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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年10月10日
【発行日】2021年5月13日
(54)【発明の名称】鉄道用車軸
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210416BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20210416BHJP
   B60B 35/02 20060101ALI20210416BHJP
   C21D 9/28 20060101ALN20210416BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Z
   C22C38/54
   B60B35/02 A
   C21D9/28 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】36
【出願番号】特願2020-512319(P2020-512319)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2019年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2018-71977(P2018-71977)
(32)【優先日】2018年4月4日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 泰三
(72)【発明者】
【氏名】小塚 千尋
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】秦 利行
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA14
4K042AA15
4K042BA03
4K042BA04
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA04
4K042DB01
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC05
4K042DD04
4K042DE02
4K042DE07
4K042DF01
4K042EA01
(57)【要約】
軽量化が可能であり、かつ、優れた疲労限度を有する鉄道用車軸を提供する。本開示による鉄道用車軸(1)において、中央平行部(3)及び一対のはめ合い部(2)の母材部(BM)の化学組成は、質量%で、C:0.22〜0.29%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.50〜0.80%、P:0.020%以下、S:0.040%以下、Cr:0.90〜1.20%、Mo:0.15〜0.30%、N:0.0200%以下、O:0.0040%以下、Ca:0〜0.0010%、及び、残部がFe及び不純物からなる。はめ合い部(2)の直径DWの、中央平行部(3)の直径DAに対する比は、1.10〜1.30である。はめ合い部硬化層(2H)の深さCWは2.5mm〜0.10×DWmmである。はめ合い部硬化層深さCWの、中央平行部硬化層深さCAに対する比は0.34〜0.93である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道用車軸であって、
各々が直径DWを有する円柱であり、鉄道用車輪が圧入される、一対のはめ合い部と、
前記一対のはめ合い部の間に配置され、前記直径DWよりも小さい直径DAを有する円柱である中央平行部とを備え、
前記はめ合い部は、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部に近い内側端と、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部から遠い外側端と、
前記はめ合い部の表層に形成されているはめ合い部硬化層と、
前記はめ合い部硬化層よりも内部の母材部とを含み、
前記中央平行部は、
前記中央平行部の表層に形成されている中央平行部硬化層と、
前記中央平行部硬化層よりも内部の前記母材部とを含み、
前記母材部の化学組成は、質量%で、
C:0.22〜0.29%、
Si:0.15〜0.40%、
Mn:0.50〜0.80%、
P:0.020%以下、
S:0.040%以下、
Cr:0.90〜1.20%、
Mo:0.15〜0.30%、
N:0.0200%以下、
O:0.0040%以下、
Ca:0〜0.0010%、
Cu:0〜0.30%、
Ni:0〜0.30%、
Al:0〜0.100%、
V:0〜0.060%、
Ti:0〜0.020%、
Nb:0〜0.030%、
B:0〜0.0050%、及び、
残部がFe及び不純物、からなり、
前記はめ合い部の前記直径DWの、前記中央平行部の前記直径DAに対する比であるDW/DAは、1.10〜1.30であり、
前記はめ合い部の前記内側端から前記外側端に向かって前記中心軸方向に5mmの位置におけるはめ合い部硬化層の深さCWは2.5mm〜0.10×DWmmであり、
前記はめ合い部硬化層の深さCWの、前記中央平行部の前記硬化層の深さCAに対する比であるCW/CAは0.34〜0.93である、
鉄道用車軸。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
Cu:0.01〜0.30%、及び、
Ni:0.01〜0.30%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
鉄道用車軸。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
Al:0.005〜0.100%を含有する、
鉄道用車軸。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
V:0.005〜0.060%、
Ti:0.002〜0.020%、及び、
Nb:0.002〜0.030%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
鉄道用車軸。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
B:0.0003〜0.0050%を含有する、
鉄道用車軸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車軸に関し、さらに詳しくは、鉄道車両に用いられる鉄道用車軸に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道用車軸では、はめ合い部に鉄道用車輪が圧入される。そして、使用時において、鉄道用車軸は、鉄道車両の重量を支える。具体的には、鉄道用車軸のはめ合い部の直径よりも、鉄道用車輪のボス部の孔径の方が少し小さくなるように、鉄道用車軸のはめ合い部における締め代が設けられている。鉄道用車軸はさらに、鉄道車両が曲線状のレールを通過(曲線通過)するごとに、鉄道用車輪とレールとの接触による水平方向の力を受ける。つまり、曲線通過の際に、鉄道用車軸は、鉄道用車輪一回転ごとに回転曲げ応力を繰返し受ける。そして、曲線通過の際にその曲げ応力の振幅が大きくなる。
【0003】
上述のとおり、鉄道用車軸において、鉄道用車輪が圧入されるはめ合い部は、鉄道用車輪のボス部の孔に対して接触面圧を有している。そのため、鉄道用車輪のはめ合い部では、鉄道用車輪との接触によって、微小なすべりが繰返し生じることがある。以下、鉄道用車輪のはめ合い部と鉄道用車輪との接触により生じる微小なすべりをフレッティングという。鉄道用車軸のはめ合い部では、フレッティングによる損傷(以後、「フレッティング疲労」ともいう)を受ける場合があることが知られている。
【0004】
このようなフレッティング疲労を抑制するために、鉄道用車軸の上記はめ合い部に対して高周波焼入れを実施する場合がある。はめ合い部の表層のうち、高周波焼入れされた領域では、硬さが高まる。このように、はめ合い部の表層のうち、高周波焼入れにより硬さが高まった領域を「硬化層」と称する。硬化層では圧縮残留応力が生じる。硬化層によって生じた圧縮残留応力は、フレッティングによるき裂の開口を抑制する。つまり、高周波焼入れによる形成される鉄道用車軸の硬化層は、鉄道用車軸のフレッティング疲労を抑制できる。
【0005】
高周波焼入れを実施して、はめ合い部におけるフレッティング疲労を抑制する鉄道用車軸が、特開平10−8202号公報(特許文献1)、特開平11−279696号公報(特許文献2)、特開2000−73140号公報(特許文献3)に提案されている。
【0006】
特許文献1に開示された鉄道用車軸は、質量%で、C:0.3〜0.48%、Si:0.05〜1%、Mn:0.5〜2%、Cr:0.5〜1.5%、Mo:0.15〜0.3%、Ni:0〜2.4%を含む。この車軸のうち、車輪が嵌合される表面部において、ビッカース硬さが400以上の有効硬化層深さが1〜4.5mmの範囲であり、その内部にマルテンサイト又はベイナイトの領域がある。上記鉄道用車軸は、高い疲労限度を有する、と特許文献1には記載されている。
【0007】
特許文献2に開示された鉄道用車軸は、質量%で、C:0.3〜0.48%、Si:0.05〜1%、Mn:0.5〜2%、Cr:0.5〜1.5%、Mo:0.15〜0.3%、及び、Ni:0〜2.4%を含む。この鉄道用車軸のはめ合い部は、ビッカース硬さが400以上の硬化層を有し、その内部に焼戻しマルテンサイト又はベイナイトの領域を有する。この鉄道用車軸において、硬化層の深さは、5.0mm以上であり、かつ、はめ合い部直径の10%以下である。上記鉄道用車軸は、高いフレッティング疲労限度を有する、と特許文献2には記載されている。
【0008】
特許文献3に開示された鉄道用車軸は、質量%で、C:0.3〜0.48%、Si:0.05〜1%、Mn:0.5〜2%、Cr:0〜1.5%、Mo:0〜0.3%、Ni:0〜2.4%を含む。この車軸のはめ合い端部とその周辺領域は、ビッカース硬さが400以上の硬化層を有する。硬化層の厚さ(K)のはめ合い部直径(D)に対する比(K/D)は0.005〜0.05である。硬化層の上側部分は、0.02〜2%のBを含有する。上記鉄道用車軸は、優れた疲労限度を有する、と特許文献3には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−8202号公報
【特許文献2】特開平11−279696号公報
【特許文献3】特開2000−73140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3に開示された鉄道用車軸では、高周波焼入れを実施し、はめ合い部のフレッティング疲労を抑制する技術が開示されている。上述のとおり、鉄道用車軸のはめ合い部に高周波焼入れを実施して、硬化層を形成した場合、はめ合い部におけるフレッティング疲労を抑制することができる。さらに、鉄道用車軸の一対のはめ合い部の間に配置されている中央平行部に対しても高周波焼入れを実施する場合がある。
【0011】
ここで、鉄道用車軸の構造上、はめ合い部の直径DW(Diameter of the Wheel sheet)は、中央平行部の直径DA(Diameter of the Axle body)と比較して、大きい。そのため、鉄道用車軸のはめ合い部と中央平行部とのいずれにも高周波焼入れを実施する場合、中央平行部の方が、高周波加熱装置からの距離が遠くなる。この場合、中央平行部では、はめ合い部よりも焼きが入りにくい。そのため、中央平行部の硬化層深さは、はめ合い部の硬化層深さよりも浅くなる。
