特許第5807860号(P5807860)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5807860
(24)【登録日】2015年9月18日
(45)【発行日】2015年11月10日
(54)【発明の名称】PWMインバータの制御方法および制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20151021BHJP
   H02M 7/483 20070101ALI20151021BHJP
【FI】
   H02M7/48 F
   H02M7/483
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-121588(P2011-121588)
(22)【出願日】2011年5月31日
(65)【公開番号】特開2012-39853(P2012-39853A)
(43)【公開日】2012年2月23日
【審査請求日】2014年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2010-158377(P2010-158377)
(32)【優先日】2010年7月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
【住所又は居所】京都府京都市上京区今出川通烏丸東入玄武町601番地
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利次
【住所又は居所】京都府京田辺市多々羅都谷1−3 同志社大学内
(72)【発明者】
【氏名】井上 馨
【住所又は居所】京都府京田辺市多々羅都谷1−3 同志社大学内
【審査官】 河村 勝也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−153255(JP,A)
【文献】 特開平09−182452(JP,A)
【文献】 特開平06−245588(JP,A)
【文献】 特開2004−222421(JP,A)
【文献】 特開2003−134845(JP,A)
【文献】 特開平09−009642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV〜Vの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、
前記スイッチベクトルV〜Vの選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下である前記スイッチベクトルV〜Vの組み合わせを、1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択したスイッチベクトルである直前スイッチベクトル毎に用意された8個のテーブルによってルール化しておき、
前記PWMインバータの出力変化の1周期を、前記スイッチベクトルV〜V表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、
前記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVを得るために必要な3つのスイッチベクトルを前記スイッチベクトルV〜V中から選択する際に、前記直前スイッチベクトルに対応する前記テーブルの、前記出力ベクトルVを含む前記領域に対応するモードに関する部分を参照し、当該部分において指定された3つのスイッチベクトルを当該部分において指定された順序で選択していくことを特徴とする制御方法。
【請求項2】
1に示す前記8個のテーブルの、前記出力ベクトルVを含む前記領域に対応するモードに関する部分を参照して、出力順序ベクトルV、V、Vの順序で3つのスイッチベクトルを選択することを特徴とする請求項1に記載の制御方法。
【表1】
【請求項3】
三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV〜Vの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、
前記スイッチベクトルV〜Vの選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下である前記スイッチベクトルV〜Vの組み合わせを表2によってルール化しておき、
前記PWMインバータの出力変化の1周期を、前記スイッチベクトルV〜Vで表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、
前記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVを得るために必要なスイッチベクトルを前記スイッチベクトルV〜Vの中から選択する際に、
i)起点スイッチベクトルとして予めゼロスイッチベクトルVを選択した場合は、表2(A)の、前記出力ベクトルVを含む前記領域に対応するモドに関する部分を参照し、出力順序ベクトルV、V、V、V、V、Vの順序で6つのスイッチベクトルを選択し、
ii)前記起点スイッチベクトルとして予めゼロスイッチベクトルVを選択した場合は、表2(B)の、前記出力ベクトルVを含む前記領域に対応するモドに関する部分を参照し、出力順序ベクトルV、V、V、V、V、Vの順序で6つのスイッチベクトルを選択する、
ことを特徴とする制御方法。
【表2】
【請求項4】
三相レベル形PWMインバータ(ただし、nは3以上の整数)の各スイッチ状態に対応する複数のスイッチベクトル〜V(n^3−1)の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、
前記スイッチベクトル〜V(n^3−1)の選択を切り替える前後で導通状態が変化するスイッチの数が最小となる前記スイッチベクトル〜V(n^3−1)の組み合わせを、1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択したスイッチベクトルである直前スイッチベクトル毎に用意されたn^3個のテーブルによってルール化しておき、
前記PWMインバータの出力変化の1周期を、前記スイッチベクトル〜V(n^3−1)表現可能な複数の細分化モードに対応する複数の領域に分割して捉え、
