(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】特表2016-531398(P2016-531398A)
(43)【公表日】2016年10月6日
(54)【発明の名称】シリコン系負極用弾性ゲルポリマー結合剤
(51)【国際特許分類】
H01M 4/134 20100101AFI20160909BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20160909BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20160909BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20160909BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-531820(P2016-531820)
(86)(22)【出願日】2014年7月29日
(85)【翻訳文提出日】2016年3月9日
(86)【国際出願番号】US2014048638
(87)【国際公開番号】WO2015017418
(87)【国際公開日】20150205
(31)【優先権主張番号】61/859,485
(32)【優先日】2013年7月29日
(33)【優先権主張国】US
(81)【指定国】
AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,KM,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IR,IS,JP,KE,KG,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SA,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US
(71)【出願人】
【識別番号】398071440
【氏名又は名称】ザ・ペン・ステイト・リサーチ・ファウンデイション
【氏名又は名称原語表記】The Penn State Research Foundation
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ダンガーイ
(72)【発明者】
【氏名】ソン、ジャンシュワン
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050BA17
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA10
5H050EA23
5H050HA01
5H050HA05
(57)【要約】
カルボキシル基を有する少なくとも2つのポリマーでできているポリマーゲル結合剤と、シリコン粒子とから構成される、リチウムイオン電池に使用するための負極。ポリマーは化学的に架橋してポリマーネットワークを形成し、ポリマーネットワークとシリコン粒子との間に共有結合性エステル結合が形成される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、リチウムイオン電池に使用するための負極:
カルボキシル基を有する少なくとも2つのポリマーを含むポリマーゲル結合剤であり、
前記少なくとも2つのポリマーは、化学的に架橋されてポリマーネットワークを形成する、ポリマーゲル結合剤、及び
シリコンであり、
前記シリコン粒子と前記ポリマーネットワークとの間に共有結合性エステル結合が形成されたシリコン。
【請求項2】
少なくとも2つのポリマーは、架橋ポリマー、オリゴマー、ポリマーの複合体、及びオリゴマーの複合体からなる群から選択される、請求項1に記載の負極。
【請求項3】
ポリマーゲル結合剤は、ポリ(アクリル酸)及びポリ(ビニルアルコール)を含む、請求項1に記載の負極。
【請求項4】
ポリマーゲル結合剤は、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリ(ビニルアルコール)(PVA)、クエン酸、及びグリセロール、並びにそれらの組合せからなる群から選択される少なくとも2つの化合物を含む、請求項1に記載の負極。
【請求項5】
PVAとPAAの質量比が1:9である、請求項3に記載の負極。
【請求項6】
ゲル結合剤が、クエン酸とグリセロールとを含む、請求項1に記載の負極。
【請求項7】
ゲル結合剤が、PAAとクエン酸とグリセロールとを含む、請求項1に記載の負極。