【0012】
そこで、従前の鉄道用車軸では、はめ合い部の硬化層深さと、中央平行部の硬化層深さとを同程度にするため、はめ合い部の直径DWと、中央平行部の直径DAとをなるべく近づけて形成していた。より具体的には、はめ合い部の直径DWの、中央平行部の直径DAに対する比DW/DA(以後、「直径比DW/DA」ともいう)を、1.05未満とし、かつ、なるべく1.00になるべく近づけていた。直径比DW/DAが1.00に近いほど、中央平行部の硬化層深さが、はめ合い部の硬化層深さに近づき、ある程度の深さの硬化層が形成されるためである。
【0013】
ところで、近年、鉄道用車軸の軽量化の要望が高まっている。軽量化を行った場合においても、疲労限度が維持されることが好ましい。しかしながら、上記特許文献1〜3では、軽量化を行った場合の鉄道用車軸の疲労限度については検討されていない。
【0014】
本開示の目的は、軽量化が可能であり、かつ、優れた疲労限度を有する鉄道用車軸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示による鉄道用車軸は、
各々が直径DWを有する円柱であり、鉄道用車輪が圧入される、一対のはめ合い部と、
前記一対のはめ合い部の間に配置され、前記直径DWよりも小さい直径DAを有する円柱である中央平行部とを備え、
前記はめ合い部は、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部に近い内側端と、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部から遠い外側端と、
前記はめ合い部の表層に形成されているはめ合い部硬化層と、
前記はめ合い部硬化層よりも内部の母材部とを含み、
前記中央平行部は、
前記中央平行部の表層に形成されている中央平行部硬化層と、
前記中央平行部硬化層よりも内部の前記母材部とを含み、
前記母材部の化学組成は、質量%で、
C:0.22〜0.29%、
Si:0.15〜0.40%、
Mn:0.50〜0.80%、
P:0.020%以下、
S:0.040%以下、
Cr:0.90〜1.20%、
Mo:0.15〜0.30%、
N:0.0200%以下、
O:0.0040%以下、
Ca:0〜0.0010%、
Cu:0〜0.30%、
Ni:0〜0.30%、
Al:0〜0.100%、
V:0〜0.060%、
Ti:0〜0.020%、
Nb:0〜0.030%、
B:0〜0.0050%、及び、
残部がFe及び不純物、からなり、
前記はめ合い部の前記直径DWの、前記中央平行部の前記直径DAに対する比であるDW/DAは、1.10〜1.30であり、
前記はめ合い部の前記内側端から前記外側端に向かって前記中心軸方向に5mmの位置におけるはめ合い部硬化層の深さCWは2.5mm〜0.10×DWmmであり、
前記はめ合い部硬化層の深さCWの、前記中央平行部の前記硬化層の深さCAに対する比であるCW/CAは0.34〜0.93である。
【発明の効果】
【0016】
本開示による鉄道用車軸は、軽量化が可能であり、かつ、優れた疲労限度を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本実施形態による鉄道用車軸の側面図である。
図2図2は、本実施形態による鉄道用車軸の断面図である。
図3図3は、図2の領域200の拡大断面図である。
図4図4は、図2の領域300の拡大断面図である。
図5図5は、図2の線分II−IIでの断面図である。
図6図6は、図1と異なる、本実施形態による鉄道用車軸の側面図である。
図7図7は、図1及び図6と異なる、本実施形態による鉄道用車軸の側面図である。
図8図8は、本実施形態の鉄道用車軸の製造工程中の高周波焼入れ装置を用いた高周波焼入れ方法を説明するための模式図である。
図9図9は、図8に続く、高周波焼入れ装置を用いた高周波焼入れ方法を説明するための模式図である。
図10図10は、本実施例における粗製品の断面図である。
図11図11は、本実施例における鉄道用車軸の側面図である。
図12図12は、本実施例における鉄道用車軸の疲労試験装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、鉄道用車軸の軽量化のため、中央平行部の直径DAを小さくし、かつ、疲労限度を高く維持することについて検討した。そのため、本発明者らは初めに、はめ合い部の直径DWの、中央平行部の直径DAに対する比である、直径比DW/DAを大きくすることについて検討した。その結果、次の知見を得た。
【0019】
直径比DW/DAを大きくすれば、はめ合い部におけるフレッティング疲労をより抑制できる可能性がある。この理由について、本発明者らは、次のとおりに考えている。フレッティング疲労は、上述のとおり、鉄道用車軸に曲げ応力がかかった結果、はめ合い部と鉄道用車輪との接触により繰返し発生する微小なすべりが原因であると考えられている。曲げ応力がかかった場合、直径比DW/DAによって、はめ合い部の表面にかかる応力が変化する。具体的には、直径比DW/DAが大きい場合、はめ合い部の表面の曲げ応力が緩和しやすい。そのため、直径比DW/DAを大きくすれば、はめ合い部におけるフレッティング疲労をより抑制できる。つまり、直径比DW/DAを大きくすれば、はめ合い部での疲労限度が高くなる。
【0020】
一方、中央平行部の直径DAを小さくすれば、中央平行部において疲労破壊が生じやすくなり、疲労限度が低下しやすくなる。そのため、本発明者らは、中央平行部の直径DAとはめ合い部の直径DWとの差を大きくした場合であっても、中央平行部の疲労限度を高めるために、はめ合い部の硬化層深さCWと中央平行部の硬化層深さCAとに着目し、検討を行った。
【0021】
始めに、本発明者らは、はめ合い部及び中央平行部において疲労限度を有する鉄道用車軸の化学組成ついて検討を行った。その結果、本発明者らは、鉄道用車軸のうち、硬化層(はめ合い部硬化層及び中央平行部硬化層)よりも内部の母材部の化学組成が、質量%で、C:0.22〜0.29%、Si:0.15〜0.40%、Mn:0.50〜0.80%、P:0.020%以下、S:0.040%以下、Cr:0.90〜1.20%、Mo:0.15〜0.30%、N:0.0200%以下、O:0.0040%以下、Ca:0〜0.0010%、Cu:0〜0.30%、Ni:0〜0.30%、Al:0〜0.100%、V:0〜0.060%、Ti:0〜0.020%、Nb:0〜0.030%、B:0〜0.0050%、及び、残部がFe及び不純物、からなる化学組成であれば、鉄道用車軸の軽量化が可能であり、はめ合い部及び中央平行部ともに優れた疲労強度も得られる可能性があると考えた。
【0022】
次に、本発明者らは、硬化層よりも内部の母材部の化学組成が上述の化学組成である鉄道用車軸が疲労破壊する場合における、破壊位置について詳細に調査検討した。その結果、疲労破壊は、はめ合い部で発生する場合と、中央平行部で発生する場合とがあることが判明した。さらに、はめ合い部での破壊起点と、中央平行部での破壊起点とは異なることが判明した。
【0023】
具体的には、はめ合い部での疲労破壊は、フレッティング疲労によるものであった。そして、破壊の起点は、はめ合い部の表面であった。一方、中央平行部での疲労破壊は、破壊の起点は表面ではなく、表面から所定深さの内部で発生した。すなわち、中央平行部における疲労破壊は、フレッティング疲労によるものではなく、曲げ疲労によるものであった。
【0024】
上述のとおり、従前の鉄道用車軸は、はめ合い部の硬化層と、中央平行部の硬化層深さとが同程度であるか、又は、はめ合い部の硬化層の方が中央平行部の硬化層深さよりも深く形成されていた。すなわち、はめ合い部の硬化層深さCWと、中央平行部の硬化層深さCAとの比(以後、「硬化層深さ比CW/CA」ともいう)は、1.00以上であった。しかしながら、上述のとおり、中央平行部における破壊の起点は、はめ合い部における破壊の起点より深い。そのため、中央平行部の硬化層を、はめ合い部の硬化層よりも深く形成すれば、中央平行部における疲労限度を高められる可能性がある。一方、はめ合い部における破壊の起点は表面である。上述のとおり、硬化層では、圧縮残留応力が掛かる。そして、硬化層深さが深すぎれば、圧縮残留応力はかえって小さくなる。したがって、はめ合い部の硬化層深さCWを中央平行部の硬化層深さCAよりも浅くした方が、圧縮残留応力は大きくなり、はめ合い部での疲労破壊を抑制できる。
【0025】
以上の知見に基づいて、本発明者らは、鉄道用車軸のはめ合い部と中央平行部との直径比DW/DA、及び、はめ合い部と中央平行部との硬化層深さ比CW/CAについて、詳細に検討した。その結果、次の知見を得た。
【0026】
直径比DW/DAを高めれば、上述のとおり、はめ合い部における疲労限度(フレッティング疲労限度)が高まる。一方、直径比DW/DAが高すぎれば、中央平行部が細くなりすぎ、中央平行部の疲労限度(曲げ疲労限度)が低下する。したがって、後述の他の要件を満たすことを前提として、直径比DW/DAを1.10〜1.30とする。
【0027】
硬化層深さ比CW/CAを低下させれば、上述のとおり、中央平行部における曲げ疲労限度が高まる。一方、硬化層深さ比CW/CAが低すぎれば、表面の圧縮残留応力が小さくなる。この場合、割れの起点位置が内部から表面に遷移する。そのため、かえって中央平行部の曲げ疲労限度が低下する。したがって、他の要件を満たすことを前提として、硬化層深さ比CW/CAを0.34〜0.93とする。
【0028】
さらに、はめ合い部における硬化層は、圧縮残留応力を生じさることにより、はめ合い部における疲労限度(フレッティング疲労限度)を高める。したがって、はめ合い部における硬化層深さCWを2.5mm〜0.10×DW(mm)とすれば、圧縮残留応力が大きくなり、はめ合い部における疲労限度がさらに高まる。
【0029】
以上の知見に基づいて完成した、本実施形態の鉄道用車軸の要旨は次のとおりである。
【0030】
[1]の鉄道用車軸は、
各々が直径DWを有する円柱であり、鉄道用車輪が圧入される、一対のはめ合い部と、
前記一対のはめ合い部の間に配置され、前記直径DWよりも小さい直径DAを有する円柱である中央平行部とを備え、
前記はめ合い部は、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部に近い内側端と、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部から遠い外側端と、
前記はめ合い部の表層に形成されているはめ合い部硬化層と、
前記はめ合い部硬化層よりも内部の母材部とを含み、
前記中央平行部は、
前記中央平行部の表層に形成されている中央平行部硬化層と、
前記中央平行部硬化層よりも内部の前記母材部とを含み、
前記母材部の化学組成は、質量%で、
C:0.22〜0.29%、
Si:0.15〜0.40%、
Mn:0.50〜0.80%、
P:0.020%以下、
S:0.040%以下、
Cr:0.90〜1.20%、
Mo:0.15〜0.30%、
N:0.0200%以下、
O:0.0040%以下、
Ca:0〜0.0010%、
Cu:0〜0.30%、
Ni:0〜0.30%、
Al:0〜0.100%、
V:0〜0.060%、
Ti:0〜0.020%、
Nb:0〜0.030%、
B:0〜0.0050%、及び、
残部がFe及び不純物、からなり、
前記はめ合い部の前記直径DWの、前記中央平行部の前記直径DAに対する比であるDW/DAは、1.10〜1.30であり、