前記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVを得るために必要な3つのスイッチベクトルを前記スイッチベクトル〜V(n^3−1)の中から選択する際に、前記直前スイッチベクトルに対応する前記テーブルの、前記出力ベクトルVを含む前記領域に対応する細分化モードに関する部分を参照し、当該部分において指定された3つのスイッチベクトルを当該部分において指定された順序で選択していくことを特徴とする制御方法。
【請求項5】
PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルのうちの少なくとも1つを請求項1〜4のいずれかに記載の制御方法で選択し、選択した前記スイッチベクトルに対応するスイッチ状態となるように、インバータ部を構成する各スイッチの導通状態を変化させることを特徴とするPWMインバータの制御装置。
【請求項6】
前記インバータ部に、昇降圧部によって昇圧または降圧された後の直流電圧が入力されることを特徴とする請求項5に記載のPWMインバータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PWMインバータの制御方法および制御装置に関し、特にスイッチベクトルを用いてPWMインバータを空間ベクトル制御する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、三相2レベル形のPWMインバータ1aは、制御部3によって制御されるインバータ部2からなり、インバータ部2の各相出力が三相負荷4に接続されている。同図に示すように、インバータ部2はIGBT等からなる6つのスイッチSW1〜SW6を有し、このうち、スイッチSW1、SW2はU相アームを、スイッチSW3、SW4はV相アームを、スイッチSW5、SW6はW相アームをそれぞれ構成する。各スイッチSW1〜SW6の導通状態は、制御部3の制御下で切り替えられる。
【0003】
PWMインバータ1aの制御方法は、従来から種々の方法が検討されている。その1つである空間ベクトル制御では、インバータ部2の各スイッチ状態に対応する2=8個のスイッチベクトルV〜V図2参照)のうちの少なくとも1つを選択することによりPWMインバータ1aを制御する(例えば、特許文献1参照)。ここで、各スイッチベクトルV〜Vの括弧内の数字“1”は、各相アームの上側スイッチがオン(下側スイッチはオフ)していることを示し、“0”は、各相アームの下側スイッチがオン(上側スイッチはオフ)していることを示す。各スイッチベクトルV〜Vとスイッチ状態の関係は、下表の通りである。
【表1】
【0004】
なお、本明細書では、各相アームのスイッチ状態が同一で出力電圧がゼロとなるスイッチベクトル(V、V、後述するV26)を「ゼロスイッチベクトル」と呼び、その他のスイッチベクトル(V〜V、後述するV〜V25)を「非ゼロスイッチベクトル」と呼ぶこととする。
【0005】
この空間ベクトル制御では、出力電圧を任意の波形に制御することができる。また、この空間ベクトル制御では、PWMインバータ1aの出力状態をモードI〜VIに相当する6つの領域に分割して捉える(図3参照)。各モードの領域内にある任意の出力ベクトルVは、上記スイッチベクトルV〜Vのベクトル的組み合わせにより表現することができる。つまり、空間ベクトル制御では、任意の制御則にしたがって出力ベクトルVを決定するとともに、当該出力ベクトルVを得るためのスイッチベクトルを選択し、インバータ部2を選択したスイッチベクトルに対応したスイッチ状態とすることにより、PWMインバータ1aを制御する。
【0006】
例えば、図3の時間tにおける出力ベクトルVはモードIIの領域内にあるので、出力ベクトルVはスイッチベクトルV、V、VまたはスイッチベクトルV、V、Vのベクトル的組み合わせにより表現することができる。すなわち、3つのスイッチベクトルV(V)、V、Vを順次選択し、インバータ部2を各スイッチベクトルV(V)、V、Vに対応したスイッチ状態とすることにより、時間tにおける所定の各相出力電圧を得ることができる。
【0007】
なお、上記出力ベクトルVは、例えば、各相出力電圧を正弦波状とする場合は、PWMインバータ1aの各相出力電圧が1周期変化する間に、図2の六角形内にある円軌道上を半時計周りに1周する。言い換えると、出力ベクトルVは、PWMインバータ1aの出力が電気角で60°変化する度にモードI→モードII→・・・→モードVI→モードI・・・に対応した領域内を順次移動していく。前記の通り、出力電圧Vは、任意の制御則にしたがって生成されるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−245588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記スイッチベクトルV〜Vの選択は一意的ではなく、自由度を有している。例えば、上記時間tの一例では3つのスイッチベクトルV(V)、V、Vを選択するが、これらをどのような順序で選択するのかは全くの自由である。このため、従来の空間ベクトル制御では、スイッチベクトルV〜Vの選択順序によっては、1スイッチサイクルあたりのスイッチング回数が増加して、不要なスイッチング損失が発生する場合があった。
【0010】
より詳しくは、例えば、スイッチベクトルV、V、Vをこの順序で選択したとすると、VからVでU相とV相のスイッチ状態が変化し、VからVでU相のスイッチ状態が変化し、さらにVからVでV相のスイッチ状態が変化するので、結局、1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数は4となる。これに対して、スイッチベクトルV、V、Vをこの順序で選択し、その後、スイッチベクトルV、V、Vをこの順序で選択すれば、1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数は2となる。つまり、前者を選択した場合は後者を選択した場合よりも1スイッチサイクルあたりのスイッチ状態が変化する相の数が2多く、その分だけ不要なスイッチング損失が発生していた。
