(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
【公報種別】再公表特許(A1)
(11)【国際公開番号】WO/0
(43)【国際公開日】2019年5月31日
【発行日】2020年11月19日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料に利用される耐環境性の被覆強化繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 11/79 20060101AFI20201023BHJP
【FI】
D06M11/79
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
【全頁数】19
【出願番号】特願2019-555397(P2019-555397)
(21)【国際出願番号】PCT/0/0
(22)【国際出願日】2018年11月26日
(31)【優先権主張番号】特願2017-226714(P2017-226714)
(32)【優先日】2017年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,ST,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DJ,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JO,JP,KE,KG,KH,KN,KP,KR,KW,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「革新的構造材料」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 武志
(72)【発明者】
【氏名】小谷 正浩
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】北岡 諭
(72)【発明者】
【氏名】横江 大作
(72)【発明者】
【氏名】松田 哲志
【テーマコード(参考)】
4L031
【Fターム(参考)】
4L031AA29
4L031AB01
4L031BA20
4L031DA17
(57)【要約】
繊維強化複合材料に利用される耐高温水蒸気酸化性の被覆強化繊維は、強化繊維と、前記強化繊維を覆い、希土類シリケートを含む被覆層と、前記被覆層と前記強化繊維との界面に介在する剥離層と、前記強化繊維と前記剥離層と前記被覆層とを覆う追加的被膜層と、を備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化複合材料に利用される耐環境性の被覆強化繊維であって、
強化繊維と、
前記強化繊維を覆い、希土類シリケートを含む被覆層と、
前記被覆層と前記強化繊維との界面に介在する剥離層と、
前記強化繊維と前記剥離層と前記被覆層とを覆う追加的被膜層と、
を備えた被覆強化繊維。
【請求項2】
前記追加的被膜層はシリコンカーバイドを含む、請求項1の被覆強化繊維。
【請求項3】
前記剥離層は希土類シリケートを含む、請求項1または2の被覆強化繊維。
【請求項4】
前記被覆層および前記剥離層の希土類シリケートはイッテルビウムシリケートである、請求項3の被覆強化繊維。
【請求項5】
前記強化繊維はシリコンカーバイドを含む、請求項1の被覆強化繊維。
【請求項6】
前記剥離層は、前記強化繊維に対して有機希土類化合物を含む第1の雰囲気において第1の加熱を実行することにより形成されたものであり、
前記被覆層は、前記第1の加熱に曝された後の前記強化繊維に対して第2の雰囲気において前記第1の加熱とは異なる第2の加熱を実行することにより形成されたものである、請求項1の被覆強化繊維。
【請求項7】
前記第2の雰囲気は前記第1の雰囲気と同一の有機希土類化合物を含む、請求項5の被覆強化繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、繊維強化複合材料に利用される耐環境性の強化繊維に関し、特に航空機のタービン動翼ないし静翼のごとく厳しい酸化性環境に利用される繊維強化複合材料において、希土類シリケートのごとき素材よりなるコーティングが強化繊維とマトリックスの界面に介在する被覆強化繊維
