特表-19188435IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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  • 再表WO2019188435-誘電体組成物および電子部品 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年10月3日
【発行日】2021年5月13日
(54)【発明の名称】誘電体組成物および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01B 3/12 20060101AFI20210416BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20210416BHJP
   H01G 4/12 20060101ALI20210416BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20210416BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20210416BHJP
【FI】
   H01B3/12 313E
   H01B3/12 313M
   H01G4/30 515
   H01G4/30 544
   H01G4/12 540
   H01G4/33 102
   C01G33/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2020-510664(P2020-510664)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2018-62933(P2018-62933)
(32)【優先日】2018年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔太
(72)【発明者】
【氏名】奥澤 信之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 大亮
(72)【発明者】
【氏名】大槻 史朗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和希子
【テーマコード(参考)】
4G048
5E001
5E082
5G303
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AB01
4G048AB02
4G048AB03
4G048AB06
4G048AC02
4G048AD02
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE05
5E001AB01
5E001AC09
5E001AE00
5E082AB01
5E082EE05
5E082EE23
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG03
5E082FG26
5E082FG42
5E082PP03
5G303AA02
5G303AB06
5G303AB07
5G303AB11
5G303BA12
5G303CA01
5G303CB05
5G303CB21
5G303CB38
(57)【要約】
ビスマスと亜鉛とニオブとを含む複合酸化物を有する誘電体組成物であって、誘電体組成物が、複合酸化物から構成されパイロクロア型結晶構造を有する結晶相と、アモルファス相と、を有し、複合酸化物を組成式BiZnNb1.75+δで表した場合、x、yおよびzは、x+y+z=1.00、0.20≦y≦0.50、2/3≦x/z≦3/2である関係を満足することを特徴とする誘電体組成物である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマスと亜鉛とニオブとを含む複合酸化物を有する誘電体組成物であって、
前記誘電体組成物が、前記複合酸化物から構成されパイロクロア型結晶構造を有する結晶相と、アモルファス相と、を有し、
前記複合酸化物を、組成式BiZnNb1.75+δで表した場合、前記x、yおよびzは、x+y+z=1.00、0.20≦y≦0.50、2/3≦x/z≦3/2である関係を満足することを特徴とする誘電体組成物。
【請求項2】
前記アモルファス相が、前記複合酸化物と同じ組成を有することを特徴とする請求項1に記載の誘電体組成物。
【請求項3】
ビスマスと亜鉛とニオブとを含む複合酸化物を有する誘電体組成物であって、
前記複合酸化物を、組成式BiZnNb1.75+δで表した場合、前記x、yおよびzは、x+y+z=1.00、0.20≦y≦0.50、2/3≦x/z≦3/2である関係を満足し、
Cu−Kα線をX線源とするX線回折測定により得られる前記誘電体組成物のX線回折チャートにおいて、回折角2θが27°以上30°以下の範囲に現れる(222)面の回折ピークの半値幅が0.35°以上2.0°以下であることを特徴とする誘電体組成物。
【請求項4】
前記誘電体組成物が、パイロクロア型結晶構造を有する結晶相と、アモルファス相と、を有することを特徴とする請求項3に記載の誘電体組成物。
【請求項5】
前記yが、0.30≦y≦0.50である関係を満足することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項6】
前記xおよびzが、1.20≦x/z≦1.50である関係を満足することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項7】
