。以上よりヒト腫瘍内のFoxP3陽性Treg細胞中のCCR8発現率は、マウス腫瘍内のTreg細胞でのCCR8発現率と類似しており、マウスと同様に抗ヒトCCR8特異的抗体により、腫瘍内浸潤FoxP3陽性Treg細胞のほとんどを除去できる可能性が示された。
【実施例17】
【0083】
各種癌における腫瘍内浸潤細胞中のCCR8発現率と生存率の相関
Treg細胞に特異的に発現し、腫瘍細胞あるいはヒトのほとんどの正常細胞でも発現していない遺伝子としてFoxP3遺伝子が同定されている。このようにある特異的な細胞でのみ発現するいわゆるマーカー遺伝子として、例えばTreg細胞のマーカー遺伝子としてFoxP3遺伝子、T細胞及びNK細胞のマーカー遺伝子としてCD3G遺伝子、CD8陽性T細胞のマーカー遺伝子としてCD8A遺伝子などが知られている。
Treg細胞のマーカー遺伝子であるFoxP3遺伝子に関しては、各腫瘍内でのFoxP3遺伝子のmRNA発現量を測定することによりTreg細胞の腫瘍内での存在割合の指標とすることが可能であることも報告されている(Cell,2015年、第160巻、p.48-61)。
また同じ論文で報告されているように、TCGAのようなRNA-Seqデータベースを利用してマーカー遺伝子の腫瘍内発現率(Treg存在比率)と患者生存率について、カプランマイヤー生存曲線を描くことで、Treg細胞の腫瘍内での存在率が、生存率と関連するか解析可能である。腫瘍塊のRNA-Seqデータは、腫瘍細胞及びそこに存在する浸潤細胞(リンパ球や血管細胞など)の両方の細胞で発現するmRNAが混在したデータであるが、腫瘍細胞に発現していないことが示された遺伝子であれば、腫瘍内浸潤細胞で発現する遺伝子とみなすことが可能であり、それを利用して上記のような解析、すなわち腫瘍塊のRNA-Seqデータにおけるマーカー遺伝子の発現解析により腫瘍内浸潤細胞の同定が可能である。さらに腫瘍塊でのマーカー遺伝子の発現量は、そこに浸潤するマーカー遺伝子に対応する特定細胞の発現細胞数と各発現細胞の発現量の積と捉えることができる。
ここで各細胞のマーカー遺伝子の発現量は個体間でほぼ一定と仮定すると、その発現量は浸潤細胞数と正比例する。したがってこの発現量を用いることで、腫瘍内の発現細胞数が個体ごとに算定可能となり、個体間比較が可能となる。
【0084】
(細胞レベルでのCCR8発現解析)
公共データベースであるCCLE(Cancer Cell Line Encyclopedia)にヒト各種細胞株1037種類のRNA発現データが登録されている。これらのデータベースを用いてCCR8やCD3G遺伝子がT細胞以外の癌細胞又は正常細胞で発現しているかを解析した。
腎癌、前立腺癌および膀胱癌由来細胞株について、CCLEデータベースを用いてCD3GとCCR8のmRNA発現を解析した。
調べた細胞株は、腎癌由来細胞株では、
VMRCRCW、 SKRC20、 SNU34、 SKRC31、 UOK10、 SLR20、 OSRC2、TUHR14TKB、 SLR24、 HK2、 A498、 RCC4、 KMRC1、 RCC10RGB、 ACHN、 SLR25、 SNU1272、 UMRC6、 SLR23、 769P、 SLR21、 HEKTE、 CAKI1、 TUHR4TKB、 KMRC2、 VMRCRCZ、 KMRC3、 KMRC20、 CAKI2、 BFTC909、 786O、 A704、 TUHR10TKB、 SLR26、 UMRC2、 CAL54、FURPNT1、FURPNT2、HEK293、G402の40種であり、
前立腺癌由来細胞株では、
VCAP、 LNCAPCLONEFGC、 DU145、 PC3、 22RV1、 PRECLH、 MDAPCA2B、 NCIH660 の8種であり、
膀胱癌由来細胞株では、
TCBC14TK、TCBC2TKBの2種であった。これら調べた全ての固形癌細胞株でCCR8及びCD3Gの発現はバックグラウンドと同レベルの値であり、mRNA発現はまったく認められなかった(最大の発現を示す値でもG3PDHの1/500以下。それ以外はすべてG3PDHの発現量の1/1000以下)。 すなわち、CCR8及びCD3Gは固形癌細胞にはほとんど発現していないことが確認できた。ヒト各組織由来のプライマリーな正常細胞についても同様に解析し、CCR8及びCD3Gは血球系細胞の一部にのみ発現し、それ以外のプライマリーな正常組織由来細胞では、ほとんど発現していないことが判明した。
以上よりこれら3種の癌細胞では、CCR8とCD3Gは発現していないことが示された。したがって腎癌、前立腺癌、膀胱癌の腫瘍塊について、TCGAのRNA発現データを用いた場合に、CCR8とCD3Gは癌細胞以外の、腫瘍塊に存在する浸潤正常細胞でのmRNA発現を反映すると結論した。
