特表2017-522889(P2017-522889A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特表2017-522889脂肪前駆細胞及び脂肪細胞のインビトロにおける作製のための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2017-522889(P2017-522889A)
(43)【公表日】2017年8月17日
(54)【発明の名称】脂肪前駆細胞及び脂肪細胞のインビトロにおける作製のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20170721BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20170721BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20170721BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20170721BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20170721BHJP
   A61K 35/33 20150101ALI20170721BHJP
   A61K 35/35 20150101ALI20170721BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170721BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20170721BHJP
【FI】
   C12N5/10
   C12N5/077ZNA
   C12Q1/02
   A61K35/12
   A61K35/545
   A61K35/33
   A61K35/35
   A61P3/10
   A61P3/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2017-504790(P2017-504790)
(86)(22)【出願日】2015年7月28日
(85)【翻訳文提出日】2017年3月24日
(86)【国際出願番号】FR2015052085
(87)【国際公開番号】WO2016016572
(87)【国際公開日】20160204
(31)【優先権主張番号】1457357
(32)【優先日】2014年7月29日
(33)【優先権主張国】FR
(81)【指定国】 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】509074014
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ピエール・エ・マリ・キュリ・(パリ・6)
【住所又は居所】フランス・F−75252・パリ・プラス・ジュシィユー・4
(71)【出願人】
【識別番号】507240336
【氏名又は名称】アシスターンス・ピュブリック−オピトー・ドゥ・パリ
【住所又は居所】フランス・F−75100・パリ・アヴニュ・ヴィクトリア・3
(71)【出願人】
【識別番号】513246469
【氏名又は名称】インサーム(インスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル)
【氏名又は名称原語表記】INSERM(INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE)
【住所又は居所】フランス国 エフ−75013 パリ リュ・ド・トルビアック 101
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】ゲナンタン, アンヌ‐クレール
【住所又は居所】フランス国 パリ エフ−75012 リュ・エリザ・ルモニエ 7
(72)【発明者】
【氏名】ブリアン,ノルウェン
【住所又は居所】フランス国 パリ エフ−75011 リュ・フェルデブ 37
(72)【発明者】
【氏名】キャペル,エミリー
【住所又は居所】フランス国 サン‐ジェルマン‐レ‐ザルパジョン エフ−91180 リュ・デュ・メニル 108 レジダンス・レ・サンドレンヌ 57ベ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィゴーロー,コリンヌ
【住所又は居所】フランス国 パリ エフ−75019 リュ・タンドゥ 29
(72)【発明者】
【氏名】カポー,ジャックリンヌ
【住所又は居所】フランス国 サン マンデ エフ−94160 アベニュー・デュ・ジェネラル・ド・ゴール 21
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA20
4B063QR77
4B063QS24
4B063QX10
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB19
4B065BB32
4B065BB40
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB57
4C087BB63
4C087BB64
4C087NA14
4C087ZB21
4C087ZB22
4C087ZC33
4C087ZC35
(57)【要約】
本発明は、脂肪前駆細胞及び脂肪細胞を多能性幹細胞、特に誘導多能性幹細胞からインビトロで作製するための方法と、そうして得た脂肪前駆細胞及び脂肪細胞の、治療又はスクリーニングを目的とした使用とに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロでの脂肪前駆細胞作製のための方法であって、
多能性幹細胞を接着培養系において無血清培養培地中で培養するステップと、
前記多能性幹細胞を、中胚葉分化培地に、中胚葉前駆細胞を取得するまで接触させるステップと、
前記中胚葉前駆細胞を、脂肪細胞分化培地に、脂肪前駆細胞を取得するまで接触させるステップと、
任意的に、このようにして取得した前記脂肪前駆細胞を収集するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記多能性幹細胞は誘導多能性幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記中胚葉分化培地は、好ましくはアクチビンA、アクチビンB、BMP−4タンパク質、BMP−2タンパク質、TGF−β1、TGF−β2、及びTGF−β3、並びにそれらの任意の組合せからなる群から選択されるTGF−βスーパーファミリーに属する1以上のモルフォゲンを含む無血清培養培地である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記中胚葉分化培地は、
(i)アクチビンA及びアクチビンBからなる群より選択されるモルフォゲン、好ましくはアクチビンAと、
(ii)BMP−4タンパク質、BMP−2タンパク質、TGF−β1、TGF−β2、及びTGF−β3、並びにそれらの任意の組合せからなる群より選択されるモルフォゲン、好ましくはBMP−4タンパク質と、を含有する無血清培養培地である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記無血清培養培地は造血細胞培養に適した培地である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記多能性幹細胞は、細胞が約50%〜約90%コンフルエントに達するときに前記中胚葉分化培地に接触させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記脂肪細胞分化培地は、インスリン、その類似体の1つ、又はIGF−1と、グルココルチコイドと、細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)を増加させる薬剤とを含有する培養培地である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記脂肪細胞分化培地は、インスリン、デキサメタゾン、及び3−イソブチル−1−メチルキサンチンを含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記脂肪細胞分化培地はインドメタシンをさらに含有する、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9に記載の方法により取得した前記脂肪前駆細胞を、脂肪細胞成熟培地に、脂肪細胞を取得するまで接触させるステップを含む、インビトロでの脂肪細胞作製のための方法。
【請求項11】
前記脂肪細胞成熟培地はインスリンを含む培養培地である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
リポジストロフィーの処置に使用するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により取得した脂肪前駆細胞、又は請求項10若しくは11に記載の方法により取得した脂肪細胞。
【請求項13】
空腹時高血糖症、耐糖能異常(glucose intolerance)、特に2型糖尿病である糖尿病、及びインスリン抵抗性からなる群より好ましくは選択される血糖コントロール異常の処置、又は肥満若しくはリポジストロフィー症候群と任意的に関連した脂質異常症の処置に使用するための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により取得した脂肪前駆細胞、又は請求項10若しくは11に記載の方法により取得した脂肪細胞。
【請求項14】
インビトロでの前記脂肪前駆細胞又は前記脂肪細胞の作製に用いられる前記多能性幹細胞は、処置される対象の体細胞、好ましくは線維芽細胞から取得した誘導多能性幹細胞である、請求項12又は13に記載の使用のための、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法により取得した脂肪前駆細胞、又は請求項10若しくは11に記載の方法により取得した脂肪細胞。
【請求項15】
インビトロでの脂肪前駆細胞又は脂肪細胞の作製のためのキットであって、
TGF−βスーパーファミリーに属する1以上のモルフォゲンを含有する第1の容器と、
(i)インスリン、その類似体のうちの1つ、又はIGF−1、(ii)グルココルチコイド、及び(iii)細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)を増加させる薬剤を含有する第2の容器と、
任意的に、インスリンを含有する第3の容器と、を含むキット。
【請求項16】
前記第1の容器はアクチビンA及び/又はBMP−4を含有し、