前記xおよびzが、0.90≦x/z≦1.10である関係を満足することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の誘電体組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体膜を備える電子部品。
【請求項9】
前記誘電体膜が、誘電体堆積膜であることを特徴とする請求項8に記載の電子部品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体組成物および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンに代表される移動体通信機器の高性能化に対する要求は高く、たとえば、高速で大容量の通信を可能とするために、使用する周波数領域の数も増加している。使用する周波数領域はGHz帯のような高周波領域である。このような高周波領域において作動するバラン、カプラ、フィルタ、あるいは、フィルタを組み合わせたデュプレクサ、ダイプレクサ等の高周波部品のなかには、誘電体材料を共振器として利用しているものがある。このような誘電体材料には、高周波領域において、誘電損失が小さく、周波数の選択性が良好であることが求められる。
【0003】
また、移動体通信機器の高性能化に伴い、1つの移動体通信機器に搭載される電子部品の数も増加する傾向にあり、移動体通信機器のサイズを維持するには、電子部品の小型化も同時に求められる。誘電体材料を用いる高周波部品を小型化するには、電極面積を小さくする必要があるため、これによる静電容量の低下を補うべく、高周波領域において、誘電体材料の比誘電率が高いことが求められる。
【0004】
このような移動体通信機器は、使用環境、機器に使用されている部品の発熱等により、温度変化に曝される。一方、誘電体材料の静電容量は温度により変化するため、所定の温度範囲において、誘電体材料には、静電容量の温度依存性、すなわち、容量温度係数が小さいことが求められる。
【0005】
したがって、高周波領域において使用される高周波部品に適用される誘電体材料には、高周波領域において、誘電損失が小さく、比誘電率が高く、かつ容量温度係数が小さいことが要求される。誘電損失の逆数は、品質係数Q値として表すことができるので、換言すれば、高周波領域において比誘電率および品質係数Q値が高く、かつ所定の温度範囲において容量温度係数が小さい誘電体材料が望まれている。
【0006】
従来、高周波数領域において高い誘電率を持つ材料としてはBi−Zn−Nb−O系酸化物が知られている。たとえば、特許文献1には、BiNbO相とBi(Zn2/3Nb4/3)O相との混合物から構成される焼結体が開示されている。また、特許文献2には、パイロクロア型結晶構造の第1結晶相とβ−BiNbO型結晶構造の第2結晶相との混合物から構成される誘電体薄膜が開示されている。また、非特許文献1には、組成式(Bi3xZn2−3x)(ZnNb2−x)Oで表され、xが0.5または2/3である誘電体薄膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−537444号公報
【特許文献2】国際公開第2016/013416号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Wei Ren et al., "Bismuth zinc niobate pyrochlore dielectric thin films for capacitive applications", Journal of Applied Physics 89, 767 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では、BiNbO相およびBi(Zn2/3Nb4/3)O相が1:1で混合された焼結体について、誘電率の温度係数の絶対値が10ppm以下であり、比誘電率は100程度、1GHzにおける誘電品質係数Qは1000程度であることが記載されている。しかしながら、特許文献1に開示された誘電体は焼結体であり、これらの誘電特性を示すには、十分な体積を有する焼結体とする必要があり、高周波領域において使用される高周波部品に適用される誘電体材料としてはサイズが大きすぎるという問題があった。
【0010】
また、特許文献2では、パイロクロア型結晶構造の第1結晶相とβ−BiNbO型結晶構造の第2結晶相との混合物から構成される薄膜について、誘電率の温度係数の絶対値が60ppm以下、1Hz〜100kHzにおける比誘電率は150程度であることが記載されている。しかしながら、特許文献2では、高周波領域におけるQ値については何ら評価されておらず、高周波領域における誘電特性は十分ではなかった。
【0011】
また、非特許文献1では、組成式(Bi1.5Zn0.5)(Zn0.5Nb1.5)Oで表される薄膜と、組成式Bi(Zn1/3Nb2/3で表される薄膜とについて、10kHzにおける比誘電率が150以下、Q値が250程度であることが記載されている。しかしながら、非特許文献1では、高周波領域におけるQ値については何ら評価されておらず、高周波領域における誘電特性は十分ではなかった。
【0012】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、高周波領域において比誘電率εrおよび品質係数Q値が高く、かつ所定の温度範囲において容量温度係数Tccの絶対値が小さい誘電体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の態様は、
[1]ビスマスと亜鉛とニオブとを含む複合酸化物を有する誘電体組成物であって、