【0085】
(TCGA公共データベースを利用した解析)
次にTCGA公共データベースを利用して、腎癌、前立腺癌、膀胱癌の腫瘍中で発現するCD3G遺伝子とCCR8遺伝子の比(CCR8/CD3G)と、患者生存率について解析を行った。これら3種の腫瘍内について、CCR8及びCD3G遺伝子ともっともよく発現が相関(ピアソン相関)する遺伝子は、T細胞で特異的に発現する種々の遺伝子であることが判明した(FoxP3, CD5, IL7R,等で相関係数rは0.7以上)。この結果はCCR8やCD3Gが腫瘍細胞自体には発現せず、腫瘍内に浸潤している発現細胞(特にT細胞)に特異的に発現することを示している。ただしCCR8がT細胞以外の浸潤細胞で発現していることを否定するものではないので、ここではCCR8を発現する細胞集団とする。CD3GについてはT細胞及びNK細胞に特異的に発現することがすでに論文等で報告されており、またT細胞は腫瘍に浸潤する主要な細胞であるので、CD3G発現量は浸潤しているT細胞数と比定できる。したがってCCR8/CD3G値は腫瘍内に存在する、T細胞数あたりのCCR8を発現する細胞数と定義できる。
これら3種の癌腫についてCCR8/CD3G比と患者生存率をカプランマイヤー曲線で解析した。腎癌はTCGAデータのうちKidney Renal Clear Cell Carcinoma (TCGA, Provisional)のデータを使用し、RNA発現データおよび患者生存率データの揃っている523例を使用した。同様に前立腺癌はTCGAデータのうちでProstate Adenocarcinoma (TCGA, Provisional)のデータでRNA発現データおよび患者生存率データの揃っている490例を使用した。
また膀胱癌は TCGAデータのうちでBladder Urothelial Carcinoma (TCGA, Provisional)のデータを使用し、RNA発現データおよび患者生存率データの揃っている392例を使用した。
CCR8/CD3Gの発現値について、高い群と低い群の2群に等分し(腎癌の場合は奇数なので261:262)、カプランマイヤー生存曲線解析を、解析ソフトR (R-Studio)を用いて行った。有意差検定はLog-rank検定を行った。腎癌の結果は
図25、前立腺癌の結果は
図26、膀胱癌の結果を
図27に示す。グラフ中の縦線は、患者は生存しているが、評価期間がこの時点までしか無いために、この時点で脱落したもの(いわゆるセンサーに該当)として扱っている。また横軸の値はすべてのグラフで月数を表す。
【0086】
その結果、3種すべての癌腫においてCCR8/CD3G値の高い群で有意に患者生存率が低かった。ヒト腫瘍内に浸潤しているCCR8発現細胞のT細胞中での比率が高い群で生存率が低下することが判明し、このことは人においてもCCR8発現細胞が腫瘍免疫に対して抑制作用をおよぼしていることが示唆される。このことから、マウスでの抗mCCR8抗体投与での抗腫瘍効果と同様に、ヒトにおいても腫瘍内CCR8発現細胞を何らかの方法で特異的に除去或いは死滅することで、腫瘍免疫を高め、生存率を上昇させる可能性があることが示唆される。
【実施例18】
【0087】
LM8細胞及びMethA細胞におけるマウスCCR8の発現の確認
骨肉種由来LM8細胞及び皮膚線維肉腫由来MethA細胞を6ウェルディッシュで培養し、約50%のコンフルエント状態になった時点で培養液を除去し、10mM EDTA/PBSを5ml添加し、37℃で5分間インキュベートした。その結果細胞はほぼすべて剥離され、ピペットでサスペンドすることで、ほぼ単一細胞にまで分離できた。2回D−MEM/10%FCSで洗浄し、D-MEM/10%FCSにサスペンドし、LIVE/DEAD(登録商標) Fixable Near-IR Dead Cell Stain Kit (ThermoFisher Scientific, L34975)と抗マウスCCR8抗体(SA214G2)又はIsotype Control抗体で、氷中で細胞を染色した。1時間後に3回D-MEM/10%FCSで洗浄し、フローサイトメーター(FACSCantoII)でマウスCCR8発現率を解析した。Isotype Control抗体を用いてバックグラウンドを設定し、バックグラウンドレベル以上の陽性細胞率と蛍光の中央値(Median)を算出した(
図28)。その結果いずれの細胞においてもPEの蛍光強度の中央値に差は認められず、また陽性細胞もまったく認められなかった。以上より、これら細胞は抗マウスCCR8抗体には認識されず、マウスCCR8を発現しないあるいは抗体が反応するエピトープを保持しないことが確認された。