【背景技術】
【0002】
航空機のタービンは、吸い込んだ空気の圧縮および燃料の燃焼に伴う高温に接し、またかかる空気は無視し得ない量の水蒸気を含むので、厳しい高温酸化性環境に曝される。以前より耐熱材料としてニッケル基超合金が利用されてきたが、さらなる軽量化および耐熱性向上のために、セラミックス基複合材料(CMC)の利用が検討されている。CMCは、例えば炭化ケイ素(SiC)繊維よりなる織物をSiCよりなるマトリックスと複合化した材料(SiC/SiC)である。その他、C/C,C/SiC,SiC/Si
3N
4,Al
2O
3/Al
2O
3等の種々の組み合わせがありうる。
【0003】
SiC繊維は極めて高い強度を有するものの、亀裂の伝播には比較的に脆弱である。マトリックスから繊維への亀裂の伝播を防ぎ、靱性を増大するべく、予め繊維を例えばボロンナイトライド(BN)により被覆する技術が開示されている。特許文献1,2は、関連する技術を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2016/132821A1号公報
【特許文献2】特開2015−203129号公報
【発明の概要】
【0005】
BNは耐熱性は高いものの、比較的に水蒸気酸化されやすい。それゆえタービン動翼ないし静翼等へ適用するときには、被膜を水蒸気酸化から保護する追加的な工夫が必要である。マトリックスから強化繊維に及ぶ亀裂を効果的に阻止しながら、それ自体が水蒸気酸化に耐性を有するコーティングを備えた強化繊維が必要とされている。
【0006】
一局面によれば、繊維強化複合材料に利用される耐高温水蒸気酸化性の被覆強化繊維は、強化繊維と、前記強化繊維を覆い、希土類シリケートを含む被覆層と、前記被覆層と前記強化繊維との界面に介在する剥離層と、前記強化繊維と前記剥離層と前記被覆層とを覆う追加的被膜層と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
被覆層はマトリックスからの亀裂の伝播を防ぐ一方、剥離層は亀裂が強化繊維に向かうことを防ぎ、以って繊維強化複合材料の強度を高める。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、強化繊維を耐環境性コーティングで被覆するための装置の模式図である。
【図2A】図2Aは、強化繊維および支持体を概略的に示す平面図である。
【図2B】図2Bは、強化繊維および支持体を概略的に示す立面図である。
【図3A】図3Aは、一の例による加熱条件を模式的に表すグラフである。
【図3B】図3Bは、他の例による加熱条件を模式的に表すグラフである。
【図4】図4は、被覆繊維の模式的な断面図である。
【図5】図5は、被膜が部分的に剥離した被覆繊維の模式的な断面図である。
【図6】図6は、ストランド引張試験のための試験片の平面図である。
【図7】図7は、模擬的な繊維強化複合材料の引張試験結果を表すグラフである。
【図8】図8は、過熱水蒸気による酸化試験後の模擬的な繊維強化複合材料の断面を観察した走査電子顕微鏡写真であって、比較例に関するものである。
【図9】図9は、過熱水蒸気による酸化試験後の模擬的な繊維強化複合材料の断面を観察した走査電子顕微鏡写真であって、本実施形態に関するものである。
【図10】図10は、図8の領域Xにおいて測定されたX線光電子分光スペクトルを表すグラフである。
【図11】図11は、図8の領域XIにおいて測定されたX線光電子分光スペクトルを表すグラフである。
【図12】図12は、図8の領域XIIにおいて測定されたX線光電子分光スペクトルを表すグラフである。
【図13】図13は、図9の領域XIIIにおいて測定されたX線光電子分光スペクトルを表すグラフである。
【図14】図14は、図9の領域XIVにおいて測定されたX線光電子分光スペクトルを表すグラフである。
