特表-20204120IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧
再表2020-204120水性エマルジョン及びそれを用いた接着剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年10月8日
【発行日】2021年4月30日
(54)【発明の名称】水性エマルジョン及びそれを用いた接着剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20210402BHJP
   C08L 31/02 20060101ALI20210402BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20210402BHJP
【FI】
   C08L29/04 S
   C08L31/02
   C08L33/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】32
【出願番号】特願2020-546193(P2020-546193)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2020年4月2日
(11)【特許番号】特許第6810305号(P6810305)
(45)【特許公報発行日】2021年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2019-72599(P2019-72599)
(32)【優先日】2019年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今岡 依理子
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
(72)【発明者】
【氏名】谷田 達也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB061
4J002BF022
4J002BF032
4J002EH046
4J002GH01
4J002GJ01
(57)【要約】
分散剤としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と、分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)とを含む水性エマルジョンであって、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)はエチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、パルスNMRで求められる30℃での水中結晶化度Cw(30℃)及び70℃での水中結晶化度Cw(70℃)が下記式(I)を満たす水性エマルジョンとする。これにより、凝集物の生成が少なく、耐水接着性及び造膜性に優れる水性エマルジョンが提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散剤としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と、分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)とを含む水性エマルジョンであって、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)はエチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、パルスNMRで求められる30℃での水中結晶化度Cw(30℃)及び70℃での水中結晶化度Cw(70℃)が下記式(I)を満たす水性エマルジョン。
【数1】
【請求項2】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粘度平均重合度が200〜5000であり、けん化度が85〜99.9モル%である、請求項1に記載の水性エマルジョン。
【請求項3】
重合体(B)が、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群より選択される少なくとも1種に由来する特定単位を有する重合体であり、この重合体(B)の全単量体単位に対する上記特定単位の含有率が70質量%以上である、請求項1又は2に記載の水性エマルジョン。
【請求項4】
重合体(B)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)との固形分基準での質量比(A)/(B)が98/2〜80/20である、請求項1〜3のいずれかに記載の水性エマルジョン。
【請求項5】
さらに添加剤(C)を含有し、当該添加剤(C)は溶解性パラメーター(SP値)が19.0〜24.0(MPa)1/2のアルキレングリコール誘導体である、請求項1〜4のいずれかに記載の水性エマルジョン。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の水性エマルジョンを用いてなる接着剤。
【請求項7】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を含有する分散剤の存在下で、エチレン性不飽和単量体を乳化重合する、請求項1〜5のいずれかに記載の水性エマルジョンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有する水性エマルジョンに関する。また、本発明は、当該水性エマルジョンを用いてなる接着剤に関する。なお、本願は2019年4月5日出願の日本国特許出願第2019−072599号の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある。)に代表されるビニルアルコール系重合体は、水溶性の合成高分子として知られており、繊維およびフィルム原料としての用途に加えて、紙加工剤、繊維加工剤、無機物のバインダー、接着剤、乳化重合及び懸濁重合用の安定剤等として広く用いられている。特に、PVAは酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体の乳化重合用保護コロイドとして知られており、PVAを乳化重合用安定剤として用い、乳化重合して得られるビニルエステル系水性エマルジョンは、木工用をはじめとする各種接着剤、塗料ベース、コーティング剤、含浸紙用及び不織製品等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、紙加工、繊維加工等の分野で広く用いられている。
【0003】
しかしながら、PVAを乳化重合用安定剤として用いる場合、乳化重合により得られる水性エマルジョンは耐水性が低いことが知られている。このような問題を解決するために、特許文献1では、酢酸ビニルモノマーとN−メチロールアクリルアミドを共重合したエマルジョンが提案され、N−メチロールアクリルアミド単量体に由来する構造の架橋反応により高い耐水性を達成している。しかしながら、この方法は低温の耐水性及び保管安定性が不十分であり、また、シックハウス症候群の原因物質の一つであるホルムアルデヒドが発生するという環境上の問題点を有する。
【0004】
また、特許文献2では、従来のPVAと比較して高い耐水性を発現する水性エマルジョンとして、炭素数4以下のα−オレフィン単位を特定の割合で含有するPVAを分散剤とし、分散質がエチレン性不飽和単量体から選ばれる1種あるいは2種以上の単量体の重合体である水性エマルジョンが提案されている。さらに、特許文献3および特許文献4では、エチレン−ビニルアルコール共重合体を保護コロイドとして、酢酸ビニル、又は酢酸ビニルと(メタ)アクリル酸エステル類を乳化重合することが提案されている。
【0005】
しかしながら、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体は疎水性のエチレン単位を含んでいるため、未変性のPVAよりも水への溶解性が低く、水溶液を調製する際に溶け残り(以下、「不溶分」と略記することがある。)を生じる場合があった。一方で、不溶分の生成を抑制するためにけん化度を下げると、溶解時に粒子同士が凝集して継粉となる場合がある。不溶分や継粉を含む水溶液中で乳化重合して得られるビニルエステル系水性エマルジョンは凝集物を多く含み、当該水性エマルジョンを接着剤として用いた場合は、接着層の不均一性により接着力が低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−121017号公報
【特許文献2】特開平8−081666号公報
【特許文献3】特開平11−106727号公報
【特許文献4】特開2001−123138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、分散剤として特定のエチレン−ビニルアルコール共重合体を含有し、凝集物の生成が少なく、造膜性及び耐水性に優れる水性エマルジョンの提供を目的とする。また、当該水性エマルジョンを用いてなる接着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、分散剤としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と、分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)とを含む水性エマルジョンであって、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)はエチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、パルスNMRで求められる30℃での水中結晶化度Cw(30℃)及び70℃での水中結晶化度Cw(70℃)が下記式(I)を満たす水性エマルジョンを提供することによって解決される。