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題とするところは、スイッチング回数を最小とし、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができるPWMインバータの制御方法および制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、スイッチベクトルの選択を切り替える前後で、スイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルの組み合わせを予めルール化しておき、そのルールにしたがってスイッチベクトルの選択順序を決定すれば、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができることを見い出し、本願発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV〜Vの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルV〜Vの選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルV〜Vの組み合わせを、1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択したスイッチベクトルである直前スイッチベクトル毎に用意された8個のテーブルによってルール化しておき、PWMインバータの出力変化の1周期を、スイッチベクトルV〜V表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、上記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVを得るために必要な3つのスイッチベクトルをスイッチベクトルV〜V中から選択する際に、直前スイッチベクトルに対応するテーブルの、出力ベクトルVを含む領域に対応するモードに関する部分を参照し、当該部分において指定された3つのスイッチベクトルを当該部分において指定された順序で選択していくことを特徴としている。
【0014】
上記三相2レベル形PWMインバータの制御方法は、例えば、下表に示す8個のテーブルの、出力ベクトルVを含む領域に対応するモードに関する部分を参照して、出力順序ベクトルV、V、Vの順序で3つのスイッチベクトルを選択するよう構成することができる。
【表2】
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るもうひとつのPWMインバータの制御方法は、三相2レベル形PWMインバータの各スイッチ状態に対応する8つのスイッチベクトルV〜Vの選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトルV〜Vの選択を切り替える前後でスイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルV〜Vの組み合わせを下表によってルール化しておき、PWMインバータの出力変化の1周期を、スイッチベクトルV〜Vで表現可能なモードI〜VIに対応する6つの領域に分割して捉え、上記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVを得るために必要なスイッチベクトルをスイッチベクトルV〜Vの中から選択する際に、i)起点スイッチベクトルとして予めゼロスイッチベクトルVを選択した場合は、下表(A)の、出力ベクトルVを含む領域に対応するモドに関する部分を参照し、出力順序ベクトルV、V、V、V、V、Vの順序で6つのスイッチベクトルを選択し、ii)起点スイッチベクトルとして予めゼロスイッチベクトルVを選択した場合は、下表(B)の、出力ベクトルVを含む領域に対応するモドに関する部分を参照し、出力順序ベクトルV、V、V、V、V、Vの順序で6つのスイッチベクトルを選択することを特徴としている。
【表3】
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るPWMインバータの制御方法は、三相レベル形PWMインバータ(ただし、nは3以上の整数)の各スイッチ状態に対応する複数のスイッチベクトル〜V(n^3−1)の選択を切り替えながら、当該PWMインバータを空間ベクトル制御する方法であって、スイッチベクトル〜V(n^3−1)の選択を切り替える前後で導通状態が変化するスイッチの数が最小となるスイッチベクトル〜V(n^3−1)の組み合わせを、1つ前のスイッチサイクルにおいて最後に選択したスイッチベクトルである直前スイッチベクトル毎に用意されたn^3個のテーブルによってルール化しておき、PWMインバータの出力変化の1周期を、スイッチベクトル〜V(n^3−1)表現可能な複数の細分化モードに対応する複数の領域に分割して捉え、上記領域の1つに含まれる任意の出力ベクトルVを得るために必要な3つのスイッチベクトルをスイッチベクトル〜V(n^3−1)の中から選択する際に、直前スイッチベクトルに対応するテーブルの、出力ベクトルVを含む領域に対応する細分化モードに関する部分を参照し、当該部分において指定された3つのスイッチベクトルを当該部分において指定された順序で選択していくことを特徴としている。
【0017】
また、上記課題を解決するために、本発明に係るPWMインバータの制御装置は、PWMインバータの各スイッチ状態に対応するスイッチベクトルのうちの少なくとも1つを上記いずれかの制御方法で選択し、選択したスイッチベクトルに対応するスイッチ状態となるように、インバータ部を構成する各スイッチの導通状態を変化させることを特徴としている。
【0018】
なお、上記インバータ部は、昇降圧部によって昇圧または降圧された後の直流電圧が入力されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、スイッチベクトルの選択を切り替える際に必要なスイッチングの回数を最小とし、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができるPWMインバータの制御方法および制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】三相2レベル形PWMインバータの模式回路図である。
図2】三相2レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
