【解決手段】第一表面及び第二表面を備えた結晶系の半導体基板10と、半導体基板10の第一表面上に形成されたi型非晶質半導体層12iと、を備え、半導体基板10とi型非晶質半導体層12iとの界面は、1×10
前記第1の非晶質半導体層において、前記酸化界面の近傍付近から膜厚方向に沿って階段状に濃度が減少する酸素濃度プロファイルを有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光電変装置。
前記第3の工程の後に、ケイ素含有ガスにn型又はp型のドーパントを導入してn型又はp型の非晶質半導体層を形成する第4の工程を更に含む、請求項8に記載の光電変換装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態における光起電力装置100は、
図1の断面図に示すように、半導体基板10、i型非晶質層12i、p型非晶質層12p、透明導電層14、i型非晶質層16i、n型非晶質層16n、透明導電層18及び集電極20,22を含んで構成される。
【0020】
以下、光起電力装置100の製造方法を示しつつ、光起電力装置100の構造を説明する。表1に光起電力装置100における、各非晶質層の形成条件の例を示す。なお、本実施形態に用いた各種成膜条件は一例であり、使用する装置によって適宜変更し、最適化を行うべきものである。
【表1】
【0021】
半導体基板10は、結晶系の半導体材料から構成される。半導体基板10は、n型又はp型の導電型の結晶性半導体基板とすることができる。半導体基板10は、例えば、単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板、砒化ガリウム基板(GaAs)、インジウム燐基板(InP)等を適用することができる。半導体基板10は、入射された光を吸収することで、光電変換により電子及び正孔のキャリア対を発生させる。以下では、半導体基板10としてn型のシリコン単結晶基板を用いた例を説明する。
【0022】
半導体基板10は、洗浄後に成膜槽内に設置される。半導体基板10の洗浄は、フッ化水素酸水溶液(HF水溶液)やRCA洗浄液を用いて行うことができる。また、水酸化カリウム水溶液(KOH水溶液)等のアルカリ性エッチング液を用いて、半導体基板10の表面や裏面にテクスチャ構造を形成することも好適である。この場合、(100)面を有する半導体基板10をKOH水溶液で異方性エッチングすることによって、ピラミッド型の(111)面を有するテクスチャ構造を形成することができる。
【0023】
また、i型非晶質層12iの成膜前に所定の酸化処理をして、酸化界面を形成してもよい。所定の酸化処理としては、大気や湿度制御された雰囲気中に所定時間放置するか、オゾン水処理、過酸化水素水処理、オゾナイザー処理などを適宜使用することが出来る。
【0024】
半導体基板10の表面上に非晶質の半導体層であるi型非晶質層12iが形成される。例えば、i型非晶質層12iは、水素を含むアモルファスの真性シリコン半導体層である。ここで、真性の半導体層とは、含有されるp型又はn型のドーパントの濃度が5×10
18/cm
3以下である、または、p型及びn型のドーパントが同時に含まれる場合にはp型又はn型のドーパント濃度の差が5×10
18/cm
3以下である半導体層をいう。i型非晶質層12iは、光の吸収をできるだけ抑えられるように薄くし、一方で半導体基板10の表面が十分にパッシベーションされる程度に厚くすることが好適である。i型非晶質層12iの膜厚は、1nm以上25nm以下であり、好ましくは5nm以上10nm以下である。
【0025】
i型非晶質層12iは、プラズマ化学気相成長法(PECVD)、Cat−CVD(Catalytic Chemical Vapor Deposition)、スパッタリング法等により形成することができる。PECVDは、RFプラズマCVD法、周波数の高いVHFプラズマCVD法、さらにはマイクロ波プラズマCVD法などいずれの手法を用いても良い。本実施例では、RFプラズマCVD法を用いる場合について説明する。例えば、表1に示すように、シラン(SiH
4)等のケイ素含有ガスを水素で希釈して供給し、平行平板電極等にRF高周波電力を印加してプラズマ化して、加熱された半導体基板10の成膜面に供給することによって形成することができる。このとき、本実施の形態では、i型非晶質層12iの成膜初期において酸素(O
2)を含有するガスを同時に導入して、半導体基板10とi型非結晶層12iとの界面付近に酸素を導入する。酸素(O
2)を含有するガスは、例えば、炭酸(CO
2)ガスや酸素(O
2)が挙げられる。成膜時の基板温度は150℃以上250℃以下、RF電力密度は1mW/cm
2以上10mW/cm
2以下である。
【0026】
ここで、