誘電体組成物が、複合酸化物から構成されパイロクロア型結晶構造を有する結晶相と、アモルファス相と、を有し、
複合酸化物を、組成式BiZnNb1.75+δで表した場合、x、yおよびzは、x+y+z=1.00、0.20≦y≦0.50、2/3≦x/z≦3/2である関係を満足することを特徴とする誘電体組成物である。
【0014】
[2]アモルファス相が、複合酸化物と同じ組成を有することを特徴とする[1]に記載の誘電体組成物である。
【0015】
[3]ビスマスと亜鉛とニオブとを含む複合酸化物を有する誘電体組成物であって、
複合酸化物を、組成式BiZnNb1.75+δで表した場合、x、yおよびzは、x+y+z=1.00、0.20≦y≦0.50、2/3≦x/z≦3/2である関係を満足し、
Cu−Kα線をX線源とするX線回折測定により得られる誘電体組成物のX線回折チャートにおいて、回折角2θが27°以上30°以下の範囲に現れる(222)面の回折ピークの半値幅が0.35°以上2.0°以下であることを特徴とする誘電体組成物である。
【0016】
[4]誘電体組成物が、パイロクロア型結晶構造を有する結晶相と、アモルファス相と、を有することを特徴とする[3]に記載の誘電体組成物である。
【0017】
[5]yが、0.30≦y≦0.50である関係を満足することを特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の誘電体組成物である。
【0018】
[6]xおよびzが、1.20≦x/z≦1.50である関係を満足することを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の誘電体組成物である。
【0019】
[7]xおよびzが、0.90≦x/z≦1.10である関係を満足することを特徴とする[1]から[5]のいずれかに記載の誘電体組成物である。
【0020】
[8][1]から[7]のいずれかに記載の誘電体組成物を含む誘電体膜を備える電子部品である。
【0021】
[9]誘電体膜が、誘電体堆積膜であることを特徴とする[8]に記載の電子部品である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高周波領域において比誘電率εrおよび品質係数Q値が高く、かつ所定の温度範囲において容量温度係数Tccの絶対値が小さい誘電体組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本実施形態に係る電子部品の一例としての薄膜コンデンサの模式的な断面図である。
図2図2は、本発明の実施例に係る試料のTEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を、具体的な実施形態に基づき、以下の順序で詳細に説明する。
1.薄膜コンデンサ
1.1.薄膜コンデンサの全体構成
1.2.誘電体膜
1.2.1.誘電体組成物
1.3.基板
1.4.下部電極
1.5.上部電極
2.薄膜コンデンサの製造方法
3.本実施形態における効果
4.変形例
【0025】
(1.薄膜コンデンサ)
まず、本実施形態に係る電子部品として、誘電体層が薄膜状の誘電体膜から構成される薄膜コンデンサについて説明する。
【0026】
(1.1.薄膜コンデンサの全体構成)
図1に示すように、本実施形態に係る電子部品の一例としての薄膜コンデンサ10は、基板1と、下部電極3と、誘電体膜5と、上部電極4とがこの順序で積層された構成を有している。下部電極3と誘電体膜5と上部電極4とはコンデンサ部を形成しており、下部電極3および上部電極4が外部回路に接続されて電圧が印加されると、誘電体膜5が所定の静電容量を示し、コンデンサとしての機能を発揮することができる。各構成要素についての詳細な説明は後述する。
【0027】
また、本実施形態では、基板1と下部電極3との間に、基板1と下部電極3との密着性を向上させるために下地層2が形成されている。下地層2を構成する材料は、基板1と下部電極3との密着性が十分に確保できる材料であれば特に制限されない。たとえば、下部電極3がCuで構成される場合には、下地層2はCrで構成され、下部電極3がPtで構成される場合には、下地層2はTiで構成することができる。
【0028】
また、図1に示す薄膜コンデンサ10において、誘電体膜5を外部雰囲気から遮断するための保護膜が形成されていてもよい。
【0029】
なお、薄膜コンデンサの形状に特に制限はないが、通常、直方体形状とされる。またその寸法にも特に制限はなく、厚みや長さは用途に応じて適当な寸法とすればよい。
【0030】
(1.2.誘電体膜)
誘電体膜5は、後述する本実施形態に係る誘電体組成物から構成されている。また、本実施形態では、誘電体膜5は、誘電体組成物の原料粉末を成形した成形体を焼成して得られる焼結体から構成されるのではなく、薄膜状であり公知の成膜法により形成された誘電体堆積膜であることが好ましい。
【0031】
このような誘電体膜5を有する薄膜コンデンサは、高周波領域(たとえば、2GHz)であっても、高い比誘電率εr(たとえば、100以上)および高いQ値(たとえば、1000以上)を示しつつ、かつ、良好な容量温度係数(たとえば、容量温度係数の絶対値が30ppm/℃以内)を示すことができる。
【0032】
誘電体膜5の厚みは、好ましくは10nm〜2000nm、より好ましくは50nm〜1000nmである。誘電体膜5の厚みが薄すぎると、誘電体膜5の絶縁破壊が生じやすい傾向にある。絶縁破壊が生じると、コンデンサとしての機能を発揮できない。一方、誘電体膜5の厚みが厚すぎると、コンデンサの静電容量を大きくするために電極面積を広くする必要があり、電子部品の設計によっては小型化および低背化が困難となる場合がある。
