【解決手段】 ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と金属酸化物と導電性材料とを含む触媒であって、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩の金属酸素酸骨格中に金属原子としてモリブデン及び/またはバナジウムを有すること、および金属酸化物の金属原子としてモリブデン及び/またはバナジウムを有することを特徴とする触媒を提供する。
製造方法としては、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と金属酸化物と導電性材料とを含む触媒の製造方法であって、金属酸素酸骨格中に金属原子としてモリブデン及び/またはバナジウムを有するヘテロポリ酸と、導電性材料とを混合し、前記混合物を500℃から900℃で熱処理することで触媒を得る。
前記ヘテロポリ酸及び/または前記ヘテロポリ酸塩の金属酸素酸骨格中に金属原子としてモリブデン及びバナジウムを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の触媒。
前記混合物を得る工程における前記ヘテロポリ酸及び/または前記ヘテロポリ酸塩の重量Aと、前記導電性材料の重量Bの比A/Bが0.001以上1.0未満であることを特徴とする請求項10に記載の触媒の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[ヘテロポリ酸]
ヘテロポリ酸とは、オキソ酸が重縮合したポリ酸の金属酸素酸骨格に対してヘテロ原子(hetero atom)が挿入されたポリ酸である。ヘテロポリ酸は金属原子(アデンダ原子)であるタングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)等の金属からなるイソポリ酸骨格に、ヘテロ原子であるケイ素(Si)、リン(P)、ヒ素(As)等を含む構造を有する。具体的には以下の構造式であらわされる化合物である。
H
xA
y[M1
aM2
bO
c]・zH
2O
A:陽イオン原子
M1:ヘテロ原子
M2:金属原子(アデンダ原子)
a、b、c:定数
x、y、z:定数
【0020】
ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩は、例えば、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)から選ばれるアデンダ原子(addenda atom)を単数、又は複数有するもの、またはモリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、バナジウム(V)から選ばれるアデンダ原子を有し、アデンダ原子の一部がチタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、テクネチウム(Tc)、ロジウム(Rh)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、レニウム(Re)、タリウム(Tl)、鉛(Pb)から選ばれる少なくとも何れかの原子で置換されたものであってもよい。
【0021】
また、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩が、例えば、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)から選ばれるヘテロ原子を単数、又は複数有するもの、またはホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、リン(P)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)から選ばれるヘテロ原子を有し、へテロ原子の一部が水素(H)、ベリリウム(Be)、炭素(C)、ナトリウム(Na)、硫黄(S)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)、ジルコニウム(Zr)、ロジウム(Rh)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、ヨウ素(I)、レニウム(Re)、白金(Pt)、ビスマス(Bi)、セリウム(Ce)、トリウム(Th)、ウラン(U)、ネプツニウム(Np)から選ばれる少なくとも何れかの原子で置換されたものであってもよい。
【0022】
また、例えば、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩としては、下記の一般式((式I)〜(式IV))で表されるヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩が挙げられる。
【0023】
(式I)
アンダーソン(Anderson)型構造:H
xA
y[M1M2
6O
24]・zH
2O