図2に示すように、i型非晶質層12iの膜厚方向へ向けて半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面近傍から階段状に濃度が減少する酸素濃度プロファイルとする。例えば、i型非晶質層12iの成膜時において、酸素含有ガスの流量を段階的に変化させることにより、半導体基板10との界面側にのみ酸素を多く含有させた高濃度酸素領域を形成する。高濃度酸素領域における酸素濃度は約1×10
20/cm
3以上1×10
21/cm
3以下とし、i型非晶質層12iの高濃度酸素領域以外の領域における酸素濃度は約1×10
20/cm
3未満とすることが好適である。また、高濃度酸素領域において、膜厚方向に沿って酸素濃度が少なくとも1段階以上の階段状のプロファイルを有することが好適である。半導体基板10からこの酸素濃度プロファイルと光起電力装置の特性については後述する。
【0027】
なお、半導体膜中の各元素の濃度は、二次イオン質量分析法(SIMS)等で測定することができる。半導体基板10にテクスチャ構造を設けた場合、テクスチャによる膜厚方向への分解能が低下しない方法で膜中の各元素の濃度を測定すればよい。
【0028】
p型非晶質層12pは、p型の導電型のドーパントを含む非晶質半導体膜からなる層である。例えば、p型非晶質層12pは、水素を含有するアモルファスシリコンから形成される。p型非晶質層12pは、i型非晶質層12iよりも膜中のp型のドーパントの濃度が高くされる。例えば、p型非晶質層12pは、p型のドーパントの濃度を1×10
20/cm
3以上とすることが好適である。p型非晶質層12pの膜厚は、光の吸収をできるだけ抑えられるように薄くすることが好適である一方で、半導体基板10内で発生したキャリアがpn接合部で効果的に分離され、かつ、発生したキャリアが透明導電層14で効率よく収集される程度に厚くすることが好適である。例えば、1nm以上10nm以下とすることが好適である。
【0029】
p型非晶質層12pも、PECVD、Cat−CVD、スパッタリング法等により形成することができる。PECVDは、RFプラズマCVD法を適用することができる。例えば、表1に示すように、シラン(SiH
4)等のケイ素含有ガス及びジボラン(B
2H
6)等のp型ドーパント含有ガスを水素で希釈して供給し、平行平板電極等にRF高周波電力を印加してプラズマ化して、加熱された半導体基板10のi型非晶質層12i上に供給することによって形成することができる。なお、表1では、ジボラン(B
2H
6)は1%の水素希釈とした。成膜時の基板温度は150℃以上250℃以下、RF電力密度は1mW/cm
2以上10mW/cm
2以下とすることが好適である。
【0030】
i型非晶質層16iは、半導体基板10の裏面上に形成される。すなわち、i型非晶質層12i及びp型非晶質層12pを形成後、半導体基板10の表裏を反転させ、半導体基板10の裏面上に形成される。例えば、i型非晶質層16iは、水素を含むアモルファスの真性シリコン半導体層とされる。i型非晶質層16iの膜厚は、i型非晶質層12iと同様に、1nm以上25nm以下であり、好ましくは5nm以上10nm以下である。
【0031】
i型非晶質層16iは、PECVD、Cat−CVD、スパッタリング法等により形成することができる。PECVDは、RFプラズマCVD法を適用することができる。例えば、表1に示すように、シラン(SiH
4)等のケイ素含有ガスを水素で希釈して供給し、平行平板電極等にRF高周波電力を印加してプラズマ化して、加熱された半導体基板10の成膜面に供給することによって形成することができる。成膜時の基板温度は、i型非晶質層12iと同様に、150℃以上250℃以下、RF電力密度は1mW/cm
2以上10mW/cm
2以下である。
【0032】
i型非晶質層16iにおいても、i型非晶質層12iと同様に、成膜初期において酸素(O
2)を含有するガスを同時に導入して、半導体基板10とi型非結晶層16iとの界面付近に酸素を導入することが好適である。
【0033】
n型非晶質層16nは、n型の導電型のドーパントを含む非晶質半導体膜からなる層である。例えば、n型非晶質層16nは、水素を含有するアモルファスシリコンから形成される。n型非晶質層16nは、i型非晶質層16iよりも膜中のn型のドーパントの濃度が高くされる。例えば、n型非晶質層16nは、n型のドーパントの濃度を1×10
20/cm
3以上とすることが好適である。n型非晶質層16nの膜厚は、光の吸収をできるだけ抑えられるように薄くすることが好適である一方で、半導体基板10内で発生したキャリアをBSF(Back Surface Field)構造により効果的に分離しつつ、発生したキャリアを透明導電層18で効率よく収集される程度に厚くすることが好適である。例えば、1nm以上10nm以下とすることが好適である。
【0034】
n型非晶質層16nも、PECVD、Cat−CVD、スパッタリング法等により形成することができる。PECVDは、RFプラズマCVD法を適用することができる。例えば、表1に示すように、シラン(SiH
