特表2015-523442(P2015-523442A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッドの特許一覧
<>
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000004
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000005
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000006
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000007
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000008
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000009
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000010
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000011
  • 特表2015523442-物の表面潤滑剤 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2015-523442(P2015-523442A)
(43)【公表日】2015年8月13日
(54)【発明の名称】物の表面潤滑剤
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/28 20060101AFI20150717BHJP
   C10M 101/02 20060101ALI20150717BHJP
   C10M 101/04 20060101ALI20150717BHJP
   C10M 105/38 20060101ALI20150717BHJP
   C10M 145/14 20060101ALI20150717BHJP
   G04B 31/08 20060101ALI20150717BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20150717BHJP
   C10N 40/06 20060101ALN20150717BHJP
【FI】
   C10M107/28
   C10M101/02
   C10M101/04
   C10M105/38
   C10M145/14
   G04B31/08 A
   C10N30:06
   C10N40:06
【審査請求】有
【予備審査請求】有
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-520862(P2015-520862)
(86)(22)【出願日】2013年6月4日
(85)【翻訳文提出日】2015年1月9日
(86)【国際出願番号】EP2013061436
(87)【国際公開番号】WO2014009059
(87)【国際公開日】20140116
(31)【優先権主張番号】12175787.6
(32)【優先日】2012年7月10日
(33)【優先権主張国】EP
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】リシャール,ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ルトンドール,クリストフ
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB34A
4H104CB08A
4H104CB08C
4H104DA02A
4H104DA05A
4H104DA06A
4H104EB02
4H104LA03
4H104PA04
4H104PA50
4H104QA13
4H104QA23
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1つの表面を有する基質を有する物であって、少なくとも1つの表面の少なくとも一部は、当該物の表面潤滑剤で被覆されており、表面潤滑剤は、一般式(1)
A−F (1)
の分子を一又は複数含有し、ここで、Aは、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた部分を有するアンカー基であり、Fは、骨格及び少なくとも2つの側基を有する分枝高分子を有する官能基であって、側基の少なくとも1つは、置換されていないC4−20の炭化水素基又は置換されたC4−20の炭化水素基であり、表面潤滑剤は、トラップされた溶剤によって膨張している。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの表面を有する基質を有する物であって、
前記表面の少なくとも一部は、当該物の表面潤滑剤で被覆されており、前記表面潤滑剤は、一般式(1)
A−F (1)
の分子を一又は複数含有し、ここで、
Aは、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた部分を有するアンカー基であり、
Fは、骨格及び少なくとも2つの側基を有する分枝高分子を有する官能基であって、前記側基の少なくとも1つは、C1−20の炭化水素基又は過ハロゲン化されたC1−20の炭化水素基であり、
前記表面潤滑剤は、トラップされた溶剤によって膨張している
ことを特徴とする物。
【請求項2】
前記側基の少なくとも1つ、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくはすべてが、C1−20の炭化水素基であって、好ましくはC2−18の炭化水素基であって、より好ましくはC4−17の炭化水素基であって、さらにより好ましくはC6−16の炭化水素基であって、最も好ましくはC8−14の炭化水素基である
ことを特徴とする請求項1に記載の物。
【請求項3】
前記炭化水素基は、アルキルエステル基であって、好ましくは直鎖状のアルキルエステル基である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の物。
【請求項4】
前記炭化水素基は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香環に付いた少なくとも1つのアルキル基を有するスチレン誘導体、及びこれらの任意の2以上の組み合わせからなる群から選ばれる基である
ことを特徴とする請求項3に記載の物。
【請求項5】
前記分枝高分子は、前記側基を50〜500、好ましくは100〜450、より好ましくは150〜400、さらに好ましくは200〜350、最も好ましくは220〜300有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の物。
【請求項6】
前記分枝高分子は、耐摩耗性を改善するように、高分子ブラシの乾燥厚みが50〜2000nm、好ましくは200〜1000nmである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の物。