【0009】
【数1】
【0010】
このとき、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粘度平均重合度が200〜5000であり、けん化度が85〜99.9モル%であることが好ましい。
【0011】
またこのとき、重合体(B)が、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群より選択される少なくとも1種に由来する特定単位を有する重合体であり、この重合体(B)の全単量体単位に対する上記特定単位の含有率が70質量%以上であることも好ましい。
【0012】
さらにこのとき、重合体(B)とエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)との固形分基準での質量比(A)/(B)が98/2〜80/20であることも好ましい。
【0013】
上記水性エマルジョンがさらに添加剤(C)を含有し、当該添加剤(C)は溶解性パラメーター(SP値)が19.0〜24.0(MPa)1/2のアルキレングリコール誘導体であることが好ましい。
【0014】
上記水性エマルジョンを用いてなる接着剤も本発明の好適な実施態様である。
【0015】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を含有する分散剤の存在下で、エチレン性不飽和単量体を乳化重合する、上記水性エマルジョンの製造方法も本発明の好適な実施態様である。
【0016】
このとき、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の目開き2.5mmの篩を通過する粒子の含有率が80質量%以上であり、目開き0.15mmの篩を通過する粒子の含有率が20質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の水性エマルジョンは、凝集物の生成が少なく、耐水接着性及び造膜性に優れる。したがって、当該水性エマルジョンは、各種接着剤、塗料、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の水性エマルジョンは、分散剤としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と、分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)とを含む水性エマルジョンであって、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)はエチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、パルスNMRで求められる30℃での水中結晶化度Cw(30℃)及び70℃での水中結晶化度Cw(70℃)が下記式(I)を満たすことを特徴とする。
【0019】
【数2】
【0020】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)]
本発明の水性エマルジョンに含まれるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満であり、パルスNMR(核磁気共鳴吸収法)で求められる30℃での水中結晶化度Cw(30℃)と70℃での水中結晶化度Cw(70℃)が上記式(I)を満足することが大きな特徴である。この点について以下に説明する。
【0021】
(水中結晶化度)
まず、パルスNMRによってポリマー試料を測定することの意味を説明する。パルスNMR装置には装置中の電磁石によって発生した静磁場が存在する。静磁場中では水素核の核スピンの向きが静磁場と同方向に配向する。ここにパルス磁場を与えると、水素核の核スピンは静磁場方向から90°倒れた励起状態になる。その後、励起された核スピンの向きが巨視的に元の静磁場方向に戻るまでの過程をT緩和、もしくは横緩和と呼び、この過程に要する時間を緩和時間(Tau)と呼ぶ。単一成分の緩和の場合、時間(t)における磁化強度(y)は、励起状態での緩和強度(A)、緩和時間(Tau)及び定数(y、W)を用いて、以下の式(II)で示される。なお、Wはワイブル係数であり、W=1の時に式(II)はExp型に、W=2の時はGauss型になる。一般的なポリマー試料の場合は1≦W≦2である。
【0022】
【数3】
【0023】
緩和の場合、水素核は他の水素核とエネルギー交換を行いながら減衰する。したがって、試料の分子運動性が高い場合、相互に近接するプロトンとの相互作用が小さいため系全体のエネルギー減衰が起こりにくく、緩和時間が長くなる。一方、分子運動性が低い場合には、緩和時間が短くなる。したがって、結晶性ポリマー材料であれば、結晶部では緩和時間が短く、非晶部では緩和時間が長くなる。実際の結晶性ポリマーでは、結晶部と非晶部が存在し、その緩和曲線では緩和時間の短い結晶部由来の緩和成分と緩和時間の長い非晶部由来の緩和成分の和が観測される。結晶部由来の緩和強度をA、非晶部由来の緩和強度をA、結晶部由来の緩和時間をTau、非晶部由来の緩和時間をTau、とすれば、時間(t)における試料全体の磁化強度(y)は定数(y)を用いて、以下の式(III)で示される。なお、yは、測定装置由来の熱ノイズに由来する成分であって、時間tに依存しないパラメータであり、緩和強度(A)及び(A)の値には影響しないため、水中結晶化度(Cw)はyの影響を受けない。結晶成分はGauss型緩和を示すことが多いため、式(III)の結晶成分を表す第1項においてはW=2で固定した。この式から導かれるA/(A+A)が、パルスNMRによって得られる結晶化度である。本明細書において、パルスNMRを用いた測定にはSolid-echo法と呼ばれるパルスシークエンスを使用した。
【0024】
【数4】
【0025】
以上のようにして、ポリマー試料中の結晶成分と非晶成分の割合を、パルスNMRで測定される緩和曲線から得ることができる。エチレン−ビニルアルコール共重合体は多数の水酸基を有する親水性ポリマーであり、水中では膨潤して結晶化度が低下するが、その程度は水温の影響を大きく受ける。水温が高くなれば膨潤度が大きくなり、その結果結晶化度は低下する。本発明では、パルスNMRで求められる30℃での水中結晶化度Cw(30℃)(%)及び70℃での水中結晶化度Cw(70℃)(%)に着目した。ここで、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は水溶性ポリマーであるが、一旦結晶化したエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を水に溶解させるためには、高温の条件や撹拌操作が必要である。したがって、30℃や70℃の水中に静置した程度では試料は溶解せず膨潤するだけであり、固体の状態で存在する。したがって、上記パルスNMR測定では固体状態で測定を行っている。
【0026】
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は下記式(I)を満足する。ここで、水中結晶化度(Cw)は緩和時間の絶対値で決定されるものではなく、系を緩和時間の異なる2成分に分割したそれぞれの比率である緩和強度(A)及び(A)によって決定されるパラメータである。この緩和強度(A)及び(A)は共鳴周波数の変化には影響されないため、水中結晶化度(Cw)の値は共鳴周波数の影響を受けない。
【0027】
【数5】
【0028】
上記式(I)において、[(100−Cw(30℃))/100]は、30℃での非晶部の比率を表しており、0〜1の値をとる。また[Cw(30℃)−Cw(70℃)]は、30℃と70℃の水中結晶化度の差、すなわち水温上昇に伴う非晶部増加量の指標であり、0〜100の値をとる。したがって、これらを掛け合わせた式(I)はエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の易溶解性の指標であり、式(I)の値には絶対値の大きい[Cw(30℃)−Cw(70℃)]の方が大きく影響する。通常エチレン単位の含有率が1モル%以上20モル%未満のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、エチレン単位の含有率が少ないため水に溶解する。このような水溶性のエチレン−ビニルアルコール共重合体は、通常[(100−Cw(30℃))/100]の値が大きく、かつ[Cw(30℃)−Cw(70℃)]の値が小さいため、結果として式(I)の値が小さくなる場合と、[(100−Cw(30℃))/100]の値が小さく、かつ[Cw(30℃)−Cw(70℃)]の値が大きいため、結果として式(I)の値が大きくなる場合がある。すなわち、式(I)の値が4未満の場合は、低温で溶解しやすい一方で継粉となりやすく、さらに一度生成した継粉は水に溶解しにくいため、全溶するまでの溶解時間が長くなる。式(I)の下限は好適には5以上であり、より好適には6以上である。一方、式(I)の値が22を超える場合は、水への溶解性が低下し、全溶するまでの溶解時間が長くなる。式(I)の上限は好適には21以下であり、より好適には20以下である。上記式(I)が特定の範囲を満たすことで、溶解速度が速く、かつ溶解時に継粉になりにくいエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が得られる。
【0029】
測定に際しては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の試料を、各温度(30℃、70℃)のHO−d中に40分静置した後に、静置時の温度と同一の温度下でパルスNMR測定を行う。得られた緩和曲線の0〜0.8msの範囲を、上記式(III)にて誤差最小二乗法を用いてフィッティングする。