【図15】図15は、図9の領域XVにおいて測定されたX線光電子分光スペクトルを表すグラフである。
【図16】図16は、図9の領域XVIにおいて測定されたX線光電子分光スペクトルを表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
添付の図面を参照して以下に幾つかの例示的な実施形態を説明する。
【0010】
繊維強化セラミックスに利用される強化繊維は、既に述べた通り例えばSiCを含み、あるいはSiCよりなるが、これに代えて、あるいは加えて、炭素(C)、窒化ケイ素(Si
3N
4)あるいはアルミナ(Al
2O
3)のごときセラミックスが利用できる。特に限定されないが、例えば各々5〜15μmのフィラメントであって数百〜数千本のフィラメントが束ねられたものを、強化繊維として利用することができる。そのようなSiCよりなる強化繊維としては、市販で入手しうるものが利用でき、例えばチラノ繊維(宇部興産株式会社)の名称で入手できるものやニカロンないしハイニカロン(NGSアドバンストファイバー株式会社)の名称で入手できるものが利用できる。
【0011】
かかる強化繊維は、耐環境性コーティングにより覆われる。例えば化学式Re
2Si
2O
7あるいはRe
2SiO
5(Reは任意の希土類元素)により表される希土類シリケートは、水蒸気酸化性の雰囲気において高い耐酸化性を有し、また酸化されたとしても低融点の生成物を作らない。また希土類シリケートはSiCのごときセラミックスと強固な結合を作る。それゆえ耐環境性コーティングは、少なくともその表面に露出した被覆層において、好ましくは希土類シリケートを含み、あるいは好ましくは希土類シリケートよりなる。希土類シリケートの中では、耐水蒸気酸化性の点からはイッテルビウムシリケートが好適である。
【0012】
上述の耐環境性コーティングは、さらに、強化繊維との結合を弱める剥離層を含む。本発明者らによる検討によれば、希土類シリケートが強化繊維に強固に結合すると、強化繊維の強度がむしろ損なわれる場合があることが分かった。その理由は希土類シリケートは強化繊維とマトリックスの両方に強固に結合するために、応力の印加によりマトリックスまたは耐環境性コーティングに亀裂が生じると、かかる亀裂は耐環境性コーティングを通って強化繊維にまで進展し易いからであると推測される。剥離層は強化繊維に対する結合を弱めることにより、亀裂の進展を剥離層において留め、あるいは亀裂を剥離層に沿って進展させることにより強化繊維を保護する。強化繊維はその本来の強度を発揮し、以って繊維強化複合材料の強度向上に寄与する。
【0013】
剥離層は、強化繊維上に形成され、または強化繊維に直接に接し、すなわち被覆層よりも下層であってもよい。この場合に剥離層は被覆層と強化繊維との界面に介在してもよい。これに代えて、または加えて、剥離層は、被覆層よりも上層にあってもよい。
【0014】
剥離層は、被覆層とは異なる素材よりなるものであってもよい。例えば一方がRe
2Si
2O
7よりなり、他方がRe
2SiO
5よりなることにより、その間の剥離を促すことができる。あるいは、同一の素材であって結晶形の異なるものであってもよい。例えばRe
2Si
2O
7は多形であるので、一方がそのうちの一の結晶形であり他方が他の結晶形であってもよい。あるいは剥離層は、被覆層と同一または異なる素材であって多数の空洞や穴のごとき欠陥を含むものであってもよく、同一の素材であって異なる素材をさらに含むものであってもよい。例えば被覆層は多形のうちの一の結晶形のみを含み、剥離層は複数の結晶形を含むことができる。さらにあるいは、これらの組み合わせであってもよい。
【0015】
耐環境性コーティングは、気相法やディップ法などの公知の何れの方法によっても形成することができるが、例えば熱CVD法によることができる。図1を参照して、例示的な熱CVD法プロセスを以下に説明する。
【0016】
CVD装置1は、概して、反応槽としてチャンバ3と、反応ガスを供給するガス供給装置5と、排気のための排気装置7と、反応ガスを加熱するための加熱装置9と、を備える。強化繊維11は、支持体41によりチャンバ3内に保持されて反応に曝される。