前記第2の容器はインスリン、デキサメタゾン、及びIBMX、並びに任意的にインドメタシンを含有する、請求項15に記載のキット。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法によるインビトロでの脂肪前駆細胞作製、又は請求項10若しくは11に記載の方法によるインビトロでの脂肪細胞作製のための、請求項15又は16に記載のキットの使用。
【請求項18】
脂肪細胞の熱産生活性を促進する分子をスクリーニングするための方法であって、
請求項10又は11に記載の方法により取得した前記脂肪細胞を1以上の候補分子に接触させるステップと、
前記脂肪細胞の熱産生活性を促進する分子を選択するステップと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪前駆細胞及び脂肪細胞のインビトロでの作製のための新規の方法と、そのように作製された細胞を用いた治療的使用及びスクリーニング方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、自己再生及びインビトロで分化する能力を有する細胞として定義される。胚性幹(embryonic stem、ES)細胞と誘導多能性幹(induced pluripotent stem、iPS)細胞とからなる多能性幹細胞は、理論上は無限に増殖可能であり、インビトロでほぼすべての細胞型を生じることができる。
【0003】
誘導多能性幹細胞は、山中氏のチームにより、ヒト線維芽細胞から2007年に作製された(Takahashi他、2007年)。この細胞型は、体細胞に多能性遺伝子(C−MYC、OCT3/4、SOX2、及びKLF4など)を導入することで作製される。そして、これらの細胞は、多能性に関わる2つのタンパク質であるOCT3/4及びNANOGを発現するその能力について選択される(Takahashi他、2007年;Yu他、2007年)。iPS細胞は、その形態、遺伝子発現、及びエピジェネティックな状態について、ES細胞と同様の特性を有する。iPS細胞は、インビトロ及びインビボにおいて、内胚葉、外胚葉、中胚葉の3胚葉に分化可能である。
【0004】
iPS細胞は、患者細胞の初代培養由来の既存のモデルとは異なり、発生の初期段階を再現できるという有利性がある。さらに、iPS細胞は、ドナー患者の遺伝的背景全体を有し、従って遺伝的疾患の生理病理学の研究に優れたモデルとなる。実際に、それらの病態の要因となる異常性は、インビトロでのiPS細胞分化の種々の段階において、細胞レベルで示されることが可能である。最後に、種々の分化段階のiPS細胞は、インビトロでの新規の治療用分子のテストに使用可能であり(Yamanaka、2010年)、再生医療の文脈における新規の細胞治療の発展について期待されている。
【0005】
ゆえに、これらの細胞は、正常又は病的細胞機能の研究材料の実質的に無限のソースを成す。しかしながら、これらの機構の理解にあたって、対象の成熟細胞を作製するための堅固で効果的なプロトコルを確立することが主な障害になっている。
【0006】
脂肪細胞は、トリグリセリド形態でエネルギーを貯蔵することに特化した器官である脂肪組織の機能的ユニットとして定義される。脂肪組織は、長期的に動かされることができるエネルギーの唯一の蓄えをなし、哺乳類のエネルギーバランスの制御において重要な役割を果たす。ゆえに、脂肪組織内の脂肪貯蔵の欠陥は重大な代謝障害をもたらすものであり、その有病率は一定して増加している。さらに、脂肪細胞は、インシュリン感受性、炎症、免疫機能、及び血圧の調節など、全身性調節に関わる多くの因子を産生する内分泌細胞でもある。
【0007】
ヒト脂肪組織の取得は比較的たやすいが、患者は侵襲的処置を受ける必要がある。さらに、このようにして取得されたヒト成熟脂肪細胞を増殖することはできず、数日間のみ培養液で保持可能である。
【0008】
骨髄由来間葉系幹細胞、又は脂肪組織の間質血管細胞群由来細胞からの脂肪生成の研究のため、様々なグループがヒト細胞モデルを発展させてきている(Pittenger他、1999年;Zuk他、2001年)。しかしながら、これらの細胞系には、継代培養時の増殖能力の低いこと、分化能力の低いこと、及び分化可能性の変化などの所定の制限がある。これらの技術的課題を解決するため、iPS細胞から脂肪細胞を分化する種々の方法が開発されてきている。しかし、これらのプロトコルは、効果が限定的である胚様体(3胚葉からなる3次元構造)又は間葉系細胞に分化する準備段階を必要とすることを考慮すると長く複雑なものである(Taura他、2009年;Xiong他、2013年;Noguchi他、2013年;Ahfeldt他、2012年)。細胞分化効率は脂肪細胞転写因子の異所的発現によって増大可能である(Ahfeldt他、2012年)が、そうしたプロトコルは、脂肪細胞分化時に起こる生理的機構の研究を可能にはしない。
【0009】
従って、胚様体又は間葉系幹細胞を事前に作製する必要なく、脂肪細胞の、即ち中胚葉からのインビボにおける生理的分化を再現するための、簡易で、迅速、そして効率的なプロトコルの発展が必要であると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許出願第2182052号
【特許文献2】国際特許出願第97/033978号
【特許文献3】米国特許第5,945,337号
【特許文献4】国際公開第91/10425号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、脂肪前駆細胞及び脂肪細胞のインビトロでの作製のための新規の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明はまず、インビトロでの脂肪前駆細胞作製のための方法に関し、該方法は、
接着培養系において無血清培養培地中で多能性幹細胞を培養するステップと、
該多能性幹細胞を、中胚葉分化培地に、中胚葉前駆細胞を取得するまで接触させるステップと、
該中胚葉前駆細胞を、脂肪細胞分化培地に、脂肪前駆細胞を取得するまで接触させるステップと、
任意的に、このように取得した脂肪前駆細胞を収集するステップとを含む。
【0013】
多能性幹細胞は好ましくは誘導多能性幹細胞である。
【0014】
中胚葉分化培地は、好ましくは、特にアクチビンA、アクチビンB、BMP−4タンパク質、BMP−2タンパク質、TGF−β1、TGF−β2、及びTGF−β3、並びにそれらの任意の組合せから選ばれるTGF−βスーパーファミリーに属する1以上のモルフォゲンを含む無血清培養培地である。所定の実施形態では、中胚葉分化培地は、(i)アクチビンA及びアクチビンBからなる群から選ばれるモルフォゲン、好ましくはアクチビンAと、(ii)BMP−4タンパク質、BMP−2タンパク質、TGF−β1、TGF−β2、及びTGF−β3、並びにそれらの任意の組合せからなる群から選ばれるモルフォゲン、好ましくはBMP−4タンパク質と、を含む無血清培養培地である。
【0015】
無血清培養培地は好ましくは、造血細胞の培養に適した培地である。
【0016】
多能性幹細胞は、好ましくは、細胞が約50%〜約90%コンフルエントに達するときに、中胚葉分化培地に接触させる。
【0017】
一実施形態において、脂肪細胞分化培地は、インスリン、その類似体の1つ、又はIGF−1と、グルココルチコイドと、細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)とを増大させる薬剤を含む培養培地、好ましくは、インスリン、デキサメタゾン、及び3−イソブチル−1−メチルキサンチンを含む培養培地である。好ましくは、脂肪細胞分化培地はインドメタシンをさらに含む。
【0018】
本発明はまた、インビトロでの脂肪細胞作製のための方法にも関し、該方法は、本発明の方法によって得られた脂肪前駆細胞を、脂肪細胞成熟培地に、脂肪細胞を取得するまで接触させるステップを含む。脂肪細胞成熟培地は、好ましくはインスリンを含む培養培地である。
【0019】
他の態様において、本発明は、リポジストロフィー、又は空腹時高血糖症、耐糖能異常(impaired glucose tolerance)、特に2型糖尿病である糖尿病、及びインスリン抵抗性からなる群より好ましくは選ばれる血糖コントロール異常、又は肥満若しくはリポジストロフィー症候群と任意的に関連した脂質異常症の処置に使用するための、本発明の方法によって得られた脂肪前駆細胞又は脂肪細胞にも関する。
【0020】
脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞は、処置される対象者からの体細胞、好ましくは線維芽細胞から得られた誘導多能性幹細胞から好ましくは取得される。
【0021】
また本発明はインビトロでの脂肪前駆細胞又は脂肪細胞の作製のためのキットにも関し、該キットは、TGF−βスーパーファミリーに属する1以上のモルフォゲンを含有する容器と、インスリン、その類似体の1つ、又はIGF−1、グルココルチコイド、及び細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)を増加させる薬剤を含有する容器と、任意的に、インスリンを含有する容器とを含む。
【0022】
特に、該キットは、アクチビンA及び/又はBMP−4を含有する第1の容器と、インスリン、デキサメタゾン、及びIBMX、並びに任意的にインドメタシンを含有する第2の容器とを含み得る。
【0023】
また本発明は、本発明の方法によるインビトロでの脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞の作製のための本発明のキットの使用にも関する。
【0024】
他の態様において、本発明はまた、脂肪細胞の熱産生活性を促進する分子をスクリーニングするための方法にも関し、該方法は、
本発明の方法によって得られた脂肪細胞を候補分子に接触させるステップと、
脂肪細胞の熱産生活性を促進する分子を選択するステップとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、iPS細胞からの2次元での脂肪細胞分化である本発明の方法の実施形態を示す概略図である。中胚葉前駆体へのiPS細胞の分化は、アクチビンA(25ng/mL)及びBMP4(10ng/mL)の存在下でSTEMPro34(+GlutaMAX+アスコルビン酸)からなる分化培地によって、0日目〜4日目に誘導される。脂肪細胞への分化は、DMEM/F12、10%FCS、インスリン(10μg/mL)、イソブチルメチルキサンチン(0.5mM)、デキサメタゾン(1μM)及びインドメタシン(50μM)において中胚葉前駆細胞を成長させることで、4日目及び8日目に誘導される。そして、脂肪細胞は、成熟させるために、DMEM/F12、10%FCS、1μg/mLインスリンにおいて保持される。
図2図2は、iPS細胞の多能性特性を示す。(A)は多能性iPSコロニーの位相コントラスト画像(10×)を示す。(B)はアルカリホスファターゼ染色後のiPS細胞コロニーの写真を示す(左パネル:広視野、右パネル:倍率10)。(C)は、多能性マーカーNANOG、SOX2、OCT4、SSEA3/4、TRA−1−60、及びTRA−1−81の免疫蛍光標識を示す。(D)は、iPS細胞とH9胚性幹細胞との、多能性マーカーOCT4、NANOG、及びSOX2の遺伝子発現の比較を示す(n=3)。