【0030】
上記式(I)を満足するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、水に溶解させた場合に、継粉に由来する不溶物や凝集物の生成が少ないため、例えば、乳化重合安定剤としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を用いてエチレン性不飽和単量体を乳化重合することで、凝集物の生成が少なく、耐水接着性及び造膜性に優れる水性エマルジョンを得ることができる。
【0031】
上記式(I)を満足するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、重合工程、けん化工程、粉砕工程、脱液工程及び乾燥工程を含む、特別なエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法によって得ることができる。この製造方法については後に詳細に説明する。本発明においては、このような特別な製造方法を採用することによって、上記式(I)を満足し、水に対する溶解性に優れたエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を初めて得ることができた。以下、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)についてより詳細に説明する。
【0032】
(ビニルエステル)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、エチレンとビニルエステルを共重合して得られたエチレン−ビニルエステル共重合体をけん化する工程を含んで得られる。用いられるビニルエステルとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル及びバーサティック酸ビニル等が挙げられ、中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0033】
(エチレン単位の含有率)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位の含有率は1モル%以上20モル%未満である。エチレン単位の含有率が1モル%未満の場合は、得られる水性エマルジョンの耐水接着性が低下する。エチレン単位の含有率は、好適には1.5モル%以上であり、より好適には2モル%以上である。一方、エチレン単位の含有率が20モル%以上の場合は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が水に不溶となり、水溶液の調製が困難となる。エチレン単位の含有率は、好適には15モル%以下であり、より好適には10モル%以下であり、さらに好適には8.5モル%以下である。
【0034】
エチレン単位の含有率は、例えばエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の前駆体又は再酢化物であるエチレン−ビニルエステル共重合体のH−NMRから求められる。試料のエチレン−ビニルエステル共重合体の再沈精製をn−ヘキサンとアセトンの混合溶液を用いて3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥して分析用のエチレン−ビニルエステル共重合体を作製する。分析用のエチレン−ビニルエステル共重合体をDMSO−dに溶解し、80℃でH−NMR(500MHz)測定する。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7〜5.2ppm)とエチレン及びビニルエステルの主鎖メチレンに由来するピーク(0.8〜1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有率を算出できる。
【0035】
(けん化度)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のけん化度に特に制限はないが、80〜99.99モル%が好ましい。けん化度が80モル%未満の場合は、得られる水溶液におけるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の溶解性が不十分となる。けん化度は、より好適には82モル%以上であり、さらに好適には85モル%以上である。一方、けん化度が99.99モル%を超える場合は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を安定に製造することが困難となる傾向がある。けん化度は、より好適には99.5モル%以下であり、さらに好適には99モル%以下であり、特に好適には98.5モル%以下である。エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のけん化度はJIS K6726(1994年)に準じて測定できる。
【0036】
(粘度平均重合度)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粘度平均重合度に特に制限はないが、200〜5000が好ましい。粘度平均重合度が200未満の場合は、得られる水性エマルジョンの保管安定性が低下する。粘度平均重合度は、より好適には250以上であり、さらに好適には300以上であり、特に好適には400以上である。一方、粘度平均重合度が5000を超える場合は、エチレン−ビニルアルコール共重合体水溶液の粘度が高くなりすぎ、取り扱いが困難となる傾向がある。粘度平均重合度は、より好適には4500以下であり、さらに好適には4000以下であり、特に好適には3500以下である。粘度平均重合度PはJIS K6726(1994年)に準じて測定できる。すなわち、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)をけん化度99.5モル%以上に再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](L/g)から次式により求めることができる。
P=([η]×10000/8.29)(1/0.62)
【0037】
(他の単量体単位)
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、ビニルアルコール単位、エチレン単位及びビニルエステル単位以外の単量体単位を含有していてもよい。このような単量体としては、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;アクリル酸及びその塩;アクリル酸エステル;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸エステル;アクリルアミド;N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩またはその4級塩、N−メチロールアクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド;N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩またはその4級塩、N−メチロールメタクリルアミド及びその誘導体等のメタクリルアミド誘導体; メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩またはそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。これらの単量体の含有率は、使用される目的や用途等によって異なるが、好ましくは10モル%以下であり、より好ましくは5モル%未満であり、さらに好ましくは1モル%未満であり、0.5モル%未満であることが特に好ましい。
【0038】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の製造方法]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の好適な製造方法は、エチレンとビニルエステルとを共重合してエチレン−ビニルエステル共重合体を得る重合工程;前記エチレン−ビニルエステル共重合体をけん化して、エチレン−ビニルアルコール共重合体と溶媒とを含む固体ブロックを得るけん化工程;前記固体ブロックを粉砕してウェット粒子を得る粉砕工程;前記ウェット粒子から前記溶媒の一部を機械的に脱液して脱液粒子を得る脱液工程;及び前記脱液粒子から前記溶媒の残部を加熱することにより除去して乾燥粒子を得る乾燥工程;を含むエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法であって;
前記脱液粒子が40〜65質量%の前記溶媒を含有し、かつ
前記脱液粒子中の、目開き5.6mmの篩を通過する粒子の含有率が80質量%以上であり、目開き1.0mmの篩を通過する粒子の含有率が2質量%未満である製造方法である。
【0039】
上記製造方法のように、けん化工程後の固体ブロックを粉砕してから脱液して得られる脱液粒子が、特定割合の溶媒を含み、かつ特定の粒度分布を有することが重要であり、これらによって、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の水溶液を調製する際に、継粉にならず、溶解速度が大きくなる。以下、製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0040】
(重合工程)
