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再表2020-213554エチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれを用いた水溶液
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  • 再表WO2020213554-エチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれを用いた水溶液 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2020年10月22日
【発行日】2021年5月6日
(54)【発明の名称】エチレン−ビニルアルコール共重合体及びそれを用いた水溶液
(51)【国際特許分類】
   C08F 216/06 20060101AFI20210409BHJP
   C09J 123/08 20060101ALI20210409BHJP
   C09J 129/06 20060101ALI20210409BHJP
【FI】
   C08F216/06
   C09J123/08
   C09J129/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】25
【出願番号】特願2020-550887(P2020-550887)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2020年4月13日
(11)【特許番号】特許第6799727号(P6799727)
(45)【特許公報発行日】2020年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2019-77378(P2019-77378)
(32)【優先日】2019年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】特許業務法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 忠仁
(72)【発明者】
【氏名】谷田 達也
【テーマコード(参考)】
4J040
4J100
【Fターム(参考)】
4J040DA031
4J040DD031
4J040GA07
4J040GA08
4J040GA13
4J040JA02
4J040JB05
4J040JB09
4J040LA01
4J040LA07
4J040MA09
4J040MB03
4J100AA02Q
4J100AG04P
4J100BA03H
4J100CA31
4J100DA01
4J100HA09
4J100HB39
4J100JA03
(57)【要約】
エチレン単位含有量が1モル%以上15モル%未満、けん化度85モル%以上99.9モル%未満、粘度平均重合度200以上3000未満であるエチレン−ビニルアルコール共重合体であって、前記共重合体が末端に下記の構造(I)を含有する分子及び構造(II)を含有する分子を含み、全単量体単位に対する、構造(I)及び構造(II)の合計含有量が0.001モル%以上0.1モル%未満であり、かつ構造(I)および構造(II)の合計に対する、構造(I)のモル比R[I/(I+II)]が下記式(1)を満たす、エチレン−ビニルアルコール共重合体とする。当該エチレン−ビニルアルコール共重合体は、水溶解性に優れるとともに、接着剤として用いた際の耐水接着性及び高速塗工性に優れる。

[式(I)中、Yは水素原子又はメチル基である。]

[式(II)中、Zは水素原子又はメチル基である。]
R<0.92−Et/100 (1)
[式(1)中、Etは前記エチレン単位含有量(モル%)である。]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位含有量が1モル%以上15モル%未満、けん化度85モル%以上99.9モル%未満、粘度平均重合度200以上3000未満であるエチレン−ビニルアルコール共重合体であって、
前記共重合体が末端に下記の構造(I)を含有する分子及び構造(II)を含有する分子を含み、全単量体単位に対する、構造(I)及び構造(II)の合計含有量が0.001モル%以上0.1モル%未満であり、かつ
構造(I)および構造(II)の合計に対する、構造(I)のモル比R[I/(I+II)]が下記式(1)を満たす、エチレン−ビニルアルコール共重合体。
【化1】
[式(I)中、Yは水素原子又はメチル基である。]
【化2】
[式(II)中、Zは水素原子又はメチル基である。]
R<0.92−Et/100 (1)
[式(1)中、Etは前記エチレン単位含有量(モル%)である。]
【請求項2】
請求項1に記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体を含む水溶液。
【請求項3】
請求項2に記載の水溶液からなる接着剤。
【請求項4】
アルコキシ基を含有するアゾニトリル系化合物を重合開始剤として用いて、エチレンとビニルエステルとを共重合してエチレン−ビニルエステル共重合体を得る共重合工程と、前記エチレン−ビニルエステル共重合体を塩基性触媒存在下でけん化してエチレン−ビニルアルコール共重合体を得るけん化工程と、得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体を有機溶媒で洗浄する洗浄工程とを含み、
前記洗浄工程において、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体を第1洗浄液で洗浄した後、含水率が第1洗浄液よりも低い第2洗浄液で洗浄する、請求項1〜3のいずれかに記載のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載の水溶液を塗工速度50〜1000m/分で基材に塗工する、塗工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶解性に優れるエチレン−ビニルアルコール共重合体、並びにそれを用いた水溶液及び接着剤に関する。また、本発明は、前記水溶液の高速での塗工方法及び前記エチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法に関する。なお、本願は2019年4月15日出願の日本国特許出願第2019−077378号の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本出願の一部をなすものとして引用する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある。)は、水溶性の合成高分子として知られており、合成繊維であるビニロンの原料、紙加工剤、繊維加工剤、接着剤、乳化重合及び懸濁重合用の安定剤、無機物のバインダー、フィルム等の用途に広く用いられている。特にPVA系の接着剤は安価であるとともに、初期タック性、平衡接着力、接着力の経時安定性等にも優れるバランスの取れた接着剤であるため、板紙、段ボール、紙管、襖、壁紙などの用途に広く使用されている。