【請求項7】
前記側基のすべては、同じ又は異なるC6−20の炭化水素基、好ましくは、C8−18の炭化水素基、より好ましくはC10−16の炭化水素基、最も好ましくはC11−14の炭化水素基である
ことを特徴とする請求項6に記載の物。
【請求項8】
前記側基の少なくとも1つは、一般式(1)で表される前記表面潤滑剤の別の分子と交さ結合することができる少なくとも1つの官能基を有し、
前記分枝高分子は、側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有するブロックを少なくとも1つ有し、
これらの側基の少なくとも2つはそれぞれ、一般式(1)で表される前記表面潤滑剤の別の分子と交さ結合することができる官能基を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の物。
【請求項9】
前記分枝高分子は、側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有する更なるブロックを少なくとも1つ有し、
この少なくとも1つの更なるブロックのすべての側基は、前記分枝高分子の別の分子と交さ結合することができる官能基を有さず、
前記分枝高分子において、より好ましくは、前記更なるブロックを2つ有し、そのそれぞれが側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有し、
これらの更なるブロックのすべての側基は、前記分枝高分子の別の分子と交さ結合することができる官能基を有さず、
前記側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有するブロックにおいて、これらの側基の少なくとも2つはそれぞれ、一般式(1)で表される前記表面潤滑剤の別の分子と交さ結合することができる官能基を少なくとも1つ有し、前記2つの更なるブロックの間で当該ブロックが構成する
ことを特徴とする請求項8に記載の物。
【請求項10】
前記表面潤滑剤で被覆されている前記表面は、ケイ素、ダイヤモンド状炭素、炭化ケイ素、サファイア、鋼、金属被覆鋼及びニッケルめっき鋼、ルビー、酸化アルミニウム、酸化鉄、マグネシウム合金、酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化チタン、高分子及びこれら物質の任意の2以上の組み合わせからなる群から選ばれた物質でできている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の物。
【請求項11】
前記トラップされた溶剤は、イオン性液体、鉱油、植物油、動物性油、合成油、脂肪、ワックス、多価アルコールエステル、中性油、ワセリン、又はこれら物質の任意の2以上の組み合わせを含有する
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の物を生産する方法であって、
a)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
b)水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1つのアンカー基を前記基質の前記表面の少なくとも1つに結合させるステップと、
c)少なくとも1種類のモノマーを用意するステップと、
d)前記少なくとも1種類のモノマーを前記少なくとも1つのアンカー基にグラフト重合させて、前記アンカー基に共有結合で結合する少なくとも1つの分枝高分子を形成するステップと、及び
e)溶剤をトラップすることによって前記分枝高分子を膨張させるステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の物を生産する方法であって、
c’)少なくとも1種類のモノマーを用意するステップと、
d’)前記モノマーを、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた前記少なくとも1つのアンカー基にグラフト重合させて、前記アンカー基に共有結合で結合する少なくとも1つの分枝高分子を形成するステップと、
a’)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
b’)前記アンカー基を前記基質の前記少なくとも1つの表面の少なくとも1つに結合させるステップと、及び
e)溶剤をトラップすることによって前記分枝高分子を膨張させるステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の物を生産する方法であって、
d’)少なくとも1つの分枝高分子を形成するように、前記少なくとも1つの種類のモノマーをグラフト重合させるステップと、
a)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
b)水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1つのアンカー基を前記基質の前記表面の少なくとも1つに結合させるステップと、
f)前記アンカー基を前記少なくとも1つの分枝高分子と結合させるステップと、及び
e)溶剤をトラップすることによって前記分枝高分子を膨張させるステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の物を有することを特徴とする計時器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質に関し、特に、物のトライポロジー的表面特性の改質のような物の表面改質用の物質に関する。また、本発明は、このような物質で表面が被覆された物に対するこのような物質の使用、このような物を生産する方法、及びこのような物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腕時計用ムーブメントにおける古典的な潤滑においては、粘性が十分にある潤滑剤を使用して、表面の粗さをなくすことによって表面の摩耗を防いでいる。しかし、粘性が高い潤滑剤は、剪断率及びエネルギー損失が高いことをも意味する。このことは、約0.1〜0.15の「大きな」摩擦係数をもたらす。結果的に、妥協点を探る必要がある。また、潤滑剤の粘性がどれくらいであっても、低速及び/又は高負荷において、表面の分離が壊れ、粗さどうしが接触することになる。この場合、摩擦係数が劇的に増加し(0.15〜0.3)、摩耗が発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
結果的に、本発明の基礎となる目的は、潤滑剤と基質の間の分離の結果を得ることである。これらはともに、固有なトライポロジー的システムとして考えられていない。
【0004】
適切な表面の官能化を使用することによって、基質と潤滑剤の間のより良い結合をもたらすことができる。これによって、このようなシステムのトライポロジー的特性を改善することができる。
【0005】