エチレンとビニルエステルとの共重合の方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。中でも、無溶媒又はアルコール等の有機溶媒中で重合する塊状重合法や溶液重合法を通常採用できるが、溶液重合法が好ましい。上記アルコールとしては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが挙げられ、メタノールが特に好ましい。重合操作にあたっては、回分法、半回分法及び連続法のいずれの重合方式も採用できる。重合反応器としては、回分反応器、管型反応器、連続槽型反応器等が挙げられる。共重合に使用される開始剤としては、2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−バレロニトリル)、過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシジカーボネート等のアゾ系開始剤または過酸化物系開始剤等の公知の開始剤が挙げられる。
【0041】
重合温度に特に限定はなく、0〜180℃程度が好ましく、室温〜160℃がより好ましく、30〜150℃がさらに好ましい。重合時に使用する溶媒の沸点以下で重合する際は減圧沸騰重合、常圧非沸騰重合のいずれも選択できる。また重合時に使用する溶媒の沸点以上で重合する際は加圧非沸騰重合、加圧沸騰重合のいずれも選択できる。
【0042】
重合時における重合反応器内のエチレン圧力は0.01〜0.9MPaが好ましく、0.05〜0.7MPaがより好ましく、0.1〜0.65MPaがさらに好ましい。重合反応器出口での重合率は特に限定されないが、10〜90%が好ましく、15〜85%がより好ましい。
【0043】
重合工程において、得られるエチレン−ビニルエステル共重合体の粘度平均重合度を調節すること等を目的として、連鎖移動剤を共存させてもよい。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノン等のケトン;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン;チオ酢酸等のチオカルボン酸;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。中でも、アルデヒド及びケトンが好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするエチレン−ビニルエステル共重合体の粘度平均重合度に応じて決定されるが、通常、使用するビニルエステル100質量部に対して0.1〜10質量部である。
【0044】
(けん化工程)
重合工程で得られたエチレン−ビニルエステル共重合体を、有機溶媒中において、触媒の存在下で加アルコール分解又は加水分解反応によってけん化する。けん化工程で用いられる触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒;または、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸等の酸性触媒が挙げられる。けん化工程で用いられる有機溶媒は特に限定されないが、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を併用できる。中でも、メタノール、又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。けん化触媒の使用量は、エチレン−ビニルエステル共重合体中のビニルエステル単量体単位に対するモル比で0.001〜0.5が好ましい。当該モル比は、より好適には0.002以上である。一方、当該モル比は、より好適には0.4以下であり、さらに好適には0.3以下である。
【0045】
けん化工程の好適な実施態様は以下の通りである。まず、重合工程において得られたエチレン−ビニルエステル共重合体溶液に対し、水酸化ナトリウムのようなけん化触媒を添加して混合する。この時の溶媒は、メタノールであることが好ましい。混合当初は均一な液体であるが、けん化反応が進行してポリマー中のビニルエステル単位がけん化されてビニルアルコール単位に変換されると、溶媒への溶解度が低下して、ポリマーが溶液中に析出する。このとき、溶液中にはメタノールによるアルコリシスで生成した酢酸メチルが含まれる。けん化反応が進行するに従って、ポリマーの析出量が徐々に増加してスラリー状になり、その後流動性を失う。したがって、けん化反応を均一に進行させるためには流動性を失うまでに十分に混合することが重要である。
【0046】
エチレン−ビニルエステル共重合体溶液とけん化触媒を混合する方法は特に限定されず、スタティックミキサー、ニーダー、攪拌翼など様々な方法が採用できるが、スタティックミキサーを用いることが、連続的に均一に混合できて好ましい。この場合、重合槽に接続された配管中で重合工程後のエチレン−ビニルエステル共重合体溶液にけん化触媒を添加し、その後スタティックミキサーを通過させて混合してペーストを得る。スタティックミキサー中の反応液の温度は通常20〜80℃である。
【0047】
スタティックミキサーを通過したペースト中のエチレン−ビニルエステル共重合体のけん化反応を進行させる方法は特に限定されないが、移動するベルトの上に当該ペーストを載置して、当該ベルトを一定の温度に保たれた槽の中で移動させながらけん化反応を進行させる方法が好適である。ベルト上のペーストは流動性が失われて固体状態となり、さらに固体状態でけん化反応が進行する。この方法によって、固体状態で連続的にけん化反応を進行させることができ、エチレン−ビニルアルコール共重合体と溶媒とを含む固体ブロックが得られる。けん化温度は好適には20〜60℃である。けん化温度が低すぎる場合には反応速度が低下する。けん化温度はより好適には25℃以上であり、さらに好適には30℃以上である。一方、けん化温度が高すぎると、多量の溶媒が蒸発して、得られる固体ブロック中の溶媒の含有率が低くなり、得られるエチレン−ビニルアルコール共重合体の溶解性が悪化してしまう。けん化温度は、より好適には55℃以下であり、さらに好適には50℃以下である。けん化時間は5分以上2時間以下であることが好ましい。けん化時間はより好適には8分以上であり、さらに好適には10分以上である。また、けん化時間はより好適には1時間以下であり、さらに好適には45分以下である。
【0048】
(粉砕工程)
けん化工程で得られた固体ブロックを粉砕することによって溶媒を含有するウェット粒子が得られる。このとき用いられる粉砕機は、粉砕機の回転数等を調整して、後述する粒度分布にできるものであれば特に限定されず、公知の粉砕機、破砕機を使用できる。けん化工程を経て得られるエチレン−ビニルアルコール共重合体の力学的特性上、カッターミル、ギロチン式切断機、往復カッター式、一軸、二軸、三軸せん断破砕機等の切断型破砕機が好ましい。粉砕の際に固体ブロックと接触する破砕刃のロックウェル硬度(HRC)は40〜70であることが好ましい。当該硬度は45以上であることがより好ましい。一方、当該硬度は65以下であることがより好ましい。また、破砕刃の回転数は200〜550rpmであることが好ましい。当該回転数は、225rpm以上であることがより好ましく、250rpm以上であることがさらに好ましい。一方、当該回転数は、500rpm以下であることがより好ましく、450rpm以下であることがさらに好ましい。
【0049】
従来、けん化工程で得られた固体ブロックの粉砕には、ロックウェル硬度40未満の破砕刃を備え、550rpmを超える回転数で運転される粉砕機が一般的に用いられていた。使用される破砕刃のロックウェル硬度が低いために、破砕刃の摩耗が進行しやすく、摩耗した破砕刃で切断したことによる粉砕ムラが生じやすかった。また、高回転数で固体ブロックを粉砕した場合は、粉砕の衝撃によって固体ブロックが破砕機投入口で大きく上下に振動してしまい、粉砕時の破断ムラが生じてしまっていた。このような事情により、従来は、後述する特定の粒度分布を有する粒子を安定的に得ることが困難であった。一方、破砕刃のロックウェル硬度が70を超える場合は、高硬度である一方で靱性が低下するために、粉砕時に破砕刃の微小チッピングが発生してしまい、それにより粉砕ムラを生じる傾向がある。また、粉砕機の回転数が200rpm未満の場合は、粉砕効率が低下する傾向がある。
【0050】
(洗浄工程)
粉砕工程の後、必要に応じて、酢酸ナトリウム等の不純物の除去を目的に洗浄工程を加えてウェット粒子を洗浄してもよい。洗浄液としては、メタノール、エタノール等の低級アルコール、酢酸メチル等の低級脂肪酸エステル、及びそれらの混合物などが挙げられる。洗浄工程の条件は特に限定されないが、20℃〜洗浄液の沸点の温度で、30分〜10時間程度洗浄することが好ましい。
【0051】
(脱液工程)
粉砕工程後、場合によっては洗浄工程後、前記ウェット粒子から前記溶媒の一部を機械的に脱液することによって脱液粒子が得られる。このとき用いられる脱液機は、遠心脱液機が好ましい。遠心脱液機としては、連続的な遠心脱液が可能なものが好ましく、例えば自動排出型遠心脱液機、スクリュー排出型遠心脱液機、振動排出型遠心脱液機、押し出し板型遠心脱液機等が挙げられる。従来、粉砕粒子の脱液には圧搾脱液機が使用されていた。しかしながら、得られる脱液粒子の溶媒含有率を上記特定の範囲にするためには圧搾強度を強める必要があり、その結果脱液粒子の変形や破壊が生じて粒度分布が後述する範囲を外れていた。すなわち、従来の方法では、後述する脱液粒子の粒度分布及び溶媒含液率の値を同時に達成することは困難であった。脱液工程においては、上述する遠心脱液機を用いることで、後述する粒度分布及び溶媒含有率を有する脱液粒子を容易に得ることができる。
【0052】