【請求項8】
シリコン粒子が、約0.1nmから約1000μmの平均粒径を有する、請求項1に記載の負極。
【請求項9】
シリコン粒子が、約2nmから約100μmの平均粒径を有する、請求項7に記載の負極。
【請求項10】
シリコン粒子が、約50nmの平均粒径を有する、請求項8に記載の負極。
【請求項11】
更に導電性カーボンを含む、請求項1に記載の負極。
【請求項12】
請求項1に記載の負極を含むリチウムイオン電池。
【請求項13】
30から50重量%のシリコン粒子であって約50nmの平均粒径を有する前記シリコン粒子と、30から50重量%のカーボンブラックと、10から30重量%のPAA及びPVA水溶液とを含む、リチウムイオン電池に使用するための負極であって、
前記PAA及びPVA水溶液が、9:1の重量比を有する、リチウムイオン電池に使用するための負極。
【請求項14】
シリコン粒子と、カーボンブラックと、水溶性クエン酸−グリセロール結合剤とを含むリチウムイオン電池に使用するための負極であって、
前記水溶性クエン酸−グリセロール結合剤が、クエン酸とグリセロールの1:1の質量比を有する、リチウムイオン電池に使用するための負極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2013年7月29日に出願された米国仮特許出願第61/859,485号の優先権を主張する。当該出願は、参照により本明細書に取り込まれる。
【0002】
(米国連邦政府支援の研究又は開発に関する記述)
本発明は、エネルギー省によって授与された助成金番号DE−AC02−05CH11231の下に政府の支援で行われた。米国連邦政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
リチウムイオン電池に使用するための負極(anode)材料、これらの材料を含む負極、及びこれらの負極を含む電池
【背景技術】
【0004】
リチウムイオン電池(LIB)は、様々な携帯用電子機器に適用され、ハイブリッド電気自動車(HEV)及び電気自動車(EV)用の電源として性能が追求されている。大規模利用の要件を満たすため、根本的に改善されたエネルギー密度と電力容量とを備えたLIBが、非常に望まれている。
【0005】
LiB用の負極に関しては、Liと共に金属間化合物合金を電気化学的に形成できる材料が、高い理論容量を有することから、多大な関心を集めてきている。これらの中でも、シリコン(Si)が広く研究されており、それは、Siの高い容量(Li
3.75Siの場合、室温で、3572mAhg
−1の重量容量及び8322mAhcm
−3の体積容量)と低い充放電電位(約0.4Vの脱リチウム電圧)のためである。
【0006】
しかし、Siは、リチウムの挿入/脱離の間に生じる非常に大きな体積変化(>300%)を受ける。Siの体積膨張の異方性について、原子レベルでその由来が検討されている。Siの体積膨張は、(110)方向(格子を示す)で生じやすいことが見出され、これは、好適な(110)の界面エネルギーが最も小さく、その界面の背後でリチウム化を促進するためである。
【0007】
体積変化の問題は、激しい微粉化や、Si粒子とカーボン導電剤との間の電気的接触の破壊もつながるとともに、不安定な固体電解質界面相(SEI)形成につながり、ひいては、特に高い電流密度で、電極の劣化と急速な容量の消失をもたらす。これらの欠点を克服するために、多くの努力が、Si粒子、多孔質Si材料、及びコア・シェル構造のSiナノワイヤの合成に向けて焦点が当てられてきた。Siの凝集を防ぎ、それにより電気化学的性能を高く向上するためである。しかし、Siの体積変化に起因して、電極の変形及び外部セルの膨張は依然として生じ、それによりSi材料の実用化が制限される。
【0008】
これらの問題に対処するため、最近の研究では、高容量のSi系負極の可逆性を改善するために、結合剤に焦点が当てられている。特に、Si系負極の激しい体積変化を抑制することができる官能性結合剤(functional binder)の開発に関心が向けられている。例えば、駒場らは、ポリアクリル酸(PAA)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)などのカルボキシ基を含有するポリマー結合剤が、Si系負極中のポリ(フッ化ビニリデン)(PVDF)結合剤よりも、より良好にはたらくことを報告した(Electrochemistry,2011年,79巻,6−9頁)。これらの中で、結合剤のカルボキシ基と、Si表面上にある部分的に加水分解されたSiO