図3a図3aは、中胚葉及び脂肪前駆細胞へのiPS細胞の分化を示す。分化の0、2、4、及び6日目における、特定の多能性マーカーNANOG、SOX2、及びOCT4(n=3)(A)、中胚葉、即ちブラキウリ(BRACHYURY)(Tボックス)、及びMESP1(n=3)(B)のリアルタイム定量PCRにより測定された相対的発現レベル(任意単位)を示す。抗体MESP1とブラキウリとを用いた脂肪前駆細胞免疫蛍光標識を示す(C)。間葉系幹細胞へのiPS細胞の分化時の、ブラキウリ(Tボックス)とMESP1とのリアルタイム定量PCRにより測定された相対的発現レベル(任意単位)を示す(n=3)(D)。
図3b図3bは、図3aの(A)から(D)に続き、PDGFRα、LY6E、CD44、CD29、及びCD24のリアルタイム定量PCRによって測定された相対的発現レベル(任意単位)を示す。*p<0.05、pはGraphPad Prismソフトウエアによるマン・ホイットニーのノンパラメトリックテストにより測定した(n=3)(E)及びCD44、PDGFRα、CD29、及びKi67抗体を用いた脂肪前駆細胞の免疫蛍光標識を示す(F)。
図4図4は、脂肪細胞への中胚葉前駆細胞の分化を示す。脂肪細胞分化時における、(A)C/EBPβ(n=3)、(B)C/EBPδ(n=3)、(C)C/EBPα(n=3)、及び(D)PPARγ(n=3)の4つの脂肪細胞転写因子のリアルタイム定量PCRによって測定された相対発現レベル(任意単位)が示される。
図5図5は、分化20日後の脂肪細胞の特性を示す。(A)は、オイルレッドO染色後の脂肪細胞の写真である(左:広視野、中央:20×、右:40×)。(B)は、分化20日目の脂肪細胞におけるマーカーC/EBPα(上)及びGLUT4(下)の免疫蛍光標識である。脂肪滴はナイルレッドで、核はDRAQ5で染色された。(C)は、0日目、10日目、及び20日目のiPS細胞におけるPPARγ1及びPPARγ2、C/EBPα p30/42、インスリン受容体β−サブユニット(IR−β)、ペリリピン1、並びにカベオリン1のタンパク質発現を示す。β−アクチンを対照として用いる(n≧3)。(D)では、リン酸化部位特異的抗体と全抗体とを用いて、分化20日後のiPS細胞におけるインスリンでの短時間処理後に、インスリン受容体β−サブユニット(IR−β)とAKT/PKBとのリン酸化を評価した。
図6a図6aは、ベージュ脂肪細胞の作製を示す。従来の褐色脂肪細胞のマーカー、(A)PGC1α(n=3)、PRDM16(n=3)、及びUCP1(n=3)の相対的遺伝子発現を示す。(B)分化0日目、10日目、20日目におけるウエスタンブロットによるUCP1発現の検出を示す。β−アクチンは内在性対照として示される。(C)分化時の、ベージュ脂肪細胞特異的マーカーTMEM26、CITED1、CD137、及びHOXC9の相対的遺伝子発現を示す(n≧3)。*p<0.05対4日目。(D)分化20日目の脂肪細胞におけるベージュ脂肪細胞マーカーCITED1の免疫蛍光標識を示す。脂肪滴をナイルレッドで、核をDRAQ5で染色した。
図6b図6bは、図6aの(A)から(D)に続き、(E)基本条件下又は6時間の10−5Mイソプロテレノール後の、ウエスタンブロットによるUCP1発現の検出を示す。β−アクチンは内在性対照として示される。(F)基本条件下(上)と48時間の8−Br−cAMP後(下)との、ミトトラッカー及びBODIPYでのベージュ脂肪細胞の染色を示す。(G)基本条件下(未処理)及び48時間の8−Br−cAMP後における、分化20日後のiPS細胞の、熱産生に関わる遺伝子PGC1α、PPARα、PRDM16、及びDIO2の遺伝子発現を示す。*p<0.05対基本。
図7図7は、ヌードマウスにiPS細胞由来の脂肪細胞を移植した後の、インビボにおける脂肪組織形成を示す。(A)ヌードマウスにおけるiPS細胞由来脂肪細胞移植の概略図を示す。(B)iPS細胞由来の脂肪細胞から形成された脂肪層の巨視図である。(C)iPS細胞(左)及び間葉系幹細胞(MSC)(右)由来の脂肪細胞から形成された脂肪層のヘマトキシリン及びエオシン染色を示す。スケールバーは500μmである。(D)iPS細胞(左)及びMSC(右)由来の脂肪細胞から形成された脂肪層のヘマトキシリン及びエオシン染色を高倍率で示す。スケールバーは200μm(上)、100μμm(下)である。矢印は血管を示す。(E)種々の倍率における、iPS細胞(左)及びMSC(右)由来の脂肪細胞から形成された脂肪層の、抗ペリリピン1抗体での標識を表す。スケールバーは200μm(上)、100μm(下)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明者等は、多能性幹細胞、好ましくは誘導多能性幹細胞から多数の脂肪細胞を20日のみで作製するための、簡易で、迅速、そして効率的な方法を開発した。実際に、幹細胞は、中胚葉分化誘導剤を含む培地の存在下で中胚葉前駆細胞に直接的に、つまり胚様体又は間葉系幹細胞を最初に形成することなく分化可能であり、中胚葉前駆細胞は、続いて脂肪生成混合物の存在下で脂肪前駆細胞及び脂肪細胞を作製可能である、ということを発明者等は示した。
【0027】
発明者等は、本発明の方法で得られた脂肪細胞が特定の脂肪細胞マーカーを発現し、この細胞型の形態特性を有するということを観察した。また発明者等は、得られた細胞が、現在までヒトモデルについては記載されていないベージュ型脂肪細胞特性を有することを示した。
【0028】
このように、第1の態様によると、本発明は、インビトロでの脂肪前駆細胞作製のための方法に関し、該方法は、
接着培養系において無血清培養培地中で多能性幹細胞を培養するステップと、
該多能性幹細胞を中胚葉分化培地に、中胚葉前駆細胞を取得するまで接触させるステップと、
該中胚葉前駆細胞を脂肪細胞分化培地に、脂肪前駆細胞を取得するまで接触させるステップとを含む。
【0029】
本明細書において用いられるように、「多能性幹細胞」という用語は、胚性幹細胞と、初期化体細胞(又は誘導多能性幹細胞)とを含む。好ましくは、この用語は、哺乳動物の細胞、特にマウス、ラット、又は霊長動物の細胞、より好ましくはヒトの細胞に関する。
【0030】
胚性幹細胞は胚盤胞の内部細胞塊に由来し、生殖系細胞を含む、生体のすべての組織(中胚葉、内胚葉、外胚葉)を生じる能力を有する。胚性幹細胞の多能性は、転写因子OCT3/4、NANOG、及びSOX2などのマーカー、並びにSSEA3/4、Tra−1−60、及びTra−1−81などの表面マーカーの存在によって評価可能である。この多能性は、マウスにおける奇形腫形成によりインビボで確認可能でもある(Rossant他、1982年)。胚性幹細胞は、例えばChung他(2008年)が記載した技術を用いて、胚性幹細胞が由来する胚を壊すことなく取得可能である。所定の実施形態において、法律或いは倫理上の理由から、胚性幹細胞は非ヒト胚性幹細胞である。
【0031】
本明細書において用いられるように、「初期化体細胞」、「誘導多能性幹細胞」、「iPSC」、又は「iPS」という用語は、分化体細胞の遺伝子的な初期化により取得される多能性細胞に関する。iPSCは、胚性幹細胞のものと類似するその形態、自己再生性、及び多能的潜在性に加えて、胚性幹細胞のものと非常に近似する、全体的なヒストンメチル化を伴うエピジェネティックな初期化や遺伝子発現プロファイルも示す。iPSCは、多能性マーカー、特にアルカリホスファターゼ染色と、NANOG、SOX2、OCT4、及びSSEA3/4タンパク質発現とに、特に陽性である。
【0032】
iPSC作製のための方法は当業者には既知であり、特にYu他(2007年)、Takahashi他(2007年)、及びNakagawa他(2008年)による文献に記載される。特に、iPSCは、転写因子Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Myc(Takahashi他、2007年)、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28(Yu他、2007年)、又はOct3/4、Sox2、及びKlf4遺伝子(Nakagawa他、2008年)で形質移入したヒト体細胞から取得可能である。iPSCは、線維芽細胞、B−リンパ球、ケラチノサイト、又は髄膜細胞(Patel他、2010年)などの広範な種々の細胞から取得可能である。好ましくは、本発明の方法に用いられるiPSCは、線維芽細胞、特にヒト線維芽細胞から取得される。所定の実施形態において、iPSCはリポジストロフィー患者の線維芽細胞から取得される。
【0033】
本発明の方法は、上記規定のような多能性幹細胞を、接着培養系において無血清培養培地中で培養するステップを含む。これらの培養条件は、幹細胞を凝集させるため非接着培養系の使用を必要とする胚様体の形成に用いられるものとは異なる。
【0034】
本発明の方法における使用に適切な接着培養系は、接着単層培養系、又はフィーダー細胞における培養系であり得る。
【0035】
培養系は、本発明の方法に適する任意の形態、特にフラスコ、複数ウェルプレート、又はディッシュの形態であってよい。
【0036】
一実施形態において、接着培養系は、増殖を促進するか、及び/又は共培養される細胞の分化を制御するフィーダー細胞における培養系である。好ましくは、これらフィーダー細胞は、分化を誘導することなく培養細胞の増殖を促進する。フィーダー細胞は、その増殖と対象培養の侵襲とを防ぐため、しばしば照射される。本発明の方法における使用に適するフィーダー細胞は、マウス胚性線維芽細胞(mouse embryonic fibroblast、MEF)又はヒト包皮細胞など種々の既知のタイプから、当業者により容易に選択され得る(特許文献1参照)。
【0037】
好ましい実施形態において、接着培養系は接着単層培養系である。この系は、細胞接着性を促進するマトリクス又は基質で通常はコーティングされた、例えばガラス又はプラスチックである固体サポートを含む。
【0038】
基質は、接着因子からなり且つサポートへの細胞接着を促進するタンパク質基質であるとよい。これらの接着因子は、ポリ−L−リジン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、又はゼラチンから特に選択されるとよい。
【0039】
細胞外マトリクスを再現し、本発明の方法における使用に適するマトリクスは、当業者には既知であり、多くの種類が市販で入手可能である。これらのマトリクスは、例として、Matrigel(登録商標)、Geltrex(登録商標)タイプのマトリクス、又は、コラーゲン、ラミニン、フィブロネクチン、エラスチン、プロテオグリカン、アミノグリカン、若しくはビトロネクチンなどの1以上のアンカータンパク質を含有するその他のマトリクスを含む。3次元ヒドロゲルタイプのマトリクスも用いられ得る。好ましい実施形態において、マトリクスはMatrigel(登録商標)タイプのものである。
【0040】