こうして得られる脱液粒子が、40〜65質量%の溶媒を含有することが重要である。溶媒の含有率が40質量%未満の場合、乾燥しすぎた粒子が混じることになって、乾燥工程後に溶解しにくいエチレン−ビニルアルコール共重合体が混じることになり、上記式(I)を満足するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が得られない。溶媒の含有率は、好適には42質量%以上であり、より好適には45質量%以上である。一方、溶媒の含有率が65質量%を超える場合、粒子の表面と内部で熱履歴に差が生じて、上記式(I)を満足するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が得られないし、乾燥に必要なエネルギーが増加する。溶媒の含有率は、好適には62質量%以下であり、より好適には59質量%以下である。溶媒の含有率は、脱液粒子の平均値である。脱液粒子における溶媒の含有率は、ウェット粒子における溶媒の含有率に比べて、3質量%以上低いことが好ましく、5質量%以上低いことがより好ましく、10質量%以上低いことがさらに好ましい。
【0053】
また、前記脱液粒子中の、目開き5.6mmの篩を通過する粒子の含有率が80質量%以上であり、目開き1.0mmの篩を通過する粒子の含有率が2質量%未満であることが重要である。すなわち、粗大粒子を多く含まず、しかも微粒子も多く含まないことが重要である。本発明において、篩の目開きは、JIS Z 8801−1(2006年)の公称目開きに準拠する。
【0054】
前記脱液粒子中の目開き5.6mmの篩を通過する粒子の含有率は80質量%以上である。脱液粒子が粗大粒子を多く含んでいる場合には、その粒子の中心まで十分に乾燥するために高温又は長時間の乾燥が必要になり、乾燥に必要なエネルギーが増加する。しかも高温又は長時間の乾燥を施すことによって、より小さい粒子の結晶化が進行し過ぎて、乾燥工程後に溶解しにくいエチレン−ビニルアルコール共重合体粒子が混じることになる。また、粗大粒子の存在によって乾燥機内での伝熱ムラが生じてしまう。以上のような事情によって、上記式(I)を満足するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が得られない。目開き5.6mmの篩を通過する粒子の含有率は、好適には82質量%以上であり、より好適には85質量%以上である。一方、生産効率を考慮すれば、目開き5.6mmの篩を通過する粒子の含有率は、好適には99質量%以下であり、より好適には98質量%以下である。
【0055】
前記脱液粒子中の目開き1.0mmの篩を通過する粒子の含有率は2質量%未満である。脱液粒子が微粒子を多く含んでいる場合には、その後に乾燥を施すことによって、当該微粒子の結晶化が進行し過ぎて、乾燥工程後に溶解しにくいエチレン−ビニルアルコール共重合体粒子が多く混じってしまう。また、微粒子が乾燥機の底部に滞留して過剰に熱を受けて結晶化度が高くなりすぎ、やはり溶解性が低下したエチレン−ビニルアルコール共重合体粒子が混じる。これらの事情によって、上記式(I)を満足するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が得られない。目開き1.0mmの篩を通過する粒子の含有率は、好適には1.9質量%以下であり、より好適には1.8質量%以下である。一方、生産効率を考慮すれば、目開き1.0mmの篩を通過する粒子の含有率は、好適には0.05質量%以上であり、より好適には0.1質量%以上である。
【0056】
(乾燥工程)
脱液工程後に前記脱液粒子を乾燥工程に供することで、エチレン−ビニルアルコール共重合体を得ることができる。具体的には、円筒乾燥機を使用する熱風乾燥が好ましく、乾燥時の粒子の温度は80〜120℃が好ましい。当該温度が低すぎると、生産効率が低下する。当該温度は90℃以上がより好ましい。一方、当該温度が高すぎると、結晶化が進行しすぎる粒子が生じ、溶解性が悪化する。当該温度は110℃以下がより好ましい。また、乾燥時間は2〜10時間が好ましく、3〜8時間がより好ましい。乾燥時の条件を上記範囲にすることで、式(I)を満たすエチレン−ビニルアルコール共重合体を簡便に製造できる。
【0057】
(追加粉砕工程)
乾燥工程後、さらに粒径を小さくするために、追加粉砕工程を設けることが好ましい。これによって、水への溶解速度が大きい粒子にすることができる。追加粉砕工程で使用する粉砕機は、前記粉砕工程で用いたのと同様の粉砕機を用いることができる。
【0058】
追加粉砕工程で得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粒子は、目開き2.5mmの篩を通過する粒子の含有率が80質量%以上であるものであることが好ましい。目開き2.5mmの篩を通過する粒子が80質量%未満の場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粒子を水に溶解させて水溶液を調製する際に、溶解速度が低くなり、高温で長時間の加熱が必要となる。目開き2.5mmの篩を通過する粒子の含有率が83質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。さらに、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粒子は、目開き1.0mmの篩を通過する粒子の含有率が80質量%以上であることが好ましい。これにより、水への溶解速度がより一層向上する。目開き1.0mmの篩を通過する粒子の含有率が83質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
【0059】
一方、追加粉砕工程で得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粒子は、目開き0.15mmの篩を通過する粒子の含有率が20質量%以下のものであることが好ましい。目開き0.15mmの篩を通過する粒子の含有率が20質量%を超える場合、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を含む水溶液中に継粉が発生しやすくなる傾向がある。目開き0.15mmの篩を通過する粒子の含有率が17質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがさらに好ましい。
【0060】
[水性エマルジョン]
本発明の水性エマルジョンは、分散剤としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と、分散質としてエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)とを含む水性エマルジョンである。
【0061】
エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)の材料となるエチレン性不飽和単量体として、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化オレフィン系単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等のビニルエステル系単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、及びこれらの四級化物、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩等の(メタ)アクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸及びこれらのナトリウム塩、カリウム塩等のスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系単量体;N−ビニルピロリドン等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用できる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。
【0062】
エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)の中でも、ビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体、及びジエン系単量体からなる群より選択される少なくとも1種に由来する特定単位を有する重合体が好ましい。上記特定単位の含有率としては、この重合体(B)の全単量体単位に対して好適には70質量%以上であり、より好適には75質量%以上であり、さらに好適には80質量%以上であり、特に好適には90質量%以上である。特定単位の含有率が70質量%未満であると、水性エマルジョンの乳化重合安定性が不十分となる傾向がある。
【0063】
さらに、上記特定単位の中でも、ビニルエステル系単量体が特に好ましく、酢酸ビニルが最も好ましい。すなわち、重合体(B)の全単量体単位に対して、ビニルエステル系単量体単位の含有率を70質量%以上とすることが好ましく、酢酸ビニルに由来する単量体単位の含有率を70質量%以上とすることがより好ましく、酢酸ビニルに由来する単量体単位の含有率を90質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0064】
[水性エマルジョンの製造方法]
本発明の水性エマルジョンの製造方法としては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の存在下で、重合開始剤を用いて前記エチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法が一例として挙げられる。このようにして得られた水性エマルジョンは、特に凝集物の生成がなく、耐水性にも優れる。好適な製造方法は、前記式(I)を満たすエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粒子を分散剤として水に溶解させて得られた水溶液中で、重合開始剤を用いて前記エチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法である。
【0065】