【0033】
通常、Q値は、誘電体の厚みが薄くなると低下する傾向にあることが知られている。そのため、高いQ値を得るには、ある程度の厚みを有する誘電体、すなわち、バルク状の誘電体で構成する必要がある。しかしながら、本実施形態に係る誘電体組成物から構成される誘電体膜は、上記のように、厚みが非常に薄い場合であっても、高いQ値を得ることができる。
【0034】
なお、誘電体膜5の厚みは、誘電体膜5を含む薄膜コンデンサを、FIB(集束イオンビーム)加工装置で掘削し、得られた断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して測定することができる。
【0035】
(1.2.1.誘電体組成物)
本実施形態に係る誘電体組成物は、ビスマス(Bi)、亜鉛(Zn)およびニオブ(Nb)を含む複合酸化物(Bi−Zn−Nb−O系酸化物)を主成分として含有している。本実施形態では、主成分とは、誘電体組成物100質量%に対して、90質量%以上を占める成分である。
【0036】
また、当該誘電体組成物は、結晶相とアモルファス相とを有している。
【0037】
結晶相は、パイロクロア型結晶構造を有し、一般式Aで表される上記の複合酸化物から構成される。一方、アモルファス相は、結晶相を構成する複合酸化物と同じ組成を有していると考えられる。すなわち、本実施形態では、結晶相およびアモルファス相は、どちらも上記の複合酸化物から構成されている。
【0038】
このアモルファス相は、上記の複合酸化物を構成する原子がパイロクロア型結晶構造を形成するように配列されたものの、熱平衡状態に達しなかったため、パイロクロア型結晶構造に類似した短距離秩序を有しているが、その原子配列が結晶的な規則性を有していない不完全な結晶から構成される相である。
【0039】
このアモルファス相は、完全に結晶化していないので、結晶相が結晶化する際に排出される元素を取り込むことがある。また、このアモルファス相は、完全に結晶化していないので、構成元素のイオン半径等による結晶構造上の制限を受けづらく、構成元素の比率がずれることがある。したがって、アモルファス相と結晶相とは、Bi−Zn−Nb−O系酸化物から構成されている、すなわち、ビスマス、亜鉛、ニオブおよび酸素を含むという点では、同じ組成を有していると言うことができる。ただし、アモルファス相と結晶相とは、構成元素の比率が一致している場合もあるし、少しずれている場合もある。
【0040】
換言すれば、上記の複合酸化物(Bi−Zn−Nb−O系酸化物)において、熱平衡状態に達している領域が上記の結晶相であり、熱平衡状態に達していないため、組成のゆらぎが存在する領域が上記のアモルファス相である。
【0041】
本発明者らは、上記の複合酸化物の結晶相は負の容量温度係数を有し、当該複合酸化物のアモルファス相は正の容量温度係数を有していることを見出した。そこで、本実施形態では、複合酸化物において、結晶相とアモルファス相とを混在させることにより、誘電体組成物としての容量温度係数の絶対値を所定の範囲内に制御している。また、このような混相組織とすることにより、結晶粒界が少なくなり、その結果、結晶粒界を通じた電流のリークが抑制されるので、品質係数Q値をも向上させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、X線源としてCu−Kα線を用いて、本実施形態に係る誘電体組成物に対してX線回折測定を行うことにより得られるX線回折チャートにおいて、回折角2θが27°以上30°以下の範囲に現れる(222)面の回折ピークの半値幅が0.35以上2.0以下である。半値幅が上記の範囲内であることにより、誘電体組成物の容量温度係数の絶対値が所定の範囲内に制御され、さらに品質係数Q値が向上する。半値幅は、ピーク強度の半分の強度でのピークの広がりとして算出される。
【0043】
また、X線回折により得られるピークの半値幅は、構造中の秩序の長さと相関があり、秩序が短いほど半値幅は大きく、秩序が長いほど半値幅は小さくなる。上記のピークの半値幅が0.35以上2.0以下である誘電体組成物は、結晶相とアモルファス相とを有していることが好ましい。
【0044】
一方、本実施形態では、X線源としてCu−Kα線を用いて、誘電体組成物に対してX線回折測定を行うことにより得られるX線回折チャートにおいて、2θが27°以上30°以下の範囲に現れるピークの半値幅が0.35以上2.0以下である場合に、誘電体組成物が、結晶相とアモルファス相との両方を有していると判断してもよい。なお、半値幅が0.35未満である場合には、秩序が長いことを示しているので、誘電体組成物が結晶相単相であり、半値幅が2.0超である場合には、秩序が短いことを示しているので、誘電体組成物がアモルファス相単相であると判断する。
【0045】
上述したように、パイロクロア型結晶構造は一般式Aで表される。パイロクロア型結晶構造においては、Aサイトを占める元素(Aサイト元素)に酸素が8配位しており、Bサイトを占める元素(Bサイト元素)に酸素が6配位している。そして、酸素から構成される八面体の中心にBサイト元素が位置するBO八面体が互いの頂点を共有した三次元ネットワークを構成し、このネットワークの間隙にAサイト元素が位置し、かつAサイト元素は、酸素から構成される六面体の中心に位置している。
【0046】
本実施形態では、一般式Aは、組成式BiZnNb1.75+δで表すことができる。すなわち、上記の結晶相とアモルファス相とを構成する複合酸化物は、組成式BiZnNb1.75+δで表される。この組成式において、「x」、「y」および「z」は、x+y+z=1.00である。
【0047】