2との間の、共有結合性の化学結合が、Si負極の効果的な結合及び改良されたサイクル安定性において、重要な役割を果たす。大量の結合剤含有量を用いてSiの体積変化が収容されている場合、適度に安定した性能を達成することができるが、そのような大量の結合剤の使用は、負極容量の絶対値の大幅な低下をもたらす。
【0009】
近年、茶色のアルギン酸塩から抽出された高弾性の天然多糖類が、例えば、PVDF、PAA、及びCMCなどのポリマー結合剤と比較して、非常に安定なSi負極をもたらすことが報告された。しかし、その可逆容量は、理論容量の4000mAh/gよりもはるかに小さかった。Kooらは、リチウム化の際のSi負極の大きな体積膨張を緩和することにより、Si負極の電気化学的性能を向上するために利用できる、環状及び線状ポリマーを含有する架橋結合剤を見つけた(Angewandte Chemie International Edition 51(35):8762−8767頁)。
【0010】
線状又は架橋構造を有するこれらの結合剤は、電極材料の候補として、Si負極用の可能性のある解決策を提供するが、それらの結合剤のすべては、堅牢な構造、及びSiとの強固な結合を通じて、体積膨張を防止するように設計されている。必要とされるのは、サイクル中にSiと共に膨張すると同時に回復することができる結合剤である。これにより、Si負極の電気化学的特性、特にサイクル特性が、更に向上する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書の開示により、可逆的なポリマーネットワークからなるスマート結合剤(smart binder)を提供する。この可逆的なポリマーネットワークは、修復機能を備えた可撓性のある構造を有し、リチウムの挿入及び脱離の際のSi負極の大きな体積変化を緩和する。これにより、サイクル性能が改善する。本Si系負極用のポリマーゲル結合剤、及びこれらの材料から形成された負極を含む。
【0012】
Si系負極は、リチウムの挿入及び脱離の際に大きな体積変化を受け、これによりSi系負極は機械的に崩壊する。この崩壊は、電気伝導ネットワークの崩壊、Si粒子の孤立化、及び最終的に容量の消失につながる。シリコンを用いて負極結合剤の特性を強化することにより、本発明の実施形態により、電気化学的性能が向上する。例えば、本発明の実施形態によれば、改善されたクーロン効率、サイクル特性、及びレート性能を提供することができる。ポリマー結合剤(好ましくはポリ(アクリル酸)(PAA)及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)結合剤)を用いた、これらのSi系負極の特性強化は、可撓性があり且つ可逆的な、結合剤のネットワーク構造に強く依存する。可撓性があり且つ可逆的なネットワーク構造(本明細書において、しばしば「スマート」結合剤(“smart”binder)と称する)は、Si粒子の崩壊を防止し、サイクル中のSiと導電性カーボンとの間の電気的接触を保つのに役立つであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】約50nmの平均粒径を有する球形であるシリコン粒子を示す。
【0014】
【図2】PAA、PVA及びシリコン粒子の化学構造及び化学的相互作用を示す。
【0015】
【図3】100℃で10時間、その後150℃で2時間、熱架橋した後のPVA−PAAのFTIRスペクトルを示す。
【0016】
【図4】PAA−PVA、NaCMC、及びPVDF結合剤を用いたSi電極のサイクル性能を示す。
【0017】
【図5】PAA−PVA、NaCMC、及びPVDF結合剤を用いたSi電極のクーロン効率を示す。
【0018】
【図6】高いレート(4Ah/g)での、PAA−PVA結合剤を用いたSi負極のサイクル性能を示す。
【0019】
【図7】400mAh/gでの、PVA−PAA結合剤を用いたシリコン負極に基づくハーフセルの典型的な電位プロファイルを示す。
【0020】
【図8】サイクル前とサイクル後における、異なる結合剤を用いたシリコン負極の形態変化を示す。画像中のスケールバーは1μmである。
【0021】
【図9】NaCMC及びPVA/PAA結合剤を用いたSi−黒鉛負極のサイクル特性の比較を示す。
【0022】
【図10】PVA−PAAを用いたSi−黒鉛のレート特性が、NaCMCを用いたSi−黒鉛のレート特性よりも優れていることを示す。