【0003】
酢酸ビニルに対してエチレンを共重合させた後にけん化して得られるエチレン変性PVA(エチレン−ビニルアルコール共重合体)は様々な性能に優れている。例えば、特許文献1には、エチレン単位の含有率2〜19モル%、重合度200〜2000、けん化度80〜99.99モル%及びカルボキシル基とラクトン環の合計含有率0.02〜0.4モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体が記載されており、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体は各種用途へ展開されている。しかしながら、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体は疎水性のエチレン単位を含有するため、水に溶解させる際に長時間の加熱が必要であり経済性が悪く、短時間の加熱で溶解するエチレン−ビニルアルコール共重合体が求められていた。
【0004】
接着剤には、耐水接着性とともに、コストダウンや生産性を向上させるため、紙への高速塗工性が強く求められている。特許文献2には、分子中に1,2−グリコール結合を所定量含有するPVAを用いた接着剤が記載されている。しかしながら、当該接着剤は耐水接着性が不十分であった。
【0005】
特許文献3には、耐水接着性の改善を目的として、エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いた接着剤が記載されている。しかしながら、当該接着剤は、高速塗工性については不十分である場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−309607号公報
【特許文献2】特開2001−164219号公報
【特許文献3】特開2001−172593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、水溶解性に優れるとともに、接着剤として用いた際の耐水接着性及び高速塗工性に優れるエチレン−ビニルアルコール共重合体、及びその水溶液を提供することを目的とする。また、このようなエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、
[1]エチレン単位含有量が1モル%以上15モル%未満、けん化度85モル%以上99.9モル%未満、粘度平均重合度200以上3000未満であるエチレン−ビニルアルコール共重合体であって、前記共重合体が末端に下記の構造(I)を含有する分子及び構造(II)を含有する分子を含み、全単量体単位に対する、構造(I)及び構造(II)の合計含有量が0.001モル%以上0.1モル%未満であり、かつ構造(I)および構造(II)の合計に対する、構造(I)のモル比R[I/(I+II)]が下記式(1)を満たす、エチレン−ビニルアルコール共重合体;
【0009】
【化1】
【0010】
[式(I)中、Yは水素原子又はメチル基である。]
【0011】
【化2】
【0012】
[式(II)中、Zは水素原子又はメチル基である。]
R<0.92−Et/100 (1)
[式(1)中、Etは前記エチレン単位含有量(モル%)である。]
[2][1]のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を含む水溶液;
[3][2]の水溶液からなる接着剤;
[4]アルコキシ基を含有するアゾニトリル系化合物を重合開始剤として用いて、エチレンとビニルエステルとを共重合してエチレン−ビニルエステル共重合体を得る共重合工程と、前記エチレン−ビニルエステル共重合体を塩基性触媒存在下でけん化してエチレン−ビニルアルコール共重合体を得るけん化工程と、得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体を有機溶媒で洗浄する洗浄工程とを含み、前記洗浄工程において、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体を第1洗浄液で洗浄した後、含水率が第1洗浄液よりも低い第2洗浄液で洗浄する、[1]〜[3]のエチレン−ビニルアルコール共重合体の製造方法;
[5][2]の水溶液を塗工速度50〜1000m/分で基材に塗工する、塗工方法を提供することによって解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体は水溶解性に優れる。また、当該エチレン−ビニルアルコール共重合体を用いた接着剤は、耐水接着性および高速塗工性に優れる。本発明の製造方法によれば、このようなエチレン−ビニルアルコール共重合体を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例において、接着剤の評価に使用した3本ロールの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[エチレン−ビニルアルコール共重合体]
本発明のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略すことがある)における、エチレン単位の含有量が1モル%以上15モル%未満であることが重要である。エチレン単位の含有量が1モル%未満の場合、親水性が高くなりすぎて、EVOH粉末の溶解時にママコ(凝集体)が形成されて、かえって溶けにくくなったり、得られる接着剤の耐水接着性が低下したりする。一方、エチレン単位の含有量が15モル%以上の場合、疎水性が高くなりすぎて、EVOHの水溶性が低下する。エチレン単位の含有量は10モル%未満が好ましく、8モル%未満がより好ましく、5モル%未満がさらに好ましい。エチレン単位の含有量は、後記する実施例に記載の方法により測定される。
【0016】
本発明のEVOHの粘度平均重合度が200以上3000未満であることが重要である。粘度平均重合度が200未満の場合、得られる接着剤の耐水接着性が不十分となる。粘度平均重合度は400以上が好ましく、450以上がより好ましい。一方、粘度平均重合度が3000以上の場合、EVOHの水溶解性が低下するとともに、得られる水溶液の粘度が高くなり扱いにくくなる。粘度平均重合度は2800未満が好ましく、2500未満がより好ましい。粘度平均重合度はJIS K 6726:1994に準じて測定される。具体的には、粘度平均重合度は、水中、30℃で測定されたEVOHの極限粘度[η](リットル/g)を用いて下記式により求められる。なお、EVOHのけん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化した後に、極限粘度の測定が行われる。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0017】
EVOHのけん化度は、85モル%以上99.9モル%未満であることが重要である。けん化度が85モル%未満の場合、EVOHの水への溶解性が低下したり、得られる接着剤の耐水接着性が不十分となったりする。けん化度は90モル%以上が好ましい。一方、けん化度が99.9モル%以上のEVOHは生産が困難である。けん化度はJIS K 6726:1994に準じて測定される。