【0017】
チャンバ3には、雰囲気制御可能なコールドウォールチャンバを利用することができる。チャンバ3は気密に閉塞することができるよう構成され、これにガス供給装置5および排気装置7が接続され、その内部は減圧することができる。ガス供給装置5にはガスの流量を調整するための弁ないしマスフローコントローラを介在せしめることができ、排気装置7にも流量調整弁を介在せしめることができる。ガス供給装置5によるガスの供給量と排気装置7による排気量との均衡により、内部の圧力を任意に調節できる。反応時の圧力は、例えば200乃至2000Paの程度である。
【0018】
図1においてはチャンバ3は水平方向に長く描かれている。このような形状は、縦長の強化繊維11を水平に収納するために都合がよいが、形状はもちろん任意である。チャンバ3は、例えば垂直方向に長くてもよく、その場合に強化繊維11は鉛直に垂下してもよい。
【0019】
ガス供給装置5は、2組以上のガス供給源および供給路の組み合わせを備え、それぞれガスをチャンバ3に供給することができる。図1においては2組のガス供給源51A,51Bおよび供給路53A,53Bが描かれているが、これは例示に過ぎず、3組以上であってもよい。例えば一のガス供給源51Aはキャリアガスボンベと原料加熱炉とを備えてもよく、原料加熱炉において原料を加熱して揮発せしめ、これをキャリアガスとともに供給路53Aに供給することができる。他のガス供給源51Bは、他のガスを供給するボンベを備えることができる。
【0020】
二以上の供給路53A,53Bはチャンバ3に気密に陥入しており、それらの先端は反応点に向けられて開口している。その付近において、二以上の供給路53A,53Bは、同心的に重ねあわされた二重管53Cを成していてもよい。これはガス同士が反応点の以前において混合して事前に反応を起こしてしまうことを防ぐのに役立つ。
【0021】
排気装置7は、チャンバ3に気密に接続された流路7Fと、流路7Fに気密に接続された真空ポンプ7Pと、を備え、チャンバ3内を排気し、また減圧にする。
【0022】
加熱装置9は、強化繊維11を加熱してその表面で反応を起こさせる。反応が生じる領域を限定する観点から、加熱装置9には局所的かつ遠隔的な加熱が可能な手段を利用することができ、その例はレーザ装置9Lである。レーザ装置9Lには、半導体レーザ、YAGレーザあるいは炭酸ガスレーザ等の公知のレーザを利用することができるが、これは実施形態を限定するものではない。レーザ装置9Lはチャンバ3外に設置することができ、チャンバ3が備える窓を通して強化繊維11にレーザ光9Rを照射し、これを加熱する。
【0023】
レーザ装置9Lに代えて、あるいは加えて、カーボンヒータ9’のごとき輻射ないし伝熱による加熱手段を利用してもよい。あるいは可能ならば、強化繊維11に直接に通電し、あるいはこれに誘導電流を生じさせることによるジュール加熱を利用してもよい。
【0024】
加熱温度を測定するべく、熱電対やパイロメータのごとき測温装置9Cを備えてもよく、また測定結果に応じて加熱装置9をフィードバック制御してもよい。
【0025】
支持体41は、図2Aに示すごとく、例えば金属よりなる矩形のフレーム41Fであってもよい。フレーム41Fは、その長手方向の両端にクランプ41Cを備えることができ、強化繊維11の両端はそれぞれクランプ41Cに挟まれて支持される。加熱と冷却とがもたらす膨張収縮による悪影響を避けるべく、強化繊維11は僅かに弛ませることができる。また支持体41はチャンバ3に固定されなくてもよく、反応を継続しながら徐々に移動できるように構成されていてもよい。あるいは支持体41は不動であって、加熱装置9の移動により反応点を徐々に移動できるように構成されていてもよい。これらは長範囲にコーティングを施すことを可能にする。
【0026】