4)等のケイ素含有ガス及びホスフィン(PH
3)等のn型ドーパント含有ガスを水素で希釈して供給し、平行平板電極等にRF高周波電力を印加してプラズマ化して、加熱された半導体基板10のi型非晶質層16i上に供給することによって形成することができる。なお、表1では、ホスフィン(PH
3)は2%の水素希釈とした。成膜時の基板温度は150℃以上250℃以下、RF電力密度は1mW/cm
2以上10mW/cm
2以下とすることが好適である。
【0035】
なお、半導体基板10の表面側を受光面(主として外部から光を導入する面)とするか、裏面側を受光面とするかは任意である。また、前述の実施形態では表面側のi型非晶質層12iおよびp型非晶質層12pを形成した後、半導体基板10を反転させ、裏面側のi型非晶質層16iおよびn型非晶質層16nを形成するとしたが、これらの形成順序も任意である。
【0036】
透明導電層14,18は、それぞれp型非晶質層12p及びn型非晶質層16n上に形成される。透明導電層14、18は、例えば、多結晶構造を有する酸化インジウム(In
2O
3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO
2)、または酸化チタン(TiO
2)などの金属酸化物を少なくとも一つを含んで構成され、これらの金属酸化物に、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、アンチモン(Sb)、チタン(Ti)、セリウム(Ce)、ガリウム(Ga)などのドーパントがドープされていても良い。透明導電層14、18は、蒸着法、プラズマ化学気相成長法(PECVD)、スパッタリング法等の薄膜形成方法により形成することができる。透明導電層14,18の膜厚は、透明導電層14,18の屈折率により適宜調整され得るが、本実施形態では70nm以上100nm以下とした。
【0037】
集電極20,22は、それぞれ透明導電層14,18上に形成される。集電極20,22は、櫛状のフィンガー電極構造とすることが好適である。集電極20,22は、スクリーン印刷法やメッキ法等により形成することができる。集電極20,22は、例えば、銀ペースト等を数10μm程度の厚みに塗布することにより形成される。
【0038】
<実施例及び比較例1〜3>
上記形成方法に沿って、表1に示した条件において、膜厚方向へ向けて半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面近傍から階段状に濃度が減少する酸素濃度プロファイルを有するi型非晶質層12iと、膜厚方向へ向けて半導体基板10とi型非晶質層16iとの界面近傍から階段状に濃度が減少する酸素濃度プロファイルを有するi型非晶質層16iと、を有する光起電力装置を実施例とした。
【0039】
また、炭酸ガス等の酸素含有ガスを導入しなかったこと以外は、実施例と同様に形成した光起電力装置を比較例1とした。また、i型非晶質層12i及びi型非晶質層16iの形成時の全時間において炭酸ガスを導入し、i型非晶質層12i及びi型非晶質層16iの全域に酸素を含有させた光起電力装置を比較例2とした。また、i型非晶質層12i及びp型非晶質層12p並びにi型非晶質層16i及びn型非晶質層16nの形成時の全時間において炭酸ガスを導入し、i型非晶質層12i及びp型非晶質層12p並びにi型非晶質層16i及びn型非晶質層16nの全域に酸素を含有させた光起電力装置を比較例3とした。
【0040】
図2は、実施例及び比較例1,2,3における半導体基板10、i型非晶質層12i及びp型非晶質層12pの膜中の酸素原子の濃度プロファイルを示す。半導体基板10、i型非晶質層16i及びn型非晶質層16nの膜中の酸素原子の濃度プロファイルも同等であった。
図2中において、実施例に対する測定結果を実線で示し、比較例1,2,3に対する測定結果をそれぞれ一点鎖線、破線及び点線で示す。
【0041】
比較例1の光起電力装置のようにi型非晶質層12i及びp型非晶質層12pにおいて炭酸ガス等の酸素含有ガスを導入しない場合でも、半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面領域に10
21/cm
3オーダーの酸素原子が存在した。これは、洗浄からi型非晶質層12iの形成工程までの輸送期間や成膜装置内において半導体基板10の表面が自然酸化されるからである。また、前述の成膜前に所定の酸化処理を施した場合は、この処理にも起因する。このため、i型非晶質層12i及びp型非晶質層12pの酸素濃度は、半導体基板10との界面においてピークを示し、i型非晶質層12iにおいてバックグラウンドレベルまで一度減少し、p型非晶質層12p及び表面に向けて再度上昇するというプロファイルを示した。p型非晶質層12pにおいて酸素濃度が上昇するのは、ドーピングガスを導入することの影響及び測定における表面の影響であると考えられる。