前記はめ合い部の前記内側端から前記外側端に向かって前記中心軸方向に5mmの位置におけるはめ合い部硬化層の深さCWは2.5mm〜0.10×DWmmであり、
前記はめ合い部硬化層の深さCWの、前記中央平行部の前記硬化層の深さCAに対する比であるCW/CAは0.34〜0.93である。
【0031】
[2]の鉄道用車軸は、[1]に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
Cu:0.01〜0.30%、及び、
Ni:0.01〜0.30%からなる群から選択される1元素以上を含有する。
【0032】
[3]の鉄道用車軸は、[1]又は[2]に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
Al:0.005〜0.100%を含有する。
【0033】
[4]の鉄道用車軸は、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
V:0.005〜0.060%、
Ti:0.002〜0.020%、及び、
Nb:0.002〜0.030%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する。
【0034】
[5]の鉄道用車軸は、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
B:0.0003〜0.0050%を含有する。
【0035】
以下、本実施形態による鉄道用車軸について詳述する。
【0036】
[鉄道用車軸の構成]
図1は、本実施形態による鉄道用車軸の側面図である。図1を参照して、本実施形態の鉄道用車軸1は、一対のはめ合い部2A及び2Dと、中央平行部3とを備える。一対のはめ合い部2A及び2Dの各々は、直径DWを有する円柱である。はめ合い部2A及び2Dの中心軸は、鉄道用車軸1の中心軸C1と一致する。鉄道用車軸1の中心軸C1は、鉄道用車軸1の長手方向に延びている。以降の説明では、鉄道用車軸1の「中心軸C1方向」は、鉄道用車軸1の「長手方向」と同義である。
【0037】
はめ合い部2Aは、図1中において、中央平行部3の左端とつながる。はめ合い部2Dは、図1において、中央平行部3の右端につながる。以降の説明では、はめ合い部2A及び2Dを総称する場合、「はめ合い部2」と称する。各はめ合い部2には、図示しない鉄道用車輪が圧入される。
【0038】
中央平行部3は、一対のはめ合い部2A及び2Dの間に配置されている。図1において、中央平行部3の左端は、鉄道用車軸1の左部に配置されたはめ合い部2Aとつながっている。中央平行部3の右端は、鉄道用車軸1の右部に配置されたはめ合い部2Dとつながっている。中央平行部3は、直径DAを有する円柱である。中央平行部3の直径DAは、はめ合い部2の直径DWよりも小さい。中央平行部3の中心軸は、鉄道用車軸1の中心軸C1と一致する。つまり、中央平行部3は、一対のはめ合い部2と同軸に配置されている。
【0039】
一対のはめ合い部2は、中実であってもよいし、中空であってもよい。同様に、中央平行部3は、中実であってもよいし、中空であってもよい。中央平行部の直径DAは特に限定されないが、たとえば、100〜200mmである。はめ合い部2の直径DWは特に限定されないが、たとえば、110〜260mmである。
【0040】
一対のはめ合い部2の各々は、内側端2INと外側端2OUとを含む。内側端2INは、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、はめ合い部2の中央位置よりも中央平行部3に近い位置に配置されている。一方、外側端2OUは、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、はめ合い部2の中央位置よりも中央平行部3から遠い位置に配置されている。具体的には、図1において、はめ合い部2Aの内側端2INは、はめ合い部2Aの外側端2OUよりも中央平行部3の近くに配置され、中央平行部3の左端3Eとテーパ部4を介してつながっている。図1において、はめ合い部2Dの内側端2INは、はめ合い部2Dの外側端2OUよりも中央平行部3の近くに配置され、中央平行部3の右端3Eとテーパ部4を介してつながっている。
【0041】
図1では、鉄道用車軸1はさらに、中央平行部3の端部3Eと、はめ合い部2の内側端2INとの間に、中央平行部3とはめ合い部2とを連続的につなぐテーパ部4を備える。テーパ部4の直径は、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、中央平行部3の端部3Eからはめ合い部2の内側端2INに向かって大きくなる。図1に示すとおり、鉄道用車軸1の中心軸C1を含む断面において、テーパ部4の表面は曲線的であってもよいし、直線的であってもよい。なお、鉄道用車軸1は、テーパ部4を備えなくてもよい。この場合、中央平行部3の端部3Eがはめ合い部2の内側端2INとつながっており、中央平行部3の端部3Eとはめ合い部2の内側端2INとの間に段差が形成される。
【0042】
図2は、図1に示す本実施形態の鉄道用車軸1の中心軸C1を含む面での断面図である。図3は、図2中の領域200の拡大断面図である。図2及び図3を参照して、各はめ合い部2(2A及び2D)はいずれも、表層に形成されているはめ合い部硬化層2Hと、はめ合い部硬化層2Hよりも内部の母材部BMとを含む。はめ合い部硬化層2Hは、はめ合い部2の表面から所定の深さに至る範囲の表層に形成されている。
【0043】
図2及び図3を参照して、はめ合い部硬化層2Hは、はめ合い部2の表面全体に形成されていなくてもよい。図2及び図3では、はめ合い部硬化層2Hは、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、はめ合い部2の中央位置CE2よりも外側端2OU側の領域の一部と、中央位置CE2よりも内側端2IN側の領域の一部とに形成されており、中央位置CE2を含む一部の領域には、はめ合い部硬化層2Hが形成されていない。このように、はめ合い部硬化層2Hは、はめ合い部2の表面全体に形成されていなくてもよく、中心軸C1方向において、はめ合い部2の表面の少なくとも一部の領域に形成されていてもよい。また、はめ合い部硬化層2Hは、はめ合い部2の表面全体に形成されていてもよい。はめ合い部硬化層2Hについては後述する。
【0044】
図4は、図2の領域300の拡大断面図である。図5は、図2の線分II−IIでの断面図である。図2図4、及び、図5を参照して、中央平行部3はさらに、中央平行部3の表層に形成されている中央平行部硬化層3Hと、中央平行部硬化層3Hよりも内部の母材部BMとを含む。中央平行部硬化層3Hは、中央平行部3の表面から所定の深さに至る範囲の表層に形成されている。中央平行部硬化層3Hは、中央平行部3の表面全体に形成されている。中央平行部硬化層3Hについては後述する。
【0045】
[はめ合い部2及び中央平行部3の母材部BMの化学組成について]
一対のはめ合い部2の母材部BMの化学組成、及び、中央平行部3の母材部BMの化学組成は、次の元素を含有する。ここで、鉄道用車軸1の中心軸C1に垂直な断面において、鉄道用車軸1の表面と中心軸C1とを結ぶ線分を半径Rと定義する。このとき、母材部BMの化学組成は、はめ合い部2のR/2位置、及び、中央平行部3のR/2位置での化学組成を意味する。以下、元素に関する%は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0046】
C:0.22〜0.29%
炭素(C)は、鋼の硬さを高める。Cはさらに、高周波焼入れによる硬化層の硬さを高める。C含有量が0.22%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、母材部BM及び硬化層2H及び3Hの硬さが低下する。そのため、はめ合い部2における硬化層2Hの圧縮残留応力が低下する場合がある。この場合、鉄道用車軸1のはめ合い部2における十分な疲労限度が得られない。一方、C含有量が0.29%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高周波焼入れ時に焼割れが生じる場合がある。C含有量が0.29%を超えればさらに、中央平行部3における疲労限度が得られない場合がある。したがって、C含有量は0.22〜0.29%である。C含有量の好ましい下限は0.23%であり、さらに好ましくは0.24%である。C含有量の好ましい上限は0.28%であり、さらに好ましくは0.27%である。
【0047】
Si:0.15〜0.40%
シリコン(Si)は鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼の焼戻し軟化抵抗を高め、中央平行部3における疲労限度を高める。Si含有量が0.15%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、これらの効果が十分に得られない。一方、Si含有量が0.40%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高周波焼入れ時に焼割れが生じる場合がある。したがって、Si含有量は0.15〜0.40%である。Si含有量の好ましい下限は0.20%であり、さらに好ましくは0.23%であり、さらに好ましくは0.25%である。Si含有量の好ましい上限は0.37%であり、さらに好ましくは0.35%であり、さらに好ましくは0.33%である。
【0048】
Mn:0.50〜0.80%
マンガン(Mn)は鋼の焼入れ性を高め、高周波焼入れによる硬化層2H及び3Hを厚くする。Mn含有量が0.50%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、中央平行部3の硬化層3Hが薄くなりすぎる場合がある。この場合、中央平行部3における疲労限度が十分に得られない。一方、Mn含有量が0.80%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高周波焼入れによって形成される硬化層2H及び3Hが厚くなりすぎる場合がある。この場合、硬化層2Hの圧縮残留応力が低下し、はめ合い部2における疲労限度が十分に得られない。したがって、Mn含有量は0.50〜0.80%である。Mn含有量の好ましい下限は0.55%であり、さらに好ましくは0.57%であり、さらに好ましくは0.60%であり、さらに好ましくは0.62%である。Mn含有量の好ましい上限は0.78%であり、さらに好ましくは0.75%であり、さらに好ましくは0.73%であり、さらに好ましくは0.70%である。
【0049】
P:0.020%以下
燐(P)は不可避に含有される不純物である。つまり、P含有量は0%超である。Pは粒界に偏析して鋼の疲労限度を低下させる。P含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鉄道用車軸1の疲労強度が低下する。したがって、P含有量は0.020%以下である。P含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.016%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.014%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0050】
S:0.040%以下