【0018】
本発明のEVOHが、末端に下記の構造(I)を含有する分子及び構造(II)を含有する分子を含み、全単量体単位に対する、構造(I)及び構造(II)の合計含有量が0.001モル%以上0.1モル%未満であることが重要である。当該合計含有量が0.1モル以上の場合、EVOHの水溶性が低下したり、得られる接着剤の高速塗工性や耐水接着性が低下したりする。前記合計含有量は0.07モル%以下が好ましく、0.05モル%以下がより好ましい。一方、前記合計含有量が0.001モル%以上であることにより、本発明のEVOHの生産性が向上する。構造(I)及び構造(II)の含有量は、後記する実施例に記載の方法により測定される。なお、本明細書において、EVOHにおける単量体単位とは、エチレン単位、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位、その他必要に応じて共重合される単量体単位を意味し、全単量体単位とは、各々の単量体単位のモル数の合計量を意味する。このとき、構造(I)又は構造(II)で示される末端構造を含む単位も単量体単位に含めて計算する。
【0019】
【化3】
【0020】
[式(I)中、Yは水素原子又はメチル基である。]
【0021】
【化4】
【0022】
[式(II)中、Zは水素原子又はメチル基である。]
【0023】
本発明のEVOHにおいて、構造(I)および構造(II)の合計に対する、構造(I)のモル比R[I/(I+II)]が下記式(1)を満たすことが重要である。モル比R[I/(I+II)]が大きくて下記式(1)を満たさない場合、EVOHの水溶性が低下したり、得られる接着剤の高速塗工性が低下したりする。モル比R[I/(I+II)]が下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(3)を満たすことがより好ましく、下記式(4)を満たすことがさらに好ましい。モル比R[I/(I+II)]はけん化後のEVOHの洗浄によって調整することができる。一方、モル比R[I/(I+II)]は0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましく、0.6以上が特に好ましい。これはEVOHの工業的製法上0.1未満にすることは困難であり、製造コストの増加を招くためである。耐水性を維持する観点から、モル比R[I/(I+II)]が下記式(5)を満たすことも好ましい。
R<0.92−Et/100 (1)
R<0.90−Et/100 (2)
R<0.88−Et/100 (3)
R<0.85−Et/100 (4)
R>0.65−Et/100 (5)
[式(1)〜(5)中、Etは前記エチレン単位含有量(モル%)である。]
【0024】
本発明のEVOH中の水不溶解分が10000ppm以下であることが好ましく、5000ppm以下であることがより好ましく、3000ppm以下であることがさらに好ましい。EVOH中の水不溶解分は、300回転/分で撹拌しながら、30℃の水96gにEVOHを4g加え、120分かけて90℃まで水温を上昇させた後、得られた水溶液中の不溶解分を回収してその乾燥質量を測定することにより求められる。具体的には、後述する実施例に記載された方法によりEVOH中の水不溶解分が測定される。
【0025】
本発明のEVOHが1,2−グリコール結合を含んでいてもよく、その場合のEVOH中の1,2−グリコール結合量は1.2モル%以上2.0モル%未満であることが好ましく、1.2モル%以上1.6モル%未満がより好ましい。
【0026】
本発明のEVOHの製造方法は特に限定されないが、アルコキシ基を含有するアゾニトリル系化合物を重合開始剤として用いて、エチレンとビニルエステルとを共重合してエチレン−ビニルエステル共重合体を得る共重合工程と、前記エチレン−ビニルエステル共重合体を触媒存在下でけん化してエチレン−ビニルアルコール共重合体を得るけん化工程と、得られたエチレン−ビニルアルコール共重合体を有機溶媒で洗浄する洗浄工程とを含む方法が好ましい。
【0027】
共重合工程において、ビニルエステルとエチレンを共重合させることにより、エチレン−ビニルエステル共重合体を得る。このときの重合方法として、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の従来公知の方法が採用される。工業的観点から好ましい重合方法は、溶液重合法、乳化重合法及び分散重合法である。重合操作にあたっては、回分法、半回分法及び連続法のいずれの重合方式を採用することも可能である。
【0028】
ビニルエステルとしては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、これらの中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0029】
重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲であればビニルエステル及びエチレン以外の他の単量体を共重合させても差し支えない。使用しうる単量体としては、例えばプロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;(メタ)アクリル酸及びその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、(メタ)アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N−メチロール(メタ)アクリルアミド及びその誘導体等のアクリルアミド系化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。このような他の単量体の共重合量は、通常、10モル%以下である。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称である。
【0030】
重合温度に特に限定はなく、0〜180℃程度が好ましく、室温〜160℃がより好ましく、30〜150℃がさらに好ましい。重合時に使用する溶媒の沸点以下で重合する際は減圧沸騰重合、常圧非沸騰重合のいずれも選択できる。また重合時に使用する溶媒の沸点以上で重合する際は加圧非沸騰重合、加圧沸騰重合のいずれも選択できる。
【0031】
共重合工程では、アルコキシ基を含有するアゾニトリル系化合物を重合開始剤として用いる。本発明において好適に用いられるアルコキシ基を含有するアゾニトリル系化合物としては、例えば2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−エトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などが挙げられ、中でも2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)が好ましい。これらのアルコキシ基を含有するアゾニトリル系化合物は、金属との接触による異常分解を起こしにくいうえに、低温で高い分解速度を有する。したがって、前記アゾニトリル系化合物を用いることにより、安全で効率的かつ経済的にエチレンとビニルエステルを共重合できる。具体的には、前記共重合工程において、アルコキシ基を含有するアゾニトリル系化合物を重合開始剤として用いて、溶液中でエチレンとビニルエステルとを共重合してエチレン−ビニルエステル共重合体溶液を得ることが好ましい。