図3】三相2レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
図4】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図である。
図5】出力ベクトルから分解方向ベクトルへの分解を説明するための図である。
図6】本発明に係る三相2レベル形(三相マルチレベル形)PWMインバータの制御方法のフローチャートである。
図7】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法による制御の一例であって、(A)は直前スイッチベクトルがVで現モードがIIの場合、(B)は直前スイッチベクトルがVで現モードがIVの場合である。
図8】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相のPWM波形図である。
図9】本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相の出力電圧波形図である。
図10】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図であって、(A)は起点ベクトルをVとした場合、(B)は起点ベクトルをVとした場合である。
図11】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相のPWM波形図である。
図12】本発明の変形例に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法でPWMインバータを制御した実験結果を示す、各相の出力電圧波形図である。
図13】本発明を適用可能なPWMインバータの変形例を示す模式回路図である。
図14】本発明を適用可能な三相3レベル形PWMインバータを示す模式回路図である。
図15】本発明に係る三相3レベル形PWMインバータの制御方法において、スイッチベクトルを選択する際に参照するルールの概念図である。
図16】三相3レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御の概念を説明するための図である。
図17】三相3レベル形PWMインバータにおける空間ベクトル制御における出力順序ベクトルのデューティ比の求め方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る三相2レベル形PWMインバータの制御方法および制御装置の好ましい実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態では、既知の方法で求めた各相デューティ比(u、u、u)が入力指令値として制御部3(本発明の「制御装置」に相当する)に入力されるものとする。また、以下では、図1に示す三相2レベル形PWMインバータ1aを制御対象とする場合について詳細に説明するが、本発明は、インバータ部2の手前に昇降圧(昇圧、降圧、昇降圧)部5を設け、インバータ部2に入力される直流電圧を可変としたPWMインバータ1b(図13参照)や、3レベル形以上のマルチレベルのインバータ部2cを備えたPWMインバータ1c(図14参照)も制御対象とすることができる。
【0022】
[三相2レベル形PWMインバータ]
[ルール作成]
本発明では、事前の準備として、スイッチベクトルV〜Vを選択する際に参照するルール(図4および表2参照)を作成する必要がある。このルールは、スイッチベクトルV〜Vの選択を切り替える前と後で、スイッチ状態が変化する相の数が1以下であるスイッチベクトルV〜Vの組み合わせをまとめたもので、本発明では、この組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV〜Vが選択される。
【0023】
例えば、モードIの領域に含まれる出力ベクトルVは、ゼロスイッチベクトルV、Vと非ゼロスイッチベクトルV、Vのベクトル的組み合わせにより表現することができるが、ゼロスイッチベクトルVが選択された後に非ゼロスイッチベクトルVが選択されると、2相(U相、V相)のスイッチ状態が変化することになるので、本ルールの下ではそのような順序でスイッチベクトルV〜Vを選択することは許されない。言い換えると、本ルールの下では、選択スイッチベクトルのVからVへの移動は許されない。同様に、VからVへの移動、VからVへの移動、およびVからVへの移動も、本ルールの下では許されない。
【0024】
また、モードVの領域に含まれる出力ベクトルVは、ゼロスイッチベクトルV、Vと非ゼロスイッチベクトルV、Vの組み合わせにより表現することができるが、ゼロスイッチベクトルVが選択された後に非ゼロスイッチベクトルVが選択されると、2相(U相、W相)のスイッチ状態が変化することになるので、本ルールの下ではそのような選択スイッチベクトルの移動は許されない。同様に、VからVへの移動、VからVへの移動、およびVからVへの移動も、本ルールの下では許されない。
【0025】
図4は、上記ルールを整理した図である。結局、本発明に係る制御方法では、同図中の矢印で示された方向への選択スイッチベクトルの移動のみが許され、その他の移動は許されない。
【0026】
表2は、上記ルールをさらに整理して一般化したものである。なお、表2中の「直前スイッチベクトル」は、1つ前のスイッチサイクルで最後に選択されたスイッチベクトルV〜Vを意味し、「モード」は、出力ベクトルVを含む領域のモード(以下、「現モード」という)を示す。また、「V、V、V」は出力順序ベクトルである。
【0027】
この表に具現化されたルールによれば、例えば、直前スイッチベクトルがVで、かつ現モードがIIの場合は、表2(A)のモードIIの行を参照して、ゼロスイッチベクトルVと非ゼロスイッチベクトルV、Vをこの順序で選択すればよいことが分かる。また、直前スイッチベクトルがVで、かつ現モードがVの場合は、表2(G)のモードVの行を参照して、非ゼロスイッチベクトルV、VおよびゼロスイッチベクトルVをこの順序で選択すればよいことが分かる。なお、直前スイッチベクトルがVで、かつ現モードがIの場合は、表2(G)ではなく、表2(H)のモードIの行を参照して選択すべきスイッチベクトルV〜Vを特定する。すなわち、現モードがIなので、ゼロスイッチベクトルVと非ゼロスイッチベクトルV、Vをこの順序で選択すればよいことが分かる。