硫黄(S)は不可避に含有される不純物である。つまり、S含有量は0%超である。SはMnと結合してMnSを生成する。MnSは鋼の疲労強度を低下する。S含有量が0.040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、MnSに応力が集中し、中央平行部3の疲労限度が低下する。したがって、S含有量は0.040%以下である。S含有量の好ましい上限は0.030%であり、さらに好ましくは0.020%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.010%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
【0051】
Cr:0.90〜1.20%
クロム(Cr)は鋼の焼入れ性を高め、高周波焼入れによる硬化層2H及び3Hの硬さを高める。Cr含有量が0.90%未満であれば、中央平行部3の硬化層3Hが薄くなりすぎる場合がある。この場合、中央平行部3における十分な疲労限度が得られない。一方、Cr含有量が1.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、高周波焼入れによって形成される硬化層2H及び3Hが厚くなりすぎる場合がある。この場合、硬化層2Hの圧縮残留応力が低下し、はめ合い部2における十分な疲労限度が得られない。したがって、Cr含有量は0.90〜1.20%である。Cr含有量の好ましい下限は0.95%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは1.02%であり、さらに好ましくは1.05%である。Cr含有量の好ましい上限は1.19%であり、さらに好ましくは1.17%であり、さらに好ましくは1.15%である。
【0052】
Mo:0.15〜0.30%
モリブデン(Mo)は鋼の強度を高める。Mo含有量が0.15%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、この効果が十分に得られない。一方、Mo含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が飽和する。Mo含有量が0.30%を超えればさらに、製造コストが過剰に高まる。したがって、Mo含有量は0.15〜0.30%である。Mo含有量の好ましい下限は0.17%であり、さらに好ましくは0.19%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.21%である。Mo含有量の好ましい上限は0.29%であり、さらに好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.27%である。
【0053】
N:0.0200%以下
窒素(N)は不可避的に含有される。すなわち、N含有量は0%超である。NはAl等と結合して微細な窒化物を形成し、結晶粒を微細化する。しかしながら、N含有量が高すぎれば、粗大な窒化物が形成され、鋼の疲労限度が低下する。N含有量が0.0200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鉄道用車軸1の疲労強度が低下する。したがって、N含有量は0.0200%以下である。N含有量の好ましい上限は0.0150%であり、さらに好ましくは0.0120%であり、さらに好ましくは0.0100%であり、さらに好ましくは0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%である。上記効果をより有効に得るための、N含有量の好ましい下限は0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
【0054】
O:0.0040%以下
酸素(O)は不可避に含有される不純物である。すなわち、O含有量は0%超である。Oは粗大な酸化物を生成し、疲労破壊の起点となる場合がある。O含有量が0.0040%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、中央平行部3における疲労限度が低下する。したがって、O含有量は0.0040%以下である。O含有量の好ましい上限は0.0030%であり、さらに好ましくは0.0025%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0015%である。O含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、O含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
【0055】
Ca:0〜0.0010%
カルシウム(Ca)は不純物である。Caは含有されなくてもよい。すなわち、Ca含有量は0%であってもよい。Caはシリケート系介在物(JIS G 0555(2003)に規定されるグループC)を凝集させ、鋼の疲労限度を低下する。Ca含有量が0.0010%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、シリケート系介在物が疲労破壊の起点となり、中央平行部3における疲労限度が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.0010%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0006%であり、さらに好ましくは0.0004%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
【0056】
本実施形態による鉄道用車軸1のはめ合い部2及び中央平行部3の母材部BMの化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここで、不純物とは、鉄道用車軸1の鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の鉄道用車軸1に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0057】
本実施形態による鉄道用車軸1のはめ合い部2及び中央平行部3の母材部BMの化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cu、及び、Niからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼の強度を高める。
【0058】
Cu:0〜0.30%
銅(Cu)は、任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。Cuが含有される場合、Cuは鋼の強度を高める。Cuが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の熱間加工性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜0.30%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。Cu含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.05%である。
【0059】
Ni:0〜0.30%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ni含有量は0%であってもよい。Niが含有される場合、Niは鋼の強度を高める。Niが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Ni含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が飽和する。したがって、Ni含有量は0〜0.30%である。Ni含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.04%である。Ni含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%未満であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.10%である。
【0060】
本実施形態による鉄道用車軸1のはめ合い部2及び中央平行部3の母材部BMの化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Alを含有してもよい。
【0061】
Al:0〜0.100%
アルミニウム(Al)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Al含有量は0%であってもよい。Alが含有される場合、Alは鋼を脱酸する。Alはさらに、Nと結合してAlNを形成し、結晶粒を微細化する。その結果、鋼の靭性が高まる。Alが少しでも含有されれば、これらの効果がある程度得られる。しかしながら、Al含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物系介在物が生成され、鉄道用車軸1の疲労限度が低下する。したがって、Al含有量は0〜0.100%である。Al含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.007%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。Al含有量の好ましい上限は0.080%であり、さらに好ましくは0.060%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。本明細書において、Al含有量は、酸可溶Al(sol.Al)の含有量を意味する。
【0062】
本実施形態による鉄道用車軸1のはめ合い部2及び中央平行部3の母材部BMの化学組成はさらに、Feの一部に代えて、V、Ti、及び、Nbからなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼の強度を高める。
【0063】
V:0〜0.060%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、V含有量は0%であってもよい。Vが含有される場合、VはNやCと結合してV(C、N)を形成する。この場合、結晶粒を微細化し、鋼の強度を高める。Vが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が0.060%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の靭性が低下する。したがって、V含有量は0〜0.060%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.005%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.010%である。V含有量の好ましい上限は0.055%であり、さらに好ましくは0.050%であり、さらに好ましくは0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。
【0064】
Ti:0〜0.020%