【0032】
前記重合開始剤の添加量は特に限定されないが、ビニルエステル100質量部に対して、0.0001〜1質量部が好ましい。前記重合開始剤の添加量が0.0001質量部未満の場合、EVOHの生産性が低下するおそれがある。前記添加量は0.0005質量部以上がより好ましく、0.0015質量部以上がさらに好ましく、0.002質量部以上が特に好ましく、0.0025質量部以上が最も好ましい。一方、前記重合開始剤の添加量が1質量部を超える場合、得られるEVOHの水溶解性、耐水接着性および高速塗工性が低下するおそれがある。前記添加量は0.8質量部以下がより好ましく、0.6質量部以下がさらに好ましく、0.5質量部以下が特に好ましい。
【0033】
重合時における重合反応器内のエチレン圧力に限定はないが0.01〜0.9MPaが好ましく、0.05〜0.7MPaがより好ましく、0.1〜0.65MPaがさらに好ましい。重合反応器出口での重合率は特に限定されないが、10〜90%が好ましく、15〜85%がより好ましい。
【0034】
本発明の製造方法が、共重合工程の後に、得られたビニルエステル共重合体溶液中に残存しているビニルエステルモノマーを除去する工程を含むことが好ましい。このときの方法に特に制限はないが、重合液を加熱する方法、重合液を加熱しながらメタノールを連続的に加える方法、メタノール蒸気を連続的に重合液に吹き込む方法、加熱をしながらメタノール蒸気を連続的に重合液に吹き込む方法等が挙げられる。除去工程用の反応器中に連続的に重合液を添加しながらビニルエステルモノマーの除去を行ってもよいし、反応器に一括で重合液を仕込んだ後にビニルエステルモノマーの除去を行ってもよい。
【0035】
残存ビニルエステルモノマーの除去工程において、重合液を加熱する際の温度に特に制限はないが、通常10℃〜120℃である。メタノールや残存ビニルエステルモノマーの沸点付近の温度でビニルエステルモノマーの除去を行うことも好ましく、例えば残存ビニルエステルモノマーが酢酸ビニルの場合は50〜90℃程度が好ましい。
【0036】
得られたエチレン−ビニルエステル共重合体を触媒存在下でけん化する工程を行ってエチレン−ビニルアルコール共重合体を得る。エチレン−ビニルエステル共重合体のけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド等の塩基性触媒、又はp−トルエンスルホン酸等の酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。けん化反応に用いられる触媒としては、塩基性触媒が好ましい。けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよい。中でも、メタノール又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下でエチレン−ビニルエステル共重合体のけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。触媒の使用量は、エチレン−ビニルエステル共重合体中のビニルエステル単量体単位に対するモル比で0.001〜0.5が好ましい。当該モル比は、より好適には0.002以上である。一方、当該モル比は、より好適には0.4以下であり、さらに好適には0.3以下である。
【0037】
また、けん化反応時の反応液の含水率は、特に限定されないが、3.0質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましい。一方、当該含水率は、0.1質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましい。
【0038】
けん化工程の後、得られたEVOHを有機溶媒で洗浄する洗浄工程を行う。本発明者らは、鋭意検討した結果、けん化後のEVOHとともに存在するけん化触媒の残渣と水が、EVOH中の構造(I)及び構造(II)の割合に影響することを見出した。そして、けん化後のEVOHの洗浄を2段階以上で行い、各段階で洗浄液として使用する有機溶媒の含水率を調整することによって、モル比R[I/(I+II)]を調整することに成功した。モル比R[I/(I+II)]が上記式(1)を満たすことにより、EVOHの水溶性及び得られる水溶液の高速塗工性が向上する。
【0039】
洗浄液に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステルが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
洗浄工程において、けん化後のEVOHの洗浄を2段階以上で行う必要があり、2段階で行うことが好ましい。そして、第2段階で使用する第2洗浄液の含水率を第1段階で使用する第1洗浄液の含水率よりも低くすることが重要である。これにより、構造(II)の含有量は増加、構造(I)の含有量は減少するため、モル比R[I/(I+II)]が低下して、上記式(1)を満たすEVOHが容易に得られる。第2洗浄液の含水率に対する第1洗浄液の含水率の比(第1/第2)は1.1以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、3.0以上が特に好ましい。一方、前記比(第1/第2)は、通常500未満であり、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、20以下がさらに好ましい。
【0041】
第1洗浄液の含水率としては、0.2質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上がさらに好ましい。上限に制限はないが、通常、第1洗浄液の含水率は5質量%未満であり、3質量%未満が好ましい。前記含水率が5質量%以上の場合、EVOHが洗浄液中に溶出したり、乾燥工程においてEVOHが融着したりする場合がある。
【0042】
EVOHの製造工程で発生するメタノールや酢酸メチルなどの溶媒を蒸留したものを洗浄液として再使用することが一般的であるが、蒸留により得られた溶媒の含水率は0.2%未満の場合も多い。その場合には、意図的に水を溶媒に添加して含水率を調整しても構わない。
【0043】
第2洗浄液の含水率としては、特に制限はないが第1洗浄液の水分量との関係から1質量%未満が好ましく、0.5質量%未満がより好ましく、0.3質量%未満がさらに好ましい。下限に制限はないが、通常、第2洗浄液の含水率は0.01質量%以上である。含水率が0.01質量%未満の洗浄液は製造が困難である。
【0044】