多能性幹細胞は、増殖可能にし、且つ細胞を未分化状態に維持可能にする無血清培地で培養される。このタイプの多くの培地は、市販で入手可能であり、当業者に既知である(例としてChen他による文献(2011年)参照)。無血清培養培地は、例として、mTESR(登録商標)1培地(STEMCELL Technologies社)、E8培地(Life Technologies社)、又はhPSC培地(Promocell社)であってよい。好ましい実施形態において、用いられる培養培地は動物由来血清を含まない。
【0041】
細胞がコンフルエントに達する、即ち利用可能な表面全体が被覆されることを防ぐため、細胞は好ましくは定期的に継代培養される。実際に、コンフルエントは増殖の中断や不要な代謝変化を導く。細胞は、当業者には既知の標準的技術を用いて継代培養されるとよい。細胞は、コラゲナーゼIVなどの酵素の作用によって、又は、EDTAを含有するPBS若しくは他の任意の無酵素溶液(例えばReleSR(STEMCELL Technologies社))における機械的継代によって、マトリクス又はサポートから特に剥離され、遠心分離によって収集され、機械的に解離され、そして新しい培養系に再播種されるとよい。
【0042】
本発明の方法において、接着培養系において無血清培地中で培養された多能性幹細胞は、中胚葉分化培地に、中胚葉前駆細胞を取得するまで接触させる。
【0043】
任意的に、幹細胞を中胚葉分化培地に接触させる前に、細胞のコンフルエントが測定又は評価されるとよい。好ましくは、幹細胞は、細胞培養が約50%〜約90%コンフルエントに達するときに中胚葉分化培地に接触させる。当業者は細胞のコンフルエントの概念についてよく知るところであり、任意の既知の方法によってこれを評価することができる。一例として、「90%コンフルエント」という用語は、表面領域全体の約10%に相当する空間がコロニー間において占有されずに残りながら、コロニーが他のコロニーと接触する、という状態として規定され得る。本明細書において用いられるように、「約」という用語は、特定値の±10%の値範囲に関する。例として、「約20」とは20±10%又は18〜22を含む。
【0044】
所定の実施形態において、幹細胞は、接着培養系の無血清培地において培地に配置された後、中胚葉分化培地に、1〜3日間、好ましくは2日間接触させる。
【0045】
好ましくは、接触は、培地を単に変えることでおこなわれる。代替的に、中胚葉分化培地を含む、上述のような接着培養系における継代培養によって接触がおこなわれてもよい。
【0046】
一実施形態において、接着培養系は、上述のようなフィーダー細胞における培養系である。使用可能なフィーダー細胞は、好ましくは化合物SU5402などのFGFシグナル経路阻害物質の存在下で(Mohammadi他、1997年)、マウス胚性線維芽細胞(MEF細胞)又はヒト包皮細胞(特許文献1参照)などの種々の既知の型から、当業者によって容易に選択され得る。
【0047】
細胞は、上述のような当業者には既知の標準的技術を用いて継代培養されるとよく、特に、コラゲナーゼIVなどの酵素作用によって、EDTAを含有するPBS若しくは他の任意の無酵素溶液(例えばReleSR(STEMCELL Technologies社))における機械的継代によって、又は、TrypLE Express(Life Technologies社)などの市販の細胞剥離培地の作用によって、マトリクス又はサポートから剥離され、遠心分離によって収集され、機械的に解離され、そして新しい培養系に再播種されるとよい。
【0048】
代替的に、幹細胞は、接着培養系の培地に約4日間配置されて、中胚葉分化培地に接触させるとよい。
【0049】
中胚葉分化培地は、細胞の生存と増殖とを可能にし、しかも中胚葉前駆細胞への細胞分化を誘導又は促進する培地である。好ましくは、この培地により、他の細胞型への、特に内胚葉若しくは外胚葉前駆細胞への細胞分化が妨害又は制限される。
【0050】
所定の実施形態において、中胚葉分化培地は、TGF−βスーパーファミリーに属する1以上のモルフォゲンを含む無血清基本培地である。
【0051】
好ましくは、無血清基本培地は、ヒト造血細胞(CD34+)の増殖に適する培地である。この培地は、細胞に必須の無機塩類、アミノ酸類、ビタミン類、及び炭素源、並びにpHを調節する緩衝系を特に含む最小培地であってよい。好ましくは、この培地は、ウシ血清アルブミン;トランスフェリン若しくは鉄;セレニウム;インスリン若しくはその類似体;及び/又は、ヒドロコルチゾン若しくはデキサメタゾンなどのグルココルチコイドをさらに含む。
【0052】
本発明の方法において使用可能な培地は、例えば、StemPro(登録商標)−34培地(Invitrogen社)若しくは特許文献2に記載の他の任意の培地、TeSR(登録商標)−E6培地(STEMCELL Technologies社)、特許文献3に記載の培地、又はMethoCult(登録商標)培地(STEMCELL Technologies社)を含むが、これらに限定されない。
【0053】
使用する培地に応じて、グルタミン(このアミノ酸は不安定であり、通常その場で添加する必要がある)、ビタミンC(すぐに酸化する)、及び/又は1つ以上の抗生剤を添加することが必要であるか又は所望され得る。
【0054】
TGF−βスーパーファミリーに属するモルフォゲンは、アクチビンA、アクチビンB、BMP−4タンパク質、BMP−2タンパク質、TGF−β1、TGF−β2、及びTGF−β3、並びにそれらの任意の組合せからなる群より好ましくは選択される。
【0055】
一実施形態において、中胚葉分化培地は、(i)アクチビンA及びアクチビンBからなる群から選択されるモルフォゲン、並びに(ii)BMP−4タンパク質、BMP−2タンパク質、TGF−β1、TGF−β2、及びTGF−β3、及びそれらの任意の組合せからなる群より選択されるモルフォゲンを含有する。
【0056】
他の実施形態において、中胚葉分化培地は、アクチビンAとBMP−4タンパク質とを含有する。
【0057】
好ましくは、培地は、1〜25ng/mLのBMP−4、より好ましくは約10ng/mLのBMP−4を含有する。
【0058】
好ましくは、培地は、5〜100ng/mLのアクチビンA、より好ましくは約25ng/mLのアクチビンAを含有する。
【0059】
特に好ましい実施形態において、中胚葉分化培地は約10ng/mLのBMP−4と約25ng/mLのアクチビンAとを含有する。
【0060】
所定の実施形態において、中胚葉分化培地は、グルタミンを豊富化した完全無血清培地StemPro(登録商標)−34(Invitrogen社)又は同等の培養培地、好ましくは約10ng/mLのBMP−4、好ましくは約25ng/mLのアクチビンA、及び任意的にアスコルビン酸、を含む。
【0061】
多能性幹細胞は、中胚葉前駆細胞を取得するまで分化培地中に保持される。この期間、従来の方法で、培養培地は定期的に、好ましくは毎日又は1日置きに取り変えられるとよい。
【0062】
本明細書に用いられるように、「中胚葉前駆細胞」又は「中胚葉前駆体」という用語は、多くの中胚葉組織、特に内皮細胞、脂肪細胞、心筋細胞、骨形成細胞、軟骨細胞、間葉系細胞、及び造血細胞に(予備的な脱分化又は初期化をすることなく)分化可能な細胞、好ましくはヒト細胞に関する。これらの細胞は、初期中胚葉に特異的な2つの遺伝子である、ブラキウリ(BRACHYURY)(Tボックス)(遺伝子ID:6862)及びMESP1(遺伝子ID:55897)遺伝子の発現によって特性評価される。この特性により、ブラキウリとMESP1遺伝子とを発現しない間葉系幹細胞又は脂肪組織間質血管細胞群由来細胞から区別される(図3D)。
【0063】
中胚葉前駆細胞の出現は、ブラキウリとMESP1遺伝子との発現をモニタリングすることで、当業者により容易に検出可能である。実際に、実験の項と図3Bで示されるように、これらの遺伝子は多能性幹細胞には発現されない。またこの発現は、多能性マーカーNANOG及びSOX2の発現減少にも相関する(図3A)。
【0064】
ブラキウリとMESP1とのタンパク質発現は、実験の項と図3Cに示されるような免疫蛍光法によって当業者が容易に測定できる。
【0065】
このように、任意的に、本発明の方法は、ブラキウリ遺伝子及び/又はMESP1遺伝子の発現を測定又は評価することからなるさらなるステップを含み得る。これらマーカーの発現は、当業者には既知の任意の技術、例えばリアルタイム定量PCRによってモニタリングされるとよい。
【0066】
所定の実施形態において、多能性幹細胞は、2〜5日間、好ましくは3〜4日間、より好ましくは4日間、中胚葉分化培地に接触させられる。
【0067】
このように取得された中胚葉前駆細胞は、脂肪前駆細胞を取得するまで脂肪細胞分化培地に接触させられる。
【0068】
前述のように、この接触は、培養培地を単に変えることで、又は脂肪細胞分化培地を含む接着培養系において継代培養することでおこなわれるとよい。
【0069】
一実施形態において、接着培養系は、上述のようなフィーダー細胞における培養系である。使用可能なフィーダー細胞は、好ましくは化合物SU5402などのFGFシグナル経路阻害物質の存在下で(Mohammadi他、1997年)、マウス胚性線維芽細胞(MEF細胞)又はヒト包皮細胞(特許文献1参照)などの種々の既知の型から、当業者によって容易に選択され得る。
【0070】
細胞は、上述のような当業者には既知の標準的技術を用いて継代培養されるとよく、特に、コラゲナーゼIVなどの酵素作用によって、EDTAを含有するPBS若しくは他の任意の無酵素溶液(例えばReleSR(STEMCELL Technologies社))における機械的継代によって、又は、TrypLE Express(Life Technologies社)などの市販の細胞剥離培地の作用によって、マトリクス又はサポートから剥離され、遠心分離によって収集され、機械的に解離され、そして新しい培養系に再播種されるとよい。好ましくは、中胚葉前駆細胞は、培養培地を単に変えることで脂肪細胞分化培地に接触させられる。
【0071】
脂肪細胞(adipocyte)分化培地とも呼称される脂肪生成(adipogenic)分化培地は、中胚葉前駆細胞の生存と増殖とを可能にし、しかもこれらの細胞の脂肪前駆細胞への分化を誘導又は促進する培地である。
【0072】
一実施形態において、脂肪細胞分化培地は、インスリン、インスリン類似体、又はIGF−1、グルココルチコイド、及び細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)を増加させる薬剤を含む培養培地である。好ましくは、脂肪細胞分化培地は、インスリン又はその類似体、及びグルココルチコイド、及び細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)を増加させる薬剤を含む。
【0073】
インスリン類似体は、NPHインスリン(Eli Lilly社)、リスプロ(Eli Lilly社)、アスパルト(aspart)(Novo Nordisk社)、及びグルリジン(Sanofi−Aventis社)からなる群から例えば選択されるとよい。