【0023】
【図11】クエン酸及びグリセロールの化学構造を示す。
【0024】
【図12】図12A及び図12Bは、400mAh/gでの、クエン酸/グリセロール結合剤のサイクル性能を示す。
【0025】
【図13】高い電流(4Ah/g)での、クエン酸/グリセロール結合剤のサイクル性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本Siを強く結合するカルボキシル基及びヒドロキシル基を有するポリマーゲル結合剤を提供する。このポリマーゲル結合剤は、三次元のゲルネットワークにより、引っ張りに対して高い機械的耐性と回復可能な変形とを示す。2つの異なるポリマーは化学的に架橋され、ゲルポリマー結合剤として、希釈した架橋ネットワークを形成する。本明細書に記載された構造は、任意の大きな動きに対応して変化し、それでもなお、これと同時に、Si−結合剤の結合強度を効果的に維持することが期待される。
【0027】
ゲルポリマー結合剤は、膨張プロセスの間に特大の体積変化(500から1000倍まで)を受け、且つ、収縮プロセスにおいて元の状態に回復する能力を有する。このゲルポリマー結合剤は、本明細書の実施形態に従って、リチウムイオン電池用の負極に用いることができる。
【0028】
この種類のポリマーゲルネットワークは、大きな体積変化に耐える能力を有する。本明細書には、水溶性のポリ(アクリル酸)(PAA)及びポリ(ビニルアルコール)(PVA)に基づく、Si負極用のスマートポリマーネットワークが記載されている。PAAとPVAは両方とも線状ポリマーであり、それらの主鎖に、−COOH(PAA)及び−OH(PVA)の官能基を有する。これらの官能基は、これらの2つのポリマーの親水性を付与し、シリコン粒子との良好な適合性をもたらす。
【0029】
カルボキシル官能基を有する、可撓性のある可逆的なポリマーネットワークが、Si粒子に強く結合し、シリコン粒子に沿った可逆的な形態変化を通じて、引っ張りに対する高い機械的耐性と、特に回復可能な変形とを示す。いかなるシリコン粒子サイズも有用であり得るが、いくつかの実施形態では、2nmから100マイクロメートルの間である。これにより、4Ag
−1の高い電流密度であっても、優れたサイクル安定性と高いクーロン効率をもたらす。いくつかの実施形態では、電流密度は、2.0と8.0Ag
−1の間で変化してもよい。
【0030】
この種のスマートポリマー結合剤は、PAA−PVA系に限られない。任意の他のポリマー又はオリゴマー又はそれらの複合体(2つ又は3つの成分、複数の成分であってもよい)が、Si用のスマート結合剤として、可撓性のポリマーネットワークを構築するために使用できる。例えば、クエン酸−グリセロール系、及びPAA−クエン酸−グリセロール系が構築されてもよい。ここでは、これらのすべての系は、系内の成分の希釈した架橋を通じて、ゲルネットワークを形成することができる。好ましい三次元の希釈した架橋ネットワーク(変形可能なゲルネットワークと呼ばれる)を形成することができるポリマー/オリゴマー混合物である。ゲルはまた、例えば−COOH及び/又は−OHなどの官能基を有するのがよい。
【0031】
本発明の実施形態では、リチウムイオン電池に使用するための負極は、ポリマーゲル結合剤とシリコン粒子とを含む。このポリマーゲル結合剤は、カルボキシル基を有する少なくとも2つのポリマーでできている。これらのポリマーは、化学的に架橋されてポリマーネットワークを形成する。シリコン粒子とポリマーネットワークとの間に共有結合性エステル結合が形成される。
【0032】
一実施形態では、ポリマーは、架橋ポリマー、オリゴマー、ポリマーの複合体、及びオリゴマーの複合体からなる群から選択される。好ましい実施形態では、ゲル結合剤は、0.01〜99.9:0.01〜99.9の質量比で、ポリ(アクリル酸)(PAA)とポリ(ビニルアルコール)(PVA)とを含む。更なる実施形態では、質量比は、1〜50:1〜50である。更なる実施形態では、PVAとPAAの質量比は、0.5〜1.5:8〜10である。より好ましい実施形態では、PVAとPAAの質量比は、1:9である。
【0033】
別の実施形態では、ゲル結合剤は、クエン酸及びグリセロールでできている。更に別の実施形態では、ゲル結合剤は、PAA、クエン酸、及びグリセロールでできている。PAA、クエン酸及びグリセロールは、8:1:1の割合で蒸留水に溶解され、水溶液を形成する。溶液中のポリマーの濃度は、2〜30重量%の範囲であってもよい。これらの成分は、真空下で、100℃で1〜10時間、その後、150℃で1〜5時間、架橋され、ゲルポリマーネットワークを形成する。更なる実施形態では、PAA、クエン酸及びグリセロールの質量比は、50〜80:5〜30:5〜30である。