このように、本発明は、物の表面の潤滑に、すなわち、物のトライポロジー的表面特性の改質に適した改善された物質であって、当該物質の分子の均一性が改善された被覆層を表面に形成すること、当該物質の分子の密度が改善された被覆層を形成すること、厚みがより大きい被覆層を形成すること、美的性質が改善された被覆層を形成すること、及び/又は潤滑度合いが改善された被覆層を形成することの少なくとも1つを達成することができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、この目的は、一般式(1)
A−F (1)
の分子を一又は複数有する物質を提供することによって達成される。ここで、Aは、シラン基、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた部分を有するアンカー基であり、Fは、骨格及び少なくとも2つの側基を有する分枝高分子を有する官能基であって、前記側基の少なくとも1つは、C1−20の炭化水素基又はペルハロゲン化されたC1−20の炭化水素基である。
【0007】
この手法は、このような物質が、そのアンカー基及び高分子の分枝基に起因して、物の表面に対して大きな分子密度で堅固に均一に結合するという驚くべき発見に基づいている。したがって、前記物質は機械的に傷が付きにくくし、浄化に多く耐えることができる。
【0008】
また、本発明に係る物質は、その性質を容易に最適化することができる。例えば、表面物質への接着性を最適化できる。なぜなら、そのために、官能基の性質に依存せずにアンカー基を選ぶことができるからである。
【0009】
それとは別に、当該物質の物の表面に対する堅固な結合に起因して、改質された物の表面は、クリーニングに対して優れた耐性を有する。また、表面上のこのような物質の層は、優れた美的性質を有する。最後に、このような物質を容易に最適化することができ、潤滑剤が中に入り、当該物質を膨張させることが可能になる。これによって、物の表面の潤滑性能を改善させることができる。
【0010】
いずれの理論にも拘束されることを望まずに考えてみると、前記の優れた表面特性は、物の表面に対する本発明に係る物質の分子のパッキングが改善したこと、及び分枝高分子を有する官能基を有する物質を使用することによって達成される炭素原子の密度の増加が貢献していたことを考えられる。実際に、分子のパッキングを正確に制御することができ、付随的に、分枝高分子の厚みを信頼性があるように作ることができる。また、分枝高分子は、局所的な官能化がされた複数のモノマーの使用を可能としている。すなわち、選択的なUV露出によって、重合が所定箇所においてのみ発生しうる。最後に、分枝高分子は、別の分子との交さ結合を高度に調整することを可能にする。
【0011】
広く様々な官能基からアンカー基を選ぶことができるので、A−F分子のアンカー基を特定の表面積の材料に対する接着を最適化するように選ぶことができる。
【0012】
したがって、アンカー基を適切に選択することによって、本発明に係る物質を様々な異なる表面物質に用いることができる。特定の基質への当該物質の前記仕立てに加えて、改質される表面上で直接又は間接的に、当該物質を容易かつ効率的に用意することができる。この目的のために、選択される材料としてアンカー基Aが適切であるような重合方法が適している。
【0013】
このようにして、アンカー基Aを表面に結合させることができ、その後で、官能基がアンカー基に対するモノマーのグラフト重合によって合成され、物質のA−Fを形成する。あるいは、官能基は、アンカー基Aに対するモノマーのグラフト重合によって合成される。その後、アンカー基Aを表面に結合させて、本発明の代替実施形態による物質のA−Fを形成する。
【0014】
好ましいことに、本発明に係る物質は、自身を膨張させるように、溶剤をトラップすることができる。これによって、本発明に係る物質なしで潤滑剤が与えられる表面と比較して、特定の驚くほどに低い摩擦係数を有する改質された物の表面を形成する。この利点は、側基の密度が制御されていることに起因する。実際に、分枝高分子は、所定容積において高密度及び不均質な分布を示す側基(側基は様々な方向を有する)を示唆している。
【0015】
本発明において使用される炭化水素基の種類は、特別な限定の対象とならないが、いずれの種類の置換された炭化水素基とともに置換されていない炭化水素基も含む。したがって、用語「炭化水素基」は、炭素原子及び水素原子のみからなる基に限定されず、他の置換分を有する基まで包含する。例えば、ハロゲン置換分やエステル基である。
【0016】
本発明に係るカテコール基は、1,2−ジヒドロキシベンゼン基及び任意の置換された1,2−ジヒドロキシベンゼン基を有する。例えば、ドーパミン基やニトロドーパミン基である。
【0017】
用語「アミン基を有するアンカー基」は、本発明に従って、ポリアミン派生アンカー基も含む。したがって、本発明では、このようなアンカー基は、ポリアミンから派生する構造単位を含みうる。すなわち、2以上の末端アミノ基を含んでおり、さらに随意に、一又は複数の第二及び/又は第三アミノ基を含むような化合物から派生するものである。
【0018】
上述のように、官能基Fは分枝高分子を有する。好ましくは、官能基Fは、分枝高分子からなる。すなわち、分枝高分子の他には他の基を有さない。
【0019】
潤滑に関して、側基の前記少なくとも1つがC2−18の炭化水素基、好ましくはC4−17の炭化水素基、より好ましくはC6−16の炭化水素基、最も好ましくはC8−14の炭化水素基である場合に、特に良好な結果を得た。
【0020】
本発明の更なる実施形態によると、側基の50%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくはすべてが炭化水素基であって、前記炭化水素基は、好ましくはC1−20の炭化水素基、より好ましくはC2−18の炭化水素基、さらに好ましくはC4−17の炭化水素基、さらに好ましくはC6−16の炭化水素基、最も好ましくはC8−14の炭化水素基である。
【0021】
物質の所望の性質とは独立に、前記少なくとも1つの側基は、置換されていない炭化水素基であることができる。すなわち、排他的にC−H結合を有する炭化水素基、又は置換された炭化水素基である。原則として、置換された炭化水素基であって、置換された炭化水素基がアルキルエステル基、好ましくは置換されていないアルキルエステル基である場合に、特定の良好な結果を得ることができる。このような基を有する物質は、物の表面の潤滑特性を改善させるのに特に適している。
【0022】
本発明の更なる好ましい実施形態によると、前記炭化水素基は、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アルキルアリル基、アリルアルキル基、アルケニルアリル基、アリルアルケニル基、アルキニルアリル基、アリルアルキニル基、アルキルエステル基、アルケニルエステル基、アルキニルエステル基、アリールエステル基、アルキルアリルエステル基、アリルアルキルエステル基、アルケニルアリルエステル基、アリルアルケニルエステル基、アルキニルアリルエステル基、アリルアルキニルエステル基及び前記基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれる。アルキル基、アルケニル基及びアルキニル基のすべては、直鎖状、分岐又は環状でありうる。