あるいは支持体41は、図2Bに示すごとく、二対のピンチローラ41Rであってもよい。強化繊維11は各対のピンチローラ41Rに挟まれて支持される。上述と同じく、二対のピンチローラ41R間において強化繊維11は僅かに弛ませることができる。反応を継続しながら、強化繊維11を一方の対のピンチローラ41Rから他方の対に向かって連続的に走行させてもよい。これは特に長範囲にコーティングを施すのに有利である。またこの場合、強化繊維11はフィーダ43から送り出され、反応後の繊維をワインダ45に巻き取ってもよく、フィーダ43およびワインダ45はチャンバ3内に設置されてもよく、あるいは外に設置されてもよい。これはチャンバ3の寸法を越えて長範囲にコーティングを施すことを可能にする。
【0027】
次いで、図1に組み合わせて図3A,3Bを参照して、強化繊維を耐環境性コーティングで被覆する方法を以下に説明する。イッテルビウムシリケートよりなる耐環境性コーティングを形成する場合を例示するが、他の希土類シリケートでも、原料が異なることを除いて実質的な相違はない。また剥離層を下層に、被覆層を上層にする場合を例示するが、その逆である場合も、第1,第2の加熱における条件が異なるに過ぎず、実質的な相違はない。
【0028】
イッテルビウムシリケートの原料は、例えば、有機イッテルビウム化合物の一種であるトリスジピバロイルメタナトイッテルビウム(化学式Yb(dpm)
3)、およびテトラオキシシラン(化学式Si(OC
2H
5)
4、TEOSと略称される)である。以下の説明において、単に原料と称する。
【0029】
強化繊維11は支持体41に支持されてチャンバ3内に導入される。チャンバ3は気密に閉塞され、通常は反応に先立ち、その内部は適当な時間真空に引かれる。これは不純物を低減するのに役立つ。真空引きは、通常、ガス供給源51A,51Bを閉塞して排気装置7を稼働させることによる。
【0030】
原料は常温で液体であるので、原料加熱炉において気化せしめる。原料の蒸気におけるYb(dpm)
3の混合比により、Ybモル分率を調整することができる。Ybモル分率は、例えば0乃至100mol%である。被膜に非晶質が含まれることを抑制しようとするならばYbモル分率は高いほうがよく、例えば5mol%以上である。また被膜にβ−Yb
2Si
2O
7が含まれることを抑制しようとするならばYbモル分率はさらに高いほうがよく、例えば50mol%以上である。また被膜に酸化イッテルビウムが含まれることを抑制しようとするならばYbモル分率は低いほうがよく、例えば95mol%以下である。また被膜にYb
2SiO
5が含まれることを抑制しようとするならばYbモル分率はさらに低いほうがよく、例えば80mol%以下である。
【0031】
ガス供給源51Aを開き、かかる混合蒸気をアルゴンのごときキャリアガスと共に供給路53Aを通してチャンバ3に供給する。これに加えて、ガス供給源51Bを開き、酸素を供給路53Bを通してチャンバ3に供給する。供給量と排気量との均衡により、チャンバ3内の圧力を調整することができる。圧力は、例えば200乃至2000Paである。
【0032】
(第1の雰囲気)
加熱装置9を稼働し、反応点における強化繊維11の温度を上昇せしめる。測温装置9Cにより温度を測定し、加熱装置9の出力を調整して、例えば500乃至900℃の範囲の温度T
1に制御し、これを例えば3乃至15分の範囲の時間t
1の間保持する(第1の加熱)。測温装置9Cによる測定に応じて加熱装置9をフィードバック制御してもよい。
【0033】
加熱を継続しながら、強化繊維11を移動することにより、あるいは加熱装置9を移動することにより、反応点を徐々に移動してもよい。この場合、加熱される領域の大きさに応じ、加熱が時間t
1の間継続されるよう、移動速度を定める。
【0034】
第1の加熱を終了した後、図3Aに示すごとく、適宜の時間をかけて強化繊維11を冷却して常温にまで下げてもよい。この場合、強化繊維11はチャンバ3から一旦取り出してもよく、また次に説明する第2の加熱は他のチャンバにおいて実施してもよい。もちろん図3Bに示すごとく、第1の加熱に継続して第2の加熱に移行してもよい。この場合には第2の加熱は同一のチャンバ中において実施することができる。
【0035】
第1の加熱により、強化繊維11上にイッテルビウムシリケートよりなる被膜が形成され、これは後述の剥離層15の起源となる。