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦8、0≦y≦8、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0024】
(式II)
ケギン(Keggin)型構造:H
xA
y[M1M2
12O
40]・zH
2O
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦4、0≦y≦4、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0025】
(式III)
ドーソン(Dawson)型構造:H
xA
y[M1
2M2
18O
62]・zH
2O
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦8、0≦y≦8、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0026】
(式IV)
プレイスラー(Preyssler)型構造:H
xA
y[M1
5M2
30O
110]・zH
2O
(式中、x、yおよびzはそれぞれ0≦x≦15、0≦y≦15、0≦z≦50の範囲内の値である。ただし、xおよびyのうち少なくとも1つは0でない。)
【0027】
なお、上述の(式I)〜(式IV)中、Aはリチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、アンモニウム(NH
4)、アンモニウム塩、ホスホニウム塩を表す。M1はリン(P)、ケイ素(Si)、ヒ素(As)、ゲルマニウム(Ge)を表す。M2はチタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ロジウム(Rh)、カドミウム(Cd)、インジウム(In)、スズ(Sn)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、タリウム(Tl)から選ばれる1種以上の原子である。
【0028】
本発明のヘテロポリ酸のアデンダ原子はモリブデン及び/またはバナジウムである。アデンダ原子がモリブデンやバナジウムであると優れた酸素還元活性を有する触媒を得ることが出来る。
【0029】
ヘテロポリ酸としては、具体的には例えば、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸などのようなヘテロポリモリブデン酸、リンバナジウム酸、ケイバナジウム酸などのようなヘテロポリバナジウム酸などが挙げられる。
【0030】
ヘテロポリ酸塩としては、例えば、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウムなどのようなヘテロポリモリブデン酸塩、リンバナジウム酸ナトリウム、リンバナジウム酸アンモニウムなどのようなヘテロポリバナジウム酸塩などが挙げられる。
【0031】
また、複数種のアデンダ原子を含むヘテロポリ酸として、リンバナドモリブデン酸、リンタングトモリブデン酸、ケイタングトモリブデン酸などが挙げられる。
【0032】
このようなヘテロポリ酸塩としては、例えば、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸トリ−テトラ−n−ブチルアンモニウム塩などのようなヘテロポリモリブデン酸化合物、リンバナジウム酸ナトリウム、リンバナジウム酸アンモニウム、リンバナジウム酸トリ−テトラ−n−ブチルアンモニウム塩などのようなヘテロポリバナジウム酸化合物などが挙げられる。さらに、複数のポリ酸を含む化合物として、リンタングトモリブデン酸トリ−テトラ−n−アンモニウム塩などのような材料が挙げられる。
【0033】
これらのヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩を2種類以上混合して用いてもよい。また、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と共に、ポリ酸及び/またはポリ酸塩を用いてもよい。
【0034】
本発明においては、ケギン型構造を有するヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩を用いることが触媒活性、安定性の観点から望ましい。例えば、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンバナジウム酸、ケイバナジウム酸およびこれらの塩を用いることが好ましい。
【0035】
また、これらのMoの一部がVで置換された複合ヘテロポリ酸(例えば、H
15−αPV
12−αMo
αO
40で表されるヘテロポリ酸:ただし、6<α<12)も好ましい。
【0036】
また、用いられるヘテロ原子は少なくともリン(P)を用いたものであることが好ましい。リン(P)に加えて、上記の段落0021に記載のヘテロ原子を任意に含むものも好ましく用いられる。