【0023】
好ましくは、前記炭化水素基は、アルキルエステル基であり、好ましくは直鎖状のアルキルエステル基である。
【0024】
アルキルエステル基の例(これに限定されない)としては、炭化水素基であり、グループから選ばれるアクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香環に付いた少なくとも1つのアルキル基を有するスチレン誘導体、及び前記基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれる。
【0025】
前記アルキルエステル基の代わりに、特定のアプリケーションに対して、前記炭化水素基がアリルアルキル基又はアルキルアリル基であることが好ましく、さらに好ましくは直鎖状のアリルアルキル又は直鎖状のアルキルアリル基である。
【0026】
具体的には、本特許出願に係る物質は、物の表面の潤滑特性を改善する。分枝高分子がある特定の容積を有することが特に好ましい。すなわち、側基を50〜500有し、好ましくは100〜450、好ましくは150〜400、さらに好ましくは200〜350、最も好ましくは220〜300有する。
【0027】
この実施形態では、側基すべてが同じ又は異なり、好ましくはC6−20の炭化水素基、より好ましくはC8−18の炭化水素基、さらに好ましくはC10−16の炭化水素基、最も好ましくはC11−14の炭化水素基である。
【0028】
前記炭化水素基はすべて、好ましくは置換されていない炭化水素基又はアルキルエステル基である。
【0029】
具体的には、本特許出願に係る物質は、耐摩耗性を改善するために、物の表面の潤滑特性を改善し、前記分枝高分子が特定の容積を有することが特に好ましく、すなわち、前記分枝高分子は、50〜2000nm、好ましくは、200〜1000nmの高分子ブラシの乾燥厚みを有する。
【0030】
膨張することなどによって物質内に組み込まれる潤滑剤としては、既知の潤滑剤はすべて使用することができる。したがって、例として(これに限定されない)、イオン性液体、鉱油、植物油、動物性油、合成油、脂肪、ワックス、多価アルコールエステル、中性油、ワセリン等がある。
【0031】
所望の性質を改質された表面に与えるために十分に厚い層を用意するために、本発明に係る物質は、好ましくは特定の長さを有する。したがって、物質の骨格の長さは、好ましくは10〜300nm、より好ましくは50〜250nm、さらに好ましくは100〜200nm、最も好ましくは120〜180nmである。
【0032】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、官能基Fの分枝高分子の側基の少なくとも1つは、一般式(1)で表される前記物質の別の分子と交さ結合することができる少なくとも1つの官能基を有する。このような交さ結合によって、分枝高分子の耐摩耗性が改善され、したがって好ましい。複数の交差結合する基が分枝高分子中にある場合、これらの交差結合する基は、分子にわたって統計的に分布することができるか、又はブロックにおいて分布することができる。
【0033】
十分な交さ結合密度を達成するために、分枝高分子が側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有する少なくとも1つのブロックを有することは好まれ、これらの側基の少なくとも2つはそれぞれ、一般式(1)で表される前記物質の別の分子と交さ結合することができる少なくとも1つの官能基を有する。
【0034】
代わりに、そしてより好ましくは、前記分枝高分子は、側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有する更なるブロックを少なくとも1つ有し、これにおいて、この少なくとも1つの更なるブロックのすべての側基が、分枝高分子の別の分子と交さ結合することができる官能基を有さない。
【0035】
代わりに、そしてさらに好ましくは、前記分枝高分子は、前記更なるブロックの2つを有し、そのそれぞれは、5以上、好ましくは10以上有し、これにおいて、これらの更なるブロックのすべての側基が、分枝高分子の別の分子と交さ結合することができる官能基を有するとは限らず、これにおいて、前記側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有するブロックにおいて、これらの側基の少なくとも2つはそれぞれ、一般式(1)で表される前記表面潤滑剤の別の分子と交さ結合することができる官能基を少なくとも1つ有し、前記2つの更なるブロックの間で当該ブロックが構成する。
【0036】
本発明の更なる主題は、少なくとも1つの表面を有する基質を有する物であり、これにおいて、前記少なくとも1つの表面の少なくとも1つは上記物質で覆われる。
【0037】
表面上の物質の堅固な接着を達成するために、一般式(1)で表される前記物質の分子のアンカー基の少なくとも1つが、基質の表面に結合される。物理的な結合又はイオン性基による結合が可能な場合であっても、一般式(1)で表される物質の分子の前記少なくとも1つのアンカー基が、基質の表面と共有結合で結合することが好ましい。
【0038】
原理的には、本発明に係る物質は、すべての基質と結合することができる。適切な基質材料の例(これに限定されない)としては、ケイ素、ダイヤモンド状炭素、炭化ケイ素、サファイア、鋼、金属被覆鋼、ニッケルめっき鋼、ルビー、酸化アルミニウム、酸化鉄、マグネシウム合金、酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化チタン、高分子及びこれら物質の任意の2以上の組み合わせからなる群から選ばれたものである。
【0039】
もちろん、アンカー基の種類は、特定の基質に対する本発明に係る物質の接着性を決定するので、基質材料に依存してアンカー基を選択しなければならない。ケイ素、炭化ケイ素、サファイア及びダイヤモンド状炭素で作られた基質のための良好な結果が、例えば、アンカー基を有するシラン基で得られ、一方、鋼、金属、ルビー、酸化アルミニウム及び酸化鉄で作られた基質に対するアンカー基の好適な例は、ニトロドーパミン基である。また、リン酸基及びホスホン酸基は、特にマグネシウム合金で作られた基質に適したアンカー基であり、カルボキシル基は、特に鋼と酸化鉄で作られた基質に適したアンカー基であり、ポリアミン基は、特にケイ素、ニオブ、チタン及び/又はアルミニウムの酸化物で作られた基質に適したアンカー基であり、チオール基は、特に金で作られた基質に適したアンカー基である。
【0040】
本発明の更なる主題は、前記物を生産する方法であって、
(a)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
(b)シラン基、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1つのアンカー基を前記基質の前記少なくとも1つの表面の少なくとも1つに結合させるステップと、