【0028】
[制御フロー]
続いて、図6のフローチャートを参照しつつ、入力指令値である各相デューティ比u、u、uが入力されてから、選択すべきスイッチベクトルV〜Vと、その順序およびデューティ比が決定されるまでのフローについて説明する。
【0029】
まず、ステップS1では、各相デューティ比u、u、uが制御部3に入力される。各相デューティ比u、u、uは、例えば、PWMインバータ1aの各相出力電圧波形を所定振幅・周波数の正弦波状とするためのもので、既知のインバータ制御方法により求められる。
【0030】
ステップS2では、下式(1)を用いて、入力された各相デューティ比u、u、uから出力ベクトルVの横軸成分uおよび縦軸成分uを求める。
【数1】
各相デューティ比u、u、uの代わりに、任意の制御則にしたがって求めた出力ベクトルV(横軸成分u、縦軸成分u)が制御部3に入力される場合は、ステップS1およびS2を省略して、ステップS3から本フローをスタートさせてもよい。
【0031】
ステップS3では、ステップS2で求めた出力ベクトルVの横軸成分uおよび縦軸成分uから、「現モード」を特定する。すなわち、出力ベクトルVが、図2に示す六角形内の6つの領域(モードI〜IVに対応)のいずれに含まれるのかを特定する。
【0032】
ステップS4では、「直前スイッチベクトル」がスイッチベクトルV〜Vのいずれであるのかを特定する。直前スイッチベクトルは、1つ前のスイッチサイクルで求めた出力順序ベクトルV(後述)を参照することにより特定することができる。
【0033】
ステップS5では、出力ベクトルVを分解方向ベクトルVα、Vβ、Vに分解する。より詳しくは、出力ベクトルVの横軸成分uおよび縦軸成分uを下式(2)により変換し、図5に示す分解方向ベクトルVα、Vβ、Vのデューティ比uα、uβ、u(以下、「分解デューティ比」という)を求める。
【数2】
上式(2)を用いて横軸成分uおよび縦軸成分uを分解デューティ比uα、uβ、uに変換することにより、出力ベクトルVをモードIの領域内にあるものとして取り扱うことができる。
【0034】
ステップS6では、表4を用いて現モードの領域を回転させることによりモードIの領域に変換し、分解方向ベクトルVα、Vβ、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vを求める。
【表4】
例えば、現モードがIIの場合は、上表を用いてモードIIの領域を空間ベクトル平面上で時計周りに60°回転させ、分解方向ベクトルVα、Vβに相当するスイッチベクトルV〜Vは、それぞれ非ゼロスイッチベクトルV、Vであることが分かる。また、現モードがVの場合は、上表を用いてモードVの領域を時計周りに240°回転させ、分解方向ベクトルVα、Vβに相当するスイッチベクトルV〜Vは、それぞれ非ゼロスイッチベクトルV、Vであることが分かる。なお、分解方向ベクトルVに相当するスイッチベクトルV〜Vは、現モードにかかわらずゼロスイッチベクトルVまたはVとなる。
【0035】
ステップS7では、表2に具現化されたルールに基づいて、直前スイッチベクトルと現モードとから、出力順序ベクトルV、V、Vのそれぞれに相当するスイッチベクトルV〜Vを求める。表2の使い方は前記の通りなので、ここでは説明を省略する。
【0036】
ステップS8では、ステップS6およびステップS7の結果から、出力順序ベクトルV、V、Vのデューティ比u、u、u(以下、「順序デューティ比」という)と、ステップS5で求めた分解デューティ比uα、uβ、uとを紐付ける。例えば、ステップS6で分解方向ベクトルVαに相当するスイッチベクトルがVであると求められ、ステップS7で出力順序ベクトルVに相当するスイッチベクトルがVであると求められた場合は、分解方向ベクトルVαおよび出力順序ベクトルVが両ベクトルに共通する非ゼロスイッチベクトルVを介して紐付けられる(お互いに等しいことが特定される)。同様に、出力順序ベクトルVの順序デューティ比uと、ステップS5で求めた分解方向ベクトルVαの分解デューティ比uαも紐付けられる。
【0037】
ステップS9では、ステップS7で求めたスイッチベクトルV〜Vと、ステップS8で求めた順序デューティ比u、u、uとに基づいて、インバータ部2の各スイッチSW1〜SW6の導通状態を切り替える。
【0038】
以上をまとめると、上記フローを採用した本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、出力順序ベクトルV、V、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vと、順序デューティ比u、u、uを求めることができる。そして、求めたスイッチベクトルV〜VをV→V→Vの順に選択するとともに、それぞれの選択時間、すなわち選択したスイッチベクトルV〜Vのスイッチ状態とする時間を順序デューティ比u、u、uに比例した時間とすることにより、入力指令値に応じた所定の各相出力電圧を得ることができる。
【0039】
また、本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、予め作成したルールに基づいてスイッチベクトルV〜Vの選択順序を決定するので、選択スイッチベクトルを切り替える際に必要なスイッチングの回数が最小となり、不要なスイッチング損失の発生を防ぐことができる。
【0040】
次に、図7(A)を参照しながら、本発明に係る制御の具体的一例を特徴的な部分に限って説明する。同図に示すように、具体例1では、ステップS3で特定した現モードはII、ステップS4で特定した直前スイッチベクトルはVであるとする。
【0041】
本具体例のステップS6では、表4のモードIIの行を参照して、分解方向ベクトルVαに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであり、分解方向ベクトルVβに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであることが求められる。また、分解方向ベクトルVに相当するのはゼロスイッチベクトルVまたはVであることが求められる。
【0042】