【0037】
[導電性材料]
本発明に用いることができる導電性材料としては、触媒成分を所望の分散状態で担持させるための比表面積を有し、充分な電気伝導性を有しているものであればよい。具体的には炭素系の導電性材料としてカーボンブラック、黒鉛化処理したカーボンブラック、活性炭、コークス、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーンおよびカーボンフィブリル構造体などからなるカーボン粒子が挙げられる。
【0038】
中でも、本発明に用いる導電性材料としては、優れた導電性や大きな比表面積を有する観点からカーボンブラックを用いることが好ましい。
【0039】
また、導電性材料としては炭化スズ、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物などを挙げることができる。その他、炭素系の材料に限られず、金属系の材料を用いることもできる。例えば、金属単体や酸化チタン、酸化スズ等の導電性金属酸化物などを用いることもできる。
【0040】
導電性材料の形状も特に制限はなく、粒状、繊維状、棒状、ウィスカー状、シート状、フィルム状、スポンジ状などの形状を用いることができる。ここで、触媒反応の進みやすさを考えると、導電性材料のうちでも比表面積の大きいものが好ましく、粒状や繊維状、ウィスカー状のものが好ましい。また導電性材料が多孔質であることも好ましい。
【0041】
導電性材料のサイズも特に制限はないが、例えば導電性材料が粒状の場合には平均粒径が20nm〜20μmのものを用いるのが好ましい。
【0042】
[金属酸化物]
本発明の触媒には金属酸化物として酸化モリブデン及び/または酸化バナジウムが含まれる。例えば、本発明の触媒の製造方法によれば、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と導電性材料との混合物を熱処理する工程により、混合物系内に金属酸化物が生成する。この場合、本発明の触媒はヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩に用いられる金属種と同種の金属酸化物が第三の成分として存在することになる。生成した金属酸化物は、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩成分と導電性材料と複合体を形成することで、酸素還元活性、過酸化水素還元活性を高めた触媒として作用する。
【0043】
なお、本発明における金属酸化物、例えば酸化モリブデンや酸化バナジウムは上記の製造工程によって生じる金属酸化物に限定されるものではない。製造工程において、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と導電性材料に加えて、あらかじめ金属酸化物、例えば酸化モリブデンや酸化バナジウムを混合させてから焼成してもよいし、焼成後に金属酸化物を混合してもよい。
【0044】
中でも本発明において好適に用いられる金属酸化物は、酸化モリブデンである。酸化モリブデンとしては、二酸化モリブデン、すなわち4価の酸化モリブデン(MoO
2)及び/または、三酸化モリブデン、すなわち6価の酸化モリブデン(MoO
3)その他の酸化モリブデンを意味する。
【0045】
また本発明においては金属酸化物として酸化バナジウムが好適に用いられる。この場合、酸化バナジウムとは、五酸化二バナジウム(V
2O
5)や一酸化バナジウム(VO)その他の酸化バナジウムを意味する。
【0046】
本実施形態に係る触媒の製造方法(以下、「本製造方法」という。)は、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩、導電性材料を含む原料を混合し、500〜900℃の温度で加熱処理を施すことを含む。さらには、例えば、600℃以上800℃以下の温度で加熱処理することでもよい。
【0047】
すなわち、上述した本触媒は、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩、導電性材料を含む原料に、500℃以上の温度で加熱処理を施すことにより得られる。さらには、例えば600℃以上の温度で加熱処理を施すことにより得られる。また、900℃以下の温度で加熱処理をすることでもよく、さらには800℃以下の温度で加熱処理することでもよい。また、600℃で加熱処理することでもよく、700℃で加熱処理することでもよく、あるいは800℃で加熱処理することでもよい。
【0048】
ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩は、段落0029〜0032で述べたものを用いることができる。導電性材料は、段落0037〜0041で述べたものを用いることができる。
【0049】