(c)少なくとも1種類のモノマーを用意するステップと、
(d)前記少なくとも1種類のモノマーを前記少なくとも1つのアンカー基にグラフト重合させて、前記少なくとも1つのアンカー基に共有結合で結合する分枝高分子を形成するステップと、及び
(e)溶剤をトラップすることによって前記少なくとも1つの分枝高分子を膨張させるステップとを有する。
【0041】
第1の代替構成によると、本発明に係る前記物を生産する方法は、
(c’)少なくとも1種類のモノマーを用意するステップと、
(d’)前記少なくとも1種類のモノマーを、シラン基、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた前記少なくとも1つのアンカー基にグラフト重合させて、前記少なくとも1つのアンカー基に共有結合で結合する分枝高分子を形成するステップと、
(a’)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
(b’)前記少なくとも1つのアンカー基を前記基質の前記少なくとも1つの表面の少なくとも1つに結合させるステップと、及び
(e)溶剤をトラップすることによって前記少なくとも1つの分枝高分子を膨張させるステップとを有する。
【0042】
第2の代替構成によると、本発明に係る前記物を生産する方法は、
(a)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
(b)シラン基、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1つのアンカー基を前記基質の前記少なくとも1つの表面の少なくとも1つに結合させるステップと、
(f)前記少なくとも1つのアンカー基を前記少なくとも1つの分枝高分子と結合させるステップと、及び
(e)溶剤をトラップすることによって前記少なくとも1つの分枝高分子を膨張させるステップとを有する。
【0043】
また、前記分枝高分子は、表面開始耐酸素性ARGET ATRP合成によって製造することができる。
【0044】
ARGET ATRP重合反応は、基質の種類にかかわらず、CuBr2のみを用いて行われ、Feベースの塩は使用されなかった。溶液に接する十分に定められた(制限された)量の空気を得るために、いずれの液体試薬も加える前に、開始剤に対して官能化されたウェーハが、反応フラスコ(20mLのシュレンク管、小さな5mlの丸底フラスコ又は20mlの平底バイアル)に置かれ、その後、ゴム隔壁で密封された。
【0045】
シュレンク管に接続された100mLフラスコに、固体試薬CuBr2(5mg、0.022mmol)及び4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン(44mg、0.11mmol)を加えた。その後で、真空引きと窒素導入のサイクルを3回行って空気を除去した。これは、系に存在する酸素と還元剤の比に対する制御を到達するために行った。真空引きにおいては毎回少なくとも2分間ポンピングした。19mLのインヒビターなしのモノマー(メタクリル酸ドデシル)を密封フラスコに加え(単にモノマーボトルから注射器で)、混合物が明るい紫色になって配位子は完全に溶かされるまで、少なくとも5分間110℃で活発に撹拌した。密封した反応フラスコへの粘性の還元剤(Sn(ヘキサン酸エチル)2 1.4mL、4.34mmol)の注入を容易にするために、別々のガラス製容器(密封せず)において2.3mLの超乾燥アニソール(99.7% 無水、Sigma-Aldrich社製)で薄めた。
【0046】
その後、還元剤−溶媒の溶液は、モノマー、CuBr2及び配位子の高温混合物に注入され、この時点で完全な反応混合物が得られる。最大5分間の110℃での活発な攪拌の後に、その後、淡黄茶色の液体溶液の所望量が、開始剤に対して官能化されたウェーハが入った閉じた反応フラスコへ移した。
【0047】
反応をどのように行ったかについては、2つの変種がある。すなわち、基質が入ったフラスコが、空気充填された場合(より単純)と、窒素充填された場合(真空−窒素を循環させることによって環境入れ替えを必要とする)である。反応フラスコがシュレンク管の線と接続されていない場合、フラスコに空の風船を接続する。これは、フラスコへの付加的な空気の導入を許さずに、膨張して付加的な気体量を収容することができる。
【0048】
液体の移動はすべて、酸素処理された注射器(パッケージから出した直後のもの)で好ましくは行われる。また、好ましい方法で、シュレンク管の線と接続した反応フラスコにおいて反応が行われる場合、更なる反応時に不活性雰囲気を与えるために、ウェーハは真空−窒素サイクルを経る。この場合、超過圧力を収容するための空の風船は必要ではない。
【0049】
平底反応ガラスを使用する場合、ウェーハが上下反対に置かれれば、より良い被覆均質性が得られる。このことは、官能化された領域が反応ガラスの底を向いていることを意味する。
【0050】
原理的には、当業者に知られている任意の技術によってグラフト重合を行うことができる。しかし、グラフト重合を原子移動ラジカル重合として行う場合には特に良好な結果が得られる。
【0051】
上述の有利な特性によって、本発明に係る物質は、好ましくは精密工学における機械工学において用いられ、最も好ましくは時計及び/又は腕時計製造の業種で用いられる。
【0052】
また、同じ理由によって、本発明に係る物は、好ましくは精密工学における機械工学において用いられ、最も好ましくは時計及び/又は腕時計製造の業種で用いられる。
【0053】
以下、本発明を例を用いてより詳細に説明する。これは、本発明を説明するものであるが、限定するものではない。
【0054】
本発明の他の特徴及び利点が、添付図面を参照して行われる以下の詳細な説明(これに限定されない)を読むことでより明白に理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】高分子ブラシによって支援される潤滑の概略図である。
図2】膨張する構成の効果的な影響をエステルタイプの潤滑剤用の素表面のものと比較して示すグラフである。
図3】膨張する構成の効果的な影響をエステルタイプの潤滑剤用の素表面のものと比較して示すグラフである。
図4】膨張する構成の効果的な影響を異なるアルカンタイプの潤滑剤に関する素表面のものと比較して示すグラフである。
図5】膨張する構成の効果的な影響を異なるアルカンタイプの潤滑剤に関する素表面のものと比較して示すグラフである。
図6】膨張する構成の効果的な影響を異なるアルカンタイプの潤滑剤に関する素表面のものと比較して示すグラフである。
図7】膨張する構成の効果的な影響を異なるアルカンタイプの潤滑剤に関する素表面のものと比較して示すグラフである。
図8】膨張する構成の効果的な影響を共通の腕時計製造業向け潤滑剤に関する素表面のものと比較して示すグラフである。
図9】膨張する構成の効果的な影響を共通の腕時計製造業向け潤滑剤に関する素表面のものと比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0056】