ステップS7では、直前スイッチベクトルがV、現モードがIIであることから、表2(C)のモードIIの行を参照して、出力順序ベクトルVに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであり、出力順序ベクトルVに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであり、さらに出力順序ベクトルVに相当するのはゼロスイッチベクトルVであることが求められる。
【0043】
ステップS8では、非ゼロスイッチベクトルVを介して分解方向ベクトルVαと出力順序ベクトルVが紐付けられ、非ゼロスイッチベクトルVを介して分解方向ベクトルVβと出力順序ベクトルVが紐付けられ、さらにゼロスイッチベクトルVを介して分解方向ベクトルVと出力順序ベクトルVが紐付けられる。その結果、非ゼロスイッチベクトルVの順序デューティ比uは、分解デューティ比uαとなる。同様に、非ゼロスイッチベクトルVおよびゼロスイッチベクトルVの順序デューティ比u、uは、それぞれ分解デューティ比uβ、uとなる。
【0044】
結局、本具体例では、uα・T(ただし、Tは1スイッチサイクルの時間)の時間だけ非ゼロスイッチベクトルVを選択した後に、uβ・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルVを選択し、さらにその後、u・Tの時間だけゼロスイッチベクトルVを選択することにより、出力ベクトルVを得て、所定の各相出力電圧を得ることができる(図7(A)参照)。
【0045】
なお、図5から明らかなように、出力ベクトルVが分解方向ベクトルVαに等しい場合は、分解デューティ比uα(=u)が1となり、分解デューティ比uβ(=u)、u(=u)が0となる。したがって、この場合は、非ゼロスイッチベクトルVおよびゼロスイッチベクトルVの選択時間が0となり、非ゼロスイッチベクトルVおよびゼロスイッチベクトルVは選択されないこととなる。出力ベクトルVが分解方向ベクトルVβ、Vに等しい場合も同様のことがいえる。つまり、本発明に係る制御方法(制御装置)では、1スイッチサイクルにつき必ず3つのスイッチベクトルV〜Vが選択されるとは限らない。
【0046】
図7(B)を参照しながら、本発明に係る制御のもうひとつの具体的一例について説明する。同図に示すように、具体例2では、ステップS3で特定した現モードはIV、ステップS4で特定した直前スイッチベクトルはVであるとする。
【0047】
本具体例のステップS6では、表4のモードIVの行を参照して、分解方向ベクトルVαに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであり、分解方向ベクトルVβに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであることが求められる。また、分解方向ベクトルVに相当するのはゼロスイッチベクトルVまたはVであることが求められる。
【0048】
ステップS7では、直前スイッチベクトルがVであることから表2(C)を参照するが、表2(C)には現モード(モードIV)の行が存在しない。このため、ステップS7では、表2(C)の「その他」の行にしたがって表2(H)のモードIVの行を参照し、出力順序ベクトルVに相当するのはゼロスイッチベクトルVであり、出力順序ベクトルVに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであり、さらに出力順序ベクトルVに相当するのは非ゼロスイッチベクトルVであることが求められる。
【0049】
ステップS8では、ゼロスイッチベクトルVを介して分解方向ベクトルVと出力順序ベクトルVが紐付けられ、非ゼロスイッチベクトルVを介して分解方向ベクトルVαと出力順序ベクトルVが紐付けられ、さらに非ゼロスイッチベクトルVを介して分解方向ベクトルVβと出力順序ベクトルVが紐付けられる。その結果、ゼロスイッチベクトルVの順序デューティ比uは、分解デューティ比uとなる。同様に、非ゼロスイッチベクトルV、Vの順序デューティ比u、uは、それぞれ分解デューティ比uα、uβとなる。
【0050】
結局、本具体例では、u・Tの時間だけゼロスイッチベクトルVを選択した後に、uα・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルVを選択し、さらにその後、uβ・Tの時間だけ非ゼロスイッチベクトルVを選択することにより、出力ベクトルVを得て、所定の各相出力電圧を得ることができる(図7(B)参照)。
【0051】
続いて、本発明に係る制御方法(制御装置)を用いて、インバータ部2をIGBTで構成した三相2レベル形PWMインバータ1aを制御した実験結果について説明する。なお、本実験では、インバータ部2に入力される直流入力電圧を100Vとし、各相の出力電圧が振幅25V、周波数50Hzの正弦波(図9参照)となるよう制御した。
【0052】
図8(A)に、2kHzで変調した各相の1周期(40スイッチサイクル)分のPWM出力波形を示す。同図に示すように、本発明に係る制御方法(制御装置)によれば、各相ともスイッチングしない区間が発生し、スイッチング回数を概ね2/3に低減することができた。また、図8(A)の一部を拡大した図8(B)に示すように、本実験では、モードIとモードIIの境目において選択スイッチベクトルがV→V→V→V→V→Vの順に移動していた。つまり、表2に具現化されたルールに基づく正しい制御が行われたことを確認することができた。
【0053】
[変形例]
上記本発明に係る制御方法(制御装置)は、対称形の制御とすることにより簡易化することができる。より詳しくは、変形例に係る制御方法(制御装置)では、表2に具現化されたルールに代えて、表3に具現化された簡易ルールに基づいてスイッチベクトルの選択順序を決定する。その他の制御フローは、図6に示すステップS1〜S6、S8、S9と同様である。
【0054】