【0042】
また、比較例2の光起電力装置のようにi型非晶質層12iの全域に酸素含有ガスを導入した場合、i型非晶質層12iにおいて約1×10
20/cm
3以上の酸素が存在した。同様に、比較例3の光起電力装置においても、i型非晶質層12iにおいて約1×10
20/cm
3以上の酸素が存在した。酸素濃度は、比較例3において比較例2よりも僅かに多い傾向を示した。
【0043】
一方、実施例の光起電力装置では、比較例1と同様の理由により半導体基板10との界面領域に酸素濃度のピークが存在した。しかしながら、段階的に酸素含有ガスの導入を制御しつつi型非晶質層12iを形成したことで、半導体基板10との界面付近に酸素を多く含有させた領域(高濃度酸素領域)が半導体基板10との界面から5nm以内の範囲に観測された。高濃度酸素領域における酸素濃度は約1×10
20/cm
3以上1×10
21/cm
3以下であった。また、i型非晶質層12iの高濃度酸素領域以外の領域における酸素濃度は約1×10
20/cm
3未満であった。
【0044】
さらに、高濃度酸素領域において、膜厚方向に沿って酸素濃度が1段階以上の階段状のプロファイルを有していた。換言すると、i型非晶質層12i中の半導体基板10の界面付近における酸素濃度プロファイルが1つ以上の変曲点をもち、傾き(スロープ)が異なる領域を有していた。より具体的には、半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面であり10
21/cm
3のオーダーの酸素濃度を有するA点、i型非晶質層12i内であって半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面から1nm程度までの約1×10
20/cm
3以上1×10
21/cm
3以下の酸素濃度を有するB点、i型非晶質層12i内であって半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面から1nm以上5nm以下程度までの約1×10
20/cm
3以上1×10
21/cm
3以下の酸素濃度を有するC点、及びi型非晶質層12i内であって半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面から5nm程度離れた約1×10
20/cm
3以下の酸素濃度を有するD点が変曲点として確認された。なお、このような酸素濃度プロファイルは、濃度軸を対数表示した場合により顕著に確認された。
【0045】
なお、約1×10
20/cm
3の酸素濃度は、以下のように技術的な臨界的意義を有する。すなわち、i型非晶質層12iにおけるシリコン原子の密度は約5×10
22/cm
3程度であるので、酸素濃度が約1×10
20/cm
3である場合にはシリコン原子に対する酸素原子の濃度比が0.002になる。この値近傍を境として、0.002よりも酸素濃度が低い場合には酸素原子はシリコン中で不純物として振る舞い、0.002よりも高い場合には酸素とシリコンが合金化して酸素とシリコンとの化合物としての性質を有するようになると考えられる。したがって、酸素濃度が約1×10
20/cm
3を境として、i型非晶質層12iの性質が変化するものと考えられる。なお、酸素原子は本実施形態の半導体層中において非常にキャリア活性率が低いため、本実施形態の濃度の酸素を含む非晶質層12iは、実質的に真性である。
【0046】
図3は、
図2に示す酸素濃度プロファイルを膜厚方向について微分して得られた酸素濃度の対数表示の勾配プロファイルを示したものである。
図3中において、実施例を実線で示し、比較例1,2,3をそれぞれ一点鎖線、破線及び点線で示す。
【0047】
比較例1〜3では、酸素濃度プロファイルがi型非晶質層12i中の大部分においてなだらかに変化し、半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面において急峻なピークを有する。したがって、酸素濃度勾配は、半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面近傍を除いて、i型非晶質層12i及びp型非晶質層12p内では0付近の値となった。また、表面側から半導体基板10へ近づくにつれて、半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面から数nm離れた点から急激に勾配が増し、界面近傍では勾配は0となり、半導体基板10内では負の値となった。
【0048】
一方、実施例の光起電力装置では、表面側から半導体基板10へ近づくにつれて、i型非晶質層12i内の浅い位置から勾配が増加してピークを示し、再び勾配がなだからになって0に近づいた後、半導体基板10とi型非晶質層12iとの界面から数nm離れた点から勾配が増した。このように、酸素濃度の勾配プロファイルにおいて、i型非晶質層12i内にて少なくとも2つのピークを有するものとなった。