また、当該複合酸化物では、酸素(O)量が化学量論比であってもよいし、化学量論比から若干偏倚してもよい。化学量論比からの偏倚量は、置換する元素の種類およびそれらの置換量に応じて変化し、上記の組成式において「δ」で表される。
【0048】
したがって、「x」は、上記の複合酸化物(結晶相およびアモルファス相)の組成式における金属元素のうち、Biの含有割合を示し、「y」は、上記の複合酸化物の組成式における金属元素のうち、Znの含有割合を示し、「z」は、上記の複合酸化物の組成式における金属元素のうち、Nbの含有割合を示す。
【0049】
上記の一般式において、BiはAサイトを占め、NbはBサイトを占める。一方、Znは、上記の一般式において、AサイトおよびBサイトのどちらも占めることができる。したがって、上記の複合酸化物(Bi−Zn−Nb−O系酸化物)から構成される結晶相のパイロクロア型結晶構造、および、上記の複合酸化物(Bi−Zn−Nb−O系酸化物)から構成されるアモルファス相のパイロクロア型結晶構造に類似の構造においては、Biに酸素が8配位した六面体およびNbに酸素が6配位した八面体に加えて、Znに酸素が8配位した六面体およびZnに酸素が6配位した八面体が存在する。
【0050】
Bi、ZnおよびNbを含む複合酸化物においては、Znに酸素が配位した多面体の割合が、パイロクロア型結晶構造およびその類似構造の安定性に影響している。そこで、本実施形態では、Znの含有割合を示す「y」は、0.20以上0.50以下に制御している。また、「y」は0.30以上であることが好ましい。
【0051】
「y」を上記の範囲内とすることにより、複合酸化物(結晶相およびアモルファス相)において、Znに酸素が8配位した六面体およびZnに酸素が6配位した八面体の割合が増加し、複合酸化物中における多面体構造のバラツキが抑制され、温度変化による構造変化が生じにくくなる。その結果、温度が変化しても、静電容量が一定に保たれる傾向にあるので、容量温度係数Tccの絶対値(|Tcc|)を所定の範囲内とすることができる。
【0052】
「y」が小さすぎると、複合酸化物(結晶相およびアモルファス相)において、Biに酸素が8配位した六面体およびNbに酸素が6配位した八面体が占める割合が増え、多面体構造のバラツキが大きくなり、構造変化しやすい傾向にあるので、容量温度係数Tccが悪化する傾向にある。一方、「y」が大きすぎると、Znに酸素が配位した多面体の割合が多くなりすぎ、複合酸化物において比誘電率に寄与する成分が少なくなるため、比誘電率εrが悪化する傾向にある。
【0053】
また、本実施形態では、Nbの含有割合(「z」)に対するBiの含有割合(「x」)を示す「x/z」は、2/3以上3/2以下である。「x/z」を上記の範囲内とすることにより、Biの含有割合とNbの含有割合とが比較的に近づくため、複合酸化物(結晶相およびアモルファス相)における欠陥が少なくなり、品質係数Q値を良好にすることができる。
【0054】
「x/z」は、1.20以上1.50以下であることが好ましい。上記の範囲内とすることにより、複合酸化物(結晶相およびアモルファス相)のAサイトにおいて原子配列の乱れ(ディスオーダー)が適切な範囲内で生じるため、品質係数Q値を良好に維持しつつ、このディスオーダーに起因して比誘電率εrをさらに良好にすることができる。「x/z」が大きすぎると、ディスオーダーが大きくなりすぎ、逆に、品質係数Q値が低下する傾向にある。
【0055】
また、「x/z」は、0.90以上1.10以下であることも好ましい。上記の範囲内とすることにより、Biの含有割合とNbの含有割合とがほぼ同程度となるため、複合酸化物(結晶相およびアモルファス相)における欠陥がさらに少なくなり、品質係数Q値をさらに向上させることができる。
【0056】
上記の組成式において、「x」、「y」および「z」を上記の範囲内とすることにより、比誘電率εrと、品質係数Q値と、容量温度係数Tccとを良好にすることができる。
【0057】
また、本実施形態に係る誘電体組成物は、本発明の効果を奏する範囲内において、微量な不純物、副成分等を含んでいてもよい。このような成分としては、たとえば、Mn、Ca、Ba等が例示される。
【0058】
(1.3.基板)
図1に示す基板1は、その上に形成される下地層2、下部電極3、誘電体膜5および上部電極4を支持できる程度の機械的強度を有する材料で構成されていれば特に限定されない。たとえば、Si単結晶、SiGe単結晶、GaAs単結晶、InP単結晶、SrTiO単結晶、MgO単結晶、LaAlO単結晶、ZrO単結晶、MgAl単結晶、NdGaO単結晶等から構成される単結晶基板、Al多結晶、ZnO多結晶、SiO多結晶等から構成されるセラミック多結晶基板、Ni、Cu、Ti、W、Mo、Al、Pt等の金属、それらの合金等から構成される金属基板等が例示される。本実施形態では、低コスト、加工性等の観点から、Si単結晶を基板として用いる。
【0059】
基板1の厚みは、たとえば、10μm〜5000μmに設定される。厚みが小さすぎると、機械的強度が確保できない場合が生じることがあり、厚みが大きすぎると、電子部品の小型化に寄与できないといった問題が生じる場合がある。
【0060】
上記の基板1は、基板の材質によってその抵抗率が異なる。抵抗率が低い材料で基板を構成する場合、薄膜コンデンサの作動時に基板側への電流のリークが生じ、薄膜コンデンサの電気特性に影響を及ぼすことがある。そのため、基板1の抵抗率が低い場合には、その表面に絶縁処理を施し、コンデンサ作動時の電流が基板1へ流れないようにすることが好ましい。
【0061】