この簡易ルールを用いた制御フローにおいては、まず、起点スイッチベクトルとするスイッチベクトルをゼロスイッチベクトルV、Vの中から選択する。そして、起点スイッチベクトルをVとした場合は、表3(A)の現モードの行を参照して出力順序ベクトルV、V、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vを求め、出力順序ベクトルV、V、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vを順次選択した後に、対称に折り返すように、出力順序ベクトルV、V、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vを順次選択する(図10(A)参照)。起点スイッチベクトルをVとした場合、表3(B)の現モードの行を参照して出力順序ベクトルV、V、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vを求め、出力順序ベクトルV、V、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vを順次選択した後に、対称に折り返すように、出力順序ベクトルV、V、Vに相当するスイッチベクトルV〜Vを順次選択する(図10(B)参照)。
【0055】
例えば、起点スイッチベクトルがV、現モードがIの場合は、選択スイッチベクトルがV→V→Vの順に移動した後、V→V→Vの順に移動する。別の例として、起点スイッチベクトルがV、現モードがVの場合は、選択スイッチベクトルがV→V→Vの順に移動した後、V→V→Vの順に移動する。
【0056】
この変形例に係る制御方法(制御装置)によれば、制御を簡易化することができる他、各スイッチサイクルにおける最後の選択スイッチベクトル(直前スイッチベクトル)が必ず起点スイッチベクトル(ゼロスイッチベクトルVまたはV)となるので、任意のモードへの移動がしやすくなるというメリットが得られる。
【0057】
続いて、変形例に係る制御方法(制御装置)を用いて、インバータ部2をIGBTで構成した三相2レベル形PWMインバータ1aを制御した実験結果について説明する。なお、本実験では、インバータ部2に入力される直流入力電圧を100Vとし、各相の出力電圧が振幅25V、周波数50Hzの正弦波(図12参照)となるよう制御した。また、起点スイッチベクトルはゼロスイッチベクトルVとした。
【0058】
図11(A)に、2kHzで変調した各相の1周期(40スイッチサイクル)分のPWM出力波形を示す。同図に示すように、変形例に係る制御方法(制御装置)によれば、各相とも1周期のうちスイッチングしない区間が1/3程度あり、スイッチング回数を概ね2/3に低減することができた。また、図11(A)の一部を拡大した図11(B)に示すように、本実験では、モードIにおいて選択スイッチベクトルがV→V→V→V→V→Vの順に移動していた。つまり、表3(A)に具現化されたルールに基づく正しい制御が行われたことを確認することができた。
【0059】
[三相3レベル形PWMインバータ]
続いて、マルチレベル形PWMインバータの一例として、三相3レベル形PWMインバータを制御対象とする場合について説明する。図14に示すように、三相3レベル形のPWMインバータ1cは、制御部3(本発明の「制御装置」に相当する)によって制御されるインバータ部2cからなり、インバータ部2cの各相出力が三相負荷4に接続されている。同図に示すように、インバータ部2はIGBT等からなる12個のスイッチを有し、このうち、スイッチSWUpp、SWUpo、SWUno、SWUnnはU相アームを、スイッチSWVpp、SWVpo、SWVno、SWVnnはV相アームを、そしてスイッチSWWpp、SWWpo、SWWno、SWWnnはW相アームをそれぞれ構成する。各スイッチの導通状態は、制御部3の制御下で切り替えられる。図13に示す三相2レベル形のPWMインバータ1bと同様、インバータ部2cの手前に昇降圧(昇圧、降圧、昇降圧)部を設け、インバータ部2cに入力される直流電圧を可変としてもよい。
【0060】
三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御では、インバータ部2cの各スイッチ状態に対応する3=27個のスイッチベクトルV〜V26図15、表5参照)のうちの少なくとも1つを選択することによりPWMインバータ1cを制御する。
【表5】
ここで、各スイッチベクトルV〜V26のスイッチ状態を表す数字“1”は、例えば、U相で説明すると、スイッチSWUpp、SWUpoがオンしていることを示し、“1/2”は、スイッチSWUpo、SWUnoがオンしていることを示し、“0”は、スイッチSWUno、SWUnnがオンしていることを示す。
【0061】
図14から明らかなように、スイッチ状態を“1”から“1/2”に変化させたり、“1/2”から“1”に変化させたり、“0”から“1/2”に変化させたり、“1/2”から“0”に変化させたりするためには、いずれか1つのスイッチをオンさせるとともに、別の1つのスイッチをオフさせる必要がある。一方、スイッチ状態を“1”から“0”に変化させたり、“0”から“1”に変化させたりするためには、いずれか2つのスイッチをオンさせるとともに、別の2つのスイッチをオフさせる必要がある。本発明では、各1つのオン動作とオフ動作とからなる組が何組存在するのかによって、スイッチベクトルV〜V26間の距離を予め算出しておく。
【0062】
表6は、スイッチベクトルV〜V26間の距離をまとめた表の一部である。
【表6】
上表に示すように、例えば、非ゼロスイッチベクトルVとVは距離が“1”離れているが、これは、選択スイッチベクトルをVからVに移動させる際に、1つのスイッチ(SWVno)をオフするとともに、別の1つのスイッチ(SWVpo)をオンさせる必要があることを示している。また、非ゼロスイッチベクトルVとVは距離が“2”離れているが、これは、選択スイッチベクトルをVからVに移動させる際に、2つのスイッチ(SWVno、SWVnn)をオフするとともに、別の2つのスイッチ(SWVpp、SWVpo)をオンさせる必要があることを示している。表6の使い方については、後で説明する。
【0063】
三相2レベル形PWMインバータ1aの場合と同様に、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御においても出力状態をモードI〜VIに相当する6つの領域に分割して捉えるが、三相3レベル形PWMインバータ1cの場合はこのモードI〜VIのそれぞれがさらに4つに細分化されている。例えば、モードIは、図16に示すように細分化モードIa〜Idに細分化されている。このため、細分化モードIaの領域内にある任意の出力ベクトルVは、ゼロスイッチベクトルV、V、V26と非ゼロスイッチベクトルV14〜V17のベクトル的組み合わせにより表現されるが、細分化モードIbの領域内にある任意の出力ベクトルVは、非ゼロスイッチベクトルV、V、V14、V15のベクトル的組み合わせにより表現される。すなわち、同一のモードでも、細分化モードが異なれば、選択すべきスイッチベクトルV〜V26は異なる。