【0034】
一実施形態では、Si粒子は、約0.1nmから1000μmの平均粒径を有する。好ましい実施形態では、Si粒子は、約2nmから100μmの平均粒径を有する。より好ましい実施形態では、Si粒子は、約50nmの平均粒径を有する。
【0035】
本発明の更なる実施形態では、負極は導電性カーボンを含む。導電性カーボンは、例えば、スーパーP(登録商標)カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、黒鉛/黒鉛ナノシート、又は任意の他の導電性カーボン材料であってもよい。
【実施例】
【0036】
(例1) PVA/PAA弾性ゲルポリマー結合剤を用いたSi負極の調製
可撓性のあるスマート結合剤に基づくSi負極を、容易なインシチュー熱誘導重合法により調製した。典型的には、Si粒子は、約50nmの平均粒径を有する球形である(図1)。複合電極を、40重量%のSi粒子、40重量%のスーパーP(登録商標)カーボンブラック、及び20重量%のポリマー前駆体(PAAとPVAの水溶液、重量比9:1)を混合することにより調製した。PAA及びPVAの化学構造を図2に示す。その混合物を一晩撹拌し、続いて銅箔上にコーティングした。調製した電極は、次いで、100℃で10時間、その後150℃で2時間、加熱することにより熱重合した。エステル化反応が、PAAのカルボキシル官能基とPVAのヒドロキシル官能基との間で起こった。同時に、PAAの残りのカルボン酸が、Si粒子の表面上にあるSiO
2のヒドロキシル基と反応し、Si粒子とポリマーネットワークとの間に共有結合性エステル結合を形成した。の反応を確認するために、図3に示すように、フーリエ変換赤外分光法(FT−IR)を行った。一般的に、相互作用が生じる場合は、特定の官能基に対応するピークが、より高い波数又はより低い波数にシフトするか、あるいは新しいピークがスペクトル中に現れるはずである。
【0037】
(例2) 結合剤とSi粒子との相互作用の検討
PAAがPVAと架橋した後、PVA中のO−H結合の伸縮振動ピーク(〜3300cm
−1)は減少し、低波数側にシフトした(図3)。また、PAAのC=O結合の伸縮振動ピーク(1720cm
−1)は、低波数側の1714cm
−1にシフトした。これらのピーク変化は、PAAとPVAとのエステル化反応による−COO−形成を実証し、その結果、架橋したゲルポリマーネットワークをもたらした。更に、相互侵入した(interpenetrated)ゲルPAA−PVA結合剤中のシリコンの存在下で、PAAのC=Oの伸縮振動ピークは、より高い波数(1730cm
−1)で広くなり、シリコン粒子のSi−OHとPAAの−COOHとの間の縮合反応が起きることを示している。PAA−PVA結合剤とSi粒子との間の強力な相互作用は、電極の一体性を改良するのに好都合である。そしてそのような強力な相互作用によって、Si系の電極の安定性に影響を与える最も重要な要因の一つとして既に特定されているサイクル中の大きな体積変化の下であっても、電気的なネットワークの破壊を和らげる。
【0038】
非官能性(non−functional)PVDF結合剤を用いた場合、セルは、70.8%の非常に低い初期クーロン効率を有し、容量が急速に消失する(50サイクル後に180mAh/g)ことを示している(図4)。官能性(functional)NaCMC結合剤を有するSi負極では、3282mAh/gの初期容量と、PVDF結合剤と比較してより良好なサイクル安定性(100サイクル後に1178mAh/g)を示した。顕著なことに、PAA−PVA結合剤を有するSi負極は、優れた電池性能を示した。新規な、相互侵入したゲルポリマー結合剤を用いることにより、初期サイクルで3616mAh/gの比容量が達成された。これは、理論容量(4200mAh/g)の約86%である。更に、このセルはまた、優れたサイクル安定性をもたらし、100サイクル後でも2283mAh/gの容量が残っていた。
【0039】
クーロン効率についても優れている。84%位の初期クーロン効率は、サイクル後にすぐに〜97%に増加し、最終的に99%位で安定した(図5)。
【0040】