洗浄工程で使用される洗浄液温度に制限はないが20〜60℃であることが好ましく、30〜55℃がより好ましく、35〜50℃であることがさらに好ましい。
【0045】
洗浄時間に制限はないが、各段階における平均滞留時間として、それぞれ3〜120分であることが好ましく、5〜90分であることがより好ましく、10〜75分であることがさらに好ましい。
【0046】
(水溶液)
上述した本発明のEVOHを含有する水溶液が当該EVOHの好適な実施態様である。本発明のEVOHは水溶性が高いため、水溶液を簡便に製造することができる。当該水溶液は、接着剤、分散安定剤、被覆剤、バインダー、紙加工剤、粘度調整剤、フィルム等の成形物原料、樹脂・後反応用原料など様々な用途に用いられる。中でも、前記水溶液からなる接着剤が本発明のより好適な実施態様である。
【0047】
前記水溶液中の水及び有機溶媒以外の成分(固形分)の含有量は、1〜50質量%であることが好ましい。前記含有量は3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。一方、前記含有量は45質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
【0048】
前記水溶液が、さらに無機充填物を含有することが好ましい。当該無機充填剤としては、後述する接着剤に用いられるものが挙げられる。前記無機充填剤の含有量は、前記EVOH100質量部に対して、20〜500質量部が好ましい。前記含有量は、より好適には50質量部以上である。一方、前記含有量は、より好適には300質量部以下である。
【0049】
前記水溶液が、さらに後述する共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物を含有することが好ましい。当該化合物の含有量は、前記EVOH100質量部に対して0.000001〜0.01質量部が好ましい。当該含有量は、より好適には0.000002質量部以上であり、さらに好適には0.000003質量部以上である。一方、前記含有量はより好適には0.0075質量部以下であり、さらに好適には0.005質量部以下であり、特に好適には0.0025質量部以下である。
【0050】
前記水溶液が、前記EVOH、後述する共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物、前記無機充填剤、水及び有機溶媒以外の他の添加剤をさらに含有してもよい。他の添加剤としては、後述する接着剤に用いられるものが挙げられる。他の添加剤の合計含有量は、前記EVOH100質量部に対して100質量部以下が好適であり、より好適には50質量部以下であり、さらに好適には25質量部以下であり、特に好適には10質量部以下である。
【0051】
また、本発明の水溶液を凍結防止剤や接着剤として用いた場合に形成されるEVOHを含む層に柔軟性を付与するために、当該水溶液にメタノール、エチレングリコール、グリセリンなどのアルコール、セロソルブなどの水溶性の有機溶媒が含まれていても構わない。当該有機溶媒の含有量は、水100質量部に対して、好適には100質量部以下であり、より好適には50質量部以下であり、さらに好適には10質量部以下である。
【0052】
前記水溶液の製造方法は特に限定されず、例えば、前記EVOHを水に溶解させることにより得ることができる。具体的には、前記EVOH、必要に応じて後述する共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物、無機充填剤又はその他の添加剤を水に添加してから、前記EVOHを溶解させて得られる。前記水溶液を製造するに際して、バッチ方式と連続方式のどちらも採用できる。共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物、無機充填剤又はその他の添加剤を添加する場合、(i)EVOHと、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物、無機充填剤又は他の添加剤を予め混合した後、得られた混合物を水に添加してもよいし、(ii)EVOHと、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物、無機充填剤又は他の添加剤を水に逐次添加してもよい。各成分を水に添加する際、水を撹拌していることが好ましい。前記EVOH、必要に応じて共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物、無機充填剤又はその他の添加剤を水に添加して得られたスラリーを加熱することにより、前記EVOHを溶解させる。このとき、蒸気を直接吹き込む加熱方式やジャケットによる間接加熱方式などの任意の加熱方式が採用される。
【0053】
本発明の水溶液は、ジャンピングや泡のかみ込みが生じにくく、均一に流延することができ、しかも糸曳きが少ないため、高速塗工性に優れるとともに、耐水接着性にも優れる。したがって、従来PVA水溶液が使用されていた公知の用途に好適に使用できる。例えば、前記水溶液は、板紙、段ボール、紙管、襖、壁紙などの紙用接着剤などとして好適に用いられる。前記水溶液を基材に塗布する方法が当該水溶液の好適な実施態様である。このとき、塗工速度50〜1000m/分であることが好ましい。
【0054】
(接着剤)
本発明のEVOHを含有する前記水溶液からなる接着剤が本発明のさらに好適な実施態様である。前記接着剤がさらに無機充填剤を含有することが好ましい。当該無機充填剤の種類は特に限定されるものではなく、被着体、塗工機、要求性能などに応じて適宜選択される。前記無機充填剤として、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフェライト及びセリサイトなどのクレー、重質、軽質、または表面処理された炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、石膏類、タルク、酸化チタン等が挙げられる。中でもクレーが好ましい。これらの無機充填剤は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記無機充填剤が水溶液中で凝集したり沈降したりすることなく均一なスラリー溶液が得られる点から、前記無機充填剤の平均粒径は好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、さらに好ましくは5μm以下である。
【0055】
前記水溶液中の無機充填剤の含有量は、前記EVOH100質量部に対して、20〜500質量部が好適である。前記無機充填剤の含有量が20質量部未満である場合には、初期接着力の発現が遅くなるおそれがある。また、平衡接着力、せん断応力又は耐クリープ性が低下するおそれもある。前記含有量は50質量部以上がより好適である。一方、前記無機充填剤の含有量が500質量部を越える場合には、接着剤の流動性が悪化したり、水溶液中に無機充填剤が沈降し易くなったり、接着力が低下したりするおそれがある。前記含有量は300質量部以下がより好適である。
【0056】