ジメチルクロロシラン(Aldrich Fine Chemicals、98%)、10−ウンデケン−1−ol(Aldrich Fine Chemicals、98%)及び2−ブロモ−2−メチルプロピオニルブロミド(Acros Organics、98%)及び塩化白金酸6水化物(ABCR Deutschland、99.9%)を開始剤合成に使用し、サプライヤーから供給されたまま使用した。
【0057】
n−ヘキシルメタクリレート(Aldrich Fine Chemicals、98%)、メタクリル酸ラウリル(Acros Organics、96%)及びメタクリル酸ステアリル(TCI Deutschland GmbH、>95%)のモノマーそれぞれの150mlを、アルミナカラム(アルミナB、カラム直径25mm、高さ約15cm、溶離剤:ペンタン、重力)に通すことによって、パラメトキシフェノールインヒビターから浄化した。真空中の溶離剤の除去の後に、得られた浄化したモノマーは、不活性ガスの下で密封されたグラスバイアル内に−20℃で格納され、前記浄化の後に典型的には2週間未満のうちに合成に使用した。
【0058】
4,4’−ジノニル−2,2’−ビピリジン(dNbpy、Aldrich Fine Chemicals、97%)、アニソール(Acros Organics、99%)及び銅(II)ブロミド(Sigma-Aldrich、99%)を供給されたまま使用した。銅(I)ブロミド(Aldrich Fine Chemicals、5N)を氷酢酸で洗うことによって浄化した。したがって、4gのCuBrを400mlの酢酸内に懸濁し、得られた混合物を室温で一晩中撹拌した。その後で、ろ紙を使用してろ過によってCuBrを分離し、続いて、メタノールとジエチルエーテルで洗って真空の下で乾かした。このようにして得られたCuBrを不活性ガス下の室温で格納した。
【0059】
ジメチルクロロシランのアンカー基を有する11−(2−ブロモ−2−メチル−プロピオニル)−ジメチルクロロシラン開始剤(BPCS)の合成を、Sanjuanによって記載された2ステッププロトコル(Lang-muir 2007, 23, 5769-5778 Sanjuan et al.)に従って行った。
【0060】
【化1】
【0061】
50mlの乾燥したテトラヒドロフラン(Sigma-Aldrich、98%)中の10.7mlの10−ウンデケン−1−olに対して、9ml(60mmol)のトリエチルアミン(Sigma-Aldrich、99.5%)を加え、続いて、20mlの乾燥したテトラヒドロフラン中の7mlの2−ブロモ−2−メチルプロピオニルブロミドの溶液をドロップ的に追加した。この混合物を24時間不活性ガスの下で撹拌し、100mlのヘキサンで薄め、2MのHCl(208mlのH2Oに37%HClを42ml加えることによって準備)で2回洗い、100mlの超純水で4回洗った。有機相を分離し、60分間硫酸マグネシウム上で乾かし、その後、ろ紙を使用してろ過し、40℃、130mbarで濃縮した。得られた粗生成物をシリカカラム(シリカゲル 60、直径80mm、高さ約27cm、溶離剤:ジクロロメタン1.5 l、重力)に通すことによって浄化した。真空下で溶離剤を除去した後で、10−ウンデケン−1−イル−2−ブロモ−2−プロピオン酸メチル(10-undecen-1-yl-2-bromo-2-methylpropionate)を無色の油っぽい産物として得た。これを下記の第2のステップまで4℃で不活性ガスの下で格納した。
【0062】
第2の反応ステップにおいて、先ほどのステップで得た2.54gの10−ウンデケン−1−イル−2−ブロモ−2−プロピオン酸メチルを10mgの塩化白金酸6水化物及び7.93mlのジメチルクロロシランに加えた。このようにして得た混合物を不活性ガスの下で暗所で一晩中撹拌し、付加的な溶剤を使用せずにシリカプラグを通してろ過した。未反応シランの過剰量を24時間真空の下で乾かすことによって除去した。
【0063】
得られた11−(2−ブロモ−2−メチルプロピオニル)−ジメチルクロロシラン開始剤(BPCS)を、不活性ガスで満たされ−20℃でパラフィルムで密封された容器内に−20℃で格納した。
【0064】
例1
(i)ケイ素表面に対する開始剤の結合
ケイ素物(P/B<100>、Si-Mat Silicon Wafers、ドイツ)を音波処理槽においてイソプロパノールで3回洗い、UVオゾンクリーナー(UV/Ozone ProCleaner(商標) and ProCleaner(商標) Plus、IA、米国)で30分間処理した。このようにして得た浄化した物を、新鮮な蒸留トルエンにおいてBPCS開始剤の10mM溶液に直ちに浸し、24時間不活性雰囲気の下でインキュベートした。この後に、トルエン内での洗いを5回行った。これは、数分間5つの異なるトルエン槽に浸すことによって行った。その際、5つの槽の最後のものに浸しつつ20秒の簡潔な音波処理を行った。これは、弱い結合の分子を除去するためである。そしてイソプロパノールで最終的なすすぎを行った。このようにして準備したサンプルを窒素流で乾かし、パラフィルム密封した箱の中の暗所で不活性雰囲気の下で格納し、7日以内に使用した。
【0065】
前記プロトコルによって得たBPCS開始剤によって官能化されたケイ素表面を静的接触角(CA)測定によって特性測定した。この測定は、BPCS開始剤の溶液に浸される前のUV/オゾンで浄化した超親水性のケイ素表面上で吸着されたBPCS層に対して行われ、3°未満の初期接触角があり、77°±2°の接触角をもたらした。
【0066】
BPCS層の厚みは、可変角スペクトロスコピー楕円偏光計(VASE:variable-angle spectroscopic ellipsometer)(M−2000F、LOT Oriel GmbH、ドイツ国ダルムシュタット)を使用して、1.8±0.1 nmであることがわかった。楕円偏光測定データが3つの異なる入射角65°、70°及び75°で集められ、入射波長が995〜370nmの範囲にわたった。得た厚みの値は、3層モデルへの当てはめの結果である。すなわち、WVASE32ソフトウェア(LOT Oriel GmbH、ドイツ国ダルムシュタット)において定められたSiジェル/SiO2/Cauchyのモデルである。
【0067】
(ii)メタクリル酸ラウリルのグラフト原子移動ラジカル重合
不活性ガスの下の無酸素Schlenkラインで重合反応を行った。周囲条件で、19ml(16.5g)のメタクリル酸ラウリル、2.1mlのアニソール及び280mgのdNbpyを、ゴム隔壁で密封したフラスコに加えた。攪拌して配位子が溶解した後に、得られた溶液は、4回の凍結−ポンプ−解凍のサイクルを経て、その後、不活性雰囲気の下で62mgの銅(I)ブロミド及び15mgの銅(II)ブロミドを収容する第2のフラスコに移した。得られた溶液は、温度110℃のホットオイル槽で加熱される状況下で5分間攪拌され、暗褐色の均質な混合物を得た。この混合物の4mlをステップ(i)で準備したBPCS改質済みケイ素物のサンプルに転送した。これは、無酸素の注射器を使用して不活性雰囲気の下で20mlのシュレンク管内に置かれた。この反応物を3時間不活性雰囲気の下で110℃に維持した。この反応物をトルエンの空気雰囲気に露出しトルエンを追加することによってクエンチし、得られた物、すなわち、シラン部分を介して前記反応で得られた高分子が表面に付着したケイ素基質を混合物から分離した。