【実施例19】
【0088】
骨肉種由来LM8を用いた抗マウスCCR8抗体投与による抗腫瘍効果の評価
マウスC3H/Heマウス(7週齢、オス)の背部皮内に3x10
5個のマウス骨肉種由来LM8細胞(50uL)を移植した。腫瘍移植3日後にラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)を腹腔内に400μg(400μL)投与した(N=11)。コントロールはアイソタイプコントロール抗体を投与した(N=10)。腫瘍移植7日後(抗体投与後4日)より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図29)。その結果移植18日目以降全測定時点において、アイソタイプコントロール抗体投与群と比較して、抗mCCR8投与群で有意に腫瘍体積の平均値が減少した(有意水準は18日目が*;P<0.05、21、24、27、31日目が**; P<0.01、35日目が***; P<0.001)。また抗体投与31日目時点で、抗マウスCCR8抗体投与群では11匹中6匹、アイソタイプコントロール抗体投与群では10匹中1匹の腫瘍が消失した。この分離態様に関してピアソンのカイ2乗検定を行ったところ、有意差があった(P=0.031)。
【実施例20】
【0089】
皮膚線維肉腫由来MethAを用いた抗マウスCCR8抗体投与による抗腫瘍効果の評価
マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に1x10
5個の皮膚線維肉腫由来MethA(50uL)を移植した。腫瘍移植3日後にラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)を腹腔内に400μg(400μL)投与した(N=5)。コントロールはアイソタイプコントロール抗体を投与した(N=5)。腫瘍移植11日後(抗体投与後8日)より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図30)。
その結果移植11日目以降全測定時点において、アイソタイプコントロール抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8抗体投与群で有意に腫瘍体積の平均値が減少した(有意水準はすべての時点で、*;P<0.05)。また抗体投与21日目時点で、抗マウスCCR8抗体投与群では5匹中5匹、アイソタイプコントロール抗体投与群では5匹中0匹の腫瘍が消失した。この分離態様に関してピアソンのカイ2乗検定を行ったところ、有意差があった(P=0.0016)。
【実施例21】
【0090】
乳癌由来EMT6を用いた抗マウスCCR8抗体投与による抗腫瘍効果の評価
マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に1x10
5個の乳癌由来EMT6(50uL)を移植した。腫瘍移植3日後及び10日後にラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)を尾静脈内に100μg(100μL)投与した(N=20)。コントロールはアイソタイプコントロール抗体を同量投与した(N=20)。腫瘍移植4日後(抗体投与後1日)より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図31)。
その結果移植10日目以降全測定時点において、アイソタイプコントロール抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8抗体投与群で有意に腫瘍体積の平均値が減少した(有意水準は10日目が**;P<0.01、14、17、21日目が***; P<0.001)。また抗体投与21日目時点で、抗マウスCCR8抗体投与群では20匹中19匹、アイソタイプコントロール抗体投与群では20匹中2匹の腫瘍が消失した。この分離態様に関してピアソンのカイ2乗検定を行ったところ、有意差があった(P<0.0001)。
【実施例22】
【0091】
抗マウスCCR8抗体の抗PD−1抗体に対する優位性確認
マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に2x10