【0074】
グルココルチコイドは、デキサメタゾン、ベタメタゾン、コルチバゾール、及びヒドロコルチゾンからなる群から例えば選択されるとよい。好ましくは、グルココルチコイドはデキサメタゾンである。
【0075】
細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)を増加させる薬剤は、cAMPの細胞内濃度を増加させることが知られる任意の化合物であり得る。この薬剤は、ホスホジエステラーゼ阻害剤、タンパク質キナーゼAの直接活性剤(又はcAMP依存性タンパク質キナーゼ)、及びアデニル酸シクラーゼ活性剤からなる群より特に選択されるとよい。
【0076】
ホスホジエステラーゼ阻害剤は、メチル化キサンチン、及び3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)などのその誘導体、カフェイン、アミノフィリン、パラキサンチン、ペントキシフィリン、テオブロミン、及びテオフィリンを含むがこれらに限定されない。
【0077】
タンパク質キナーゼA直接活性剤は、ベリノスタット(PXD101)、アドレナリン、グルカゴン、及び8−ブロモ−cAMPなどのcAMP類似体を含むがこれらに限定されない。
【0078】
アデニル酸シクラーゼ活性剤は、ホルスコリン、グルカゴン、プロスタグランジンD2、E1、及びI2、カルバサイクリン、ドーパミン、エンドセリン1、L−エピネフリン、並びに副甲状腺ホルモンを含むがこれらに限定されない。
【0079】
好ましい実施形態において、脂肪細胞分化培地は、インスリン、デキサメタゾン、及び3−イソブチル−1−メチルキサンチンを含む培養培地である。
【0080】
好ましくは、培地は1〜20μg/mLインスリン、より好ましくは約10μg/mLインスリンを含む。
【0081】
好ましくは、培地は0.0001〜500mMのIBMX、より好ましくは0.01〜10mMのIBMX、さらにより好ましくは0.1〜1mMのIBMXを含む。
【0082】
所定の実施形態において、培地は約0.1mM〜約0.5mMのIBMX、好ましくは約0.5mMのIBMXを含む。
【0083】
好ましくは、培地は0.25〜100μMのデキサメタゾン、より好ましくは、約1μMのデキサメタゾンを含む。所定の実施形態において、脂肪細胞分化培地は、約10μg/mLのインスリン、約1μMのデキサメタゾン、及び約0.5mMのIBMXを含む培養培地である。
【0084】
任意的に、分化培地は、インドメタシン、ピオグリタゾン若しくはロシグリタゾンなどのチアゾリジンジオン族化合物、成長因子FGF21、イリシン、トリヨードチロニン、レチノイン酸、BMP7、及び/又はBMP8などの脂肪細胞分化を促進する1つ以上のさらなる化合物を含んでもよく、特にインドメタシン、ピオグリタゾン若しくはロシグリタゾンなどのチアゾリジンジオン族化合物、成長因子FGF21、イリシン、トリヨードチロニン、及び/又はレチノイン酸である脂肪細胞分化を促進する1つ以上のさらなる化合物を含んでもよい。脂肪細胞分化を促進する1つ以上のさらなる化合物を含んでもよい。分化培地は好適には、インドメタシン、好ましくは0.01〜0.5mMのインドメタシン、より好ましくは約0.1mMのインドメタシンをさらに含む。所定の実施形態において、分化培地は50μMのインドメタシンをさらに含む。このように、好ましい実施形態において、脂肪細胞分化培地は、好ましくは10μg/mLのインスリン、好ましくは約1μMのデキサメタゾン、好ましくは約0.5mMのIBMX、及び好ましくは約0.1mMのインドメタシンを含む培養培地である。他の好ましい実施形態において、脂肪細胞分化培地は、好ましくは約10μg/mLのインスリン、好ましくは約1μMのデキサメタゾン、好ましくは約0.5mMのIBMX、及び好ましくは約0.05mMのインドメタシンを含む培養培地である。
【0085】
脂肪細胞分化培地に使用される基本培養培地は、細胞に必須の無機塩類、アミノ酸類、ビタミン類、及び炭素源、並びにpHを調節する緩衝系を特に含む、好ましくは基本合成最小培地である。本発明の方法に使用可能な培地は、例えば、DMEM/F12培地、DMEM培地、RPMI培地、ハムF12培地、IMDM培地、及びKnockOut DMEM培地(Life Technologies社)を包含するがこれらに限定されない。
【0086】
培地は、2〜20%、好ましくは5〜15%血清、特にウシ胎児血清で、好ましくは補完される。
【0087】
中胚葉前駆細胞は、脂肪前駆細胞を取得するまで脂肪細胞分化培地に保持される。この期間、従来の方式で、培養培地は定期的に、好ましくは1日置き又は2日置きに取り変えられるとよい。
【0088】
本明細書において用いられるように、「脂肪前駆細胞」、「前脂肪細胞」又は「脂肪細胞幹細胞」という用語は、CD44(遺伝子ID:960)、CD29(遺伝子ID:3688)、PDGFRα(遺伝子ID:5156)、及びLY6E(遺伝子ID:4061)を含む脂肪組織幹細胞マーカー(Zuk、2013年)を発現する増殖性細胞、即ち、細胞増殖マーカー、好ましくはKi67を発現する細胞に関する。好ましくは、これらの細胞は、抗原CD31(遺伝子ID:5175)及びCD34(遺伝子ID:947)に陰性である。脂肪生成混合物の存在下において、これらの細胞は(予備的な脱分化又は初期化をすることなく)脂肪細胞に分化することが可能である。
【0089】
脂肪前駆細胞の出現は、CD44、CD29、PDGFRα、及びLY6Eなどの脂肪組織幹細胞マーカーの発現をモニタリングすることで、当業者により容易に検出され得る。実際に、実験の項並びに図3E及び図3Fに示されるように、これらのマーカーは中胚葉前駆細胞では非常に弱く発現されるのみである。発現の違いは、脂肪前駆細胞における発現レベルが中胚葉前駆細胞のものより約8倍高いマーカーPDGFRαについて特に大きい。これらマーカーの発現は、当業者に既知の任意の技術、例えばリアルタイム定量PCRによってモニタリングされるとよい。
【0090】
このように、任意的に、本発明の方法は、マーカーCD44、CD29、PDGFRα、及びLY6Eのうちの1つ以上の発現を測定又は評価することからなるさらなるステップを含むとよい。
【0091】
所定の実施形態において、中胚葉前駆細胞は、2〜5日間、好ましくは3〜4日間、さらに好ましくは4日間、脂肪細胞分化培地に接触させられる。
【0092】
本発明の方法は、取得した脂肪前駆細胞を収集するステップを含むとよい。収集は当業者には既知の標準的技術を用いておこなわれるとよい。前駆細胞は、特に、コラゲナーゼIVなどの酵素の作用によって、又は、TryPLE Express(Life Technologies社)などの市販の細胞剥離溶液によって、マトリクス又はサポートから剥離されるとよい。そして前駆細胞は、例えばCD44又はCD29などの種々のマーカーに基づいて単離され得る。
【0093】
そして、脂肪前駆細胞は、当業者には既知の、上述のような細胞外マトリクスを再現するマトリクスに再播種されるとよい。市販において多種のものが入手可能である。これらのマトリクスは、好ましくは化合物SU5402などのFGFシグナル経路阻害物質(Mohammadi他、1997年)の存在下で、マウス胚性線維芽細胞(MEF細胞)又はヒト包皮細胞(特許文献1参照)などのフィーダー細胞を含むとよい。使用される培養系は好ましくは接着単層培養系である。この系は、細胞接着性を促進するマトリクス又は基質で通常はコーティングされた、例えばガラス又はプラスチックである固体サポートを含む。基質は、接着因子からなり且つサポートへの細胞接着を促進するタンパク質基質であるとよい。これらの接着因子は、ポリ−L−リジン、コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、又はゼラチンから特に選択されるとよい。
【0094】
代替的に、本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞は、脂肪細胞を取得するまで脂肪細胞成熟培地に接触させるとよい。
【0095】
このようにまた、本発明は、インビトロでの脂肪細胞作製のための方法にも関し、該方法は、本発明の方法で得られた脂肪前駆細胞を、脂肪細胞を取得するまで、脂肪細胞成熟培地に接触させることを含む。
【0096】
前述のように、この接触は、培養培地を単に変えることで、又は脂肪細胞成熟培地を含む上述のような接着培養系において継代培養することでおこなわれるとよい。好ましくは、脂肪前駆細胞は、培養培地を単に変えることで脂肪細胞成熟培地に接触する。
【0097】
脂肪細胞成熟培地は、脂肪前駆細胞の生存と増殖とを可能にし、しかもこれらの細胞の脂肪細胞への分化を誘導又は促進する培養培地である。
【0098】
一実施形態において、脂肪細胞成熟培地に使用される基本培養培地は、脂肪細胞分化培地に用いられるものと同様の基本培養培地であってよい。代替的に異なるものであってよい。
【0099】
一実施形態では、脂肪細胞成熟培地に使用される基本培養培地は、細胞に必須の無機塩類、アミノ酸類、ビタミン類、及び炭素源、並びにpHを調節する緩衝系を特に含む、基本合成最小培地である。本発明の方法に使用可能な培地は、例えば、DMEM/F12培地、DMEM培地、RPMI培地、ハムF12培地、IMDM培地、及びKnockOut DMEM培地(Life Technologies社)を包含するがこれらに限定されない。
【0100】
この培地は、2〜20%、好ましくは5〜15%血清、特にウシ胎児血清で、好ましくは補完される。
【0101】
好ましい実施形態では、脂肪細胞成熟培地は、インスリンで補完された、且つ任意的に血清で補完された、基本培養培地を含む又は実質的に該培地からなる。好ましくは、培地は、0.1〜5μg/mLインスリン、より好ましくは約1μg/mLインスリンを含有する。
【0102】
脂肪前駆細胞は、脂肪細胞を取得するまで脂肪細胞成熟培地に保持される。この期間、従来の方式で、培養培地は定期的に、好ましくは1日置き又は2日置きに取り変えられるとよい。
【0103】
本明細書に用いられるように、「脂肪細胞」という用語は、C/EBPβ(遺伝子ID:1051)、C/EBPδ(遺伝子ID:1052)、C/EBPα(遺伝子ID:1050)、及びPPARγ(遺伝子ID:5468)の遺伝子発現によって、及び、オイルレッド染色により検出可能な脂肪滴の形態における中性脂質の蓄積によって特徴づけられる細胞に関する。また、脂肪細胞は、インスリン受容体(遺伝子ID:3667)、ペリリピン1(遺伝子ID:5346)、カベオリン1(遺伝子ID:857)又はグルコーストランスポーターGLUT4(遺伝子ID:442992)の発現によっても特徴づけられ得る。
【0104】
さらに、本発明の方法により取得された脂肪細胞が、PGC1(遺伝子ID:10891)、PRDM16(遺伝子ID:63976)、及びUCP1(遺伝子ID:7350)遺伝子などの褐色脂肪細胞のマーカーや、またTMEM26(遺伝子ID:219623)、CITED1(遺伝子ID:4435)、CD137(遺伝子ID:3604)、及びHOXC9(遺伝子ID:3225)などのベージュ脂肪細胞の特異的マーカーも発現することを、本発明者らは観察した。