【0068】
(iii)浄化
結合していない物質を除去するために、前のステップ(ii)で得た物を浄化した。この浄化は、得た物を15分の音波処理の下でジクロロメタン中に浸し、これを物が乾く前に3回すべてにおいて行うことで行うことができる。代わりに、他の種類の浄化を行うことができる。
【0069】
表面で結合した高分子の被覆の厚みは、可変角スペクトロスコピー楕円偏光計(VASE)(M−2000F、LOT Oriel GmbH、ドイツ国ダルムシュタット)を使用して、200〜350nmにあることがわかった。
【0070】
例2
ステップ(ii)において19ml(16.8g)のn−ヘキシルメタクリレート、2.1mlのアニソール、425mgのdNbpy、94mgの銅(I)ブロミド及び23mgの銅(II)ブロミドを使用したことを除いて、例1の手順に従った。
【0071】
表面で結合した高分子の被覆の厚みは、例1の方法に従って、50〜150nmにあることがわかった。
【0072】
例3
ステップ(ii)において18.9ml(16.3g)のメタクリル酸ステアリル、4.7mlのアニソール、208mgのdNbpy、46mgの銅(I)ブロミド及び11mgの銅(II)ブロミドを使用したことを除いて、例1の手順に従った。
【0073】
表面で結合した高分子の被覆の厚みは、例1の方法に従って、150〜250nmにあることがわかった。
【0074】
図1は、シランアンカー及びメタクリル酸塩残留物で構成する典型的な高分子ブラシを示す。
【0075】
図2〜3は、膨張する構成の効果的な影響をエステルタイプの潤滑剤(Moebius HP500; 500 cSt/20°)の素表面のものと比較したグラフである。接触面は、グラス及びケイ素であり、高分子は、両方の表面において例1の種類のものである(ドライ状態において厚み250nmを有する)。
【0076】
図2は、膨張する構成の効果的な影響を素表面のものと比較して示している。低速(<1cm/s)では、グラフトされた高分子内にトラップされた潤滑剤の放出のために、境界潤滑体制がなくなる。この現象(高分子が圧力下の場合に潤滑剤が放出される現象)は、表面の粗さの間の相互ロックを防ぐ。より速い速さ(>1cm/s)では、表面の分離における潤滑剤の役割によって、膨張する高分子の役割が最小化される。剪断は、潤滑剤内のみで発生するように、高分子の領域では発生しないようにされる。
【0077】
膨張する高分子の効果的な影響をわかりやすくする別の方法として、速さに対する摩擦係数の減少を素表面構成と比較してプロットすることがある(図3参照)。予想通りに、速さがある程度あると、改善度は「低い」。なぜなら、潤滑剤(剪断加工)内で発生するトライポロジー的作用から高分子が遠いからである。特性の改善が低速(<1cm/s)で現われ、摩擦減少は95%に達することができている。
【0078】
このエステル系潤滑剤では、膨張する高分子は、低速(<1cm/s)において摩擦に対して効果的なトライポロジー的役割を有し、悪影響を与える境界潤滑をなくす。摩耗に関して、高分子が圧力下にある場合、潤滑剤の放出による表面の完全な分離に起因して、まったくないことが期待される。
【0079】
図4〜7は、低粘性アルカンであるヘキサデカン(5 cSt/20°)及びバセリノール(Vaselinol)(36 cSt/20°)を用いた場合のグラフである。低粘性潤滑剤の場合には、膨張する高分子の使用結果が広範囲の速さにわたってさらに強く出現しているように見える。低粘性潤滑剤は、表面どうしを効率的に分離する能力が弱い。これは、摩擦係数がランダムであることをもたらす(通常高いが常にそうではない)。膨張する構成は、広い範囲の速さにわたって摩擦係数を低値で安定させることができる。表面は良好に分離され、粘性が弱いことによって低いせん断力が可能になる。すなわち、低摩擦が可能になる。再び、このような高分子を使用することによって、広い範囲の速さにわたって摩擦を低く維持することができるような低粘性潤滑剤においても、より良いトライポロジー的特性が可能になる。
【0080】
図8〜9は、計時器用のMoebius 9010(150 cSt/20°)潤滑剤の試験に関連するグラフである。0.007〜0.03の非常に低い摩擦係数において、膨張効果が存在することがわかる。
【0081】
潤滑剤を膨張させる高分子の第1の目標は、接触箇所内に適量の潤滑剤(潤滑剤のマトリックス内にトラップされたもの)を遊離させることによって超潤滑(supralubrication)(摩擦係数が0.05未満、顕著な摩耗なし)を達成することである。潤滑剤を膨張させる高分子の第2の目標は(第1の目標の一部として)、境界潤滑体制を抑えることである。これは、潤滑剤の粘性が低いこと、高圧、又は低速(又はこれらの要因の組み合わせ)のいずれかで古典的に発生する。
【0082】
これに関して、両方の目標を達成することができた。アルカン、エステルファミリーからの潤滑剤及び古典的な計時器用の潤滑剤を成功裡に試験することができた。これらの結果によって、本発明が腕時計製造業向けの用途にふさわしい候補となった。これによって、ムーブメントの効率及び信頼性を増加させることができる。
【0083】
ヘキサデカン又はバセリノールのような低粘性潤滑剤の使用によって、広い範囲の速さ(0.01〜6cm/s)にわたって最良の摩擦係数(<0.01)を得た。適切な高分子(例1)の使用と、その破壊を防ぐ十分な厚み(ここでは250nmで試験した)及び低粘性の相性が良い潤滑剤との組み合わせは、接触箇所内にいずれの要因があろうと超潤滑効果を得るための最良の折り合いである。
【0084】
もちろん、本発明は、図示した例に限定されず、当業者にとって明らかなような様々な変種及び変更をも対象とする。具体的には、使用したモノマーと高分子、及び/又はアンカー基及び/又は交さ結合剤及び/又は基質に対して反応条件を適応させることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2015年1月9日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの表面を有する基質を有する物であって、
前記表面の少なくとも一部は、当該物の表面潤滑剤で被覆されており、前記表面潤滑剤は、一般式(1)
A−F (1)
の分子を一又は複数含有し、ここで、
Aは、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの基の2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた部分を有するアンカー基であり、
Fは、骨格及び少なくとも2つの側基を有する分枝高分子を有する官能基であって、前記側基の少なくとも1つは、置換されていないC4−20の炭化水素基又は置換されたC4−20の炭化水素基であり、
前記表面潤滑剤は、トラップされた溶剤によって膨張している