また、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、前記接着剤が、前記EVOH、後述する共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物、前記無機充填剤、水及び有機溶媒以外の他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤として、例えば、ポリリン酸ソーダやヘキサメタリン酸ソーダなどのリン酸化合物の金属塩や水ガラスなどの無機物の分散剤;ポリアクリル酸およびその塩;アルギン酸ソーダ;α−オレフィン−無水マレイン酸共重合物などのアニオン性高分子化合物とその金属塩;高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体などのノニオン界面活性剤などが挙げられる。これらを添加することにより、接着剤の流動性が向上する。また、必要に応じて、他の添加剤として、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレンオキサイド、消泡剤、防腐剤、防黴剤、着色顔料、消臭剤、香料なども添加できる。また、接着力をさらに向上させるために、硼酸;硼砂;グリセリンやエチレングリコールなどの多価アルコールの硼酸エステルなどの水溶性硼素化合物を添加できる。さらに、他の添加剤として、澱粉、カゼイン、ゼラチン、グアーガム、アラビアガム、アルギン酸ソーダ類などの天然糊剤;CMC、酸化澱粉、メチルセルロースなどの加工天然糊剤、アクリルエマルジョン、ポリ酢酸ビニルエマルジョン、エチレン−酢酸ビニル共重合体エマルジョン、SBRラテックスなどの合成樹脂系エマルジョン;各種ゴムラテックスなども添加できる。さらに、本発明の効果を損なわない範囲であれば、他の添加剤として、公知のPVAを併用しても差し支えない。他の添加剤の合計含有量は、前記EVOH100質量部に対して100質量部以下が好適であり、より好適には50質量部以下であり、さらに好適には25質量部以下であり、特に好適には10質量部以下である。
【0057】
本発明の接着剤の粘度は用途に応じて調整すればよいが、B型粘度(30rpm、20℃)が、通常、100〜8000mPa・sである。
【0058】
(共役二重結合を有する化合物)
前記EVOHに対して共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物を添加することが、高速塗工性向上の観点から好ましく、前記EVOHと共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物を含有するEVOH組成物も本発明の好適な実施態様である。高速塗工性が向上するメカニズムは定かではないが、極性溶媒中において共役二重結合部位がEVOHのエチレンユニットと相互作用することで、EVOH同士の分子間相互作用を適度に阻害することに起因すると推定される。
【0059】
本発明において共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物とは、脂肪族二重結合同士の共役二重結合を有する化合物、又は脂肪族二重結合と芳香環との共役二重結合を有する化合物を意味する。高速塗工性や耐水接着性の向上効果がより高い点から、前者が好ましい。また、分子量は1000以下であり、800以下が好ましく、500以下がより好ましい。
【0060】
脂肪族二重結合同士の共役二重結合を有する化合物は、炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合とが交互に繋がってなる構造を有するものであって、炭素−炭素二重結合の数が2個以上である、共役二重結合を有する化合物である。具体的には、2個の炭素−炭素二重結合、1個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる共役構造を有する共役ジエン化合物、3個の炭素−炭素二重結合、2個の炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる共役構造を有する共役トリエン化合物(例えば、2,4,6−オクタトリエン)、及びそれ以上の数の炭素−炭素二重結合と炭素−炭素単結合が交互に繋がってなる共役構造を有する共役ポリエン化合物等が挙げられる。中でも、高速塗工性や耐水接着性の向上効果がより高い点から、共役ジエン化合物が好ましい。本発明で用いられる共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物には、共役二重結合が1分子中に独立して複数組あってもよく、例えば、桐油のように共役トリエンを同一分子内に3個有する化合物も含まれる。
【0061】
共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物は、共役二重結合以外の他の官能基を有していてもよい。他の官能基としては、例えばカルボキシ基及びその塩、水酸基、エステル基、カルボニル基、エーテル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、イミノ基、アミド基、シアノ基、ジアゾ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホン基、スルホキシド基、スルフィド基、チオール基、スルホン酸基及びその塩、リン酸基及びその塩、ハロゲン原子等の極性基やフェニル基等の非極性基が挙げられる。高速塗工性や耐水接着性の向上効果がより高い点から、他の官能基として、極性基が好ましく、カルボキシ基及びその塩、並びに水酸基がより好ましい。他の官能基は、共役二重結合中の炭素原子に直接結合していてもよいし、共役二重結合から離れた位置に結合していてもよい。他の官能基中の多重結合は前記共役二重結合と共役可能な位置にあってもよく、例えば、フェニル基を有する1−フェニル−1,3−ブタジエンやカルボキシ基を有するソルビン酸等も前記共役二重結合を有する化合物として用いられる。また、前記共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物は、非共役二重結合や非共役三重結合を有してもてよい。
【0062】
前記共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物として、具体的には、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン、1−フェニル−1,3−ブタジエン、ソルビン酸、ミルセン等の脂肪族二重結合同士の共役二重結合を有する化合物や2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、α-メチルスチレン重合体、1,3−ジフェニル−1−ブテン等の脂肪族二重結合と芳香環との共役二重結合を有する化合物が挙げられる。
【0063】