チタン(Ti)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Ti含有量は0%であってもよい。Tiが含有される場合、TiはNと結合して微細なTiNを生成する。TiNは鋼の強度を高める。TiNはさらに、結晶粒を微細化し、鋼の疲労限度を高める。Tiが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Ti含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、TiN析出物がき裂の経路となり、鋼の靭性が低下する。したがって、Ti含有量は0〜0.020%である。Ti含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。Ti含有量の好ましい上限は0.018%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.013%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.007%である。
【0065】
Nb:0〜0.030%
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、Nb含有量は0%であってもよい。Nbが含有される場合、NbはNやCと結合してNb(C、N)を形成する。この場合、Nb(C、N)は結晶粒を微細化し、鋼の強度、及び、靱性を高める。Nbが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Nb含有量が0.030%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼中で生成した炭化物、及び/又は、炭窒化物が粗大化する場合がある。この場合、かえって鋼の靱性が低下する。したがって、Nb含有量は0〜0.030%である。Nb含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%であり、さらに好ましくは0.005%である。Nb含有量の好ましい上限は0.029%であり、さらに好ましくは0.027%であり、さらに好ましくは0.025%であり、さらに好ましくは0.020%である。
【0066】
本実施形態による鉄道用車軸1のはめ合い部2及び中央平行部3の母材部BMの化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Bを含有してもよい。
【0067】
B:0〜0.0050%
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。すなわち、B含有量は0%であってもよい。Bが含有される場合、Bは鋼の焼入れ性を高める。Bが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。一方、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の靱性が低下する。したがって、B含有量は0〜0.0050%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%である。B含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
【0068】
[母材部BMのミクロ組織について]
好ましくは、本実施形態による鉄道用車軸1では、母材部BMのミクロ組織は、マルテンサイト及びベイナイトを主体とする。本明細書において「マルテンサイト及びベイナイトを主体とする」とは、ミクロ組織において、マルテンサイトとベイナイトとの総面積率が80%以上であることを意味する。ここで、マルテンサイトとは、焼戻しマルテンサイトも含む。ベイナイトとは、焼戻しベイナイトを含む。
【0069】
本実施形態による鉄道用車軸1の母材部BMのミクロ組織のうち、マルテンサイト及びベイナイト以外の残部は、たとえば、フェライトである。鉄道用車軸1の母材部BMのミクロ組織は、高周波焼入れ前の鉄道用車軸の表層部のミクロ組織に対応する。鉄道用車軸1の母材部BMのミクロ組織がマルテンサイト及びベイナイト主体であれば、鉄道用車軸1の表層部の硬さが高まる。ミクロ組織がマルテンサイト及びベイナイト主体であればさらに、高周波加熱時に、表層部のミクロ組織が迅速にオーステナイト化される。この場合、高周波焼入れによって形成される硬化層のマルテンサイト分率が高まり、硬化層の硬さが高まる。その結果、高周波焼入れ後の鉄道用車軸1の疲労限度がさらに高まる。
【0070】
鉄道用車軸1の母材部BMのミクロ組織におけるマルテンサイト及びベイナイトの総面積率は、以下の方法で求めることができる。はめ合い部2又は中央平行部3の中心軸C1方向に垂直な断面のR/2位置から、ミクロ組織観察用のサンプルを5つ採取する。中心軸C1に垂直な断面を観察面とする。各サンプルの観察面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによるミクロ組織の現出を行う。エッチングした観察面を、光学顕微鏡にて観察する。1視野あたり40000μm2(倍率500倍)とし、各サンプルにつき1視野(つまり5つのサンプルを用いて合計5視野)を観察する。各視野において、コントラストに基づいて、マルテンサイト及びベイナイトと、マルテンサイト及びベイナイト以外の相(フェライト等)とを特定する。マルテンサイトとベイナイトとはコントラストによる区別が困難である。しかしながら、マルテンサイト及びベイナイトと、フェライト等のマルテンサイト及びベイナイト以外の相とは、コントラストにより容易に区別可能である。特定したマルテンサイト及びベイナイトの総面積と、各視野の面積(40000μm2)とに基づいて、各視野のマルテンサイト及びベイナイトの総面積率を求める。各視野で求めた、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率の算術平均値を、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率(%)と定義する。
【0071】
[はめ合い部2と中央平行部3との直径比DW/DAについて]
本実施形態による鉄道用車軸1において、上述のとおり、はめ合い部2の直径をDW(mm)と定義し、中央平行部3の直径をDA(mm)と定義する。この場合、はめ合い部2の直径DWの、中央平行部3の直径DAに対する比であるDW/DAが、1.10〜1.30である。
【0072】
上述のとおり、従前の鉄道用車軸1では、直径比DW/DAが1.10未満であり、1.00に近かった。これは、直径比DW/DAが大きい場合、高周波焼入れ時に中央平行部3に十分に焼きが入りにくく、その結果、中央平行部3の硬化層3Hが浅く形成されてしまうためである。直径比DW/DAを1.00に近づければ、高周波焼入れ時において、中央平行部3及びはめ合い部2と高周波加熱装置との距離が同等になる。その結果、中央平行部3に形成される硬化層3Hの深さCAが、はめ合い部2の硬化層2Hの深さCWよりも浅いものの、深さCWに近づく。以上の理由により、従前の鉄道用車軸1では、直径比DW/DAが1.05未満であり、かつ、なるべく1.00に近付けていた。
【0073】
しかしながら、本実施形態による鉄道用車軸1では、直径比DW/DAをあえて大きくする。具体的には、直径比DW/DAを1.10以上とする。この場合、上述のとおり、はめ合い部2におけるフレッティング疲労限度がさらに高まる。さらに、鉄道用車軸1の軽量化が可能である。一方、直径比DW/DAが大きすぎれば、中央平行部3の疲労限度が低下する場合がある。したがって、本実施形態による鉄道用車軸1では、直径比DW/DAが1.10〜1.30である。
【0074】
直径比DW/DAの好ましい下限は1.11であり、さらに好ましくは1.12であり、さらに好ましくは1.13であり、さらに好ましくは1.14である。直径比DW/DAの好ましい上限は1.25であり、さらに好ましくは1.22であり、さらに好ましくは1.20であり、さらに好ましくは1.19であり、さらに好ましくは1.18である。
【0075】
[はめ合い部硬化層2Hと中央平行部硬化層3Hとについて]
[はめ合い部硬化層2Hの深さCWについて]
本実施形態による鉄道用車軸1では、一対のはめ合い部2の各々において、はめ合い部2の内側端2INから外側端2OUに向かって中心軸方向に5mmの位置におけるはめ合い部硬化層2Hの深さCWが2.5mm〜0.10×DW(mm)である。なお、本明細書において「硬化層の深さ」とは、JIS G 0559(2008)で規定される有効硬化層深さを意味する。具体的には、本明細書におけるはめ合い部硬化層2Hの有効硬化層深さとは、はめ合い部2の表面から限界硬さの位置までの径方向の距離(mm)を意味する。本明細書における中央平行部硬化層3Hの有効硬化層深さとは、中央平行部3の表面から限界硬さの位置までの径方向の距離(mm)を意味する。本明細書において、有効硬化層の限界硬さは、JIS G 0559(2008)に基づいて、C含有量が0.23%以上、0.33%未満の成分の材料に規定されるビッカース硬さで350HVと定義する。したがって、本明細書において、限界硬さはビッカース硬さで350HVである。
【0076】
上述のとおり、鉄道用車軸1のはめ合い部2では、フレッティング疲労が生じやすい。そこで、本実施形態による鉄道用車軸1では、はめ合い部2にはめ合い部硬化層2Hを高周波焼入れにより形成する。この場合、はめ合い部2に圧縮残留応力が生じる。上述のとおり、はめ合い部2に生じた圧縮残留応力は、フレッティングによるき裂の開口を抑制する。そのため、はめ合い部2に生じる圧縮残留応力を適切に調整すれば、フレッティング疲労を抑制できる。
【0077】
図3を参照して、はめ合い部硬化層2Hは、はめ合い部2の表面の全面に形成されなくてもよい。好ましくは、はめ合い部2の表面のうち、少なくとも、はめ合い部2の軸方向長さの両側1/3ずつの領域にはめ合い部硬化層2Hが形成されていればよい。つまり、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、外側端2OUと内側端2INとの間の距離をL2と定義した場合、はめ合い部硬化層2Hは、外側端2OUから中央位置CE2に向かって少なくともL2/3の範囲と、内側端2INから中央位置CE2に向かって少なくともL2/3の範囲とに形成されていれば足りる。
【0078】
本明細書において、はめ合い部硬化層2Hの深さCWは、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において(つまり、鉄道用車軸1の長手方向において)、はめ合い部2の内側端2INから外側端2OUに向かって5mmの位置での深さを意味する(図3参照)。はめ合い部硬化層2Hの深さCWが2.5mm未満であれば、はめ合い部2に生じる圧縮残留応力が小さくなりすぎる。一方、はめ合い部硬化層2Hの深さCWが0.10×DW(mm)を超えれば、かえってはめ合い部2に生じる圧縮残留応力が小さくなる。したがって、本実施形態による鉄道用車軸1は、各はめ合い部2(2A及び2D)において、内側端2INから外側端2OUに向かって中心軸方向に5mmの位置におけるはめ合い部硬化層2Hの深さCWはいずれも2.5mm〜0.10×DW(mm)である。
【0079】
はめ合い部硬化層2Hの深さCWの好ましい下限は2.8mmであり、さらに好ましくは3.0mmであり、さらに好ましくは3.5mmであり、さらに好ましくは4.0mmである。はめ合い部硬化層2Hの深さCWの好ましい上限は0.09×DW(mm)であり、さらに好ましくは0.085×DW(mm)であり、さらに好ましくは0.08×DW(mm)であり、さらに好ましくは0.075××DW(mm)である。
【0080】
[硬化層深さ比CW/CAについて]
本実施形態による鉄道用車軸1は、はめ合い部硬化層2Hの深さCWの、中央平行部の硬化層3Hの深さCAに対する比であるCW/CAが0.34〜0.93である。
【0081】