【0049】
なお、上記の内容は、半導体基板10、i型非晶質層16i及びn型非晶質層16nの膜中の酸素原子の濃度プロファイルにおいても同様に成り立つ。
【0050】
表2に、実施例及び比較例1〜3の光起電力装置の出力特性を示す。測定データは、開放電圧(Voc)、短絡電流(Isc)、曲線因子(FF)及び出力電圧(Pmax)であり、表2では比較例1の各値を1として規格化した値を示す。
【表2】
【0051】
i型非晶質層12i,16iに意図的な酸素原子の導入を行っていない比較例1に対して、実施例、比較例2及び3では開放電圧の改善が確認できる。具体的には、開放電圧が1%程度の向上がなされた。これは、比較例1に対して実施例、比較例2及び3ではi型非晶質層12i,16iにおける半導体基板10との界面近傍における酸素濃度が高いため、半導体基板10とi型非晶質層12i,16iとの界面における欠陥が効果的に不活性化(終端)され、欠陥を再結合中心とするキャリアの再結合が抑制されるためと考えられる。
【0052】
また、短絡電流Iscは、実施例、比較例2及び3で比較例1よりも大きくなった。具体的には、0.5%〜1%の向上がみられた。これは、比較例1に対して実施例、比較例2及び3ではi型非晶質層12i,16iにおける半導体基板10との界面近傍における酸素濃度が高いため、この領域におけるi型非晶質層12i,16iの光学バンドギャップが広がり、光透過性が増したためと考えられる。これにより、キャリア発生層である半導体基板10への光の透過量が増加し、短絡電流Iscが増加したものと考えられる。
【0053】
曲線因子FFは、比較例1と実施例とにおいて顕著な差はみられなかった。しかしながら、i型非晶質層12i,16iの全域に意図的な酸素の導入を行った比較例2、さらにp型非晶質層12p及びn型非晶質層16nの全域に意図的な酸素の導入を行った比較例3では、比較例1及び実施例に対して曲線因子FFの低下がみられた。これは、i型非晶質層12i,16i、p型非晶質層12p、n型非晶質層16nに過度な酸素原子が含有されると、不純物として欠陥を形成したり、電気的な抵抗層として作用したりすると考えられる。これに対して、実施例のように、半導体基板10とi型非晶質層12i,16iとの界面から5nmまでの範囲に酸素を含有させたとしても抵抗の増加は大きくなく、曲線因子FFを悪化させることはないといえる。また、曲線因子FFは、開放電圧Vocとの相関関係があり、高抵抗層の増大に比べて、開放電圧Vocの向上による影響が大きいものと考えられる。
【0054】
これらの結果として、出力電力Pmaxは実施例において最大を示した。すなわち、半導体基板10との界面付近の欠陥低減、半導体基板10への効果的な光の取り込みによって開放電圧Vocと短絡電流Iscを向上させ、一方で曲線因子FFの低下を抑制することによって発電効率が向上したものと考えられる。
【0055】
<実施例及び比較例4及び5>
実施例では、
図2におけるB点及びC点の酸素濃度を1×10
20/cm
3以上1×10
21/cm
3以下とした。これに対して、
図2におけるB点及びC点の酸素濃度を1×10
21/cm
3より大きくした光起電力装置を比較例4とし、B点及びC点の酸素濃度を1×10
20/cm
3より小さくした光起電力装置を比較例5とした。
【0056】
表3に、実施例及び比較例4,5の光起電力装置の出力特性を示す。表2と同様に、測定データは、開放電圧(Voc)、短絡電流(Isc)、曲線因子(FF)及び出力電圧(Pmax)であり、実施例の各値を1として規格化した値を示す。
【表3】
【0057】
実施例に対して、比較例4では開放電圧Vocの顕著な改善はみられず、比較例5では開放電圧Vocの低下がみられた。これは、実施例では最適な酸素濃度プロファイルとなっているが、最適量よりも多い酸素原子を含有させても開放電圧Vocの向上の効果は高まらないためといえる。また、酸素含有ガスに含まれる酸素以外の元素(例えば、炭酸ガスを用いた場合には炭素)が同時にi型非晶質層12i,16iに取り込まれ、それが欠陥形成を招き、開放電圧Vocの低下を引き起こすことも考えられる。
【0058】
一方、曲線因子FFは、比較例4において実施例よりも顕著な低下がみられた。これは、半導体基板10とi型非晶質層12i,16iとの界面から5nmまでの範囲であっても過度に酸素を含有させた場合には高抵抗領域として作用し、曲線因子FFが低下したものと考えられる。
【0059】
なお、本実施の形態では、i型非晶質層12i及びi型非晶質層16iの両方に酸素を導入する態様を説明したが、i型非晶質層12i及びi型非晶質層16iの少なくとも一方に酸素を導入すれば相当の効果が得られる。