原料は、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と導電性材料とを混合して調製する。すなわち、例えば、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と導電性材料と溶媒(例えば、水やエタノールなどの極性溶媒)とを混合する。
【0050】
より具体的に、例えば、まずヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と極性溶媒とを混合して混合液を調製し、次いで、当該混合液に導電性材料を添加することにより、当該溶媒中で当該ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と当該導電性材料とを混合する。
【0051】
原料に含まれるヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩の量、及び導電性材料の量は特に限られないが、例えば、当該原料は、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩を2〜70重量%、及び導電性材料を30〜98重量%含むこととしてもよく、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩を3〜60重量%、及び導電性材料を40〜97重量%含むことが好ましく、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩を4〜49重量%、及び導電性材料を51〜96重量%含むことがより好ましい。
【0052】
原料に含まれるヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩の金属酸素酸骨格中の金属の量、及び導電性材料の量は特に限られないが、当該原料において、導電性材料に対する金属の重量比(すなわち、原料に含まれる導電性材料の重量に対する、当該原料に含まれる金属の重量の比)(以下、「Metal/C比」という。)は、例えば、0.001以上、5.0以下であってもよく、0.01以上、1.0以下であってもよく、0.02以上、0.48以下であってもよい。
【0053】
原料におけるMetal/C比は、例えば、0.02超、0.48未満であることが好ましい。この場合、特に優れた活性を示す触媒を製造することができる。
【0054】
また、原料におけるMetal/C比は、例えば、0.02以上、0.47以下であることとしてもよい。さらに、Metal/C比が0.02以上である場合、当該Metal/C比は、例えば、0.46以下であってもよく、0.45以下であってもよく、0.44以下であってもよく、0.43以下であってもよい。また、Metal/C比の上限値が上記各値である場合において、当該Metal/C比は、例えば、0.03以上であってもよい。
【0055】
原料において、原料中の金属に対する、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩に由来する金属の重量比は、例えば、0.1以上であることとしてもよく、0.8以上であることとしてもよい。
【0056】
原料は、金属源としてヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩のみを含む(原料において、金属に対する、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩に由来する金属の重量比が1.0である)こととしてもよい。
【0057】
本製造方法においては、上述のようなヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩、導電性材料を含む原料に、500〜900℃の温度で加熱処理を施して触媒を製造する。加熱処理は、原料を500〜900℃の温度で保持するか、この温度範囲内で所定の温度変化を与えることにより行う。加熱処理の温度は、500℃以上900℃以下であれば特に限られないが、例えば、600℃以上800℃以下の温度が好ましい。あるいは、500℃以上の温度、または、600℃以上の温度で、かつ、900℃以下の温度、または800℃以下の温度で加熱処理することでもよい。また、600℃で加熱処理することでもよく、700℃で加熱処理することでもよく、あるいは800℃で加熱処理することでもよい。
【0058】
加熱処理は、例えば、極性溶媒中で、ヘテロポリ酸及び/またはヘテロポリ酸塩と導電性材料とを混合して混合液を調製する場合、当該混合液の溶媒を除去して得られた組成物を加熱処理することにより行う。
【0059】
加熱処理の際の昇温速度は、特に限られないが、例えば、1℃/分〜500℃/分であることとしてもよい。加熱処理の時間(原料を500〜900℃の温度で処理する時間)は、特に限られないが、例えば、1分以上、10時間以下であることとしてもよい。加熱処理は、窒素等の不活性ガスの流通下または真空条件下で行うことが好ましい。
【0060】