上記方法において、重合系内へ乳化重合用分散剤としてエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を仕込む場合、その仕込み方法や添加方法に特に制限はない。重合系内に乳化重合用分散剤を初期一括で添加する方法や、乳化重合中に連続的に添加する方法が挙げられる。中でも、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン性不飽和単量体へのグラフト率を高める観点から、重合系内に乳化重合用分散剤を初期一括で添加する方法が好ましい。この際、冷水又は予め加温した温水にエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を添加し、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を均一に分散させるため80〜90℃に加温し攪拌する方法が好ましい。
【0066】
乳化重合時における、乳化重合用分散剤としてのエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の配合量に特に制限はないが、エチレン性不飽和単量体100質量部に対して、好適には0.2質量部以上40質量部以下であり、より好適には0.3質量部以上20質量部以下であり、さらに好適には0.5質量部以上15質量部以下である。エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の配合量が、0.2質量部未満の場合は、水性エマルジョンの分散質粒子が凝集したり、重合安定性が低下する傾向がある。一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の配合量が、40質量部を超える場合は、重合系の粘度が高くなりすぎて、均一に乳化重合が進行しなかったり、重合熱の除熱が不十分となる傾向がある。
【0067】
本発明の水性エマルジョンにおけるエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とエチレン性不飽和単量体単位を含有する重合体(B)との比率に特に制限はないが、固形分基準での質量比(A)/(B)は好適には98/2〜80/20であり、より好適には95/5〜85/15である。質量比(A)/(B)が98/2を超える場合は、得られる水性エマルジョンの粘度安定性が不十分となる傾向がある。一方、質量比(A)/(B)が80/20未満の場合は、得られる皮膜の耐水性が不十分となる傾向がある。
【0068】
本発明の水性エマルジョンにおける固形分含有量に特に制限はないが、好適には30質量%以上60質量%以下であり、より好適には35質量%以上55質量%以下である。
【0069】
上記乳化重合において、重合開始剤としては、乳化重合に通常用いられる水溶性の単独開始剤又は水溶性のレドックス系開始剤が使用できる。これらの開始剤は、1種を単独で又は2種以上を併用してもよい。中でも、レドックス系開始剤が好ましい。
【0070】
水溶性の単独開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化水素、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)等の過酸化物等が挙げられる。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
【0071】
レドックス系開始剤としては、酸化剤と還元剤を組み合わせたものを使用できる。酸化剤としては、過酸化物が好ましい。還元剤としては、金属イオン、還元性化合物等が挙げられる。酸化剤と還元剤の組み合わせとしては、過酸化物と金属イオンとの組み合わせ、過酸化物と還元性化合物との組み合わせ、過酸化物と、金属イオン及び還元性化合物とを組み合わせたものが挙げられる。過酸化物としては、過酸化水素、クメンヒドロキシパーオキサイド、t−ブチルヒドロキシパーオキサイド等のヒドロキシパーオキサイド、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)、過酢酸t−ブチル、過酸エステル(過安息香酸t−ブチル)等が挙げられる。金属イオンとしては、Fe2+、Cr2+、V2+、Co2+、Ti3+、Cu+等の1電子移動を受けることのできる金属イオンが挙げられる。還元性化合物としては、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール、ロンガリット、アスコルビン酸が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群から選ばれる1種以上の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせが好ましく、過酸化水素と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせがより好ましい。
【0072】
また、乳化重合に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、アルカリ金属化合物、界面活性剤、緩衝剤、重合度調節剤等を適宜使用してもよい。
【0073】
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)を含む限り特に限定されず、アルカリ金属イオンそのものであってもよく、アルカリ金属を含む化合物であってもよい。
【0074】
アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、用いられるアルカリ金属化合物の種類に応じて適宜選択することができるが、アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、水性エマルジョン(固形換算)の全質量に対して、好適には100〜15000ppmであり、より好適には120〜12000ppmであり、さらに好適には150〜8000ppmである。アルカリ金属化合物の含有量が100ppm未満の場合は、乳化重合安定性が低下する傾向があり、一方、15000ppmを超える場合は、得られる皮膜が着色する傾向となる。なお、アルカリ金属化合物の含有量は、ICP発光分析装置により測定できる。本明細書において、「ppm」は、「質量ppm」を意味する。
【0075】
アルカリ金属を含む化合物としては、具体的には、弱塩基性アルカリ金属塩(例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属ハロゲン化物塩、アルカリ金属硝酸塩)、強塩基性アルカリ金属化合物(例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド)等が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物は、1種を単独で又は2種以上を併用できる。
【0076】
弱塩基性アルカリ金属塩としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム)、アルカリ金属重炭酸塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等)、アルカリ金属カルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム等)、アルカリ金属硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム等)、アルカリ金属ハロゲン化物塩(塩化セシウム、ヨウ化セシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等)、アルカリ金属硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム等)が挙げられる。これらのうち、エマルジョン内が塩基性を帯びる観点から、解離時に弱酸強塩基の塩として振舞えるアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩が好ましく用いられ、アルカリ金属のカルボン酸塩がより好ましい。
【0077】
これらの弱塩基性アルカリ金属塩を用いることにより、乳化重合において弱塩基性アルカリ金属塩がpH緩衝剤として作用をすることで、乳化重合を安定に進めることができる。
【0078】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤のいずれを使用してもよい。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルアリール硫酸塩、アルキルスルフォネート、ヒドロキシアルカノールのサルフェート、スルフォコハク酸エステル、アルキル又はアルキルアリールポリエトキシアルカノールのサルフェート及びホスフェート等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。界面活性剤の使用量は、耐水性、耐温水性及び耐煮沸性の観点から、エチレン性不飽和単量体(例えば、酢酸ビニル)の全量に対して好適には2質量%以下である。
【0079】
緩衝剤としては、酢酸、塩酸、硫酸等の酸;アンモニア、アミン荷性ソーダ、荷性カリ、水酸化カルシウム等の塩基;又はアルカリ炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩等が挙げられる。重合度調節剤としては、メルカプタン類、アルコール類等が挙げられる。
【0080】