たとえば、Si単結晶を基板1として使用する場合においては、基板1の表面に絶縁層が形成されていることが好ましい。基板1とコンデンサ部との絶縁が十分に確保されていれば、絶縁層を構成する材料およびその厚みは特に限定されない。本実施形態では、絶縁層を構成する材料として、SiO、Al、Si等が例示される。また、絶縁層の厚みは、0.01μm以上であることが好ましい。
【0062】
(1.4.下部電極)
図1に示すように、基板1の上には、下地層2を介して、下部電極3が薄膜状に形成されている。下部電極3は、後述する上部電極4とともに誘電体膜5を挟み、コンデンサとして機能させるための電極である。下部電極3を構成する材料は、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu等の金属、それらの合金、又は、導電性酸化物等が例示される。
【0063】
下部電極3の厚みは、電極として機能する程度の厚みであれば特に制限されない。本実施形態では、厚みは0.01μm以上であることが好ましい。
【0064】
(1.5.上部電極)
図1に示すように、誘電体膜5の表面には、上部電極4が薄膜状に形成されている。上部電極4は、上述した下部電極3とともに、誘電体膜5を挟み、コンデンサとして機能させるための電極である。したがって、上部電極4は、下部電極3とは異なる極性を有している。
【0065】
上部電極4を構成する材料は、下部電極3と同様に、導電性を有する材料であれば特に制限されない。たとえば、Pt、Ru、Rh、Pd、Ir、Au、Ag、Cu等の金属、それらの合金、又は、導電性酸化物等が例示される。
【0066】
(2.薄膜コンデンサの製造方法)
次に、図1に示す薄膜コンデンサ10の製造方法の一例について以下に説明する。
【0067】
まず、基板1を準備する。基板1として、たとえば、Si単結晶基板を用いる場合、当該基板の一方の主面に絶縁層を形成する。絶縁層を形成する方法としては、熱酸化法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法等の公知の成膜法を用いればよい。
【0068】
続いて、形成された絶縁層上に、公知の成膜法を用いて下地層を構成する材料の薄膜を形成して下地層2を形成する。
【0069】
下地層2を形成した後、当該下地層2上に、公知の成膜法を用いて下部電極を構成する材料の薄膜を形成して下部電極3を形成する。
【0070】
下部電極3の形成後に、下地層2と下部電極3との密着性向上、および、下部電極3の安定性向上を図る目的で、熱処理を行ってもよい。熱処理条件としては、たとえば、昇温速度は好ましくは10℃/分〜2000℃/分、より好ましくは100℃/分〜1000℃/分である。熱処理時の保持温度は、好ましくは400℃〜800℃、その保持時間は、好ましくは0.1時間〜4.0時間である。熱処理条件が上記の範囲外である場合には、下地層2と下部電極3との密着不良、下部電極3の表面に凹凸が発生しやすくなる。その結果、誘電体膜5の誘電特性の低下が生じやすくなる。
【0071】
続いて、下部電極3上に誘電体膜5を形成する。本実施形態では、公知の成膜法により、誘電体膜5を構成する材料を下部電極3上に薄膜状に堆積させた堆積膜としての誘電体膜5を形成する。
【0072】
公知の成膜法としては、たとえば、真空蒸着法、スパッタリング法、PLD(パルスレーザー蒸着法)、MO−CVD(有機金属化学気相成長法)、MOD(有機金属分解法)、ゾルゲル法、CSD(化学溶液堆積法)等が例示される。なお、成膜時に使用する原料(蒸着材料、各種ターゲット材料、有機金属材料等)には微量の不純物、副成分等が含まれている場合があるが、所望の誘電特性が得られれば、特に問題はない。
【0073】
たとえば、PLD法を用いる場合、所望の組成のターゲットを用いて、下部電極3上に誘電体薄膜5を形成する。本実施形態では、成膜条件は、以下のようにすることが好ましい。酸素圧は0.1〜10Paとすることが好ましい。また、成膜は室温で行うことが好ましい。レーザーのパワーは3〜5J/cmであることが好ましく、パルス周波数は1〜20Hzとすることが好ましい。
【0074】
本実施形態では、誘電体膜を形成した後、当該誘電体膜に対し、急速加熱アニール処理(Rapid Thermal Anneal:RTA)を施す。RTAを施す条件を制御することにより、誘電体膜を構成する複合酸化物の構成相として、結晶相とアモルファス相との混相を容易に得ることができる。また、半値幅が上述した範囲内である誘電体組成物を容易に得ることができる。本実施形態では、RTAを施す条件として、雰囲気は酸素雰囲気であることが好ましく、昇温速度を1000℃/分以上とすることが好ましく、アニール時間は1〜30分とすることが好ましく、アニール温度を300℃以上750℃以下とすることが好ましい。なお、アニール温度が低すぎる場合には、複合酸化物の構成相がアモルファス相単相となる傾向にあり、アニール温度が高すぎる場合には、複合酸化物の構成相が結晶相単相になる傾向にある。
【0075】
次に、形成した誘電体膜5上に、公知の成膜法を用いて上部電極を構成する材料の薄膜を形成して上部電極4を形成する。
【0076】
以上の工程を経て、図1に示すように、基板1上に、コンデンサ部(下部電極3、誘電体膜5および上部電極4)が形成された薄膜コンデンサ10が得られる。なお、誘電体膜5を保護する保護膜は、少なくとも誘電体膜5が外部に露出している部分を覆うように公知の成膜法により形成すればよい。
【0077】
(3.本実施形態における効果)
本実施形態では、パイロクロア型結晶構造を有する複合酸化物として、Bi−Zn−Nb−O系酸化物に着目している。本発明者らは、当該複合酸化物を含む誘電体組成物に対するX線回折チャートにおいて、所定のピークの半値幅が所定の範囲内である場合に良好な特性が得られることを見出した。また、当該複合酸化物の結晶相が負の容量温度係数を有し、当該複合酸化物のアモルファス相が正の容量温度係数を有していることを見出した。