【0064】
他のモードII〜VIも、同様に、4つの細分化モードに細分化されている。したがって、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御においては、計24個の細分化モードIa、Ib・・・VIc、VIdが存在する。
【0065】
表7は、スイッチベクトルV〜V26を選択する際に参照するルールのうち、現モードがIである場合に参照する部分を抜き出したものである。このルールを参照すれば、距離が1以下であるスイッチベクトルV〜V26の組み合わせ、言い換えると、スイッチベクトルV〜V26の選択を切り替える前と後で、導通状態が変化するスイッチの数が2以下であるスイッチベクトルV〜V26の組み合わせが分かるようになっている。本発明では、この組み合わせを辿りながらスイッチベクトルV〜V26が選択される。
【表7】
【0066】
例えば、直前スイッチベクトルがVであり、かつ現細分化モードがIaである場合は、ゼロスイッチベクトルV、非ゼロスイッチベクトルV14、V16がこの順序で選択される。このような順序で選択すれば、選択スイッチベクトルのVからV14への移動においては、U相アームを構成するスイッチSWUpoとスイッチSWUnnの導通状態だけが変化し、選択スイッチベクトルのV14からV16への移動においては、V相アームを構成するスイッチSWVpoとスイッチSWVnnの導通状態だけが変化するので、導通状態が変化するスイッチの数をそれぞれ2とすることができる。
【0067】
また、直前スイッチベクトルがVであり、かつ現細分化モードがIcである場合は、非ゼロスイッチベクトルV、V15、V17がこの順序で選択されるか、または、非ゼロスイッチベクトルV、V16、V14がこの順序で選択される。前者のように選択しても、後者のように選択しても、得られるスイッチング損失の低減効果は同じであるが、2つの選択肢がある場合は、いずれを選択するのかを決定する必要がある。
【0068】
この決定の手法は種々考えられるが、例えば、単純にスイッチベクトルの番号が小さい選択肢を優先的に選択してもよいし、出力ベクトルVの軌道を考慮して、次のスイッチサイクルへの移行がスムーズにいく選択肢を選択してもよい。一例として、出力ベクトルVが反時計回りの円軌道を描いている場合は、現細分化モードがIcからIdに移動していく可能性が高いので、非ゼロスイッチベクトルV14を選択してこのスイッチサイクルを終了するよりは、非ゼロスイッチベクトルV17を選択して現スイッチサイクルを終了した方が、次のスイッチサイクルに移行する際のスイッチング損失を低減できる可能性が高く、好ましい。
【0069】
直前スイッチベクトルが表7に示されていないスイッチベクトル(例えば、非ゼロスイッチベクトルV)であり、かつ現細分化モードが一例としてIbである場合のルールは、以下の要領で作成することができる。
【0070】
まず、表6を参照して、非ゼロスイッチベクトルVと細分化モードIbを表現するために必要な非ゼロスイッチベクトルV、V、V14、V15との距離を求める。非ゼロスイッチベクトルVと非ゼロスイッチベクトルV、V、V14、V15との距離は、それぞれ3、2、2、3なので、距離が最も短いVおよびV14が出力順序ベクトルVの候補となる。出力順序ベクトルVとしてVを選択した場合は、表7の行Aに示すように、出力順序ベクトルV、Vは、それぞれV、V14となる。一方、出力順序ベクトルVとしてV14を選択した場合は、表7の行Bに示すように、出力順序ベクトルV、Vは、それぞれV、Vとなる。出力順序ベクトルVとして非ゼロスイッチベクトルV、V14のいずれを選択するのかは、種々の手法により決定することができる。
【0071】
この他、三相3レベル形PWMインバータ1cの空間ベクトル制御では、ステップS8(図6参照)において、分解デューディ比uα、uβ、uがそのまま出力順序ベクトルV、V、Vのデューティ比u、u、uに紐付けられるのではない点に注意が必要である。
【0072】
例えば、直前スイッチベクトルがVであり、かつ現細分化モードがIbである場合は、式(3)に示されているように、出力順序ベクトルV、V、Vのデューティ比u、u、uは、それぞれ“2uβ”、“2uα−1”、“2(1−uα−uβ)”となる。
【数3】
上式は、図17から幾何学的に導きだすことができる。直前スイッチベクトルまたは現細分化モードが上記一例と異なる場合も、同様の手法により出力順序ベクトルV、V、Vのデューティ比u、u、uを求めることができる。
【0073】
入力指令値である各相デューティ比u、u、uが入力されてから、選択すべきスイッチベクトルV〜V26とその選択順序が決定されるまでのフロー(図6のステップS1〜S7)は、三相2レベル形PWMインバータ1aの制御フローと同様である。また、ステップS9については、導通状態を切り替えるスイッチの数が6個(SW1〜SW6)ではなく12個(SWUpp、SWUpo・・・・SWWno、SWWnn)である点が、三相2レベル形PWMインバータ1aの制御フローと異なる。
【0074】
以上、本発明に係るPWMインバータの制御方法および制御装置の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記の構成に限定されるものではない。
【0075】
例えば、スイッチベクトルの選択順序を決定する際に参照するルールは表2、表3、表6および表7の表現形式に限定されず、直前スイッチベクトルと現モード(現細分化モード)とに基づいてスイッチベクトルの選択順序を一意的に決めることができるものであれば、表現形式はどのようなものであってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1a、1b、1c PWMインバータ
2 インバータ部
3 制御部(制御装置)
4 三相負荷
5 昇降圧部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17