ことを特徴とする物。
【請求項2】
前記側基の少なくとも1つ、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくはすべてが、C4−20の炭化水素基であって、好ましくはC4−18の炭化水素基であって、より好ましくはC6−16の炭化水素基であって、最も好ましくはC8−14の炭化水素基である
ことを特徴とする請求項1に記載の物。
【請求項3】
前記炭化水素基は、アルキルエステル基であって、好ましくは直鎖状のアルキルエステル基である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の物。
【請求項4】
前記炭化水素基は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、芳香環に付いた少なくとも1つのアルキル基を有するスチレン誘導体、及びこれらの任意の2以上の組み合わせからなる群から選ばれる基である
ことを特徴とする請求項3に記載の物。
【請求項5】
前記分枝高分子は、前記側基を50〜500、好ましくは100〜450、より好ましくは150〜400、さらに好ましくは200〜350、最も好ましくは220〜300有する
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の物。
【請求項6】
前記分枝高分子は、耐摩耗性を改善するように、高分子ブラシの乾燥厚みが50〜2000nm、好ましくは200〜1000nmである
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の物。
【請求項7】
前記側基のすべては、同じ又は異なるC6−20の炭化水素基、好ましくは、C8−18の炭化水素基、より好ましくはC10−16の炭化水素基、最も好ましくはC11−14の炭化水素基である
ことを特徴とする請求項6に記載の物。
【請求項8】
前記側基の少なくとも1つは、一般式(1)で表される前記表面潤滑剤の別の分子と交さ結合することができる少なくとも1つの官能基を有し、
前記分枝高分子は、側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有するブロックを少なくとも1つ有し、
これらの側基の少なくとも2つはそれぞれ、一般式(1)で表される前記表面潤滑剤の別の分子と交さ結合することができる官能基を少なくとも1つ有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の物。
【請求項9】
前記分枝高分子は、側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有する更なるブロックを少なくとも1つ有し、
この少なくとも1つの更なるブロックのすべての側基は、前記分枝高分子の別の分子と交さ結合することができる官能基を有さず、
前記分枝高分子において、より好ましくは、前記更なるブロックを2つ有し、そのそれぞれが側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有し、
これらの更なるブロックのすべての側基は、前記分枝高分子の別の分子と交さ結合することができる官能基を有さず、
前記側基を少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10有するブロックにおいて、これらの側基の少なくとも2つはそれぞれ、一般式(1)で表される前記表面潤滑剤の別の分子と交さ結合することができる官能基を少なくとも1つ有し、前記2つの更なるブロックの間で当該ブロックが構成する
ことを特徴とする請求項8に記載の物。
【請求項10】
前記表面潤滑剤で被覆されている前記表面は、ケイ素、ダイヤモンド状炭素、炭化ケイ素、サファイア、鋼、金属被覆鋼及びニッケルめっき鋼、ルビー、酸化アルミニウム、酸化鉄、マグネシウム合金、酸化ケイ素、酸化ニオブ、酸化チタン、高分子及びこれら物質の任意の2以上の組み合わせからなる群から選ばれた物質でできている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の物。
【請求項11】
前記トラップされた溶剤は、イオン性液体、鉱油、植物油、動物性油、合成油、脂肪、ワックス、多価アルコールエステル、中性油、ワセリン、又はこれら物質の任意の2以上の組み合わせを含有する
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の物を生産する方法であって、
a)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
b)水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1つのアンカー基を前記基質の前記表面の少なくとも1つに結合させるステップと、
c)少なくとも1種類のモノマーを用意するステップと、
d)前記少なくとも1種類のモノマーを前記少なくとも1つのアンカー基にグラフト重合させて、前記アンカー基に共有結合で結合する少なくとも1つの分枝高分子を形成するステップと、及び
e)溶剤をトラップすることによって前記分枝高分子を膨張させるステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の物を生産する方法であって、
c’)少なくとも1種類のモノマーを用意するステップと、
d’)前記モノマーを、水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた前記少なくとも1つのアンカー基にグラフト重合させて、前記アンカー基に共有結合で結合する少なくとも1つの分枝高分子を形成するステップと、
a’)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
b’)前記アンカー基を前記基質の前記少なくとも1つの表面の少なくとも1つに結合させるステップと、及び
e)溶剤をトラップすることによって前記分枝高分子を膨張させるステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の物を生産する方法であって、
d’)少なくとも1つの分枝高分子を形成するように、前記少なくとも1つの種類のモノマーをグラフト重合させるステップと、
a)少なくとも1つの表面を有する基質を用意するステップと、
b)水酸基、カテコール基、リン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基、アミン基、チオール基及びこれらの2つ以上の任意の組み合わせからなる群から選ばれた少なくとも1つのアンカー基を前記基質の前記表面の少なくとも1つに結合させるステップと、
f)前記アンカー基を前記少なくとも1つの分枝高分子と結合させるステップと、及び
e)溶剤をトラップすることによって前記分枝高分子を膨張させるステップと
を有することを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の物を有することを特徴とする計時器。
【国際調査報告】