5個の大腸癌由来Colon26細胞(50uL)を移植した。腫瘍移植3日後及び10日後にアイソタイプコントロール抗体、ラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)または抗マウスPD−1抗体(RMP1−14,Bioxcell社)を静脈内に400μg(400μL)投与した(N=10)。腫瘍移植3日後より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図32)。その結果アイソタイプ抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8投与群で、17、20、及び24日目において、有意に腫瘍体積が減少した(Steelのノンパラメトリック検定:有意水準はP<0.05)。抗PD−1抗体投与群ではアイソタイプ抗体投与群と比較して、どの時点においても有意差は認められなかった。
また抗体投与24日目時点で、1000mm3以上の体積の腫瘍を保持するマウス個体はアイソタイプ抗体投与群では10匹中7匹、抗マウスCCR8抗体投与群では10匹中2匹、抗PD−1抗体投与群では10匹中7匹であり、抗CCR8投与群はアイソタイプ抗体投与群及び抗PD−1抗体投与群のどちらに対しても、分離態様において、ピアソンのカイ2乗検定で有意差があった(どちらもP=0.025)。以上より大腸癌細胞株Colon26において、抗マウスCCR8抗体投与により抗腫瘍治療効果が認められた。
さらに移植20日目、24日目において、抗マウスPD−1抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8投与群で有意に腫瘍体積が減少した(Steel−Dwassのノンパラメトリック検定;有意水準はP<0.05)。以上よりマウス大腸細胞株において、抗PD−1抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8抗体投与群において、より強い抗腫瘍治療効果が認められた。
【実施例23】
【0092】
腎癌由来細胞株RAGを用いた抗マウスCCR8抗体投与による抗腫瘍効果の評価
マウス腎癌由来細胞株RAGを用いて同様の検討をした。Balb/cマウス(8週齢、メス)の背部皮内に4x10
5個の腎癌由来RAG細胞(50uL)を移植した。なお、RAG細胞は予めBalb/cマウスに皮下移植して生着した腫瘍を再度マウスに移植し、この操作を2回繰り返し、マウス皮下への生着効率を上昇させたRAG細胞(細胞馴化株)を使用した。腫瘍移植6日後にアイソタイプコントロール抗体(N=10、ただし21日目のみN=9)、ラット抗マウスCCR8抗体(N=10)(クローンSA214G2、BioLegend社)または抗マウスPD−1抗体(N=10)(RMP1−14,Bioxcell社)を静脈内に100μg(100μL)投与した。腫瘍移植6日後より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図33)。その結果アイソタイプ抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8抗体投与群で、投与後14、17、及び21日目において有意に腫瘍体積が減少した(Steelのノンパラメトリック検定:有意水準はP<0.05)。アイソタイプ抗体投与群と比較して、抗マウスPD−1抗体投与群では有意差は認められなかった。以上より腎癌細胞株において抗マウスCCR8抗体投与により抗腫瘍治療効果が認められた。また移植14日目において、抗マウスPD−1抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8抗体投与群で有意に腫瘍体積が減少した(Steel−Dwassのノンパラメトリック検定;有意水準はP<0.05)。以上よりマウス腎癌細胞株において、抗マウスPD−1抗体投与群と比較して、抗マウスCCR8抗体投与群において、より強い抗腫瘍治療効果が認められた。
【実施例24】
【0093】
抗マウスCCR8抗体投与マウスにおける炎症反応の有無の解析
マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に2x10
5個の大腸癌由来Colon26細胞(50uL)を移植した。腫瘍移植3日後及び10日後にラット抗マウスCD198(CCR8)抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)またはアイソタイプコントロール抗体(LTF−2,Bioxcell社)を静脈内に400μg(400μL)投与した(N=10)。移植24日目での体重及びマウス各臓器(肺、肝臓、脾臓、小腸、鼠径リンパ節)の重量を測定した(
図34)。その結果、
図34に示すように、コントロール投与群(N=10)と抗マウスCCR8抗体投与群(N=10)で体重及び各臓器重量に有意差は認められなかった。以上より抗マウスCCR8抗体投与による炎症反応及び自己免疫疾患は惹起されていないと結論した。
