(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022033497
(43)【公開日】2022-03-02
(54)【発明の名称】走査型イオンコンダクタンス顕微鏡
(51)【国際特許分類】
G01Q 60/44 20100101AFI20220222BHJP
【FI】
G01Q60/44 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020137427
(22)【出願日】2020-08-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「ケミカルマッピングを実現するナノ電気化学顕微鏡の創成」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 康史
(57)【要約】
【課題】微小電流の計測性能の向上を図ることで、走査速度の高速化を可能にした走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)の提供を目的とする。
【解決手段】試料を保持する試料ステージと、前記試料に対して計測用のプローブを位置制御するプローブ保持手段と、前記プローブを介して得られた信号を計測する微小電流計測器を備え、前記微小電流計測器は前記プローブ保持手段と一体的に又はその近傍に設けられていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持する試料ステージと、
前記試料に対して計測用のプローブを位置制御するプローブ保持手段と、
前記プローブを介して得られた信号を計測する微小電流計測器を備え、
前記微小電流計測器は前記プローブ保持手段と一体的に又はその近傍に設けられていることを特徴とする走査型イオンコンダクタンス顕微鏡。
【請求項2】
前記微小電流計測器は前記プローブ保持手段と連結具を用いて一体的に連結してあることを特徴とする請求項1記載の走査型イオンコンダクタンス顕微鏡。
【請求項3】
前記微小電流計測器は電流の計測回路に、帰還抵抗、スイッチトキャパシタ回路、光フィードバック回路のいずれかが組み込まれていることを特徴とする請求項1又は2記載の走査型イオンコンダクタンス顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型イオンコンダクタンス顕微鏡に関し、特に微小電流の計測性能の向上を図った高速走査型イオンコンダクタンス顕微鏡に係る。
【背景技術】
【0002】
走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(scanning ion conductance microscope:SICM)は、走査型イオン伝導顕微鏡とも称され、走査型プローブ顕微鏡(scanning probe microscope:SPM)に属する顕微鏡である。
SICMは、プローブとして電解質液で満たしたナノピペットの内部に非分極性の電極を挿入し、試料を保持した電解質側にあるもう一本の非分極性の電極との間に電圧を加えることで生じるイオン電流を測定することで、試料の表面情報を得ることができる。
これにより、細胞のように柔らかい生物試料であっても測定可能であり、ナノスケールで可視化できることから、ウイルス等の取り込み等も連続的に可視化できることが期待されている。
【0003】
このようにSICMでは、プローブ側の電極と試料側の電極との間の電位と、それにより生じる微小のイオン電流の変化を計測することが必要となる。
SICMでは、この微小なイオン電流を微小電流計測器により計測する。
ナノピペット内に挿入した電極と微小電流計測器との間が離れると、その分だけ電極から微小電流計測器までをつなぐ配線が長くなり、その配線由来の寄生容量成分が大きくなり、電流計測に遅れが生じ、高速イメージングのネックとなる。
【0004】
例えば特許文献1には、ナノピペットからなるプローブの動作をホッピングモードにて行う際に、走査ヘッド,制御部及びPCからなるSICMを開示し、走査ヘッドそのものの構造は明示されていないものの、制御部と走査ヘッドの間は多数の配線で接続されている旨の記載があり、この配線にてイオン電流を制御,検出し、デジタル信号又はアナログ信号を搬送する旨の記載があることから、電極と電流計測器とは大きく離れているものと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、微小電流の計測性能の向上を図ることで、走査速度の高速化を可能にした走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る走査型イオンコンダクタンス顕微鏡は、試料を保持する試料ステージと、前記試料に対して計測用のプローブを位置制御するプローブ保持手段と、前記プローブを介して得られた信号を計測する微小電流計測器を備え、前記微小電流計測器は前記プローブ保持手段と一体的に又はその近傍に設けられていることを特徴とする。
【0008】
ここでプローブ保持手段とは、内部に電極が挿入されたナノピペット等のプローブを保持し、試料表面との相対的距離を制御可能になっているものをいう。
例えば、試料ステージ側をピエゾ素子等の圧電アクチュエータにて水平方向のXY軸位置制御し、プローブの先端部と試料表面との垂直方向の距離を位置制御するピエゾ素子からなる圧電アクチュエータをプローブ保持手段側に設ける構造例が例として挙げられる。
【0009】
本発明において、微小電流計測器をプローブ保持手段と一体的に、又はその近傍に設けられていると表現したのは、プローブ及び試料ステージを有する顕微鏡内部に微小電流の計測器を設けた趣旨であって、従来の顕微鏡内部以外に計測器を設けたものと区別する意味である。
従って、プローブ保持手段と一体的に設けられている形態のみならず、プローブ側の電極と微小電流計測器との配線距離が従来よりも短くなるように、プローブ保持手段の近傍に設けた形態も含まれる。
このように配線距離を短くすることで、微小電流の際に課題となる寄生容量由来の遅れを減少させることが可能となり、計測速度を向上させることができる。
【0010】
本発明において、微小電流計測器は前記プローブ保持手段と連結具を用いて一体的に連結してあってもよい。