本製造方法においては、原料の加熱処理により得られた組成物を、そのまま触媒として得ることとしてもよい。また、原料の加熱処理により得られた組成物を粉砕し、触媒として使用することとしてもよい。
【0061】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
[実施例1] (PMo/XC−0.1−600の合成)
メノー乳鉢にリンモリブデン酸、(H
3[PMo
12O
40]・nH
2O(n≒30))(日本無機化学工業株式会社製)10.0mg、Vulcan XC−72R(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク製)100mg、エタノール(和光純薬工業株式会社製 試薬特級99.5%)2mLを加え、エタノールが揮発するまで混練し、次いで70℃で6時間減圧乾燥を行った。
次に、0.5mL/分の窒素流通下の管状炉中、10℃/分で昇温し、600℃で1時間熱処理することにより、触媒PMo/XC−0.1−600を得た。
[実施例2] (PMo/XC−0.1−800の合成)
熱処理温度を800℃とした以外は実施例1と同様に調製し、触媒PMo/XC−0.1−800を得た。
[実施例3] (PVMo/XC−0.1−600の合成)
1Lの三ツ口フラスコに蒸留水400mL、6.05gのモリブデン酸二ナトリウム二水和物(Na
2MoO
4・2H
2O)(和光純薬工業株式会社製、試薬特級、99%)と0.27gのリン酸二水素ナトリウム(NaH
2PO
4)(和光純薬工業株式会社製、試薬特級、99%)を加えて溶解させた。これに、36%塩酸(和光純薬工業株式会社製、試薬特級)より調製した0.4M HCl水溶液100mL、0.26gのバナジン酸アンモニウム(NH
4VO
3)(和光純薬工業株式会社製、試薬特級99%)を加えて作製したNH
4VO
3/HCl溶液を添加した。HClで溶液をpH2に合わせた後、90℃で2時間撹拌した。その後、溶液を室温まで冷却し、3gのテトラブチルアンモニウムブロミド([CH
3(CH
2)
3]
4NBr)(和光純薬工業株式会社製、試薬特級98.0%)を加え、開口径0.1μmのメンブレンフィルターを用いて減圧濾過し、蒸留水とエタノールでリンスし、オレンジ色のリンバナドモリブデン酸塩を得た。
リンモリブデン酸を得られたリンバナドモリブデン酸塩に変えた以外は実施例1と同様に調製し、触媒PVMo/XC−0.1−600を得た。
[実施例4] (PMo/XC−0.05−600の合成)
リンモリブデン酸を5.0mg、熱処理温度を600℃とした以外は実施例1と同様に調製し、触媒PMo/XC−0.05−600を得た。
[比較例1] (PMo/XC−0.1の合成)
熱処理を行っていない以外は実施例1と同様に調製し、触媒PMo/XC−0.1を得た。
[比較例2] (PMo/XC−0.1−1000の合成)
熱処理温度を1000℃とした以外は実施例1と同様に調製し、触媒PMo/XC−0.1−1000を得た。
[比較例3] (PMo/XC−0.1−400の合成)
熱処理温度を400℃とした以外は実施例1と同様に調製し、触媒PMo/XC−0.1−400を得た。
[比較例4] (PMo/XC−1−600の合成)
リンモリブデン酸を100mg、熱処理温度を600℃とした以外は実施例1と同様に調製し、触媒PMo/XC−1−600を得た。
【0062】
[粉末X線回折法]
上述のようにして得られた触媒を粉末X線回折法(XRD)により分析した。すなわち、粉末状の触媒からなる試料を、ガラス試料板の凹部(2cm×2cm×厚さ0.2mm)に入れるとともにスライドガラスで押さえ、当該試料をその表面と基準面とが一致するように当該凹部に均一に充填した。次いで、この充填された試料の形態が崩れないように、ガラス試料板を広角X線回折試料台に固定した。
【0063】
そして、X線回折装置(Shimazu XRD−6100、株式会社島津製作所製)を用いてX線回折測定を行った。X線管球への印加電圧及び電流はそれぞれ40kV及び30mAとした。サンプリング間隔は0.1°、計数時間は16秒、測定角度範囲(2θ)は5〜90°とした。入射X線としてはCuKαを用いた。得られたX線回折図形に基づき、観測されたピークの強度を求めた。
【0064】
得られたX線回折図形を
図1〜
図8に示す。
図1〜
図8に示すように、粉末X線回折法において、酸化モリブデン(MoO
2)由来のピークとして、回折角2θが25.0°〜27.0°のピーク(iX
1)、回折角2θが37.0°〜38.0°のピーク(iX
2:このiX
2を単にiXと記載する。)、回折角2θが53.0°〜54.0°のピーク(iX
3)が観測され、炭化モリブデン(Mo
2C)由来のピークとして、回折角2θが34.0°〜35.0°のピーク(iY
1)、回折角2θが39.0°〜40.0°のピーク(iY
2:このiY
2を単にiYと記載する。)、回折角2θが52.0°〜52.9°のピーク(iY
3)、回折角2θが61.0°〜62.0°のピーク(iY