はめ合い部硬化層2Hの深さCWの、中央平行部硬化層3Hの深さCAに対する比を、「硬化層深さ比CW/CA」と定義する。上述のとおり、従前の鉄道用車軸は、硬化層深さ比CW/CAが、1.0以上であった。しかしながら、本実施形態による鉄道用車軸1においては、硬化層深さ比CW/CAを0.34〜0.93にする。つまり、中央平行部硬化層3Hを、はめ合い部硬化層2Hよりも深く形成する。
【0082】
上述のとおり、疲労によるはめ合い部2での破壊の起点は表面であり、疲労による中央平行部3での破壊の起点は表面よりも内部である。はめ合い部硬化層2Hの深さCWを2.5mm〜0.10×DW(mm)とし、かつ、CW/CAを0.34〜0.93とすれば、はめ合い部2の表層には十分な深さのはめ合い部硬化層2Hと十分な圧縮残留応力が付与される。さらに、中央平行部3の表層には十分な深さの中央平行部硬化層3Hの深さCAが得られる。そのため、はめ合い部2と中央平行部3との直径比DW/DAが1.10〜1.30であっても、はめ合い部2において優れた疲労限度(フレッティング疲労限度)が得られ、中央平行部3において優れた疲労限度(曲げ疲労限度)を得ることができる。
【0083】
硬化層深さ比CW/CAの好ましい下限は0.40であり、さらに好ましくは0.50であり、さらに好ましくは0.55であり、さらに好ましくは0.60であり、さらに好ましくは0.62である。はめ合い部2と中央平行部3との硬化層深さ比CW/CAの好ましい上限は0.91であり、さらに好ましくは0.89であり、さらに好ましくは0.88であり、さらに好ましくは0.87である。
【0084】
はめ合い部硬化層2Hの深さCW、中央平行部硬化層3Hの深さCA、及び、硬化層深さ比CW/CAは、JIS G 0559(2008)に準拠した方法で決定できる。
【0085】
[はめ合い部硬化層2Hの深さCWの測定方法]
はめ合い部硬化層2Hの深さCWは、次のとおりに定義される。具体的に、図1〜3を参照して、鉄道用車軸1のうち、はめ合い部2A又は2Dの内側端2INから外側端2OUに向かって、中心軸方向(長手方向)に5mmの位置を1点特定する。特定した位置において、中心軸C1と垂直に切断して切断面を形成する。この切断面を有し、はめ合い部2の表層部分を含むサンプルを採取する。上述の切断面を測定面とする。
【0086】
上述の測定面において、ビッカース硬さ試験を実施する。具体的には、測定面において、はめ合い部2の表面から鉄道用車軸1の径方向(深さ方向)に、荷重を2.9Nとし、0.1mmピッチでJIS Z 2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施して、ビッカース硬さ(HV)を測定する。ビッカース硬さ試験により得られた硬さ推移曲線に基づいて、鉄道用車軸1の表面から、限界硬さまでの距離を求める。上述のとおり、上記限界硬さとは、ビッカース硬さで350HVを意味する。つまり、ビッカース硬さが350HV以上(限界硬さ以上)となる、表面からの深さを測定する。はめ合い部2の表面から限界硬さまでの距離をCW(mm)と定義する。
【0087】
本実施形態による鉄道用車軸1は、一対のはめ合い部2の各々において、はめ合い部2の内側端2INから外側端2OUに向かって中心軸方向に5mmの位置におけるはめ合い部硬化層2Hの深さCWはいずれも2.5mm〜0.10×DW(mm)である。
【0088】
[中央平行部硬化層3Hの深さCAの測定方法]
中央平行部硬化層3Hの深さCAは、次のとおりに定義される。鉄道用車軸1のうち、中央平行部3を特定する。上述のとおり、中央平行部3は、鉄道用車軸1のうち、一対のはめ合い部2の間に配置され、はめ合い部2の直径DWよりも小さい直径を有する円柱である。なお、はめ合い部2の直径DWよりも小さい直径を有する円柱が複数ある場合、中心軸方向の長さが最も長い円柱を、中央平行部3と定義する。
【0089】
図2を参照して、特定した中央平行部3を、中心軸C1方向に等間隔に4個の区分3A〜3Dに区画する。具体的には、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、中央平行部3の中央位置からはめ合い部2A側に配置された区分3A及び区分3Bと、中央平行部3の中央位置からはめ合い部2D側に配置された区分3C及び区分3Dとに区画する。各区分3A〜3Dについて、次の方法で中央平行部硬化層3Hの深さを測定する。
【0090】
区分3A及び区分3Dにおける、中央平行部硬化層3Hの深さCAA及びCADは、次のとおりに定義される。図2及び図4を参照して、区分3Aにおける中央平行部硬化層3Hの深さCAAを説明する。区分3Aにおいて、図4に示すとおり、鉄道用車軸1の中心軸C1方向と、中央平行部3の径方向とを含む面で切断する。この切断面を測定面とする。
【0091】
測定面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによるミクロ組織の現出を行う。エッチングした観察面を目視で確認し、測定面のうち、中央平行部硬化層3Hが最も薄い位置を特定する。特定した位置において、はめ合い部硬化層2Hの深さCWと同様の方法により、鉄道用車軸1の表面から、限界硬さまでの距離を求める。求めた限界硬さまでの距離を中央平行部硬化層3Hの深さCAA(mm)と定義する。区分3Dにおける中央平行部硬化層3Hの深さCAD(mm)も、区分3Aにおける中央平行部硬化層3Hの深さCAA(mm)と同じ方法により定義される。
【0092】
区分3B及び区分3Cにおける、中央平行部硬化層3Hの深さCAB及びCACは、次のとおりに定義される。具体的に、図5を参照して、区分3Bにおける中央平行部硬化層3Hの深さCABを説明する。鉄道用車軸1における区分3Bのうち、任意の点において、鉄道用車軸1の中心軸に垂直に切断する(図5参照)。切断面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによるミクロ組織の現出を行う。エッチングした観察面を目視で確認し、切断面のうち、中央平行部硬化層3Hが最も薄い位置を特定する。特定した位置において、はめ合い部硬化層2Hの深さCWと同様の方法により、鉄道用車軸1の表面から、限界硬さまでの距離を求める。求めた限界硬さまでの距離を中央平行部硬化層3Hの深さCAB(mm)と定義する。区分3Cにおける中央平行部硬化層3Hの深さCAC(mm)も、区分3Bにおける中央平行部硬化層3Hの深さCABと同様の方法により定義される。
【0093】
鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、中央平行部3の中心位置からはめ合い部2A側に配置されている区分3A及び3Bで求めたCAA及びCABのうち小さい方の値を、はめ合い部2Aに対応した中央平行部硬化層3Hの深さCA1(mm)と定義する。はめ合い部2Aについて、はめ合い部硬化層2Hの深さCW(mm)の、中央平行部硬化層3Hの深さCA1(mm)に対する比を、硬化層深さ比CW/CA1と定義する。
【0094】
同様に、鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、中央平行部3の中心位置からはめ合い部2D側に配置されている区分3C及び3Dで求めたCAC及びCADのうち小さい方の値を、はめ合い部2Dに対応した中央平行部硬化層3Hの深さCA2(mm)と定義する。はめ合い部2Dについて、はめ合い部硬化層2Hの深さCW(mm)の、中央平行部硬化層3Hの深さCA2(mm)に対する比を、硬化層深さ比CW/CA2と定義する。なお、本明細書において、硬化層深さの比CW/CA1及びCW/CA2を総称して、CW/CAともいう。
【0095】
本実施形態による鉄道用車軸1は、はめ合い部2において、はめ合い部硬化層2Hの深さCWの、中央平行部の硬化層3Hの深さCAに対する比であるCW/CAが0.34〜0.93である。すなわち、はめ合い部2Aにおけるはめ合い部硬化層2Hの深さCWA(mm)の、中央平行部硬化層3Hの深さCA1(mm)に対する比である、硬化層深さ比CWA/CA1が0.34〜0.93であり、はめ合い部2Dにおけるはめ合い部硬化層2Hの深さCWD(mm)の、中央平行部硬化層3Hの深さCA2(mm)に対する比である、硬化層深さ比CWD/CA2が0.34〜0.93である。
【0096】
好ましくは、はめ合い部2の端部から5mm位置における、はめ合い部硬化層2Hの最大硬さは、ビッカース硬さで400HV以上である。この場合、高周波焼入れ時に生じるマルテンサイト分率が高くなる。そのため、はめ合い部硬化層2Hに生じる圧縮残留応力が大きくなる。その結果、はめ合い部2における、フレッティング疲労き裂の進展を抑制し、鉄道用車軸1はさらに高い疲労限度が得られる。
【0097】
好ましくは、中央平行部3における、中央平行部硬化層3Hの最大硬さは、ビッカース硬さで400HV以上である。この場合、高周波焼入れ時に生じるマルテンサイト分率が高くなる。そのため、中央平行部硬化層3Hに生じる圧縮残留応力が大きくなる。その結果、中央平行部3における、中央平行部硬化層3Hを起点とする疲労破壊が抑制され、鉄道用車軸1は、さらに高い疲労限度が得られる。
【0098】
以上のとおり、本実施形態における鉄道用車軸1では、はめ合い部2及び中央平行部3の母材部の化学組成中の各元素が上述の範囲内であって、直径比DW/DAは、1.10〜1.30であり、各はめ合い部2でのはめ合い部硬化層2Hの深さCWはいずれも2.5mm〜0.10×DWmmであり、硬化層深さ比CW/CAは0.34〜0.93である。そのため、従前の鉄道用車軸と比較して、直径比DW/DAを高めることで軽量化を図ることが可能であり、かつ、はめ合い部2及び中央平行部3ともに優れた疲労限度が得られる。
【0099】
なお、従前の技術では、鉄道用車軸のはめ合い部及び中央平行部の表層において、ロール加工により硬化層を形成する場合がある。しかしながら、ロール加工により形成される硬化層はビッカース硬さで300HV未満であり、本実施形態のはめ合い部硬化層2H及び中央平行部硬化層3Hの硬さよりもはるかに低い。
【0100】
図1以外の鉄道用車軸1の他の構成]
本実施形態の鉄道用車軸1は図1の構成に限定されない。たとえば、図6又は図7に示すとおり、一対の鉄道用車輪用はめ合い部2の間に、1又は複数のはめ合い部6が配置されていてもよい。はめ合い部6はたとえば、図示しない動力源の歯車(ギア)等が圧入されたり、ブレーキディスクが圧入されたりする。つまり、はめ合い部6は、鉄道用車輪以外の部材が圧入される。この場合、中央平行部3は、上述のとおり、中心軸方向の長さが最も長い円柱を、中央平行部3と定義する。
【0101】
はめ合い部6においても、鉄道用車輪が圧入される鉄道用車輪用のはめ合い部2と同様に、高周波焼入れによって硬化層が形成されてもよい。この場合、歯車やディスクブレーキ等とのフレッティングが抑制され、鉄道用車軸1の疲労限度がさらに高まる。
【0102】
[製造方法]
本実施形態による鉄道用車軸の製造方法の一例を説明する。
【0103】
上述の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いてインゴットを製造する。インゴットに対して熱間鍛造を実施して、車軸形状を有する粗製品を製造する。熱間鍛造時のインゴットの加熱温度は、周知の温度範囲で足りる。加熱温度はたとえば、1000〜1300℃である。製造された粗製品に対して、焼入れ及び焼戻し処理、又は、焼ならし処理を実施する。
【0104】