この1C(1C=4000mA/g)の高い電流密度で、〜2660mAh/gの高い容量が得られた。さらに重要なことは、セルが優れたサイクル特性を示しつつ、300サイクル後でも1830mAh/gの高い容量が残っていたことである。これは、68.6%の容量維持率に対応し、繰り返しサイクルごとにわずか0.1%しか容量損失していない。その上、PVA−PAA結合剤は、PVDF又はNaCMCのいずれかと比較して、著しく向上したサイクル安定性と、高いクーロン効率とを示した。
【0041】
PVA−PAA結合剤を用いたSi負極の典型的な電位プロファイルを図7に示す。これらの電位プロファイルは、充電及び放電の両方において明確なプラトーのない、ナノシリコンの単調な変化という特性を示し、これがナノ構造Siの定電流プロファイル特性である。
【0042】
図8に示すように、サイクル前と100サイクル後のSi負極の形態を、SEMによって調べた。サイクル前は、PVDF、NaCMC、及びPVA−PAA結合剤を用いたすべてのSi負極が粗い表面を示し、SiとスーパーP粒子が結合剤によって一緒に統合された。サイクル後、PVA−PAA結合剤を用いたSi負極の表面形態は、他の2つを用いたSi負極の表面形態と異なっている。PVDF及びNaCMC結合剤を用いたSi負極は、比較的大きな滑らかな領域を示し、これは一般に連続的で不安定な固体電解質界面層(SEI)成長の産物と考えられている。したがって、PVA−PAA結合剤は、Si粒子上に安定なSEIの形成を促進する。
【0043】
(例3) Si−黒鉛負極用PVA/PAA結合剤の評価
Si−黒鉛負極用のPVA−PAA結合剤を評価するために、LIB用負極としてのSi−黒鉛複合体の電気化学的性能を調べた。電極の調製は、Si負極の調製と同じであったが、一方、各成分の割合は、Si粒子が40重量%、黒鉛が60重量%であった。
【0044】
NaCMC、及びPVA−PAA結合剤を有するSi−黒鉛のサイクル性能もまた、0.1Cの同じ電流レートで比較した。図9に示すように、PAA−PVA結合剤は、初回サイクルで1880mAh/gの可逆容量を有し、且つ70サイクル後で70%の良好な容量維持率を有し、活物質複合材(Si−G)として高い有用性を示す。これとは対照的に、NaCMC結合剤を用いたセルは、PAA−PVAよりもはるかに低い、わずか25%の容量維持率しか示さない。
【0045】
(例4) クエン酸−グリセリン系弾性ポリマーゲル結合剤を有するSi負極
典型的な調製プロセスは以下の通りである。シリコン粒子60mg、スーパーP(登録商標)カーボンブラック20mg、及び水溶性クエン酸−グリセロール結合剤20mg(クエン酸/グリセロールの質量比は1:1)を、撹拌下で一緒に混合する。次いで、温度を100℃に上昇させ、更に10時間この温度で維持する。このスラリーをCu箔上にコーティングした後、水を蒸発させるために電極を一晩真空中に置く。電極を、更に150℃で4時間熱処理し、Si負極を得る。
【0046】
クエン酸−グリセロール結合剤を有するSi負極の電気化学的性能を、対極としてリチウム箔を備えたCR2016コインセルを用いて試験する。電解質としてのエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート及びジメチルカーボネート(EC:DEC:DMC,1:1:1)と、添加剤としてのフルオロエチレンカーボネート(FEC,10体積%)との混合物中の1mol/LのLiPF6を用いて、0.01Vと1.5Vの間で、材料の充電/放電プロセスを行う。
【0047】
図12A及び図12Bは、400mA/gでの、クエン酸−グリセロール結合剤に基づいたSi負極のサイクル特性を示す。このSi負極は、優れたサイクル安定性を示す。初期容量は、〜4800mAh/gにも達し、理論容量よりもわずかに高い。これは、ゲル微細構造及びポリマー鎖の内部へのLI+の挿入が原因である可能性がある。100サイクル後の容量は、依然として、〜3000mAh/gにとどまっており、文献で報告された他のものよりもはるかに優れている。
【0048】
のSi負極の初期クーロン効率は良好である(〜85%)。その効率は、サイクル後にすぐに99%に増加し、最終的に〜99.6%で安定した。
【0049】
クエン酸−グリセロールを有するSi負極もまた、高電流(4Ah/g)で、良好な電気化学的性能を示す。初期容量は2800mAh/g位であり、300サイクル以内で、容量維持率は凡そ65%である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【国際調査報告】