【0036】
チャンバ3を再び真空引きした後、あるいは真空引きなしに、ガス供給源51A,51Bを開き、Ybモル分率を適宜に調整しながら、Yb(dpm)
3およびTEOSよりなる原料ガスおよび酸素をチャンバ3に供給する。供給量と排気量との均衡により、チャンバ3内の圧力を調整し、例えば200乃至2000Paの範囲に制御する。かかる第2の雰囲気は、上述の第1の雰囲気と同一でもよいが、相違していてもよい。例えばYbモル分率または圧力を変更することにより、被膜をより緻密にすることができる。
【0037】
雰囲気制御の後、加熱装置9を稼働して反応点において強化繊維11を加熱し、例えば500乃至900℃の範囲の温度T
2に制御し、これを例えば3乃至15分の範囲の時間t
2の間保持する(第2の加熱)。既に述べた通り、フィードバック制御を利用することができる。温度T
2は上述の温度T
1と同一でもよいが、相違していてもよい。例えば温度T
2を温度T
1より高めることにより、被膜をより緻密にすることができる。
【0038】
第1の加熱による被膜は、そのままで、あるいは第2の加熱により変質し、剥離層15を構成する。かかる剥離層15上に、第2の加熱による新たなイッテルビウムシリケート層が生じ、これは後述の被覆層17である。
【0039】
第2の加熱の後に、さらに同様な手順を繰り返して、被覆層17上にさらに他の被覆を形成してもよい。あるいは上述とは異なる例えばディップ法等のプロセスを適用して、追加的な被覆を形成してもよい。
【0040】
追加的な被覆には、被覆層17および剥離層15を熱力学的に安定化する物質を選択することができる。例えば被覆層17および剥離層15が共に希土類シリケートよりなるとき、特にイッテルビウムシリケートよりなるとき、これを熱力学的に安定化するシリコンカーバイドを、追加的な被覆は含んでいてもよい。かかる安定化物質なしでは、十分に酸化的でない雰囲気において希土類シリケート、特にイッテルビウムシリケートYb
2Si
2O
7が加熱されると、これはYb
2SiO
5へ分解し、さらにはYb
2O
3へと分解する。イッテルビウムシリケートがシリコンカーバイドと共存するとき、イッテルビウムシリケートは熱力学的により安定となり、かかる分解反応が抑制される。すなわちシリコンカーバイドを含む、あるいはシリコンカーバイドよりなる追加的な被膜は、被覆層17および剥離層15の耐環境性をより高める。
【0041】
追加的な被膜を形成するには、チャンバ3を再び真空引きした後、あるいは真空引きなしに、ポリカルボシランのごとき原料を気化したものを例えばアルゴンをキャリアとしてチャンバ3に供給する。原料はポリカルボシランに限られず、メチルトリクロロシランや他の適宜のガスを利用することができる。供給量と排気量との均衡により、チャンバ3内の圧力を調整し、例えば200乃至2000Paの範囲に制御し、加熱装置9を稼働して反応点における強化繊維11の温度を上昇せしめる。測温装置9Cにより温度を測定し、加熱装置9の出力を調整して、例えば1000乃至1200℃の範囲の温度に制御し、これを例えば3乃至15分の範囲の時間の間保持する(第3の加熱)。測温装置9Cによる測定に応じて加熱装置9をフィードバック制御してもよい。
【0042】
加熱を終了した後、適宜の時間をかけて被覆繊維21を冷却して常温にまで下げ、チャンバ3から取り出す。図4を参照するに、被覆繊維21は被膜13により被覆され、かかる被膜13は剥離層15と被覆層17とよりなる。おそらくは下層は剥離層15であり、上層は被覆層17であるが、顕微鏡観察したときに図示のごとく明瞭に区別できる2層が必ずしも観察されるわけではない。またかかる説明とは反対に、上層を剥離層15とし、下層を被覆層17としてもよい。追加的被膜はこれらのさらに上層に生じ、これらと強化繊維とを共に被覆する。
【0043】
被覆層17は強化繊維11を環境から保護するとともに、マトリックスにおいて生じた亀裂が強化繊維11に及ぶのを妨げる。剥離層15は被覆層17と強化繊維11(あるいはマトリックス)との間の結合を弱め、被覆層17に及んだ亀裂が強化繊維11に及ぶのをさらに妨げ、あるいは亀裂を剥離層15に沿って進展させることにより亀裂の進展を強化繊維11から逸らせる。強化繊維11には亀裂が及ばずにその本来の強度を発揮できるので、かかる構造は繊維強化複合材料の強度を向上する。