【0105】
脂肪細胞の出現は、上記のような、脂肪細胞、褐色脂肪細胞、及びベージュ脂肪細胞に特異的なマーカーの発現をモニタリングすること、好ましくはマーカーC/EBPδ、PPARγ、CITED1、及びPGC1αをモニタリングすることにより、当業者が容易に検出し得る。これらマーカーの発現は、当業者に既知の任意の技術、例えばリアルタイム定量PCRによりモニタリングされるとよい。代替的に、脂肪細胞の出現は、オイルレッドで細胞を染色することで容易に検出され得る。
【0106】
このように、任意的に、本発明の方法は、マーカーC/EBPδ、PPARγ、CITED1、及びPGC1αのうちの1つ以上の発現を測定若しくは評価すること、及び/又は、オイルレッドで細胞を染色することで脂肪細胞出現をモニタリングすること、からなるさらなるステップを含むとよい。
【0107】
所定の実施形態において、脂肪前駆細胞は、5〜20日間又は5〜15日間、好ましくは10〜12日間、さらに好ましくは12日間、脂肪細胞成熟培地に接触させられる。
【0108】
本発明はまた、本発明の方法で取得された脂肪前駆細胞と脂肪細胞とにも関する。
【0109】
本発明はまた、本発明の方法で取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞と、1以上の薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物にも関する。
【0110】
薬学的に許容される賦形剤は、細胞に適合する必要があり、例として、培養培地、緩衝液、又は生理食塩水であるとよい。特に、組成物はMatrigel(登録商標)又は同等の賦形剤を含み得る。
【0111】
好ましい実施形態において、医薬組成物は、好ましくは皮下経路による非経口投与、特に脂肪組織における直接投与に適する。医薬組成物は、当業者に既知の標準的薬務に従って製剤化されるとよい。
【0112】
所定の実施形態において、医薬組成物は、生体適合性マトリクスに内包化された、本発明の方法による取得の脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞を含む。特に特許文献4に記載されたものなど、多くの内包化技術が用いられ得る。
【0113】
また、医薬組成物は、例えば細胞生存性若しくは増殖性向上、又は汚染防止で知られる化合物など、1以上のさらなる活性化合物も含有し得る。
【0114】
さらに他の態様では、本発明は、特にリポジストロフィー又は代謝障害の処置のための、本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞の治療的使用に関する。
【0115】
このように、本発明は、リポジストロフィー又は代謝障害の処置に使用するための、本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞に関する。また本発明は、リポジストロフィー又は代謝障害の処置に使用するための、本発明の医薬組成物にも関する。
【0116】
本発明はまた、リポジストロフィー又は代謝障害の処置又は防止を目的とした薬剤の調製のための、本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞の使用にも関する。
【0117】
本発明は、リポジストロフィー又は代謝障害を処置するための方法にさらに関し、該方法は、治療有効量の、本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞を、処置対象に投与することを含む。好ましくは、処置対象はヒトである。
【0118】
本明細書で用いられるように、「代謝障害」という用語は、血糖コントロール異常、特に空腹時高血糖症、耐糖能異常(impaired glucose tolerance)、特に2型糖尿病である糖尿病、若しくはインスリン抵抗性に関するか、或いは肥満若しくはリポジストロフィー症候群と任意的に関連した脂質異常症に関する。患者は、そのBMIが25を超えると、好ましくは28を超えると、より好ましくは30を超えると、肥満と考えられ得る。
【0119】
リポジストロフィーは、身体の様々な領域から脂肪組織が選択的に欠損されることによって特徴づけられる障害である。脂肪欠損の程度は、非常に小さい領域から、身体全体における脂肪組織のほぼ全体的な欠乏までの範囲であり得る。患者が直面する問題は、一般に脂肪欠損の程度に比例して、まったく審美的なものであり得るか、又は重度の代謝合併症をもたらすものであり得る。
【0120】
リポジストロフィーは、脂肪欠損の一般的又は部分的特性や、既知の遺伝的因子が関連するかどうかに応じて分類される。遺伝的原因のリポジストロフィーは先天性又は遅延発症単一遺伝子障害である。遺伝子性リポジストロフィーの原因となるいくつかの遺伝子が特定されており、例として、Aタイプラミン、AGPAT2、カベオリン1、キャビン(cavin)−1、セイピン、PPARg、ペリリピン、CIDEC、又はAkt2をコードする遺伝子などが挙げられる(Guenantin他、2014年)。後天性リポジストロフィーは、薬剤処置(特に抗ウイルス治療又はインスリン注射又は他の薬剤)の結果であるか、又は通常は免疫不良(例えば、ローレンス及びバラケル−サイモンズ症候群)の結果であり得る。
【0121】
代謝障害をもたらす主要なリポジストロフィー(リポジストロフィー症候群に相当する)は、遺伝的原因の全身型リポジストロフィー(CGL(congenital generalized lipodystrophy)先天性全身型リポジストロフィー)若しくはベラルディネリ−セイプ症候群;遺伝的原因の部分型リポジストロフィー(FPLD(Familial partial lipodystrophy)家族性部分型リポジストロフィー);ローレンス型後天性全身型リポジストロフィー症候群、バラケル−サイモンズ部分型リポジストロフィー症候群、HIV感染及び抗レトロウイルス治療関連リポジストロフィー;PSMB8遺伝子変異に関連したCANDLE型自己炎症性症候群(JASP、JMP、若しくは中條(Nakajo)症候群)、ラミンA/C若しくはZMPSTE24変異に関連した、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群及び下顎肢端異形成(mandibuloacral dysplasia)を含む他の早老性症候群、WRNタンパク質変異に関連したウェルナー型プロジェリア、PCYT1A(ホスフェートシチジリルトランスフェラーゼ1α)変異に関連した脂肪萎縮症を伴う症候性小人症、NSMCE2変異に関連した小頭症小人症、などリポジストロフィーを含む多系統症候群、並びに未知の原因のリポジストロフィーを含む他の症候群、である。
【0122】
一実施形態では、処置患者の体細胞、好ましくは線維芽細胞は、iPSCを作製するために初期化される。そして、脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞は、これらのiPSCから、本発明の方法により取得されて、好ましくは皮下注射により患者に投与される。所定の実施形態では、本発明の処置方法はこのように、処置患者の体細胞から取得された誘導多能性細胞から脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞を作製するステップと、このように得た脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞を患者に投与するステップとを含む。
【0123】
遺伝的変異によるリポジストロフィーの場合、特に先天性リポジストロフィーについて、リポジストロフィーの原因における変異が特定され、例えば相同組換え、又はZFN、TALEN、若しくはCRISPR/Casに基づく遺伝子改変法(Gaj他、2013年)など、当業者には既知の方法によって修正されるとよい。この修正は、iPSCの増殖及び分化前に好ましくはおこなわれる。そして、これら「修正」iPSCから本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞は、患者に投与される。
【0124】
本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞はリポジストロフィーの処置に用いられ、脂肪材の欠損により失われた身体領域に充填されるとよい。この場合、脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞は、好ましくは、充填領域に直接的に皮下注射される。
【0125】
本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞は、代謝障害の処置に用いられるとき、例えば熱産生刺激による誘導後に、熱産生活性を有する脂肪細胞の比率を増大させる又はこの活性を有し得るように、特に脂肪組織に直接的に、好ましくは皮下注射される。
【0126】
本発明は、リポジストロフィー又は代謝障害を処置するための方法にも関し、該方法は、対象、好ましくはヒトに、本発明の方法により取得された治療有効量の脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞を投与するステップを含む。
【0127】
本明細書で用いられるような「処置」という用語は、症状を改善又は消失すること、疾患進行を緩慢にすること、疾患進化を停止すること、又は疾患を消失させることに関する。この用語には予防的及び根治的処置もまた含まれる。
【0128】
本明細書で用いられるような「治療有効量」という用語は、リポジストロフィー又は代謝障害の、少なくとも1つの審美性症状(充填)又は代謝性症状に効果をもたらすのに十分な量に関する(脂肪組織の代謝活性を回復する)。
【0129】
本発明は、脂肪前駆細胞又は脂肪細胞のインビトロでの作製用キットにも関する。
【0130】
キットは、
上述のような中胚葉分化培地に存在する1以上の化合物、好ましくはTGF−βスーパーファミリーに属する1以上のモルフォゲン、特に、アクチビンA、アクチビンB、BMP−4タンパク質、BMP−2タンパク質、TGF−β1、TGF−β2、TGF−β3、及びそれらの任意の組合せからなる群より選択される1以上のモルフォゲン、を含有する第1の容器と、
上述のような脂肪細胞分化培地に存在する1以上の化合物、好ましくはインスリン、その類似体のうちの1つ、又はIGF−1、及びグルココルチコイド、及び細胞内環状アデノシン一りん酸(cAMP)を増加させる薬剤、さらに好ましくはインスリン、デキサメタゾン、3−イソブチル−1−メチルキサンチン、及び任意的にインドメタシン、を含有する第2の容器と、
任意的に、上述のような脂肪細胞成熟培地に存在する1以上の化合物、好ましくはインスリンを含有する第3の容器と、を包含する。
【0131】
好ましくは、キットは、分化及び/又は成熟培地の再構成及び/又は使用を容易にし且つ本発明の方法の適用を容易にする濃度又は量の、1以上の化合物を含む各容器を包含する。