4)が観測された。
【0065】
一方、触媒の酸素還元活性については、表1に示されるように、焼成なしで作製した比較例1の触媒(PMo/XC−0.1)の酸素還元活性開始電位が0.361(Vvs.RHE)であったのに対し、焼成温度600℃で作製した実施例1、3、4の触媒、焼成温度800℃で作製した実施例2の触媒の酸素還元活性開始電位が0.451(Vvs.RHE)〜0.491(Vvs.RHE)であった。ここで、触媒の酸素還元活性は下記の段落0071の方法で評価した結果である。
【0066】
すなわち、実施例に係る触媒の酸素還元活性は、比較例に係る触媒のそれより高かった。特に、実施例4に係る触媒の酸素還元活性はより高かった。
【0067】
さらに、触媒の過酸化水素還元活性については、表1に示されるように、焼成なしで作製した比較例1の触媒(PMo/XC−0.1)の過酸化水素還元に対する0.1Vの時の電流密度の絶対値が6.50×10
−2mA/cm
2であったのに対し、焼成温度600℃で作製した実施例1、3、4の触媒、焼成温度800℃で作製した実施例2の触媒の過酸化水素還元に対する0.1Vの時の電流密度の絶対値が7.63×10
−2〜11.3×10
−2mA/cm
2であった。ここで、触媒の過酸化水素還元活性は下記の段落0082の方法で評価した結果である。
【0068】
すなわち、実施例に係る触媒の過酸化水素還元活性は、比較例に係る触媒のそれより高かった。特に、実施例1および4に係る触媒の過酸化水素還元活性はより高かった。
【0069】
ここで、
図1〜
図8に示されるXRDピーク強度に着目すると、実施例1〜4に係る触媒について、回折角2θが25.0°〜27.0°のピーク(iX
1)と37.0°〜38.0°のピーク(iX
2、または単にiX)が観測された。また、実施例1、2、4に係る触媒について、回折角2θが53.0°〜54.0°のピーク(iX
3)が観測された。また、実施例1、2に係る触媒について、回折角2θが61.0°〜62.0°のピーク(iY
4)が観測された。また、実施例1〜4に係る触媒について、回折角2θが39.0°〜40.0°のピーク(iY
2または単にiY)は強度の小さなものもあった。
一方、比較例2、4に係る触媒について、回折角2θが25.0°〜27.0°のピーク(iX
1)と37.0°〜38.0°のピーク(iX
2、または単にiX)が観測された。また、比較例4に係る触媒について、回折2θが53.0°〜54.0°のピーク(iX
3)が観測され、回折角2θが39.0°〜40.0°のピーク(iY
2または単にiY)は観測されなかった。また、比較例2に係る触媒について、回折角2θが34.0°〜35.0°のピーク(iY
1)、回折角2θが39.0°〜40.0°のピーク(iY
2又は単にiY)、回折角2θが52.0°〜52.9°のピーク(iY
3)、回折角2θが61.0°〜62.0°のピーク(iY
4)が観測された。ここで、比較例2に係る触媒について、iX
2は観測されるがiY
2の強度が大きく、iY
1〜iY
4が観測されることから、炭化モリブデン(Mo
2C)が支配的であると考えられる。
【0070】
また、実施例1〜実施例4に係る触媒のピーク強度比(表1の「39.0°〜40.0°(iY)/37.0°〜38.0°(iX)」)は、比較例に係る触媒のそれ(3.68)より低かった。すなわち、高い触媒活性を示す実施例1〜実施例4に係る触媒は、ピーク強度比が0.54〜0.98を示す構造を有する点で特徴づけられた。
【0071】
[電気化学測定:酸素還元反応活性評価]
次に、電気化学測定により、酸素還元反応活性を評価した。まず、触媒スラリーを調製した。すなわち、上述の実施例1〜4及び比較例1〜4それぞれにおいて、触媒5mgと、5重量%Nafion(登録商標)溶液(Aldrich社製)50μLと、エタノール150μLと、蒸留水150μLとを混合し、20分間、超音波処理することにより、触媒が均一に分散された触媒スラリーを調製した。
【0072】
次に、この触媒スラリー1.78μLをピペットで吸い取り、回転リングディスク電極装置(RRDE−3A、株式会社 BAS製)のリングディスク電極(直径4mm)に塗布し、乾燥させることにより、作用電極を作製した。また、可逆水素電極を参照電極として用い、ガラス状炭素を対極として用いた。電解液としては、0.5mol/LH
2SO
4水溶液を用いた。
【0073】
そして、実施例1〜4及び比較例1〜4の触媒を三極式の作用電極に用いてサイクリックボルタンメトリー及び酸素還元反応に関するリニアスイープボルタンメトリーを実施した。
【0074】
サイクリックボルタンメトリーにおいては、まず、25℃で窒素を30分間バブリングすることにより電解液を窒素飽和させた後に、測定を開始した。すなわち、この窒素飽和させた電解液を用い、電極を回転させることなく、25℃にて、走査速度50mV/秒で、1.0V(vs.RHE)から0V(vs.RHE)まで電位を掃引するサイクルを実施し、作用電極に流れる電流値を測定した。