【0044】
本実施形態による効果を検証するため、耐環境性コーティングで被覆された強化繊維を、フェノール樹脂よりなるマトリックスと複合した繊維強化複合材料につき、引張試験を行った。
【0046】
強化繊維はチラノ繊維SAグレードの名称で入手できるものであり、7.5μm径のSiC繊維が1600本束ねられたものである。これに表1に掲げる6種の成膜条件で被膜を形成した。Ybモル分率は50mol%(試料a〜c)、60mol%(試料d)、70mol%(試料e)および80mol%(試料f)の範囲であり、第1の加熱は650℃で、第2の加熱は900℃で実施した。ただし試料aについては650℃で実施される1回の成膜のみが実施され、すなわち被膜は1層のみである。また試料bについては同じく900℃の加熱による1層の被膜のみが形成されている。
【0047】
各試料を樹脂に埋め込んで研磨し、断面を観察した。典型的には図5に示すごとく、強化繊維11と被膜13とが密着して見える界面19Bと、剥離して見える剥離面19Fとが観察される。画像解析により両者を区別し、強化繊維の周長A
0に対する剥離面19Fの長さA
1の比として剥離率を測定した。結果は表1の右端から2番目のカラムに記載されている。
【0048】
一方、試料b〜fをそれぞれ、図6に示すごとくフェノール樹脂よりなる帯状のマトリックス33に埋め込んだ複合材31とし、さらに光学観察のための一対のターゲット35を付して試験片とした。試験片の幅Wは20mmであり、全長は100mmだが、一対のターゲット35間における試験片長さLは30mmである。その全体を幅40mmのタブに接着し、タブごと引張試験機にかけて引張試験を行った。引張試験を連続的にビデオ撮影し、そのビデオを画像解析することにより一対のターゲット35間の変位が測定できる。強化繊維単体の引張強度に対する複合材料の引張強度の比として強度比を算出した。結果は表1の右端のカラムに記載されている。
【0049】
表1より明らかな通り、単層のもの(試料a,b)に比べて、2層よりなる被膜を有する試料(試料c〜f)は、剥離率が顕著に高く、剥離層が被膜の結合を弱めることが明らかである。一方、単層のもの(試料b)に比べて、剥離層を含む被膜を有する試料(試料c〜f)は、強度比が顕著に高い。剥離層が繊維強化複合材料の強度を高める効果が明らかである。
【0050】
本実施形態による強化繊維がセラミックス基を強化する効果を検証するべく、強化繊維をシリコンカーバイドよりなるマトリックスと複合した模擬的なCMCについて、引張試験を行った。
【0051】
強化繊維はチラノ繊維SAグレードの名称で入手できるものであり、7.5μm径のSiC繊維が1600本束ねられたものである。炉中を800Paに保ちながらYbモル分率が57mol%である原料ガスを供給し、波長1470nmの半導体レーザ装置9Lにより繊維を加熱して850℃において10分間の成膜を実施し、さらにYbモル分率が44mol%である原料ガスを供給しながら1100℃において5分間の成膜を実施し、さらにポリカルボシランを供給して1150℃において5分間の加熱により追加的な被膜を付加した。すなわち、かかる実施例においては、被覆強化繊維は、強化繊維と、イッテルビウムシリケート層(剥離層および被覆層)と、これらを被覆するシリコンカーバイド層(追加的被覆層)と、よりなる。シリコンカーバイド層は、イッテルビウムシリケート層を実質的な隙間なく被覆する。さらに公知のPIP法により、かかる被覆強化繊維がシリコンカーバイドよりなるマトリックスにより被覆して、模擬的なCMC(実施例E)とした。
【0052】
比較例として、同じ強化繊維に公知の方法によりBNコーティングを施し、同様にシリコンカーバイドよりなるマトリックスにより被覆して、模擬的なCMC(比較例C)を作成し、試験に供した。
【0053】