【0132】
また本発明のキットは、上述のような中胚葉分化培地に用いられる基本培地を含有する容器、上述のような脂肪細胞分化培地に用いられる基本培地を含有する容器、又は、上述のような脂肪細胞成熟培地に用いられる基本培養培地を含有する容器をも含む。
【0133】
所定の実施形態において、キットは、上述のような中胚葉分化培地を含有する容器、上述のような脂肪細胞分化培地を含有する容器、及び任意的に上述のような脂肪細胞成熟培地を含有する容器を含む。
【0134】
他の所定の実施形態では、キットは、
アクチビンA及び/又はBMP−4タンパク質、並びに任意的に、好ましくはヒト造血細胞の増殖に適した無血清基本培養培地、を含有する第1の容器と、
インスリン、デキサメタゾン、及びIBMX、並びに任意的に基本培養培地、好ましくは血清を任意的に含む基本合成最小培地、を含有する第2の容器と、
インスリン、及び任意的に基本培養培地、好ましくは血清を任意的に含む基本合成最小培地、を含有する任意的な第3の容器と、を包含する。
【0135】
第2の容器はインドメタシンをさらに含有するとよい。
【0136】
本発明のキットは、特にフラスコ、複数ウェルプレート、又はディッシュの形態で、接着培養系をも含むとよい。
【0137】
キットは、本発明の方法によるインビトロでの脂肪前駆細胞又は脂肪細胞作製用の分化又は成熟培地を調製及び/又は使用する方法を示す指示書を含んでもよい。
【0138】
また本発明は、本発明の方法によるインビトロでの脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞作製のための、本発明のキットの使用にも関する。
【0139】
他の態様において、本発明は、治療的対象分子をスクリーニングするための、本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞の使用に関する。
【0140】
治療的対象分子は、特にベージュ脂肪細胞の表現型を活性化する分子、さらに特には脂肪組織の熱産生活性を増大させる分子であるとよい。これらの分子は、上述のような代謝障害の処置又は防止に特に有用であり得る。
【0141】
このように、本発明は対象分子をスクリーニングするための方法に関し、該方法は、
本発明の方法により取得された脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞を、候補分子に接触させるステップと、
所望の活性を有する分子を選択するステップとを含む。
【0142】
本発明は、脂肪細胞の熱産生活性を促進する分子をスクリーニングするための方法にも特に関し、該方法は、
本発明の方法により取得された脂肪細胞を、1以上の候補分子に接触させるステップと、
脂肪細胞の熱産生活性を促進する分子を選択するステップとを含む。
【0143】
脂肪細胞の熱産生活性は、例えば、細胞の酸素消費測定を含む非直接的評価方法(Oxoplate、又はSeahorse technologies)など、当業者には既知の技術により評価されるとよい。
【0144】
所望する分子の特性次第で、脂肪前駆細胞及び/又は脂肪細胞作製に使用される多能性幹細胞は、健康な対象、又は例えば上記規定のような代謝障害を有する対象など既定の病態を有する対象から取得されるとよい。
【0145】
本明細書において引用された文献すべては、言及によって本願に組み込まれる。本発明のその他の特徴や有用性は、非限定的例示として示される以下の実施例を閲覧することでより明白になる。
【実施例】
【0146】
[材料と方法]
−ヒト誘導多能性幹(iPS)細胞培養−
ヒト線維芽細胞をiPS細胞に初期化するのに用いられる技術は、ウイルスベクター(センダイウイルス)を用いて改変した、山中他による記載のプロトコル(Takahashi他、2007年)からのものである。対照の対象からのiPS細胞をMatrigel(登録商標)(hESC Matrigel、BD Biosciences社、カタログ番号3542777)で培養し、増殖培地mTESR(登録商標)1(STEMCEL Technologies社、カタログ番号.05850)を毎日取り変えた。細胞を、1mg/mLの濃度のコラゲナーゼタイプIV(Gibco社)に、4日毎に供し(45分、37℃)、800rpmで4分間遠心分離した。そして、細胞をmTESR(登録商標)1に再懸濁し、5mLピペットを用いてクローンを機械的に単離した。約20細胞のクラスターを、Matrigel(登録商標)で事前にインキュベートしたディッシュに播種した。
【0147】
−脂肪細胞分化−
図1に、本発明の実施形態の概略的図を示す。
【0148】
酵素分離と機械的解離との後、iPS細胞をMatrigel(登録商標)に播種した。mTESR(登録商標)1において1日又は2日培養し、70%コンフルエントに達した後、0日目として定義されるときに、細胞を中胚葉前駆細胞作製のための分化培地:2mMのGlutaMAX(Invitrogen社、カタログ番号35050061)で富化した完全STEMPro34(Life Technologies社、カタログ番号10639011)、10μg/mLアスコルビン酸(Sigma社、カタログ番号A4403)、10ng/mLのBMP4(R&D Systems社、カタログ番号314‐LP)、及び25ng/mLアクチビンA(R&D Systems社、カタログ番号338‐AC)、に配置した。この中胚葉誘導培地を2日目に取り変えた。
【0149】
4日目に、10μg/mLインスリン(Sigma社、カタログ番号I9278)、0.5mMイソブチルメチルキサンチン(Sigma社、カタログ番号I5879)、1μMデキサメタゾン(Sigma社、カタログ番号D4902)、及び50μMインドメタシン(Sigma社、カタログ番号I7378)で補完した分化培地DMEM/F12、10%FCSを用いて、中胚葉前駆細胞の脂肪細胞分化を誘導した。7日目に、培養培地を同様の培地に取り変えた。そして、脂肪細胞を成熟させるために、1μg/mLインスリンで補完したDMEM/F12、10%FCSにおいて、細胞を20日目まで培養した。
【0150】
−免疫蛍光法−
細胞を、3%PFAで、室温において15分間固定した。非特異的部位を、3%PBS−BSAにおいて細胞をインキュベートすることで遮断した。PBS、0.1%TritonX100又は0.1%サポニン、3%BSAの溶液に希釈した、対象のタンパク質に特異的なモノクローナル又はポリクローナル抗体(以下の表1)の存在下で、細胞の調製物をインキュベートした。このように形成されたタンパク質と抗体との複合体を、蛍光色素と共有結合し且つPBS、0.01%TritonX100又はサポニン、3%BSAの溶液に希釈した2次抗体で、光を避けて室温で1時間、細胞をインキュベートすることで検出した。抗ウサギIgG又は抗マウスIgG2次抗体をAlexa488(Invitrogen社、1:1000)に結合させた。調製物を25ng/mLナイルレッド(Molecular Probes、N−1142)と共に15分間インキュベートし、PBSで3回すすいで、DAPI(4′−6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、VWR)中で5分間インキュベートした。封入剤(Fluoromount−G、Southern Biotech社)の適用後に、共焦点顕微鏡(Leica社)を使用して細胞を観察した。
【0151】
表1は用いられた抗体を示す。
【0152】
【表1】
【0153】
−アルカリホスファターゼ染色−
細胞を、95%エタノールで、15分間室温で固定した。細胞を、PBSで3回すすいだ後、SigmaFAST BCPI/NBT溶液(カタログ番号B5655)で、5分間、37℃、5%COにおいてインキュベートした。
【0154】
−中性脂質のオイルレッド染色−
分化20日後に、脂肪細胞にオイルレッド染色をおこなった。細胞を、1×PBSですすいだ後、4%(w/v)パラホルムアルデヒド中で1時間固定して、イソプロパノールにおいて希釈した「オイルレッドO」(Sigma社)溶液中で2時間インキュベートした。細胞を水道水で4回すすいだ。
【0155】
−リアルタイム定量PCR−
NucleoSpin RNAキット(Macherey Nagel)を製造者の推奨に従って使用して、総RNAを抽出した。抽出した総RNAの濃度と、溶媒又は塩によるその汚染とを顕微分光測光法(Nanodrop)によって評価した。高能力cDNA逆転写キット(Applied Biosystems社)を用いて、逆転写をおこなった。そして、10倍希釈のcDNA2μL、SYBR Green I PCR混合物10μL(Roche Diagnostics社、DNAポリメラーゼ、dNTP、3mMのMgCl、及びSYBR Green蛍光プローブを含む)、0.2μMセンスプライマー、及び0.2μMアンチセンスプライマー(以下の表2)を添加することで、定量PCRをおこなった。対象の遺伝子発現をノーマライズするために、参考遺伝子GAPDHを用いた。
【0156】
表2は用いられたプライマーを示す。
【0157】
【表2】
【0158】
−間葉系幹細胞(MSC)へのiPSCの分化−
iPSCを機械的に継代し、そしてKnockOut DMEM(Invitrogen社)、20%FCS、1%非必須アミノ酸、1%GlutaMAX(Invitrogen社)、50μMのβ−メルカプトエタノール(Sigma社)、10ng/mLのFGF2(Peprotech社)、1mMのAA2P(Sigma社)からなる分化培地のゼラチン(Sigma社)に播種した(P0)。10〜15日の培養後、細胞をトリプシン(Gibco)で継代し、1/2に希釈した(P1)。90%コンフルエントに達した時、細胞を継代し、1/3に希釈した(P2)。次の継代では、8000細胞/cmで細胞をゼラチンに播種した。6〜7継代後、均質で安定的なMSC個体群を得た。
【0159】
−脂肪細胞のβ−アドレナリン刺激−
脂肪細胞を、任意的に、10−5Mイソプロテレノール(Sigma社)で6時間処理し、タンパク質試料を収集した。より長い刺激では、脂肪細胞を非代謝型cAMP類似体の8−Br−cAMP(Sigma社)で48時間処理した。
【0160】
−脂肪細胞のミトトラッカー染色−
分化20日目の生細胞を、1μMミトトラッカーRed CMXRos(Life Technologies社)とともに、37℃、5%COにおいて、暗所で45分間インキュベートした。細胞をPBSで2度すすいだ後、3%PFAで、室温において15分間固定した。そして、調製物を、1ng/mLのBODIPY493/503(Molecular Probes(登録商標)、D−3922)とともに15分間インキュベートし、PBSで3回すすいで、その後、DAPI(4’−6−ジアミジノ−2−フェニルインドール、VWR)中で5分間インキュベートした。封入剤(Fluoromount−G、Southern Biotech社)適用後、共焦点顕微鏡(Leica社)を用いて細胞を観察した。
【0161】
−ウエスタンブロット−