焼入れ及び焼戻し処理を実施する場合、焼入れ処理及び焼戻し処理の上限は周知の条件で足りる。具体的には、焼入れ処理では、焼入れ温度をAc3変態点以上とする。焼入れ温度で粗製品を保持し、その後、水冷又は油冷によって急冷する。焼戻し処理では、焼戻し温度をAc1変態点以下とする。焼戻し温度で粗製品を保持し、その後放冷する。焼ならし処理を実施する場合、粗製品をAc1変態点よりも高い熱処理温度で保持し、その後、放冷する。なお、焼ならし処理に続いて、焼戻し処理を実施してもよい。
【0105】
焼入れ焼戻し処理、又は、焼ならし処理が実施された粗製品に対して、必要に応じて、機械加工を実施する。その後、粗製品に対して、高周波焼入れ処理を実施する。以下、高周波焼入れ処理について詳述する。
【0106】
[高周波焼入れ処理について]
高周波焼入れ処理では、高周波加熱によって、粗製品の表層部分をAc3変態点よりも高い温度にした後、急冷する。急冷方法はたとえば、水冷である。
【0107】
本実施形態による鉄道用車軸1は、はめ合い部2の直径DWと中央平行部3の直径DAとの比である直径比DW/DAが1.10〜1.30である。すなわち、従前の鉄道用車軸と比較して、はめ合い部2に対して中央平行部3が細い。一方、本実施形態による鉄道用車軸1は、中央平行部硬化層3Hの深さCAの方が、はめ合い部硬化層2Hの深さCWよりも大きい。具体的には、はめ合い部2において、はめ合い部硬化層2Hの深さCWの、中央平行部硬化層3Hの深さCAに対する比であるCW/CAが0.34〜0.93である。
【0108】
通常、高周波焼入れ処理には高周波加熱装置を用いる。図8は、本実施形態の鉄道用車軸1の製造方法に用いられる高周波焼入れ装置の一例を示す図である。図8を参照して、高周波焼入れ装置70は、円環状の高周波加熱装置71と、円環状の水冷装置72とを備える。高周波加熱装置71と水冷装置72とは、同軸に配置される。図8では、水冷装置72上に高周波加熱装置71が配置されている。図8では、高周波加熱装置71の縦断面(高周波加熱装置71の中心軸を含む断面)を示している。高周波加熱装置71は、円環状の高周波加熱コイル73が配置されている。水冷装置72は、内部に、図示しない冷却液噴射ノズルが配置されている。水冷装置72は、供給管74から冷却液が供給され、冷却液噴射ノズルから鉄道用車軸の粗製品10に向かって冷却液を噴射して、粗製品10を急冷(焼入れ)する。
【0109】
高周波焼入れする場合、図8に示すとおり、鉄道用車軸1の粗製品10(高周波焼入れ処理されていない鉄道用車軸1)を、高周波焼入れ装置70内に挿入する。図8では、高周波焼入れ装置70に対して、粗製品10を相対的に上方から下方に移動する。この場合、粗製品10のうち、高周波加熱装置71によりAc3変態点以上に加熱された部分が、その後、冷却装置72により急冷されて、硬化層を形成する。
【0110】
具体的には、焼入れ処理によりはめ合い部2にはめ合い部硬化層2Hを形成する場合、図8に示すように、粗製品10のはめ合い部2をAc3変態点以上に加熱する。そして、高周波焼入れ装置70に対して、粗製品10を相対的に上方から下方に移動することにより、加熱後のはめ合い部2を高周波加熱装置71の下に配置された水冷装置72で急冷する。水冷装置72の冷却液噴射ノズルは、はめ合い部2に向けて冷却液を噴射する。冷却液はたとえば水である。以上の工程により、はめ合い部硬化層2Hが形成される。
【0111】
一方、焼入れ処理により中央平行部3に中央平行部硬化層3Hを形成する場合、図9を参照して、粗製品10の中央平行部3をAc3変態点以上に加熱する。そして、高周波焼入れ装置70に対して、粗製品10を相対的に上方から下方に移動することにより、加熱後の中央平行部3を高周波加熱装置71の下に配置された水冷装置72で急冷する。水冷装置72の冷却液噴射ノズルは、はめ合い部2に向けて冷却液を噴射する。以上の工程により、中央平行部硬化層3Hが形成される。
【0112】
本実施形態による鉄道用車軸1では、その直径比DW/DAが1.10〜1.30である。そのため、図8及び図9に示すとおり、高周波加熱時における、はめ合い部2と高周波加熱コイル73との間の距離(図8参照)は、高周波加熱時における、中央平行部3と高周波加熱コイル73との間の距離(図9参照)よりも短い。したがって、はめ合い部2を高周波加熱する場合の高周波加熱装置71の出力と、中央平行部3を高周波加熱する場合の高周波加熱装置71の出力とが同じであれば、はめ合い部硬化層2Hの方が、中央平行部硬化層3Hよりも深く形成される。この場合、CW/CAが1.00以上になってしまう。
【0113】
そこで、本実施形態では、中央平行部3を高周波加熱する場合の高周波加熱装置71の出力を、はめ合い部2を高周波加熱する場合の高周波加熱装置71の出力よりも高く設定して、はめ合い部硬化層2Hの深さCWと、中央平行部硬化層3Hの深さCAとを調整する。たとえば、高周波加熱装置71の交流電流の周波数を3〜5kHzとする。この場合、粗製品10の表面から深い領域まで加熱することが可能である。さらに、中央平行部3を高周波加熱するときの高周波加熱装置71の出力を、はめ合い部2を高周波加熱するときの高周波加熱装置71の出力の1.1〜1.2倍以上として調整する。高周波加熱装置71の周波数、及び、中央平行部3を高周波加熱するときの高周波加熱装置71の出力の、はめ合い部2を高周波加熱するときの高周波加熱装置71の出力に対する比は、鉄道用車軸1のサイズ、及び、直径比DW/DAに応じて、適宜調整可能である。
【0114】
高周波焼入れ処理を実施した後、焼戻し処理を実施してもよい。つまり、焼戻し処理は任意の処理である。焼戻し処理ではたとえば、焼戻し温度を150〜250℃とし、焼戻し温度での保持時間を30〜150分とする。焼戻し処理の一例ではたとえば、200℃付近まで加熱して、120分程度保持する。保持後の鉄道用車軸を空冷する。
【0115】
高周波焼入れを実施した粗製品10に対して、必要に応じて、最終の機械加工を実施してもよい。つまり、機械加工は任意の処理工程である。なお、機械加工を実施する場合、必要な深さの硬化層を確保できる範囲内で、機械加工(旋削及び研磨)を実施する。以上の工程により、本実施形態による鉄道用車軸1が製造できる。
【0116】
上述の鉄道用車軸1の製造方法は、本実施形態の鉄道用車軸1の製造方法の一例である。したがって、はめ合い部2及び中央平行部3の母材部の化学組成中の各元素が上述の範囲内であって、直径比DW/DAが1.10〜1.30であり、各はめ合い部2でのはめ合い部硬化層2Hの深さCWがいずれも2.5mm〜0.10×DWmmであり、硬化層深さ比CW/CAが0.34〜0.93である本実施形態の鉄道用車軸1を製造できれば、本実施形態の鉄道用車軸1の製造方法は、上述の製造方法に特に限定されない。
【実施例】
【0117】
以下、実施例により本実施形態の鉄道用車軸1の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鉄道用車軸1の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の鉄道用車軸1はこの一条件例に限定されない。
【0118】
表1に示す化学組成を有する溶鋼を製造した。表1中の「−」は、対応する元素の含有量が不純物レベルであることを意味する。具体的には、Cu、Ni、V含有量における「−」は、各元素の含有量が0.01%未満であることを意味する。Al含有量における「−」は、Al含有量が0.002%未満であることを意味する。Ti及びNb含有量における「−」は、各元素の含有量が0.001%未満であることを意味する。B及びCa含有量における「−」は、各元素の含有量が0.0001%未満であることを意味する。
【0119】
【表1】
【0120】
鋼番号1〜20の溶鋼からインゴットを製造した。インゴットを1250℃に加熱した後、熱間鍛造して図10に示す車軸形状を有する粗製品10を製造した。粗製品10は一対のはめ合い部20と、一対のはめ合い部20の間に、中央平行部30とを備えた。
【0121】
各試験番号の粗製品10に対して焼入れ及び焼戻しを実施した。焼入れ時の熱処理温度は、各試験番号の鋼のAc3変態点よりも高い890℃とした。熱処理温度で保持後、水焼入れを行った。焼入れ後の各試験番号の粗製品10に対して、焼戻しを行った。焼戻し条件は、各試験番号の粗製品10が同程度の表面硬さを有するように、焼戻し温度を550〜670℃で調整した。粗製品10を焼戻し温度で120分保持した後、常温になるまで空冷した。
【0122】
焼戻し後の各試験番号の粗製品10に対して、高周波焼入れ処理を実施した。高周波焼入れ処理は、図10に示す粗製品10のうち、ハッチングで示した領域について実施した。具体的には、図2及び図3を参照して、製造後の鉄道用車軸1の中心軸C1方向において、はめ合い部2の外側端2OUと内側端2INとの間の距離をL2と定義した場合、はめ合い部硬化層2Hは、外側端2OUから中央位置CE2に向かって少なくともL2/3の範囲と、内側端2INから中央位置CE2に向かって少なくともL2/3の範囲とに形成されるようにした。各試験番号の粗製品10の各硬化層(はめ合い部硬化層2H、中央平行部硬化層3H)の深さの調整は、図8及び図9に示す高周波焼入れ装置70内の高周波加熱装置71の出力を調整することにより実施した。高周波焼入れ時の焼入れ温度は各試験番号の鋼のAc3変態点以上であった。高周波焼入れ処理後の粗製品10に対して、焼戻し処理を実施した。焼戻し処理では、各試験番号の粗製品10全体を200℃で120分保持した。保持後、粗製品10を常温まで空冷した。
【0123】
高周波焼入れ処理を実施した粗製品10に対して、機械加工を実施して、図11に示す鉄道用車軸1を製造した。図11は、本実施例における鉄道用車軸1の側面図である。各試験番号の鉄道用車軸1は、一対のはめ合い部2と、中央平行部3とを備えた。各はめ合い部2は、幅が200mmであり、直径DWは150mmであった。図11に示すとおり、はめ合い部2の内側端2IN間の距離は1330mmであった。
【0124】
以上の製造工程により、鉄道用車軸1を製造した。各試験番号の鉄道用車軸1のはめ合い部2の直径DWと、中央平行部3の直径DAと、直径比DW/DAとを、表2に示す。
【0125】
【表2】
【0126】
[評価試験]
[疲労試験]
図12は本実施例における鉄道用車軸1の疲労試験装置の模式図である。図12を参照して、各試験番号の鉄道用車軸1の片側のはめ合い部2Aに、車輪に相当する治具200を圧入した。車輪に相当する治具200を固定した。これにより、鉄道用車軸1を片持ち梁状態にした。鉄道用車軸1のうち、固定されているはめ合い部2Dの内側端2INから700mm内側(図11及び図12中の点P)位置に、鉄道用車軸1の中心軸C1方向に垂直な向きで繰返し負荷を与える平面曲げ疲労試験を実施した。試験機として、鷺宮製作所製電気油圧サーボ型疲労試験機(荷重容量500kN)を用いた。
【0127】
試験条件は、応力比−1の両振り負荷とし、周波数は1〜3Hzとした。繰返し回数は5×106回を上限として、破断まで実施した。5×106回まで破断しない場合、そこで試験を打ち切り、未破断と判断した。ここで、5×106回で未破断の試験応力の最大値をFMとする。また、FM以上で5×106回に到達する前に破断した試験応力の最小値をFBとする。FMとFBとの平均値をFAとし、(FB−FM)/FA≦0.10となった場合のFAを、疲労限度と定義した。一方、試験の結果、全て破断した場合、すなわち、FMが得られなかった場合、破断寿命と試験応力の関係から5×106回の寿命に相当する試験応力を外挿し、疲労限度と定義した。ここで、試験応力とは、はめ合い部では内側端2INにおける公称応力振幅、中央平行部では破断位置の表面応力振幅に相当した。
【0128】