このようにすると、顕微鏡本体側に、プローブ保持手段と微小電流計測器とをセットにして取り付け,取り外しが可能になる。
【0011】
本発明において、微小電流計測器は電流の計測回路に帰還抵抗、スイッチトキャパシタ回路、光フィードバック回路のいずれかが組み込まれてもよい。
例えば、スイッチトキャパシタ(Switched capacitor)は、リセットのためのスイッチとコンデンサーとを組み合せたものであり、帰還抵抗の微小電流計測器に比べ、低ノイズ・高速の微小電流計測が可能である。しかし、キャパシタに溜まった電荷をリセットする際に生じるチャージインジェクション由来の電流が高感度な電流計測の妨げとなっていた。そこで、このリセットのタイミングをホッピング動作の引き上げのタイミングと同期させることで、リセットノイズを減らすことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る走査型イオンコンダクタンス顕微鏡は、プローブを保持及び位置制御するプローブ保持手段の近傍、又は一体的に微小のイオン電流等の微小電流計測器を設けたので、電極と微小電流計測器との間の容量成分による応答の遅延や、ノイズによる影響を小さく抑えることができるので、試料の走査速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るSICMの内部の構造例を示す。
【
図2】(a)はプローブ保持手段と計測器とを連結具にて一体化した構造例を示す。(b)は細胞からなる試料の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係るSICMの内部の構成例を
図1に示す。
また、プローブ保持手段16と微小電流計測器18とを連結具15にて一体化した構造例を
図2(a)に示す。
【0015】
除振台11の上面にXYステージ20を設け、これに試料を保持する試料ステージ21を設けた例になっている。
XYステージ20は、X軸方向に位置制御するためのピエゾ素子からなる圧電アクチュエータと、Y軸方向に位置制御するためのピエゾ素子からなる圧電アクチュエータを有し、これにより水平方向にXY制御される。
垂直方向であるZ軸方向は、除振台11の上面から立設した支持部12に上下方向に大きく移動制御されたステッピングモータ13を有する。
このステッピングモータ13を介して、プローブ16aと微小電流を計測する微小電流計測器18が取り付けられている。
【0016】
プローブ16aとしては、ナノピペットを用い、内部に図示を省略した電極を配置し、電解液で満たされている。
拡大図を
図2(a)に示すようにプローブ16aは、プローブ保持手段16に取付ネジ等の取付具16bにて所定の位置に保持されている。
このプローブ16aの先端部の高さをZ軸方向に移動制御するためのZ軸アクチュエータ17を介して、連結具15に設けられている。
Z軸アクチュエータ17は、ピエゾ素子からなる圧電アクチュエータにて構成されている。
【0017】
イオン電流等の微小電流を計測するための微小電流計測器18を有し、この微小電流計測器18は立設した計測器保持部19を介して連結具15に連結されている。
これにより、
図2(a)に示すようにプローブ16aを保持するためのプローブ保持手段16と、微小電流計測器18とが連結具15にて一体化され、連結具15の両側の取付部15a,15bをステッピングモータ13側に設けた支柱状の固定部14a,14bにボルト等の固定具14c,14dを介して取り付けたり、取り外しが可能になっている。
【0018】
微小電流計測器18は、プローブ16aの内部に設けた電極と、試料ステージ21側に設けた電極と配線され、両電極間に発生したイオン電流の変化を検出及び計測することになるが、微小電流計測器18をプローブ保持手段16を介してプローブ16aの近傍に配置したので、配線の距離を従来の外部に計測器を設ける構造よりも容量成分を小さく抑えることができ、プローブ16aにて得られた信号を微小電流計測器18にて計測する応答性が向上し、プローブ16aを移動制御する圧電アクチュエータへのフィードバックも向上する。
【0019】
本発明に係るSICMを用いて細胞からなる試料1の表面を走査,計測する例を
図2(b)に基づいて説明する。
試料1とプローブ16aとの水平方向の相対的な位置関係は、XYステージ20の移動制御にて行われる。
プローブ16aは、試料1の表面の所定の近い位置まではステッピングモータ13の下降で動作する。
所定の位置からは、Z軸アクチュエータ17の動作により、プローブ16aの先端部を試料表面に向けて下降して行くと、両電極間に印加されている電圧に基づいて発生しているイオン電流が減少する。
この際のイオン電流の値が所定の閾値以下になった時点でのプローブ16aの先端部の高さを検出することで、試料1の表面形状等が計測されることになる。
例えば、ホッピングモードにて走査動作を行う場合には、XYステージ20の操作により、X軸方向又は/及びY軸方向に一定の間隔で移動させる動作と、Z軸アクチュエータ17の上下方向の動作を組み合せる。
プローブ16aの先端部が試料1の表面に近接し、微小電流計測器18にて計測した電流値が閾値以下になると、プローブ16aが退避動作を行う動作を繰り返すことで、細胞(試料1)の表面の形態が顕微鏡観察できる。
この場合に、プローブ16aのホッピング動作と同期するように、微小電流計測器18の計測回路にスイッチトキャパシタ回路を組み込むことで、リセット時のノイズを減らすことができる。
【0020】
本発明においては、プローブ16aの近傍に小型の微小電流計測器18を配置した点に特徴が有り、Z軸アクチュエータ17としては、これまで提案されている各種圧電アクチュエータを採用することができる。
本実施例では、
図2(b)に示すようにトレース用の圧電アクチュエータ17a,ホッピング用の圧電アクチュエータ17b、及び退避用の圧電アクチュエータ17cの3つに分割した例になっている。
これにより、試料1をX軸又はY軸方向に移動させる動作と、プローブの先端部をホッピング2させる動作を同期させながら、試料1の表面形状等をトレース3することができる。
【符号の説明】
【0021】
11 除振台
12 支持部
13 ステッピングモータ
14a 固定部
14b 固定部
15 連結具
16 プローブ保持手段
16a プローブ
17 Z軸アクチュエータ
18 微小電流計測器
19 計測器保持部
20 XYステージ
21 試料ステージ