上記乳化重合における分散媒は、水を主成分とする水性媒体であることが好ましい。水を主成分とする水性媒体には、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒(アルコール類、ケトン類等)を含んでいてもよい。ここで、「水を主成分とする水性媒体」とは水を50質量%以上含有する分散媒のことである。コスト及び環境負荷の観点から、分散媒は、水を90質量%以上含有する水性媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。前記水性エマルジョンの製造方法において、乳化重合の開始の前に上記分散剤のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を加熱し、分散媒に溶解させたのち、冷却し、窒素置換を行うことが好ましい。加熱温度は90℃以上が好ましい。乳化重合の温度は、特に限定されないが、20〜85℃程度が好ましく、40〜80℃程度がより好ましい。
【0081】
(添加剤(C))
本発明の水性エマルジョンは、造膜性をより一層向上する観点から、さらに添加剤(C)を含有し、当該添加剤(C)は溶解性パラメーター(SP値)が19.0〜24.0(MPa)1/2のアルキレングリコール誘導体であることが好ましい。なお、アルキレングリコール誘導体は、その構造中にアルキレングリコール単位を少なくとも1つ有する化合物を意味する。
【0082】
添加剤(C)の添加方法に特に制限はなく、予め重合系内に一括で添加する方法、乳化重合中に連続的に添加する方法、乳化重合により得られた水性エマルジョンに一括で添加する方法等が挙げられる。
【0083】
本明細書において、溶解性パラメーター(SP値)は下記式(IV)に示すSmallの式により算出される値であり、単位は(MPa)1/2である。
【0084】
【数6】
【0085】
(式(IV)中、dは密度、Gは原子団、基に固有の定数(Smallの値を採用)及びMは分子量を表し、SP値の単位は(MPa)1/2である)
【0086】
このような添加剤(C)としては、プロピレングリコール−モノ−2−エチルヘキサノエート(ワイジノール(登録商標)EHP01:SP値=22.5)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEMB:SP値=20.4)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(DPMB:SP値=20.0)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(DPM:SP値=20.0)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(TPM:SP値=19.7)、エチレングリコールモノブチルエーテル(EMB:SP値=19.3)、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル(ETB:SP値=20.8)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM:SP値=19.7)、2,2,4−トリメチルペンタン−1,3−ジオールモノイソブチレート(テキサノール(登録商標):SP値=19.4)、エチルセロソルブ(SP値=22.1)、ブチルセロソルブ(SP値=23.2)、エチルカルビトール(SP値=20.5)、ブチルカルビトール(SP値=20.6)等のモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノフェニルエーテル(SP値=19.2)等のポリアルキレングリコール付加物等が挙げられる。中でも、得られる水性エマルジョンの造膜性の観点から、プロピレングリコール−モノ−2−エチルヘキサノエート(ワイジノールEHP01:SP値=22.5)又はジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEMB:SP値=20.4)が好ましい。
【0087】
添加剤(C)の配合量に特に制限はなく、水性エマルジョンの固形分100質量部に対して、好適には0.1〜10質量部であり、より好適には0.5〜8質量部であり、さらに好適には1.0〜7.5質量部である。添加剤(C)の配合量が0.1質量部未満の場合は、低温での造膜性が悪く皮膜が不均一になる傾向があり、一方、配合量が10質量部を超える場合は、添加剤(C)が皮膜表面へ偏析する傾向があったり、接着性が低下する傾向がある。
【0088】
[接着剤]
上記の方法で得られる本発明の水性エマルジョンは、木工用、紙加工用等の接着用途をはじめ、塗料、繊維加工等に使用でき、中でも接着用途が好適である。当該水性エマルジョンは、そのままの状態で用いることができるが、必要であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、従来公知の各種エマルジョンや、通常使用される添加剤を併用し、エマルジョン組成物とすることができる。添加剤としては、例えば、有機溶剤(トルエン、キシレン等の芳香族化合物、アルコール、ケトン、エステル、含ハロゲン系溶剤等)、架橋剤、界面活性剤、可塑剤、沈殿防止剤、増粘剤、流動性改良剤、防腐剤、消泡剤、充填剤、湿潤剤、着色剤、結合剤、保水剤等が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
上記の方法で得られる接着剤の被着体としては、紙、木材およびプラスチック等が適用できる。当該接着剤はこれらの材質のうち特に木材に好適であり、集成材、合板、化粧合板、繊維ボードなどの用途に適用することができる。
【0090】
その他、本発明の水性エマルジョンは、例えば、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等広範な用途に利用され得る。さらには、得られた水性エマルジョンを噴霧乾燥等により粉末化した、いわゆる粉末エマルジョンとしても有効に利用される。
【0091】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
【0092】
以上説明したように、本発明の水性エマルジョンは、取扱い性に優れたエチレン−ビニルアルコール共重合体を乳化重合安定剤として用いることで、凝集物の生成が少なく、耐水性及び造膜性に優れる。したがって、当該水性エマルジョンは、各種接着剤、塗料、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等に好適に用いられる。
【実施例】
【0093】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0094】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位の含有率]
エチレン−ビニルアルコール共重合体の前駆体又は再酢化物であるエチレン−ビニルエステル共重合体のH−NMRから求めた。すなわち、得られたエチレン−ビニルエステル共重合体の再沈精製をn−ヘキサンとアセトンの混合溶液を用いて3回以上行った後、80℃での減圧乾燥を3日間行って、分析用のエチレン−ビニルエステル共重合体を作製した。分析用のエチレン−ビニルエステル共重合体をDMSO−dに溶解し、80℃でH−NMR(500MHz)測定した。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(4.7〜5.2ppm)とエチレン、ビニルエステルの主鎖メチレンに由来するピーク(0.8〜1.6ppm)を用いてエチレン単位の含有率を算出した。
【0095】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粘度平均重合度]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の粘度平均重合度は、JIS K6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0096】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のけん化度]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のけん化度は、JIS K6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0097】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の水中結晶化度]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の試料を、各温度(30℃、70℃)のHO−d中に40分静置した後に、静置時の温度と同一の温度下でパルスNMR測定を行った。得られた緩和曲線の0〜0.8msの範囲を、下記式(III)にて誤差最小二乗法を用いてフィッティングした。
【0098】
【数7】
【0099】
[継粉性]
300mlセパラブルフラスコに蒸留水150mlを入れ、内温が70℃になるまで昇温した。昇温後、150rpmの攪拌下にエチレン−ビニルアルコール共重合体6gを添加した。添加直後のエチレン−ビニルアルコール共重合体粒子の状態を目視で観察し、以下のように評価した。
A:継粉にならない。
B:継粉になるが、5分間の攪拌により継粉が解消された。
C:継粉になり、5分間攪拌しても継粉は解消されなかった。
【0100】
[溶解性]
500mlセパラブルフラスコに蒸留水288gを入れ、内温が85℃になるまで昇温した。昇温後、150rpmの攪拌下にエチレン−ビニルアルコール共重合体12gを添加した。添加後30分経過した段階でエチレン−ビニルアルコール共重合体水溶液を採取した。採取した水溶液をNo.5Aのろ紙でろ過し、そのろ液を125℃、3時間乾燥することで水溶液中に溶解したエチレン−ビニルアルコール共重合体の質量A(g)を求めた。また、試料のエチレン−ビニルアルコール共重合体粒子12gを125℃、3時間乾燥することで、その不揮発分量B(g)を求めた。そして、溶解度(質量%)=A/B×100を算出した。算出した溶解度は、以下の基準に従って評価した。