【実施例25】
【0094】
各種臨床腫瘍内浸潤細胞中のCCR8の発現解析
ヒト腎癌、卵巣癌、子宮体癌、大腸癌、及び肺癌の腫瘍内浸潤細胞におけるCCR8の発現解析を行った。発現解析に用いた各種臨床腫瘍の患者数は、腎癌が12名、卵巣癌が14名、子宮体癌が21名、大腸癌が10名、及び肺癌が4名である。各種臨床腫瘍内浸潤細胞を実施例1の
図1と同様に単離し、Anti-CD45 (BioLegend, Clone H130)、anti-CCR8 (BioLegend, Clone L263G8) 抗体で染色し、フローサイトメトリー (BD Biosciences, BD LSRFortessa) で測定した。腫瘍重量あたりのCCR8陽性細胞数及びCD45陽性白血球中のCCR8陽性細胞の割合について解析した。
表2に腫瘍重量あたりのCCR8陽性細胞数の平均値及びその標準偏差を示す。表3にCD45陽性白血球中のCCR8陽性細胞の割合の平均値及びその標準偏差を示す。
【表2】
【表3】
【0095】
各種臨床腫瘍において腎癌を基準とした場合、腫瘍重量あたりのCCR8陽性細胞数については、卵巣癌及び大腸癌では腎癌より低い平均値を示し、子宮体癌及び肺癌では腎癌より高い平均値を示した。CD45陽性白血球中のCCR8陽性細胞の割合については、卵巣癌では、腎癌と同程度の平均値を示し、肺癌では、腎癌より低い平均値を示した。また、子宮体癌及び大腸癌では腎癌より高い平均値を示した。ヒト腎癌腫瘍内浸潤細胞以外にも、卵巣癌、子宮体癌、大腸癌及び肺癌の腫瘍内浸潤細胞において、CCR8の発現が確認された.以上の結果より、腎癌に加えて、卵巣癌、子宮体癌、大腸癌及び肺癌において、抗ヒトCCR8特異的抗体により、CCR8陽性腫瘍内浸潤細胞を除去できる可能性が示された。
【実施例26】
【0096】
乳癌由来EMT6を用いた抗マウスCCR8抗体と抗PD−1抗体投与の併用による抗腫瘍効果の評価
マウスBalb/cマウス(7週齢、メス)の背部皮内に1x10
5個の乳癌由来EMT6(50uL)を移植した。
抗マウスCCR8抗体単独投与群は、腫瘍移植3日後及び10日後にラット抗マウスCCR8抗体15μg(クローンSA214G2、BioLegend社)を静脈内に投与し(100μL)、腫瘍移植8日目及び13日目にアイソタイプコントロール抗体を200μg(100μL) 投与した(N=10)。抗PD−1抗体単独投与群は、腫瘍移植3日後及び10日後にアイソタイプコントロール抗体15μg(100μL)を、腫瘍移植8日目及び13日目に抗マウスPD−1抗体(RMP1−14、Bioxcell社)200μg(100μL)を静脈内に投与した(N=10)。抗PD−1抗体及び抗マウスCCR8抗体併用投与群は、腫瘍移植3日目及び10日目にラット抗マウスCCR8抗体15μg(100μL)を静脈内に投与し、腫瘍移植8日目及び13日目に抗PD−1抗体200μg(100μL)を静脈内に投与した(N=10)。コントロール群は腫瘍移植3日後及び10日後にアイソタイプコントロール抗体15μg(100μL)を静脈内に投与し、腫瘍移植8日目及び13日目にPBS100μLを静脈内に投与した(N=10)。腫瘍移植3日後(抗体投与後1日)より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図35)。
平均腫瘍体積についての単独投与群同士の比較では、抗PD−1抗体投与群と比較して10、14、17、20、23及び27日目において、抗マウスCCR8抗体投与群で平均腫瘍体積が有意に小さかった(Dunnett法による有意水準:P<0.05)。また、各単独投与群と比較して併用群で腫瘍が小さかった。
また、移植後17日及び27日目における腫瘍の完全寛解率についても比較した。移植17日目でコントロール群及び抗PD−1抗体投与群では10匹中0匹、抗マウスCCR8抗体投与群では10匹中1匹が腫瘍の完全寛解を示したが、抗PD−1抗体と抗マウスCCR8抗体併用群では10匹中6匹が完全寛解した。移植27日目では、コントロール群及び抗PD−1抗体投与群ではそれぞれ10匹中2匹と3匹、抗マウスCCR8抗体投与群では10匹中7匹が腫瘍の完全寛解を示したが、抗PD−1抗体と抗マウスCCR8抗体の併用群では10匹中9匹が完全寛解した。
さらに、50mm
3以下にまで腫瘍が退縮した個体の割合を算出した(
図36)。抗PD−1抗体と抗マウスCCR8抗体の併用群では移植17日目ですべての個体で腫瘍が50mm
3以下に退縮し(100%)、その後27日目まで50mm
3以下であったが、抗PD−1抗体投与群では17日目で10%、27日目で30%、また抗マウスCCR8抗体投与群では移植後17日目で70%、27日目でも同じ70%であった。