【0078】
また、この複合酸化物においては、Znは、AサイトおよびBサイトのどちらも占めることができ、2種類の多面体を形成する。本発明者らは、この2種類の多面体の割合を増やすことにより、パイロクロア型結晶構造が安定化し、温度変化による構造変化が生じにくくなることを見出した。
【0079】
そこで、本実施形態では、複合酸化物の結晶相とアモルファス相とを共存させ、複合酸化物中のZnの含有割合を上記の範囲内とすることにより、容量温度係数Tccを良好にしている。
【0080】
また、本発明者らは、Aサイトを占めるBiの含有割合と、Bサイトを占めるNbの含有割合とを比較的に近づけることにより、結晶相およびアモルファス相を構成する複合酸化物の欠陥を減らし、その結果、品質係数Q値が向上することも見出した。さらに、本発明者らは、結晶相とアモルファス相とを共存させることにより、結晶粒界を減らして、リーク電流を抑制することにより、品質係数Q値をさらに向上できることを見出した。そこで、本実施形態では、Biの含有割合とNbの含有割合との比率を上記の範囲内とすることにより、高い品質係数Q値を得ている。
【0081】
具体的には、本実施形態に係る誘電体組成物は、薄膜状の誘電体膜として形成されていても、2GHz以上の高周波領域において100以上の高い比誘電率εrと、1000以上の高い品質係数Q値を示し、しかも、容量温度係数Tccの絶対値を30ppm/℃以下とすることができる。
【0082】
さらに、x/zの値を変化させることにより、高い比誘電率εrが得られることを重視した誘電体組成物と、高い品質係数Q値が得られることを重視した誘電体組成物と、を用途に応じて得ることができる。
【0083】
(4.変形例)
上述した実施形態では、誘電体膜は通常、本発明の誘電体組成物のみで構成される場合を説明したが、別の誘電体組成物の膜と組み合わせた積層構造であっても構わない。例えば、既存のSi、SiO、Al、ZrO、Ta等のアモルファス誘電体膜や結晶膜との積層構造とすることで、誘電体膜5のインピーダンスや比誘電率の温度変化を調整することが可能となる。
【0084】
上述した実施形態では、基板と下部電極との密着性を向上させるために、下地層を形成しているが、基板と下部電極との密着性が十分確保できる場合には、下地層は省略することができる。また、基板を構成する材料として、電極として使用可能なCu、Pt等の金属、それらの合金、酸化物導電性材料等を用いる場合には、下地層および下部電極は省略することができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の範囲内において種々の態様で改変しても良い。
【実施例】
【0086】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
(実験例1)
まず、誘電体膜の形成に必要なターゲットを以下のようにして作製した。
【0088】
ターゲット作製用の原料粉末として、Bi、ZnO、Nbの粉末を準備した。これらの粉末を、表1に示す実施例1〜10および比較例1〜9の組成となるように秤量した。秤量した原料粉末と水とφ2mmのZrOビーズとを、容積が1Lのポリプロピレン製広口ポットに入れて湿式混合を20時間行った。その後、混合粉末スラリーを100℃で20時間乾燥させ、得られた混合粉末をAl坩堝に入れ、大気中800℃で5時間保持する焼成条件で仮焼を行い、仮焼粉末を得た。
【0089】
得られた仮焼粉末を乳鉢に入れ、バインダとして濃度6wt%のPVA(ポリビニルアルコール)水溶液を、仮焼粉末に対して4wt%となるように添加し、乳棒を使用して造粒粉を作製した。作製した造粒粉を、厚みが5mm程度となるようにφ20mmの金型に投入し、一軸加圧プレス機を使用して加圧成形を行い成形体を得た。成形条件は、圧力を2.0×10Pa、温度を室温とした。
【0090】
その後、得られた成形体について、昇温速度を100℃/時間、保持温度を400℃、温度保持時間を4時間とし、常圧の大気中で脱バインダ処理を行った。続いて、昇温速度を200℃/時間、保持温度を1000℃〜1200℃、温度保持時間を12時間とし、常圧の大気中で焼成を行い、焼結体を得た。
【0091】
得られた焼結体の厚さが4mmとなるように、円筒研磨機で両面を研磨し、誘電体膜を形成するためのターゲットを得た。
【0092】
続いて、350μm厚のSi単結晶基板の表面に6μm厚の絶縁層としてのSiOを備えた10mm×10mm角の基板を準備した。この基板の表面に、下地層としてのTi薄膜を20nmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0093】
次いで、上記で形成したTi薄膜上に下部電極としてのPt薄膜を4μmの厚さとなるようにスパッタリング法で形成した。
【0094】
形成したTi/Pt薄膜(下地層および下部電極)に対し、昇温温度を400℃/分、保持温度を700℃、温度保持時間を0.5時間、雰囲気を酸素雰囲気とし常圧下で熱処理を行った。
【0095】
熱処理後のTi/Pt薄膜上に誘電体膜を形成した。本実施例では、上記で作製したターゲットを用いて、下部電極上に400nmの厚さとなるようにPLD法で誘電体膜を形成した。PLD法による成膜条件は、酸素圧を1Paとし、レーザーパワーを3J/cmとし、レーザーパルス周波数を10Hzとし、成膜温度は室温とした。また、下部電極の一部を露出させるために、メタルマスクを使用して、誘電体膜が成膜されない領域を形成した。誘電体膜を形成した後、当該誘電体膜に対し、酸素雰囲気下で昇温速度を1000℃/分とし表1に示した温度で1分保持する急速加熱アニール処理(Rapid Thermal Anneal:RTA)を施した。