【0075】
酸素還元反応に関するリニアスイープボルタンメトリーにおいては、まず、25℃で酸素を20分間バブリングすることにより電解液を酸素飽和させた後、自然電位を測定した。
次いで、初期電位1.0V(vs.RHE)を600秒印加した後に、酸素飽和させた電解液を用い、電極を回転速度1500rpmで回転させ、25℃にて、走査速度1mV/秒にて、1.0V(vs.RHE)から0V(vs.RHE)まで電位を掃引し、作用電極に流れる電流値を測定した。
【0076】
図9に、サイクリックボルタンメトリーにおいて得られたボルタモグラムの一例を示す。
図9において、横軸は印加された電位(Vvs.RHE)を示し、縦軸は電流密度(mA/cm
2)を示す。
図9は、実施例1〜4及び比較例1、2の触媒を作用電極に用いた場合の結果を示す。
【0077】
図9に示すように、実施例1、2、4において、1.0V(vs.RHE)以下、0.9V(vs.RHE)以上の間で酸化モリブデン由来の酸化反応を示すピーク(cdA)が、実施例2には、0.9V(vs.RHE)未満、0.7V(vs.RHE)以上の間で炭化モリブデン由来の酸化反応を示すピーク(cdB)が現れた。また、いずれの触媒にも、0〜0.65Vの間にリンモリブデン酸由来のRedoxピークが表れた。
【0078】
これに対し、
図9に示すように、比較例1の触媒を作用電極に用いた場合には、リンモリブデン酸由来のRedoxピークが表れ、酸化モリブデン由来と炭化モリブデン由来の酸化反応を示すピークは現れなかった。また、比較例2の触媒を作用電極に用いた場合には、リンモリブデン酸由来のRedoxピークと炭化モリブデン由来の酸化反応を示すピークが現れ、酸化モリブデン由来のピークは現れなかった。
【0079】
また、
図9に示される電流密度ピークの比に着目すると、実施例1〜実施例4に係る触媒の電流密度ピークの比(cdB/cdA)は、比較例に係る触媒のそれ(9.7)より低かった。すなわち、高い触媒活性を示す実施例1〜実施例4に係る触媒は、電流密度のピーク比(cdB/cdA)が0.1〜1.2を示す組成を有する点で特徴づけられた。
【0080】
図10に、酸素還元反応に関するリニアスイープボルタンメトリーにおいて得られたボルタモグラムの一例を示す。
図10において、横軸は印加された電位(Vvs.RHE)を示し、縦軸は電流密度(mA/cm
2)を示す。
図10は、実施例1〜4の触媒を作用電極に用いた場合と、比較例1の触媒を作用電極に用いた場合の結果を示す。
【0081】
表1と
図10より、実施例1〜4の触媒を作用電極に用いた場合では、比較例1〜4の触媒を作用電極に用いた場合よりも酸素還元活性の開始電位が高く、より高い還元電流が得られたことが分かる。
【0082】
[電気化学測定:過酸化水素還元反応活性評価]
さらに、電気化学測定により、過酸化水素還元反応活性を評価した。まず、触媒スラリーを調製した。すなわち、上述の実施例1〜4及び比較例1〜3それぞれにおいて、触媒5mgと、5重量%Nafion(登録商標)溶液(Aldrich社製)50μLと、エタノール150μLと、蒸留水150μLとを混合し、20分間、超音波処理することにより、触媒が均一に分散された触媒スラリーを調製した。
【0083】
次に、この触媒スラリー1.78μLをピペットで吸い取り、回転リングディスク電極装置(RRDE−3A、株式会社 BAS製)のリングディスク電極(直径4mm)に塗布し、乾燥させることにより、作用電極を作製した。また、可逆水素電極を参照電極として用い、ガラス状炭素を対極として用いた。電解液としては、0.5mol/LH
2SO
4水溶液を溶媒にして1mMとなるように過酸化水素(H
2O
2)を加えた溶液を用いた。
【0084】
そして、実施例1〜4及び比較例1〜3の触媒を三極式の作用電極に用いて過酸化水素還元反応に関するリニアスイープボルタンメトリーを実施した。
【0085】
まず、25℃で窒素を30分間バブリングすることにより電解液を窒素飽和させ、溶存酸素を除いた後、自然電位を測定した。
次いで、初期電位1.0V(vs.RHE)を600秒印加した後に、窒素飽和させ、溶存酸素を取り除いた電解液を用い、電極を回転速度1500rpmで回転させ、25℃にて、走査速度1mV/秒にて、1.0(vs.RHE)から0V(vs.RHE)まで電位を掃引し、作用電極に流れる電流値を測定した。
【0086】
図11に、過酸化水素還元反応に関するリニアスイープボルタンメトリーにおいて得られたボルタモグラムの一例を示す。
図11において、横軸は印加された電位(Vvs.RHE)を示し、縦軸は電流密度(mA/cm
2)を示す。
図11は、実施例1及び比較例1の触媒を作用電極に用いた場合の結果を示す。
【0087】
表1と
図11より、実施例1〜4の触媒を作用電極に用いた場合では、比較例1〜3の触媒を作用電極に用いた場合よりも過酸化水素還元に対する0.1Vの時の電流密度の絶対値が大きく、過酸化水素還元電流が増加していることが分かる。
【表1】