前記EVOH組成物中の、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物の含有量は、前記EVOH100質量部に対して0.000001〜0.01質量部が好ましい。当該含有量は、より好適には0.000002質量部以上であり、さらに好適には0.000003質量部以上である。一方、前記含有量はより好適には0.0075質量部以下であり、さらに好適には0.005質量部以下であり、特に好適には0.0025質量部以下である。
【0064】
本発明において、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物の添加方法は特に限定されない。例えば、1)得られたエチレン−ビニルエステル共重合体に前記化合物を添加した後にけん化する方法、2)エチレン−ビニルエステル共重合体をけん化する際に前記化合物を添加する方法、3)EVOHに対して、前記化合物を含む液を噴霧する方法、4)EVOHを前記化合物を含む液に含侵した後、乾燥させる方法、5)EVOH及び上記化合物を含有する水溶液を調製した後乾燥させる方法、6)EVOH及び上記化合物を含有する水溶液を調製し、該水溶液を各種用途に使用する方法、などが挙げられる。この中でも上記化合物の含有量を調整しやすい観点から、6)の方法が好ましい。
【0065】
(用途)
本発明のEVOHは種々の用途に使用される。以下にその例を挙げるがこれに限定されるものではない。
(1)接着剤用途:接着剤、粘着剤、再湿接着剤、各種バインダー、セメントやモルタル用添加剤
(2)分散剤用途:塗料、接着剤等の有機・無機顔料の分散安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等の各種ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤及び分散助剤
(3)被覆剤用途:紙のコーティング剤、サイズ剤、繊維加工剤、皮革仕上剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤、医薬被覆剤
(4)乳化剤用途:乳化重合用乳化剤、ビチュメン等の後乳化剤
(5)凝集剤用途:水中懸濁物及び溶存物の凝集剤、金属凝集剤
(6)成形物用途:繊維、フィルム、シート、パイプ、チューブ、防漏膜、ケミカルレース用水溶性繊維、スポンジ
(7)フィルム用途:水溶性フィルム、偏光フィルム、バリアフィルム
(8)ゲル用途:医薬用ゲル、工業用ゲル
(9)後反応用途:低分子有機化合物、高分子有機化合物、無機化合物との後反応用途
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合、「部」及び「%」はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
【0067】
[EVOHのエチレン単位の含有量]
EVOHのエチレン単位の含有量は、EVOHの前駆体であるエチレン−ビニルエステル共重合体のH−NMRから求めた。具体的には、実施例及び比較例のエチレン−ビニルエステル共重合体の再沈精製をn−ヘキサンとアセトンの混合溶液を用いて3回以上行った後、80℃で3日間減圧乾燥して分析用の試料を作製した。当該試料をDMSO−dに溶解し、80℃でH−NMR(500MHz)測定した。ビニルエステルの主鎖メチンに由来するピーク(積分値P)(4.7〜5.2ppm)とエチレン及びビニルエステルの主鎖メチレンに由来するピーク(積分値Q)(0.8〜1.6ppm)を用い次式によりエチレン単位の含有量を算出した。
【0068】
【数1】
【0069】
[EVOHの粘度平均重合度]
EVOHの粘度平均重合度はJIS K 6726:1994に準じて測定した。具体的には、水中、30℃でEVOHの極限粘度[η](リットル/g)測定した後、下記式により粘度平均重合度を求めた。なお、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでEVOHをけん化した後、当該EVOHを極限粘度[η](リットル/g)測定に供した。
P=([η]×10/8.29)(1/0.62)
【0070】
[EVOHのけん化度]
EVOHのけん化度は、JIS K 6726:1994に記載の方法により求めた。
【0071】
[構造(I)、(II)の含有量]
EVOHをDMSO−dに溶解し、500MHzのH−NMRを用いて45℃で測定し、エチレン単位、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位のピーク強度と構造(I)、(II)が有するメトキシ基のメチル水素またはエトキシ基のメチレン水素のピーク強度比より構造(I)、(II)の含有量を求めた。なお、構造(I)が有するメトキシ基のメチル水素またはエトキシ基のメチレン水素のピーク、及び構造(II)が有するメトキシ基のメチル水素またはエトキシ基のメチレン水素のピークは、それぞれ3.07ppm、3.09ppm付近に検出された。
【0072】
[EVOHの水不溶解分]
300回転/分で撹拌しながら、30℃の水96gにEVOHを4g加え、120分かけて90℃まで水温を上昇させた。200メッシュ(JIS標準篩のメッシュ換算では、目開き75μm;前記篩の目開きは、JIS Z 8801−1−2006の公称目開きWに準拠)の金網で得られた水溶液を全量ろ過し、金網ごと105℃3時間乾燥させ絶乾させた。ろ過前の金網の質量a(g)と絶乾後の金網の質量b(g)を下記式に代入してEVOH中の水不溶解分量(ppm)を求めた。
水不溶解分(ppm)=1000000×{(b−a)/4}
【0073】
[高速塗工性]
3本ロールを用いて以下の実施例及び比較例により得られた接着剤を評価した。このとき使用した3本ロールを図1に示す。各ロールの表面温度を30℃に調整した。ロール[II]とロール[III]の間に調整した接着剤[IV]を加えて、ロール[I]を表面速度100m/分で回転させることにより、次の各項目を評価した。
(1)ジャンピング
ロール[I]とロール[II]の間から接着剤の液滴が飛び出すかどうかを目視にて下記の基準で判定した。
A:全く液滴が飛び出さなかった
B:少数の液滴が飛び出した
C:多数の液滴が飛び出した
(2)ロール転写
ロール[I]へ接着剤が均一にのるかどうかを目視で判定した。
A:均一
B:不均一
(3)発泡
3本ロールを5分間回転させた。ロールを回転させる前の接着剤[IV]100mlの質量に対する、ロールを回転させた後の接着剤[IV]100mlの質量の比(回転後の質量/回転前の質量)から接着剤[IV]の泡のかみ込みを評価した。
(4)糸曳き
ロール[I]とロール[II]の間の接着剤の糸曳きを目視にて確認した。
A:糸曳きの発生が確認されなかった
B:糸曳きが発生しているのが確認された
【0074】
[耐水接着性]
以下の実施例及び比較例により得られた接着剤を、ギャップが50μmのバードフィルムアプリケーターを用いてクラフト紙に塗工した後、直ちにクラフト紙同士を張り合わせて、20℃、65%RHの条件下で24時間養生した。張り合わされたクラフト紙を20℃の水に24時間浸漬させた。浸漬後に接着部分を剥離し、その状況から耐水接着性を以下の基準で判定した。
A:接着部分全体においてクラフト紙同士が剥離せず、クラフト紙自体が破断した