以上の結果より,他の単独投与群と比較して併用群では腫瘍退縮までの時間が早く、また退縮効果が強いことが分かった。
【実施例27】
【0097】
マウス腎癌由来細胞株RAGを用いた抗マウスCCR8抗体と抗PD−1抗体投与の併用よる抗腫瘍効果の評価
マウスBalb/cマウス(6週齢、メス)の背部皮内に4.5x10
5個の腎癌由来RAG細胞(50uL)を移植した。なお、RAG細胞は予めBalb/cマウスに皮下移植して生着した腫瘍を再度マウスに移植し、この操作を2回繰り返し、マウス皮下への生着効率を上昇させたRAG細胞(細胞馴化株)を使用した。
抗PD−1抗体単独投与群は腫瘍移植8日後及び15日後に抗PD−1抗体(RMP1−14、Bioxcell社)を静脈内に50μg(100μL)投与した(N=10)。抗マウスCCR8抗体単独投与群は腫瘍移植8日後及び15日後にラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)を静脈内に25μg(100μL)投与した(N=10)。抗PD−1抗体及び抗マウスCCR8抗体併用投与群は、腫瘍移植8日後及び15日後に抗PD−1抗体(RMP1−14、Bioxcell社)50μgとラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)25μgを混合し(100μL)、静脈内に投与した(N=10)。コントロール群は腫瘍移植8日後及び15日後に生理食塩水を静脈内に100μL投与した(N=10)。
腫瘍移植8日後より3〜4日ごとに腫瘍体積を測定した。腫瘍体積(mm
3)は長径(mm)x短径(mm)x短径(mm)/2で計量した(
図37)。
その結果抗PD−1抗体と抗マウスCCR8抗体の併用群が、抗PD−1抗体あるいは抗マウスCCR8抗体の単独投与群と比較して、腫瘍が小さくなることが分かった。
【実施例28】
【0098】
CCR8遺伝子ホモ欠損マウスを用いた抗マウスCCR8抗体の特異性の解析
Balb/c系統の野生型マウス(N=10)及びCCR8遺伝子ホモ欠損マウス(N=5)の背部皮内に3x10
5個の大腸癌由来Colon26細胞(50uL)を移植した。野生型マウスには腫瘍移植3日後及び10日後にラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)またはアイソタイプコントロール抗体(LTF−2,Bioxcell社)を静脈内に100μg(100μL)投与した(N=5)。CCR8遺伝子ホモ欠損マウスについても腫瘍移植3日後及び10日後にラット抗マウスCCR8抗体(クローンSA214G2、BioLegend社)またはアイソタイプコントロール抗体(LTF−2,Bioxcell社)を静脈内に100μg(100μL)投与した(N=5)。投与後7日目より腫瘍の大きさを測定した。
その結果、野生型マウスでは、アイソタイプコントロール抗体投与と比較して、抗マウスCCR8抗体投与により、全例で有意な腫瘍の退縮と、最終的な腫瘍の完全退縮が認められた。一方、CCR8遺伝子ホモ欠損マウスではアイソタイプ抗体と比較して、抗マウスCCR8抗体投与群で腫瘍の体積に変化は認められず、また腫瘍退縮も認められなかった(
図38)。
CCR8遺伝子ホモ欠損マウスにおいて抗マウスCCR8抗体の抗腫瘍効果が完全に消失したことから、使用している抗マウスCCR8抗体(SA214G2)はCCR8を介して抗腫瘍効果を発揮していることが証明された。
癌が乳癌、子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、胃癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、膀胱癌、メラノーマ、大腸癌、腎癌、非ホジキンリンパ腫、尿路上皮癌、肉腫、血球癌、胆管癌、胆のう癌、甲状腺癌、前立腺癌、精巣癌、胸腺癌または肝臓癌である、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の医薬。
癌が乳癌、子宮体癌、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、胃癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、膀胱癌、メラノーマ、大腸癌、腎癌、非ホジキンリンパ腫、尿路上皮癌、肉腫、血球癌、胆管癌、胆のう癌、甲状腺癌、前立腺癌、精巣癌、胸腺癌または肝臓癌である、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の医薬。