【0096】
次いで、得られた誘電体膜上に、蒸着装置を使用して上部電極であるAg薄膜を形成した。上部電極の形状を、メタルマスクを使用して直径100μm、厚さ100nmとなるように形成することで、図1に示す構成を有する薄膜コンデンサの試料(実施例1〜29および比較例1〜6)を得た。
【0097】
なお、誘電体膜の組成は、すべての試料について、WD−XRF(波長分散型蛍光X線元素分析)装置(リガク社製ZSX−100e)を用いて、室温において分析を行い、表1に記載の組成と一致していることを確認した。また、誘電体膜の厚みは、薄膜コンデンサをFIBで掘削し、得られた断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して測長した値とした。
【0098】
得られたすべての薄膜コンデンサ試料について、比誘電率εr、Q値および静電容量の温度係数Tccの測定を、下記に示す方法によって行った。また、誘電体膜を構成する誘電体組成物の構成相の同定を下記に示す方法によって行った。
【0099】
(比誘電率およびQ値)
比誘電率およびQ値は、薄膜コンデンサ試料に対し、基準温度25℃において、RFインピーダンス/マテリアル・アナライザ(Agilent社製4991A)にて、周波数2GHz、入力信号レベル(測定電圧)0.5Vrmsの条件下で測定された静電容量と、上記で得られた誘電体膜の厚みと、から算出した。本実施例では、比誘電率は高い方が好ましく、比誘電率が100以上である試料を良好であると判断した。また、Q値は高い方が好ましく、Q値が1000以上である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0100】
(静電容量の温度係数(Tcc))
静電容量の温度係数は、恒温槽を用いて−55℃から125℃まで25℃毎に測定温度を変えて静電容量を測定した以外は、上記と同様に測定温度における静電容量を測定し、基準温度である25℃での静電容量に対する変化率として算出した(単位ppm/℃)。また、静電容量の温度係数は小さい方が好ましく、静電容量の温度係数の絶対値(|Tcc|)が30ppm/℃以内である試料を良好であると判断した。結果を表1に示す。
【0101】
(構成相の同定)
誘電体組成物の構成相の同定は、誘電体薄膜に対してX線回折を行い、得られるX線回折チャートにおいて、回折角2θが27°以上30°以下の範囲に現れる(222)面の回折ピークの半値幅を算出することにより行った。X線回折は、X線源としてCu−Kα線を用い、その測定条件は、電圧が45kV、電流が200mAで、走査速度が20deg/minであった。本実施例では、半値幅が0.35°未満である場合には、誘電体組成物が結晶相単相であると判断し、半値幅が0.35°以上2.0°以下である場合には、誘電体組成物が結晶相とアモルファス相との混相であると判断し、半値幅が2.0°超である場合には、誘電体組成物がアモルファス相単相であると判断した。結果を表1に示す。
【0102】
また、実施例4の試料に対してTEM観察を行った。得られた複合酸化物のTEM像を図2に示す。なお、図2において、白線で囲まれた領域がアモルファス相である。図2において、アモルファス相を示す白線は、アモルファス相を明確に示すために追加した線であり、TEM像において、アモルファス相と結晶相との境界が白線として現れる訳ではない。
【0103】
【表1】
【0104】
表1より、Bi、ZnおよびNbを含む複合酸化物において、「x」、「y」および「z」の関係が上述した範囲内であり、かつパイロクロア型結晶構造を有する結晶相と、その類似構造を有するアモルファス相と、の混相である試料は、厚みが400nmの薄膜であるにもかかわらず、高周波領域(2GHz)において高い比誘電率εr(100以上)、高い品質係数Q値(1000以上)、および、良好な温度特性(|Tcc|≦30ppm/℃)を有することが確認できた。
【0105】
また、図2より、半値幅の値により結晶相とアモルファス相との混相であると判断された試料について、TEM観察により、複合酸化物が結晶相とアモルファス相との混相を有していることが視覚的に確認できた。
【0106】
さらに、Znの含有割合(「y」)を限定することにより、高い比誘電率εrおよび高い品質係数Q値を維持しつつ、さらに良好な温度特性(|Tcc|≦15ppm/℃)を有することが確認できた。
【0107】
また、「x/z」を大きくする、すなわち、Biの含有割合を大きくすることにより、高い品質係数Q値および良好な温度特性を維持しつつ、より高い比誘電率εr(120以上)が得られることが確認できた。
【0108】
また、「x/z」を1に近づける、すなわち、Biの含有割合とNbの含有割合とをほぼ同程度とすることにより、高い比誘電率εrおよび良好な温度特性を維持しつつ、より高い品質係数Q値(1500以上)が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、高周波領域において比誘電率およびQ値が高く、かつ所定の温度範囲において容量温度係数が小さい誘電体組成物が得られる。このような誘電体組成物は、薄膜状の誘電体膜として好適であり、高周波用の電子部品、たとえば、バラン、カプラ、フィルタ、あるいは、フィルタを組み合わせたデュプレクサ、ダイプレクサ等に好適である。
【符号の説明】
【0110】
10… 薄膜コンデンサ
1… 基板
2… 下地層
3… 下部電極
4… 上部電極
5… 誘電体膜

図1
図2
【国際調査報告】