A:60質量%以上
B:50質量%以上60質量%未満
C:50質量%未満
【0101】
水性エマルジョンの凝集物の生成有無、耐水接着性能、及び造膜性を以下に示す方法で評価した。
【0102】
[凝集物の生成量]
実施例及び比較例で得られた水性エマルジョン500gを60メッシュの金網にてろ過し、ろ過残分を秤量し以下の通り評価した。
A:ろ過残分が1.0質量%未満である
B:ろ過残分が1.0質量%以上2.5質量%未満である
C:ろ過残分が2.5質量%以上5.0質量%未満である
D:ろ過残分が5.0質量%以上であり、ろ過が困難
【0103】
[耐水接着性]
JIS K6852(1994年)に準拠し耐水接着性を評価した。
(接着条件)
被着材:ツガ/ツガ
塗布量:150g/m(両面塗布)
圧締条件:20℃、24時間、圧力10kg/cm
(測定条件)
20℃、65%RHの環境下で7日間養生した試験片を60℃の水に3時間浸漬した後、濡れたままの状態で測定し、接着強度(単位:kgf/cm)を測定した。
【0104】
[造膜性]
最低造膜温度(MFFT)測定装置(Rhopoint社製 MFFT−60)を用いて、0.3mm厚に流延した水性エマルジョンからなる皮膜の最低造膜温度(℃)を測定した。造膜性の評価においては、最低造膜温度(℃)が低いほど低温での造膜性に優れることを意味する。
【0105】
[製造例1]
(重合工程)
還流冷却器、原料供給ライン、反応液取出ライン、温度計、窒素導入口、エチレン導入口及び攪拌翼を備えた連続重合槽を用いた。連続重合槽に酢酸ビニル671L/hr、メタノール147L/hr、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)の1%メタノール溶液2.6L/hrを定量ポンプを用いて連続的に供給した。槽内エチレン圧力が0.23MPaになるように調整した。重合槽内の液面が一定になるように連続重合槽から重合液を連続的に取り出した。連続重合槽出口の重合率が30%になるよう調整した。連続重合槽の滞留時間は5時間であった。連続重合槽出口の温度は60℃であった。連続重合槽より重合液を回収し、回収した液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、エチレン−ビニルエステル共重合体(PVAc)のメタノール溶液(濃度32質量%)を得た。
【0106】
(けん化工程)
前記重合工程で得た、エチレン−ビニルエステル共重合体のメタノール溶液(濃度32質量%)に、けん化触媒である水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度4質量%)を、前記エチレン−ビニルエステル共重合体中の酢酸ビニルユニットに対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように添加した。エチレン−ビニルエステル共重合体溶液及びけん化触媒溶液をスタティックミキサーで混合し混合物を得た。得られた混合物のペーストをベルト上に載置し、40℃で18分保持してけん化反応を進行させた。これにより、エチレン−ビニルアルコール共重合体と溶媒とを含む固体ブロックが得られた。重合条件及びけん化条件について、表1にまとめた。
【0107】
(粉砕工程)
前記けん化工程で得られた固体ブロックを一軸せん断破砕機で粉砕してウェット粒子を得た。当該破砕機にはロックウェル硬度が45の破砕刃が装着され、破砕刃の回転数は250rpmであった。
【0108】
(脱液工程)
前記粉砕工程で得られたウェット粒子を、スクリュー排出型遠心脱液機で脱液することで、目開き5.6mmの篩を通過した粒子の割合が94質量%であり、目開き1.0mmの篩を通過した粒子の割合が1.6質量%であり、溶媒の含有率が58質量%である脱液粒子を得た。粉砕条件及び脱液条件について、表2にまとめた。
【0109】
(乾燥工程)
前記脱液工程で得られた脱液粒子600kg/hr(固形分)を粒子温度が100℃となるように乾燥機内の温度を制御した乾燥機に連続的に供給した。乾燥機内の粒子の平均滞留時間は4時間であった。
【0110】
(追加粉砕工程)
前記乾燥工程で得られた乾燥粒子をハンマーミルで追加粉砕し、目開き1.4mmのフィルターを通過させて、エチレン−ビニルアルコール共重合体1を得た。共重合体1中のエチレン単位の含有率は2モル%であり、粘度平均重合度は1700であり、けん化度は93.0モル%であった。共重合体1のCw(30℃)は9.7%であり、Cw(70℃)は2.1%であり、式(I)の値は6.9であった。また、共重合体1全体のうち、目開き2.5mmのフィルターを通過した割合は99質量%であり、目開き1.0mmのフィルターを通過した割合は94質量%であり、目開き0.15mmのフィルターを通過した割合は5質量%であった。共重合体1の重合度、けん化度、30℃および70℃の水中結晶化度、式(I)の値を上述の方法に沿って評価した結果、並びに、共重合体1の継粉性及び溶解性を上述の方法に沿って評価した結果を表3にまとめて示す。
【0111】
[製造例2〜7]
重合条件、けん化条件、粉砕条件及び脱液条件を表1及び表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法によりエチレン−ビニルアルコール共重合体(共重合体2〜7)を製造した。得られた共重合体の重合度、けん化度、30℃および70℃の水中結晶化度、式(I)の値を上述の方法に沿って評価した結果、並びに、得られた共重合体の継粉性及び溶解性を上述の方法に沿って評価した結果を表3にまとめて示す。
【0112】
【表1】
【0113】
【表2】
【0114】
【表3】
【0115】
[実施例1]
(水性エマルジョンの調製)
還流冷却器、滴下ロート、温度計、及び窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水275gを仕込み85℃に加温した。共重合体1を20.9g分散し、45分間攪拌して溶解した。さらに、酢酸ナトリウムを0.3g添加し、混合して溶解した。次に、この共重合体1が溶解した水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで攪拌しながら、60℃に昇温した後、酒石酸の20質量%水溶液2.4g及び5質量%過酸化水素水3.2gをショット添加後、酢酸ビニル27gを仕込み重合を開始した。重合開始30分後に初期重合終了(酢酸ビニルの残存量が1%未満)を確認した。酒石酸の10質量%水溶液1g及び5質量%過酸化水素水3.2gをショット添加後、酢酸ビニル251gを2時間にわたって連続的に添加し、重合温度を80℃に維持して重合を完結させ、固形分濃度49.8質量%のポリ酢酸ビニル系エマルジョンを得た。
【0116】
得られたポリ酢酸ビニル系エマルジョンの100質量部(固形分)に対してプロピレングリコール−モノ−2−エチルヘキサノエート(四日市合成株式会社製、ワイジノール(登録商標)EHP01、SP値=22.5(MPa)1/2)を5質量部添加し、混合して本発明の水性エマルジョンを得た。得られた水性エマルジョンの凝集物の生成量、耐水接着性及び造膜性を上述の方法に沿って評価した結果を表4にまとめて示す。
【0117】
(実施例2〜6及び比較例1〜4)
実施例1の共重合体1に代えて、表4に示す各種エチレン−ビニルアルコール共重合体、または無変性ポリビニルアルコール(Kuraray Poval 22−88)を用いたこと、及び添加剤(C)としてワイジノールEHP01に代えて表4に示す化合物を用いた以外は実施例1と同様にして水性エマルジョンを調製した。得られた水性エマルジョンの凝集物の生成量、耐水接着性及び造膜性を上述の方法に沿って評価した結果を表4にまとめて示す。
【0118】
(実施例7)
窒素吹き込み口、温度計、及び攪拌機を備えた5L耐圧性オートクレーブに、共重合体1を75.7g、イオン交換水を1451.2g、ロンガリットを0.85g、酢酸ナトリウムを0.5g、及び塩化第一鉄を0.04g仕込み、85℃に加温して水溶液を得た。その後、この共重合体1が溶解した水溶液を60℃に冷却し、窒素置換を行った。次に酢酸ビニル1516.1gを仕込んだ後、エチレンを4.4MPaまで加圧して導入し、4質量%過酸化水素水溶液100gを5時間かけて圧入し、60℃で乳化重合を行った。残存酢酸ビニル濃度が10%となったところで、エチレンを放出して、エチレン圧力2.0MPaとし、3質量%過酸化水素水溶液5gを圧入し、重合を完結させた。冷却後、60メッシュのステンレス製金網を用いてろ過し、固形分濃度55.3質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンを得た。当該エマルジョンにおいて、分散質である重合体の全単量体単位に対するビニルエステル(特定単位)の含有率は82質量%(エチレンの含有率は18質量%)であった。
【0119】
上記エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対し、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(DEMB、SP値=20.4(MPa)1/2)を2質量部添加し、水性エマルジョンを調製した。得られた水性エマルジョンの凝集物の生成量、耐水接着性及び造膜性を上述の方法に沿って評価した結果を表4にまとめて示す。
【0120】
(実施例8)
共重合体1に代えて共重合体2を用いたこと、及び添加剤(C)としDEMBに代えてワイジノールEHP01を用いた以外は実施例7と同様にして水性エマルジョンを得た。得られた水性エマルジョンの凝集物の生成量、耐水接着性及び造膜性を上述の方法に沿って評価した結果を表4にまとめて示す。
【0121】
【表4】
【国際調査報告】