各試験番号の鉄道用車軸1について、上述の定義と評価法に基づき、はめ合い部2D及び中央平行部3の疲労限度を評価した。さらに、はめ合い部の疲労限度は、試験番号1を基準とし、疲労限度比として求めた。中央平行部の疲労限度は、試験番号2を基準とし、疲労限度比として求めた。求めた各試験番号の疲労限度比を表2に示す。なお、はめ合い部と中央平行部とのうち、いずれか一方が破断した場合、試験を打ち切った。そのため、はめ合い部と中央平行部とのうち、いずれか一方しか破断しなかった場合、破断が確認されなかったものは未破断(表2中の「−」)と判断した。
【0129】
[はめ合い部硬化層深さCWの測定方法]
続いて、図11を参照して、疲労試験後の各試験番号の鉄道用車軸1の車輪を圧入した側のはめ合い部2Aについて、はめ合い部硬化層の深さCWを上述の方法で求めた。はめ合い部2Aの内側端2INから外側端2OUに向かって、中心軸方向(長手方向)に5mmの位置PWを特定した。位置PWにおいて、鉄道用車軸1の中心軸C1と垂直に切断して切断面を形成した。この切断面を有し、はめ合い部2の表層部分を含むサンプルを採取した。上述の切断面において、ビッカース硬さ試験を実施した。具体的には、切断面において、はめ合い部2の表面から鉄道用車軸1の径方向(深さ方向)に、荷重を2.9Nとし、0.1mmピッチでJIS Z 2244(2009)に準拠したビッカース硬さ試験を実施して、ビッカース硬さ(HV)を測定した。ビッカース硬さ試験により得られた硬さ推移曲線に基づいて、鉄道用車軸1の表面から、限界硬さ(350HV)までの距離を求めた。得られた距離を、はめ合い部硬化層深さCWと定義した。得られたはめ合い部硬化層深さCWを表2に示す。
【0130】
なお、はめ合い部2Aのはめ合い部硬化層の深さCWと同様の方法により、はめ合い部2Dのはめ合い部硬化層の深さCWを求めた。その結果、各試験番号の鉄道用車軸1において、はめ合い部2Aの硬化層深さCWと、はめ合い部2Dの硬化層深さCWとは、同じ値を示した。
【0131】
[中央平行部硬化層深さCAの測定方法]
各試験番号の鉄道用車軸1の中央平行部3を、中心軸C1方向に等間隔に4個の区分3A〜3Dに分割した。区分3Aにおける、中央平行部硬化層3Hの深さCAAを次の方法で求めた。図4を参照して、区分3Aにおいて、鉄道用車軸1の中心軸C1方向と、中央平行部3の径方向とを含む面で切断した。切断面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによるミクロ組織の現出を行った。エッチングした切断面を目視で確認し、切断面のうち、中央平行部硬化層3Hが最も薄い位置を特定した。特定した位置において、はめ合い部硬化層2Hの深さCWと同じ方法により、鉄道用車軸1の表面から、限界硬さまでの距離を求めた。求めた限界硬さまでの距離を中央平行部硬化層3Hの深さCAA(mm)と定義した。
【0132】
区分3Bにおける中央平行部硬化層3Hの深さCABを次の方法で求めた。鉄道用車軸1における区分3Bのうち、任意の点において、鉄道用車軸1の中心軸に垂直に切断した(図5参照)。切断面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによるミクロ組織の現出を行った。エッチングした観察面を目視で確認し、切断面のうち、中央平行部硬化層3Hが最も薄い位置を特定した。特定した位置において、はめ合い部硬化層2Hの深さCWと同じ方法により、鉄道用車軸1の表面から、限界硬さまでの距離を求めた。求めた限界硬さまでの距離を中央平行部硬化層3Hの深さCAB(mm)と定義した。
【0133】
以上の方法で求めたCAA及びCABのうち小さい方の値を、はめ合い部2Aに対応した中央平行部硬化層3Hの深さCA1(mm)と定義した。はめ合い部2Aについて、はめ合い部硬化層2Hの深さCWA(mm)の、中央平行部硬化層3Hの深さCA1(mm)に対する比を、硬化層深さ比CW/CAと定義した。
【0134】
[母材部BMのミクロ組織観察試験]
各試験番号の鉄道用車軸1の中央平行部3の中心軸C1方向に垂直な断面のR/2位置から、ミクロ組織観察用のサンプルを5つ採取した。中心軸C1に垂直な断面を観察面とした。各サンプルの観察面を鏡面に研磨した後、ナイタール腐食液に10秒程度浸漬して、エッチングによるミクロ組織の現出を行った。エッチングした観察面を、光学顕微鏡にて観察した。1視野あたり40000μm2(倍率500倍)とし、各サンプルにつき1視野(つまり5つのサンプルを用いて合計5視野)を観察した。各視野において、コントラストに基づいて、マルテンサイト及びベイナイトと、マルテンサイト及びベイナイト以外の相(フェライト等)とを特定した。特定したマルテンサイト及びベイナイトの総面積と、各視野の面積(40000μm2)とに基づいて、各視野のマルテンサイト及びベイナイトの総面積率を求めた。各視野で求めた、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率の算術平均値を、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率(%)と定義した。
【0135】
ミクロ組織観察試験の結果、いずれの試験番号の鉄道用車軸1についても、母材部BMのミクロ組織では、マルテンサイト及びベイナイトの総面積率が80%以上であった。
【0136】
[評価結果]
表1及び表2を参照して、試験番号1〜3、9〜17、及び、28〜32の化学組成は適切であり、直径比DW/DA、はめ合い部硬化層の深さCW(mm)、硬化層深さ比CW/CAがいずれも本実施形態の範囲を満たした。その結果、はめ合い部疲労限度比及び中央平行部疲労限度比がいずれも1.00以上になり、優れた疲労限度を示した。
【0137】
一方、試験番号4は、直径比DW/DAが小さすぎた。その結果、はめ合い部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0138】
試験番号5は、直径比DW/DAが大きすぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0139】
試験番号6は、硬化層深さ比CW/CAが大きすぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0140】
試験番号7は、硬化層深さ比CW/CAが小さすぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0141】
試験番号8は、はめ合い部硬化層の深さCW(mm)が大きすぎた。その結果、はめ合い部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0142】
試験番号18はC含有量が低すぎた。その結果、はめ合い部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0143】
試験番号19はC含有量が高すぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0144】
試験番号20はSi含有量が低すぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0145】
試験番号21はSi含有量が高すぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0146】
試験番号22はMn含有量が低すぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0147】
試験番号23はMn含有量が高すぎた。その結果、はめ合い部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0148】
試験番号24はCr含有量が低すぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0149】
試験番号25はCr含有量が高すぎた。その結果、はめ合い部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0150】
試験番号26はP含有量が高すぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0151】
試験番号27はS含有量が高すぎた。その結果、中央平行部疲労限度比が1.00未満となった。すなわち、優れた疲労限度を示さなかった。
【0152】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12

【手続補正書】
【提出日】2020年10月2日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道用車軸であって、
各々が直径Dを有する円柱であり、鉄道用車輪が圧入される、一対のはめ合い部と、
前記一対のはめ合い部の間に配置され、前記直径Dよりも小さい直径Dを有する円柱である中央平行部とを備え、
前記はめ合い部は、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部に近い内側端と、
前記鉄道用車軸の中心軸方向において、前記はめ合い部の中央位置よりも前記中央平行部から遠い外側端と、
前記はめ合い部の表層に形成されているはめ合い部硬化層と、
前記はめ合い部硬化層よりも内部の母材部とを含み、
前記中央平行部は、
前記中央平行部の表層に形成されている中央平行部硬化層と、
前記中央平行部硬化層よりも内部の前記母材部とを含み、
前記母材部の化学組成は、質量%で、
C:0.22〜0.29%、
Si:0.15〜0.40%、
Mn:0.50〜0.80%、
P:0.020%以下、
S:0.040%以下、
Cr:0.90〜1.20%、
Mo:0.15〜0.30%、
N:0.0200%以下、
O:0.0040%以下、
Ca:0〜0.0010%、
Cu:0〜0.30%、
Ni:0〜0.30%、
Al:0〜0.100%、
V:0〜0.060%、
Ti:0〜0.020%、
Nb:0〜0.030%、
B:0〜0.0050%、及び、
残部がFe及び不純物、からなり、
前記はめ合い部の前記直径Dの、前記中央平行部の前記直径Dに対する比であるD/Dは、1.10〜1.30であり、
前記はめ合い部の前記内側端から前記外側端に向かって前記中心軸方向に5mmの位置におけるはめ合い部硬化層の深さCは2.5mm〜0.10×Dmmであり、
前記はめ合い部硬化層の深さCの、前記中央平行部硬化層の深さCに対する比であるC/Cは0.34〜0.93である、
鉄道用車軸。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
Cu:0.01〜0.30%、及び、
Ni:0.01〜0.30%からなる群から選択される1元素以上を含有する、
鉄道用車軸。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
Al:0.005〜0.100%を含有する、
鉄道用車軸。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
V:0.005〜0.060%、
Ti:0.002〜0.020%、及び、
Nb:0.002〜0.030%からなる群から選択される1元素又は2元素以上を含有する、
鉄道用車軸。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の鉄道用車軸であって、
前記母材部の前記化学組成は、質量%で、
B:0.0003〜0.0050%を含有する、
鉄道用車軸。
【国際調査報告】