図7は、得られた比較例Cと実施例Eにつき応力ひずみ曲線を測定した結果である。応力ひずみ曲線において、実施例Eと比較例Cとに顕著な差異はなく、いずれの引張強度(応力)も400MPaを越えて同等である。強化繊維を含まないシリコンカーバイド単体は、破線Nで示す程度のひずみで破断するので、被覆強化繊維がセラミックス基を強化する効果は明らかである。
【0054】
引張試験後の破断面を観察したところ、強化繊維がマトリックスから引き抜かれた痕跡が認められた。このことから、破壊が強化繊維とマトリックスの間、すなわちコーティング層において生じると推測できる。従って本マトリックスにおいて生じた亀裂が強化繊維に及ぶことを妨げうると推測できる。
【0055】
同じ試料について、公知の繊維押し抜き法により界面剪断強度を測定した。BNコーティングされた比較例においては界面剪断強度が31.3±6MPaであり、イッテルビウムシリケートによりコーティングされた実施例においては28.5±13MPaであった。すなわちマトリックスから繊維への亀裂の伝播を防止する効果は、イッテルビウムシリケートとBNでは顕著な差がないと推測できる。
【0056】
耐酸化性を検証するべく、過熱水蒸気による加熱試験を行った。実施例と比較例による模擬CMCを800℃の過熱水蒸気中において40分間保持し、加熱後の試料を切断し、樹脂に埋め込んで研磨し、断面を走査電子顕微鏡により観察した。図8は比較例(BNコーティング)の断面写真であり、図9は実施例(イッテルビウムシリケートおよびシリコンカーバイドよりなる追加的被覆)の断面写真である。
【0057】
図8に示す比較例においては、強化繊維11Cの直上に観察されるはずのBN層は認められず、代わりに間隙Gが観察され、またマトリックス25Cの内層にはこれとコントラストの異なる層25Oが観察される。マトリックス25C内の領域XにおいてX線光電子分光スペクトルを測定すると、図10に示すごとく、炭素および珪素の他に、酸素に由来するピークが認められる。一方、層25O内の領域XIにおいて測定すると、図11に示すごとく、酸素に由来するピークが増大している。領域XIIにおいて測定すると、図12に示すごとく、ほぼ珪素と炭素に由来するピークのみが認められる。層25Oはマトリックスが酸化されたものであり、BN層は過熱水蒸気により酸化して消失したと推定される。
【0058】
図9に示す実施例においては、強化繊維11E上に被覆層および剥離層と考えられる層15E,17Eが認められ、その上に互いに僅かにコントラストの異なる層23E,25Eが認められる。比較例と異なり、空隙は認められず、これらの層は密に接している。
【0059】
層25E内の領域XIIIにおいてX線光電子分光スペクトルを測定すると、図13に示すごとく、図10のものに類似しており、炭素,酸素,珪素に由来するピークが認められ、すなわち層25Eはマトリックスであると推定される。層23E内の領域XIVにおいて測定すると、炭素、酸素、珪素のピークが認められる。僅かに示されるイッテルビウムのピークは、試験片中内に広がる電子線により隣接するイッテルビウムシリケート層からの信号を反映したものと考えられ、特段の酸化は受けていないようである。層15E,17E内の領域XVにおいて測定すると、図15に示すごとく、炭素,酸素,イッテルビウム,珪素に由来するピークが認められ、かかる層は主にイッテルビウムシリケートであると推定される。領域XVIにおける測定結果は図16に示すごとく、図12と類似しており、かかる領域は強化繊維11Eである。
【0060】
すなわち実施例においては過熱水蒸気による酸化試験後も各被膜が残存していると推定され、実施例は比較例よりも優れた耐酸化性を有すると言える。
【0061】
幾つかの実施形態を説明したが、開示内容に基づいて実施形態の修正ないし変形をすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
繊維強化複合材料の強度を著しく高める耐高温水蒸気酸化性の被覆強化繊維が提供される。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【国際調査報告】