脂肪細胞を、適切な量の溶解緩衝液(50mMトリスpH7.4、0.27Mショ糖、1mMオルトバナジン酸ナトリウムpH10、1mMのEDTA、1mMのEGTA、10mMβ−グリセロリン酸、50mMのNaF、5mMピロリン酸、1%(w/v)トリトンX−100、0.1%(w/v)2−β−メルカプトエタノール、及びプロテアーゼ阻害剤)中で溶解した。全溶解物を遠心分離(15,000g、4℃、10分間)し、使用するまで−80℃で保管した。タンパク質濃度を、標準物質としてのウシアルブミンとともに、ブラッドフォード法を用いて測定した。試料を、ポリアクリルアミドゲル上でSDS/PAGE移動に供し、ニトロセルロース膜(Amersham Biosciences社)に移し、5%(w/v)スキムミルク又はBSAで補完したTBS−T緩衝液(50mMのTris−HCl pH7.6、150mMのNaCl、0.1%(v/v)のTween−20)中で、2時間室温で遮断し、目的のタンパク質に特異的な種々の抗体とともにインキュベートした(上記表1)。
【0162】
ニトロセルロース膜をTBS−T緩衝液中で5分3回すすぎ、ペルオキシダーゼと結合した2次抗体とともにインキュベートした。化学発光(Pierce−Perbio Biotechnologies社)を用いてオートラジオグラフィックフィルム(Kodak社)に曝露することで信号を検出した。
【0163】
−標準核型分析−
Gバンド及びRバンドにより核型分析する標準的方法を用いて核型を作製した。
【0164】
−インビボでの脂肪細胞移植−
培養18日目に、TrypLE Express(Life Technologies社、番号12604021)を用いて細胞を収集し、10μg/mLインスリン、500μMのIBMX、1μMデキサメタゾン、及び50μMインドメタシンを含むDMEM/F12/Matrigel培地に再懸濁した。10細胞を、生後6週のFoxn1nuヌードマウス(Taconic)の背部に皮下注入した。またこれらのマウスには、iPS細胞由来の3×10間葉系幹細胞(MSC)、又は対照としてMatrigelのみを、胸骨に注入した。移植30日後にマウスを安楽死させる。
【0165】
−ヘマトキシリン及びエオシン(HE)染色−
新規形成ヒト脂肪層を切除し、4%PFA中で固定し、パラフィンに包埋し、そして4μm部分に切り分けた。脱パラフィン後に、自動システムにてスライドを染色する。スライドをヘマトキシリン中で5分間インキュベートし、流水ですすぎ、エオシン溶液中で2分間インキュベートし、流水ですすぎ、一連の2回の無水アルコール浴、その後トルエンに浸漬し、樹脂で封入する。
【0166】
−抗ペリリピン1抗体での免疫標識:免疫組織化学−
脱パラフィン後に、EDTA緩衝液(pH8若しくはpH9)において水浴中で、又はクエン酸緩衝液(pH6)においてマイクロウェーブで加熱することで(15分、95℃)、抗原部位を1次抗体の官能基としてアンマスクする。過酸化水素(3%)の存在下で5分間インキュベーションすることで、内在性ペルオキシダーゼの阻害が可能になる。非特異的部位阻害は、スライドをDakoユニバーサル血清において20分間インキュベートすることでおこなわれる。
【0167】
Bond1次抗体希釈剤(Dako)において1:500希釈の1次抗体(抗ペリリピン1、Progen社、ペリリピン/PLIN1のMab、カタログ番号651156)を室温で1時間インキュベートする。Dako洗浄緩衝液で連続して数回すすいだ後、スライドをHRP2次抗体とともに30分間インキュベートする(抗モルモット、抗体希釈剤において1:100)。スライドをすすいだ後、AEC試薬とともに5分3回のインキュベーションをして、免疫組織化学標識を発色させる(3−アミノ−9−エチルカルバゾールキット、Vector Laboratories社)。スライドを流水に浸漬することで、この発色を停止する。そしてスライドをヘマラムで対比染色して、カバーガラスを水性封入剤で封じる(グリセルゲル封入剤、Dako)。
【0168】
[結果]
−使用iPS細胞株の多能性特性−
図2は、使用iPS細胞が予期された多能性特性を有することを示す。細胞は、はっきりとした境界を有する、密なコロニーに形成される(図2A、2B)。細胞は、アルカリホスファターゼ染色などの多能性マーカーに陽性であり(図2B)、NANOG、SOX2、OCT4、TRA−1−60、TRA−1−81、及びSSEA3/4タンパク質を発現する(図2C)。さらに、これらの細胞は、H9株胚性幹細胞のものと同様のレベルでOCT4、NANOG、及びSOX2を発現し、多能性特性を示す(図2D)。
【0169】
−中胚葉前駆細胞及び脂肪前駆細胞の作製−
図3は、分化時における多能性マーカーOCT4、NANOG、及びSOX2発現の下落(図3A)と、iPS細胞が特定の中胚葉分化培地に供されるときの、初期中胚葉を特徴づける2つの遺伝子ブラキウリとMESP1との遺伝子発現の誘導(図3B)とを示す。ブラキウリ(Tボックス)及びMESP1の遺伝子発現は分化4日後に75倍増加し、中胚葉前駆細胞の効率的作製を示す。これらのマーカーのタンパク質発現を免疫蛍光法によって確認した(図3C)。予期されたように、これらの遺伝子発現は脂肪細胞分化誘導後に(6日目)減少する(図3B)。中胚葉前駆細胞におけるブラキウリ及びMESP1発現の所定の特徴を示すため、これらマーカーの発現をiPS細胞の間葉系幹細胞(MSC)への分化時に分析した(図3D)。これらのマーカーはMSCでは発現されず、本発明の方法により得られた中胚葉前駆細胞はMSCとは異なる。
【0170】
そして、これらの中胚葉前駆細胞は、ヒト脂肪組織の幹細胞について記載された所定のマーカーを発現する脂肪前駆細胞に分化する。実際に、分化4〜12日の間に、PDGFRα、LY6E、CD44、及びCD29遺伝子発現は増加する(図3E)。並行して、CD24発現は、脂肪細胞に向かう分化時に減少する(図3E)。マーカーCD44、CD29、及びPDGFRαは、12日目のタンパク質レベルで同時発現される(図3F)。さらに、同じこれらの細胞はマーカーKi67に陽性であり(図3F)、増殖性前駆個体群の存在を示す。
【0171】
−脂肪細胞分化−
特定の脂肪細胞遺伝子の発現は分化時に測定される。図4は、脂肪細胞分化時に誘導されたC/EBPα、C/EBPβ、C/EBPδ、及びPPARγ転写因子の遺伝子発現が、脂肪生成分化混合物の添加後(4日目)、8〜12日の間に徐々に増加することを示す。この高発現レベルが20日目に維持される。同様に、脂肪細胞特異的アイソフォームPPARγ2とC/EBPα p30/42とのタンパク質発現を分化10日目から観察した(図5B及び図5C)。図5Cにおいて、インスリン受容体(IR)など脂肪細胞に重要な役割を果たすタンパク質、ペリリピン1やカベオリン1など脂肪滴に関連するタンパク質(図5C)、並びにグルコーストランスポーターGLUT4(図5B)の発現が脂肪細胞分化時に誘導されることが示される。
【0172】
−脂肪細胞作製−
図5Aは、種々の倍率における脂肪細胞のオイルレッド染色を示す。脂質蓄積は培養ディッシュ全体で均質である。細胞はクラスターに形成され、円形を示し、いくつかの脂肪滴を含有する。これらの細胞はインビトロで脂肪細胞の形態特性を有する。
【0173】
図5Bは、核の同時標識を伴う、中性脂質標識の他の方法を示す。図は、脂肪細胞の中心から外れた核、及び脂肪滴の特徴的形成を示す。
【0174】
−分化効率−
図5Aは、脂肪滴が中性脂質染色で標識された脂肪細胞の広範囲視野を示す。これらの画像により、60%を超えるような分化効率を評価することが可能になる。
【0175】
実際に、分化の20日後に、62%(±2%SEM)の細胞が核において脂肪細胞マーカC/EBPαを発現する。このように、得られた脂肪細胞は、インスリン受容体(IR)α-サブユニット及びその標的AKT/PKの強力なリン酸化を誘導することで短時間のインスリン処理に反応可能である(図5D)。
【0176】
−ベージュ脂肪細胞作製−
図6Aにおいて、得られた脂肪細胞は、PGC1α、PRDM16、及びUCP1などの「従来の褐色」遺伝子を発現するが、MYF5やZIC1などの前駆細胞や成熟褐色脂肪細胞に特異的な遺伝子を発現しないことが示される。UCP1タンパク質発現は、10日目から検出可能である(図6B)。またこれらの細胞は、TMEM26、CITED1、CD137、及びHOXC9などのベージュ(又は「ブライト」)脂肪細胞に特異的な遺伝子をも発現する(図6C)。CITED1タンパク質発現は分化した脂肪細胞において観察可能である(図6D)。さらに、強力なUCP1タンパク質誘導がβ−アドレナリン刺激後に観察される。この強力な誘導はベージュ脂肪細胞の主要な特徴の1つである(図6E)。この結果に伴って、8−Br−cAMPでの刺激は、48時間後のベージュ脂肪細胞ミトコンドリア数(図6F)と、PGC1α、PRDM16、PPARα、及びDIO2などの熱産生に関わる遺伝子発現(図6G)とにおいて増加を示す。このように、これらすべての結果は、ヒトiPS細胞由来の脂肪細胞はベージュ型表現型を有することを示す。
【0177】
−インビボでの脂肪組織形成−
脂肪細胞分化培地の存在下におけるMatrigel(登録商標)での培養の18日後、生後6週の免疫不全マウスの背中に10細胞を皮下注入する(図7A)。MSC又はMatrigel(登録商標)のみを、対照として、同じマウスの胸骨に注入した(n=3)。30日後、脂肪層が細胞注入部位に現れ、Matrigel(登録商標)注入部位には現れない。ヒトiPS細胞由来の脂肪細胞注入後に形成された脂肪層の組織学的分析は、完全に分化、組織化、及び血管新生化された脂肪組織を示す(図7C、D)。一方で、iPS細胞由来の間葉系幹細胞(MSC)の注入後に形成された組織は、広範囲領域に存在する線維芽細胞型細胞と少数の脂肪細胞とを含む不均質組成を有する(図7C、D)。iPS細胞由来の脂肪細胞又はMSCから形成された脂肪層を構成する細胞は、ペリリピン1標識で示される脂肪滴を有する(図7E)。こうして、これらのすべての結果は、本発明により取得された脂肪細胞がインビボで脂肪組織を形成可能であることを示す。
【0178】
[結論]
2次元での多能性幹細胞の分化により、脂肪生成混合物に供したときに脂肪前駆細胞、そして脂肪細胞に分化する能力を有する中胚葉前駆細胞を作製することが可能である。本発明の方法で取得された脂肪細胞は、この細胞型に特徴的な転写因子を発現し、トリグリセリド形態で脂質を蓄積する。これらの脂肪細胞は、一度移植されるとインビボで脂肪層を形成可能である。さらに、今までインビトロでは記載のなかったベージュ型ヒト脂肪細胞作製をこの方法が可能にすることを発明者等は示した。終わりに、この方法では、未分化多能性幹細胞から多くの脂肪細胞がたった20日で作製可能である。
【0179】
[参考文献]
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図1
図2
図3a
図3b
図4
図5
図6a
図6b
図7
【配列表】
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【国際調査報告】