B:接着部分の一部においてクラフト紙同士が剥離せず、クラフト紙自体が破断した
【0075】
使用した無機充填剤を以下に示す。
無機充填剤1:エンゲルハルト社製カオリナイト系クレー「ASP−200」(平均粒径0.55μm)
無機充填剤2:ヒューバー社製カオリナイト系クレー「Huber−900」(平均粒径0.6μm)
無機充填剤3:白石工業社製重質炭酸カルシウム「ホワイトンP−30」(平均粒径1.75μm)
【0076】
実施例1
還流冷却器、原料供給ライン、反応液取出ライン、温度計、窒素導入口、エチレン導入口及び撹拌翼を備えた連続重合槽を用いた。連続重合槽に酢酸ビニル671L/hr、メタノール147L/hr、開始剤として2,2′−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)の1%メタノール溶液1L/hrを定量ポンプを用いて連続的に供給した。重合槽内のエチレン圧力が0.23MPaになるように調整した。重合槽内の液面が一定になるように連続重合槽から重合液を連続的に取り出した。連続重合槽出口の重合率が30%になるように調整した。連続重合槽の滞留時間は5時間であった。連続重合槽出口の温度は60℃であった。連続重合槽より重合液を回収し、水浴で75℃に加熱しながら回収した液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニルモノマーの除去を行い、エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、「EVAc」と略記することがある)のメタノール溶液(濃度32%)を得た。未反応モノマーの除去工程での平均滞留時間は2時間、得られたエチレン−ビニルエステル共重合体のメタノール溶液中の残存酢酸ビニルモノマー(以下、「VAc」と略記することがある)は0.1%であった。
【0077】
次いでけん化触媒として水酸化ナトリウムを、EVAc中の酢酸ビニル単量体単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.012となるように、エチレン−ビニルエステル共重合体のメタノール溶液に添加するとともに、当該メタノール溶液の含水率を0.5%に調整して、40℃にて1時間けん化反応を行った。得られたEVOHを0.7%の含水率に調整した40℃のメタノール(第1洗浄液)に40分浸漬して第1段階の洗浄を行った。このとき、EVOHの濃度(スラリー濃度)が15%となるように各成分の添加量を調整した。次いで溶媒を遠心分離で除去した後、0.1%の含水率に調整したメタノール(第2洗浄液)を用いたこと以外は、第1段階と同様にしてEVOHの第2段階の洗浄を行った。次いで溶媒を遠心分離で除去したのち乾燥を行い、エチレン単位の含有量2モル%、粘度平均重合度1700、けん化度98.5モル%、構造(I)の含有量0.00114モル%、構造(II)の含有量0.0002モル%であるEVOH1を得た。EVOH1中の水不溶解分は150ppmであった。これらの結果を表1及び2にも示す。
【0078】
得られたEVOH1の粉体(32質量部)と無機充填剤1(68質量部)を十分にドライブレンドした後、撹拌している水(331質量部、20℃)に投入した。さらに、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(DPMP)を、100質量部のEVOH1に対して、0.004質量部となるように水に投入し、95℃まで加熱した後、2時間保温してEVOH(A1)を溶解させた。こうして得られたEVOH1の水溶液の固形分濃度は23.2%であり、20℃、30rpmでの粘度は1240mPa・sであった。当該水溶液を接着剤として用いて、高速塗工性及び耐水接着性を上述の方法に従って評価した。結果を表3に示す。
【0079】
実施例2〜8、比較例1〜6
エチレン圧、酢酸ビニルの使用量、メタノールの使用量、開始剤の使用量および濃度、重合率等の重合条件、EVAcの濃度、エチレン−ビニルエステル共重合体に対するNaOHのモル比等のけん化条件及び洗浄液の含水率等の洗浄条件を変えたこと以外は製造例1と同様にしてEVOH2〜EVOH14を製造した。製造条件を表1に、製造されたEVOHの組成、水不溶解分等を表2に示す。
【0080】
使用するEVOH種類、無機充填剤の種類、共役二重結合を有する分子量1000以下の化合物の種類及びその含有量、並びに固形分濃度を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして接着剤の製造及び評価を行った。結果を表3に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
比較例1で得られたEVOH9は、けん化度が低すぎるため水に不溶であり、水不溶解分量を測定できなかった。比較例2で得られたEVOH10は、重合度が高すぎるため、水不溶解分が多く、溶解性に劣っていた。比較例3で得られたEVOH11は、モル比R[I/(I+II)]が高すぎて式(1)を満たさないため、水不溶解分が多く、溶解性に劣っていた。比較例4で得られたEVOH12は、エチレン含有量が多すぎるため、水に不溶であり、水不溶解分量を測定できなかった。比較例5で得られたEVOH13は、構造(I)の含有量が多すぎるため、水不溶解分が多く、溶解性に劣っていた。比較例6で得られたEVOH14は、モル比R[I/(I+II)]が高すぎて式(1)を満たさないため、水不溶解分が多く、溶解性に劣っていた。
【0084】
【表3】
【0085】
比較例1で得られたEVOH9は、けん化度が低すぎるため水に不溶であり、水溶液が得られず、接着剤としての評価ができなかった。比較例2で得られた重合度が高いEVOH10を用いた場合、接着剤がロールへ均一に転写されず、接着剤の糸曳きが多数発生し、泡のかみ込みが発生し、高速塗工性が不十分であった。比較例3で得られた、モル比R[I/(I+II)]が高すぎて式(1)を満たさないEVOH11を用いた場合、ロール間から接着剤の液滴の飛び出し(ジャンピング)が多数発生し、接着剤の糸曳きが多数発生し、接着剤の泡のかみ込みも激しく、高速塗工性が不十分であった。比較例4で得られたEVOH12は、エチレン含有量が多すぎるため、水に不溶で水溶液が得られず、接着剤としての評価ができなかった。比較例5で得られた、構造(I)の含有量が多いEVOH13を用いた場合、接着剤の糸曳きが多数発生し、接着剤溶液の泡のかみ込みが激しく、高速塗工性が不十分であり、耐水接着性も不十分であった。比較例6で得られた、モル比R[I/(I+II)]が高すぎて式(1)を満たさないEVOH14を用いた場合、ロール間から接着剤の液滴の飛び出し(ジャンピング)が発生し、接着剤の糸曳きが多数発生し、接着剤溶液の泡のかみ込みも激しく、高速塗工性が不十分であった。
【0086】
実施例において示されているように、本発明のEVOHは、水溶解性に優れる。また、本発明のEVOHを含む水溶液からなる接着剤は、高速塗工性及び耐水接着性に優れる。従って、本発明の工業的な有用性はきわめて高い。

図1
【国際調査報告】